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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】地盤アンカー頭部定着部の拘束装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20230228BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022196551
(22)【出願日】2022-12-08
【審査請求日】2022-12-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】久米田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】加来 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木部 洋
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-064059(JP,A)
【文献】特開2019-100177(JP,A)
【文献】特開2013-170410(JP,A)
【文献】特開2009-084893(JP,A)
【文献】特開2006-037532(JP,A)
【文献】特開2000-212968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材と、この緊張材の地表面側の頭部に接続され、地上の被定着体の表面に配置された定着板に定着される頭部定着部を被覆するキャップとを備えた地盤アンカーにおいて、
前記キャップの地上側の端面に直接、もしくは間接的に重なる押さえプレートと、この押さえプレートの表面を通って前記被定着体間に配置される張力材とを備え、
前記張力材は前記押さえプレートの表面の平面上の中心、もしくはその付近を通り、前記押さえプレートと前記キャップを挟んで対向する位置で前記被定着体に定着されていることを特徴とする地盤アンカー頭部定着部の拘束装置。
【請求項2】
前記被定着体の表面側の、前記押さえプレートと前記キャップを挟んで対向する位置に定着体が定着され、前記張力材の前記被定着体側の端部は前記定着体に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の地盤アンカー頭部定着部の拘束装置。
【請求項3】
前記張力材は前記押さえプレートの縁の位置で前記押さえプレートに拘束されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の地盤アンカー頭部定着部の拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤アンカーの本体である緊張材の地中区間が破断した場合に備え、緊張材の頭部に接続された頭部定着部が定着されているコンクリート基礎等の被定着体からの、頭部定着部の飛び出しを防止する地盤アンカー頭部定着部の拘束装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
緊張力を付与された状態で地中に埋設され、定着される地盤アンカーの地上に露出する頭部定着部は地表面に設置、または構築されるコンクリート基礎等の被定着体にボルト等の定着具で定着される。この状況で、緊張力に起因して地盤アンカー(緊張材)の地中区間が破断した場合、定着具には地表面側に向かって衝撃荷重が作用するため、定着具が頭部定着部の定着状態を維持できなくなる結果、頭部定着部を含む区間が地盤アンカーの軸方向に飛び出す可能性がある。
【0003】
このような事態に備え、頭部定着部を発錆から保護するキャップを、地盤アンカーの破断時の衝撃力に耐え得るように被定着体に固定することがある(特許文献1~3参照)。
【0004】
特許文献1ではキャップの表面側に重なるカバーの周囲を被定着体の表面に重ね、重なった部分をボルト等の留め具で被定着体に固定しているが、ボルトは軸部の長さから衝撃的な荷重に対する十分な抵抗力を持ちにくいため、地盤アンカーの破断時の衝撃荷重に十分に耐え得るとは言い難い。
【0005】
特許文献2でもキャップをボルトや溶接等の固定手段を用いて被定着体に固定しているが、特許文献1を含め、固定手段としてのボルトの軸部は軸力(張力)を負担できる区間が短いため、1本当たりの衝撃力に対する高い抵抗能力は期待できない。
【0006】
特許文献3では衝撃力に対する抵抗材として、キャップの平面上の中心から放射状に張り出し、被定着体(受圧板)の周囲にまで跨る長さを持つワイヤ等の張架体を使用している(請求項1、請求項6)。この例では、抵抗材が張力を負担できる区間がボルト軸部より長いため、全体としての張力負担能力は高いと考えられ、靭性はボルトより期待されると考えられる。
【0007】
但し、特許文献3では張架体を被定着体に拘束する手段が、被定着体に張架体側(上向き)に係合するだけの係止部(反力治具)であるため(請求項4、段落0034~0036)、衝撃時に係止部が被定着体から離脱する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-212968号公報(請求項1、段落0003~0011、図1
【文献】特開2006-312822号公報(請求項1、請求項6~8、段落0013~0031、0048~0074、図1図5
【文献】特開2011-64059号公報(請求項1、請求項6、段落0032~0043、図1図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3のように抵抗材として張力作用方向に長い材料、特にワイヤ等の張力材を使用する場合(請求項6)、張力材の材料と断面積が同一であれば、衝撃的な引張荷重に対する張力材の負担能力は張力材の伸び変形能力が高い方が高い。
【0010】
但し、特許文献3ではキャップ(カバー部材)の平面上の中心を通さずに、キャップの周囲の位置から張力材を放射状に配置していることから、1本の張力材の長さが大きくなるような使用方法にはなっていないため、張力材の張力負担能力を有効に発揮させる方法とは言えない。
【0011】
本発明は上記背景より、衝撃力に対する抵抗材として張力材を使用する場合に、衝撃的な荷重に対する張力材の負担能力を高めることを可能にする地盤アンカー頭部定着部の拘束装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明の地盤アンカー頭部定着部の拘束装置は、緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材と、この緊張材の地表面側の頭部に接続され、地上の被定着体の表面に配置された定着板に定着される頭部定着部を被覆するキャップとを備えた地盤アンカーにおいて、
前記キャップの地上側の端面に直接、もしくは間接的に重なる押さえプレートと、この押さえプレートの表面を通って前記被定着体間に配置される張力材とを備え、
前記張力材が前記押さえプレートの表面の平面上の中心、もしくはその付近を通り、前記押さえプレート前記キャップを挟んで対向する位置で前記被定着体に定着されていることを構成要件とする。
【0013】
「緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材」とは、図11に示すように地盤16中に形成される削孔中に緊張材9の端部定着部であるアンカー体91が挿入され、アンカー体91が削孔中に充填されるグラウト材中に埋設され、定着されることで、緊張材9が地盤16中に固定された状態を永続的に維持することを言う。緊張材9にはPC鋼材、繊維強化プラスチック等、引張力の導入が可能な材料が使用される。地盤アンカー11は緊張材9とキャップ10を含む。
【0014】
緊張材9にその地表面側の頭部に接続された頭部定着部92側から軸方向(軸線方向)に引張力が付与され、アンカー体91が削孔中に定着されながら、頭部定着部92が地上のコンクリート造、もしくはコンクリート製等の被定着体12の表面に配置された定着板13に定着されることで、緊張材9は地盤16に圧縮力を加え、地盤16に定着された状態を維持する。頭部定着部92を被覆するキャップ10は定着板13に直接、もしくは間接的にボルト等の締結具や溶接等により固定される。被定着体12はコンクリート造等の他、図12に示すような鋼製の場合もある。
【0015】
「キャップの地上側の端面に直接、もしくは間接的に重なる押さえプレート」とは、図2-(c)、図3に示すように定着板13の反対側のキャップ10の軸方向の端面に押さえプレート2が重なることを言う。押さえプレート2はその表面側に配置される張力材3で例えばキャップ10を定着板13側へ押圧する状態に配置される。但し、張力材3が被定着体12間に配置された状態のときに、押さえプレート2が脱落する可能性がなければ、必ずしも張力材3は押さえプレート2を押圧する必要はない。
【0016】
「地上側」は「地中側(定着板13側)とは反対側」の意味である。キャップ10の定着板13側の端面は定着板13には直接、または図示するように定着板13に重なる台座15に間接的に重なり、定着板13、または台座15にボルト等で接続されるか、接着等される。押さえプレート2の表面を通って被定着体12間に張力材3が配置(架設)される。台座15は定着板13には直接、または間接的に重なる。
【0017】
「キャップの端面に間接的に重なる」とは、図1-(b)に示すようにキャップ10の表面を平常時に、押さえプレート2からの圧縮力から保護する緩衝材4等をキャップ10の端面と押さえプレート2との間に介在させることを言う。図面では図11に示すように被定着体12の表面が緊張材9の軸方向に対して傾斜している場合の例を示しているが、被定着体12の表面と緊張材9の軸方向は垂直の場合もある。
【0018】
「張力材は押さえプレートの表面の平面上の中心、もしくはその付近を通り」とは、押さえプレート2を表面側から緊張材9の軸方向(押さえプレートの厚さ方向)に見たときに、張力材3が押さえプレート2の中心かその付近を通ることを言う。「付近」は主に設置上、生じ得る施工誤差を含み、使用状態に置かれた張力材3に期待される、本来の衝撃荷重に対する負担能力に影響がない範囲を含む意味である。「平面上」とは、押さえプレート2を平面図として(厚さ方向に)見たとき、の意味である。
【0019】
前記のようにワイヤ等の張力材3の材料と断面積が同一であれば、張力材3の伸び変形能力が高い(変形量が大きい)方が、衝撃的か否かに拘わらず、最終的な引張荷重に対する張力材3の負担能力が高い。張力材3の伸び変形量は張力材3の元の長さで決まるから、衝撃力に対する抵抗材として張力材3を用いる場合、張力材3の長さができるだけ大きくなる状態で張力材3を使用する方が、相対的に短い状態での使用状態より張力材3全体の負担能力が高い。
【0020】
そこで、押さえプレート2の表面側に張力材3を配置する場合、被定着体12の表面上でキャップ10を挟んで対向する位置、例えば後述の定着体5、5間に、押さえプレート2の平面上の中心等を通してキャップ10を跨ぐように被定着体12間に張力材3を配置すれば、張力材3をより長い状態で配置することができる(請求項1)。張力材3にはワイヤの他、緊張材9と同様にPC鋼材、繊維強化プラスチック等、引張力の導入が可能な材料が使用される。
【0021】
張力材3は押さえプレート2を厚さ方向に見たときに、押さえプレート2の中心等を通り、少なくとも一方向に架設される。張力材3が押さえプレート2を拘束しながら、押さえプレート2の安定性を確保する上では、図4に示すように張力材3は二方向以上に架設される。
【0022】
張力材3が図4に示すように二方向に架設される場合、押さえプレート2の中心等の位置では二方向の張力材3、3が重なることで、表面側に位置する張力材3の中心付近が押さえプレート2の表面から浮き上がり、押さえプレート2に密着しない部分が生じ得る。但し、その側の張力材3による押さえプレート2に対する押さえ力は押さえプレート2側に位置する張力材3を介して押さえプレート2に伝達されるため、押さえプレート2への押え効果が低下することはない。
【0023】
表面側に位置する張力材3が押さえプレート2の表面から浮き上がることで、納まり上、または見栄え上、望ましくないような場合には、押さえプレート2寄りに位置する張力材3の中心部分の押さえプレート2の表面に溝を形成すればよい。溝の形成により表面側に位置する張力材3の、押さえプレート2の中心等以外の区間を押さえプレート2の表面に密着させることができる。
【0024】
押さえプレート2の中心等を通してキャップ10を跨ぐように被定着体12間(定着体5、5間)に張力材3が配置されることで、押さえプレート2の中心等を通さない場合(特許文献3)との対比では、1本の張力材3の長さが大きくなる使用方法になるため、引張荷重に対する張力材3の負担能力が高まる。張力材3は押さえプレート2の中心等を通り、キャップ10を跨ぐように配置されればよいから、押さえプレート2の平面形状は任意であり、多角形状か円形状(楕円状を含む)か等を問わない。
【0025】
ここで、例えば押さえプレート2の平面形状が方形状である場合に、平面上、張力材3を対角線方向に配置した場合、張力材3が押さえプレート2の角部(隅角部)に接触することで、張力材3が破断し易くなる可能性が想定される。その場合でも、角部を面取りする等、角部をなくしておけば、破断の可能性は低下するため、張力材3が多角形状の対角線方向に配置されることは排除されない。
【0026】
「張力材は押さえプレートとキャップを挟んで対向する位置で被定着体に定着され」とは、押さえプレート2の中心等を通り、押さえプレート2とキャップ10を挟んだ両側位置で、張力材3の被定着体12側の端部が被定着体12に、想定される衝撃力に対しても抜け出さない程度に拘束されることを言う。張力材3の端部は被定着体12には直接、または上記のように被定着体12中に定着される定着体5に接続される等により間接的に定着される。
【0027】
具体的には「被定着体に定着され」とは、張力材3の端部が被定着体12中に埋設される等により定着されることを言い、例えば張力材3の端部に、端部以外の本体部より断面積の大きい形状で、アンカーとして機能する定着部が形成されるか、一体的に接続され、その定着部が被定着体12中に埋設されるようなことを言う。
【0028】
この他、図2-(a)、図3に示すように被定着体12の表面側の、押さえプレート2とキャップ10を挟んで対向する位置にあと施工アンカー等の定着体5、5が埋設(定着)され、張力材3の被定着体12側の端部が定着体5に接続(連結)されることもある(請求項2)。この場合、定着体5が予め被定着体12に定着されていることで、現場では張力材3を定着体5に連結する図10に示すような連結材6を用い、張力材3へ付与すべき張力を調整しながら、張力材3を定着体5に接続することができるため、設計通りの張力の張力材3への付与が可能になる。
【0029】
図2-(a)、図3に示す例のように、張力材3の定着体5側を環状に閉じた形状にした場合、この環状部分と定着体5を連結するための、図6に示すような連結具7が、張力材3と定着体5をつなぐ中間材として使用され、張力材3の環状部分が定着体5に連結(接続)される。
【0030】
押さえプレート2の中心等を通る張力材3の両端部が被定着体12に直接、または定着体5を介して間接的に定着されることで、押さえプレート2が被定着体12に拘束され、同時に押さえプレート2が重なるキャップ10が被定着体12に拘束される。押さえプレート2の拘束の結果、キャップ10は緊張材9の破断による被定着体12からの抜け出しに対して安定する。キャップ10が被定着体12に拘束されることで、同時に頭部定着部92が被定着体12に拘束された状態になる。
【0031】
前記のように本発明では1本の張力材3の長さが大きくなる使用方法になることで、引張荷重に対する張力材3の負担能力が高まるため、緊張材9の破断によるキャップ10の被定着体12からの抜け出しに対する安定性は、張力材3が押さえプレート2の中心等を通さない場合より向上する。
【0032】
押さえプレート2が被定着体12に拘束されたときに張力材3に多少の張力が付与されれば、キャップ10は押さえプレート2から被定着体12側へ向かう力を受けた状態になるため、緊張材9の破断による抜け出しに対する安定性はより向上する。
【0033】
ここで、押さえプレート2の中心か付近を通った張力材3が押さえプレート2の縁の位置を経由するときに、張力材3が単純に押さえプレート2に接触しているのみでは、衝撃力の負担時に張力材3が押さえプレート2に対し、縁に沿ってずれる可能性がある。そこで、押さえプレート2の縁の位置で張力材3を押さえプレート2に拘束することで(請求項3)、押さえプレート2の平面上の中心か付近を通して張力材3を確実に配置することが可能になる。
【0034】
押さえプレート2の平面形状が多角形状であれば、張力材3が押さえプレート2の平面上の中心等を通ることで、キャップ10を挟んで最短距離を結ぶように被定着体12間に架設されれば、張力材3が押さえプレート2の縁に単純に接触しているだけの場合でも、張力材3が縁に沿って周方向にずれる可能性は低い。従って張力材3の架設状態での、ある程度の安定性が確保され易い。但し、押さえプレート2が多角形状でない、例えば曲線を描く形状の場合には張力材3が縁に沿って周方向にずれる可能性がある。
【0035】
そこで、張力材3の、押さえプレート2の縁に位置する部分が押さえプレート2に接続される等、拘束されることで(請求項3)、ずれの発生が防止され、衝撃力の作用時にも張力材3がキャップ10を挟み、平面上の中心等を通り、例えば最短距離を結んだ状態で被定着体12間に架設された状態が維持され易くなる。
【0036】
張力材3が押さえプレート2の縁の位置で拘束されることは、具体的には押さえプレート2に形成された孔に結束される等、緊結されるか、図9に示すような金物やナット等の締結具8を用いて連結されることで、可能になるが、方法は問われない。締結具8としてナットを用いる場合、張力材3の締結具8に対応した位置(区間)には雄ねじが形成されるか、一体化させられる。図9に示す締結具8(ワイヤクリップ)には張力材3を締結するためのナット83が付属する。
【0037】
請求項3では張力材3が押さえプレート2の縁の位置で拘束されることで、張力材3が押さえプレート2の縁の位置で周方向にずれることがなくなるため、張力材3は押さえプレート2を厚さ方向に見たときに、中心等を通って縁まで、必ずしも最短距離で架設される必要がなくなる。張力材3が押さえプレート2の縁まで最短距離を結ぶように架設されずに済むことで、張力材3の架設長さをより大きくすることが可能になり、張力材3全体の負担能力をより高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0038】
地上の被定着体の表面に配置された定着板に定着される頭部定着部を被覆するキャップの地上側の端面に重なる押さえプレートの表面側の平面上の中心等を通し、キャップを挟んで対向する位置間に、キャップを跨ぐように張力材を配置するため、張力材をより長く使用する状態で配置することができる。
【0039】
この結果、押さえプレートの中心等を通さない場合より、1本の張力材の長さが大きくなるため、引張荷重に対する張力材の負担能力を高め、緊張材の破断によるキャップの被定着体からの抜け出しに対する安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】(a)~(d)は緊張材の頭部定着部を被定着体に定着し、キャップで被覆した状態から、被定着体中に定着体を埋設し、定着体に連結具を接続するまでの作業手順を示した縦断面図である。
図2】(a)~(c)は図1-(d)の後、キャップを挟んだ定着体間に張力材を架設した状態から、拘束装置の設置完了までの作業手順を示した縦断面図である。
図3図2-(c)のx-x線断面図である。
図4図2-(c)のy-y線矢視図である。
図5】定着体としてのあと施工アンカーの例を示した立面図である。
図6】(a)は図2-(c)、図3に示す連結具(アイボルト)の例を示した平面図、(b)は(a)のx-x線断面図である。
図7】(a)は図4に示す押さえプレートを示した平面図、(b)は(a)のx-x線断面図である。
図8】(a)は図2-(c)、図3に示す緩衝材の例を示した背面図、(b)は(a)のx-x線断面図である。
図9】(a)は図2-(c)、図3に示す締結具を構成するベース部の例を示した平面図、(b)は(a)の立面図、(c)は(a)、(b)に示すベース部に組み合わせられるボルト部の例を示した立面図、(d)はベース部に張力材を締結するためのナットを示した平面図である。
図10】(a)は図2-(c)、図3に示す連結材の例を示した平面図、(b)は(a)の立面図である。
図11】地盤アンカー(緊張材)の全体の構成例を示した断面図である。
図12】被定着体として鋼製の反力受け台を使用した場合の被定着体への張力材の架設状態を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図3図4図11に示すように緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材9と、緊張材9の地表面側の頭部に接続され、地盤16の表面に固定(定着)された被定着体12の表面に配置されたアンカープレート等の定着板13に定着される頭部定着部92を被覆するキャップ10とを備えた地盤アンカー11の頭部定着部92を被定着体12に定着し、拘束する拘束装置1の構成例を示す。
【0042】
拘束装置1はキャップ10の、被定着体12とは反対側の地上側の端面に直接、もしくは間接的に重なる押さえプレート2と、押さえプレート2の表面を通って被定着体12間に配置(架設)される張力材3とを備える。張力材3は押さえプレート2の表面の平面上の中心、もしくはその付近を通り、押さえプレート2とキャップ10を挟んで対向する位置で、両側部分において被定着体12に定着される。
【0043】
図面ではキャップ10の押さえプレート2側に、押さえプレート2の設置に伴い、キャップ10(緊張材9)の軸方向に作用し得る圧縮力に対してキャップ10を保護するためのゴム製やプラスチック製等の図8に示す緩衝材4を重ねて配置し、押さえプレート2をキャップ10に間接的に重ねている。
【0044】
ここで、図1-(a)~(d)、図2-(a)~(c)に基づき、頭部定着部92の周囲へのキャップ10の装着後から、張力材3による押さえプレート2のキャップ10への設置までの作業手順を説明する。
【0045】
図1図2ではキャップ10の軸方向が被定着体12(定着板13)の表面に垂直でない場合の例を示しているが、これは法面に一定厚さの被定着体12を設置、もしくは構築し、緊張材9の軸方向(軸線方向)を法面に垂直でない方向に向けて地中に水平に挿入している状況を示している。「法面に垂直な方向」は被定着体12の厚さ方向である。法面の表面と緊張材9の軸方向は必ずしも直交する(垂直)とは限らない。キャップ10の軸方向は緊張材9の軸方向である。
【0046】
キャップ10の軸方向が被定着体12の表面に垂直でない場合、図1-(a)に示すようにキャップ10の定着板13側の端面と定着板13との間の距離がキャップ10の周方向に変化するため、キャップ10の端面と定着板13との間には、板厚が幅方向か長さ方向に変化する調整材14が介在させられる。キャップ10の端面はキャップ10側に位置する調整材14の表面に重なる台座15に重なり、固定される。
【0047】
図1-(a)は図11に示すように緊張材9の地中区間が地盤16中に形成された削孔中に挿入され、地盤16中側の先端部のアンカー体91が削孔の先端部内に充填されるグラウト材中に埋設され、定着された状況を示している。一方、地表に突出した頭部定着部92がコンクリート基礎等の被定着体12の表面に固定された定着板13にナットその他の定着具で定着され、頭部定着部92がそれを錆から保護するためのキャップ10で被覆された状況を示している。キャップ10内には防錆剤が充填される。
【0048】
キャップ10による頭部定着体92の被覆時に、キャップ10の軸方向の表面側(押さえプレート2側)の端面に直接、押さえプレート2が重ねられることもあるが、図1では上記のようにキャップ10を保護するための、図8に示す緩衝材4がキャップ10の軸方向の端面に重ねられ、ボルト42等によりキャップ10に接合(固定)されている。
【0049】
図8に示す緩衝材4は(b)に示すように緩衝材4を構成する2枚の板状の緩衝材構成材41、41を重ねて一体化させた形状をしている。2枚の内、被定着体12側の緩衝材構成材41はキャップ10の端面側が納まる円板状等の空隙が形成され、空隙内にキャップ10が入り込むことで、キャップ10は押さえプレート2側の端面側と周囲から保護される。
【0050】
緩衝材4は図1-(b)、図3に示すように押さえプレート2と押さえプレート2側の緩衝材構成材41を貫通するボルト42がキャップ10に螺入する等によりキャップ10に接合される。押さえプレート2側の緩衝材構成材41には図8に示すようにボルト42が挿通する挿通孔41aが形成されている。
【0051】
図1では緩衝材4のキャップ10への接合の際に、緩衝材4と同時に押さえプレート2をキャップ10に接合するために、図1-(b)に示すように緩衝材4の表面に押さえプレート2を重ね、押さえプレート2と緩衝材4を貫通するボルト42で押さえプレート2と緩衝材4をキャップ10に接合している。この関係で、図7-(a)に示すように緩衝材4をキャップ10に接合したボルト42に対応した、押さえプレート2の例えば平面上の中心かその付近にボルト42が挿通、または螺合するための挿通孔2aが形成される。
【0052】
緩衝材4及び押さえプレート2のキャップ10への接合と並行して、または前後して図1-(c)、(d)に示すように張力材3の被定着体12側の端部が定着されるべき位置にあと施工アンカー等の定着体5が被定着体12中に埋設され、定着される。定着体5、5は1本の張力材3の両側位置である押さえプレート2とキャップ10を挟んで対向する位置に定着される。定着体5は張力材3が架設される方向の両側位置である、被定着体12との接続位置の被定着体12中に埋設される。
【0053】
定着体5は被定着体12の定着体5の埋設位置に形成された削孔12a内に挿入され、グラウト材や接着剤等の充填材51が充填され、硬化することで、被定着体12に定着される。定着体5は被定着体12への埋設のし易さから、基本的には軸方向を被定着体12の表面に垂直な方向を向けて挿入されるため、削孔12aの軸方向も被定着体12の表面に垂直な方向に向けられる。
【0054】
定着体5の被定着体12中への定着に続き、図1-(d)に示すように張力材3の定着体5側の端部を間接的に接続するための図6に示すような環状部72を有するアイボルト、シャックル等の連結具7が定着体5に接続される。
【0055】
アイボルトの場合、連結具7は雄ねじの形成された軸部71において定着体5に螺合し、軸部71に連続して被定着体12の表面に突出する環状部72において環状(ループ状)に閉じた形状をした張力材3の定着体5側の端部に連結される。軸部71は例えばその外周に形成された雄ねじが定着体5の連結具7側に形成された雌ねじ52に螺合することにより定着体5に接続される。
【0056】
張力材3の定着体5側の端部が環状に形成されず、例えば棒状である場合には、図6に示す連結具7とは異なり、連結具7の張力材3側に形成された雌ねじか雄ねじに張力材3の棒状部分が螺合することで、張力材3が定着体5に接続される。あるいは張力材3の棒状部分の雄ねじが定着体5の雌ねじに直接、螺合することで、連結具7を介在させることなく、張力材3が定着体5に接続される。
【0057】
定着体5への連結具7の接続後、図2-(a)に示すように押さえプレート2の中心かその付近を通り、張力材3が押さえプレート2と連結具7との間に一方向、もしくは図示するように二方向等、複数方向に架設される。
【0058】
押さえプレート2には図4に示すように押さえプレート2を厚さ方向に見たときに、張力材3は押さえプレート2の縁まで主に最短距離を結ぶように架設され、その縁の位置でのずれに対する安定性を確保するために、押さえプレート2の縁に拘束される。
【0059】
図1-(b)に示すように押さえプレート2の挿通孔2aには押さえプレート2と緩衝材4をキャップ10に接合するためのボルト42が挿通、または螺合し、ボルト42は押さえプレート2の挿通孔2aと緩衝材4の挿通孔41aを挿通しながら、または両者に螺合しながら、キャップ10に螺入する。
【0060】
張力材3の、押さえプレート2の縁の位置に対応した部分を押さえプレート2に拘束するために、図面では図7に示すように押さえプレート2の縁に張力材3を拘束する、図9に示すワイヤクリップ等の締結具8を接続するための挿通孔2bを形成している。但し、締結具8は張力材3を押さえプレート2の縁からずれないように拘束すればよく、張力材3に張力を付与する機能を持つ必要はないため、締結具8の形態は問われず、他の金物の使用も可能である。
【0061】
締結具8がワイヤクリップの場合、締結具8(ワイヤクリップ)は図9-(c)に示すようにU字形のボルト部81と、張力材3(ワイヤ)を挟んでボルト部81の軸部が挿通する孔を有する図9-(a)、(b)に示すベース部82と、ベース部82を挿通するボルト部81に螺合する図9-(c)に示すナット83から構成される。この関係で、押さえプレート2の挿通孔2b、2bは図7に示すように例えば縁に沿い、並列して形成される。並列する挿通孔2b、2bとベース部82をボルト部81が挿通し、ベース部82に重なってナット83がボルト部81に螺合することで、張力材3を押さえプレート2の縁に拘束する。
【0062】
図1-(d)以降に示す手順図では押さえプレート2の表面側に張力材3を重ねた状態で、張力材3付きの押さえプレート2を緩衝材4の表面に重ねながら、張力材3の被定着体12側の端部を連結具7に接続した後に(図2-(a))、押さえプレート2に締結具8を接続している様子を示している((c))。但し、張力材3の架設と押さえプレート2への締結具8の接続は並行するか、前後することもある。この他、緩衝材4への押さえプレート2の重ね時に予め張力材3を押さえプレート2に締結具8で接続しておくこともある。
【0063】
図2-(a)に示すように押さえプレート2に張力材3を重ねた後、張力材3の端部が定着体5に接続されている連結具7の環状部72に挿通させられ、環状に閉じた形状に形成される。このとき、張力材3の端部は連結具7の環状部72を通過した区間と通過しない区間とが重ね合わせられる。
【0064】
ここで、図2-(b)に示すように(a)において張力材3の、重ね合わせられた環状部72を通過した区間と通過しない区間とに跨って図10に示すスクラムクランプ(登録商標)のような形態の連結材6を用い、連結具7を経由して重なった2本の張力材3が互いに固定される。同時に、張力材3が軸方向の移動に対して拘束され、張力材3の両側が定着体5、5に接続された状態になる。連結材6はこの他、環状部72を折り返して重なった張力材3を束ねて結束する等、張力材3の端部を連結具7に接続し、拘束する機能を持てばよく、形態を問わない。
【0065】
図面では図2-(b)、(c)に示すように連結材6での張力材3の定着体5、5への接続後に、押さえプレート2の縁に重なった張力材3を、押さえプレート2の挿通孔2bに接合される締結具8を用いて押さえプレート2に拘束している。
【0066】
但し、図2-(a)に示す押さえプレート2を跨いだ張力材3の架設から、(c)に示す締結具8を用いて張力材3を押さえプレート2に拘束するまでの作業手順は問われない。最終的に張力材3が締結具8で押さえプレート2に拘束されると共に、連結材6で連結具7に接続され、(c)に示すように張力材3が間接的に被定着体12に接続(拘束)された状態になればよい。
【0067】
図12は鋼板等を折り曲げ加工等して立体的に製作された鋼製の反力受け台を被定着体12として使用した場合の被定着体12への張力材3の架設例を示す。ここに示す被定着体12は定着板13を受ける中心部と、中心部から放射方向に張り出し、張力材3の地盤16側の端部が接続される張出部を有する形状をしている。中心部は頭部定着部92から作用する、緊張材9に付与された緊張力の反力である圧縮力を負担可能な強度と剛性を有している。
【0068】
図12の例では張出部の外周側の縁部分に接続した連結具7に張力材3の端部を接続している。詳しくは被定着体12の上側に接続した連結具7としてのアイボルトに張力材3を接続し、下側に接続した連結具7としてのシャックルに張力材3を接続している。
【符号の説明】
【0069】
1……拘束装置、
2……押さえプレート、2a……挿通孔、2b……挿通孔、
3……張力材、
4……緩衝材、41……緩衝材構成材、41a……挿通孔、42……ボルト、
5……定着体、51……充填材、52……雌ねじ、
6……連結材、7……連結具、71……軸部、72……環状部、
8……締結具、81……ボルト部、82……ベース部、83……ナット、
9……緊張材、91……アンカー体、92……頭部定着部、10……キャップ、
11……地盤アンカー、
12……被定着体、12a……削孔、13……定着板、
14……調整材、15……台座、
16……地盤。
【要約】
【課題】地盤アンカーの地中区間が破断した場合に備え、頭部定着部が定着されている被定着体からの頭部定着部の飛び出しを防止する上で、衝撃力に対する抵抗材として張力材を使用する場合に、衝撃的な荷重に対する張力材の負担能力を高める。
【解決手段】緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材9と、緊張材9の地表面側の頭部に接続され、地上の被定着体12の表面に配置された定着板13に定着される頭部定着部92を被覆するキャップ10とを備えた地盤アンカー11において、キャップ10の地上側の端面に直接、もしくは間接的に重なる押さえプレート2と、押さえプレート2の表面を通って配置される張力材3から拘束装置1を構成し、張力材3を押さえプレート2の表面の平面上の中心、もしくはその付近を通り、押さえプレート2を挟んで対向する位置で被定着体12に定着させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12