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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】2分節擬似ハルバッハモータの回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/2783 20220101AFI20230228BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
H02K1/2783
H02K1/22 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021189300
(22)【出願日】2021-11-22
(65)【公開番号】P2022082518
(43)【公開日】2022-06-02
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0157851
(32)【優先日】2020-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515312427
【氏名又は名称】ポステック・リサーチ・アンド・ビジネス・ディベロップメント・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】POSTECH RESEARCH AND BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】521511461
【氏名又は名称】イーピーティー カンパニー インコーポレーティッド
【氏名又は名称原語表記】EPT Co., Inc.
【住所又は居所原語表記】#351, 77, Cheongam-ro, Nam-gu, Pohang-si, Gyeongsangbuk-do 37673 Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】521511472
【氏名又は名称】ケイエヌアール システム インコーポレーティッド
【氏名又は名称原語表記】KNR System, Inc.
【住所又は居所原語表記】1, Cheondeoksan-ro 482beon-gil, Namsa-eup, Cheoin-gu, Yongin-si, Gyeonggi-do 17124 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナム, グァン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジェ ハク
(72)【発明者】
【氏名】イ, サン ム
(72)【発明者】
【氏名】キム, ミョン ハン
(72)【発明者】
【氏名】ク, ボン キル
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/008284(WO,A1)
【文献】実開昭62-122468(JP,U)
【文献】特表2001-516550(JP,A)
【文献】特開2012-228072(JP,A)
【文献】特開平11-308793(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0080829(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2783
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿ってハルバッハ配列(halbach array)される径方向磁石と周方向磁石を含む複数の磁石と、前記複数の磁石の一面と面接するように、前記複数の磁石の一側に配置されるバックアイアンとを含み、前記バックアイアンは、前記複数の磁石のいずれか一つの内部径方向磁石から発生する極間漏れ磁束が、前記いずれか一つの内部径方向磁石近くの他の外部径方向磁石とつながるように経路を提供し、前記径方向磁石の外側弧の長さa、前記周方向磁石の外側弧の長さb、前記複数の磁石の厚さe、および前記バックアイアンの厚さfを設計変数として含み、前記a、b、e、fの変更に伴い回転子の空隙磁束密度が変更されることを特徴とする、2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項2】
前記径方向磁石の外側弧の長さは、前記周方向磁石の外側弧の長さより長いことを特徴とする、請求項1に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項3】
0.52≦a/(a+b)≦0.81であり、
0.46≦e/(e+f)≦0.82であることを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項4】
0.58≦a/(a+b)≦0.73であり、
0.51≦e/(e+f)≦0.72であることを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項5】
前記aと前記fは、非線形比例関係をなすことを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項6】
前記径方向磁石は、互いに同じ大きさと形状を有する多数個の単位径方向磁石からなり、前記各単位径方向磁石と前記周方向磁石は、互いに同じ大きさと形状からなることを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項7】
a/(a+b)=0.75であり、
前記径方向磁石は、互いに同じ大きさと形状を有する3個の単位径方向磁石からなり、前記各単位径方向磁石と前記周方向磁石は、互いに同じ大きさと形状からなることを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項8】
0.46≦e/(e+f)≦0.63であることを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項9】
前記バックアイアンは、前記複数の磁石の内周面と面接するように前記複数の磁石の内側に配置され、
前記バックアイアンの外周面上には、径方向に所定突出して周方向に互いに離隔する多数個の滑り止め段差が備えられることを特徴とする、請求項1に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項10】
前記複数の磁石それぞれの内側面の両端には溝が形成され、前記溝に前記滑り止め段差が挿入結合し、前記多数個の滑り止め段差それぞれの間に前記複数の磁石それぞれが配置されることを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項11】
前記複数の磁石の外側に備えられ、前記複数の磁石を包むスリーブをさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【請求項12】
前記バックアイアンは、前記複数の磁石の外周面と面接するように前記複数の磁石の外側に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の2分節擬似ハルバッハモータの回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転子及びその製造方法に関し、より具体的には、径方向磁石と周方向磁石がハルバッハ配列され、磁束経路を提供するバックアイアンが備えられて、磁石の厚さを減少させ、且つ高い空隙磁束密度を有する2分節擬似ハルバッハモータの回転子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータは、小型化のニーズに合わせて徐々に高速化しつつあり、それに適する高速運転が可能なダイナモシステムが望まれている。高速運転と同時に高出力を満たすためには、回転子の重量を軽量化する必要があり、このためにハルバッハモータが用いられている。ハルバッハモータは、回転子に備えられる磁石の磁化方向が正弦波に近く磁化したモータを言う。
【0003】
図1は従来の2分節ハルバッハモータの回転子の側面半分を示した図であり、図示されているように、ハルバッハモータの回転子は、スリーブ10と磁石20からなる。スリーブ10は、回転子の機械的剛性を補完するための装置であり、降伏応力が高いインコネル、チタン、炭素繊維のような材質からなり、磁石20の外周面の外側に備えられ、回転子の高速回転時に磁石20の飛散を防止する。磁石20は、磁化した方向に応じて、径方向(radial direction)に磁化した径方向磁石21と、周方向(circumferential direction)に磁化した周方向磁石22とに分けられ、ここで、径方向磁石21と周方向磁石22は、互いに交互に配列され、この際、磁化方向が正弦波のように周期的に順序をなすようにして配列される。
【0004】
ハルバッハモータの回転子は、径方向磁石21によって発生する放射状磁束が周方向磁石22を介して磁束経路を形成するようになり、磁束経路のための別の回転子鉄心を必要としないことを特徴とし、これによって回転子の重量が軽量化し、高速回転が可能になる。このような従来のハルバッハモータは、径方向磁石21の外側弧の長さa'と周方向磁石22の外側弧の長さb'を同じ長さに設計して最大の空隙磁束密度を取得するようにすることが一般的である。ここで、径方向磁石21が生成する放射状磁束は、径方向磁石21の弧の長さa'に比例し、周方向磁石22が生成する円周状磁束は、周方向磁石22の厚さe'に比例するため、放射状磁束がいずれも円周状磁束と結合して経路を形成するためには、放射状磁束の半分の大きさが円周状磁束の大きさと同一になる必要があるため、磁石の厚さe'は、約a'/2になる必要がある。しかし、このような従来のハルバッハモータは、以下のような問題がある。
【0005】
第一に、回転子の外半径c'の大きさが制限される。具体的には、回転子の高速運転時に回転体の表面での応力が回転体材質の降伏応力(yield stress)より大きいと、回転体の変形が発生し、これは、回転体の離心率(eccentricity)を増加させ、結果、回転体の構造的な崩壊を引き起こし得る。ここで、回転子の外半径c'は、回転子の表面速度(surface speed)を決定し、回転子の表面速度に比例して表面での応力が大きくなるため、一般的に回転子の表面速度が100~250m/sを満たすためには、回転体の構造的な崩壊を防止するために、c'の大きさが制限されるしかない。
【0006】
第二に、磁石の厚さe'が大きい。具体的には、回転子の慣性増加は、回転子の高速運転を制限するため、回転子を低慣性に設計することが好ましい。しかし、上述のように、従来のハルバッハモータにおいて、磁石の厚さe'は、磁石の外側弧の長さaとbに対応して略1/2程度に決定されるが、高速運転のために回転子が低極(2分節)に設計される場合、a'とb'が相対的に長く設計され、これによって、磁石の厚さe'も磁石の外側弧の長さa'/2程度に長く設計されるしかない。これは、回転子の重量増加を引き起こし、回転子の慣性が増加することで高速運転を困難にし、さらには、磁石の大きさを比較的大きく設計する必要がある点で、コストの面でも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】US6906446 B2(2003.03.27)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するために導き出されたものであり、極間漏れ磁束が他の磁石とつながるように経路を提供するバックアイアンを備えることで、磁石の厚さを減少させて高速運転を可能とし、且つモータの製造コストを削減し、製造を容易にすることができるハルバッハモータの回転子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一例による2分節擬似ハルバッハモータの回転子は、周方向に沿ってハルバッハ配列(halbach array)される径方向磁石と周方向磁石を含む複数の磁石と、前記複数の磁石の一面と面接するように、前記複数の磁石の一側に配置されるバックアイアンとを含み、前記バックアイアンは、前記複数の磁石のいずれか一つの内部径方向磁石から発生する極間漏れ磁束が、前記いずれか一つの内部径方向磁石近くの他の外部径方向磁石とつながるように経路を提供することができる。
【0010】
前記径方向磁石の外側弧の長さは、前記周方向磁石の外側弧の長さより長いことができる。
【0011】
前記径方向磁石の外側弧の長さa、前記周方向磁石の外側弧の長さb、前記複数の磁石の厚さe、および前記バックアイアンの厚さfを設計変数として含み、前記a、b、e、fの変更に伴い回転子の空隙磁束密度が変更されることができる。
【0012】
この際、0.52≦a/(a+b)≦0.81であり、0.46≦e/(e+f)≦0.82であることができる。
【0013】
この際、0.58≦a/(a+b)≦0.73であり、0.51≦e/(e+f)≦0.72であることができる。
【0014】
前記aと前記fは、非線形比例関係をなすことができる。
【0015】
前記径方向磁石は、互いに同じ大きさと形状を有する多数個の単位径方向磁石からなり、前記各単位径方向磁石と前記周方向磁石は、互いに同じ大きさと形状からなることができる。
【0016】
この際、a/(a+b)=0.75であり、前記径方向磁石は、互いに同じ大きさと形状を有する3個の単位径方向磁石からなり、前記各単位径方向磁石と前記周方向磁石は、互いに同じ大きさと形状からなることができる。
【0017】
この際、0.46≦e/(e+f)≦0.63であることができる。
【0018】
前記バックアイアンは、前記複数の磁石の内周面と面接するように前記複数の磁石の内側に配置され、前記バックアイアンの外周面上には、径方向に所定突出して周方向に互いに離隔する多数個の滑り止め段差が備えられることができる。
【0019】
前記複数の磁石それぞれの内側面の両端には溝が形成され、前記溝に前記滑り止め段差が挿入結合し、前記多数個の滑り止め段差それぞれの間に前記複数の磁石それぞれが配置されることができる。
【0020】
前記複数の磁石の外側に備えられ、前記複数の磁石を包むスリーブをさらに含むことができる。
【0021】
前記バックアイアンは、前記複数の磁石の外周面と面接するように前記複数の磁石の外側に配置されることができる。
【0022】
本発明の一例による2分節擬似ハルバッハモータの回転子の製造方法は、1)磁化していない多数個の磁石を準備するステップと、2)前記磁化していない多数個の磁石のうち一部だけ周方向に磁化させるステップと、3)前記周方向に磁化した磁石をバックアイアンに設置し、前記バックアイアンの残りの位置に前記磁化していない残りの磁石を設置するステップと、4)前記磁化していない残りの磁石を径方向に磁化させるステップとを含むことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、バックアイアンが、径方向磁石から発生する極間漏れ磁束が他の径方向磁石につながるようにする経路を提供することにより、径方向磁石の厚さを減少させるとともに径方向磁石を大きく構成して、基本波成分を高めることができる。これにより、回転子が低慣性を有し、高い空隙磁束密度を有する。
【0024】
また、滑り止め段差構造により、磁石の滑りが防止され、構造的安全性が増大し、回転子の製造性が向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】従来の2分節ハルバッハモータの回転子の側面半分を示す図である。
図2】本発明の一例による2分節擬似ハルバッハモータの回転子の側面半分を示す図である。
図3】径方向磁石と周方向磁石の境界面での磁束方向に対する有限要素解析結果を示す図である。
図4】本発明の回転子において、α、δを変数とした磁束密度等高線の有限要素解析結果を示すグラフである。
図5】本発明の他の例による2分節擬似ハルバッハモータの回転子の側面半分を示す図である。
図6図4のグラフでα=0.75の時のδの範囲を示す図である。
図7】本発明の一例による回転子の分解斜視図である。
図8】本発明による滑り止め段差の形態を説明するための回転子の側断面図である。
図9】本発明の一例による回転子を含む2分節ハルバッハモータの模式図である。
図10】アウターモータに適用可能な回転子を示す図である。
図11】リニアモータに適用可能な回転子を示す図である。
図12】アキシャルモータに適用可能な回転子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面により本発明を詳細に説明する。
【0027】
図2は本発明の一例による2分節擬似ハルバッハモータの回転子の側面半分を示す図であり、図示されているように、本発明の回転子は、大きく、複数の磁石100とバックアイアン200を含み、さらには、スリーブ300をさらに含むことができる。スリーブ300は、複数の磁石100を包むように複数の磁石100の外側に備えられることができる。
【0028】
複数の磁石100は、永久磁石であり、各磁石は、磁化した方向に応じて、径方向に磁化した径方向磁石110と、周方向に磁化した周方向磁石120からなり、径方向磁石110と周方向磁石120は、周方向に沿ってハルバッハ配列(halbach array)される。
【0029】
複数の磁石100がハルバッハ配列されることに対して、図2により具体的に説明すると、図面において左側下方の位置には、反時計方向に磁化した周方向磁石120が配置され、時計方向に沿って次の位置には、内部径方向に磁化した径方向磁石110が配置され、次の位置には、時計方向に磁化した周方向磁石120が配置され、次の位置には、外部の径方向に磁化した径方向磁石110が配置され、次の位置である図面において右側下方の位置には、反時計方向に磁化した周方向磁石120が配置される。このように、径方向磁石110と周方向磁石120が互いに交互して配列され、この際、各磁石110、120の磁化した方向が正弦波のように周期的に順序をなすようにして配列されることができる。図面において回転子の残り半分の部分は図示していないが、上記のような順序規則に従って各磁石110、120が配列されることができる。
【0030】
バックアイアン200は、複数の磁石100の一面と面接するように複数の磁石100の一側に配置される。ここで、一面とは、図2のように、複数の磁石100の内周面を意味し得、後述するように、複数の磁石100の外周面または側面を意味し得る。バックアイアン200は、回転子鉄心(rotor core)に該当するものであり、複数の磁石100のいずれか一つの内部径方向磁石120から発生する極間漏れ磁束(inter-pole leakage)が、当該いずれか一つの内部径方向磁石120近くの他の磁石110、120とつながるように経路を形成する。
【0031】
具体的には、図1により説明したように、従来、ハルバッハモータの回転子は、一般的に、径方向磁石21の外側弧の長さa'と周方向磁石22の外側弧の長さb'を同様に構成し、この際、各磁石21、22の厚さe'を各磁石21、22の外側弧の長さa'、b'の半分程度に構成して、径方向磁石21での極間漏れ磁束を最小化する構造からなる。これに対し、本発明は、図2に図示されているように、径方向磁石110の外側弧の長さaを周方向磁石120の外側弧の長さbに比べて長く構成して、径方向磁石110から極間漏れ磁束を意図的に発生させ、径方向磁石110から発生した極間漏れ磁束をバックアイアン200を介して他の磁石とつながるようにする。
【0032】
より具体的には、図3は径方向磁石と周方向磁石の境界面での磁束方向に対する有限要素解析(FEA、finite element analysis)結果を示す図であり、ここで、いずれか一つの第1径方向磁石110-1から発生する放射状磁束がいずれも円周状磁石120に流れず、他のところに漏れる磁束が極間漏れ磁束に該当する。具体的には、いずれか一つの内部径方向磁石である第1径方向磁石110-1から発生する磁束のうち、周方向磁石120との境界面近くの磁束は、直接周方向磁石120とつながって周方向磁石120を介して他の一つの外部径方向磁石である第2径方向磁石110-2とつながり、第1径方向磁石110-1から発生する磁束のうち、中間付近の磁束は、バックアイアン200とつながってバックアイアン200を介して径方向磁石120を経て第2径方向磁石110-2とつながるか、径方向磁石120を経ず、バックアイアン200を介して第2径方向磁石110-2にすぐつながることができる。
【0033】
このように、本発明は、各磁石の境界面での極間漏れ磁束量を減少させるものではなく、構造的制限上、仕方なく生じる極間漏れ磁束量を充分にハンドリングすることができるバックアイアンを備えることで、これを解決する。すなわち、本発明によると、径方向磁石から意図的に発生させた極間漏れ磁束が円周状磁束とバックアイアンを介した磁束とに分配されて経路が形成されることから、径方向磁石および周方向磁石の厚さを減少させることができる。ここで、径方向磁石から発生した極間漏れ磁束は、バックアイアンを介して他の磁石につながるため、径方向磁石から発生する極間漏れ磁束は、回転子の全体の面から見て、これ以上漏れる磁束ではなくなり、磁石の効率が増大する。また、バックアイアンが備えられることで、回転子の全体の面から見ると、漏れして無駄になる磁束をより確実に減少させることができるようになり、磁石の効率がより増大することができる。
【0034】
さらに、本発明によると、バックアイアンを備えることで、磁石の厚さと弧の長さなどの設計範囲を拡大することができる。背景技術で詳述したように、従来、ハルバッハ回転子は、回転子の外半径の大きさを増加できない問題と、磁石の厚さを減少させるためには、多数の磁石を要し、これは、回転子の製造コストが増加し、製造を困難にする問題があり、これによって磁石の数を少なくすると、磁石の厚さが大きくなるしかない構造的な限界がある。これに対し、本発明によると、バックアイアンが、磁束が移動する経路を提供して、径方向磁石から発生する極間漏れ磁束が回転子の外部に完全に漏れず、他の磁石に移動することから、磁石の厚さを減少させるとともに磁石の数を減少させることができ、これにより、高速運転を可能とし、且つ回転子の製造コストを削減することができる。
【0035】
具体的には、径方向磁石110は、回転子のトルクに寄与する放射状磁束(radial flux)を生成し、周方向磁石120は、径方向磁石110から発生する外部放射状磁束と内部放射状磁束との間の経路をつなぐ。このように、実際、回転子のトルクに寄与する空隙磁束は、径方向磁石100によって生成される放射状磁束であるため、空隙磁束の基本波成分(fundamental component)を増加させるためには、径方向磁石110の弧の長さaを長くすることが有利である。また、径方向磁石110の弧の長さaに対応してバックアイアン200の厚さfの大きさを調節することで、回転子の大きさと空隙磁束との間の最善の効率を導き出すことができる。すなわち、径方向磁石110の弧の長さa、周方向磁石120の弧の長さb、径方向磁石110と周方向磁石120の厚さe、およびバックアイアン200の厚さfを設計変数として、空隙磁束を最大にし、回転子全体の大きさおよび回転慣性などを最小にすることができる。このために、本発明では、a/(a+b)=αとe/(e+f)=δをパラメータとして、各変数間の関係を導き出した。
【0036】
図4は本発明の回転子において、α、δを変数とした磁束密度等高線(flux density contours)の有限要素解析結果を示すグラフである。グラフにおいて、x軸はαを変数とし、y軸はδを変数とする。図示されているように、αが約0.52以上0.81以下であり、同時にδが約0.46以上0.82以下である時の回転子の磁束密度が0.7として高く形成されることが分かる。より好ましくは、αが約0.58以上0.73以下であり、同時にδが約0.51以上0.72以下である時の回転子の空隙磁束密度が0.71として最も高く形成されることが分かる。したがって、本発明によると、α、δが上述の範囲内に属するように回転子を設計することで、回転子の空隙磁束密度を最大に高めることができる。
【0037】
この際、α、δそれぞれは、上述の範囲内に属し、この際、αとδは、互いに反比例関係に該当する。例えば、αが0.52である場合、δは0.82に該当し、αが0.81である場合、δは0.46に該当することができる。これは、換言すれば、径方向磁石の弧の長さaとバックアイアンの厚さeが非線形的に比例する関係に該当するものであり、径方向磁石の弧の長さaが長くなると、放射状磁束が増加して極間漏れ磁束が増加し、増加した極間漏れ磁束が回転子の外部に完全に漏れることを防止するためには、バックアイアンの厚さeが増加する必要があるため、これによると、aとeが概して比例する関係であるという点が分かる。
【0038】
一方、回転子の製造性を増大させるために、本発明では、複数の磁石を構成する各磁石がいずれも同じ大きさと形態からなるようにすることができる。このために、径方向磁石110は、互いに同じ大きさと形状を有する多数個の単位径方向磁石110aからなることができ、それぞれの単位径方向磁石110aは、周方向磁石120と互いに同じ大きさと形状からなることで、各磁石がいずれも同様に形成されることができる。ただし、本発明における同一とは、物理的同一を意味するものではなく、誤差範囲を許容する限度内で実質的に同一であることを意味することは言うまでもない。
【0039】
具体的な例として、本発明では、特に、α=0.75に設計することで、径方向磁石の弧の長さaと周方向磁石の弧の長さbとの比がa:b=3:1を満たすようにすることができ、この際、径方向磁石を3分割して、径方向磁石が3個の単位径方向磁石110aからなるようにすることができる。すなわち、図5は本発明の他の例による2分節擬似ハルバッハモータの回転子の側面半分を示す図であり、図2に図示されている回転子と比較して、径方向磁石110が3個の単位径方向磁石110aからなるという差がある。このように、a:bが3:1を満たし、aが3分割されることによって、周方向磁石120の大きさおよび形態と単位径方向磁石110aそれぞれの大きさおよび形態がいずれも同様になることができる。このように複数の磁石を構成する各磁石の大きさおよび形態がいずれも同様に構成されることから、同じ大きさの磁石を大量生産して着磁方向だけ異ならせば良く、回転子の製造コストを削減することができ、製造性が増大する。また、径方向磁石において外側弧の長さが長くなって発生する渦電流損が減少し、磁石の効率の面でも好ましい。
【0040】
この際、すなわち、α=0.75を満たす時に、δは、0.46以上0.63以下であることが好ましく、より好ましくはδ=0.46であることができる。すなわち、図6に図示されているように、α=0.75である時に、δが0.46~0.63の値を有する場合、磁束密度が0.7以上になって磁石が高い効率を有する。この際、上記の範囲でδが0.46と最も小さく、これは、e、すなわち、磁石の厚さを最も小さく設計することができる値に該当するため、δが0.46であることがより好ましい。
【0041】
本発明では、a:bが3:1を満たすことを具体的な例として説明しているが、a:bが2:1、4:1、5:1、… を満たすことができ、この際、a:bが2:1である場合、aは2個の単位径方向磁石からなることができ、a:bが4:1である場合、aは4個の単位径方向磁石からなることができ、a:bが5:1である場合、aは5個の単位径方向磁石からなることができる。ただし、a:bが5:1である場合には、a/(a+b)=0.83になり、回転子の最適空隙磁束密度範囲から逸脱するため、最適空隙磁束密度範囲を満たすためには、a:bが2:1、3:1または4:1のいずれか一つであることが好ましい。同時に、回転子の製造性の面と大きさなどの面で説明すると、磁石の数が過剰に多くなると、それだけ組立工数が増加して回転子の製造効率が低下し、磁石の数が過剰に少なくなると、径方向磁石の外側弧の長さaが増加して、バックアイアンの厚さfがともに増加する。したがって、総合的に考慮すると、上述のように、a:bが3:1を満たすことが最も好ましい実施形態であると言える。
【0042】
さらに、図示していないが、周方向磁石も互いに同じ大きさと形状を有する単位周方向磁石の多数個からなることができ、単位径方向磁石はまたより小さな単位の磁石の多数個からなってもよいことは言うまでもない。例えば、a:bが3:1を満たす場合、周方向磁石は2個の単位磁石からなり、これに対応すべく、径方向磁石は、6個の単位磁石からなることができ、これを一般化すると、a:bがn:1を満たす場合、径方向磁石の単位磁石の総個数は、周方向磁石の単位磁石の総個数のn倍になることができる。
【0043】
一方、本発明による回転子において、バックアイアン200は、複数の磁石100の内周面と面接するように複数の磁石100の内側に配置され、バックアイアン200の外周面上には、径方向に所定突出して周方向に互いに離隔する多数個の滑り止め段差250が備えられることができる。図7は本発明の一例による回転子の分解斜視図であり、図示されているように、バックアイアン200には、バックアイアン200の外周面の外側に突出した滑り止め段差250が多数個備えられることができる。
【0044】
特に、本発明によると、3分割した径方向磁石110として3個の単位径方向磁石110aと1個の周方向磁石120が一つの極をなすことができ、この際、4個の磁石110a、120がバックアイアン200の表面に接着されて固定されることができる。しかし、バックアイアン200の表面温度が高温に上がる場合、接着力が弱くなって磁石が滑ることがあり、特に、高速運転時に瞬間的負荷によって速度脈動が生じる場合、高速に加減速する場合、および回転方向が速く変わる場合などにおいて磁石の表面滑りが発生し得る。このような表面滑りは、固定子とのミスアラインメント、制御角(control angle)誤差など、モータの制御に障害物として作用する。本発明は、このような磁石の表面滑りを防止するために、滑り止め構造として、バックアイアンの外周面上に滑り止め段差をさらに備えることで、磁石を単純に接着させて固定する構造に比べてより堅固に磁石を回転子内で固定することができる。これにより、制御角誤差を低減して制御失敗を防止し、制御効率を高めることができる。同時に、滑り止め段差は、磁石の組み立て過程で磁石を支持して組み立てを容易にする。
【0045】
ここで、各磁石110、120の内側面の両端には滑り止め段差250に対応する溝115、125が形成され、当該溝115、125に滑り止め段差250が挿入結合し、滑り止め段差250それぞれの間に各磁石110、120が配置されることができる。これは、磁石と磁石との間の空隙を減少させ、空間活用を極大化することができる。一方、図7には長方形断面状の滑り止め段差250と、それに対応する形態の磁石溝115、125が図示されているが、滑り止め段差250の断面形態は、図8に図示されているように三角形であってもよく、図示していないが、滑り止め段差250の断面形態が円形、角丸四角形など様々な形態からなってもよい。滑り止め段差が三角形の形態を有する場合には、回転子の組み立て時にまたは回転子回転時に磁石が割れることを防止することができ、磁石の組み立てが容易になり、滑り止め段差によって漏れる磁束の量を減少させることができる。一方、上述のものとは反対の構造として、各磁石の内側面に一つ以上の突出した構造を形成し、バックアイアンの外周面に当該突出構造に対応する溝構造を形成し、両構造を結合する方式で結合構造が構成されることもできる。
【0046】
図9は本発明の一例による回転子を含む2分節ハルバッハモータの模式図を示す図であり、固定子(stator)の内部に回転子が配置されたモータを示す。一方、以上で説明した本発明の回転子は、バックアイアン200の外側に複数の磁石100が配置され、複数の磁石100の外側にスリーブ300が配置されるインナーモータに適用可能な回転子を例に挙げて説明しているが、本発明は、アウターモータ、リニアモータ、アキシャルモータ、またはダブルアキシャルモータとして応用可能である。
【0047】
すなわち、図10はアウターモータに適用可能な回転子として、複数の磁石100の外周面と面接するように複数の磁石100の外側にバックアイアン200が配置されることができ、図11はリニアモータに適用可能な回転子として、直線に配置される複数の磁石100の下部面と面接するように複数の磁石100の下部にバックアイアン200が配置されることができ、アウターモータまたはリニアモータに適用される場合には、磁石の空隙側に構造的剛性のためのスリーブを必要としないという利点がある。また、図12はアキシャルモータに適用可能な回転子として、図12の(a)はシングルアキシャルモータを示し、図12の(b)はダブルアキシャルモータを示す。アキシャルモータの場合、複数の磁石100の一側面と面接するように、複数の磁石100の一側にバックアイアン200が配置されることができる。
【0048】
一方、本発明において、磁石は、サマリウムコバルト(SmCo)材質の高温磁石であることができる。ハルバッハモータの場合、固定子の巻線に流れる電流によって発生する磁束が磁石に影響を及ぼして磁束の鉄損を増加させ、これによって磁石の温度が増加し、磁石が減磁し得る。したがって、ハルバッハモータでは、一般的に、高温磁石を用いて磁石の減磁を防止する。本発明では、バックアイアンの内側に冷却システムを備えて、バックアイアンを介して磁石の熱交換を行うことで磁石の減磁を防止することが可能である。この場合、磁石が熱交換により高温になることが防止されるため、磁石として高価のSmCo高温磁石ではなく、低価のネオジム磁石を使用することもある。
【0049】
以下では、本発明の回転子を製造する方法について説明する。一般的な方法として、各磁石を先に磁化し、磁化した磁石それぞれをバックアイアンの外周面に付着して回転子を製造することができる。このような方法においては、各磁石が先磁化しているため、各磁石をバックアイアンの外周面に付着する時に磁石同士に作用する引力/斥力によって磁石を付着することに不都合がある。
【0050】
このような問題を解決するために、本発明は、周方向磁石のみを先磁化してバックアイアンの外周面に付着し、残りの磁石は、磁化していない磁性体状態でバックアイアンの外周面に付着した後、磁化器により残りの磁石を径方向に磁化させることができる。すなわち、磁化していない多数個の磁石を準備し、磁石のうち一部だけ周方向に磁化してバックアイアンに設置し、残りの磁化していない磁石をバックアイアンの残り部分に設置した後、磁化していない磁石を径方向に磁化して回転子を製造することができ、以降、磁化した複数の磁石を包むように複数の磁石の外側にスリーブをさらに備えることができる。ここで、設置とは、接着部材を用いて、磁石をバックアイアン上に固定付着することを意味し、バックアイアン上に滑り止め段差が備えられる場合には、滑り止め段差に磁石の溝が挿入されるようにし、且つ接着部材を用いて磁石をバックアイアン上に固定付着することを意味し得る。このような方法によると、すべての磁石を先磁化した後、磁化した各磁石をバックアイアンに設置することに比べて組立性が向上することができる。一方、磁化していない磁石を径方向に磁化させるための例として、磁石が付着されたバックアイアンを磁化器に投入して磁化器により磁化させることができる。
【0051】
以上、添付の図面を参照して本発明の実施形態について説明しているが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須な特徴を変更しなくても他の具体的な形態で実施され得ることを理解することができる。そのため、以上で記述した実施形態は、すべての面において例示的なものであって、限定的ではないものと理解すべきである。
【符号の説明】
【0052】
100 複数の磁石
110 径方向磁石
110a 単位径方向磁石
115 径方向磁石の溝
120 周方向磁石
125 周方向磁石の溝
200 バックアイアン
250 滑り止め段差
300 スリーブ
a 径方向磁石の外側弧の長さ
b 周方向磁石の外側弧の長さ
c 回転子の外半径
d スリーブの厚さ
e 磁石の厚さ
f バックアイアンの厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12