IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/92 20060101AFI20230228BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20230228BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A61K8/92
A61K8/02
A61K8/06
A61K8/37
A61K8/60
A61K8/81
A61K8/891
A61Q1/02
A61Q19/00
A61Q19/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019518830
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2018018875
(87)【国際公開番号】W WO2018212223
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2017100140
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】伊部 絢子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 繁郎
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-036001(JP,A)
【文献】特開2003-073230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/92
A61K 8/02
A61K 8/06
A61K 8/37
A61K 8/60
A61K 8/81
A61K 8/891
A61Q 1/02
A61Q 19/00
A61Q 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形油分、液状油分及び粉末を含有する油性粒子が、水相中に分散された水中油型乳化組成物であって、
前記油性粒子の平均粒子径が50μm~10mmであり、
前記粉末が油性粒子の内部にあり、
前記液状油分が常温(25℃)で液体の油分であり、
アルキル変性カルボキシビニルポリマーを組成物の全質量に対して0.001~2質量%含有し、
デキストリン脂肪酸エステルを含む場合にはその含有量が油相の全質量に対して2質量%以下であり、
前記固形油分の配合量は、油相(粉末を除く)の全質量に対して10~20質量%であり、
前記液状油分の配合量は、油相(粉末を除く)の全質量に対して60~90質量%であり、かつ
前記粉末の配合量は、油相(粉末を除く)の全質量に対して0.3~9質量%である
ことを特徴とする水中油型乳化組成物。
【請求項2】
前記固形油分が、50℃以上の融点を持つ固形油分から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
0.005質量%以下の界面活性剤を更に含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤が、HLB7以下の界面活性剤である、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の組成物を基剤として含む化粧料。
【請求項6】
水性化粧料、ジェル化粧料又は乳化化粧料である、請求項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化組成物に関する。より詳細には、目視可能な程度の大きな油性粒子を有する水中油型乳化組成物であって、当該油性粒子内に粉末を含有し、当該油性粒子の形状及び粒径の均一性を格段に向上させた水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
平均粒子径が50μm~10mmという大きな油性粒子を水相に分散させた水中油型乳化組成物が知られている。このような大きな油性粒子を含有する水中油型乳化組成物は、目視可能な大きさの油性粒子が分散しているために視覚的に斬新で美しいばかりでなく、皮膚に適用した際にはみずみずしく、さっぱりした感触があり、時間をおくとしっとりした感触となるといった従来になかった使用感が得られる。また、大きな油性粒子に分解性の油溶性成分を保持すれば当該油溶性成分の分解を抑制できるという効果も有する。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベヘニルアルコール等の常温で固体の両親媒性物質を含む油性成分を平均粒子径が100μm以上の油性カプセルとして水性溶媒中に分散させたカプセル含有組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2には、特許文献1と同様に平均粒径が0.05~10mmの大きな油性粒子を分散した水中油型乳化組成物において、油相にデキストリン脂肪酸エステルを配合することにより安定性及び粒子の均一性が向上したことが記載されている。特許文献3には、同様の水中油型乳化組成物の水相にカルボキシビニルポリマー及びポリオキシエチレン系会合性増粘剤を配合することにより、べたつきや皮膜感を無くし、安定性を向上させたことが記載されている。
【0005】
特許文献1から3の油性粒子(油性カプセル)は、ベヘニルアルコール等の両親媒性物質あるいはキャンデリラロウ等のワックスを主成分とする外層(シェル)と、シリコーン油等の液状油分を主成分とする内層(コア)からなる構造を有することが確認されている。
【0006】
しかしながら、ベヘニルアルコールやキャンデリラロウと同じ固形油分であっても、その種類によって形状や粒径が均一な油性粒子が形成されない場合、あるいは形成された油性粒子の分散性が不良であり凝集を起す場合があり、内層に配合される液状油分の極性等によっても油性粒子の安定性が左右されることがあった。また、特許文献2のような改善はなされているものの、形成される油性粒子の形状や粒径を均一に整えることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4798899号公報
【文献】特開2005-36001号公報
【文献】特開2012-67024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明における課題は、従来は50μmを超える大きな油性粒子を形成することが困難とされていた固形油分を用いても安定な水中油型乳化組成物を調製でき、なおかつ当該油性粒子の粒径及び形状の均一性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、油性粒子内に粉末を配合することによって前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、固形油分、液状油分及び粉末を含有する油性粒子が水相中に分散された水中油型乳化組成物であって、前記油性粒子の平均粒径が50μm~10mmであり、前記粉末が油性粒子の内部にあることを特徴とする水中油型乳化組成物を提供する。また本発明は、前記の水中油型乳化組成物を基剤とする化粧料も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来は困難であると考えられていた固形油分を用いても、平均粒径が50μm~10mmという大きな油性粒子を有する水中油型乳化組成物を製造することが可能である。さらに、本発明に係る組成物に含まれる油性粒子は、その形状及び粒径の均一性に優れており、分散性も良好で凝集を起しにくい安定なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る組成物は、平均粒径が50μm~10mmの油性粒子が水相に分散された水中油型乳化組成物である。
【0013】
本発明における油性粒子(「内相」、「油相」又は「分散相」ということもある)は、固形油分、液状油分及び粉末を含有する。
【0014】
本発明における「固形油分」は、常温(25℃)で固体または半固体の油分を意味する。
本発明において用いられる固形油分は特に限定されないが、融点が55℃以上の固形油分が好ましく用いられる。本発明における固形油分の具体例として以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、ビースワックス、バリコワックス、ポリエチレンワックス、シリコンワックス、高級アルコール(例えば、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール等)、バチルアルコール、カルナウバロウ、ミツロウ、キャンデリラロウ、ホホバロウ、ラノリン、セラックロウ、鯨ロウ、モクロウ、高級脂肪酸(例えば、ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸、ベヘニン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等)、エステル油(例えば、ミリスチン酸ミリスチル等)、カカオ脂、硬化ヒマシ油、硬化油、水添パーム油、パーム油、硬化ヤシ油、ポリエチレン、ワセリン、各種の水添動植物油脂、脂肪酸モノカルボン酸ラノリンアルコールエステル等。
【0016】
上記の中でも、融点が50℃以上の固形油分が好ましく、融点が65℃以上かつ85℃未満の固形油分が特に好ましい。融点が50℃未満では高温での安定性が劣る傾向があり、一方、融点が85℃を超えると粒子形成性及び分散性に問題を生じる傾向がある。好ましい固形油分としては、限定はされないが、水添ホホバ油(融点:68℃)、ベヘン酸エイコサン二酸グリセリル(融点:66℃)、ステアリルアルコール(融点:52~62℃)やベヘニルアルコール(融点:68℃)等の炭素数16以上、好ましくは炭素数18以上の高級アルコール、マイクロクリスタリンワックス(融点:80℃)、セレシン(融点:68~75℃)、ポリエチレンワックス(融点:80℃)、バチルアルコール(融点:70℃)、カルナウバロウ(融点:83℃)、キャンデリラロウ(融点:71℃)、硬化ヒマシ油(融点:84℃)、ステアリン酸(融点:58~63℃)、ベヘニン酸(融点:69~80℃)、12-ヒドロキシステアリン酸(融点:70℃)等が挙げられる。
これらの固形油分は、1種単独でも2種以上を組合せて用いてもよい。
【0017】
本発明の組成物における固形油分の配合量は、油相(粉末を除く)の全質量に対して、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~20質量%である。固形油分の配合量が油相の5質量%未満であると組成物の安定性が悪くなる傾向があり、50質量%を超えると油性粒子が硬くなりすぎ、使用性や肌なじみが悪くなる傾向がある。
【0018】
本発明における「液状油分」は、常温(25℃)で液体の油分を意味する。本発明で用いられる液状油分の具体例として以下のものを挙げることができるが、これらに限られない。
【0019】
アマニ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、オリーブ油、アボカド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、キョウニン油、シナモン油、ホホバ油、ブドウ油、アルモンド油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマワリ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米ヌカ油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油、月見草油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂。
【0020】
オクタン酸セチル等のオクタン酸エステル、トリ-2-エチルヘキサエン酸グリセリン、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル等のイソオクタン酸エステル、ラウリン酸ヘキシル等のラウリン酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル等のミリスチン酸エステル、パルミチン酸オクチル等のパルミチン酸エステル、ステアリン酸イソセチル等のステアリン酸エステル、イソステアリン酸イソプロピル等のイソステアリン酸エステル、イソパルミチン酸オクチル等のイソパルミチン酸エステル、オレイン酸イソデシル等のオレイン酸エステル、アジピン酸ジイソプロピル等のアジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエチル等のセバシン酸ジエステル、リンゴ酸ジイソステアリル等のリンゴ酸ジイソステアリル等のエステル油。
【0021】
流動パラフィン、オゾケライト、スクワラン、スクワレン、プリスタン、パラフィン、イソパラフィン、ワセリン等の炭化水素油。
【0022】
ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルフェニルポリシロキサン(フェニルメチコン)、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状シリコーン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状シリコーン、アミノ変性シリコーン油、ポリエーテル変性シリコーン油、カルボキシ変性シリコーン油、アルキル変性シリコーン油、アンモニウム塩変性シリコーン油、フッ素変性シリコーン油の変性シリコーンを含むシリコーン油。
これらの液状油分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0023】
液状油分の配合量は、油相(粉末を除く)の全質量に対して、好ましくは50~95質量%であり、より好ましくは60~90質量%である。油相中の液状油分の配合量が50質量%未満の場合、油性粒子が硬くなりすぎ、使用性や肌なじみが悪くなる傾向があり、95質量%を超えると組成物の安定性が悪くなる傾向がある。
【0024】
本発明における「粉末」は、化粧料等の皮膚外用剤に配合可能なものであれば特に限定されない。
例えば、タルク、マイカ、カオリン、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、バーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、球状シリカ、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム(焼セッコウ)、リン酸カルシウム、弗素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、金属石鹸(ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウムなど)、窒化ホウ素等の無機粉末;ポリアミド球状樹脂粉末(ナイロン球状粉末)、球状ポリエチレン、架橋型ポリ(メタ)クリル酸メチル球状樹脂粉末、球状ポリエステル、架橋ポリスチレン球状樹脂粉末、スチレンとアクリル酸の共重合体球状樹脂粉末、ベンゾグアナミン球状樹脂粉末、ポリ四弗化エチレン球状粉末、球状セルロース等の球状の有機粉末;二酸化チタン、酸化亜鉛等の無機白色顔料;酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄等の無機赤色系顔料;γ-酸化鉄等の無機褐色系顔料;黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料;黒酸化鉄、カーボンブラック、低次酸化チタン等の無機黒色系顔料;マンゴバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色系顔料;酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト等の無機緑色系顔料;群青、紺青等の無機青色系顔料;酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、着色酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、ホウケイ酸(Ca/Al)、魚鱗箔等のパール顔料;アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等の金属粉末顔料;赤色、黄色、橙色、黄色、緑色、青色等の色材、あるいはこれらをジルコニウム、バリウムまたはアルミニウム等でレーキ化した色材(有機顔料);クロロフィル、β-カロリン等の天然色素などが例示される。これらの中でも、タルクが特に好ましい。
【0025】
本発明における粉末は、表面処理したものでも表面処理を施していないものでもよく、その形状も特に限定されない。粉末の平均粒径は、特に限定されないが、通常は、1~100μm程度の粉末が好ましく用いられる。
【0026】
粉末の配合量は、油相(粉末を除く)の全質量に対して、好ましくは0.12~30質量%であり、より好ましくは0.15~15質量%、さらに好ましくは0.3~9質量%である。油相中の粉末の配合量が0.12質量%未満の場合は油性粒子の分散性が低下して凝集が起りやすくなる傾向がある。一方、配合量が油相の30質量%を超えると、調製時の操作性が悪くなり、粒子の径及びばらつきが大きくなる傾向がある。
【0027】
本発明の組成物における水相(「外相」又は「連続相」ということもある)は、水及び/又は水性媒体を主成分として含み、前記油性粒子の分散媒となる。
【0028】
本発明の組成物における水相を構成する水の配合量は、特に限定されないが、通常は水相の全質量に対して50~99質量%、好ましくは60~98質量%、より好ましくは70~95質量%である。
【0029】
本発明の組成物は、上記の必須成分に加えて、化粧料等の皮膚外用剤に配合可能な他の成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有していてもよい。
【0030】
本発明の組成物に配合可能な他の成分としては、限定されないが、水溶性増粘剤、油溶性増粘剤、保湿剤、水溶性薬剤(例えば、アルブチン、アスコルビン酸グルコシド、トラネキサム酸、4-メトキシサリチル酸塩等)、油溶性薬剤(例えば、油溶性ビタミン類、油溶性植物抽出物等)、紫外線吸収剤、エデト酸ナトリウム等のキレート剤、クエン酸/クエン酸ナトリウム等のpH調整剤、パラベン、フェノキシエタノール等の防腐剤、色素、染料、香料、界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
上記の他の成分の中で、水溶性増粘剤及び/又は油溶性増粘剤を配合するのが好ましい。水溶性増粘剤は、組成物の粘度を高めて分散物の安定性をさらに向上させることができる。
【0032】
本発明において配合可能な水溶性増粘剤は、特に限定はされないが、例えば、アラビアゴム、トラガカントガム、ガラクタン、キャロブガム、グァーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(褐藻エキス)等の植物系高分子、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子、ポリオキシエチレン系高分子、ポリオキエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等の無機系水溶性高分子等を挙げることができる。
【0033】
水溶性増粘剤の中でも、アルキル変性カルボキシビニルポリマーは、その界面活性に基づいて油性粒子の凝集・合一を抑制する作用を発揮するので特に好適である。アルキル変性カルボキシビニルポリマーは、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー)とも呼ばれ、例えば、CARBOPOL 1342、PEMULEN TR-1、PEMULEN TR-2(BF Goodrich 社)の商品名で市販されている。
【0034】
水溶性増粘剤の量は、水溶性増粘剤の種類や、用途、所望の使用性等に応じて適宜調整可能であり、特に限定はされない。通常は、組成物の全質量に対して、0.001~2質量%、好ましくは0.01~1.3質量%である。
【0035】
油溶性増粘剤は、油性粒子を構成する固形油分の固化力を低下させて適度な硬度になるように調整することができる。
【0036】
本発明において配合可能な油溶性増粘剤は、特に限定はされないが、例えば、デキストリン脂肪酸エステル、金属セッケン、親油性ベントナイト、アミノ酸誘導体、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトールのベンジリデン誘導体等が挙げられる。
【0037】
デキストリン脂肪酸エステルとしては、例えばデキストリンパルミチン酸エステル、デキストリンオレイン酸エステル、デキストリンステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0038】
金属セッケンとしては、例えば水酸基の残存しているアルミニウムステアレート、マグネシウムステアレート、ジンクミリステート等が挙げられる。
親油性ベントナイトとしては、例えばジメチルベンジルドデシルアンモニウムモンモリロナイト、ジメチルジオクタデシルアンモニウムモンモリナイト等が挙げられる。
【0039】
アミノ酸誘導体としては、例えばN-ラウロイル-L-グルタミン酸、α,γ-ジ-n-ブチルアミン等が挙げられる。
ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば8個の水酸基のうち3個以下が高級脂肪酸でエステル化され、高級脂肪酸がステアリン酸、パルミチン酸であるものが挙げられる。
ソルビトールのベンジリデン誘導体としては、例えばモノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、パルミチン酸デキストリンが安定性および使用性の観点から特に好ましく用いられる。デキストリン脂肪酸エステルは、特に限定はされないが、例えば、「レオパール KL」、「レオパール KE」等の商品名で千葉製粉株式会社より市販されているものが使用できる。
【0041】
油溶性増粘剤の量は、用途や所望の使用感等に応じて適宜調整可能であり、特に限定はされない。通常は、油相の全質量に対して、0.01~5質量%であり、好ましくは0.02~2質量%である。
【0042】
本発明の組成物は、例えば、特許文献1~3に記載された方法に準じて調製することができる。具体的には、水相成分を混合して、配合する固形油分の融点以上に加熱し、同温に加熱混合した油相成分(固形油分、液状油分、粉末を含む)を攪拌下で前記水相成分に添加する(攪拌は、10~1500rpm、好ましくは20~300rpm程度の回転数のプロペラ又はパドルミキサーを用いて行うことができる。ホモミキサーを使用すると微細化されてしまうため好ましくない。)。次いで、攪拌しながら冷却することにより調製可能である。
【0043】
このようにして製造される本発明の組成物は、水相中に平均粒子径が50μm~10mmの油性粒子が分散されたものとなる。本発明の組成物における油性粒子は、内層が実質的に粉末と液状油分とからなり、その周囲を固形油分(外層)が被覆したカプセル構造を有すると考えられる。また、外層をなす固形油分が結晶化することにより、適度な硬さとなって独特の使用感触を生じる。
【0044】
本発明の組成物は、界面活性剤を用いなくても上記構造の油性粒子が形成されるが、粉末が油性粒子の内部(内層)に存在し、水相と油相との界面には固形油分が存在する構造をなしている点で、油-水界面に粉末が存在するピッカリング乳化物とは明確に区別される。
【0045】
なお、本発明では、粉末として顔料等の色材を配合する場合には少量(例えば、0.005質量%以下程度)の界面活性剤を併用するのが好ましい。界面活性剤としては、HLB7以下の親油性のものが好ましく、具体的にはPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、セスキイソステアリン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0046】
本発明の水中油型乳化組成物は、独特の外観及び使用感を有する化粧料基剤として使用するのに適している。当該基剤を使用した化粧料としては、例えば、水性化粧料、ジェル状化粧料、乳化化粧料等の形態が挙げられる。具体的な用途としては、化粧水、ジェル、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル、ボディまたはヘア用の化粧料として用いることが可能である。
【実施例
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される組成物全量に対する質量%で示す。
【0048】
以下の表1~表3に掲げた処方で水中油型乳化組成物を段落0042に記載した方法に従って調製した。各例の乳化組成物について、以下の項目(1)及び(2)を下記の基準に従って評価した。
【0049】
(1)油性粒子形成性
調製した乳化組成物に含まれる油性粒子の粒子径及び形状を顕微鏡で観察し、平均粒子径を算出した。
評価基準:
A+:良好に粒子形成され、形成された粒子の平均粒子径が50μm~10mmの範囲にあり、かつ、平均粒子径±10%の範囲に入る粒子が90%以上
A:良好に粒子形成され、形成された粒子の平均粒子径が50μm~10mmの範囲にあり、かつ、平均粒子径±10%の範囲に入る粒子が80%以上90%未満
B:良好に粒子形成され、形成された粒子の平均粒子径が50μm~10mmの範囲にあるが、平均粒子径±10%の範囲に入る粒子が50%以上80%未満
C:油相の10%~50%は粒子形成するが残りは塊状
D:油相の殆どが塊状となり、粒子形成するものが10%未満
【0050】
(2)分散性
調製した乳化組成物を常温で1週間放置した後、容器を手で振ることにより攪拌した際の分散性を目視で確認した。
A:粒子がすぐに均一分散した
B:一部の粒子が凝集していたが、更に強く撹拌することにより均一に分散した
C:一部の粒子が凝集し、更に強く撹拌しても分散しなかった
D:粒子が完全に凝集しており、更に強く攪拌しても全く分散しなかった
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、固形油分として、従来から油性粒子を形成することが知られていたキャンデリラロウを用いた比較例1-1に比較して、更に粉末を配合した実施例1-1では粒子の均一性が向上し、粒子径状も球形で揃っていた。一方、従来は油性粒子形成が困難であると考えられていた固形油分(比較例1-2~1-5)を用いた場合でも、粉末を配合することにより油性粒子が良好に形成された(実施例1-2~1-5)。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、配合する粉末の種類(材質や粒径)を変更しても良好に油性粒子を形成することができ、分散性にも優れたものであった。しかし、粉末を配合しない比較例2では油性粒子が形成されなかった。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示すように、配合する粉末の量(油相(粉末を除く)に対する粉末の配合比率)を所定の範囲で変化させても、油性粒子の形成性及び分散性に問題は生じなかった。
【0057】
次に、以下の表4及び表5に掲げた処方で水中油型乳化組成物を調製し、各例の乳化組成物について、(1)油性粒子形成性及び(2)分散性を上記と同じ基準に従って評価した。加えて、各乳化組成物の(3)安定性を以下の基準で評価した。
【0058】
(3)安定性
各例の乳化組成物を25℃及び40℃で1ヶ月保存した後の油性粒子の状態を調製直後と目視で比較し、以下の基準に従って安定性を評価した。
A:いずれの保存条件でも粒子の変化は認められなかった。
B:40℃で保存した場合のみ、20%未満の粒子に凝集・変形が認められた。
C:40℃で保存した場合のみ、20%以上の粒子の凝集・変形が認められた。
D:いずれの保存条件でも、20%以上の粒の凝集・変形が認められた。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示すように、実施例4-1~4-4のいずれも良好に油性粒子が形成され、分散性も良好であった。但し、融点が50℃未満の固形油分を使用した実施例4-1は高温での安定性が劣っていた。
【0061】
【表5】
【0062】
固形油分としてセレシンを使用した比較例5-1は、粉末を配合しなくても油性粒子を形成できたが、油相中に高極性の香料を添加すると油性粒子が良好に形成されなくなった(比較例5-2)。しかし、粉末を配合することにより、香料を配合しても更に良好に油性粒子が形成され、分散性及び安定性にも優れていた。
【0063】
以下に、本発明の乳化組成物を用いた化粧料の処方を例示するが、これらの例示は本発明を限定するものではない。
【0064】
処方例1:美容液
水相
1. イオン交換水 残余
2. グリセリン 5
3. プロピレングリコール 5
4. カルボキシビニルポリマー 0.2
5. キサンタンガム 0.2
6. ヒドロキシエチルセルロース 0.2
7. イノシット 0.1
8. EDTA-2Na.2HO 0.05
9. 水酸化ナトリウム 0.1
10.メチルパラベン 0.2
油相
11.テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル 3
12.フェニルメチコン 2
13.流動パラフィン 1
14.マイクロクリスタリンワックス 2
15.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.1
16.マイカ 0.5
17.レチノール 0.2
【0065】
処方例2:美白美容ジェル
水相
1. イオン交換水 残余
2. アルコール 5
3. グリセリン 10
4. 1,3-ブチレングリコール 5
5. トラネキサム酸 1
6. ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa
クロスポリマー 0.5
7. EDTA-2Na.2HO 0.05
8. メチルパラベン 0.2
油相
9. ミリスチン酸イソプロピル 3
10. マカデミアナッツ油 1
11. デカメチルシクロペンタシロキサン 1
12. スクワラン 0.5
13. ベヘニン酸 1.5
14.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.1
15.雲母 0.2
16.デキストリンパルミチン酸エステル 0.01
【0066】
処方例3:美容液
水相
1. イオン交換水 残余
2. グリセリン 5
3. プロピレングリコール 5
4. カルボキシビニルポリマー 0.2
5. キサンタンガム 0.2
6. ヒドロキシエチルセルロース 0.2
7. イノシット 0.1
8. EDTA-2Na.2HO 0.05
9. 水酸化ナトリウム 0.1
10.メチルパラベン 0.2
油相
11.テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル 3
12.フェニルメチコン 2
13.流動パラフィン 1
14.マイクロクリスタリンワックス 2
15.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.1
16.マイカ 0.5
17.レチノール 0.2
【0067】
処方例4:美白美容ジェル
1. イオン交換水 残余
2. アルコール 5
3. グリセリン 10
4. 1,3-ブチレングリコール 5
5. トラネキサム酸 1
6. ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa
クロスポリマー 0.5
7. EDTA-2Na.2HO 0.05
8. メチルパラベン 0.2
油相
9. ミリスチン酸イソプロピル 3
10.マカデミアナッツ油 1
11.デカメチルシクロペンタシロキサン 1
12.スクワラン 0.5
13.ベヘニン酸 1.5
14.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.1
15.雲母 0.2
16.デキストリンパルミチン酸エステル 0.01
【0068】
処方例5:美白美容液
水相
1. イオン交換水 残余
2. グリセリン 2
3. ジプロピレングリコール 8
4. 寒天 0.4
5. ポリ-γ-グルタミン酸Na 0.1
6. アラントイン 0.1
7. 4-メトキシサリチル酸ナトリウム 1
8. メタリン酸ナトリウム 0.2
9. フェノキシエタノール 0.3
油相
10.エチルヘキサン酸セチル 2
11.ジメチルポリシロキサン 1
12.イソヘキサデカン 1
13.(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー
0.5
14.ビーズワックス 2
15.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.2
16.酸化チタン 0.5
17.トコフェノール 0.01
18.香料 0.1
【0069】
処方例6:美容ジェル
水相
1. イオン交換水 残余
2. ジグリセリン 1
3. ジプロピレングリコール 5
4. テトラメチル ピラゾリルピリミジン HCL 0.6
5. (アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)
コポリマー 1.5
6. EDTA-2Na.2HO 0.1
7. メチルパラベン 0.2
油相
8. トリエチルヘキサノイン 1
9. リンゴ酸ジイソステアリル 0.5
10.オリーブ油 0.05
11.スクワラン 2
12.メチルフェニルポリシロキサン 2
13.トリメチルシロキシケイ酸 0.2
14.ポリエチレンワックス 1.2
15.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.1
16.ポリメタクリル酸メチル 0.4
【0070】
処方例7:美容下地
水相
1. イオン交換水 残余
2. アルコール 4
3. グリセリン 2
4. ジプロピレングリコール 5
5. マリンコラーゲン 1
6. アクリル酸Na グラフトデンプン 0.5
7. ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa
クロスポリマー 0.5
8. EDTA-2Na.2HO 0.2
9. メチルパラベン 0.2
油相
10.エチルヘキサン酸セチル 1
11.ジイソステアリン酸グリセリル 0.5
12.流動パラフィン 2
13.ジメチコン 2
14.パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 5
15.カルナバロウ 1.5
16.(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))
クロスポリマー 0.05
17.PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン
(親油性界面活性剤) 0.003
18.酸化チタン 0.4
19.酸化鉄(顔料) 0.01
20.香料 0.1