(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】フランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管及びフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 37/08 20060101AFI20230301BHJP
B23K 26/262 20140101ALI20230301BHJP
【FI】
B21C37/08 A
B23K26/262
(21)【出願番号】P 2019004689
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小谷 浩生
(72)【発明者】
【氏名】今野 良佑
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 康信
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025335(JP,A)
【文献】特開2016-123995(JP,A)
【文献】特開2013-233579(JP,A)
【文献】特開2001-300672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/00-43/09;99/00
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板が管状に成形されてなり、かつ、管軸方向に沿って延在するレーザー溶接部を有する鋼管部と、
前記鋼管部の外周面から突出し、前記
レーザー溶接部に沿って延在する
フランジ部と、を備え
、ハイドロフォーム法による部品製造に用いられる素管であるフランジ付き鋼管であって、
前記フランジ部は、前記鋼管部をなす前記鋼板の一端が前記管軸方向に沿って折り曲げられて形成された前記鋼板の一部であって、曲げ部を介して前記鋼管部と一体にされており、
前記レーザー溶接部は、前記鋼板の他端と前記曲げ部との間に形成された隅肉溶接部であ
り、前記隅肉溶接部の溶接金属は、前記鋼管部の肉厚方向の全部に渡って形成されていることを特徴とするフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
【請求項2】
鋼板が管状に成形されてなり、かつ、管軸方向に沿って延在するレーザー溶接部を有する鋼管部と、
前記鋼管部の外周面から突出し、前記
レーザー溶接部に沿って延在する
2以上の相互に離間するフランジ部と、を備え
、ハイドロフォーム法による部品製造に用いられる素管であるフランジ付き鋼管であって、
2以上の前記フランジ部は
それぞれ、前記鋼管部をなす前記鋼板の一端
の一部が前記管軸方向に沿って折り曲げられて形成された前記鋼板の一部であって、曲げ部を介して前記鋼管部と一体にされており、
前記フランジ部が設けられた箇所における前記レーザー溶接部は、前記鋼板の他端と前記曲げ部との間に形成された隅肉溶接部であ
り、前記隅肉溶接部の溶接金属は、前記鋼管部の肉厚方向の全部に渡って形成されており、
前記フランジ部が設けられていない箇所における前記レーザー溶接部は、前記鋼板の他端と前記一端との間に形成された突き合わせ溶接部であり、前記突き合わせ溶接部の溶接金属は、前記鋼管部の肉厚方向の全部に渡って形成されていることを特徴とするフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
【請求項3】
前記レーザー溶接部は溶接欠損がなく前記管軸方向に沿って延在していることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
【請求項4】
前記隅肉溶接部には、前記鋼板の
他端側の第1溶接止端部と、前記曲げ部側の第2溶接止端部とがあり、
前記第1溶接止端部における角度が70°以下であり、
前記第2溶接止端部における角度が70°以下であることを特徴とする請求項1
乃至請求項3の何れか一項に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
【請求項5】
前記隅肉溶接部の
前記溶接金属のビッカース硬さが、前記鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上高いことを特徴とする請求項1乃至
請求項4の何れか一項に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
【請求項6】
前記隅肉溶接部の
前記溶接金属におけるMn量が、前記鋼板におけるMn量に対して95%以上であることを特徴とする請求項1乃至
請求項5の何れか一項に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
【請求項7】
ハイドロフォーム法による部品製造に用いられる素管であるフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法であって、
鋼板を管状に成形する際に、板長手方向に沿って一端が折り曲げられてフランジ部が形成された鋼板を、前記板長手方向を管軸方向とし、かつ、前記フランジ部が外周側に突出させるように管状に成形するか、または、
前記鋼板を管状に成形しつつ、前記鋼板の一端を
前記板長手方向に沿って外周側に折り曲げてフランジ部を形成する成形工程と、
前記フランジ部を形成させる際に前記鋼板に設けられた曲げ部と前記鋼板の他端とを突き合わせてレーザー溶接する溶接工程と、
を備え
、
前記溶接工程は、前記鋼板の肉厚方向全部に渡って溶接金属を形成するように溶接することを特徴とするフランジ付き板巻き
レーザー溶接鋼管の製造方法。
【請求項8】
前記
レーザー溶接において、溶接溶加材を供給しつつ溶接を行うことを特徴とする
請求項7に記載のフランジ付き
板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法。
【請求項9】
前記溶接溶加材は、直径が0.6~1.6mmの溶接ワイヤであることを特徴とする
請求項8に記載のフランジ付き
板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法。
【請求項10】
前記
レーザー溶接において、集光スポットにおけるビーム径が0.4~1mmであり、レーザーの入射角が前記フランジ
部に対して30~60°であり、管軸方向に対して75~105°であることを特徴とする
請求項7乃至請求項9の何れか一項に記載のフランジ付き
板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管及びフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化による燃費削減及びこれによるCO2排出削減、あるいは乗員保護のための衝突安全性向上を目的として、車体構造部材の薄肉化及び高強度化が望まれている。このニーズに対応するため、ハイドロフォーム法によって鋼管を所定の形状に成形してなる部品が採用され始めている。ハイドロフォーム法(液圧拡管成形法)は、内部形状が最終製品形状である割型の内部に素管を入れ、素管の端部から素管内に液を導入して内圧をかけ、両管端から押込み用シリンダーで管軸方向に圧縮荷重を付加して押込み、素管最終形状に成形する方法であり、バルジ加工法の一種とされる。
【0003】
金属管にハイドロフォーム法を適用して所定の部品とすることで、部品点数削減による部品軽量化、複雑形状部品の一体成形と高精度化が可能となり、その結果、自動車の軽量化及びコストダウンが可能となる。
【0004】
ところで、自動車部品は一般に、金属板をプレス成形し、プレス成形品同士をスポット溶接やマッシュシーム溶接で接合することによって製造している。プレス成形品には、プレス成形品同士を溶接するためのフランジ部が付与されている。このため、プレス成形品から製造された自動車部品は、重ね合わされたフランジ部を有している。このような自動車部品を他の自動車部品に接合する際には、このフランジ部を利用して部品同士を溶接したり、締結したりしていた。
【0005】
一方、ハイドロフォーム法によって製造された部品(以下、ハイドロフォーム部品という)は、金属管を素材とするものであるため、溶接のためのフランジ部が当初から有していない。そのため、従来のようなフランジ部を利用した部品間の溶接接合は、ハイドロフォーム部品には適用できない。したがって、ハイドロフォーム部品を自動車部品に適用するためには、ハイドロフォーム部品にフランジ部材を接合する必要があった、また、ハイドロフォーム部品とフランジ部材とを接合するための設備も新たに必要であった。
【0006】
このような問題を解決するため、特許文献1には、鋼板を管状に成形してから溶接することによって鋼管を成形する方法において、鋼管の端部同士を重ね合うように成形し、次いで、重ね合わせ部をレーザー溶接により接合して鋼管部を成形し、次いで、外周側に重ね合わせた鋼板の端部の未溶接部分を曲げ加工により立ち上げさせてフランジ部とする、フランジ付きの鋼管の製造方法が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載のフランジ付き鋼管の製造方法では、鋼板が高強度化するにつれて、鋼管部の形状を維持したまま、フランジ部のみを曲げ加工で成形することが困難になりつつある。
また、特許文献1に記載の製法によって得られたフランジ付き鋼管は、鋼管部の成形後に曲げ加工によってフランジ部を成形させたものであるため、曲げ部において塑性ひずみが残留したままとなり、その後のハイドロフォーム加工に支障をきたすおそれがある。
【0008】
また、フランジ付き鋼管の製造方法の別の例として、鋼管を上下の金型の間にセットして通電加熱し、次いで、上下の金型の間隔を狭めた状態で鋼管内に高圧空気を供給することで上下の金型間の隙間に鋼管の一部を膨出させ、次いで、更に上下の金型を下死点に至らしめることで、膨出した部分を上下の金型で潰してフランジ状に形成し、更に、金型を水冷して素材を焼き入れすることで素材を高強度化させるフランジ付き鋼管の製造方法が知られている。しかし、この方法で形成されたフランジ部は、鋼管の一部を膨出させてから上下の金型で潰すことにより形成されるため、フランジ部は鋼管の一部が重ね合わされたものとなる。そのため、フランジ部の厚みは鋼管の肉厚の約2倍となる。これは、軽量化の目的に反する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、フランジ部近傍の塑性ひずみが低減され、軽量化が達成され、かつ、フランジ部の接合強度に優れたフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鋼板が管状に成形されてなり、かつ、管軸方向に沿って延在するレーザー溶接部を有する鋼管部と、
前記鋼管部の外周面から突出し、前記レーザー溶接部に沿って延在するフランジ部と、を備え、ハイドロフォーム法による部品製造に用いられる素管であるフランジ付き鋼管であって、
前記フランジ部は、前記鋼管部をなす前記鋼板の一端が前記管軸方向に沿って折り曲げられて形成された前記鋼板の一部であって、曲げ部を介して前記鋼管部と一体にされており、
前記レーザー溶接部は、前記鋼板の他端と前記曲げ部との間に形成された隅肉溶接部であり、前記隅肉溶接部の溶接金属は、前記鋼管部の肉厚方向の全部に渡って形成されていることを特徴とするフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
[2] 鋼板が管状に成形されてなり、かつ、管軸方向に沿って延在するレーザー溶接部を有する鋼管部と、
前記鋼管部の外周面から突出し、前記レーザー溶接部に沿って延在する2以上の相互に離間するフランジ部と、を備え、ハイドロフォーム法による部品製造に用いられる素管であるフランジ付き鋼管であって、
2以上の前記フランジ部はそれぞれ、前記鋼管部をなす前記鋼板の一端の一部が前記管軸方向に沿って折り曲げられて形成された前記鋼板の一部であって、曲げ部を介して前記鋼管部と一体にされており、
前記フランジ部が設けられた箇所における前記レーザー溶接部は、前記鋼板の他端と前記曲げ部との間に形成された隅肉溶接部であり、前記隅肉溶接部の溶接金属は、前記鋼管部の肉厚方向の全部に渡って形成されており、
前記フランジ部が設けられていない箇所における前記レーザー溶接部は、前記鋼板の他端と前記一端との間に形成された突き合わせ溶接部であり、前記突き合わせ溶接部の溶接金属は、前記鋼管部の肉厚方向の全部に渡って形成されていることを特徴とするフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
[3] 前記レーザー溶接部は溶接欠損がなく前記管軸方向に沿って延在していることを特徴とする[1]または[2]に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
[4] 前記隅肉溶接部には、前記鋼板の他端側の第1溶接止端部と、前記曲げ部側の第2溶接止端部とがあり、
前記第1溶接止端部における角度が70°以下であり、
前記第2溶接止端部における角度が70°以下であることを特徴とする[1]乃至[3]の何れか一項に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
[5] 前記隅肉溶接部の前記溶接金属のビッカース硬さが、前記鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上高いことを特徴とする[1]乃至[4]の何れか一項に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
[6] 前記隅肉溶接部の前記溶接金属におけるMn量が、前記鋼板におけるMn量に対して95%以上であることを特徴とする[1]乃至[5]の何れか一項に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管。
[7] ハイドロフォーム法による部品製造に用いられる素管であるフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法であって、
鋼板を管状に成形する際に、板長手方向に沿って一端が折り曲げられてフランジ部が形成された鋼板を、前記板長手方向を管軸方向とし、かつ、前記フランジ部が外周側に突出させるように管状に成形するか、または、前記鋼板を管状に成形しつつ、前記鋼板の一端を前記板長手方向に沿って外周側に折り曲げてフランジ部を形成する成形工程と、
前記フランジ部を形成させる際に前記鋼板に設けられた曲げ部と前記鋼板の他端とを突き合わせてレーザー溶接する溶接工程と、
を備え、
前記溶接工程は、前記鋼板の肉厚方向全部に渡って溶接金属を形成するように溶接することを特徴とするフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法。
[8] 前記レーザー溶接において、溶接溶加材を供給しつつ溶接を行うことを特徴とする[7]に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法。
[9] 前記溶接溶加材は、直径が0.6~1.6mmの溶接ワイヤであることを特徴とする[8]に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法。
[10] 前記レーザー溶接において、集光スポットにおけるビーム径が0.4~1mmであり、レーザーの入射角が前記フランジ部に対して30~60°であり、管軸方向に対して75~105°であることを特徴とする請求項[7]乃至[9]の何れか一項に記載のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管のフランジ部は、鋼管部をなす鋼板の一端が折り曲げられて形成された鋼板の一部であって、曲げ部を介して鋼管部と一体にされたものであるから、フランジ部の肉厚は鋼管部の肉厚と同じ厚みになる。これにより、フランジ部の肉厚が鋼管の肉厚の2倍になる従来品に比べて、本発明のフランジ付き鋼管は軽量化が可能になる。
また、フランジ部は、曲げ部を介して鋼管部と一体になっているものであるから、溶接によって鋼管部にフランジ部を取り付けた従来品に比べて、鋼管部に対するフランジ部の接合強度を高くすることができる。
更に、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管のレーザー溶接部は、鋼板の他端が曲げ部に突き合わされて溶接された隅肉溶接部であるので、溶接時の入熱によって転位密度が低減され、曲げ部の塑性ひずみが低減されたものになる。この曲げ部の塑性ひずみは、成形後の鋼管部に対し曲げ加工を施すことでフランジ部を形成させた従来品の塑性ひずみよりも小さくすることができる。
以上のように、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管は、従来品に比べて、塑性ひずみが低減され、軽量化が達成され、フランジ部の接合強度にも優れたものとなる。
【0013】
更に、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管によれば、鋼管部を構成する鋼板とフランジ部とが一体にされ、かつ、フランジ部の基端となる曲げ部に鋼板の他端が突き合わされた構造を有するため、フランジ部に対してその突出方向に向けて応力を印加させた際に溶接部付近に生じる相当塑性ひずみが、重ね溶接により鋼管部を形成後に曲げ加工によりフランジ部を形成した従来品の相当塑性ひずみに比べて、大幅に低減されたものとなる。
【0014】
また、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管は、溶接部がレーザー溶接部であるので、鋼管部の肉厚方向全部に溶接金属を形成させることができ、溶接部の接合強度を高めることができる。これにより、本発明のフランジ付き鋼管を素材とするハイドロフォーム加工において高圧の流体を導入でき、ハイドロフォーム加工の加工性をより高めることができる。
【0015】
また、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管は、隅肉溶接部の第1溶接止端部及び第2溶接止端部の角度がそれぞれ70°以下であるので、フランジ部及び鋼管部の間での引張応力や、鋼管部の周方向への引張応力が印加された場合であっても、応力の集中を低減することができる。
【0016】
また、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管のレーザー溶接部は、ビッカース硬さが、鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上高い溶接金属を有するので、レーザー溶接部の接合強度をより一層高めることができ、更には、ハイドロフォーム加工の加工性をより高めることができる。
【0017】
また、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管のレーザー溶接部は、前記鋼板におけるMn量に対して95%以上のMnを含有する溶接金属を有するので、溶接金属の強度の低下を抑制できる。
【0018】
次に、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法は、フランジ部を有するフランジ付き鋼板を管状に成形する成形工程と、フランジ部の形成に伴って設けられた曲げ部にフランジ付き鋼板の他端を突き合わせて溶接する溶接工程を備えるので、従来方法のように溶接工程後にフランジ部を取り付ける必要がなく工程の簡素化が図られる。また、曲げ部に隅肉溶接部を形成するので、曲げ部に残存していたフランジ部形成時の塑性ひずみを低減させることができる。
【0019】
また、本発明のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管の製造方法によれば、溶接がレーザー溶接方法であるので、鋼管部の肉厚方向全部に溶接金属を形成させることができ、レーザー溶接部の接合強度を高めることができる。これにより、本発明のフランジ付き鋼管を素材とするハイドロフォーム加工において高圧の流体を導入でき、ハイドロフォーム加工の加工性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態であるフランジ付き鋼管の一例を示す側面模式図。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施形態であるフランジ付き鋼管の他の例を示す側面模式図。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態であるフランジ付き鋼管の要部の断面模式図。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態であるフランジ付き鋼管の製造方法を説明する工程模式図。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態であるフランジ付き鋼管の製造方法における溶接工程を説明する斜視模式図。
【
図6】
図6は、比較例のフランジ付き鋼管の製造方法を説明する工程模式図。
【
図7】
図7は、比較例のフランジ付き鋼管の要部の断面模式図。
【
図8】
図8は、実施例のフランジ付き鋼管のフランジ部に応力を印加した場合の相当応力及び相当塑性歪みを示すコンター図。
【
図9】
図9は、比較例のフランジ付き鋼管のフランジ部に応力を印加した場合の相当応力及び相当塑性歪みを示すコンター図。
【
図10】
図10は、第1溶接止端部における角度と相当応力との関係を示すグラフ。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態であるフランジ付き鋼管の製造方法の別の例を説明する工程模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管及びその製造方法について説明する。
本実施形態のフランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管(以下、フランジ付き鋼管という)は、鋼板が管状に成形されてなり、かつ、管軸方向に沿って延在するレーザー溶接部を有する鋼管部と、鋼管部の外周面から突出し、レーザー溶接部に沿って延在する1または2以上のフランジ部と、を備え、フランジ部は、鋼管部をなす鋼板の一端が管軸方向に沿って折り曲げられて形成された鋼板の一部であって、曲げ部を介して鋼管部と一体にされており、レーザー溶接部は、鋼板の他端と曲げ部との間に形成された隅肉溶接部である。また、曲げ部は、鋼板の一部が溶接前に塑性加工を受けることよって形成されたフランジ付き鋼管である。
【0022】
本発明に関して発明者が鋭意調査した結果、以下のような知見を得た。
(1)鋼管にフランジ部を取り付ける場合、その後のハイドロフォームによる加工やフランジ部と他の部材を接合することを考慮すると、隅肉溶接が優れている。
(2)隅肉溶接にはフランジ部と溶接金属、鋼管部と溶接金属との間に角度や溶着金属量などの適切な条件が必要である。
(3)また、鋼管部材をそのまま一体でフランジ部を成形する場合、成型後に塑性加工による歪を除去する必要がある。望ましくは所定の温度で熱処理する必要がある。
本発明のフランジ付き鋼管では、フランジ部と鋼管部との間に隅肉溶接部が形成される。また、フランジ部は、鋼管部をなす鋼板の一端が管軸方向に沿って折り曲げられて形成された鋼板の一部であるところ、レーザー溶接時の溶接入熱によって折り曲げられた曲げ部付近の転位密度が軽減されるとともに、塑性ひずみも軽減される。これにより、ハイドロフォームによる加工を受けた場合であってもレーザー溶接部が破損するおそれがなく、また、フランジ部に他の部材を接合した場合であっても、疲労特性などの特性に優れたものとなる。
【0023】
また、溶接属に欠損(いわゆる溶接欠損)があると、たとえばアンダーカットなどが発生して所定の強度が得られず、溶接金属近傍で破壊するため、溶接欠損はなくす必要がある。
また、隅肉溶接部の溶接止端部の角度が70°以下にすることで、止端部に集中する相当ひずみを低減できる。望ましくは60°以下がよい。
更に、レーザー溶接部からの破壊を抑制するために、一般に溶接では母材強度よりも溶接金属の硬度を高くする。本発明においては、レーザー溶接によって溶接金属のビッカース硬さを鋼板(鋼管部)1.2倍程度の硬さとするので、溶接金属からの破壊を抑制できる。
また、レーザー溶接によって形成された溶接金属では、酸素との親和力の高いMnの含有量が低下する傾向がある。Mn含有量が低くなると溶接金属の強度低下を招くので、鋼板のMn含有量の95%以上にする必要がある。溶接欠損の低減やMnの歩留まり低減を抑制するために、レーザー溶接時に溶接溶加材を添加しつつ溶接を行うことが好ましい。
【0024】
鋼管部をなす鋼板は、例えば、引張強度が980MPa以上、1180MPa以上または1470MPa以上の高強度鋼板を素材とすることが好ましい。また、鋼板は、所謂DP鋼(DP:Dual Phase)またはTRIP鋼(TRIP:Transformation Induced Plasticity)であることが好ましい。ただし、TRIP鋼はSi含有量が高いため、抵抗溶接による接合は困難であり、レーザー溶接による接合が好ましい。
【0025】
また、鋼板の厚みt(鋼管部の肉厚及びフランジ部の肉厚)は、例えば、1.4mm以下であることが好ましい。また、鋼板の厚みすなわち鋼管部の肉厚t(mm)と鋼管部の外径D(mm)との比率t/Dは、1.8%以下であってもよい。以上説明した鋼板の例は一例であり、これ以外の他の鋼板を用いてもよい。
【0026】
また、レーザー溶接部は、鋼板の他端と曲げ部との間に形成された溶接金属を有しており、溶接金属のビッカース硬さが、鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上高いことが好ましい。なお、ビッカース硬さの測定荷重は10gとし、ビッカース硬さの測定箇所は、鋼管部及び溶接金属の管軸方向に垂直な横断面とする。
【0027】
曲げ部は、レーザー溶接部の熱影響部に含まれることが好ましい。すなわち、曲げ部には溶接時の入熱が加えられていることが好ましい。
【0028】
本実施形態のフランジ付き鋼管は、そのまま自動車部品として用いられてもよいし、ハイドロフォーム法の素管として用いられてもよい。ハイドロフォーム法によって所定の形状に加工されたフランジ付き鋼管は、自動車部品として用いられる。
【0029】
次に、本実施形態のフランジ付き鋼管の製造方法は、鋼板を管状に成形する際に、板長手方向に沿って一端が折り曲げられてフランジ部が形成された鋼板を、板長手方向を管軸方向とし、かつ、フランジ部が外周側に突出させるように管状に成形するか、または、鋼板を管状に成形しつつ、鋼板の一端を板長手方向に沿って外周側に折り曲げてフランジ部を形成する成形工程と、フランジ部を形成させる際に鋼板に設けられた曲げ部と鋼板の他端とを突き合わせてレーザー溶接する溶接工程と、を備える。
【0030】
フランジ付き鋼板は、予め、鋼板の一端を板長手方向に沿って折り曲げてフランジ部を形成したものを用いることが好ましい。または、鋼管成型時に鋼板の一端を板長手方向に沿って外周側に折り曲げてフランジ部を形成することが好ましい。
【0031】
成形工程は、プレス成形法により鋼板を管状に成形することが好ましいが、成形工程はプレス成形法以外の他の成形方法を用いてもよい。
【0032】
前述のように、溶接欠損や溶接金属のMn含有量の低下を抑制するためには、母材以外の溶接溶加材を供給することが有効である。
溶接溶加材は溶接ワイヤが一般的であるが、板やパウダーでも問題ない。溶接ワイヤを用いる場合、ワイヤの直径は0.6~1.6mmが好ましい。0.6mm以下では溶着金属量が少なく、また、1.6mmを超えるとレーザーの母材への照射を著しく妨げる。望ましくはワイヤの直径は0.9~1.2mmがよい。
【0033】
レーザー溶接方法は、集光スポットにおけるビーム径を0.4~1mmとするとよい。0.4mm未満では溶接部全体を溶融できない。また、ビーム径が1mmを超えると、十分なパワー密度が得られない。
【0034】
また、レーザーの入射角を、フランジ部に対して30~60°としたのは、溶接予定の突合せ箇所に安定してレーザービームを集光するためである。また、管軸に対しては75~105°の範囲の方向から照射するのが好ましく、90°の方向から照射するのが最適である。75~105°の範囲外での照射はビームホール形成に大きなエネルギーを必要とすることになる。
【0035】
溶接工程においては、少なくともレーザーの照射箇所に不活性ガスをパージさせながらレーザー溶接してもよい。
【0036】
以下、図面を参照しつつ、フランジ付き鋼管及びその製造方法を説明する。
図1Aに、本実施形態のフランジ付き鋼管の一例を側面模式図によって示す。
図1Bには、フランジ付き鋼管の平面模式図を示す。また、
図1Cには、
図1Aのa-a’線における断面模式図を示す。
【0037】
図1A、
図1B及び
図1Cに示すフランジ付き鋼管1は、鋼管部2と、1つのフランジ部3とを備えている。鋼管部2は、鋼板が管状に成形されて構成されている。鋼管部2にはレーザー溶接部4が形成されている。レーザー溶接部4は、鋼管部2の管軸方向に沿って延在している。また、フランジ部3は、鋼管部2の外周面2Aから突出し、レーザー溶接部4に沿って延在している。
図1A及び
図1Bに示すフランジ付き鋼管1のフランジ部3は、鋼管部2の管軸方向に沿って延在する、連続した1つのフランジ部である。
【0038】
鋼管部2は、平面視矩形の鋼板を切り出し、鋼板の幅方向のいずれか一方の端部を折り曲げてフランジ部を形成し、このフランジ付きの鋼板を、板長手方向が管軸方向となるように、かつ、フランジ部の突出方向が鋼管の外周側に向くように管状に成形し、溶接することで形成される。
【0039】
フランジ部3は、鋼管部2をなす鋼板の一端2aが管軸方向に沿って折り曲げられて形成された鋼板の一部である。フランジ部3は、曲げ部2bを介して鋼管部2と一体にされている。言い換えると、フランジ部3は、鋼管部2の一部が鋼管部2の外周面から突出されたものである。なお、「一体にされている」とは、鋼管部2とフランジ部3とが溶接等の手段によって接合されたものではないことを意味する。
【0040】
鋼管部2及びフランジ部3は、元は同じ鋼板から構成されている。鋼管部2及びフランジ部3の素材である鋼板は、引張強度が980MPa以上、1180MPa以上または1470MPa以上の高強度鋼板であることが好ましい。また、鋼板は、所謂DP鋼またはTRIP鋼であることが好ましい。また、鋼板の厚みt(鋼管部の肉厚及びフランジ部の肉厚)は、例えば、1.4mm以下であることが好ましい。また、鋼板の厚みすなわち鋼管部2の肉厚t(mm)と鋼管部2の外径D(mm)との比率t/Dは、1.8%以下であってもよい。
【0041】
次にレーザー溶接部4について
図1A~
図1C及び
図3を参照しつつ説明する。
図3はレーザー溶接部4の拡大断面模式図である。これらの図に示すように、レーザー溶接部4は、鋼管部2をなす鋼板の他端2cが、曲げ部2bに突き合わされて溶接された隅肉溶接部である。レーザー溶接部4は、レーザー溶接法によって形成された溶接部である。レーザー溶接部4には、溶接金属4aが形成されている。溶接金属4aは、鋼管部2をなす鋼板の他端2cと、曲げ部2bとの間に形成されている。溶接金属4aは、鋼管部2の外周面2A及び内周面2Bからそれぞれ露出している。すなわち、溶接金属4aは、鋼管部2の肉厚方向全部に渡って形成されている。また、溶接金属4aの周囲には熱影響部4bが存在する。特に、曲げ部2b側の熱影響部4bは、鋼管部2の外周面2Aに近い範囲まで広がっている。
【0042】
レーザー溶接部4には、鋼板の他端部2c側の第1溶接止端部Aと、曲げ部2b側の第2溶接止端部Bとがある。第1溶接止端部Aにおける角度θは、70°以下とされている。また、第2溶接止端部Bにおける角度ψも70°以下とされている。角度θ、ψはより好ましくは60°以下がよい。角度θ、ψがそれぞれ70°以下とすることで、フランジ部3及び鋼管部2の間での引張応力や、鋼管部2の周方向への引張応力が印加された場合であっても、各溶接止端部A、Bにおける応力の集中を低減することができる。第1溶接止端部Aにおける角度θは、
図3に示すように、鋼管部2の表面とレーザー溶接部4とのなす角度であり、第2溶接止端部Bにおける角度ψは、フランジ部3の表面とレーザー溶接部4とのなす角度である。なお、フランジ部3の突出方向は鋼管部2の径方向にほぼ一致する。言い換えると、フランジ部3の突出方向は、鋼管部2の表面に仮想的に設けた接線に対して、ほぼ90°の方向に突出する。従って、第1溶接止端部Aにおける角度θと第2溶接止端部Bにおける角度ψの合計は、理想的にはほぼ90°となる関係にある。
【0043】
溶接金属4aのビッカース硬さは、鋼管部2をなす鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上高いことが好ましい。これにより、レーザー溶接部4の接合強度が向上する。好ましくは1.4倍以上がよい。
【0044】
なお、鋼管部4の内径は、鋼管部4の全周に渡ってほぼ均一になっている。これは、本実施形態のレーザー溶接部4が隅肉溶接部であって、従来品のように重ね溶接ではなく、鋼板同士の重なり部分がないためである。このため、本実施形態のフランジ付き鋼管は、重ね溶接によって管状に成形された従来品に比べて、ハイドロフォーム法における加工性が良好になる。
【0045】
次に、本実施形態のフランジ付き鋼管の別の例を
図2A~
図2Dを参照しつつ説明する。
図2Aには、本実施形態のフランジ付き鋼管の別の例を側面模式図によって示す。
図2Bには、フランジ付き鋼管の平面模式図を示す。また、
図2Cには
図2Aのb-b’線における断面模式図を、
図2Dには
図2Aのc-c’線における断面模式図を、それぞれ示す。
【0046】
図2A~
図2Dに示すフランジ付き鋼管11と
図1A~
図1Cに示すフランジ付き鋼管1との違いはフランジ部の数であり、
図2A~
図2Dに示すフランジ付き鋼管11は複数のフランジ部13を備えている。具体的には、4つのフランジ部13A~13Dを備えている。以下、フランジ部の違いを中心に説明する。
【0047】
図2A~
図2Dに示すフランジ付き鋼管11は、鋼管部12と、4つのフランジ部13A~13Dを備えている。鋼管部12は、鋼板が管状に成形されて構成されている。鋼管部12にはレーザー溶接部14が形成されている。レーザー溶接部14は、鋼管部2の管軸方向に沿って延在している。また、フランジ部13A~13Dは、鋼管部12の外周面12Aから突出し、レーザー溶接部14に沿って延在している。フランジ付き鋼管11のフランジ部13A~13Dはそれぞれ、鋼管部2の管軸方向に沿って延在している。また、各フランジ部13A~13Dは連続せず、独立した別々のフランジ部となっている。
【0048】
鋼管部12は、平面視矩形の鋼板を切り出し、鋼板の幅方向のいずれか一方の端部に複数の切り欠け部を設けるとともに、切り欠け部が設けられなかった箇所を折り曲げて複数のフランジ部とし、このフランジ付きの鋼板を、板長手方向が管軸方向となるように、かつ、フランジ部の突出方向が鋼管の外周側に向くように管状に成形し、レーザー溶接することで形成される。
【0049】
各フランジ部13A~13Dは、鋼管部12をなす鋼板の一端12aが管軸方向に沿って折り曲げられて形成された鋼板の一部である。フランジ部13A~13Dは、曲げ部12bを介して鋼管部12と一体にされている。
【0050】
図2Cには、フランジ部13Bが設けられた箇所における鋼管部12の断面図を示す。この断面形状は、
図1Cに示した断面形状と同一である。すなわち、フランジ部13A~13Dの構成は、
図1A~
図1Cに示すフランジ付き鋼管1のフランジ部3の構成とほぼ同じである。
【0051】
次に、レーザー溶接部14について
図2A~
図2Dを参照しつつ説明する。
図2Cに示すように、フランジ部が設けられている箇所におけるレーザー溶接部14は、鋼管部12をなす鋼板の他端12cが、曲げ部12bに突き合わされて溶接された隅肉溶接部である。フランジ部が設けられている箇所におけるレーザー溶接部14の断面形状は、
図1Cまたは
図3に示した断面形状と同一である。
【0052】
また、
図2Dに示すように、フランジ部が設けられていない箇所におけるレーザー溶接部14は、鋼管部12をなす鋼板の他端12cが、鋼板の端部12dに突き合わされて溶接された溶接部である。鋼板の端部12dは、鋼管部に成形前に切り欠け部が設けられた箇所における鋼板の端部である。
【0053】
レーザー溶接部14は、レーザー溶接法によって形成された溶接部である。レーザー溶接部14には、
図3に示したレーザー溶接部4と同様に溶接金属が形成されている。溶接金属は、鋼管部12の外周面12A及び内周面12Bからそれぞれ露出しており、鋼管部12の肉厚方向全部に渡って形成されている。溶接金属のビッカース硬さは、鋼管部12をなす鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上高いことが好ましい。
【0054】
次に、
図4を参照しつつ、本実施形態のフランジ付き鋼管の製造方法を説明する。
図4は、フランジ付き鋼管の製造方法を説明するための断面模式図である。なお、以下に説明する製造方法は、
図1A~
図1Cに示したフランジ付き鋼管1の製造方法であるが、
図2A~
図2Dに示したフランジ付き鋼管11であっても、以下に説明する方法によって製造可能である。
【0055】
本実施形態のフランジ付き鋼管の製造方法は、フランジ部が形成された鋼板を管状に成形する成形工程と、レーザー溶接を行う溶接工程とを備える。なお、成形工程の前に、鋼板に曲げ加工を施してフランジ部を設ける前処理工程を行ってもよい。
【0056】
前処理工程では、
図4に示すように、平面視矩形に成形された鋼板22を用意する。次に、鋼板の幅方向の一端2aを板長手方向に沿って折り曲げてフランジ部3を形成する。このようにして、フランジ付き鋼板32を製造する。
【0057】
次に、成形工程では、
図4に示すように、フランジ付き鋼板32の板長手方向が管軸方向となるように、かつ、フランジ部3の突出方向が鋼管の外周側に向くように管状に成形する。フランジ付き鋼板32を管状に成形する方法について特に制限はないが、プレス成形方法を用いることが好ましい。すなわち、フランジ付き鋼板32の板幅方向に沿って徐々に曲げ加工を行うことで、管状に成形すればよい。
【0058】
次に、溶接工程では、
図4に示すように、管状に成形したフランジ付き鋼板32の他端2cを、フランジ部3の形成に伴って設けられた曲げ部2bに突き合わせ、突き合わせ箇所にレーザービームLを照射することにより、他端2cと曲げ部2bとを間にレーザー溶接部4を形成する。このようにして鋼管部2を形成する。レーザービームLは、
図5に示すように管状に成形したフランジ付き鋼板32の管軸方向(板長手方向)に沿って相対移動させながら照射する。これにより、管軸方向に沿ってレーザー溶接部4が形成される。
【0059】
レーザービームLの照射箇所には、不活性ガスを吹き付けることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、Ar(アルゴン)とCO2の混合ガスでもよく、窒素ガスでもよい。レーザービームLの照射箇所では鋼が部分的に加熱されて酸化されやすい状態になるが、不活性ガスを吹き付けることで鋼の酸化が防止される。レーザー溶接方法では鋼の加熱領域が比較的狭いため、不活性ガスを吹き付けることで溶接箇所の酸化を十分に抑制できる。
【0060】
また、溶接欠損や溶接金属のMn含有量の低下を抑制するために、溶接溶加材を供給しつつ溶接を行ってもよい。溶接溶加材として溶接ワイヤを用いる場合、ワイヤの直径を0.6~1.6mmとすることが好ましい。また、レーザー溶接方法は、集光スポットにおけるビーム径を0.4~1mmとするとよい。更に、レーザービームの入射角を、フランジ部3に対して30~60°とすればよい。管軸に対するレーザービームの入射角は、75~105°の範囲の方向から照射するのが好ましい。
【0061】
また、曲げ部2bは成形加工を受けることによって塑性ひずみが導入された状態にあるが、レーザー溶接の際の入熱によって曲げ部2bがレーザー溶接部4の熱影響部に含まれることとなり、塑性ひずみが緩和されるようになる。
【0062】
また、
図11には、本実施形態のフランジ付き鋼管の製造方法の別の例を示す。
図11(a)に示すように鋼板20を用意し、次に、
図11(b)に示すように鋼板20の一部20aに曲げ加工を施し、次に、
図11(c)に示すように鋼板20の幅方向の一方の端部に対して折り曲げ加工を行ってフランジ部23を形成する。
【0063】
次に、
図11(d)に示すように、」鋼板20の幅方向の他方の端部20bを、曲げ加工を施した曲げ部20cに突き合わせ、最後に、
図11(e)に示すように、突き合わせ箇所にレーザー溶接部24を形成する。このように、本実施形態では、鋼板を管状に成形しつつ、鋼板の一端をいた長手方向に沿って外周側に折り曲げてフランジ部を形成し、更に、フランジ部を形成させる際に鋼板に設けられた曲げ部と鋼板の他端とを突き合わせてレーザー溶接することによって、フランジ付き鋼管を製造してもよい。
【0064】
以上説明したように、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11は、フランジ部3が、鋼管部2、12をなす鋼板の一端が折り曲げられて形成された鋼板の一部であって、曲げ部2bを介して鋼管部2、12と一体にされたものであるから、フランジ部3の肉厚は鋼管部2、12の肉厚と同じ厚みになる。これにより、フランジ部の肉厚が鋼管の肉厚の2倍になる従来品に比べて、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11は軽量化が可能になる。
【0065】
また、フランジ部3は、曲げ部2bを介して鋼管部2、12と一体になっているものであるから、隅肉溶接によって鋼管部にフランジ部を取り付けた従来品に比べて、鋼管部2、12に対するフランジ部3の接合強度を高くすることができる。
【0066】
更に、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11のレーザー溶接部4、14は、鋼板の他端2c、12cが曲げ部2bに突き合わされて溶接された隅肉溶接部であるので、溶接時の入熱によって転位密度が低減され、曲げ部2bの塑性ひずみが低減されたものになる。この曲げ部2bの塑性ひずみは、成形後の鋼管部2、12に対し曲げ加工を施すことでフランジ部3を形成させた従来品の塑性ひずみよりも小さくすることができる。
【0067】
以上のように、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11は、従来品に比べて、塑性ひずみが低減され、軽量化が達成され、フランジ部3の接合強度にも優れたものとなる。
【0068】
更に、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11によれば、鋼管部2、12を構成する鋼板とフランジ部3とが一体にされ、かつ、フランジ部3の基端となる曲げ部2bに鋼板の他端2c、12cが突き合わされた構造を有するため、フランジ部3に対してその突出方向に向けて応力を印加させた際にレーザー溶接部4、14付近に生じる相当塑性ひずみが、重ね溶接により鋼管部2を形成後に曲げ加工によりフランジ部3を形成した従来品の相当塑性ひずみに比べて、大幅に低減されたものとなる。
【0069】
また、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11は、溶接部がレーザー溶接部4、14であるので、鋼管部2、12の肉厚方向全部に溶接金属4aを形成させることができ、レーザー溶接部4、14の接合強度を高めることができる。これにより、フランジ付き鋼管1、11を素材とするハイドロフォーム加工において高圧の流体を導入でき、ハイドロフォーム加工の加工性をより高めることができる。
【0070】
また、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11は、隅肉溶接部の第1溶接止端部A及び第2溶接止端部Bの角度θ、ψがそれぞれ70°以下であるので、フランジ部3及び鋼管部2の間での引張応力や、鋼管部2の周方向への引張応力が印加された場合であっても、応力の集中を低減することができる。
【0071】
また、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11のレーザー溶接部4、14は、ビッカース硬さが、鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上高い溶接金属4aを有するので、レーザー溶接部4、14の接合強度をより一層高めることができ、更には、ハイドロフォーム加工の加工性をより高めることができる。
【0072】
また、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11のレーザー溶接部4、14は、鋼板におけるMn量に対して95%以上のMnを含有する溶接金属4aを有するので、溶接金属4aの強度の低下を抑制できる。
【0073】
また、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11の曲げ部2bは、レーザー溶接部4、14の熱影響部4bに含まれるので、塑性ひずみが低減されたものとなる。この曲げ部2bの塑性歪みは、成形後の鋼管部2に対し曲げ加工を施すことで、フランジ部を形成させた従来品の塑性ひずみよりも小さくなっている。このように、本実施形態のフランジ付き鋼管1、11は、曲げ部2bの塑性ひずみを、従来品よりもより小さくすることができる。
【0074】
次に、本実施形態のフランジ付き鋼管の製造方法は、フランジ部3を有するフランジ付き鋼板22を管状に成形する成形工程と、フランジ部3の形成に伴って設けられた曲げ部2bにフランジ付き鋼板22の他端2cを突き合わせて溶接する溶接工程を備えるので、従来方法のように溶接工程後にフランジ部を取り付ける必要がなく工程の簡素化が図られる。また、曲げ部2bに隅肉溶接部を形成するので、曲げ部2bに残存していたフランジ部形成時の塑性ひずみを低減させることができる。
【0075】
また、本実施形態のフランジ付き鋼管の製造方法によれば、溶接がレーザー溶接方法であるので、鋼管部2、12の肉厚方向全部に溶接金属4aを形成させることができ、レーザー溶接部4、14の接合強度を高めることができる。これにより、フランジ付き鋼管1、11を素材とするハイドロフォーム加工において高圧の流体を導入でき、ハイドロフォーム加工の加工性をより高めることができる。
【実施例】
【0076】
本発明のフランジ付き鋼管において、フランジ部に対してその突出方向に向けて応力を印加させた際の溶接部付近に生じる相当塑性ひずみが、従来品に比べて大幅に低下することを実施例により説明する。
【0077】
実施例として、
図1A~
図1C及び
図3に示すフランジ付き鋼管を製造した。素材として用いた鋼板は、引張強度が980MPaの高強度鋼板とした。この高強度鋼板はDP鋼であった。鋼板の板厚は1mmとした。鋼管部の外径は80mmとした。鋼管部の外周面からのフランジ部の突出高さは、20mmであった。
【0078】
レーザー溶接は6kW級のディスクレーザーを使用し、溶接溶加材は市販の100k級の直径0.9mmのマイクロワイヤを使用し、ビーム径が集光スポットで0.8mmとし、レーザーの入射角はフランジ部に対して45°とし、管軸方向に対して90°とした。
【0079】
なお、マイクロワイヤを溶接溶加材として使用したため、溶接金属に含有されるMn量は。カントバック分析によって測定したところ、母材鋼板とほぼ同じであり、母材鋼板のMn量に対して100%であった。
【0080】
また、実施例のフランジ付き鋼管において、溶接金属のビッカース硬さと、鋼管部のビッカース硬さをそれぞれ測定したところ、溶接金属のビッカース硬さは、鋼管部のビッカース硬さよりも1.2倍以上高かった。
【0081】
次に、比較例のフランジ付き鋼管を製造した。比較例のフランジ付き鋼管は、
図6に示すように、管状に成形した鋼板52の重ね合わせ部52aに、レーザー溶接法により溶接部64を形成して鋼管部62とし、重ね合わせ部52aの未溶接箇所を曲げ加工により立ち上がらせてフランジ部63としたものである。比較例のフランジ付き鋼管の素材となる鋼板52は、実施例と同じものを用いた。
図7には、比較例のフランジ付き鋼管の溶接部64の断面模式図を示す。
図7に示す比較例のフランジ付き鋼管は、素材となる鋼板の重ね合わせ部52aに、重ね溶接によって形成された溶接部64が形成された。そして、鋼板の端部が曲げ加工により曲げられてフランジ部63とされた。
【0082】
実施例及び比較例のフランジ付き鋼管の鋼管部を拘束した状態で、それぞれのフランジ部をその突出方向に1mm変位させる引張応力を印加させたときの、溶接部付近における相当応力及び相当塑性ひずみを測定した。
図8に、実施例のフランジ付き鋼管の相当応力及び相当塑性歪みをコンター図で示す。また、
図9に、比較例のフランジ付き鋼管の相当応力及び相当塑性歪みのコンター図を示す。
図8(a)及び
図9(a)はそれぞれ、フランジ付き鋼管のフランジ部及び溶接部付近の模式図であり、
図8(b)及び
図9(b)はそれぞれ、フランジ付き鋼管のフランジ部及び溶接部付近の相当応力の分布を示すコンター図であり、
図8(c)及び
図9(c)はそれぞれ、フランジ付き鋼管のフランジ部及び溶接部付近の相当塑性ひずみの分布を示すコンター図である。
【0083】
図8に示すように、実施例のフランジ付き鋼管は、第1溶接止端部Aに相当応力及び相当塑性ひずみが集中しているのに対して、比較例では、重ね合わせ部の下側の鋼管部65に相当応力及び相当塑性ひずみが集中していることが分かる。また、表1に示すように、実施例及び比較例における相当応力の最大値及び相当塑性ひずみの最大値を比較すると、比較例よりも実施例のほうが低下していることが分かる。従って実施例のフランジ付き鋼管は、フランジ部に引っ張り応力が印加された場合であっても、相当応力及び相当塑性ひずみが特定の部位に集中することが避けられ、フランジ部への引張応力に対して有利な構造であることが分かる。
【0084】
次に、
図1A~
図1C及び
図3に示すフランジ付き鋼管について、第1溶接止端部Aの角度を10°~80°に変化させたものを用意した。角度を変化させた以外は上記実施例のフランジ付き鋼管と同様の構成とした。そして、鋼管部の周方向に引張応力を印加した場合の、第1溶接止端部における最大相当応力を測定した。結果を
図10に示す。なお、第1溶接止端部Aにおける角度θと第2溶接止端部Bにおける角度ψの合計は、ほぼ90°になる関係にある。
【0085】
図10に示すように、第1溶接止端部Aの角度θを10°にすると、第1溶接止端部Aの最大相当応力が低下するが、その一方で、第2溶接止端部Bの角度ψが大きくなるため、フランジ部をその突出方向に向けて引張応力を印加した際に、第2溶接止端部Bに大きな相当応力が集中する可能性がある。また、第1溶接止端部Aの角度θを80°にすると、第1溶接止端部Aの最大相当応力が増大する。以上のことから、第1溶接止端部A及び第2溶接止端部Bの角度はそれぞれ10°~80°の範囲にするのが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0086】
1、11…フランジ付き鋼管(フランジ付き板巻きレーザー溶接鋼管)、2、12…鋼管部、2A…外周面、2a、12a…一端、2b、12b…曲げ部、2c、12c…他端、3、13A~13D…フランジ部、4、14…レーザー溶接部、4a…溶接金属、22…フランジ付き鋼板。