(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】アウタシャフト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21K 1/30 20060101AFI20230301BHJP
B62D 1/19 20060101ALI20230301BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20230301BHJP
B21J 5/12 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B21K1/30 Z
B62D1/19
F16D1/02 210
B21J5/12 Z
(21)【出願番号】P 2019032292
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 要
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 圭太
(72)【発明者】
【氏名】末廣 竜也
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-155778(JP,A)
【文献】特開平10-181615(JP,A)
【文献】特開平09-085383(JP,A)
【文献】特開平09-014279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/30
B62D 1/19
F16D 1/02
B21J 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に雌スプライン部を有するスプライン筒部を備えたアウタシャフトの製造方法であって、
内周面に前記雌スプライン部よりもビットウィーンピン径が大きい素雌スプライン部を有し、かつ、前記スプライン筒部よりも大きい外径を有する素スプライン筒部を形成する工程と、
前記素スプライン筒部の外周面をしごいて縮径させることに伴い、前記素雌スプライン部を縮径させて前記雌スプライン部を形成することにより、前記スプライン筒部を形成する工程と、を備え
、
製造対象となる前記アウタシャフトが備える前記雌スプライン部のビットウィーンピン径が軸方向位置によって異なっており、
前記素スプライン筒部を形成する工程は、前記素スプライン筒部の外径を軸方向位置によって異ならせる工程を含み、
前記スプライン筒部を形成する工程では、前記素スプライン筒部の外周面をしごいて該外周面の外径が軸方向全長にわたり一定となるように縮径させることに伴い、前記素雌スプライン部を縮径させるとともに、該素雌スプライン部の縮径量を軸方向位置によって異ならせることで、前記雌スプライン部を形成する、
アウタシャフトの製造方法。
【請求項2】
製造対象となるアウタシャフトが備える前記雌スプライン部のビットウィーンピン径が、少なくとも一部の軸方向範囲において、軸方向に関する何れか一方の側から他方の側に向かうほど徐々に小さくなっており、
前記素スプライン筒部の外径を軸方向位置によって異ならせる工程では、前記少なくとも一部の軸方向範囲に対応する前記素スプライン筒部の軸方向範囲において、該素スプライン筒部の外径を軸方向に関する前記一方の側から前記他方の側に向かうほど徐々に大きくする、
請求項
1に記載のアウタシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記素スプライン筒部の外径を軸方向位置によって異ならせる工程では、削り加工によって、該外径を軸方向位置によって異ならせる、
請求項
1又は
2に記載のアウタシャフトの製造方法。
【請求項4】
内周面に雌スプライン部を有するスプライン筒部を備えたアウタシャフトの製造方法であって、
内周面に前記雌スプライン部よりもビットウィーンピン径が大きい素雌スプライン部を有し、かつ、前記スプライン筒部よりも大きい外径を有する素スプライン筒部を形成する工程と、
前記素スプライン筒部の外周面をしごいて縮径させることに伴い、前記素雌スプライン部を縮径させて前記雌スプライン部を形成することにより、前記スプライン筒部を形成する工程と、を備え
、
前記素スプライン筒部を形成する工程は、前記素雌スプライン部を形成した後、該素雌スプライン部に対して、芯金の外周面に備えられた修正用雄スプライン部を係合させた状態で、前記素スプライン筒部の外周面を前記修正用雄スプライン部と同軸にしごくことに伴い、前記素雌スプライン部を前記修正用雄スプライン部に押し付けることで、前記素雌スプライン部を前記修正用雄スプライン部に合致する形状に塑性変形させる修正工程を含む、
アウタシャフトの製造方法。
【請求項5】
前記素スプライン筒部を形成する工程は、前記素雌スプライン部を形成する前に、該素雌スプライン部を形成する部分に絞り加工を施して縮径させる工程を含む、
請求項1~
4のうちの何れか1項に記載のアウタシャフトの製造方法。
【請求項6】
軸方向全長にわたり外径が一定のしごき加工面である外周面を有し、かつ、内周面に雌スプライン部を有するとともに、該雌スプライン部のビットウィーンピン径が軸方向位置によって異なっているスプライン筒部を備える、アウタシャフト。
【請求項7】
前記雌スプライン部は、軸方向両側に隣接する部分に比べてビットウィーンピン径が大きい部分を含む、
請求項
6に記載のアウタシャフト。
【請求項8】
前記雌スプライン部は、少なくとも一部の軸方向範囲において、ビットウィーンピン径が軸方向に関する何れか一方の側から他方の側に向かうほど徐々に小さくなっている、
請求項
6又は
7に記載のアウタシャフト。
【請求項9】
前記雌スプライン部に対してスプライン係合する雄スプライン部を備えたインナシャフトとともに操舵力伝達軸を構成する、
請求項
6~
8のうちのいずれか1項に記載のアウタシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のステアリング装置に組み込まれる伸縮式のステアリングシャフトや中間シャフトを構成するアウタシャフトと、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置では、例えば、ステアリングホイールの前後位置の調節を可能とするためにステアリングシャフトとして伸縮式のものを用いたり、走行時に路面から入力される振動がステアリングホイールまで伝達されるのを防止するために中間シャフトとして伸縮式のものを用いたりすることが行われている。
【0003】
また、ステアリングシャフト、中間シャフトなどの操舵力伝達軸を伸縮式のものとするために、該操舵力伝達軸の構造を、アウタシャフトとインナシャフトとを組み合わせた2分割構造とすることが行われている。すなわち、このような操舵力伝達軸では、アウタシャフトの内周面に形成された雌スプライン部とインナシャフトの外周面に形成された雄スプライン部とをスプライン係合させることで、アウタシャフトとインナシャフトとを、トルク伝達を可能に、かつ、軸方向に関する相対変位を可能に組み合わせている。これにより、操舵力伝達軸を伸縮可能に構成している。
【0004】
このような伸縮式の操舵力伝達軸を構成するアウタシャフトを製造する際には、雌スプライン部を、切削加工や塑性加工によって形成することができる。
【0005】
雌スプライン部を切削加工により形成する方法としては、例えば、ワークの内周面にブローチ加工を施す方法、すなわち、ワークの内周面にブローチと呼ばれるスプライン成形用工具を軸方向に押し込む(又は引き込む)ことによって、該内周面の円周方向等間隔となる複数箇所を軸方向に切削することにより、雌スプライン部を形成する方法が知られている。
【0006】
また、雌スプライン部を塑性加工により形成する方法としては、例えば、ワークの外周面を拘束した状態で、ワークの内周面に雄スプライン形状のスプライン成形用工具を押し込む(又は引き込む)ことによって、該内周面を該雄スプライン形状に合致する形状に塑性変形させることにより、雌スプライン部を形成する方法(例えば、特開2017-136614号公報参照)が知られている。また、雌スプライン部を塑性加工により形成する他の方法として、ワークの内径側に雄スプライン形状を有するスプライン成形工具を配置した状態で、ワークの外周面をしごいて縮径させることに伴い、ワークの内周面をスプライン成形工具の雄スプライン形状に合致する形状に塑性変形させることにより、雌スプライン部を形成する方法(例えば、特開平6-344073号公報参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-136614号公報
【文献】特開平6-344073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような従来から知られている雌スプライン部の形成方法では、形成すべき雌スプライン部のビットウィーンピン径(Between Pin Diameter)BPDに合わせたスプライン成形用工具を用いる必要がある。しかしながら、スプライン成形用工具は、形状が複雑で高価であるため、ビットウィーンピン径BPDが異なる雌スプライン部ごとにスプライン成形用工具を用意すると、アウタシャフトの製造コストが嵩む。なお、本明細書では、「BPD」を、ビットウィーンピン径を表す記号として用いる。ビットウィーンピン径BPDは、雌スプライン部を構成する複数の溝のうち、径方向反対側に位置する1対の溝に、それぞれが所定の外径を有する1対のピンPを係合させた場合に、当該雌スプライン部のサイズを、当該1対のピンP間の距離で表したものである(
図3参照)。
【0009】
本発明の目的は、形成すべき雌スプライン部のビットウィーンピン径BPDを変更する場合でも、該雌スプライン部を低コストで形成できるアウタシャフトの製造方法、及び、該製造方法によって製造可能なアウタシャフトの構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の製造対象となるアウタシャフトは、内周面に雌スプライン部を有するスプライン筒部を備える。
本発明のアウタシャフトの製造方法は、内周面に前記雌スプライン部よりもビットウィーンピン径が大きい素雌スプライン部を有し、かつ、前記スプライン筒部よりも大きい外径を有する素スプライン筒部を形成する工程と、前記素スプライン筒部の外周面をしごいて縮径させることに伴い、前記素雌スプライン部を縮径させて前記雌スプライン部を形成することにより、前記スプライン筒部を形成する工程と、を備える。
【0011】
本発明のアウタシャフトの製造方法では、製造対象となるアウタシャフトが備える前記雌スプライン部のビットウィーンピン径が軸方向位置によって異なるものとすることができる。
この場合には、前記素スプライン筒部を形成する工程は、前記素スプライン筒部の外径を軸方向位置によって異ならせる工程を含む。
また、前記スプライン筒部を形成する工程では、前記素スプライン筒部の外周面をしごいて該外周面の外径が軸方向全長にわたり一定となるように縮径させることに伴い、前記素雌スプライン部を縮径させるとともに、該素雌スプライン部の縮径量を軸方向位置によって異ならせることで、前記雌スプライン部を形成する。
【0012】
この場合には、例えば、製造対象となるアウタシャフトが備える前記雌スプライン部のビットウィーンピン径を、少なくとも一部の軸方向範囲において、軸方向に関する何れか一方の側から他方の側に向かうほど徐々に小さくすることができる。
この場合に、前記素スプライン筒部の外径を軸方向位置によって異ならせる工程では、前記少なくとも一部の軸方向範囲に対応する前記素スプライン筒部の軸方向範囲において、該素スプライン筒部の外径を軸方向に関する前記一方の側から前記他方の側に向かうほど徐々に大きくする。
【0013】
また、これらの場合には、削り加工によって、前記素スプライン筒部の外径を軸方向位置によって異ならせることができる。
【0014】
本発明のアウタシャフトの製造方法では、前記素スプライン筒部を形成する工程は、前記素雌スプライン部を形成した後、該素雌スプライン部に対して、芯金の外周面に備えられた修正用雄スプライン部を係合させた状態で、前記素スプライン筒部の外周面を前記修正用雄スプライン部と同軸にしごく修正工程を含むものとすることができる。
【0015】
前記修正工程では、前記素スプライン筒部の外周面を前記修正用雄スプライン部と同軸にしごくことに伴い、前記素雌スプライン部を前記修正用雄スプライン部に押し付けることで、前記素雌スプライン部を前記修正用雄スプライン部に合致する形状に塑性変形させることができる。
【0016】
本発明のアウタシャフトの製造方法では、前記素スプライン筒部を形成する工程は、前記素雌スプライン部を形成する前に、該素雌スプライン部を形成する部分に絞り加工を施して縮径させる工程を含むものとすることができる。
【0017】
本発明のアウタシャフトは、軸方向全長にわたり外径が一定のしごき加工面である外周面を有し、かつ、内周面に雌スプライン部を有するとともに、該雌スプライン部のビットウィーンピン径が軸方向位置によって異なっているスプライン筒部を備える。
【0018】
また、本発明のアウタシャフトでは、前記雌スプライン部は、軸方向両側に隣接する部分に比べてビットウィーンピン径が大きい部分を含むものとすることができる。
【0019】
また、本発明のアウタシャフトでは、前記雌スプライン部は、少なくとも一部の軸方向範囲において、ビットウィーンピン径を、軸方向に関する何れか一方の側から他方の側に向かうほど徐々に小さくすることができる。
【0020】
また、本発明のアウタシャフトは、前記雌スプライン部に対してスプライン係合する雄スプライン部を備えたインナシャフトとともに操舵力伝達軸を構成するものとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアウタシャフトの製造方法によれば、形成すべき雌スプライン部のビットウィーンピン径を変更する場合でも、該雌スプライン部を低コストで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例のアウタシャフトを備えたステアリング装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例のアウタシャフトを備えたステアリング装置の部分断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例のアウタシャフトの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図5】
図5(A)~
図5(C)は、実施の形態の第1例のアウタシャフトの製造方法を工程順に示す、スプライン筒部の半部断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第2例のアウタシャフトの製造方法において、素スプライン筒部の曲りなどを修正する作業を工程順に示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第3例のアウタシャフトの製造方法を工程順に示す断面図である。
【
図8】
図8(A)~
図8(C)は、実施の形態の第3例のアウタシャフトの製造方法を工程順に示す、スプライン筒部の軸方向一方側部(a)及び軸方向他方側部(b)の半部断面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の第3例に関するアウタシャフトの第3中間素材の断面図、及び、該第3中間素材の雌スプライン部の軸方向位置(先端部からの距離)とビットウィーンピン径BPDとの関係を示す線図である。
【
図10】
図10(A)は、実施の形態の第4例に関するアウタシャフトの第2中間素材の断面図であり、
図10(B)は、実施の形態の第4例に関する、
図9に相当する図である。
【
図11】
図11(A)は、実施の形態の第5例に関するアウタシャフトの第2中間素材の断面図であり、
図11(B)は、実施の形態の第5例に関する、
図9に相当する図である。
【
図12】
図12(A)は、実施の形態の第6例に関するアウタシャフトの第2中間素材の断面図であり、
図12(B)は、実施の形態の第6例に関する、
図9に相当する図である。
【
図13】
図13は、本発明を適用可能なアウタシャフトを備えた中間シャフトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図5を用いて説明する。
本例では、本発明の製造対象となるアウタシャフトを、自動車のステアリング装置の構成部材として適用した場合について説明する。
【0024】
(ステアリング装置について)
自動車のステアリング装置1は、
図1に示すように、ステアリングホイール2と、ステアリングシャフト3と、ステアリングコラム4と、1対の自在継手5a、5bと、中間シャフト6と、ステアリングギヤユニット7と、1対のタイロッド8とを備えている。
【0025】
ステアリングシャフト3は、車体に支持されたステアリングコラム4の内側に、回転自在に支持されている。ステアリングシャフト3の後端部には、運転者が操作するステアリングホイール2が取り付けられており、ステアリングシャフト3の前端部は、1対の自在継手5a、5b及び中間シャフト6を介して、ステアリングギヤユニット7のピニオン軸9に接続されている。このため、運転者がステアリングホイール2を回転させると、該ステアリングホイール2の回転が、ステアリングギヤユニット7のピニオン軸9に伝達される。ピニオン軸9の回転は、ピニオン軸9と噛合した図示しないラック軸の直線運動に変換され、1対のタイロッド8を押し引きする。この結果、操舵輪にステアリングホイール2の操作量に応じた舵角が付与される。なお、前後方向とは、ステアリング装置1が組み付けられる車体の前後方向をいう。
【0026】
本例のステアリング装置1では、運転者の体格や運転姿勢に応じてステアリングホイール2の前後位置を調節可能とするためのテレスコピック機構を備えている。このために、ステアリングコラム4は、
図2に示すように、それぞれが筒状である、前側のアウタコラム10の後端寄り部分と、後側のインナコラム11の前端部とを軸方向の変位を可能に嵌合させることにより、全長を伸縮可能に構成されている。また、ステアリングシャフト3は、前側のインナシャフト12と、後側のアウタシャフト13とを、スプライン係合により、トルク伝達を可能に、かつ、伸縮可能に構成されている。アウタシャフト13は、後端部をインナコラム11よりも後方に突出させた状態で、インナコラム11の内側に玉軸受14により回転のみ可能に支持されている。したがって、アウタシャフト13の後端部に支持固定されたステアリングホイール2の前後位置を調節する際には、アウタシャフト13とともにインナコラム11が、アウタコラム10及びインナシャフト12に対して前後方向に変位することで、ステアリングシャフト3及びステアリングコラム4が伸縮する。
【0027】
アウタシャフト13は、全体が段付円筒状に構成されており、前側から順番に、スプライン筒部15と、前側テーパ筒部16と、大径筒部17と、後側テーパ筒部18と、小径筒部19とを備えている。スプライン筒部15は、内周面の軸方向全長にわたり雌スプライン部20を有し、かつ、外周面を軸方向に関して外径が変化しない円筒面としている。大径筒部17は、スプライン筒部15よりも外径及び内径が大きく、大径筒部17の前端部とスプライン筒部15の後端部とは、部分円すい筒状の前側テーパ筒部16によって連結されている。小径筒部19は、大径筒部17よりも外径及び内径が小さく、小径筒部19の前端部と大径筒部17の後端部とは、部分円すい筒状の後側テーパ筒部18によって連結されている。
【0028】
そして、このようなアウタシャフト13の雌スプライン部20に、インナシャフト12の後側部の外周面に備えられた雄スプライン部21が、スプライン係合している。また、大径筒部17の後側部に、玉軸受14を構成する内輪38が外嵌されている。図示の例では、内輪38は、大径筒部17の後側部の外周面に軸方向に離隔して形成された1対の係止溝22a、22bに係止された1対の止め輪23a、23bによって、軸方向両側から挟持されている。これにより、大径筒部17に対して内輪38が軸方向に位置決めされている。また、小径筒部19に、ステアリングホイール2が支持固定されている。図示の例では、小径筒部19の外周面に形成された雄セレーション部24とステアリングホイール2の内周面に形成された雌セレーション部25とがセレーション係合している。これにより、小径筒部19とステアリングホイール2との相対回転が阻止されている。
【0029】
また、図示の例では、大径筒部17の軸方向中間部の外周面に、保持凹部26が形成されており、保持凹部26の内側にステアリングロック装置を構成するキーロックカラー27が保持固定されている。また、インナコラム11のうち、キーロックカラー27と径方向に対向する部分に、ロック用透孔28が形成されている。イグニッションキーをOFFにすると、ステアリングロック装置は、ロック用透孔28の内側に配置された図示しないロックピンを径方向内方に変位させ、該ロックピンをキーロックカラー27に係合させることで、ステアリングシャフト3の回転を不能にする。
【0030】
(アウタシャフト13の製造方法について)
本例では、アウタシャフト13を製造するために、
図4(A)に示すような、鋼、アルミニウムなどの金属製で円筒状の原管29を用意する。そして、原管29に適宜の加工を施すことによって、アウタシャフト13を得る。このような本例のアウタシャフト13の製造方法は、以下に説明するような第1工程~第3工程を備える。
【0031】
第1工程では、原管29の軸方向一方側部に絞り加工を施して、該軸方向一方側部を縮径させる。これにより、
図4(B)に示すような、軸方向一方側部に原管29よりも小径で円筒状の縮径筒部33を有する、第1中間素材30を得る。第1中間素材30の軸方向他方側部は、原管29の軸方向他方側部である円筒状の原管部34であり、原管部34の軸方向一方側端部と縮径筒部33の軸方向他方側端部との間には、前記絞り加工に伴って部分円すい筒状の前側テーパ筒部16が形成されている。
【0032】
第2工程では、第1中間素材30の縮径筒部33の内周面に、スプライン成形用工具を用いた適宜の加工(例えば、前述したブローチ加工などの切削加工や塑性加工)によって、素雌スプライン部35を形成する。これにより、
図4(C)及び
図5(A)に示すような、内周面に素雌スプライン部35を有する素スプライン筒部55を備えた、第2中間素材31を得る。素雌スプライン部35は、完成状態の雌スプライン部20よりもビットウィーンピン径BPDが大きい雌スプライン部である。素雌スプライン部35は、素スプライン筒部55の内周面の軸方向全長にわたり形成されている。また、素スプライン筒部55の外径は、縮径筒部33の外径と同じで、かつ、完成状態のスプライン筒部15の外径よりも大きい。また、本例では、素スプライン筒部55の外径、及び、素雌スプライン部35のビットウィーンピン径BPDは、軸方向全長にわたり一定の大きさになっている。なお、本例では、第1工程及び第2工程が、素スプライン筒部55を形成する工程に相当する。
【0033】
第3工程では、
図4(D)に示すような筒状のダイス36を用いて、第2中間素材31の素スプライン筒部55に常温下で絞り加工(しごき加工)を施す。ダイス36は、内周面の軸方向他方側部にしごき面37を有する。しごき面37は、軸方向他方側から軸方向一方側に向かうほど内径が徐々に小さくなる略円すい筒状の凹面である。また、しごき面37の最大径部である軸方向他方側端部の内径は、第2中間素材31の素スプライン筒部55の外径よりも大きくなっており、しごき面37の最小径部である軸方向一方側端部の内径は、第2中間素材31の素スプライン筒部55の外径よりも小さくなっている。また、ダイス36の内周面のうち、しごき面37よりも軸方向一方側に位置する部分は、軸方向一方側に向かうほど内径が大きくなる略円すい筒状の凹面になっている。
【0034】
ダイス36を用いて、第2中間素材31の素スプライン筒部55に絞り加工を施す際には、
図4(D)に示すように、素雌スプライン部35を拘束することなく、素スプライン筒部55をダイス36のしごき面37の内側に圧入する。これにより、素スプライン筒部55の外周面をしごき面37によりしごいて縮径させる{
図5(B)参照}。また、これに伴い、素スプライン筒部55の内周面である素雌スプライン部35を縮径させ、素雌スプライン部35のビットウィーンピン径BPDを減少させることで、素雌スプライン部35を、完成状態の雌スプライン部20とする{
図4(E)、
図5(C)をさらに参照}。すなわち、第3工程では、ダイス36を用いて、第2中間素材31の素スプライン筒部55に絞り加工を施すことにより、素スプライン筒部55の全体を縮径させる。これにより、内周面に完成状態の雌スプライン部20を有するスプライン筒部15を備えた第3中間素材32を得る。本例では、第3中間素材32が備えるスプライン筒部15の外径、及び、雌スプライン部20のビットウィーンピン径BPDは、軸方向の全長にわたり一定の大きさになっている。また、素スプライン筒部55の外周面は、しごき面37によってしごかれた、しごき加工面となっている。なお、本例では、第3工程が、前記スプライン筒部を形成する工程に相当する。
【0035】
なお、本例では、ダイス36のしごき面37は、軸方向他方側から軸方向一方側に向かうほど内径が徐々に小さくなる略円すい筒状の凹面になっている。このため、素スプライン筒部55をダイス36のしごき面37の内側に軸方向他方側から圧入しやすい。また、本例では、ダイス36の内周面のうち、しごき面37よりも軸方向一方側に位置する部分は、軸方向一方側に向かうほど内径が大きくなる略円すい筒状の凹面になっている。このため、スプライン筒部15をダイス36の内側から軸方向他方側に引き抜きやすい。
【0036】
本例では、その後、第3中間素材32に対して、適宜の加工を施すことにより、アウタシャフト13(
図2参照)を完成させる。例えば、第3中間素材32の原管部34の軸方向他方側端部に絞り加工を施すことにより、該軸方向他方側端部に小径筒部19及び後側テーパ筒部18を形成するとともに、原管部34の残部を大径筒部17とする。また、切削加工や塑性加工により、係止溝22a、22b、雄セレーション部24、及び保持凹部26を形成する。
【0037】
上述したような本例のアウタシャフト13の製造方法によれば、形成すべき雌スプライン部20のビットウィーンピン径BPDを変更する場合でも、同じサイズのスプライン成形用工具を用いることができる。すなわち、本例では、雌スプライン部20のビットウィーンピン径BPDは、第3工程における、素雌スプライン部35の縮径量によって決まる。また、該縮径量は、縮径前の素雌スプライン部35を内周面に備えた素スプライン筒部55の外径、及び、ダイス36のしごき面37の最小径部の内径によって決まる。このため、本例では、同じサイズのスプライン成形用工具を用いる場合でも、素スプライン筒部55の外径と、ダイス36のしごき面37の最小径部の内径とのうち、少なくとも一方を変更することにより、第3工程における素雌スプライン部35の縮径量を調整することで、雌スプライン部20のビットウィーンピン径BPDを異なる大きさに変更することができる。なお、第3工程における素雌スプライン部35の縮径量は、任意の値に設定することができるが、縮径後の雌スプライン部20の形状精度や寸法精度を良好に確保できる範囲内の値に設定することが好ましい。何れにしても、本例によれば、形成すべき雌スプライン部20のビットウィーンピン径BPDを変更する場合でも、形状が複雑で高価なスプライン成形用工具を変更する必要がないため、アウタシャフト13の製造コストを抑えることができる。
【0038】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図6を用いて説明する。
本例のアウタシャフト13(
図2参照)の製造方法では、第2工程が、以下に説明するような修正工程を含んでいる。
【0039】
第2工程において、
図4(B)→
図4(C)に示すように、縮径筒部33の内周面に素雌スプライン部35を形成することにより、素雌スプライン部35を内周面に備えた素スプライン筒部55を形成すると、素スプライン筒部55に曲がりが生じたり、素雌スプライン部35のビットウィーンピン径BPDにばらつきが生じたりする場合がある。修正工程では、このような素スプライン筒部55の曲がりや素雌スプライン部35のビットウィーンピン径BPDを修正する。
【0040】
修正工程では、芯金39と、ダイス36aとを用いる。芯金39は、ダイス鋼(SKD)やハイス鋼(SKH)などの、素スプライン筒部55よりも十分に硬い材料製で、真直に造られており、外周面に修正用雄スプライン部40を備えている。修正用雄スプライン部40は、適正なビットウィーンピン径BPDを有する素雌スプライン部35と合致する形状を有している。ダイス36aは、ダイス36(
図4参照)と同様の構成を有する。ダイス36aのしごき面37aの最小径部の内径は、適正な素スプライン筒部55の外径と同じ大きさである。
【0041】
修正工程では、
図6(A)に示すように、素スプライン筒部55の内側に芯金39を挿入することにより、素雌スプライン部35に修正用雄スプライン部40を係合させる。これとともに、芯金39の中心軸を、ダイス36aの中心軸に一致させた状態で、素スプライン筒部55を、ダイス36aのしごき面37aの内側に圧入する。これにより、素スプライン筒部55の外周面を、しごき面37aにより修正用雄スプライン部40と同軸にしごく。また、これに伴い、素スプライン筒部55の内周面である素雌スプライン部35を修正用雄スプライン部40に押し付けることで、素雌スプライン部35を、修正用雄スプライン部40にほぼ合致する形状に塑性変形させる。そして、このようにすることで、素スプライン筒部55の曲がりや素雌スプライン部35のビットウィーンピン径BPDを修正する。その後、
図6(B)に示すように、修正後の素スプライン筒部55の内側から芯金39を抜き出す。
【0042】
上述したような本例の場合には、第3工程を行う前に、素スプライン筒部55の曲がりや素雌スプライン部35のビットウィーンピン径BPDを修正することができるため、より高品質なアウタシャフト13を製造することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0043】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図7~
図9を用いて説明する。
本例のアウタシャフトの製造方法は、軸方向位置によってビットウィーンピン径BPDが異なる雌スプライン部20a{
図7(E)、
図8(C)(a)及び
図8(C)(b)参照}を形成するために、第2工程が、以下に説明するような外周加工工程を含んでいる。
【0044】
軸方向位置によってビットウィーンピン径BPDが異なる雌スプライン部を形成する場合には、素スプライン筒部の外径を軸方向位置によって異ならせる。その結果、ダイスを用いて素スプライン筒部を縮径させる際の、素スプライン筒部の縮径量が軸方向位置によって変化するため、軸方向位置によってビットウィーンピン径BPDが異なる雌スプライン部を形成することができる。
【0045】
本例の場合、外周加工工程では、修正工程を行っていない素スプライン筒部55{
図4(C)参照}又は修正工程によって修正した素スプライン筒部55{
図6(B)参照}の軸方向一方側部の外周面に、切削加工、研削加工、研磨加工などの削り加工を施すことによって、該軸方向一方側部の外径を所定量(例えば、元の外径の0.1%~1%程度)減少させる。これにより、
図7(C)、
図8(A)(a)及び
図8(A)(b)に示すように、ダイス36を用いて縮径させる前の素スプライン筒部55aの外径を、前記削り加工を施した軸方向一方側部と、該軸方向一方側部よりも軸方向他方側に位置する軸方向他方側部とで、互いに異ならせる。すなわち、このような素スプライン筒部55aの外周面は、軸方向一方側部に小径部41(外径φS)を有し、軸方向他方側部に大径部42{外径φT(>φS)}を有する、段付円筒面となっている。なお、小径部41と大径部42との間には、段部54が存在している。
【0046】
本例では、続く第3工程において、
図7(D)に示すように、ダイス36を用いて素スプライン筒部55aに絞り加工を施す。すなわち、素スプライン筒部55aをダイス36のしごき面37の内側に圧入する。これにより、素スプライン筒部55aの外周面(小径部41及び大径部42)をしごき面37によりしごくことによって、素スプライン筒部55aの全体を縮径させる{
図7(E)、
図8(B)(a)及び
図8(B)(b)参照}。本例では、この際の素スプライン筒部55aの縮径量は、縮径前に大径部42が位置していた軸方向他方側部よりも、縮径前に小径部41が位置していた軸方向一方側部で小さくなる。このため、第3工程によって形成された雌スプライン部20aのビットウィーンピン径BPDは、縮径前に大径部42が位置していた軸方向他方側部よりも、縮径前に小径部41が位置していた軸方向一方側部で大きくなる。すなわち、第3工程によって形成された雌スプライン部20aは、軸方向一方側部に大径スプライン部43(ビットウィーンピン径BPDの最大値=Xp)を有し、軸方向他方側部に小径スプライン部44{ビットウィーンピン径BPD=Yp(<Xp)}を有する、段付きの雌スプライン部20aとなる{
図8(C)(a)及び
図8(C)(b)をさらに参照}。
【0047】
図9中の線図は、第3工程によって形成された雌スプライン部20aの軸方向位置(先端からの距離)と、該雌スプライン部20aのビットウィーンピン径BPDとの関係を示している。なお、本例の場合も、内周面に完成状態の雌スプライン部20aを有するスプライン筒部15aの外径は、軸方向の全長にわたり実質的に一定となっている。換言すれば、スプライン筒部15aは、軸方向一方側部の外径φS′と、軸方向他方側部の外径φT′とが、実質的に等しくなっている(φS′≒φT′)。なお、第3工程における素スプライン筒部55aの縮径量が軸方向一方側部と軸方向他方側部とで異なることから、その痕跡が縮径後のスプライン筒部15aの外周面に残る場合がある。
【0048】
上述したような本例の製造方法によって製造されたアウタシャフトの場合には、雌スプライン部20aの軸方向一方側部(使用状態での軸方向前側部)が大径スプライン部43になっているため、ステアリングシャフトを組み立てる際に、雌スプライン部20aの軸方向一方側の開口部を通じて、雌スプライン部20aの内側に、雄スプライン部21(
図2参照)を挿入する作業を容易に行える。
【0049】
また、上述したような段付きの雌スプライン部20aを、前述したような従来の雌スプライン部の形成方法によって形成する場合には、サイズが異なる2種類のスプライン成形用工具が必要になったり、あるいは、1種類のスプライン成形用工具を用いて雌スプライン部20aを形成しようとすると、雌スプライン部20aの形成後に、雌スプライン部20aの段部とスプライン成形用工具の一部とが軸方向に干渉して、雌スプライン部20aの内側からスプライン成形用工具を抜き取ることができなくなるなどの、不都合が生じる。これに対して、本例では、このような不都合を生じることなく、上述したような段付きの雌スプライン部20aを形成することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例及び第2例と同様である。
【0050】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図10を用いて説明する。
本例のアウタシャフトの製造方法では、外周加工工程によって、
図10(A)に示すように、ダイスを用いて縮径させる前の素スプライン筒部55bの外周面のうち、軸方向一方側端部と軸方向他方側端部との軸方向に離隔した2箇所に、小径部41a、41bを設ける。これにより、第3工程によって形成された雌スプライン部20bのビットウィーンピン径BPDを、
図10(B)の線図に示すように、軸方向一方側端部と軸方向他方側端部との軸方向に離隔した2箇所で、軸方向中間部に比べて大きくする。なお、本例では、2つの小径部41a、41bの外径を互いに異ならせている。具体的には、軸方向他方側の小径部41bの外径を、軸方向一方側の小径部41aの外径よりも大きくしている。これにより、第3工程における軸方向他方側端部の縮径量を軸方向一方側端部の縮径量よりも多くすることで、第3工程によって形成された雌スプライン部20bのビットウィーンピン径BPDを、軸方向他方側端部で軸方向一方側端部よりも小さくしている。ただし、本発明を実施する場合には、2つの小径部41a、41bの外径の大小関係を本例の場合と逆にしたり、あるいは、2つの小径部41a、41bの外径を互いに等しくしたりすることもできる。
【0051】
上述のような雌スプライン部20bを備えた完成後のアウタシャフトの場合には、雌スプライン部20bのビットウィーンピン径BPDが、軸方向他方端部(使用状態での軸方向後側端部)で軸方向中間部よりも大きくなっている。このため、例えば、二次衝突時にステアリングシャフトの全長が収縮して、雌スプライン部20bの内側から雄スプライン部21(
図2参照)が後方に抜け出る際の、雌スプライン部20bと雄スプライン部21との間に作用する摺動力の変動を小さく抑えることができ、その分、運転者の保護充実を図れる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例~第3例と同様である。
【0052】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、
図11を用いて説明する。
本例のアウタシャフトの製造方法では、外周加工工程によって、
図11(A)に示すように、ダイスを用いて縮径させる前の素スプライン筒部55cの外周面のうち、軸方向に離隔した3箇所に、小径部41を設ける。これにより、第3工程によって形成された雌スプライン部20cのビットウィーンピン径BPDを、
図11(B)の線図に示すように、縮径前に小径部41が存在していた軸方向に離隔した3箇所で、他の軸方向箇所に比べて大きくする。
【0053】
上述のような雌スプライン部20cを備えた完成後のアウタシャフトの場合には、雌スプライン部20cと雄スプライン部21(
図2参照)との接触面積を、実施の形態の第3例及び第4例の場合に比べて狭くして、雌スプライン部20cと雄スプライン部21との摺動抵抗をより低くすることができるため、ステアリングホイール2(
図2参照)の前後位置の調節を円滑に行うことができる。その一方で、雌スプライン部20cと雄スプライン部21とが軸方向複数箇所で接触するため、雌スプライン部20cと雄スプライン部21とのスプライン係合部のがたつきを小さく抑えることができる。また、雌スプライン部20cは、軸方向両側に隣接する部分に比べてビットウィーンピン径BPDが大きい部分を有しているため、該部分を潤滑用のグリースを保持するためのグリース保持部として利用することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例~第3例と同様である。
【0054】
[実施の形態の第6例]
実施の形態の第6例について、
図12を用いて説明する。
本例のアウタシャフトの製造方法では、外周加工工程によって、
図12(A)に示すように、ダイスを用いて縮径させる前の素スプライン筒部55dの外周面を、軸方向全長にわたり、軸方向一方側から軸方向他方側に向かうほど外径が徐々に小さくなる円すい筒状のテーパ面56としている。これにより、第3工程によって形成された雌スプライン部20dのビットウィーンピン径BPDを、
図12(B)の線図に示すように、軸方向全長にわたり、軸方向一方側(先端側)から軸方向他方側(基端側)に向かうほど徐々に小さくしている。
【0055】
上述のような雌スプライン部20dを備えた完成後のアウタシャフトの場合には、雌スプライン部20dのビットウィーンピン径BPDが、軸方向全長にわたり、軸方向一方側(先端側)から軸方向他方側(基端側)に向かうほど徐々に小さくなっている。このため、例えば、二次衝突時にステアリングシャフトの全長が収縮する際、すなわち、アウタシャフトがインナシャフト12(
図2参照)に対して前方に移動する際に、雌スプライン部20dと雄スプライン部21との締め代(摺動力)を徐々に大きくすることによって、アウタシャフトの単位移動量当たりの衝撃吸収量を徐々に大きくすることができる。これにより、運転者の保護充実を図れる。また、二次衝突時には、上述のように雌スプライン部20dと雄スプライン部21との締め代が徐々に大きくなることに伴って、アウタシャフトとインナシャフト12との同軸度が徐々に高まる効果(センタリング効果)が得られるため、衝撃吸収を安定して行うことができる。
【0056】
なお、本例では、雌スプライン部20dのビットウィーンピン径BPDを、軸方向全長にわたり、軸方向一方側から軸方向他方側に向かうほど徐々に小さくする構成を採用した。ただし、本発明を実施する場合には、雌スプライン部のビットウィーンピン径BPDを、一部の軸方向範囲(例えば軸方向他方側の範囲)のみで、軸方向一方側から軸方向他方側に向かうほど徐々に小さくする構成を採用することもできる。この場合には、前記一部の軸方向範囲に対応する素スプライン筒部の軸方向範囲のみにおいて、該素スプライン筒部の外径を、軸方向一方側から軸方向他方側に向かうほど徐々に小さくする。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例~第3例と同様である。
【0057】
なお、上述した実施の形態の第1例~第6例では、素雌スプライン部を形成するのに先立って、該素雌スプライン部を形成する部分に絞り加工を施して縮径させたが、本発明を実施する場合、完成品であるアウタシャフトの形状によっては、当該絞り加工を省略することもできる。
【0058】
また、本発明は、ステアリングシャフトを構成するアウタシャフトに限らず、例えば、
図13に示すような中間シャフト6aを構成するアウタシャフト46に適用することもできる。
【0059】
図13に示した中間シャフト6aは、インナシャフト45と、アウタシャフト46とを備えている。インナシャフト45は、中間シャフト6aの軸方向一方側(
図13の左側)に配置されており、アウタシャフト46は、中間シャフト6aの軸方向他方側(
図13の右側)に配置されている。インナシャフト45は、軸方向他方側の軸部47と、軸方向一方側のヨーク部48とを備えている。軸部47の軸方向他方側部分の外周面には、雄スプライン部49が設けられている。ヨーク部48は、軸部47の軸方向一方側の端部に接合部である溶接ビード部50により溶接接合されている。なお、ヨーク部48は、使用状態で前側に位置する自在継手5b(
図1参照)を構成するものである。アウタシャフト46は、軸方向一方側の筒部51と、軸方向他方側のヨーク部52とを備えている。筒部51の軸方向一方側部の内周面には、雌スプライン部53が設けられている。ヨーク部52は、筒部51の軸方向他方側の端部に一体に設けられている。なお、ヨーク部52は、使用状態で後側に位置する自在継手5a(
図1参照)を構成するものである。そして、インナシャフト45の軸部47をアウタシャフト46の筒部51の内側に挿入し、雄スプライン部49と雌スプライン部53とをスプライン係合させることで、インナシャフト45とアウタシャフト46とを、トルク伝達を可能に、かつ、軸方向に関する相対変位を可能に組み合わせている。これにより、中間シャフト6aを伸縮可能に構成している。そして、本発明では、このような中間シャフト6aを構成するアウタシャフト46の雌スプライン部53を、例えば、上述した実施の形態の第1例~第6例と同様の方法により形成することができる。
【0060】
本発明は、上述した各実施の形態の構成を、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
また、本発明は、ステアリング装置に限らず、各種機械装置を構成するアウタシャフトに適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングコラム
5a、5b 自在継手
6、6a 中間シャフト
7 ステアリングギヤユニット
8 タイロッド
9 ピニオン軸
10 アウタコラム
11 インナコラム
12 インナシャフト
13 アウタシャフト
14 玉軸受
15、15a スプライン筒部
16 前側テーパ筒部
17 大径筒部
18 後側テーパ筒部
19 小径筒部
20、20a、20b、20c、20d 雌スプライン部
21 雄スプライン部
22a、22b 係止溝
23a、23b 止め輪
24 雄セレーション部
25 雌セレーション部
26 保持凹部
27 キーロックカラー
28 ロック用透孔
29 原管
30 第1中間素材
31 第2中間素材
32 第3中間素材
33 縮径筒部
34 原管部
35 素雌スプライン部
36、36a ダイス
37、37a しごき面
38 内輪
39 芯金
40 修正用雄スプライン部
41 小径部
42 大径部
43 大径スプライン部
44 小径スプライン部
45 インナシャフト
46 アウタシャフト
47 軸部
48 ヨーク部
49 雄スプライン部
50 溶接ビード部
51 筒部
52 ヨーク部
53 雌スプライン部
54 段部
55、55a、55b、55c、55d 素スプライン筒部
56 テーパ面