(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】スピーカー振動板及びスピーカー
(51)【国際特許分類】
H04R 7/12 20060101AFI20230301BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H04R7/12 K
H04R7/02 D
(21)【出願番号】P 2018209277
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 弘
(72)【発明者】
【氏名】安部 詠司
(72)【発明者】
【氏名】樋山 邦夫
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/095704(WO,A1)
【文献】特開2004-015194(JP,A)
【文献】特開2013-162214(JP,A)
【文献】特開平02-214294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/12
H04R 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相分離する第1ポリマー及び第2ポリマーを含
み、
前記第1ポリマーがポリオレフィンで、かつ前記第2ポリマーがこのポリオレフィンと非相溶な熱可塑性樹脂であり、
前記ポリオレフィン及び前記熱可塑性樹脂の一方が海相を構成し、他方がこの海相中に散在する島相を構成するスピーカー振動板。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂100質量部に対する前記ポリオレフィンの含有量は、80質量部以下である請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記スピーカー振動板は、繊維成分を含まない請求項1又は請求項2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維をさらに含む請求項1
又は請求項2に記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
コーン状である請求項1
から請求項4のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項6】
前記ポリオレフィン及び
前記熱可塑性樹脂の融点の差が20℃以下である請求項
1から請求項5のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項7】
前記ポリオレフィンがポリメチルペンテンである請求項
1から請求項6のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が液晶ポリマーである請求項
1から請求項7のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項9】
表層において前記島相が放射状に存在する請求項
1から請求項
8のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項10】
相分離する第1ポリマー及び第2ポリマーを含み、
前記第1ポリマーがポリオレフィンで、かつ前記第2ポリマーがこのポリオレフィンと非相溶な熱可塑性樹脂であり、
前記ポリオレフィン及び前記熱可塑性樹脂の一方が海相を構成し、他方がこの海相中に散在する島相を構成するスピーカー振動板
を備えるスピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、耐湿性の向上、軽量化等を図る観点から木材に替えて合成樹脂を用いたスピーカー振動板が用いられている。一般に、このスピーカー振動板は射出成形によって形成される(特開昭62-253300号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記公報に記載のスピーカー振動板は、コーン状であり、金型のキャビティの中央部(スピーカー振動板の底部に相当する部分)からキャビティ内に溶融樹脂を注入し射出成形することで得られる。
【0005】
このスピーカー振動板は、キャビティ内に注入され、このキャビティ内を流動した樹脂が固化することで形成されるものである。そのため、このスピーカー振動板は、樹脂の流動に起因する分子配向性に基づく弾性率の異方性を制御し難い。
【0006】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、本発明の課題は、弾性率の異方性をコントロールすることが容易なスピーカー振動板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明は、相分離する第1ポリマー及び第2ポリマーを含むスピーカー振動板である。
【0008】
当該スピーカー振動板はコーン状であるとよい。
【0009】
前記第1ポリマーがポリオレフィンで、かつ前記第2ポリマーがこのポリオレフィンと非相溶な熱可塑性樹脂であり、前記ポリオレフィン及び熱可塑性樹脂の一方が海相を構成し、他方がこの海相中に散在する島相を構成するとよい。
【0010】
前記ポリオレフィン及び熱可塑性樹脂の融点の差としては20℃以下が好ましい。
【0011】
前記ポリオレフィンがポリメチルペンテンであるとよい。
【0012】
前記熱可塑性樹脂が液晶ポリマーであるとよい。
【0013】
当該スピーカー振動板は、表層において前記島相が放射状に存在するとよい。
【0014】
当該スピーカー振動板は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維をさらに含むとよい。
【0015】
なお、本発明において、「融点」とは、JIS-K7121:2012「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠して示差走査熱量計(DSC)により測定される融点ピーク温度をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るスピーカー振動板は、第1ポリマー及び第2ポリマーが互いに相分離するので、第1ポリマー及び第2ポリマーの一方の分子配向に基づく弾性率の異方性を第1ポリマー及び第2ポリマーの他方によってコントロールすることができる。なお、「弾性率の異方性」とは、交差する方向において弾性率が異なることをいい、本発明に係るスピーカー振動板がコーン状である場合、径方向及び周方向における弾性率が異なることをいう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスピーカー振動板の模式的正面図である。
【
図2】
図1のスピーカー振動板のA-A線断面図である。
【
図3】
図1のスピーカー振動板の製造装置を示す模式図である。
【
図4】No.1のスピーカー振動板を裏面側から撮影した写真である。
【
図5】No.3のスピーカー振動板を裏面側から撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0019】
[スピーカー振動板]
図1及び
図2のスピーカー振動板は、互いに相分離する第1ポリマー及び第2ポリマーを含む。
【0020】
当該スピーカー振動板は、前記第1ポリマーがポリオレフィンで、前記第2ポリマーがこのポリオレフィンと非相溶な熱可塑性樹脂である。当該スピーカー振動板は、前記熱可塑性樹脂が海相1aを構成し、前記ポリオレフィンがこの海相1a中に散在する島相1bを構成している。すなわち、当該スピーカー振動板は、前記第1ポリマー及び第2ポリマーをブレンドすることで、海相1aと島相1bとに2相に相分離していている。
【0021】
当該スピーカー振動板は、使用するスピーカーに合わせた形状に構成可能であり、
図1及び
図2ではコーン状である。また、当該スピーカー振動板のサイズは、使用するスピーカーに合わせて設定可能である。なお、当該スピーカー振動板は、例えばヘッドホン、イヤホン、携帯電子機器等に備えられる小型のスピーカー用であってもよい。
【0022】
当該スピーカー振動板は、海相1a及び海相1a中に散在する島相1bを有する基材層1を備える。当該スピーカー振動板は、基材層1の単層体である。基材層1は、後述の射出成形によって形成可能である。基材層1は、金型のキャビティに接する表面側及び裏面側に設けられる一対のスキン層と、このスキン層間に設けられ、このスキン層とは分子配向の異なるコア層とを有していてもよい。なお、「表面側」とは、放音方向側をいい、「裏面側」とはその反対側をいう。
【0023】
当該スピーカー振動板は、略均一な厚さを有する。当該スピーカー振動板の平均厚さTの下限としては、50μmが好ましく、300μmがより好ましい。一方、当該スピーカー振動板の平均厚さTの上限としては、800μmが好ましく、650μmがより好ましい。前記平均厚さTが前記下限に満たないと、当該スピーカー振動板の剛性が不十分となるおそれや、当該スピーカー振動板を射出成形により形成し難くなるおそれがある。逆に、前記平均厚さTが前記上限を超えると、当該スピーカー振動板が不必要に重くなるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、任意の10点の厚さの平均値をいう。
【0024】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば液晶ポリマー、ポリスチレン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン等が挙げられる。中でも、当該スピーカー振動板を射出成形によって形成する場合の金型のキャビティ内での流動性に優れ、分子配向性を制御しやすい液晶ポリマーが好ましい。
【0025】
当該スピーカー振動板は、前記熱可塑性樹脂の分子配向性及びこの分子配向性に基づく弾性率の異方性等を前記ポリオレフィンによって調節している。
【0026】
前記ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。中でも、金型のキャビティ内での流動性に優れると共に、側鎖が嵩高く低密度であり、当該スピーカー振動板の軽量化を促進可能なポリメチルペンテンが好ましい。
【0027】
当該スピーカー振動板は、前記熱可塑性樹脂が液晶ポリマーであり、かつ前記ポリオレフィンがポリメチルペンテンであることが特に好ましい。この組み合わせによると、液晶ポリマーが海相1aを構成し、ポリメチルペンテンが島相1bを構成しやすい。また、この組み合わせによると、液晶ポリマーの方がポリメチルペンテンよりも金型のキャビティ内での流動性に優れていることから、前記スキン層における液晶ポリマーの含有割合が前記コア層における液晶ポリマーの含有割合よりも大きくなりやすいと考えられる。そのため、当該スピーカー振動板は、前記スキン層におけるポリメチルペンテンの含有割合を比較的小さくすることで、ポリメチルペンテンの成形収縮に起因する肉厚の変化を抑えやすいと考えられる。また、当該スピーカー振動板は、前記熱可塑性樹脂が液晶ポリマーであり、かつ前記ポリオレフィンがポリメチルペンテンであることによって、後述するように表層において島相1bを放射状に点在させやすい。その結果、当該スピーカー振動板は、軽量化を促進しつつ、液晶ポリマーに起因する弾性率の異方性を島相1bによって調節しやすいと考えられる。加えて、ポリメチルペンテンは透明性に優れるので、海相1a及び島相1bのコントラストを高めて、海相1a及び島相1bを視覚的に把握しやすい。つまり、このように2相に相分離させることで、分子オーダーで相溶した1相とは異なり、海島状の相構造による特性を利用することができる。
【0028】
液晶ポリマーの数平均分子量(Mn)の下限としては、3,000が好ましく、10,000がより好ましい。一方、前記数平均分子量(Mn)の上限としては、100,000が好ましく、80,000がより好ましい。前記数平均分子量(Mn)が前記下限に満たないと、当該スピーカー振動板の剛性が不十分となるおそれがある。逆に、前記数平均分子量(Mn)が前記上限を超えると、射出成形による成形性が不十分となるおそれがある。なお、「数平均分子量(Mn)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求められたポリスチレン換算の値をいう。
【0029】
ポリメチルペンテンの数平均分子量(Mn)の下限としては、5,000が好ましく、15,000がより好ましい。一方、前記数平均分子量(Mn)の上限としては、1,000,000が好ましく、500,000がより好ましい。前記数平均分子量(Mn)が前記下限に満たないと、当該スピーカー振動板の剛性が不十分となるおそれがある。逆に、前記数平均分子量(Mn)が前記上限を超えると、射出成形による成形性が不十分となるおそれがある。なお、当該スピーカー振動板は、表層における液晶ポリマーの含有割合を大きくしやすい観点から、ポリメチルペンテンの数平均分子量(Mn)が液晶ポリマーの数平均分子量(Mn)よりも大きいことが好ましい。
【0030】
基材層1(つまり、当該スピーカー振動板)における前記熱可塑性樹脂100質量部に対する前記ポリオレフィンの含有量の下限としては、30質量部が好ましく、40質量部がより好ましく、50質量部がさらに好ましい。一方、前記含有量の上限としては、80質量部が好ましく、70質量部がより好ましく、60質量部がさらに好ましい。前記含有量が前記下限に満たないと、前記熱可塑性樹脂に起因する弾性率の異方性を調節し難くなるおそれがある。逆に、前記含有量が前記上限を超えると、当該スピーカー振動板の剛性が不十分になるおそれや、海相1a中に島相1bを均一分散させ難くなるおそれがある。
【0031】
基材層1(つまり、当該スピーカー振動板)における前記ポリオレフィンの含有量の下
限としては、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。一方、基材層1における前記ポリオレフィンの含有量の上限としては、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。前記含有量が前記下限に満たないと、弾性率の異方性を調節し難くなるおそれがある。逆に、前記含有量が前記上限を超えると、当該スピーカー振動板の剛性が不十分になるおそれや、海相1a中に島相1bを均一分散させ難くなるおそれがある。
【0032】
基材層1(つまり、当該スピーカー振動板)における前記熱可塑性樹脂の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。一方、基材層1における前記熱可塑性樹脂の含有量の上限としては、80質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。前記含有量が前記下限に満たないと、当該スピーカー振動板の剛性が不十分になるおそれや、海相1a中に島相1bを均一分散させ難くなるおそれがある。逆に、前記含有量が前記上限を超えると、基材層1に前記ポリオレフィンを十分に含有させることができず、弾性率の異方性を調節し難くなるおそれがある。
【0033】
前記ポリオレフィン及び熱可塑性樹脂の融点は略等しいことが好ましい。前記ポリオレフィン及び熱可塑性樹脂の融点の差の上限としては、20℃が好ましく、15℃がより好ましい。前記融点の差が前記上限を超えると、当該スピーカー振動板を射出成形により形成し難くなるおそれがある。なお、前記融点の差は小さい方が好ましく、その差の下限としては、0℃とすることができる。
【0034】
当該スピーカー振動板は、前記ポリオレフィン及び熱可塑性樹脂を共に含むことで弾性率の異方性等の品質を調節可能である。そのため、当該スピーカー振動板は、強化繊維等の繊維成分を含まない構成とすることも可能である。一方、当該スピーカー振動板は、割れ等を防止する観点から強化繊維を含む構成とすることも可能である。当該スピーカー振動板が強化繊維を含む場合、この強化繊維としては、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が好ましい。当該スピーカー振動板は、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を含むことで、軽量化を図りつつ、意図しない割れを容易かつ確実に防止することができる。
【0035】
当該スピーカー振動板がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を含む場合、前記熱可塑性樹脂100質量部に対するポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の含有量としては、例えば5質量部以上40質量部以下とすることができる。
【0036】
なお、当該スピーカー振動板は、本発明の効果を損なわない範囲で、着色剤、紫外線吸収剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0037】
当該スピーカー振動板は、表層において島相1bが放射状に存在することが好ましい。表層において島相1bが放射状に存在する場合、島相1bは放射状に延在していてもよく、
図1及び
図2に示すように放射状に点在していてもよい。当該スピーカー振動板は、前記ポリオレフィン及び熱可塑性樹脂の金型のキャビティ内での流動性を制御することで、表層における島相1bの形状を調節することができる。当該スピーカー振動板は、表層において島相1bが放射状に延在する場合、径方向における弾性率と周方向における弾性率の差を比較的大きくしやすく、弾性率の異方性を高めやすい。一方、当該スピーカー振動板は、表層において島相1bが放射状に点在する場合、前記熱可塑性樹脂の分子配向性に基づく弾性率の異方性を小さくしやすい。なお、当該スピーカー振動板が前述のスキン層及びコア層を有する場合、「表層」とは、スキン層のことを意味する。また、当該スピーカー振動板が前述のスキン層及びコア層を有しない場合、「表層」とは、例えば当該スピーカー振動板の表面及び裏面からの深さが20μm以下の領域をいう。
【0038】
<製造方法>
次に、当該スピーカー振動板の製造方法について説明する。当該スピーカー振動板の製造方法は、互いに非相溶な第1ポリマー及び第2ポリマーを含む樹脂組成物(振動板形成用材料)を射出成形する工程(射出成形工程)を備える。前記第1ポリマーはポリオレフィンであり、前記第2ポリマーは熱可塑性樹脂である。
【0039】
(射出成形工程)
前記射出成形工程は、例えば
図3に示す射出成形装置11を用いて行うことができる。この射出成形装置11は、先端にノズル12aを有するシリンダー12と、シリンダー12に接続され、前記振動板形成用材料が投入されるホッパー13と、シリンダー12内に装着されるスクリュー14と、ノズル12aの開口に連通するキャビティ15aが形成された金型15とを有する。キャビティ15aは、当該スピーカー振動板の反転形状を有する。キャビティ15aは、当該スピーカー振動板の底部に相当する部分がノズル12aの開口に連通している。前記射出成形工程では、この底部に相当する部分からキャビティ15a内に前記振動板形成用材料の溶融物を放射状に充填する。また、前記射出成形工程では、前記溶融物の充填後にキャビティ15aを冷却し、この溶融物を硬化させる。この溶融物が硬化した成形品が当該スピーカー振動板として構成される。
【0040】
前記射出成形工程におけるシリンダー温度は前記ポリオレフィンの融点に対応して設定されることが好ましい。例えば前記ポリオレフィンがポリメチルペンテンである場合、シリンダー温度の下限としては、300℃が好ましく、310℃がより好ましい。一方、前記シリンダー温度の上限としては、350℃が好ましく、320℃がより好ましい。前記シリンダー温度が前記下限に満たないと、前記ポリオレフィンの流動性が不十分となり、得られるスピーカー振動板の弾性率の異方性を前記ポリオレフィンによって適切に制御し難くなるおそれがある。逆に前記シリンダー温度が前記上限を超えると、当該スピーカー振動板の製造効率が低下するおそれがある。
【0041】
<利点>
当該スピーカー振動板は、前記第1ポリマー及び第2ポリマーが互いに相分離するので、前記第1ポリマー及び第2ポリマーの一方の分子配向に基づく弾性率の異方性を前記第1ポリマー及び第2ポリマーの他方によってコントロールすることができる。
【0042】
当該スピーカー振動板は、海相1aを構成する熱可塑性樹脂の分子配向性に基づく弾性率の異方性を海相1a中に散在する島相1bによってコントロールすることができる。また、当該スピーカー振動板は、海相1a及び島相1bにより、弾性率の異方性を視覚的に把握しやすいことに加え、海相1a中に島相1bが散在することで意匠性を高めることができる。
【0043】
当該スピーカー振動板の製造方法は、当該スピーカー振動板を容易に製造することができる。
【0044】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0045】
当該スピーカー振動板は、前記ポリオレフィンが海相を構成し、このポリオレフィンと非相溶な熱可塑性樹脂が海相中に散在する島相を構成してもよい。この場合、当該スピーカー振動板は、前記ポリオレフィンの分子配向性に基づく弾性率の異方性を前記熱可塑性樹脂によって調節することができる。また、この場合、基材層における前記ポリオレフィンの含有量としては、第一実施形態の基材層1における前記熱可塑性樹脂の含有量と同様とすることができる。また、前記ポリオレフィン100質量部に対する前記熱可塑性樹脂の含有量としては、第一実施形態における熱可塑性樹脂100質量部に対するポリオレフィンの含有量と同様とすることができる。さらに、当該スピーカー振動板がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維をさらに含む場合、前記ポリオレフィン100質量部に対するポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の含有量としては、第一実施形態における熱可塑性樹脂100質量部に対するポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の含有量と同様とすることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0047】
[実施例]
[No.1]
熱可塑性樹脂としての液晶ポリマーと、この熱可塑性樹脂と非相溶なポリオレフィンとしてのポリメチルペンテンとからなる振動板形成用材料の射出成形によって基材層の単層体からなる平均厚さ450μmのコーン状のNo.1のスピーカー振動板を製造した。液晶ポリマーとしては、融点が220℃の上野製薬社製の「A8100」を用い、ポリメチルペンテンとしては、融点が232℃の三井化学社製の「RT31」を用いた。No.1では、液晶ポリマー100質量部に対するポリメチルペンテンの含有量を56質量部とした。このスピーカー振動板の裏面側から撮影した写真を
図4に示す。このスピーカー振動板は、液晶ポリマーによって構成される海相と、ポリメチルペンテンによって構成され、海相中に散在する島相とを有していた。このスピーカー振動板は、一対のスキン層及びこれらのスキン層間に設けられるコア層を有しており、
図4に示すように、表層(スキン層)において島相が放射状に点在していた。
【0048】
[No.2]
液晶ポリマー100質量部に対するポリメチルペンテンの含有量を100質量部とした以外、No.1と同様にして平均厚さ500μmのNo.2のスピーカー振動板を製造した。このスピーカー振動板は、液晶ポリマーによって構成される海相と、ポリメチルペンテンによって構成され、海相中に散在する島相とを有していた。このスピーカー振動板は、一対のスキン層及びこれらのスキン層間に設けられるコア層を有しており、表層(スキン層)において島相が放射状に点在していた。
【0049】
[比較例]
[No.3]
融点が220℃の液晶ポリマー(上野製薬社製の「A8100」)のみからなる振動板形成用材料を用いた以外、No.1と同様にして平均厚さ500μmのNo.3のスピーカー振動板を製造した。このスピーカー振動板の裏面側から撮影した写真を
図5に示す。
図5に示すように、このスピーカー振動板は、表層において液晶ポリマーが放射状に配向していた。
【0050】
[No.4]
融点が232℃のポリメチルペンテン(三井化学社製の「RT31」)のみからなる振動板形成用材料を用いた以外、No.1と同様にして平均厚さ390μmのNo.4のスピーカー振動板を製造した。
【0051】
<密度>
No.1~No.4のスピーカー振動板の密度[g/cm3]を測定した。この密度は、5mm×40mmの試験片を切り出し、さらに任意の3点の厚さの平均値によって平均厚さを算出することで試験片の体積を求めたうえ、算出した体積でこの試験片の重量を除することで求めた。この測定結果を表1に示す。
【0052】
<貯蔵弾性率>
No.1~No.4のスピーカー振動板の250Hz及び1000Hzにおける径方向及び周方向の貯蔵弾性率[GPa]を測定した。この貯蔵弾性率は、No.1~No.4のスピーカー振動板について幅5mm、長さ40mm、厚さ0.5mmの矩形状のサンプルを切り出し、Metravib社製の動的粘弾性測定装置(「DMA+150」)を用い、引っ張りモードにて温度23±2℃で測定した。この測定結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
<評価結果>
表1に示すように、No.1及びNo.2のスピーカー振動板は、海相中に散在する島相を有しており、表層において島相が放射状に点在しているので、液晶ポリマーからなるNo.3のスピーカー振動板に対して径方向の貯蔵弾性率に対する周方向の貯蔵弾性率の比を小さくすることで弾性率の異方性を小さく調節できている。また、No.1及びNo.2のスピーカー振動板を比較すると、ポリメチルペンテンの含有量の小さいNo.1のスピーカー振動板の方がより弾性率の異方性を小さく調節できている。さらに、No.1及びNo.2のスピーカー振動板は、ポリオレフィンとしてポリメチルペンテンを用いることで、液晶ポリマーからなるNo.3のスピーカー振動板よりも軽量化を図ることができている。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明に係るスピーカー振動板は、異方性をコントロールすることが容易であるので、コーン状の振動板として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0056】
1 基材層
1a 海相
1b 島相
11 射出成形装置
12 シリンダー
12a ノズル
13 ホッパー
14 スクリュー
15 金型
15a キャビティ