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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】焼結製品とそのレーザーマーキング方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20230301BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20230301BHJP
   B23K 26/354 20140101ALI20230301BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20230301BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
B23K26/00 B
B23K26/00 G
B23K26/36
B23K26/354
B22F3/10 E
B22F3/10 B
C22C38/00 304
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019530989
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026187
(87)【国際公開番号】W WO2019017256
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017139182
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 寛明
(72)【発明者】
【氏名】田内 正之
(72)【発明者】
【氏名】縄稚 賢治
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-185714(JP,A)
【文献】特開平10-034359(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002605(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
B22F 3/10
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を含有する圧粉成形体のレーザーマーキング方法であって、
前記金属粉末は、平均粒径が20~200μmの鉄系材料の粉末を90質量%以上含む粉末であり、
弱い方の第1パワーのレーザー光により、前記圧粉成形体の表面の所定エリアを走査して、前記所定エリアの内部を溶解させて滑らかにする第1工程であって、当該第1工程により形成される前記圧粉成形体の表面は、当該第1工程が行われない通常表面よりも空隙率が小さい第1工程と、
高い方の第2パワーのレーザー光により、前記所定エリア内の所定箇所に所定深さの凹部よりなるドットを形成する第2工程と、を含む、レーザーマーキング方法。
【請求項2】
前記第2工程は、前記所定エリア内のセルの内部においてレーザー光を外側から内側に向かって渦巻き状に走査して照射する回転照射を、複数回行う工程を含む請求項1に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項3】
前記第1パワーは、10W以上でかつ25W以下であり、
前記第2パワーは、20W以上でかつ50W以下である請求項1又は請求項2に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項4】
前記第1パワーのレーザー光の走査速度は、1500mm/s以上でかつ2700mm/s以下であり、
前記第2パワーのレーザー光の走査速度は、250mm/s以上でかつ320mm/s以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項5】
前記第2パワーよりも弱い第3パワーのレーザー光により、前記所定エリア内における前記第2工程で形成した前記ドットの以外の部分を走査する第3工程を、更に含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項6】
前記第3パワーは、10W以上でかつ25W以下である請求項5に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項7】
前記第3パワーのレーザー光の走査速度は、1700mm/s以上でかつ3000mm/s以下である請求項5又は請求項6に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項8】
記第2工程により形成されるドットは、開口部分の平面形状がほぼ円形でかつ底部が丸みを帯びた先細り状の凹部よりなる請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のレーザーマーキング方法。
【請求項9】
金属粉末を含有する圧粉成形体を焼結してなる焼結製品であって、
前記金属粉末は、平均粒径が20~200μmの鉄系材料の粉末を90質量%以上含む粉末であり、
前記焼結製品は、前記圧粉成形体の表面にレーザーマーキングによって印字された複数のドットを含む2次元コードを有し、
前記焼結製品の表面における、前記ドットを内包する分析範囲又は前記ドットの縁に対応する分析点の酸素含有量が2重量%以下であり、
前記圧粉成形体の表面のうち、複数の前記ドットを内包する部分の表面は前記レーザーマーキングが行われていない通常部分の表面よりも空隙率が小さい、焼結製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉成形体を焼結して得られる焼結製品と、この焼結製品にレーザーマーキングを施す方法に関する。
本出願は、2017年7月18日出願の日本出願第2017-139182号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄粉などの金属粉末の成形体を焼結してなる焼結体(焼結合金)が、自動車部品や機械部品などに利用されている。かかる焼結合金よりなる製品(以下、単に「焼結製品」という。)には、例えば、スプロケット、ロータ、ギア、リング、フランジ、プーリー、ベーン、軸受けなどが挙げられる。
一般に、焼結製品は、金属粉末を含有する原料粉末をプレス成形して圧粉成形体を作製し、焼結することで製造される。焼結後には、必要に応じて仕上げ加工が行われる。
【0003】
特許文献1には、金属粉末又はセラミック粉末と有機質バインダーとの混練物を射出成形し、この成形体にレーザーマーキングを施してから脱バインダーし、成形体を焼成することを特徴とする粉末焼成製品のマーキング方法が記載されている。
特許文献1に記載のマーキング方法によれば、成形体又はその後の脱バインダー体にレーザーマーキングするので、小さい出力のレーザー光で高速にマーキングが可能であるとともに、中間製品の管理が容易になるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-185714号公報
【発明の概要】
【0005】
(1) 本発明の一態様に係る方法は、金属粉末を含有する圧粉成形体のレーザーマーキング方法であって、弱い方の第1パワーのレーザー光により、前記圧粉成形体の表面の所定エリアを走査して、前記所定エリアの内部を溶解させて滑らかにする第1工程と、
高い方の第2パワーのレーザー光により、前記所定エリア内の所定箇所に所定深さの凹部よりなるドットを形成する第2工程と、を含む。
【0006】
(8) 本発明の一態様に係る焼結製品は、金属粉末を含有する圧粉成形体を焼結してなる焼結製品であって、前記焼結製品は、前記圧粉成形体の表面にレーザーマーキングによって印字された複数のドットを含む2次元コードを有し、前記焼結製品の表面における前記ドットの近傍部分の酸素含有量が2重量%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る圧粉成形体及び焼結製品の斜視図である。
図2】マーキング工程に含まれる各工程の説明図である。
図3】レーザー光の走査パターンが焼結体での2次元コードの読み取り性に与える影響を示す説明図である。
図4】2次元コードの外観の変遷を示す説明図である。
図5】マーキング工程(第1~第3工程)を実行する場合のレーザー光の好適なパラメータを示す表である。
図6】焼結製品に残存する2次元コードの一部の拡大写真である。
図7図6中の矩形部分の拡大写真である。
図8図7中の矩形部分の拡大写真である。
図9図8中の矩形部分の拡大写真である。
図10】サイジングなしの場合の焼結製品に残存する2次元コードの拡大写真である。
図11】サイジングなしの場合の焼結製品に残存するドット部分(第2工程部分)の拡大写真である。
図12】サイジングなしの場合の焼結製品に残存する非ドット部分(第3工程部分)の拡大写真である。
図13】サイジングなしの場合の焼結製品の未処理部分(第1工程のエリア外)の拡大写真である。
図14】サイジングありの場合の焼結製品に残存する2次元コードの拡大写真である。
図15】サイジングありの場合の焼結製品に残存するドット部分(第2工程部分)の拡大写真である。
図16】サイジングありの場合の焼結製品に残存する非ドット部分(第3工程部分)の拡大写真である。
図17】サイジングありの場合の焼結製品の未処理部分(第1工程のエリア外)の拡大写真である。
図18】焼結前にマーキングされて焼結工程を経た焼結体の、ドット部分のEDS分析結果である。
図19】焼結前にマーキングされて焼結工程を経た焼結体の、ドット部分のEDS分析結果である。
図20】焼結体のマーキング部分以外のEDS分析結果である。
図21】焼結体のマーキング部分以外のEDS分析結果である。
図22】焼結後にマーキングされた焼結体の、ドット部分のEDS分析結果である。
図23】焼結後にマーキングされた焼結体の、ドット部分のEDS分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示が解決しようとする課題>
金属粉末を含有する成形体の場合には、原料粉末の平均粒径が20~200μm程度である。このため、金属粉末が結集して比較的大きい空隙が存在する箇所が存在することがある。かかる空隙は、ドットとほぼ同じ大きさになると、コードリーダの読み取り誤差の原因となり得るが、特許文献1では、この点の対策が考慮されていない。
【0009】
本開示は、かかる従来の問題点に鑑み、圧粉成形体に所定の識別表示をマーキングする場合において、コードリーダによる読み取り誤差の少ないドットを形成できるレーザーマーキング方法等を提供することを目的とする。
【0010】
<本開示の効果>
本開示によれば、圧粉成形体に所定の識別表示をマーキングする場合において、1000℃を超える焼結工程を経ても確実に読み取り可能なドットを形成することができる。
【0011】
<本発明の実施形態の概要>
以下、本発明の実施形態の概要を列記して説明する。
【0012】
(1) 本実施形態に係る方法は、金属粉末を含有する圧粉成形体のレーザーマーキング方法であって、弱い方の第1パワーのレーザー光により、前記圧粉成形体の表面の所定エリアを走査して、前記所定エリアの内部を溶解させて滑らかにする第1工程と、高い方の第2パワーのレーザー光により、前記所定エリア内の所定箇所に所定深さの凹部よりなるドットを形成する第2工程と、を含む。
【0013】
本実施形態のレーザーマーキング方法によれば、上記の第1工程及び第2工程を含むので、第1工程によって所定エリア内に存在し得る空隙が縮小化されてから、第2工程によって所定エリア内にドットが形成される。
このため、圧粉成形体の表面の所定エリアに、コートリーダによる読み取り誤差の少ないドットを形成することができる。
【0014】
(2) 本実施形態のレーザーマーキング方法において、前記第2工程は、前記所定エリア内のセルの内部においてレーザー光を外側から内側に向かって渦巻き状に回転させて照射する回転照射を、複数回行う工程を含むことが好ましい。
その理由は、上記の回転照射を複数回実行すれば、ほぼ円形のドットの凹みによる光の反射率の差で明暗を識別できるようになり、圧粉成形体が焼成工程を経た後でも、ドットをコードリーダで読み取りが可能となるからである。
【0015】
(3) 本実施形態のレーザーマーキング方法において、前記第1パワーは、10W以上でかつ25W以下であり、前記第2パワーは、20W以上でかつ50W以下であることが好ましい。
【0016】
その理由は、第1パワーが10W未満の場合には、パワーが弱いために粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平滑化に不適であり、第1パワーが25Wを超える場合には、パワーが強いために粉末材料が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなるからである。
また、第2パワーが20W未満の場合には、パワーが弱いために所望深さのドットを形成できない可能性があり、50Wを超える場合には、パワーが強いためにセル範囲をはみ出るドットが形成される可能性があるからである。
【0017】
(4) 本実施形態のレーザーマーキング方法において、前記第1パワーのレーザー光の走査速度は、1500mm/s以上でかつ2700mm/s以下であり、前記第2パワーのレーザー光の走査速度は、250mm/s以上でかつ320mm/s以下であることが好ましい。
【0018】
その理由は、第1パワーのレーザー光の走査速度が1500mm/s未満の場合には、速度が遅いために粉末材料が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなり、2700mm/sを超える場合には、速度が速いために粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平滑化に不適だからである。
また、第2パワーのレーザー光の走査速度が250mm/s未満の場合には、速度が遅いためにセル範囲をはみ出るドットが形成される可能性があり、当該走査速度が320mm/sを超える場合には、速度が速いために所望深さのドットを形成できない可能性があるからである。
【0019】
(5) 本実施形態のレーザーマーキング方法において、前記第2パワーよりも弱い第3パワーのレーザー光により、前記所定エリア内における前記第2工程で形成した前記ドットの以外の部分を走査する第3工程を、更に含むことが好ましい。
その理由は、上記の第3工程を実行すれば、コードリーダによる読み取り誤差の原因となり得る、ドットの縁部近傍に付着したスパッターを除去できるからである。
【0020】
(6) 本実施形態のレーザーマーキング方法において、前記第3パワーは、10W以上でかつ25W以下であることが好ましい。
その理由は、第3パワーが10W未満の場合には、パワーが弱いためにドット付近のスパッターを除去できない可能性があり、第3パワーが25Wを超える場合には、パワーが強いためにドット以外の部分が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなるからである。
【0021】
(7) 本実施形態のレーザーマーキング方法において、前記第3パワーのレーザー光の走査速度は、1700mm/s以上でかつ3000mm/s以下であることが好ましい。
その理由は、第3パワーのレーザー光の走査速度が1700mm/s未満の場合には、速度が遅いためにドット以外の部分が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなり、当該走査速度が3000mm/sを超える場合には、速度が速いためにドット付近のスパッターを除去できない可能性があるからである。
【0022】
(8) 上述の通り、本実施形態のレーザーマーキング方法では、第1工程において、圧粉成形体の表面の所定エリアの内部が溶解する。このため、前記第1工程により形成される前記圧粉成形体の表面は、当該第1工程が行われない通常表面よりも空隙率が小さくなる。また、第2工程では、複数回の回転照射が行われるので、前記第2工程により形成されるドットは、開口部分の平面形状がほぼ円形でかつ底部が丸みを帯びた先細り状の凹部よりなる。
【0023】
(9) 本実施形態の焼結製品は、金属粉末を含有する圧粉成形体を焼結してなる焼結製品であって、前記焼結製品は、前記圧粉成形体の表面にレーザーマーキングによって印字された複数のドットを含む2次元コードを有し、前記焼結製品の表面における前記ドットの近傍部分の酸素含有量が2重量%以下である。
【0024】
後述の分析結果(図18図23)から明らかな通り、焼結前の圧粉成形体に印字された2次元コードの場合には、レーザー光の加熱で酸化した金属成分が焼結工程において還元され、マーキング部分以外の酸素含有量(2重量%以下)と大差がなくなる。
このため、本実施形態のレーザーマーキング方法を行った焼結製品の場合は、当該焼結製品の表面におけるドットの近傍部分の酸素含有量が2重量%以下となる。
【0025】
<本発明の実施形態の詳細>
以下、図面を参照しつつ、本実施形態の焼結製品、焼結製品の製造方法、レーザーマーキング方法の具体例を説明する。
【0026】
〔焼結製品の製造方法〕
図1は、本実施形態に係る圧粉成形体G1,G2及び焼結製品Sの斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る焼結製品Sの製造方法には、圧粉成形体G1を作製する「成形工程」と、作製した圧粉成形体G1に所定の識別表示をマーキングする「マーキング工程」と、マーキング後の圧粉成形体G2に行われる「焼結工程」、「サイジング」及び「熱処理工程」などが含まれる。
【0027】
本実施形態に係る焼結製品Sの製造方法は、焼結前の圧粉成形体G1に予め所定の識別表示(例えば、2次元コードC)をマーキングすることを特徴の1つとする。以下、図1を参照しつつ、各製造工程の内容を説明する。
なお、本実施形態において、符号G1はマーキング前の圧粉成形体を意味し、符号G2はマーキング後でかつ焼結前の圧粉成形体を意味する。
【0028】
(成形工程)
成形工程は、金属粉末を含有する原料粉末を、プレス成形して圧粉成形体G1(図1の最上図)を作製する工程である。
圧粉成形体G1は、焼結製品S(図1の最下図)の中間素材であり、焼結製品Sに対応した形状に成形される。図1では、焼結製品Sの一例として、自動車部品の一種であるサイレントチェーン用のスプロケットが例示されているが、スプロケット以外の製品であってもよい。圧粉成形体G1は、識別表示をマーキング可能な表面部分を有する。
【0029】
原料粉末:
圧粉成形体G1の原料粉末は、主として金属粉末を含有する。金属粉末の材質は、焼結製品Sの材質に応じて適宜選択できるが、代表的には鉄系材料が挙げられる。
鉄系材料とは、鉄又は鉄を主成分とする鉄合金のことである。鉄合金としては、例えば、Ni,Cu,Cr,Mo,Mn,C,Si,Al,P,B,N及びCoから選択される1種以上の添加元素を含有するものが挙げられる。
【0030】
具体的な鉄合金としては、ステンレス鋼、Fe-C系合金、Fe-Cu-Ni-Mo系合金、Fe-Ni-Mo-Mn系合金、Fe-P系合金、Fe-Cu系合金、Fe-Cu-C系合金、Fe-Cu-Mo系合金、Fe-Ni-Mo-Cu-C系合金、Fe-Ni-Cu系合金、Fe-Ni-Mo-C系合金、Fe-Ni-Cr系合金、Fe-Ni-Mo-Cr系合金、Fe-Cr系合金、Fe-Mo-Cr系合金、Fe-Cr-C系合金、Fe-Ni-C系合金、Fe-Mo-Mn-Cr-C系合金などが挙げられる。
【0031】
鉄系材料の粉末を主体とすることで、鉄系の焼結製品Sが得られる。鉄系材料の粉末を主体とする場合、当該粉末の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば90質量%以上、更に95質量%以上とすることが挙げられる。
鉄系材料の粉末、特に鉄粉を主体とする場合は、合金成分としてCu,Ni,Moなどの金属粉末を添加することが好ましい。
【0032】
Cu,Ni,Moは、焼き入れ性を向上させる元素である。Cu,Ni,Moの含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば0質量%超5質量%以下、更に0.1質量%以上2質量%以下とすることが挙げられる。
なお、原料粉末は、上述の金属粉末を主体とするが、微量な不可避の不純物を含むことは許容される。
【0033】
鉄系材料の粉末、特に鉄粉を主体とする場合は、炭素(黒鉛)粉などの非金属無機材料を添加してもよい。Cは、焼結体やその熱処理体の強度を向上させる元素である。
Cの含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば0質量%超2質量%以下、更に0.1質量%以上1質量%以下とすることが挙げられる。
【0034】
原料粉末は、潤滑剤を含有することが好ましい。潤滑剤を含有することで、圧粉成形体G1をプレス成形する際の潤滑性が高められ、成形性が向上する。この場合、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な圧粉成形体G1が得られ易く、圧粉成形体G1の密度が高まることで、高密度の焼結製品Sが得られ易い。
潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウムなどの金属石鹸、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0035】
潤滑剤は、固体状や粉末状、液体状など形態を問わない。潤滑剤の含有量は、原料粉末を100質量%とするとき、例えば2質量%以下、更に1質量%以下とすることが挙げられる。潤滑剤の含有量が2質量%以下であれば、圧粉成形体Gに含まれる金属粉末の割合を多くできる。
【0036】
このため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な圧粉成形体Gが得られ易い。更に、プレス成型後の工程で圧粉成形体G2を焼結した際に、潤滑剤が消失することによる体積収縮を抑制することができ、寸法精度が高く、高密度の焼結製品Sが得られ易い。
潤滑剤の含有量は、潤滑性の向上効果を得る観点から、0.1質量%以上、更に0.5質量%以上が好ましい。
【0037】
原料粉末は、有機バインダーを含有してよいが、本実施形態の圧粉成形体G1の原料粉末には、有機バインダーが含まれていないことが好ましい。
原料粉末に有機バインダーを含有しないことで、圧粉成形体G1に含まれる金属粉末の割合を多くできる。このため、プレス成形の圧力を低くしても、緻密な圧粉成形体Gが得られ易い。更に、圧粉成形体Gを後工程で脱脂する必要もない。
【0038】
上述の金属粉末は、水アトマイズ粉、還元粉、ガスアトマイズ粉などが利用できる。この中でも、水アトマイズ粉又は還元粉が好適である。
その理由は、水アトマイズ粉や還元粉は、粒子表面に凹凸が多く形成されていることから、成形時に粒子同士の凹凸が噛み合って、圧粉成形体G1の保形力を高められるからである。一般に、ガスアトマイズ粉では、表面に凹凸の少ない粒子が得られ易いのに対し、水アトマイズ粉又は還元粉では、表面に凹凸が多い粒子が得られ易い。
【0039】
金属粉末の平均粒径は、例えば20μm以上でかつ200μm以下とすることが挙げられる。平均粒径は、50μm以上170μm以下であってもよいし、80μm以上140μm以下であってもい。
金属粉末の平均粒径とは、レーザー回折式の粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が、50%となる粒径(D50)のことである。金属粉末の平均粒径が上記範囲内であれば、粉末を取り扱い易くプレス成形が行い易い。
【0040】
プレス成形:
成形工程のプレス成形には、最終製品である焼結製品Sに対応した形状に成形できる成形装置(成形用金型)が用いられる。図1に例示する圧粉成形体G1(スプロケット)では、すべての部分を成形時に一体に形成している。
【0041】
成形装置(図示せず)は、例えば、上下のパンチと、上下パンチの内側に挿通されて、圧粉成形体G1のボス部の内周面を形成する内側ダイと、上下パンチの外周を囲み、圧粉成形体G1のギア部分を形成する挿通孔が形成された外側ダイとを備える。
圧粉成形体G1の軸方向両端面は、上下のパンチでプレスされる面である。圧粉成形体G1の内周面と外周面は内外のダイとの摺接面である。成形工程におけるプレス成形の加圧力は、例えば250MPa以上800MPa以下とすることが挙げられる。
【0042】
(マーキング工程)
マーキング工程は、圧粉成形体G1に所定の識別表示をマーキングする工程である。マーキングは、例えばレーザーマーカーにより行われる。所定の識別表示としては、2次元コード(データマトリックス)又はQRコード(「QRコード」は登録商標である。)などを採用することができる。
本実施形態では、1つの製品に対する識別表示の範囲をなるべく小さくする観点から、2次元コードCよりなる識別表示を採用している。
【0043】
2次元コードCには、1つの焼結製品Sをユニークに特定可能であり、プレス成形の直後に定義可能な所定の識別情報(以下、「製品ID」という。)が記録される。
製品IDは、例えば、成形工程における成形時間、成形時刻(年月日とその日の時分秒)、図面のコード番号、成形工程に用いるプレス成形機のコード番号、及び工場のコード番号などを含む情報よりなる。圧粉成形体G1は、異なる時刻に1つずつプレス成形されるので、製品IDの成形時刻は焼結製品Sのシリアル番号を構成する。
【0044】
(焼結工程)
焼結工程は、マーキング後の圧粉成形体G1を焼結させる工程である。圧粉成形体G1が焼結工程を経ることにより、焼結前にマーキングされた2次元コードCが残存する中間素材(以下、「焼結体」という。)が得られる。
焼結工程には、温度雰囲気制御が可能な焼結炉(図示略)が用られる。焼結条件は、圧粉成形体G2の材質などに応じて、焼結に必要な条件を適宜設定すればよい。
【0045】
焼結温度は、主たる金属粉末の融点以下(例えば1400℃以下)に設定され、例えば1000℃以上に設定することが好ましい。焼結温度は、1100℃以上又は1200℃以上であってもよい。
焼結時間は、例えば15分以上150分以下、或いは20分以上60分以下とすることが挙げられる。
【0046】
(サイジング)
サイジングは、圧粉成形体G2を焼結した後の中間素材(焼結体)を再度圧縮することにより、焼結体の寸法精度を高める工程である。サイジングを経た焼結体についても、2次元コードCが残存する。
【0047】
サイジングに用いるプレス成形機は、例えば、ロボットアームなどにより焼結体がセットされる下型と、セットされた焼結体を上方からプレスする上型とを有する、ターンテーブル方式のプレス成形機よりなる。
サイジングにおけるプレス成形の加圧力は、焼結製品Sの種類によって異なるが、例えば250MPa以上800MPa以下とすることが挙げられる。
【0048】
(熱処理工程)
熱処理工程は、サイジング後の焼結体に所定の熱処理を行うことにより、焼結体の表面を硬化させる工程である。サイジング後の焼結体が熱処理工程を経ることにより、2次元コードCが残存する焼結製品Sが得られる。
【0049】
熱処理工程に用いる熱処理装置は、連続式及びバッチ式のいずれでもよい。バッチ式の熱処理装置は、焼結体に浸炭焼き入れを施す焼き入れ炉と、焼き入れ後の焼結体を焼き戻す焼き戻し炉などが含まれる。熱処理装置の浸炭方式は、ガス浸炭、真空浸炭、イオン浸炭のいずれであってもよい。
【0050】
なお、図1に示す焼結製品Sの製造工程において、サイジング後でかつ熱処理前の焼結体に所定の切削処理や穿孔処理を行う工程や、熱処理後の焼結製品Sに表面処理を施す工程など、その他の工程が含まれていてもよい。
【0051】
本実施形態に係る製造方法では、焼結前の圧粉成形体G1に2次元コードCがマーキングされる。このため、焼結工程、サイジング及び熱処理工程を経ても読み取り可能な2次元コードCを印字すれば、撮影画像から製品IDを読み取るコードリーダを、製造ラインの随所に設置しておくことにより、1つの製品が製造ラインのどの箇所をどの時点で通過したかを把握できる。
【0052】
従って、焼結工程における「焼結温度チャート」、サイジングにける「プレス加圧力」及び「上ラム下死点」、及び熱処理工程における「熱処理雰囲気チャート」などの製造履歴データを、1つの製品単位で管理できるようになる。
【0053】
〔圧粉成形体にマーキングする場合の問題点と解決策〕
ところで、圧粉成形体G1の原料粉末には、平均粒径が20~200μm程度の金属粉末が含まれる。このため、圧粉成形体G1の表面には、金属粉末が結集して比較的大きい空隙(最大で150~200μm程度)が存在する箇所が存在する。この空隙は、コードリーダの読み取り誤差の原因となる。
また、製造時間の増大を防止するためには、マーキング工程を高速に行う必要があるとともに、2次元コードCが印字されることで製品強度に影響しないようにするには、できるだけ狭い領域に低いエネルギーでマーキングする必要がある。
【0054】
図2は、本実施形態のマーキング工程に含まれる各工程の説明図である。
本願発明者らは、焼結前の圧粉成形体G1に種々の方法でマーキングを実施した結果、焼結前の圧粉成形体G1に2次元コードCをマーキングする場合には、図2に示す第1~第3工程を含むことが有効であることを見いだした。以下、図2を参照しつつ、本実施形態に係るマーキング工程の詳細を説明する。
【0055】
(第1工程)
第1工程は、弱い方の第1パワーのレーザー光により、圧粉成形体G1の表面における所定エリア(図2の幅W及び高さHのエリア)を走査し、圧粉成形体G1の表面における所定エリアの内部を溶解させて滑らかにする工程である。
幅W及び高さHの数値範囲は、2次元コードCに含ませるセル数によって異なるが、例えば、8mm≦W≦11mmとし、2.5mm≦H≦3.5mmとすることが好ましい。
【0056】
第1工程におけるレーザー光の好ましい数値範囲は、次の通りである。例えば、第1工程のレーザー光のパワー(第1パワー)は、10W以上でかつ25W以下であることが好ましい。
10W未満の場合には、パワーが弱いために粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平滑化に不適であり、25Wを超える場合には、パワーが強いために粉末材料が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなるからである。
【0057】
第1工程におけるレーザー光の走査速度(スキャンスピード)は、1500mm/s以上でかつ2700mm/s以下であることが好ましい。
1500mm/s未満の場合には、速度が遅いために粉末材料が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなり、2700mm/sを超える場合には、速度が速いために粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平滑化に不適だからである。
【0058】
第1工程が有効な理由は、次の通りである。すなわち、2次元コードCのコードリーダは、白地と黒ドットのコントラストでコードを識別する。このため、本実施形態では、2次元コードCを認識し易くなるように、第1工程のような下地処理を実施する。
鉄合金を含む金属製品の場合は、表面が若干黒っぽい色調であるため、下地処理として第1工程を行って表面を軽く飛ばしてやることにより、白さを強調することができる。
【0059】
第1処理では、通常よりもレーザーパワーを落とすだけでなく、上記の通り、レーザー光の走査スピードを通常よりも上げることが好ましい。走査スピードが低いと、原料粉末が黒く焼けて色がつくことになるが、走査スピードを通常よりも上げてやることで、色がつかずに地ならしができる。
このように、第1工程は、所定エリアの内部を、高い走査スピードで縞模様を描くように、圧粉成形体Cの所定エリアを塗りつぶすことにより行われる。
【0060】
第1工程では、レーザー光の線幅を細くして細かく塗りつぶすことにより、所定エリアの内部がよりきれいに滑らかに仕上がる。もっとも、線幅の細さには限界があるし、細かく過ぎると走査時間が長くなるため、用途に応じて線幅や、本数を設定すればよい。
例えば、本実施形態では、走査時間を短くする観点から、1つのセルを3つのレーザー光の線幅で塗りつぶすようにしている。
【0061】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で滑らかにした所定エリア内の所定のセルに、高い方の第2パワーのレーザー光を照射することにより、2次元コードCのドット(孔部)を形成する工程である。第2工程は、第1工程の熱拡散前に即座に連続的に行うことが好ましい。
具体的には、セル内を外から内へ向かって回転するようにレーザー光を照射することにより、セル内に鋭利な深い穴を掘る。この場合、レーザー光の回転照射を好ましくは2回行う。また、第2工程は、第1工程の熱拡散前に即座に連続的に行うことが好ましい。
【0062】
第2工程において、コードリーダの読み取り単位であるセルのサイズは、例えば1辺が150~270μmの正方形である。
図2の例では、セル内を外から内に向かう回転照射の軌跡が、ほぼ四角形の渦巻き状となっているが、その他の多角形の渦巻き状であってもよいし、円形の渦巻き状であってもよい。また、第2工程における回転照射の回数は、2回に限らず、1回であってもよいし3回以上であってもよい。
【0063】
回転照射によりセル内に形成されるドットの直径は、コードリーダで読み取り可能な寸法であり、かつセルからはみ出ささず、隣接するドットに悪影響を及ぼさなければ、特に限定されない。
具体的には、ドットの開口部分の直径は、50μm以上でかつ140μm以下であることが好ましい。50μm未満だとサイズが小さく、通常のコードリーダで暗部として認識され難くなるため、好ましくない。140μmより大きいと、第2工程でドット状凹部の外周縁部に生じる再析出物または再付着物が、隣接する凹部の内部にも析出又は付着し、ドットの形成に悪影響が及ぶ恐れが高くなるため、好ましくない。ドットの直径は、60μm以上でかつ130μm以下であってもよいし、70μm以上でかつ120μm以下であってもよい。
【0064】
回転照射によりセル内に形成されるドットの深さは、ドットを形成する凹部の暗さがより目立つためには、できるだけ深いことが好ましい。
具体的には、ドットの深さは、70μm以上でかつ200μm以下であることが好ましい。ドットの深さは、90μm以上でかつ180μm以下であってもよいし、110μm以上でかつ170μm以下であってもよい。
【0065】
第2工程におけるレーザー光の好ましい数値範囲は、次の通りである。例えば、第2工程のレーザー光のパワー(第2パワー)は、20W以上でかつ50W以下であることが好ましい。
20W未満の場合には、パワーが弱いために所望深さのドットを形成できない可能性があり、50Wを超える場合には、パワーが強いためにセル範囲をはみ出るドットが形成される可能性があるからである。
【0066】
第2工程におけるレーザー光の走査速度(スキャンスピード)は、250mm/s以上でかつ320mm/s以下であることが好ましい。
250mm/s未満の場合には、速度が遅いためにセル範囲をはみ出るドットが形成される可能性があり、320mm/sを超える場合には、速度が速いために所望深さのドットを形成できない可能性があるからである。
【0067】
(第3工程)
第3工程は、第2パワーよりも弱い第3パワーのレーザー光により、所定エリア内における第2工程で形成したドットの以外の部分を走査する工程である。第3工程は、第2工程の熱拡散前に即座に連続的に行うことが好ましい。
第3工程を行うことにより、コードリーダによる読み取り誤差の原因となり得る、ドットの縁部近傍に付着したスパッターを除去することができる。
【0068】
第3工程におけるレーザー光の好ましい数値範囲は、次の通りである。例えば、第3工程のレーザー光のパワー(第3パワー)は、10W以上でかつ25W以下であることが好ましい。
10W未満の場合には、パワーが弱いためにドット付近のスパッターを除去できない可能性があり、25Wを超える場合には、パワーが強いためにドット以外の部分が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなるからである。
【0069】
第3工程におけるレーザー光の走査速度(スキャンスピード)は、1700mm/s以上でかつ3000mm/s以下であることが好ましい。
1700mm/s未満の場合には、速度が遅いためにドット以外の部分が黒色化する可能性があり、第2工程で形成するドットとの区別が付き難くなり、3000mm/sを超える場合には、速度が速いためにドット付近のスパッターを除去できない可能性があるからである。
【0070】
〔各工程に使用するレーザー光について〕
本実施形態に係るレーザーマーキング方法において、第1~第3工程に使用するレーザー光に関する好ましい数値範囲を纏めると、次の通りである。
以下において、第1工程に使用するレーザー光を「第1のレーザー光」といい、第2工程に使用するレーザー光を「第2のレーザー光」といい、第3工程に使用するレーザー光を「第3のレーザー光」という。
【0071】
(単位面積あたりの照射エネルギー)
第1のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm以上でかつ0.50 J/mm以下であることが好ましい。
第2のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが1.0 J/mm以上でかつ7.0 J/mm以下であることが好ましい。
第3のレーザー光は、単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm以上でかつ0.50 J/mm以下であることが好ましい。
【0072】
レーザー光の単位面積あたりの照射エネルギー(単位:J/mm。以下、「単位」は省略)とは、レーザー光の単位スポットあたりの平均出力(W)に、単位面積あたりを走査することによる照射時間(s/mm:以下、「単位面積あたりの照射時間」という。)を乗じたものとして定義される。
単位スポットあたりの平均出力は、CWレーザーの場合は単位時間当たりのエネルギーとして定義され、パルスレーザーの場合はパルスエネルギー(J)に繰返し周波数(1/s)を乗じたものとして定義される。
【0073】
第1のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm未満の場合には、粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平滑化に不適である。より好ましくは0.10J/mm以上である。
0.50 J/mmを超える場合には、粉末材料が黒色化する可能性があり、第2のレーザー光で形成するドット状凹部との区別が付き難くなるから、好ましくない。より好ましくは0.30J/mm以下である。
【0074】
第2のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが1.0 J/mm未満の場合には、所望深さのドット状凹部を形成できない可能性があり、好ましくない。より好ましくは2.0J/mm以上である。
7.0 J/mmを超える場合には、揮発物または飛散物が多くなりすぎて再析出物または再付着物が顕著に増加し、後の第3のレーザー光で十分除去できない可能性があるので、好ましくない。より好ましくは5.0J/mm以下である。
【0075】
第3のレーザー光の単位面積あたりの照射エネルギーが0.05 J/mm未満の場合には、ドット状凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を十分除去できない、あるいは表面の平坦化が十分になされない可能性がある。より好ましくは0.10J/mm以上である。
0.50 J/mmを超える場合には、ドット状凹部以外の表面部分が黒色化する可能性があり、明部となるべき部分が暗くなるため、第2のレーザー光で形成したドット状凹部との区別が付き難くなるから、好ましくない。より好ましくは0.30J/mm以下である。
【0076】
(各レーザー光の平均出力、スポット径及び走査速度の数値範囲)
第1のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が10W以上でかつ25W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が1500mm/s以上でかつ2700mm/s以下であることが好ましい。
【0077】
第2のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が20W以上でかつ50W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が250mm/s以上でかつ320mm/s以下であることが好ましい。
【0078】
第3のレーザー光は、単位スポットあたりの平均出力が10W以上でかつ25W以下、スポット径が0.010mm以上でかつ0.060mm以下、走査速度が1700mm/s以上でかつ3000mm/s以下であることが好ましい。
【0079】
レーザー光の単位スポットあたりの平均出力をp、スポット径をr、走査速度をv、単位面積あたりの照射時間をt、そして単位面積あたりの照射エネルギーをeとすると、これらの関係は、次式であらわされる。
e=p×t ………(式1)
ここで、t=1/(r×v)より、
e=p/(r×v)………(式2)
式2より、eの値の範囲は、p、r、およびvの値によって決まることから、eについて好適な範囲を実現するために必要なp、r、およびvの好適な範囲を規定する。
【0080】
(各レーザー光の平均出力pの数値範囲)
第1のレーザー光の平均出力pが10W未満の場合には、パワーが弱いために粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平坦化に不適であるので、好ましくない。より好ましくは13W以上である。
25Wを超える場合には、パワーが強いために粉末材料が黒色化する可能性があり、第2のレーザー光で形成するドットとの区別が付き難くなるので、好ましくない。より好ましくは20W以下である。
【0081】
第2のレーザー光の単位スポットあたりの平均出力pが20W未満の場合には、パワーが弱いために所望深さのドット状凹部を形成できない可能性があり、好ましくない。より好ましくは30W以上である。
50Wを超える場合には、パワーが強いために揮発物または飛散物が多くなりすぎて再析出物または再付着物が顕著に増加し、後の第3のレーザー光で十分除去できない可能性があるので、好ましくない。より好ましくは40W以下である。
【0082】
第3のレーザー光の平均出力pが10W未満の場合には、パワーが弱いためにドット状凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を除去できない可能性があり、表面の平坦化に不適であるため、好ましくない。より好ましくは13W以上である。
25Wを超える場合には、パワーが強いためにドット状凹部以外の部分が黒色化する可能性があり、第2のレーザー光で形成するドットとの区別が付き難くなるので、好ましくない。より好ましくは20W以下である。
【0083】
(各レーザー光の走査速度vの数値範囲)
第1のレーザー光の走査速度vが1500mm/s未満の場合には、速度が遅いために粉末材料が黒色化する可能性があり、第2のレーザー光で形成するドット状凹部との区別が付き難くなるので、好ましくない。より好ましくは1700mm/s以上である。
当該走査速度が2700mm/sを超える場合には、速度が速いために粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平滑化に不適であるので、好ましくない。より好ましくは2500mm/s以下である。
【0084】
第2のレーザー光の走査速度vが250mm/s未満の場合には、速度が遅いために揮発物または飛散物が顕著に増加する可能性があり、好ましくない。より好ましくは270mm/s以上である。
当該走査速度vが320mm/sを超える場合には、速度が速いために所望深さのドット状凹部を形成できない可能性があるので、好ましくない。より好ましくは300mm/s以下である。
【0085】
第3のレーザー光の走査速度vが1700mm/s未満の場合には、速度が遅いためにドット状凹部以外の部分が黒色化する可能性があり、第2のレーザー光で形成したドット状凹部との区別が付き難くなるので、好ましくない。より好ましくは2000mm/s以上である。
当該走査速度が3000mm/sを超える場合には、速度が速いためにドット状凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を、十分に除去できない可能性があるので、好ましくない。より好ましくは2700mm/s以下である。
【0086】
(各レーザー光のスポット径rの数値範囲)
第1のレーザー光のスポット径rが0.010mm未満の場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが大きくなり、粉末材料が黒色化する可能性があり、第2のレーザー光で形成するドット状凹部との区別が付き難くなるので、好ましくない。
当該スポット径rが0.060mmを超える場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが小さくなり、粉末材料を溶解できない可能性があり、表面の平滑化に不適であるので、好ましくない。
【0087】
第2のレーザー光のスポット径rが0.010mm未満の場合には、スポット径rが小さいため、式2に示すように単位面積あたりの照射エネルギーeが大きくなり、揮発物または飛散物が顕著に増加する可能性があるので、好ましくない。
当該スポット径rが0.060mmを超える場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが小さくなり、所望深さのドット状凹部を形成できない可能性があるので、好ましくない。
【0088】
第3のレーザー光のスポット径rが0.010mm未満の場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが大きくなり、ドット状凹部以外の表面部分が黒色化する可能性があり、第2のレーザー光で形成したドット状凹部との区別が付き難くなるので、好ましくない。
当該スポット径rが0.060mmを超える場合には、単位面積あたりの照射エネルギーeが小さくなり、ドット状凹部の外周縁部に堆積した再析出物または再付着物を、十分に除去できない可能性があるので、好ましくない。
【0089】
〔回転照射の有効性〕
図3は、レーザー光の走査パターンが焼結体での2次元コードCの読み取り性に与える影響を示す説明図である。
図3の左列の各図は、第1工程を経た圧粉成形体G1に、平行移動の走査パターンでほぼ正方形のドットを形成した後の成形体と焼結体の表面を示す。図3の右列の各図は、第1工程の後に圧粉成形体G1に、回転照射(図例では円形)の走査パターンでほぼ円形のドットを形成した後の成形体と焼結体の表面を示す。
【0090】
図3の左上図に示すように、平行移動の走査パターンの場合には、成形体の段階で第1工程による白色と焼き色である黒色のコントラストが、比較的はっきりしている。
しかし、図3の左下図に示すように、平行移動の走査パターンの場合には、焼結工程を経て焼結体になると、黒色の焼き色が焼結工程において還元され、コードリーダでの読み取りができなくなるほど、黒色のドットの形状が大幅に乱れる。
【0091】
一方、図3の右上図に示すように、回転照射の走査パターンの場合にも、成形体の段階で第1工程による白色と焼き色である黒色のコントラストが、比較的はっきりしている。
また、図3の右下図に示すように、回転照射の走査パターンの場合には、焼結工程を経て焼結体になっても、ほぼ円形のドットの凹みによる光の反射率の差で明暗を識別することができ、コードリーダでの読み取りが可能である。
【0092】
図3に示す比較結果から明らかな通り、2次元コードCのドットを形成する場合の走査パターンは、セル内を外から内へ向かって回転するようにレーザー光を照射する、回転照射を行うことが有効である。
かかる回転照射を実施すれば、焼結後においてもコードリーダが読み取り可能な程度の比較的深い凹みを形成することができる。
【0093】
〔2次元コードの外観の変遷〕
図4は、2次元コードCの外観の変遷を示す説明図である。
図4に示すように、マーキング工程により圧粉成形体G1に印字された2次元コードCは、焼結工程での還元反応によりドット部分の焼色がほぼ消えて黒味が減少するが、ドットの凹みはそのまま残る。すなわち、焼結後においても、コードリーダが読み取り可能な程度に、ドットの凹みによる暗部(黒色)が残存する。
【0094】
その後、サイジングにより焼結体の表面がつぶされると、ドットの凹み部の面積が減少するが、ドットの凹みの深さは不変である。従って、サイジング後においても、コードリーダが読み取り可能な程度に、ドットの凹みによる暗部(黒色)が残存する。
更に、熱処理により2次元コードCの表面全体が茶色に変色するが、ドットの凹みの深さは不変である。従って、熱処理後においても、コードリーダが読み取り可能な程度に、ドットの凹みによる暗部(黒色)が残存する。
【実施例
【0095】
図5は、マーキング工程(第1~第3工程)を実行する場合のレーザー光の好適なパラメータを示す表である。
図5のパラメータは、パナソニック社製のFAYbレーザーマーカーであるMP-M500を用いた場合の諸元である。もっとも、レーザーマーカーはMP-M500に限定されるものではない。
【0096】
本願発明者らは、上記のレーザーマーカーを図5のパラメータに設定して圧粉成形体G1にマーキング工程を実施し、その後に焼結工程などを経て得られた焼結製品Sについて種々の観察及び分析を行った。
なお、圧粉成形体G1の金属粉末の組成は、Fe-2Cu-0.8Cである。以下、その観察及び分析結果を説明する。
【0097】
〔走査電子顕微鏡による観察結果〕
図6図9は、走査電子顕微鏡(SEM)による2次元コードC及びそのドット部分の拡大写真である。
具体的には、図6は、焼結製品Sに残存する2次元コードCの一部の拡大写真である。図7は、図6中の矩形部分の拡大写真である。図8は、図7中の矩形部分の拡大写真である。図9は、図8中の矩形部分の拡大写真である。
【0098】
図6図9(特に図7及び図8)に示すように、マーキング工程の第2工程によりセルの中央部に形成されるドットは、開口部分の平面形状がほぼ円形であり、かつ、底部が丸みを帯びた先細り状の凹部となる。
【0099】
〔マイクロスコープによる観察結果〕
図10図17は、マイクロスコープによる2次元コードC及びそのドット部分等の拡大写真である。
【0100】
具体的には、図10は、サイジングなしの場合の焼結製品Sに残存する2次元コードCの拡大写真である。図11は、サイジングなしの場合の焼結製品Sに残存するドット部分(第2工程部分)の拡大写真である。
図12は、サイジングなしの場合の焼結製品Sに残存する非ドット部分(第3工程部分)の拡大写真である。図13は、サイジングなしの場合の焼結製品Sの未処理部分(第1工程のエリア外)の拡大写真である。
【0101】
また、図14は、サイジングありの場合の焼結製品Sに残存する2次元コードCの拡大写真である。図15は、サイジングありの場合の焼結製品Sに残存するドット部分(第2工程部分)の拡大写真である。
図16は、サイジングありの場合の焼結製品Sに残存する非ドット部分(第3工程部分)の拡大写真である。図17は、サイジングありの場合の焼結製品Sの未処理部分(第1工程のエリア外)の拡大写真である。
【0102】
図11及び図15に示すように、マーキング工程の第2工程によりセルの中央部に形成されるドットの深さは、概ね100μmであった。
図11図15を対比すれば明らかな通り、サイジングなしの場合のドット(図11)の周囲は凹凸が激しいが、サイジングありの場合のドット(図15)の周囲は、サイジングによって凹凸の度合いが小さくなっている。
【0103】
図12図13を対比すれば明らかな通り、サイジングなしの場合の焼結製品Sに残存する非ドット部分(第3工程部分)は、サイジングなしの場合の焼結製品Sの未処理部分(第1工程のエリア外)に比べて、表面に表れる空隙の大きさが小さくなり、かつ、当該空隙の密度が少なくなる。
【0104】
同様に、図16図17を対比すれば明らかな通り、サイジングありの場合の焼結製品Sに残存する非ドット部分(第3工程部分)は、サイジングありの場合の焼結製品Sの未処理部分(第1工程のエリア外)に比べて、表面に表れる空隙の大きさが小さくなり、かつ、当該空隙の密度が少なくなる。
【0105】
〔EDS分析結果〕
図18図23は、焼結体のドット部分等についてのエネルギー分散型X線分光器(以下、「EDS」という。)の分析結果を示す図である。
具体的には、図18は、焼結前にマーキングされて焼結工程を経た焼結体の、ドット部分のEDS分析結果であり、分析範囲は図18中の矩形部分である。図19は、焼結前にマーキングされて焼結工程を経た焼結体の、ドット部分のEDS分析結果であり、分析点は図19中の十字部である。
【0106】
図20は、焼結体のマーキング部分以外のEDS分析結果であり、分析範囲は図20中の矩形部分である。図21は、焼結体のマーキング部分以外のEDS分析結果であり、分析点は図21中の十字部である。
図22は、焼結後にマーキングされた焼結体の、ドット部分のEDS分析結果であり、分析範囲は図22中の矩形部分である。図23は、焼結後にマーキングした焼結体の、ドット部分のEDS分析結果であり、分析点は図23中の十字部である。
【0107】
図18及び図19に示すように、焼結前にマーキングして焼結工程を経た焼結体の場合には、酸素の含有量がそれぞれ1.33重量%及び1.50%である。
これらの含有量は、焼結体のマーキング部分以外の酸素の含有量(図20の1.98重量%及び図21の1.80重量%)とさほど大差がない。その理由は、レーザー光により加熱されて酸化した金属成分が、マーキング後の焼結工程において還元されたからであると考えられる。
【0108】
これに対して、図22及び図23に示すように、焼結後にマーキングした焼結体の場合には、酸素の含有量がそれぞれ10.10重量%及び12.76%である。
これらの含有量は、焼結体のマーキング部分以外の酸素の含有量(図20の1.98重量%及び図21の1.80重量%)に比べて、大幅(1桁増し)に増大している。その理由は、焼結後にマーキングした場合には、レーザー光により加熱されて酸化した金属成分が、そのまま残存しているからであると考えられる。
【0109】
上記の通り、マーキング後の圧粉成形体G2が焼結工程を経ると、マーキング工程でいったん酸化した金属成分が焼結工程において還元されるため、ドット部分の酸素含有量はマーキング部分以外の通常部分とほぼ同等の酸素含有量(例えば、1重量%以上でかつ2重量%以下)となる。
【0110】
〔変形例〕
上述の実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0111】
例えば、上述の実施形態では、2次元コードCをマーキングする圧粉成形体G1が潤滑剤を含有しているが、圧粉成形体G1は、仮焼成によって潤滑剤を除去した仮焼成体であってもよい(特許第4751159号公報参照)。
すなわち、本実施形態の製造方法は、圧粉工程→仮焼成→マーキング→本焼成の順で行われるものであってもよい。
【符号の説明】
【0112】
G1 圧粉成形体(マーキング前)
G2 圧粉成形体(マーキング後)
S 焼結製品
C 2次元コード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23