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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】バルーンカテーテル用バルーン
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20230228BHJP
【FI】
A61M25/10 530
A61M25/10 550
A61M25/10 510
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022525284
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2021029931
(87)【国際公開番号】W WO2022102189
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020190297
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 真弘
(72)【発明者】
【氏名】杖田 昌人
(72)【発明者】
【氏名】中野 良紀
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼淵 崇亘
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-513299(JP,A)
【文献】特表2015-518776(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008514(WO,A1)
【文献】特表2004-504111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン本体を有しており、
前記バルーン本体は、拡張部と、前記拡張部よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部と、前記拡張部よりも近位側に位置している近位側スリーブ部と、を有しており、
前記遠位側スリーブ部はシャフトと固定される固定部を有しており、
前記遠位側スリーブ部の内面の前記固定部の遠位端よりも近位側であって前記遠位側スリーブ部の周方向の一部に補強部を有しており、
前記拡張部は、直管部と、前記直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部を有しており、前記拡張部の長手軸方向において前記遠位側テーパー部の遠位端を0%の位置、前記遠位側テーパー部の近位端を100%の位置としたとき、前記遠位側テーパー部の70%超100%以下の区間において補強部を有していないことを特徴とするバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項2】
記遠位側テーパー部の0%の位置から10%までの区間において、前記遠位側テーパー部の内面であって前記遠位側テーパー部の周方向の一部に前記補強部を有している請求項1に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項3】
前記遠位側スリーブ部の前記補強部と前記遠位側テーパー部の前記補強部は、前記バルーン本体の長手軸方向に連続して延在している請求項2に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項4】
記直管部は前記補強部を有していない請求項1~3のいずれか一項に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項5】
前記補強部は、樹脂で構成されている請求項1~4のいずれか一項に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項6】
前記補強部は、金属で構成されている請求項1~4のいずれか一項に記載のバルーンカテーテル用バルーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンカテーテル用バルーンに関する。
【背景技術】
【0002】
血管が狭窄することにより引き起こされる狭心症や心筋梗塞等の治療の一つとして、バルーンカテーテルを用いて狭窄部を拡張させる血管形成術がある。また、血管以外にも気管、消化管等の体腔の狭窄部の拡張を目的として、各種バルーンカテーテルが提案されている。バルーンカテーテルを用いた治療は、バイパス手術のような開胸術を必要としない低侵襲療法であることから広く行われている。
【0003】
バルーンカテーテルは、治療する病変部から離れた箇所から挿入されることも多く、例えば心臓にバルーンカテーテルを送達させる場合、バルーンカテーテルは主に大腿動脈又は手首や上腕の動脈から挿入される。そのため、安全な治療を行うには、バルーンカテーテルが挿入箇所から病変部まで細く湾曲した体腔内に追従しながら所期の方向に容易に進行することが求められる。例えば、特許文献1には、バルーンを基材層と基材層より柔軟な被覆層を有する多層構造とすることにより、強度と柔軟性を付与しトラッカビリティー(蛇行した血管に対し、バルーンが追随して進む事ができる性質)を向上したバルーンカテーテルが開示されている。また、特許文献2には、先端チップの柔軟化と小径化を目的として、先端チップを先細テーパー形状とし先端テーパー部の肉厚を連続的に薄肉化したバルーンカテーテルが、特許文献3には先端チップが柔軟な樹脂で形成されているバルーンカテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-246097号公報
【文献】特開2008-264569号公報
【文献】国際公開第2017/158735号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルーンカテーテルを用いて安全に所望の治療を行うためには、術者の操作に応じてバルーンカテーテルが体腔内に追従しながら容易に所期の治療部位まで送達される必要がある。しかし、上記のバルーンは一定の強度と柔軟性を有することでトラッカビリティーをある程度向上できるものの、バルーンが折れ曲がるキンクや軸方向に潰れる座屈、またバルーンの長手軸方向の伸びを防止するという点で改善の余地があった。そこで、本発明はバルーンのキンクや座屈並びにバルーンの長手軸方向の伸びを防止でき、容易に操作可能なバルーンカテーテル用バルーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成し得た本発明のバルーンカテーテル用バルーンの一実施形態は、バルーン本体を有しており、該バルーン本体は、拡張部と、拡張部よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部と、拡張部よりも近位側に位置している近位側スリーブ部と、を有しており、前記遠位側スリーブ部はシャフトと固定される固定部を有しており、前記遠位側スリーブ部の内面の前記固定部の遠位端よりも近位側であって遠位側スリーブ部の周方向の一部に補強部を有しており、近位側スリーブ部の内面には上記補強部を有していないことに特徴を有する。
【0007】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、拡張部は、直管部と、直管部よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部を有しており、拡張部の長手軸方向において遠位側テーパー部の遠位端を0%の位置、遠位側テーパー部の近位端を100%の位置としたとき、遠位側テーパー部の0%の位置から10%までの区間において、遠位側テーパー部の内面であって遠位側テーパー部の周方向の一部に補強部を有していることが好ましい。
【0008】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、遠位側スリーブ部の補強部と遠位側テーパー部の補強部は、バルーン本体の長手軸方向に連続して延在していることが好ましい。
【0009】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、補強部は樹脂で構成されていることが好ましい。
【0010】
上記バルーンカテーテル用バルーンにおいて、補強部は金属で構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記バルーンカテーテル用バルーンによれば、バルーンカテーテルの送達や治療動作などのバルーンにカテーテル操作時にバルーンが折れ曲がるキンクや長手軸方向に潰れてしまう座屈を防止でき、また、バルーン内に加圧流体等の流体を導入してバルーンを膨張させる際等のバルーンの長手軸方向の伸びを防止できる。さらに、バルーンへの流体の導入又は排出によってバルーンを拡張又は収縮させる際に、流体の導入及び排出の時間(インフレーションタイム及びデフレーションタイム)を長引かすことなく治療の遅延を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの側面図を表す。
図2図1に示したバルーンカテーテルの遠位部の長手軸方向の断面図を表す。
図3】本発明の他の実施形態に係るバルーンカテーテルの遠位部の長手軸方向の断面図を表す。
図4】本発明のさらに他の実施形態に係るバルーンカテーテルの遠位部の長手軸方向の断面図を表す。
図5図1のV-V断面図を表す。
図6図5の変形例を示す断面図を表す。
図7図1のVII-VII断面図を表す。
図8】本発明のさらに他の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンの長手軸方向の断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0014】
本発明のバルーンカテーテル用バルーンの一実施形態は、バルーン本体を有しており、該バルーン本体は、拡張部と、拡張部よりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部と、拡張部よりも近位側に位置している近位側スリーブ部と、を有しており、前記遠位側スリーブ部はシャフトと固定される固定部を有しており、前記遠位側スリーブ部の内面の前記固定部の遠位端よりも近位側であって遠位側スリーブ部の周方向の一部に補強部を有しており、近位側スリーブ部の内面には上記補強部を有していないことに特徴を有する。このように、遠位側スリーブ部の内面の固定部の遠位端よりも近位側であって周方向の一部に補強部を有していることにより、遠位側スリーブ部の外径を抑えつつも剛性を向上させることができる。これにより、遠位側スリーブ部の固定部との剛性段差を緩和することができ、その結果バルーンカテーテルの病変部までの送達や治療動作などのバルーンカテーテル操作時にバルーンが折れ曲がるキンクや長手方向に潰れる座屈を防止することが可能となる。また、遠位側スリーブ部の内面が補強部を有することによって、バルーン内に加圧流体等の流体を導入してバルーンを拡張させる際に、流体の最終到達先であり流体を受け止める遠位側スリーブ部の剛性が確保され、バルーンの長手軸方向の伸びを抑制することができる。さらに、近位側スリーブ部の内面は補強部を有していないことで、バルーンへの流体の導入又は排出によりバルーンを拡張又は収縮させる際に、流体のバルーンへの出入り口となる近位側スリーブ部の内腔が狭まることなく確保できるため、流体の導入及び排出の時間(インフレーションタイム及びデフレーションタイム)を長引かすことなく治療の遅延を回避できる。以下では、バルーンカテーテル用バルーンを単に「バルーン」と称することがある。
【0015】
図1図7を参照しながら、バルーンカテーテル用バルーンについて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るバルーンカテーテルの側面図を表し、図2図1に示したバルーンカテーテルの遠位部の長手軸方向の断面図を表す。図3は本発明の他の実施形態に係るバルーンカテーテルの遠位部の長手軸方向の断面図を表し、図4はさらに他の実施形態に係るバルーンカテーテルの遠位部の長手軸方向の断面図を表す。図5図1のV-V断面図を表し、図6図5の変形例を示す断面図を表す。図7図1のVII-VII断面図を表す。
【0016】
図1に示すように、バルーンカテーテル1は、シャフト3と、シャフト3の外側に設けられたバルーン2とを有するものである。バルーンカテーテル1は近位側と遠位側を有し、シャフト3の遠位側にバルーン2が設けられる。なお、近位側とは、バルーンカテーテル1の延在方向又はシャフト3の長手軸方向に対して使用者又は術者の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向、すなわち処置対象者側の方向を指す。
【0017】
図1図7に示すように、バルーンカテーテル用バルーン2は、バルーン本体20を有しており、バルーン本体20は、拡張部20eと、拡張部20eよりも遠位側に位置している遠位側スリーブ部25と、拡張部20eよりも近位側に位置している近位側スリーブ部21と、を有しており、遠位側スリーブ部25はシャフト3と固定される固定部25fを有しており、遠位側スリーブ部25の内面の固定部25fの遠位端よりも近位側であって遠位側スリーブ部25の周方向の一部に補強部60を有しており、近位側スリーブ部21の内面には補強部60を有していない。
【0018】
バルーン本体20のうち、拡張部20eは流体を導入することにより拡張可能な部分である。近位側スリーブ部21と遠位側スリーブ部25は、それぞれ拡張部20eよりも近位側及び遠位側に位置している拡張しない部分であり、遠位側スリーブ部25はシャフト3と固定される固定部25fを有している。シャフト3は、内部に流体の流路が設けられており、さらにガイドワイヤの挿通路を有していることが好ましい。シャフト3が内部に流体の流路及びガイドワイヤの挿通路を有する構成とするには、例えば、図2図4に示すように、シャフト3が外側チューブ31と内側チューブ32とを有しており、内側チューブ32がガイドワイヤの挿通路として機能し、内側チューブ32と外側チューブ31の間の空間が流体の流路として機能する構成とすることが挙げられる。シャフト3が外側チューブ31と内側チューブ32とを有している場合、内側チューブ32が外側チューブ31の遠位端から延出してバルーン2よりも遠位側に貫通し、遠位側スリーブ部25の内面が固定部25fにおいて内側チューブ32に固定されており、近位側スリーブ部21の内面が外側チューブ31に固定されていることが好ましい。このとき、近位側スリーブ部21の少なくとも一部及び遠位側スリーブ部25の少なくとも一部がシャフト3と溶着などにより固定されていることが好ましい。遠位側スリーブ部25とシャフト3の内側チューブ32とは、直接固定されていてもよいし、補強部60を介して間接的に固定されていてもよい。また、遠位側スリーブ部25と内側チューブ32とは、図2に示すように別のチューブ等の固定部材33を介して固定されていてもよいし、図3に示すように別の樹脂34を用いた溶着により固定され、固定部25fが樹脂34を介して固定されている部分と樹脂34及び補強部60とを介して固定されている部分の両方を含んでいてもよい。さらに、図4に示すように、遠位側スリーブ部25と内側チューブ32とは、固定部25fの長手軸方向の全域が樹脂34と補強部60とを介するように固定されていてもよい。上記のような構成により、インデフレーター(バルーン用加圧器)を用いて拡張部20eの拡張及び収縮を制御することができる。流体は、ポンプ等により加圧された加圧流体であってもよい。
【0019】
遠位側スリーブ部25が、遠位側スリーブ部25の内面の固定部25fの遠位端よりも近位側であって周方向の一部に補強部60を有していることにより、遠位側スリーブ部25の外径を抑えつつも補強部60により遠位側スリーブ部25の剛性を向上させることができる。これにより、遠位側スリーブ部25の固定部より近位側の部分と固定部25fとの剛性段差が緩和され、バルーン2の先端部のキンクや座屈を生じにくくすることができる。バルーン2の先端部にキンクや座屈が生じにくければ、バルーンカテーテル1を所期の位置へ送達し所望の治療動作を行うことが容易となる。また、遠位側スリーブ部25の内面が補強部60を有することによって、バルーン2内に加圧流体を導入してバルーン2を拡張させる際に、バルーン2の近位側から導入される加圧流体を受け止める最終到達先である遠位側スリーブ部25の剛性が向上し、バルーン2の長手軸方向の伸びを抑制することができる。これにより、バルーン2を径方向に十分拡張させることができ、バルーン2が治療対象ではない正常な血管まで拡張して損傷を与えるリスクを低下させることができる。さらに、近位側スリーブ部21の内面には補強部60を有していないため、バルーン2への加圧流体の導入やバルーン2からの流体の排出の際に流体のバルーン2への出入り口となる近位側スリーブ部21の内腔は狭まることなく確保できるため、流体の導入及び排出の時間(インフレーションタイム及びデフレーションタイム)を長引かすことなく治療の遅延を回避でき、患者の負担を軽減できる。
【0020】
図2に示すように、遠位側スリーブ部25は、補強部60を固定部25fから離隔して有していてもよい。すなわち、補強部60の遠位端が固定部25fの近位端よりも近位側に離隔して配されていてもよい。補強部60を固定部25fから離隔して有していれば、バルーン2の柔軟性を損なうことなく遠位側スリーブ部25の剛性を向上することができ、柔軟性を有しつつキンクや座屈の生じにくいバルーン2とすることができる。或いは、補強部60は、固定部25fと連続して設けられていてもよい。補強部60が連続して設けられていれば、遠位側スリーブ部25の剛性をより向上することができ、キンクや座屈をより生じにくいバルーン2とすることができる。また図3及び図4に示すように、遠位側スリーブ部25は固定部25fにおいても補強部を有していてもよく、図4に示すように、補強部60は固定部25fの近位側から遠位側にかけて連続して設けられていてもよい。さらに図4に示すように、遠位側スリーブ部25は、固定部25fの遠位端よりも近位側に補強部60を有してさえいれば、固定部25fの遠位端よりも遠位側にも補強部60を有していてもよい。これにより、遠位側スリーブ部25の剛性をよりさらに向上することができる。
【0021】
バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側スリーブ部25の長手軸方向の長さの10%以上に補強部60を有していることが好ましく、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。またバルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側スリーブ部25の長手軸方向の長さの100%に補強部60を有していてもよいが、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%以下がさらに好ましい。バルーンカテーテル用バルーン2が上記範囲で遠位側スリーブ部25の内面に補強部60を有していれば、遠位側スリーブ部25の剛性を向上することができる。
【0022】
長手軸方向において遠位側スリーブ部25の一部に補強部60が配されている場合は、補強部60は遠位側スリーブ部25の近位端側に配されていることが好ましい。例えば、補強部60は、長手軸方向において遠位側スリーブ部25の中点よりも近位側の部分の90%以上に配されていることが好ましく、95%以上がより好ましく、100%に配されていてもよい。このとき、長手軸方向において遠位側スリーブ部25の中点よりも遠位側の部分には補強部60は配されていなくてもよいし、遠位側スリーブ部25の中点よりも遠位側の部分の5%以上、10%以上、或いは15%以上に配されていてもよく、また、遠位側スリーブ部25の中点よりも遠位側の部分の50%以下、40%以下、或いは30%以下に配されていてもよい。これにより、バルーン2内に加圧流体を導入してバルーン2を拡張させる際に、バルーン2の近位側から導入される加圧流体を受け止める遠位側スリーブ部25の加圧流体の入口側の剛性を向上でき、バルーン2の長手軸方向の伸びの抑制がより容易となる。
【0023】
長手軸方向において遠位側スリーブ部25の一部に補強部60が配されている場合は、補強部60の遠位端が固定部25fの遠位端よりも近位側に配置されており、補強部60の近位端が固定部25fの近位端よりも近位側に配置されていることが好ましい。これにより、長手軸方向において遠位側スリーブ部25の内面を近位側から補強部60を有する部分、補強部60と固定部25fを有する部分、固定部25fを有する部分の順に並べる構成とすることができ、遠位側スリーブ部25の剛性変化をなだらかにすることができる。その結果、遠位側スリーブ部25の剛性段差が緩和され、バルーン2の先端部のキンクや座屈をより生じにくくすることができる。
【0024】
また或いは、長手軸方向において遠位側スリーブ部25の一部に補強部60が配されている場合は、補強部60の遠位端が固定部25fの近位端よりも近位側に配置されていてもよく、この場合上述のように補強部60の遠位端が固定部25fの近位端と離隔していてもよく、また或いは補強部60の遠位端が固定部25fの近位端と接するように構成されていてもよい。このように補強部60の遠位端が固定部25fの近位端と接するように構成されていれば、遠位側スリーブ部25は補強部60により剛性が高くなる部分と固定部25fにより剛性が高くなる部分を連続して有することができ、遠位側スリーブ部25の剛性変化をなだらかにすることができる。その結果、遠位側スリーブ部25の剛性段差が緩和され、バルーン2の先端部のキンクや座屈をより生じにくくすることができる。
【0025】
補強部60の長手軸方向に垂直な断面の形状は、任意の形状であってよく、略三角形や図5に示したような略長方形、図6に示したような略台形、多角形、扇形、くさび型、凸字形、紡錘形などであってもよい。バルーン本体20の長手軸方向に垂直な径方向の断面において、バルーン本体20の中心とバルーン本体20の円周を結ぶ直線上の補強部60の最大長さを補強部60の高さL2としたとき、補強部60の高さL2は、バルーン本体20の膜厚の1倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であり、また50倍以下、30倍以下、或いは10倍以下であることも許容される。補強部60がこのような高さL2を有することで、遠位側スリーブ部25の剛性を向上することができる。また、補強部60の長手軸方向に垂直な径方向の断面において、補強部60は、バルーン2の周方向の長さL1を有しており、L2>L1とすることが好ましい。これにより、遠位側スリーブ部25の剛性をいっそう向上することができる。また、L1とL2は、L2>0.8L1であってもよく、L2>0.5L1であってもよく、L2>0.3L2であってもよい。L1とL2が上記関係を満たしていれば、遠位側スリーブ部25の剛性を向上することができる。或いは、補強部60は、L2<L1となるように構成されていてもよい。このような構成であれば、遠位側スリーブ部25の補強部60を有する部分と有さない部分との剛性のバランスを取ることができ、全体として適切な剛性とすることが可能となる。
【0026】
図5に示すように、バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側スリーブ部25の内面の周方向に1つの補強部60を有していてもよい。また、図6に示すように、バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側スリーブ部25の内面の周方向に複数の補強部60を有していてもよい。複数の補強部60を有している場合は、補強部60が周方向に離隔していることが好ましく、周方向に等間隔に配されることがより好ましい。バルーンカテーテル用バルーン2が複数の補強部60をこのように有していることで、遠位側スリーブ部25の剛性を周方向に均等に向上することができ、バルーン2の遠位部のキンクや座屈、並びにバルーン2の伸びをいずれの方向においても防止することができる。
【0027】
図示していないが、バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側スリーブ部25の内面であって遠位側スリーブ部25の周方向の一部に、バルーン本体20の長手軸方向に不連続に補強部60を有していてもよく、また、バルーン本体20の長手軸に対してらせん状に延在する補強部60を有していてもよい。このように補強部60の配し方を調整することで、遠位側スリーブ部25の剛性を調整することが可能である。
【0028】
補強部60は、樹脂で構成されていることが好ましい。補強部60が樹脂で構成されていれば、遠位側スリーブ部25の柔軟性を過度に損なうことなく剛性を確保することが可能である。補強部60を構成する樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ-(4-メチルペンテン-1)等のポリメチルペンテン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ABS系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリアミドエラストマー、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12等のポリアミド系樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。補強部60が樹脂で構成されている場合、補強部60は、例えば接着剤による接着や溶着等によりバルーン本体20に固定されていることが好ましく、溶着により固定されていることがより好ましい。または、補強部60は、バルーン本体20と一体成形されていてもよい。一体成形されていれば、補強部60のバルーン本体20からの脱落を防止することができる。
【0029】
補強部60は、金属で構成されていることが好ましい。補強部60が金属で構成されていれば、補強部60の形状や数、配置の仕方等により遠位側スリーブ部25の剛性を容易に調整することが可能である。補強部60を構成する金属としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タンタル、コバルト合金等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。補強部60が金属で構成されている場合、補強部60は、例えば接着剤による接着でバルーン本体20に固定することができる。
【0030】
バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側スリーブ部25の外面には補強部60を有していないことが好ましい。これにより、遠位側スリーブ部25の外径を抑えることができ、バルーンカテーテル1を体腔内に容易に挿通させることができる。或いは、図示していないが、バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側スリーブ部25の外面に補強部60を有している部分を有していてもよい。この場合は、バルーン本体20の長手軸方向に垂直な径方向の断面において、バルーン本体20の中心とバルーン本体20の円周を結ぶ直線上の補強部60の最大長さを補強部60の高さとしたとき、補強部60の高さは、遠位側スリーブ部25の内面の補強部60の高さL2よりも低いことが好ましい。このような構成であれば、遠位側スリーブ部25が外面に補強部60を有していても遠位側スリーブ部25の外径が大きくなり過ぎることなく、内面と外面の補強部60によって遠位側スリーブ部25の剛性を向上することができ、バルーンカテーテル1の挿通性を確保しつつバルーン2の遠位部のキンクや座屈、並びにバルーン2の伸びをさらに防止することができる。
【0031】
図7に示すように、バルーンカテーテル用バルーン2は、近位側スリーブ部21の内面には補強部60を有していない。これにより、近位側スリーブ部21の内腔が充分に確保できるため、バルーン2への加圧流体の導入やバルーン2からの流体の排出の際に、流体がバルーン2への出入り口となる近位側スリーブ部21の内腔を容易に通過することができ、流体の導入及び排出の時間を短縮して患者の負担を軽減することができる。
【0032】
図示していないが、バルーンカテーテル用バルーン2は、近位側スリーブ部21の外面であって近位側スリーブ部21の周方向の一部に補強部60を有していてもよい。近位側スリーブ部21の外面であれば、補強部60を有していても流体の導入や排出を妨げることなくバルーン本体20の近位側の剛性を高めることができる。
【0033】
図8を参照しつつ、本発明のさらに他の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンを説明する。図8は、本発明の他の実施形態に係るバルーンカテーテル用バルーンの長手軸方向の断面図を表す。
【0034】
図8に示すように、拡張部20eは、直管部23と直管部23よりも遠位側に位置している遠位側テーパー部24を有していることが好ましい。また、直管部23よりも近位側に位置している近位側テーパー部22を有していてもよい。遠位側テーパー部24と近位側テーパー部22は、直管部23から離れるにつれて縮径するように形成されていることが好ましい。拡張部20eが直管部23を有していることにより、直管部23が狭窄部と十分に接触して狭窄部の拡張が行いやすく、かつ、拡張部20eが直管部23から離れるにつれて外径が小さくなる遠位側テーパー部24及び近位側テーパー部22を有していることにより、バルーン2を収縮させてシャフト3に巻き付けた際に、バルーン2の遠位端部及び近位端部の外径を小さくしてシャフト3とバルーン2との段差を小さくすることができるため、バルーン2を体腔内に容易に挿通することができる。
【0035】
遠位側テーパー部24の内面には、拡張部20eの長手軸方向において遠位側テーパー部24の遠位端を0%の位置D0、遠位側テーパー部24の近位端を100%の位置D100としたとき、遠位側テーパー部24の0%の位置から10%の位置までの区間において、遠位側テーパー部24の内面であって遠位側テーパー部24の周方向の一部に補強部60を有していることが好ましい。バルーンカテーテル用バルーン2が遠位側テーパー部24の内面にも上記範囲で補強部60を有していることにより、バルーン2の遠位側の外径を大きくすることなく剛性をより向上することが可能となる。これにより、遠位側テーパー部24においてもバルーン2のキンクや座屈を防止できる。また、加圧流体を受け止めるバルーン2の遠位部である遠位側テーパー部24と遠位側スリーブ部25の剛性を確保できることから、長手軸方向のバルーン2の伸びをさらに防止することができる。
【0036】
バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側テーパー部24の0%の位置から10%の位置までの区間を超えて補強部60を有していてもよく、15%の位置以上の区間であってもよく、20%の位置以上の区間であってもよい。また、バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側テーパー部24の0%の位置から95%の位置以下の区間に補強部60を有していてもよく、80%の位置以下の区間であってもよく、70%の位置以下の区間であってもよい。バルーンカテーテル用バルーン2が上記範囲に補強部60を有していれば、遠位側テーパー部24の剛性を向上することができる。
【0037】
図示していないが、バルーンカテーテル用バルーン2は、遠位側テーパー部24の内面の周方向に1つの補強部60を有していてもよく、複数の補強部60を有していてもよい。複数の補強部60を有している場合は、補強部60が周方向に離隔していることが好ましく、周方向に等間隔に配されることがより好ましい。バルーンカテーテル用バルーン2が複数の補強部60をこのように有していることで、遠位側テーパー部24の剛性を周方向に均等に向上することができ、バルーン2の遠位部のキンクや座屈、並びにバルーン2の伸びをいずれの方向においても防止することができる。
【0038】
図8に示すように、遠位側スリーブ部25の補強部60と遠位側テーパー部24の補強部60は、バルーン本体20の長手軸方向に連続して延在していることが好ましい。バルーンカテーテル用バルーン2が遠位側スリーブ部25と遠位側テーパー部24に連続して延在する補強部60を有していることで、バルーン2の遠位部が軸方向の伸びをより抑制することが可能となる。
【0039】
バルーン本体20を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー等のポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ラテックスゴム等の天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂が好適に用いられる。特に、バルーン本体20の薄膜化や柔軟性の点からエラストマー樹脂を用いることが好ましい。例えば、ポリアミド系樹脂の中では、ナイロン12、ナイロン11等がバルーン本体20を構成する樹脂として好適であり、ブロー成形する際に比較的容易に成形可能である点から、ナイロン12がより好適である。また、バルーン本体20の薄膜化や柔軟性の点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリアミドエーテルエラストマー等のポリアミドエラストマーが好ましく用いられる。中でも、降伏強度が高く、バルーン本体20の寸法安定性を良好とする点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマーが好ましく用いられる。
【0040】
シャフト3を構成する材料としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、シャフト3を構成する材料は、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びフッ素系樹脂の少なくとも1つであることが好ましい、これにより、シャフト3の表面の滑り性を高め、バルーンカテーテル1の体腔内での挿通性を向上させることができる。
【0041】
バルーン2とシャフト3との接合は、接着剤による接着、溶着、バルーン2の端部とシャフト3とが重なっている箇所にリング状部材を取り付けてかしめること等が挙げられる。中でも、バルーン2とシャフト3は、溶着によって接合されていることが好ましい。バルーン2とシャフト3が溶着されていることにより、バルーン2を繰り返し拡張及び収縮させてもバルーン2とシャフト3との接合が解除されにくく、バルーン2とシャフト3との接合強度を容易に高めることができる。
【0042】
図1に示すように、シャフト3の近位側にはハブ4が設けられていてもよく、ハブ4には、バルーン2の内部に供給される流体の流路と連通した流体注入部7が設けられていてもよい。また、ハブ4は、ガイドワイヤの挿通路と連通したガイドワイヤ挿入部5を有することが好ましい。バルーンカテーテル1が流体注入部7とガイドワイヤ挿入部5を備えるハブ4を有していることにより、バルーン2の内部に流体を供給してバルーン2を拡張及び収縮させる操作や、ガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテル1を治療部位まで送達する操作を容易に行うことができる。このようにガイドワイヤがシャフトの遠位側から近位側にわたって挿通される所謂オーバーザワイヤ型のバルーンカテーテルのみならず、本発明の実施形態に係るバルーン2は、シャフト3の遠位側から近位側に至る途中までガイドワイヤを挿通する所謂ラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテルにも適用することができる。
【0043】
シャフト3とハブ4との接合は、例えば、接着剤による接着、溶着等が挙げられる。中でも、シャフト3とハブ4は、接着により接合されていることが好ましい。シャフト3とハブ4とが接着されていることにより、例えば、シャフト3は柔軟性の高い材料から構成され、ハブ4は剛性の高い材料から構成されている等、シャフト3を構成する材料とハブ4を構成する材料とが異なっている場合に、シャフト3とハブ4との接合強度を高めてバルーンカテーテル1の耐久性を高めることができる。
【0044】
本願は、2020年11月16日に出願された日本国特許出願第2020-190297号に基づく優先権の利益を主張するものである。2020年11月16日に出願された日本国特許出願2020-190297号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0045】
1:バルーンカテーテル
2:バルーン
3:シャフト
4:ハブ
5:ガイドワイヤ挿入部
7:流体注入部
20:バルーン本体
20e:拡張部
21:近位側スリーブ部
22:近位側テーパー部
23:直管部
24:遠位側テーパー部
25:遠位側スリーブ部
25f:固定部
31:外側チューブ
32:内側チューブ
33:固定部材
34:固定部の樹脂
60:補強部
0:0%の位置
100:100%の位置
1:補強部のバルーンの周方向の長さ
2:補強部の高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8