(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】浸漬ノズルの予熱方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/10 20060101AFI20230301BHJP
C04B 35/14 20060101ALI20230301BHJP
C04B 35/109 20060101ALI20230301BHJP
C04B 35/484 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B22D11/10 320A
B22D11/10 330S
C04B35/14
C04B35/109
C04B35/484
(21)【出願番号】P 2019077966
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】星野 純
(72)【発明者】
【氏名】山内 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】篠原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆雄
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-326111(JP,A)
【文献】特開昭62-252364(JP,A)
【文献】特開平07-150212(JP,A)
【文献】特開2006-297476(JP,A)
【文献】特開2007-136521(JP,A)
【文献】特開2009-233729(JP,A)
【文献】特開2006-205191(JP,A)
【文献】特開平09-122901(JP,A)
【文献】特開2011-252226(JP,A)
【文献】特開2002-348153(JP,A)
【文献】特開昭61-113732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
C04B 2/00-32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の連続鋳造で使用される浸漬ノズルを、連続鋳造での使用前に予熱する予熱方法であって、
前記浸漬ノズルは、連続鋳造時に溶融金属が流れる内孔の側面を形成する耐火物からなる内層と、前記内層とは組成または配合が異なる耐火物からなり前記内層の外周側を覆う外層と、前記内孔の側面を被覆する被覆層とを有し、
前記内層は、シリカ、ジルコニアクリンカー、ZrO
2
-CaO原料から選択される1~3種と、フリーカーボンとを含む耐火物で形成され、
前記被覆層は、シリカを含む酸化防止材からなり、
電磁誘導加熱によって、前記浸漬ノズル全体が900℃超~1300℃に到達するまで80分以内で加熱することを特徴とする、浸漬ノズルの予熱方法。
【請求項2】
前記浸漬ノズルを外面側から加熱する外コイルと、内孔側から加熱する内コイルとを用いて加熱することを特徴とする、請求項1に記載の浸漬ノズルの予熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の連続鋳造において使用される浸漬ノズルの予熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼などの金属において、溶融金属を連続的に冷却凝固させて所定形状の鋳片を形成する連続鋳造方法が知られている。連続鋳造方法では、浸漬ノズルを介してタンディッシュからモールド内に溶融金属が注入される。
【0003】
浸漬ノズルは、タンディッシュの底部に取り付けられ、タンディッシュ内の溶融金属をノズル下部の吐出孔よりモールド内に吐出するように構成されている。この浸漬ノズルは、下端部をモールド内の溶融金属中に浸漬させた状態で使用されることにより、注入溶融金属の飛散を防止すると共に、注入溶融金属の大気との接触を防止して酸化を抑制している。また、浸漬ノズルは、整流化した状態で注入可能であるため、溶融金属中に浮遊するスラグや非金属介在物などの不純物が溶融金属中に巻き込まれることを防止し、鋳片の品質を改善するとともに操業の安定性を確保することができる。浸漬ノズルは、溶融金属に対する耐食性に優れた耐火物により形成されている。
【0004】
鋳造工程では、浸漬ノズルの温度が低い場合、溶融金属の注入を開始する鋳造初期に浸漬ノズルの割れや閉塞が起こり、溶融金属の流れが乱れてスラグが十分に浮上せずに鋳片の品質が低下してしまう等の不具合が発生することがある。これに対し、連続鋳造での使用前に浸漬ノズルを予熱しておくことで、溶融金属の注入を開始した際に浸漬ノズルに生じる温度差を減少させて、不具合の発生を防止することが考えられる。
【0005】
浸漬ノズルの予熱法として、従来、例えばバーナーによって燃焼ガスを吹き付ける方法が実施されている。ところが、ガスを用いて予熱する場合、浸漬ノズル全体を均等に加熱することが困難であり、浸漬ノズルの部位によって予熱温度のばらつきが発生し、その温度差に伴う熱膨張差に起因して応力割れなどが発生することがある。
【0006】
また、バーナーによる予熱の場合、所望する温度に加熱するまでに長時間、例えば2~3時間を要するという問題がある。加熱時間が長くなると、浸漬ノズルに内張りされている耐火物のCaO等を含む難付着性材質が、浸漬ノズルの内孔を被覆している酸化防止材と反応して難付着性材質中の成分が酸化防止材中に拡散する。その状態で、鋳造時に高温の溶融金属が内孔を通過すると、難付着特性をもつ成分が酸化防止材とともに溶融して流れ出てしまう。浸漬ノズルから難付着特性を発揮する成分が流れ出ると、浸漬ノズルの内孔に高融点化合物(Al2O3)が付着しやすくなり、ノズル詰まりが起こる。
【0007】
そこで、浸漬ノズルを、均等に且つ短時間で所望する温度まで予熱できる方法として、例えば特許文献1に、高周波誘導加熱方法を採用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1には、高周波誘導加熱方法によれば0.5~2時間程度の加熱時間でノズル本体の温度が1100℃以上に達することが記載されているものの、具体的な加熱時間や加熱温度が規定されていない。単純に浸漬ノズルを高周波誘導加熱で予熱するだけでは、難付着特性を発揮する成分が酸化防止材中に拡散し鋳造時に流れ出すという問題は解決されない。
【0010】
そこで、本発明は、金属の連続鋳造で用いられる浸漬ノズルにおいて、難付着特性を発揮する成分の酸化防止材への拡散を抑えることができる予熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、本発明は、溶融金属の連続鋳造で使用される浸漬ノズルを、連続鋳造での使用前に予熱する予熱方法であって、前記浸漬ノズルは、連続鋳造時に溶融金属が流れる内孔の側面を形成する耐火物からなる内層と、前記内層とは組成または配合が異なる耐火物からなり前記内層の外周側を覆う外層と、前記内孔の側面を被覆する被覆層とを有し、前記内層は、シリカ、ジルコニアクリンカー、ZrO2-CaO原料から選択される1~3種と、フリーカーボンとを含む耐火物で形成され、前記被覆層は、シリカを含む酸化防止材からなり、電磁誘導加熱によって、前記浸漬ノズル全体が900℃超~1300℃に到達するまで80分以内で加熱することを特徴とする、浸漬ノズルの予熱方法を提供する。
【0012】
前記浸漬ノズルを外面側から加熱する外コイルと、内孔側から加熱する内コイルとを用いて加熱してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電磁誘導加熱方式により、浸漬ノズルの予熱時間および到達温度を適切に制御することにより、ノズルに内張りされている難付着性材質と酸化防止材との反応を抑え、鋳造時に難付着特性を発揮する成分が流れ出るのを抑制して、ノズル詰まりを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の実施の形態にかかる誘導加熱装置に浸漬ノズルを設置した状態を示す断面図である。
【
図4】浸漬ノズルの予熱時間と予熱温度による、難付着特性を発揮する成分と酸化防止材との反応の有無を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
図1は、浸漬ノズルが用いられる連続鋳造機の一例として、鋼の連続鋳造機の構成の概略を示す。連続鋳造機1は、溶鋼10を連続的に冷却凝固させて、所定形状の鋼塊を形成するものである。連続鋳造機1は、取鍋2と、ロングノズル3と、タンディッシュ4と、複数の浸漬ノズル5と、複数のモールド6とを備えている。なお、
図1では、浸漬ノズル5およびモールド6をそれぞれ1つずつのみ図示している。
【0018】
取鍋2は、連続鋳造において最初に溶鋼10が収容される耐熱容器であり、底面には注入口11が設けられている。ロングノズル3は、取鍋2の注入口11に取り付けられ、取鍋2内部に収容された溶鋼10を下端の開口部12からタンディッシュ4内に吐出するように構成されている。
【0019】
タンディッシュ4は、ロングノズル3の下方に配置され、取鍋2からロングノズル3を介して注入された溶鋼10を収容する耐熱容器である。タンディッシュ4の底面には、各モールド6に対応して複数の注入口13が形成されており、この注入口13の内部には、注入口13から流出する溶鋼10の流量を調整する流量調整機(図示省略)が設けられている。このようなタンディッシュ4により、取鍋2からの溶鋼10が整流化され、溶鋼10が各モールド6に所定量ずつ分配されるようになっている。
【0020】
浸漬ノズル5は、タンディッシュ4の注入口13に取り付けられ、浸漬ノズル5を介してタンディッシュ4内の溶鋼10がモールド6に注入される。浸漬ノズル5は、ノズル本体21と、注入口13の下部に取り付けられてノズル本体21の上端部を保持するホルダー22とを備えている。ノズル本体21は、略円筒状に形成されて、下端近傍に吐出孔23が設けられている。吐出孔23は、例えばノズル本体21の下端を閉塞して下端近傍の側面に2箇所あるいは4箇所程度設けられたり、ノズル本体の下端に設けられたりすることがあり、本発明ではその形態は問わない。このようなノズル本体21により、浸漬ノズル5の上端開口から流入した溶鋼10が、吐出孔23を介してモールド6内へと吐出されるようになっている。浸漬ノズル5の具体的な構成は後述する。浸漬ノズル5は、下端側がモールド6内の溶鋼10に浸漬された状態で使用される。
【0021】
モールド6は、浸漬ノズル5の下方に設けられた水冷式の鋳型である。モールド6内は所定の断面形状を有し、このモールド6内に、浸漬ノズル5を介してタンディッシュ4からの溶鋼10が連続的に注入される。そして、モールド6内の溶鋼10が冷却され、モールド6内の内周面側から凝固シェルが形成、成長して、凝固した鋼が形成される。さらに、モールド6の下方には、モールド6内で形成された鋼をモールド6の下方開口部から連続的に引き抜く図示しないローラーや、連続して延びた鋼を所定の長さに切断する切断機等が設けられている。このようにして、例えば板状や棒状等、所定形状の鋼塊が形成される。
【0022】
以上のような連続鋳造機1で用いられる浸漬ノズル5は、上述したように、溶鋼10の注入を開始した際に生じる温度差を減少させるために、予熱してから使用される。次に、浸漬ノズル5を予熱する加熱装置の例について、
図2に基づいて説明する。
図2は、加熱装置に浸漬ノズル5を設置した状態を示す断面図である。
【0023】
図2に示すように、浸漬ノズル5を高周波誘導加熱により加熱する加熱装置7は、耐熱容器31、外コイル32、内コイル33、および、誘導電流印加装置9を備えている。また、外コイル32および内コイル33のそれぞれのコイル内部には、図示しない配管を介して冷却のための水が供給される。
【0024】
外コイル32は、浸漬ノズル5の外周に配置されて浸漬ノズル5の外周部から加熱する誘導加熱コイルである。外コイル32は耐熱容器31の内部に収容され、外コイル32の内側に、浸漬ノズル5のノズル本体21の下端部から側方が収容される。 内コイル33は、浸漬ノズル5の内孔24に挿入されて浸漬ノズル5の内周部から加熱する誘導加熱コイルであり、ノズル本体21の上部開口より内孔24に挿入可能に構成される。外コイル32および内コイル33にはそれぞれ、誘導電流印加装置9から高周波の誘導電流が印加される。
【0025】
内コイル33には、通常、スパークを防止するために、コイル間に絶縁板34が配置されている。内コイル33の破損や絶縁板34の脱落を防止するために、内コイル33の周囲に不定形または成形品による保護耐火物を取り付けてもよい。
【0026】
浸漬ノズル5を予熱する際には、
図2に示すように外コイル32が収容された耐熱容器31の外コイル32の内側に浸漬ノズル5を設置し、内コイル33を浸漬ノズル5の内孔24の適宜位置まで挿入する。
【0027】
図3は、
図2のA部の拡大図であり、浸漬ノズル5の断面を詳細に示すものである。浸漬ノズル5は、溶融金属が流れる内孔24の側面241を形成する耐火物からなる内層211と、内層211とは組成または配合が異なる耐火物からなり211内層の外周側を覆う外層212と、側面241を被覆する被覆層213とを有する。内層211は、例えば、シリカ、ジルコニアクリンカー、ZrO
2-CaO原料、ドロマイトクリンカー、マグネシアクリンカーから選択される1~3種と、フリーカーボンとを含む耐火物で形成される。通常、浸漬ノズル5は、内外で曝される環境が異なるため、内層211と外層212とは、それぞれ異なる材質の耐火物が使われる。被覆層213は、シリカを含む酸化防止材からなり、溶融金属が流れる内孔24の側面241全体に被覆される。なお、本発明に適用される浸漬ノズル5の材質は上記のものに限らず、内層211がCaOを含む耐火材からなるものであれば、同様に適用される。
【0028】
このような浸漬ノズル5が加熱装置7に取り付けられた後、高周波の誘導電流が印加され、外コイル32および内コイル33によって、高周波誘導加熱方式で、浸漬ノズル全体が900℃超~1300℃に到達するまで、80分以内で予熱する。このとき、浸漬ノズル全体が900℃超~1300℃の範囲に到達していることを確認するために、事前に5~9点の熱電対を浸漬ノズル全体に埋設させた上で予熱、及び測温を行い、予熱出力、及び時間を規定することが必要とされる。
【0029】
予熱温度が不十分であると、鋳造初期に、浸漬ノズル5の内孔24に地金が付着することによるノズル詰まりが起こりやすい。さらに、急激な熱膨張による応力割れが発生することもある。そのため、鋳造時の使用下限温度を900℃とし、予熱温度の下限を900℃超とする。また、予熱温度が高すぎると、内層211の難付着性材質と酸化防止材(被覆層213)との反応が起こりやすくなり、難付着特性を発揮する成分が酸化防止材に拡散するため、予熱温度の上限を1300℃とする。
【0030】
予熱時間は、80分を超えると、内層211の難付着性材質と酸化防止材(被覆層213)との反応が進行するため、上限を80分とする。40分程度がさらに好ましい。予熱時間の下限は特に限定しないが、急速な温度上昇によって浸漬ノズル5の耐火物が破損しない程度の加熱速度とする必要があり、加熱速度を16℃/分~37℃/分程度とすることがさらに好ましい。
【0031】
本発明は、浸漬ノズル5を高周波誘導加熱することにより、短時間で高温且つ均等な加熱が可能であるため、ガスによる予熱に比べて、鋳造初期の浸漬ノズル5の内孔24の地金付着が低減する。そして、高周波誘導加熱方式とすることにより、昇温速度や到達温度のコントロールが可能となり、CaOを含有する難付着性材質と酸化防止材との反応を抑制し、難付着特性を損なうことなく予熱することが可能となる。それにより、難付着特性を発揮する成分が酸化防止材に拡散する前に鋳造を開始することができ、鋳造時のノズルの閉塞を抑制することができる。したがって、従来、浸漬ノズル5の閉塞対策として実施していた酸素洗浄作業を省略できる。また、鋳造歩留が向上し、鋳片の品質向上も図ることができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0033】
予熱時間および予熱温度による、難付着性材質と酸化防止材との反応の有無を調べた。予熱時間は40分、80分、90分の三通り、予熱温度は1100℃~1400℃の間として予熱を行った。結果を
図4に示す。なお、予熱時間のうち、昇温時間は40分であり、全ての例で、40分で
図4中の温度に到達させ、予熱時間が40分を超えるものは、その後保温した。保温は、実操業においては必ずしも予熱開始後40分で鋳造を開始出来るとは限らないため、実操業時の作業性を想定して行った。
【0034】
図4において、難付着性材質と酸化防止材との反応が無い場合は○、反応が有る場合は×で示している。
図4のハッチング部分で示す範囲の、予熱時間が80分以下、予熱温度が1100℃~1300℃の場合には、反応が見られなかった。すなわち、本発明の範囲で予熱することで、難付着性材質と酸化防止材との反応を抑えられる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、溶融金属の連続鋳造で使用される浸漬ノズルを予熱する方法に適用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 連続鋳造機
2 取鍋
3 ロングノズル
4 タンディッシュ
5 浸漬ノズル
6 モールド
7 加熱装置
8 保護耐火物
9 誘導電流印加装置
10 溶鋼
11、13 注入口
12 開口部
21 ノズル本体
22 ホルダー
23 吐出孔
24 内孔
31 耐熱容器
32 外コイル
33 内コイル
34 絶縁板
211 内層
212 外層
213 被覆層
241 側面