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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】二軸配向フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/14 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
B29C55/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018180209
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020049738
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】望月 翔平
(72)【発明者】
【氏名】福田 哲
(72)【発明者】
【氏名】市丸 雄大
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-226097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを長手方向に延伸する縦延伸工程、及び縦延伸工程で得られた一軸配向フィルムをテンター装置により幅方向に延伸する横延伸工程をこの順に有する二軸配向フィルムの製造方法であって、
テンター装置の入口直前に位置するロール(ロールA)とテンター装置のクリップが最初に一軸配向フィルムを把持する点(把持点)との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下に制御し、前記ロールAの回転速度をV 、前記クリップの走行速度をV としたときに、V /V を1.006以上1.010以下に制御することを特徴とする、二軸配向フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を、変位センサで測定することを特徴とする、請求項1に記載の二軸配向フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記変位センサが、レーザー式変位センサであることを特徴とする、請求項2に記載の二軸配向フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を測定する箇所を測定点としたときに、測定点と前記把持点の間に、回転自在な一対のロールを備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向に分子配向を有する一軸配向フィルムを、テンター装置を用いて幅方向に延伸する二軸配向フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸配向フィルムの製造方法として、溶融状態のポリマーを吐出させてダイ等でシート状に成形した後、縦延伸を行い、その後横延伸を行う逐次二軸延伸方法が知られている。この横延伸には、縦延伸により得られた一軸配向フィルムの幅方向両端部を把持するクリップを搬送方向に走行させながら、このクリップの間隔を広げることによって、シートを幅方向に延伸するテンター装置が用いられる。そして、縦延伸及び横延伸を経て得られる二軸配向フィルムは、その分子と結晶が2つの方向に配向を有するため、機械的強度の向上、光学的性質やガス透過性の改善等、延伸前のシートにはない特徴を備える。
【0003】
テンター装置におけるクリップとしては、例えば図1の構成のものがよく知られている。図1は、テンター装置のクリップの一例を走行方向から観察したときの概略図である。図1に示すように、テンター装置のクリップ(以下、単にクリップということがある。)1はレール2に相対して摺動可能に配置されたクリップ台3上に取り付けられている。そしてこのクリップ1は、ベース4と、そこからアーチ形に起立した起立部5を有しており、起立部5にはクリップレバー6が支軸7により回動可能に取り付けられている。クリップレバー6は、その上部(支軸7よりも上の部分)と起立部5との間に位置するスプリング(図示しない)の弾性力により点線で示す位置に回動され、その下部(支軸5よりも下の部分)の先端とベース4に設置されたライナ8との間で一軸配向フィルム9の幅方向端部を把持することができる。
【0004】
縦延伸工程では、無配向のシートを縦方向に延伸することでシートの幅方向に収縮力が働く。そして、縦延伸により得られる一軸配向フィルムにおいては、幅方向中央部では周囲の拘束が相互に働くのに対し、幅方向端部では自由に収縮する。そのため、一軸配向フィルムの幅方向端部にはカールが生じ、特に一軸配向フィルムが薄い場合や、ガイドロールに沿って加わる幅方向の張力が低下するタイミングにおいて、その傾向が顕著となる。
【0005】
通常、テンター装置のクリップ近傍にはガイドロールを配置するのが難しい。そのため、クリップが一軸配向フィルムを把持するポイントにおいては、ガイドロールに起因する張力が小さくなり、一軸配向フィルムの幅方向端部がカールすることがある。このようなカールが生じた状態でクリップが一軸配向フィルムを把持しようとすると、クリップレバー6の下部が一軸配向フィルム9の幅方向端部に接触する。そのため、クリップの把持点が外側にずれる(図2-A)、クリップが一軸配向フィルムを把持できない(図2-B)等の把持不良が生じることがある。また、クリップの閉動作に起因する衝撃が一軸配向フィルムのカール部に伝わると、カール部が振動して、さらに把持不良が増長されることもある。
【0006】
通常、クリップの把持位置は長手方向と平行になるように連続するため、安定した製膜と均一な延伸が可能である。しかしながら、このような把持不良が生じると、延伸の均一性が損なわれることや、延伸中にフィルムが切断される等の不具合が発生することがある。より具体的には、図2-Aに示すようにクリップの把持点が外側にずれると、その部分だけ幅方向の延伸倍率が微変動して、得られる二軸配向フィルムの品質にムラが生じることがあり、図2-Bに示すようにクリップによる把持がなされないと、その部分からフィルム切れが発生することがある。
【0007】
このような課題を克服する方法として、縦延伸工程と横延伸工程との間における一軸配向フィルムに係る張力を高めるために、横延伸工程の手前に矯正ローラを導入して、一軸配向フィルムの幅方向端部を平坦化させる方法(特許文献1)、テンター装置のクリップにスライダーを設置し、搬送されたフィルム端部を押さえる方法(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-82854
【文献】特開2005-104081
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一軸配向フィルムの走行速度、フィルムの組成や厚み等が異なれば、縦延伸工程と横延伸工程との間における一軸配向フィルムの張力も変動する。そのため、特許文献1に記載の方法は、多種多様なフィルムの製造に用いるには条件の調整が複雑になり、クリップによる把持不良軽減効果にも改善の余地があった。また、特許文献2の方法ではスライダーを設置することで把持不良を軽減することはできるが、生産を継続する過程で設備の劣化が進むと再度把持不良が発生する点で課題があった。また、特許文献2に方法は、把持不良の発生を事前に予測できるものでもなかった。
【0010】
本発明は、テンター装置におけるクリップの把持不良の発生を事前に予測し、かつ、このような把持不良及びそれに伴う延伸ムラやフィルムの切断を長期間にわたって軽減できる二軸配向フィルムの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
係る課題を解決するために本発明は、以下の構成からなる。
(1) シートを長手方向に延伸する縦延伸工程、及び縦延伸工程で得られた一軸配向フィルムをテンター装置により幅方向に延伸する横延伸工程をこの順に有する二軸配向フィルムの製造方法であって、テンター装置の入口直前に位置するロール(ロールA)とテンター装置のクリップが最初に一軸配向フィルムを把持する点(把持点)との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下に制御し、前記ロールAの回転速度をV 、前記クリップの走行速度をV としたときに、V /V を1.006以上1.010以下に制御することを特徴とする、二軸配向フィルムの製造方法。
(2) 前記一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を、変位センサで測定することを特徴とする、(1)に記載の二軸配向フィルムの製造方法。
(3) 前記変位センサが、レーザー式変位センサであることを特徴とする、(2)に記載の二軸配向フィルムの製造方法。
(4) 前記一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を測定する箇所を測定点としたときに、測定点と前記把持点の間に、回転自在な一対のロールを備えることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の二軸配向フィルムの製造方法
【発明の効果】
【0012】
本発明により、テンター装置におけるクリップの把持不良の発生を事前に予測し、かつ、このような把持不良及びそれに伴う延伸ムラやフィルムの切断を長期間にわたって軽減できる二軸配向フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】テンター装置のクリップの一例を走行方向から観察したときの概略図である。
図2】テンター装置におけるクリップの把持不良を表す概略図である。
図3】テンター装置内でのクリップ及びフィルムの動きを表す概略図である。
図4】ロールAから把持点までの区間の一例を表す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、シートを長手方向に延伸する縦延伸工程、及び縦延伸工程で得られた一軸配向フィルムをテンター装置により幅方向に延伸する横延伸工程をこの順に有する二軸配向フィルムの製造方法であって、テンター装置の入口直前に位置するロール(ロールA)とテンター装置のクリップが最初に一軸配向フィルムを把持する点(把持点)との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下に制御することを特徴とする。
【0015】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、シートを長手方向に延伸する縦延伸工程、及び縦延伸工程で得られた一軸配向フィルムをテンター装置により幅方向に延伸する横延伸工程をこの順に有することが重要である。ここでシートとは、溶融状態の熱可塑性樹脂を冷却固化してシート状に成型したものをいう。長手方向とは二軸配向フィルムの製造工程においてシートやフィルムが走行する方向をいい、幅方向とはシート面内又はフィルム面内で長手方向と直交する方向をいう。また、縦延伸工程と横延伸工程をこの順に有するとは、縦延伸工程の前、縦延伸工程と横延伸工程との間、及び横延伸工程の後に別の工程があるか否かを問わず、縦延伸工程の下流に横延伸工程がある態様全般を指す。このような態様とすることにより、クリップでの把持不良の原因となる一軸配向フィルムの幅方向端部のカールが生じるため、発明を適用する利点が大きくなる。
【0016】
テンター装置による横延伸は、一軸配向フィルムの幅方向両端部を把持するクリップをレールに沿って走行させることで一軸配向フィルムを長手方向に走行させながら、クリップの幅方向の間隔を広げることによって行うことができる。その詳細については、テンター装置のクリップと併せて、図面を用いて後述する。
【0017】
縦延伸工程では、無配向のシートを縦方向に延伸することでシートの幅方向に収縮力が働く。そして、縦延伸により得られる一軸配向フィルムにおいては、幅方向中央部では周囲の拘束が相互に働くのに対して幅方向端部では自由に収縮するため、幅方向端部でカールが生じやすい。その結果、例えば図1の態様のクリップが一軸配向フィルムの幅方向端部を把持する際に、カールにより浮き上がった一軸配向フィルムの幅方向端部とクリップレバーが接触することで、クリップの把持不良が生じる。一方で、無配向のシートでは一軸配向フィルムに比べて幅方向に働く収縮力が極めて小さいため、通常このようなカールの発生頻度は低く、それに起因するクリップの把持不良の発生頻度も低い。
【0018】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法においては、クリップの把持不良を軽減する観点から、テンター装置の入口直前に位置するロール(ロールA)とテンター装置のクリップが最初に一軸配向フィルムを把持する点(把持点)との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下に制御することが重要である。このような態様とすることにより、把持点付近を走行する一軸配向フィルムの上下振動が抑えられ、クリップが一軸配向フィルムの幅方向端部を把持する際に、そのクリップレバーが一軸配向フィルムに弾かれるリスクが軽減される。ここでテンター装置の入口直前に位置するロール(ロールA)とは、一軸配向フィルムの抱き角の大きさが10°以上である駆動ロールであって、テンター装置の入口の上流側においてテンター装置の入口に最も近い位置に存在するものをいう。なお、一軸配向フィルムの抱き角とは、ロールAを回転軸と平行な方向から観察し、一軸配向フィルムとロールAが接触している最も端部に位置する2つの点に回転軸の中心からそれぞれ直線を引いたときに形成される角をいう。
【0019】
上記観点から、本発明の二軸配向フィルムの製造方法においては、ロールAと把持点との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.30mm以下に制御することが好ましい。一方で、後述する変位センサを設置するためにロールAと把持部との間隔をある程度確保する場合、張力を上げなければ一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量は大きくなる。この点も考慮すると、ロールAと把持点との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を、1.60mm以上2.30mm以下に制御することがより好ましい。また、このようなリスクを幅方向両側で軽減する観点から、本発明の二軸配向フィルムの製造方法においては、ロールAと把持点との間において、両側の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下又は上記の好ましい範囲に制御することが好ましい。なお、一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量の測定方法については、その測定に用いることができる変位センサと併せて後述する。
【0020】
ロールAと把持点との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下又は上記の好ましい範囲に制御する手段は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えばロールAと把持点との間に、一軸配向フィルムを挟むように一対の回転自在な一対のロールを設置する方法や、ロールAと把持点との距離を調節する方法等が挙げられる。より具体的には、このような回転自在な一対のロールを設置することや、ロールAと把持点との距離を狭めることで、一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を小さくすることができる。
【0021】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法におけるテンター装置のクリップは、本発明の効果を損なわない限り、一軸配向フィルムを把持することが可能なものであれば特に制限されず、公知のものから適宜選択することができる。その具体例としては、例えば、図1の態様のものが挙げられる。以下、これについて具体的に説明する。この態様において、テンター装置のクリップ(以下、単にクリップということがある。)1はレール2に相対して摺動可能に配置されたクリップ台3上に取り付けられている。このクリップ1は、ベース4と、そこからアーチ形に起立した起立部5を有しており、起立部5にはクリップレバー6が支軸7により回動可能に取り付けられている。クリップレバー6は、その上部(支軸7よりも上の部分)と起立部5との間に位置するスプリング(図示しない)の弾性力により点線で示す位置に回動され、その下部(支軸5よりも下の部分)の先端とベース4に設置されたライナ8との間で一軸配向フィルム9の幅方向端部を把持することができる。
【0022】
続いて、図1の態様のクリップを備えるテンター装置による延伸について、図面を参照しながら具体的に説明する。図3はテンター装置内でのクリップ及びフィルムの動きを表す概略図である。テンター装置入口でクリップ1に両側の幅方向端部を把持された一軸配向フィルム9は、レール2に沿って幅方向の距離を広げるように走行するクリップ1によって幅方向に延伸され、テンター装置の出口に達するまでに二軸配向フィルムとなる。このとき、クリップ1におけるクリップレバー6はその上部が入口のクリップクローザー10に接触すると、クリップレバー6が図1の点線に示すように回動して一軸配向フィルム9を把持する。その後、クリップは一軸配向フィルム9を把持したまま走行し、一軸配向フィルム9が幅方向への延伸により二軸配向フィルムとなった後、クリップレバー6が出口のクリップオープナー11とウエアリング12に接触する。クリップオープナー11とウエアリング12に接触すると、クリップレバー6はスプリングのバネ力に抗して図1の実線に示すように回動し、二軸配向フィルムをクリップ1による把持から開放する。そして、二軸配向フィルムを開放したクリップ1は、その後レール2に沿って走行し、再度入口に戻る。また、テンター装置におけるクリップの数は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、装置の規模や延伸倍率等に応じて適宜設定することができるが、通常、片側で500個以上2,500個程度である。
【0023】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を、変位センサで測定することが好ましい。このような態様とすることにより、製造過程で一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を簡便に測定することができる。通常、変位センサは、ロールAと把持点との間において、走行する一軸配向フィルムの上部と下部の少なくとも一方に設置することで、一軸配向フィルム幅方向最端部より10mm以内の位置変化量を測定する。なお、変位センサの個数は、本発明の効果を損なわない範囲で自由に調整することができる。
【0024】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法における変位センサは、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、超音波式、渦電流式、及びレーザー式のもの等を用いることができる。但し、測定精度の観点から、変位センサはレーザー式変位センサであることが好ましい。レーザー式変異センサを用いることにより、複数設置する場合における他の変位センサの影響を軽減することや、ノイズの影響により細かな設定ができなくなる不利益を軽減することが容易となる。本発明の二軸配向フィルムの製造方法において用いるレーザー式変位センサは、測定自体が可能なものであれば特に制限されず、例えば、キーエンス社製LHG500A等を好適に用いることができる。
【0025】
一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量の測定に、キーエンス社製LHG500Aレーザー式変異センサを用いる場合、測定条件は、サンプリング周期を100μs、蓄積周期を1、蓄積点数を65536に設定することができる。そして、同条件で測定した変位量の最大値と最小値の差(R)を一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量とすることができる。
【0026】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を測定する箇所を測定点としたときに、測定点と把持点の間に、回転自在な一対のロールを備えることが好ましい。換言すれば、ロールAから把持点までの区間の側面図である図4に示すように、ロールA13、測定点14、回転自在な一対のロール15、及び把持点16がこの順に位置することが好ましい。このような態様とすることにより、回転自在な一対のロールが一軸配向フィルムを挟むことでその上下動を軽減することができるため、測定点における一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量の値を小さくすることができる。ここで、回転自在な一対のロールを備えるとは、動力を持たないが、外部からの力により受動的に回転することができるロールが、一軸配向フィルムを挟むように、その上下に位置している状態をいう。また、把持点の手前にはクリップの潤滑オイルを周囲に飛散させないよう、オイル飛散防止のためカバーを装着することがある。そのため、回転自在な一対のロールと測定点との位置関係が逆になると、測定点を把持点から遠ざけて回転自在な一対のロールの直後にせざるを得ないことがあり、結果、正確な測定が困難になることがある。
【0027】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、ロールAの回転速度をV、クリップの走行速度をVとしたときに、V/Vを1.006以上1.010以下に制御することが好ましい。V/Vを1.006以上とすることにより、ロールAから把持点までの区間における一軸配向フィルムの弛みを抑制できるため、一軸配向フィルム幅方向端部のカール、及びそれに起因するクリップの把持不良を軽減できる。一方で、V/Vを1.010以下とすることで、張力が過剰となることで発生するテンター内でのフィルム破れを軽減できる。
【0028】
/Vを1.006以上1.010以下に制御する方法は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えばロールAの回転速度Vやクリップの走行速度Vを調節する方法が挙げられる。より具体的には、Vを大きくすることや、Vを小さくすること等により、V/Vを大きくすることができる。
【0029】
次に、本発明の二軸配向フィルムの製造方法について、逐次二軸延伸法によるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの製造を例に挙げて以下に説明する。
【0030】
まず、PETペレットを押出機の原料投入部に供給し、これを加熱溶融する。その後、ギヤポンプ等で押出量を均一化して、加熱溶融されたPETを押出し、フィルター等を介して異物やゲル化物などを取り除く。このとき、通常、フィルムを単層構成とする場合においては押出機を1台とし、積層構成とする場合は押出機を複数台とすることができる。複数台の押出機を用いる場合は、フィルターを通過した熱可塑性樹脂を積層装置に送り込む。積層装置としては、マルチマニホールドダイ、フィードブロック、及びスタティックミキサー等を用いることができ、これらを任意に組み合わせてもよい。
【0031】
このようにして得られたPETの溶融体を、口金からシート状溶融物として吐出し、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出して冷却固化することにより、無配向シートを得る。シート状溶融物から無配向シートを得る具体的な方法としては、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、シート状溶融物を静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させる方法が好ましい。
【0032】
次に、無配向シートを長手方向に延伸する縦延伸工程へと進む。縦延伸工程においては、冷却固化により得られた無配向シートを、縦延伸して一軸配向フィルムを得る。縦延伸は、一本又は周速の等しい複数本の延伸ロールを使用して1段階で行うことも、周速の異なる複数本の延伸ロールを使用して多段階に行うことも可能であり、その倍率は、3.0~5.0倍が好ましく、3.5~3.8倍がより好ましい。
【0033】
また、縦延伸工程後、後述する横延伸工程に進む前に、得られた一軸配向フィルムの両面若しくは片面に、易接着層等の機能層を形成させるための塗剤を塗布する工程を設けることも可能である。塗剤を塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0034】
その後、縦延伸工程で得られた一軸配向フィルムをテンター装置により幅方向に延伸する横延伸工程に進む。横延伸工程においては、一軸配向フィルムの幅方向両端部を把持するクリップをレールに沿って走行させることで一軸配向フィルムを長手方向に走行させながら、クリップの幅方向の間隔を広げることによって一軸配向フィルムを横方向に延伸する。横延伸の倍率は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整することができるが、3.0~5.0倍が好ましく、4.0~4.3倍がより好ましい。
【0035】
このとき、一軸配向フィルムの幅方向端部のカールに起因するクリップの把持不良を軽減するため、テンター装置の入口直前に位置するロール(ロールA)とテンター装置のクリップが最初に一軸配向フィルムを把持する点(把持点)との間において、少なくとも一方の一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下に制御する。また、把持点付近における張力を適度に保ち、把持不良やフィルムの破断等を軽減する観点から、ロールAの回転速度をV、クリップの走行速度をVとしたときに、V/Vを1.006以上1.010以下に制御することも好ましい。
【0036】
一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量の測定には、変位センサを用いることが好ましく、測定精度を考慮すると、レーザー式変異センサを用いることがより好ましい。一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量を0.00mm以上2.50mm以下に制御する手段としては、例えばロールAと把持点との間に、一軸配向フィルムを挟むように一対の回転自在な一対のロールを設置する方法や、ロールAと把持点との距離を調節する方法等が挙げられる。
【0037】
横延伸工程を経て得られた二軸配向フィルムは、その後必要に応じて結晶化によりPETの構造を安定させるための熱処理、及び冷却を施してもよい。これらの処理を行う手段は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、テンター装置内で行うことが簡便性の観点から好ましい。こうして得られた二軸配向フィルムは、その後の搬送工程で冷却され、一旦広幅の巻き取り機で中間ロールとして巻き取られた後、スリッターにより、必要な幅と長さに裁断されて最終製品となる。
【実施例
【0038】
以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。実施例及び比較例における各項目の測定方法等は以下のとおりである。なお、以下、実施例7は参考例とする。
【0039】
(測定方法)
(1)ロールAと把持点との間における一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量(表中は「位置変化量」と表記)
テンター装置の入口の上流に位置する速度調節が可能なロールAと回転自在な一対のロールの間を走行中のポリエステルフィルムの片側の面から距離500mm離れた位置から、幅方向の位置が端部より0~10mmであり、長手方向の位置が回転自在な一対のロールとロールAの中間点である位置を測定点として、変位センサ(キーエンス製LHG500A)を用いて測定した。測定条件については、サンプリング周期を100μs、蓄積周期を1、蓄積点数を65536に設定し、測定した変位量の最大値と最小値の差(R)をロールAと把持点との間における一軸配向フィルム幅方向端部の厚み方向への位置変化量(mm)とした。
【0040】
(2)フィルム厚み
最終的に得られた二軸配向フィルムのロールより二軸配向フィルムをサンプリングし、JIS-C-2330(2001)7.4.1.1により、マイクロメーター法厚さを測定し、得られた値をフィルム厚みとした。
【0041】
(3)製膜安定性
24時間の製膜を3回行って以下の基準で製膜安定性を評価し、○と△を合格とした。なお、フィルム破断の原因については、テンター装置の出口に設置したビデオカメラで撮影したフィルムの映像より特定した。具体的には、テンター装置の出口に破れたフィルムが出てきた際に、クリップが外れていないかった場合はフィルム切れによるフィルム破断、クリップが外れていた場合はクリップ把持不良によるフィルム破断と特定した。
○:クリップ把持不良に起因するフィルム破れ、及びフィルム切れに起因するフィルム破れの発生が共に2回以下であった。
△:クリップ把持不良に起因するフィルム破れの発生が2回以下であったが、フィルム切れに起因するフィルム破れの発生が2回以上であった。
×:○と△のいずれにも該当しなかった。
【0042】
(実施例1)
PETを160℃で8時間減圧乾燥した後、公知の溶融積層用押出機に供給して275℃で溶融押出しを行い、5μm以上の捕集効率が95%の高精度フィルターで濾過した。続いて、得られた溶融樹脂組成物を285℃に保ったスリットダイよりシート状に押出し、静電印可キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングロール上に冷却固化して無配向フィルムを得た。この無配向シートを、表面粗さRaが0.2μmの延伸ロールを用いて、温度110℃の条件下で4.2倍に縦延伸した。その後、V/Vを1.010としてテンター装置に導き、115℃の熱風下で幅方向に4.5倍延伸後、定張下において215℃で熱処理と弛緩処理をこの順に施し、厚さ25μmの二軸配向PETフィルムを得た。各項目の評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2~7、比較例1~2)
ロールAの回転速度とクリップ走行速度の速度比V/Vを表1に記載のように変更した以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。各項目の評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、テンター装置におけるクリップの把持不良の発生を事前に予測し、かつ、このような把持不良及びそれに伴う延伸ムラやフィルムの切断を長期間にわたって軽減できる二軸配向フィルムの製造方法を提供することができる。本発明の二軸配向フィルムの製造方法により得られる二軸配向フィルムは、延伸ムラや切断等が少なく高品質であり、例えば、磁気記録媒体、感熱転写材、電気絶縁材料、離型材、包装材料等の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 テンター装置のクリップ
2 レール
3 クリップ台
4 ベース
5 起立部
6 クリップレバー
7 支軸
8 ライナ
9 一軸配向フィルム
10 クリップクローザー
11 クリップオープナー
12 ウエアリング
13 ロールA
14 測定点
15 回転自在な一対のロール
16 把持点
図1
図2
図3
図4