(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】脱酸素剤組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3436 20060101AFI20230301BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20230301BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230301BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20230301BHJP
B01J 20/32 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
A23L3/3436
B01D53/14 311
B01J20/28 Z
B01J20/22 A
B01J20/32
(21)【出願番号】P 2019009491
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 智子
(72)【発明者】
【氏名】染谷 昌男
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-354477(JP,A)
【文献】特開2006-096593(JP,A)
【文献】特開2017-177013(JP,A)
【文献】特開2003-079354(JP,A)
【文献】特開2003-144112(JP,A)
【文献】特開2003-144113(JP,A)
【文献】特開2005-112825(JP,A)
【文献】特開平11-092259(JP,A)
【文献】特開平04-131072(JP,A)
【文献】特開昭59-210844(JP,A)
【文献】特開2005-335987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/3436
A61K 47/02-04
B01D 53/14-18
B01J 20/22
B01J 20/28
B01J 20/30-32
C04B 2/00-02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールを含む水溶液が含浸した粒状アルカリ担体を含む脱酸素剤組成物であって、前記粒状アルカリ担体のD50メジアン径が0.5mm以上
2.0mm以下であり、前記粒状アルカリ担体のかさ密度が
0.3g/mL以上0.75g/mL以下であ
り、前記粒状アルカリ担体の比表面積が10m
2
/g以上25m
2
/g以下であり、前記粒状アルカリ担体の細孔容積が0.05mL/g以上0.17mL/g以下である、脱酸素剤組成物。
【請求項2】
前記粒状アルカリ担体のD10メジアン径が0.2mm以上である、請求項1に記載の脱酸素剤組成物。
【請求項3】
前記粒状アルカリ担体の比表面積が15m
2/g以上である、請求項1又は2に記載の脱酸素剤組成物。
【請求項4】
前記粒状アルカリ担体の細孔容積が0.1mL/g以上である、請求項1~3のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
【請求項5】
前記粒状アルカリ担体が粒状消石灰である、請求項1~4のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
【請求項6】
前記水溶液が遷移金属化合物を更に含む、請求項1~5のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
【請求項7】
前記粒状アルカリ担体のかさ密度が0.65g/mL以下である、請求項1~6のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
【請求項8】
平均粒径が100μmを超える活性炭を含まない、請求項1~7のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
【請求項9】
前記の多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に、無機微粒子が付着してなる、請求項1~8のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
【請求項10】
前記脱酸素剤組成物のかさ密度が0.6g/mL以上1.0g/mL以下である、請求項9に記載の脱酸素剤組成物。
【請求項11】
(1)粒状アルカリ担体を分級して、D50メジアン径が0.5mm以上
2.0mm以下、かさ密度が
0.3g/mL以上0.75g/mL以下であ
り、比表面積が10m
2
/g以上25m
2
/g以下であり、細孔容積が0.05mL/g以上0.17mL/g以下である粒状アルカリ担体を得る工程、及び
(2)D50メジアン径が0.5mm以上
2.0mm以下、かさ密度が
0.3g/mL以上0.75g/mL以下であ
り、比表面積が10m
2
/g以上25m
2
/g以下であり、細孔容積が0.05mL/g以上0.17mL/g以下である粒状アルカリ担体に、多価アルコールを含む水溶液を含浸させる工程
を含む、脱酸素剤組成物の製造方法。
【請求項12】
(3)多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に、無機微粒子を付着する工程
を更に含む、請求項11に記載の脱酸素剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤組成物に関し、詳しくは非鉄系脱酸素剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の保存技術として、脱酸素剤を用いる方法が知られている。この方法では、ガスバリア性の密封容器内に被保存物品と脱酸素剤とを封入して密封することで、密封容器内の酸素を脱酸素剤に吸収させ、密封容器内の雰囲気を実質的に無酸素状態に保つことができる。代表的な脱酸素剤としては、鉄を主剤とする鉄系脱酸素剤、アスコルビン酸やグリセリン等を主剤とする非鉄系脱酸素剤が挙げられる。脱酸素剤の種類は用途に応じて適宜選択される。酸素吸収性能の観点からは、鉄系脱酸素剤が広く使用されている。
【0003】
一方、電子レンジ加熱が可能である等の利便性の観点から、非鉄系脱酸素剤の需要が増加している。非鉄系脱酸素剤は金属を含まないため、電子レンジから発生するマイクロ波を受けても発熱又は発火等が起こらない。例えば、特許文献1には、金属検出器に検知されない脱酸素剤包装体であって、電子レンジ加熱時のマイクロ波照射を受けても発火したり破袋による内容物漏出が発生したりせず、かつ取り扱い性に優れた安全で実用的な脱酸素剤包装体を提供することが記載されている。
また、近年、食品や医薬品等の安全性に対する消費者の意識が高まっており、異物混入事故が注目されている。非鉄系脱酸素剤は金属検出機で検知されないため、非鉄系脱酸素剤を封入した製品について、製造者だけでなく小売業者も安価な金属検出機を用いて金属異物の有無を検査することができる。
【0004】
特許文献2には、粒状の脱酸素剤に関して、酸素吸収能力の更なる向上を図ることを目的として、多孔質の担持体、及び前記担持体に担持された酸素吸収組成物を含む造粒物と、前記造粒物の表面に付着している親水性無機微粒子と、を備える複数の複合粒子を含む粉体である脱酸素剤であって、前記酸素吸収組成物が、酸素吸収物質を含む液剤、アルカリ性化合物及び遷移金属化合物を含有する、脱酸素剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-354477号公報
【文献】特開2017-104845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の脱酸素剤は、多孔質の担持体及び該担持体に担持された酸素吸収組成物を含む造粒物を用いており、脱酸素剤を製造するために造粒工程を必ず経由しなければならない。
本発明が解決しようとする課題は、酸素吸収能力が高く、かつ、流動性が高く取り扱い性に優れ、造粒せずに効率的に製造できる脱酸素剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1の段落[0027]には、アルカリ土類金属化合物等の吸着性非導電性担体が粒状の場合には、脱酸素剤とした後でも流動性を得やすく、造粒工程が不要である利点がある旨の記載がある。本発明者は鋭意検討を重ねた結果、粒状アルカリ担体の粒子径分布及びかさ密度が特定の範囲内にある場合に酸素吸収能力を向上できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち本発明は、以下に関する。
<1>多価アルコールを含む水溶液が含浸した粒状アルカリ担体を含む脱酸素剤組成物であって、前記粒状アルカリ担体のD50メジアン径が0.5mm以上であり、前記粒状アルカリ担体のかさ密度が0.75g/mL以下である、脱酸素剤組成物。
<2>前記粒状アルカリ担体のD10メジアン径が0.2mm以上である、上記<1>に記載の脱酸素剤組成物。
<3>前記粒状アルカリ担体の比表面積が15m2/g以上である、上記<1>又は<2>に記載の脱酸素剤組成物。
<4>前記粒状アルカリ担体の細孔容積が0.1mL/g以上である、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<5>前記粒状アルカリ担体が粒状消石灰である、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<6>前記水溶液が遷移金属化合物を更に含む、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<7>前記粒状アルカリ担体のかさ密度が0.65g/mL以下である、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<8>平均粒径が100μmを超える活性炭を含まない、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<9>前記の多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に、無機微粒子が付着してなる、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の脱酸素剤組成物。
<10>前記脱酸素剤組成物のかさ密度が0.6g/mL以上1.0g/mL以下である、上記<9>に記載の脱酸素剤組成物。
<11>(1)粒状アルカリ担体を分級して、D50メジアン径が0.5mm以上、かさ密度が0.75g/mL以下である粒状アルカリ担体を得る工程、及び
(2)D50メジアン径が0.5mm以上、かさ密度が0.75g/mL以下である粒状アルカリ担体に、多価アルコールを含む水溶液を含浸させる工程
を含む、脱酸素剤組成物の製造方法。
<12>(3)多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に、無機微粒子を付着する工程
を更に含む、上記<11>に記載の脱酸素剤組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脱酸素剤組成物は、酸素吸収能力が高く、かつ、流動性が高く取り扱い性に優れる。本発明によれば、このような脱酸素剤組成物を造粒せずに効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明の内容は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値の記載に関する「A~B」という用語は、「A以上B以下」(A<Bの場合)又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を意味する。また、本発明において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0011】
〔脱酸素剤組成物〕
本発明の脱酸素剤組成物は、多価アルコールを含む水溶液が含浸した粒状アルカリ担体を含む脱酸素剤組成物であって、前記粒状アルカリ担体のD50メジアン径が0.5mm以上であり、前記粒状アルカリ担体のかさ密度が0.75g/mL以下である。
【0012】
(多価アルコールを含む水溶液)
<多価アルコール>
多価アルコールは、アルカリ性環境下、自ら酸化して酸素吸収を行う脱酸素剤の主剤として機能する。多価アルコールの具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、プロパンジオール、グルコース、キシロース、アスコルビン酸、エリソルビン酸等が挙げられる。中でも、入手容易性、安全性、水への溶解度等の観点から、グリセリンが好ましい。
【0013】
脱酸素剤組成物中の多価アルコールの含有量は、酸素吸収性能の観点から、脱酸素剤組成物100質量部中、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~30質量%、更に好ましくは10~20質量%である。
【0014】
<水>
多価アルコールが酸素吸収を行うのに必要なアルカリ性環境を提供する観点から、本発明の脱酸素剤組成物は水を含有する。本発明の脱酸素剤組成物は、多価アルコールを含む水溶液の形態として水を含有する。脱酸素剤組成物中の水の含有量は、多価アルコールを溶解する量は必要であるものの、単位重量当たりの脱酸素性能を向上させるためにはより少ない方が好ましい。酸素吸収性能の観点から、脱酸素剤組成物100質量部中、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~30質量%、更に好ましくは5~20質量%である。
【0015】
<遷移金属化合物>
多価アルコールを含む水溶液は、酸素吸収反応を活発化する触媒として、遷移金属化合物を更に含んでいてもよい。
遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む化合物である。遷移金属元素の具体例としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン等が挙げられ、銅、コバルト及びマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属が好ましい。遷移金属化合物は、遷移金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物、又はキレート化合物であってもよい。遷移金属化合物は、遷移金属元素を含む複塩であってもよい。ハロゲン化物としては特に限定されないが、例えば、塩化物、臭化物、及びヨウ化物が挙げられる。遷移金属化合物としては、例えば、塩化銅(I)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(I)、酸化銅(II)、塩化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、及び塩化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0016】
遷移金属化合物の含有量は、脱酸素剤組成物100質量%中、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、更に好ましくは0.5~2質量%である。
【0017】
(粒状アルカリ担体)
粒状アルカリ担体は、上述した脱酸素剤の主剤として機能する多価アルコールを含む水溶液を含浸及び保持できる担体であり、水の存在下でアルカリ性環境を提供する。
【0018】
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる粒状アルカリ担体は、D50メジアン径が0.5mm以上である。粒状アルカリ担体のD50メジアン径が0.5mm以上であることで、造粒する必要がなく、しかも流動性が高く、取り扱い性に優れる。粒状アルカリ担体の造粒が不要であることから、本発明の脱酸素剤組成物を効率的に製造することができる。そのため、そのような特定の粒状アルカリ担体を含むことで、本発明の脱酸素剤組成物は、流動性が高く、取り扱い性に優れる。また、粒状アルカリ担体の粒径が比較的大きいことから、多価アルコールを含む水溶液を比較的多く含浸することができる。なお、粒状アルカリ担体の流動性は例えば安息角により評価でき、安息角が40度以下であることが好ましい。
粒状アルカリ担体のD50メジアン径は、流動性及び取り扱い性の観点から、好ましくは0.6mm以上、より好ましくは0.7mm以上、更に好ましくは0.8mm以上であり、そして、酸素吸収性能の観点から、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.8mm以下、更に好ましくは1.5mm以下である。
本明細書において、粒状アルカリ担体のD50メジアン径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる粒状アルカリ担体は、かさ密度が0.75g/mL以下である。粒状アルカリ担体のかさ密度が0.75g/mL以下であることで、多価アルコールを含む水溶液を比較的多く含浸することができるとともに、比表面積を大きくすることができ、その結果として酸素吸収性能に優れる。
粒状アルカリ担体のかさ密度は、酸素吸収性能の観点から、好ましくは0.73g/mL以下、より好ましくは0.71g/mL以下、更に好ましくは0.65g/mL以下であり、そして、流動性及び取り扱い性の観点から、好ましくは0.3g/mL以上、より好ましくは0.4g/mL以上、更に好ましくは0.5g/mL以上である。
本明細書において、粒状アルカリ担体のかさ密度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0020】
本発明における粒状アルカリ担体は、D50メジアン径が0.5mm以上であり、かつ、かさ密度が0.75g/mL以下である。粒状アルカリ担体のD50メジアン径及びかさ密度を当該範囲内とする手段は特に限定されないが、分級により小粒径の粒子を除去することで調整することができる。分級には、例えば、比重分級機器(株式会社東京製粉機製作所製「ハイスピードアスピレータ」等)を用いることができる。
【0021】
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる粒状アルカリ担体のD10メジアン径は、流動性及び取り扱い性の観点から、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.20mm以上、更に好ましくは0.25mm以上である。小粒径の多い粉体は微粒子が舞いやすく、更に含浸可能量も少ないため、好ましくない。そして、酸素吸収性能の観点から、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下、更に好ましくは0.3mm以下である。
本明細書において、粒状アルカリ担体のD10メジアン径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0022】
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる粒状アルカリ担体の比表面積は、酸素吸収性能の観点から、好ましくは10m2/g以上、より好ましくは15m2/g以上、更に好ましくは17m2/g以上であり、そして、本発明の粒径及びかさ密度で現実的な比表面積として好ましくは25m2/g以下である。25m2/gを超えると、微細構造が水に溶解することで、比表面積向上の効果がなくなると考えられる。
本明細書において、粒状アルカリ担体の比表面積は、実施例に記載の方法により測定される。
【0023】
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる粒状アルカリ担体の細孔容積は、酸素吸収性能の観点から、好ましくは0.05mL/g以上、より好ましくは0.10mL/g以上、更に好ましくは0.12mL/g以上であり、そして、本発明の粒径およびかさ密度で現実的な比表面積として、好ましくは0.17mL/g以下である。0.17mL/gを超えると、粒子がもろくなり形状を保つのが困難なため、砕けて微粒子になる可能性がある。
本明細書において、粒状アルカリ担体の細孔容積は、実施例に記載の方法により測定される。
【0024】
本発明の脱酸素剤組成物に含まれる粒状アルカリ担体は、アルカリ性化合物であり、水に難溶性であることが好ましい。そのようなアルカリ性化合物として、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。具体例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、水酸化カルシウム(消石灰)が好ましい。粒状アルカリ担体は、粒状消石灰であることが好ましい。
【0025】
粒状アルカリ担体の含有量は、脱酸素剤組成物100質量%中、好ましくは50~90質量%、より好ましくは60~85質量%、更に好ましくは70~80質量%である。
【0026】
(助剤)
本発明の脱酸素剤組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の成分として助剤を含有していてもよい。
例えば、酸素吸収反応に伴い発生する微量の臭気成分を吸着する目的で、活性炭、ゼオライト、ケイ酸塩等の多孔質粒子を添加することもできる。これらは、1種を単独で用いることができ、又は必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。また、これらの保水剤は、市販品を容易に入手することもできる。
【0027】
また、例えば、脱酸素剤組成物の流動性を向上し、脱酸素剤組成物を包装材料に充填包装しやすくする観点から、本発明の脱酸素剤組成物は滑剤を含有してもよい。滑剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0028】
助剤の平均粒径は、好ましくは0.5μm以上300μm以下であり、より好ましくは1μm以上100μmである。平均粒子径が当該範囲内であることにより、分散性が向上し、取り扱い性能が安定する。特に、本発明の脱酸素剤組成物は、平均粒径100μm以上の活性炭を含まないことが好ましい。平均粒径100μm以上の活性炭を含むと、脱酸素剤組成物の粒子に吸着しにくくなるので、好ましくない。
助剤の合計含有量は、脱酸素剤組成物100質量%中、好ましくは0.05~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0029】
本発明の脱酸素剤組成物において、助剤は、前記の多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に展着されていることが好ましい。
助剤がステアリン酸マグネシウム粉末や活性炭粉末等の無機微粒子である場合、本発明の脱酸素剤組成物は、前記の多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に、無機微粒子が付着してなることが好ましい。
【0030】
本発明の脱酸素剤組成物のかさ密度は、比重の大きい多価アルコール及び水を含浸することから、粒状アルカリ担体より大きくなる。適切な含浸量により酸素吸収能は高くなる。本発明の脱酸素剤組成物のかさ密度は、好ましくは0.6~1.0g/mL、より好ましくは0.7~0.95g/mL、更に好ましくは0.75~0.93g/mL、更に好ましくは0.80~0.90g/mLである。
本明細書において、脱酸素剤組成物のかさ密度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0031】
〔脱酸素剤組成物の製造方法〕
本発明の脱酸素剤組成物を製造する方法は特に限定されないが、下記工程(1)及び(2)を含む方法が好ましく、下記工程(1)、(2)及び(3)を含む方法がより好ましい。
(1)粒状アルカリ担体を分級して、D50メジアン径が0.5mm以上、かさ密度が0.75g/mL以下である粒状アルカリ担体を得る工程
(2)D50メジアン径が0.5mm以上、かさ密度が0.75g/mL以下である粒状アルカリ担体に、多価アルコールを含む水溶液を含浸させる工程
(3)多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に、無機微粒子を付着する工程
【0032】
工程(1)において、D50メジアン径が0.5mm以上、かさ密度が0.75g/mL以下である粒状アルカリ担体を得ることができれば、粒状アルカリ担体を分級する手段は特に限定されない。市販の粒状アルカリ担体について、例えば空気分級を行ってもよく、また、篩分けしてもよい。例えば、空気分級によって0.2mm以下の小粒径の粒子及び3.0mm以上の大粒径の粒子を除去することができる。分級する手段やその条件については適宜設定することができる。
【0033】
工程(2)において、多価アルコールを含む水溶液を粒状アルカリ担体に含浸させる手段は特に限定されない。工程(2)では造粒を行わないことが好ましい。本発明の脱酸素剤組成物は、特定の粒状アルカリ担体を用いるため造粒する必要がなく、効率的に製造することができる。
多価アルコールを含む水溶液の使用量は、酸素吸収性能の観点から、脱酸素剤組成物中の多価アルコール及び水の含有量が上述した好ましい範囲となるように決定される。
【0034】
工程(3)において、多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体の表面に無機微粒子を付着する手段は特に限定されず、例えば、多価アルコールを含む水溶液を含浸させた粒状アルカリ担体と無機微粒子とを混合することが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を用いて本実施形態を詳しく説明するが、本実施形態は本発明の作用効果を奏する限りにおいて適宜変更することができる。なお、実施例及び比較例中の「部」は、特に明記しない場合は質量部を意味する。
【0036】
(粒状アルカリ担体のD50メジアン径及びD10メジアン径)
画像解析式粒子径測定装置(レッチェ・テクノロジー社製「CAMSIZER X2」)を使用して測定した。
【0037】
(粒状アルカリ担体のかさ密度)
JIS K6720-2:1999に準拠し、粒状アルカリ担体を100mLの容器に入れ、その質量を測定し、算出した。
【0038】
(粒状アルカリ担体の比表面積及び細孔容積)
比表面積・細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「BELSORP-mini II」)を使用して測定した。
【0039】
(脱酸素剤組成物のかさ密度)
JIS K6720-2:1999に準拠し、脱酸素剤組成物を100mLの容器に入れ、その重量を測定し、算出した。
【0040】
実施例1
粒状アルカリ担体として、空気分級によって0.2mm以下の小粒径の粒子を除去し目開き2mmの篩を通過させることで、D50メジアン径が0.90mm、D10メジアン径が0.26mm、かさ密度が0.59g/mLに調整された粒状消石灰(粒状アルカリ担体(1))を準備した。また、粒状アルカリ担体(1)の比表面積は18m2/g、細孔容積は0.13mL/gであった。
85質量%グリセリン水溶液16.4質量部及び水9.3質量部を混合し、更に塩化マンガン1質量部を溶解した溶液を、粒状アルカリ担体(1)73.3質量部に含浸させた。
その後、活性炭粉末(「K-DRY」、フタムラ化学株式会社製、平均粒径:35μm)0.1質量部及びステアリン酸マグネシウム粉末(日油株式会社製、平均粒径:6μm)0.2質量部を混合し、脱酸素剤組成物(1)を得た。脱酸素剤組成物(1)のかさ密度は0.85g/mLであった。
【0041】
実施例2
85質量%グリセリン16.6質量部及び水9.4質量部を混合し、更に塩化マンガン1質量部を溶解した溶液を、粒状アルカリ担体(1)74質量部に含浸させ、脱酸素剤組成物(2)を得た。脱酸素剤組成物(2)のかさ密度は0.85g/mLであった。
【0042】
実施例3
粒状アルカリ担体として、空気分級によって0.2mm以下の小粒径の粒子及び3.0mm以上の大粒径の粒子を除去し目開き2mmの篩を通過させることで、D50メジアン径が1.21mm、D10メジアン径が0.21mm、かさ密度が0.71g/mLに調整された粒状消石灰(粒状アルカリ担体(2))を準備した。また、粒状アルカリ担体(2)の比表面積は15m2/g、細孔容積は0.10mL/gであった。
実施例2において、粒状アルカリ担体(1)を粒状アルカリ担体(2)に変更したこと以外は実施例2と同様にして、脱酸素剤組成物(3)を得た。脱酸素剤組成物(3)のかさ密度は0.86g/mLであった。
【0043】
比較例1
粒状アルカリ担体として、目開き2mmの篩を通過させることで、D50メジアン径が0.35mm、D10メジアン径が0.11mm、かさ密度が0.81g/mLに調整された粒状消石灰(粒状アルカリ担体(3))を使用した。なお、粒状アルカリ担体(3)の比表面積及び細孔容積については測定していない。
実施例2において、粒状アルカリ担体(1)を粒状アルカリ担体(3)に変更し、粒状アルカリ担体の添加量を160質量部に変更したこと以外は実施例2と同様にして、脱酸素剤組成物(4)を得た。なお、粒状アルカリ担体(3)の添加量をこれ以上減らすと、含浸粒子の流動性が著しく悪化した。脱酸素剤組成物(4)のかさ密度については測定できなかった。
【0044】
(粒状アルカリ担体の流動性)
粉体特性評価装置(ホソカワミクロン株式会社製、「パウダテスタ」)を用いて、水平円形台の中央部に粒状アルカリ担体を落下させ、堆積してできた山の稜線と水平面との角度(安息角)を測定した。この安息角が40度以下であるものを合格とした。粒状アルカリ担体が流動性に優れることは、粒状アルカリ担体を含む脱酸素剤組成物も流動性に優れることを示す。
【0045】
(脱酸素剤組成物の脱酸素時間)
脱酸素剤組成物7.2gを空気1000mLと共にアルミニウム蒸着酸素非透過性袋に入れて密封した。25℃で5時間おきに袋内の酸素濃度をガスクロマトグラフで測定し、酸素濃度0.1%以下になる時間を脱酸素時間とした。なお、比較例1では、100時間を経過しても酸素濃度が0.1%以下に到達しなかったため、測定を中止した。
【0046】
(脱酸素剤組成物の最大酸素吸収量)
脱酸素剤組成物2.2gを空気1000mLと共にアルミニウム蒸着酸素非透過性袋に入れて密封し、25℃で7日間保管した。袋内の酸素濃度をガスクロマトグラフで測定することにより、酸素吸収量を求めた。
【0047】
【0048】
表1の結果から、D50メジアン径及びかさ密度が特定範囲内にある粒状アルカリ担体を用いた本発明の脱酸素剤組成物は、酸素吸収能力が高く、かつ、流動性が高く取り扱い性に優れることが分かる。