(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】減圧チャンバー、キャスト冷却装置、樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/08 20190101AFI20230301BHJP
【FI】
B29C48/08
(21)【出願番号】P 2018165954
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-334811(JP,A)
【文献】特開平09-169055(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125526(WO,A1)
【文献】特開2002-36336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールの一部の表面を
円弧状に覆うようにして用いられる
箱型の減圧チャンバーであって、
前記減圧チャンバーの円弧状部分により形成される円の中心軸方向から見たときに、前記円弧状部分の端部の一方にシール材を有し、前記シール材が可撓性樹脂フィルムからなり、
前記減圧チャンバーの本体から前記シール材が延出する方向と、前記延出方向と前記ロールとが交わる点における前記ロールの外周の接線とのなす角が5°以上85°以下であるか、95°以上175°以下であり、前記シール材が減圧チャンバーに固定されていることを特徴とする、減圧チャンバー。
【請求項2】
口金から吐出される樹脂シートを受けて冷却する冷却ロールと、請求項
1に記載の減圧チャンバーとを備え、前記ロールに前記樹脂シートが接触する接触点よりも前記樹脂シートの搬送方向上流側に離間した位置に前記シール材が位置するように減圧チャンバーが設置されたことを特徴とするキャスト冷却装置。
【請求項3】
前記シール材は、前記シール材の下端側にて前記冷却ロールの表面に押し付けられるように前記減圧チャンバーと前記冷却ロールとの間をシールする、請求項
2に記載のキャスト冷却装置。
【請求項4】
前記減圧チャンバーが、前記搬送方向上流の端部において、前記冷却ロールの円周方向に沿って複数並べた前記シール材を有する、請求項
2または3に記載のキャスト冷却装置。
【請求項5】
請求項
2~4のいずれか1項に記載のキャスト冷却装置と、前記口金と、を備え、樹脂を前記口金からシート状に吐出する、樹脂シートの製造装置。
【請求項6】
前記減圧チャンバーよりも前記搬送方向上流側の位置に、前記冷却ロールのキャスト面に付着した付着物を除去するために、前記キャスト面と接するドクターブレードまたはスクレーパーを有する、請求項
5に記載の樹脂シートの製造装置。
【請求項7】
請求項
2~4のいずれかに記載のキャスト冷却装置を用い、前記口金から樹脂を前記冷却ロール上にシート状に吐出し、前記口金から吐出された樹脂シートと前記冷却ロールとの間の空気を前記減圧チャンバーで吸引して、前記樹脂シートと前記冷却ロールとを密着させ、前記樹脂シートを前記冷却ロールにより搬送しながら冷却して固化させる工程を含む、樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
前記口金から吐出される樹脂は、ポリオレフィン樹脂と希釈剤とを混練した樹脂溶液である、請求項
7に記載の樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの製造に用いられる減圧チャンバー、キャスト冷却装置と、このキャスト冷却装置を用いる樹脂シートの製造装置及び樹脂シートの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔ポリオレフィン樹脂シートに代表される樹脂シートは、一般に、押出機により溶融混練された樹脂を口金からシート状に押出成形した後、冷却ロール(チルロールとも呼ぶ)などの冷却面を備えるキャスト冷却ロールに引き取らせて冷却固化させることによって製造される。このとき、押出成形された樹脂は、キャスト冷却ロールにおける回転移動する冷却面すなわちキャスト面に接触しキャスト面の移動に伴って搬送される間に冷却されることとなる。樹脂シートの成形性を良好とするため、シートと密着するキャスト面の平面性を向上させることで、表面性の優れた樹脂シートを製造することができる。
【0003】
近年、樹脂シートの需要が増大しており、樹脂シートの製膜速度の高速化が求められるようになってきている。製膜速度の高速化に伴って、口金から押出成形されたシートとキャスト冷却ロールのキャスト面との間に流れ込む空気が増加し、キャスト面へのシート着地点における空気の噛み込む圧力が高くなるため、キャスト面に対するシートの密着性が低下する。特に、一定の製膜速度以上になったときには、シートとキャスト面との間に空気が噛み込まれやすくなり、樹脂シート製品における厚みムラや物性ムラの原因となるおそれがある。そこで、キャスト面への樹脂シート着地点における空気の噛み込む圧力を低下させるために、特許文献1には樹脂シートの製造装置において、キャスト冷却装置(キャスト冷却ロール)のキャスト面への樹脂シートの着地点の近傍に、キャスト面と樹脂シートの間の空気を吸引する減圧チャンバーを設け、樹脂シートとキャスト面との間への空気の噛み込みを防止することが開示されている。特許文献1では、吸引の際に減圧チャンバーに余分な空気が入らないように、減圧チャンバー本体においてキャスト面に対向する面はキャスト面からわずかな距離離れた位置にて四角状に配置されるとともに、減圧チャンバー本体のこの面の4つの周縁におけるシートの着地点に近接する部位以外にキャスト面に当接するシール材を設け、このわずかな間隙からも空気が流入しないようにしている。シール材に対してキャスト面は摺動することになるので、シール材としては、例えば、圧縮荷重が小さく、低荷重でシール面のシール性を確保することができる多孔質の樹脂またはゴムが用いられる。
【0004】
樹脂シートの製造に際して口金から押出成形される樹脂は、樹脂だけでなく希釈剤などを含んでいることがある。リチウムイオン二次電池において電極間に配置されるセパレータとしては、微多孔性のポリオレフィン樹脂シートが使用されるが、微多孔性ポリオレフィン樹脂シートを製造する際には、ポリオレフィン樹脂と希釈剤とを溶融混練して樹脂溶液を生成し、この樹脂溶液を口金からシート状に押出成形してキャスト冷却ロールによって冷却固化させる。この場合、キャスト冷却ロールから冷却後の樹脂シートを離間させたのちにもいくばくかの希釈剤や、樹脂に起因する低分子量成分がキャスト冷却ロールのキャスト面に付着物として残存する。そこで、キャスト面に残存した付着物は、樹脂シートの引き取り冷却作業に干渉しない位置にて、スクレーパーやドクターブレードなどの掻き取り装置によって除去される。特許文献1には、キャスト面に残留した希釈剤を掻き取る、掻き取り装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に開示される装置では、掻き取り装置と組み合わせても、異物に起因すると考えられる欠点を十分に防ぐことができなかった。かかる欠点は、物性に影響を及ぼす程度のものであれば検査工程を経て取り除くことができるが、収率が低下するという問題がある。また、実質的に物性に影響を与えない程度のものであっても、ユーザーにより忌避されるという問題があった。一方でシール材の清掃・交換周期を短くすれば欠点の発生を抑えることができるが、これも生産効率の低下という問題があった。
【0007】
本発明の目的は、シール材の清掃・交換周期を短くすることにより生産効率を下げることなく、減圧チャンバーにおけるシール性を担保し、かつ欠点が発生しにくい樹脂シートの製造を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討の結果、従来技術において欠点を十分に防ぐことができなかった原因を次のようにつきとめた。
図6は、従来の多孔質のゴムのシール材50が設けられる位置を拡大して示したものである。シール材50の下端側が冷却ロール2に当接する位置は、冷却ロール2の回転に伴って樹脂シート3がキャストされる位置よりもシート搬送方向上流側の位置であって、且つ既述のスクレーパー17よりもシート搬送方向下流側の位置である。この位置では異物や希釈剤はスクレーパー17で除去されているが、低分子量の樹脂成分はロール表面に付着している。このような低分子量の樹脂成分をシール材50が掻き取ってしまうと、掻き取った異物がシール材50に堆積し続けてシール材50の下方領域に回り込むので、シール材50では留めておくことが出来ず、樹脂シート3のキャスト位置に流れていき、樹脂シートにおける欠点の要因となる。
【0009】
そして、減圧チャンバーのシール材に特定の材質のものを採用することで欠点を抑えることができることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち本発明は、ロールの一部の表面を覆うようにして用いられる減圧チャンバーであって、前記ロールを覆う領域のうちロール円周方向の端部の一方にシール材を有し、当該シール材が可撓性樹脂フィルムからなることを特徴とする減圧チャンバーである。
【0011】
また本発明は、口金から吐出される樹脂シートを受けて冷却するロールと、本発明の減圧チャンバーとを備え、前記ロールに前記樹脂シートが接触する接触点よりも前記樹脂シートの搬送方向上流側に離間した位置に前記シール材が位置するように減圧チャンバーが設置されたことを特徴とするキャスト冷却装置である。
【0012】
前記シール材は、前記シール材の下端側にて前記ロールとの間をシールすることが好ましい。
【0013】
また本発明は、本発明のキャスト冷却装置と、口金と、を備え、樹脂を口金からシート状に吐出する、樹脂シートの製造装置である。
【0014】
また本発明は、本発明のキャスト冷却装置を用い、前記口金から樹脂をロール上にシート状に吐出し、前記口金から吐出された樹脂シートと前記ロールとの間の空気を減圧チャンバーで吸引して、樹脂シートとロールとを密着させ、樹脂シートをロールにより搬送しながら冷却して固化させる樹脂シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シール材の清掃・交換周期を短くすることにより生産効率を下げることなく、減圧チャンバーにおけるシール性を担保し、さらに余分な異物を生成せず欠点が発生しにくい樹脂シートの製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の一形態の減圧チャンバーを備える微多孔ポリオレフィン樹脂シート製造装置の概略斜視図である。
【
図5】微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】比較例でのシール材を説明する拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下の実施例を含む実施形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の減圧チャンバーを備える樹脂シート製造装置(以下、シート製造装置とも呼ぶ)の要部を示すものである。
図1に示すように、シート製造装置は、図示しない押出機から供給される溶融樹脂溶液をシート状に吐出するための口金1と、この口金1から吐出される樹脂シート3を引き取り搬送しながら冷却し固化するためのキャスト冷却装置を備えている。
図1では、キャスト冷却装置は、冷却ロール2と後述の減圧チャンバー4とを備えた装置として描かれており、冷却ロール2の外周面が冷却面すなわちキャスト面となる。従って、冷却ロール2は図示矢印方向(左回り、反時計回り)に回転駆動されて樹脂シート3を
図1中右側に向かって搬送する。口金1から吐出された樹脂シート3は、回転する冷却ロール2の表面上にキャストされる。希釈剤を含む樹脂シート3を冷却ロール2で冷却すると、その冷却ロール2から冷却済の樹脂シート3を離間させた後に、冷却ロール2のキャスト面に流動パラフィンなどの希釈剤や樹脂のうち低分子量成分が付着物として残留する。そのため、口金1から吐出された樹脂シート3のキャスト面への着地点よりも冷却ロール2によるシート搬送方向上流側には、キャスト面に残留している希釈剤などの付着物を掻き取る掻き取り部材として、冷却ロール2の回転軸に平行に延びてキャスト面に当接するシリコーンゴム製の板状スクレーパー17が図示しない保持部材により冷却ロール2に対して固定して設けられている。スクレーパー17は、冷却ロール2の外周面の接平面に対して冷却ロール2の回転方向下流側に向かって倒れるように傾斜して配置されている。冷却ロール2の回転方向においてスクレーパー17と樹脂シート3のキャスト面への着地点との間の領域は、スクレーパー17によってキャスト面における希釈剤が付着物として取り除かれることから、概略乾燥した状態となる。なお、ゴム製のスクレーパーの代わりに樹脂製のドクターブレードを掻き取り部材として用いてもよい。
【0019】
口金1の背面側、つまり、樹脂シート3のキャスト面への着地点よりもシート搬送方向上流側には、口金1に隣接して、下端面が冷却ロール2の外周面に沿う形状を有する減圧チャンバー4が冷却ロール2の表面の一部を覆うように設けられている。この減圧チャンバー4により、樹脂シート3の背面側、つまり、樹脂シート3が冷却ロール2に接触する面側に負圧領域が生成される。減圧チャンバー4は開口部とこの開口部を介して空気を吸引するための減圧室を有しており、開口部は、キャスト面である冷却ロール2の外周面に樹脂シート3が密着を開始する部分の直近において、樹脂シート3の全幅にわたって形成されている。また、減圧チャンバー4における減圧室の上面には不図示の吸引装置から伸びる吸引管が接続されており、当該減圧室内の空気が吸引管を介して吸引されるように構成されており、これに伴って減圧チャンバー4の開口部から樹脂シート3と冷却ロール2との間の密着部近傍の空気が吸引される。これにより、密着部が減圧されて、樹脂シート3と冷却ロール2のキャスト面との間に巻き込まれる空気が低減される。また、前記吸引管には不図示の圧力計が設けられており、不図示の制御装置によって減圧チャンバー4の減圧室の減圧度を所定の値に制御することで、溶融樹脂の樹脂シート3を冷却ロール2に安定的に密着させることができる。このとき、減圧チャンバー4の減圧室内の減圧度は溶融樹脂の粘度、樹脂シート3の厚み、冷却ロール2のシート搬送速度など、製膜条件に応じて所定の値に制御することが好ましい。減圧チャンバー4の減圧室内の大気圧に対する吸引圧力は-2500Pa以上-20Pa以下の範囲が好ましい。減圧室内の大気圧に対する吸引圧力の下限は-1500Pa以上がさらに好ましく、上限は-50Pa以下がさらに好ましい。
【0020】
図2は
図1に示すシート製造装置の上面図であり、
図3は
図2のA-A線での断面図である。
図3に示すように、減圧チャンバー4が所定位置に設置されたときは、吸引の際に減圧チャンバー4の減圧室4bに余分な空気ができるだけ入らないように、減圧チャンバー4においてキャスト面と対向する面(天井面)は、冷却ロール2からわずかに上方側に離れた位置に配置される。減圧チャンバー4のキャスト面に対向する前記天井面の周縁部分のうち減圧チャンバー4における幅方向の両端縁及びシート搬送方向上流側の縁には、減圧チャンバー4とキャスト面との間のわずかな間隙からの空気の流入を抑制するシール材7b,10がそれぞれ設けられている。即ち、シール材7bは、減圧チャンバー4のシート幅方向の両端となる位置にて冷却ロール2の外縁に沿うように円弧状に設けられ、例えば、多孔質の樹脂またはゴムで構成され、低荷重でキャスト面と当接し、シール面を構成する。シート幅方向とは、樹脂シート3の長手方向すなわち回転ロール2による搬送方向に対して直交する方向のうちシートの膜厚方向にも直交する方向である。冷却ロール2のキャスト面においてシール材7bが当接する位置は、冷却ロール2が回転したとしても口金1から押出成形される樹脂シート3が接触しない位置、すなわちキャスト面に多少の傷が生じても樹脂シート3の品質に影響を与えない位置である。シール材7bとして用いることができる材料や、キャスト面へのシール材7bの好ましい押付力、取り付け方法などの例は、特許文献1に記載されている。一方、シール材10は、キャスト面のシート搬送方向上流側の位置で、減圧チャンバー4とキャスト面との間のシール面を構成する。シール材10については後述する。
【0021】
図3に示すように、減圧室4bの上部板4aの搬送方向下流の縁には口金1と接触するシール材7aが配されている。シール材7aは多孔質の樹脂またはゴムで構成されることが好ましい。上部板4aの口金1への取り付け方法はこれに限定されるものではなく、例えば、上部板4aの縁を口金1の本体に溶接で取り付けてもよく、口金1と上部板4a縁とをブラケットにより固定設置していてもよい。または、口金1と一体で上部板4aを構成してもよい。さらに、口金1のリップよりもキャスト面の搬送方向下流側で、口金1から吐出される樹脂シート3の両端の位置よりもシート幅方向外側に、口金1から吐出される樹脂シート3とキャスト面との隙間を塞ぐように設置された整流板6が、口金1の幅方向の両端部に備えられている。例えば、不図示のブラケットを介して口金1に整流板6を取り付けることができるが、整流板6の取り付け方法はこれに限られるものではない。なお口金1のリップとは、溶融樹脂あるいは樹脂液をシート状に押出成形するために口金1に設けられたスリット状の開口部のことをいう。
【0022】
次に、シール材10について説明する。
図4は、シート製造装置におけるシール材10が設けられる位置を拡大して示したものであり、減圧チャンバー4のシート幅方向両側に設けられるシール材7bについては省略して描画している。シール材10は、回転する冷却ロール2のキャスト面に当接することによってシール面を形成するものである。シール材10は、減圧チャンバー4のシート搬送方向上流端部の下端面と冷却ロール2のキャスト面との間の隙間を塞ぐようにシート幅方向に延びている。
【0023】
本発明のシール材10は、可撓性を有する樹脂フィルムから構成されていることが重要である。そうすることで、スクレーパーにより除去されなかった低分子量の樹脂成分は掻き取らずに受け流すことで、敢えて捕集せずに残し、余分な異物の生成を防止しながら、シール性を確保できる。そして、上記のような可撓性により、ロール2との接触によるシール材の摩耗や破損を抑制することができ、またそのことによる異物の発生も抑えることができる。
【0024】
シール材10を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが用いられる。
【0025】
シール材10の厚さは、シール材10の材質にもよるが、好ましくは25μm以上500μm以下であり、より好ましくは50μm以上250μm以下であり、更に好ましくは75μm以上200μm以下である。シール材10がこの厚さよりも薄い場合には強度が不足してシール材10の下端側が減圧チャンバー4内の負圧に引かれて冷却ロール2の表面から浮いてしまうおそれがあり、一方シール材10の厚さが上記範囲よりも厚い場合には可撓性が失われてシール性を担保できなくなる。即ち、冷却ロール2の回転に伴って、冷却ロール2に対する減圧チャンバー4(シール材10)の高さ位置は極僅かに上下動する。そのため、シール材10が可撓性を持っていない場合、前記上下動に伴って、シール材10の下端面が冷却ロール2の上面から離れてしまったり、あるいはシール材10の下端部が冷却ロール2に衝突して破損してしまったりするおそれがある。これに対して上記のように本発明では、シール材10が可撓性を持つように厚さを設定しているので、冷却ロール2に対して減圧チャンバー4が上下動しても、この上下動に追随しながら減圧チャンバー4内の減圧を維持する。
【0026】
シール材10の個数は1個に限定されるものではなく、シート搬送方向に沿って複数個のシール材を配置してもよい。図示したものでは2個のシール材10が設けられている。微小な異物が冷却ロール2の表面に付着した時、冷却ロール2の回転に伴って、シート搬送方向上流側のシール材10の下端側と、シート搬送方向下流側のシール材10の下端側とを順次この異物が通過する場合がある。シール材10の下端側を異物が通過した時には、このシール材10の下端側が冷却ロール2の表面から離れるので、当該シール材10における減圧シールの役割は通常時よりも低くなってしまうが、2つのシール材10、10を設けているので、いずれか一方のシール材10のシール性が一時的に機能しにくくなっても他方のシール材10が減圧チャンバー4内の減圧を維持する。
【0027】
シール材10は、減圧チャンバー4とキャスト面との間をシールする部材であるので、シール材10の両端は、減圧チャンバー4のシート幅方向両端に設けられるシール材7bに対して接するか、極めて近い距離に位置することが好ましい(
図2参照)。シール材10は、
図4に示すように、減圧チャンバー4の下端部に設けられた押さえ板11の溝に挟み込まれることにより押さえ板11に取り付けられ、押さえ板11は、減圧チャンバー4の減圧室4bの壁面を構成する部材4dに対してねじ12によって固定されている。これにより、シール材10は減圧チャンバー4に取り付けられている。
【0028】
図4に示すように、冷却ロール2の回転軸に垂直な断面、すなわちシート幅方向に垂直な断面で見ると、シール材10は、押さえ板11から冷却ロール2に向かって概略下方側に向かって延びている。そして、シール材10は、可撓性を有することから、その弾性力によって下端部が冷却ロール2のキャスト面に押し付けられる。このときシール材10は、冷却ロール2の回転に伴ってキャスト面の近傍でシート搬送方向下流側に向かって湾曲するので、シール材10の下側先端近くの両表面のうちシート搬送方向上流側の面がキャスト面に接することとなる。
シール材をロールに当てる角度としては、減圧チャンバーの本体からシール材が延出する方向と、当該延出方向とロールとが交わる点におけるロールの外周の接線のロール回転方向と、のなす角(
図4中のθ)が5°以上85°以下であるか、95°以上175°以下であることが好ましい。θは、より好ましくは、25°以上75°以下または105°以上155°以下であり、更に好ましくは45°以上65°以下または115°以上135°以下である。θをこのような範囲内とすることで、シール材10のキャスト面への接圧を、シール性を確保する上で適切なものとすることができる。
【0029】
シール材10のキャスト面への接圧は、好ましくは0.2kPa以上29.0kPa以下であり、より好ましくは1.3kPa以上6.0kPa以下である。かかる範囲内とすることで、十分なシール性を確保することができる。
【0030】
本実施形態で説明したシート製造装置は、種々の樹脂シートの製造に用いられるものであるが、微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造にも使用できるものである。
【0031】
本発明のシート製造装置を樹脂シートの製造に適用する場合には、口金1から樹脂を冷却ロール2上に押出すと共に冷却して、樹脂シートを得る。そして、冷却済の樹脂シートに対して延伸工程などが行われる。
【0032】
微多孔ポリオレフィン樹脂シートを製造する場合であれば、口金1から押出成形されるポリオレフィン樹脂溶液に含まれるポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテンなどを用いることができる。ポリオレフィン樹脂溶液に含まれる希釈剤は、微多孔ポリオレフィン樹脂シートにおける微多孔形成のための構造を決めると共にポリオレフィン樹脂を溶液状とするための可塑剤であり、また樹脂シートを延伸する際の延伸性改善に寄与するものである。希釈剤としては、ポリオレフィン樹脂に混合または溶解できる物質であれば特に限定されない。室温で固体の希釈剤としては、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。延伸での斑の発生などを防止するために、また、後に塗布することを考慮して、希釈剤は室温で液体であるものが好ましい。液体の希釈剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれらの化合物の沸点の範囲にある鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体希釈剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、上記希釈剤として流動パラフィンを用いることが更に好ましい。例えば、液体希釈剤の粘度は40℃において20~200cStであることが好ましい。溶融混練状態ではポリオレフィンと混和するが室温では固体の溶剤を希釈剤に混合してもよい。ポリオレフィン樹脂と希釈剤との配合割合は、ポリオレフィン樹脂と希釈剤との合計を100質量%として、押出物の成形性を良好にする観点から、ポリオレフィン樹脂10~50質量%が好ましい。
【0033】
図5は、微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製品を得るまでの工程の全体を示している。まず、ポリオレフィン樹脂粉末と希釈剤である可塑剤とを押出機において溶融混練する(S11)。これによりポリオレフィン樹脂溶液が調製される。調製されたポリオレフィン樹脂溶液は、口金1によってシート状に押出成形されて吐出される(S12)。吐出されたシート状のポリオレフィン樹脂溶液すなわち樹脂シート3は、冷却ロール2によって冷却されて、ゲル状シートとなる(S13)。次にゲル状シートに対して湿式での二軸延伸が行われ(S14)、二軸延伸されたゲル状シートは溶媒に浸漬される(S15)。溶媒により可塑剤が除去されるので、微多孔ポリオレフィン樹脂シートが生成する。生成した微多孔ポリオレフィン樹脂シートに対して、続いて乾式での二軸延伸が行なわれ(S16)、熱緩和(S17)と冷却(S18)ののち、微多孔ポリオレフィン樹脂シートが巻き取られて(S19)、微多孔ポリオレフィン樹脂シート製品を得ることができる。溶融混練から巻取りまでの各工程は連続して実施することができるので、微多孔ポリオレフィン樹脂シートはウェブとして得られることになる。
【0034】
上述の本発明によれば、減圧チャンバー4におけるシート搬送方向上流側のシール材10として、可撓性を持たない固形状あるいはバルク状の部材ではなく、可撓性を持つシート状のシール材10を用いている。そのため、冷却ロール2との接触による摩耗や破損を抑制しつつ、更には付着物がそれ程堆積しないようにしながら、シール性を確保できる。即ち、シートの冷却工程に関与しない付着物についてはできるだけ除去した方が良い、というような従来の考え方に対して、本発明では付着物が冷却ロール2の表面に付着していたとしても、粗大な付着物が発生しない限りは欠陥の原因とはならないことを予め把握した上で、ある程度の付着物が冷却ロール2上に残ることを許容しながら、減圧チャンバー4を使用しつつ冷却ロール2上に樹脂シート3をキャストしている。従って、減圧チャンバー4のシール性を確保すると共に、微多孔膜に欠陥が発生することを抑えることができる。このようにシール材10に到達した付着物をできるだけ捕集せずに下流側に通流させるにあたって、シール材10における既述の傾斜角θを90°よりも小さくして、いわばシール材10によって付着物を冷却ロール2の回転方向に均すようにしている。そのため、シール材10の下端部へのダメージが抑えられるので、当該シール材10の長寿命化につながる。そして、冷却ロール2上の付着物をできるだけ掻きとらないようにシール材10を構成するにあたって、本発明では付着物を掻きとるためのスクレーパー17を設けているので、付着物掻き取り機能をスクレーパー17に割り当てることにより、シール材10はシール性を担保することに注力できる。従って、シール材10とスクレーパー17とを組み合わせることにより、当該シール材10の耐久性が良好になり、且つ異物回収性に優れる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例等によりさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
図1乃至
図3に示すシート製造装置を用い、
図5に示す手順に従って微多孔ポリオレフィン樹脂シートを作成した。
【0037】
(1)シート材料
微多孔ポリオレフィン樹脂シート材料となるポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、粘度1000Pa・sを使用した。ここで粘度は、せん断速度100/s、温度200℃の条件で、JIS K7117-2に規定する方法で測定したものである。希釈剤としては、流動パラフィン(LP)、動粘度51cSt(40℃・mm2/sのとき)を使用した。
【0038】
(2)仕込み
シート材料を乾燥後、押出機に供給して希釈剤と共に溶融混錬した後、シート成型用の口金に供給した。また、口金に至るまでの装置温度は230℃に設定した。
【0039】
(3)シート成型口金
スリット幅が300mmである口金1を使用し、上記の溶融混練後の樹脂溶液を70kg/hrで吐出させた。なお樹脂溶液中のLP濃度は70質量%とし、49kg/hrがLPである。
【0040】
(4)キャスト冷却装置
キャスト冷却装置の冷却ロール2として、表面が鏡面状のシート成型ロールを使用した。シート成型口金からシート状に押し出した後、ロール温度を35℃に設定したシート成型ロールの上でキャスト速度3m/minで成型した。
【0041】
(5)減圧チャンバー
シート形成口金(口金1)とシート成型ロール(冷却ロール2)の間のクリアランスを40mm、減圧チャンバー4の上部板4aの全体に亘ってシート搬送方向上流側に向かって水平方向に対して下向きに10°で一定に傾斜したものを使用した。整流板6は、減圧チャンバー4の本体(減圧室4b)の側面の延長上になるように設置位置を調整し、さらに口金1のリップ位置を冷却ロール2の頂上に配した上で、減圧チャンバー4を設置した。口金1と上部板4aとの間のシール材7aとしては延伸ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用した。キャスト面とのシール材のうち、減圧チャンバー4の側面部に設けられるシール材7bには、シリコーンスポンジゴム(引き裂き硬度0.25MPa)を使用し、シート搬送方向上流側に設けられるシール材10には、PETフィルムからなるものを使用した。シール材10の設置状況は
図4に示すものと同じである。PETフィルムからなるシール材10は、厚みが125μmであり、傾斜角θが60°であり、キャスト面への接圧が3kPaとなるように設置した。また、減圧室4bでの減圧度は大気圧に対して-0.1kPaとなるように設定した。
【0042】
(6)スクレーパー(ドクターブレード)
図4に示すように、硬度70度のシリコーンゴムからなるスクレーパー17を設けた。スクレーパー17がキャスト面に接する位置からスクレーパー17が延びる方向と冷却ロール2の回転方向とがなす角αを30°とした。
【0043】
(7)欠点検出
上記(1)~(6)の条件を採用し、
図5に示すようにさらに延伸等を行なって微多孔ポリオレフィン樹脂シート(微多孔膜)を製造し、得られた微多孔膜における欠点を透過方式の欠点検出器を使用して検出した。製膜流れ方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)の両方において寸法が10mm以上である欠点を減圧チャンバーにて発生した異物起因の欠点とした。
【0044】
(8)結果
製造された幅1800mm×長さ60mの微多孔膜において、減圧チャンバーで発生した異物に起因する欠点の数は1個であり、欠点の数は少なかった。
【0045】
[比較例1]
減圧チャンバー4におけるシール材の構成を変えたほかは実施例1と同様にして微多孔膜を製造した。具体的な樹脂シートの製造方法は以下の通りである。
【0046】
(1)シート材料
実施例1と同じとした。
【0047】
(2)仕込み
実施例1と同じとした。
【0048】
(3)シート成型口金
実施例1と同じとした。
【0049】
(4)キャスト冷却装置
実施例1と同じとした。
【0050】
(5)減圧チャンバー
シート形成口金(口金1)とシート成型ロール(冷却ロール2)の間のクリアランスを40mm、減圧チャンバー4の上部板4aの全体に亘ってシート搬送方向上流側に向かって水平方向に対して下向きに10°で一定に傾斜したものを使用した。整流板6は実施例1と同様に設置し、さらに口金1のリップ位置を冷却ロール2の頂上に配した上で、減圧チャンバー4を設置した。口金1と上部板4aとの間のシール材7aと、減圧チャンバー4の側面部とキャスト面との間に設けられるシール材7bには、それぞれ実施例1と同じものを使用した。実施例1においてシート搬送方向上流側に設けられるシール材10の代わりに、この比較例1では、
図6に示すように、シール材7bと同じ材質(シリコーンスポンジゴム(引き裂き硬度0.25MPa))からなるブロック状のシール材50を用いた。シール材50は、押さえ板51を挟んで、減圧チャンバー4の減圧室4bの壁面を構成する部材4dに対してねじ52によって固定した。減圧室4bでの減圧度は大気圧に対して-0.1kPaとなるように設定した。
【0051】
(6)スクレーパー(ドクターブレード)
実施例1と同じとした。
【0052】
(7)欠点検出
実施例1と同じとした。
【0053】
(8)結果
製造された幅1800mm×長さ60mの微多孔膜において、減圧チャンバーで発生した異物に起因する欠点の数は20個であり、実施例1と比べて欠点の数が増加し、生産収率が低下した。
【0054】
[比較例2]
減圧チャンバー4におけるシール材の構成を変えたほかは実施例1と同様にして微多孔膜を製造した。具体的な樹脂シートの製造方法は以下の通りである。
【0055】
(1)シート材料
実施例1と同じとした。
【0056】
(2)仕込み
実施例1と同じとした。
【0057】
(3)シート成型口金
実施例1と同じとした。
【0058】
(4)キャスト冷却装置
実施例1と同じとした。
【0059】
(5)減圧チャンバー
減圧チャンバー4の側面部とキャスト面との間に設けられるシール材7bと、減圧チャンバー4のシート搬送方向上流側に設けられるシール材50のそれぞれについて、シリコーンスポンジゴム(引き裂き硬度0.08MPa)を使用したほかは比較例1と同じにした。
【0060】
(6)スクレーパー(ドクターブレード)
実施例1と同じとした。
【0061】
(7)欠点検出
実施例1と同じとした。
【0062】
(8)結果
微多孔ポリオレフィン樹脂シートの製造を行なっているうちに、減圧チャンバー4の搬送方向上流側となる位置に設けられたシール材50が千切れてしまって減圧シールが破れ、減圧室4b内を負圧とすることができなかった。その結果、微多孔膜の製造を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0063】
1 口金
2 冷却ロール
3 樹脂シート
4 減圧チャンバー
4b 減圧室
4c 開口部
6 整流板
7a,7b,10 シール材
11 押さえ板
12 ねじ
17 スクレーパー