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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】自動変速装置の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20230301BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20230301BHJP
   F16H 59/24 20060101ALI20230301BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20230301BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
F16H61/04
F16H61/02
F16H59/24
F16H59/74
F16H61/68
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019093165
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020186795
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】服部 太
(72)【発明者】
【氏名】青木 賢司
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-041316(JP,A)
【文献】特開2018-017258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の結合対象と第2の結合対象とを摩擦力によって結合した結合状態と前記第1の結合対象と前記第2の結合対象とを遮断した遮断状態とに油圧に応じて変化する複数の摩擦結合部を有し、前記複数の摩擦結合部の前記結合状態および前記遮断状態の組み合わせに応じた複数の変速段を構成する変速機と、前記油圧を制御する油圧制御装置と、を備えた自動変速装置の変速制御装置であって、
前記変速段の変更を判断する判断部と、
前記油圧の目標値を設定し当該目標値を前記油圧制御装置に出力する出力部と、
を備え、
前記出力部は、前記判断部がある前記変速段から他の前記変速段への変更をすると判断した場合に、前記ある変速段において前記遮断状態の前記摩擦結合部である第1の前記摩擦結合部に対する前記目標値を第1の値に増大した後に、当該目標値を前記第1の値よりも小さい第2の値に減少し、当該目標値を前記第2の値に減少した後に、当該目標値を前記第2の値よりも大きい第3の値に増大し、前記目標値を第3の値に増大した後に、当該目標値を前記第3の値よりも小さい第4の値にし、当該目標値を前記第4の値にした後に、前記第4の値以上であって前記摩擦力を発生させる第5の値にし、
前記出力部は、前記第4の値を、前記変速機への入力トルクの大きさに応じて設定し、前記目標値が前記第2の値に設定されている間に、当該目標値を前記第3の値に変更するかを判断する、自動変速装置の変速制御装置。
【請求項2】
前記変速機に動力を出力するエンジンのアクセル部材の操作量を表すアクセル開度を取得する取得部を備え、
前記出力部は、前記取得部が取得した前記アクセル開度が閾値以上の場合に、前記目標値が前記第2の値に設定されている間に当該目標値を前記第3の値に変更するかを判断する、請求項に記載の自動変速装置の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、自動変速装置の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作用する油圧によって結合状態と遮断状態とに変化する複数の摩擦結合部を有し、複数の摩擦結合部の結合状態および遮断状態の組み合わせに応じた複数の変速段を構成する変速機、に対する変速制御を行なう変速制御装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-316845号公報
【文献】特開2008-111541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、変速段の変更において変速ショックが発生した場合、変速ショックの発生要因の特定が難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の自動変速機の変速制御装置は、例えば、第1の結合対象と第2の結合対象とを摩擦力によって結合した結合状態と前記第1の結合対象と前記第2の結合対象とを遮断した遮断状態とに油圧に応じて変化する複数の摩擦結合部を有し、前記複数の摩擦結合部の前記結合状態および前記遮断状態の組み合わせに応じた複数の変速段を構成する変速機と、前記油圧を制御する油圧制御装置と、を備えた自動変速装置の変速制御装置であって、前記変速段の変更を判断する判断部と、前記油圧の目標値を設定し当該目標値を前記油圧制御装置に出力する出力部と、を備え、前記出力部は、前記判断部がある前記変速段から他の前記変速段への変更をすると判断した場合に、前記ある変速段において前記遮断状態の前記摩擦結合部である第1の前記摩擦結合部に対する前記目標値を第1の値に増大した後に、当該目標値を前記第1の値よりも小さい第2の値に減少し、当該目標値を前記第2の値に減少した後に、当該目標値を前記第2の値よりも大きい第3の値に増大し、前記目標値を第3の値に増大した後に、当該目標値を前記第3の値よりも小さい第4の値にし、当該目標値を前記第4の値にした後に、前記第4の値以上であって前記摩擦力を発生させる第5の値にし、前記出力部は、前記第4の値を、前記変速機への入力トルクの大きさに応じて設定する。
【0006】
よって、前記変速制御装置によれば、例えば、第5の値の設定が変速機へのエンジンからの入力トルクに応じて変化しても、第2の値を一定にすることができる。よって、変速ショックの要因を特定しやすい。
【0007】
また、前記前記変速制御装置では、例えば、前記出力部は、前記目標値が前記第2の値に設定されている間に、当該目標値を前記第3の値に変更するかを判断する。
【0008】
よって、前記変速制御装置によれば、例えば、イナーシャ相開始時の、変速機に接続されるエンジンの回転数を、目標のエンジンの回転数に合わせやすい(近づけやすい)。
【0009】
また、前記変速制御装置は、例えば、前記変速機に動力を出力するエンジンのアクセル部材の操作量を表すアクセル開度を取得する取得部を備え、前記出力部は、前記取得部が取得した前記アクセル開度が閾値以上の場合に、前記目標値が前記第2の値に設定されている間に当該目標値を前記第3の値に変更するかを判断する。
【0010】
よって、前記変速制御装置によれば、例えば、アクセル開度が閾値以上の場合に、イナーシャ相開始時の、変速機に接続されるエンジンの回転数を、目標のエンジンの回転数に合わせやすい(近づけやすい)。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態の車両の構成の例示的な図である。
図2図2は、実施形態の変速機の例示的なスケルトン図である。
図3図3は、実施形態の変速機の各変速段における各摩擦結合部の作動状態の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態の変速機の摩擦結合部の構成を例示的かつ模式的に示した図である。
図5図5は、実施形態の変速制御装置の構成の例示的なブロック図である。
図6図6は、実施形態の変速制御装置における変速線の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する変速処理の一例のタイミングチャートである。
図8図8は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する変速処理における指示油圧と実際の油圧との一例を示すタイミングチャートである。
図9図9は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する変速処理における入力トルクに応じた指示油圧と実際の油圧との一例を示すタイミングチャートである。
図10図10は、ピンチャージ制御後の結合側指示油圧とサーボ起動時間との関係を示す図である。
図11図11は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する変速処理における指示油圧とエンジンおよびタービンランナの回転数との一例を示すタイミングチャートである。
図12図12は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する変速処理の一部の一例を示すフローチャートである。
図13図13は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出処理、を示すフローチャートである。
図14図14は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行するイナーシャ相開始時間の学習処理を示すフローチャートである。
図15図15は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する結合側の摩擦結合部の油圧制御処理を示すフローチャートである。
図16図16は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する解放側の摩擦結合部の油圧制御処理を示すフローチャートである。
図17図17は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する図11の処理と比較例の処理とを示すタイミングチャートであって、変速制御中にエンジンの回転数の変化率が低下した場合の図である。
図18図18は、実施形態の変速制御装置の変速処理部が実行する図11の処理と比較例の処理とのタイミングチャートであって、変速制御中にエンジンの回転数の変化率が増加した場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成および当該構成によってもたらされる作用および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0013】
<全体構成>
図1は、実施形態の車両100の構成の例示的な図である。図1に示されるように、車両100は、駆動系構成として、エンジン1と、変速機2と、差動機構3と、車輪4,5と、を備えている。エンジン1から出力された動力は、変速機2および差動機構3を介して車輪4,5に伝達される。なお、実施形態では、車両100は、駆動源としてエンジン1のみを備えた例が示されているが、これに限定されない。例えば、車両100は、動力源としてエンジン1とモータとを備えたハイブリッド車であってもよいし、駆動源としてモータのみを備えた電気自動車であってもよい。
【0014】
車両100は、制御系構成として、エンジン制御装置6と、変速制御装置7と、油圧制御装置8と、を備えている。エンジン制御装置6は、エンジン1と通信可能に接続され、エンジン1を制御する。変速制御装置7は、油圧制御装置8と通信可能に接続され、油圧制御装置8を制御する。油圧制御装置8は、変速制御装置7の制御に応じて、変速機2における油の圧力である油圧を制御する。すなわち、変速制御装置7は、油圧制御装置8を制御することにより、変速機2を制御する。変速機2、変速制御装置7、および油圧制御装置8は、自動変速装置101を構成している。油は、作動油とも称される。
【0015】
車両100は、検出系構成として、アクセル開度センサ11と、車速センサ12と、シフトポジションセンサ13と、エンジン回転センサ14と、入力回転センサ15と、出力回転センサ16と、を備えている。
【0016】
<各構成>
エンジン1は、シリンダー内で燃料を爆発燃焼させ、その熱エネルギによって回転動力(トルク)を発生する内燃機関である。エンジン1は、変速機2に連結された出力シャフト1aを有しており、出力シャフト1aから出力された回転動力は、変速機2に入力される。
【0017】
変速機2は、エンジン1と差動機構3との間の動力伝達経路上に設けられている。変速機2は、エンジン1の回転を減速して差動機構3に伝達することができる。
【0018】
図2は、実施形態の変速機2の例示的なスケルトン図である。図2に示されるように、変速機2は、トルクコンバータ20と、変速機構21と、ケース22と、を備えている。トルクコンバータ20および変速機構21は、ケース22に収容されている。ケース22は、車両100の車体(不図示)に支持されている。
【0019】
トルクコンバータ20は、エンジン1の出力シャフト1aと変速機構21の入力シャフト2aとの間の動力伝達経路上に設けられている。トルクコンバータ20は、流体の力学的作用を利用して、トルクの増幅作用を発生させる。トルクコンバータ20は、流体伝動装置とも称される。
【0020】
トルクコンバータ20は、ポンプインペラ24と、タービンランナ25と、ステータ26と、ワンウェイクラッチ27と、ロックアップクラッチ28と、を有している。
【0021】
ポンプインペラ24は、エンジン1の出力シャフト1aと一体に回転する。ポンプインペラ24は、回転することによりタービンランナ25に向けて油を送り出す。
【0022】
タービンランナ25は、変速機構21の入力シャフト2aと一体に回転する。また、タービンランナ25は、ポンプインペラ24と相対的に回転可能である。タービンランナ25は、ポンプインペラ24から送り出された油を受けて回転する。また、タービンランナ25は、ロックアップクラッチ28が結合状態となることによりポンプインペラ24と一体に回転する。
【0023】
ステータ26は、タービンランナ25から送り出された油を整流してポンプインペラ24に還流することにより、トルク増幅作用を発生させる。ステータ26は、ワンウェイクラッチ27を介してケース22に固定されている。ステータ26は、ワンウェイクラッチ27によって一方向の回転のみが許容されている。
【0024】
ロックアップクラッチ28は、ポンプインペラ24とタービンランナ25とを結合させる結合状態と、ポンプインペラ24とタービンランナ25とを遮断する遮断状態とに、油圧制御装置8によって制御される油圧に応じて変化する。ロックアップクラッチ28が結合状態の場合には、エンジン1の出力シャフト1aと変速機構21の入力シャフト2aとの回転速度差が無くなる。ロックアップクラッチ28は、結合状態で、出力シャフト1aの回転を変速機構21の入力シャフト2aに伝達する。
【0025】
トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ28が遮断状態の場合に、出力シャフト1aからトルクが入力されるポンプインペラ24と、入力シャフト2aにトルクを出力するタービンランナ25との回転差によりトルクの増幅作用を発生させる。
【0026】
変速機構21は、複数の動力伝達経路に応じた複数の変速段を構成する。変速機構21は、動力伝達経路を切り替えることにより、変速段を切り替える。変速機構21は、動力伝達経路を構成する部材として、入力シャフト2aと、複数の遊星ギヤG1~G3と、複数の摩擦結合部C1~C3,B1,B2と、出力シャフト2bと、を備えている。
【0027】
遊星ギヤG1は、サンギヤS1と、リングギヤR1と、ダブルピニオンギヤP1と、キャリアCa1と、を有している。サンギヤS1は、入力シャフト2aと一体に回転する。リングギヤR1は、サンギヤS1の外周側に位置し、摩擦結合部C3に接続されている。ダブルピニオンギヤP1は、サンギヤS1とリングギヤR1との間に介在している。キャリアCa1は、ダブルピニオンギヤP1を回転可能に支持するとともに、ケース22に固定されている。
【0028】
遊星ギヤG2は、サンギヤS2と、リングギヤR2と、ピニオンギヤP2と、キャリアCa2と、を有している。サンギヤS2は、摩擦結合部C1と接続されている。リングギヤR2は、サンギヤS2の外周側に位置し、摩擦結合部C3および摩擦結合部B1と接続されている。ピニオンギヤP2は、サンギヤS2とリングギヤR2との間に介在している。キャリアCa2は、ピニオンギヤP2を回転可能に支持し、摩擦結合部C2および摩擦結合部B2と接続されている。
【0029】
遊星ギヤG3は、サンギヤS3と、リングギヤR3と、ピニオンギヤP3と、キャリアCa3と、を有している。サンギヤS3は、摩擦結合部C1と接続されている。リングギヤR3は、サンギヤS3の外周側に位置し、摩擦結合部B2と接続されている。また、リングギヤR3は、遊星ギヤG2のキャリアCa2と接続され、当該キャリアCa2と一体に回転する。ピニオンギヤP3は、サンギヤS3とリングギヤR3との間に介在している。キャリアCa3は、ピニオンギヤP3を回転可能に支持する。また、キャリアCa3は、出力シャフト2bと接続され、出力シャフト2bと一体に回転する。
【0030】
摩擦結合部C1~C3,B1,B2は、変速機構21の二つの結合対象を摩擦力によって結合した結合状態と、当該二つの結合対象を遮断した遮断状態と、を切り替えることができる。結合状態は、二つの結合対象を摩擦力によって接続した接続状態でもあり、遮断状態は、二つの結合対象を分離した分離状態でもある。遮断状態は、解放状態とも称される。また、摩擦結合部C1~C3は、クラッチと称され、二つの結合対象として二つの回転要素の結合および遮断を切り替える。摩擦結合部B1,B2は、ブレーキと称され、二つの結合対象として回転要素と固定要素との結合および遮断を切り替える。図2の例では、入力シャフト2aおよび遊星ギヤG1~G3の構成要素が、摩擦結合部C1~C3,B1,B2による結合および遮断の対象となる回転要素の一例である。また、ケース22が、摩擦結合部B1,B2による結合および遮断の対象となる固定要素の一例である。
【0031】
具体的に、図2の例では、摩擦結合部C1は、入力シャフト2aおよび遊星ギヤG1のサンギヤS1と、遊星ギヤG2および遊星ギヤG3のサンギヤS2,S3との、結合および遮断を切り替える。摩擦結合部C2は、入力シャフト2aおよび遊星ギヤG1のサンギヤS1と、遊星ギヤG2のキャリアCa2および遊星ギヤG3のリングギヤR3との、結合および遮断を切り替える。摩擦結合部C3は、遊星ギヤG1のリングギヤR1と遊星ギヤG2のリングギヤR2との、結合および遮断を切り替える。摩擦結合部B1は、遊星ギヤG2のリングギヤR2とケース22との、結合および遮断を切り替える。また、摩擦結合部B2は、遊星ギヤG2のキャリアCa2および遊星ギヤG3のリングギヤR3と、ケース22との、結合および遮断を切り替える。
【0032】
図3は、実施形態の変速機2の各変速段における複数の摩擦結合部C1~C3,B1,B2の作動状態の一例を示す図である。変速機構21は、互いに変速比(変速比=入力シャフト2aの回転数/出力シャフト2bの回転数)が異なる複数の変速段を構成する。具体的には、変速機構21は、前進1速~6速および後進の変速段を構成する。換言すると、変速機構21は、前進6段、後進1段の変速段を構成する。前進1速から前進6速の順で変速段の変速比が小さくなる。これらの変速段は、摩擦結合部C1~C3,B1,B2の結合状態と遮断状態との組み合わせによって切り替えられる。図2では、前進1速~6速の変速段が「1速」~「6速」、後進の変速段が「R」、摩擦結合部C1~C3,B1,B2が「C1」~「C3」,「B1」,「B2」で示されている。図2には、前進1速~6速および後進の各変速段に対応した横行で、○印が付与された摩擦結合部C1~C3,B1,B2が結合状態、無印の摩擦結合部C1~C3,B1,B2が遮断状態である。
【0033】
1速の変速段では、摩擦結合部C1,B2が結合状態で、摩擦結合部C2,C3,B1が遮断状態である。2速の変速段では、摩擦結合部C1,B1が結合状態で、摩擦結合部C2,C3,B2が遮断状態である。3速の変速段では、摩擦結合部C1,C3が結合状態であり、摩擦結合部C2,B1,B2が遮断状態である。4速の変速段では、摩擦結合部C1,C2が結合状態であり、摩擦結合部C3,B1,B2が遮断状態である。5速の変速段では、摩擦結合部C2,C3が結合状態であり、摩擦結合部C1,B1,B2が遮断状態である。6速の変速段では、摩擦結合部C2,B1が結合状態であり、摩擦結合部C1,C3,B2が遮断状態である。後進の変速段では、摩擦結合部C3,B2が結合状態であり、摩擦結合部C1,C2,B1が遮断状態である。
【0034】
変速機2は、摩擦結合部C1~C3,B1,B2の制御によって回転要素や固定要素が接続される組み合わせを切り替えることにより、変速段を切り替える。具体的に、変速段の切り替えの制御は、変速制御装置7が、油圧制御装置8を介して行なう。以後、摩擦結合部C1~C3,B1,B2の総称として摩擦結合部CBを用いる場合がある。また、変速において、結合状態から遮断状態へ変化する摩擦結合部CBを解放側の摩擦結合部CBと称し、遮断状態から結合状態へ変化する摩擦結合部CBを結合側の摩擦結合部CBと称する。
【0035】
図4は、実施形態の変速機2の摩擦結合部CBの構成を例示的かつ模式的に示した図である。図4に示されるように、摩擦結合部CBは、複数の内側摩擦板31と、複数の外側摩擦板32と、ピストン33と、リターンスプリング34と、を有している。
【0036】
内側摩擦板31は、中心軸を中心とした円環状に形成されている。内側摩擦板31は、変速機2における二つの構成要素のうち一方と相対回転不能に結合されるとともに、当該構成要素の一方に対して中心軸の軸方向に移動可能に設けられている。中心軸の軸方向の内側摩擦板31の移動は、規定の範囲内に制限されている。
【0037】
外側摩擦板32は、中心軸を中心とした円環状に形成されている。外側摩擦板32は、変速機2における二つの構成要素のうち他方と相対回転不能に結合されるとともに、当該構成要素の他方に対して中心軸の軸方向に移動可能に設けられている。中心軸の軸方向の外側摩擦板32の移動は、規定の範囲内に制限されている。
【0038】
複数の内側摩擦板31と複数の外側摩擦板32とは、中心軸の軸方向に交互に位置されている。複数の内側摩擦板31と複数の外側摩擦板32とは、摩擦板群35を構成している。摩擦板群35の軸方向の両端には、例えば、内側摩擦板31が位置されている。
【0039】
ピストン33は、摩擦板群35と軸方向に対向する位置に設けられている。すなわち、ピストン33は、摩擦板群35の軸方向の一端に位置する内側摩擦板31と中心軸の軸方向に対向する。ピストン33は、中心軸の軸方向に移動可能に設けられている。また、ピストン33は、当該ピストンに対して摩擦板群35とは反対側に設けられた油室41と面している。ピストン33は、油室41に供給された油の圧力によって摩擦板群35に向かう方向に押される。ピストン33は、サーボ(油圧サーボ)36を構成している。
【0040】
リターンスプリング34は、ピストン33を中心軸の軸方向に沿った方向であって摩擦板群35から離れる方向に押す。リターンスプリング34は、弾性部材の一例である。
【0041】
このような構成の摩擦結合部CBでは、ピストン33が摩擦板群35と離間した状態から、油室41の油圧によるピストン33を押す力が、リターンスプリング34がピストン33を押す力よりも大きくなると、ピストン33が摩擦板群35に向かう方向に移動し、摩擦板群35の軸方向の一端に位置する内側摩擦板31と接触し、当該内側摩擦板31を押す。これにより、複数の内側摩擦板31と複数の外側摩擦板32とが、隣り合う内側摩擦板31と外側摩擦板32との間に発生する摩擦力によって一体となり、変速機2における二つの結合対象が結合される。一方、ピストン33と摩擦板群35とが接触した状態から、油室41中の油圧によるピストン33を押す力が、リターンスプリング34がピストン33を押す力よりも小さくなると、ピストン33が摩擦板群35から離れる方向に移動し、摩擦板群35の軸方向の一端に位置する内側摩擦板31と離れる。これにより、複数の内側摩擦板31と複数の外側摩擦板32との間に摩擦力が発生せず、変速機2における二つの結合対象が遮断(分離)される。
【0042】
図1に戻って、油圧制御装置8は、変速制御装置7の制御に応じて、油圧ポンプ(不図示)から導入された油の通路(油路)の切り替えおよび油圧の調整をし、油を変速機2における選択された摩擦結合部C1~C3,B1,B2やロックアップクラッチ28に向けて出力する。油圧制御装置8は、油路の切り替えや油圧の調整を行なう複数のソレノイドバルブを有している。例えば、図4に示されるように、油圧制御装置8は、摩擦結合部CBの油室41の油圧を調整するソレノイドバルブ42を有している。ソレノイドバルブ42は、例えば、各摩擦結合部CBのそれぞれに設けられている。ソレノイドバルブ42は、油室41と連通した油路43に設けられている。ソレノイドバルブ42は、例えば、リニアソレノイドバルブである。油圧制御装置8は、変速制御装置7に通信可能に接続されており、変速制御装置7によって制御される。
【0043】
アクセル開度センサ11は、アクセルペダルやアクセルレバー等のアクセル部材(不図示)の操作量に対応するアクセル開度を検出する。車速センサ12は、車両100の速度を検出する。シフトポジションセンサ13は、シフトレバー(不図示)の操作位置(パーキング、ニュートラル、ドライブ、アップシフト、ダウンシフト等)を検出する。エンジン回転センサ14は、エンジン1の回転数、すなわち出力シャフト1aの回転数を検出する。以後、エンジン1の回転数をエンジン回転数とも称する。入力回転センサ15は、変速機2の入力シャフト2a(トルクコンバータ20のタービンランナ25)の回転数を検出する。以後、タービンランナ25の回転数をタービン回転数とも称する。出力回転センサ16は、変速機2の出力シャフト2bの回転数を検出する。これらのセンサ(アクセル開度センサ11、車速センサ12、シフトポジションセンサ13、エンジン回転センサ14、入力回転センサ15、出力回転センサ16)は、変速制御装置7と通信可能に接続されている。
【0044】
エンジン制御装置6および変速制御装置7は、それぞれ、例えばECU(Electric Control Unit)として構成される。ECUは、例えば、MCU(Micro Controller Unit)や、電源回路、ドライバ(コントローラ)、入出力変換回路、入出力保護回路等(いずれも図示されず)を有する。ECUは、回路基板に実装された電子部品(図示されず)で構成される。回路基板は、ケース(図示されず)に収容される。MCUは、CPU(Central Processing Unit)や、主記憶装置(メモリ)、書き換え可能な不揮発性の記憶装置、インタフェース(入出力装置)、通信装置、バス等(いずれも不図示)を有する。主記憶装置は、例えば、ROM(Read Only Memory)や、RAM(Random Access Memory)等を含む。エンジン制御装置6のMCUにおいて、CPUは、主記憶装置等にインストールされたプログラムにしたがって演算処理を実行し、エンジン1の各部を制御する。また、変速制御装置7のMCUにおいて、CPUは、主記憶装置等にインストールされたプログラムにしたがって演算処理を実行し、油圧制御装置8の各部を制御する。
【0045】
図5は、実施形態の変速制御装置7の構成の例示的なブロック図である。図6は、実施形態の変速制御装置7における変速線の一例を示す図である。図5に示されるように、変速制御装置7は、変速処理を実行する変速処理部50を有している。変速処理部50は、取得部51と、判断部52と、出力部53と、を含む。変速処理部50(取得部51、判断部52、出力部53)は、変速制御装置7のCPUが、主記憶装置等にインストールされたプログラムを実行することにより実現される。なお、変速処理部50(取得部51、判断部52、出力部53)をハードウェアで構成してもよい。また、変速制御装置7は、変速処理部50が参照する各種の情報を記憶した記憶部60を有する。記憶部60は、主記憶装置(メモリ)や不揮発性の記憶装置に設けられている。記憶部60は、例えば、図6に示されるアップシフト変速線H1およびダウンシフト変速線H2等を記憶している。以後、アップシフト変速線H1およびダウンシフト変速線H2を総称して変速線Hと称する場合がある。
【0046】
取得部51は、各種の情報を取得する。例えば、取得部51は、アクセル開度センサ11が検出したアクセル開度(以後、実アクセル開度とも称する)をアクセル開度センサ11から取得する。また、取得部51は、車速センサ12が検出した車速(以後、実車速とも称する)を車速センサ12から取得する。また、取得部51は、シフトポジションセンサ13が検出したシフトレバー(不図示)の操作位置をシフトポジションセンサ13から取得する。また、取得部51は、エンジン回転センサ14が検出したエンジン1の回転数をエンジン回転センサ14から取得する。また、取得部51は、入力回転センサ15が検出した変速機2の入力シャフト2a(トルクコンバータ20のタービンランナ25)の回転数を入力回転センサ15から取得する。また、取得部51は、出力回転センサ16が検出した変速機2の出力シャフト2bの回転数を出力回転センサ16から取得する。
【0047】
判断部52は、取得部51が取得した各種の情報に基づいて、変速をするか否かを判断する。判断部52は、シフトポジションセンサ13が検出したシフトレバー(不図示)の位置が手動変速モードの設定位置にある場合には、すなわち、変速モードが手動変速モードに設定されている場合には、シフトポジションセンサ13からの信号に基づいて変速を制御する。
【0048】
また、判断部52は、シフトポジションセンサ13が検出したシフトレバーの位置が自動変速モードの設定位置にある場合には、記憶部60に記憶された変速線H、実アクセル開度、および実車速等に基づいて、変速をするか否かを判断する。例えば、変速処理部50は、ある実アクセル開度における実車速が、アップシフト変速線H1の実アクセル開度に対応する車速以上となった場合に、アップシフトする変速処理を行う。また、変速処理部50は、ある実車速がダウンシフト変速線H2の実アクセル開度に対応する車速以下となった場合にはダウンシフトする変速処理を行う。また、変速処理部50は、実車速がアップシフト変速線H1とダウンシフト変速線H2間の車速である場合には現状の変速段を維持する。
【0049】
出力部53は、判断部52が変速をすると判断した場合、当該変速に応じた指令を油圧制御装置8に出力する。具体的には、出力部53は、摩擦結合部CBに作用させる油圧の目標値、すなわち油室41の油圧の目標値である指示油圧を油圧制御装置8に出力する。
【0050】
図7は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する変速処理の一例のタイミングチャートである。
【0051】
次に、変速制御装置7の変速処理部50が実行する変速処理を図7を参照しながら説明する。一例として、変速段を1速から2速へ変速(シフトアップ)する場合の変速処理について説明する。この場合、摩擦結合部B2が解放側の摩擦結合部CBであり、摩擦結合部B1が結合側の摩擦結合部CBである。結合側の摩擦結合部CBは、第1の摩擦結合部の一例である。図7中の線L1は、結合側の摩擦結合部CBに対する指示油圧(以後、結合側指示油圧とも称する)を示す。図7中の線L2は、解放側の摩擦結合部CBに対する指示油圧(以後、解放側指示油圧とも称する)を示す。図7中の線L3は、タービンランナ25の回転数を示す。図7中の線L4は、エンジントルク指示値を示す。エンジントルク指示値は、エンジン1の目標トルクであり、例えば、変速処理部50がエンジン制御装置6に対して出力する。図7の横軸は、時間経過を示す。図7の縦軸は、解放側指示油圧、結合側指示油圧、タービンランナ25の回転数、およびエンジントルク指示値の大小を示し、図7の上方に向かうにつれそれらの値が大きい。また、図7は、時刻t0にて、判断部52が1速から2速への変速を行なうと判断した例である。
【0052】
判断部52によって1速から2速への変速の判断がされた場合(時刻t0)、出力部53は、制御を開始する。具体的には、判断部52は、解放側指示油圧を段階的に下げる(時刻t0~t8)。出力部53は、解放側指示油圧を、時刻t0~t1の間に漸減し、時刻t1~t4の間は一定に保持し、時刻t4に下げ、時刻t4~t6の間は一定に保持し、時刻t6~t8の間で漸減する。
【0053】
一方、出力部53は、時刻t1から結合側の摩擦結合部CBに対してプリチャージ制御を開始する。具体的には、出力部53は、結合側指示油圧Prを結合側指示油圧Pr1に上げて、当該結合側指示油圧Pr1を時刻t2まで維持する。これにより、図4に示されるように、ピストン33が位置I1から摩擦板群35に向かう方向(図4では右方)へ移動する。結合側指示油圧Pr1は、第1の値の一例である。
【0054】
図7に戻って、次に、出力部53は、結合側の摩擦結合部CBに対して待機圧制御を行なう。具体的には、出力部53は、時刻t2~t3の間に結合側指示油圧Prを、結合側指示油圧Pr1から、結合側指示油圧Pr1よりも小さい結合側指示油圧Pr2に漸減した後に、当該結合側指示油圧Pr2を時刻t4まで維持する(待機圧制御)。結合側指示油圧Pr2は、時間が経過してもピストン33が位置I2以上に摩擦板群35側(図4では右方)へ移動しない油圧である。すなわち、結合側指示油圧Pr2は、結合側の摩擦結合部CBの遮断状態が維持される油圧である。結合側指示油圧Pr2は、待機圧とも称される。これにより、図4に示されるように、時刻t2~t3の間で、ピストン33は位置I2で停止する位置I2は、ピストン33と摩擦板群35とが離間した位置である。
【0055】
次に、出力部53は、結合側の摩擦結合部CBに対してピンチャージ制御を行なう(時刻t4~t5)。具体的には、出力部53は、結合側指示油圧Prを結合側指示油圧Pr3に上げて、当該結合側指示油圧Pr3を時刻t5まで維持する。すなわち、出力部53は、一時的に結合側指示油圧Prを増大する。結合側指示油圧Pr3は、一例として、結合側指示油圧Pr1よりも大きい。ピンチャージ制御の開始時期(時刻t4)は、時刻t3から所定時間後である。なお、結合側指示油圧Pr3は、結合側指示油圧Pr1以下であってもよい。また、時刻t4からt5までの時間(期間)は、時刻t1からt2までの時間(期間)よりも短い。
【0056】
次に、出力部53は、時刻t5~t7の間に結合側指示油圧Prを結合側指示油圧Pr4から結合側指示油圧Pr5に漸増する。結合側指示油圧Pr4は、例えば、摩擦結合部CBの摩擦力を発生させない値である。なお、結合側指示油圧Pr4は、上記に限定されない。結合側指示油圧Pr4は、例えば、摩擦結合部CBの摩擦力を所定期間の間だけ発生させない値であってもよい。この場合には、摩擦結合部CBの摩擦力は所定期間後に発生し得る。すなわち、結合側指示油圧Pr4は、例えば、摩擦結合部CBの摩擦力を少なくとも所定期間発生させない値である。上記所定期間は適宜設定されうる。また、結合側指示油圧Pr5は、例えば、イナーシャ相開始が可能となる油圧である。すなわち、結合側指示油圧Pr4以上であって摩擦結合部CBの摩擦力を発生させる油圧である。出力部53は、時刻t7~t10の間、結合側指示油圧Pr5を維持する。時刻t4~t9の間に、ピストン33が摩擦板群35へ向かう方向への移動を再開する。そして、ピストン33は、摩擦板群35に接触して、摩擦板群35を押圧する。これにより、内側摩擦板31と外側摩擦板32との間に摩擦力が生じる。ここで、ピストン33が摩擦板群35と接触する位置は、ピストンタッチ位置とも称される。ピストン33がピストンタッチ位置からさらに摩擦板群35側へ移動することにより摩擦板群35に作用する押圧力が増大する。そして、ピストン33が摩擦板群35側に移動しきった時点、すなわちピストン33が摩擦板群35側に移動できなくなった時点が、サーボ36の起動時点(再起動時点)である。このとき、油室41の油圧の全てが内側摩擦板31と外側摩擦板32との締結に使われる。また、時刻t7~t10の間の時刻t9は、変速処理部50がイナーシャ相開始を検出した時刻である。すなわち、本例では、トルク相は、時刻t9以前である。次に、出力部53は、時刻t10以降にて、結合側指示油圧Prを漸増する。ここで、エンジントルク指示値(図7中の線L4)は、解放側指示油圧の減圧が完了した時刻t8~t9において、所定のトルクまで下げられる。これにより、イナーシャ相開始が促進され得る。さらに、変速処理部50がイナーシャ相開始を検出した時刻t9において、エンジントルク指示値(図7中の線L4)は、さらに下げられる。これにより、イナーシャ相の進行が促進され得る。
【0057】
以上の制御により、解放側の摩擦結合部CBと結合側の摩擦結合部CBとの状態が、トルク相からイナーシャ相に遷移して、変速が完了する。
【0058】
図8は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する変速処理における指示油圧(結合側指示油圧)と実際の油圧との一例を示すタイミングチャートである。図8中の線L1は、図7と同様に、結合側指示油圧を示し、図8中の線L5は、結合側の摩擦結合部CBに作用する油室41の油圧(以後、実油圧とも称する)を示す。図8中の時刻t23は、サーボ36の起動目標時刻、すなわちピストン33の移動の開始の目標時刻であり、図8中の時刻t22は、サーボ36が実際に起動した時刻、すなわちピストン33が実際に移動を開始した時刻である。実施形態では、結合側指示油圧Pr2(待機圧)に頼らずに、イナーシャ相開始油圧に対するサーボ36の起動性能を確保するために、所定の時刻t21と時刻t24との間の範囲J内にサーボ36が実際に起動するように、結合側指示油圧Pr4(以後、ピンチャージ下圧とも称する)が設定されている。
【0059】
図9は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する変速処理における入力トルクに応じた指示油圧と実際の油圧との一例を示すタイミングチャートである。図9中の線L1a~L1fは、変速機2に対するエンジン1からの入力トルクに応じた結合側指示油圧であり、線L1a~L1fの順にエンジン1からの入力トルクが小さい。図9中の線L5a~L5fは、線L1a~L1fで示される結合側指示油圧に対応する実油圧である。図9に示されるように、実施形態では、出力部53は、変速機2に対するエンジン1からの入力トルクに応じて、結合側指示油圧Pr4(ピンチャージ下圧)を設定する。具体的には、出力部53は、変速機2に対するエンジン1からの入力トルクが大きい程、結合側指示油圧Pr4(ピンチャージ下圧)を大きく設定する。なお、出力部53が行なう変速機2に対するエンジン1からの入力トルクに応じた結合側指示油圧Pr4の設定は、上記に限られない。ここで、結合側指示油圧Pr4は、例えば、線L1b~L1fの場合には、摩擦結合部CBの摩擦力を発生させない値に設定され、線L1aの場合、すなわち結合側指示油圧Pr4と結合側指示油圧Pr5とが同一の場合には、摩擦結合部CBの摩擦力を所定期間の間だけ発生させない値に設定され得る。
【0060】
図10は、実施形態の結合側指示油圧とサーボ起動時間との関係を示す図である。図10の横軸は、結合側指示油圧Pr5であり、図10の縦軸はサーボ36の起動時間である。図9には、第1の例~第5の例のそれぞれのピンチャージ制御後の結合側指示油圧とサーボ起動時間との関係が示されている。第1の例~第5の例は、それぞれ、結合側指示油圧Pr2(待機圧)に対する結合側指示油圧Pr4(ピンチャージ下圧)の倍率が、1.2倍、1.4倍、1.6倍、2.0倍である。また、図9のサーボ起動時間の範囲Jは、目標のサーボ起動時間の範囲である。図9から分かるように、結合側指示油圧Pr5の大きさに応じて、結合側指示油圧Pr2(待機圧)に対する結合側指示油圧Pr4(ピンチャージ下圧)の倍率を設定(変更)することにより、結合側指示油圧Pr5の大きさに応じて、サーボ起動時間を目標のサーボ起動時間の範囲内にすることができる。
【0061】
図7の処理では、結合側指示油圧の制御において、プリチャージ制御、待機圧制御、トルク相制御、イナーシャ相制御、完了制御等の制御が含まれ、解放側指示油圧の制御において、変速初期待機制御、解放制御、解放待機制御等が含まれる。これらの各制御については、図11の例にて詳細に説明する。
【0062】
以上の図7の処理は、一例として、実アクセル開度が規定の閾値未満の場合にだけ実行される。閾値は、例えば80%であるが、これ以外であってもよい。
【0063】
次に、実アクセル開度が規定の閾値以上の場合において、変速制御装置7の変速処理部50が実行する変速処理を図11を参照しながら説明する。一例として、図7の場合と同様に、変速段を1速から2速へ変速(シフトアップ)する場合の変速処理について説明する。図11の処理は、図7の処理に対して変速進行判断を行なう点が異なる。
【0064】
図11は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する変速処理における指示油圧とエンジンおよびタービンランナの回転数との一例を示すタイミングチャートである。
【0065】
図11には、解放側指示油圧と、結合側指示油圧と、エンジン1およびタービンランナ25の回転数とが、車両100の総重量が異なる二つの状態に対して示されている。図11中の各実線が、車両100の総重量が第1の重量の場合であり、図11中の点線が車両の総重量が第1の重量よりも重い第2の重量の場合である。例えば、車両100がトラックの場合、第1の重量は、荷台に荷物を積載していない状態であり、第2の重量は、荷台に荷物を積載した状態である。以後、車両の総重量が第1の場合を車両100の積載無しとも言い、車両100の総重量が第2の場合を車両100の積載有りとも言う。また、図11の時刻は、図7で説明した時刻と同様である。ただし、時刻t4,t8は、車両100の積載無しの場合の時刻であり、時刻t4a,t8aは、車両100の積載有りの場合の時刻であって、時刻t4,t8に対応する時刻である。
【0066】
変速処理部50は、結合側指示油圧の制御において、期間D11にてプリチャージ制御を行ない、期間D12,12aにて待機圧制御を行ない、期間D13,13aにてトルク相制御を行ない、期間D14,D14aにてイナーシャ相制御を行ない、期間D15,15aにて完了制御を行なう。プリチャージ制御は、油室41(クラッチパック)へ油を充填するための制御フェーズである。待機圧制御は、結合側の摩擦結合部CBのピストン33の移動(ストローク)を開始させて、ピストン33を規定の位置で保持するための制御フェーズである。規定の位置は、ピストン33が摩擦板群35と接触しない位置であって、摩擦板群35に比較的僅かな隙間で対向する位置である。トルク相制御は、解放側の摩擦結合部CBと結合側の摩擦結合部CBとでトルク分担を移行させるための制御フェーズである。別の言い方をすると、トルク相制御は、結合側の摩擦結合部CBにトルク容量を持たせながら目標の変速段への変速を促す制御である。このトルク相制御にピンチャージ制御が含まれる。イナーシャ相制御は、タービン回転数の変動時の制御で変速比(ギヤ比)を移行させるための制御フェーズである。完了制御は、変速制御を完了させるための制御であり、イナーシャ変化が終了し摩擦結合部CBが定常状態に至るまでの制御である。
【0067】
また、変速処理部50は、解放側指示油圧の制御において、期間D16,16aにて変速初期待機制御を行ない、期間D17,17aにて解放制御を行ない、期間D18,18aにて解放待機制御を行なう。変速初期待機制御は、解放側の摩擦結合部CBに滑り(内側摩擦板31と外側摩擦板32との摺動)が発生しない最低限の油圧を維持するための制御フェーズである。解放制御は、解放側の摩擦結合部CBと結合側の摩擦結合部CBとの架け替えのために、結合側の摩擦結合部CBがトルク容量を持つに従い解放側の摩擦結合部CBの油圧を下げる(油を抜く)ための制御フェーズである。解放待機制御は、解放側の摩擦結合部CBの完全解放(遮断状態)後に、結合側の摩擦結合部CBが完全締結(結合状態)になるのを待つ制御フェーズである。
【0068】
また、図11中の時間T11,11aは、後述の変速進行判断がONになってからイナーシャ相が開始するまでの予測時間である。
【0069】
変速処理部50は、変速線Hに基づいて変速すると判断した場合、車両100の加速度によらずに変速制御を開始する(t0)。すなわち、変速処理部50は、プリチャージ制御と待機圧制御とを実行する。次に、変速処理部50は、変速進行判断を行なう。変速進行判断は、待機圧制御から以後の処理に進行するか否かの判断である。この判断は、イナーシャ相開始時間と、タービン回転変化率と、スリップ量と、に基づいて行なわれる。イナーシャ相開始時間は、トルク相制御開始時点(時刻t4)から推定のイナーシャ相変化開始時点(時刻t8)までの時間である。タービン回転数変化率は、タービンランナ25の回転数の変化率であり、スリップ量は、エンジン1の回転とタービンランナ25の回転との差である。待機圧制御から以降の処理に進行する判断を「ON」とも言い、待機圧制御から以降の処理に進行しない、すなわち待機圧制御を継続する判断を「OFF」とも言う。変速処理部50は、待機圧制御の実行状態にて、変速進行判断がONになるまで待機圧制御を実行する。この状態では、変速段が1速に維持される。そして、変速処理部50は、変速進行判断がONとなった場合に、トルク相制御以降の制御を実行する。これにより、目標のエンジン1の回転数である目標エンジン回転数でイナーシャ相を開始する変速が実行される。
【0070】
以上から分かるように、図11の例では、ピンチャージ制御の開始時期(t4)が予め設定されておらず、判断部52が、時刻t3以降であって結合側指示油圧Prが結合側指示油圧Pr2(待機圧)に設定されている期間(以後、待機圧期間とも称する)に、ピンチャージ制御(トルク相制御)の開始時期を判定する。
【0071】
次に、図11の例において変速制御装置7の変速処理部50が実行する処理の詳細を図12~16を参照して詳細に説明する。
【0072】
図12は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する変速処理の一部(変速進行判断)の一例を示すフローチャートである。図12に示されるように、変速制御装置7における変速処理部50の判断部52は、出力シャフト2bの回転数がアップシフト変速線H1を超えたか否かを判定する(S1)。出力シャフト2bの回転数がアップシフト変速線H1を超えていない場合(S1:No)、判断部52は、S1の処理を繰り返す。判断部52が、出力シャフト2bの回転数がアップシフト変速線H1を超えたと判定した場合には(S1:Yes)、すなわち、判断部52が変速を行なうと判断した場合には、変速処理部50は、変速制御を開始する(S2)。
【0073】
変速処理部50は、変速制御を開始すると、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出処理を行なう(S3)。
【0074】
イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出処理を図13を参照しながら説明する。図13は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出処理、を示すフローチャートである。図13に示されるように、変速処理部50は、エンジン回転数を平滑化するエンジン回転数平滑化処理を行なう(S11)。次に、変速処理部50は、タービン回転数を平滑化するタービン回転数平滑化処理を行なう(S12)。なお、S11,S12では、平滑化処理に替えてローパスフィルタ処理を行なってもよい。
【0075】
次に、変速処理部50は、S12で平滑化したタービン回転数からタービン回転数の変化率(タービン回転数変化率)を算出する(S13)。次に、変速処理部50は、S11で平滑化したエンジン回転数とS12で平滑化したタービン回転数とから、スリップ量を算出する(S14)。スリップ量は、エンジン1の回転とタービンランナ25の回転との差である。次に、変速処理部は、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数を算出する(S15)。具体的には、変速処理部は、次式(1)によってイナーシャ相開始時の推定エンジン回転数を算出する。
イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数=(平滑化後のタービン回転数)+(タービン回転数変化率)×(イナーシャ相開始時間)+(スリップ量)・・・(1)
【0076】
図12に戻って、変速処理部50は、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出処理を行なうと(S3)、算出したイナーシャ相開始時の推定エンジン回転数が目標エンジン回転数を超えたか否かを判定する(S4)。変速処理部50は、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数が目標エンジン回転数を超えていないと判定した場合には(S4:No)、S3に戻り、再度S3の処理を行なう。一方、変速処理部50は、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数が目標エンジン回転数を超えたと判定した場合には(S4:Yes)、変速進行判断をONにする(S5)。
【0077】
次に、変速処理部50は、イナーシャ相開始時間の学習処理を行なう(S6)。
【0078】
イナーシャ相開始時間の学習を図14を参照しながら説明する。図14は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行するイナーシャ相開始時間の学習処理を示すフローチャートである。図14に示されるように、変速制御装置7の変速処理部50は、変速制御の実行中のエンジン1の最大回転数である変速中最大エンジン回転数を取得する(S21)。具体的には、変速処理部50は、変速制御の実行中の規定時間毎のエンジン回転数を、記憶部60に設けられたエンジン回転数記憶領域に記憶させる。そして、エンジン回転数記憶領域に記憶された複数のエンジン回転数のうちの最大の回転数を変速中最大エンジン回転数として取得する。なお、変速処理部50は、エンジン回転記憶領域に既に記憶されている前回の変速制御におけるエンジン回転数は、今回の変速制御の開始時に消去する。また、S21における変速中最大エンジン回転数の取得方法は、上記に限られない。例えば、変速制御の実行中の規定時間毎に、エンジン回転数を記憶し、先回のエンジン回転数と比較して大きい場合に更新することで、最大のエンジン回転数を記憶させ、当該エンジン回転数を変速中最大エンジン回転数として取得してもよい。
【0079】
次に、変速処理部50は、変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の上限を上回っているか否かを判定する(S22)。変速処理部50は、変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の上限を上回っていると判定した場合は(S22:Yes)、イナーシャ相開始時間の設定が短いと判断し、イナーシャ相開始時間の補正値であるイナーシャ相開始時間補正値を正の補正量である「+補正量」に設定する。
【0080】
一方、変速処理部50は、変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の上限を上回っていないと判定した場合は(S22:No)、変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の下限を下回っているか否かを判定する(S24)。変速処理部50は、変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の下限を下回っていると判定した場合は(S24:Yes)、イナーシャ相開始時間の設定が長いと判断し、イナーシャ相開始時間補正値を負の補正量である「-補正量」に設定する。
【0081】
また、変速処理部50は、変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の上限を上回っておらず(S22:No)、かつ変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の下限を下回っていない場合(S24:No)、すなわち、変速中最大エンジン回転数が目標エンジン回転数の上限と下限との間の範囲内である場合は、イナーシャ相開始時間の設定が正しいと判断し、イナーシャ相開始時間補正値を「0」に設定する(S26)。
【0082】
次に、変速処理部50は、補正前のイナーシャ相開始時間にイナーシャ相開始時間補正値を加算して、新たなイナーシャ相開始時間を算出する(S27)。変速処理部50は、算出したイナーシャ相開始時間を記憶部60に記憶させる。このように、変速処理部50は、イナーシャ相開始時間を学習する。
【0083】
以上のように、変速処理部50は、トルク相制御開始時点(時刻t4)から推定のイナーシャ相変化開始時点(時刻t8)までの時間をイナーシャ相開始時間とし、イナーシャ相開始時エンジン回転数の推定に用いる。このイナーシャ相開始時間について、イナーシャ相開始時間のエンジン回転数(変速中の最大エンジン回転数)が目標のエンジン回転数の上限と下限の範囲内に入るように変速制御毎に学習を実施し補正を行なう。このようにイナーシャ相開始時間の学習による補正を行なうのは、変速機2の個体差や経年劣化によって変速の開示タイミングが異なる虞があるためでる。
【0084】
図15は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する結合側の摩擦結合部の油圧制御処理を示すフローチャートである。
【0085】
図15に示されるように、変速処理部50は、結合側の変速制御を開始すると(S31)、プリチャージ制御を開始する(S32)。
【0086】
変速処理部50は、プリチャージ制御を終了すると、待機圧制御を開始する(S33)。変速処理部50は、変速進行判断が「ON」ではない、すなわち「OFF」の場合には(S34:No)、待機圧制御を継続する。一方、変速処理部50は、変速進行判断が「ON」となった場合には(S34:Yes)、トルク相制御を開始する(S35)。
【0087】
変速処理部50は、トルク相制御を終了すると、イナーシャ相制御を開始する(S36)。変速処理部50は、イナーシャ相制御を終了すると、完了制御を開始する(S37)。
【0088】
以上のように、結合側の摩擦結合部CBの油圧制御処理において、変速処理部50は、待機圧制御で結合側の摩擦結合部CBの油圧の維持を行ない、変速進行判断が「ON」になったら以降の制御を行なうことにより、目標エンジン回転数でイナーシャ変化が起こるようにしている。
【0089】
図16は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する解放側の摩擦結合部の油圧制御処理を示すフローチャートである。
【0090】
図16に示されるように、変速処理部50は、解放側の変速制御を開始すると(S41)、変速初期待機制御を開始する(S42)。変速処理部50は、変速進行判断が「ON」ではない、すなわち「OFF」の場合には(S43:No)、変速初期待機圧制御を継続する。一方、変速処理部50は、変速進行判断が「ON」となった場合には(S43:Yes)、解放制御を開始する(S44)。変速処理部50は、解放制御を終了すると、解放待機制御を開始する(S45)。
【0091】
以上のように、解放側の摩擦結合部CBの油圧制御処理において、変速処理部50は、変速初期待機制御で解放側の摩擦結合部CBの油圧の維持を行ない、変速進行判断が「ON」になったら以降の制御を行なうことにより、目標エンジン回転数でイナーシャ変化が起こるようにしている。
【0092】
次に、図17および図18を参照しながら、実施形態の処理を比較例の処理と対比して説明する。
【0093】
図17は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する図11の処理と比較例の処理とを示すタイミングチャートであって、変速制御中にエンジン1の回転数の変化率が低下した場合の図である。図18は、実施形態の変速制御装置7の変速処理部50が実行する図11の処理と比較例の処理とを示すタイミングチャートであって、変速制御中にエンジン1の回転数の変化率が増加した場合の図である。図17および図18中の線L20a,L20bは、それぞれ、実施形態および比較例のエンジンの回転数である。線L21aは、実施形態における変速進行判断がONとなった時点(時刻t4)でのエンジン1の回転数の変化率で算出されたエンジン1の予想回転数(以後、予想エンジン回転数とも称する)を示す。線L21bは、比較例における変速判断がされた時点でのエンジン1の回転数の変化率で算出された予想エンジン回転数を示す。
【0094】
比較例の処理は、実施形態の図11の処理に対して、ピンチャージ制御を実施しない点と、イナーシャ相開始時間の算出方法が異なる。比較例の処理では、変速制御開始時点(時刻t0)からイナーシャ相変化開始の推定の時点(時刻t41)までの時間をイナーシャ相開時間としている。これに対して、実施形態の図11の例では、上述のように、トルク相制御開始時点(時刻t4)からイナーシャ相変化開始の推定の時点(時刻t31)までの間をイナーシャ相開始時間としている。
【0095】
図17は、変速判断(時刻t0)が行なわれた後に、エンジン1の回転数の変化率(加速度)が低下した場合の例が示されている。この場合、比較例では、変速判断が行なわれた後に摩擦結合部CBの架け替えを行なうための準備制御(プリチャージ制御、待機制御)を行なうため、変速判断がされてから実際に摩擦結合部CBの架け替えが行なわれるまでに時間を要する。このため、比較例では、実際のエンジン1の回転数と予想エンジン回転数とのずれ(図17中のF1b)が比較的大きくなるので、イナーシャ相開始時のエンジン回転数が目標エンジン回転数から比較的大きく乖離してしまう場合がある。
【0096】
これに対して、実施形態では、プリチャージ制御の終了後の待機制御中に変速進行判断を行なうので、実際のエンジン1の回転数と予想エンジン回転数とのずれ(図17中のF1a)が比較的小さくなるので、イナーシャ相開始時のエンジン回転数が目標エンジン回転数から大きく乖離するのを抑制することができる。
【0097】
図18は、変速判断(時刻t0)が行なわれた後に、エンジン1の回転数の変化率(加速度)が増加した場合の例が示されている。この場合、実施形態では、変速制御の開始の判断は変速線Hで行い、変速準備制御のプリチャージ制御を、変速進行判断前に終わらせておくので、変速制御の途中でエンジン1の回転数の変化率が増加した場合でも、トルク相制御以降の制御を早く実行することができる。よって、イナーシャ相開始時のエンジン回転数を目標エンジン回転数に合わせやすい。
【0098】
以上から分かるように、図11の例では、以下の処理を行なっている。すなわち、変速制御の開始後にイナーシャ開始のタイミングの調整を行なう。また、変速判断に従って変速制御を開始した後に、変速準備制御(プリチャージ制御、待機圧制御等)を終了した状態、すなわち、結合側の摩擦結合部CBがピストン33の移動(ストローク)を完了した状態で、解放側の摩擦結合部CBの油圧を当該摩擦結合部CBがトルク容量を保持できる油圧まで下げた状態で制御状態を保持する。そして、イナーシャ相開始時の推定エンジン圧力回転数(変速中最大エンジン回転数)が目標エンジン回転数となった段階で、トルク相以降の制御を実行する。
【0099】
また、変速制御の開始後に、最大エンジン回転数の記憶を行なう。また、変速判断に従って変速制御を開始した後に、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出を行なう。
【0100】
また、イナーシャ相開始時間は、各変速段毎に学習が実施される。変速中最大エンジン回転数が目標範囲を上回る場合には、イナーシャ相開始時間を延長し、変速中最大エンジン回転数が目標範囲を下回る場合には、イナーシャ相開始時間を短縮する。なお、上記例では、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出が式(1)により行なわれたがこれに限定されない。例えば、イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数の算出は、以下の式(2)や式(3)により行なわれてもよい。
イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数=(エンジン回転数)+(イナーシャ相開始時間)×(エンジン回転数変化率)・・・(2)
イナーシャ相開始時の推定エンジン回転数=(出力シャフト2bの回転数)×(現在変速比)+(イナーシャ相開始時間)×(出力シャフト2bの回転数の変化率)×(現在変速比)+推定スリップ量・・・(3)
【0101】
以上のように、実施形態の変速機2の変速制御装置7は、例えば、変速段の変更を判断する判断部52と、油圧の目標値を設定し当該目標値を油圧制御装置8に出力する出力部53と、を備えている。出力部53は、判断部52がある変速段から他の変速段への変更をすると判断した場合に、ある変速段において遮断状態の摩擦結合部CBである結合側の摩擦結合部CB(第1の摩擦結合部)に対する目標値を結合側指示油圧Pr1(第1の値)に増大した後に、当該目標値を結合側指示油圧Pr1よりも小さく結合側の摩擦結合部CBの遮断状態が維持される結合側指示油圧Pr2(第2の値)に減少し、当該目標値を結合側指示油圧Pr2に減少した後に、当該目標値を結合側指示油圧Pr2よりも大きい結合側指示油圧Pr3(第3の値)に増大し、当該目標値を結合側指示油圧Pr3に増大した後に、当該目標値を結合側指示油圧Pr3よりも小さい結合側指示油圧Pr4(第4の値)にし、当該目標値を結合側指示油圧Pr4にした後に、結合側指示油圧Pr4以上であって摩擦力を発生させる結合側指示油圧Pr5(第5の値)にし、出力部53は、結合側指示油圧Pr4を、変速機2への入力トルクの大きさに応じて設定する。
【0102】
よって、変速制御装置7によれば、例えば、結合側指示油圧Pr5の設定が変速機2へのエンジン1からの入力トルクに応じて変化しても、結合側指示油圧Pr2を一定にすることができる。よって、変速ショックの要因を特定しやすい。また、トルク相制御にかかる時間を一定にしやすい。すなわち、トルク相制御時間を用いて推定する、イナーシャ相開始時のエンジン1の回転数の推定値と実際のエンジン1の回転差との差が生じにくい。
【0103】
また、変速制御装置7では、例えば、出力部53は、目標値が結合側指示油圧Pr2に設定されている間に、当該目標値を結合側指示油圧Pr3に変更するかを判断する。
【0104】
よって、変速制御装置7によれば、例えば、イナーシャ相開始時の、変速機2に接続されるエンジン1の回転数を、目標のエンジン1の回数に合わせやすい(近づけやすい)。
【0105】
また、変速制御装置7は、例えば、変速機2に動力を出力するエンジン1のアクセル部材の操作量を表すアクセル開度を取得する取得部51を備えている。出力部53は、取得部51が取得したアクセル開度が閾値以上の場合に、目標値が結合側指示油圧Pr2に設定されている間に当該目標値を結合側指示油圧Pr3に変更するかを判断する。出力部53は、取得部51が取得したアクセル開度が閾値未満の場合には、目標値が結合側指示油圧Pr2に設定されている間に当該目標値を結合側指示油圧Pr3に変更するかを判断しない。
【0106】
よって、変速制御装置7によれば、例えば、アクセル開度が閾値以上の場合に、イナーシャ相開始時のエンジン1の回転数を、目標のエンジンの回転数に合わせやすい(近づけやすい)。なお、取得部51が取得したアクセル開度が閾値未満の場合の出力部53の処理は、上記に限定されない。例えば、出力部53は、取得部51が取得したアクセル開度が閾値未満の場合に、目標値が結合側指示油圧Pr2に設定されてから所定時間は当該目標値を結合側指示油圧Pr3に変更するかを判断せず、当該所定時間が経過した後に上記判断をするようしにしてもよい。
【0107】
ここで、指示油圧に対して実際の油圧は遅れて追従するため、この追従の遅れを短くするため、指示油圧が高めに設定する技術がある。しかしながら、このように指示油圧が高めに設定されると、例えば、遮断状態の摩擦結合部を結合状態にする際に、遮断状態を維持する期間に摩擦結合部に摩擦力が発生し、これにより、摩擦結合部の摩耗等が発生し、摩擦結合部の耐久性が低下する。これに対して、実施形態の変速制御装置7によれば、例えば、目標値が結合側指示油圧Pr2に設定されている期間(待機圧制御中)は、結合側の摩擦結合部CBの遮断状態が維持される。よって、当該期間において結合側の摩擦結合部CBに摩擦力が発生しないので、摩擦結合部CBの耐久性の低下を抑制することができる。
【0108】
また、変速制御装置7は、例えば、出力部53は、油圧目標値を結合側指示油圧Pr2に減少した後に、当該目標値を結合側指示油圧Pr2よりも大きい結合側指示油圧Pr3に一時的に増大する。
【0109】
よって、変速制御装置7によれば、例えば、目標値を結合側指示油圧Pr2よりも大きい結合側指示油圧Pr3に一時的に増大するので、結合側指示油圧Pr3に一時的に増大した以降の油圧の目標値に対する実際の油圧の追従性を高めることができる。
【0110】
なお、上記実施形態では、図7の処理は、実アクセル開度が規定の閾値未満の場合に実行され、図11の処理は、実アクセル開度が規定の閾値以上の場合に実行されたが、これに限定されない。例えば、図7の処理を実アクセル開度に拘わらず実行してもよい。また、図11の処理を実アクセル開度に拘わらず実行してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、出力部53は、結合側指示油圧Pr4(第4の値)を、変速機2への入力トルクの大きさだけに応じて設定したが、これに限定されない。例えば、出力部53は、変速機2への入力トルクの大きさおよび結合側指示油圧Pr2(第2の値)に応じて、結合側指示油圧Pr4を、設定してもよい。具体的には、結合側指示油圧Pr5(第5の値)毎に(例えば、図9中の線L1a~L1f毎に)設定する。設計理論値や前回変速時等から決められる結合側指示油圧Pr2(第2の値)としての閾値に対して、実際に変速制御している時の結合側指示油圧Pr2(第2の値)がより低い程、結合側指示油圧Pr4(第4の値)を大きく設定し、実際に変速制御している時の結合側指示油圧Pr2(第2の値)がより高い程、結合側指示油圧Pr4(第4の値)を小さく設定する。これにより、制御バラツキ等によって結合側指示油圧Pr2(第2の値)が安定しなかった場合でも、実油圧が、目標値である結合側指示油圧Pr5(第5の値)へ、より速く追従するようになり得る。すなわち、結合側指示油圧Pr2(第2の値)が所定の値よりも低い場合には、結合側指示油圧Pr4(第4の値)を下げ過ぎない方が、結合側指示油圧Pr5(第5の値)に到達しやすい。
【0112】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0113】
1…エンジン
2…変速機
7…変速制御装置
8…油圧制御装置
51…取得部
52…判断部
53…出力部
101…自動変速装置
CB,C1~C3,B1,B2…摩擦結合部
図1
図2
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