(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】メリチンベースのアポトシース促進ペプチドペプチドでM2様腫瘍関連マクロファージの標的化
(51)【国際特許分類】
A61K 47/64 20170101AFI20230228BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20230228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230228BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A61K47/64
C07K14/435
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/04
(21)【出願番号】P 2021512351
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 KR2019005438
(87)【国際公開番号】W WO2019212324
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0051800
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520431029
【氏名又は名称】ツインピッグバイオラブ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ベ ヒュンス
(72)【発明者】
【氏名】リ チャン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジン-ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】リ ドー-ハ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョン-ドン
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-543111(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00359347(EP,A2)
【文献】中国特許出願公開第1572797(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106795205(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0196383(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0015852(KR,A)
【文献】J. Immunol.,2018年05月01日,Vol.200 (1 Supplement), 56.22,p.1
【文献】Cancer Letters,2017年,Vol.402,p.16-31
【文献】Journal of the American Chemical Society,1954年,Vol.76, No.23,p.6192-6193
【文献】メリチン,日化辞,番号J11.783H,1961年,p.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K47/00-47/69
A61K45/00
A61K31/00-33/44
A61K38/00-38/58
A61P 1/00-43/00
C07K 7/00
C12N15/00
C07K19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTplus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メリチン(Melittin)が抗がん剤と結合された、メリチン-抗がん剤結合体であって、
前記抗がん剤が、ドキソルビシン(Doxorubicin)、メトトレキサート(Methotrexate)、エンチノスタット(Entinostat)、
クラドリビン(Cladribine)、プララトレキセート(Pralatrexate)、ロルラチニブ(Lorlatinib)、メイタンシンDM1(Maytansine DM1)、メイタンシンDM3(Maytansine DM3)、メイタンシンDM4(Maytansine DM4)およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記結合体が、M2型腫瘍関連マクロファージを標的とするものであり、抗がん剤に比べて抗がん活性が向上されたものである、メリチン-抗がん剤結合体。
【請求項2】
前記メリチンおよび抗がん剤は、化学的リンカーまたは直接連携によって連結されたものであることを特徴とする請求項1に記載のメリチン-抗がん剤結合体。
【請求項3】
前記化学的リンカーは、メリチンおよび抗がん剤上のアミン基(amine)、カルボキシ基(carboxyl)またはスルフヒドリル基(sulfhydryl)を介して結合するものであることを特徴とする請求項
2に記載のメリチン-抗がん剤結合体。
【請求項4】
前記化学的リンカーは、両末端にカルボジイミド基(carbodiimide)、N-ヒドロキシコハク酸イミドエステル(N -hydroxysuccinimide ester;NHS ester)、イミドエステル(imidoester)、ペンタフルオロフェニルエステル(pentafluorophenyl ester)、ヒドロキシメチルホスフィン(hydroxymethyl phosphine)、マレイミド(maleimide)、ハロアセチル(haloacetyl)、ピリジルジスルフィド(pyridyldisulfide)、チオスルホネート(thiosulfonate)、ビニールスルホン(vinylsulfone)およびこれらの組み合わせから選択される官能基を含むことを特徴とする請求項
2に記載のメリチン-抗がん剤結合体。
【請求項5】
前記化学的リンカーは、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)、DCC(N、N’- dicyclohexylcarbodiimide)、SATA(succinimidyl acetylthioacetate)、スルホン-SMCC(sulfosuccinimidyl-4-(NDmaleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、DMA(dimethyl adipimidate・2HCl)、DMP(dimethylpimelimidate・2HCl)、DMS(dimethyl Suberimidate・2HCl)、DTBP(dimethyl 3,3’- dithiobispropionimidate・2HCl)、スルホ-SIAB(sulfosuccinimidyl(4-iodoacetyl)aminobenzoate)、SIAB(succinimidyl(4-iodoacetyl)aminobenzoate)、SBAP(succinimidyl 3-(bromoacetamido)propionate)、SIA(succinimidyl iodoacetate)、SM(PEG)n(succinimidyl -([N- maleimid opropionamido]-#ethyleneglycol ester、前記n=2、4、6、8、12、または24)、SMCC(succinimidyl-4-(N-Dmaleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、LCSMCC(succinimidyl-4-(N- maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxy-(6 amidocaproate))、スルホ-EMCS(N-εester)、EMCS(N-εスルホ-GMBS(N-γester)、GMBS(N-γester)、スルホ-KMUS(N-κester)、スルホ-MBS(m- maleimidobenzoyl-Nhydroxysulfosuccinimide ester)、MBS(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、スルホ-SMPB(sulfosuccinimidyl-4-(pmaleimidophenyl)butyrate)、SMPB(succinimidyl-4-(pmaleimidophenyl)butyrate)、AMAS(N-α-maleimidoacet-oxysuccinimide ester)、BMPS(N-β-maleimidopropyloxysuccinimide ester)、SMPH(succinimidyl 6-[(β-maleimidopropionamido)hexanoate])、PEG12-SPDP(2-pyridyldithiol-tetraoxaoctatriacontane-N-hydroxysuccinimide)、PEG4-SPDP、スルホ-LCSPDP(sulfosuccinimidyl 6-[3’-(2-pyridyldithio)propionamido]hexanoate)、SPDP(succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate)、LC-SPDP(succinimidyl 6-[3’-(2-pyridyldithio)propionamido]hexanoate)、SMPT(4-succinimidyloxycarbonyl-alpha-methyl-alpha(2-pyridyldithio)toluene)、DSS(disuccinimidyl suberate)、BS(PEG)5(bis(succinimidyl)penta(ethylene glycol))、BS(PEG)9(bis(succinimidyl)nona(ethylene glycol))、BS3(bis[sulfosuccinimidyl]suberate)、BSOCOES(bis[2-(succinimidooxycarbonyloxy)ethyl]sulfone)、PDPH(3-(2-pyridyldithio)propionyl hydrazide)、DSG(disuccinimi dyl glutarate)、DSP(dithiobis[succinimidyl propionate])、BM(PEG)n(1,8-bismaleimido-ethyleneglycol、n=2または3)、BMB(1,4-bismaleimidobutane)、BMDB(1,4-bismaleimidyl-2,3-dihydroxybutane)、BMH(bismaleimidohexane)、BMOE(bismaleimidoethane)、DTME(dithiobismaleimidoethane)、TMEA(tris(2-maleimidoethyl)amine)、DSS(disuccinimidyl suberate)、DST(disuccinimidyl tartarate)、DTSSP(3、3’-dithiobis[sulfosuccinimidylpropionate])、EGS(ethylene glycol bis[succinimidylsuccinate])、スルホ-EGS(ethylene glycol bis[sulfosuccinimidylsuccinate])とTSAT(tris-succinimidyl aminot riacetate)、DFDNB(1,5-difluoro-2、4-dinitrobenzene)およびこれらの組み合わせから選択されるものであることを特徴とする請求項
2に記載のメリチン-抗がん剤結合体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の結合体を含む、腫瘍関連マクロファージ媒介疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記疾患は、肺癌、転移癌、乳がんであることを特徴とする請求項
6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記疾患は、ルイス肺癌または炎症性疾患であることを特徴とする請求項
6に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記組成物は、M2型腫瘍関連マクロファージの除去によるがんの成長および転移の予防または治療用薬学的組成物であることを特徴とする請求項
6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メリチン(melittin)が抗がん剤と結合された、メリチン-抗がん剤結合体に関するものであって、より具体的には、本発明の組成物はM1型腫瘍関連マクロファージと癌細胞には影響を与えることなく、M2型腫瘍関連マクロファージのみを抑制するメリチン-抗がん剤結合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍関連マクロファージは、ほとんどすべての組織から発見される重要な先天性免疫細胞であって、骨髄に由来して血液で循環し、血管外漏出を通じて組織から分化される。この腫瘍関連マクロファージの腫瘍抑制M1マクロファージまたは腫瘍支持M2マクロファージの二つの表現型に分類される。M1マクロファージは、抗原を提示する強力な能力を有し、一般にインターフェロン-γ、脂肪糖類(LPS)、腫瘍壊死因子(TNF)-αによって活性化され、伝染症作用および殺菌作用をする。
【0003】
M2マクロファージは、多様な細胞外基質成分、血管新生および走化性因子を放出することにより、免疫抑制、腫瘍形成および血管形成を促進するものとして知られている。一般にIL-4とIL-13によって誘導され、アルギナーゼ-1,mannose(MMR、CD206)、スカベンジャー受容体(SR-A、CD204)のようなM2だけの独特のマーカーを発現することにより、M1マクロファージと区別される。
【0004】
メリチン(Melittin)は、ミツバチ(Apis mellifera L.)のハチ毒の主要成分であり、26個のアミノ酸残基を有する両親媒性ペプチドである。メリチンは、気孔形成、融合および小胞形成のような膜-摂動(perturbing)効果を有する。メリチンは、腫瘍細胞に対する細胞の毒性と細胞の成長を抑制する、またはアポトーシスおよびネクローシスを誘導する能力があるので、腫瘍-保有マウスの研究に用いられてきた(Cancer Immunol Immunother.2004;53:411~421.)。
【0005】
また、従前メリチンが用いられた技術としては、メリチンを含む動脈硬化治療用組成物(韓国特許出願公開第10-2011-0117789号)、メリチンを含む繊維芽細胞様滑膜細胞の活性を抑制する組成物(韓国特許出願公開第10-2011-0117788号)などが知られている。
【0006】
一方、メリチンを用いてM2型マクロファージを選択的にアポトーシスする薬学的組成物は確認されたが(韓国特許出願公開第10-2019-0021765号)、これを結合パートナーとしたM2ターゲッティング薬学組成物に関する技術は、知られたところがない。そこで、本発明者らはメリチンが抗がん剤と結合された結合体を製造し、メリチンが腫瘍マウスモデルにおいて、M1型腫瘍関連マクロファージであるCD86+腫瘍関連マクロファージおよび癌細胞には影響を与えることなく、M2型腫瘍関連マクロファージであるCD206+腫瘍関連マクロファージのみを抑制することを確認することで、既存の抗がん剤による副作用が顕著に減少した本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、メリチンが抗がん剤と結合されたメリチン-抗がん剤結合体を提供するものである。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、メリチンと抗がん剤を結合し、メリチン-抗がん剤結合体を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明の一実施態様は、メリチンと抗がん剤が結合されたメリチン-抗がん剤結合体を提供する。
【0010】
本発明の用語「メリチン(Melittin;MEL)」は、ハチ毒の主要成分を構成するペプチドである。前記本明細書にて使用される用語「ハチ毒(bee venom;BV)」は、ミツバチ(Apismellifera)の腹部で生成される酸性および塩基性分泌物の混合物であって、苦い無色の液体形態を帯び、その主な成分は、ペプチドであるメリチン(melittin)、アパミン(apamin)、肥満細胞脱顆粒化(mast cell degranulating;MCD)ペプチド、および酵素であるホスホリパーゼA2(phospholipase A2;PLA2)などであり、この他に様々な微量の成分を含む。したがって、本発明のメリチンは、ミツバチ(Apis mellifera)のハチ毒から分離されることができるが、これに限定されない。
【0011】
本発明の具体的な一実施態様では、CD206+M2マクロファージを標的とするMELペプチドにGGGSリンカーを介してアポトーシスペプチドdKLAを結合した結合体をM1型およびM2型マクロファージに処理し、他の真核細胞には影響を及ぼすことなく腫瘍基質内のM2型マクロファージのみを除去することを確認し(
図1~3)、MELペプチドにDM1抗がん剤を結合した結合体も同様に腫瘍基質内のM2型マクロファージのみを除去することを確認し(
図4)、ミトコンドリア膜撹乱による細胞死であることを、細胞呼吸の測定を通じて確認し(
図5~6)、本発明の結合体がミトコンドリア内に挿入されたことを染色を通じて確認した(
図7)。また、実験マウスにMEL、dKLA、およびMEL-dKLAを処理したとき、MEL-dKLA結合体が腫瘍の大きさと重量をさらに減少させ(
図8)、また、腫瘍結節の数と腫瘍内への転移を抑制し(
図9)、前記結合体が実験マウス乳癌の成長を抑制し、肺および全身への転移を抑制することを発光を通じて確認した(
図10~11)。また、MEL-抗がん剤結合体を処理したとき、癌に多く発現されるとして知られたCD44、M2型マクロファージマーカーとして知られたCCL22、血管生成、転移および浸透マーカーとして知られたHIF-1α、M2型マクロファージマーカーであるYm1、腫瘍細胞の移動および定着に関与するMMP-9の発現が低くなることを確認し(
図12)、染色を通じて腫瘍内の免疫細胞の割合の変化を測定し、M2型TAMだけが減少したことを確認し(
図13)、M2型腫瘍関連TAMの選択的細胞死が起きたことを染色を通じて確認した(
図14)。また、MELとMEL-dKLAを処理した後、腫瘍内皮細胞をコンフォーカルで撮影して内皮細胞内血管密度が減少することを確認した(
図15)。
【0012】
本発明のメリチンは、M2型マクロファージを標的とする役割を果たし、メリチンに結合された抗がん剤をM2型マクロファージに伝達することにより抗がん活性を示すことができるが、これに限定されない。
【0013】
本発明の用語「抗がん剤」とは、癌を治療するための化学療法に使われる薬剤の総称であって、前記抗がん剤は、化合物またはプロアポトーシス性(pro-apoptotic)ペプチドであることができるが、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明において、前記用語「がん」とは、身体組織の自律的な過剰成長によって異常に増殖した腫瘍、または腫瘍を形成する病を意味する。
【0015】
具体的には、前記がんは、肺癌(例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性中皮腫)、中皮腫、膵臓癌(例えば、膵管癌、膵臓内分泌腫瘍)、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん(例えば、乳頭腺癌、粘液性腺癌、腺扁平上皮癌)、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん(例えば、結腸癌、直腸癌、肛門癌、家族性大腸癌、遺伝性鼻ポリープ大腸癌、消化管間質腫瘍)、乳がん(例えば、浸潤性乳管癌、非浸潤性乳管癌、炎症性乳がん)、卵巣癌(例えば、上皮性卵巣癌、精巣外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍)、精巣腫瘍、前立腺癌(例えば、ホルモン-依存性前立腺癌、ホルモン-非依存性前立腺癌)、肝臓がん(例えば、肝細胞癌、原発性肝臓癌、間外胆管がん)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄質癌)、腎臓癌(例えば、腎細胞癌、腎盂と尿管の移行上皮がん)、子宮がん(例えば、子宮頸がん、子宮体がん、子宮肉腫)、脳腫瘍(例えば、髄芽腫、神経膠腫、松果体性細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性性細胞腫、下垂体腺腫)、網膜芽腫、皮膚癌(例えば、基底細胞癌、悪性黒色腫)、肉腫(例えば、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、軟組織肉腫)、悪性骨腫瘍、膀胱癌、血液癌(例えば、多発性骨髄腫、白血病、悪性リンパ腫、ホジキン病、慢性骨髄増殖性疾患)、原発不明がんなどであることができ、より具体的には、肺癌、転移癌または乳がんであることができ、さらに具体的には、前記肺がんはルイス肺癌であることができるが、これに限定されない。
【0016】
本発明において、前記抗がん剤は、ドキソルビシン(Doxorubicin)、メトトレキサート(Methotrexate)、エンチノスタット(Entinostat)、グラドリビン(Cladribine)、プララトレキセート(Pralatrexate)、ロルラチニブ(Lorlatinib)、メイタンシンDM1(Maytansine DM1)、メイタンシンDM3(Maytansine DM3)、メイタンシンDM4(Maytansine DM4)であることができるが、これに制限されない。
【0017】
本発明の用語「プロアポトーシス(pro-apoptotsis)」とは、細胞が能動的に生体エネルギーであるATPを積極的に消費しながら死に至る過程を意味し、典型的なアポトーシス過程は、細胞の縮小、DNAの規則的な切断、そして細胞膜の断片化によって行われる。異常な細胞分裂、放射線、紫外線、細菌感染またはウイルス感染などが原因で、細胞が正常な機能を維持できなくなる場合、アポトーシスが誘導されうる。
【0018】
本発明において、前記プロアポトーシス性ペプチドは、KLA、アルファ-ディフェンシン-1(alpha-defensin-1)、BMAP-28、Brevenin-2R、ブフォリンIIb (Buforin IIb )、セクロピンA-マガイニン2(cecropin A- Magainin 2、CA-MA-2)、セクロピンA(Cecropin A)、セクロピンB(Cecropin B)、クリソフィシン-1(chrysophsin-1)、D-K6L9、ゴメシン(Gomesin)、ラクトフェリシンB(Lactoferricin B)、LLL27、LTX-315、マガイニン2(Magainin 2)、マガイニンII-ボンベシン結合体(Magainin II- bombesin conjugate、MG2B)、パルダキシン(Pardaxin)であることができるが、これに制限されない。
【0019】
本発明の用語「ペプチド(peptide)」とは、アミド結合(またはペプチド結合)により連結されたアミノ酸からなるポリマーを意味する。本発明の目的上、癌細胞に対して高い選別力を有し、強力な抗がん活性を示すペプチドを意味する。
【0020】
本発明において、前記ペプチドは前記アミノ酸配列を有することが好ましいが、これに限定されるものではない。本発明の好ましい実施態様によれば、前記ペプチドは、前記アミノ酸の割合が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは100%と高いのが好ましい。
【0021】
本発明において、前記ペプチドは、標的化配列、タグ(tag)、標識された残基、半減期またはペプチドの安定性を増加させるための特定の目的で考案された追加のアミノ酸配列も含むことができる。また、本発明のペプチドは、エフェクター(effectors)、薬物、プロドラッグ、毒素、ペプチド、伝達分子などのカップリングパートナーと連結されることができる。
【0022】
本発明において、前記ペプチドは、当分野で広く知られた様々な方法で獲得することができる。詳細には、遺伝子組換えとタンパク質発現システムを利用して製造する、またはペプチド合成のような化学的合成を通じて試験管内で合成する方法、および無細胞タンパク質合成法などで製造することができる。
【0023】
本発明において、前記ペプチドは、薬学的に許容可能な塩の形態で製造されうる。具体的に酸を添加することで塩を形成することができ、例えば、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸など)、有機カルボン酸(例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸のようなハロ酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、タルタル酸、サリチル酸)、および酸性糖(グルクロン酸、ガラクツロン酸、グルコン酸、アスコルビン酸)、酸性多糖(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、アルギニン酸)、コンドロイチン硫酸などのスルホン酸糖エステルを含む有機スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸)などを添加して塩を形成することができる。
【0024】
本発明の用語「結合体」は、メリチンペプチドと抗がん剤が結合された結合体であって、M2型腫瘍関連マクロファージを標的とするものであることができる。前記結合体は、薬物が標的とするM2型マクロファージに結合して、マクロファージのミトコンドリアを損傷させることで、腫瘍の生長と転移を抑制し、周辺の血管新生を選択的に抑制することにより、癌を抑制することができる。
【0025】
すなわち、本発明の結合体は、抗がん剤に比べて抗がん活性が向上されたものであることができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明において、前記結合体は、Piscataway、NJ、USAで購入したMEL(配列番号1;GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ)にdKLA(配列番号2;d[KLAKLAKKLAKLAK])ペプチドをGGGGS linkerを介して連結するものであることができ、またはDoxorubicin、Methotrexate、Entinostat、Cladribine、PralatrexateおよびLorlatinibのような抗がん剤をSPDPリンカーを介して連結するものであることができる。また、Maytansine DM1、Maytansine DM3およびMaytansine DM4は、リンカーなしで結合して製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
すなわち、本発明の結合体は、メリチンが化学リンカーを介したり、または、または直接抗がん剤と連携した形態であることができるが、これに限定されない。
【0028】
本発明において、前記用語「化学的リンカー」は、メリチンおよび抗がん剤上のアミン基(amine)、カルボキシ基(carboxyl)またはスルフヒドリル基(sulfhydryl)を通じて結合するものであることができるが、これに限定されない。具体的には、前記化学的リンカーは、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)、DCC(N、N’-dicyclohexylca
rbodiimide)、SATA、(succinimidyl acetylthioacetate)、スルホ-SMCC(sulfosuccinimidyl-4-(NDmaleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、DMA(dimethyl adipimidate・2HCl)、DMP(dimethylpimelimidate・2HCl)、DMS(dimethyl Suberimidate・2HCl)、DTBP(dimethyl 3,3’-dithiobispropionimidate・2HCl)、スルホ-SIAB(sulfosuccinimidyl(4-iodoacetyl)aminobenzoate )、SIAB(succinimidyl (4-iodoacetyl)aminobenzoate)、SBAP(succinimidyl 3-(bromoacetamido)propionate)、SIA(succinimidyl iodoacetate)、SM(PEG)n(succinimidyl-([N- maleimidopropionamido]-#ethyleneglycol ester、前記n=2、4、6、8、12、または24)、SMCC(succinimidyl-4-(N-Dmaleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、LCSMCC(succinimidyl 4-(N-maleim idomethyl)cyclohexane-1-carboxy-(6-amidocaproate))、スルホ-EMCS(N-εester)、EMCS(N-εスルホ-GMBS(N-γester)、GMBS(N-γester)、スルホ-KMUS(N-κester)、スルホ-MBS(m- maleimidobenzoyl- Nhydroxysulfosuccinimide ester)、MBS(m- maleimidobe nzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、スルホ-SMPB(sulfosuccinimidyl 4-(pmaleimidophenyl)butyrate)、SMPB(succinimidyl 4-(pmaleimidophenyl)butyrate)、AMAS(N-α-maleimidoacet-oxysuccinimide ester)、BMPS(N-β- maleimidopropyloxysuccinimide ester)、SMPH(succinimidyl 6-[(β-maleimidopropionamido )hexanoate])、PEG12-SPDP(2-pyridyldithiol-tetraoxaoctatriacontane-N-hydroxysuccinimide)、PEG4-SPDP、スルホ-LCSPDP(sulfosuccinimidyl 6-[3’-(2-pyridyldithio)propionamido]hexanoate)、SPDP(succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate)、LC-SPDP(succinimidyl 6-[3’-(2-pyridyldithio)propionamido]hexanoate)、SMPT(4-succinimidyloxycarbonyl-alpha-methyl-alpha(2-pyridyldithio)toluene)、DSS(disuccinimidyl suberate)、BS(PEG)5(bis(succinimidyl)penta(ethylene glycol))、BS(PEG)9(bis(succinimidyl)nona(ethylene glycol))、BS3(bis[sulfosuccinimidyl]suberate)、BSOCOES(bis[2-(succinimidooxycarbonyloxy)ethyl]sulfone)、PDPH(3-(2-pyridyldithio)propionyl hydrazide)、DSG(disuccinimidy l glutarate )、DSP(dithiobis[succinimidyl propionate])、BM(PEG)n(1,8-bismaleimido- ethyleneglycolで、n=2または3)、BMB(1,4-bismaleimidobutane)、BMDB(1,4-bismaleimidyl-2,3-dihydroxybutane)、BMH(bismaleimidohexane)、BMOE(bismaleimidoethane)、DTME(dithiobismaleimidoethane)、TMEA(tris(2-maleimidoethyl)amine)、DSS(disuccinimidyl suberate )、DST(disuccinimidyl tartarate)、DTSSP(3、3’-dithiobis[sulfosuccinimidylpropionate])、EGS(ethylene glycol bis[succinimidylsuccinate])、スルホ-EGS(ethylene glycol bis[sulfosuccinimidylsuccinate])とTSAT(tris-succinimidyl aminot riacetate)、DFDNB(1,5-difluoro-2,4-dinitrobenzene)及びこれらの組み合わせであることができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明の用語「腫瘍関連マクロファージ(TAM、Tumor associated tumor)」は、がんの成長、転移など全般的な腫瘍微小環境に関連して重要な役割を担うマクロファージであって、腫瘍の周辺に存在する腫瘍関連マクロファージは、腫瘍細胞の成長、転移と密接に関連している。腫瘍関連マクロファージは、腫瘍抑制M1または腫瘍支持M2マクロファージの二つの表現型に分類される。M2型腫瘍関連マクロファージは、がんの成長を促進するIL-10、TGFβおよびCCL18のようなサイトカインを生成し、表面の受容体を通じてT細胞、NK細胞の抗腫瘍活性を抑制する機能をする。こうした腫瘍関連マクロファージは、骨髄(bone marrow)、卵黄嚢(Yolk sac)または髄外造血(extramedullary hematopoiesis)のうち、特に脾臓で発生した単核球とマクロファージから分化したものであることができ、好ましくは骨髄(bone marrow)から分離されるものであることができるが、これに限定されない。
【0030】
前記課題を解決するための本発明のもう一つの実施態様は、腫瘍関連マクロファージ媒介疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0031】
本発明において、前記組成物はM2型腫瘍関連マクロファージの除去による癌の生長および転移の予防または治療用薬学的組成物であることができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明の用語「腫瘍関連マクロファージ」は、前述した通りである。
【0033】
本発明の用語では、「予防」は、本発明に係る結合体によって腫瘍の生長および転移を抑制したり、または遅延させたりする全ての行為を意味する。
【0034】
本発明の用語「治療」は、前記の結合体によって腫瘍の生長および転移の症状が好転したり、有利に変更されたりするすべての行為を意味する。
【0035】
本発明において、前記結合体は、ヒトに用いるのが好ましいが、炎症性疾患または癌が発生し、本発明のペプチド投与により癌が抑制または減少しうる牛、馬、羊、豚、ヤギ、ラクダ、ゴーラル、犬や猫などの家畜にも用いることができる。
【0036】
本発明の癌の予防または治療組成物において、前記組成物を投与する投与経路及び投与方法は、特に制限されず、目的とする当該部位に前記組成物が達することができる限り、任意の投与経路及び投与方式に従うことができる。具体的には、前記組成物は、経口または非経口の多様な経路を通じて投与されることができ、その投与経路の非限定的な例としては、眼球、口腔、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、非側内または吸入などを通じて投与されることが挙げられる。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与することができる。
【0037】
本発明において、前記薬学的組成物は、薬学的組成物の製造に通常使われる薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含むことができ、前記担体は、非自然的担体(non-naturally occuring carrier)を含むことができる。
【0038】
本発明において、前記用語「薬学的に許容可能な」は、前記組成物に晒される細胞やヒトに毒性がない特性を示すことを意味する。
【0039】
より具体的には、前記薬学的組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤、および滅菌注射溶液の形態で製剤化して使用しうるが、当業界でがんの予防または治療のために用いられる剤形であれば、これらに限定されない。
【0040】
前記薬学的組成物に含まれうる担体、賦形剤および希釈剤としては、具体的な例として、ラクトース、ブドウ糖、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリカプロラクトン(PCL;polycaprolactone)、ポリラクティック酸(PLA;Poly Lactic Acid)、ポリ-L-ラクティック酸(PLLA;poly-L-lactic acid)、鉱物油などを挙げることができる。
【0041】
製剤化する場合には、通常使われる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製されうる。
【0042】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれており、このような固形製剤は、前記抽出物とその分画物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤することができる。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用することができる。
【0043】
経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使われる単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外にさまざまな賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれることができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれることができる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使われることができる。坐剤の基剤としては、ウィテプソル(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使われることができる。
【0044】
前記課題を解決するための本発明のもう一つの実施態様は、メリチンと抗がん剤を連結する段階を含む、メリチン-抗がん剤結合体を製造する方法を提供する。
【0045】
本発明のもう一つの態様は、前記結合体またはこれを含む薬学的組成物をこれを必要とする個体に投与する段階を含む、腫瘍関連マクロファージ媒介疾患の予防または治療方法を提供する。
【0046】
前記課題を解決するための本発明のもう一つの実施態様は、メリチンと抗がん剤が連結されたメリチン-抗がん剤の腫瘍関連マクロファージ「媒介疾患の予防または治療目的」を提供する。
【発明の効果】
【0047】
本発明のMEL-抗がん剤結合体は、M2型腫瘍関連TAMを標的とする抗がん物質として、M2型腫瘍関連TAMを選択的に選別する優れた効果を示すので、MELと抗がん剤の結合方法は、今後、M2型腫瘍関連マクロファージを標的とする薬物伝達用途に活用されうるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1a】MTS測定を通じたM1に対するdKLA、MELおよびMEL-dKLAの細胞毒性を示すグラフである。
【
図1b】MTS測定を通じたM2に対するdKLA、MELおよびMEL-dKLAの細胞毒性を示すグラフである。
【
図1c】PI染色を通じて細胞周期を測定して分析したグラフである。
【
図2】M1のdKLA、MELおよびMEL-dKLAに対する変化をAnnexin VFITCおよびMItoTracker-Red CMXRosで染色し、フローサイトメトリを通じて比較分析したグラフである。
【
図3】M2のdKLA、MELおよびMEL-dKLAに対する変化をAnnexin VFITCおよびMItoTracker-Red CMXRosで染色し、フローサイトメトリを通じて比較分析したグラフである。
【
図4】MTS測定を通じたM2に対するMEL-DM1の細胞毒性を示すグラフである。
【
図5a】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するための細胞内の呼吸変化を示すグラフである。
【
図5b】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するための細胞内の解糖作用の変化を示すグラフである。
【
図5c】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するための基底呼吸の変化を示すグラフである。
【
図5d】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するための細胞ATP生産の変化を示すグラフである。
【
図5e】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するための細胞内の最大呼吸の変化を示すグラフである。
【
図6a】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するためにXFで測定した細胞エネルギー表現型の変化を示すグラフである。
【
図6b】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するための細胞内の酸素の割合(OCR)の変化を示すグラフである。
【
図6c】ミトコンドリア膜撹乱による細胞死を測定するための細胞外の酸性化率(ECAR)の変化を示すグラフである。
【
図7a】ミトコンドリア内MEL、dKLAおよびMEL-dKLAの位置を示す染色写真である。
【
図7b】ミトコンドリア内MEL、dKLAおよびMEL-dKLAの相関係数である。
【
図8a】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、腫瘍の大きさを比較したグラフである。
【
図8b】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、腫瘍の重量を比較したグラフである。
【
図8c】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、腫瘍の大きさを比較したfold changeグラフである。
【
図8d】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、実験マウスの体重の変化を比較したグラフである。
【
図9a】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、実験マウスの肺を比較した写真である。
【
図9b】MEL-dKLAの癌転移抑制効果比較のために、実験マウスの肺を染色して比較した写真である。
【
図9c】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、肺の腫瘍結節数を比較したグラフである。
【
図10a】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、マウスにおいて発光因子を注入してがんの成長を比較した写真である。
【
図10b】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、マウスにおいて発光強度を比較したグラフである。
【
図10c】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、マウスにおいて腫瘍の大きさを比較したグラフである。
【
図10d】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、マウスにおいて転移領域全体の発光強度を比較したグラフである。
【
図10e】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、マウスにおいて転移領域全体の面積を比較したグラフである。
【
図11a】MEL-dKLAの癌転移抑制効果を比較するために、マウスにおいて発光因子を注入してがんの転移を比較した
グラフである。
【
図11b】MEL-dKLAの癌転移抑制効果を比較するために、マウスにおいて発光強度全体を比較した写真である。
【
図12a】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、がん発現マーカーであるCD44の発現を測定して比較したグラフである。
【
図12b】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、M2型マクロファージマーカーであるCCL22の発現を測定して比較したグラフである。
【
図12c】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、転移および浸透マーカーとして知られているHIF-αの発現を測定して比較したグラフである。
【
図12d】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、マクロファージマーカーとして知られているYm1の発現を測定して比較したグラフである。
【
図12e】MEL-dKLAの抗癌効果を比較するために、腫瘍細胞の移動および定着に関与するMMP-9の発現を測定して比較したグラフである。
【
図13a】MEL-dKLAによるM2型腫瘍関連TAM細胞数の選択的減少を比較するために、M1型腫瘍関連マクロファージの腫瘍基質内への潜入をCD45+F4/80+CD86+で染色して示したグラフである。
【
図13b】MEL-dKLAによるM2型腫瘍関連TAM細胞数の選択的減少を比較するために、M2型腫瘍関連マクロファージの腫瘍基質内への潜入をCD45+F4/80+CD206+で染色して示したグラフである。
【
図13c】MEL-dKLAによるM2型腫瘍関連TAM細胞数の選択的減少を比較するために、M1型腫瘍関連マクロファージの腫瘍基質内に潜入したCD45+F4/80+CD86+を表に変換して示したグラフである。
【
図13d】MEL-dKLAによるM2型腫瘍関連TAM細胞数の選択的減少を比較するために、M2型腫瘍関連マクロファージの腫瘍基質内に潜入したCD45+F4/80+CD206+を表に変換して示したグラフである。
【
図13e】MEL-dKLAによるM1/M2割合の変化を比較するためのグラフである。
【
図13f】MEL-dKLAによるCD4 T細胞の変化を比較するためのグラフである。
【
図13g】MEL-dKLAによるCD8 T細胞の変化を比較するためのグラフである。
【
図13h】MEL-dKLAによる制御性T細胞の変化を比較するためのグラフである。
【
図13i】MEL-dKLAによる樹状細胞の変化を比較するためのグラフである。
【
図14a】MEL-dKLAによるM2型腫瘍関連TAMの選択的細胞死を比較するためにM1を染色して示したグラフである。
【
図14b】MEL-dKLAによるM2型腫瘍関連TAMの選択的細胞死を比較するためにM2を染色して示したグラフである。
【
図14c】MEL-dKLAによるM2型腫瘍関連TAMの選択的細胞死を比較するために染色されたM1とM2の割合を示したグラフである。
【
図15a】MELおよびMEL-dKLAの抗-血管生長効果を比較するためにLLC腫瘍の内皮細胞を免疫蛍光染色を施した写真である。
【
図15b】MELおよびMEL-dKLAの抗-血管生長効果を比較するために区域当たりの血管の密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
製造例1.MELを活用した多様な抗がん剤の結合
【0050】
1-1.MEL-dKLA結合体
【0051】
MELの様々な抗がん剤薬物との結合の容易性を確認するためにdKLAの結合を行った。
【0052】
MEL(配列番号1)とdKLA(配列番号2)は、短いペプチドに該当するので、ペプチド間アミド結合により連結することができる。このとき、MELとdKLA間の相互作用およびフォールドを最小限に抑えるために、中間に4つのグリシンおよび1つのセリンからなるリンカーを配置して両端を区分した。KLAは、体内の分解を最小化するためにL型ではないD型異性体を使用した。
【0053】
1-2.MEL-DM1結合体
【0054】
MELの様々な抗がん剤薬物との結合の容易性を確認するためにDM1との結合を行った。
【0055】
より具体的には、メリチンはアミノ酸配列のN末端にMaleimide構造が合成されたものを購入した。Maleimideは、DM1が持つfree-sulfhydryl group(-SH)と共有結合をなすことができる。Boric acid BufferでメリチンとDM1を2時間反応させた後、amicon ultra centrifugal filters(Merk Millipore)を利用してPBSでBuffer exchangeおよび非結合メリチンをろ過した。メリチンは、約3k Daの分子量を有し、DM1が結合されると、3.6k Da以上の分子量を有するようになる。使用したフィルタは、3k Da以上の物質をろ過することで、DM1が結合されたメリチンを分離し、これはQ-TOF質量分析計で確認した。
【0056】
実施態様1-1.MELを通じたM2型マクロファージへのアポトーシスを惹起するペプチドdKLA伝達
【0057】
MEL-dKLAがM2マクロファージにおいてアポトーシスを誘導するか否かを調査するために、いくつかの容量のdKLA、MELおよびMEL-dKLA(0.1~1μM)で細胞の生存率を測定した。
【0058】
より具体的には、dKLA(配列番号2)、MEL(配列番号1)、MEL-dKLA(配列番号3;GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQGGGGS-d[KLAKLAKKLAKLAK])ペプチドと5-carboxyl tetramethylrhodamine(TMR)-conjugated dKLA、MELおよびMEL-KLAペプチドは、GenScript(Piscataway、NJ、USA)で購入した。TMRは、ペプチドのN-ターミナルに位置するアミノ基と結合され、すべてのペプチドは、95%以上精製されたペプチドを使用した。ネズミ科のルイス肺癌(Murine Lewis lung carcinoma;LLC)細胞とマウスのマクロファージRAW264.7は、10%の熱-不活性ウシ胎児血清(fetal bovine serum(Welgene))と100U/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシン(Invitrogen、CA、USA)が添加されたDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM;Welgene、Korea)で培養した。M2型に分化されたマクロファージ(RAW264.7)は、培地にIL-4とIL-13を24時間の間処理した。処理後には、細胞を48時間の間血清が不足した状態で培養した。M1型マクロファージは、LPS 1ng/mLを24時間処理して分化を誘導した。
【0059】
細胞生存率テストは、MTSアッセイを用いて測定した。RAW264.7マクロファージをM1型またはM2型マクロファージに分化させ、96ウェルプレートに3×104cells/well接種した。翌日、PBS、dKLA、MELおよびMEL-dKLAをそれぞれ処理した。24時間後、培養液を入れ替え、20μL MTS反応液(Promega、WI、USA)を細胞に処理して、37℃で反応させた後、490nmで蛍光を測定し、細胞生存力を測定した。
【0060】
その結果、
図1から見られるように、dKLAは真核細胞の膜を撹乱させることができないので、対照群として使用した。細胞生存率は、0.6~0.5μMのMEL-dKLAおよび79~71%のMELを処理し、24時間反応させたとき、約55~53%減少した。M2マクロファージに対するMEL-dKLAの半分最大抑制濃度(The half-maximal inhibitory;IC50)は、MELを単独で使用した時よりも低かった(0.85μM MEL-dKLA/0.6~0.8μM MEL)。しかし、M1マクロファージの生存率は、0.6~0.8μMのMEL-dKLAを処理したとき86~66%、0.6~0.8μMのMELを処理したとき74%であった。したがって、前記マクロファージを相手にしたMELとMEL-dKLA両物質間のIC50テストでは、有意義な差がないことが確認された(
図1a、b)。
【0061】
また、MEL-dKLAが腫瘍細胞のランダム死を惹起するか否かを調査するためにin vitroでPI染色を通じて細胞周期を調べた。
【0062】
より具体的には、細胞を70%の冷エタノールで固定し、20℃で24時間保管した後、0.1%のTriton X-100と20μg/mlのRNaseを含むPBSにpropidium idodide(PI)を50μg/ml濃度になるように混ぜて細胞に施し、フローサイトメトリ方法を使って測定した。
【0063】
その結果、0.1~1μMのMEL-dKLAは、LLC腫瘍細胞に対して細胞毒性を示さなかった(
図1c)。
【0064】
実施態様1-2.MEL-dKLAのミトコンドリア膜撹乱によるM2マクロファージのアポトーシス
【0065】
M2マクロファージの死がMEL-dKLA処理によるミトコンドリア膜撹乱によって惹起されたか否かを確認するために、フローサイトメトリを行った。
【0066】
より具体的には、Annexi n V-fluorecein isothiocyanate(FITC;BD Biosciences、CA、USA)およびMitoTracker RedBOX(Invitrogen)で細胞を染色した。細胞は、24ウェルプレートに5x105cells/well接種し、翌日、0.8μMペプチドを処理した。処理1、3、そして6時間後、細胞を無血清培養液で1時間250nM MitoTrackerと反応させた。それから細胞を回収し、Annexin Vと再び反応させた。反応させた細胞をBD FACSCaliburで測定し、FlowJo software(Treestar、Inc.、CA、USA)を使って分析した。MitoTrackerは、膜電荷に応じて原形質膜を通過してミトコンドリア内に蓄積されることができる。すなわち、生細胞のミトコンドリア膜では、染色を確認することができるが、膜撹乱によってアポトーシスが行われる細胞に対しては染色が難しい。
【0067】
その結果、
図2~3から見られるように、M1マクロファージは、MELおよびMEL-dKLAペプチドを1、3時間処理したときの効果が見られず、6時間処理したとき、MitoTracker染色が低くなり、Annexin V+染色が増加したが、有意義な変化は見られなかった(
図2)。しかし、M2マクロファージでMEL-dKLAを6時間処理すると、相当数の細胞が死ぬことが確認された。一方、MELおよびdKLAを単独で使用した場合には、有意義な差を発見することができなかった(
図3)。
【0068】
実施態様1-3.MELによるM2型マクロファージへのアポトーシスを惹起する抗がん剤DM1伝達
【0069】
MEL-DM1がM2マクロファージでアポトーシスを誘導するか否かを調査するためにDM1、MELおよびMEL-DM1を細胞に施し、細胞の生存率を測定した。
【0070】
MEL-DM1抗がん剤結合方法および細胞の実験方法は、上述した通りである。
【0071】
その結果、
図4から見られるように、MELおよびDM1をそれぞれ処理したときより、MEL-DM1結合体を処理したとき、より高いM2選択的アポトーシス効果が確認され、MEL-抗がん剤結合体は、より優れた効果を示すことが確認された。
【0072】
実施態様2.MEL-dKLAによる代謝作用の変化を測定
【0073】
MEL-dKLAがミトコンドリアの代謝作用に及ぼす影響を測定するために海馬のアッセイを行った。
【0074】
より具体的には、代謝作用の測定は、XF24 Extracellular Flux analyzer(Agilent、CA、USA)を使って測定した。M2に分化されたRAW264.7細胞をXF-24プレートに(3x104cells/well)に接種し、翌日、状況の変化による潜在的なストレスを最小限にするため、各ペプチド1μMを施し、5% CO2の条件である37℃インキュベーターで培養した。しばらく培養に適応化した後には4500mg/L D-glucose(w/v)、1mMピルビン酸ナトリウム、4mML-グルタミンを添加した500μL XF running培養液(pH7.4)に細胞を接種した後、二酸化炭素がない37℃環境で培養し、代謝毒素(1μMオリゴマイシン、0.5μM carbonyl cyanide p-trifluoromethoxy-phenylhydrazone[FCCP]、0.5μM rotenoneとantimycin A[Rot/AA])は、薬物ポートに担持した。その後、薬物を添加して、細胞内酸素消費率(OCR)と細胞外酸性化率(ECAR)をリアルタイムで測定した。
【0075】
また、OCRは12回の時点で測定した。3回は基底状態、3回はオリゴマイシン添加後、ATP-連結呼吸、3回はFCCP添加後、最大呼吸、および残りの3回はRot/AA添加後、非-ミトコンドリア性呼吸を示すポイントを測定し、ミトコンドリアの呼吸能力を測定した。その作用の割合を示すECARも同じポイントで測定した。
【0076】
その結果、
図5~6から見られるように、MEL-dKLAグループの基底呼吸率はPBSグループに比べて著しく低下した。しかし、dKLAあるいはMELのみを処理した場合には、PBSに比べて基底OCRの変化が見られなかった(
図5a、b)。また、MEL-dKLAは著しくATP生産を減少させた(
図5a、d)。また、MEL-dKLA処理を行う場合、最大呼吸が著しく低下した(
図5a、e)。基底解糖作用能力は有意義な変化が示されず、オリゴマイシンを処理するとすべてのグループで上昇した(
図5b)。エネルギー標準型でもMEL-dKLAが基底状態、ストレス状態の両状態でいずれも呼吸能力を低下させたことが確認された(
図6a、b)。しかし、基底ECARは、MEL-dKLA処理によって抑制されないが、MEL-dKLAによってストレスを受けていた状況のグループにおいて、ECARはdKLAグループに比べてやや減少した。しかし、PBSグループとMEL-dKLAグループを比較して有意義な差は示されなかった(
図6a、c)。
【0077】
これにより、細胞質の解糖作用では、MEL-dKLAの影響が微々たることを確認し、よってミトコンドリア呼吸の機能異常は、ミトコンドリアを標的としたMEL-dKLAによるものであることを知ることができた。
【0078】
実施態様3.MEL-dKLAの選択的なミトコンドリア内への浸透力を測定
【0079】
M2型マクロファージのミトコンドリア内MEL-dKLAの浸透および位置を確認すべく染色を通じて蛍光顕微鏡で確認した。また、定量分析のためにPASCAL 5 LSM画像計測を行った。
【0080】
より具体的には、M2に分化されたRAW264.7マクロファージを1μMのTMR-結合dKLA、MELまたはMEL-dKLAと一緒に2時間培養した。非結合ペプチドは、洗浄で洗い流した後、細胞を250nM MitoTracker green(Invitrogen)で30分間染色した。染色した後、細胞は再び4μg/mL 4’6-diamidino-2-phenylidole(DAPI;Sigma-Aldrich、MO、USA)を添加したPBSに10分間染色した。染色された細胞は、レーザースキャンコンフォーカル顕微鏡(Carl Zeiss、Germany)で測定し、ミトコンドリア内MEL-dKLAの位置確認はLSM5画像測定器(Carl Zeiss)で測定した。
【0081】
その結果、
図7から見られるように、前記画像測定によりミトコンドリア内にMEL-dKLAがかなり存在していることが確認されたが、MELは確認されず、dKLAは少ない数の細胞に結合したことが確認された(
図7a)。また、唯一MEL-dKLAのみミトコンドリアと正の相関関係(positive correlation)を見せ、dKLAおよびMELはミトコンドリアと関連性を示さなかった(
図7b)。
【0082】
これにより、MEL-dKLAは選択的にミトコンドリアに反応し、浸透することができることが確認された。
【0083】
実施態様4.MEL-dKLAによるマウスの腫瘍細胞増殖抑制効果の測定
【0084】
実施態様4-1.MEL-dKLAによるマウスの肺がん細胞抑制効果の測定
【0085】
MEL-dKLAとMELの抗癌効果をin vivoで比較するために、肺癌細胞を持つマウスにPBS、dKLA、MELもしくはMEL-dKLAペプチドを注射した後、腫瘍の変化を確認した。
【0086】
より具体的には、C57BL/6野生型マウスは、DBL(Korea)で購入し、LLC腫瘍細胞は、マットリゲル(Corning、NY、USA)と混ぜてマウスの右脇腹に注射した(5×104cells/mouse)。腫瘍細胞を注入し、5日後に、組換えられたdKLA、MELおよびMEL-dKLAペプチドは、3日間(175nmol/kgずつ体重/重量)腹腔内に計3回注射した。すべての腫瘍組織は、注射後12日後に回収した。前記動物実験は、慶熙大学校、動物管理委員会の承認を受けており[KHUASP(SE)-17-087]、動物は病原菌のない12時間の光/闇サイクル環境で水や食料の自律配食で管理した。
【0087】
その結果、
図8から見られるように、PBSおよびdKLAを注射したマウスからは、着実にマウスの腫瘍が育つことが確認された。MEL-dKLA注射は、PBSを注射した対照群に比べて大幅に腫瘍の成長を阻害した。また、dKLAを注射したグループと比較したときも、腫瘍の大きさと重量がかなり減少したことを確認した(
図8a、b)。また、MELを注射したグループでもかなり腫瘍の大きさが減少したことを確認した。ここで重要なのは、MEL-dKLAを投与したグループからdKLAグループに比べて大幅に腫瘍の大きさと重量が減少したことが示されたことである(
図8c)。その反面、すべてのグループにおいてマウスの体重は変わらなかったことが確認された(
図8d)。
【0088】
これにより、肺がんでMEL-dKLAが、他のペプチドと抗がん剤単独処理よりもはるかに腫瘍の生長と転移を抑制することが確認された。
【0089】
実施態様4-2.MEL-dKLAによるマウスの乳がん細胞抑制効果の測定
【0090】
MEL-dKLAとMELの腫瘍抑制および癌転移抑制効果を測定するために腫瘍を確認し、染色を通じて肺の転移程度を確認した。
【0091】
より具体的には、4T1乳がん細胞(1x105)をBALB/cマウスに注射し、3日後に175nmol/kgのPBS、dKLA、MELおよびMEL-dKLAを3日間隔で、それぞれのグループに注射した。転移の程度と肺表面の結節を調査するために、癌細胞注射15日後に、マウスを犠牲にして、肺の表面結節を確認した。
【0092】
その結果、
図9から見られるように、MEL-dKLAを処理したグループからは肺の表面の結節が著しく減ったが、MELおよびdKLAを単独で処理したグループから結節の減少が起こらなかったことが確認された(
図9a)。
【0093】
また、通常の方法でH&E染色を施し、肺の転移程度を測定した。
【0094】
より具体的には、H&E染色はhematoxylin溶液に組織を浸し、細胞の核を紫に染めた後、酸性アルコール溶液で核を除いた残りの染色を除去し、エオシンが添加された溶液に組織を再び浸し、細胞をピンク色に染めて細胞の構造を観察した。
【0095】
その結果、
図9から見られるように、PBSおよびdKLAを処理したグループからは腫瘍細胞が広く広がり、転移が起こったことが確認された。一方、MELおよびMEL-dKLAを処理したグループからは比較的少ない転移が起こったことが確認された(
図9b)。しかし、MEL-dKLAは結節の数を大幅に減少させたのに対し、MELを単独で処理したときは、有意義な結節の数の減少は、起こらなかった(
図9c)。
【0096】
また、蛍光物質4T1-ルシフェラーゼ(luciferase)をマウスに注入してMEL-dKLAが腫瘍の成長と転移に及ぼす影響を蛍光を通じて確認した。
【0097】
より具体的には、まず、乳がん細胞を乳房に同位移植したとき、MEL-dKLAが腫瘍の成長と転移に及ぼす影響を確認するため、4T1-ルシフェラーゼ乳がん細胞(1x105)を免疫不全マウスであるNOD-SCIDマウスに注射した。5日後、4回、乳腺で腫瘍塊が育ち始めた時点から175nmol/kgのPBS、dKLA、MELおよびMEL-dKLAを3日に一度、各グループに注射した。腫瘍の成長を測定するためにcaliper機器を利用して、3日に一度、腫瘍の大きさが測定され、すべての腫瘍組織は、注射後4週間後に回収した。腫瘍移植4週目、腫瘍のリンパ節および肺への転移を確認するために腹腔投与でルシフェラーゼ酵素の基質であるルシフェリン(D-luciferin)を40mg/mlの濃度に希釈して、100μlずつマウスに投与した。約15分間反応させた後、in vivo imaging機器であるNightOwl(Berthold Technologies)を使用して発光を測定し、マウスの写真と一緒に分析して、全身および肺への転移程度を分析した。前記動物実験は、慶熙大学校、動物管理委員会の承認を受けており[KHUASP(SE)-18-133]、動物は病原菌のない12時間の光/闇サイクル環境で水や食料の自律配食で管理した。
【0098】
ひいては、腫瘍細胞の転移を確認するために、尾静脈を介して4T1-ルシフェラーゼ乳がん細胞(1x105)をBALB/cマウスに注射した。3日後から175nmol/kgのPBS、dKLA、MELおよびMEL-dKLAを3日に一度、各グループに注射した。癌細胞注射15日後に、腹腔投与でルシフェラーゼ酵素の基質であるルシフェリン(D-luciferin)を40mg/mlの濃度に希釈して、100μlずつマウスに投与し、約15分間反応させた後、NightOwl(Berthold Technologies)を使用してマウスの写真と一緒に全身及び肺への癌細胞定着および転移の程度を分析した。
【0099】
その結果、
図10~11から見られるようにPBSを処理したグループからは、乳腺における乳がん塊が急速に成長したことが確認できた。MEL-dKLAを処理したグループからは乳がん細胞の成長を効果的に低減し、MELおよびdKLAを単独処理したグループからは乳がんの成長の減少効果が有意に起こらなかった(
図10a~10c)。脇のリンパ節と肺への転移を確認した結果からも同様にPBSグループでは転移が起こった面積が広く、転移部位の発光値が非常に高いことが確認できた。dKLAやMELグループでは、転移面積上、PBSグループと大きな差異はなく、発光数値は減少する傾向を示したが、有意性を示さなかった。MEL-dKLAで転移がほとんど観察されず、転移面積および発光数値が有意に減少したことが確認された(
図10d、e)。
【0100】
また、腫瘍細胞の転移性を確認するための実験においても同様にPBSおよびdKLAを処理したグループでは、癌細胞の発光値が全身で高く測定され、MELを処理した場合、PBSまたはdKLAに比べ転移が減少したことが確認された。MEL-dKLAグループでは、肺における癌細胞の発光値が非常に低く測定されており、全身からもMELに比べても有意に低い転移性が示された(
図11)。
【0101】
これにより、乳がんでMEL-dKLAが他のペプチドおよび抗がん剤を単独で処理したときよりもはるかに腫瘍の生長と転移を抑制することが確認できた。
【0102】
実施態様5.MEL-dKLAの腫瘍転移遺伝子発現程度の測定
【0103】
MEL-dKLAの腫瘍転移抑制能力を測定するために、細胞外基質リガンドと相互作用して、転移と浸透を促進し、癌から多く発現されるとして知られたCD44、M2型マクロファージマーカーとして知られているCCL22、血管の生成、転移および浸透マーカーとして知られているHIF-1 α、M2型マクロファージマーカーであるYm1、腫瘍細胞の移動および定着に関与するMMP-9の発現を定量real-time PCRを使って測定した。
【0104】
より具体的には、肺組織からeasy-BLUE RNA抽出キット(iNtRON Biotechnology、Korea)を使ってRNAを抽出し、cyclescript reverse transcriptase(Bioneer 、Korea)マニュアルに沿ってcDNAを合成した。cDNA合成の条件は、95で15秒、55で10秒、72で10秒であり、各反応は3回行った。その後、CD44:forward、(配列番号4;5’-TGGATCCGAATTAGC TGGA-3’);(配列番号5;reverse、5’-GCTTTTTCTTCTGCCCACA-3’); CCL22:forward、(配列番号6;5’-TCCCAGGGGAAGGAATAAA-3’);reverse、(配列番号7;5’-GGTTTGGATCAA GCCCTTT-3’);HIF-1α:forward、(配列番号8;5’-TCCCTTTTTCAAGCAGCAG-3’); reverse、(配列番号9;5’-TGCCTTGTATGGGAGCATT-3’);Ym-1:forward、(配列番号10;5’-CATTCAGTCAGTTATCAGATTCC-3’);reverse、(配列番号11;5’-AGTGAGTAGCAGCCTTGG-3’);MMP-9:forward、(配列番号12;5’-TGAATCAGCTGGCTTTTGTG-3’);reverse、(配列番号13;5’-GTGGATAGCTCG GTGGTGTT-3’);プライマーを用いて、the SensiFAST SYBR no- Rox kit(Bioline 、Korea)を使って定量real-time PCRを行った。
【0105】
その結果、
図12から見られるように、WTと比較してPBSを処理したグループにおいてCD44発現が顕著に増加し、MEL-dKLAを処理したグループはPBS、dKLA、MELを処理したグループよりもCD44発現レベルが著しく低下した(
図12a)。CCL22およびHIF-1αもWTに比べてPBSを処理したグループにおいて発現が増加したが、MEL-dKLAを処理したグループでは著しく低くなることを確認した。一方、dKLAおよびMELを処理したグループではPBSグループと大きく変わらないことを確認した(
図12b~12c)。Ym1の場合、PBSグループに比べてdKLAグループではむしろ大幅に増加することが確認され、MELおよびMEL-dKLA処理グループではPBSグループと特別の差は見られなかった(
図12d)。MMP-9の発現は、PBSグループおよびdKLAグループで高く測定され、MELを処理したグループでは、PBSグループと比べたとき、低くなることが確認された。一方、MEL-dKLAを処理したグループでは、MELを処理したグループよりもMMP-9の発現レベルがより低くなることが確認された(
図12E)。
【0106】
これにより、MEL-dKLAがMELおよびdKLAを単独で使用したときよりも、顕著に高い腫瘍の転写因子発現抑制効果があることを確認した。
【0107】
実施態様6.フローサイトメトリを使ったCD206+M2型腫瘍関連TAMを標的とするMEL-dKLA分析
【0108】
in vivoにおいてMEL-dKLAペプチドをM2型腫瘍関連TAMを標的とするペプチドとして使用できるか否か確認するために、腫瘍組織を培養し、これらを染色して個別に分析し、細胞の増加を確認した。
【0109】
より具体的には、腫瘍細胞を薄くつぶし、DNaseI(1U/mL)およびCollagenase D(1mg/mL)が添加されたDMEMで分離した。組織は、37℃で1時間弱く攪拌し、100-μMナイロン網フィルターで分離した。赤血球はPhrmlyse buffer(BE bioscience)で溶解した。個別の細胞は、40μmのナイロン網フィルターを通過して、次の抗体で染色した。CD4+T細胞(CD45+CD4+CD8-)、CD8+T細胞(CD45+CD4-CD8+)、Foxp3+制御性T細胞(CD4+CD25+Foxp3+)、樹状細胞(CD45+CD11b+CD11c+)およびM1(CD45+F4/80+CD86+)またはM2マクロファージ(CD45+F4/80+CD206+):抗-CD45-FITC、抗-CD4-phycoerythrin(PE)、抗-CD8-allophycocyanin(APC)、抗-CD4-FITC、抗-CD25-PE、抗-Foxp3-Alexa Fluor647、抗-CD11b-APC、抗-CD11c-APCcy7、抗-Gr1-PEcy7、抗-CD86-PEcy7および抗-CD206-APC抗体。Annexin-Vは、プレマクロファージ細胞率を測定するために、すでに処理した。
【0110】
その結果、
図13から見られるように、F480+CD86+M1型腫瘍関連マクロファージは、PBSおよびdKLA投与グループと比較して、MEL投与グループではやや増加したがdKLAグループと有意義な差は確認できなかった。一方、MEL-dKLAを投与したグループでは、MELグループと比較してF480+CD86+M1型腫瘍関連マクロファージが大幅に増加することを確認した(
図13a、c)。PBSおよびdKLA投与グループにおいてCD45+白血球内M2型腫瘍関連F4/80+CD206+TAMの割合は、約20%であった。MELグループとMEL-dKLAグループではPBSグループに比べてM2型腫瘍関連TAM細胞が半分ほど減少し、約10%の割合であることを確認した(
図13b、d)。しかし、M1/M2の割合は、MELグループに比べてMEL-dKLAグループではるかに高いことを確認した。たとえM2型腫瘍関連TAMは、MELとMEL-dKLAグループでPBSとdKLAグループに比べて大幅に低くなったが(
図13e)、CD4 T細胞、Foxp3+Tregs、CD8 T細胞と樹状細胞のようなその他の白血球には変化がなく、これらには影響を与えないことが確認された(
図13f~13i)。
【0111】
また、マウス内でM2型腫瘍関連TAM細胞が選択的にアポトーシスされたことを確認するために、M1型腫瘍関連TAM(F4/80 CD86+)およびM2型腫瘍関連TAM(F4/80 CD206+)をそれぞれAnnexin-Vで染色した。
【0112】
その結果、
図14から見られるように、CD86+M1型腫瘍関連TAMはAnnexin染色された細胞の増加が対照群PBSグループと比較して、すべてのグループで見られなかった(
図14a)。また、MELおよびMEL-dKLAグループでM2型腫瘍関連TAMの減少が起きたが、かなりの量のCD206+M2型腫瘍関連TAM細胞死は、唯一MEL-dKLA投与グループでのみ確認できた(
図14b)。MEL-dKLAの投与によるアポトーシスの割合は、M1型腫瘍関連TAMよりM2型腫瘍関連TAMではるかに多く示された(
図14c)。
【0113】
これにより、MEL-dKLAは選択的にM2型腫瘍関連TAMのアポトーシスを誘導し、MEL処理したときよりM1/M2の割合がはるかに増加したことを確認した。
【0114】
実施態様8.腫瘍内CD206+TAMの減少と抗-血管生長効果との関係
【0115】
CD31(PECAM-1)は、血管内皮で活発に分泌され、血管生長を事前に知ることができるマーカーとしてよく知られている。腫瘍の血管生長は、腫瘍内の酸素が低い地域への酸素と栄養分を供給するための必須手段であり、がんの成長と転移とも密接している。M2-二極化マクロファージは、血管生長要素の主な前駆体としてcyclooxygenase-2、matrix metalloproteinase-9およびVEGFを含み、マクロファージの密度も血管生長と関連がある。したがって、腫瘍内M2型腫瘍関連TAMの減少が血管生長の減少を惹起するか否かを確認するため、免疫染色を施し、コンフォーカルを利用して確認した。
【0116】
より具体的には、組織をパラホルムアルデヒドと一緒に24時間乾燥した。その後、ロータリミクロトーム(rotary microtome)を用いて、4μmの厚さに切り、tri-sodium citrate bufferと一緒に1分間オートクレーブして復元した。復元された組織切片は、抗-マウス血清内皮細胞接着物質(PECAM;CD31)抗体(1:200;santa Cruz Biotechnology、CA、USA)とAlexa-488と結合した抗-ウサギ二次抗体(1:500;Invitrogen)と一緒に培養して可視化した。染色後の切片は、マウントして、レーザー走査コーンフォーカル顕微鏡(Carl Zeiss)で分析した。すべての画像はLSM5 PASCALで撮影し、ImageJ softwareを用いて蛍光値を分析した。
【0117】
その結果、
図15から見られるように、MELとMEL-dKLAグループ両方著しいCD31+内皮細胞の減少が確認された(
図15a、b)。
【0118】
これにより、血管生長の抑制は、M2型腫瘍関連TAMの減少と関連があることを確認した。
【0119】
腫瘍基質内TAM濃度は、腫瘍の成長、転移および血管生長と密接な関連がある。しかし、単純にマクロファージを減らす方法は、効果的な前記腫瘍の成長および血管生長のような問題を解決することができなかった。本発明により、向上された抗がん効果は、M1/M2の割合が高いことと関連があるものと思われた。本発明のMEL-dKLAは、選択的にM2型腫瘍関連TAMを減少させ、効果的にM1/M2の割合を向上させ、ミトコンドリアの自殺を誘導し、腫瘍の成長および血管生長を抑制した。したがって、MEL-dKLAは効果的にM2型腫瘍関連TAMを標的とする癌治療薬として使用することができるであろう。
【0120】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更しないで他の具体的な形で実施されうることを理解できるであろう。これに関連し、上述した実施態様は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものでないということを理解しなければならない。本発明の範囲は、前記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【配列表】