(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置、方法及びプログラム、並びに複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/00 20060101AFI20230301BHJP
B22D 11/18 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B22D11/00 N
B22D11/18 B
(21)【出願番号】P 2019072012
(22)【出願日】2019-04-04
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018208914
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩貴
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-262653(JP,A)
【文献】特開平07-256419(JP,A)
【文献】特開平07-178525(JP,A)
【文献】特開平04-105759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
B22D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開度変更操作に応じて溶融金属供給流量を制御する流量制御機構をそれぞれ有する表層ノズル及び内層ノズルから鋳型内に溶融金属を注入し、表層の組成と内層の組成とが異なる複層鋳片を製造する連続鋳造プロセスにおいて、前記表層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性、及び前記内層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を推定する複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置であって、
前記鋳型内の湯面の位置である湯面レベルを測定する湯面レベル計を用いて、前記表層ノズル及び前記内層ノズルのうちいずれか一方のノズルの流量制御機構の開度をフィードバック制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、他方のノズルの流量制御機構の開度を一定保持する一定開度制御中に、
前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定して、この一定開度に変更する開度変更手段と、
前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する流量計算値演算手段と、
前記開度変更手段で設定した前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度と、前記流量計算値演算手段で演算した前記流量計算値と、前記開度変更手段で前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度に変更した後に収集した前記一方のノズルの流量制御機構の開度の収束値データとを用いて、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数と、前記内層ノズルの流量特性に係る未知数とを変数とした質量又は体積の収支式を作成する収支式作成手段と、
前記開度変更手段で設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変えて、前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返すことにより構成された連立方程式を求解して、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数を求める求解手段とを備えたことを特徴とする複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項2】
前記流量計算値演算手段は、鋳造速度に基づいて、前記流量計算値を演算することを特徴とする請求項1に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項3】
前記流量計算値演算手段は、前記表層ノズル及び前記内層ノズルに溶融金属を供給するタンディッシュの重量測定値に基づいて、前記流量計算値を演算することを特徴とする請求項1に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項4】
前記タンディッシュの重量測定値に基づいて前記流量計算値を演算するときに時間平均化を行うことを特徴とする請求項3に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項5】
前記開度変更手段で設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度、
並びに、前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返した際の繰り返し回数のうちの少なくともいずれか一方を可変値として、鋳造中の所定の条件に応じて値を変えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項6】
前記開度変更手段は、
前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返した際の繰り返し計算の各回で、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数の分散共分散行列のトレースを含む評価関数を用いた最適化問題を設定して求解することにより、前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項7】
前記評価関数は、前記一方のノズルの流量制御機構の開度操作量及び前記他方のノズルの流量制御機構の開度操作量に関するペナルティ項を含むことを特徴とする請求項6に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項8】
前記開度変更手段は、前記繰り返し計算における次回を対象として、前記最適化問題を設定して求解することを特徴とする請求項6又は7に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項9】
前記開度変更手段は、前記繰り返し計算における次回を含む複数回を対象として、前記最適化問題を設定して求解することを特徴とする請求項6又は7に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項10】
前記最適化問題は、前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量に関する流量制約を含むことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項11】
前記最適化問題は、前記一方のノズルの流量制御機構の開度操作量及び前記他方のノズルの流量制御機構の開度操作量の上下限制約を含むことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項12】
前記開度変更手段は、前記最適化問題を1変数の最適化問題に変換して求解することを特徴とする請求項8に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項13】
前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返した際の繰り返し計算の回数が予め定められた回数に到達する前に、所定の条件を満たすとき、前記繰り返し計算を打ち切ることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
【請求項14】
開度変更操作に応じて溶融金属供給流量を制御する流量制御機構をそれぞれ有する表層ノズル及び内層ノズルから鋳型内に溶融金属を注入し、表層の組成と内層の組成とが異なる複層鋳片を製造する連続鋳造プロセスにおいて、前記表層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性、及び前記内層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を推定する複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定方法であって、
前記鋳型内の湯面の位置である湯面レベルを測定する湯面レベル計を用いて、前記表層ノズル及び前記内層ノズルのうちいずれか一方のノズルの流量制御機構の開度をフィードバック制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、他方のノズルの流量制御機構の開度を一定保持する一定開度制御中に、
前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定して、この一定開度に変更する第1のステップと、
前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する第2のステップと、
前記第1のステップで設定した前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度と、前記第2のステップで演算した前記流量計算値と、前記第1のステップで前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変更した後に収集した前記一方のノズルの流量制御機構の開度の収束値データとを用いて、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数と、前記内層ノズルの流量特性に係る未知数とを変数とした質量又は体積の収支式を作成する第3のステップと、
前記第1のステップで設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変えて、前記第2のステップ及び前記第3のステップを行うことを複数回繰り返すことにより構成された連立方程式を求解して、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数を求める第4のステップとを有することを特徴とする複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定方法。
【請求項15】
開度変更操作に応じて溶融金属供給流量を制御する流量制御機構をそれぞれ有する表層ノズル及び内層ノズルから鋳型内に溶融金属を注入し、表層の組成と内層の組成とが異なる複層鋳片を製造する連続鋳造プロセスにおいて、前記表層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性、及び前記内層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を推定するためのプログラムであって、
前記鋳型内の湯面の位置である湯面レベルを測定する湯面レベル計を用いて、前記表層ノズル及び前記内層ノズルのうちいずれか一方のノズルの流量制御機構の開度をフィードバック制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、他方のノズルの流量制御機構開度を一定保持する一定開度制御中に、
前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定して、この一定開度に変更する第1の処理と、
前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する第2の処理と、
前記第1の処理で設定した前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度と、前記第2の処理で演算した前記流量計算値と、前記第1の処理で前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変更した後に収集した前記一方のノズルの流量制御機構の開度の収束値データとを用いて、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数と、前記内層ノズルの流量特性に係る未知数とを変数とした質量又は体積の収支式を作成する第3の処理と、
前記第1の処理で設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変えて、前記第2の処理及び前記第3の処理を行うことを複数回繰り返すことにより構成された連立方程式を求解して、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数を求める第4の処理とをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置により求めた前記他方のノズルの流量特性に係る未知数を用いて、フィードバック及び一定開度制御における前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を補正することを特徴とする複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置、方法及びプログラム、並びに複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表層の組成と内層の組成とが異なる複層鋳片を製造することが行われている。例えば特許文献1には、鋳型内において異なる組成の溶融金属を磁気的手段によって分離し、この境界の上下にそれぞれ組成の異なる溶融金属を供給する構成が開示されている。より詳細には、鋳型内の相対的に上部の溶融金属供給位置と相対的に下部の溶融金属供給位置との間に、鋳造方向に垂直な方向に磁力線が延在する如く静磁場帯を形成させることにより、組成の異なる溶融金属が混合するのを防ぐようにしている。
複層鋳片の連続鋳造プロセスでは、表層の溶融金属(溶鋼)と内層の溶鋼とを上下に分離する境界の位置(以下、境界層レベルと呼ぶ)を静磁場帯に留めるために、表層用の浸漬ノズルによる溶鋼供給流量及び内層用の浸漬ノズルによる溶鋼供給流量を適切に制御する必要がある。
【0003】
この課題に対して、例えば特許文献2には、内層注入量を設定値に保ちつつ、表層注入量操作により表層の溶鋼の湯面レベル(以下では単に「湯面レベル」と称する)を制御する方式が開示されている。特許文献2では、タンディッシュに取り付けたロードセル出力より、タンディッシュ内の溶鋼重量を計測し、それを利用してノズルより注入される溶鋼流量を算出するようにしている。
【0004】
また、特許文献3には、表層タンディッシュ側の表層用注入ノズルに装着した電磁流量計で計測された表層注入量と、表層シェル厚と鋳造速度により設定値計算して求められた表層注入量設定値とを比較して、両者が一致するように表層用注入ノズルのストッパーを開閉して表層注入量を調整し、他方湯面レベル計によって検知された湯面レベルと、表層シェル厚と鋳造速度により設定値計算して求められた湯面レベル設定値とを比較して、両者が一致するように内層用注入ノズルのストッパーを開閉して内層注入量を調整する方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-108947号公報
【文献】特開平3-243262号公報
【文献】特開平5-104223号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ironmaking & Steelmaking 1997 Vol.24 No.3 "Novel continuous casting process for clad steel slabs with level dc magnetic field"
【文献】「パターン認識と機械学習 上、C.M.ビショップ著、丸善出版」の3章p.152
【文献】W.Dinkelbach “On Nonlinear Fractional Programming” Management Science 1967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複層鋳片の連続鋳造プロセスにおいて、良好な品質の複層鋳片を製造するには、各ノズルからの流量を正確に知り、適切に制御することが求められる。
特許文献3のように流量計があれば、比較的容易に流量を知ることができるが、流量計の設置に伴うコストが発生するだけでなく、流量計不調時には流量を知ることができなくなるおそれがある。
各ノズルにおける流量が正確にわからない場合には、各ノズルにおける開度と流量との関係である流量特性を正確に知ることができれば、開度の値から流量を求めることができる。
しかしながら、各ノズルの流量特性は、溶鋼の成分の相違等により鋳造の都度ばらつきが生じ、また、鋳造中にも地金付着等ノズル詰まり等が原因で変化するため、適時、流量と開度との関係を求める必要がある。
また、特許文献2には、タンディッシュ内の溶鋼重量の計測結果を利用してノズルより注入される溶鋼流量を算出することが開示されているが、2つのタンディッシュ(表層用のタンディッシュ及び内層用のタンディッシュ)を別々の設備として備えることを前提とするものであり、適用可能な連続鋳造設備が限られてしまう。
【0008】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、流量計を用いずに、表層ノズル及び内層ノズルそれぞれにおける、ストッパーやスライディングノズルといった流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を正確に推定し、表層ノズル及び内層ノズルそれぞれにおける流量を正確に推定することにより、流量を適切に制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 開度変更操作に応じて溶融金属供給流量を制御する流量制御機構をそれぞれ有する表層ノズル及び内層ノズルから鋳型内に溶融金属を注入し、表層の組成と内層の組成とが異なる複層鋳片を製造する連続鋳造プロセスにおいて、前記表層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性、及び前記内層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を推定する複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置であって、
前記鋳型内の湯面の位置である湯面レベルを測定する湯面レベル計を用いて、前記表層ノズル及び前記内層ノズルのうちいずれか一方のノズルの流量制御機構の開度をフィードバック制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、他方のノズルの流量制御機構の開度を一定保持する一定開度制御中に、
前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定して、この一定開度に変更する開度変更手段と、
前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する流量計算値演算手段と、
前記開度変更手段で設定した前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度と、前記流量計算値演算手段で演算した前記流量計算値と、前記開度変更手段で前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度に変更した後に収集した前記一方のノズルの流量制御機構の開度の収束値データとを用いて、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数と、前記内層ノズルの流量特性に係る未知数とを変数とした質量又は体積の収支式を作成する収支式作成手段と、
前記開度変更手段で設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変えて、前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返すことにより構成された連立方程式を求解して、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数を求める求解手段とを備えたことを特徴とする複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[2] 前記流量計算値演算手段は、鋳造速度に基づいて、前記流量計算値を演算することを特徴とする[1]に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[3] 前記流量計算値演算手段は、前記表層ノズル及び前記内層ノズルに溶融金属を供給するタンディッシュの重量測定値に基づいて、前記流量計算値を演算することを特徴とする[1]に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[4] 前記タンディッシュの重量測定値に基づいて前記流量計算値を演算するときに時間平均化を行うことを特徴とする[3]に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[5] 前記開度変更手段で設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度、並びに、前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返した際の繰り返し回数のうちの少なくともいずれか一方を可変値として、鋳造中の所定の条件に応じて値を変えることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[6] 前記開度変更手段は、前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返した際の繰り返し計算の各回で、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数の分散共分散行列のトレースを含む評価関数を用いた最適化問題を設定して求解することにより、前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定することを特徴とする[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[7] 前記評価関数は、前記一方のノズルの流量制御機構の開度操作量及び前記他方のノズルの流量制御機構の開度操作量に関するペナルティ項を含むことを特徴とする[6]に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[8] 前記開度変更手段は、前記繰り返し計算における次回を対象として、前記最適化問題を設定して求解することを特徴とする[6]又は[7]に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[9] 前記開度変更手段は、前記繰り返し計算における次回を含む複数回を対象として、前記最適化問題を設定して求解することを特徴とする[6]又は[7]に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[10] 前記最適化問題は、前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量に関する流量制約を含むことを特徴とする[6]乃至[8]のいずれか一つに記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[11] 前記最適化問題は、前記一方のノズルの流量制御機構の開度操作量及び前記他方のノズルの流量制御機構の開度操作量の上下限制約を含むことを特徴とする[6]乃至[9]のいずれか一つに記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[12] 前記開度変更手段は、前記最適化問題を1変数の最適化問題に変換して求解することを特徴とする[8]に記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[13] 前記流量計算値演算手段による前記流量計算値の演算及び前記収支式作成手段による前記収支式の作成を複数回繰り返した際の繰り返し計算の回数が予め定められた回数に到達する前に、所定の条件を満たすとき、前記繰り返し計算を打ち切ることを特徴とする[1]乃至[12]のいずれか一つに記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置。
[14] 開度変更操作に応じて溶融金属供給流量を制御する流量制御機構をそれぞれ有する表層ノズル及び内層ノズルから鋳型内に溶融金属を注入し、表層の組成と内層の組成とが異なる複層鋳片を製造する連続鋳造プロセスにおいて、前記表層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性、及び前記内層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を推定する複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定方法であって、
前記鋳型内の湯面の位置である湯面レベルを測定する湯面レベル計を用いて、前記表層ノズル及び前記内層ノズルのうちいずれか一方のノズルの流量制御機構の開度をフィードバック制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、他方のノズルの流量制御機構の開度を一定保持する一定開度制御中に、
前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定して、この一定開度に変更する第1のステップと、
前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する第2のステップと、
前記第1のステップで設定した前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度と、前記第2のステップで演算した前記流量計算値と、前記第1のステップで前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変更した後に収集した前記一方のノズルの流量制御機構の開度の収束値データとを用いて、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数と、前記内層ノズルの流量特性に係る未知数とを変数とした質量又は体積の収支式を作成する第3のステップと、
前記第1のステップで設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変えて、前記第2のステップ及び前記第3のステップを行うことを複数回繰り返すことにより構成された連立方程式を求解して、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数を求める第4のステップとを有することを特徴とする複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定方法。
[15] 開度変更操作に応じて溶融金属供給流量を制御する流量制御機構をそれぞれ有する表層ノズル及び内層ノズルから鋳型内に溶融金属を注入し、表層の組成と内層の組成とが異なる複層鋳片を製造する連続鋳造プロセスにおいて、前記表層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性、及び前記内層ノズルにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を推定するためのプログラムであって、
前記鋳型内の湯面の位置である湯面レベルを測定する湯面レベル計を用いて、前記表層ノズル及び前記内層ノズルのうちいずれか一方のノズルの流量制御機構の開度をフィードバック制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、他方のノズルの流量制御機構開度を一定保持する一定開度制御中に、
前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を設定して、この一定開度に変更する第1の処理と、
前記表層ノズル及び前記内層ノズルを流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する第2の処理と、
前記第1の処理で設定した前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度と、前記第2の処理で演算した前記流量計算値と、前記第1の処理で前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変更した後に収集した前記一方のノズルの流量制御機構の開度の収束値データとを用いて、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数と、前記内層ノズルの流量特性に係る未知数とを変数とした質量又は体積の収支式を作成する第3の処理と、
前記第1の処理で設定する前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を変えて、前記第2の処理及び前記第3の処理を行うことを複数回繰り返すことにより構成された連立方程式を求解して、前記表層ノズルの流量特性に係る未知数及び前記内層ノズルの流量特性に係る未知数を求める第4の処理とをコンピュータに実行させるためのプログラム。
[16] [1]乃至[13]のいずれか一つに記載の複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置により求めた前記他方のノズルの流量特性に係る未知数を用いて、フィードバック及び一定開度制御における前記他方のノズルの流量制御機構の一定開度を補正することを特徴とする複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流量計を用いずに、表層ノズル及び内層ノズルそれぞれにおける流量制御機構の開度と流量との関係である流量特性を正確に推定し、表層ノズル及び内層ノズルそれぞれにおける流量を正確に推定することにより、流量を適切に制御できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】複層鋳片の連続鋳造プロセスの概要を説明するための図である。
【
図2】実施形態に係るコントローラの機能構成を示す図である。
【
図3】実施形態における複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定方法、及び複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御方法を示すフローチャートである。
【
図4】シミュレーションの結果を示す特性図である。
【
図5】コントローラの開度変更部の機能構成を示す図である。
【
図6】シミュレーションの結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1を参照して、複層鋳片の連続鋳造プロセスの概要を説明する。
図1(a)は連続鋳造設備の全体構成を示す図であり、(b)は鋳型4内の複層鋳片の横断面図である。
吐出位置を鋳造方向に異ならせた2本の浸漬ノズル(本願において、表層ノズル1及び内層ノズル2と呼ぶ)を備える。表層ノズル1及び内層ノズル2には、一のタンディッシュ3から溶鋼が供給される。より詳細には、タンディッシュ3は2つの室に区画されており、各室から組成の異なる溶鋼がそれぞれ表層ノズル1、内層ノズル2を介して鋳型4内に注入される。重量計5により、タンディッシュ3の重量が測定可能である。
【0013】
表層ノズル1及び内層ノズル2から鋳型4内に注入されるそれぞれの溶鋼は、磁場発生装置6により形成される静磁場帯で制動力を受け、鋳型4内において表層の溶鋼と内層の溶鋼とが境界7を挟んで上下に分離される。鋳型4内の湯面8は表層の溶鋼が溶融パウダーと接する位置であり、境界7は表層の溶鋼と内層の溶鋼との分離位置である。以下、湯面8の位置を湯面レベルと呼び、境界7の位置を境界層レベルと呼ぶ。なお、境界7は、実際には両層間の遷移層として形成されるが、境界線として取り扱うものとする。また、線9は凝固シェル位置を示す。
鋳型4内の湯面8の上方には例えば渦流式の湯面レベル計10が設置され、湯面レベルが測定される。
【0014】
表層ノズル1による溶鋼供給流量(以下、表層流量と呼ぶ)は、表層ストッパー11の開度変更操作により制御される。同様に、内層ノズル2による溶鋼供給流量(以下、内層流量と呼ぶ)は、内層ストッパー12の開度変更操作により制御される。これらストッパー11、12の開度変更操作は、
図2に示すコントローラ100の制御下で実行される。なお、本実施形態では、開度変更操作に応じて溶鋼供給流量を制御する流量制御機構としてストッパーを用いるが、スライディングノズルを用いる構成としてもよい。
【0015】
以下に詳述するが、本実施形態では、表層流量を測定する流量計や内層流量を測定する流量計を用いずに、各ノズル1、2におけるストッパー開度と流量との関係である流量特性を推定する。
これを実現する流量特性の推定手法は、次のような観点に立つものである。湯面レベル計10を用いて、表層ストッパー11の開度を制御して湯面レベルを一定に保つフィードバック制御中では、内層ストッパー12の開度を一定保持する制御操作を行えば、表層ノズル1、内層ノズル2の流量特性がどのようなものであっても、それらの流量特性に応じて表層ストッパー11の開度は一定値に収束する。この性質を利用して、内層ストッパー12の一定開度の設定値をステップ状(段階的)に複数回変更し、変更する度に収束する表層ストッパー11の開度(以下、「収束値データ」と称する)を収集することで、表層ノズル1と内層ノズル2におけるそれぞれの流量特性を表す関係式に含まれる未知のパラメータ(以下では「未知数Δ1、Δ2」と称する)を変数とした連立方程式を構成することができ、各未知数を逆算することができる。
なお、本実施形態では、表層ストッパー11を使って湯面レベルを一定に保つとともに、内層ストッパー12の開度を一定保持するものとしたが、その逆、すなわち内層ストッパー12を使って湯面レベルを一定に保つとともに、表層ストッパー11の開度を一定保持する場合も同様である。
【0016】
図2を参照して、本実施形態に係るコントローラ100の機能構成を説明する。
制御部101は、湯面レベル計10を用いて、表層ストッパー11の開度を制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、内層ストッパー12の開度を一定保持する。
【0017】
開度変更部102は、制御部101によるフィードバック及び一定開度制御中において、内層ストッパー12の一定開度を設定してステップ状に変更する。
流量計算値演算部103は、鋳造速度Vcに基づいて、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する。例えば、流量計算値は、定常制御中においては、鋳片引抜量AVcを求めることで代用できる。ここで、鋳片引抜量AVcは、開度変更部102により内層ストッパー12の開度が変更される前後の鋳造速度Vcに、鋳型断面積Aを乗じて得られる。
収支式作成部104は、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量が鋳片引抜量AVcに等しくなるという体積収支式を作成する。例えば、収支式作成部104は、開度変更部102で設定した内層ストッパー12の一定開度と、流量計算値演算部103で演算した流量計算値(鋳片引抜量AVc)と、開度変更部102で内層ストッパー12の一定開度に変更した後に収集した表層ストッパー11の開度の収束値データとを用いて、表層ノズル1の流量特性に係る未知数Δ1と、内層ノズル2の流量特性に係る未知数Δ2とを変数とした方程式を作成する。
【0018】
求解部105は、開度変更部102で設定する内層ストッパー12の一定開度を変更して、流量計算値演算部103による流量計算値の演算及び収支式作成部104による体積収支式(未知数Δ1、Δ2を変数とした方程式)の作成を複数回(少なくとも2回)繰り返すことにより連立方程式を構成し、この連立方程式を求解して、表層ノズル1の流量特性に係る未知数Δ1及び内層ノズル2の流量特性に係る未知数Δ2を求める。
【0019】
制御部101は、このようにして求めた内層ノズル2の流量特性に係る未知数Δ2を用いて、フィードバック及び一定開度制御における内層ストッパー12の一定開度を補正する。
【0020】
本実施形態では、コントローラ100が、複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定装置、及び複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御装置として機能する。このようにしたコントローラ100は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により実現される。なお、コントローラ100が単体の装置で構成される必要はなく、複数のコンピュータ装置が協働してコントローラ100として機能したり、例えば連続鋳造プロセスを管理するプロセスコンピュータがコントローラ100として機能したりする形態としてもよい。
【0021】
以下、本実施形態における各ノズル1、2の流量特性の推定、そして連続鋳造プロセスの制御について詳述する。
まず、説明に使用する記号を記載する。
Q1(t):時刻tにおける表層流量
Q2(t):時刻tにおける内層流量
u1(t):時刻tにおける表層ストッパーの開度
u2(t):時刻tにおける内層ストッパーの開度
y1(t):時刻tにおける湯面レベル
y2(t):時刻tにおける境界層レベル
y10:定常湯面レベル目標値
y20:境界層レベル目標値
W:鋳型幅
D:鋳型厚
A:鋳型断面積
A2(t):時刻tにおける内層断面積
d(t):時刻tにおける表層厚
d0:表層厚目標値
A10:表層断面積目標値
A20:内層断面積目標値
Q10:表層流量目標値
Q20:内層流量目標値
τ:湯面レベル位置から境界層レベル位置まで引き抜かれるまでのむだ時間
τact:ストッパー操作応答遅れと湯落ちによるむだ時間
ρ1:表層溶鋼密度
ρ2:内層溶鋼密度
α1nominal:表層流量特性公称値
α2nominal:内層流量特性公称値
Δ1:表層流量特性乗法誤差
Δ2:内層流量特性乗法誤差
TDW(t):時刻tにおけるタンディッシュ3の重量測定値
Vc:鋳造速度
Ks:凝固定数
【0022】
まず、複層鋳片の連続鋳造プロセスの定式化について説明すると、特許文献3や非特許文献1に複層鋳片の連続鋳造プロセスのモデルが示されており、本実施形態ではこのモデルを前提とする。
このモデルでは、表層流量Q1(t)、内層流量Q2(t)の変動に応じて、湯面レベルy1、境界層レベルy2は式(1)~(5)に従って変動する。
【0023】
【0024】
式(1)は、湯面レベルy1が、鋳型への注入量と引抜量とのマスバランスに応じて変動することを意味する。
式(2)は、境界層レベルy2が、内層流量と内層断面積、鋳造速度に応じて変動することを意味する。
ここで、内層断面積A2(t)は、式(3)に従って変動し、表層厚d(t)は、式(4)で表される。式(3)は、複層鋳片の内層部の幅が「W-2d(t)」、内層部の厚みが「D-2d(t)」で表され、これらを乗じて内層断面積A2(t)が求まることを意味している。式(4)は、表層厚d(t)が、τ(1/2)に比例して変化することを意味している(Ksは凝固定数)。
ただし、τは、湯面レベル位置から境界層レベル位置まで引き抜かれるまでのむだ時間であり、式(5)を満たす。式(5)は、時刻t-τにおける湯面レベル位置の溶鋼が、引き抜かれる過程を経て、時刻tにおいて境界層レベル位置に到達することを意味する。
なお、境界層レベルy2が定常目標値より上昇すれば表層厚dは減少するが、表層厚dが減少すれば式(3)により内層断面積A2(t)は増加し、このとき内層流量Q2が一定であれば式(2)により境界層レベルy2は下降し、はじめの上昇を打ち消すメカニズムを有することがわかる。このように、湯面レベルy1、境界層レベルy2の変動に伴い、表層厚d(t)、境界層レベルy2(t)が「自己修復」する機能を有することがこのプロセスの特徴である。
【0025】
なお、鋳造速度Vc(t)が一定であれば、上記の式(5)は式(6)のように変形でき、むだ時間τが湯面レベル位置から境界層レベル位置までの到達時間として求まることを意味している。さらに、湯面レベルy1が定常湯面レベル目標値y10に保たれていれば、湯面レベルy1(t-τ)はむだ時間τによらないため、むだ時間τは式(7)のように近似してよい。本実施形態では、定常レベル目標値に一定制御中であることを想定しているため、式(7)により近似を行うことができる。
【0026】
【0027】
式(1)~(4)、式(7)により、所与の鋳造速度Vc、定常湯面レベル目標値y10、境界層レベル目標値y20に対し、湯面レベルと境界層レベルを一定保持する複層鋳造の定常制御状態では、表層流量、内層流量は式(11)、式(12)を満たす必要がある。式(11)、式(12)で定まるQ10、Q20がそれぞれ、表層流量目標値、内層流量目標値となる。
【0028】
【0029】
したがって、湯面レベルy1を定常湯面レベル目標値y10に保つとともに、境界層レベルy2を境界層レベル目標値y20に保つためには、表層流量、内層流量を、鋳造速度Vc、湯面レベル目標値y10、境界層レベル目標値y20に応じて定まる表層流量目標値Q10、内層流量目標値Q20に一定保持する必要がある。
この流量制御の実現にあたり、本実施形態では、流量計を用いることなく、鋳造中に各ノズル1、2の流量特性を推定し、この流量特性に基づいて流量目標値を実現するよう内層ストッパー12の一定開度を逆算することにより、表層流量、内層流量をそれぞれの流量目標値Q10、Q20に一定保持する。
【0030】
各ノズル1、2の流量特性を推定するにあたり、各ノズル1、2におけるストッパー開度と流量との関係(すなわち、流量特性を表す関係式)は、式(13)、式(14)のように直線近似できるものと仮定する。例えば、試験連鋳機のような小スループットでのスラブの連続鋳造では妥当な仮定であり、また、大スループットの鋳造であっても、鋳造時のスループットを一定の範囲に制限すれば、その範囲において直線近似は有効である。なお、流量特性を表す関係式は、直線近似に限られるものではなく、2次関数等のより複雑な関数形で近似してよい。式(13)、式(14)では、直線状の流量特性の傾きの真値からのずれの程度である表層流量特性乗法誤差Δ1(上述の未知数Δ1)及び内層流量特性乗法誤差Δ2(上述の未知数Δ2)を考慮する。つまり、表層流量Q1(t)は、τact時間前の表層ストッパー11の開度u1(t-τact)に、表層流量特性公称値α1nominalを乗じ、さらに未知数Δ1を乗じた式で近似される。また、表層流量Q2(t)は、τact時間前の内層ストッパー12の開度u2(t-τact)に、内層流量特性公称値α2nominalを乗じ、さらに未知数Δ2を乗じた式で近似される。これらの未知数Δ1、Δ2を適切に求めることができれば、表層流量特性公称値α1nominal、内層流量特性公称値α2nominalを真値へと補正でき、精度良く流量特性を推定できる。なお、表層流量特性公称値α1nominal、内層流量特性公称値α2nominalには、それぞれ、ストッパー開度とノズル開口部面積との幾何学的な関係式あるいは過去の鋳造データにより求められた値等が用いられる。なお、ストッパー操作応答遅れと湯落ちによるむだ時間τactは、通常、0.1~0.3sec程度の値となる。
【0031】
【0032】
図3に、本実施形態における複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定方法、及び複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御方法のフローチャートを示す。なお、本実施形態では、時刻tはサンプリング時間毎に得られる離散的な時刻を表すものとする。
図3のフローチャートは、例えば湯上げ制御から定常制御移行直後の鋳造初期時点、又は鋳造中定周期毎に実行される。すなわち、
図3のフローチャートは、制御部101の制御下、湯面レベル計10を用いて、表層ストッパー11の開度をフィードバック制御することにより湯面レベルを一定に保つとともに、内層ストッパー12の開度を一定保持する一定開度制御中に実行される。
このフィードバック及び一定開度制御において、内層ストッパー12の一定開度は、内層流量を内層流量目標値Q
20に一定保持するように設定されるが、内層ノズル2の流量特性が正確でないと、内層流量が内層流量目標値Q
20と一致せず、それに伴って、表層流量が表層流量目標値Q
10と一致しない状態になる。
【0033】
ステップS1、S2で、コントローラ100は、繰り返し計算の回数Kを設定し、回数Kを初期化する。回数Kは、例えば予め定められた固定値とすればよい。
ステップS3で、コントローラ100は、現時点の繰り返し計算の回数kが回数Kに達したか否かを判定し、回数Kに達していなければ(NO)、処理をステップS4に進め、回数Kに達していれば(YES)、処理をステップS10に進める。
【0034】
ステップS4で、コントローラ100の開度変更部102は、内層ストッパー12の一定開度u
2,setを設定する。一定開度u
2,setは、例えば予め定められた複数の固定値から選択したものを設定するようにすればよい。或いは、一定開度u
2,setは、一定開度の初期設定値を定め、その初期設定値を起点として、繰り返し計算の中で、予め定められた固定値である開度の変更量を順次加算又は減算したものを設定するようにしてもよい。
ステップS5で、コントローラ100の開度変更部102は、内層ストッパー12の開度を、ステップS4において設定した一定開度u
2,setにステップ状に変更する。
図4(a)に、各ストッパー11、12の開度の時系列の例を示す。
図4(a)の例では、タイミングT
1、T
2、T
3、T
4で、内層ストッパー12の一定開度u
2,setを設定してステップ状に変更している。なお、
図4(a)に示すように、内層ストッパー12の一定開度が大きくなると、湯面レベルを一定に保つべく表層ストッパー11の開度が小さくなり、内層ストッパー12の一定開度が小さくなると、湯面レベルを一定に保つべく表層ストッパー11の開度が大きくなる。そして、
図4(c)、(d)に示すように、ストッパー11、12の開度の変化に応じて表層流量及び内層流量が変化する。
【0035】
ステップS6で、コントローラ100は、表層ストッパー11の開度の収束値データを収集する。式(13)、式(14)は各時刻で常に成り立つものであり、内層ストッパー12の一定開度の変更後の表層ストッパー11の開度のデータを所定の期間に亘って収集する(時刻t=1,2,・・・,T)。ただし、内層ストッパー12の一定開度の変更直後はプロセス応答が安定しないため、安定した定常応答が得られる期間(時刻t=Tstart,Tstart+1,・・・,T)のデータを収束値データとして利用し、式(15)、式(16)の関係を得る。時刻TstartやTは、例えば予め定められた固定値とすればよい。なお、ストッパー操作応答遅れと湯落ちによるむだ時間τactは、定常値に影響しないため、ここでは無視してよい。
【0036】
【0037】
ステップS7で、コントローラ100の流量計算値演算部103は、実績の鋳造速度Vcに基づいて、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する。定常制御中では、湯面レベルは略一定とみなすことができ、鋳型4への溶鋼注入量と鋳型4からの引抜量のマスバランスは略一致するとみなすことができる。したがって、鋳造速度Vcに鋳型断面積Aを乗じ得られる鋳片引抜量AVcを、鋳型4への溶鋼注入量、すなわち表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量として取り扱うことができる。なお、鋳造速度Vcは基本的に一定とすればよいが、鋳造速度が変化するときはその変化する値を用いてもよい。
【0038】
ステップS8で、コントローラ100の収支式作成部104は、ステップS4において設定した内層ストッパー12の一定開度u2,setと、ステップS6において収集した表層ストッパー11の開度の収束値データと、ステップS7において演算した流量計算値(鋳片引抜量AVc)とを用いて、式(17)のように、体積収支式を作成する。より詳細には、式(15)、式(16)より、表層ノズル1の流量特性に係る未知数である表層流量特性乗法誤差Δ1及び内層ノズル2の流量特性に係る未知数である内層流量特性乗法誤差Δ2と、表層流量特性公称値α1nominal及び内層流量特性公称値α2nominalと、表層ストッパー11の開度の時間平均値u1 ̄と、内層ストッパー12の一定開度u2,setと、流量計算値AVcとの関係を表す体積収支式(17)が作成される。ストッパー11の開度の時間平均値u1 ̄は、安定した定常応答が得られる期間(時刻t=Tstart,Tstart+1,・・・,T)における時間平均値であり、式(18)のように表される。mean(・)は平均演算を表す。なお、u1 ̄の表記は、u1の上に ̄が付されているものとし、他の文字の場合も同様である。ここでは、表層ストッパー11の開度の収束値データから表層ストッパー11の開度の時間平均値u1 ̄を計算して用いる例を述べたが、例えば表層ストッパー11の開度の収束値データのいずれかの値(例えば最終値)を用いるようにしてもよい。
なお、各回kにおいて、例えば一定期間でステップS4~S8の処理を実行するようになっている。以下では、k回目の区間を「区間k」として説明することもある。
【0039】
【0040】
ステップS9で、コントローラ100は、回数kをインクリメントして、ステップS3に処理を戻す。
これにより、ステップS4において設定する内層ストッパー12の一定開度u
2,setを変えて、ステップS5~S8をK回繰り返すことになる。
図4(a)の例では、K=4回として、内層ストッパー12の一定開度u
2,setを4回変えている。
【0041】
ステップS10で、コントローラ100の求解部105は、式(19)のように、K回の繰り返し計算により表層流量特性乗法誤差Δ1及び内層流量特性乗法誤差Δ2を変数とした連立方程式を構成し、最小二乗法等で求解して、Δ1、Δ2を求める。なお、u2,set
(k)は、各回kでの内層ストッパー12の一定開度を意味し、u1
(k) ̄は、各回kでの表層ストッパー11の開度の時間平均値を意味する。
【0042】
【0043】
ステップS11で、制御部101は、内層ストッパー12の一定開度に1/Δ2を乗じて、フィードバック及び一定開度制御における内層ストッパー12の一定開度を補正する。この補正により、内層ストッパー12の一定開度を、内層流量を内層流量目標値Q20に一定保持する開度とすることができ、それに伴って、表層流量を表層流量目標値Q10に一定保持することができる。
【0044】
なお、鋳造速度Vcに基づいて流量計算値を演算する場合、第2の実施形態で述べるタンディッシュ3の重量測定値を用いる場合と比較してノイズが少ないので、実用上、未知数が2つであればK=2でよく、式(19)´を構成すればよい。その場合、式(20)により、表層流量特性乗法誤差Δ1及び内層流量特性乗法誤差Δ2を求めることができる。
【0045】
【0046】
以上のように、内層ストッパー12の一定開度をステップ状に変更する開度操作を複数回(K回)実施し、表層ストッパー11の開度のデータを収集する。そして、式(13)、式(14)の流量特性の仮定の下、体積収支式からなる式(19)の連立方程式を構成する。この連立方程式を求解して、表層流量特性乗法誤差Δ1及び内層流量特性乗法誤差Δ2を求め、内層流量特性乗法誤差Δ2を用いて、フィードバック及び一定開度制御における内層ストッパー12の一定開度を補正する。
この手法は、フィードバック制御中にプロセス同定のために付加的な開度操作を行い、未知の特性を求めるものであるが、通常用いられる手法のように、ばらつきが大きい過渡応答のデータを利用してプロセス特性を求めると、推定結果の精度が悪いものとなるが、本実施形態では定常状態のデータを利用するので、推定結果の精度を確保することができる。
また、本実施形態では、流量計を用いずに、各ノズル1、2の流量特性を推定することができ、これにより各ノズル1、2の流量を推定することができるので、流量計の設置に伴うコストが生じない。なお、流量計が設定されている連続鋳造設備において、流量計不調時に本発明の手法に切り替えるような形態としてもよい。また、表層用のタンディッシュ及び内層用のタンディッシュを備えることを前提とする等の限定がなく、広く適用可能である。
【0047】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、鋳造速度Vcに基づいて流量計算値を演算する例を延べた。それに対して、第2の実施形態では、タンディッシュ3の重量測定値TDW(t)に基づいて流量計算値を演算する例を述べる。なお、以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、第1の実施形態との共通点についてはその詳細な説明を省略する。
【0048】
図3のフローチャートを参照して、第2の実施形態における複層鋳片の連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定方法、及び複層鋳片の連続鋳造プロセスの制御方法を説明する。なお、第1の実施形態と同様の処理については説明を省略し、第1の実施形態と異なる処理について説明する。
ステップS7で、コントローラ100の流量計算値演算部103は、タンディッシュ3の重量測定値TDW(t)に基づいて、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量の計算値である流量計算値を演算する。タンディッシュ3の重量測定値TDW(t)の時間変化量は、単位時間あたりにノズル1、2を流れる合計流量と略一致するものとみなすことができる。
【0049】
ここで、タンディッシュ3の重量測定値は一般にSN比が良くないため、単にタンディッシュ3の重量測定値TDW(t)を時間方向に差分演算し、サンプリング時間間隔で除して得られるΔTDW(t)を流量計算値とする場合、この流量計算値は差分演算により増幅されたノイズを含むものとなる。
図4(b)に、時間と、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量との関係の例を示す。
図4(b)に示すように、タンディッシュ3の重量測定値に基づくΔTDW(t)は、合計流量の実績と同様の挙動をとるが、ノイズが含まれていることがわかる。
そこで、式(21)のように、安定した定常応答が得られる期間(時刻t=T
start,T
start+1,・・・,T)において、ΔTDW(t)を時間平均化したΔTDW ̄を流量計算値として演算する。
【0050】
【0051】
ステップS8で、コントローラ100の収支式作成部104は、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量が流量計算値ΔTDW ̄に等しくなるという質量収支式を作成する。例えば、収支式作成部104は、ステップS4において設定した内層ストッパー12の一定開度u2,setと、ステップS6において収集した表層ストッパー11の開度の収束値データと、ステップS7において演算した流量計算値ΔTDW ̄とを用いて、式(22)のように、表層ノズル1の流量特性に係る未知数Δ1と、内層ノズル2の流量特性に係る未知数Δ2とを変数とした方程式を作成する。より詳細には、溶鋼密度ρ1、ρ2を導入して、式(15)、式(16)より、表層ノズル1の流量特性に係る未知数である表層流量特性乗法誤差Δ1及び内層ノズル2の流量特性に係る未知数である内層流量特性乗法誤差Δ2と、表層流量特性公称値α1nominal及び内層流量特性公称値α2nominalと、表層ストッパー11の開度の時間平均値u1 ̄と、内層ストッパー12の一定開度u2,setと、流量計算値ΔTDW ̄との関係を表す質量収支式(22)が作成される。
【0052】
【0053】
ステップS10で、コントローラ100の求解部105は、式(23)のように、K回の繰り返し計算により連立方程式を構成し、最小二乗法で求解して、表層流量特性乗法誤差Δ1及び内層流量特性乗法誤差Δ2を求める。なお、ΔTDW(k) ̄は、各回kでの流量計算値(ΔTDW(t)の時間平均値)を意味する。
本実施形態では、測定値(タンディッシュ3の重量測定値TDW(t))に基づいて流量計算値を演算するようにしたので、連続鋳造プロセスの実際の状態をより反映させた流量計算値を演算することができる。
【0054】
【0055】
[変形例]
以下、変形例を説明する。
鋳造中に、流量特性の変化を監視するようにしてもよい。例えば鋳造中に、式(24)により、一定期間の区間k毎に流量実績値と流量計算値との誤差error(k)を計算する。Δ1
(old)は前回区間までにおける表層流量特性乗法誤差、Δ2
(old)は前回区間までにおける内層流量特性乗法誤差である。
鋳造中に、式(24)のerror(k)が所定の閾値から外れた場合、流量特性が変化したとみなし、上述した実施形態のように流量特性の推定を実行すればよい。なお、ここではタンディッシュの重量測定値に基づいて流量計算値を演算する場合の定式化を示すが、鋳造速度に基づいて流量計算値を演算する場合も同様である。
【0056】
【0057】
また、実施形態では、繰り返し計算の回数K、及び内層ストッパー12の一定開度u2,setとして固定値を用いる例を述べたが、可変値として、定常応答の安定性を都度判断した上で変更するようにしてもよい。
【0058】
また、例えば回数Kを固定値として設定した場合に、回数Kに到達する前に、式(24)のerror(k)が所定の閾値を下回れば、内層ストッパー12の一定開度u2,setの変更は途中で打ち切る、すなわち繰り返し計算を打ち切るようにしてもよい。
このように繰り返し計算の回数K、及び内層ストッパー12の一定開度u2,setを可変値として、鋳造中の所定の条件に応じて値を変えることにより、回数Kや一定開度u2,setを効率的に変えることができる。
【0059】
[実施例1]
図4に、本発明を適用した連続鋳造プロセスにおける流量特性の推定、そして連続鋳造プロセスの制御のシミュレーションの結果を示す。
図4(c)に、時間と、表層流量(実績、目標値)との関係の例を示す。また、
図4(d)に、時間と、内層流量(実績、目標値)との関係の例を示す。
シミュレーションにおいては、試験連鋳機のような小スループットのスラブ連鋳機を対象とし、鋳型幅W=800mm、鋳型厚D=100mm、鋳造速度V
c=0.7m/mとした。
また、第2の実施形態で説明したように、タンディッシュ3の重量測定値に基づいて流量計算値を演算する。
シミュレーション上、表層流量特性乗法誤差Δ
1=0.8、内層流量特性乗法誤差Δ
2=0.7に設定した。
K=4回として流量特性を推定し、フィードバック及び一定開度制御における内層ストッパー12の一定開度を補正した。
【0060】
図4(c)、(d)に示すように、内層ストッパー12の一定開度の初期設定値(0-T
1(=6sec))では、表層流量、内層流量がそれぞれの流量目標値と一致していない。
【0061】
図4(a)に示すように、内層ストッパー12の一定開度をステップ状に10secずつ4回変えて(T
1(=6sec)、T
2(=16sec)、T
3(=26sec)、T
4(=36sec))、表層流量特性乗法誤差Δ
1及び内層流量特性乗法誤差Δ
2を同定した。なお、
図4(a)に示すように、内層ストッパー12の一定開度を変えることにより、表層ストッパー11の開度が変化し、
図4(c)、(d)に示すように、これら開度の変化に応じて表層流量及び内層流量が変化する。
【0062】
そして、内層流量特性乗法誤差Δ
2を用いて、フィードバック及び一定開度制御における内層ストッパー12の一定開度を補正することにより(T5(=46sec))、
図4(c)、(d)に示すように、表層流量、内層流量がそれぞれの流量目標値付近に保持されることになった。
K=2回、3回、4回のそれぞれの時点で式(23)を解くことで、Δ
1=0.7703、Δ
2=0.7489、Δ
1=0.784、Δ
2=0.732、Δ
1=0.782、Δ
2=0.713が順次得られた。このように変更回数を増やす毎に、流量特性の誤差の推定精度が良くなり、4回程度の繰り返し計算で十分な効果が得られた。
【0063】
[第3の実施形態]
上述した第1、2の実施形態の変形例でも触れたが、繰り返し計算の回数Kや、内層ストッパー12の一定開度u2,setを可変値として、鋳造中の状態に応じて値を変えるようにしてもよい。
第3の実施形態では、式(19)や式(23)の連立方程式を精度良く求解するために、内層ストッパー12の一定開度u2,setを可変値とする例を説明する。
なお、コントローラ100の基本的な機能構成及び処理動作は第1、2の実施形態と同様であり、以下では、第1、2の実施形態との共通点の説明は省略し、第1、2の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0064】
図5に示すように、コントローラ100の開度変更部102は、最適化問題設定部102aと、最適化問題求解部102bとを備える。そして、
図3のステップS4で、コントローラ100の開度変更部102は、内層ストッパー12の一定開度u
2,setを、以下に詳述する最適化問題を求解することにより求めて、それを設定する。
【0065】
第3の実施形態では、繰り返し計算における次回を対象として、最適化問題を設定して求解する例を説明する。すなわち、k回目(区間k)までの計算が終了し、次回の区間k+1の内層ストッパー12の開度操作を最適化する。
(1)評価関数
本実施形態では、式(25)の評価関数Jを最小化する一定開度u2,set
(k+1)を求める。評価関数Jは、区間k+1における、表層ノズル1の流量特性に係る未知数の推定値Δ1
(k+1)^、内層ノズル2の流量特性に係る未知数の推定値Δ2
(k+1)^の分散共分散行列P(u2,set
(k+1))のトレース(行列の対角成分の総和)である。分散共分散行列P(u2,set
(k+1))のトレースは未知数Δ1、Δ2それぞれの真値との誤差のばらつきの和を表すものとなり、それを最小化することにより、各回での未知数Δ1、Δ2の真値との隔たりを小さくすることができる。なお、Δ1
(k+1)^の表記は、Δ1
(k+1)の上に^が付されているものとし、他の文字の場合も同様である。
【0066】
【0067】
また、開度操作の連続性を考慮するために、評価関数Jにおいて、区間k+1における、分散共分散行列P(u2,set
(k+1))のトレースに、表層ストッパー11の開度操作量及び内層ストッパー12の開度操作量に関するペナルティ項を加えてもよい。例えば式(26)のように、分散共分散行列P(u2,set
(k+1))のトレースと、表層ストッパー11の開度操作量u1
(k+1) ̄-u1
(k) ̄及び内層ストッパー12の開度操作量u2,set
(k+1)-u2,set
(k)の二乗和とを単位換算考慮した重み付き和で評価関数Jを構成し、この評価関数Jを最小化する一定開度u2,set
(k+1)を求める。
【0068】
【0069】
最適化問題設定部102aは、式(25)又は式(26)を評価関数とする最適化問題を設定し、最適化問題求解部102bは、その最適化問題を求解して、区間k+1における一定開度u2,set
(k+1)を設定する。
なお、回数Kについては、固定値としてその回数だけ繰り返し計算するようにしてもよいし、上述した第1、2の実施形態の変形例でも触れたが、区間毎に、式(24)のerror(k)を計算し、回数Kに到達する前に、error(k)が所定の閾値を下回れば、繰り返し計算を打ち切るようにしてもよい。
【0070】
(2)最適化問題の定式化
式(25)式の評価関数trace(P(u2,set
(k+1)))の定式化と、その最小化を具体的に述べる。以下では、P(u2,set
(k+1))をSk+1と表記する。
式(19)や式(23)のような線形回帰モデルのパラメータ(回帰係数)推定値の分散共分散行列については、例えば非特許文献2に記載されている計算式により評価することができる。
区間kまでで得られた開度のデータから線形回帰モデルのパラメータ(回帰係数)推定値を求める場合、そのパラメータ推定値の分散共分散行列Skは、式(27)のように表される。ここで、Φkは区間kまでで得られた開度のデータから構成されたデザイン行列であり、αは回帰係数の事前分布の精度パラメータ、βは観測値の事前分布の精度パラメータである。
【0071】
【0072】
次の区間k+1で、u1
(k+1) ̄、u2,set
(k+1)がそれぞれ得られた場合には、区間k+1におけるデザイン行列Φk+1は式(28)のように表される。ここで、φk+1
Tはデザイン行列Φk+1のk+1行目を取り出して得られる行ベクトルを表す。
【0073】
【0074】
線形回帰モデルのパラメータ(回帰係数)推定値の分散共分散行列Sk+1は、式(29)のように表される。この式(29)のSk+1が、式(25)のP(u2,set
(k+1))に相当する。
【0075】
【0076】
分散共分散行列Sk+1は、式(30)のようになり、逆行列補題を用いれば、Skとφk+1を用いて、式(31)のように表される。
【0077】
【0078】
trace(Sk+1)は、式(32)のように表すことができる。
【0079】
【0080】
ここに、trace(Sk)は定数であり、φk+1に依存する項は式(32)の第2項だけである。すなわち、trace(Sk+1)を最小化するφk+1は、式(33)を最大化するφk+1と同じである。
【0081】
【0082】
(3)制約について
φk+1の要素であるu1
(k+1) ̄とu2,set
(k+1)は独立に選ぶことはできず、式(34)のように、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量に関する流量制約を満たすものでなければならない。なお、合計流量Qnominalは、鋳片引抜量AVcとして与えればよい。
【0083】
【0084】
実際には、u1
(k+1) ̄はu2,set
(k+1)を設定しなければ知ることができないが、u1
(k+1) ̄は式(35)を満たすような推定値で代用すればよく、実用上これで問題はない。Δ1
(k)^、Δ2
(k)^は、区間kまでに得られた未知数の推定値である。k=1終了時点で2回目の開度設定値を計算する場合は、式(35)´とおく。なお、u1
(k+1) ̄を推定値で代用することに伴い、Sk+1を厳密に評価することはできなくなるが、実用上、式(35)で近似して問題ない。
【0085】
【0086】
また、表層ストッパー11、内層ストッパー12の両方に関しそれぞれ、通常想定される操業上の制約又は設備上の制約に応じて設定される開度操作量の上下限制約を満たすものでなければならない。
【0087】
以上をまとめると、最適化問題設定部102aは、式(35)の流量制約と、開度操作量の上下限制約とを考慮して、式(36)で表される最適化問題を設定する。
【0088】
【0089】
(4)最適化問題の求解
最適化問題求解部102bは、式(36)で表される最適化問題を求解する。
(a)非線形最適化アルゴリズムの利用
式(36)で表される最適化問題は、最適化の標準的なソルバーで解くことができる。また、式(36)で表される最適化問題は、線形制約の下での、正の凸関数を分子と分母に持つ分数計画問題であり、このような問題は、いわゆるDinkelbachの方法(非特許文献3を参照)により求解することもできる。
【0090】
(b)1変数最適化
u1
(k+1) ̄とu2,set
(k+1)に関する式(35)の流量制約により、u1
(k+1) ̄は、式(37)のようにu2,set
(k+1)だけで表すことができる。
【0091】
【0092】
これを利用し、式(36)からu1
(k+1) ̄を消去すれば、式(36)で表される最適化問題は、式(38)のように、u2,set
(k+1)に関する1変数の最適化問題に変換できる。探索範囲の中で、1変数の最適化問題を探索的方法(リニアサーチ、ブレント法等)、或いは最急降下法、ニュートン法等の関数の勾配を利用する方法等の最適化アルゴリズムにより求解することができる。この場合に、リニアサーチ等の全探索法を使えば、局所解に陥ることなく確実に最適解を求めることができる。
本実施形態では、内層ストッパー12の一定開度u2,setを最適化計算により求めることにより、式(19)や式(23)の連立方程式を精度良く求解することができる。
【0093】
【0094】
[変形例]
以下、変形例を説明する。
ここまでは、各ノズル1、2の流量特性を直線近似できるものと仮定した場合を説明したが、各ノズル1、2におけるストッパーの開度が0、流量が0となるような多項式を仮定することができる。
以下では、式(39)のように、各ノズル1、2の流量特性として二次関数を仮定する場合の定式化について説明するが、三次以上の多項式関数であっても同様に定式化することができる。
【0095】
【0096】
この場合、表層ノズル1及び内層ノズル2を流れる合計流量が、鋳型4内に注入される流量Qnominalと一致するとみなすことにより、1~k回目までの開度操作により、式(40)の連立方程式を構成することができる。なお、ここではQnominalは各繰り返しの操作において同じ値を設定する場合について記載しているが、各繰り返しの操作の度に異なる値に設定してもよい。
【0097】
【0098】
式(40)の連立方程式を、式(41)のように書き直すことができる。未知数はΔ1
(1)、Δ1
(2)、Δ2
(1)、Δ2
(2)の4変数であり、連立方程式を解くためには少なくとも4回の開度操作を必要とする。
【0099】
【0100】
さらにk+1回目の開度操作を行う場合、u2,set
(k+1)と設定するものとし、これに対し表層ストッパー11の開度の収束値としてu1
(k+1) ̄が得られるものとするが、k+1回目については、u1
(k+1) ̄の実績値が得られていないので、式(42)のように推定値u1
(k+1)^で代用する。
【0101】
【0102】
さらに、これまでと同様に、式(43)のように置きなおし、φk+1
Tを数理最適化により求めることができる。ただし、この場合、ストッパーの開度が0で流量が0となるような2次式であることを仮定するため、式(44)の4つの成分は独立変数ではなく、式(45)の関係を満たす必要がある。
【0103】
【0104】
さらに、この制約式に加え、k回目終了時点で得られた流量特性誤差推定値をあてはめて、式(46)のように流量制約式を追加すればよい。k=3終了時点までは流量制約式は、式(47)のように構成すればよい。
【0105】
【0106】
さらに、表層ストッパー11、内層ストッパー12の両方に関しそれぞれ、開度操作量の上下限制約を考慮して、式(48)で表される最適化問題を設定し、これを求解する。
【0107】
【0108】
[第4の実施形態]
第4の実施形態では、第3の実施形態と同様に、内層ストッパー12の一定開度u2,setを可変値とする例を説明する。
以下では、第3の実施形態との共通点の説明は省略し、第3の実施形態との相違点を中心に説明する。
第3の実施形態では、繰り返し計算における次回のみを対象とするのに対して、第4の実施形態では、繰り返し計算における複数回の関連性を反映させるべく、次回を含む複数回分を対象として、最適化問題を設定して求解する。
【0109】
次回の区間k+1の開度操作量だけでなく、さらの次の区間k+2以降の複数区間にわたり、内層ストッパー12の開度操作の最適化を行う場合、第3の実施形態で述べた最適化計算を逐次的に繰り返して開度操作量を決定すればよい。より効果的に最適化計算を行う場合、区間k+1の開度操作量だけでなく、さらに区間k+2以降も含め全ての区間の開度操作量を同時に最適化することができる。以下では、2つの区間を対象として説明するが、k+1,k+2,・・・,k+nのように一般化したn個の区間を対象とする場合も同様に定式化することができる。
【0110】
(1)評価関数
本実施形態では、式(49)の評価関数Jを最小化する一定開度u2,set
(k+1),u2,set
(k+2)を求める。評価関数Jは、区間k+1,k+2における、表層ノズル1の流量特性に係る未知数の推定値Δ1
(k+1)^、Δ1
(k+2)^、内層ノズル2の流量特性に係る未知数の推定値Δ2
(k+1)^、Δ2
(k+2)^の分散共分散行列P(u2,set
(k+1),u2,set
(k+2))のトレースを最小化するものである。
【0111】
【0112】
また、開度操作の連続性を考慮するために、評価関数Jにおいて、区間k+1における、分散共分散行列P(u2,set
(k+1))のトレースに、表層ストッパー11の開度操作量及び内層ストッパー12の開度操作量に関するペナルティ項を加えてもよい。この場合、k,k+1,k+2回目に渡る3回分の開度操作の連続性を考慮し、例えば式(49)に式(50)の正則化項を足し合わせたものとすればよい。
【0113】
【0114】
(2)最適化問題の定式化
次の区間k+1,k+2で、u1
(k+1) ̄、u2,set
(k+1)、u1
(k+2) ̄、u2,set
(k+2)がそれぞれ得られた場合には、Φk+2、φk+1
T、φk+2
Tは式(51)のように表される。ここに、Φk+2は区間k+2までで得られた開度データにより構成されたデザイン行列であり、φk+1
T、φk+2
Tはデザイン行列Φk+2のk+1行目を取り出して得られる行ベクトル、k+2行目を取り出して得られる行ベクトルをそれぞれ表す。
【0115】
【0116】
区間k+2までで得られた開度データにより求められた線形回帰モデルのパラメータ(回帰係数)推定値の分散共分散行列Sk+2は、式(52)のように表される。
【0117】
【0118】
分散共分散行列Sk+2は、式(53)のようになり、逆行列補題を用いれば、SkとΨ2を用いて、式(54)のように表される。ここに、Ψ2は、Φk+2のk+1、k+2行目の成分を取り出して構成される行列の転置行列として定義される行列を表す。
【0119】
【0120】
trace(Sk+2)は、式(55)のように表すことができる。
【0121】
【0122】
ここに、trace(Sk)は定数であり、Ψ2に依存する項は式(55)の第2項だけである。すなわち、trace(Sk+2)を最小化するΨ2は、式(56)を最大化するΨ2と同じである。
【0123】
【0124】
第3の実施形態と同様、流量制約と、開度操作量の上下限制約とを考慮して、式(57)で表される最適化問題を設定する。
【0125】
【0126】
第4の実施形態では、式(57)で表される最適化問題を求解することにより、k+1回目、k+2回目の2回分のu2,set
(k+1)、u2,set
(k+2)が得られるが、ここで求められたu2,set
(k+2)は実際には使用しない。k+1回目終了時点で、式(57)で表される最適化問題を再度求解することにより、u2,set
(k+2)、u2,set
(k+3)があらためて得られるので、このとき得られたu2,set
(k+2)を使用する。
【0127】
式(57)で表される最適化問題は、第3の実施形態の式(36)で表される最適化問題と同様、必ずしも凸最適化問題ではないが、内点法等の非線形最適化アルゴリズムにより極値を求めることは容易である。なお、収束性能を高めるために、これらの最適化アルゴリズムに目的関数の勾配を与えてもよく、その場合、式(58)のように、f(Ψ2)のΨ2に関する勾配式を利用すればよい。
本実施形態では、繰り返し計算における複数回の関連性を反映させて、内層ストッパー12の一定開度u2,setを最適化計算により求めることができる。
【0128】
【0129】
[実施例2]
表1及び
図6に、表層流量特性乗法誤差Δ
1及び内層流量特性乗法誤差Δ
2を同定した結果を示す。
図6は、比較法、及び提案手法1、2における流量特性乗法誤差のばらつき(真値との誤差σ)を示す。
シミュレーションにおいては、試験連鋳機のような小スループットのスラブ連鋳機を対象とし、鋳型幅W=800mm、鋳型厚D=100mm、鋳造速度V
c=0.7m/mとした。
シミュレーション上、表層流量特性乗法誤差Δ
1=0.75、内層流量特性乗法誤差Δ
2=1.25に設定した。
流量計算値は、真の流量から5%程度のノイズを重畳させた。
内層ストッパー12の一定開度を2mm、7mm、12mmと段階的に変化させた場合(比較法)と、1回目の一定開度を2mmとした上で、2回目、3回目の一定開度を第3の実施形態による提案手法1、第4の実施形態による提案手法2により決定した場合とで結果を比較した。
1000回モンテカルロシミュレーションを行い、流量特性乗法誤差の平均値とばらつきを評価した。
【0130】
表1及び
図6に示すように、比較法では2回目終了時点でΔ
1、Δ
2のばらつきが大きいが、3回目終了時点では比較的精度の良い解が得られている。
一方、提案手法1、2では、いずれも2回目終了時点でΔ
1、Δ
2のばらつきが小さく、精度の良い解が得られており、3回目終了時点の解とほぼ同等の推定精度が得られている。
提案手法1と比較し、複数区間の同時最適化を行う提案手法2ではさらにばらつきの小さい解が得られている。
【0131】
【0132】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
また、本発明は、本発明の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、このシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
【符号の説明】
【0133】
1:表層ノズル、2:内層ノズル、3:タンディッシュ、4:鋳型、7:境界、8:湯面、10:湯面レベル計、11表層ストッパー、12:内層ストッパー、100:コントローラ、101:制御部、102:開度変更部、102a:最適化問題設定部、102b:最適化問題求解部、103:流量計算値演算部、104:収支式作成部、105:求解部