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特許7234247感染症の治療又は予防のためのペクチン性多糖酵素加水分解物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】感染症の治療又は予防のためのペクチン性多糖酵素加水分解物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20230228BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230228BHJP
   A61K 31/732 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L33/105
A61K31/732
A61K36/23
A61P31/00 171
A61P37/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020543707
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2018079055
(87)【国際公開番号】W WO2019081523
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】17197706.9
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/074127
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520145366
【氏名又は名称】ニュートリリーズ・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】NUTRILEADS B.V.
【住所又は居所原語表記】Bronland 12-N,6708 WH Wageningen,Netherland
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】アルベルス、ルート
(72)【発明者】
【氏名】ゾーマキ、マリア
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132130(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0151485(US,A1)
【文献】国際公開第2012/148277(WO,A1)
【文献】特表2003-530096(JP,A)
【文献】国際公開第2004/084652(WO,A1)
【文献】特表2004-519220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
C11B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus/AGRICOLA/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症の治療的又は予防的処置に使用する製品の製造におけるニンジンRG-I多糖の使用であって、
前記処置は前記製品の経口投与を含み、
前記製品は、栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択され、
前記製品は、少なくとも0.1乾燥重量%のニンジンRG-I多糖を含み、
前記ニンジンRG-I多糖は、以下の特徴:
・10~300kDaの分子量;
・ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれる、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格;
・以下の単糖の組成:
-個々のガラクツロン酸は、C6位がメチル化されていてもよい、並びに/又は、O2位及び/若しくはO3位がアセチル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、20~60モル%;
-ラムノース残基が、8~50モル%;
-アラビノース残基が、0~40モル%;
-ガラクトース残基が、0~45モル%;
-ガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比が、5:1~1:1;
-ガラクツロン酸残基、ラムノース残基、アラビノース残基及びガラクトース残基は合わせて、ニンジンRG-I多糖の単糖の少なくとも85モル%、
の組合せを有する、
使用。
【請求項2】
前記ニンジンRG-I多糖のメチル化度は多くても50%である、請求項1に記載のニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項3】
前記ニンジンRG-I多糖のメチル化度に対するアセチル化度の比が1以上である、請求項1又は2に記載のニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項4】
前記RG-1多糖中の非還元末端ガラクツロン酸残基の少なくとも10%が不飽和ガラクツロン酸残基である、請求項1に記載のニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項5】
前記製品中に存在する、10kDaより大きい分子量で、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義されるペクチン性多糖の少なくとも20重量%が、前記ニンジンRG-I多糖である、請求項1~4のいずれか1項に記載のニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項6】
前記ニンジンRG-I多糖中のアラビノース残基及びガラクトース残基とラムノース残基のモル比が5:1未満、好ましくは4.5:1未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載のニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項7】
前記ニンジンRG-I多糖は以下の単糖の組成:
・個々のガラクツロン酸は、メチル化されていてもよい、及び/又はアセチル基でエステル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、21~55モル%;
・ラムノース残基が、9~35モル%;
・アラビノース残基が、5~40モル%;
・ガラクトース残基が、5~40モル%
を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項8】
前記ニンジンRG-I多糖が、ニンジンペクチンの部分的酵素加水分解により得られたものである、請求項1~7のいずれか1項に記載のニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項9】
前記使用が、前記ニンジンRG-1多糖を少なくとも200mg提供する前記製品の経口投与を含む、請求項8に記載の治療的又は予防的処置におけるニンジンRG-I多糖の使用。
【請求項10】
栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択された製品であって、
前記製品は、ニンジンRG-I多糖を少なくとも0.1乾燥重量%含み、
前記ニンジンRG-I多糖は、以下の特徴:
・40~300kDaの分子量;
・ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれる、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格;
・以下の単糖の組成:
-個々のガラクツロン酸は、C6位がメチル化されていてもよい、並びに/又は、O2位及び/若しくはO3位がアセチル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、20~60モル%;
-ラムノース残基が、8~50モル%;
-アラビノース残基が、0~40モル%;
-ガラクトース残基が、0~45モル%;
-ガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比が、5:1~1:1;
-ガラクツロン酸残基、ラムノース残基、アラビノース残基及びガラクトース残基は合わせて、ニンジンRG-I多糖の単糖の少なくとも85モル%、
の組合せを有し、
前記製品中に存在する、10kDaより大きい分子量で、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義されるペクチン性多糖の少なくとも20重量%が、前記ニンジンRG-I多糖である、
製品。
【請求項11】
ニンジンRG-I多糖の製造方法であって、当該方法は、
・ペクチンをニンジンから得る工程、
ここで、前記ペクチンは、少なくとも15kDaの分子量を有し、かつ、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を有するペクチン性多糖を少なくとも5乾燥重量%含有する、
・前記ペクチン性多糖を、ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)、ペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)、エンドポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、エキソポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.67及びEC 3.2.1.82)から選択される1以上のペクチナーゼを使用して、部分的に加水分解する工程、
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を、遠心分離、デカンテーション、ろ過及びそれらの組合せから選択される固液分離技術に供し、ペクチン性多糖部分加水分解物を含む液体画分を得る工程、
・前記液体画分を、分画分子量が10~100kDaの限外ろ過膜を使用して、限外ろ過する工程、及び
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を含む保持液を回収する工程
を含む、方法。
【請求項12】
前記ペクチン性多糖が、エンドポリガラクツロナーゼ及び/又はエキソポリガラクツロナーゼを使用する部分的な加水分解の前、又は同時に、1以上のペクチンエステラーゼ(EC 3.1.1.11)を使用して加水分解される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記回収された保持液を含水量が15重量%未満まで乾燥する、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択される製品を製造する方法であって、ニンジンRG-I多糖、0.1~50%乾燥重量%をその中に配合することを含み、
前記ニンジンRG-I多糖は、以下の特徴:
・10~300kDaの分子量;
・ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれる、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格;
・以下の単糖の組成:
-個々のガラクツロン酸は、C6位がメチル化されていてもよい、並びに/又は、O2位及び/若しくはO3位がアセチル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、20~60モル%;
-ラムノース残基が、8~50モル%;
-アラビノース残基が、0~40モル%;
-ガラクトース残基が、0~45モル%;
-ガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比が、5:1~1:1;
-ガラクツロン酸残基、ラムノース残基、アラビノース残基及びガラクトース残基は合わせて、ニンジンRG-I多糖の単糖の少なくとも85モル%、
の組合せを有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上気道の感染など、感染症の予防的又は治療的処置におけるペクチン性多糖酵素加水分解物の使用に関する。ニンジン由来のペクチン性多糖酵素分解物は、非常に高いラムノガラクツロナンI(RG-I)含有量が特徴である。
【0002】
特に、本発明は、栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択される製品を提供し、前記製品は、上述のニンジンRG-I多糖酵素加水分解物を含む。さらに、本発明は、感染症の治療における上述の製品の使用、及びニンジンRG-I多糖酵素分解物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
感染は、病原体の生体組織への侵入、それらの増殖、並びに、病原体及びそれが産生する毒素に対する宿主組織の反応である。生物はその免疫系で感染と戦うことができる。免疫系は、病気から保護する生物の内部の、多くの生物学的な構造及び方法を含む宿主の防御系である。栄養は免疫機能の重要なモジュレーターである。たとえば、食物繊維は免疫系のさまざまな特性を調節することができ、それゆえ、感染に対する抵抗性を変化させる。免疫系を刺激し、又は補助することにより、病原菌に対する免疫応答がより効果的になる。このことは、感染の症状を予防し、又は、感染症からの早期の回復につながる。
【0004】
上気道感染症は、鼻、副鼻腔、咽頭又は喉頭を含む上気道に影響を与える急性の感染が引き起こす疾患である。これは、通常、鼻づまり、喉の痛み、扁桃炎、咽頭炎、喉頭炎、副鼻腔炎、中耳炎、特定のインフルエンザ及び風邪を含む。ほとんどの感染症は事実上ウイルスで生じ、他の例では原因は細菌である。上気道感染症は、真菌又は蠕虫で発生する場合もあるが、これらはあまり一般的ではない。下気道感染症は、一般に上気道感染症よりも深刻で、すべての感染症中、主な死因である。
【0005】
急性気道感染症を引き起こす可能性のあるウイルスには、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス及びヒトメタニューモウイルスが含まれる。上気道感染症を引き起こす可能性のある細菌には、A群β溶血性連鎖球菌、ジフテリア菌、淋菌、肺炎クラミジア、C群β溶血性連鎖球菌が含まれる。
【0006】
子供は年間に2~9回ウイルス性呼吸器疾患にかかる。上気道感染症は、仕事や学校を休む人々の主な理由である。インフルエンザウイルス、アデノウイルス、麻疹、風疹、肺炎球菌、インフルエンザ菌、ジフテリア、炭疽菌及び百日咳菌に対するワクチン接種は、それらがURTに感染するのを防ぐか、感染症の重症度を軽減するかもしれない。免疫系によって保護される他の感染症には、腸管感染症が含まれる。腸の感染症には、コレラ、腸チフス、パラチフス、他のサルモネラ感染、赤痢、ボツリヌス中毒、胃腸炎及びアメーバ症などがある。感染性下痢症としても知られている胃腸炎は、胃及び小腸を含む胃腸管の炎症である。兆候や症状は、下痢、嘔吐、腹痛やその組合せを含む。発熱、倦怠感及び脱水症状が生じるかもしれない。胃腸炎は、ウイルス、細菌、寄生虫及び真菌の感染で生じる可能性がある。ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス及びアストロウイルスはウイルス性胃腸炎を引き起こすことが知られている。ロタウイルスは子供の胃腸炎の実にありふれた原因である。先進国では、カンピロバクター ジェジュニが細菌性胃腸炎の主要な原因である。胃腸炎を引き起こす可能性がある他の細菌には、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌、黄色ブドウ球菌及びカンピロバクターが含まれる。毒素産生性クロストリジウム ディフィシルは、高齢者でより頻繁に生じる下痢のかなりの原因である。多くの原虫も胃腸炎を引き起こす可能性がある。最も一般的にはジアルジア ランブリアであるが、赤痢アメーバ、クリプトスポリジウム属、及び他の種も関係する。
【0007】
米国特許出願公開第2004/072791号明細書には、感染と戦うために、哺乳類細胞に有害物質又は生物が付着するのを妨げるペクチン加水分解物を使用することが記載されている。ペクチンは、柑橘類、リンゴ又は甜菜から得られる。
【0008】
米国特許出願公開第2002/0022601号明細書には、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖及び部分的に脱アセチル化されたキチンオリゴ糖から選択される少なくとも1つの成分を含む薬剤を投与することを含む、風邪を予防又は治療する方法が記載されている。
【0009】
米国特許出願公開第2011/0112048号明細書には、ストレスを受けた対象における上気道感染の症状を軽減する方法が記載されており、この方法は、有効量のβ-グルカンを投与することを含む。
【0010】
米国特許出願公開第2013/0137757号明細書には、インフルエンザウイルス感染を防ぐ方法が記載されており、この方法は、対象の粘膜を主にペクチン及びポリヌクレオチドを含む組成物で処理し、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンとシアル酸との間の接着を阻止することを含む。
【0011】
米国特許出願公開第2014/0288021号明細書には、上気道感染の予防のためにカラマツのアラビノガラクタン及びポリフェノールを使用することが記載されている。
【0012】
米国特許出願公開第2016/0250625号明細書には、上気道感染症の治療方法が記載されており、この方法は、ビフィズス菌、乳酸菌、プロピオニバクテリア、及びそれらの組合せからなる群から選択される非複製プロバイオテックス微生物を含む組成物を投与することを含む。
【0013】
ペクチンは、陸生植物の一次細胞壁に存在する構造ヘテロ多糖である。ペクチン性多糖は、以下の多糖成分を様々な量で含む不均一な多糖類である:
(i) ホモガラクツロナン(HG)、
(ii) キシロガラクツロナン(XG)、
(iii) アピオガラクツロナン(AG)、
(iv) ラムノガラクツロナンI(RG-I)、及び
(v) ラムノガラクツロナンII(RG-II)。
【0014】
図1は、上述した5つの多糖成分を含むペクチン性多糖の構造の概略図である。多糖成分のAG、XG及びRG-IIは、通常、ペクチン性多糖のごく一部であることに留意されたい。
【0015】
多糖成分HG、AG、XG及びRG-IIは、それぞれ、α-(1-4)結合D-ガラクツロン酸単糖ユニットの直鎖からなる骨格で構成される。
【0016】
RG-Iのみが、反復二糖単位 4)-α-D-ガラクツロン酸-(1,2)-α-L-ラムノース-(1 の直鎖からなる骨格で構成される。RG-Iの構造の概略図を図2に示す。
【0017】
ペクチン性多糖の組成と微細構造は、用いる植物源及び抽出条件で大きく変化する。ホモガラクツロナンドメインは、約100までの連続したD-GalA残基を有することができる。側鎖を有するRG-Iドメインは、通常、「分岐領域」又は「毛深い領域」と呼ばれ、一方、(RG-Iドメインに接続する)ホモガラクツロナンドメインは、通常、グリコシド又はグリコシド側鎖で置換されない。
【0018】
RG-1のGalA残基は、1位及び4位でRha残基に結合し、一方、Rha残基は、アノマー位及び2-OH位でGalA残基に結合する。一般に、Rha残基の約20~80%は4-OH位で分岐し(植物源及び分離方法による)、中性及び酸性の側鎖を有する。これらの側鎖は、さまざまな様式で結合したAra及びGal残基から主に構成され、アラビナン、アラビノガラクタンI(AG-I)及び/又はAG-IIとして知られているポリマーを形成する。AG-Iは、3-OH位がα-L-アラビノシル基で置換されたβ-(1,4)-結合D-Gal骨格で構成され、当該Gal骨格は、間にα(1,5)-L-Ara単位を有してもよい。AG-IIは、β(1,3)結合したD-Galを主鎖とし、短い(1,6)結合の側鎖で置換された、高度に分岐したガラクタンで構成される。側鎖は、さらに、(1,3)-及び/又はα(1,5)-結合L-Araを有する。オリゴ糖側鎖は、直鎖状又は分枝状であってもよく、そのいくつかは、α-L-フコシド、β-D-グルクロニド、及び4-O-メチル β-D-グルクロニル残基で終結してもよい。
【0019】
国際公開第2011/069781号には、カメリア シネンシス(Camellia sinensis、チャノキ)から得られる多糖であって、当該多糖の骨格は、交互のラムノガラクツロナンIコア、及びα(1,4)-結合ポリ又はオリゴラクツロン酸コアを含み、当該骨格中のガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比は、2.5:1~1:1であり、少なくとも70kDaの分子量を有する多糖を含む可食製品が記載されている。前記可食製品は、1以上のアブラナ科に属する植物、好ましくはダウクス カロタ(Daucus carota、ニンジン)から入手可能な多糖をさらに含むことができる。表1は、ニンジンから単離された110kDaを超える分子量のペクチン性多糖画分を示す。表2は、この多糖画分がin vitroで免疫調節活性を有したことを示す。
【0020】
国際公開第2012/148277号には、少なくとも20%の乾燥物質を含む調製物が記載されており、当該調製物は、40kDa以上の分子量のラムノガラクツロナンIペクチンを、ペクチン性多糖の重量で計算して少なくとも20%含むペクチン性多糖の混合物を少なくとも50乾燥重量%含み、当該ペクチン性多糖の混合物は、多くても20%のガラクツロン酸残基のメチル化度、及び多くても20%のガラクツロン酸残基のアセチル化度で特徴付けられ、当該調製物は、50mMの重炭酸アンモニウム水溶液で希釈し固形分を2.5重量%とした場合にゲルを形成しない。その実施例には、ニンジンからさまざまな抽出手段によりペクチン性多糖画分を得ることが記載されている。その画分のいくつかは、免疫調節活性を有した。
【0021】
国際公開第2004/084652号には、
a) 野菜を1~30mmに破砕、細断、又はスライスし、
b) 野菜片を60~90℃で湯通しし、
c) 湯通しした野菜片を温浸酵素と接触させ、
d) 得られた野菜片をブレンドしてピューレを得る、
工程を含む、野菜ピューレの製造方法が記載されている。この国際特許出願の実施例には、この方法によるニンジンのピューレの製造が記載されている。
【0022】
Broxtermanらは、ペクチンに対する熱処理の影響についての研究を説明する(Acetylated pectins in raw and heat processed carrot, Carbohydrate Polymers 177 (2017) 58-66)。皮を剥いたニンジン又は熱処理したニンジンキューブから得たアルコール不溶性固形分から、水溶性固形分(WSS)を抽出した。ペクチンの微細な化学構造を調べるために、ペクチン分解酵素による制御された分解を行った。WSSは、A. aculeatus由来のポリガラクツロナーゼ(エンドPG)、及びA. niger由来のペクチンリアーゼ(PL)で分解した。
【発明の概要】
【0023】
本発明者らは、ニンジンRG-I多糖の感染に対する有効性が、RG-I多糖を酵素で加水分解し、少なくとも一部のホモガラクツロナンを除去することにより、実質的に改善できることを発見した。本発明のニンジンRG-I多糖酵素加水分解物は、以下の組合せにより特徴付けられる:
・10~300kDaの分子量;
・ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれる、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格;
・以下の単糖の組成:
-個々のガラクツロン酸は、メチル化されていてもよい、及び/又はアセチル基でエステル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、20~60モル%;
-ラムノース残基が、8~50モル%;
-アラビノース残基が、0~40モル%;
-ガラクトース残基が、0~45モル%;
-ガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比が、5:1~1:1;
-ガラクツロン酸残基、ラムノース残基、アラビノース残基及びガラクトース残基は合わせて、ニンジンRG-I多糖の単糖の少なくとも85モル%。
【0024】
本発明のある側面は、感染症の治療又は予防における上述したニンジンRG-I多糖を含む製品の使用に関する。
【0025】
本発明者らは、理論に羈束されることを望むものではないが、ホモガラクツロナンの除去([GalA]:[Rha]比の低下)は、RG-I多糖の物理化学的特性を変化させ、腸管及びヒト末梢血単核球のいわゆるパターン認識受容体とより効果的に相互作用する分子の三次元構成をもたらすと信じられている。上皮細胞や他の免疫学的に活性な細胞で発現するパターン認識受容体とRG-I多糖との相互作用は、それらの機能的応答性を調節することができ、そのことは、メディエーターの産生及び免疫学的に活性な細胞の再循環により、腸管のみならず、口腔、気道、尿路、膣、皮膚などの体の他の部位での感染に対する耐性を改善できると信じられている。
【0026】
ホモガラクツロナン除去のためのペクチン分解酵素の使用は、免疫調節性RG-I多糖の収量を増加させる費用対効果の高い方法をもたらすという利点を提供する。
【0027】
本発明の別の側面は、栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択された製品であって、前記製品は上述したニンジンRG-I多糖を少なくとも0.1乾燥重量%含み、前記製品中に存在する、10kDaより大きい分子量で、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義されるペクチン性多糖の少なくとも20重量%が前記ニンジンRG-I多糖である、製品に関する。
【0028】
本発明のニンジンRG-I多糖酵素加水分解物は、以下の工程:
・少なくとも15kDaの分子量を有し、かつ、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を有するペクチン性多糖を少なくとも5乾燥重量%含有するペクチンをニンジン(例.ニンジンの搾りかす)から得る工程、
・前記ペクチン性多糖を、ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)、ペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)、エンドポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、エキソポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.67及びEC 3.2.1.82)から選択される1以上のガラクツロナーゼを使用して、部分的に加水分解する工程、
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を、遠心分離、デカンテーション、ろ過及びそれらの組合せから選択される固液分離技術に供し、ペクチン性多糖部分加水分解物を含む液体画分を得る工程、
・前記液体画分を、分画分子量が10~100kDaの限外ろ過膜を使用して、限外ろ過を行う工程、及び
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を含む保持液を回収する工程
を含む方法により製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1
図2
図3
【発明の詳細な説明】
【0030】
本発明の第1の側面は、感染症の治療的又は予防的処置に使用するための製品に関し、前記処置は前記製品の経口投与を含み、前記製品は、栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択され、前記製品は、以下の特徴:
・10~300kDaの分子量;
・ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれる、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格;
・以下の単糖の組成:
-個々のガラクツロン酸は、C6位がメチル化されていてもよい、並びに/又は、O2位及び/若しくはO3位がアセチル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、20~60モル%;
-ラムノース残基が、8~50モル%;
-アラビノース残基が、0~40モル%;
-ガラクトース残基が、0~40モル%;
-ガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比が、5:1~1:1;
-ガラクツロン酸残基、ラムノース残基、アラビノース残基及びガラクトース残基は合わせて、ニンジンRG-I多糖の単糖の少なくとも85モル%、
の組合せを有するニンジンRG-I多糖を少なくとも0.1乾燥重量%含む。
【0031】
本明細書において、「分岐した多糖」という用語は、骨格鎖内の少なくとも1つの単糖がグリコシド結合によって結合した単糖の側鎖を1つ以上の有する、グリコシド結合で結合する単糖の直線状骨格鎖を含む多糖を指す。
【0032】
「骨格鎖」及び「骨格」という用語は同義語である。
【0033】
本明細書において、「ペクチン性多糖」という用語は、10kDaより大きい分子量を有し、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれる、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖を指す。
【0034】
本明細書において、「ストレッチ」という用語は、多糖骨格中のグリコシド結合した2つの単糖であって、結合した側鎖を含まない単糖の並びを指す。
【0035】
本明細書において、「ドメイン」という用語は、ストレッチとストレッチに結合する側鎖を指す。
【0036】
「ラムノガラクツロナンIストレッチ」又は「RG-Iストレッチ」という用語は、ガラクツロン酸(GalA)及びラムノース(Rha)から成るストレッチを指し、ここで、GalA残基は1位及び4位でRha残基に結合し、Rha残基はアノマー位及び2-OH位でGalA残基に結合し、すなわち、α(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基の繰り返しである。RG-1ドメインは、例えばガラクタン、アラビナン及びアラビノガラクタン側鎖などの側鎖を含むことができる。
【0037】
「ラムノガラクツロナンI多糖」又は「RG-I多糖」という用語は、1以上のラムノガラクツロナンIストレッチを含む骨格を含む、場合により分岐したペクチン性多糖を指す。
【0038】
「α(1,4)-結合ガラクツロン酸ストレッチ」という用語は、α(1→4)-ガラクツロン残基から成るストレッチを指す。
【0039】
RG-Iドメインのほかに、本発明のニンジンRG-I多糖は、1以上の以下のドメインを含んでいてもよい:
・ホモガラクツロナン(HG)、
・キシロガラクツロナン(XG)、
・アピオガラクツロナン(AG)、
・ラムノガラクツロナンII(RG-II)。
【0040】
ドメインXG、AG、及びRG-IIは、通常、RG-I多糖のごく一部である。
【0041】
本発明のRG-1ポリサッカライド中に場合によって存在するHGドメイン、XGドメイン、AG及びRG-IIドメインは、2以上のα-(1-4)-結合D-ガラクツロン酸の直鎖から成る骨格を含む。
【0042】
HGドメインは側鎖を含まない。HGドメインの骨格中のガラクツロン酸残基のカルボキシル基は、エステル化されていてもよい。エステル化されたガラクツロン酸は、メチルエステル又はアセチルエステルであってもよい。
【0043】
XGドメインの骨格は、D-キシロース側鎖を1以上含む。
【0044】
AGドメインの骨格は、1以上のD-アピオース残基を含む側鎖を1以上含む。
【0045】
RG-IIドメインの骨格は、D-キシロース又はD-アピオースのみから成るものではない側鎖を1以上含む。RG-IIドメインの骨格中のガラクツロン酸残基のカルボキシル基は、エステル化されていてもよい。ガラクツロン酸は、メチル基又はアセチル基のいずれかでエステル化されてもよく、それぞれ、メチルエステル又はアセチルエステルを形成する。
【0046】
「アセチル化度」という用語は、割合として表される、ガラクツロン酸残基あたりのアセチル残基の数を指す。
【0047】
「メチル化度」という用語は、割合として表される、ガラクツロン酸残基あたりのメチル残基の数を指す。
【0048】
多糖の濃度及び単糖組成は、当業者に公知の分析技術で決定することができる。酸加水分解(メタノリシス)後、中性糖の単糖組成は、パルスアンペロメトリー検出器付の高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)によって適切に決定できる。
【0049】
ウロン酸(ガラクツロン酸はウロン酸の主要な形態である)は、比色m-ヒドロキシジフェニルアッセイで決定できる。
【0050】
分子サイズ分布は、高速サイズ排除クロマトグラフィーを用いて、屈折率(RI)検出(濃度)により決定できる。
【0051】
上記分析方法は、Analytical Biochemistry Vol. 207, Issue 1, 1992, pg 176(中性糖分析)、並びにMol. Nutr. Food Res., Vol 61, Issue 1, 2017, 1600243(ウロン酸分析及び分子サイズ分布)に記載されている。
【0052】
本明細書において、すべての割合は、特に明記しない限り重量パーセントを指す。
【0053】
本発明における処置の文脈でいう経口投与は、自己投与を含む。
【0054】
本発明に係る治療的又は予防的処置における使用は、ニンジンRG-1多糖を、好ましくは少なくとも100mg、より好ましくは少なくとも350mg、最も好ましくは350~5000mg提供する製品の経口投与を含む。
【0055】
別の好ましい態様では、処置は、少なくとも100mg、より好ましくは少なくとも350mg、最も好ましくは350~5000mgのニンジンRG-1多糖を提供する1日用量での製品の経口投与を含む。
【0056】
特に好ましい態様では、製品は、風邪やインフルエンザなどの上気道感染症の治療又は予防に使用される。
【0057】
別の好ましい態様では、製品は、胃腸炎などの腸管感染症の治療又は予防に使用される。
【0058】
本発明のRG-1多糖含有組成物が経口投与される対象は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0059】
本発明の製品は、好ましくは栄養製剤、食品、サプリメント又は飲料である。
【0060】
製品は、好ましくは少なくとも0.2乾燥重量%、より好ましくは少なくとも0.3~10乾燥重量%、最も好ましくは少なくとも0.4~5乾燥重量%のニンジンRG-I多糖を含む。
【0061】
ニンジンRG-I多糖は、好ましくは、RG-1多糖が増強されたペクチン性多糖の形態で本発明の製品中に配合される。したがって、特に好ましい態様では、ニンジンRG-I多糖は、製品中に存在するペクチン性多糖の少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、さらにより好ましくは60重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%に相当し、前記ペクチン性多糖は、10kDaを超える分子量であり、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義される。
【0062】
本発明で使用されるニンジンRG-I多糖は、ラムノガラクツロナンIストレッチ、及び場合によってはα(1,4)-結合ホモガラクツロン酸ストレッチも含む骨格を有する。ニンジンRG-I多糖中のガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比は、5:1~1:1である。ニンジンRG-I多糖中のガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比は、好ましくは4.8:1~1:1、より好ましくは4.5:1~1:1、さらにより好ましくは4.2:1~1:1、最も好ましくは4:1~1.1:1である。
【0063】
ラムノース残基は、通常、ニンジンRG-1多糖に含まれる側鎖中の残基も含むすべての単糖残基の9~45%、より好ましくは10~40%、最も好ましくは11~35%に相当する。
【0064】
ガラクツロン酸残基は、通常、ニンジンRG-1多糖に含まれる側鎖中の残基も含むすべての単糖残基の21~55%、より好ましくは22~50%、最も好ましくは23~45%に相当する。
【0065】
アラビノース残基は、通常、ニンジンRG-1多糖に含まれるすべての単糖残基の4~38%、より好ましくは6~36%、最も好ましくは8~34%に相当する。
【0066】
ガラクトース残基は、通常、ニンジンRG-1多糖に含まれるすべての単糖残基の4~42%、より好ましくは8~40%、最も好ましくは10~38%に相当する。
【0067】
ガラクツロン酸残基、ラムノース残基、アラビノース残基及びガラクトース残基は合わせて、ニンジンRG-I多糖の単糖の、好ましくは少なくとも88モル%、より好ましくは少なくとも90モル%、最も好ましくは少なくとも92モル%である。
【0068】
ニンジンRG-I多糖は、通常、少なくとも10kDaの分子量である。1以上のRG-1多糖は、より好ましくは20kDa~300kDa、最も好ましくは40kDa~300kDaの分子量である。
【0069】
本発明のニンジンRG-1多糖は、ニンジン中のペクチン性多糖の酵素による加水分解で適切に製造することができる。ニンジン中のペクチン性多糖は、通常、アセチル化度が30~50%でメチル化度が60~80%である。これらのペクチン性多糖の酵素加水分解によるホモガラクツロナン(HG)ドメインの除去は、通常、メチル化度が低く、アセチル化度の高いRG-1増強多糖をもたらす。
【0070】
本発明者らは、本発明の酵素による加水分解が、通常、少なくとも20%、より好ましくは30~110%、さらに好ましくは35~90%、最も好ましくは40~70%のアセチル化度を有するニンジンRG-1多糖をもたらすことを見出した。
【0071】
本発明の好ましい態様では、ニンジンRG-1多糖の酵素による製造は、例えば、ペクチンエステラーゼの作用により、メチル化度が大幅に低下する。ニンジンRG-1多糖のメチル化度は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、最も好ましくは10~30%である。
【0072】
別の好ましい態様では、ニンジンRG-I多糖のメチル化度(DM)に対するアセチル化度(DA)の比は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、より好ましくは3以上、最も好ましくは5以上である。ペクチンエステラーゼ活性は、酵素により製造されたニンジンRG-1多糖のアセチル化度に大きく影響しないので、非常に高いDA:DM比を有するRG-1多糖は、ペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ及び/又はリアーゼ)とペクチンエステラーゼの組合せによって、ニンジンのペクチン性多糖を部分的に加水分解することで得ることができる。
【0073】
別の好ましい態様では、ペクチン性糖類からニンジンRG-1多糖を酵素で製造すると、末端に不飽和ガラクツロン酸残基を含むニンジンRG-1多糖をもたらす。ニンジン中のペクチン性多糖は、通常、不飽和ガラクツロン酸残基を含まない。しかし、ペクチンリアーゼ及び/又はペクチン酸リアーゼによるこれらのペクチン性多糖の加水分解は、必然的に、不飽和非還元末端ガラクツロン酸残基を含む多糖フラグメントをもたらす。RG-1多糖中の、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは少なくとも50%の非還元末端ガラクツロン酸残基は、不飽和ガラクツロン酸残基である。不飽和ガラクツロン酸は、235nmのUV吸収の測定により、簡単に確認できる。
【0074】
ニンジンRG-I多糖の骨格は1以上の側鎖を含むことができる。これらの側鎖は、アラビノース残基及び/又はガラクトース残基、並びに少量のフコース、グルコース、グルクロン酸、キシロース及び/又はウロン酸のモノマーを含んでいてもよい。1以上の側鎖は、好ましくは、ガラクタン側鎖、アラビナン側鎖及びアラビノガラクタン側鎖から選択される。
【0075】
アラビナン側鎖は、1以上のα(1,5)結合アラビノース残基を含み、かつ、RG-1ドメインのラムノース残基の4-OH位に結合している。アラビナン側鎖は、直鎖状又は分枝状であってもよい。側鎖が直鎖状である場合、側鎖はα(1,5)結合アラビノース残基から成る。アラビナン側鎖が分岐状側鎖である場合、1以上のα-アラビノース残基は、α(1,5)結合アラビノースのO-2及び/又はO-3に結合する。
【0076】
ガラクタン側鎖は、1以上のβ(1,4)結合ガラクトース残基を含み、かつ、RG-Iドメインのラムノース残基のO-4位に結合している。
【0077】
アラビノガラクタン側鎖は、RG-Iドメインのラムノース残基のO-4位に結合しており、I型アラビノガラクタン(AG-I)又はII型アラビノガラクタン(AG-II)であり得る。AG-Iは、GalpのO-6位又はO-3位が置換される(1→4)-β-D-Galp骨格から成る。AG-Iは、α-L-Araf-p残基及び/又は(1→5)-α-L-Arafの短い側鎖でさらに置換される。AG-IIは、アラビノシル化された(1→6)-β-D-Galp二次鎖で修飾されたα(1→3)-β-D-Galp骨格から成る。
【0078】
ニンジンRG-I多糖中に、アラビノース残基とラムノース残基は、好ましくは4:1未満のモル比、より好ましくは3:1未満、最も好ましくは2:1未満で存在する。
【0079】
ニンジンRG-I多糖中に、ガラクトース残基とラムノース残基は、好ましくは4:1未満のモル比、より好ましくは3.2:1未満、最も好ましくは2.5:1未満で存在する。
【0080】
ニンジンRG-I多糖中のアラビノース残基及びガラクトース残基とラムノース残基のモル比は、好ましくは7:1未満、より好ましくは5:1未満、最も好ましくは4:1未満である。
【0081】
ガラクツロン酸残基及びラムノース残基の組合せは、ニンジンRG-1多糖に含まれる単糖の、好ましくは少なくとも30モル%、より好ましくは35~90モル%、最も好ましくは40~75モル%である。
【0082】
特に好ましい態様では、ニンジンRG-1多糖は以下の単糖の組成:
・個々のガラクツロン酸は、メチル化されていてもよい、及び/又はアセチル基でエステル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、21~55モル%;
・ラムノース残基が、9~35モル%;
・アラビノース残基が、5~35モル%;
・ガラクトース残基が、5~40モル%
を有する。
【0083】
本発明の製品中のニンジンRG-I多糖は、好ましくはニンジンペクチンの部分的酵素加水分解により得られる。特に好ましい態様では、ニンジンRG-I多糖は、ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)、ペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)、エンドポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、エキソポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.67及びEC 3.2.1.82)から選択される1以上のペクチナーゼを用いる、ニンジンペクチンの酵素加水分解によって得られる。より好ましくは、ニンジンRG-I多糖は、ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)及びペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)から選択される1以上のペクチナーゼを用いる、ニンジンペクチンの酵素加水分解によって得られる。
【0084】
本発明の製品は、好ましくは、1以上の上述したペクチナーゼを僅かに含む。これらのペクチナーゼは、活性及び/又は不活性な形態で製品中に存在してもよい。
【0085】
好ましい態様では、ニンジンRG-I多糖は、エンドポリガラクツロナーゼ及び/又はエキソポリガラクツロナーゼとペクチンエステラーゼ(EC 3.1.1.11)を組み合わせた酵素で、ニンジンペクチンを、加水分解することによって得られる。
【0086】
別の好ましい態様では、ニンジンRG-I多糖は、ペクチンリアーゼ及び/又はペクチン酸リアーゼで、ニンジンペクチンを、加水分解することによって得られる。
【0087】
ニンジンRG-1多糖のほかに、本発明の製品は、好ましくは少なくとも1乾燥重量%、より好ましくは少なくとも3乾燥重量%の、ラクツロース、イヌリン、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ミルクオリゴ糖、グァーガム及びアラビアゴムから選択される1以上のプレバイオティクスを含む。さらにより好ましくは、製品は、少なくとも1乾燥重量%、より好ましくは少なくとも3乾燥重量%の、ラクツロース、イヌリン、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖及びミルクオリゴ糖から選択される1以上のプレバイオティクスを含む。
【0088】
本発明の別の側面は、栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択された製品であって、前記製品は上述したニンジンRG-I多糖を少なくとも0.1乾燥重量%含み、前記製品中に存在する、10kDaより大きい分子量で、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義されるペクチン性多糖の少なくとも20重量%が前記ニンジンRG-I多糖である、製品に関する。
【0089】
本発明のさらに別の側面は、
・少なくとも15kDaの分子量を有し、かつ、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を有するペクチン性多糖を少なくとも5乾燥重量%、好ましくは少なくとも10乾燥重量%、より好ましくは少なくとも25乾燥重量%含有するペクチンを、ニンジンから得る工程、
・前記ペクチン性多糖を、ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)、ペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)、エンドポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、エキソポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.67及びEC 3.2.1.82)から選択される1以上のペクチナーゼを使用して、部分的に加水分解する工程、
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を、遠心分離、デカンテーション、ろ過及びそれらの組合せから選択される固液分離技術に供し、ペクチン性多糖部分加水分解物を含む液体画分を得る工程、
・前記液体画分を、分画分子量が10~100kDaの限外ろ過膜を使用して、限外ろ過する工程、及び
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を含む保持液を回収する工程
を含む、ニンジンRG-I多糖の製造方法に関する。
【0090】
好ましい態様では、ペクチン性多糖は、エンドポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)及びエキソポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.67及びEC 3.2.1.82)から選択される1以上のペクチナーゼを用いて、部分的に加水分解される。
【0091】
別の好ましい態様では、ペクチン性多糖は、ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)及びペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)から選択される1以上のペクチナーゼを用いて、部分的に加水分解される。上述したように、これらのリアーゼによるペクチン性多糖の加水分解は、必然的に、不飽和非還元末端ガラクツロン酸残基を含む多糖をもたらす。
【0092】
本願の方法では、ペクチン性多糖は、好ましくは、上述した1以上のペクチナーゼ及び1以上のペクチンエステラーゼ(EC 3.1.1.11)の組合せにより加水分解される。1以上のペクチンエステラーゼは、1以上のペクチナーゼの前又は同時に使用してもよい。ペクチナーゼとペクチンエステラーゼの併用は、使用するペクチナーゼがエンドポリガラクツロナーゼ、エキソポリガラクツロナーゼ及びその組合せから選択される場合に特に有利である。ペクチナーゼとペクチンエステラーゼの併用は、通常、メチル化度が低く、アセチル化/メチル化の比率が高い、ニンジンのペクチン性多糖部分加水分解物をもたらす。
【0093】
ペクチン性多糖の部分加水分解は、ペクチン性多糖とペクチナーゼの水溶液を15~70℃で、少なくとも10分間、好ましくは15~300分間維持することにより実施することが好ましい。
【0094】
本願の方法で用いるニンジンから得るペクチンは、好ましくは、ニンジンジュース製造時に得られるニンジンのパルプであるか、又はそのようなパルプの一部である。
【0095】
本明細書において、「限外ろ過」という用語は、限外ろ過膜を使用する透析も包含する。この方法の特に好ましい態様では、固液分離後に得た液体画分は、分画分子量が12~80kDaの限外ろ過膜で限外ろ過される。より好ましくは、前記限外ろ過膜の分画分子量は、10~60kDaであり、最も好ましくは20~45kDaである。
【0096】
特に好ましい態様では、限外ろ過工程で得られた保持液は、含水量が50重量%未満に濃縮される。さらにより好ましくは、保持液は、含水量が15重量%未満、最も好ましくは12重量%まで乾燥される。
【0097】
上述した保持液は、好ましくは、噴霧乾燥、ドラム乾燥及び凍結乾燥から選択される乾燥技術を使用して乾燥される。より好ましくは、用いられる乾燥技術は、噴霧乾燥又はドラム乾燥である。最も好ましくは、保持液は噴霧乾燥により乾燥される。
【0098】
好ましくは、この方法は有機溶媒を使用しない。
【0099】
本発明の方法により得られるニンジンRG-I多糖は、好ましくは、上述したニンジンRG-I多糖である。
【0100】
本発明は、栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択される製品を製造する方法であって、0.1~50%乾燥重量%の上述したニンジンRG-I多糖を製品の中に配合することを含む方法も含む。好ましくは、製品は、ニンジンRG-I多糖と1以上の食用成分と組み合わせることで製造される。
【0101】
この方法のある態様は、栄養製剤、食品及び飲料から選択される製品の製造に関し、前記方法は、少なくとも0.5~40乾燥重量%、より好ましくは少なくとも1~30乾燥重量%のニンジンRG-I多糖を製品中に配合することを含む。
【0102】
別の態様では、この方法は、サプリメント及び医薬品から選択される製品の製造に用いられ、前記方法は、少なくとも10~90乾燥重量%、好ましくは少なくとも20~80乾燥重量%、最も好ましくは少なくとも30~60乾燥重量%のニンジンRG-I多糖を製品中に配合することを含む。
【0103】
ニンジンRG-I多糖は、好ましくは乾燥重量で少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、さらにより好ましくは少なくとも20%、最も好ましくは少なくとも30%のニンジンRG-1多糖を含有する加水分解物の形態で製品に配合される。
【0104】
別の好ましい態様では、ニンジンRG-I多糖は、粉末、好ましくは含水量が15重量%未満、より好ましくは含水量が12重量%未満の粉末の形態で製品に配合される。
【0105】
上述した粉末は、10kDa未満の分子量を有する材料を、好ましくは30重量%未満、より好ましくは20重量%未満、最も好ましくは10重量%未満、含む。
【0106】
ニンジンRG-I多糖は、好ましくは加水分解物の形態で製品に配合され、ニンジンRG-I多糖は、加水分解物中に存在するペクチン性多糖の少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、さらにより好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%に相当し、前記ペクチン性多糖は、10kDaより大きい分子量を有し、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義される。
【0107】
本発明を、以下の非限定的な実施例でさらに説明する。
【実施例
【0108】
実施例1
ニンジンジュース製造時の残余である乾燥ニンジン搾りかす(ニンジン繊維粉末、GreendFields、ポーランド)を脱塩水(100g/l)に分散させ、3種の異なる市販の酵素:
1.Pectinex(登録商標)Yield Mash、Novozymes社(全分散物の0.02%)
2.Pectinex(登録商標)Ultra Mash、Novozymes社(全分散物の0.02%)
3.Pectinex(登録商標)Ultra Mash、Novozymes社(全分散物の0.05%)
を使用し、実験室規模の加水分解を行った(酵素分解条件:45℃、120分)。
【0109】
90℃で10分間加熱することにより酵素分解を終了し、次いで、遠心分離し、分画分子量が10kDaの膜(Microdyn Nadir;UP010)を用いてその上清を透析した。
【0110】
対照は、水に乾燥ニンジン搾りかすを加え(100g/l)、90℃を120分間維持し、遠心分離し、酵素分解物の分散液と同じ方法でその上清を透析することにより製造した。
【0111】
実施例2
実施例1の非加水分解ニンジンRG-I多糖(対照)及び実施例1の酵素加水分解ニンジンRG-I多糖(試料1~3)の単糖組成は、以下のように決定した。
【0112】
多糖の濃度及び単糖組成を、Analytical Biochemistry Vol. 207, Issue 1, 1992, pg 176(中性糖分析)及びMol. Nutr. Food Res., Vol 61, Issue 1, 2017, 1600243(ウロン酸分析及び分子サイズ分布)に記載の分析方法で決定した。
【0113】
単糖分析の結果を表1に示す。(Rha=ラムノース;GalA=ガラクツロン酸;Ara=アラビノース;Gal=ガラクトース)
【0114】
【表1】
【0115】
実施例3
実施例1の非加水分解ニンジンRG-I多糖(対照)及び実施例1の酵素加水分解ニンジンRG-I多糖(試料1~3)の免疫調節活性は、ヒト末梢血単核球(PBMC)アッセイにより決定した。
【0116】
免疫調節アッセイ
免疫機能に対する多糖の効果を評価するため、それらを新たに単離した末梢血単核球(PBMC)とインキュベートした。手短にいうと、PBMCはフィコールプラーク(Amersham)を用い、血液のバフィーコートから単離した。PBMC(2×10細胞/mL)を、RPMI培地(Gibco(登録商標)RPMI 1640培地)中で、300μgのRG-I多糖と共に20時間インキュベート(5%CO、37℃)した。続いて、上清を回収し、製造者の指示に従い、ビーズアレイ(CBA human inflammation kit、BD-Bioscience)を使用し、フローサイトメーター(BD FACSCANTO II)でサイトカインを測定した。陰性対照としてRPMIを、100%として結果を正規化する参照としてLPS(大腸菌由来、Sigma L3012、5mg)を使用した。データは、LPSによって誘発された応答に対して正規化された%として表され、4種のサイトカインとその合計について、3種のドナーで平均化される。
【0117】
表2に免疫調節アッセイの結果を示す。
【0118】
【表2】
【0119】
実施例4
実施例1を、酵素Pectinex(登録商標)Ultra Mash(Novozymes社)を使用し、異なるスケール、すなわち、20リットル(試料1)、5,000リットル(試料2)及び10,000リットル(試料3)で繰り返した(条件:全分散液の0.1%w/w、45℃、2時間、酵素失活:90℃で10分間)。試料2及び3では、液体と固体を分けるために、遠心分離の代わりにデカンテーションを行った。上清を10kDa膜で限外ろ過し、小さな分子を除去した。
【0120】
多糖加水分解物の単糖組成を、実施例2に記載の方法で分析した。
【0121】
分析結果を表3に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
アセチル化度及びメチル化度を、以下のように決定した:多糖試料(2~5mg)を水酸化ナトリウム(0.1M、一晩、20℃)で処理した。放出されたメタノールを、DB-WAX ETRカラム、Cryo Focus-4コールドトラップ及びFID検出器を備えたヘッドスペースGCで測定した(Huisman et al., Food Hydrocolloids, 18, 4, 2004, 665-668を変更)。
【0124】
試料を中和し(1M HCl)、放出されたアセチル基を、ガードカラム付きAminex HPX 87Hカラム及びRI検出器を備えたHPLCで定量した(Voragen et al. Food Hydrocolloids,1, 1, 1986, 65-70を変更)。エステル化度は、ウロン酸の量の割合として放出されるメタノール及び酢酸のモル量として表される。
【0125】
エステル化度の分析結果を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
実施例5
実施例4の酵素加水分解ニンジンRG-1多糖(試料1~3)の免疫調節活性は、実施例3に記載のヒト末梢血単核球(PBMC)アッセイで決定した。結果を表5に示す。
【0128】
【表5】
【0129】
実施例6
実施例4の試料2の多糖加水分解物をさらに加水分解し、続いて、高分子量画分を単離した。多糖加水分解物を脱塩水(100g/l)に溶解し、さらに酵素で加水分解した(Pectinex(登録商標)Ultra Mash、Novozymes社、45℃、14時間)。90℃で10分間加熱することにより酵素分解を終了した。
【0130】
酵素分解された多糖溶液の一部を、セミ分取サイズ排除クロマトグラフィーにかけ、70kDaを超える分子量の多糖を含む画分を得た。
【0131】
非分画多糖加水分解物及び単離した高分子画分の単糖組成を、実施例2に記載の方法で分析した。
【0132】
分析結果を表6に示す。
【0133】
【表6】
【0134】
酵素分解された多糖及びその高分子画分の免疫調節活性を、実施例3に記載の方法で決定した。結果を表7に示す。
【0135】
【表7】
【0136】
実施例7
ニンジン搾りかすを水に分散(100g/L)させることにより、ペクチン性多糖加水分解物を製造した。
試料1は、酵素を添加せずに90℃で120分間抽出した(抽出収率:4.8%)。
試料2は、1g/100mL(総分散液)の酵素濃度でRapidase C600(ペクチンリアーゼ、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンエステラーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼ活性を含む酵素混合物、Militz, H. Wood Sci. Technol. (1993) 28: 9)を添加し、45℃で120分間抽出した(抽出収率:5.6%)。
【0137】
次いで、両方の試料を遠心分離(18000g、10分)し、上清を分画分子量が12~14kDaの膜(Visking、London、英国)で徹底的に透析した。限外ろ過/透析ろ過の後、実験室規模の凍結乾燥機で酵素分解物を凍結乾燥した。
【0138】
屈折率検出器を備えたHPSECで測定した試料1及び試料2の分子サイズ分布を図3に示す。
【0139】
2つの試料の単糖組成を、実施例2に記載の方法で分析した。分析結果を表8に示す。
【0140】
【表8】
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 感染症の治療的又は予防的処置に使用するための製品であって、
前記処置は前記製品の経口投与を含み、
前記製品は、栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択され、
前記製品は、以下の特徴:
・10~300kDaの分子量;
・ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれる、ガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格;
・以下の単糖の組成:
-個々のガラクツロン酸は、C6位がメチル化されていてもよい、並びに/又は、O2位及び/若しくはO3位がアセチル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、20~60モル%;
-ラムノース残基が、8~50モル%;
-アラビノース残基が、0~40モル%;
-ガラクトース残基が、0~45モル%;
-ガラクツロン酸残基とラムノース残基のモル比が、5:1~1:1;
-ガラクツロン酸残基、ラムノース残基、アラビノース残基及びガラクトース残基は合わせて、ニンジンRG-I多糖の単糖の少なくとも85モル%、
の組合せを有するニンジンRG-I多糖を少なくとも0.1乾燥重量%含む、
製品。
[2] 前記ニンジンRG-I多糖のメチル化度は多くても50%である、[1]に記載の使用のための製品。
[3] 前記ニンジンRG-I多糖のメチル化度に対するアセチル化度の比が1以上である、[1]又は[2]に記載の使用のための製品。
[4] 前記RG-1多糖中の非還元末端ガラクツロン酸残基の少なくとも10%が不飽和ガラクツロン酸残基である、[1]に記載の使用のための多糖。
[5] 前記製品中に存在する、10kDaより大きい分子量で、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義されるペクチン性多糖の少なくとも20重量%が、前記ニンジンRG-I多糖である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の使用のための製品。
[6] 前記ニンジンRG-I多糖中のアラビノース残基及びガラクトース残基とラムノース残基のモル比が5:1未満、好ましくは4.5:1未満である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の使用のための製品。
[7] 前記ニンジンRG-I多糖は以下の単糖の組成:
・個々のガラクツロン酸は、メチル化されていてもよい、及び/又はアセチル基でエステル化されていてもよいガラクツロン酸残基が、21~55モル%;
・ラムノース残基が、9~35モル%;
・アラビノース残基が、5~40モル%;
・ガラクトース残基が、5~40モル%
を有する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の使用のための製品。
[8] 前記ニンジンRG-I多糖が、ニンジンペクチンの部分的酵素加水分解により得られたものである、[1]~[7]のいずれか1つに記載の使用のための製品。
[9] 前記使用が、前記ニンジンRG-1多糖を少なくとも200mg提供する前記製品の経口投与を含む、[8]に記載の治療的又は予防的処置に使用するための製品。
[10] 栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択された製品であって、
前記製品は、[1]~[4]及び[6]~[8]のいずれか1つで定義されたニンジンRG-I多糖を少なくとも0.1乾燥重量%含み、
前記製品中に存在する、10kDaより大きい分子量で、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を含む、場合により分岐した多糖として定義されるペクチン性多糖の少なくとも20重量%が、前記ニンジンRG-I多糖である、
製品。
[11] ニンジンRG-I多糖の製造方法であって、当該方法は、
・ペクチンをニンジンから得る工程、
ここで、前記ペクチンは、少なくとも15kDaの分子量を有し、かつ、ラムノース残基がα(1→4)-ガラクツロン酸-α(1→2)-ラムノース残基に含まれるガラクツロン酸残基及びラムノース残基から成る骨格を有するペクチン性多糖を少なくとも5乾燥重量%含有する、
・前記ペクチン性多糖を、ペクチンリアーゼ(EC 4.2.2.10)、ペクチン酸リアーゼ(EC 4.2.2.2)、エンドポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.15)、エキソポリガラクツロナーゼ(EC 3.2.1.67及びEC 3.2.1.82)から選択される1以上のペクチナーゼを使用して、部分的に加水分解する工程、
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を、遠心分離、デカンテーション、ろ過及びそれらの組合せから選択される固液分離技術に供し、ペクチン性多糖部分加水分解物を含む液体画分を得る工程、
・前記液体画分を、分画分子量が10~100kDaの限外ろ過膜を使用して、限外ろ過する工程、及び
・前記ペクチン性多糖部分加水分解物を含む保持液を回収する工程
を含む、方法。
[12] 前記ペクチン性多糖が、エンドポリガラクツロナーゼ及び/又はエキソポリガラクツロナーゼを使用する部分的な加水分解の前、又は同時に、1以上のペクチンエステラーゼ(EC 3.1.1.11)を使用して加水分解される、[11]に記載の方法。
[13] 前記回収された保持液を含水量が15重量%未満まで乾燥する、[11]又は[12]に記載の方法。
[14] 前記方法により得られるニンジンRG-I多糖は、[1]~[8]のいずれか1つで定義されるニンジンRG-1多糖である、[11]~[13]のいずれか1つに記載の方法。
[15] 栄養製剤、食品、サプリメント、飲料及び医薬品から選択される製品を製造する方法であって、[1]~[8]のいずれか1つで定義されるニンジンRG-I多糖、0.1~50%乾燥重量%をその中に配合することを含む、方法。
図1
図2
図3