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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】電磁波クローキング構造体
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/08 20060101AFI20230301BHJP
   G01S 7/36 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H01Q15/08
G01S7/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018206865
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020072429
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】田所 眞人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 輝規
(72)【発明者】
【氏名】道下 尚文
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-161533(JP,A)
【文献】特開2008-028010(JP,A)
【文献】特開2008-288770(JP,A)
【文献】特開2008-023517(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047050(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0110559(US,A1)
【文献】グェン タインビン、道下 尚文、森下 久、宮崎 輝規、田所 眞人,積層セラミックコンデンサを用いた円筒クローキング ,電子情報通信学会2018年通信ソサイエティ大会講演論文集1 PROCEEDINGS OF THE 2018 IEICE COMMUNICATIONS SOCIETY CONFERENCE,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2018年09月12日,p.50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
H01P 1/00-11/00
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波から対象物を隠蔽するための電磁波クローキング構造体であって、
前記電磁波を所定の方向に導くように構成された積層セラミックコンデンサが前記対象物の周囲に複数配置されており、
前記積層セラミックコンデンサは、メタマテリアルとして機能し、
前記電磁波クローキング構造体の各点における異方性物質パラメータは、前記電磁波クローキング構造体内を通過する電磁波が前記対象物を迂回し、かつ前記電磁波クローキング構造体通過後の電磁波の軌道が前記電磁波クローキング構造体通過前の電磁波の軌道の延長線上となるように設定され、
前記対象物は円筒形であり、
前記電磁波クローキング構造体は、
前記対象物の中心に対して回転対称に配置された同形状を有する複数の誘電体基板と、
前記各誘電体基板上に配列された複数の前記積層セラミックコンデンサと、
を含み、
前記複数の誘電体基板上の複数の積層セラミックコンデンサが前記対象物の周方向および軸心方向に所定間隔で配置されている、
ことを特徴とする電磁波クローキング構造体。
【請求項2】
前記異方性物質パラメータは、屈折率、誘電率および透磁率のうち少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする請求項1記載の電磁波クローキング構造体。
【請求項3】
前記電磁波クローキング構造体の各点における異方性物質パラメータは、それぞれの前記積層セラミックコンデンサの容量、内部電極寸法、内部電極間寸法および前記積層セラミックコンデンサの配列間隔のうち少なくとも1つを変更することにより傾斜的に分布している、
ことを特徴とする請求項1または2記載の電磁波クローキング構造体。
【請求項4】
前記各誘電体基板は前記対象物と同心円状の環状形状を有し、前記複数の誘電体基板が前記対象物の軸心方向に所定間隔で配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の電磁波クローキング構造体。
【請求項5】
前記各誘電体基板は長方形状を有し、その短辺が前記対象物の軸心方向、長辺が半径方向に沿うように配置され、前記複数の誘電体基板が周方向に所定間隔で前記対象物の中心を起点として放射状に配置されている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の電磁波クローキング構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波から対象物を隠蔽するための電磁波クローキング構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、到来する電磁波に対して物体を隠蔽(クローキング)しながら、あたかも存在しないように透過させる電磁波クローキング構造体が提案されている(下記特許文献1、非特許文献1参照)。電磁波クローキング構造体は、例えばアンテナ分野において遮蔽体となる支柱等に適用する等の利用が期待される。
例えば、下記特許文献1は、隠蔽するボリュームを構築する方法として、隠蔽可能なボリュームの周囲に、複数の隠蔽するボリューム要素を構築することを含んでいる。各隠蔽するボリューム要素は、隠蔽可能なボリュームの周囲に伝播波を導くように定めた物質パラメータを有している。隠蔽可能なボリューム空間を隠蔽するボリューム空間にマッピングする座標変換を識別し、前記隠蔽可能なボリューム空間での空間的に分布した物質パラメータ値に、対応する変換を適用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5510946号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】D. Schurig, J. J. Mock, B. J. Justice, S. A. Cummer, J. B. Pendry, A. F. Starr, D. R. Smith, "Metamaterial Electromagnetic Cloak at Microwave Frequency, SCIENCE," Vol. 314, 10 Nov. 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術では、図14に示すようなスプリットリング共振器(SRR:Split Ring Resonator)と導線ワイヤとを用いてメタマテリアル構造を実現している。しかしながら、従来技術の構造では小型化が困難であり、またクローキングに有効な帯域が狭く、現実的には有効な解決策とはなっていないという課題がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、電磁波クローキング構造体の小型化および広帯域化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明にかかる電磁波クローキング構造体は、電磁波から対象物を隠蔽するための電磁波クローキング構造体であって、前記電磁波を所定の方向に導くように構成された積層セラミックコンデンサが前記対象物の周囲に複数配置されており、前記積層セラミックコンデンサは、メタマテリアルとして機能し、前記電磁波クローキング構造体の各点における異方性物質パラメータは、前記電磁波クローキング構造体内を通過する電磁波が前記対象物を迂回し、かつ前記電磁波クローキング構造体通過後の電磁波の軌道が前記電磁波クローキング構造体通過前の電磁波の軌道の延長線上となるように設定され、前記対象物は円筒形であり、前記電磁波クローキング構造体は、前記対象物の中心に対して回転対称に配置された同形状を有する複数の誘電体基板と、前記各誘電体基板上に配列された複数の前記積層セラミックコンデンサと、を含み、前記複数の誘電体基板上の複数の積層セラミックコンデンサが前記対象物の周方向および軸心方向に所定間隔で配置されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、積層セラミックコンデンサを用いて電磁波クローキング構造体の各点における異方性物質パラメータを所望の値とする。このため、従来技術と比較して、単位セル構造のサイズを小さくすることができ、対象物が狭小な場合でも装荷可能とすることができる。また、積層セラミックコンデンサは、汎用部品であることから、安価かつ容易に入手することができ、人的コストや金銭的コストを低減することができる。
また、積層セラミックコンデンサを用いた単位セル構造は、電磁波クローキング構造体に適用可能な異方性物質パラメータを示す周波数帯が広いので、電磁波クローキング構造体の各点における異方性物質パラメータを設計するに際しての自由度を向上させる上で有利である。
また、単位セル構造の異方性物質パラメータは、積層セラミックコンデンサの内部構造(電極寸法等)の変更のみならず、積層セラミックコンデンサの配列間隔を変更することによっても変更可能なので、内部構造の異なる複数種類の積層セラミックコンデンサを用意する必要がなく、コスト面で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態にかかる電磁波クローキング構造体10の構成を示す図である。
図2】電磁波クローキング構造体10の他の構成を示す図である。
図3】単位セル構造16の構成を示す図である。
図4】積層セラミックコンデンサ14の構造を示す図である。
図5】積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の長さlを変化させた場合の特性変化を示すグラフである。
図6】積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の電極間隔gを変化させた場合の特性変化を示すグラフである。
図7】単位セル構造16の長さaおよび幅bを変化させた場合の特性変化を示すグラフである。
図8図7に示した特性グラフのうち、実効透磁率が正)となる範囲を拡大したものである。
図9】電磁波クローキング構造体10の他の構成を示す図である。
図10】単位セル構造16の構成を示す図である。
図11】単位セル構造16の構成を示す図である。
図12】電磁波クローキング構造体10の他の構成を示す図である。
図13】電磁波クローキング構造体10の他の構成を示す図である。
図14】従来技術にかかる単位セル構造160の構成を示す図である。
図15】従来技術にかかる単位セル構造160でパラメータrおよびsを変化させた場合の実効透磁率特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる電磁波クローキング構造体の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかる電磁波クローキング構造体10の構成を示す図である。
以下、図1図2図9図12図13のように、電磁波クローキング構造体10の全体を示す図では、(r,θ,z)からなる円筒座標系でグローバル座標系を表記する。また、図3図4のように、単位セル構造16の構成や積層セラミックコンデンサ14の構造を示す図では、(x,y,z)からなる直交座標系でローカル(局所)座標系を表記する。
電磁波クローキング構造体10は、電磁波から対象物20を隠蔽するために設けられており、電磁波クローキング構造体10内を通過する電磁波を所定の方向に導くように構成された積層セラミックコンデンサ(MLCC:multi-layer ceramic capacitor)14が対象物20の周囲に複数配置されている。
【0010】
積層セラミックコンデンサ14は、メタマテリアルとして機能し、電磁波クローキング構造体10の各点(例えば後述する単位セル構造16)における異方性物質パラメータは、電磁波クローキング構造体10内を通過する電磁波が対象物20を迂回し、かつ電磁波クローキング構造体10通過後の電磁波の軌道が電磁波クローキング構造体10通過前の電磁波の軌道の延長線上となるように設定されている。
【0011】
異方性物質パラメータは、屈折率、誘電率および透磁率のうち少なくとも1つを含んでいる。本実施の形態では、特に透磁率について検討する。
電磁波クローキング構造体10の各点における異方性物質パラメータは、それぞれの積層セラミックコンデンサ14の容量、内部電極寸法、電極間寸法および積層セラミックコンデンサ14の配列密度のうち少なくとも1つを変更することにより、傾斜的な分布となるよう構成されている。
【0012】
本実施の形態では、電磁波クローキング構造体10は、誘電体基板12と、複数の積層セラミックコンデンサ14とを含んで構成されている。
より詳細には、対象物20は円形(より詳細には円筒形)であり、電磁波クローキング構造体10は、対象物20の中心Oに対して回転対称に配置された誘電体基板12と、誘電体基板12上に配列された複数の積層セラミックコンデンサ14と、を含んで構成されている。
【0013】
図1の例では、誘電体基板12は、円筒形の対象物20と同心円状の環状形状を呈しており、同形の複数の誘電体基板12が対象物20の軸心方向(z方向)に間隔を置いて複数配置されている。各誘電体基板12上には、複数の積層セラミックコンデンサ14が周方向(θ方向)および半径方向(r方向)にそれぞれ略等間隔で、対象物20と同心円状に配置されている。
詳細は後述するが、積層セラミックコンデンサ14の配置は、図1に示すような等間隔に限らず、例えば図9のように領域ごとに異なる配列密度であってもよい。
【0014】
また、図2の例では、誘電体基板12は長方形を呈しており、円筒形の対象物20の中心Oを起点として放射状に配置されている。より詳細には、誘電体基板12は短辺が対象物20の軸心方向(z方向)、長辺が半径方向(r方向)に沿うように配置され、周方向(θ方向)に間隔を置いて複数配置されている。各誘電体基板12上には、複数の積層セラミックコンデンサ14が軸心方向(z方向)および半径方向(r方向)にそれぞれ略等間隔でマス目状に配置されている。
【0015】
このように、電磁波クローキング構造体10は、誘電体基板12と、その表面に周期的に配列された積層セラミックコンデンサ14とによって構成されている。言い換えると、電磁波クローキング構造体10は、積層セラミックコンデンサ14とその周囲の誘電体基板12とによって構成される単位セル構造16の集合となっている。
【0016】
図3は、単位セル構造16の構成を示す図、図4は積層セラミックコンデンサ14の構造を示す図である。
まず、積層セラミックコンデンサ14の構造について説明する。
図4に示すように、積層セラミックコンデンサ14は、内部電極1404と誘電体1406とが交互に積層された本体部1402と、外部電極1408とを備える。
積層セラミックコンデンサ14の外形寸法を長さLc、幅Wc、高さHcとすると、本実施の形態では、長さLc=1mm、幅Wc=0.5mm、高さHc=0.5mmとした。また、積層セラミックコンデンサ14の長さ方向をx軸方向、幅方向をy軸方向、高さ方向をz軸方向とする。
内部電極1404は、x軸方向に沿った長さ(長辺)lおよびy軸方向に沿った幅(短辺)wを有する矩形状を呈している。本実施の形態では、内部電極1404を2枚1組とし、高さ方向に間隔を置いて2組配置した。2枚1組の内部電極1404は、電極間隔gで配置され、平行平板コンデンサを形成している。
外部電極1408は、幅方向および高さ方向に沿った面(y-z平面)に沿って平面状に形成され、一方が正極、他方が負極となっている。正極側の外部電極1408は正極側の内部電極1404と接続し、負極側の外部電極1408は負極側の内部電極1404と接続している。
内部電極1404および外部電極1408は、それぞれ銅で形成した。
本体部1402を構成する誘電体1406の比誘電率εmとする。実施の形態では、誘電体1406の比誘電率εm=25とした。
【0017】
積層セラミックコンデンサ14に電磁波を供給すると、内部電極1404間を磁束が貫くことにより、電流が生じる。ある周波数において電流がループ状に周回し、スプリットリング共振器と似た等価回路となる。この周波数の低域側で実効透磁率が負となる。したがって、図4の積層セラミックコンデンサ14は、電界成分がz軸方向、磁界成分がy軸方向の偏波の入射波に対して動作する。
積層セラミックコンデンサ14を用いるメリットとして、単位セルが小さいので狭小な対象にも装荷可能な点が挙げられる。また、汎用部品であることから、入手が容易かつ安価である点が挙げられる。
【0018】
つぎに、単位セル構造16について説明する。
単位セル構造16は、誘電体基板12上に1つの積層セラミックコンデンサ14を配置したものである。より詳細には、複数の積層セラミックコンデンサ14を配置した誘電体基板12を、隣り合う積層セラミックコンデンサ14の位置の中点でx軸方向およびy軸方向にそれぞれ沿って分割したものである。
すなわち、単位セル構造16の長さaは、積層セラミックコンデンサ14の長さ方向(x軸方向)の配列間隔、幅bは積層セラミックコンデンサ14の幅方向(y軸方向)の配列間隔と等しい。
また、単位セル構造16の高さcは、誘電体基板12の厚さdと積層セラミックコンデンサ14の高さHcとの和以上となる。本実施の形態では、誘電体基板12の厚さdを0.585mm、単位セル構造16の高さcを5/3mm(≒1.67mm)とした。また、誘電体基板12の比誘電率εb=3.7とした。
【0019】
単位セル構造16を組み立てる際には、図10に示すように誘電体基板12上にランドパターン18をプリントし、通常のコンデンサ実装機で積層セラミックコンデンサ14を実装する。このように形成した単位セル構造16をスペーサを介して積層することで、任意の形状の電磁波クローキング構造体10を容易に組み立てることができる。
【0020】
上述した図1および図2のような実装方法は、z方向の偏波に対するクローキング構造として動作する。
また、y方向の偏波に対して動作するためには、図11に示すように積層された単位セル構造16を、z方向に平行に配置すれば良い。具体的には、図11に示す単位セル構造16を、図12または図13のように配置することで、y方向の偏波に対するクローキング構造として動作する。
【0021】
つぎに、積層セラミックコンデンサ14および単位セル構造16の各部寸法を変化させた場合の特性変化について説明する。
図3に示す単位セル構造16において、入射電界をz成分とし、±x方向にポートを設定したときのSパラメータから、実効誘電率および実効透磁率を求めることができる。
【0022】
図5は、積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の長さlを変化させた場合の特性変化を示すグラフである。
より詳細には、図5は、単位セル構造16の長さaおよび幅b(すなわち積層セラミックコンデンサ14のx軸方向およびy軸方向の配列間隔(周期長))=1.5mm、積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の電極間隔g=0.05mmを固定し、内部電極1404の長さlを0.7mmから0.8mmまで0.05mm刻みで変化させた場合の実効透磁率特性を示す。
実効透磁率の共振周波数は、l=0.7mmで約9.1GHz、l=0.75mmで約8.3GHz、l=0.8mmで約7.7GHzとなっており、内部電極1404の長さlを長くすると、共振周波数が低域にシフトすることが分かる。
【0023】
図6は、積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の電極間隔gを変化させた場合の特性変化を示すグラフである。
より詳細には、図6は、単位セル構造16の長さaおよび幅b=1.5mm、積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の長さl=0.8mmを固定し、内部電極1404の電極間隔gを0.03mmから0.05mmまで0.01mm刻みで変化させた場合の実効透磁率特性を示す。
実効透磁率の共振周波数は、g=0.05mmで約7.7GHz、g=0.04mmで約6.9GHz、g=0.03mmで約6.0GHzとなっており、電極間隔gを小さくすると、共振周波数が低域にシフトすることが分かる。
【0024】
図14は、従来技術にかかる単位セル構造160の構成を示す図である。
従来技術にかかる単位セル構造160は、回路ボード164上にスプリットリング共振器(SRR)162が配置されている。上記非特許文献1に示されているように、図14の構造では、パラメータrおよびsにより共振周波数を調整することができる。
図15に、従来技術にかかる単位セル構造160でパラメータrおよびsを変化させた場合の実効透磁率特性を示す。
なお、図14に示すように、単位セル構造160の長さ(x軸方向)は10/3mm、幅(y軸方向)は10/πmm、高さ(z軸方向)は10/3mmとした。
r=0.260、s=1.654の場合、実効透磁率の共振周波数は約7.8GHz、r=0.245、s=1.718の場合、実効透磁率の共振周波数は約7.6GHz、r=0.208、s=1.825の場合、実効透磁率の共振周波数は約7.5GHzとなっている。すなわち、共振周波数は7.5GHzから7.8GHz付近になることがわかる。
これは、図5および図6に示した本発明にかかる単位セル構造16の特性のうち、a,b=1.5mm、l=0.8mm、g=0.05mmの場合の共振周波数約7.7GHzを含んでいる。
【0025】
ここで、本発明にかかる単位セル構造16の体積(セルサイズ)と、従来技術にかかる単位セル構造160の体積とを比較すると、本発明にかかる単位セル構造16の体積は約3.75mm(1.5mm×1.5mm×1.67mm)、従来技術にかかる単位セル構造160の体積は約35.4mm((10/3)mm×(10/π)mm×(10/3)mm)である。
よって、本発明にかかる単位セル構造16の体積は、従来技術にかかる単位セル構造160の体積の約11%に小型化されている。
【0026】
また、電磁波クローキング構造体10に適用される実効透磁率は、0以上1未満の範囲である。
図5および図6に示す本発明にかかる単位セル構造16の特性では、広範囲の周波数帯に渡って実効透磁率0以上1未満となっているのに対して、図17に示す従来技術にかかる単位セル構造160の特性では、実効透磁率0以上1未満となっているのはごく限られた周波数帯である。
このように、本発明にかかる単位セル構造16は、有効な実効透磁率(0以上1未満)を得られる周波数帯を広帯域化することができる。
【0027】
つぎに、単位セル構造16の長さaおよび幅bを変化させた場合について検討する。
図7は、単位セル構造16の長さaおよび幅bを変化させた場合の特性変化を示すグラフである。
より詳細には、図7は、積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の長さl=0.8mm、電極間隔g=0.05mmを固定し、単位セル構造16の長さaおよび幅bを、1.1mmから1.5mmまで0.2mm刻みで変化させた場合の実効透磁率特性を示す。
実効透磁率の共振周波数は、a,b=1.5mmで約7.7GHz、a,b=1.3mmで約7.6GHz、a,b=1.1mmで約7.5GHzとなっており、単位セル構造16の長さaおよび幅bを短くすると、共振周波数が低域にシフトすることが分かる。また、単位セル構造16の長さaおよび幅bを短くすることで、実効透磁率が負となる帯域が広帯域化できることが分かる。
【0028】
図8は、図7に示した特性グラフのうち、実効透磁率が正(0以上1未満)となる範囲を拡大したものである。
ある周波数を基準とすると、単位セル構造16の長さaおよび幅bを変化させることにより、実効透磁率の値を細かく調整できることが分かる。
ここで、電磁波クローキング構造体10において、クローキングに必要な実効透磁率の値は、対象物に近い(内側)ほど0に近く、対象物から遠くなる(外側)になるにつれて大きな値(1に近い値)となる。
図5図6で示したように、積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の長さlや電極間隔gを調整することで、所望の実効透磁率を得ることも可能である。しかし、この方法では、内部構造が異なる複数種類の積層セラミックコンデンサ14を用意する必要がある。
一方、図7および図8から、単位セル構造16の長さaおよび幅b、すなわち積層セラミックコンデンサ14の周期長(配列間隔)を調整することでも、所望の実効透磁率を得ることができる。よって、例えば図9に示すように、積層セラミックコンデンサ14の配置密度を内側ほど高密度にすれば、1種類の積層セラミックコンデンサ14でクローキングを実現することができる。
【0029】
このように、電磁波クローキング構造体10の各点(単位セル構造16)における異方性物質パラメータは、それぞれの積層セラミックコンデンサ14の内部電極1404の寸法(長さl)、内部電極1404間の寸法(電極間隔g)および積層セラミックコンデンサ14の配列間隔(配列密度)のうち少なくとも1つを変更することにより傾斜的に分布している。
なお、本実施の形態では、異方性物質パラメータとして透磁率を例にして説明したが、誘電率および屈折率についても同様に、積層セラミックコンデンサ14の各部の寸法や配列間隔を変更することにより任意の分布を得ることができる。また、積層セラミックコンデンサ14の容量は、積層セラミックコンデンサ14の各部の寸法に基づいて決まるため、積層セラミックコンデンサ14の容量を基準として、電磁波クローキング構造体10の各点(単位セル構造16)における異方性物質パラメータを求めることもできる。
【0030】
以上説明したように、実施の形態にかかる電磁波クローキング構造体10によれば、積層セラミックコンデンサ14を用いて電磁波クローキング構造体10の各点における異方性物質パラメータを所望の値とする。このため、従来技術と比較して、単位セル構造16のサイズを小さくすることができ、対象物20が狭小な場合でも装荷可能とすることができる。
また、積層セラミックコンデンサ14は、汎用部品であることから、安価かつ容易に入手することができ、人的コストや金銭的コストを低減することができる。
また、積層セラミックコンデンサ14を用いた単位セル構造16は、電磁波クローキング構造体10に適用可能な異方性物質パラメータを示す周波数帯が広いので、電磁波クローキング構造体10の各点における異方性物質パラメータを設計するに際しての自由度を向上させる上で有利である。
また、単位セル構造16の異方性物質パラメータは、積層セラミックコンデンサ14の内部構造(電極寸法等)の変更のみならず、積層セラミックコンデンサ14の配列間隔を変更することによっても変更可能なので、内部構造の異なる複数種類の積層セラミックコンデンサ14を用意する必要がなく、コスト面で有利である。
【符号の説明】
【0031】
10 電磁波クローキング構造体
12 誘電体基板
14 積層セラミックコンデンサ
1402 本体部
1404 内部電極
1406 誘電体
1408 外部電極
16 単位セル構造
18 ランドパターン
20 対象物
図1
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