(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】制動距離を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/172 20060101AFI20230228BHJP
F16D 66/00 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
B60T8/172 Z
F16D66/00 A
(21)【出願番号】P 2021527992
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 EP2019079499
(87)【国際公開番号】W WO2020104148
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】102018129132.9
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80,D-80809 Muenchen,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミクローシュ クレーマー
(72)【発明者】
【氏名】フェレンツ セーケイ
(72)【発明者】
【氏名】ファルク ヘーレ
(72)【発明者】
【氏名】キアナ ラーネマ
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-015680(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011113024(DE,A1)
【文献】特開昭62-074757(JP,A)
【文献】特開2003-242182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0236992(US,A1)
【文献】特表2015-509884(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091337(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/172
F16D 66/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動距離を決定するため
に、コンピュータにおいて実行される方法であって、
当該方法は、
S1:ブレーキライニングとブレーキディスクと間の押し付け力Fb、車両速度V、および周囲温度Tambientを入力
を受け付けるステップ、
S2:摩擦層の温度Tdiscを計算するステップ、
S3:前記ブレーキライニングと前記ブレーキディスクとの間の摩擦係数COFactualを計算するステップ、
S4:所定の時間間隔の部分制動距離S’を計算して、Vを更新するステップ、
S5:V=0になるまでS2~S4を繰り返すステップであって、それぞれの繰り返しごとに、S2を用いてTdiscが更新され、S3を用いてCOFactualが更新され、次の時間間隔にわたる新しい部分制動距離S’が計算され、車両速度Vが更新されるステップ、
S6:S4の全てのS’を積分して、合計制動距離Stotalを決定するステップ
を有する、方法。
【請求項2】
前記ステップS4において、追加的な制動
力が、決定において考慮される、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップS4において、電気力学的ブレーキおよび/または磁気レールブレーキによって生成された制動力が、決定において考慮される、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ステップS4において、前記時間間隔を設定可能である、
請求項1
から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法
の各ステップを
コンピュータに実行
させるための、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦ブレーキにおける車両の制動距離を決定するための方法に関する。
【0002】
制動距離は、車両の制動システムの制動性能の重要な指標である。列車の承認を目的として制動性能を評価するためのUIC544-1規格では、時間ステップ法によって制動距離を決定するための方法が企図されている。しかしながら、このような形式の従来の制動距離決定は、ブレーキライニングとブレーキディスクとの間の摩擦係数(COF)が決定全体を通して一定であることを前提としている。
【0003】
したがって、本発明の課題は、車両の制動距離の決定/推定の精度と、これに関連して車両の制動性能の評価の精度とを向上させるための方法を提供することである。
【0004】
上記の課題は、請求項1記載の制動距離を決定するための方法によって解決される。本発明のさらなる有利な発展形態は、従属請求項の対象である。
【0005】
ブレーキライニングとブレーキディスクとの間の摩擦係数(COF)が決定全体を通じて一定であるという仮定は、しかしながら現実には即していない。したがって、制動距離の計算/推定の結果は、多くの場合、現実から大きく逸脱することとなる。実際には、摩擦係数(COF)は、温度に大きく依存している。列車の走行中、摩擦層(ディスク表面または車輪踏面)の温度は、例えば、初期速度の大きさ、ブレーキディスクに作用する制動力の大きさのような種々異なる制動状況によって、またはブレーキディスクの熱的特性によって異なる。さらに、列車に対して比較的大きな負荷が加わっている場合には、摩擦層の温度が上昇する。
【0006】
本発明による方法は、制動距離を決定する際に、現在の車両速度、ブレーキライニングとブレーキディスクとの間の計算上の押し付け力、およびとりわけ、摩擦係数の表面温度依存性を考慮する。本方法はさらに、ディスクおよびライニングの加熱と、摩擦係数の変化とを同時に考慮する。なぜなら、摩擦係数は、制動時の車両速度の推移をもたらし、摩擦層の温度は、車両速度によって評価可能であり、摩擦係数自体は、摩擦層の温度に依存しているからである。すなわち、制動プロセス中に、加熱プロセスおよび摩擦プロセスの両方が同時に考慮されるということである。なぜなら、これら両方のプロセスは、互いに依存し合っているか、または互いに影響し合っているからである。
【0007】
本発明による方法を、図面に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による制動距離を決定するための方法の最も重要なステップを示すフローチャートである。
【
図2】
図1のステップを別の表現で示すフローチャートである。
【0009】
図1および
図2は、本発明による車両の制動距離を決定するための方法の最も重要なステップを示す。
【0010】
まず始めに、ディスクとブレーキライニングとの間の押し付け力Fbと、車両速度(初期速度)Vと、制動プロセスが開始する時点t0における周囲温度Tambientとが、制動距離推定器のCOF推定器に入力される(S1)。その場合、S1での車両速度Vは、初期速度V(t0)である。
【0011】
次に、摩擦層の温度Tdisc(t0)が熱関数を用いて計算され(S2)、熱関数は、決定するためのパラメータとして少なくともFb,V(t0),Tambientを考慮する。
【0012】
その後、時点t0での摩擦係数COFactual(t0)がCOF関数を用いて計算され(S3)、熱関数は、決定するためのパラメータとして少なくともFb,V(t0),Tdisc(t0)を考慮する。摩擦係数COFの計算は、例えば、以下の形式の実験式:
COF_i=a+b*Fb_(i-1)+c*Fb^2_(i-1)+d*v_(i-1)+e*v^2_(i-1)+f*T_(i-1)+j*T^2_(i-1)
によって実施され、なお、a,b,c,d,e,f,jは、適切に選択されたパラメータである。
【0013】
次に、t0からt1までの所定の時間間隔Δtにわたる部分制動距離S’1が、車両ダイナミクス関数を用いて計算され(S4)、なお、t1は、計算のために仮定される次の時点を意味し、Δt=t1-t0が当てはまる。時間間隔Δtは、車両ダイナミクス関数における変数として設定可能である。車両ダイナミクス関数は、計算するためのパラメータとして少なくともFb,V(t0),COFactual(t0)を考慮する。S4では、並行してさらにV(t1)、すなわち時点t1での車両速度が計算される(なお、Rm=ライニング/ディスク間の平均摩擦半径であり、R=車輪半径であり、m=静的質量(=重量)であり、Cは、静的質量=>動的質量の変換係数である。例えば、C=1.1は、静的質量に加えてさらに制動されなければならない10%の回転質量を意味する)。
【0014】
ステップS5では、車両速度Vが最終速度(例えば、ゼロ)に相当するまで、すなわち制動プロセスが終了するまで、ステップS2からS4が繰り返される。
【0015】
以下では、S5の計算の原理を説明するために、S5の意味での繰り返しについて説明する。次に、熱関数は、最後のS3からの摩擦係数COFactual(t0)の結果と、最後のS4からの車両速度V(t1)の結果とを取得し、摩擦層の温度を再計算して、Tdisc(t1)が得られる(S2)。その後、COF関数は、摩擦層の更新された温度Tdisc(t1)と、車両速度V(t1)とを取得し、摩擦係数を再計算して、COFactual(t1)が得られる(S3)。Fbは、外部から(例えば、制動力配分アルゴリズムによって)指定される。単純なケースでは、Fb=定数であり、すなわち特別なケースである。積分ステップの間、Fbは、一定のままである。Tambientは、Fbのためには使用されず、(それぞれのステップにおいて)Tdiscを計算するためだけに使用される。
【0016】
次に、車両ダイナミクス関数は、新しい摩擦係数COFactual(t1)を取得し、t1からt2までの時間間隔Δtにわたる部分制動距離S’2を計算し、なお、Δt=t2-t1が当てはまる。車両ダイナミクス関数は、これに並行してさらにV(t2)、すなわち時点t2での車両速度を計算する。その後、S5において、車両速度がゼロになる(V=0)まで、時点t3,t4,t5,・・・についてS2~S4の計算が繰り返される。
【0017】
最後に、全ての部分制動距離S’1,S’2,・・・が合計または積分され、これによって合計制動距離Stotalが計算される(S6)。
【0018】
本発明の方法は、ディスクとライニングとの間の動的な摩擦係数COFと、摩擦層の動的な温度Tdiscとを考慮し、COFおよびTdiscは、全ての個々の計算ステップごとに計算および更新される。ここから、現実に近似した制動距離の結果を計算/推定することができる。時間間隔Δtを小さく設定すればするほど、制動距離全体の結果Stotalがより正確になる。