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  • 特許-アブソリュートリニアエンコーダ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】アブソリュートリニアエンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20230228BHJP
【FI】
G01D5/245 110J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019185875
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021060341
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(74)【代理人】
【識別番号】100133639
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 卓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100198960
【弁理士】
【氏名又は名称】奥住 忍
(72)【発明者】
【氏名】木村 明
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝彦
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-121277(JP,A)
【文献】特開2007-71732(JP,A)
【文献】特開2005-337757(JP,A)
【文献】特開平4-301927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる生成多項式に対し同じ初期値を用いて生成された第1、第2巡回ビット列をそれぞれに配した第1、第2短尺スケールを、連続的につなげることにより形成した長尺スケールと、
前記長尺スケールに対向する位置に、前記長尺スケールの長手方向に並べて配置された、少なくとも2つのセンサと、
を備えたアブソリュートリニアエンコーダ。
【請求項2】
前記第1、第2巡回ビット列は、n次の生成多項式で生成された巡回ビット列であり、前記少なくとも2つのセンサのうち、少なくとも一方は、nビットのセンサである請求項1に記載のアブソリュートリニアエンコーダ。
【請求項3】
前記第1巡回ビット列はM系列の巡回ビット列である請求項1または2に記載のアブソリュートリニアエンコーダ。
【請求項4】
前記2つのセンサは、同じビット数のセンサである請求項1、2または3に記載のアブソリュートリニアエンコーダ。
【請求項5】
前記第1、第2短尺スケールは、同じ長さである請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアブソリュートリニアエンコーダ。
【請求項6】
前記第1、第2短尺スケールは、間隔を空けて配置され、前記少なくとも2つのセンサに含まれる少なくともいずれか1つのセンサにより、前記間隔を検知する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアブソリュートリニアエンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブソリュートリニアエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1および非特許文献1には、アブソリュートエンコーダに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3184939号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】精密工学会誌797頁 Vol82. No.9 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載の技術では、任意サイズのリニアエンコーダを高い生産性を維持しつつ提供することができなかった。
【0006】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るアブソリュートリニアエンコーダは、
異なる生成多項式に対し同じ初期値を用いて生成された第1、第2巡回ビット列をそれぞれに配した第1、第2短尺スケールを、連続的につなげることにより形成した長尺スケールと、
前記長尺スケールに対向する位置に、前記長尺スケールの長手方向に並べて配置された、少なくとも2つのセンサと、
を備えた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、任意サイズのリニアエンコーダを高い生産性を維持しつつ提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るアブソリュートリニアエンコーダの構成を示すブロック図である。
図2】第2実施形態に係るアブソリュートリニアエンコーダの全体構成の概要を説明するための図である。
図3】センサから出力された信号の処理方法を説明するための図である。
図4A】巡回ビット列生成部による9ビットの巡回ビット列の生成を説明するための図である。
図4B】巡回ビット列生成部においてタップ位置を変えて生成した巡回ビット列の周期を説明するための図である。
図4C】巡回ビット列のスキップについて説明するための図である。
図5】第3実施形態に係るアブソリュートリニアエンコーダの全体構成の概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、例示的に詳しく説明記載する。ただし、以下の実施の形態に記載されている、構成、数値、処理の流れ、機能要素などは一例に過ぎず、その変形や変更は自由であって、本発明の技術範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としてのアブソリュートリニアエンコーダ100について、図1を用いて説明する。アブソリュートリニアエンコーダ100は、直線方向の絶対位置を検出するエンコーダである。図1に示すように、アブソリュートリニアエンコーダ100は、長尺スケール101とセンサ102,103とを有する。長尺スケール101は、異なる生成多項式120,130に対し同じ初期値110を用いて生成された巡回ビット列111,112をそれぞれに配した短尺スケール113,114を、連続的につなげることにより形成した。少なくとも2つのセンサ102,103は、長尺スケール101に対向する位置に、長尺スケール101の長手方向に並べて配置されている。センサ102,103は、一定の距離をおいて配置され、一緒に移動する。
【0011】
本実施形態によれば、1つの巡回ビット列によって長尺スケールを生成する場合に比べ、長尺スケールを生成する場合と同様に高い生産性を実現し、かつ、長尺スケールを任意サイズにすることができる。
【0012】
[第2実施形態]
次に第2実施形態に係るアブソリュートリニアエンコーダ200について、図2乃至図5を用いて説明する。図2は、本実施形態に係るアブソリュートリニアエンコーダ200の全体構成の概要を説明するための図である。アブソリュートリニアエンコーダ200は、長尺スケール201、センサ202,203、リニアスライダ204およびスライドレール205を有する。
【0013】
長尺スケール201は、短尺スケール211,212,213,214,21kを含む。短尺スケール211,212,213,214,21kのそれぞれには、巡回ビット列221,222,223,224,22kが配されている。短尺スケール211,212,213,214,21kのそれぞれは、同じ長さのスケールとなっている。
【0014】
巡回ビット列221,222,223,224,22kは、それぞれ異なる並びのビット列となっている。すなわち、巡回ビット列221,222,223,224,22kのそれぞれは、異なる生成多項式に対して同じ初期値、例えば、n次の生成多項式(nビットLFSR(Linear Feedback Shift Register;線形帰還シフトレジスタ))とnビットの初期値を用いて生成された2n-1ビットの巡回ビット列となっている。したがって、巡回ビット列221,222,223,224,22kは、1ユニットが2n-1ビットの巡回ビット列となる。
【0015】
センサ202,203のうち少なくとも一方は、nビット以上のセンサである。nビット以上のセンサとしているのは、ビットの境目等の不安定な部分を補正するために冗長ビットを設けてn+αビットなっているからである。なお、センサ202,203は、同じビット数センサであってもよい。また、センサ202,203は、互いに一定の距離を置いて配置されており、同時に移動する。また、センサの数は2つには限定されず、3つ以上であってもよい。
【0016】
リニアスライダ204は、スライドレール205上を矢印230方向に移動する。リニアスライダ204の移動に伴い、センサ202,203は、スライドレール205上を移動し、長尺スケール201上の目盛を読み取る。
【0017】
なお、上述の説明では、巡回ビット列221,222,223,224,22kは、nビットLFSRによる巡回ビット列として説明をした。しかしながら、巡回ビット列221,222,223,224,22kのうち、例えば、巡回ビット列221が2n-1ビットの巡回ビット列であり、その他の巡回ビット列222,223,224,22kが、2n-1ビット未満の巡回ビット列であってもよい。例えば、LFSRが9ビットならば511ビット以下の巡回ビット列であっても良い。
【0018】
図3は、センサ202,203から出力された信号の処理方法を説明するための図である。センサ202は、巡回ビット列221からアブソリュート信号310を読み出す。同様に、センサ203は、巡回ビット列222からアブソリュート信号330を読み出す。読み出されたアブソリュート信号310,330は、信号処理部301へ入力される。
【0019】
信号処理部301は、入力されたアブソリュート信号310,330のノイズ除去、冗長ビット処理をし、信号整形を行う。信号処理部301は、変換テーブル311を用いて、信号整形されたアブソリュート信号310,330を、長尺スケール上で一意に定まる絶対位置座標のバイナリデータ信号320に変換する。バイナリデータ信号320は、信号処理部302によって、所定の通信フォーマットに従ったパラレル信号、もしくはシリアル信号、もしくはアナログ信号に変換され外部に出力される。
【0020】
通常この絶対位置座標信号はサーボドライブ303等制御機器に入力され、その位置情報に基づいて駆動部およびそれに固定されたリニアスライダ204の動作の為に使用される。
【0021】
次に、図4A乃至図4Cを用いて、任意の長さの巡回ビット列の生成について説明する。LFSRは、入力ビットが直前の状態の線形写像になっているシフトレジスタである。XORするための引き出し位置はタップと呼ばれ、その位置と個数とによって巡回ビットの数が変化し、最高で2n-1となる。周期が最長のものをM系列(Maximal Length Sequence)という。生成されるビット列を巡回させ、任意の場所の連続するレジスタビット数を検出することで場所の特定ができる。そのため、本実施系形態にかかるアブソリュートリニアエンコーダ200では、この種のビット列を使用する。
【0022】
しかし、例えば、図4Aのように、巡回ビット列生成部401において、9ビットのLFSRを用いた場合、タップ位置の調整のみでは、任意の長さのリニアエンコーダを実現することはできない。例えば、図4Bに示すように、257ビット~510ビットまでの範囲においては、465ビットしかなく、長さの選択肢が少ない。
【0023】
そこで、巡回性を維持しつつ、巡回ビット列の一部をスキップさせることを考える。例えば、図4Cでは、00006~00011までスキップさせることが可能であることが分かる。ここで、スキップとは、LFSRの値が特定の値になった時に、強制的にLFSRの新規ビットを反転することにより、M系列の途中を飛ばすことで長さを短縮することをいう。どの場所でも必ずスキップできる位置が存在するが、スキップにより短くできるビット数には重複があるため、任意の長さにすることは困難である。しかしながら、巡回ビット列に現れるビット列は、乱数として使われるほど不規則なため、スキップにより短くできるビット数は偏ることなくランダムに分散している。
【0024】
そのため、複数のスキップ位置を組み合わせることで、任意の長さのビット数をスキップさせることが可能である。また、巡回ビット列は、タップ位置を変えることによって異なる並びの巡回ビット列を作ることができる。タップ位置を変える方法と、スキップ法とを組み合わせることにより、任意長さの巡回ビット列を生成できる。そして、生成した任意長さの巡回ビット列を用いて任意長さの短尺スケールを作ることができる。任意長さの巡回ビット列を有する短尺スケールを複数繋ぎ合わせることで、読み取りセンサ202,203のビット数を増やすことなく、2つのセンサの異なる出力の組み合わせで、任意の長尺のスケールを生産性高く作ることができる。また、異なる並びの巡回ビット列を作ることができるので、少なくとも2つのセンサ202,203を用いている場合には、信頼性を確保しつつ、センサ202,203を前後に動かさなくても絶対位置を特定できる。
【0025】
具体的には、巡回ビット列の最上位ビットを反転させた巡回ビット列が、何個後ろに出現するかによってスキップ数が決まる。つまり、巡回ビット列の最上位ビットを強制的に反転することで、スキップ数だけ巡回周期を短くできる。例えば、図4Cに図示したように、「00006」番目のビット列{000010000}について考える。そうすると、5個後ろに「00011」番目のビット列として、「00006」番目のビット列の最上位ビットを反転させたビット列{100010000}が出現する。したがって、「00006」番目のビット列の最上位ビットを反転させて、「00011」番目にスキップすることにより、その間に存在するビット列を飛び越えることができ、巡回周期を511から506に短くできる。
【0026】
巡回周期を短くすることのできる周期は、193通りあり、約76%の周期を実現できる。さらに、ゼロの有無を加味することで実現できる周期は238通りとなり、約94%の周期を網羅できる。なお、ゼロの有無を加味するとは、例えば、0001→1000という符号変化の間に巡回を保ったままゼロを強制的に追加することにより、0001→0000→1000のような符号変化とすることをいう。このように、0000を追加することにより巡回周期を1だけ長くするか否かを調整することができる(非特許文献1参照)。さらに、タップ位置も変えると、ほぼ全ての周期を作成することができる。
【0027】
このように、スキップをうまく利用することにより、9ビットのビット列において、最大周期が511のM系列ビット列から、周期が511以下のビット列を作り出すことができるようになる。これにより、9ビットのビット列に対して、タップ位置を変えたり、スキップを利用したりすれば、所望の長さの長尺スケール201または短尺スケール211,212,213,214,21kを生成することができる。
【0028】
さらに、例えば、9ビット~12ビットの巡回ビット列に対して、上述のような手法を用いて複数の巡回ビット列を生成する。そして、これらを組み合わせれば、小さいビット数の巡回ビット列から、長いスケール、例えば、15m位の長尺スケール201を形成することができる。また、同じ初期値から生成された巡回ビット列を繋ぎ合わせれば、破たんがなく、繋ぎ目もLFSRが維持された巡回ビット列が得られる。
【0029】
信号出力部302は、2つのセンサ202,203を、一定の距離を保ったまま同時に移動させ、2つのセンサ202,203のセンサ出力をセットで扱う。このため、信号処理部301は、センサが静止した状態であっても絶対位置を特定できる。なお、本実施形態では、M系列の巡回ビット列を繋ぎ合わせる例で説明をしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、巡回ビット列であればM系列の巡回ビット列でなくてもよい。
【0030】
本実施形態によれば、長いスケール(絶対長さ15mぐらい)を小さいビット数(9ビット~12ビット)で作りつつ、従来型のセンサを使い、高精度(1メータのスケールと同レベル)に絶対位置を検出することのできるリニアエンコーダを提供することができる。また、所望の分解能をもつスケールを提供することができる。さらに、短尺スケール211,212,213,214,21kのそれぞれを、2つのセンサ202,203で読み取るので、2つのセンサ202,203による2重検出が可能となり、検出データの信頼性を確保することができる。また、タップ位置を変える方法や、スキップ法を用いることにより任意の長さの巡回ビット列を生成することができる。任意の長さの巡回ビット列を配置した短尺スケールを複数組み合わせることにより、任意の長さの長尺スケールを生産性高く実現することができる。
【0031】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態に係るアブソリュートリニアエンコーダ500について、図5を用いて説明する。図5はアブソリュートリニアエンコーダ500の全体構成の概要を説明するためのブロック図である。本実施形態に係るアブソリュートリニアエンコーダ500は、上記第2実施形態と比べると、短尺スケールが間隔を空けて配置されている点で異なる。その他の構成および動作は、第2実施形態と同様であるため、同じ構成および動作については同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0032】
アブソリュートリニアエンコーダ500は、長尺スケール501を有する。長尺スケール501は、短尺スケール211,212,213,214,21kを有する。そして、長尺スケール501に含まれる、短尺スケール211,212,213,214,21kは、間隔511~51k-1を空けて配置されている。
【0033】
例えば、図示したように、センサ203が、間隔512を検知している場合、センサ203から所定距離離れて配置されたセンサ202は、短尺スケール212上の巡回ビット列222を読み取る。このように、仮に、2つのセンサ202またはセンサ203のうち一方のセンサ203が、間隔511~51k-1を検知していたとしても、他方のセンサ202は、短尺スケール上の巡回ビット列を読み取る。センサ202またはセンサ203からの出力が得られない場合、すなわち、センサ202またはセンサ203が間隔511~51k-1のいずれかを検出している場合であっても、センサ202,203の出力ビットの組み合わせを考慮することで、絶対位置の検出が可能となる。なお、ここでは、センサが2つ、短尺スケールがk個の例で説明をした。しかしながら、センサが3つ以上、短尺スケールがk個の例において、3つ以上のセンサのうち少なくともいずれか1つのセンサにより間隔511~51k-1を検知する場合も同様に絶対位置の検出が可能となる。
【0034】
本実施形態によれば、短尺スケール間に間隔があっても確実に絶対位置を検出することができるアブソリュートリニアエンコーダを提供できる。
【0035】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5