IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図1
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図2A
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図2B
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図3
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図4A
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図4B
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図5
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図6
  • 特許-灌注バルーンカテーテルを構築する方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】灌注バルーンカテーテルを構築する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20230228BHJP
【FI】
A61B18/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021155375
(22)【出願日】2021-09-24
(62)【分割の表示】P 2017087996の分割
【原出願日】2017-04-27
(65)【公開番号】P2021191554
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】15/141,751
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517156539
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel) Ltd.
【住所又は居所原語表記】4 Hatnufa Street, P.O. BOX 275, Yokneam, ISRAEL 2066717
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・トーマス・ビークラー
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・トーマス・キース
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0071870(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0188912(US,A1)
【文献】米国特許第09126023(US,B1)
【文献】特開2002-336266(JP,A)
【文献】特表2014-531935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気生理学的カテーテルの膨張式灌注電極アセンブリを構築する方法であって、
電極に形成された切り抜き部を枠として使用し、レーザー切削によってシート基板に孔を形成し、前記切り抜き部を有する前記電極、及び、前記孔を有する前記シート基板からなフレックス回路を形成することと、
前記シート基板が有する耐熱性よりも低い耐熱性を有する可撓性メンブレンを含む膨張させられたバルーン部材を与えることと、
接着剤を前記シート基板と前記可撓性メンブレンとの間で流動させて硬化させることにより、前記シート基板を前記可撓性メンブレンの上側表面に貼り付けることであって、前記シート基板が前記可撓性メンブレンの前記上側表面に貼り付けられている際に、前記シート基板の前記孔の真下に、硬化している前記接着剤が存在していることと、
前記シート基板の前記孔を通じて熱を加えることであって、前記熱が、前記シート基板を溶融することなく、前記可撓性メンブレンにおける前記シート基板の前記孔の真下の部分、及び前記接着剤における前記シート基板の前記孔の真下の部分を溶融するのに充分な温度を発生させ、前記熱が加えられることで、前記可撓性メンブレンにおける前記シート基板の前記孔の真下の前記部分及び前記接着剤における前記シート基板の前記孔の真下の前記部分が、溶融されて押しのけられ、前記可撓性メンブレン及び前記接着剤に第2の孔を形成する、ことと、を含む、方法。
【請求項2】
前記シート基板が熱硬化性材料で構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可撓性メンブレンが熱可塑性ポリウレタンで構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シート基板がポリイミドで構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記シート基板の前記孔を通じて熱を加えることが、前記シート基板の前記孔にホットワイヤを挿入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記シート基板の前記孔を通じて熱を加えることが、前記シート基板の前記孔にレーザーからエネルギー線を照射することを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気生理学(EP)カテーテルに関し、詳細には、心臓のマッピング及び/又はアブレーションのためのEPカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動などの心不整脈は、心組織の特定の領域から隣接組織に電気信号が異常に伝導する場合に発生し、これにより、正常な心周期が乱されて非同期的リズムを引き起こす。望ましくない信号の重要な発生源は、例えば、各心房及び/又は肺静脈の各領域などの隣接構造、並びに左右の心耳のような心臓内又は心臓付近の様々な組織領域に位置している。発生源によらず、望ましくない信号は心組織を通じて異常に伝導して不整脈を引き起こし、かつ/又は不整脈を維持しうる。
【0003】
不整脈を治療するための処置としては、不整脈の原因となる信号の発生源を外科的に破壊すること、及びそのような信号の伝導路を破壊することがある。より最近では、心筋の電気的特性を心臓の解剖的構造と組み合わせてマッピングし、エネルギーの印加により心組織を選択的に焼灼することによって、心臓のある部分から別の部分への望ましくない電気信号の伝播を途絶又は改変することが可能であることが見出されている。アブレーション法は、非伝導性の損傷部位を形成することによって望ましくない電気経路を破壊するものである。
【0004】
一般的なアブレーション手術では、遠位端に電極を有するカテーテルを心腔内に挿入する。不関電極が設けられ、一般的には患者の皮膚にテープで貼られる。高周波(RF)電流を電極に印加すると、周囲の媒質、すなわち血液及び組織並びに不関電極間に流れる。電流の分布は、組織よりも導電率の高い血液と比べると、組織と接触する電極表面の量に依存する。組織の加熱はジュール熱によって生じる。組織が充分に加熱されるとタンパク質の変性が生じ、これにより、非導電性の損傷部位が心筋内に形成される。
【0005】
フォーカルカテーテルは、例えば、焼灼により心房内にブロックラインを形成する際に効果的に機能する。しかしながら、心臓内又は心臓周囲の管状領域では、このタイプのカテーテルは操作が難しく、技能を要し、時間がかかる。例えば、管状領域の円周に沿ってブロックラインを形成しようとする場合、フォーカルカテーテルの遠位端が円周に沿って効果的に焼灼するようにフォーカルカテーテルの遠位端を操作及び制御することは困難である。現行の方式では、ブロックラインは、カテーテルを点から点に操作することによって実現されるため、操作者の技能に大きく依存し、肺静脈口などの標的部位の不完全な隔離の問題が生じうる。しかしながら、首尾よく行われる場合にはこれは非常的に効果的である。
【0006】
円形のアブレーションアセンブリを備えたカテーテル(すなわち「ラッソ型カテーテル」)が知られている。このタイプのカテーテルは、その遠位端にアブレーションアセンブリを有するカテーテル本体を備え、アブレーションアセンブリは、外側表面を有する予め形成されたほぼ円形の湾曲を有し、カテーテル本体の軸に対してほぼ横断方向となっている。この構成では、カテーテルのほぼ円形の湾曲の外周の少なくとも一部は、例えば肺静脈などの患者の心臓内又は心臓付近の管状領域の内周又は口部と接触する。しかしながら、このタイプのカテーテルの課題の1つとして、円形のアブレーションアセンブリのサイズ又は円周が比較的固定されていることがあり、そのため、処置が行われる管状領域の円周と一致しない場合がある。更に、患者間で見られる解剖学的構造のばらつきのため、「フリーサイズ(1つのサイズですべてに適合する)」式のアプローチは困難となる。
【0007】
膨張式アセンブリすなわちバルーンを備えたアブレーションカテーテルも知られている。かかるバルーンは、組織を焼灼するためにバルーンの外側表面に配置された電極を有してよく、通常は加圧された流体源によって膨らまされる。より最近では、膨張式電極アセンブリの外側表面に複数の非常に小さい電極を配設するためのフレックス回路を有する膨張式カテーテルの電極アセンブリが構築されている。このようなカテーテルバルーン構造の例は、発明の名称が「肺静脈の周囲を焼灼するためのバルーン(Balloon for Ablation Around Pulmonary Vein)」である、米国特許出願第14/578,807号に記載されており、当該出願の全容を参照によって本明細書に援用するものである。
【0008】
フレックス回路又は可撓性電子機器は、ポリイミド、液晶ポリマー(LCP)、PEEK又は透明導電性ポリエステルフィルム(PET)などの可撓性のプラスチック基板上に電子素子を実装することによって電子回路を組み立てるための技術をともなう。更に、フレックス回路は、ポリエステルにスクリーン印刷された銀回路とすることもできる。フレキシブルプリント回路(FPC)は、フォトリソグラフィ技術を用いて製造される。フレキシブルフォイル回路又はフレキシブルフラットケーブル(FFC)を製造する別の方法として、PETの2つの層の間に極めて薄い(0.07mm)銅ストリップを積層することがある。これらPET層は、通常は厚さ0.05mmであり、熱硬化性の接着剤でコーティングされ、積層プロセスの間に活性化される。片面フレキシブル回路は、可撓性の誘電体フィルムに金属又は導電性(金属充填)ポリマーで形成された単一の導電体層を有する。回路要素終端要素は、片面からのみアクセス可能である。通常ははんだ付けによる相互接続を行うために回路要素リード線を通すことができるようにベースフィルムに穴が形成されてもよい。
【0009】
しかしながら、膨張式電極アセンブリにより焼灼される組織領域を冷却及び希釈するために灌注が望ましいか又は必要とされる場合、バルーンのメンブレン層及び外側フレックス回路基板層に灌注用の孔を穿孔又は形成することにともなう多くの課題が存在する。各層に別々に孔が形成される場合、後で2つの層間で孔の位置を合わせることは困難をともなう。互いに貼り合わされた2つの層に孔が形成される場合、特に、2つの層がペレタン(Pellethane)とポリイミドのように融点の異なる材料で形成されている場合には、一方の層に孔を形成するための方法が他方の層を劣化又は破損させる可能性がある。穿孔されたメンブレンの部分と穿孔された基板の部分とを継ぎ接ぎすることでバルーン構造を作製することは、特に各材料が異なるデュロメータ硬さを有する場合にバルーンの形状に歪みを生じうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、フレックス回路を含む膨張可能部材すなわちバルーンを有するカテーテルであって、更にバルーンの内部から外部へと流体を灌注するための複数の灌注孔を与えるカテーテルを構築するための方法が求められている。かかる方法は、バルーンメンブレン及びフレックス回路基板の望ましくない劣化又は破損を生じることなく、均一でかつ/又は正確な灌注孔の形成を可能とする一方で、バルーンが膨らまされる際に所望の形状又は形態を維持することを可能とするものであることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の各実施形態は、電気生理学的カテーテルの膨張式灌注電極アセンブリを構築する方法を含む。特定の実施形態では、本方法は、予め形成された孔を有する基板を有するフレックス回路を与えることであって、前記基板がより高い耐熱性を有する材料で構成されている、ことと、可撓性メンブレンを含む膨張させられたバルーン部材を与えることであって、前記メンブレンがより低い耐熱性を有する材料で構成されている、ことと、前記基板を接着剤により前記メンブレンに貼り付けることであって、前記接着剤が前記フレックス回路の基板よりも低い融点を有することと、前記基板の前記予め形成された孔を通じて熱を加えることであって、該熱が、前記基板を分解、破損、又は溶融することなく前記メンブレンの一部及び前記接着剤を溶融するのに充分な温度を有し、溶融された前記メンブレンの一部が前記メンブレンに孔を形成する、ことと、を含む。
【0012】
特定の実施形態では、基板は、熱硬化性材料、又はメンブレンが構成される材料のより低い融点に対してより高い融点を有する材料、例えばポリイミドで構成される。
【0013】
特定の実施形態では、メンブレンは、熱可塑性ポリウレタンで構成される。
【0014】
特定の実施形態では、メンブレンは、可撓性かつ弾性を有する材料で構成される。
【0015】
特定の実施形態では、加えられた熱は、前記膜の一部及び前記接着剤を再流動化させ、メンブレンに前記孔を形成する。
【0016】
特定の実施形態では、前記熱を加えることは、前記予め形成された孔にはんだごてを挿入することを含む。
【0017】
特定の実施形態では、前記熱を加えることは、前記予め形成された孔にホットワイヤを挿入することを含む。
【0018】
特定の実施形態では、前記熱を加えることは、レーザーから前記予め形成された孔内にエネルギー線を照射することによって前記メンブレンの標的部分を溶融することを含む。
【0019】
特定の実施形態では、灌注用に構成された膨張式電極アセンブリを構築する方法は、予め形成された孔を有する基板を有するフレックス回路を与えることであって、前記基板が熱硬化性材料又は第1の融点を有する材料で構成されている、ことと、メンブレンを含むバルーン部材を与えることであって、前記メンブレンが前記基板の前記第1の融点よりも低い第2の融点を有する、ことと、やはり前記第1の融点よりも低い第3の融点を有する接着剤により前記基板を前記メンブレンに貼り付けることであって、前記予め形成された孔の周囲の前記基板の周囲部分が、前記メンブレンの標的部分が露出するように前記メンブレンの周囲部分及び前記接着剤をマスクする、ことと、前記基板の前記予め形成された孔を通じて前記メンブレンの前記標的部分に熱を加えることであって、前記加えられた熱が、前記メンブレンに孔を形成する際に、前記基板を分解、破損、又は溶融することなく、前記メンブレンの前記標的部分及び前記接着剤を溶融する、ことと、を含む。
【0020】
特定の実施形態では、前記加えられた熱は、前記メンブレンの前記第1の融点と前記基板及び前記接着剤の前記第2及び第3の融点との間の温度を発生させる。
【0021】
特定の実施形態では、前記メンブレンの孔は、前記基板の前記予め形成された孔よりも大きい。
【0022】
特定の実施形態では、前記基板を前記メンブレンに貼り付けることは、前記メンブレンと前記基板の前記周囲部分との間に接着剤を塗布することを含み、前記基板の前記孔を通じて加えられた熱が前記メンブレン及び前記接着剤を再流動化する。
【0023】
特定の実施形態では、灌注用に構成された膨張式電極アセンブリを構築する方法は、予め形成された孔を有する基板を有するフレックス回路を与えることであって、前記基板が熱硬化性材料又はより高い融点を有する材料で構成されている、ことと、より低い融点を有する可撓性メンブレンを含む膨張させられたバルーン部材を与えることと、やはり前記基板よりも低い融点を有する接着剤によって前記基板を前記メンブレンに貼り付けることであって、前記予め形成された孔の周囲の前記基板の第1の周囲部分が、前記メンブレンの露出した標的部分及び前記接着剤の枠となると同時に前記露出した標的部分の周囲のメンブレンの第2の周囲部分及び前記接着剤をマスクする、ことと、前記基板の前記予め形成された孔を通じて前記メンブレンの前記標的部分に熱を加えることであって、前記熱が、前記基板の前記第1の周囲部分を溶融、又は熱により破損若しくは分解することなく、前記メンブレンの前記標的部分及び前記接着剤を溶融するのに充分な温度を発生させる、ことと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明のこれらの特徴及び利点、並びに他の特徴及び利点は、添付図面と併せて考慮される場合に、以下の詳細な説明を参照することでより深い理解が得られるであろう。
図1】本発明の実施形態に基づくカテーテルの平面図である。
図2A】左心房の肺静脈の領域内に配備された膨張式電極アセンブリの側面図である。
図2B】左心房の肺静脈の領域に接近しつつある膨張式電極アセンブリの斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に基づく膨張式電極アセンブリの詳細図である。
図4A】バルーンメンブレンに貼り付けられる前のフレックス回路の側面図である。
図4B】バルーンメンブレンに貼り付けられた後のフレックス回路の側面図である。
図5】一実施形態に基づく、フレックス回路ウェブの平面図である。
図6】バルーンメンブレンに孔を形成するためのフレックス回路に予め形成された孔の使用を示す図である。
図7図6のフレックス回路及びバルーンメンブレンを詳細分解図で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示されるように、カテーテル10は、長尺状カテーテルシャフト12、外側表面に1以上のフレックス回路15を有するバルーン部材14を含む膨張式電極アセンブリ13、及びカテーテル本体12の近位端に取り付けられた偏向制御ハンドル16を有している。カテーテル10は、ラッソ型電極アセンブリ17のような遠位電極アセンブリと組み合わせて機能することができ、図2Aに示されるような左心房の肺静脈PV内に挿入される場合などのラッソ型電極アセンブリ17の使用時には、膨張式電極アセンブリ13がラッソ型電極アセンブリ17に対するアンカー及び/又はスタビライザーとして機能することができる。
【0026】
図3を参照すると、バルーン部材14上のそれぞれのフレックス回路は、例えば長手方向脊柱部材22と脊柱部材の両側から横方向に延びる複数の指状要素24とで構成された長尺状電極20を有している。図2Aに示されるように、各フレックス回路15の電極20は、バルーン部材14が離れた場所の流体源(図に示されていない)からの流体によって加圧されることによって膨張式電極アセンブリ13を膨張させる際に管状領域又は口部内の組織と円周で接触するように構成されている。流体は、制御ハンドル16からカテーテル本体12の長さに沿ってバルーン部材14の内腔内へと延びる灌注管25によって供給される。膨張式電極アセンブリ13は、患者の脈管構造内に進入する際には折り畳まれた形態となり、膨らまされることによって拡張されることで標的部位に配置されるものと理解される。本発明の1つの特徴によれば、膨張式電極アセンブリ13は、周囲組織の冷却、損傷部位の形成の改善、及びアセンブリ13上又はその付近における炭化の形成の抑制をはじめとする様々な目的のために配置される際に、バルーン部材14の内腔の内部からアセンブリ13の外部へと流体を効果的に通過させる複数の灌注孔11を有するように構成される。図2Aは、流体の流れを噴出流61として示しているが、流体は、流体の漏出又は滲出~噴出流の範囲にわたる任意の望ましい又は適切な速度で灌注孔11から流出することができる点は理解されよう。
【0027】
図4Aに示されるように、バルーン部材14は、可撓性であり、適当な場合又は望ましい場合に弾性を有してもよいメンブレン28を有している。メンブレン28は、約50A~55D、好ましくは約80A~50Dの範囲の低いデュロメータ硬さを有する熱可塑性材料で形成されている。適当な材料の1つに、優れた弾力性、低温特性、及び極めて滑らかな表面を有する医療グレードの熱可塑性ポリウレタンエラストマーであるペレタン(Pellethane)がある。
【0028】
複数のフレックス回路15が、例えば接着剤によってバルーンメンブレン28の外側表面に固定的に取り付けられている。図5に示されるように、各フレックス回路15は製造時にその遠位端においてハブ又は円形部分30によって他のフレックス回路と連結されることで、各フレックス回路が放射状に延びたフレックス円形ウェブを形成することができる。ハブ30は、バルーン部材上にフレックス回路を貼り付けるのに先立って除去される。図2Bに示されるように、各フレックス回路15は、電極20を有する主要部分、及びアセンブリ13の近位端の方向に延びる近位テール部分35を有している。近位テール端部(図に示されていない)が近位リング37の下にたくし込まれて近位リング37によって固定されることにより、バルーンメンブレン28の外側表面上にフレックス回路15を固定する助けとなっている。
【0029】
図4Aに示されるように、各フレックス回路は、電極20を支持するシート基板40、及びはんだパッチ及び熱電対ワイヤを含む他の要素を有している。本発明の1つの特徴によれば、基板40は、バルーン部材14のメンブレン28よりも高い耐熱性を有する任意の適当な材料で構成される。本明細書で使用するところの耐熱性とは、材料が溶融するか、分解するか、又は破損するような高温に耐える材料の能力のことを指す。例えば、より低い温度で溶けはじめる材料は耐熱性がより低いのに対して、より高い温度で溶けはじめる材料は耐熱性がより高い。
【0030】
特定の実施形態では、基板は、熱硬化性材料又はバルーンメンブレン28の構成材料の融点よりも約100℃以上高い温度に耐えうる材料で構成される。適当な材料としては、高温、摩耗、放射線、及び多くの化学物質に対する耐性を有する、イミド基を有するポリマーの部類のいずれでもよいポリイミドがある。
【0031】
本発明の1つの特徴によれば、各フレックス回路15には、バルーンメンブレン28に貼り付けられるのに先立って適当なプロセスにより孔42が予め穿孔されるか又は他の方法で形成される。別の言い方をすれば、孔42は、バルーンメンブレン28に孔44が形成されるよりも前に、孔44とは別にフレックス回路15の基板40に予め形成される。適当な基板穿孔プロセスとしては、レーザー穿孔及びレーザーマイクロ穿孔を含むレーザー切削がある。材料の強度を低下させる傾向のある、機械的穿孔装置で一般的であるような基板40の穿通及び断裂の代わりに、レーザーマイクロ穿孔は基板40を焼き切ることで貫き、その結果はよりきれいで、より小さく、より丸く、より正確な穴となる。レーザー穿孔システムは、集束されたレーザーパルスを使用することによって動作することで、極めて小さい、明確に画定された、制御された領域又は点を気化することで穴を形成すると同時にその穴の縁を封止してその周囲の材料を強化するものである。レーザーマイクロ穿孔では、最小で約5ミクロンまでの穴の直径を実現することができる。レーザー穿孔によって基板40に形成される孔42は、約0.003cm~0.025cm、好ましくは約0.0089cm(約0.001インチ~0.010インチ、好ましくは約0.0035インチ)の範囲の直径を有する。
【0032】
フレックス回路15に孔42が穿孔された後、図4A及び4Bに示されるように、フレックス回路15は適当な接着剤45によってバルーンメンブレン28の外側表面に貼り付けられる。接着剤45は、接着力が最大となるように基板40とメンブレン28との間で流動して完全な被覆を与えることができる。特定の実施形態では、バルーン部材14は、バルーンメンブレン28の外側表面に対するフレックス回路15の貼り付けを行う間、バルーン部材14内に陽圧の空気圧を作用させることによって膨らまされれる。
【0033】
本発明の方法の説明を助けるため、図7を参照すると、周囲部分50が基板40の予め形成された孔42を包囲している。基板40がメンブレン28に貼り付けられた状態では(両者は図7に分解図で示されている)、予め形成された孔42は、メンブレン28に孔44を形成することができるメンブレンの対応する標的部分43の枠となる、すなわちその周囲の境界を画定する。基板40の周囲部分50は、メンブレン28に貼り付けられると、標的部分43を包囲するメンブレン28の周囲部分46をマスクする。
【0034】
メンブレン28と基板40とを互いに貼り合わせる接着剤が流動して硬化した後、加熱エレメント60を予め形成された孔42から近づけてメンブレン28の標的部分43に作用させる際、基板40の周囲部分50がメンブレン28の周囲部分46を加えられる熱から遮蔽及び保護する。このようにして、フレックス回路15の予め穿孔された基板40は、バルーンメンブレン28に貼り付けられる際に鋳型として機能し、基板40に予め形成された孔42が、バルーンメンブレン28に孔44を形成するためのガイドを与える。フレックス回路15の基板40に予め形成された孔42は、バルーンメンブレン28の孔44の位置に関する正確で直接的なガイドを効果的に与えるものである。
【0035】
特定の実施形態では、加えられる熱は、約200~400℃、ただし好ましくは約250℃の温度を与えるか又は発生することができる。特定の実施形態では、熱の供給源は、例えば、細い先端を有するはんだごて又は加熱された細いワイヤなどの、発熱するか又は加熱されたエレメントである。熱は、接着剤45及びバルーンメンブレン28に吸収されることにより、接着剤45及びバルーンメンブレン28を溶融するのに充分であるが、メンブレン28をマスクしたフレックス回路15の基板40を溶融するには充分ではない局所的な加熱を与えることができるレーザー(非エキシマ)のようなエネルギー線によって与えることもできる。
【0036】
加えられた熱は、バルーンメンブレン28を溶融して再流動化させるのに充分な温度を発生させる。基板40はより高い融点を有していることから、この熱によって影響されず、バルーンメンブレン28の材料が再流動化して熱源から押しのけられた後で正確な開口部のサイズを与える。接着剤45が再流動化可能なものである場合、加えられる熱によって接着剤45も再流動化して孔44から押しのけられる。
【0037】
このような再流動化は、溶融材料が最初に機械的に押しのけられることで行われるが、溶融材料の表面張力によって更に助けられ、これにより、予め形成された孔42の下面の周囲にリムが形成される。
【0038】
したがって、フレックス回路15の予め形成された孔42を通じて加えられた熱による接着剤45及びバルーンメンブレン28の再流動化によって、バルーンメンブレン28に、孔42と少なくとも同じか又はそれよりも大きいサイズ若しくは直径を有する孔44が形成されうる。
【0039】
本発明の製造方法の各実施形態は、多くの利益及び利点を与えるものである。例えば、局所的な熱の利用により、バルーン部材14に構造的な支持を与えるための内側の膨張バルーンの使用が回避されるなど、バルーン部材14及びフレックス回路15の製造又は組み立てにおける支援手段の使用が最小化又は回避される。更に、予め形成されたフレックス回路15がバルーンメンブレン28上に直接接着され、その後で孔44が形成されることから、基板40の予め形成された孔42と、バルーンメンブレン28に形成された孔44との位置合わせにほとんど困難がともなわず、位置ずれの可能性が防止されないまでも低減される。更に、バルーンメンブレン28及び接着剤45の再流動化における加熱エレメントの使用により、バルーンメンブレン28に新たに形成された孔44を封鎖又は再封止する再流動化した材料に対する物理的な障壁が与えられる。穿通もドリルによる穿孔も行われないため、カテーテルから分離する恐れのある破片が生じるリスクがない。
【0040】
図6の実施形態では、フレックス回路15の電極20は、脊柱部材22に沿って1以上の空隙又は切り抜き部54を有している。1つの切り抜き部54Aは、例えば、透視診断法で可視化されるマーカーとして機能するようにタングステン添加エポキシ52で充填されている。他のより小さい切り抜き部54Bは、基板40の一方の面(上面)から他方の面(下面)へと電極20の電気的接続を与えるためのブラインドビアとして機能する。別の切り抜き部54Cは、バルーンメンブレン28に貼り付けられる前にレーザー切削によって基板40に予め形成された孔42の枠となる。
【0041】
フレックス回路15が接着剤45によってバルーンメンブレン28に貼り付けられ、接着剤が硬化させられた後、加熱エレメント60を基板40の予め形成された孔42に挿入することによって予め形成された孔42によって枠付けされたメンブレン28が溶融される。加熱エレメント60が接着剤45及びメンブレン28を再流動化させて加熱エレメント60から押しのけることで、予め形成された孔とほぼ位置の合った、同軸の孔44がメンブレン28に形成される。基板40に予め形成された孔42と、メンブレン28に後で形成された孔44とはともに膨張式電極アセンブリの灌注孔を与え、バルーン部材の内部から膨張式電極アセンブリの外部へと灌注流体を通過させる。
【0042】
上記の説明文は、現時点において開示されている本発明の実施形態に基づいて示したものである。本発明が関連する分野及び技術の当業者であれば、本発明の原理、趣旨、及び範囲を大きく逸脱することなく、記載される構造に改変及び変更を実施しうる点は認識されるであろう。当業者には理解されるように、図面は必ずしも実寸ではなく、また、その望むところ又は必要に応じて、いずれの一実施形態に記載されるいずれの特徴又は特徴の組み合わせも、いずれの他の実施形態に組み込むか、又は他の実施形態のいずれの他の特徴と組み合わせることも可能である。したがって、上記の説明文は、添付図面に記載及び例示される正確な構造のみに関連したものとして読まれるべきではなく、むしろ以下の最も完全で公正な範囲を有するものとされる特許請求の範囲と一致し、かつこれを支持するものとして読まれるべきである。
【0043】
〔実施の態様〕
(1) 電気生理学的カテーテルの膨張式灌注電極アセンブリを構築する方法であって、
予め形成された孔を有し、より高い耐熱性を有する基板を有するフレックス回路を与えることと、
より低い耐熱性を有する可撓性メンブレンを含む膨張させられたバルーン部材を与えることと、
前記基板を接着剤により前記メンブレンに貼り付けることと、
前記基板の前記予め形成された孔を通じて熱を加えることであって、前記熱が、前記基板を溶融することなく前記メンブレンの一部及び前記接着剤を溶融するのに充分な温度を発生させ、溶融された前記メンブレンの一部及び前記接着剤が前記メンブレン及び接着剤に孔を形成する、ことと、を含む、方法。
(2) 前記基板が熱硬化性材料で構成されている、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記基板がより高い融点を有する材料で構成され、前記メンブレンがより低い融点を有する材料で構成されている、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記基板がより高い融点を有する材料で構成され、前記接着剤がより低い融点を有する、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記メンブレンが熱可塑性ポリウレタンで構成されている、実施態様1に記載の方法。
【0044】
(6) 前記基板がポリイミドで構成されている、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記熱を加えることが、前記予め形成された孔にはんだごてを挿入することを含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記熱を加えることが、前記予め形成された孔にホットワイヤを挿入することを含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記熱を加えることが、レーザーから前記予め形成された孔内にエネルギー線を照射することによって前記メンブレンの標的部分及び前記接着剤を溶融することを含む、実施態様1に記載の方法。
(10) 灌注用に構成された膨張式電極アセンブリを構築する方法であって、
予め形成された孔を有する基板を有するフレックス回路を与えることと、
第1のより低い耐熱性を有するメンブレンを含むバルーン部材を与えることと、
前記基板を接着剤によって前記メンブレンに貼り付けることであって、前記予め形成された孔の周囲の前記基板の周囲部分が前記メンブレンの周囲部分をマスクすることによって前記メンブレンの標的部分及び前記接着剤が露出し、前記基板がより高い耐熱性を有し、前記接着剤が第2のより低い耐熱性を有する、ことと、
前記基板の前記予め形成された孔を通じて前記メンブレンの前記標的部分に熱を加えることであって、前記加えられた熱が、前記メンブレンに孔を形成する際に、前記基板を溶融することなく、前記メンブレンの前記標的部分及び前記接着剤を溶融する、ことと、を含む、方法。
【0045】
(11) 前記加えられた熱が、前記基板の前記第1の温度と前記メンブレンの融点との間の温度を前記メンブレンに発生させる、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記加えられた熱が、前記メンブレンの融点に等しいか又はそれよりも高い温度を前記メンブレンに発生させる、実施態様10に記載の方法。
(13) 前記加えられた熱が、前記接着剤の融点に等しいか又はそれよりも高い温度を前記接着剤に発生させる、実施態様10に記載の方法。
(14) 前記メンブレンの前記孔が、前記基板の前記予め形成された孔よりも大きい、実施態様10に記載の方法。
(15) 前記熱を加えることが、前記予め形成された孔にはんだごてを挿入することを含む、実施態様10に記載の方法。
【0046】
(16) 前記熱を加えることが、前記予め形成された孔にホットワイヤを挿入することを含む、実施態様10に記載の方法。
(17) 前記熱を加えることが、レーザーから前記予め形成された孔内にエネルギー線を照射することによって前記メンブレンの標的部分及び前記接着剤を溶融することを含む、実施態様10に記載の方法。
(18) 前記基板を前記メンブレンに貼り付けることが、前記メンブレンと前記基板の前記周囲部分との間に接着剤を塗布することを含み、前記メンブレンの前記標的部分及び前記接着剤に加えられた熱が、前記メンブレン及び前記接着剤を再流動化する、実施態様10に記載の方法。
(19) 前記メンブレンが熱可塑性ポリウレタンで構成されている、実施態様10に記載の方法。
(20) 前記基板がポリイミドで構成されている、実施態様10に記載の方法。
【0047】
(21) 灌注用に構成された膨張式電極アセンブリを構築する方法であって、
予め形成された孔を有する基板を有するフレックス回路を与えることであって、前記基板がより高い耐熱性を有する材料で構成されている、ことと、
可撓性メンブレンを含む膨張させられたバルーン部材を与えることであって、前記メンブレンがより低い耐熱性を有する材料で構成されている、ことと、
前記基板を接着剤によって前記メンブレンに貼り付けることであって、前記予め形成された孔の周囲の前記基板の第1の周囲部分が、前記メンブレンの露出した標的部分の枠となると同時に前記露出した標的部分の周囲のメンブレンの第2の周囲部分をマスクする、ことと、
前記基板の前記予め形成された孔を通じて前記メンブレンの前記標的部分に熱を加えることであって、前記熱が、前記基板の前記第1の周囲部分を溶融することなく、前記メンブレンの前記標的部分を溶融するのに充分な温度を発生させる、ことと、を含む、方法。
(22) 前記メンブレンが熱可塑性ポリウレタンで構成され、前記基板がポリイミドで構成されている、実施態様21に記載の方法。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7