(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】法面安定化擁壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20230228BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
E02D29/02 302
E02D17/18 A
(21)【出願番号】P 2022049209
(22)【出願日】2022-03-25
【審査請求日】2022-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】加来 哲也
(72)【発明者】
【氏名】早川 道洋
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-055519(JP,A)
【文献】特開2002-054159(JP,A)
【文献】特開2003-232047(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2019193(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山中に補強材を埋設し、その頭部を表面側に定着して法面に擁壁パネルを固定した後、この固定済みの擁壁パネルの上に、前記擁壁パネルに直接、もしくは間接的に隣接する上段側の擁壁パネルを吊り込み、前記固定済みの擁壁パネルに前記上段側の擁壁パネルを連結する工程と、
前記上段側の擁壁パネルとその上側の前記法面との間に、前記上段側の擁壁パネルを前記法面に支持させる支持部材を跨設する工程と、
前記上段側の擁壁パネルを前記固定済みの擁壁パネルと前記法面とに仮支持させながら、前記上段側の擁壁パネルを貫通させて前記補強材を地山中に埋設すると共に、前記補強材に引張力を付与した状態で、前記補強材の頭部を前記上段側の擁壁パネルの表面に定着する工程とを経て前記法面に固定された少なくとも2段の擁壁パネルを有する法面安定化擁壁を構成することを特徴とする法面安定化擁壁の構築方法。
【請求項2】
前記支持部材を跨設する工程において、前記法面に固定された前記上段側の擁壁パネルの上部にその上端から上方へ突出する連結部材を接続し、この連結部材に前記支持部材を接続することを特徴とする請求項1に記載の法面安定化擁壁の構築方法。
【請求項3】
前記上段側の擁壁パネルを貫通する前記補強材への引張力の付与前に前記上段側の擁壁パネルの背面と前記法面との間に埋め戻し土を充填することを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の法面安定化擁壁の構築方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の
法面安定化擁壁の構築方法により前記上段側の擁壁パネル
を前記法面
に固定
した後、前記支持部材を前記固定された前記上段側の擁壁パネルから外し、この前記固定された前記上段側の擁壁パネルの上に、この上に隣接する新規上段側の擁壁パネルを吊り込み、前記上段側の擁壁パネルと前記新規上段側の擁壁パネルとの間に補助連結部材を跨設し、この上下に隣接する2枚の擁壁パネルを連結する工程と、
前記新規上段側の擁壁パネルとその上側の前記法面との間に、前記上段側の擁壁パネルから外された前記支持部材を跨設し、前記新規上段側の擁壁パネルを前記固定された前記上段側の擁壁パネルと前記法面とに仮支持させながら、前記新規上段側の擁壁パネルを貫通させて前記補強材を地山中に埋設すると共に、前記補強材に引張力を付与した状態で、前記補強材の頭部を前記新規上段側の擁壁パネルの表面に定着する工程とを経て前記法面に固定された少なくとも3段の擁壁パネルを有する法面安定化擁壁を構成することを特徴とする法面安定化擁壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は法面に沿って配列する擁壁パネルを法面の下方側から上向きに設置し、法面を安定化させる擁壁を構築する法面安定化擁壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地山への掘削(切土)により形成された法面を崩落に対して安定化させる目的で、法面に沿って擁壁パネルを高さ方向に配列させて擁壁を構築する方法には、擁壁パネルを最上段側から下段側へ向かって設置していく方法(特許文献1~3参照)と、下段側から上段側へ向かって設置していく方法(特許文献4~6参照)とに大別される。前者の方法は主に法面の頂部のレベルが決まっている場合に実施され、後者の方法は主に法面の下端のレベルが決まっている場合に実施される。
【0003】
擁壁パネルを下段側から上段側へ向かって設置していく場合には、最下段の擁壁パネルの設置前に、最下段の擁壁パネルを支持するための基礎コンクリート等の受け部材を構築するか、設置することが必要になる。また受け部材に支持させながら、法面に擁壁パネルを設置する際に、擁壁パネルの自重を法面にも支持させる必要があるため、法面の角度を擁壁パネルの傾斜角度に合わせて調整しておくことも必要になる(特許文献4~6)。
【0004】
法面の角度を調整することは、法面(地山)の表面を擁壁パネルの背面の位置に合わせて均すことであるため、法面の場合には均し作業に手間と時間を要する。法面の表面にコンクリート層やモルタル層を形成する方法(特許文献5、6)によれば、法面の表面に多少の不陸があっても均し易いが、コンクリート層等の形成に手間と時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-34464号公報(請求項1、段落0005~0018、
図6~
図8)
【文献】特開2010-106433号公報(段落0020、
図4~
図8)
【文献】特開2012-246706号公報(請求項1、段落0012~0016、
図2~
図5)
【文献】特開平1-223219号公報(公報第2頁下右欄第9行~第3頁上右欄第9行、第4図)
【文献】特開平6-101241号公報(請求項1、段落0010~0012、
図1、
図2)
【文献】特開2007-262773号公報(請求項1、段落0031~0041、
図9~
図14)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば法面の水平面に対する傾斜角度を、構築予定の擁壁の水平面に対する傾斜角度より小さくしておけば、法面の角度調整のための均し作業を省略することができるが、擁壁パネルを法面に設置したときに、擁壁パネルの背面と法面との間に空隙が生じる。擁壁パネルの背面に空隙が存在した状態で擁壁パネルを設置すれば、自重の厚さ方向成分で擁壁パネルが法面側に転倒しようとする。
【0007】
擁壁パネルの転倒を防止するには、擁壁パネルの背面と法面との間に埋め戻し土等の充填が完了するまで、擁壁パネルを吊り支持する必要があるが、吊り支持する揚重機が擁壁パネルを地山に固定するための補強材の打ち込み作業の障害になり易い。
【0008】
このように法面表面の整備の面と擁壁パネル設置時の支持の面から、擁壁パネルを下段側から上段側へ向かって設置していく方法は採用され難い。
【0009】
本発明は上記背景より、法面の水平面に対する傾斜角度を、擁壁パネルを設置した後の擁壁の水平面に対する傾斜角度より小さくしておきながらも、擁壁パネルを下段側から上段側へ向かって設置していくことを可能にする法面安定化擁壁の構築方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明の法面安定化擁壁の構築方法は、地山中に補強材を埋設し、その頭部を表面側に定着して法面に擁壁パネルを固定した後、この固定済みの擁壁パネルの上に、前記擁壁パネルに直接、もしくは間接的に隣接する上段側の擁壁パネルを吊り込み、前記固定済みの擁壁パネルに前記上段側の擁壁パネルを連結する工程と、
前記上段側の擁壁パネルとその上側の前記法面との間に、前記上段側の擁壁パネルを前記法面に支持させる支持部材を跨設する工程と、
前記上段側の擁壁パネルを前記固定済みの擁壁パネルと前記法面とに仮支持させながら、前記上段側の擁壁パネルを貫通させて前記補強材を地山中に埋設すると共に、前記補強材に引張力を付与した状態で、前記補強材の頭部を前記上段側の擁壁パネルの表面に定着する工程とを経て前記法面に固定された少なくとも2段の擁壁パネルを有する法面安定化擁壁を構成することを構成要件とする。
【0011】
法面10に先行して固定される擁壁パネル1は
図1-(a)に示すように厚さ方向に貫通する補強材5が地山中に形成される削孔13中に挿入され、削孔13中に充填されるグラウト材中に埋設されることで、法面10に固定された状態を永続的に維持する。補強材5の地表面側の頭部は擁壁パネル1の表面側に定着される。補強材5は擁壁パネル1の立面上の中央部に形成された
図2-(b)に示す挿通孔1gを貫通する。
【0012】
補強材5は定着時に軸方向に引張力(緊張力)が付与(導入)されることで、地山に圧縮力を加え、擁壁パネル1を法面10に密着させた状態に保つ。請求項1における「地山中に補強材を埋設し、その頭部を表面側に定着して法面に擁壁パネルを固定し」とは、補強材5の、擁壁パネル1から表面側へ突出する頭部を擁壁パネル1の表面側に定着することで、擁壁パネル1を法面10に固定することを言う。
【0013】
「固定済みの擁壁パネルに直接、もしくは間接的に隣接する上段側の擁壁パネル」とは、固定済みの擁壁パネル1の上に同一、もしくは類似形状の擁壁パネル1が隣接して設置される場合と、
図1-(a)に示すように固定済みの擁壁パネル1とその上に吊り込まれる上段側の擁壁パネル3との間に墨出しブロック2が介在する場合があることを言う。墨出しブロック2は固定済みの擁壁パネル1を設置するときの位置決めの基準になり、固定済みの擁壁パネル1を支持する役目を持つ。墨出しブロック2が介在しない場合が「直接」であり、介在する場合が「間接的」である。
【0014】
「固定済みの擁壁パネルと上段側の擁壁パネルを連結する」とは、例えば固定済みの擁壁パネル1と吊り込まれた上段側の擁壁パネル3との間に連結部材6を跨設し(請求項2)、上段側の擁壁パネル3の補強材5による法面10への固定が完了するまで、上段側の擁壁パネル3と固定済みの擁壁パネル1との一体性を確保することを言う。
【0015】
連結部材6は固定済みの擁壁パネル1と上段側の擁壁パネル3を連結し、固定済みの擁壁パネル1と上段側の擁壁パネル3が水平面に対して同一の傾斜角度になるように保持する役目を持つ。この場合、擁壁パネル1、3には連結部材6を接続するための孔の形成、またはインサート1f、3eの埋設やアイボルト等の接続等が必要になる。「上段側の擁壁パネル」は固定済みの擁壁パネル1の上に吊り込まれた擁壁パネル3を指す。
【0016】
連結部材6は両擁壁パネル1、3間に跨る長さを持てばよく、形態は問われない。連結部材6には主に溝形鋼等の形鋼が使用されるが、材料も問われない。連結部材6は両擁壁パネル1、3の表面間、または背面間に跨るか、あるいは両擁壁パネル1、3間に厚さ方向に貫通する。両擁壁パネル1、3間に厚さ方向に貫通する連結部材6には連結用のボルトが使用される。
【0017】
墨出しブロック2は固定済みの擁壁パネル1の上に、その設置前に設置され、墨出しブロック2の背面側から突出する定着具(アンカー)2cが地山中に埋設(定着)されることで、法面10に固定される。この場合、墨出しブロック2の下に、最初の擁壁パネル1が配置されて墨出しブロック2に仮支持され、その状態で補強材5の定着により法面10に固定される。「固定済みの擁壁パネル」は法面10の下部に、上段側の擁壁パネル3に先行して設置され、既に固定されている擁壁パネル1を指し、その上に設置される擁壁パネル3を法面10と共に支持する役目を持つ。「上段側の擁壁パネル」は固定済みの擁壁パネル1の上に新たに吊り込まれる擁壁パネル3を指す。
【0018】
墨出しブロック2が使用される場合、墨出しブロック2には
図2-(a)、(b)に示すように擁壁パネル1とその厚さ方向(面外方向)に互いに嵌合し、擁壁パネル1の幅方向(高さ方向)に係合する凸部2aと凹部2bが形成される。この凸部2aと凹部2bに擁壁パネル1の凹部1bと凸部1aが対向する方向に互いに嵌合し、凸部1aが凸部2aに下向きに係合することで、擁壁パネル1が墨出しブロック2に支持される。係合のみでは擁壁パネル1の墨出しブロック2への支持が困難な場合には、擁壁パネル1を厚さ方向に貫通するボルトを墨出しブロック2に螺入させるか、貫通させることで、墨出しブロック2による擁壁パネル1の支持が補われる。
【0019】
「上段側の擁壁パネルとその上側の法面との間に、上段側の擁壁パネルを法面に支持させる支持部材を跨設する」とは、支持部材8を上段側の擁壁パネル3とその背面側の法面10との間に架け渡す(架設する)ことを言う。支持部材8は上段側の擁壁パネル3がその設置後から、補強材5による法面10への固定までの間、自重等で転倒しないよう、擁壁パネル3の自重を含む荷重を法面10に負担させ、設置後の擁壁パネル3の安定性を確保する役目を持つ。
【0020】
擁壁パネル3の設置時に擁壁パネル3の背面と法面10との間に空隙がありながらも、支持部材8が擁壁パネル3の転倒を防止することで、吊り込まれた擁壁パネル3を吊り支持し続ける必要がなくなる。この結果、擁壁パネル3を吊り支持する揚重機16を補強材5の打ち込み作業前に移動させることができるため、揚重機16が補強材5打ち込みの障害になることはない。
【0021】
また支持部材8が吊り込み後(上段側)の擁壁パネル3の設置状態での安定性を確保することで、法面10と擁壁パネル3背面との間に空隙がありながらも、擁壁パネル3の設置後の安定性確保のために、擁壁パネル3の傾斜角度に合わせて法面10の傾斜角度を調整しておく必要がなくなる。すなわち、擁壁パネル3の設置前に擁壁パネル3背面の空隙を埋め、表面を均すための作業が不要になる。
【0022】
吊り込まれた擁壁パネル3の設置後に、法面10と擁壁パネル3との間に空隙が形成されたままであることで、擁壁パネル3の設置と補強材5による固定後に擁壁パネル3の背面と法面10との間の空隙に、擁壁パネル3の背面と法面10をせき板として埋め戻し土15を充填し、締め固めればよいため、埋め戻し土15の表面を均す作業も不要になる。
【0023】
支持部材8の一端(地表面側の端部)は擁壁パネル3に直接、接続されるか、または擁壁パネル3の上部に接続された上記した連結部材6に接続される(請求項2)。連結部材6は法面10に固定された上段側の擁壁パネル3の上部にその上端から上方へ突出した状態で接続される(請求項2)。連結部材6が上段側の擁壁パネル3の上端から上方へ突出することで、支持部材8を擁壁パネル3に直接、接続する場合より、支持部材8を接続し易くなる。この他、支持部材8が擁壁パネル3の上端より上に配置されるため、擁壁パネル3の背面に埋め戻し土15を充填する場合の充填作業がし易くなる。
【0024】
支持部材8の他端(法面側の端部)は法面10(表面)に接触するか、地山中に挿入され、擁壁パネル3の荷重と擁壁パネル3を通じた荷重を地山に伝達可能な状態に地山に負担させる。「擁壁パネル3を通じた荷重」は主に補強材5を擁壁パネル3の表面に定着するときに擁壁パネル3に生じる法面10側を向く反力を指す。支持部8材は基本的には
図8に示すように支柱81と、擁壁パネル3、または連結部材6と支柱81に接続される接続材82を有し、支柱81の法面10側の端部には法面10から反力を面で受けるベースプレート等の面材81aが接続されることが適切である。
【0025】
支持部材8は設置状態にある擁壁パネル3の荷重(鉛直成分)の内、擁壁パネル3の厚さ方向の成分を負担し、地山に伝達する。擁壁パネル3の幅方向(高さ方向)の成分は固定済みの擁壁パネル1に伝達される。この関係で、擁壁パネル3の転倒を効果的に防止する上では、支持部材8(支柱81)の軸方向を擁壁パネル3の自重の厚さ方向成分の方向を向けることが、支柱81に曲げモーメントを生じさせないため、合理的である。
【0026】
支持部材8の一端を擁壁パネル3に直接、もしくは間接的に接続し、他端を地山に支持させることで、上段側の擁壁パネル3が自重による転倒に対して安定し、連結部材6による固定済み擁壁パネル1との連結状態が維持される。支持部材8による上段側の擁壁パネル3の支持状態が、請求項1における「上段側の擁壁パネルを固定済みの擁壁パネルと法面とに仮支持させた」状態である。上段側の擁壁パネル3は連結部材6を介する等、固定済みの擁壁パネル1に連結されることで擁壁パネル1に仮支持され、支持部材8を介して法面10に仮支持される。
【0027】
上段側の擁壁パネル3を固定済みの擁壁パネル1と法面10とに仮支持させた状態で、補強材5が上段側の擁壁パネル3を貫通して地山中に埋設されると共に、補強材5に軸方向に引張力(緊張力)が付与される(請求項1)。補強材5は引張力が付与された状態で、補強材5の頭部が上段側の擁壁パネル3の表面に定着される。同時に擁壁パネル3が法面10(地山)に固定される。このとき、上段側の擁壁パネル3には補強材5の反力として法面10側へ向かう力を受け、反力で法面10側へ転倒、あるいは傾斜しようとするが、この反力も支持部材8が圧縮力として負担することで、擁壁パネル3の転倒と傾斜が防止される。
【0028】
補強材5への引張力の付与時に擁壁パネル3が受ける反力は基本的には支持部材8を通じて法面10(地山)で負担されるが(請求項1、2)、上段側の擁壁パネル3を貫通する補強材5への引張力の付与前に擁壁パネル3の背面と法面10との間に埋め戻し土15を充填しておけば(請求項3)、埋め戻し土15に反力の一部を負担させることができるため、支持部材8の負担が軽減され、支持部材8が圧縮力を負担したときの破損に対する安全性が向上する。
【0029】
この場合、埋め戻し土15は
図5-(a)に示すように擁壁パネル3の背面と法面10との間を挿通する補強材5が埋設される程度まで充填されることが適切である。補強材5への引張力付与時に、補強材5の周面に作用する収縮しようとする力に、補強材5の周面と埋め戻し土15との間に生じる摩擦力が抵抗することで、摩擦力が補強材5への引張力付与時の擁壁パネル3の反力を軽減するように作用するからである。
【0030】
擁壁(法面安定化擁壁)11は高さ方向には固定済みの擁壁パネル1とその上段側の擁壁パネル3の少なくとも2段の擁壁パネル1、3とで構成される(請求項1~3)。上段側の擁壁パネル3の上に更に新規上段側の擁壁パネル4が設置される場合(請求項4)には、上段側の擁壁パネル3の法面10への固定後、固定された上段側の擁壁パネル3から支持部材8を外し、この上段側の擁壁パネル3の上に、この上に隣接する新規上段側の擁壁パネル4を吊り込み、固定された上段側の擁壁パネル3と新規上段側の擁壁パネル4との間に補助連結部材9を跨設し、上下に隣接する2枚の擁壁パネル4、3を連結する作業(工程)が実施される(請求項4)。補助連結部材9は両擁壁パネル4、3の表面間、または背面間に跨る。連結部材6と併用される場合には、連結部材6との干渉が生じない位置に配置される。
【0031】
支持部材8を固定された上段側の擁壁パネル3から外す理由は、主に擁壁パネル3の背面に埋め戻し土15を充填する作業をする上で、障害になり易いためである。擁壁パネル3から外された支持部材8は新たに設置される新規上段側の擁壁パネル4の設置後の安定性を確保するために使用される。上下に隣接する2枚の擁壁パネル4、3間に補助連結部材9を跨設する理由は、主に連結部材6による2枚の擁壁パネル4、3の連結状態を補うためである。補助連結部材9を擁壁パネル4、3の背面に接続した場合には、表面側に接続されている連結部材6との干渉を回避しながら、連結部材6と併用することができる。
【0032】
その後、新規上段側の擁壁パネル4とその上側の法面10との間に、上段側の擁壁パネル3から外された支持部材8を跨設し、新規上段側の擁壁パネル4を固定された上段側の擁壁パネル3と法面10とに仮支持させながら、新規上段側の擁壁パネル4を貫通させて補強材5を地山中に埋設すると共に、補強材5に引張力を付与した状態で、補強材5の頭部を新規上段側の擁壁パネル4の表面に定着する工程を経て、法面10に固定された少なくとも3段の擁壁パネル1、3、4を有する法面安定化擁壁11が構成される(請求項4)。新規上段側の擁壁パネル4は補助連結部材9を介して上段側の擁壁パネル3に仮支持され、支持部材8を介して法面10に仮支持される。
【0033】
この場合も、補強材5への引張力の付与前に擁壁パネル4の背面と法面10との間に埋め戻し土15を充填しておけば(請求項3)、支持部材8が負担すべき、擁壁パネル4が受ける反力の一部を埋め戻し土15に負担させることができるため、支持部材8の負担が軽減される。
【発明の効果】
【0034】
上段側の擁壁パネルとその上側の法面との間に、上段側の擁壁パネルを法面に支持させる支持部材を跨設(架設)するため、上段側の擁壁パネルがその設置後から、補強材による法面への固定までの間、自重と補強材への引張力付与に伴う反力とで転倒しないよう、擁壁パネルの安定性を確保することができる。従って擁壁パネルの設置時に擁壁パネルの背面と法面との間に空隙がありながらも、吊り込まれた擁壁パネルを吊り支持し続ける必要がなく、擁壁パネルを吊り支持する揚重機を補強材の打ち込み作業前に移動させることができるため、揚重機が補強材打ち込みの障害になることはない。
【0035】
また支持部材が吊り込み後(上段側)の擁壁パネルの設置状態での安定性を確保することで、法面と擁壁パネル背面との間に空隙がありながらも、擁壁パネルの設置後の安定性確保のために、擁壁パネルの傾斜角度に合わせて法面の傾斜角度を調整しておく必要がなくなり、擁壁パネルの設置前に擁壁パネル背面の空隙を埋め、表面を均すための作業が不要になる。
【0036】
加えて吊り込まれた擁壁パネルの設置後に、法面と擁壁パネルとの間に空隙が形成されたままであることで、擁壁パネルの設置と補強材による固定後に擁壁パネルの背面と法面との間の空隙に、擁壁パネルの背面と法面をせき板として埋め戻し土を充填し、締め固めればよいため、埋め戻し土の表面を均す作業も不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】(a)は法面の下方(法尻寄り)に墨出しブロックを利用して2段の擁壁パネルを固定した後、擁壁パネルの表面側に足場を組んだときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)の最上段の擁壁パネルを厚さ方向に見た表面側の立面図である。
【
図2】(a)は
図1-(a)に示す墨出しブロックの設置時の様子を示した縦断面図、(b)は(a)の墨出しブロックの直下に設置された擁壁パネルを墨出しブロックに支持させたときの様子を示した縦断面図、(c)は(b)に示す擁壁パネルの下に2段目の擁壁パネルを設置するときの様子を示した縦断面図である。
【
図3】(a)は
図1に示す墨出しブロックと固定済みの擁壁パネルの上に上段側の擁壁パネルを吊り込み、連結部材を用いて固定済みの擁壁パネルに連結したときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)の擁壁パネルの表面側の立面図である。
【
図4】(a)は
図3に示す上段側の擁壁パネルの上部に連結部材を接続し、連結部材に支持部材を接続し、上段側の擁壁パネルの背面に埋め戻し土を充填したときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)の擁壁パネルの表面側の立面図である。
【
図5】(a)は
図4に示す上段側の擁壁パネルを貫通させて補強材を地中に挿入するときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)に示す補強材の頭部を擁壁パネルに定着したときの様子を示した縦断面図である。
【
図6】(a)は
図5-(b)に示す作業の終了後に、新規上段側の擁壁パネルの設置作業のための足場を追加で組んだときの様子を示した縦断面図、(b)は新規上段側の擁壁パネルを吊り込んでいるときの様子を示した縦断面図である。
【
図7】(a)は
図6-(b)に示す新規上段側の擁壁パネルに連結部材と支持部材を接続したときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)の擁壁パネルの表面側の立面図である。
【
図9】
図6-(a)に示す新規上段側の擁壁パネルの背面側に埋め戻し土を充填したときの様子を示した縦断面図である。
【
図10】(a)は
図9に示す新規上段側の擁壁パネルを貫通させて補強材を地中に挿入するときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)に示す補強材の頭部を擁壁パネルに定着したときの様子を示した縦断面図である。
【
図11】
図10-(b)に示す埋め戻し土の天端上に仕上げの天端コンクリートを打設したときの様子を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1-(a)は法面10の下方(法尻寄り)に墨出しブロック2を利用し、後から設置される上段側の擁壁パネル3を支持する固定済みの擁壁パネル1、1を2段に固定した後の状況を示す。墨出しブロック2はその直下に設置される擁壁パネル1の位置決めと仮支持のために先行して法面10に固定されるが、擁壁パネル1を設置する上では必ずしも必要とは限らない。
【0039】
図1では固定済みの擁壁パネル1を2段に配列しているが、1段のみの場合も、3段以上の場合もある。固定済みの擁壁パネル1の上に設置される上段側の擁壁パネル3は
図3に示すように先行して固定されている最上部の擁壁パネル1の上に吊り込まれて設置される。
図1-(a)中、二点鎖線は整形前の地山表面を示す。法面10に沿って敷設されている棒状の部材は、設置後の擁壁パネル3、4の背面にモルタルやコンクリート等の排水性の乏しい埋め戻し材を充填する場合に使用される吸水性を有する排水材14である。
【0040】
図1-(a)に示す墨出しブロック2と2段の固定済みの擁壁パネル1、1は
図2-(a)~(c)に示す要領で法面10に固定される。詳しくは、
図2-(a)に示すように墨出しブロック2の背面側から突出する定着具2cが地山中に埋設され、定着されることで、墨出しブロック2が法面10に固定される。墨出しブロック2の表面側には下側に凸部2aが形成され、上側に相対的に凹になった凹部2bが形成されている。
【0041】
図2-(a)は上記のように法面10に先行して固定された墨出しブロック2の凹部2bと凸部2aに擁壁パネル1の上部の凸部1aと凹部1bが厚さ方向に嵌合し、墨出しブロック2に支持された状態で、擁壁パネル1を貫通する補強材5の頭部が
図1-(b)に示す擁壁パネル1の表面の定着板1eに定着されることで、擁壁パネル1が法面10に固定された状態にある。
図1-(b)は
図1-(a)の上側の擁壁パネル1が法面10に固定された
図2-(b)に示す擁壁パネル1の表面側を示している。
【0042】
図2-(c)に示すように墨出しブロック2に支持される擁壁パネル1の背面側の上部における、墨出しブロック2の凹部2bに対応した位置には凹部2bに厚さ方向に嵌合し、凸部2aに下向きに係合する凸部1aが形成され、墨出しブロック2の凸部2aに対応した位置には凸部2aが厚さ方向に嵌合する凹部1bが形成されている。
【0043】
墨出しブロック2に直接、支持される擁壁パネル1は
図2-(b)に示すように凸部1aが墨出しブロック2の凹部2bに嵌合し、凸部2aに下向きに係合することで、墨出しブロック2に仮支持される。その状態で擁壁パネル1を厚さ方向に貫通し、地山中に定着される補強材5の頭部が擁壁パネル1の表面に定着されることで、擁壁パネル1は法面10(地山)に固定される。同時に、墨出しブロック2は擁壁パネル1を支持する役目から解放される。
【0044】
図2-(b)で法面10に固定された擁壁パネル1の下に下側の擁壁パネル1が配置される場合には、その下側の擁壁パネル1は固定済みの上側の擁壁パネル1に仮支持された状態で
図1-(a)に示すように補強材5の定着により法面10に固定される。下側の擁壁パネル1の背面側の上部における、上側の擁壁パネル1の下部に重なる部分には
図2-(c)に示すように上側の擁壁パネル1と同様に凸部1aと凹部1bが形成されている。
【0045】
固定済みの上側の擁壁パネル1の背面側の下部における、下側の擁壁パネル1の凸部1aに対応した位置には凸部1aが厚さ方向に嵌合する凹部1cが形成され、凹部1bに対応した位置には凹部1bに厚さ方向に嵌合し、凸部1aが下向きに係合する凸部1dが形成されている。
【0046】
上記の法面10に固定された擁壁パネル1上に吊り込まれる上段側の擁壁パネル3の背面側の上部にも、
図3-(a)に示すように固定済みの上側の擁壁パネル1の凸部1aと凹部1bと同様のそれぞれ凸部3aと凹部3bが形成されている。固定済みの墨出しブロック2、または擁壁パネル1の直上に配置される上段側の擁壁パネル3の下部は
図8に示すように墨出しブロック2、または擁壁パネル1の上面、あるいは擁壁パネル1と墨出しブロック2の双方の上面に載るため、特に凹部と凸部は形成される必要はないが、擁壁パネル1、または墨出しブロック2との組み合わせ方次第では形成されることもある。
【0047】
後述の新規上段側の擁壁パネル4の背面側の上部にも、
図6-(b)以下に示すように固定済みの上側の擁壁パネル1の凸部1aと凹部1bと同様のそれぞれ凸部4aと凹部4bが形成され、下部には、固定済みの上側の擁壁パネル1の下部における凹部1cと凸部1dと同様のそれぞれ凹部4cと凸部4dが形成される。
【0048】
墨出しブロック2、または墨出しブロック2と擁壁パネル1の上面に直接、載る上段側の擁壁パネル3の下部は補強材5による法面10への固定が完了するまでの安定性を確保するために、
図6-(a)に示すように上段側の擁壁パネル3と固定済みの擁壁パネル1とに跨って双方に接続される連結部材6で擁壁パネル1に連結される。擁壁パネル1、3の連結部材6の接続位置には
図1-(b)、
図3-(b)に示すように予めインサート1f、3eが埋設されている。
【0049】
揚重機16による擁壁パネル1、3の吊り込みのためにワイヤが接続される位置にもインサート1f、3eが埋設され、ワイヤはインサート1f、3eに螺合する
図3-(a)、(b)に示すアイボルト等の被吊り材7に接続される。被吊り材7は例えば
図3-(b)に示すように連結部材6が接続されるインサート1f、3eを利用して擁壁パネル3に接続される。
【0050】
図3-(a)に示すように上下に隣接する上段側の擁壁パネル3と固定済みの擁壁パネル1が厚さ方向に重ならない場合には、連結部材6は擁壁パネル3、1の表面側、または背面側に重なって双方に接続される。両擁壁パネル3、1が厚さ方向に重なる場合には、両擁壁パネル3、1を厚さ方向に貫通するボルトやピンが連結部材6として使用されることもある。
【0051】
以下、
図3~
図11に基づき、固定済みの擁壁パネル1の上に設置される上段側の擁壁パネル3と新規上段側の擁壁パネル4の設置と固定の作業手順を説明する。上記のように墨出しブロック2を利用して固定済みの擁壁パネル1の法面10への固定が完了したところで、
図1-(a)に示すように上段側の擁壁パネル3を設置するための足場12が法面10下(法尻)の底面(支持面)10A上に構築される。
【0052】
この時点で、墨出しブロック2の上面と擁壁パネル1の上面は実質的に揃えられ、双方の上に吊り込まれる上段側の擁壁パネル3の下面が墨出しブロック2と擁壁パネル1の上面に載置され、擁壁パネル3の自重が墨出しブロック2と擁壁パネル1とに分担される状態にある。擁壁パネル3の下面には上記のように原則として凸部と凹部は形成されていないが、下面は厚さ方向に重なった墨出しブロック2と擁壁パネル1の両上面に倣った形状に形成されることもある。
【0053】
ここで、
図3-(a)に示すように上部に連結部材6が接続された上段側の擁壁パネル3が揚重機16で吊り込まれ、
図8に示すように擁壁パネル3の下面が墨出しブロック2の上面と擁壁パネル1の上面に載置される。上段側の擁壁パネル3の墨出しブロック2と擁壁パネル1上への載置後、後述の支持部材8を用いて擁壁パネル3を法面10に支持させるまでの間、擁壁パネル1と墨出しブロック2に支持させるために、擁壁パネル3と擁壁パネル1との間に連結部材6を跨設し、双方に接続する。
図3-(b)は上下に隣接する擁壁パネル1、3間への連結部材6の跨設状態を示す。
【0054】
続いて
図4-(a)に示すように上段側の擁壁パネル3を吊り支持したまま、擁壁パネル3、または擁壁パネル3の上部に接続されている連結部材6とその上側の法面10との間に支持部材8を跨設(架設)し、擁壁パネル3を法面10に支持させる。支持部材8の設置と同時に、または前後して上段側の擁壁パネ3ルの背面と法面10との間に埋め戻し土15が充填される。埋め戻し土15は、その後に地中に挿入され、擁壁パネル3に定着される補強材5に付与される引張力(緊張力)の付与前に充填されることで、引張力による反力を圧縮力として負担する役目を果たす。
【0055】
支持部材8は擁壁パネル3の設置時に、自重の厚さ方向成分による擁壁パネル3の転倒を防止し、擁壁パネル3への補強材5の定着時に、引張力の反力を埋め戻し土15と共に負担する役目を果たす。支持部材8は擁壁パネル3と法面10との間に跨る長さを持つ鋼管等の支柱81と、支柱81と擁壁パネル3、または連結部材6との間に跨り、双方に接続される接続材82を有する。
【0056】
支柱81の法面10側の端部には法面10に面接触し、法面10から面で反力を受けるベースプレート等の面材81aが接続される。面材81aは支柱81内から出没(突出と没入が)自在で、任意の突出位置で支柱81に拘束自在に接続されながら、支柱81内に収納される。接続材82は
図7-(a)の拡大図である
図8に示すように連結部材6に連結される例えば環状、またはフック状の連結部82aと、支柱81を把持する等により支柱81に連結されるクランプ、パイプハンガー等の把持部82bを有する。
【0057】
支持部材8の設置時には、
図4-(b)に示すように必要に応じ、長さ方向に隣接する擁壁パネル3、3の端部に接続されている連結部材6、6間に水平連結部材61を跨設し、長さ方向に隣接する擁壁パネル3、3の位置が調整され、隣接する擁壁パネル3、3の連続性が確保される。
【0058】
その後、
図5-(a)に示すように擁壁パネル3の立面上の中央部等に形成された
図3-(a)、
図4-(a)に示す挿通孔3cを通じて補強材5を地山中に形成された削孔13内に挿入すると共に、削孔13内にグラウト材を注入し、補強材5を地中に定着させる。引き続き、補強材5に擁壁パネル3の表面側に突出した頭部から引張力を付与し、
図5-(b)に示すよう補強材5の頭部を
図3-(b)、
図4-(b)に示す擁壁パネル3の表面の定着板3dに定着させる。
【0059】
ここで、
図6-(a)に示すように設置済みの足場12上に新規上段側の擁壁パネル4の設置のための足場12が構築される。その後、
図6-(b)に示すように新規上段側の擁壁パネル4を吊り込み、擁壁パネル3に連結する。擁壁パネル4の吊り込み前に、擁壁パネル3の上部に接続されていた連結部材6とこれに接続されていた支持部材8が、擁壁パネル4への転用のために擁壁パネル3から外される。
【0060】
図面では
図6-(b)に示すように擁壁パネル3の上側に配置される擁壁パネル4の下部の上側に、擁壁パネル3の凸部3aが嵌合する凹部4cが形成され、下側に、擁壁パネル3の凹部3bに嵌合する凸部4dが形成されているため、擁壁パネル4は擁壁パネル3の背面側から重ねられるように組み合わせられる。
【0061】
この関係で、
図8に示すように擁壁パネル4と擁壁パネル3を連結する連結部材6として、擁壁パネル3の上部の凹部3bと擁壁パネル4の下部の凸部4d、または擁壁パネル3の上部の凸部3aと擁壁パネル4の下部の凹部4cを厚さ方向に貫通するボルトを使用している。このボルト状の連結部材6による擁壁パネル3、4の連結を補うように両擁壁パネル3、4の背面間に跨る補助連結部材9が使用される。ボルト状の連結部材6は
図3-(b)に示す擁壁パネル3のインサート3eと
図6-(b)に示す擁壁パネル4のインサート4fに螺合する。
【0062】
吊り込まれた新規上段側の擁壁パネル4を連結部材6と補助連結部材9とで擁壁パネル3に連結した後、
図7-(a)に示すように擁壁パネル4の上部に
図6-(b)で外された支持部材8付きの連結部材6を接続する。擁壁パネル4への連結部材6の接続時に、擁壁パネル4とその上側の法面10との間に支持部材8を跨設し、支持部材8を介して擁壁パネル4を法面10に仮支持させ、補助連結部材9を介して擁壁パネル4を擁壁パネル3に仮支持させる。
【0063】
引き続き、
図9に示すように擁壁パネル4に定着される補強材5を定着するときの反力を支持部材8と共に負担する埋め戻し土15を擁壁パネル4の背面と法面10との間に充填し、補強材5の地山中への挿入に備える。補助連結部材9は埋め戻し土15中に埋め殺しされる。上記した擁壁パネル3を貫通する補強材5の頭部の定着板3dへの定着が完了し、頭部における止水処理、あるいは防錆処理が完了した時点で、上段側の擁壁パネル3の法面10への固定作業が終了するため、擁壁パネル3と擁壁パネル1を連結していた連結部材6は外される。
【0064】
その後、
図10-(a)に示すように擁壁パネル4に形成された挿通孔4eを通じて補強材5を地山中に形成された削孔13内に挿入すると共に、削孔13内にグラウト材を注入して補強材5を地中に定着させる。そのまま、補強材5に引張力を付与し、
図10-(b)に示すように擁壁パネル4の表面側に突出した補強材5の頭部を
図7-(b)に示す擁壁パネル4の表面の定着板4gに定着させる。
【0065】
補強材5の擁壁パネル4への定着後、
図11に示すように
図7-(a)で擁壁パネル4に接続された支持部材8付きの連結部材6を外し、
図9で充填された埋め戻し土15の上に更なる埋め戻し土15を充填するか、
図9で充填された埋め戻し土15の上に埋め戻し土15を押さえるための天端コンクリート17を打設するか、または埋め戻し土15の充填と天端コンクリート17の打設をし、新規上段側の擁壁パネル4の設置と固定の作業が終了する。
【符号の説明】
【0066】
1……(固定済みの)擁壁パネル、1a……凸部、1b……凹部、1c……凹部、1d……凸部、1e……定着板、1f……インサート、1g……挿通孔、
2……墨出しブロック、2a……凸部、2b……凹部、2c……定着具、
3……上段側の擁壁パネル、3a……凸部、3b……凹部、3c……挿通孔、3d……定着板、3e……インサート、
4……新規上段側の擁壁パネル、4a……凸部、4b……凹部、4c……凹部、4d……凸部、4e……挿通孔、4f……インサート、4g……定着板、
5……補強材、
6……連結部材、61……水平連結部材、
7……被吊り材、
8……支持部材、81……支柱、81a……面材、82……接続材、82a……連結部、82b……把持部、
9……補助連結部材、
10……法面、10A……底面(支持面)、
11……擁壁(法面安定化擁壁)、
12……足場、
13……削孔、
14……排水材、
15……埋め戻し土、
16……揚重機、
17……天端コンクリート。
【要約】
【課題】法面の水平面に対する傾斜角度を、擁壁パネルを設置した後の擁壁の水平面に対する傾斜角度より小さくしながらも、擁壁パネルを下段側から上段側へ向かって設置し、擁壁を構築することを可能にする。
【解決手段】擁壁パネル1を貫通する補強材5の頭部を表面側に定着して法面10に擁壁パネル1を固定した後、固定済みの擁壁パネル1の上に、上段側の擁壁パネル3を吊り込んで固定済みの擁壁パネル1に連結し、上段側の擁壁パネル3と法面10との間に支持部材8を跨設して上段側の擁壁パネル3を固定済みの擁壁パネル1と法面10とに仮支持させながら、上段側の擁壁パネル3を貫通させて補強材5に引張力を付与した状態で、補強材5の頭部を上段側の擁壁パネル3の表面に定着する。
【選択図】
図1