IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブルーカー バイオシュピン アー・ゲーの特許一覧

特許7234457永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム
<>
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図1
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図2
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図3
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図4
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図5
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図6a
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図6b
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図6c
  • 特許-永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】永久磁石構造体を有するMR装置のための温度制御システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20230228BHJP
【FI】
G01N24/00 620R
G01N24/00 610J
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022509645
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2020072084
(87)【国際公開番号】W WO2021032491
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】102019212508.5
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591148048
【氏名又は名称】ブルーカー スウィッツァーランド アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Bruker Switzerland AG
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス フレイタグ
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン ヘルビング
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー マイスター
(72)【発明者】
【氏名】ミケーレ ザファロン
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特公平03-028931(JP,B2)
【文献】特開2004-057832(JP,A)
【文献】特公平07-003802(JP,B2)
【文献】特開2004-212354(JP,A)
【文献】特開平05-212012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-24/14
G01R 33/28-33/64
A61B 5/055
H01F 7/02-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMR磁石システムの温度を制御するための温度制御システムであって、
中央のエアギャップ(2)の内部の測定容積部において均一な静磁場を生成するための、中央のエアギャップ(2)を有する永久磁石構造体(1)と、
HFパルスを送信するための、並びにHF信号を測定試料(0)から受信するためのNMR試料ヘッド(3)と、
静磁場の振幅を変更するためのH0コイルと、
前記測定容積部の磁場をさらに均一化するために前記中央のエアギャップ(2)に設けられたシムシステム(4)と、
を含み、
第1の絶縁チャンバ(5)が前記永久磁石構造体(1)を熱的に遮蔽するように包囲し、
前記第1の絶縁チャンバ(5)は、前記第1の絶縁チャンバ(5)の温度T1を制御するための1つ又は複数の手段(6)を備え、前記シムシステム(4)、前記H0コイル、及び前記NMR試料ヘッド(3)は、前記中央のエアギャップ(2)において、前記第1の絶縁チャンバ(5)の外部に配置され、
制御可能な温度T2を有する少なくとも1つの熱伝導体(7)が、前記熱伝導体(7)の一方の側に配置された前記シムシステム(4)及び前記シムシステム(4)に内蔵された前記H0コイルと、前記熱伝導体(7)の他方の側に配置された前記永久磁石構造体(1)との間に配置される
ことを特徴とする温度制御システム。
【請求項2】
前記熱伝導体(7)の温度T2を制御するための1つ又は複数の手段(8)が、前記第1の絶縁チャンバ(5)の外部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の温度制御システム。
【請求項3】
前記永久磁石構造体(1)を包囲する前記第1の絶縁チャンバ(5)は、熱的に分離された少なくとも2つの面からなる壁部を有し、これらは前記壁部の表面温度T1iを決定するための少なくとも1つのセンサをそれぞれ含むとともに互いに独立して熱制御がなされ、熱的に分離された少なくとも2つの前記面のうちの1つは、前記測定容積部を取り囲む前記中央のエアギャップ(2)を取り囲んで前記シムシステム(4)、前記H0コイル、及び前記NMR試料ヘッド(3)を前記永久磁石構造体(1)から熱的に分離させることを特徴とする請求項2に記載の温度制御システム。
【請求項4】
前記第1の絶縁チャンバ(5)の温度T1又は前記熱伝導体(7)の温度T2を制御するための前記手段(6又は8)のうち少なくとも1つは熱電素子であって、動作中において前記第1の絶縁チャンバ(5)の壁部の永久磁石構造体(1)への熱流を確保する熱交換器を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の温度制御システム。
【請求項5】
前記第1の絶縁チャンバ(5)の壁部は、外部空間からの磁場を磁気的に遮蔽するための遮蔽構造体として構成され、好ましくは、前記第1の絶縁チャンバ(5)の外側に受動的熱絶縁部(9)を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の温度制御システム。
【請求項6】
前記熱伝導体(7)は、その面全体に亘って熱をできる限り均一に分散させて温度勾配を最小にする均質化体(10)と、熱伝導デバイスと、からなることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の温度制御システム。
【請求項7】
前記熱伝導デバイスは、少なくとも1つのヒートパイプを有することを特徴とする請求項6に記載の温度制御システム。
【請求項8】
前記均質化体(10)は、前記シムシステム(4)及び前記H0コイルに熱的に接続されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の温度制御システム。
【請求項9】
前記均質化体(10)の少なくとも一部は、前記シムシステム(4)と前記永久磁石構造体(1)との間に配置されていることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の温度制御システム。
【請求項10】
前記熱伝導体(7)の温度T2を制御するための1つ又は複数の手段(8)が、前記第1の絶縁チャンバ(5)の外部に配置されており、
前記中央のエアギャップ(2)の温度T2を制御するための前記手段(8)は、加熱器及び/又は温度T2を測定するための温度計を備え、前記シムシステム(4)及び/又は熱伝導システムに熱的に接続されていることを特徴とする請求項3から9のいずれか1項に記載の温度制御システム。
【請求項11】
前記第1の絶縁チャンバ(5)は、温度T3にある第2の絶縁チャンバ(11)によって取り囲まれ、これにより前記第2の絶縁チャンバ(11)の内部の温度T3が前記第2の絶縁チャンバ(11)の外部の周囲温度TRに対して絶縁されることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の温度制御システム。
【請求項12】
前記第2の絶縁チャンバ(11)の外部の周囲温度TRに対して前記第2の絶縁チャンバ(11)の内部における温度T3を制御する温度制御デバイス(12)が、前記第2の絶縁チャンバ(11)の外壁に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の温度制御システム。
【請求項13】
前記NMR試料ヘッド(3)は、前記測定容積部の中の測定試料(0)の温度TSを設定するための手段を有し、温度TSは、前記永久磁石構造体(1)を包囲する前記第1の絶縁チャンバ(5)の壁部および前記熱伝導体(7)の温度T1および温度T2とは独立して設定可能であることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の温度制御システム。
【請求項14】
前記シムシステム(4)と前記NMR試料ヘッド(3)の少なくとも1つのHFコイル(13)との間に断熱システム(14)が配置され、温度TFに合わせて温度制御された洗流ガス流(15)が、好ましくは、前記NMR試料ヘッド(3)、前記シムシステム(4)、又は前記H0コイルを通って流れることを特徴とする請求項13に記載の温度制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中央のエアギャップの内部の測定容積部において均一な静磁場を生成するための、中央のエアギャップを有する永久磁石構造体と、HFパルスを送信するための、並びにHF信号を測定試料から受信するためのNMR試料ヘッドと、NMR試料ヘッド内の周波数検知部及び静磁場の振幅を変更するためのH0コイルを含むNMR周波数ロック部と、測定容積部の磁場をさらに均一化するために中央のエアギャップに設けられたシムシステムとを含む、NMR磁石システムの温度制御に関する。
【背景技術】
【0002】
このような温度制御可能なNMR磁石システムは、たとえば特許文献1(=参考文献[1])から公知となっている。
【0003】
発明の背景
本発明は、一般に永久磁石システム、特にベンチトップ型NMR装置の温度制御を対象とする。
【0004】
永久磁石では、発生する磁場は、使用される永久磁石材料の強磁性特性に依存する。また、このような特性は温度に強く依存する。たとえば鉄・ホウ素・ネオジム磁石の場合、保磁力は約-0.6%/Kの温度係数を有し、残留磁気は約0.1%/Kの温度係数を有する。したがって、特にサブヘルツ線幅を有する高解像度NMRに永久磁石構造体が使用される場合、永久磁石構造体を非常に精密に熱制御することが重要である。したがって、信号対雑音比(S/N)を向上させるためのスペクトルを蓄積する際の共鳴線の幅の拡大や、一回の取得時間中の磁場強度の変更した際の線形のひずみの原因となり得る、B0場のドリフト又は変動を回避するために、十分に長い時間を通じて温度(T)を安定的に保ち、好ましくは温度変動を1/1000Kまで最小化することが必要となる。それと同時に、サンプルの温度制御なしでのNMR測定を可能にするために、可能な限り低い磁石温度のもとで、好ましくは室温(298Kが標準)の範囲内で、測定条件が確保されるのが望ましい。磁石温度をさらに低くすると、得られるB0場を最大化することができ、磁石の熱励起緩和を遅らせることができる。理想的には、B0場は少なくとも1.5T、好ましくは1.9T以上であるのがよい。
【0005】
現在市場で入手できる装置の中には、可変の測定試料温度を有するのではなく、磁石の動作温度のもとで測定試料が測定されるものがある。非常に高温/低温の測定試料が挿入されると、これによって磁石システム内に発生する温度勾配に起因してB0の均一性に有害な変化が生じる。さらには、測定試料が熱平衡に達するのに必要な時間だけ測定時間が長くなり、能動的な温度制御を行わなければ、たとえば温度制御ガス流を使用した場合と比べて明らかにいっそう長くかかる。
【0006】
いくつかの刊行物によれば、測定試料の代わりに、真空絶縁されたフローセルがベンチトップ型装置に挿入され、磁石の外部で測定試料温度が設定、制御されている。これによって、測定試料容積を縮小した結果、S/Nが大幅に損なわれる。別案として、熱絶縁されていないフローセルが使用される。このとき、測定領域や出口部分における測定試料の温度が、流入部における温度と明らかに異なる場合があることについては容認される。これによって、たとえば溶液が析出した場合、たとえばそれが磁石温度の範囲内で過飽和する場合に、重大な問題が起こりかねない。
【0007】
特別な先行技術
磁石温度制御:
特許文献2(=参考文献[2])には、温度制御流体により穴を介して所望の温度にされる永久磁石を備えたNMR装置が記載されている。磁石の温度はTセンサによって制御され、流体の流量及び温度がそれに応じて調整される。しかしながら、mK単位での正確な温度制御は、このような装置によっては実現することができない。
【0008】
特許文献3(=参考文献[3])は、永久磁石構造体が多数の熱電式の熱ポンプ装置を介してC型ヨークと熱接触するように組み付けられた、ヨークをベースとする開放型の永久磁石システムのための温度制御システムを開示している。少なくとも1つの温度センサが、電子制御回路と接続されている。この装置においても、閉じたチャンバを備えていないので、mK単位での正確なT制御は可能ではない。
【0009】
特許文献4及び特許文献5(=参考文献[4])は、ヨークに取り付けられた永久磁石アセンブリを装備する磁気共鳴断層撮影装置を記載している。さらに、この断層撮影装置はグラジエントコイルを含んでいる。各永久磁石アセンブリは、良好な熱伝導率を有する、永久磁石アセンブリとグラジエントコイルとの間に配置されたプレートと、熱的に接触する。さらに、プレートに接続され熱電式の熱ポンプ装置を駆動する温度センサによる温度制御も、提示される。ここでもまた同じく開放システムが提示され、グラジエント回路による熱流入を制限するための温度制御装置を備えるものである。
【0010】
特許文献6(=参考文献[5])には、温度センサと、加熱プレートによって熱が直接供給される磁石とを備えた、永久磁石を有するNMRシステムが記載されている。センサは、磁石のさまざまな箇所に取り付けられ、コントローラに情報を送信し、これにより、コントローラが加熱プレートを制御する。
【0011】
特許文献7(=参考文献[6])は、永久磁石を有する断層撮影装置を記載しており、温度安定性を保持するための磁石温度制御装置が磁石内部に設けられている。磁石温度制御装置は管路と温度コントローラとを有し、管路の中では液体又は気体が循環し、温度コントローラは管路と直列に接続されており、液体又は気体の温度を制御する。参考文献[3]~[5]と比較したとき、ここでは流体循環によって、いっそう正確なTコントロールが可能である。しかしながら、グラジエントコイル又はシムコイルの入熱は考慮されていない。
【0012】
熱絶縁:
特許文献8(=参考文献[7])は、エンベロープ(「熱絶縁仮想エンベロープ(thermally insulated virtual envelope)」)の中にあるNMR永久磁石を磁石ボアの内部にある試料から能動的に熱絶縁する方法を記載している。熱的に分断されるべき2つの部材の間に温度制御液を通過させる、いわゆる「アクティブシールディング」が利用される。さらに、磁石アセンブリは、受動的な絶縁層を含んでいてよいことが開示されている。ただし、シムコイルは、磁石の周りに直接配置され得る能動的なシム素子を含み得ることが記載されている。したがって、この構造の目的は、H0コイル及び/又はシムコイルの電流による磁石材料への熱流入を制限することではない。温度の値は明示的に言及されていないものの、このような設計では、測定試料と磁石との間の大きな温度差が熱的に分断されるものと想定される。しかしながら、磁石の正確なT制御に着目したものではない。
【0013】
別の磁石の構成が、特許文献9(=参考文献[8])から知られている。しかしこの文献からは、測定試料と磁極片との間、又は磁極片と磁石材料との間に、温度制御されたバリア又は絶縁材が設けられているかは明らかではない。
【0014】
Tコントロールを伴うシミング:
磁場の電子シミングは、通電時に測定容積部において異なる磁場勾配を生じさせる多数のシムコイルによって行われる。
【0015】
特許文献10(=参考文献[9])は、NMRに適用される磁場修正システムを記載している。特に、視野内での均一な磁場を実現するための電子シミングに関するものである。この文献は、磁石及びシムシステムにおける温度変化の問題、特に、磁場のドリフトの問題を扱ってはいるものの、参考文献[9]によると、これは温度制御システムによって改善されるのではなく、単に、シムコイルを通る電流を適合させることによって改善される。
【0016】
特許文献11(=参考文献[10])は、MRイメージングにおける類似の問題解決法を記載している。シム材料の温度が変わると、静磁場の均一性も変化する。したがって、シムに設けられた温度センサが提案されており、これが情報をコントローラに送り、コントローラがこれに基づいて不均一性を判定することが提案されている。シムのための温度制御システムはここでも設けられていない。
【0017】
熱ポンプと熱交換器によるTコントロール:
特許文献12(参考文献[11])は、高温測定のためのNMRシステムを開示している。そのために、試料ヘッドは、磁石に対する熱絶縁部を装備している。この絶縁部又は熱バリアは、たとえばヒートパイプ又は熱ポンプ(ペルチェ素子)で構成されるヒートシンクと、壁の形態の熱絶縁部とを含んでいる。さらに、磁石における温度勾配を防止するために、永久磁石の磁極片を温度制御可能である。測定試料を温度制御するためのガス流(VTガス流)の一種も示されている。
【0018】
特許文献13(=参考文献[12])は、非磁性材料から製作された第1の取外し可能な結合体を含むNMR試料ヘッドカセットを記載している。この結合体は、実質的に、結合体を所定の温度で保つために、熱交換器と可逆的に結合される。しかしながら磁石の温度制御については触れていない。
【0019】
冒頭で引用した参考文献[1]には、冒頭に挙げた構成要件を有する一般的な構成と、均一な磁場を生成する方法とが記載されている。参考文献[1])では、磁石だけが直接的に温度制御されることが明らかとなっている。間接的な温度制御のための、中間層、特に、磁石及び/又は磁極片とシムシステムとの間の中間層は、示唆されていない。参考文献[1]に記載されている磁石温度制御のための装置は、(ブロック図によれば)磁石そのものと結合されるのみであって、シムシステムや磁極片とは結合されない。磁石システムの熱封止(thermische Kapselung)についても提示されていない。熱的・機械的結合の問題についても、この文献では詳しく踏み込んではいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】米国特許出願公開第2011/0137589号明細書
【文献】米国特許第8,461,841号明細書
【文献】米国特許第6,489,873号明細書
【文献】米国特許第6,566,880号明細書
【文献】国際特許出願公開第2000/016117号明細書
【文献】英国特許出願公開第2512328号明細書
【文献】米国特許第8,030,927号明細書
【文献】米国特許第7,297,907号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0207657号明細書
【文献】米国特許第9,285,441号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0037467号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0038924号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0077176号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
それに対して、本発明の目的は、冒頭に記載した種類のNMR磁石システムのための温度制御システムを、可能な限り単純な技術的手段によってさらに改良することで、公知の一般的な構造体における上述したような欠点が回避できるようにすることである。特に、本発明により改良されるNMR装置は、以下を可能にするように成っている。
【0022】
1.可変の測定試料温度を設定すること、
2.磁石システムが長時間ドリフトすることなく、短時間でシム電流の大きな変化を生じさせること、
3.H0コイルにおける電流の急激な変化を起こさせることができ、また、低速のドリフト及び磁場勾配の変化で磁石システムがそれに反応することなく、ロック領域の大きい最大振幅を可能にすること、
4.特に測定試料の交換時に、従来技術に基づく装置と比較して高い磁場安定性を実現すること、
5.磁石における一定の温度又は、場合によっては、安定した温度勾配が可能となるように永久磁石の温度を制御することであって、これは特には、シム電流に起因する熱流入や、又は、測定チャンバの領域での熱流入、すなわち、測定チャンバにおける磁場安定性にとって重要な永久磁石の内側での熱流入に関係なく、さらには、たとえば室温や装置への日光照射などの外部要因による熱流入にも関係なく成されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題は、-詳細に考察すれば比較的高度で複雑であるが-、本発明によって、驚くほど簡単に且つ効果的な方式で解決される。本発明では、冒頭に述べた種類のNMR磁石システムのための温度制御システムにおける第1の絶縁チャンバが永久磁石構造体を熱的に遮蔽するように包囲し、第1の絶縁チャンバは、第1の絶縁チャンバの温度T1を制御するための1つ又は複数の手段を備え、シムシステム、H0コイル、及びNMR試料ヘッドは、中央のエアギャップにおいて、第1の絶縁チャンバの外部に配置され、少なくとも1つの熱伝導体が、熱伝導体(7)の一方の側に配置されたシムシステム及びシムシステムに内蔵されたH0コイルと、熱伝導体(7)の他方の側に配置された永久磁石構造体との間に配置される。
【0024】
本発明は主に、数mKでの、可能な限り「高感度な」永久磁石システムの温度制御の実現に関するものである。
【0025】
本発明によると、この目的は、特に、内外に閉じたシステムに永久磁石が配置されたNMR磁石システムによって達成される。磁石は等温の壁部によって完全に取り囲まれ、したがって、能動的な遮蔽により、さまざまな側面からの熱流入の影響を受けることなく保たれる。永久磁石は、シムシステム、H0コイル、及びNMR測定ヘッドがその中に配置された、その断面が少なくとも部分的に矩形、多角形、楕円形、又は円形である内側輪郭を有する。
【0026】
温度T1の温度制御をする手段は第1の絶縁チャンバの壁部に配置され、これによって、放射、気体中での熱伝導、及び場合によってはローパスシステムのような慣性をもつチャンバ内での対流に基づいて、熱が磁石に向かって伝達する。この手段は、好ましくは、広い面積を覆うように外側の壁部の表面に取り付けられたヒートフィルムによって具体化される。あるいは、壁部を良好な熱導体として設計し、壁を通って伝搬する熱による負荷を局所的にのみ受けるものとする。
【0027】
内壁の材料、すなわち磁石構造体の内側輪郭に隣接する第1の絶縁チャンバの面は、好ましくは、良好な熱伝導性を有する材料で作られる、且つ/若しくは、熱伝導体に隣接する。理想的には、この面の少なくとも一部が熱伝導体を含む。これは、第1の絶縁チャンバの内部空間における熱分布を均一にするために有利であり、エアギャップ外部での膨張/収縮による熱制御を実現することを可能にする。特に、シムコイルやH0コイルでの放散など、熱が局所的に流入する場合に有利である。
【0028】
熱伝導体は磁石の熱的遮蔽の機能を有し、熱伝導体の温度T2によって磁石構造体の内壁及び内側輪郭の能動的な温度制御を行う。
【0029】
磁石温度の制御は間接的に行われる。磁石が壁部に対して、熱伝導性の低い少しの接触点(すなわち、ハウジングに対する磁石の取り付け点)のみしか有さないからである。磁石温度は15℃~35℃であるのが好ましい。
【0030】
磁石そのものの平均温度は、T1≠T2のときT1<TM<T2又はT1>TM>T2であって、T1=T2のときTM=T1=T2である温度TMに設定される。TMは、好ましくは0.1Kまで正確に、特には0.01Kまで正確に、特に好ましくは0.001Kまで正確に調整可能である。MRスペクトロメータを取り囲む空間の温度TRは、作動時において最低温度TRminと最高温度TRmaxとの間にあり、すなわち、TRmin≦TR≦TRmaxであって、磁石温度TMについては次式が成り立つ:TRmin<TM<TRmax。
【0031】
室温TRを超える温度、たとえば40℃、になるまで磁石が能動的に加熱される従来技術と比較して、本発明により、追加の試料温度制御なしに、室温で測定試料を測定することができる。結果として、測定試料が挿入された後の平衡化時間が大幅に短縮され、NMR測定を非常に迅速に実行することができる。
【0032】
さらに別の利点は、磁石材料の熱伝導性が低いため、NMRスペクトロメータが設置後に(すなわちスイッチオンされた後に)いっそう迅速に温度制御され、ドリフトしないという点にある。したがって、磁石の目標温度を、スイッチオフされた測定装置の保管温度のできる限り近傍に保つことができることが、大きな利点であることが判明している。
【0033】
公知の装置に対する本発明の主要な相違の1つは、磁石の内側輪郭から「見える」熱伝導体の温度T2の制御にある。さらに、試料温度制御チャンバとシムシステムとの間に熱絶縁を設けることが新規である。上述した各引用文献から明らかとなるのは、従来技術に基づく装置では、測定試料と、試料温度制御チャンバの内側の壁との間に、ただし、特には、送信・受信コイルの内部に、絶縁部が配置されることである。
【0034】
発明の好ましい実施形態と発展例
熱伝導体の温度T2を制御するための1つ又は複数の手段が、第1の絶縁チャンバの外部に配置されている、本発明による温度制御システムの実施形態が、極めて特別に好ましい。中央のエアギャップは磁石のボアに相当し、その中心には、測定チャンバとRFコイルとを備える試料ヘッドが配置されている。径方向外部には、永久磁石構造体に隣接して配置されたH0コイルが内蔵されたシムシステムが配置される。シムシステム及びH0コイルの電流によって発生した熱は、熱伝導システムによって除去され、熱交換器を介して周囲に放出される。温度制御装置は、熱伝導体の温度を温度T2に制御する。これによって、確実に、T2>T1の場合は永久磁石の方向への熱流入が一定に保たれ、T1>T2の場合は永久磁石からの熱吸収が一定に保たれる。好ましくはT2=T1であって、それによりチャンバの内部で、そして特には磁石の内部で、温度変化が生じなくなる。この場合においてはTM=T1=T2であって、磁石システムから第1の絶縁チャンバへの熱転移は起こらない。これは、磁石の初期の(機械的又は強磁性的な)シミングを、磁石内部での温度制御及び考え得る温度勾配に関係なく行えるため、特に有利である。
【0035】
この実施形態の有利なさらなる発展例は、永久磁石構造体を包囲する第1の絶縁チャンバは、熱的分離された少なくとも2つの面からなる壁部を有し、これらは各面の表面温度T1iを決定するための少なくとも1つのセンサをそれぞれ含むとともに、互いに独立した熱制御部を有することを提示する。
【0036】
第1の絶縁チャンバの温度T1又は熱伝導体の温度T2を制御するための手段のうち少なくとも1つが熱電素子(thermo-elektrisches Element)であって、熱交換器を有する、本発明の実施形態もまた有利である。たとえばペルチェ素子などの熱電素子は、温度T1およびT2を特に正確に設定することが可能である。特に、冷却及び加熱を同時に行うことができ、これによって、効率的で非常に迅速な制御が可能になるとともに、システムからいっそう大きい熱流を引き出すことも可能になる。
【0037】
本発明の別の有利な実施形態は、第1の絶縁チャンバの壁部が、同時に、外部空間からの磁場を磁気的に遮蔽するための遮蔽構造体としても構成され、すなわち、1つ又は複数の強磁性材料から製作され、好ましくは、第1の絶縁チャンバの外側に受動的熱絶縁部を備えることを特徴とする。このとき、壁部は同時にHFシールドをさらに形成することができる。
【0038】
熱伝導体が均質化体と熱伝導デバイスとからなることを特徴とする、本発明による温度制御システムの実施形態もまた有利である。均質化体は、たとえば良好な熱伝導性を有する材料(Cu)からなり、その面全体に亘って熱をできる限り均一に分散させるための役目を果たし、それによって温度勾配が最小となる。
【0039】
この実施形態の好ましい発展例では、熱伝導デバイスは、少なくとも1つのヒートパイプを有する。ヒートパイプすなわち伝熱管は、単なる熱伝導体よりも効率的に熱を輸送する。
【0040】
別の好ましい発展例では、均質化体はヒートスプレッダ/3Dヒートディフューザからなり、すなわち、単なる熱伝導体よりも効率的に熱を輸送する非円筒形の伝熱管からなり、したがって、いっそう低い全高で同等の均質化を実現することができる。
【0041】
その代替又は補足として別の発展例では、均質化体は、シムシステム及びH0コイルに熱的に接続されてもよい。これにより、シム/H0電流の放散を磁石のエアギャップから取り除くことができ、測定試料温度を設定するための装置がない場合に、測定空間の温度をできるだけ一定にすることに寄与している。
【0042】
均質化体の少なくとも一部が、シムシステムと永久磁石構造体との間に配置されている発展例も好ましい。
【0043】
したがって、均質化体は、隣接する磁石において温度T2の均等な分布が得られるように、シムシステムと永久磁石システムとの間に主に配置される。
【0044】
別の発展例は、中央のエアギャップの温度T2を制御するための手段が、加熱器及び/又は温度T2を測定するための温度センサ及び/又は熱電素子を備え、シムシステム及び/又は熱伝導システムに熱的に接続されていることを特徴とする。
【0045】
本発明の実施形態の一群は、第1の絶縁チャンバが温度T3にある第2の絶縁チャンバによって取り囲まれ、これにより、第2の絶縁チャンバの内部の温度T3が第2の絶縁チャンバの外部の周囲温度TRに対して絶縁されることを特徴とする。
【0046】
このような絶縁チャンバのカスケード化の結果として、第1のチャンバの壁部における温度T1及び/又は熱伝導システムの温度T2の制御の温度安定性が、中間スペースの温度T3の安定性よりも少なくとも1桁高くなる。
【0047】
このとき、特にT3は±1Kよりも良好に安定化され、好ましくは±0.1Kよりも良好に安定化され、並びに、T1及びT2は±0.1Kよりも良好に安定化され、好ましくは±0.01Kよりも良好に安定化され、理想的には±0.001Kまで安定化される。
このとき次式が成り立つ:TRmin≦T3≦TRmax。
【0048】
さらには、T1>T3が成り立つのが好ましい。この場合においては、ヒートシンクに対してT3まで加熱することで温度T1の制御を行うことができ、第1の絶縁チャンバの壁部の温度T1を一定にするために熱電素子は必要ないからである。
【0049】
このような実施形態の一群の好ましい発展例では、第2の絶縁チャンバの外部の周囲温度TRに対して第2の絶縁チャンバの内部の温度T3を制御する温度制御デバイスが、第2の絶縁チャンバに設けられている。
【0050】
第1の温度制御システムの内壁の温度T1及び/又は熱伝導システムの温度T2は、中間空間における温度T3よりも低い又は高いのが好ましく、特に、温度差は少なくとも2Kである。このように、温度T1及びT2を、可能な限り一定のバックグラウンドに対して非常に正確に制御することができ、第1の絶縁チャンバ及び熱伝導システムから第2の絶縁チャンバに対する一定の熱の流れが確保される。
【0051】
T3<T1である実施形態が特に好ましい。この場合、加熱部材だけでT1の温度制御を行えばよく、冷却は全く必要ないため、熱電素子を使用して行う必要はない。
【0052】
熱電素子を用いて温度T2を制御する場合、熱交換器は、温度T3に対して熱交換を行っても、又は室温の周囲空気に対して熱交換を行ってもよい。T3に対して温度制御がなされる構成は、カスケード化に起因して制御精度を高め、室温に対する制御がなされる構成によって、室温及び考え得る熱放射、たとえば太陽光などによる熱放射に関わらず、特に安定した温度T2の制御が難しくなるが、大量の熱流を効率的に放散させることが可能になり、そのために、第1の絶縁チャンバの1つ又は複数の壁の加熱や、特に、第2の絶縁チャンバの内部での大きな温度勾配というリスクが生じない。
【0053】
試料ヘッドが、測定容積部の中の測定試料の温度TSを設定するための1つ又は複数の手段を有し、温度TSは、永久磁石構造体を包囲する第1の絶縁チャンバの壁部および熱伝導体の温度T1およびT2とは独立して設定可能である、本発明の実施形態の一群が、極めて特に有利である。このガス流は、測定試料の温度制御をする役割を果たし、その結果、シムコイルに加えて、さらに別の温度流入が、NMR磁石システムのエアギャップにもたらされるが、このような温度流入は、熱伝導システムによって除去されなければならない。
【0054】
測定試料の温度TSは、好ましくは、温度制御された試料温度制御ガス流(VTガス流)によって-40~+150℃の範囲内に設定される。測定試料温度を変更させる場合とき、磁気共鳴システムへの熱流入に非常に大きな変化が生じ、これによって、磁石材料の熱伝導性が低いために磁石の慣性が大きいことで、磁場強度、特に磁場の均一性の変化が非常に遅くなり得る。また、これに類似する状況が電気シムの調整中にも発生し得るが、それは定常的な(シミングされた)状態においてではない。したがって、効率的な動作のためには、このような熱源/ヒートシンクを可能な限り効率的に磁石から分断することが特に重要であり、このことは、好ましい実施形態では、温度T2の能動的な制御、及び熱伝導システムと均質化体との組合せによって実現される。
【0055】
シムシステムと、NMR試料ヘッドの少なくとも1つのHFコイルとの間に絶縁システム(熱絶縁システム、断熱システム)が配置された実施形態の一群の発展例が有利であって、好ましくは、温度TFに合わせて温度制御された洗流ガス流(フラッシングガス)は、NMR試料ヘッド、シムシステム、又はH0コイルを通って流れる。
【0056】
試料温度制御ガス流(VTガス流)と、洗流ガス流の少なくとも一部とが、スペクトロメータから出る前に混合されるのが好ましい。
【0057】
あるいは、このような絶縁システムがデュワーとして設計され、すなわち真空にされていてもよい(d.h. evakuiert sein)。
【0058】
さらに、本発明による温度制御システムを備えた磁気共鳴スペクトロメータは、少なくとも温度センサの位置において、温度T3の絶対的な時間的安定性がT3=<T3>±1K、好ましくは±0.1Kの範囲内にあることを特徴とし得る。
【0059】
少なくともそれぞれの温度センサの位置における少なくとも1つの温度T1iの絶対的な時間的安定性は、T1i=<T1i>±0.1K、より好ましくは±0.01K、理想的には±0.001Kの範囲内にある。
【0060】
少なくとも、少なくとも1つの温度センサの位置における、温度T2の絶対的な時間的安定性は、T1=<T2>±0.1K、より好ましくは±0.01K、理想的には±0.001Kの範囲内にある。
【0061】
磁石構造体を包囲する各面における2つの温度T1i、T1jの相対差は、1Kよりも小さく、より好ましくは0.1Kよりも小さく、理想的には0.01Kよりも小さい。
【0062】
NMR試料ヘッドは、通常のように、作動時に測定試料を収容し、任意に熱伝導率の低い材料(たとえばガラス、石英、テフロン、...)によって作られていてもよい、測定試料チャンバを含む。試料ヘッドは、測定試料チャンバを取り囲む、又はこれにより取り囲まれる、第1の送信/受信コイルを含む。測定ヘッドは、第1の送信/受信コイルの異なる共振周波数を調整するためのネットワークも含むのが好ましい。
【0063】
さらに試料ヘッドは任意選択として、追加の測定コアがたとえばロック周波数に調整され得る第2の送信/受信コイルを含む。
【0064】
別の実施形態では、測定ヘッドは、第2又は第3の送信/受信コイルにより検知されてロックのための基準信号として利用される物質を有するさらなる測定試料を含む。
【0065】
永久磁石材料は、典型的にはたとえば鉄・ホウ素・ネオジム、コバルト・サマリウムなどであり、任意選択として、たとえば鉄、コバルト鉄などの強磁性材料も追加的に含む。
【0066】
典型的には、磁極片は磁石に配置され、磁石の測定ヘッド側に取り付けられる。
【0067】
磁石システム及び等温壁は、加熱器や、ヒートシンクを有する熱電素子(熱交換器)などである、「温度制御のための手段」を含む。
【0068】
本発明のその他の利点は明細書と図面から明らかとなる。同様に、以上に挙げた構成要件及び以下でさらに説明する構成要件を、本発明に基づいてそれ自体として単独で、又は任意の組合せとして複数で、適用することができる。図示及び記載されている各実施形態は網羅的な列挙として理解されるものではなく、むしろ本発明を記述するための例示としての性質を有する。
【0069】
本発明が図面に示されており、実施例を参照しながら詳しく説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】第1の絶縁チャンバ、温度制御器、及び熱伝導体を有する、本発明による温度制御システムの第1の実施形態を示す模式的な垂直断面図である。
図2】追加のT2制御器、熱絶縁部、及び閉じたエアギャップを有する、本発明に基づいて温度制御される永久磁石構造体である。
図3】第2の絶縁チャンバ、閉じたエアギャップ、及び追加のT3制御器を有する本発明の実施形態である。
図4】2つの絶縁チャンバ、開いたエアギャップ、T1制御器、T2制御器、及びT3制御器、を有する実施形態であって、周囲温度との関係で熱伝導体の温度が制御される実施形態である。
図5】試料温度制御のための断熱システムと、温度制御された洗流ガス流と、温度制御されたVTガス流とを有する、本発明によるNMR試料ヘッドの実施形態を示す模式的な垂直断面図である。
図6a】シムシステムと、熱伝導体と、均質化体とを有する試料ヘッドを示す横断面図である。
図6b】シムシステムと、熱伝導体と、均質化体とを有する試料ヘッドを示す横断面図である。
図6c】シムシステムと、熱伝導体と、均質化体とを有する試料ヘッドを示す横断面図である。
図7】従来技術に基づく温度制御システムを示す模式的な垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
図面の図1図6はそれぞれ、本発明による温度制御システムの好ましい実施形態の様々な詳細を模式的な図として示しており、それに対して図7は、従来技術に基づく一般的な構造を示している。
【0072】
このようなNMR磁石システムの温度制御システムは、中央のエアギャップ2内の測定容積部に均一な静磁場を生成するための中央のエアギャップ2を有する永久磁石構造体1と、HFパルスを送信するため並びにHFコイル13によって測定試料0からHF信号を受信するためのNMR試料ヘッド3と、NMR試料ヘッド3内の周波数検知部並びに静磁場の振幅を変更するためのH0コイルを含むNMR周波数ロック部と、測定容積部の磁場をさらに均一化するために中央のエアギャップ2にあるシムシステム4と、を含んでいる。
【0073】
スペースの都合上、また図面の見やすさを良くするために、本特許図面のいずれの図においてもH0コイルはあえて図示しておらず、したがってその符号も付与していない。模式的な垂直断面図において、いずれの場合も、H0コイルは、模式的に示すシムシステム4とそれぞれ(見る者にとって)空間的に一致する。
【0074】
このような従来技術に基づく構造では、永久磁石構造体は直接的又は間接的に温度制御可能であるが、熱的な分離がないため、シムシステムとH0コイルの排熱は常に直接的又は間接的に磁石へと伝達される。
【0075】
本発明はこのような周知の構造に関して改良を加え、発明に必須である以下の部材によって拡充するものである:
本発明による温度制御システムは、第1の絶縁チャンバ5が永久磁石構造体1を熱的に遮蔽するように包囲し、第1の絶縁チャンバ5は、第1の絶縁チャンバ5の温度T1を制御するための1つ又は複数の手段6を備え、シムシステム4、H0コイル、及びNMR試料ヘッド3は、中央のエアギャップ2において第1の絶縁チャンバ5の外部に配置され、熱伝導体(7)の一方の側に配置されたシムシステム4及びシムシステム4に内蔵されたH0コイルと、熱伝導体(7)の他方の側に配置された永久磁石構造体1との間に少なくとも1つの熱伝導体7が配置されていることを特徴とする。
【0076】
本発明の特別に簡易な第1の実施形態が、図1に模式的に示されている。
【0077】
通常、磁石材料及び磁極片材料の熱伝導性は比較的低いので、選択的温度制御の場合には、磁石材料に温度勾配が発生することがあり、NMR測定にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。これと同じ理由により、対流も回避することが意図される。したがって本発明では、従来技術に記載されているような磁石の加熱器やペルチェ素子は省略される。その代わりに、磁石を取り囲む媒体(通常は流体/気体/絶縁体)による均一な熱放射と熱伝導が望まれる。したがって、1つの好ましい実施形態では、磁石の温度の制御がなされず、むしろ、周囲が完全かつ均一に温度制御される。特に、エアギャップの壁部も温度制御される。
【0078】
初期の温度調整のするために、追加の温度制御手段を磁石及び/又は磁極片に直接配置することもできるが、これらはMRスペクトロメータのスイッチがオンになった後の始動段階の後に再び不作動化される。このような追加の温度制御部材は、磁石の初期の温度制御に必要な時間を大幅に短縮するのに有利である。
【0079】
図2は本発明によるシステムの好ましい実施形態を示し、ここで第1の絶縁チャンバ1はまた、外に向かう受動的熱絶縁部9によって取り囲まれる。試料ヘッド領域に向かって、すなわち磁石の内側輪郭の内側には、少なくとも1つのシムシステム4と、少なくとも1つの熱伝導体7を有する熱伝導システムとがある。熱伝導体7は、熱伝導体7の温度T2を制御するための手段8と熱的に接続されており、これは、周囲のほうを向く熱交換器を有する加熱器又は熱電素子であり得る。T2は、T1と同様に、15℃~35℃の温度に合わせて調整される。受動的な絶縁部は、磁石システムのほうを向く側に、並びに、熱伝導体の片側又は両側に取り付けることもでき、磁石温度の慣性を高めて周囲への熱流を制限するための役目を果たす。
【0080】
熱伝導体7は、高熱伝導性を有する材料(たとえばCu、Al、AlО、...)からなる均質化体10を含むことができ、及び/又は熱管の形態の熱伝導デバイス17を有するように設計してよく、その中に流体が存在し、この流体は熱管の内部の温度に依存して蒸発又は凝結し、そのようにして熱を運び出すことができる。熱伝導体7はシムシステム4と磁石との間に配置され、それにより、永久磁石構造体1とシムシステムとの間で熱の遮蔽部を形成し、そのようにして、永久磁石の内側輪郭の内側に第1の絶縁チャンバの一部を構成する。
【0081】
1つの好ましい実施形態では、中央のエアギャップ2はNMR試料ヘッド3により外側に対して閉鎖される。これは気密な封止ではなく、周囲とエアギャップとの間での最低限の空気交換が確保されるように、外方に向かう開口部が設計されている。そのようにして、好ましくは、NMR試料管が挿入されたときに、ハウジングに対する間隙が1/10mmに制限される。
【0082】
その結果として、特にシムシステム及びH0コイルの電流による放散が熱伝導体によって行われる場合、エアギャップ2では、温度T1に近い、好ましくは温度T1と同一であるT2に近い温度が生じる。このことは、それによって測定試料温度が作動時に室温に近くなり、測定試料が挿入された後に一定の測定試料温度に達するまでの時間が可能な限り短くなるために、好ましい。
【0083】
シムシステム4は多数の(図面には詳しくは示さない)シムコイルで構成されており、好ましくは熱伝導システムに熱的に結合される。さらにこの実施形態は、閉じた測定ヘッドを有し、これは好ましくはロックサンプルを用いて作動させることができ、その場合には、第2の送信/受信コイルも含み、これはロックサンプルを取り囲み、及び/又はロックサンプルにおいてHF信号を生成することができるとともに、ロックサンプルからHF信号を受信することができ、また、少なくとも1つの追加の(同じく図示しない)H0コイルを有し、これは熱伝導システムと熱的に結合されるとともに、電流を変えることでロックサンプルにおける周波数変化に合わせて調整される。H0コイルへの通電によって磁石領域へ熱が流入することになり、したがって、ここではシムシステム4の熱的な遮蔽が特別に好ましいことが判明している。シムコイルにおける電流の調整によるこのような加熱は、たとえばシムアルゴリズムの収束性の低下につながる。1つまたは複数のH0コイルにおける電流を制御することは、磁石材料において熱的に生成する勾配による磁石の「シミング(不良)」(“(de)shimming”)につながり得る。代替的実施形態では、シムシステム及び/又はH0コイルは熱伝導体と結合されない。電気的放散によって発生する熱を、たとえば他の熱伝導体によって、制御することなくエアギャップから排出して、たとえば熱交換器を用いて室温にすることができる。
【0084】
図3には、図2の実施形態を拡張した構成が示されている。ここでは、第1の絶縁チャンバ5を取り囲む第2の絶縁チャンバ11がさらに存在する。さらに本例では、温度T2を制御するための手段8として、第2の絶縁チャンバ11の内部の空気と熱交換する熱交換器を有する熱電素子が示されている。第2の絶縁チャンバ11は、温度制御デバイス12を用いて温度T3に合わせて制御される、好ましくはここでも熱電素子及び熱交換器によって室温に制御される。
【0085】
第2の絶縁チャンバ11によって、空間内で実際にどれだけの高温になっているかに関わらず、確実に、磁石の周囲をヒートシンクとして利用できるようになる。それにより、磁石の周りの等温性を常に加熱によって実現することができ、冷却までする必要がない。このことは、温度T1の制御にとって常に十分であることは間違いない。これは、シムシステム、H0コイル、及び、存在し得る可変の測定試料温度以外によっては第1の絶縁ボックスの中に熱が流入されることがなく、これらの熱源は可能な限り完全に熱伝導体に結合されており、したがって温度T2の制御にのみ影響を与えるためである。
【0086】
壁部の両側に熱交換器を有するペルチェ(熱電素子)が、第2の絶縁チャンバ11をT3に温度制御する役割を果たす。これはさらに別の重要な役割も果たす:すなわち、これは室温の変動を最初に減少させる役割を果たし、これによって、スペクトロメータの周囲の温度に高い要求を求めることなく、等温壁及びシムシステム4/H0コイルの温度を適切に温度T1及びT2に温度制御することができる。可能な限り低い電力で温度T3に到達できるようにするために、第2の絶縁チャンバの壁部として十分な寸法を有する受動的な絶縁部を設けるのが合理的である。
【0087】
さらにこの実施形態では、温度T2を発生させるために、第2の絶縁チャンバ11に対して熱交換器を有するペルチェが設けられていてよい。これはたとえば、温度差や熱交換器のサイズが、シムシステム4及び/又はH0コイル及び/又は可変の測定試料温度による流入熱を冷却するのに十分な熱変位を得るために不十分である場合に、有利である。
【0088】
好ましくは、第1の絶縁チャンバ5は、熱伝導率が良好な材料で製作されている。これにより、外部から磁石への熱放射が可能な限り均一になり、したがって、磁石に温度勾配が生じないという利点がある。
【0089】
第2の絶縁チャンバ11は、好ましくは、空気を循環させるための手段19(たとえばベンチレータやタービン)を第2の絶縁チャンバ11の内部に含む。これによって、可能な限り均一な温度分布が得られ、1つまたは複数の熱交換器を通る空気の流れを確保することができる。
【0090】
代替的な実施形態では-図4に示すように-、温度T2を制御するための手段8は、外部温度に対しても制御を行うこともできる。
【0091】
さらに図4には開放型の試料チャンバが示されており、これにより、本実施形態では試料の温度制御も行うことができる。測定試料の温度制御に必要な手段を備えた対応する試料ヘッドは、図面を見やすくするために図4には示さないが、別途図5に示す。
【0092】
外部気温に対して温度T2を制御するための手段と、上部まで至るNMR試料ヘッド3とが別個のチャンバとして設計されていれば、熱的な負荷が高いときに試料ヘッドが第2の絶縁チャンバ11に到達せず、したがって、第2の絶縁チャンバ11の温度T3を制御するための温度制御デバイス12の手段(ペルチェ)をより小型に設計できるという利点がある。これは、シムシステム4/H0コイルの放散に加えて、試料の温度制御に伴って非常に大きな熱負荷が加わる場合において、特に適用できる。シムシステム4の熱制御は、ここでも小型の追加の加熱器を使用して、2段階で行うことができる。室温に対して熱を放散する場合、熱電素子のカスケードシステムを利用することによって、T2の制御の安定性を高めることができる。
【0093】
図5の(a)及び(b)は、VTガス流16による試料の温度制御が行われる2つの実施形態における、シムシステム4と熱伝導体7とを有する試料チャンバの模式的な縦断面を部分図として示している。
【0094】
測定試料の温度TS(TSは-40~+150℃の範囲内)を任意に制御するために(-40~+150℃の範囲内のTS)、測定試料の温度制御の空間をシムシステム4から分離する別の断熱システム14が必要である。これは熱伝導性の低い材料(たとえば真空、エアロゲル、発泡材、ガラス、プラスチック、...)からなり、好ましくは15℃~35℃の間の温度TFを有する温度制御された洗流ガス流15(「フラッシングガス」)の形態で第2のガス流を任意に含む。
【0095】
図示した両方の実施形態では、試料の温度制御のための中心管が追加的に設けられ、通常は長尺状の試料管を円筒状に取り囲む。このような中心管は、VTガス流を流すだけでなく、測定試料の破損やフローセル/測定試料に漏れが生じた場合に、漏れ出た液体や割れたガラス片を集めてこれらを容易に除去するのに利用できるという利点がある。
【0096】
断熱システム14は、HFコイル13とシムシステム4との間に配置されている。
【0097】
図5の(a)には、中心管を熱伝導性の低い材料で製作し、フラッシングガスとVTガスとの間に熱絶縁部を生成する実施形態が示されている。フラッシングガスや流体が流れる領域は、ここでは中心管と熱絶縁部との間に配置される。そのようにすることで、熱絶縁部による温度勾配を最小化することができるためである。しかしながら、測定試料の内部での温度勾配を改善するために、図5の(b)に示すように、フラッシングガス流を熱絶縁部の外側に、たとえば、熱絶縁部とシムシステムとの間に流すほうがより合理的である場合もある。また、これら両方の構成を組み合わせて、TSに近い温度、又はTSとTFの間の温度を有する第3のガス流を利用することも考え得る。
【0098】
図5の(a)は、温度制御ガスによって測定試料温度を直接設定することができる実施形態を示す。図5の(b)では、温度制御は間接的に行われている。これは特に、たとえば測定試料に毒性がある場合に測定試料が破損したときの汚染を回避するために利用する、気密に封止された試料チャンバを製作するのに有益であり得る。
【0099】
理想的には、熱伝導体への熱流入を可能な限り少なくできるように、フラッシングガス流の温度TFはT2にほぼ等しくなるようにする。
【0100】
最後に図6a~図6cは、シムシステム4を有するNMR試料ヘッド3の実施形態を通るさまざまな断面を示し、各場合において、熱伝導体7は均質化体10と熱伝導デバイス17とを備える。
【0101】
図6aは、2つの均質化体10と、熱を外部へ伝達するための2つの熱伝導デバイス17とを含む熱伝導体7を示す。均質化体10は板状であって、その役割は、発生した熱を平面で熱伝導デバイス17へと伝導することにある。距離が比較的短いので、これらの本体の材料厚みを薄くすることができる。
【0102】
図6bでは、熱伝導デバイス17はそれぞれ2つのヒートパイプを含んでおり、これにより、切断面に対して垂直の方向への熱伝導を大幅に高めることができる。
【0103】
図6cは、例えば同心的な構造を有するハルバッハ磁石の形状を模式的に示している。熱伝導体は、ここでは均質化体10と熱伝導デバイス17とから別々に構成されて成るのではなく、ヒートパイプを半田付けするか、もしくは中空円筒状のヒートパイプを利用して、図面平面に対して垂直な方向への熱輸送を向上させることもできる。
【0104】
熱伝導体7は、均質化体10と熱的に結合されるのが好ましい。均質化体は、均質化体10の外側輪郭全体に亘って(磁石のほうに向けて)可能な限り均一な温度T2を設定するために、特に熱伝導性の高い材料からなる。
【0105】
熱伝導デバイス17は、熱交換器に接続されており、均質化体10の中へ熱を輸送したり、又は均質化体10から外へ熱を輸送する役割を果たす。熱伝導デバイス17は、熱伝導性の高い材料又は伝熱管(ヒートパイプ)として構成されるのが好ましい。
【0106】
シムシステム及び/又はH0コイルは、熱伝導体7に、特に均質化体10に、直接的に熱的に結合されるのが好ましい。これによって、確実に、作動時の電流によって発生する放散を中央のエアギャップから効率的に導出することができる。
【0107】
従来技術の周知の装置との本質的な相違点は、磁石の内側の輪郭から「見える」温度T2を制御することにある。さらに、試料温度制御チャンバとシムシステムとの間に熱絶縁部を挿入することも新規である。上記引用文献から明らかなように、従来技術においては、熱絶縁部は常に測定試料と試料温度制御チャンバの内壁との間に配置されており、ただし、特に送信/受信コイルの内部に配置されている。
【0108】
上述した本発明のすべての実施形態の特徴を、-少なくとも大部分において-互いに組み合わせることも可能である。
【0109】
参考文献リスト:
特許性を判断するために考慮した刊行物:
[1] 米国特許出願公開第2011/0137589号明細書
[2] 米国特許第8,461,841号明細書
[3] 米国特許第6,489,873号明細書
[4] 米国特許第6,566,880号明細書及び国際特許出願公開第2000/016117号明細書
[5] 英国特許出願公開第2512328号明細書
[6] 米国特許第8,030,927号明細書
[7] 米国特許第7,297,907号明細書
[8] 米国特許出願公開第2013/0207657号明細書
[9] 米国特許第9,285,441号明細書
[10] 米国特許出願公開第2011/0037467号明細書
[11] 米国特許出願公開第2018/0038924号明細書
[12] 米国特許出願公開第2016/0077176号明細書
【符号の説明】
【0110】
0 測定試料
1 永久磁石構造体
2 中央のエアギャップ
3 NMR試料ヘッド
4 シムシステム
5 第1の絶縁チャンバ
6 温度T1を制御するための手段
7 熱伝導体
8 温度T2を制御するための手段
9 受動的熱絶縁部
10 均質化体
11 第2の絶縁チャンバ
12 温度制御デバイス
13 HFコイル
14 断熱システム
15 温度制御された洗流ガス流
16 温度制御されたVTガス流
17 熱伝導デバイス
18 T1を測定するためのTセンサ
18’ T2を測定するためのTセンサ
18’’ T3を測定するためのTセンサ
19 空気を循環させるための手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図7