(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】化合物探索方法、化合物探索装置、及び化合物探索プログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/40 20190101AFI20230301BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20230301BHJP
G06N 99/00 20190101ALI20230301BHJP
【FI】
G16C20/40
C07B61/00 Z
G06N99/00 180
(21)【出願番号】P 2019033973
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】三井 崇志
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-533477(JP,A)
【文献】泉 聡志 ,機械・材料設計に生かす 実践 分子動力学シミュレーション ,第1版 ,森北出版株式会社 森北 博巳,2015年06月25日,55-56ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00 - 99/00
C07B 61/00
G06N 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子と相互作用を有する化合物を探索する化合物探索方法であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を含むことを特徴とする化合物探索方法。
【請求項2】
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
請求項1に記載の化合物探索方法。
【請求項3】
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる請求項1から2のいずれかに記載の化合物探索方法。
【請求項4】
標的分子と相互作用を有する化合物を探索する化合物探索装置であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を実行する抽出部、
を備えることを特徴とする化合物探索装置。
【請求項5】
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
請求項4に記載の化合物探索装置。
【請求項6】
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる請求項4から5のいずれかに記載の化合物探索装置。
【請求項7】
標的分子と相互作用を有する化合物を探索する化合物探索プログラムであって、
コンピュータに、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を実行させることを特徴とする化合物探索プログラム。
【請求項8】
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
請求項7に記載の化合物探索プログラム。
【請求項9】
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる請求項7から8のいずれかに記載の化合物探索プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物探索方法、化合物探索装置、及び化合物探索プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
あるタンパク質などの標的分子が疾患に関連する機能部位(活性部位)を持つ場合、標的分子をターゲットとする創薬では、標的分子の機能部位と安定に結合するリガンドを設計することが必要である。リガンドが標的分子に安定に結合することより、例えば、標的分子の機能部位が塞がれる。その結果として、標的分子の疾患に関連する機能が抑制される。
【0003】
標的分子の構造情報を活用したリガンドの設計方法としては、大きく2種類に分類される。
一つが、標的分子の立体構造に基づいてリガンドを設計する方法であり、SBDD(Structure-Based Drug Design)と呼ばれる。この方法では、通常、標的分子の固定された立体構造に対して、リガンドの最適構造を探索していく。しかし、実際の標的分子の立体構造は、生体内において、揺らいでいる。更に、標的分子の活性部位の立体構造が、リガンドの構造によって変化することが知られている。更に、標的分子の静的立体構造に基づいて設計されたリガンドと標的分子とが、動的環境下においても安定な結合構造を取るとは限らない。
【0004】
リガンドの設計方法のもう一つが、活性部位に結合しやすいフラグメント分子の組み合わせ又は成長によりリガンドを設計する方法であり、FBDD(Fragment-Based Drug Design)と呼ばれる。この方法では、活性部位に結合するフラグメント分子の構造の違いにより標的分子の安定な立体構造が変化する結果、設計したリガンドが実際には標的分子に適切に結合しない場合がある。
【0005】
したがって、標的分子の立体構造の変化を考慮したリガンド(化合物)の設計方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件は、標的分子の立体構造の変化を考慮して標的分子との相互作用が強い化合物を探索できる化合物探索方法、化合物探索装置、及び化合物探索プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、本件の化合物探索方法は、標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索方法であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る成長工程、
を含む。
【0009】
他の1つの態様では、本件の化合物探索方法は、標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索方法であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を含む。
【0010】
他の1つの態様では、本件の化合物探索装置は、標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索装置であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る成長工程を実行する成長部、
を備える。
【0011】
他の1つの態様では、本件の化合物探索装置は、標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索装置であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を実行する抽出部、
を備える。
【0012】
他の1つの態様では、本件の化合物探索プログラムは、標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索プログラムであって、
コンピュータに、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る成長工程を実行させる。
【0013】
他の1つの態様では、本件の化合物探索プログラムは、標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索プログラムであって、
コンピュータに、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を実行させる。
【発明の効果】
【0014】
一つの側面では、標的分子の立体構造の変化を考慮して標的分子との相互作用が強い化合物を探索できる化合物探索方法を提供できる。
また、他の一つの側面では、標的分子の立体構造の変化を考慮して標的分子との相互作用が強い化合物を探索できる化合物探索装置を提供できる。
また、他の一つの側面では、標的分子の立体構造の変化を考慮して標的分子との相互作用が強い化合物を探索できる化合物探索プログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、動的環境下の標的分子の結合サイトで、結合サイトに適合する化合物を逐次的に作成する方法を説明するための概略図である(その1)。
【
図1B】
図1Bは、動的環境下の標的分子の結合サイトで、結合サイトに適合する化合物を逐次的に作成する方法を説明するための概略図である(その2)。
【
図1C】
図1Cは、動的環境下の標的分子の結合サイトで、結合サイトに適合する化合物を逐次的に作成する方法を説明するための概略図である(その3)。
【
図2】
図2は、化合物探索方法の一例のフローチャートである。
【
図3】
図3は、成長工程の一例のフローチャートである。
【
図4A】
図4Aは、成長工程の一例を説明するための概略図である(その1)。
【
図4B】
図4Bは、成長工程の一例を説明するための概略図である(その2)。
【
図4C】
図4Cは、成長工程の一例を説明するための概略図である(その3)。
【
図4D】
図4Dは、成長工程の一例を説明するための概略図である(その4)。
【
図4E】
図4Eは、成長工程の一例を説明するための概略図である(その5)。
【
図5】
図5は、抽出工程の一例のフローチャートである。
【
図6】
図6は、成長工程の結果として得られる各分子の生成回数の一例を説明するための図である。
【
図7A】
図7Aは、成長工程の一例の結果として得られる複数の成長した分子である。
【
図8】
図8は、分子を作製する方法の一例を説明するための図である。
【
図9A】
図9Aは、成長工程の実例を説明するための図である(その1)。
【
図9B】
図9Bは、成長工程の実例を説明するための図である(その2)。
【
図9C】
図9Cは、成長工程の実例を説明するための図である(その3)。
【
図10】
図10は、開示の化合物探索装置の一例のハードウェア構成図である。
【
図11】
図11は、開示の化合物探索装置の他の一例のハードウェア構成図である。
【
図12】
図12は、開示の化合物探索装置の他の一例のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
創薬とは、医薬品を設計するプロセスを指す。創薬は、例えば、以下のような順で行われる。
(1) 標的分子の決定
(2) リード化合物等の探索
(3) 生理作用の検定
(4) 安全性・毒性試験
リード化合物等(リード化合物及びそれから派生する化合物)の探索においては、多数の薬候補分子の各々と、標的分子との相互作用を精度よく評価することが重要である。
【0017】
コンピュータを用いて医薬品を設計するプロセスを、IT創薬と称することがある。IT創薬の技術は、創薬全般において利用可能である。その中でも、リード化合物等の探索にIT創薬の技術を利用することは、新薬開発の期間及び確率を高める上で有用である。
【0018】
開示の技術は、例えば、高い薬理活性が期待されるリード化合物等の探索に利用できる。
【0019】
(化合物探索方法)
本件の化合物探索方法は、標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索方法である。
化合物探索方法は、例えば、成長工程を有する。
化合物探索方法は、例えば、抽出工程を有する。
成長工程においては、反応力場を用いた分子動力学計算を行い、標的分子の結合サイト(結合ポケット)においてベースフラグメント分子に原子を結合させることでベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る。
抽出工程においては、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子の各化学構造の成長工程における出現頻度と、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、化合物の候補となる候補化合物を抽出する。
【0020】
リガンドの設計方法であるSBDD(Structure-Based Drug Design)及びFBDD(Fragment-Based Drug Design)のいずれにおいても、タンパク質の立体構造の変化が考慮されない結果、タンパク質である標的分子と、設計されたリガンドである薬候補分子との結合構造が、十分な安定結合構造ではない場合が多い。
【0021】
そこで、本発明者は、動的環境下の標的分子の結合サイトで、結合サイトに適合する化合物を逐次的に作成することを考えた。それを、概念的に説明する。
まず、標的分子1の結合サイト1Aに、ベースフラグメント分子2を配置する(
図1A)。
続いて、結合サイト1Aに、原子又は原子群を任意に配置する(
図1B)。ここで、
図1Bにおいて、「水」は親水性の原子又は原子群を表し、「油」は親油性の原子又は原子群を表し、「+」は正帯電性の原子又は原子群を表し、「-」は負帯電性の原子又は原子群を表す。そして、その状態で、反応力場(Reactive force field)を用いた分子動力学計算を行う。ここで、分子動力学計算の際に用いられる一般的な力場である分子力場では、共有結合の生成又は開裂は考慮されていない。一方、反応力場は、共有結合の生成又は開裂を考慮している。そのため、分子動力学計算において、反応力場を用いることにより、ベースフラグメント分子1Aと、原子又は原子群とを結合させることができる。
各原子又は原子群は、分子動力学計算の最中に、結合サイト1A内での相互作用に応じて移動する。その際、ベースフラグメント分子2との結合条件を満たす原子又は原子群は、ベースフラグメント分子2と結合し、成長したベースフラグメント分子2Aが得られる(
図1C)。
そうすることにより、標的分子1及び結合サイト1Aの立体構造の変化を考慮した、適切なリガンド(成長した分子)が得られる。
【0022】
<成長工程>
成長工程においては、反応力場を用いた分子動力学計算を行い、標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることでベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る。
【0023】
分子動力学計算は、分子動力学計算プログラムを用いて行うことができる。分子動力学計算プログラムとしては、例えば、AMBER、CHARMm、GROMACS、GROMOS、NAMD、myPrestoなどが挙げられる。
【0024】
反応力場(Reactive force field)は、結合の生成と開裂を記述することができる力場であり、例えば、下記論文などで各種パラメータ等が発表されている。それらの内容はすべて本明細書中に参照することにより援用される。
・J. Phys. Chem. A 2001, 105, 9396-9409
・J. Phys. Chem. B 2011, 115, 249-261
・Phys. Chem. Chem. Phys., 2013, 15, 15062-15077
反応力場の一例としては、例えば、上記論文にも紹介されているReaxFFが挙げられる。
【0025】
標的分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タンパク質、RNA(リボ核酸、ribonucleic acid)、DNA(デオキシリボ核酸、deoxyribonucleic acid)などが挙げられる。
【0026】
分子動力学計算の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
ベースフラグメント分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、環構造を有する分子が好ましい。環構造としては、例えば、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、複素環などが挙げられる。
環構造は、標的分子の結合サイトに強く相互作用することが経験的に知られていることから、分子を成長させる元となるベースフラグメントとして適している。
【0028】
成長工程におけるベースフラグメント分子への原子の結合は、例えば、ベースフラグメント分子と原子との距離及び角度に基づいてなされる。これらは、反応力場のパラメータによって適宜設定できる。
【0029】
成長工程は、例えば、1次成長処理程と、2次成長処理とを含む。成長工程においては、例えば、2次成長処理を複数回繰り返すことにより、分子を更に成長させる。
1次成長処理では、標的分子の結合サイトに配したベースフラグメント分子に原子を結合させることでベースフラグメント分子を成長させる。その結果、成長した1次分子を得る。この処理は、反応力場を用いた分子動力学計算により行われる。
2次成長処理では、標的分子の結合サイトに配した1次分子に原子を結合させることで1次分子を成長させる。その結果、成長した2次分子を得る。この処理は、反応力場を用いた分子動力学計算により行われる。
1次成長処理、及び2次成長処理における分子動力学計算のシミュレーション時間としては、数ナノ秒~数十ナノ秒程度(例えば、1ナノ秒~50ナノ秒程度)が挙げられる。
【0030】
1次成長処理で得られた1次分子を2次成長処理に供する際には、1次分子の構造最適化を行うことが好ましい。構造最適化は、例えば、量子化学計算によって行うことができる。
構造最適化を行うことにより、安定した立体構造が得られる。そうすることにより、成長工程の精度が高くなり、成長工程により得られる成長した分子と標的分子との相互作用の分子力場による評価がより正確になる。
【0031】
また、構造最適化を行った1次分子を2次成長処理に供する際には、分子力場を用いた分子動力学計算により、標的分子と1次分子との複合体の構造緩和を行うことが好ましい。そうすることにより、2次成長処理の精度を高くすることができる。ここで用いられる分子力場としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、AMBER、CHARMm、GROMACS、GROMOS、NAMD、myPrestoなどの分子動力学計算プログラムに付属した分子力場が挙げられる。
【0032】
なお、2次成長処理で得られた2次分子を更なる2次成長処理に供する際にも、2次分子の構造最適化を行うことが好ましい。
また、構造最適化を行った2次分子を更になる2次成長処理に供する際にも、分子力場を用いた分子動力学計算により、標的分子と2次分子との複合体の構造緩和を行うことが好ましい。
【0033】
<抽出工程>
抽出工程においては、出現頻度と、原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、化合物の候補となる候補化合物を抽出する。
出現頻度は、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子の各化学構造の成長工程における出現頻度である。
原子の密度分布を用いて作製した分子は、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子である。
【0034】
出現頻度が高い分子ほど、標的分子との相互作用が強い化合物である可能性が高い。
また、成長工程における出現頻度が低い分子又は成長工程においては出現しない分子の場合でも、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子には、標的分子との相互作用が強い化合物である可能性が高い。
それは、反応力場を用いた結合の生成においては生じなかった結合であるが、原子の密度分布を考慮すると結合を生じさせた方が適当な結合が存在することがあるためである。例えば、反応力場を用いた結合の生成においては、環構造の生成確率は相対的に低いと考えられる。そこで、原子の密度分布を考慮した場合に環構造を生成させた方がよい場合には、原子の密度分布を用いて環構造を形成した分子を作製したほうがよい。
【0035】
ここで、化合物探索方法の一例をフローチャート及び図を用いて説明する。
図2に、化合物探索方法の一例のフローチャートを示す。
まず、成長工程を行う(S1)。成長工程では、反応力場を用いた分子動力学計算を行い、標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることでベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る。
続いて、抽出工程を行う(S2)。抽出工程では、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子の各化学構造の成長工程における出現頻度と、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、化合物の候補となる候補化合物を抽出する。
【0036】
ここで、成長工程の一例の詳細をフローチャート及び図を用いて説明する。
図3に、成長工程の一例のフローチャートを示す。
<<工程S101>>
まず、標的分子1及びベースフラグメント分子2を配置する(
図4A、S101)。この際、標的分子1の結合サイト1Aに、ベースフラグメント分子2を配置する。これらの配置は、例えば、3次元座標空間に、標的分子の立体構造、ベースフラグメント分子の立体構造を構築することにより行われる。標的分子の立体構造は、例えば、既知の立体構造である。
ベースフラグメント分子2の配置位置としては、例えば、標的分子1の結合サイト1A内のアミノ酸残基であって、ベースフラグメント分子2と相互作用するアミノ酸残基1Bの近傍が挙げられる。そのようなアミノ酸残基の近傍に配置することで、分子動力学計算において相互作用が維持されることが期待できる。
なお、例えば、分子動力学計算の初期構造として、標的分子1においては水素原子を考慮するが、ベースフラグメント分子2においては水素原子を含まない。そのため、配置される標的分子1は水素原子を含むが、ベースフラグメント分子2は水素原子を含まない。
【0037】
標的分子の立体構造、及びベースフラグメント分子の立体構造を構成するための立体構造データは、例えば、原子情報データ、座標情報データ、及び結合情報データを有する。
これらのデータの形式は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テキストデータであってもよいし、SDF(Structure Data File)形式であってもよいし、MOLファイル形式であってもよい。
【0038】
<<工程S102>>
次に、結合サイト1A内及びその周辺に、原子又は原子群4を配置する(
図4B、S102)。その際、通常、水分子3も配置される。水分子の配置の密度は、一般的な分子動力学計算で行われる水分子の配置の密度と同程度でよい。原子又は原子群の配置の数、位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、配置の数は、水分子と同程度の数であってもよい。配置の位置としては、例えば、任意でよい。
一般的な分子動力学計算において、水分子は、997kg/m
3(0.9%NaCl)程度の密度で配される。
配置される原子群としては、例えば、2~10個程度の原子が結合した原子群が挙げられる。そのような原子群としては、例えば、官能基などが挙げられる。
配置される原子又は原子群の元素の種類としては、例えば、炭素、窒素、酸素、リン、ハロゲン原子などが挙げられる。
配置される原子又は原子群における各元素の割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の薬における各元素の割合を参考にして適宜選択してもよい。
【0039】
また、配置される水分子、原子、原子群には、結合サイト1Aから必要以上に離れて行かないように、所定の拘束をかけてもよい。拘束は、例えば、結合サイト1A内の半径Raの球体空間内においてかけられる。
【0040】
<<工程S103>>
次に、1次成長処理として、反応力場を用いた分子動力学計算を行う(S103)。例えば、反応力場を用いた分子動力学計算によって、新たな結合の生成により、
図4Cに示すベースフラグメント分子2及び原子4から、
図4Dに示す成長したベースフラグメント分子2A(成長した1次分子)が得られる。新たな結合は、例えば、ベースフラグメント分子2の原子と、原子とが、所定の距離及び角度を満たす際に生成される。
所定の距離及び角度は、例えば、結合対象の原子の種類、及び当該原子に結合する他の原子の種類及びその原子との結合の種類などに応じて、適宜設定される。
また、1次成長処理においては、ベースフラブメント分子2A内の結合には開裂が生じないようにすることが好ましい。
【0041】
<<工程S104>>
次に、1次成長処理で得られた1次分子(成長したベースフラグメント分子2A)の構造最適化を行う(S104)。構造最適化の際には、1次分子を、構造的に矛盾のない化学構造にするために、まず、1次分子に水素原子2Bを付加する(
図4E)。
そして、水素原子を付加した1次分子の構造最適化を行う。構造最適化を行うことにより、1次分子の安定した立体構造が得られる。構造最適化は、例えば、量子化学計算によって行う。
【0042】
<<工程S105>>
次に、構造最適化を行った1次分子(成長したベースフラグメント分子2A)を2次成長処理に供する前に、分子力場を用いた分子動力学計算により、標的分子と1次分子との複合体の構造緩和を行う(S105)。
【0043】
<<工程S106>>
次に、2次成長処理として、標的分子の結合サイトに1次分子、及び原子又は原子群を配し、反応力場を用いた分子動力学計算を行う(S106)。そうすることにより、新たな結合の生成により、1次分子を成長させ、成長した2次分子を得る。
なお、2次成長処理においては、1次分子内の結合には開裂が生じないようにすることが好ましい。
【0044】
<<工程S107>>
次に、2次成長処理で得られた2次分子の構造最適化を行う(S107)。構造最適化の際には、2次分子を、構造的に矛盾のない化学構造にするために、まず、2次分子に水素を付加する。
そして、水素を付加した2次分子の構造最適化を行う。構造最適化を行うことにより、安定した立体構造が得られる。構造最適化は、例えば、量子化学計算によって行う。
【0045】
<<工程S108>>
次に、分子力場を用いた分子動力学計算により、標的分子と2次分子との複合体の構造緩和を行う(S108)。
【0046】
<<工程S109>>
工程S108における2次分子が、結合サイトの大きさに対して十分に小さい場合には、より多様な化合物構造を探索するため、さらにその分子を成長させることが好ましい。
そこで、工程S108における2次分子が所定の大きさの分子に成長しているかどうかの判定を行う。この判定では、所定の大きさの分子であるかどうかの判断基準として、例えば、分子量を用いる。
判定の結果、2次分子が所定の大きさの分子に成長していない場合には、2次成長処理(工程S106)、構造最適化(工程S107)、及び構造緩和(工程S108)の一連の処理を、2次分子が所定の大きさに成長するまで繰り返し行う。
一方、2次分子が所定の大きさの分子に成長している場合には、成長工程を終了する。
【0047】
成長工程が終了した結果として、例えば、以下のデータを得ることができる。
・ベースフラグメント分子の成長履歴
・標的分子と2次分子との複合体構造
成長履歴は、例えば、1次成長処理、2次成長処理の各々の終了時の1次分子、2次分子の構造の集合として得られる。
これらのデータは、抽出工程に利用される。
【0048】
なお、成長工程は、原子又は原子群の配置、数などの分子動力学計算の初期条件を種々変更して、各成長工程が複数回行われる。
【0049】
ここで、抽出工程の一例の詳細をフローチャート及び図を用いて説明する。
図5に、抽出工程の一例のフローチャートを示す。
抽出工程においては、成長工程で得られたデータに基づいて、標的分子との相互作用が強い化合物の候補となる候補化合物を抽出する。その手順は、例えば、以下の通りである。
【0050】
<<工程S201>>
まず、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子の各化学構造の成長工程における出現頻度を算出する(S201)。
出願頻度は、例えば、
図6に示すように、成長した各分子の生成回数によって表すことができる。
例えば、成長工程を200回実施する。その中で、成長処理(1次成長処理又は2次成長処理)を、最大3回(1stサイクル、2ndサイクル、3rdサイクル)行う。なお、1stサイクルは1次成長処理に相当し、2ndサイクルは2次成長処理に相当し、3rdサイクルは2次成長処理に相当する。
例えば、標的分子1の結合サイト1Aにおいてベースフラグメント分子2に原子を結合させる1次成長処理(1stサイクル)を200回実施した結果、
図6に示すように3種類の成長した分子(2AA、2AB、2AC)が生成し、その生成確率が各50%、25%、15%である場合、生成回数は、2AAが100回、2ABが50回、2ACが30回となる。
次に、100回生成した分子(2AA)と標的分子1との複合体に関して、2ndサイクルを実施した結果、
図6に示すように2種類の成長した分子(2AD、2AE)が生成し、その生成確率が各50%、30%の場合、生成回数は、2ADが50回、2AEが30回となる。
更に、50回生成した分子(2AD)と標的分子1との複合体、及び30回生成した分子(2AE)と標的分子1との複合体の各々に対して、3rdサイクルを実施した結果、
図6に示すように3種類の成長した分子(2AF、2AG、2AH)が生成し、その生成確率が、2ADから2AFが生成する確率が10%、2ADから2AGが生成する確率が90%、2AEから2AGが生成する確率が50%、2AEから2AHが生成する確率が30%の場合、生成回数は、2AFが5回、2AGが60回、2AHが9回となる。
【0051】
出願頻度は、各サイクル毎に示してもよいし、一括して示してもよい。
また、出願頻度は、生成した分子の大きさに応じて示してもよい。分子の大きさとしては、例えば、分子量が挙げられる。例えば、特定の分子量の範囲内の分子を抽出し、それらの中での出現頻度を結果として示してもよい。
【0052】
<<工程S202>>
一方で、複数の成長工程で得られた複数の成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を得る(S202)。
例えば、成長工程の結果として、
図7Aに示すような複数の成長した分子が得られた場合に、それらの分子を重ね合わせて原子の密度分布を算出する。重ね合わせは、例えば、ベースフラグメント分子が重なるように行われる。
そうすることにより、
図7Bに示すように、ベースフラグメント分子に結合した原子の密度分布が得られる。なお、
図7Bでは、原子の密度の高低を円の色の濃さで示している。
【0053】
<<工程S203>>
次に、得られた原子の密度分布から、分子を作製する(S203)。
分子の作製においては、環構造が生成されるように作製することが好ましい。
また、分子の作製においては、工程S201で得られた出現頻度の情報を考慮することが好ましい。
例えば、
図8に示すように、高出現頻度の分子と、密度分布とを考慮して、成長工程では得られなかった、ベースフラグメント分子以外に環構造を有する分子を作製する。
【0054】
<<工程S204>>
次に、出現頻度と、作製された分子とから、標的分子との相互作用が強い化合物の候補となる候補化合物を抽出する(S204)。
抽出は、例えば、出現頻度の高い分子と、工程S203で作製された分子とを出力することで行われる。
【0055】
ここで、抽出工程の実例を紹介する。
図9Aは、X線結晶構造に実際に含まれる化合物の構造を示す。
開示の化合物探索方法の成長工程を用いてこの構造を探索した。具体的には、タンパク質として、Cyclin-dependent kinase 2(CDK2)の立体構造(PDB ID:1H1Q)を用い、ベースフラグメント分子として、
図9Bの構造を選択して、成長工程を50回行った結果、
図9Cに示す構造が得られた。この構造において、C-O(19)などの符号は、ベースフラグメント分子に付いた原子と、その原子が生成した回数を示している。
図9Cに示す構造は、
図9Aの化合物に近い構造を含んでいた。
【0056】
(プログラム)
開示の化合物探索プログラムは、コンピュータに、開示の化合物探索方法を実行させるプログラムである。
化合物探索プログラムにおいて、化合物探索方法の実行における好適な態様は、開示の化合物探索方法における好適な態様と同じである。
【0057】
化合物探索プログラムは、使用するコンピュータシステムの構成及びオペレーティングシステムの種類・バージョンなどに応じて、公知の各種のプログラム言語を用いて作成することができる。
【0058】
前記プログラムは、内蔵ハードディスク、外付けハードディスクなどの記録媒体に記録しておいてもよいし、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、MOディスク(Magneto-Optical disk)、USBメモリ〔USB(Universal Serial Bus) flash drive〕などの記録媒体に記録しておいてもよい。前記プログラムをCD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどの記録媒体に記録する場合には、必要に応じて随時、コンピュータシステムが有する記録媒体読取装置を通じて、これを直接、又はハードディスクにインストールして使用することができる。また、コンピュータシステムから情報通信ネットワークを通じてアクセス可能な外部記憶領域(他のコンピュータ等)に前記プログラムを記録しておき、必要に応じて随時、前記外部記憶領域から情報通信ネットワークを通じてこれを直接、又はハードディスクにインストールして使用することもできる。
前記プログラムは、複数の記録媒体に、任意の処理毎に分割されて記録されていてもよい。
【0059】
(コンピュータが読み取り可能な記録媒体)
開示のコンピュータが読み取り可能な記録媒体は、開示の前記プログラムを記録してなる。
前記コンピュータが読み取り可能な記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内蔵ハードディスク、外付けハードディスク、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどが挙げられる。
前記記録媒体は、前記プログラムが任意の処理毎に分割されて記録された複数の記録媒体であってもよい。
【0060】
(化合物探索装置)
開示の化合物探索装置は、例えば、成長部を備える。
開示の化合物探索装置は、例えば、抽出部を備える。
成長部は、成長工程を実行する。
抽出部は、抽出工程を実行する。
【0061】
化合物探索装置における各部の処理方法の好適な態様は、化合物探索方法における各工程の好適な態様と同じである。
化合物探索装置は、プログラムが任意の処理毎に分割されて記録された複数の記録媒体をそれぞれに備える複数の化合物探索装置であってもよい。
【0062】
図10に、開示の化合物探索装置の一例を示す。
化合物探索装置10は、例えば、CPU11、メモリ12、記憶部13、表示部14、入力部15、出力部16、I/Oインターフェース部17等がシステムバス18を介して接続されて構成される。
【0063】
CPU(Central Processing Unit)11は、演算(四則演算、比較演算等)、ハードウエア及びソフトウエアの動作制御などを行う。
【0064】
メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などのメモリである。RAMは、ROM及び記憶部13から読み出されたOS(Operating System)及びアプリケーションプログラムなどを記憶し、CPU11の主メモリ及びワークエリアとして機能する。
【0065】
記憶部13は、各種プログラム及びデータを記憶する装置であり、例えば、ハードディスクである。記憶部13には、CPU11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OSなどが格納される。
プログラムは、記憶部13に格納され、メモリ12のRAM(主メモリ)にロードされ、CPU11により実行される。
【0066】
表示部14は、表示装置であり、例えば、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置である。
入力部15は、各種データの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(例えば、マウス等)などである。
出力部16は、各種データの出力装置であり、例えば、プリンタである。
I/Oインターフェース部17は、各種の外部装置を接続するためのインターフェースである。例えば、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどのデータの入出力を可能にする。
【0067】
図11に、開示の化合物探索装置の他の一例を示す。
図11の一例は、クラウド型の構成例であり、CPU11が、記憶部13等とは独立している。この構成例では、ネットワークインターフェース部19、20を介して、記憶部13等を格納するコンピュータ30と、CPU11を格納するコンピュータ40とが接続される。
ネットワークインターフェース部19、20は、インターネットを利用して、通信を行うハードウェアである。
【0068】
図12に、開示の化合物探索装置の他の一例を示す。
図12の一例は、クラウド型の構成例であり、記憶部13が、CPU11等とは独立している。この構成例では、ネットワークインターフェース部19、20を介して、CPU11等を格納するコンピュータ30と、記憶部13を格納するコンピュータ40とが接続される。
【0069】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索方法であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る成長工程、
を含むことを特徴とする化合物探索方法。
(付記2)
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
付記1に記載の化合物探索方法。
(付記3)
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる付記1から2のいずれかに記載の化合物探索方法。
(付記4)
複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を含む、付記1から3のいずれかに記載の化合物探索方法。
(付記5)
標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索方法であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を含むことを特徴とする化合物探索方法。
(付記6)
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
付記5に記載の化合物探索方法。
(付記7)
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる付記5から6のいずれかに記載の化合物探索方法。
(付記8)
標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索装置であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る成長工程を実行する成長部、
を備えることを特徴とする化合物探索装置。
(付記9)
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
付記8に記載の化合物探索装置。
(付記10)
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる付記8から9のいずれかに記載の化合物探索装置。
(付記11)
複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を実行する抽出部を備える、付記8から10のいずれかに記載の化合物探索装置。
(付記12)
標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索装置であって、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を実行する抽出部、
を備えることを特徴とする化合物探索装置。
(付記13)
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
付記12に記載の化合物探索装置。
(付記14)
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる付記12から13のいずれかに記載の化合物探索装置。
(付記15)
標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索プログラムであって、
コンピュータに、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る成長工程を実行させることを特徴とする化合物探索プログラム。
(付記16)
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
付記15に記載の化合物探索プログラム。
(付記17)
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる付記15から16のいずれかに記載の化合物探索プログラム。
(付記18)
複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を含む、付記15から17のいずれかに記載の化合物探索プログラム。
(付記19)
標的分子との相互作用が強い化合物を探索する化合物探索プログラムであって、
コンピュータに、
反応力場を用いた分子動力学計算を行い、前記標的分子の結合サイトにおいてベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した分子を得る複数の成長工程で得られた複数の前記成長した分子の各化学構造の前記成長工程における出現頻度と、複数の前記成長工程で得られた複数の前記成長した分子を重ね合わせて得られる原子の密度分布を用いて作製した分子とを用いて、前記化合物の候補となる候補化合物を抽出する抽出工程を実行させることを特徴とする化合物探索プログラム。
(付記20)
前記成長工程が、
前記標的分子の結合サイトに配した前記ベースフラグメント分子に原子を結合させることで前記ベースフラグメント分子を成長させ成長した1次分子を得る1次成長処理と、
前記標的分子の結合サイトに配した前記1次分子に原子を結合させることで前記1次分子を成長させ成長した2次分子を得る2次処理工程とを含む、
付記19に記載の化合物探索プログラム。
(付記21)
前記成長工程において、前記ベースフラグメント分子への前記原子の結合が、前記ベースフラグメント分子と前記原子との距離及び角度に基づいてなされる付記19から20のいずれかに記載の化合物探索プログラム。
【符号の説明】
【0070】
1 標的分子
1A 結合サイト
1B ベースフラグメント分子と相互作用するアミノ酸残基
2 ベースフラグメント分子
2A 成長したベースフラグメント分子
2B 水素
3 水分子
4 原子又は原子群
10 化合物探索装置
11 CPU
12 メモリ
13 記憶部
14 表示部
15 入力部
16 出力部
17 I/Oインターフェース部
18 システムバス
19 ネットワークインターフェース部
20 ネットワークインターフェース部
30 コンピュータ
40 コンピュータ