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特許7234748金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体及び金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法
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  • 特許-金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体及び金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体及び金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230301BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20230301BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20230301BHJP
   B29C 65/02 20060101ALI20230301BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20230301BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20230301BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20230301BHJP
   B29C 70/30 20060101ALI20230301BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20230301BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20230301BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20230301BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
B32B15/08 105Z
B32B5/02 B
B32B15/08 Q
B32B15/092
B29C65/02
B29C43/20
B29C43/34
B29C70/16
B29C70/30
B29C70/68
B29K101:12
B29K105:08
B29L9:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019070563
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2019181946
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018071938
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】郡 真純
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩平
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-244726(JP,A)
【文献】特開平9-314744(JP,A)
【文献】特開2016-222935(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011687(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B29C 39/00-39/24
B29C 39/38-39/44
B29C 41/00-41/36
B29C 41/46-41/52
B29C 43/00-43/34
B29C 43/44-43/48
B29C 43/52-43/58
B29C 63/00-63/48
B29C 65/00-65/82
B29C 70/00-70/88
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料又は鉄系合金である金属部材と、
前記金属部材の少なくとも一つの面に設けられ、熱硬化性樹脂を含む樹脂層と、
前記樹脂層の面上に設けられ、炭素繊維材料と熱可塑性を有するマトリクス樹脂とを含む炭素繊維強化樹脂材料と、を有し、
前記樹脂層の160~180℃での押し込み弾性率が前記マトリクス樹脂の160~180℃での押し込み弾性率よりも高い、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項2】
前記樹脂層の厚みは、5μm以上である、請求項1に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項3】
前記鉄鋼材料又は鉄系合金が、亜鉛系めっき層を備えるめっき鋼材である、請求項1又は2に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項4】
前記マトリクス樹脂は、フェノキシ類、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類及びポリフェニレンスルフィド類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記樹脂層に含まれる樹脂は、エポキシ類、ウレタン類、ポリエステル類、メラミン類、フェノール類及びアクリル類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項5】
前記マトリクス樹脂は、フェノキシ類を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項6】
前記樹脂層は、エポキシ類を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項7】
鉄鋼材料又は鉄系合金である金属部材の少なくとも1つの面に、熱硬化性樹脂を含む樹脂膜を形成する工程と、
前記樹脂膜が形成された面の少なくとも一部に、炭素繊維材料と、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂と、を含有する炭素繊維強化樹脂材料又は炭素繊維強化樹脂材料成形用プリプレグを配置する工程と、
加熱温度Tで加熱圧着して樹脂層及び炭素繊維強化樹脂材料層を形成する工程とを含み、前記樹脂層の160~180℃での押し込み弾性率が前記マトリクス樹脂の160~180℃での押し込み弾性率よりも高い、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【請求項8】
鉄鋼材料又は鉄系合金である金属部材の少なくとも1つの面上に、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートを配置する工程と、
前記樹脂シートの、前記金属部材と反対側の面上の少なくとも一部に、炭素繊維材料と、熱可塑性樹脂を含有するマトリクス樹脂と、を有する炭素繊維強化樹脂材料又は炭素繊維強化樹脂材料成形用プリプレグを配置する工程と、
加熱温度Tで加熱圧着して樹脂層及び炭素繊維強化樹脂材料層を形成する工程とを含み、前記樹脂層の160~180℃での押し込み弾性率が前記マトリクス樹脂の160~180℃での押し込み弾性率よりも高い、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【請求項9】
前記加熱温度Tが、前記マトリクス樹脂の融点以上である、請求項7又は8に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体及び金属―炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維をマトリクス樹脂に含有させて複合化した炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、軽量で引張強度や加工性等に優れる。そのため、CFRPは、民生分野から産業用途まで広く利用されている。自動車産業においても、燃費、その他の性能の向上につながる車体軽量化のニーズを満たすため、CFRPの軽量性、引張強度、加工性等に着目し、自動車部材へのCFRPの適用が検討されている。
【0003】
しかし、CFRP単体を自動車部材へ適用する場合において、CFRPの圧縮強度が小さいという問題があり、マトリクス樹脂に熱硬化性樹脂を用いたCFRPでは脆性破壊が発生しやすい等の問題点がある。そのため、最近では、金属部材とCFRPとを積層して一体化(複合化)させた複合材料の開発が進められている。
【0004】
金属部材とCFRPとを複合化するためには、金属部材とCFRPとを接合することが必要であり、接合方法としては、一般に、エポキシ樹脂系の熱硬化性接着剤を使用する方法が知られている。しかし、上記のように、マトリクス樹脂に熱硬化性樹脂を用いたCFRPでは脆性破壊が発生しやすいという問題があるため、マトリクス樹脂に熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)の開発が進められている。
【0005】
例えば、以下の特許文献1では、金属材、CFRTP、CFRTPのマトリクス樹脂等を積層したCFRTP複合体を射出成形で製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-150547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らは、金属部材とCFRTPとの接合条件によっては、金属部材に炭素繊維が接触する可能性があり、周囲の水分のような電解液と共に局部電池を形成して、金属部材が腐食する現象(異種材料接触腐食)が発生することを発見した。また、本発明者らは、金属部材が鉄鋼材料又は鉄系合金の場合、これらは表面に安定な酸化皮膜や不働態膜を形成せず比較的腐食しやすい材料であるため、異種材料接触腐食がより顕著に発生することを発見した。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、金属部材、より具体的には鉄鋼材料又は鉄系合金と炭素繊維強化樹脂材料中の炭素繊維の接触により発生する異種材料接触腐食の抑制が可能な、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記のような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]鉄鋼材料又は鉄系合金である金属部材と、前記金属部材の少なくとも一つの面に設けられ、熱硬化性樹脂を含む樹脂層と、前記樹脂層の面上に設けられ、炭素繊維材料と熱可塑性を有するマトリクス樹脂とを含む炭素繊維強化樹脂材料と、を有し、前記樹脂層の160~180℃での押し込み弾性率がマトリクス樹脂の160~180℃での押し込み弾性率よりも高い、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
[2]前記樹脂層の厚みは、5μm以上である、[1]に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
[3]前記鉄鋼材料又は鉄系合金が、亜鉛系めっき層を備えるめっき鋼材である、[1]又は[2]に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
[4]前記マトリクス樹脂は、フェノキシ類、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエポキシエーテルケトン類及びポリフェニレンスルフィド類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記樹脂層に含まれる樹脂は、エポキシ類、ウレタン類、ポリエステル類、メラミン類、フェノール類及びアクリル類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
[5]前記マトリクス樹脂は、フェノキシ類を含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
[6]前記樹脂層は、エポキシ類を含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体。
[7]鉄鋼材料又は鉄系合金である金属部材の少なくとも1つの面に、熱硬化性樹脂を含む樹脂膜を形成する工程と、
前記樹脂膜が形成された面の少なくとも一部に、炭素繊維材料と、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂と、を含有する炭素繊維強化樹脂材料又は炭素繊維強化樹脂材料成形用プリプレグを配置する工程と、
加熱温度Tで加熱圧着して樹脂層及び炭素繊維強化樹脂材料層を形成する工程とを含み、前記樹脂層の160~180℃での押し込み弾性率が前記マトリクス樹脂の160~180℃での押し込み弾性率よりも高い、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
[8]鉄鋼材料又は鉄系合金である金属部材の少なくとも1つの面上に、熱硬化性樹脂を含有する樹脂シートを配置する工程と、
前記樹脂シートの、前記金属部材と反対側の面上の少なくとも一部に、炭素繊維材料と、熱可塑性樹脂を含有するマトリクス樹脂と、を有する炭素繊維強化樹脂材料又は炭素繊維強化樹脂材料成形用プリプレグを配置する工程と、
加熱温度Tで加熱圧着して樹脂層及び炭素繊維強化樹脂材料層を形成する工程とを含み、前記樹脂層の160~180℃での押し込み弾性率が前記マトリクス樹脂の160~180℃での押し込み弾性率よりも高い、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
[9]前記加熱温度Tが、前記マトリクス樹脂の融点以上である、[7]又は[8]に記載の金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、CFRTPに含まれる熱可塑性を有するマトリクス樹脂の160~180℃での押し込み弾性率よりも160~180℃での押し込み弾性率が高い熱硬化性樹脂を樹脂層に用いることにより、金属部材、樹脂層、及びCFRTP層を接合する際の加熱圧着時に熱硬化性樹脂を含む樹脂層の方がCFRTPのマトリクス樹脂より硬い状態にできるため、樹脂層中に炭素繊維が侵入することを抑制することが可能となる。
【0011】
以上説明したように本発明によれば、金属部材、具体的には鉄鋼材料又は鉄系合金と炭素繊維強化樹脂材料中の炭素繊維の接触により発生する異種材料接触腐食の抑制が可能となり、金属部材に比較的腐食しやすい鉄鋼材料又は鉄系合金を使用した場合であっても、金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の耐食性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る金属-CFRTP複合体の断面構造を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る金属-CFRTP複合体の別の態様の断面構造を示す模式図である。
図3】厚みの測定方法について説明するための説明図である。
図4】同実施形態に係る金属-CFRTP複合体の製造工程の一例を示す説明図である。
図5】同実施形態に係る金属-CFRTP複合体の別の態様の製造工程の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<背景>
上述したように、本発明者らは、金属部材とCFRTPとの接合条件によっては、金属部材に炭素繊維が接触した複合材料となり、周囲の水分のような電解液と共に局部電池を形成し、金属部材が腐食する異種材料接触腐食が発生することを発見した。例えば、接着樹脂を用いて金属部材とCFRTPとを加熱圧着して複合化する場合において、加熱圧着時に金属部材とCFRTPを接着する接着樹脂が、CFRTPのマトリクス樹脂よりも軟化しやすいような接着部材及びCFRTPを用いたとき、加熱圧着時に、接着樹脂及びCFRTPのマトリクス樹脂が軟化し、軟化した接着樹脂中にCFRTP中の炭素繊維が侵入することがある。接着樹脂中に侵入した炭素繊維は、金属部材と接触した状態や金属部材近傍に位置した状態で存在する場合がある。このような炭素繊維が金属部材に接触している箇所に、例えば水分などの電解質を含有する物質が存在すると、炭素繊維と金属部材とで局部電池が形成され、炭素繊維より卑である金属部材が腐食する。炭素繊維と金属部材が直接接触していない場合でも、金属部材の近傍に炭素繊維が存在する場合は、水分等により導通し、金属部材が腐食することがある。特に、金属部材が表面に安定な酸化皮膜や不働態膜を形成しない鉄鋼材料又は鉄系合金である場合、これらは比較的腐食しやすいため、炭素繊維との接触による異種材料接触腐食が顕著に発生する。さらに、鉄に対して犠牲防食作用を持つ亜鉛を含む亜鉛系めっき層が表面に設けられた鉄鋼材料又は鉄系合金である場合では、炭素繊維と亜鉛系めっき層との間でさらに大きな電位差が生じやすく、異種材料接触腐食がより顕著に発生する。
【0015】
従って、本発明者らは、金属部材とCFRTPとの加熱圧着時に、CFRTP中の炭素繊維の接着樹脂中への侵入を防止し、金属部材と炭素繊維を十分に離間することで、金属部材と炭素繊維とで形成される局部電池による金属部材の腐食を抑制することに着想した。具体的には、金属部材とCFRTPとの間に、CFRTPのマトリクス樹脂よりも高い160~180℃での押し込み弾性率を有する熱硬化性の樹脂層を設けることで、加熱圧着時における金属部材と炭素繊維の接触を防ぐことに想到した。金属部材と炭素繊維の接触を防ぐことで、金属部材が比較的腐食しやすい鉄鋼材料又は鉄系合金や亜鉛系めっき鋼板であっても、異種材料接触腐食を十分に抑制できるため、改善した耐食性を有する複合体を得ることが可能となる。
【0016】
<金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の構成>
まず、図1~3を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体の構成について説明する。図1~3は、本実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体としての金属-CFRTP複合体1の積層方向における断面構造を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、金属-CFRTP複合体1は、金属部材11と、CFRTP層12と、樹脂層13と、を備える。代替的に、金属-CFRTP複合体1は、金属部材11と、CFRTP層12と、樹脂層13とのみからなっていてもよい。したがって、金属部材11とCFRTP層12とは、樹脂層13を介して複合化されている。ここで、「複合化」とは、金属部材11とCFRTP層12とが、樹脂層13を介して接合され(貼り合わされ)、一体化していることを意味する。また、「一体化」とは、金属部材11、CFRTP層12及び樹脂層13が、加工や変形の際、一体として動くことを意味する。
【0018】
本実施形態では、樹脂層13は熱硬化性樹脂であって、金属部材11の少なくとも片側の面に接するように設けられており、金属部材11とCFRTP層12とを強固に接着している。ただし、樹脂層13及びCFRTP層12は、金属部材11の片面のみに設けられている場合のみならず、両面にそれぞれ設けられていてもよい。また、2つの金属部材11の間に樹脂層13とCFRTP層12とを含む積層体が挟み込まれるような構造にしてもよい。
【0019】
本実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体1は、CFRTP層12又は樹脂層13上に、更に、塗膜を有してもよい。この塗膜は、例えば、手塗装、吹付塗装、ロールコーター、浸漬塗装、電着塗装、紛体塗装等により形成することができる。後述するが、金属部材11の面上に設けられる樹脂層13は、その厚みが5μm以上であることが好ましく、これにより、炭素繊維の接触を効果的に防ぎ十分に絶縁性を確保することができる。
【0020】
以下、金属-CFRTP複合体1の各構成要素及びその他の構成について詳述する。
【0021】
(金属部材11)
金属部材11の材質、形状及び厚みなどは、プレス等による成形加工が可能であれば特に限定されるものではないが、形状は薄板状が好ましい。金属部材11の材質としては、例えば、鉄、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、鉄系合金(ステンレス鋼を含む)、Al系合金、Mg合金などが挙げられる。金属部材11の材質は、鉄鋼材料(鋼材)、鉄系合金、アルミニウム又はマグネシウムであることが好ましく、他の金属種に比べて引張強度が高い鉄鋼材料又は鉄系合金であることがより好ましい。上述したように、金属部材11が鉄鋼材料又は鉄系合金である場合、これらの表面には酸化皮膜等が形成されず比較的腐食が進行しやすいため、異種材料接触腐食がより顕著に発生する。したがって、鉄鋼材料又は鉄系合金を使用した複合体において、本発明に係る構成にして異種材料接触腐食を抑制することが極めて有効である。そのような鉄鋼材料としては、例えば、日本工業規格(JIS)等で規格された鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等を挙げることができる。このような鉄鋼材料の具体例としては、冷間圧延鋼材、熱間圧延鋼材、自動車構造用熱間圧延鋼板材、自動車加工用熱間圧延高張力鋼板材、自動車構造用冷間圧延鋼板材、自動車加工用冷間圧延高張力鋼板材、熱間加工時に焼き入れを行った一般にホットスタンプ材と呼ばれる高張力鋼材などを挙げることができる。鋼材の場合成分は特に規定するものではないが、Fe、Cに加え、Mn、Si、P、Al、N、Cr、Mo、Ni、Cu、Ca、Mg、Ce、Hf、La、Zr、Sbうち1種又は2種以上を添加することができる。これら添加元素は求める材料強度及び成形性を得るために適宜1種又は2種以上を選定し、添加量も適宜調整することができる。なお、金属部材11が板状である場合、これらは成形されていてもよい。
【0022】
金属部材11の材料となる鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理としては、例えば、亜鉛めっき及びアルミニウムめっき、錫めっきなどの各種めっき処理、リン酸亜鉛処理、クロメート処理及びクロメートフリー処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
【0023】
金属部材11としては、特に、耐食性に優れていることから鉄鋼材料の中でもめっき処理が施されためっき鋼材を用いることが好ましい。金属部材11として特に好ましいめっき鋼材としては、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板又はこれらを熱処理して亜鉛めっき中にFeを拡散させることで合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn-Niめっき鋼板、溶融Zn-5%Al合金めっき鋼板や溶融55%Al-Zn合金めっき鋼板に代表される溶融Zn-Al合金めっき鋼板、溶融Zn-1~12%Al-1~4%Mg合金めっき鋼板や溶融55%Al-Zn-0.1~3%Mg合金めっき鋼板に代表される溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、溶融Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板に代表される溶融Zn-Al-Mg-Si合金めっき鋼板、Niめっき鋼板もしくはこれらを熱処理してNiめっき中にFeを拡散させることで合金化させた合金化Niめっき鋼板、Alめっき鋼板、錫めっき鋼板、クロムめっき鋼板等が挙げられる。亜鉛系めっき鋼板は、耐食性に優れ金属部材11として好適である。金属部材11としては、更に、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板又はZn-Al-Mg-Si合金めっき鋼板は更に耐食性が優れるため、より好適である。ただし、上述したように、下地の鋼板に対して犠牲防食作用を有する亜鉛を含む亜鉛系めっき鋼材が、CFRTP層12中の炭素繊維102と接触すると、鉄鋼材料をそのまま用いた場合より異種材料接触腐食がより顕著に発生する。これは、亜鉛系めっき層と炭素繊維102が大きな電位差をもたらすためである。したがって、亜鉛系めっき鋼材を使用した複合体において、本発明に係る構成にして異種材料接触腐食を抑制することが極めて有効である。
【0024】
樹脂層13を介したCFRTP層12との接着性を高めるために、金属部材11の表面は、プライマーにより処理されたものであってもよい。この処理で用いるプライマーとしては、例えば、シランカップリング剤やトリアジンチオール誘導体が好ましい。シランカップリング剤としては、一般に公知のシランカップリング剤、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3-(メチルジメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3-(トリエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3-(メチルジエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなどを挙げることができるが、グリシジルエーテル基を有するシランカップリング剤、例えば、グリシジルエーテル基を有するγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを使用すると、塗膜の加工密着性は特に向上する。更に、トリエトキシタイプのシランカップリング剤を使用すると、下地処理剤の保存安定性を向上させることができる。これは、トリエトキシシランが水溶液中で比較的安定であり、重合速度が遅いためであると考えられる。シランカップリング剤は1種で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。トリアジンチオール誘導体としては、6-ジアリルアミノ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジン、6-メトキシ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジンモノナトリウム、6-プロピル-2,4-ジチオールアミノ-1,3,5-トリアジンモノナトリウム及び2,4,6-トリチオール-1,3,5-トリアジンなどが例示される。
【0025】
(CFRTP層12)
CFRTP層12は、熱可塑性を有するマトリクス樹脂101と、当該マトリクス樹脂101中に含有され、複合化された炭素繊維102と、を有する。代替的に、CFRTP層12は、熱可塑性を有するマトリクス樹脂101と、当該マトリクス樹脂101中に含有され、複合化された炭素繊維102とのみからなってもよい。CFRTP層12としては、例えば、CFRTP成形用プリプレグを用いて形成されたものや、炭素繊維102を含有するマトリクス樹脂101が固化したコンポジットを使用することができる。CFRTP層12は、1層に限らず、例えば図2に示すように、2層以上であってもよい。CFRTP層12の厚みや、CFRTP層12を複数層とする場合のCFRTP層12の層数nは、使用目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、CFRTP層12の厚みの下限は、0.01mm、0.05mm又は0.1mmであってもよい。一方、例えば、上限は、3.0mm、2.0mm又は1.0mmであってもよい。CFRTP層12が複数層ある場合、各層は、同一の構成であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、CFRTP層12を構成するマトリクス樹脂101の樹脂種は、以下で説明するように、樹脂層13の樹脂組成物の160~180℃での押し込み弾性率より低い樹脂であれば、層ごとに異なっていてもよい。また、CFRTP層12を構成する炭素繊維102の種類や含有比率なども、層ごとに異なっていてもよい。
【0026】
CFRTP層12に用いられるマトリクス樹脂101としては、熱可塑性樹脂が用いられる。好ましくは、マトリクス樹脂101の樹脂成分としては、樹脂成分100質量部に対して、50質量部以上、60質量部以上、70質量部以上、80質量部以上、又は90質量部以上の熱可塑性樹脂を含む。代替的に、マトリクス樹脂101は熱可塑性樹脂のみを含んでもよい。マトリクス樹脂101に用いることができる熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されないが、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、並びにナイロン等から選ばれる1種以上を使用できる。なお、「熱可塑性樹脂」には、後述する第2の硬化状態である架橋硬化物となり得る樹脂も含まれる。マトリクス樹脂101として熱可塑性樹脂を使用することで、CFRPに熱硬化性樹脂を使用した場合に生じる脆性により曲げ加工ができないという問題を解消することが可能となる。
【0027】
マトリクス樹脂101として使用される熱可塑性樹脂は、樹脂層13に用いられる熱硬化性樹脂の160~180℃での押し込み弾性率に応じて選択される。より具体的には、マトリクス樹脂101には、樹脂層13に含有される樹脂組成物の160~180℃での押し込み弾性率と比較して低い160~180℃での押し込み弾性率を有する樹脂が使用される。すなわち、樹脂層13の160~180℃での押し込み弾性率がマトリクス樹脂101の160~180℃での押し込み弾性率よりも高くなるように、マトリクス樹脂101を選択する。このような関係を満たすと、本発明に係る複合体を形成するための加熱圧着時に、CFRTP層12が軟化し、炭素繊維102がCFRTP層12中で流動した場合であっても、樹脂層13がCFRTP層12のマトリクス樹脂101よりも硬い状態(押し込み弾性率が高い状態)に保たれる。換言すると、本発明によれば、加熱圧着時の加熱温度(例えば180~250℃)で、樹脂層13が、炭素繊維102が当該樹脂層13に侵入するのを防止可能な硬さ(押し込み弾性率)を有している。そのため、当該炭素繊維102が樹脂層13を貫通し、金属部材11と炭素繊維102とが接触することを防止することが可能となり、結果として異種材料接触腐食が効果的に抑制される。なお、実際には、CFRTP層12が溶融している状態で押し込み弾性率を直接比較することはできないため、本発明では、上記加熱温度より少し低温の160~180℃において、樹脂層13の押し込み弾性率と、マトリクス樹脂101の押し込み弾性率とを比較して、前者が後者に比べて高いという相対的関係が満たされる場合に、樹脂層13が上記のような硬さを有しているとみなしている。
【0028】
[押し込み弾性率]
本明細書における樹脂の押し込み弾性率は、高温ナノインデンテーション(例えば、Anton Paar製高温ナノインデンテーション UNHT3HTV)を用い、マトリクス樹脂の融点を考慮して、160~180℃の間の特定の温度(例えば、160℃、170℃又は180℃)にて測定した値である。なお、樹脂層とCFRTPを複合化した後は、断面樹脂埋めサンプルを作製した後に、樹脂埋めサンプルの断面にて前記測定を行う。すなわち、試料に有害な影響を及ぼさずに、隙間なく埋め込める常温硬化樹脂に樹脂層とCFRTPとの複合体を埋め込む。例えば、リファインテック株式会社製の低粘性エポマウント27-777を主剤に、27-772を硬化剤に用い、試料を埋め込む。切断機にて観察すべき箇所において、厚さ方向と平行となるように試料を切断して断面を出し、JIS R 6252又は6253で規定する番手の研磨紙(例えば、280番手、400番手又は600番手)を用いて研磨して、観察面を作製する。研磨材を用いる場合は、適切な等級のダイヤモンドペースト又は類似のペーストを用いて研磨して、観察面を作製する。また、バフ研磨を実施して、試料の表面を観察に耐えられる状況まで平滑化することが好ましい。
【0029】
また、マトリクス樹脂101としては、フェノキシ樹脂を使用することが好ましい。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と分子構造が酷似しているため、エポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有し、また、樹脂層13や炭素繊維102との接着性が良好となる。さらに、フェノキシ樹脂に、エポキシ樹脂のような硬化成分を添加して共重合させることで、いわゆる部分硬化型樹脂とすることができる。このような部分硬化型樹脂をマトリクス樹脂101として使用することにより、炭素繊維102への含浸性に優れるマトリクス樹脂とすることができる。さらには、この部分硬化型樹脂中の硬化成分を熱硬化させることで、通常の熱可塑性樹脂のようにCFRTP層12中のマトリクス樹脂101が高温に曝された際に溶融又は軟化することを抑制できる。フェノキシ樹脂への硬化成分の添加量は、炭素繊維102への含浸性と、CFRTP層12の脆性、タクトタイム及び加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。このように、フェノキシ樹脂をマトリクス樹脂101として使用することで、自由度の高い硬化成分の添加と制御を行うことが可能となる。
【0030】
なお、例えば、炭素繊維102の表面には、エポキシ樹脂と馴染みのよいサイジング剤が施されていることが多い。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂の構造と酷似していることから、マトリクス樹脂101としてフェノキシ樹脂を使用することにより、エポキシ樹脂用のサイジング剤をそのまま使用することができる。そのため、コスト競争力を高めることができる。
【0031】
また、熱可塑性樹脂の中でもフェノキシ樹脂は、良成形性を備え、炭素繊維102との接着性に優れる他、酸無水物やイソシアネート化合物、カプロラクタム等を架橋剤として使用することで、成形後に高耐熱性の熱硬化性樹脂と同様の性質を持たせることもできる。よって、本実施形態では、マトリクス樹脂101の樹脂成分として、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂を50質量部以上含む樹脂組成物の固化物又は硬化物を用いることが好ましい。このような樹脂組成物を使用することによって、金属部材11とCFRTP層12とを強固に接合することが可能になる。樹脂組成物は、樹脂成分100質量部のうちフェノキシ樹脂を55質量部以上含むことがより好ましく、例えば、60質量部以上、65質量部以上、70質量部以上、75質量部以上、80質量部以上、85質量部以上、90質量部以上、又は95質量部以上であってもよい。代替的に、マトリクス樹脂101はフェノキシ樹脂のみを含んでもよい。接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニスなどの液体、フィルムなどの固体とすることができる。
【0032】
なお、フェノキシ樹脂の含有量は、以下のように、赤外分光法(IR:InfraRed spectroscopy)を用いて測定可能であり、赤外分光法で対象とする樹脂組成物からフェノキシ樹脂の含有割合を分析する場合、透過法やATR反射法など、赤外分光分析の一般的な方法を使うことで、測定することができる。
【0033】
鋭利な刃物等でCFRTP層12を削り出し、可能な限り繊維をピンセットなどで除去して、CFRTP層12から分析対象となる樹脂組成物をサンプリングする。透過法の場合は、KBr粉末と分析対象となる樹脂組成物の粉末とを乳鉢などで均一に混合しながら潰すことで薄膜を作製して、試料とする。ATR反射法の場合は、透過法同様に粉末を乳鉢で均一に混合しながら潰すことで錠剤を作製して、試料を作製しても良いし、単結晶KBr錠剤(例えば直径2mm×厚み1.8mm)の表面にヤスリなどで傷をつけ、分析対象となる樹脂組成物の粉末をまぶして付着させて試料としても良い。いずれの方法においても、分析対象となる樹脂と混合する前のKBr単体におけるバックグラウンドを測定しておくことが重要である。IR測定装置は、市販されている一般的なものを用いることができるが、精度としては吸収(Absorbance)は1%単位で、波数(Wavenumber)は1cm-1単位で区別が出来る分析精度をもつ装置が好ましく、例えば、日本分光株式会社製のFT/IR-6300などが挙げられる。
【0034】
フェノキシ樹脂の含有量を調査する場合、フェノキシ樹脂の吸収ピークは、例えば1450~1480cm-1、1500cm-1近傍、1600cm-1近傍などに存在する。そのため、予め作成しておいた、上記吸収ピークの強度とフェノキシ樹脂の含有量との関係を示した検量線と、測定された吸収ピークの強度と、に基づいて、フェノキシ樹脂の含有量を計算することが可能である。
【0035】
「フェノキシ樹脂」とは、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、又は2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる線形の高分子であり、非晶質の熱可塑性樹脂である。フェノキシ樹脂は、溶液中又は無溶媒下で従来公知の方法で得ることができ、粉体、ワニス及びフィルムのいずれの形態でも使用することができる。フェノキシ樹脂の平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、例えば、10,000以上200,000以下の範囲内であるが、好ましくは20,000以上100,000以下の範囲内であり、より好ましくは30,000以上80,000以下の範囲内である。フェノキシ樹脂のMwを10,000以上の範囲内とすることで、成形体の強度を高めることができ、この効果は、Mwを20,000以上、さらには30,000以上とすることで、さらに高まる。一方、フェノキシ樹脂のMwを200,000以下とすることで、作業性や加工性に優れるものとすることができ、この効果は、Mwを100,000以下、さらには80,000以下とすることで、さらに高まる。
【0036】
本実施形態で用いるフェノキシ樹脂の水酸基当量(g/eq)は、例えば、50以上1000以下の範囲内であるが、好ましくは50以上750以下の範囲内であり、より好ましくは50以上500以下の範囲内である。フェノキシ樹脂の水酸基当量を50以上とすることで、水酸基が減ることで吸水率が下がるため、硬化物の機械物性を向上させることができる。一方、フェノキシ樹脂の水酸基当量を1000以下とすることで、水酸基が少なくなるのを抑制できるので、樹脂層13との親和性を向上させ、金属-CFRTP複合体1の機械物性を向上させることができる。この効果は、水酸基当量を750以下、さらには500以下とすることでさらに高まる。
【0037】
フェノキシ樹脂としては、上記の物性を満足するものであれば特に限定されないが、好ましいものとして、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYP-50、フェノトートYP-50S、フェノトートYP-55Uとして入手可能)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートFX-316として入手可能)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YP-70として入手可能)、上記に挙げたフェノキシ樹脂以外の臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂、スルホン基含有フェノキシ樹脂などの特殊フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYPB-43C、フェノトートFX293、YPS-007等として入手可能)などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0038】
◇架橋性樹脂組成物
フェノキシ樹脂(以下、「フェノキシ樹脂(A)」ともいう。)を含有する樹脂組成物に、例えば、酸無水物、イソシアネート、カプロラクタムなどを架橋剤として配合することにより、架橋性樹脂組成物(すなわち、樹脂組成物の硬化物)とすることもできる。架橋性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)に含まれる2級水酸基を利用して架橋反応させることにより、樹脂組成物の耐熱性が向上するため、より高温環境下で使用される部材への適用に有利となる。フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基を利用した架橋形成には、架橋硬化性樹脂(B)と架橋剤(C)を配合した架橋性樹脂組成物を用いることが好ましい。架橋硬化性樹脂(B)としては、例えばエポキシ樹脂等を使用できるが、特に限定するものではない。このような架橋性樹脂組成物を用いることによって、樹脂組成物のガラス転移点Tgがフェノキシ樹脂(A)単独の場合よりも大きく向上した第2の硬化状態の硬化物(架橋硬化物)が得られる。架橋性樹脂組成物の架橋硬化物のガラス転移点Tgは、例えば、160℃以上であり、170℃以上220℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0039】
架橋性樹脂組成物において、フェノキシ樹脂(A)に配合する架橋硬化性樹脂(B)としては、2官能性以上のエポキシ樹脂が好ましい。2官能性以上のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYD-011、エポトートYD-7011、エポトートYD-900として入手可能)、ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDF-2001として入手可能)、ジフェニルエーテルタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV-80DEとして入手可能)、テトラメチルビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV-80XYとして入手可能)、ビスフェノールスルフィドタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV-120TEとして入手可能)、ハイドロキノンタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDC-1312として入手可能)、フェノールノボラックタイプエポキシ樹脂、(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDPN-638として入手可能)、オルソクレゾールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDCN-701、エポトートYDCN-702、エポトートYDCN-703、エポトートYDCN-704として入手可能)、アラルキルナフタレンジオールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製ESN-355として入手可能)、トリフェニルメタンタイプエポキシ樹脂(例えば、日本化薬株式会社製EPPN-502Hとして入手可能)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエポキシ樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0040】
また、架橋硬化性樹脂(B)としては、特に限定する意味ではないが、結晶性エポキシ樹脂が好ましく、融点が70℃以上145℃以下の範囲内で、150℃における溶融粘度が2.0Pa・s以下である結晶性エポキシ樹脂がより好ましい。このような溶融特性を示す結晶性エポキシ樹脂を使用することにより、樹脂組成物としての架橋性樹脂組成物の溶融粘度を低下させることができ、CFRTP層12の接着性を向上させることができる。溶融粘度が2.0Pa・sを超えると、架橋性樹脂組成物の成形性が低下し、金属-CFRTP複合体1の均質性が低下することがある。
【0041】
架橋硬化性樹脂(B)として好適な結晶性エポキシ樹脂としては、例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYSLV-80XY、YSLV-70XY、YSLV-120TE、YDC-1312、三菱化学株式会社製YX-4000、YX-4000H、YX-8800、YL-6121H、YL-6640等、DIC株式会社製HP-4032、HP-4032D、HP-4700等、日本化薬株式会社製NC-3000等が挙げられる。
【0042】
架橋剤(C)は、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基とエステル結合を形成することにより、フェノキシ樹脂(A)を3次元的に架橋させる。そのため、熱硬化性樹脂の硬化のような強固な架橋とは異なり、加水分解反応により架橋を解くことができるので、金属部材11とCFRTP層12とを容易に剥離することが可能となる。従って、金属部材11をリサイクルできる。
【0043】
架橋剤(C)としては、酸無水物が好ましい。酸無水物は、常温で固体であり、昇華性があまり無いものであれば特に限定されるものではないが、金属-CFRTP複合体1への耐熱性付与や反応性の点から、フェノキシ樹脂(A)の水酸基と反応する酸無水物を2つ以上有する芳香族酸無水物が好ましい。特に、ピロメリット酸無水物のように2つの酸無水物基を有する芳香族化合物は、トリメリット酸無水物と水酸基の組み合わせと比べて架橋密度が高くなり、耐熱性が向上するので好適に使用される。芳香族酸二無水物でも、例えば、4,4’―オキシジフタル酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物といったフェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂に対して相溶性を有する芳香族酸二無水物は、ガラス転移点Tgを向上させる効果が大きくより好ましい。特に、ピロメリット酸無水物のように2つの酸無水物基を有する芳香族酸二無水物は、例えば、酸無水物基を1つしか有しない無水フタル酸に比べて架橋密度が向上し、耐熱性が向上するので好適に使用される。すなわち、芳香族酸二無水物は、酸無水物基を2つ有するために反応性が良好で、短い成形時間で脱型に十分な強度の架橋硬化物が得られるとともに、フェノキシ樹脂(A)中の2級水酸基とのエステル化反応により、4つのカルボキシル基を生成させるため、最終的な架橋密度を高くできる。
【0044】
フェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)としてのエポキシ樹脂、及び架橋剤(C)の反応は、フェノキシ樹脂(A)中の2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応、更にはこのエステル化反応により生成したカルボキシル基とエポキシ樹脂のエポキシ基との反応によって架橋及び硬化される。フェノキシ樹脂(A)と架橋剤(C)との反応によってフェノキシ樹脂架橋体を得ることができるが、エポキシ樹脂が共存することで樹脂組成物の溶融粘度を低下させられるため、被着体との含浸性の向上、架橋反応の促進、架橋密度の向上、及び機械強度の向上などの優れた特性を示す。
【0045】
なお、架橋性樹脂組成物においては、架橋硬化性樹脂(B)としてのエポキシ樹脂が共存してはいるが、熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂(A)を主成分としており、その2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応が優先していると考えられる。すなわち、架橋剤(C)として使用される酸無水物と、架橋硬化性樹脂(B)として使用されるエポキシ樹脂との反応は時間がかかる(反応速度が遅い)ため、架橋剤(C)とフェノキシ樹脂(A)の2級水酸基との反応が先に起こり、次いで、先の反応で残留した架橋剤(C)や、架橋剤(C)に由来する残存カルボキシル基とエポキシ樹脂とが反応することで更に架橋密度が高まる。そのため、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物とは異なり、架橋性樹脂組成物によって得られる架橋硬化物は熱可塑性樹脂であり、貯蔵安定性にも優れる。
【0046】
フェノキシ樹脂(A)の架橋を利用する架橋性樹脂組成物においては、フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して、架橋硬化性樹脂(B)が5質量部以上85質量部以下の範囲内となるように含有されることが好ましい。フェノキシ樹脂(A)100質量部に対する架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、より好ましくは9質量部以上83質量部以下の範囲内であり、さらに好ましくは10質量部以上80質量部以下の範囲内である。架橋硬化性樹脂(B)の含有量を85質量部以下とすることにより、架橋硬化性樹脂(B)の硬化時間を短縮できるため、脱型に必要な強度を短時間で得やすくなる他、CFRTP層12のリサイクル性が向上する。この効果は、架橋硬化性樹脂(B)の含有量を83質量部以下、更には80質量部以下とすることにより、さらに高まる。一方、架橋硬化性樹脂(B)の含有量を5質量部以上とすることにより、架橋硬化性樹脂(B)の添加による架橋密度の向上効果を得やすくなり、架橋性樹脂組成物の架橋硬化物が160℃以上のガラス転移点Tgを発現しやすくなり、また、流動性が良好になる。なお、架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、上述したような赤外分光法を用いた方法によって、エポキシ樹脂由来のピークについて同様に測定することで、架橋硬化性樹脂(B)の含有量を測定できる。
【0047】
架橋剤(C)の配合量は、通常、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して酸無水物基0.6モル以上1.3モル以下の範囲内の量であり、好ましくは0.7モル以上1.3モル以下の範囲内の量であり、より好ましくは1.1モル以上1.3モル以下の範囲内である。酸無水物基の量が0.6モル以上であると、架橋密度が高くなるため、機械物性や耐熱性に優れる。この効果は、酸無水物基の量を0.7モル以上、更には1.1モル以上とすることにより、さらに高まる。酸無水物基の量が1.3モル以下であると、未反応の酸無水物やカルボキシル基が硬化特性や架橋密度に悪影響を与えることを抑制できる。このため、架橋剤(C)の配合量に応じて、架橋硬化性樹脂(B)の配合量を調整することが好ましい。具体的には、例えば、架橋硬化性樹脂(B)として用いるエポキシ樹脂により、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基との反応により生じるカルボキシル基を反応させることを目的に、エポキシ樹脂の配合量を架橋剤(C)との当量比で0.5モル以上1.2モル以下の範囲内となるようにするとよい。好ましくは、架橋剤(C)とエポキシ樹脂の当量比が、0.7モル以上1.0モル以下の範囲内である。
【0048】
架橋剤(C)をフェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)と共に配合すれば、架橋性樹脂組成物を得ることができるが、架橋反応が確実に行われるように触媒としての促進剤(D)を更に含有させてもよい。促進剤(D)は、常温で固体であり、昇華性が無いものであれば特に限定はされるものではなく、例えば、トリエチレンジアミン等の3級アミン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニルー4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルフォスフィン等の有機フォスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらの促進剤(D)は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。なお、架橋性樹脂組成物を微粉末とし、静電場による粉体塗装法を用いて強化繊維基材に付着させてマトリクス樹脂101を形成する場合は、促進剤(D)として、触媒活性温度が130℃以上である常温で固体のイミダゾール系の潜在性触媒を用いることが好ましい。促進剤(D)を使用する場合、促進剤(D)の配合量は、フェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)及び架橋剤(C)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上5重量部以下の範囲内とすることが好ましい。
【0049】
架橋性樹脂組成物は、常温で固形であり、その溶融粘度は、160~250℃の範囲内の温度域における溶融粘度の下限値である最低溶融粘度が3,000Pa・s以下であることが好ましく、2,900Pa・s以下であることがより好ましく、2,800Pa・s以下であることが更に好ましい。160~250℃の範囲内の温度域における最低溶融粘度が3,000Pa・s以下とすることにより、熱プレスなどによる加熱圧着時に架橋性樹脂組成物を被着体へ十分に含浸させることができ、CFRTP層12にボイド等の欠陥を生じることを抑制できるため、金属-CFRTP複合体1の機械物性が向上する。この効果は、160~250℃の範囲内の温度域における最低溶融粘度を2,900Pa・s以下、更には2,800Pa・s以下とすることにより、更に高まる。
【0050】
[繊維密度]
CFRTP内の炭素繊維の密度(VF:Volume Fraction)は、強度に影響する因子であり、一般には、VFが高いほどCFRTPの強度は高くなる。本実施形態において、CFRTP層12のVFは、特に限定されないが、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上又は50体積%以上であってもよく、また、75体積%以下、70体積%以下又は65体積%以下であってもよい。マトリクス樹脂と炭素繊維の密着性とCFRTPの強度とのバランスの観点から、CFRTP層12のVFは50体積%以上65体積%以下であることが好ましい。
【0051】
[炭素繊維102]
炭素繊維102の種類については、例えば、PAN系、ピッチ系のいずれも使用でき、目的や用途に応じて選択すればよい。また、炭素繊維102として、上述した繊維を1種類単独で使用してもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0052】
CFRTP層12の炭素繊維基材は、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)などを使用することができる。補強効果の面からは、炭素繊維基材としてクロス材やUD材を使用することが好ましい。
【0053】
(樹脂層13)
樹脂層13は、熱硬化性樹脂を含有するものであり、金属部材11の表面上に設けられ、金属部材11とCFRTP層12とを接合する。樹脂層13は、樹脂組成物の固化物又は硬化物である。なお、単に「固化物」というときは、樹脂成分自体が固化したものを意味し、「硬化物」というときは、樹脂成分に対して各種の硬化剤を含有させて硬化させたものを意味する。樹脂層13は、例えば、樹脂シートなどの固体を使用して得ることができる。樹脂層13は、特に制限されないが、エポキシ類、ウレタン類、ポリエステル類、メラミン類、フェノール類、アクリル類のうち1種以上の樹脂を使用できる。上述した中でも、樹脂層13は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂及びメラミン樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。これら樹脂は分子量等にもよるが常温で流動しやすい、もしくは溶剤などに溶解して塗布することが容易であるため樹脂層13として好適である。また、エポキシ樹脂は、耐熱性に優れ、後工程である電着塗装時にも樹脂が劣化しにくいため、樹脂層13としてさらに好ましい。また、CFRTP層12のマトリクス樹脂101がフェノキシ樹脂である場合には、エポキシ樹脂の分子構造がフェノキシ樹脂の分子構造と似ているため密着性に優れ、温間加工時の剥離が起こりにくい。このような観点からも、樹脂層13として、さらに好ましいのはエポキシ樹脂である。
【0054】
[樹脂層13の厚み]
本実施形態に係る金属-CFRTP複合体1において、樹脂層13の厚みは、5μm以上とすることが好ましい。樹脂層13の厚みが5μm以上であると、金属部材11とCFRTP層12との接着性が十分に維持される上に、加熱圧着時の炭素繊維102と金属部材11の接触を効果的に抑制することができる。また、樹脂層13の厚みは、6μm以上、7μm以上、8μm以上、又は9μm以上であってもよい。一方、樹脂層13の厚みは、加工性及びコスト面の観点から、50μm以下であればよく、例えば、40μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってもよい。樹脂層13の厚みの範囲としては、5μm以上50μm以下が好ましく、7μm以上25μm以下がより好ましく、9μm以上20μm以下がさらに好ましい。なお、加工性をより十分に確保するために、用途に応じて、樹脂層13の厚みは10μm未満とすることもできる。
【0055】
なお、金属部材11、CFRTP層12及び樹脂層13の厚みは、以下のようにJIS K 5600-1-7、5.4項の光学的方法の断面法に準拠して、測定することができる。すなわち、試料に有害な影響を及ぼさずに、隙間なく埋め込める常温硬化樹脂を用い、リファインテック株式会社製の低粘性エポマウント27-777を主剤に、27-772を硬化剤に用い、試料を埋め込む。切断機にて観察すべき箇所において、厚さ方向と平行となるように試料を切断して断面を出し、JIS R 6252又は6253で規定する番手の研磨紙(例えば、280番手、400番手又は600番手)を用いて研磨して、観察面を作製する。研磨材を用いる場合は、適切な等級のダイヤモンドペースト又は類似のペーストを用いて研磨して、観察面を作製する。また、必要に応じてバフ研磨を実施して、試料の表面を観察に耐えられる状況まで平滑化してもよい。
【0056】
最適な像のコントラストを与えるのに適切な照明システムを備え、十分な精度を有する顕微鏡(例えば、オリンパス社製BX51など)を用い、適切な視野の大きさで試料を観察する。なお、視野の大きさは、金属部材11、CFRTP層12及び樹脂層13の厚みが確認できるように変えてもよい(例えば、CFRTP層12の厚みが1mmであれば、その厚みが確認できる視野の大きさに変えてもよい)。例えば、樹脂層13の厚みを測定するときは、観察視野内を図3のように4等分して、各分画点の幅方向中央部において、樹脂層13の厚みを計測し、その平均の厚みを当該視野における厚みとする。この観察視野は、異なる箇所を5箇所選んで行い、それぞれの観察視野内で4等分して、各分画にて厚みを測定し、平均値を算出する。隣り合う観察視野同士は、3cm以上離して選ぶとよい。この5箇所での平均値を更に平均した値を、樹脂層13の厚みとすればよい。また、金属部材11やCFRTP層12の厚みの測定においても、上記樹脂層13の厚みの測定と同様に行えばよい。
【0057】
樹脂層13には、その接着性や物性を損なわない範囲において、例えば、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等や、種々の無機フィラー、溶剤、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、難燃助剤等その他添加物を配合してもよい。
【0058】
また、先だって説明したように、樹脂層13の樹脂組成物として使用される樹脂は、使用されるマトリクス樹脂101に応じて選択されることが好ましいが、樹脂層13の樹脂組成物としてエポキシ樹脂を用い、マトリクス樹脂101としてフェノキシ樹脂を用いることがより好ましい。樹脂層13の樹脂組成物をエポキシ樹脂、マトリクス樹脂101をフェノキシ樹脂とすることで、より高温での耐熱性を有し、またエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂が分子構造が似ていることから密着性に優れるため、温間加工成型性(温間加工時の密着性)に優れるという作用が生じる。
【0059】
<金属-CFRTP複合体1の製造方法>
以上、本実施形態に係る金属-炭素繊維強化樹脂材料複合体としての金属-CFRTP複合体1の構成を詳細に説明したが、続いて、図4及び図5を参照しながら、本実施形態に係る金属-CFRTP複合体1の製造方法について説明する。図4及び図5は、金属-CFRTP複合体1の製造工程例を示す説明図である。
【0060】
金属-CFRTP複合体1は、所望の形状に加工されたCFRTP(又はその前駆体であるCFRTP成形用プリプレグ21)と金属部材11(鉄鋼材料又は鉄系合金)とを、熱硬化性を有する樹脂膜20又は樹脂シート20Aで接着することによって得られる。加熱圧着後に、上記接着されたCFRTP又はCFRTP成形用プリプレグ21がCFRTP層12となり、樹脂膜20又は樹脂シート20Aが樹脂層13となる。本発明においては、樹脂層13及びCFRTP層12のマトリクス樹脂101として、160~180℃での押し込み弾性率が(樹脂層)>(マトリクス樹脂)となるように選択する。金属部材11とCFRTPを樹脂膜20又は樹脂シート20Aで接合することによって複合化する方法としては、例えば、以下の方法1又は方法2によって行うことができる。
【0061】
(方法1)
方法1では、樹脂膜20(樹脂層13となるもの)を金属部材11の表面に形成した後、CFRTP層12となるCFRTP又はCFRTP成形用プリプレグ21を積層して加熱圧着する。
【0062】
この方法1では、例えば、図4(a)に示すように、金属部材11の少なくとも片側の面に、熱硬化性を有する粉状又は液状の樹脂組成物を塗工し、樹脂膜20を形成する。なお、金属部材11側でなく、CFRTP層12となるCFRTP側又はCFRTP成形用プリプレグ側に樹脂膜20を形成してもよいが、ここでは、金属部材11側に樹脂膜20を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0063】
次に、図4(b)に示すように、金属部材11の樹脂膜20が形成された側に、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21を重ねて配置し、金属部材11と樹脂膜20とCFRTP成形用プリプレグ21とがこの順序に積層された積層体を形成する。なお、図4(b)において、CFRTP成形用プリプレグ21に代えて、CFRTPを積層することもできるが、このときCFRTPの接着面は、例えば、ブラスト処理等による粗化や、プラズマ処理、コロナ処理などによる活性化がなされていても良い。次に、この積層体を加熱及び加圧することによって、図4(c)に示すように、金属-CFRTP複合体1が得られる。
【0064】
樹脂組成物の塗工方法は特に限定されず、粘性液体の場合、スリットノズルや円形状のノズルからの吐出方式での塗工、刷毛塗り、ブレート塗り、ヘラ塗りなど一般に公知の方法で塗布することができる。溶剤に溶解した樹脂組成物の塗工は、一般に公知の塗布方法、例えば、刷毛塗り、スプレー塗工、バーコーター、各種形状のノズルからの吐出塗布、ダイコーター塗布、カーテンコーター塗布、ロールコーター塗布、インクジェット塗布、スクリーン印刷などを用いることができる。また、樹脂組成物の塗工として、紛体塗装による方法を用いることもできる。粉体塗装により形成された樹脂層13は、樹脂組成物が微粒子であるために溶融しやすく、かつ樹脂膜20内に適度な空隙を持つためボイドが抜けやすい。また、粉体塗装により形成された樹脂層13は、CFRTP又はCFRTP成形用プリプレグ21を加熱圧着する際に樹脂組成物が金属部材11の表面を良く濡らすため、ワニス塗工のような脱気工程が不要であり、シートで見られるようなボイドの発生などの濡れ性の不足に起因した不良が起こりにくい。樹脂膜20は金属板全面に塗布しても良いし、CFRTPを貼り付ける箇所のみを部分塗布しても良い。
【0065】
図4(a)において、金属部材11の両面に樹脂膜20を形成し、図4(b)において、両方の樹脂膜20のそれぞれに、CFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)を積層してもよい。また、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)は、1層に限らず、複数層であってもよい(図2を参照)。また、2枚以上の金属部材11を使用して、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)をサンドウィッチ状に挟み込むように積層してもよい。
【0066】
(方法2)
方法2では、樹脂層13となる樹脂シート20Aと、CFRTP層12となるCFRTP又はCFRTP成形用プリプレグ21を金属部材11に積層して加熱圧着する。
【0067】
この方法2では、例えば図5(a)に示すように、金属部材11の少なくとも片側の面に接着剤を塗布し、樹脂シート20Aと、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21とを重ねて配置し、金属部材11と樹脂シート20AとCFRTP成形用プリプレグ21とがこの順序に積層された積層体を形成する。なお、図5(a)において、CFRTP成形用プリプレグ21に代えて、CFRTPを積層することもできるが、このときCFRTPの接着面は、例えば、ブラスト処理等による粗化や、プラズマ処理、コロナ処理などによる活性化がなされていても良い。次に、この積層体を加熱及び加圧することによって、図5(b)に示すように、金属-CFRTP複合体1が得られる。
【0068】
方法2では、図5(a)において、金属部材11の両面に接着剤を塗布し、それぞれ樹脂シート20AとCFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)を積層してもよい。また、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)は、1層に限らず、複数層であってもよい(図2を参照)。また、2枚以上の金属部材11を使用して、樹脂シート20A及びCFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)をサンドウィッチ状に挟み込むように積層してもよい。なお、金属部材11の少なくとも片側の面に樹脂シート20Aと、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21とを重ねて配置し、金属部材11と樹脂シート20AとCFRTP成形用プリプレグ21とがこの順序に積層された積層体を加熱及び加圧して金属-CFRTP複合体1を製造してもよい。
【0069】
(加熱圧着条件)
以上の方法1及び2における、金属部材11と、樹脂膜20又は樹脂シート20Aと、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)と、を複合化するための加熱圧着条件を、以下で詳細に説明する。なお、本発明において、上述したような160~180℃での押し込み弾性率についての関係を満たす樹脂層13及びマトリクス樹脂101を選択することで、加熱圧着工程においてCFRTP層が軟化・溶融して炭素繊維102が流動することができても、下層の樹脂層13がマトリクス樹脂101より硬いためにバリア層として作用し、炭素繊維102が樹脂層13を貫通して金属部材11に接触することを効果的に防止できる。
【0070】
(加熱圧着温度)
加熱圧着温度Tは、マトリクス樹脂101の融点以上であることが好ましい。マトリクス樹脂101が非晶性の熱可塑性樹脂で融点が観測されない場合は、一般的に知られた経験則を利用して融点を適宜設定することができる。利用される経験則は、マトリクス樹脂101に使用する熱可塑性樹脂の性質に応じて適宜選択されてもよい。融点が観測されない非晶性の熱可塑性樹脂が使用されたマトリクス樹脂101の融点は、例えば、経験則の一つである、融点(K)=ガラス転移点(K)×1.4の関係式を用いて設定されてもよい。また、例えば、マトリクス樹脂101が比較的高温で流動性を示し、融点が観測されない非晶性の熱可塑性樹脂である場合、当該マトリクス樹脂101の融点は、融点(K)=ガラス転移点(K)×1.5の関係式を用いて設定されてもよい。加熱圧着温度Tは、金属部材11、樹脂膜20又は樹脂シート20A、及びCFRTP成形用プリプレグ21又はCFRTPを十分に接着するために、例えば、180℃以上又は200℃以上とすればよい。また、加熱圧着温度Tは、加熱圧着時に樹脂層13が十分に炭素繊維の金属部材への侵入を十分に防げるように、例えば、250℃以下又は240℃以下とすればよい。よって、加熱圧着温度Tは、180~240℃、180~250℃、200~240℃又は200~250℃の範囲であることができる。加熱圧着温度Tが、この温度範囲であると、CFRTP層12中の炭素繊維102の樹脂層13中への侵入を抑制しつつ、加熱圧着することが可能となる。
【0071】
(加熱圧着圧力)
加熱圧着する際の圧力は、例えば、3MPa以上が好ましく、3MPa以上5MPa以下の範囲がより好ましい。圧力が上限を超えると、過剰な圧力を加えてしまうため、変形や損傷が発生する可能性があり、また下限を下回ると炭素繊維102への含浸性が悪くなる。
【0072】
(加熱圧着時間)
加熱圧着時間については、少なくとも3分以上あれば十分に加熱圧着が可能であり、5分以上20分以下の範囲内であることが好ましい。
【0073】
なお、加熱圧着工程では、加圧成形機により、金属部材11と、樹脂シート20Aと、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21(又はCFRTP)と、の複合一括成形をおこなってもよい。複合一括成形は、ホットプレスで行われることが好ましいが、あらかじめ所定の温度まで余熱した材料を速やかに低温の加圧成形機に設置して加工することもできる。
【0074】
(追加の加熱工程)
マトリクス樹脂101を形成するための原料樹脂として、フェノキシ樹脂(A)に架橋性硬化樹脂(B)及び架橋剤(C)を含有した架橋性接着樹脂組成物を使用する場合、さらに、追加の加熱工程を含めてもよい。
【0075】
架橋性接着樹脂組成物を使用する場合は、CFRTP層12となるCFRTP成形用プリプレグ21のマトリクス樹脂101の原料樹脂として、架橋性接着樹脂組成物と同一又は同種のものを用いる場合には、第1の硬化状態の硬化物(固化物)からなるマトリクス樹脂101を含むCFRTP層12を形成することができる。
【0076】
このように、上記加熱圧着工程を経て、金属部材11と、樹脂層13と、CFRTP層12と、が積層され一体化された、金属-CFRTP複合体1の中間体(プリフォーム)を作製できる。この中間体では、必要により、CFRTP層12として、マトリクス樹脂101が第1の硬化状態の硬化物(固化物)であるものを用いることもできる。そして、この中間体に対し、熱圧着工程の後で、CFRTP層12についてポストキュアを行うことで、第1の硬化状態の硬化物(固化物)からなるマトリクス樹脂101を架橋硬化させて第2の硬化状態の硬化物(架橋硬化物)へ変化させることができる。
【0077】
ポストキュアのための追加の加熱工程は、例えば、200℃以上250℃以下の範囲内の温度で30分間~60分間程度の時間をかけて行うことが好ましい。なお、ポストキュアに代えて、塗装などの後工程での熱履歴を利用してもよい。
【0078】
上述の通り、架橋性接着樹脂組成物を用いると、架橋硬化後のガラス転移点Tgが、フェノキシ樹脂(A)単独よりも大きく向上する。そのため、上述した中間体に対して追加の加熱工程を行う前後、すなわち、樹脂が第1の硬化状態の硬化物(固化物)から第2の硬化状態の硬化物(架橋硬化物)へ変化する過程で、ガラス転移点Tgが変化する。具体的には、中間体における架橋前の樹脂のガラス転移点Tgは、例えば150℃以下であるのに対し、追加の加熱工程後の架橋形成された樹脂のガラス転移点Tgは、例えば160℃以上、好ましくは170℃以上220℃以下の範囲内に向上するので、耐熱性を大幅に高めることができる。
【0079】
(前処理工程)
金属-CFRTP複合体1を製造する際、金属部材11とCFRTPとを樹脂組成物により接合する前処理工程として、金属部材11を脱脂することが好ましく、脱脂方法は溶剤でふき取る方法、水洗、界面活性剤を含む水溶液もしくは洗剤を用いた洗浄、加熱して油成分を揮発して除去する方法、アルカリ脱脂など一般に公知の方法も用いることができる。アルカリ脱脂が工業的には一般的であり、脱脂効果が高いため好適である。金型への離型処理や金属部材11表面の付着物の除去(ゴミ取り)を行うことがより好ましい。TFS(Tin Free Steel)のように密着性が非常に高い鋼板を除き、通常は、防錆油などが付着した鋼板等の金属部材11は、脱脂をして密着力を回復させないと、十分な接着強度を得ることは難しい。そこで、金属部材11に上記の前処理を行うことで、金属-CFRTP複合体1が高い接着強度を得やすくなる。脱脂の必要性については、事前に、対象とする金属部材を、脱脂工程無しで、対象とするCFRTPに対象とする樹脂組成物により接合して一体化し、接着強度を測定して判断すればよい。
【0080】
(後工程)
金属-CFRTP複合体1に対する後工程では、塗装の他、ボルトやリベット留めなどによる他の部材との機械的な接合のため、穴あけ加工、接着接合のための接着剤の塗布などが行われる。
【0081】
<本実施形態の効果>
上述した本実施形態によれば、金属部材11とCFRTP層12とが樹脂層13を介して強固に接合された金属-CFRTP複合体1が提供される。これら金属-CFRTP複合体1は、金属部材11とCFRTP層12中の炭素繊維102とによる異種材料接触腐食を抑制するものである。特に、金属部材11が腐食しやすい鉄鋼材料又は鉄系合金である場合は、異種材料接触腐食がより問題となるため、本実施形態は極めて有効である。また、本実施形態の金属-CFRTP複合体1は、5μm以上の厚みを有する樹脂層13により絶縁性が増し、より効果的に異種材料接触腐食を抑制することができる。更に、CFRTP層12のマトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることから、CFRTPを塑性変形させることが可能になる結果、金属―CFRTP複合体1を一体として形状を加工することが可能となる。特に、マトリクス樹脂101としてフェノキシ樹脂、さらに樹脂層13としてエポキシ樹脂を使用することで、両樹脂の分子構造の類似性により、CFRTP層12と樹脂層13との間で極めて高い密着性を得ることが可能となる。さらに、上述した本実施形態によれば、電着塗膜を備える金属-CFRTP複合体1を得ることが可能となる。
【実施例
【0082】
以下に実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(金属板の準備)
成分がC:0.131質量%、Si:1.19質量%、Mn:1.92質量%、P:0.009質量%、S:0.0025質量%、Al:0.027質量%、N:0.0032質量%、残分はFe及び不純物からなる鋼を熱間圧延、酸洗後、冷間圧延を行い、厚さ1.0mmの冷延鋼板を得た。次に、作製した冷延鋼板を連続焼鈍装置で最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のH2を含むN2雰囲気とした。作製した冷延鋼板をCRと称す。また、作製した冷延鋼板を、焼鈍工程を有する連続溶融めっき装置の焼鈍工程で最高到達板温が820℃となる条件で焼鈍した後にめっき工程で溶融亜鉛めっきした。焼鈍工程の焼鈍炉内のガス雰囲気は、1.0体積%のH2を含むN2雰囲気とした。めっき工程でのめっき浴の成分はZn-0.2%Al(GIと称す)、Zn-0.09%Al(GAと称す)、Zn-1.5%Al-1.5%Mg(Zn-Al-Mgと称す)、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si(Zn-Al-Mg-Siと称す)の4種をめっき鋼板として用いた。なお、Zn-0.09%Alめっき(GA)の溶融めっき浴を用いたものは溶融めっき浴に鋼板を浸漬して、めっき浴から鋼板を引き抜きながら、スリットノズルからN2ガスを吹き付けてガスワイピングし、めっき液の付着量を調整した後に、インダクションヒーターにて板温480℃で加熱することで合金化させて、めっき層中へ鋼板中のFeを拡散させた。めっきした鋼板のめっきの付着量は、GAは45g/m2、GA以外のめっきは60g/m2とした。作製した5種の金属板を日本パーカライジング社製アルカリ脱脂剤「ファインクリーナーE6404」で脱脂した。なお、作製した金属板の引張強度を測定したところ、いずれも980MPa以上であった。
【0083】
(樹脂膜形成工程)
樹脂層の原料として、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリエステル樹脂を使用し、上記樹脂それぞれを使用した樹脂膜を形成した。以下に、各樹脂膜の形成方法について説明する。
【0084】
<エポキシ樹脂膜(a)>
三菱ケミカル株式会社製エポキシ樹脂「jER(登録商標)828」を100質量部に対して、三菱ケミカル株式会社製エポキシ樹脂硬化剤「jERキュア(登録商標)W」を25質量部添加して混合した。作製した金属板上にブレードコーターを用いて片面のみ、且つ、CFRTPを貼り付ける部分のみに上記のエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の混合物を部分塗布し、加熱時間60秒で到達板温が230℃となる条件で上記の混合物を乾燥硬化させることにより、金属板上に表1~3に記載の厚み(1μm、5μm、10μm、20μm、50μm)のエポキシ樹脂膜(a)を形成した。
【0085】
<ポリウレタン樹脂膜(b)>
第一工業製薬製水分散ウレタン樹脂「スーパーフレックス150」を、作製した金属板上にブレードコーターにて片面のみ、且つ、CFRTPを貼り付ける部分のみに部分塗布し、加熱時間60秒で到達板温が230℃となる条件で乾燥硬化させることにより、金属板上に10μmのポリウレタン樹脂膜(b)を形成した。
【0086】
<ポリエステル樹脂膜(c)>
東洋紡株式会社製ポリエステル樹脂「バイロン(登録商標)226」を溶剤であるシクロヘキサノンに30質量%溶解した。この溶剤にポリエステル樹脂を溶解した混合物の固形分100質量部に対して、日本サイテックインダストリーズ株式会社製イミノ基型メラミン「サイメル325」を固形分で20質量部添加し、さらに、日本サイテックインダストリーズ株式会社製硬化触媒「キャタリスト296-9」を全固形分に対して0.1重量%で添加し混合し、樹脂混合物を得た。得られた樹脂混合物を、作製した金属板上にブレードコーターにて片面のみ、且つ、CFRTPを貼り付ける部分のみに部分塗布し、加熱時間60秒で到達板温が200℃となる条件で乾燥硬化させることにより、金属板上に10μmのポリエステル樹脂膜(c)を形成した。
【0087】
(熱可塑性CFRTPプリプレグの作製)
続いて、CFRTP層となる3種のCFRTPプリプレグを以下の方法で作製した。
【0088】
<フェノキシ樹脂CFRTPプリプレグ(A)の作製>
新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型フェノキシ樹脂「フェノトートYP-50S」(ガラス転移温度=83℃)を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み約0.6mmのフェノキシ樹脂CFRTPプリプレグ(A)を作製した。なお、粉砕、分級したフェノキシ樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。作製したフェノキシ樹脂CFRTPプリプレグ(A)の融点は、先立って説明した、融点(K)=ガラス転移点(K)×1.4の式を用い、便宜的に225℃(498K)であるとした。
【0089】
<ポリアミド6/66共重合体CFRTPプリプレグ(B)の作製>
宇部興産株式会社製のポリアミド6/66共重合体 ベースグレード5033(融点=196℃)を180℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして厚さ100μmのナイロン樹脂シートを作製した。このナイロン樹脂シートと炭素繊維からなる平織の強化繊維基材(クロス材:サカイオーベックス社製、SA-3203)とを交互に積層して積層体を得た。この積層体を220℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして、厚み約0.6mmのナイロン樹脂CFRTPプリプレグ(B)を作製した。
【0090】
<ポリアセタール樹脂CFRTPプリプレグ(C)の作製>
東レプラスチック精工株式会社製ポリアセタール TPS(登録商標)POM NC(融点=163℃)を150℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして厚さ100μmのポリアセタール樹脂シートを作製した。このポリアセタール樹脂シートと炭素繊維からなる平織の強化繊維基材(クロス材:サカイオーベックス社製、SA-3203)とを交互に積層して積層体を得た。この積層体を220℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして、厚み約0.6mmのポリアセタール樹脂CFRTPプリプレグ(C)を作製した。
【0091】
(金属-CFRTP複合体の作製)
次に、金属板又は樹脂膜を表面上に形成した金属板と、CFRTPプリプレグとを表1~3に記載の組み合わせで使用し、金属-CFRTP複合体を作製した。詳細には、樹脂膜を積層した金属板上に、作製したCFRTPプリプレグを重ね、表1~3に記載の所定の温度に加熱した平金型を有するプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで、樹脂層(a)~(c)及びCFRTP層(A)~(C)を備える金属-CFRTP複合体を作製した。得られた金属-CFRTP複合体の厚さを、JIS K 5600-1-7、5.4項の光学的方法の断面法に準拠して測定した。CFRTP層の厚みは全て0.5mmであり、樹脂層の厚みは、形成した樹脂膜と同様であった。なお、使用したCFRTPプリプレグの炭素繊維の密度は全て55体積%であった。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
(評価)
<弾性率>
高温ナノインデンテーション(Anton Paar製高温ナノインデンテーション UNHT3HTV)を用い、表1~3記載の温度にてCFRTP層に含まれるマトリクス樹脂及び樹脂層の押し込み弾性率を測定した。CFRTP層のマトリクス樹脂の押し込み弾性率と樹脂層の押し込み弾性率との関係が、(CFRTP層のマトリクス樹脂の押し込み弾性率)<(樹脂層の押し込み弾性率)である場合は、評価結果を○とし、CFRTP層のマトリクス樹脂の押し込み弾性率と樹脂層の押し込み弾性率との関係が(CFRTP層のマトリクス樹脂の押し込み弾性率)≧(樹脂層の押し込み弾性率)である場合は評価結果を×とした。
【0096】
<耐食性>
巾70mm×長さ150mmの樹脂層を積層した金属板の中央に巾50mm×長さ100mmのCFRTPをプレスした複合サンプルを用いて、脱脂、表面調整、リン酸亜鉛処理を行った後に電着塗装を施した。脱脂は、日本パーカライジング社製脱脂剤「ファインクリーナーE6408」を用いて、60℃の条件で5分間浸漬して脱脂した。脱脂した複合サンプルの表面調整は、日本パーカライジング社製「プレパレンX」を用いて、40℃の条件で5分浸漬した。その後に日本パーカライジング社製リン酸亜鉛化成剤「パルボンドL3065」を用いて35℃の条件で3分間浸漬することで、リン酸亜鉛処理を行った。リン酸亜鉛処理を行った後は水洗して150℃雰囲気のオーブンで乾燥させた。その後、日本ペイント社製の電着塗料「パワーフロート1200」を15μm電着塗装し、170℃雰囲気のオーブンで20分焼き付けたものをサンプルとして用いた。電着塗装により、CFRTPを貼り付けていない金属部分のみが塗装された。
【0097】
作製したサンプルを用いてサイクル腐食試験(CCT)を行った。CCTのモードは自動車工業規格JASO-M609に準じて行った。サンプルはCFRTP側を評価面として、評価面に塩水が噴霧されるように試験機に設置して試験を行った。耐食性の評価は、サンプルの外観を、45サイクル(8時間で1サイクル)までは3サイクル毎に、45サイクル以降は15サイクル毎に目視観察し、赤錆が発生するサイクル数を求めた。赤錆が発生するまでのサイクル数が多いものほど、耐食性に優れており、異種材料接触腐食が抑制できたことを示している。また、赤錆は金属に貼り付けたCFRTPの端付近から発生するため、そこに着目して目視観察を行った。
【0098】
<プレス加工性>
V字型の凹凸金型を用いて、金型を200℃に加熱した状態で熱間加工によるV字のプレス加工性を評価した。巾50mm×長さ50mmの金属板全面にCFRTPを貼りつけた複合サンプルを用いて試験した。凹金型側が複合サンプルのCFRTP面となり、凸金型側が金属部材面となるように金型に設置して、プレスを行った。なおV字型金型のV部の角度は90°の金型を用い、曲げ部のR(曲率半径)の異なる金型を使ったプレス加工をそれぞれ行い、CFRTPが剥離しない限界Rを求めた。より小さい曲げRでも剥離しないものほどプレス加工性に優れる。プレス加工後の断面を観察し、金属板とCFRTPとの接着部分において、金属板とCFRTPとが接着部分全体に対して30%以上剥がれた場合を「剥離」とした。CFRTPが剥離しない限界Rが30mmR以下である場合、プレス加工性は良好である。
【0099】
表1に示すように、金属板に冷延鋼板CRを用い、樹脂層を設けたNo.12の試料と樹脂層を設けなかったNo.15の試料とを比較すると、樹脂層を設けたNo.12の試料の方が良好な耐食性を示すことが分かった。また、表1~3に示すように、金属板としてGA、GI、Zn-Al-Mg及びAn-Al-Mg-Siを用いた場合も同様に、樹脂層を設けた試料は、樹脂層を設けなかった試料と比較して良好な耐食性を示すことが分かった。また、CFRTP層のマトリクス樹脂の押し込み弾性率と樹脂層の押し込み弾性率との関係が○となった試料、すなわち、160~180℃において、(CFRTP層のマトリクス樹脂の押し込み弾性率)<(樹脂層の押し込み弾性率)となった試料は、マトリクス樹脂の押し込み弾性率と樹脂層の押し込み弾性率との関係が×となった試料と比較して良好な耐食性を示すことが分かった。また、金属-CFRTP複合体の樹脂層の膜厚を5μm以上とすることで、金属-CFRTP複合体の耐食性が大きく向上することが分かった。上記のとおり、本実施形態に係る金属-CFRTP複合体は炭素繊維と金属との異種材料接触腐食に対する耐食性に優れ、且つ、熱間プレスを行ってもCFRTPが剥離しにくく、加工性に優れたものであった。
【0100】
表1のNo.14の試料については、加熱圧着温度がCFRTP層のマトリクス樹脂の融点よりも低かったため、良好な耐食性を示したものの、No.1~13の試料に対して加工性がやや低下した。
【0101】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0102】
1 金属-CFRTP複合体
11 金属部材
12 CFRTP層
13 樹脂層
20 樹脂膜
20A 樹脂シート
21 CFRTP成形用プリプレグ
30 塗膜
101 マトリクス樹脂
102 炭素繊維
図1
図2
図3
図4
図5