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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレートフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230301BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20230301BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230301BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230301BHJP
   G02B 5/30 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
H01G13/00 331E
B32B27/18 Z
B32B27/36
H01G13/00 331A
H01G13/00 331C
G02B5/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018189787
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020059767
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直美
(72)【発明者】
【氏名】三好 健太
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-029833(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084568(WO,A1)
【文献】特開2018-059083(JP,A)
【文献】特開2008-246685(JP,A)
【文献】特開2007-062179(JP,A)
【文献】特開2011-208008(JP,A)
【文献】特開2017-066265(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199844(WO,A1)
【文献】特開2016-188351(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110119(WO,A1)
【文献】特開2002-348387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
H01G13/00
G02B5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層積層構成であり、ポリエチレンテレフタレートフィルム中のリン元素の量Pが10ppm以上40ppm以下であり、
以下(1)(2)を満たすポリエチレンテレフタレートフィルム
(1)DSCにより観測されるポリエチレンテレフタレートフィルムの微少吸熱ピーク温度をTmeta(℃)としたとき、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のポリエチレンテレフタレートフィルムのX線回折法で測定される(110)面の垂直方向の結晶粒径χc1(nm)と、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のポリエチレンテレフタレートフィルムのラマン法で測定される結晶化度C1(%)が以下式を満たすこと。
C1 ÷ (χc1) ≧ 0.18
(2)Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のポリエチレンテレフタレートフィルムの固有粘度IV1が0.50以上であること。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレートフィルムの固有粘度IV0が0.60以上0.80以下であり、IV0とIV1の差(ΔIV=IV0-IV1)が0.13以下である請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートフィルム
【請求項3】
Tmetaが170℃以上230℃以下である請求項1または2に記載のポリエチレンテレフタレートフィルム
【請求項4】
積層セラミックスコンデンサー(MLCC)製造工程の離型用フィルムとして用いられる請求項1からのいずれかに記載のポリエチレンテレフタレートフィルム
【請求項5】
偏光板の欠点検出工程の離型用フィルムとして用いられる請求項1から4のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレートフィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工業用途に好適に用いられるポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル(特にポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレン-2、6-ナフタレンジカルボキシレートなど)樹脂は機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。そのポリエステル樹脂をフィルム化したポリエステルフィルムは、その機械的特性、電気的特性などから、電気絶縁材料、磁気記録材料や、コンデンサ用材料、フォトレジスト用、偏光板やセラミックスコンデンサー用の離型フィルムなどの各種工業材料として使用されている。
【0003】
これら工業材料用途では通常、加工時にフィルムに熱がかかるため、フィルムには熱寸法安定性が求められる。また、特に偏光板やセラミックスコンデンサー用途においては、近年、加工性を向上させるためにより高い寸法安定性を求められたり、高精細化を目的にキズや異物といったフィルム品位の向上が求められている。
フィルムの熱寸法安定性を制御する方法としては、フィルムの製造工程において、熱処理を施す方法が一般的に知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-29833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように熱処理工程ではフィルム中のポリエステルの熱結晶化が進む。しかしながら、熱結晶化が過度に進行するとフィルムは脆化し、フィルム強度が大幅に悪化する。そのため、フィルムの破断が起こりやすくなり製膜性、加工性が悪化する懸念があった。また、スリット時にフィルム端面から切粉が発生しやすくなったり、フィルム搬送時に搬送ロールとの摩擦によりフィルム表面からの粒子脱落や、フィルムカスが発生しやすくなる。その結果、工程が汚染されフィルムロールへのこれらの異物のコンタミや、搬送ロールにこれらの異物が付着することによりフィルム表面に傷が発生するといった品質リスクが高まる懸念があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、熱処理工程でのフィルム脆化を防ぎ、製膜性、コンタミやキズを抑制し品質に優れるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱処理工程におけるフィルムの脆化は、フィルムの酸化分解による分子量低下と、熱処理により促進される結晶の肥大化により起きていることを突き止めた。つまり、次の特性を有することで上記課題が解決できることを見いだし、本発明に至った。
[I]以下(1)、(2)を満たすポリエステルフィルム。
(1)DSCにより観測されるポリエステルフィルムの微少吸熱ピーク温度をTmeta(℃)としたとき、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のポリエステルフィルムのX線回折法で測定される(110)面の垂直方向の結晶粒径χc1(nm)と、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のポリエステルフィルムのラマン法で測定される結晶化度C1(%)が以下式を満たすこと。
C1 ÷ (χc1) ≧ 0.18
(2)Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のポリエステルフィルムの固有粘度IV1が0.50以上であること。
[II]ポリエステルフィルム中のリン元素の量Pが10ppm以上40ppm以下である[I]に記載のポリエステルフィルム。
[III]ポリエステルフィルムの固有粘度IV0が0.60以上0.80以下であり、IV0とIV1の差(ΔIV=IV0-IV1)が0.13以下である[I]または[II]に記載のポリエステルフィルム。
[IV]Tmetaが170℃以上230℃以下である[I]~[III]に記載のポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱処理工程でのフィルム脆化を防ぎ、製膜性、コンタミやキズを抑制した品質に優れるフィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリエステルフィルムにおいて好適に用いることができるポリエステルは、分子配向により高強度フィルムとなるポリエステルであれば特に限定しないが、主としてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートを含むことが好ましい。特に好ましくは価格的にも優位なポリエチレンテレフタレートである。ポリエチレンテレフタレートを用いる場合、エチレンテレフタレート以外のポリエステル共重合体成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p-キシリレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分、p-オキシエトキシ安息香酸などが目的とするフィルム物性を阻害しない範囲で使用できる。かかるポリエステルは、例えば以下に示す方法で製造することができる。たとえば、ジカルボン酸成分とジオール成分とを直接エステル化反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造する方法や、ジカルボン酸成分としてジカルボン酸のジアルキルエステルを用い、ジオール成分とエステル交換反応させた後、上記と同様にして重縮合させることによって製造する方法等がある。この際、必要に応じて、反応触媒や、静電印可性の向上を目的として例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、チタン化合物を用いることができる。
【0011】
本発明のポリエステルフィルムは、DSCにより観測されるフィルムの微少吸熱ピーク温度をTmeta(℃)としたとき、Tmetaが170℃以上230℃以下であることが好ましい。より好ましくは180~230℃、さらに好ましくは215~225℃である。Tmetaが170℃未満では、150℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率を後述の範囲に収めることが困難となる場合がある。Tmetaが230℃より高いと、フィルムの熱結晶化が進みすぎフィルムが脆化し、製膜性が悪化、フィルム片のコンタミやキズのリスクがある場合がある。
【0012】
本発明のポリエステルフィルムは、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のフィルムのX線回折法で測定される(110)面の垂直方向の結晶粒径χc1(nm)と、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のフィルムのラマン法で測定される結晶化度C1(%)が以下式を満たす。
C1 ÷ (χc1) ≧ 0.18
本発明の発明者らが鋭意検討した結果、結晶化度が同程度のフィルムであっても、X線回折法で測定される(110)面の垂直方向の結晶粒径が大きいフィルムのほうがフィルムの脆化が起きにくいことを突き止めた。ポリエステルフィルムは加熱をすることで熱結晶化が進むが、この際フィルム中の小さな結晶は溶けて、大きな結晶に吸収されながら熱結晶化が進むと推測される。つまり、結晶の肥大化とともに結晶数の減少が起こると考えられる。C1 ÷ (χc1) は、結晶数を表すパラメーターであり、このパラメーターを好適な範囲に制御することが、フィルムが脆化し、製膜性が悪化、フィルム片のコンタミやキズのリスクを低くするうえで好ましい。また、好ましくはC1 ÷ (χc1) ≧0.19、より好ましくはC1 ÷ (χc1) ≧0.20、さらに好ましくはC1 ÷ (χc1) ≧0.23である。後述する熱収縮率を好適な範囲とするためには、C1 ÷ (χc1) ≦0.35であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のポリエステルフィルムは、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のフィルムの固有粘度IV1が0.50以上である。フィルムがTmeta+10℃の温度条件で高温にさらされた場合、酸化分解や熱分解による分子量低下が起こる。分子量が低下し、分子鎖が短くなったフィルムでは、分子鎖の運動性が高くなっているため熱結晶化が促進される。したがって、IV1が0.50以上であることが、フィルム脆化、製膜性の悪化、フィルム片のコンタミやキズ発生のリスクを低くするうえで好ましい。より好ましくは、0.54以上、さらに好ましくは0.60以上である。製膜性の観点からは、0.80以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの固有粘度IV0が0.60以上0.80以下であることが好ましい。IV0が高いと、熱処理工程での酸化分解による分子量低下を抑えることができ好ましい。また、IV1を上述の範囲にするためには、IV0とIV1の差(ΔIV=IV0-IV1)が0.13以下であることが好ましい。より好ましくは0.10以下、さらに好ましくは0.05以下である。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム中のリン元素の量Pが10ppm以上40ppm以下であることが好ましく、より好ましくは15ppm以上35ppm以下である。通常、リン元素はリン酸化合物に由来するものであり、ポリエステル製造時に添加される。リン元素が少なすぎると、フィルムの酸化分解が促進されフィルム脆化が起こりやすくなるため好ましくない。一方、リン元素が多すぎると、フィルム製膜時にゲル化が起こり異物となって品質を低下するため好ましくない。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、1~500μmであることが好ましい。特に偏光板用途や積層セラミックスコンデンサー(MLCC)用途においては、2~100μmが好ましく、より好ましくは15~70μm、さらに好ましくは15~50μm、特に好ましくは25~42μmである。フィルムの厚みがこの範囲内にあると、取扱性・加工性が良好であるため好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、150℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率が0.3~7.0%、フィルム幅方向の熱収縮率が0~8.0%であることが好ましい。より好ましくはフィルム長手方向の熱収縮率が0.3~3.0%、フィルム幅方向の熱収縮率が0~2.5%、さらに好ましくはフィルム長手方向の熱収縮率が0.5~1.5%、フィルム幅方向の熱収縮率が0~1.5%である。熱収縮率が上記上限を超える場合は、加工時の熱寸法安定性が悪化する場合がある。また、熱収縮率が上記下限未満とするには、後述する熱処理工程での処理温度を高くする必要があり、フィルムの脆化が発生しやすくなる場合がある。
【0018】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは単層であっても、2層以上からなる複合フィルムであってもよい。複合フィルムにする方法としては、特に限定されないが、共押出法などにより複合フィルムを得ることができる。
【0019】
以下、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法について例を挙げて説明するが、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、かかる例によって得られる物のみに限定して解釈されるものではない。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、以下の工程を有する方法によって得ることができる。
(工程1)未延伸ポリエステルフィルムを、長手方向に延伸倍率が2.5~5倍で延伸し
て、一軸延伸ポリエステルフィルムを得る工程。
(工程2)前記一軸延伸ポリエステルフィルムを、幅方向に延伸倍率が3~6倍で延伸して、二軸延伸ポリエステルフィルムを得る工程。
(工程3)前記二軸延伸ポリエステルフィルムを、フィルムの幅方向の両端部を結ぶ直線に対して、フィルム中央部の重力方向へのずれが10mm以上70mm以下となる状態にフィルムの幅方向の両端を把持し、フィルム温度を25~50℃にて冷却して、冷却されたポリエステルフィルムを得る工程。
(工程4)前記冷却されたポリエステルフィルムを、熱処理温度が180~240℃にて
熱処理して、二軸配向ポリエステルフィルムを得る工程。
【0020】
以下にそれぞれの工程について詳しく説明する。
【0021】
・未延伸フィルムの作成
ポリエステル樹脂を、必要に応じて乾燥し、押出機に供給し溶融押出する。フィルムの固有粘度を上述の範囲とするためには、押出機に供給するポリエステル樹脂の平均固有粘度(IV)は0.60~0.80dl/gであることが好ましい。さらに、必要に応じて不活性粒子をポリエステル樹脂中に含有させることで、フィルムのすべり性、表面粗さ形態をコントロールすることができる。 粒子の種類としては、球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。これらの1種もしくは2種以上を選択して用いることもできる。
続いて押出機により溶融押出されたポリエステル樹脂をフィルターにより濾過する。小さな異物もフィルム欠点となるため、このフィルターには例えば5μm以上の異物を95%以上捕集する高精度のものを用いることが有効である。
続いてT型口金等を用いてシート状に成形し、シート状に成形されたポリエステル樹脂をキャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを得る。この際、キャスティングロールの温度は18~50℃であることが好ましい。キャスティングロールの温度が18℃未満であると、キャスティングドラム上に結露が生じやすくなり、製膜性が悪化する場合がある。キャスティングロールの温度が50℃を超えると、得られる未延伸フィルム中に微結晶が生成され製膜性が悪化する場合がある。
【0022】
(工程1)
前記工程で得られた未延伸フィルムを、長手方向に延伸倍率が2.5~5.0倍で延伸、冷却することによって、一軸延伸ポリエステルフィルムを得る。長手方向への延伸は、90~130℃の延伸温度で1段階的に、もしくは多段階的に分けて延伸することが、熱収縮温度を上述の範囲とするため、また製膜性の観点から好ましい。
【0023】
(工程2)
前記(工程1)で得られた一軸延伸ポリエステルフィルムを、幅方向に延伸倍率が3.0~6.0倍で延伸して二軸延伸ポリエステルフィルムを得る。幅方向の延伸は、90~130℃の延伸温度で延伸することが、熱収縮温度を上述の範囲とするため、また製膜性の観点から好ましい。
【0024】
(工程3)
前記(工程2)で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムを、フィルムの幅方向の両端部を結ぶ直線に対して、フィルム中央部の重力方向へのずれが10mm以上70mm以下となる状態にフィルムの幅方向の両端を把持し、フィルム温度を25~45℃にて冷却して、冷却されたポリエステルフィルムを得る。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムにおいてフィルム脆化を抑制するためには、冷却工程にてフィルムの幅方向の両端部を結ぶ直線に対して、フィルム中央部の重力方向へのずれ(フィルムの張り具合)が10mm以上70mm以下となる状態にフィルムの幅方向の両端を把持し、フィルム温度を25~45℃にて冷却した後に、熱処理することが重要である。
【0026】
冷却工程にて、温度に加えて、フィルムの張り具合を制御することで、フィルム脆化が抑制できるメカニズムは、横延伸工程から冷却工程にかけてフィルム温度が低下する過渡期において、その温度、フィルムの張り具合を制御することで横配向緩和を物理的に抑制し、もしくは冷却工程における幅縮みが延伸工程直後でのフィルムに作用することを物理的に抑制し、フィルム中の配向結晶化成分の減少を抑制できるためと推定される。熱処理工程では、配向結晶化した箇所を結晶核として、熱結晶化が進み、結晶の肥大化が進んでいくと推定されるが、冷却工程でフィルム中の配向結晶化成分を維持し結晶核の個数が多いまま熱処理工程に進むと、となりあう結晶核同士が結晶の肥大化を阻害するため、その結晶サイズは小さくなると考えられる。本発明では、前述の通り同じ結晶化度であっても結晶粒径が小さい方が、フィルム脆化に有利であることを突き止めており、冷却工程で結晶核数を制御することはフィルムの脆化抑制につながると考えられる。
【0027】
ポリエステルフィルムの冷却方法は、熱処理を行うテンターによる空冷方法、熱処理領域の上下にアルミ板などの遮蔽板で熱風を遮断する空冷方法、ロールによる冷却方法等が挙げられる。熱処理を行うテンターによる空冷方法では各ゾーンが長手方向に全てつながっているため、随伴気流など高温空気の自由な流れによりフィルム上下や幅方向に温度差が発生し、フィルム温度を十分冷却できない場合がある。その場合は、圧縮空気などを送り込んで積極的に冷却することで対応することもできる。
【0028】
また、ロールによる冷却方法では、使用するロール本数や設定温度は限られるものではないが、ロール本数を複数本用いて冷却することが好ましい。ロールによる冷却方法においてフィルム温度を上記の範囲とするためには、ロール温度は20~45℃であることが好ましく、さらに好ましくは30~40℃である。また、ロールによる冷却方法ではフィルムをニップロールで冷却ロールに荷重をかけて密着させると、安定して冷却が行えるため好ましい。
【0029】
(工程4)
前記冷却されたポリエステルフィルムを、熱処理温度が180~240℃にて熱処理して、二軸配向ポリエステルフィルムを得る。熱処理温度はより好ましくは200~235℃、さらに好ましくは215~230℃である。熱処理温度が180℃未満では熱処理が不十分となり、150℃30分間熱処理した後のフィルム長手方向の熱収縮率を上述の範囲に収めることが困難となる場合がある。熱処理温度が240℃より高いと、フィルムの熱結晶化が進みすぎフィルムが脆化し、製膜性が悪化、フィルム片のコンタミやキズのリスクがあるため好ましくない。
また、上記熱処理においては、必要に応じて弛緩処理を行ってもよい。弛緩処理は、幅方向方向・長手方向いずれの方向について行っても良く、幅方向・長手方向を同時に行っても、それぞれ別に行っても良い。弛緩率は、フィルムの全幅に対して好ましくは1~20%、さらに好ましくは1~10%であると、熱寸法安定性の優れたフィルムを得るのに有効である。
【実施例
【0030】
以下では、実施例10を参考例10と読み替えるものとする。実施例および比較例における特性値の測定方法は次の通りである。
【0031】
(1)フィルムの微少吸熱ピーク温度Tmeta
微少吸熱ピーク温度Tmetaは、JIS K7122(1999)に準じて、DSC装置(示差走査熱量計装置;パーキンエルマー社)を用いて測定を実施した。サンプルパンにフィルムを10mgずつ秤量し、昇温速度は10℃/minでフィルムを25℃から300℃まで加熱し測定を行った。得られた示差走査熱量測定チャートにおける結晶融解ピーク前の微少吸熱ピーク温度をTmetaとした。
【0032】
(2)結晶粒径χc0、χc1
フィルムの結晶粒径χc0、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のフィルムのχc1は、日本フィリップス製のX線回折装置TYPE PW1840を用い測定した。フィルムを30mm(フィルム長手方向)×20mm(フィルム幅方向)になるようにカットし、該フィルムをX線回折用試料とし、フィルムの長手方向に垂直な面内でX線の照射角を変え反射法で回折強度を測定する。試料となるフィルムの幅に対して、フィルム幅方向に対して均等に10点測定し、その最大値を測定結果とした。測定条件は下記の通りである。
[測定条件]
時定数:2秒
測定角度範囲:18度~32度
走行速度:1度/分
Divergency Slit : 1.5mmφ
Scattering Slit : 1度
Recelving Slit : 0.3mm
X線:Cu対陰極によるCu-Kα(35Kv、15mA、Ni-フィルタ)
また、フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムであるときは、ポリエチレンテレフタレート結晶の[100], [110]面の回折角に相当する25.8°、22.5°での回折強度をH1、H2とし、結晶子の大きさをD[hkl]とすると、[100]面に垂直な結晶子のサイズD[100]は下記式により求めることができる。
D[100]=K・λ/β・cosθ
ここで K(半値幅使用時の定数)=0.90
λ(X線の波長)=1.5418(オングストローム)
β(回折線幅 rad)=回折強度H1の高さの半分の回折強度1/2H1で測定した回
折線幅(半価幅)×0.01744(rad)
(2π(rad)=360°であるので、1°=0.01744radである)
θ([100]面の回折角)=25.8(°)
である。
上記のように測定したフィルムのD[100]をχc0、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のフィルムのD[100]をχc1とした。
なお、加熱は熱風オーブンを用いて行った。
【0033】
(3)固有粘度IV0,IV1
フィルムの固有粘度IV0、Tmeta+10℃の温度条件で20min加熱した後のフィルムの固有粘度IV1は、オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0034】
(4)フィルム中のリン元素の量P
フィルム中のリン元素の量Pは、ポリエチエステルフィルムを細かく裁断後、溶融プレス機で円柱状に成型し、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
【0035】
(5)フィルム厚み
JIS C2151(1990)に準じ、マイクロメーター(ミツトヨOMM-25)を用いてフィルム幅方向に対して均等に30点測定し、その平均値を測定結果とした
(6)フィルムの熱収縮率
フィルム表面に、幅10mm、測定長約100mmとなるように2本のラインを引き、この2本のライン間の距離を23℃で測定しこれをL0とする。このフィルムサンプルを150℃のオーブン中に30分間、1.5gの荷重下で放置した後、再び2本のライン間の距離を23℃で測定しこれをL1とし、下式により熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)={(L0-L1)/L0}×100
フィルムの長手方法および幅方向についてそれぞれ3カ所の測定を行い、平均値を求めた。
以下、実施例で本発明を詳細に説明する。
【0036】
(7)製膜性
安定に製膜できるか、下記基準で評価した。×を不合格とし、△以上を合格と判定した。
○:24時間以上安定に製膜できる。
△:12時間以上24時間未満安定に製膜できる。
×:12時間以内に破断が発生し、安定な製膜ができない。
【0037】
(8)フィルムの脆化
フィルムの脆化を下記基準で評価した。×を不合格とし、△以上を合格と判定した。
◎:熱処理後のフィルムでのフィルムが脆化は見られなかった。
○:熱処理後のフィルムの端部などでフィルムが脆化し、トリミングを行う際にフィルム粉が少量発生した。フィルム粉がフィルムに付着しコンタミとなることがあったが、ロールに付着することでフィルムに傷が発生するレベルではなかった。
△:フィルム破れ時に発生したフィルム屑を折り曲げると一部バラバラになり、工程内に飛散した。また、熱処理後のフィルムの端部などでフィルムが脆化し、トリミングを行う際にフィルム粉が発生した。これらのフィルム片、フィルム粉がフィルムに付着しコンタミとなったり、ロールに付着することでフィルムに傷が発生した。
×:フィルム破れ時に発生したフィルム屑を折り曲げると容易にバラバラになり、工程内に飛散した。また、熱処理後のフィルムの端部などでフィルムが脆化し、トリミングを行う際にフィルム粉が大量に発生した。これらのフィルム片、フィルム粉がフィルムに付着しコンタミとなったり、ロールに付着することでフィルムに傷が発生した。また、熱処理後のフィルムの端部などでフィルムが脆化しフィルムが破断した。
【0038】
なお、キズの検査はLEDでの反射で行い、コンタミの検査は100μm以上のフィルム片を検査した。
【0039】
以下、実施例で本発明を詳細に説明する。
【0040】
実施例1:
ジメチルテレフタレート(DMT)100質量部に61重量部(DMT1モルに対して1.9モル)のエチレングリコールおよび酢酸マグネシウム・4水塩を0.09質量部、リン酸トリメチルを0.03質量部加え加熱エステル交換を行い、引き続き三酸化アンチモン0.015質量部を加え、加熱昇温し真空化で重縮合反応を行い、粒子を実質的に含有しない、固有粘度0.65のポリエステルペレットを得た。
【0041】
次に、真比重2.71g/cm、平均粒径1.0μmの炭酸カルシウムを準備し、10重量%のエチレングリコールスラリーとした。このスラリーをジェットアジテイターで一時間分散処理を行い、5μm以上の捕集効率95%のフィルターで高精度濾過した。このスラリーをエステル交換後に添加し、引き続き、上記と同じように重縮合反応を行い、平均粒径1.0μmの炭酸カルシウムを1%含む、固有粘度0.65の炭酸カルシウム含有マスターペレットを得た。
【0042】
次に、炭酸カルシウム含有マスターペレットおよび、粒子を含有しないポリエステルペレットを混合し、炭酸カルシウムを0.5重量%含有するポリエステルA、炭酸カルシウムを0.054重量%含有するポリエステルBを得た。
【0043】
ついで、これらのポリエステルA、Bをそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥し、水分率を100ppmとした後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して、5μm以上の捕集効率95%の高精度フィルターで濾過した後、矩形の3層用合流ブロックで合流積層し、ポリエステルA/ポリエステルB/ポリエステルAからなる3層積層とした。その後、285℃に保ったスリットダイを介し静電印可キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングロール上で冷却固化し未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを、まず105~115℃に加熱したロールとラジエーションヒーターによって長手方向に3.5倍延伸した。続いてフィルムの幅方向の両端を把持しフィルムをテンターに導き幅方向に110℃で4.2倍に延伸した。その後、冷却工程のフィルム温度が45℃、フィルムの幅方向の両端部を結ぶ直線に対して、フィルム中央部の重力方向へのずれが50mm以下となる状態にフィルムの幅方向の両端を把持し冷却した。次いで230℃で熱処理を行って、全フィルム厚み31μmの3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムからサンプルを採取し、Tmetaを測定したところ222℃であった。また、得られたフィルムを232℃で20min加熱した後、結晶粒径χc1、C1、IV1を測定した。結果、Co÷(χc1)は0.238%/nm、IV1は0.59であった。さらにフィルム特性の評価を行い、得られた結果を表1に示した。
【0044】
実施例2~4、6、8、11:
酢酸マグネシウム・4水塩に変え酢酸マンガンを0.035質量部、リン酸トリメチルに変えリン酸を0.025質量部加えた以外は同様にしてポリエステルA,Bを得た。
ついで、延伸倍率、冷却条件、熱処理温度、フィルム厚みを変える以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1に示した。
【0045】
実施例5、10、比較例1、2:
リン酸の量を変える以外は実施例2と同様にしてポリエステルA,Bを得た。
【0046】
ついで、延伸倍率、熱処理温度を変える以外は実施例2と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1に示した。
【0047】
実施例7,9、比較例3:
延伸倍率、冷却条件、熱処理温度、フィルム厚みを変える以外は実施例1と同様に実施し、3層からなる二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた結果を表1に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
上記の実施例・比較例より、C1÷(χc1)を0.18%/nm以上、IV1が0.50以上とすることで、熱処理工程でのフィルム脆化を防ぎ、製膜性、コンタミやキズといった品質に優れるフィルムを得ることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のポリエステルフィルムは、熱処理工程でのフィルム脆化を防ぎ、製膜性、コンタミやキズといった品質に優れるため、偏光板やセラミックスコンデンサー用の離型フィルムとして好適に用いることができる。