(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】熱電発電デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 10/13 20230101AFI20230301BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H10N10/13
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2018245395
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 直宏
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-069625(JP,A)
【文献】特開2012-119657(JP,A)
【文献】特開2012-201589(JP,A)
【文献】特開2015-038961(JP,A)
【文献】特開2013-254940(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159696(WO,A1)
【文献】特開2014-095506(JP,A)
【文献】特開2018-026914(JP,A)
【文献】特開2015-195300(JP,A)
【文献】特開2018-129512(JP,A)
【文献】特表2014-522994(JP,A)
【文献】特開2015-049015(JP,A)
【文献】特開2012-092688(JP,A)
【文献】特開2009-257753(JP,A)
【文献】特開2010-282128(JP,A)
【文献】国際公開第2004/058899(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/13
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも、熱電変換材料を含む熱電変換部、及び多孔質黒色顔料を含む光熱変換部をこの順に有し、
前記熱電変換部は、前記光熱変換部と接している高温側と、前記光熱変換部と接していない低温側とを有し、
前記高温側と、前記低温側とが電気的に接続した熱電発電デバイス
であって、
前記光熱変換部の、熱電変換部と接していない面の表面粗さパラメーターRtが0.15~5μmであり、Raが0.01~0.5μmである、熱電発電デバイス。
【請求項2】
前記光熱変換部が、さらにバインダー成分を含む、請求項1
に記載の熱電発電デバイス。
【請求項3】
前記基材がフレキシブル基材である、請求項1
または2に記載の熱電発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を熱に変換し、さらに変換された熱を電気エネルギーに変換することが可能であり、かつ、大がかりな光熱変換装置を必要としない、軽量かつ薄膜化が可能な光熱変換部を有する熱電発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料を用いて熱を電気に変換する熱電変換技術は、自然界における様々な熱に加え、工場・車・家庭から排出される排熱や体温等の微小熱エネルギーを電気として有効活用できるクリーンエネルギーとして注目されている。熱電効果の一つとしては、熱電変換材料に2つの異なる温度を与えた際、その温度差により熱電変換材料内に生じた電子勾配により起電力が発生するゼーベック効果を活用したシステムが主流であるが、そのほか、異常ネルンスト効果や焦電効果を用いたシステムなど開発が進められている。
【0003】
近年では、電池交換が困難な用途での電力源としても注目され、IoT分野におけるセンサー用自立電源としてのニーズが高まっている。実用化にあたっては、様々な使用環境に適用できるフレキシブル性、大面積化に加え、如何に効果的に熱源を取り出し、電気エネルギーに変換するかが重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、光熱変換層と熱電変換部とを備えた熱型赤外線撮像素子において、赤外線を熱に変換する光熱変換層にケイ酸ガラスを用いることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱電発電モジュールにおいて、黒鉛または無機酸化物と樹脂とを組み合わせた光熱変換基板や、黒鉛または無機酸化物と多孔質樹脂シートまたは多孔質セラミックとを組み合わせた光熱変換基板を、熱電変換モジュール要素と組み合わせることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-279406号公報
【文献】国際公開第2018/159696号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明は、光熱変換層にケイ酸ガラスを例として使用しており、空気と光熱変換層間の屈折率差が大きいため、入射光は光熱変換層の表面で反射してしまい、光熱変換層内部に取り込まれる光エネルギーは圧倒的に少ない。このため変換される熱エネルギーが小さくなり、変換される電気エネルギーも小さくなるといった課題がある。
【0008】
特許文献2に記載の発明は、光熱変換基板に黒鉛または無機酸化物と多孔質樹脂シートまたは多孔質セラミックを使用している。多孔質樹脂シートまたは多孔質セラミックにより光熱変換基板の屈折率は若干低減するが、黒鉛または無機酸化物の屈折率が高いため、光熱変換基板の屈折率の低下は限定的である。そのため、入射光は光熱変換基板の表面で反射してしまい、変換される熱エネルギーも小さくなり、変換される電気エネルギーも少なくなるといった課題がある。
【0009】
そこで本発明の課題は、入射光を光熱変換部の表面で反射させることなく光熱変換部内部に取り込み、光熱変換部内部の光吸収機能によって速やかに光エネルギーを熱エネルギーに変換し、さらに変換された熱エネルギーを熱電変換部で電気エネルギーに変換することで、入射した光エネルギーをロスなく電気エネルギーに変換することを可能とし、かつ、大がかりな装置やシステムを必要とせず、軽量かつ薄膜化が可能な光熱変換部を有する熱電発電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の〔1〕~〔6〕に関する
【0011】
〔1〕 基材上に、少なくとも、熱電変換材料を含む熱電変換部、及び多孔質黒色顔料を含む光熱変換部をこの順に有し、
前記熱電変換部は、前記光熱変換部と接している高温側と、前記光熱変換部と接していない低温側とを有し、
前記高温側と、前記低温側とが電気的に接続した熱電発電デバイス。
【0012】
〔2〕 前記多孔質黒色顔料のBET比表面積が600m2/g以上である、〔1〕に記載の熱電発電デバイス。
【0013】
〔3〕 前記光熱変換部の、熱電変換部と接していない面の表面粗さパラメーターRtが0.15~5μmであり、Raが0.01~0.5μmである、〔1〕又は〔2〕に記載の熱電発電デバイス。
【0014】
〔4〕 前記光熱変換部の、熱電変換部と接していない面の400nm~700nmにおける正反射率の最大値が0.8%以下であり、散乱反射率の最大値が2%以下である、〔1〕~〔3〕いずれか1項に記載の熱電発電デバイス。
【0015】
〔5〕 前記光熱変換部が、さらにバインダー成分を含む、〔1〕~〔4〕いずれか1項に記載の熱電発電デバイス。
【0016】
〔6〕 前記基材がフレキシブル基材である、〔1〕~〔5〕いずれか1項に記載の熱電発電デバイス。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、入射した光エネルギーを高効率で熱エネルギーに変換する光熱変換部を有し、熱エネルギーを電気エネルギーとして効率よく変換することが可能で、更に可撓性を有する熱電発電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明による熱電発電デバイスを示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明による熱電発電デバイスを示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明による熱電発電デバイスを示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明による熱電発電デバイスを示す平面図である。
【
図5】
図5は、本発明による熱電発電デバイスを示す断面図である
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の熱電発電デバイスは、基材上に、少なくとも、熱電変換部、及び光熱変換部をこの順に有し、前記熱電変換部は、前記光熱変換部と接している高温側と、前記光熱変換部と接していない低温側とを有し、前記高温側と、前記低温側とが電気的に接続した熱電発電デバイスであって、前記光熱変換部が、多孔質黒色顔料を含むことを特徴とする。
【0020】
<熱電変換部>
熱電変換部は熱電変換材料を含み、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する能力を有するものであれば特に制限されず、例えば、ゼーベック効果を発現し、一般に熱電変換材料として用いられている物質を用いることができる。
【0021】
[熱電変換材料]
熱電変換材料は、無機熱電変換材料、有機熱電変換材料の種別があるが、使用温度環境や用途に応じて適宜選択することができる。
【0022】
(無機熱電変換材料)
無機熱電変換材料としては、特に限定されないが、例えば、Bi-Te化合物、Pb-Te化合物、Sb-Te化合物等のテルル系化合物;Co-Sb化合物、Fe-Sb化合物、Zn-Sb化合物、スクッテルダイト化合物等のアンチモン系化合物;Fe-Si化合物、Ge-Si化合物、Mn-Si化合物、Mg-Si化合物等のシリコン系化合物;六ホウ化物等のホウ素化合物、クラスレート化合物等のガリウム系化合物;ホイスラー化合物、Alクラスレート化合物等のアルミニウム系化合物;ハーフホイスラー金属間化合物等の錫系・希土類系化合物;Co酸化物、Ti酸化物、V酸化物、Zn酸化物等の金属酸化物系;等が挙げられる。
上記無機熱電変換材料は、不純物を加えて、極性(p型、n型)や導電率を制御して利用しても良い。
【0023】
(有機熱電変換材料)
有機熱電変換材料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンナノチューブやフラーレン等の炭素材料、有機導電性低分子材料、有機導電性高分子等の有機導電性材料、高分子複合材料等の有機熱電変換材料、及びそれらの誘導体が挙げられる。
有機導電性材料としては、例えば、チオフェン及びその誘導体を骨格にもつポリマー;フェニレンビニレン及びその誘導体を骨格にもつポリマー;アニリン及びその誘導体を骨格にもつポリマー;ピロール及びその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー;アセチレン及びその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー;ヘプタジエン及びその誘導体を骨格にもつポリマー;フタロシアニン類及びそれらの誘導体;ジアミン類、フェニルジアミン類及びそれらの誘導体;ペンタセン及びその誘導体;ポルフィリン及びその誘導体;シアニン、キノン、ナフトキノン等の低分子;等が利用され得るが、製造性並びに大気下での安定性、電荷移動度等の観点から、ポリチオフェン及びその誘導体もしくは炭素材料が特に有利に使用できる。
【0024】
これらの熱電変換材料は、単独で用いても良く、複数の材料を組み合わせて用いることもでき、複数の材料を複合化して用いることもできる。
【0025】
また、一般的に知られている熱電変換材料は、半導体としての性質を有することが多い。その場合に、p型半導体単独、n型半導体単独、又は、p型半導体とn型半導体とを組合せて使用することができる。より大きな電位差を得るために、p型半導体とn型半導体とを組合せて使用することが好ましい。
【0026】
中でも、大面積用途やフレキシブル用途に用いる場合は、フレキシブル性及び製造容易性の観点から、印刷や塗布が可能であることが好ましく、有機熱電変換材料が好ましく用いられる。
【0027】
<光熱変換部>
本発明の熱電発電デバイスは、多孔質黒色顔料を含む光熱変換部を有することを特徴とする。光熱変換部に光熱変換材料である多孔質黒色顔料を含むことで、入射した光エネルギーが熱エネルギーに変換され、発電を行うことが可能となる。
【0028】
[多孔質黒色顔料]
多孔質黒色顔料を用いた光熱変換のメカニズムについて説明する。
多孔質材料は、空隙率が高いほど、空気の屈折率に近づく。すなわち、空隙率の高い多孔質材料を含む膜の屈折率は空気の屈折率である1に近づく。通常、空気層から膜に入射する光は、空気層と膜との屈折率差に応じた反射率で反射される。膜の屈折率を空気層の屈折率に近づけることにより、光の反射界面が極小化され反射率は小さくなる。また、多孔質材料として多孔質黒色顔料を使用する場合、膜中の多孔質黒色顔料が光を効果的に吸収することにより、いったん膜内に入射した光が外部に出ない構造をつくることが可能となる。
すなわち、本発明における光熱変換部とは、多孔質黒色顔料を含む低反射膜であり、低反射性を高めることで、入射した光は効率的に膜中の多孔質黒色顔料に吸収され、熱に変換される。
【0029】
本発明に使用することができる多孔質黒色顔料は、特に制限されず、カーボンブラック、黒鉛、および公知の酸化物系黒色顔料、並びに、これら黒色顔料を骨格としたエアロゲルのような形態を持つ多孔質体等を使用できる。これらは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に多孔質カーボンブラックを単独で使用することが好ましい。
前述したように、空隙率が高くなるほど、多孔質黒色顔料の屈折率は空気層の屈折率に近づくため、空隙率は50%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上である。
【0030】
非多孔質黒色顔料を併用してもよいが、低反射性発現の観点から、その添加量は多孔質黒色顔料100質量部に対し、50質量部以下が好ましい。非多孔質黒色顔料は黒色を呈するものであれば特に制限されず、カーボンブラック、黒鉛、および公知の酸化物系黒色顔料等が挙げられる。
【0031】
空隙率は、物理ガス吸着法、tプロット法、およびBJH法等の既知の方法によって算出することができる。
【0032】
多孔質黒色顔料の比表面積は、600m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは1200m2/g以上である。比表面積が高いほど多孔質黒色顔料の表面に微細な凹凸が形成され、この部分に空気が多く含まれるため、低反射性の観点から望ましい。
【0033】
[バインダー成分]
本発明の光熱変換部は、多孔質黒色顔料の他に必要に応じてバインダー成分を含むことができる。
多孔質黒色顔料とバインダー成分との占有体積比率は、50:50~100:0であることが好ましく、より好ましくは65:35~100:0であり、特に好ましくは85:15~95:5である。50:50の比率より多く多孔質黒色顔料が配合されることで、膜の屈折率を低下させることができ、低反射性を発現できる。さらに65:35の比率より多く多孔質黒色顔料が配合されることで、より一層の膜の低屈折率を達成でき、反射率を大きく低下させることが可能となる。また、上記比率内でバインダー成分を添加することで膜の強度を良好とすることができる
【0034】
各成分の占有体積比率は、各成分の質量と比重から理論的に求めることができる。なお、多孔質黒色顔料以外の成分の比重は、「1(g/cm3)」と概算する。
例えば、多孔質黒色顔料の占有体積比率は、以下のようにして理論的に求めることができる。
(1)多孔質黒色顔料の体積=質量(g)÷(1-空隙率)
例えば、空隙率が80%の多孔質黒色顔料1gの占める体積は、
1(g)÷(1-0.8)(g/cm3)=5cm3
(2)多孔質黒色顔料以外の成分の体積=質量(g)÷1(g/cm3)
例えば、バインダー成分1gの占める体積は、
1(g)÷1(g/cm3)=1cm3
多孔質黒色顔料をA(g)、バインダー成分をB(g)用いる場合、両者の占有体積比は、(1)×A:(2)×Bとなる。
【0035】
本発明に使用することができるバインダー成分は特に制限されず、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ウレタンウレア樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、および塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明には必要に応じて、硬化剤を使用することができる。使用できる硬化剤は特に制限されず、ポリイソシアネートおよびエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0037】
バインダー成分として、オリゴマーおよび/またはモノマーを含む電子線または紫外線硬化性材料を用いてもよい。
単官能モノマーとしては特に制限されず、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、インデシル(メタ)アクリレート、イソクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレン(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェニル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、およびジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」はメタクリレートおよびアクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル」はメタクリロイルおよびアクリロイルを意味する。
【0038】
二官能モノマーとしては、1 ,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、(水素化)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、(水素化)エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、(水素化)プロピレングリコール変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-エチル,2-ブチル-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、および1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
多官能モノマーとしては、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステル、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
ラジカル重合性の架橋成分を、紫外線を用いて架橋させる場合に用いられる光重合開始剤としては特に制限されず、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、芳香族ジアゾニウム塩、およびメタロセン等が挙げられる。重合促進剤として、アミン類およびホスフィン類等を併用してもよい。電子線を用いて架橋させる場合にはこれらを配合しなくてもよい。
カチオン反応性の成分を、紫外線を用いて架橋させる場合に用いられるカチオン系開始剤としては、ルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩、ルイス酸のホスホニウム塩、その他のハロゲン化物、トリアジン系開始剤、ボーレート系開始剤、およびその他の光酸発生剤等が挙げられる。電子線を用いて架橋させる場合にはこれらを配合しなくてもよい。
【0041】
これらバインダー樹脂、オリゴマー、およびモノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
また、フレキシブル性を有する熱電発電デバイスとして使用する場合、加工時や搬送時の割れを抑制するために、柔軟性や引張強度が求められる。このような諸物性を発現するためには、バインダー成分として、塗膜形成が容易であることから熱可塑性樹脂を好ましく使用できる。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合、スチレン・ブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0043】
光熱変換部はさらに、顔料分散剤、界面活性剤、カップリング剤、または顔料誘導体を含有していてもよい。顔料誘導体とは、カラーインデックスに記載されている有機顔料の残基に特定の置換基を導入したものである。
【0044】
光熱変換部には必要に応じて、難燃剤、充填剤、およびその他各種添加剤を含むことができる。難燃剤としては例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、およびリン酸化合物等が挙げられる。
添加剤として例えば、基材密着性を高めるためのカップリング剤、吸湿時または高温時の信頼性を高めるためのイオン捕捉剤または酸化防止剤、およびレベリング剤等が挙げられる。
【0045】
<光熱変換部の製造>
多孔質黒色顔料を含む光熱変換部の製造方法は特に限定されないが、例えば、多孔質黒色顔料と、バインダー成分と、分散媒とを含む光熱変換部形成用組成物を塗工・乾燥することで製造することができる。光熱変換部形成用組成物は、多孔質黒色顔料の平均粒子径を適切な大きさに制御するために、塗工する前の工程で分散機を用いて分散しても良い。
【0046】
[分散媒]
光熱変換部形成用組成物は、多孔質黒色顔料を分散するための分散媒を含むことが好ましい。使用する分散媒としては、25℃で液状の媒体が好ましい。具体的には、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、およびn-ブタノール等のアルコール系溶剤;ベンゼン、トルエン、およびキシレン等の芳香族系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、およびシクロヘキサノン等のケトン系溶剤;n-オクタン等の炭化水素系溶剤等の公知の溶剤等が挙げられる。これらは、1種を単独でまたは複数種を組み合わせて使用できる。
【0047】
光熱変換部形成用組成物は、様々な方法で得ることができる。例えば、多孔質黒色顔料を分散媒に分散する方法;多孔質黒色顔料を分散媒に分散した分散液に、バインダー成分、または、バインダー成分を分散媒に溶解したバインダー溶液を添加する方法;バインダー成分を分散媒に溶解したバインダー溶液に多孔質黒色顔料を分散する方法が挙げられる。
【0048】
光熱変換部形成用組成物を得る際、使用できる分散機としては特に制限はなく、例えば、ニーダー;アトライター;ボールミル;ガラスビーズおよびジルコニアビーズ等を使用したサンドミル、スキャンデックス、アイガーミル、ペイントコンディショナー、およびペイントシェイカー等のメディア分散機;コロイドミル等が使用できる。
【0049】
光熱変換部形成用組成物の多孔質黒色顔料の平均分散粒子径(d50)は、0.3~5μmであることが好ましい。d50が0.3μm以上の光熱変換部形成用組成物を用いることで、膜の表面粗さパラメーターであるRt及びRaを充分に大きくすることができ、正反射率と散乱反射率の両方を小さくすることができ、高い光熱変換機能を示す。d50が5μm以下の光熱変換部形成用組成物を用いることで、表面粗さが大きくなりすぎず(すなわち、Rt、Raが過大にならず)、膜を適度に平滑にでき、散乱反射率を小さくすることが可能となる。
【0050】
光熱変換部形成用組成物の平均分散粒子径(d50)は、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置、例えば、マイクロトラックMT3000II(マイクロトラック・ベル社製)を用いて求められる。測定は、分散液に用いた分散媒を用いて希釈したサンプルに対して、25℃で行う。
【0051】
光熱変換部は、前述の通り多孔質黒色顔料を含むものであり、低反射性を発揮し光熱変換性を高めるために、光熱変換部の熱電変換部と接していない面の表面粗さパラメーターRt及びRaのうち、Rtが0.15~5μmであり、0.15~2μmであることがより好ましい。Rtが0.15μm以上であることで、膜表面の凸部が充分な大きさを有し、正反射を低減させることができる。Rtが5μm以下であることで、散乱反射を低下させることができ、かつ外観上平滑感がある膜が得られる。Rtが2μm以下であることで、正反射と散乱反射を低減することができる。
Raは0.01~0.5μmであることが好ましく、0.01~0.15μmであることがより好ましい。Raが0.01μm以上であることで、膜表面の凸部が充分な大きさを有し、正反射を低減させることができる。Raが0.5μm以下であることで、散乱反射を低下させることができ、かつ外観上平滑感がある膜が得られる。Raが0.15μm以下であることで、正反射と散乱反射を低減することができる。
本来、正反射と散乱反射はトレードオフの関係にあるものが、Rt、Raを適切な値とすることでトレードオフの関係を解消することができ、高い低反射性、すなわち光熱変換機能を示す。
【0052】
光熱変換部の粗さパラメーターであるRt及びRaは、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を示す。Rtは粗さ曲線の最大断面高さを表し、評価長さにおける輪郭曲線の山高さZpの最大値と谷深さZvの最大値との和であり、次の式によって求められる値である。Raは算術平均粗さを表し、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分について、平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にZ軸を取り、粗さ曲線を式:Z=f(x)で表したときに、次の式によって求められる値である。
【0053】
【0054】
【0055】
光熱変換部の、熱電変換部と接していない面の400~700nmにおける正反射率の最大値は、0.8%以下であることが好ましく、より好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。正反射率が0.8%以下であることで、低反射性が発現し、光熱変換効率が高くなる。
また、光熱変換部の、熱電変換部と接していない面の400~700nmにおける散乱反射率の最大値は、2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.3%以下、さらに好ましくは0.9%以下である。散乱反射率が2%以下であることで、低反射性が発現し、高い光熱変換機能を示す。
【0056】
光熱変換部の正反射率および散乱反射率は、分光測色計(例えば、コニカミノルタ株式会社製、CM-700d)を用いて測定される。正反射率とは、入射光に対する正反射光の割合であり、正反射光は、全反射光から散乱反射光を除外した反射光である。散乱反射率とは、入射光に対する散乱反射光(拡散光)の割合であり、散乱反射光(拡散光)とは、全反射光から正反射光を除外した反射光である。
【0057】
光熱変換部形成用組成物は、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、コーター塗工、スプレー塗工、およびスピンコーター塗工等の既知の方式で塗工することができる。具体的には例えば、本発明の光熱変換部は、上記光熱変換部形成用組成物を、基材の一主面上に、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、スリットコート法、スリットスピンコート法、フローコート法、およびダイコート法等の各種塗工法により塗工して塗工膜を形成し、この塗工膜から有機溶媒等の分散媒を揮発等により除去して膜を形成し、必要に応じてこの膜を硬化処理することにより、容易に得ることができる。
【0058】
また、光熱変換部を、剥離基材の上に塗工、乾燥させた後に、熱電変換部と直接若しくは粘着層を介して貼り合せ、ラミネート、熱プレス等、圧着若しくは熱圧着することもできる。剥離性基材としては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリイミドフィルム等の樹脂フィルムに離型処理したものが挙げられる。
【0059】
光熱変換部の厚みは、用途に応じて適宜選択できるが、好ましくは0.3μm以上であり、より好ましくは1μm以上である。膜厚が0.3μm以上であると、光熱変換部中の多孔質黒色顔料の含有量が、良好な低反射性を発現するのに十分な量となる。
【0060】
<熱電発電デバイス>
本発明の熱電発電デバイスは、基材上に、少なくとも熱電変換材料を含む熱電変換部、及び、多孔質黒色顔料を含む光熱変換部をこの順に有し、光熱変換部と接している高温側と、光熱変換部と接していない低温側とが電気的に接続している。光熱変換部から放出された熱エネルギーは、熱電変換部に伝わり、熱電変換部の光熱変換部と接する高温側の熱電変換部と、光熱変換部と接していない低温側の熱電変換部で生じた温度差により起電力が得られる。
【0061】
ここで、「電気的に接続する」とは、互いに接合しているか、又は、ワイヤ等の他の構成部材を介して通電できる状態であることを意味する。接続の形態に関しては特に制限されないが、例えば、熱電変換材料を用いて得た熱電変換部と電気的に接続する一対の電極を介して接続することができる。
【0062】
電極の材料は、炭素材料、金属、合金、及び半導体から選択することができる。導電率が高いこと、熱電変換材料との接触抵抗が低いことから、金属及び合金が好ましい。金属及び合金の種類は特に制限されないが、例えば、金、銀、銅、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、銀を含むことが特に好ましい。
【0063】
電極は、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布等の方法によって形成することができる。プロセスが簡便な観点で、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による形成方法が好ましい。
【0064】
また、本発明の熱電発電デバイスは、基材上に、少なくとも、熱電変換材料を含む熱電変換部、及び多孔質黒色顔料を含む光熱変換部をこの順に有していればよく、各部材の間に別の部材や層を設けてもよい。例えば、基材と熱電変換部との間にプライマー層等を設けてもよいし、熱電変換部と光熱変換部とが、前述のように、熱エネルギーの伝導を妨げない範囲で、粘着層等の間接層を介して接していてもよい。
【0065】
[基材]
基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基材、プラスチック基材のほか、金属基材、紙基材、木基材(木製基材)、石基材、布基材、皮革基材等を上げることができる。また、その形状としては、平板、フィルム状、シート状、立体形状、繊維上等が挙げられ、用途や使用条件に基づいて適宜選択することができる。
熱源への追従性やセンサーとして使用する際の装着感等を考慮すると、基材は可撓性を有するフレキシブル基材であることが好ましい。
【0066】
また、本発明の熱電発電デバイスは、熱電変換部の低温側から効率良く熱を逃がすことで高温側と低温側との温度差を保ち、発電効率を上げる目的で、低温側にヒートシンク機能を持たせてよい。ヒートシンク機能を持たせる方法について、特に制限はないが、伝熱特性の良いアルミニウム、鉄、銅等の金属を用いたフィン等の空冷構造を有する部材や水冷部材を接触もしくは貼り付ける方法、また、酸化アルミニウムなど放熱機能を有するフィラーが樹脂中に分散した、放熱シートや放熱塗料等を塗布又は貼り付ける方法等が挙げられる。
【0067】
また、熱電変換材料は、直列に接続することで高い電圧を発生させることが可能となり、並列に接続することで大きな電流を発生させることが可能となる。同様に、熱電変換部を2つ以上接続して使用することもできる。
【0068】
以下、本発明の代表的な一例による熱電発電デバイスについて、
図1~
図5を用いて説明する。
【0069】
図1は、本発明による熱電発電デバイスを示す断面図である。熱電変換デバイス100は、基材110上に、熱電変換部120、及び多孔質黒色顔料131を含む光熱変換部130を有し、熱電変換部120は、光熱変換部と接している高温側120aと、光熱変換部と接していない低温側120bとを有し、高温側120aと低温側120bとが、電気的に接続している。
【0070】
図2及び
図3は、本発明による熱電発電デバイスを示す断面図であり、基材110と熱電変換部120との間、熱電変換部120と光熱変換部130との間に、電極140を有しており、電極を介して高温側120aと低温側120bとが電気的に接続している。
【0071】
図4は、本発明による熱電発電デバイスを示す平面図である。熱電変換デバイス100は、基材110上に、複数の熱電変換部120、及び光熱変換部130を有し、複数の熱電変換部120は、それぞれ、光熱変換部と接している高温側120aと、光熱変換部と接していない低温側120bとを有し、第1の熱電変換部120における高温側120aと、第2の熱電変換部120における低温側120bとが電気的に接続し、それらが複数直列に接続している。
【0072】
図5は、本発明による熱電発電デバイスを示す断面図である。熱電変換デバイス100は、基材110上に、熱電変換部120、及び光熱変換部130を有し、熱電変換部120は屈曲し、光熱変換部と接している高温側120aと、光熱変換部と接していない低温側120bとを有し、高温側120aと低温側120bとが、電気的に接続している。
【0073】
本発明の熱電変換デバイスは、高温側120aと低温側120bとの間で生じた温度差により起電力が得られる。高温側120aと低温側120bとは、熱電変換部と光熱変換部とが接することにより、熱電変換部に生じた温度差(温度勾配)であり、温度勾配の向きは、熱電変換部120の膜厚方向又は面内方向のいずれであってもよく、用途や目的に応じて適宜選択できる。
図1~
図5において、
図1~
図3の温度差(温度勾配)の向きは、熱電変換部120の膜厚方向であり、
図4及び
図5の温度差(温度勾配)の向きは、熱電変換部120の面内方向である。
【0074】
また、光熱変換部130は、熱電変換部120に温度差(温度勾配)を生じさせるものであり、熱電変換部の少なくとも一部分と接触していればよく、パターン形成されていてもよい。パターン形成する際は、
図3のように、電極140を介して熱電変換部120上にパターンを形成してもよいし、熱電変換部120上に直接パターンを形成してもよい。
【符号の説明】
【0075】
100 熱電発電デバイス
110 基材
120 熱電変換部
120a 熱電変換部(光熱変換部と接している高温側)
120b 熱電変換部(光熱変換部と接していない低温側)
130 光熱変換部
131 多孔質黒色顔料
132 バインダー成分
140 電極