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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】撥水撥油膜組成物及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/05 20060101AFI20230301BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20230301BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20230301BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20230301BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C09D183/05
C09D183/07
C09D183/04
C09D5/16
C09K3/18 104
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019104884
(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公開番号】P2019210477
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2018106784
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 武士
(72)【発明者】
【氏名】古田 尚正
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-201349(JP,A)
【文献】特開2002-88155(JP,A)
【文献】特開2013-147659(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066608(WO,A1)
【文献】特開2011-228674(JP,A)
【文献】特開2000-302878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09K 3/18
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるA成分シロキサン化合物と、
【化8】
〔式(1)において、R1は水素原子、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基、及び炭素原子数1~10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、R2は水素原子、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基、及び炭素原子数1~10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり(1分子中のR2は同一でも異なっていてもよい。)、R3は水素原子、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基、及び炭素原子数1~10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり(1分子中のR3は同一でも異なっていてもよい。)、R4は炭素原子数1~6のアルキル基であり、R2の少なくとも一部又はR3の少なくとも一部が、水素原子とヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基である。w及びxは正の数であり、v、y及びzは、それぞれ0又は正の数であり、x/(v+w+x+y)は0.2以上である。〕
以下の式(2)で表される、B成分と、
【化9】
〔式(2)において、R5及びR6は、それぞれ独立して、水酸基、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ポリエーテル基、フェニル基、(メタ)アクリル基、カルビノール基、カルボン酸無水物基から選択される少なくとも1種であり、同一でも異なっていても良い。R7は、炭素数1~20のアルキル基、フェニル基、ポリエーテル基、アラルキル基、フロロアルキル基、脂肪酸エステル基、脂肪酸アミド基から選択される少なくとも1種である。mは、1以上の整数であり、nは、1以上の整数である。〕
さらに、下記式(3)で表されるC成分と、
【化10】
〔式(3)において、p>0、q>0、r≧0、s≧0、(p+2r+s)>q+sであり、R8は水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基である。〕
とを含有する、撥水撥油膜組成物。
【請求項2】
前記A成分と前記C成分との総量に対して前記A成分が5質量%以上95質量%以下であり、
前記A成分と前記C成分との総量に対して前記B成分が1質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記C成分は、重量平均分子量が2,000以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記式(1)において、(R33SiO1/2の少なくとも一部が、R3の1つが水素原子であり他の2つが炭素原子数1~10のアルキル基であり、少なくとも他の一部が、R3の1つがヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基であり、他の2つが炭素原子数1~10のアルキル基である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記式(1)において、前記少なくとも一部の(R33SiO1/2のモル数をy1とし、前記少なくとも他の一部の(R33SiO1/2のモル数をy2としたとき、(y1+y2)/(v+w+x+y)は0.1以上である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記(R22SiO2/2の少なくとも一部が、R2の1つが水素原子であり他の1つが炭素原子数1~10のアルキル基であり、少なくとも他の一部が、R2の1つがヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基であり他の1つが炭素原子数1~10のアルキル基である、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも一部の(R22SiO2/2のモル数をx1とし、前記少なくとも他の一部の(R22SiO2/2のモル数をx2としたとき、(x1+x2)/(v+w+x+y)は0.1以上である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
1は、炭素原子数1~10のアルキル基である、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
x/wは、0.8以上である、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記A成分は、水素原子とヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基とのヒドロシリル化反応に基づくSi-C-C-R-Si(Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。)が前記A成分のSiの総モル数の0.05以上0.3以下となるように構成されている、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記A成分において、前記ヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基に対して理論的に過剰の水素原子のモル数は、Siの総モル数に対して0.1以下である、請求項1~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記A成分において、少なくとも一部の前記ヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基と少なくとも一部の前記水素原子とによるSi-C-C-R-Si構造(Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。)を形成している、請求項1~11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記A成分の数平均分子量は、500以上2,000以下である、請求項1~12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
実質的に塩酸又はアルカリを含有しない、請求項1~13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
ヒドロシリル化を促進する触媒を実質的に含まない、請求項1~14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の組成物を基材表面に塗布し、前記組成物を加熱して硬化膜を形成する工程、
を備える、前記基材の防汚方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれかに記載の組成物を硬化して得られる、撥水撥油膜。
【請求項18】
ヒドロシリル化を促進する触媒を用いることなく硬化して得られる、請求項17に記載の撥水撥油膜。
【請求項19】
加熱室と、
前記加熱室の少なくとも一部であって熱に曝露される要素表面に位置される請求項17又は18に記載の撥水撥油膜と
を備える、装置。
【請求項20】
熱に曝露される表面に位置される請求項17又は18に記載の撥水撥油膜を備える、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、耐熱性に優れる撥水撥油膜組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚性などを発揮できる撥水撥油膜を形成する材料として、シリコーン樹脂やテフロン(登録商標)などのフッ素樹脂の樹脂系材料やセラミックス系材料が知られている。樹脂系材料は、コーティング加工が容易であるため、種々の被加工体へのコーティングが可能である。例えば、オーブンなどの調理器具、コンロ周辺の器具、エンジン・車両マフラー周辺の部品、暖房器具及び給湯器などにおいては、反復される加熱ごとに防汚性が維持される必要がある。
【0003】
こうした樹脂系材料による被膜の耐熱温度は、概して300℃未満であるため、用途が限定されている。そこで、より優れた耐熱性が求められるようになってきている。こうした被膜材料として、例えば、シロキサン結合による三次元架橋構造体であって、その終端において、ヒドロキル基をメチル基でキャッピングした材料が開示されている(特許文献1)。この材料によれば、500℃で24時間加熱後も、一定の撥水性及び撥油性を備えていることが記載されている。
【0004】
また、親水性組成物としてジイソシアネートと、疎水性組成物として両末端アミン変性ポリシロキサンと水酸基変性ポリシロキサンとを、グリシジル基を有する籠型ポリシロキサンで架橋した材料も開示されている(特許文献2)。この材料が撥水性撥油性を備えるほか、分解温度が300℃程度であることが記載されている。
【0005】
一方、優れた耐熱性材料として、シロキサン結合による三次元架橋構造を有するシルセスキオキサンが知られている(特許文献3、4)。かかるシルセスキオキサンは、5%重量減少率が1000℃以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-185334号公報
【文献】特開2015-44983号公報
【文献】国際公開第2005/10077号
【文献】国際公開第2009/66608号
【発明の概要】
【0007】
上記特許文献1に開示される被膜は、重合可能なアルコキシ基を有しかつメチル基を有するシラン化合物を酸又はアルカリを触媒として含む溶液を一定時間室温で重合させて得られるポリシロキサンの前駆体溶液とし、この前駆体溶液をコーティングして得られている。有機シラン化合物の加水分解反応を調整することは困難であるため、酸又はアルカリなどの触媒は必須であるが、このような触媒を含む溶液を被加工体に適用することは、溶液移送設備やコーティング設備の腐食など設備上の問題のほか、作業環境の安全管理上の問題がある。
【0008】
また、上記特許文献1の技術においては、上記メチル基が耐熱防汚性に貢献しているが、概して分子量が小さく、アルコキシ基やシラノール基が多数残存している。したがって、膜形成時には、これらが縮合することで応力が大きくなり、割れやすく剥離しやすい膜となり、反復する加熱によって膜が破壊され、結果として、高温での防汚性を発揮できない可能性がある。また、上記特許文献1に開示される被膜では、水及びn-ヘキサデカンの接触角が、400℃以上では低下しており、400℃以上での防汚性が懸念される(表1、2等)。
また、上記特許文献2に開示される被膜は、300℃以上で分解してしまうため、材料自体の耐熱性が確保されているとは言えず、また、耐熱防汚性があるともいえなかった。
【0009】
また、防汚性には、滑液性も貢献する。水や油が滑落しやすいことでこれらの液滴を被防汚表面から容易に移動させることが重要な場合もある。また、こうした膜においては耐摩耗性が不十分な場合もあった。
【0010】
一方、上記特許文献3、4は耐熱性に優れるポリシロキサン材料に関するものであるが、撥水撥油性については、全く開示されていない。また、これらポリシロキサン材料の組成からみて撥水撥油性を当業者といえども予測することはできなかった。
【0011】
本明細書は、膜強度、防汚性、耐摩耗性などの使用性及び耐熱性に優れる撥水撥油被膜材料及びその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、耐熱性に優れるポリシロキサンに着目し、ポリシロキサンの組成を種々に検討して被膜特性を評価している中で、ポリシロキサンを得るためのモノマーをある種の組成に規定することで、ポリシロキサンの耐熱性を維持しつつ優れた撥水撥油性を発揮する被膜を形成できるという知見を得た。さらに、本発明者らは、ポリシロキサンを得るための酸などの触媒を用いるが、酸による重合後のシロキサン前駆体が、使用性及び耐熱性に優れる撥水撥油膜を提供できるという知見を得た。さらに、本発明者らは、ポリシロキサンにシリコーンオイル及びシリコーンレジンを含有させることで、使用性及び耐熱性に優れる撥水撥油膜を提供できるという知見を得た。本明細書は、これらの知見に基づき以下の手段を提供する。
[1]下記式(1)で表されるA成分シロキサン化合物と、
【化1】
〔式(1)において、R1は水素原子、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基、及び炭素原子数1~10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、R2は水素原子、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基、及び炭素原子数1~10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり(1分子中のR2は同一でも異なっていてもよい。)、R3は水素原子、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基、及び炭素原子数1~10のアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり(1分子中のR3は同一でも異なっていてもよい。)、R4は炭素原子数1~6のアルキル基であり、R2の少なくとも一部又はR3の少なくとも一部が、水素原子とヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基である。w及びxは正の数であり、v、y及びzは、それぞれ0又は正の数であり、x/(v+w+x+y)は0.2以上である。〕
以下の式(2)で表される、B成分と、
【化2】
〔式(2)において、R5及びR6は、それぞれ独立して、水酸基、炭素原子数1~3のアルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ポリエーテル基、フェニル基、(メタ)アクリル基、カルビノール基、カルボン酸無水物基から選択される少なくとも1種であり、同一でも異なっていても良い。R7は、炭素数1~20のアルキル基、フェニル基、ポリエーテル基、アラルキル基、フロロアルキル基、脂肪酸エステル基、脂肪酸アミド基から選択される少なくとも1種である。mは、1以上の整数であり、nは、1以上の整数である。〕
さらに、下記式(3)で表されるC成分と、
【化3】
〔式(3)において、p>0、q>0、r≧0、s≧0、(p+2r+s)>q+sであり、R8は水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基である。〕
とを含有する、撥水撥油膜組成物。
[2]前記A成分と前記C成分との総量に対して前記A成分が5質量%以上95質量%以下であり、
前記A成分と前記C成分との総量に対して前記B成分が1質量%以上50質量%以下である、[1]に記載の組成物。
[3]前記C成分は、重量平均分子量が2,000以上である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記式(1)において、(R33SiO1/2の少なくとも一部が、R3の1つが水素原子であり他の2つが炭素原子数1~10のアルキル基であり、少なくとも他の一部が、R3の1つがヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基であり、他の2つが炭素原子数1~10のアルキル基である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記式(1)において、前記少なくとも一部の(R33SiO1/2のモル数をy1とし、前記少なくとも他の一部の(R33SiO1/2のモル数をy2としたとき、(y1+y2)/(v+w+x+y)は0.1以上である、[4]に記載の組成物。
[6]前記(R22SiO2/2の少なくとも一部が、R2の1つが水素原子であり他の1つが炭素原子数1~10のアルキル基であり、少なくとも他の一部が、R2の1つがヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基であり他の1つが炭素原子数1~10のアルキル基である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]前記少なくとも一部の(R22SiO2/2のモル数をx1とし、前記少なくとも他の一部の(R22SiO2/2のモル数をx2としたとき、(x1+x2)/(v+w+x+y)は0.1以上である、[6]に記載の組成物。
[8]R1は、炭素原子数1~10のアルキル基である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]x/wは、0.8以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]前記A成分は、水素原子とヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基とのヒドロシリル化反応に基づくSi-C-C-R-Si(Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。)が前記A成分のSiの総モル数の0.05以上0.3以下となるように構成されている、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11]前記A成分において、前記ヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基に対して理論的に過剰の水素原子のモル数は、Siの総モル数に対して0.1以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12]前記A成分において、少なくとも一部の前記ヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基と少なくとも一部の前記水素原子とによるSi-C-C-R-Si構造(Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。)を形成している、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13]前記A成分の数平均分子量は、500以上2,000以下である、[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14]実質的に塩酸又はアルカリを含有しない、[1]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15]ヒドロシリル化を促進する触媒を実質的に含まない、[1]~[14]のいずれかに記載の組成物。
[16][1]~[15]のいずれかに記載の組成物を基材表面に塗布し、前記組成物を加熱して硬化膜を形成する工程、
を備える、前記基材の防汚方法。
[17][1]~[15]のいずれかに記載の組成物を硬化して得られる、撥水撥油膜。
[18]ヒドロシリル化を促進する触媒を用いることなく硬化して得られる、[17]に記載の撥水撥油膜。
[19]加熱室と、
前記加熱室の少なくとも一部であって熱に曝露される要素表面に位置される[17]又は[18]に記載の撥水撥油膜と
を備える、装置。
[20]熱に曝露される表面に位置される[17]又は[18]に記載の撥水撥油膜を備える、構造体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の開示は、撥水撥油膜組成物及びその利用を開示する。より具体的には、撥水撥油膜組成物、防汚方法及び撥水撥油膜等を開示する。本開示によれば、温での優れた撥水撥油性を有するとともに、良好な造膜性と、加熱や摩耗に抵抗しうる十分な膜強度を有する撥水撥油膜を提供することができる。さらに、この場合、優れた滑液性を有する撥水撥油膜も提供できるため、優れた撥水撥油性及び耐摩耗性を有するとともに、水分及び油分の優れた除去性及び回収性を有する撥水撥油膜を提供できる。
【0014】
本組成物は、例えば、コーティング加工性に優れ、400℃以上で24時間加熱後でも優れた撥水撥油性を維持できるなどの特性を発揮することができる。
【0015】
本明細書に開示される撥水撥油膜組成物(以下、本組成物ともいう。)が含有する、A成分は、本発明者らによれば、膜の耐熱性及び撥水撥油性に優れた貢献を有する、と考えられる。
【0016】
また、B成分は、本発明者らによれば、成膜物の表面自由エネルギーを低下させて、動摩擦係数を低下させて膜表面に滑液性を付与し、これにより、撥水撥油性に貢献すると考えられる。滑液性の向上は、付着した油分や水分の除去や回収の容易性にも貢献するほか、膜の耐摩耗性にも貢献する。なお、以下に記載するように、B成分による滑液性の向上は、C成分との相乗効果でもある。
【0017】
また、C成分は、本発明者らによれば、組成物の良好な造膜性に貢献し、しかも、硬化時及び硬化後の割れや摩耗を抑制して靱性にも優れるという膜強度特性に貢献することがわかった。膜強度特性の向上は、それにより塗膜のキズや剥離が抑制されるため、それ自体撥水撥油性の向上に貢献する。なお、膜の耐摩耗性は、C成分に加えて、B成分による滑液性との相乗効果でもある。
【0018】
本組成物は、A成分に加えて、B成分及びC成分を含むことで相乗効果を奏する。本組成物は、A成分がB成分及びC成分に対する相溶性をそれぞれ有するために、B成分とA成分とを同時に含有することができる。また、このため、本組成物の製造時には、これらの成分の混合を可能として、成膜性を有する本組成物を得ることができる。これにより、本組成物から得られる膜は、AないしC成分のそれぞれの良好な特性を発揮することができる。
【0019】
また、B成分が発揮する滑液性とC成分が発揮する造膜性及び耐摩耗性とが、組み合わされて結果として、A成分ともに、高温における良好な膜強度特性及び良好な撥水撥油性に貢献することとなる。
【0020】
本明細書において、炭素-炭素不飽和結合は、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を意味する。以下、本開示に関する実施形態として、シロキサン化合物及びその製造方法について説明し、その後、かかるシロキサン化合物又はその硬化物を含む撥水撥油組成物及びその利用について説明する。
【0021】
(撥水撥油膜組成物)
本組成物は、A成分、B成分及びC成分を含むことができる。本組成物は、各種態様を採ることができる。本組成物は、例えば、撥水撥油膜の作製に適した成膜前の組成物(典型的には液状体などの不定形状体である。)でありうる。
【0022】
本組成物は、A成分、B成分及びC成分のみを含むものであるほか、必要に応じて、他の成分を含むことができる。他の成分としては、溶剤、A成分の硬化に用いるヒドロシリル化触媒等のほか、成膜用組成物に添加されうる公知の添加剤が挙げられる。
【0023】
(A成分:シロキサン化合物)
本開示のシロキサン化合物(以下、単に、A成分という。)は、主鎖骨格にSi-O-Si結合を備えるポリシロキサンである。また、A成分は、式(1)中、シロキサン結合のためのSi-O1/2を3個備える構成単位(T単位、R-Si-O3/2)を必須単位とするため、シルセスキオキサン誘導体でもある。
【0024】
A成分は、例えば、構成単位(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)及び(1-5)を備える以下の式(1)で表すことができる。式(1)におけるv、w、x、y及びzは、それぞれ(1-1)~(1-5)の構成単位のモル数を表す。なお、式(1)において、v、w、x、yおよびzは、A成分1分子が含有する各構成単位のモル数の割合の平均値を意味する。各構成単位の式には、構成単位のモル数を併せて示す。
【0025】
式(1)における構成単位(1-2)~(1-5)のそれぞれについては、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。また、実際のA成分内の構成単位の縮合形態は、式(1)で表される配列順序に限定されるものではなく、特に限定されない。
【0026】
【化4】
【化5】
【0027】
A成分は、式(1)における5つの構成単位、すなわち、構成単位(1-1)、構成単位(1-2)、構成単位(1-3)、構成単位(1-4)及び構成単位(1-5)から選択される構成単位を、水素原子(換言すれば、ヒドロシリル基(Si-H)である。)及びヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を含む炭素原子数2~10の有機基(以下、単に、不飽和有機基ともいう。)を含むように組み合わせて備えることができる。すなわち、ヒドロシリル基を含む構成単位として構成単位(1-2)、構成単位(1-3)及び構成単位(1-4)からなる群から選択される1種又は2種以上の構成単位を備え、不飽和有機基を含む構成単位として構成単位(1-2)、構成単位(1-3)及び構成単位(1-4)からなる群から選択される1種又は2種以上を備えることができる。
【0028】
また、A成分は、構成単位(1-2)及び構成単位(1-3)を含むことができる。例えば、式(1)において、w及びxは正の数であり、v、y及びzは0又は正の数である。
【0029】
<構成単位(1-1)>
本構成単位は、式(1)で表されるままであり、ポリシロキサンの基本構成単位としてのQ単位を規定している。A成分中における本構成単位の個数は特に限定するものではない。
【0030】
<構成単位(1-2)>
本構成単位は、ポリシロキサンの基本構成単位としてのT単位を規定している。本構成単位のR1は、水素原子、不飽和有機基、及び炭素原子数1~10のアルキル基(以下、単位、C1-10アルキル基ともいう。)からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。R1は、例えば、水素原子や不飽和有機基でなく、炭素原子数1~10のアルキル基とすることができる。本構成単位にヒドロシリル化反応に関与する基を有しない場合、高温耐熱性等に優れる膜を得ることができる場合がある。なお、不飽和有機基については後段で説明する。
【0031】
1-10アルキル基としては、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。かかるアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、などの炭素原子数1~6の直鎖アルキル基であり、また例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、などの炭素原子数1~4の直鎖アルキル基である。また例えば、メチル基である。
【0032】
A成分中における本構成単位のモル数の割合であるwは、正の数である。wは、特に限定するものではないが、例えば、w/(v+w+x+y)は、0.25以上であり、また例えば、0.3以上であり、また例えば、0.35以上であり、また例えば、0.4以上である。同数値は、例えば、0.65以下であり、0.5以下であり、また例えば、0.45以下である。こうすることで、防汚性シロキサン化合物に瀧せつな耐熱性を付与できるためである。また、好適な範囲は、例えば、0.35以上0.65以下であり、また例えば、0.40以上0.5以下である。
【0033】
A成分の実際の一分子における本構成単位の個数は、特に限定するものではないが、例えば、1以上40以下であり、また例えば好ましくは2以上20以下であり、また例えばより好ましくは3以上10以下である。
【0034】
<構成単位(1-3)>
本構成単位は、ポリシロキサンの基本構成単位としてのD単位を規定している。本構成単位のR2は、水素原子、不飽和有機基、及びC1-10アルキル基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。
【0035】
1-10アルキル基については、既に記載した各種態様を本構成単位についてもそのまま適用できる。
【0036】
不飽和有機基は、ケイ素原子に結合する水素原子(ヒドロシリル基)とヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を持つ官能基である。特に限定するものではないが、例えば、炭素-炭素二重結合である。かかる不飽和有機基の具体例としては、特に限定するものではないが、例えば、ビニル基、オルトスチリル基、メタスチリル基、パラスチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、1-ペンテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、フェニルエテニル基、エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基、3-メチル-1-ブチニル基、フェニルブチニル基、アリル(2-プロペニル)基、オクテニル(7-オクテン-1-イル)基等が例示される。かかる不飽和有機基は、例えば、ビニル基、パラスチリル基、アリル(2-プロペニル)基、オクテニル(7-オクテン-1-イル)基であり、また例えば、ビニル基である。
【0037】
なお、A成分の全体において、不飽和有機基を2個以上含むことができるが、その場合、全ての不飽和有機基は、互いに同一であってよいし、異なってもよい。また、複数の不飽和有機基が同一であり、異なる不飽和有機基を含んでもよい。
【0038】
本構成単位におけるR2は、同一であってもよいし異なっていてもよい。また、1又は複数の本構成単位について、R2として不飽和有機基を1又は複数用いることができる。1又は複数の本構成単位について、R2としてC1-10アルキル基を1又は複数用いることができる。
【0039】
A成分は、少なくとも一部の本構成単位が、例えば、2つのR2がいずれも、C1-10アルキル基であり、また例えば、すべての本構成単位が、2つのR2がいずれも、C1-10アルキル基である。本構成単位は、例えば、2つのR2がいずれも炭素数1~4のアルキル基であり、また例えばR2がいずれもメチル基である。こうすることで、後述する直鎖状オルガノポリシロキサン(例えば、ジメチルポリシロキサン構造を有するものなど)との適度な相溶性を得ることができる。
【0040】
A成分は、一部の本構成単位が2つのR2がいずれも、C1-10アルキル基であり、他の一部の本構成単位が、例えば、R2の一つが水素原子であり他の一つがC1-10アルキル基であり、さらに他の一部の本構成単位が、R2の一つが不飽和有機基であり他の1つがC1-10アルキル基である。また例えば、一部の本構成単位が2つのR2がいずれも、C1-10アルキル基であり、他の一部の本構成単位がR2の一つが水素原子であり他の一つがC1-10アルキル基であり、さらに残余の本構成単位がR2の一つが不飽和有機基であり他の1つがC1-10アルキル基である。こうすることで、ポリシロキサン骨格からヒドロシリル化反応により分岐するSi-C-C-R-Si部分(Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。また、Rは、ヒドロシリル化反応に関与した不飽和有機基のヒドロシリル化反応によって生成された-C-C-結合を除く構造部分に対応している。)を形成することができ、硬化性と硬化物の耐熱性が向上する。例えば、Rの不飽和有機基がビニル基であり、前記分岐構造のmが0であるSi-C-C-Si部分である。
【0041】
また、R2の1つが水素原子であり他の一つがC1-10アルキル基である本構成単位のモル数をx1とし、R2の一つが不飽和有機基であり他の1つがC1-10アルキル基である本構成単位のモル数をx2としたとき、(x1+x2)/(v+w+x+y)は、例えば、0.1以上であり、また例えば、0.15以上であり、また例えば、0.18以上である。また、同数値は、例えば、0.4以下であり、また例えば、0.3以下であり、また例えば、0.25以下である。また、好適な範囲は、例えば、0.1以上0.4以下であり、また例えば、0.18以上0.25以下である。
【0042】
A成分中における本構成単位のモル数の割合であるxは、正の数である。xは、特に限定するものではないが、例えば、x/(v+w+x+y)は、0.2以上であり、また例えば、0.3以上であり、また例えば、0.35以上であり、また例えば、0.4以上である。同数値は、例えば、0.5未満であり、また例えば、0.45以下である。当該モル数xが大きいと、防汚性が向上するが、大きすぎると耐熱性が低下するからである。また、好適な範囲は、例えば、0.2以上0.5未満であり、また例えば、0.3以上0.45以下である。
【0043】
また、xは、既述の構成単位(1-2)のwとの関係に関し、例えば、x/wが0.2以上であり、また例えば、0.5以上であり、また例えば、0.7以上であり、また例えば、0.8以上であり、また例えば、0.9以上であり、また例えば、1.4以下であり、また例えば、1.2以下であり、また例えば、1.1以下である。こうすることで、耐熱性と防汚性が好ましいバランスとなるためである。また、好適な範囲は、例えば、0.2以上1.4以下であり、また例えば、0.7以上1.2以下である。
【0044】
A成分の実際の一分子における本構成単位の個数は、特に限定するものではないが、例えば、1以上40以下であり、また例えば好ましくは2以上20以下であり、また例えばより好ましくは3以上10以下である。
【0045】
<構成単位(1-4)>
本構成単位は、ポリシロキサンの基本構成単位としてのM単位を規定している。本構成単位のR3は、水素原子、不飽和有機基、及びC1-10アルキル基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。
【0046】
不飽和有機基及びC1-10アルキル基については、それぞれ既に記載した各種態様を本構成単位についてもそのまま適用できる。
【0047】
本構成単位におけるR3は、同一であってもよいし異なっていてもよい。また、1又は複数の本構成単位について、R3として不飽和有機基を1又は複数用いることができる。1又は複数の本構成単位について、R3としてC1-10アルキル基を1又は複数用いることができる。
【0048】
なお、A成分においては、本構成単位においてのみ、ヒドロシリル化反応可能な水素原子と不飽和有機基とを備えていてもよいし、既述の構成単位(1-3)にのみヒドロシリル化反応可能な水素原子と不飽和有機基とを備えていてもよいし、本構成単位及び構成単位(1-3)との双方に、ヒドロシリル化反応可能な水素原子と不飽和有機基とを備えていてもよい。
【0049】
A成分は、少なくとも一部の本構成単位が、例えば、2つのR3がいずれも、C1-10アルキル基であり、他の1つのR3が、水素原子又は不飽和有機基である。
【0050】
A成分は、一部の本構成単位が1つのR3が水素原子であり、他の2つのR3がいずれもC1-10アルキル基であり、他の一部の本構成単位が1つのR3が不飽和有機基であり、他の2つのR3がいずれもC1-10アルキル基である。また例えば、一部の本構成単位が1つのR3が水素原子であり、他の2つのR3がいずれもC1-10アルキル基であり、他の全ての本構成単位が1つのR3が不飽和有機基であり、他の2つのR3がいずれもC1-10アルキル基である。こうすることで、ポリシロキサン骨格中の直鎖部分にSi-C-C-R-Si部分(Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。)を形成することができ、耐熱性が向上する。例えば、R3の不飽和有機基がビニル基であり、分岐構造のmが0であるSi-C-C-Si部分である。
【0051】
また、R3の1つが水素原子であり他の2つがC1-10アルキル基である本構成単位のモル数をy1とし、R3の1つが不飽和有機基であり他の2つがC1-10アルキル基である本構成単位のモル数をy2としたとき、(y1+y2)/(v+w+x+y)は、例えば、0.1以上であり、また例えば、0.15以上であり、また例えば0.18以上である。また、同数値は、例えば、0.4以下であり、また例えば、0.3以下であり、また例えば、0.25以下である。また、好適な範囲は、例えば、0.1以上0.4以下であり、また例えば、0.18以上0.25以下である。
【0052】
A成分中における本構成単位のモル数の割合であるyは0又は正の数である。構成単位(1-2)が水素原子及び/又は不飽和有機基を備えていない場合には、yが正の数となる。yは、特に限定するものではないが、例えば、y/(v+w+x+y)は、0.1以上であり、また例えば、0.15以上であり、また例えば、0.18以上である。同数値は、例えば、0.4以下であり、また例えば、0.3以下であり、また例えば、0.25以下ある。こうすることで、適度な架橋反応性と耐熱性を両立できるためである。また、好適な範囲は、例えば、0.1以上0.4以下であり、また例えば、0.18以上0.25以下である。
【0053】
A成分の実際の一分子における本構成単位の個数は、特に限定するものではないが、例えば、0以上20以下であり、また例えば好ましくは1以上10以下であり、また例えばより好ましくは1以上5以下である。
【0054】
<構成単位(1-5)>
本構成単位は、A成分におけるアルコキシ基又は水酸基を含む単位を規定している。すなわち、本構成単位におけるR4は、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基である。当該アルキル基は、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。典型的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、等の炭素数2以上10以下のアルキル基であり、また例えば、炭素数1~6のアルキル基である。
【0055】
本構成単位におけるアルコキシ基は、後述する原料モノマーに含まれる加水分解性基である「アルコキシ基」、又は、反応溶媒に含まれたアルコールが、原料モノマーの加水分解性基と置換して生成した「アルコキシ基」であって、加水分解・重縮合せずに分子内に残存したものである。また、本構成単位における水酸基は、「アルコキシ基」が加水分解後、重縮合せずに分子内に残存した水酸基等である。
【0056】
A成分中における本構成単位のモル数の割合であるzは、0又は正の数である。A成分の実際の一分子における本構成単位の個数は、特に限定するものではないが、例えば、0以上5以下であり、また例えば好ましくは0以上3以下であり、また例えばより好ましくは0以上2以下である。
【0057】
(A成分におけるヒドロシリル基及び不飽和有機基のモル数等)
A成分は、上記した構成単位(1-2)~(1-4)の3つの構成単位から選択される1種又は2種以上の構成単位で、ヒドロシリル基と不飽和有機基とを備えることができる。例えば、これらの基を備える構成単位の組み合わせは、構成単位(1-3)及び構成単位(1-4)から選択される1種又は2種である。
【0058】
A成分においては、例えば、ヒドロシリル基と不飽和有機基とのヒドロシリル化反応に基づくSi-C-C-R-Si構成部分(Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。)のモル数が、A成分のSiの総モル数、すなわち、(v+w+x+y)の0.05以上0.3以下となるように構成されている。また例えば、同0.05以上0.25以下であり、また例えば、同0.07以上0.25以下であり、また例えば、同0.08以上0.2以下である。こうすることで、硬化性と防汚性とのバランスが良好となるからである。なお、ヒドロシリル基と不飽和有機基とのヒドロシリル化反応に基づくSi-C-C-R-Si構成部分のモル数は、A成分中のヒドロシリル基と不飽和有機基とが完全に1:1で反応したと仮定して得られる理論値である。ヒドロシリル基と不飽和有機基のいずれか一方が過剰な場合には、より少ない基に基づいて算出される。ヒドロシリル化反応に基づく架橋構造は、例えば、不飽和有機基がビニル基であり、前記構造のmが0であるSi-C-C-Si構造である。
【0059】
A成分において、不飽和有機基に対して理論的に過剰となるヒドロシリル基(水素原子)のモル数は、例えば、Siの総モル数に対して0.3以下であり、また例えば、0.25以下であり、また例えば、0.2以下であり、また例えば、0.15以下であり、また例えば、0.1以下である。過剰のヒドロシリル基が多すぎると、加熱時に酸化されやすくなり、防汚性を低下させるOH基の発生原因となるからである。また、好適な範囲は、例えば、0.05以上0.4以下であり、また例えば、0.07以上0.3以下である。なお、この傾向は過剰なヒドロシリル基がT構造に含まれる場合に顕著になると考えられる。すなわち、過剰なヒドロシリル基がT構造に存在する場合、酸化されたヒドロシリル基はT構造由来の立体障害によりSi-OH基のまま残存し易い。一方で、D構造及びM構造に過剰なヒドロシリル基が存在する場合は、酸化されたヒドロシリル基は脱水縮合してシロキサン結合し易いといえる。したがって、A成分において、構成単位としてT構造のヒドロシリル基は少ない方が好ましく、Siの総モル数に対して0.2以下になるように構成されており、例えば0.1以下であり、また例えば、0.05以下であり、また例えば0である。こうすることで、耐熱性と防汚性のバランスを付与することができる。
【0060】
<分子量等>
A成分の数平均分子量は、300~10,000の範囲にあることが好ましい。かかるA成分は、それ自体低粘性であり、有機溶剤に溶け易く、その溶液の粘度も扱い易く、保存安定性に優れる。数平均分子量は、塗工性、貯蔵安定性、耐熱性、スプレー塗工性等を考慮すると、好ましくは300~8,000、また好ましくは300~6,000,また好ましくは300~3,000、また好ましくは300~2,000、また好ましくは500~2,000である。また、スピン塗工性と貯蔵安定性を考慮すると、例えば、500~1,500であり、耐熱性とスプレー塗工性とを考慮すると、例えば、1,000~2,000である。数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により、例えば、後述の〔実施例〕における測定条件であり、標準物質としてポリスチレンを使用して求めることができる。
【0061】
A成分は、液状であって、25℃における粘度が30,000mPa・s以下であることが好ましく、10,000mPa・s以下であることがより好ましく、5,000mPa・s以下であることが更に好ましく、3,000mPa・s以下であることが特に好ましく、1,000mPa・s以下であることが特に好ましい。さらにまた、100mPa・s以下であることが好ましい。但し、上記粘度の下限は、通常、1mPa・sである。
【0062】
以上説明したA成分は、それ自体新規なポリシロキサンであり、例えば、以下に示す(1)~(4)の1種又は2種以上によってより具体的に規定されうるものである。
(1)(R33SiO1/2の少なくとも一部が、R3の1つが水素原子であり他の2つが炭素原子数1~10のアルキル基であり、少なくとも他の一部が、R3の1つがヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基であり、他の2つが炭素原子数1~10のアルキル基である。
(2)前記少なくとも一部の(R33SiO1/2のモル数をy1とし、前記少なくとも他の一部の(R33SiO1/2のモル数をy2としたとき、(y1+y2)/(v+w+x+y)は0.1以上である。
(3)(R22SiO2/2の少なくとも一部が、R2の1つが水素原子であり他の1つが炭素原子数1~10のアルキル基であり、少なくとも他の一部が、R2の1つがヒドロシリル化反応な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~10の有機基であり、他の1つが炭素原子数1~10のアルキル基である。
(4)少なくとも一部の(R22SiO2/2のモル数をx1とし、前記少なくとも他の一部の(R22SiO2/2のモル数をx2としたとき、(x1+x2)/(v+w+x+y)は0.1以上である。
【0063】
<A成分の製造方法>
A成分は、公知の方法で製造することができる。A成分の製造方法は、国際公開第2005/010077号パンフレット、同第2009/066608号パンフレット、同第2013/099909号パンフレット、特開2011-052170号公報、特開2013-147659号公報等においてポリシロキサンの製造方法として詳細に開示されている。
【0064】
A成分は、例えば、以下の方法で製造することができる。すなわち、A成分の製造方法は、適当な反応溶媒中で、縮合により、上記式(1)中の構成単位を与える原料モノマーの加水分解・重縮合反応を行う縮合工程を備えることができる。この縮合工程においては、構成単位(1-1)を形成する、シロキサン結合生成基を4個有するケイ素化合物(以下、「Qモノマー」という。)と、構成単位(1-2)を形成する、シロキサン結合生成基を3個有するケイ素化合物(以下、「Tモノマー」という。)と、構成単位(1-3)を形成する、シロキサン結合生成基を2個有するケイ素化合物(以下、「Dモノマー」という。)と、シロキサン結合生成基を1個有する構成単位(1-4)を形成する、ケイ素化合物(以下、「Mモノマー」という。)と、を用いることができる。
【0065】
本明細書において、具体的には、構成単位(1-1)を形成するQモノマーと、構成単位(1-2)を形成するTモノマーと、構成単位(1-3)を形成するDモノマー及び、構成単位(1-4)を形成するMモノマーのうちの、少なくともTモノマーとDモノマーとが用いられる。原料モノマーを、反応溶媒の存在下に、加水分解・重縮合反応させた後に、反応液中の反応溶媒、副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることが好ましい。
【0066】
原料モノマーであるQモノマー、Tモノマー、Dモノマー又はMモノマーに含まれるシロキサン結合生成基は、水酸基又は加水分解性基である。このうち、加水分解性基としては、ハロゲノ基、アルコキシ基等が挙げられる。Qモノマー、Tモノマー、Dモノマー及びMモノマーの少なくとも1つは、加水分解性基を有することが好ましい。縮合工程において、加水分解性が良好であり、酸を副生しないことから、加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、炭素原子数1~4のアルコキシ基がより好ましい。
【0067】
縮合工程において、各々の構成単位に対応するQモノマー、Tモノマー又はDモノマーのシロキサン結合生成基はアルコキシ基であり、Mモノマーに含まれるシロキサン結合生成基はアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。また、各々の構成単位に対応するモノマーは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
構成単位(1-1)を与えるQモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。構成単位(1-2)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、トリクロロシラン等が挙げられる。構成単位(1-2)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、トリメトキシアリルシラン、トリエトキシアリルシラン、トリメトキシ(7-オクテン-1-イル)シラン、(p-スチリル)トリメトキシシラン、(p-スチリル)トリエトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられる。構成単位(1-3)を与えるDモノマーとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジプロポキシジメチルシラン、ジプロポキシジエチルシラン、ジメトキシベンジルメチルシラン、ジエトキシベンジルメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン等が挙げられる。構成単位(1-4)を与えるMモノマーとしては、加水分解により2つの構成単位(1-4)を与えるヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシランのほか、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロトリメチルシラン、ジメチルシラノール、ジメチルビニルシラノール、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリプロピルシラノール、トリブチルシラノール等が挙げられる。構成単位(1-5)を与える有機化合物としては、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。以上の説明によれば、A成分を得るためのこうしたモノマーを含む組成物も提供される。かかる組成物は、撥水撥油膜に用いるシロキサン化合物に好適に用いられる。
【0069】
縮合工程においては、反応溶媒としてアルコールを用いることができる。アルコールは、一般式R-OHで表される、狭義のアルコールであり、アルコール性水酸基の他には官能基を有さない化合物である。特に限定するものではないが、かかる具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2-エチル-2-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール等が例示できる。これらの中でも、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、3-メチル-2-ペンタノール、シクロヘキサノール等の第2級アルコールが用いられる。縮合工程においては、これらのアルコールを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましいアルコールは、縮合工程で必要な濃度の水を溶解できる化合物である。このような性質のアルコールは、20℃におけるアルコールの100gあたりの水の溶解度が10g以上の化合物である。
【0070】
縮合工程で用いるアルコールは、加水分解・重縮合反応の途中における追加投入分も含めて、全ての反応溶媒の合計量に対して0.5質量%以上用いることで、生成するA成分のゲル化を抑制することができる。好ましい使用量は1質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以上40質量%以下である。
【0071】
縮合工程で用いる反応溶媒は、アルコールのみであってよいし、さらに、少なくとも1種類の副溶媒との混合溶媒としても良い。副溶媒は、極性溶剤及び非極性溶剤のいずれでもよいし、両者の組み合わせでもよい。極性溶剤として好ましいものは炭素原子数3若しくは7~10の第2級又は第3級アルコール、炭素原子数2~20のジオール等である。尚、副溶媒として第1級アルコールを用いる場合には、その使用量を、反応溶媒全体の5質量%以下にすることが好ましい。好ましい極性溶剤は、工業的に安価に入手できる2-プロパノールであり、2-プロパノールと、炭素原子数4~6の第2級アルコール及び炭素原子数4~6の第3級アルコールから選ばれたアルコールとを併用することにより、これらのアルコールが加水分解工程で必要な濃度の水を溶解できないものである場合でも、極性溶剤と共に必要量の水を溶解でき、ゲル化を抑制等することができる。好ましい極性溶剤の量は、本発明に係るアルコールの1質量部に対して20質量部以下であり、より好ましくは1~20質量部、特に好ましくは3~10質量部である。
【0072】
非極性溶剤としては、特に限定するものではないが、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、アルコール、エーテル、アミド、ケトン、エステル、セロソルブ等が挙げられる。これらの中では、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素が好ましい。こうした非極性溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン等が、水と共沸するので好ましく、これらの化合物を併用すると、縮合工程後、A成分を含む反応混合物から、蒸留によって反応溶媒を除く際に、水分及び水に溶解した酸などの重合触媒を効率よく留去することができる。非極性溶剤としては、比較的沸点が高いことから、芳香族炭化水素であるキシレンが特に好ましい。非極性溶剤の使用量は、本発明に係るアルコールの1質量部に対して50質量部以下であり、より好ましくは1~30質量部、特に好ましくは5~20質量部である。
【0073】
縮合工程における加水分解・重縮合反応は、水の存在下に進められる。原料モノマーに含まれる加水分解性基を加水分解させるために用いられる水の量は、加水分解性基に対して好ましくは0.5~5倍モル、より好ましくは1~2倍モルである。また、原料モノマーの加水分解・重縮合反応は、無触媒で行ってもよいし、触媒を使用して行ってもよい。加水分解・重縮合反応における触媒は、酸又はアルカリが用いられる。かかる触媒としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸に例示される酸触媒が好ましく用いられる。酸触媒の使用量は、原料モノマーに含まれるケイ素原子の合計量に対して、0.01~20モル%に相当する量であることが好ましく、0.1~10モル%に相当する量であることがより好ましい。
【0074】
縮合工程における加水分解・重縮合反応の終了は、既述の各種公報等に記載される方法にて適宜検出することができる。なお、A成分の製造の縮合工程においては、反応系に助剤を添加することができる。例えば、反応液の泡立ちを抑える消泡剤、反応罐や撹拌軸へのスケール付着を防ぐスケールコントロール剤、重合防止剤、ヒドロシリル化反応抑制剤等が挙げられる。これらの助剤の使用量は、任意であるが、好ましくは反応混合物中のA成分濃度に対して1~100質量%程度である。
【0075】
A成分の製造における縮合工程後、縮合工程より得られた反応液に含まれる反応溶媒及び副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることにより、生成したA成分の安定性や使用性を向上させることができる。特に、反応溶媒として水と共沸する溶媒を用い、同時に留去することで、重合触媒として用いた酸や塩基を効率的に除去することができる。なお、留去には、用いた溶媒の沸点等にもよるが、100℃以下の温度で、適宜減圧条件を用いることができる。
【0076】
(B成分:直鎖状オルガノポリシロキサン)
本組成物は、B成分含むことができる。B成分としては、例えば、いわゆるシリコーンオイルと称される場合もあるオイル状を呈する直鎖状オルガノポリシロキサンを用いることができる。B成分をA成分に対して配合することにより、より優れた撥水撥油性を発揮することができる。推測であって本開示を理論的に拘束するものではないが、B成分の「配合」により、本組成物の成膜物の表面自由エネルギーを低下させ、その結果、撥水撥油性が向上すると考えられる。
【0077】
B成分は、例えば、以下の式(2)で表される。
【化6】
【0078】
B成分は、式(2)で表されるが、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~3程度のアルキル基、炭素原子数1~3のアルコキシ基、不飽和有機基などとすることができる。好ましくは、A成分と架橋反応可能な水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、不飽和有機基である。A成分と架橋しないアルキル基でも有効に機能するが、水素原子と不飽和有機基はヒドロシリル化(付加)反応で、ヒドロキシ基、アルコキシ基は脱水、脱アルコール(縮合)反応により架橋し、長期の耐熱防汚性が期待できる。すなわち、B成分のいずれかの末端又は両末端に、A成分のヒドロシリル基やアルコキシシリル基等と反応する反応性基を有することが好ましい。不飽和有機基は、既に説明した各種態様が適用されうる。なお、少なくともいずれかの末端又は両末端にこれらの反応性基を有していれば足りるが、側鎖にこれらの反応性基を備えることを排除するものではない。
【0079】
7は、炭素数1~20のアルキル基、フェニル基、ポリエーテル基、アラルキル基、フロロアルキル基、脂肪酸エステル基、脂肪酸アミド基から選択される少なくとも1種であるが、例えば、メチル基である。mは、例えば、10以上の整数であり、また例えば、30以上の整数である。また、mは、500以下の整数であり、また例えば、120以下の整数である。
【0080】
B成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーグラフィーによるポリスチレン換算重量平均分子量は、例えば、1,000~50,000であり、また例えば、2,000~30,000である。B成分の分子量が小さいと、シロキサン化合物と相溶し易く、膜の透明度が比較的高くなる。逆に、B成分の分子量が大きいと、シロキサン化合物と分離し、膜は不透明になる傾向があるが、B成分が表面に配向するためか、撥水性や撥油性は向上する傾向がある。
【0081】
本組成物に用いるB成分は、例えば、後述するC成分との相溶性、B成分が発揮すべき滑液性及び本組成物の高温での撥水撥油性を考慮して適宜選択することができる。
【0082】
こうしたB成分は、説明した構造となるように選択したアルコキシあるいはハロゲニルシラン化合物を用いることにより公知の方法により合成することができる。
【0083】
B成分としては、例えば、重量平均分子量が1,000~50,000の両末端シラノール変性ジメチルポリシロキサン、重量平均分子量が1,000~50,000の両末端ビニル基変性ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。かかるB成分としては、例えば、XC96-723、YF3800、XF3905、XF40-A1987(以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン株式会社製)、KF-9701、X-21-5841(以上、信越化学工業株式会社製)等やDMS-S14、DMS-S15、DMS-S21、DMS-S27、DMS-S31、DMS-S32、DMS-S33、DMS-V21、DMS-V22、DMS-V25、DMS-V31、DMS-V33、DMS-V35(以上、Gelest株式会社製)等が挙げられる。
【0084】
本組成物は、B成分を、例えば、A成分100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下程度で配合して用いることができる。また例えば、同5質量部以上25質量部以下、また例えば、同10質量部以上25質量部以下で用いることができる。
【0085】
本組成物がB成分とC成分とを含むとき、B成分は、A成分とC成分との総質量に対して任意の量含むことができる。例えば、0.1質量%以上50質量%以下である。0.1質量%未満であると、防汚助剤又は滑液性添加剤としての効果を得難くなりやすく、50質量%を超えると成膜性が比較的高いシロキサン化合物、分岐状オルガノポリシロキサンに対して成膜し難いB成分の割合が多過ぎて、塗膜形成が不十分となり、耐熱防汚性や耐摩耗性の低下に繋がりやすくなるからである。また例えば、1質量%以上40質量%以下であり、また例えば、10質量%以上30質量%以下である。
【0086】
(C成分:分岐状オルガノポリシロキサン)
本組成物は、さらに、C成分を含むことができる。C成分は、例えば、式(3)で表される。分岐状オルガノポリシロキサンは、例えば、いわゆるシリコーンレジンと称される場合もある。
【0087】
【化7】
【0088】
C成分は、式(3)で表されるが、R8は、水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、同一でも異なっていても良い。R9は、好ましくは、水素原子を含んでいる。この場合、C成分は、脱水縮合型となり、例えば、ヒドロシリル化反応触媒を要することなく、150℃以上の加熱によって脱水縮合反応を生じて硬化することができる。
【0089】
8は、典型的には、炭素原子数1~4のアルキル基とすることができる。アルキル基は、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよい。R8としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0090】
式(3)におけるp及びqは、それぞれ、p>0、q>0とすることができる。すなわち、C成分においてT単位は、必須成分とすることができる。こうすることで、膜の硬度及び靱性に貢献することができる。また、例えば、p及びqは、同時にp>0、q>0とすることができる。こうすることで、膜の硬度及び靱性の双方に一層貢献できる。また、式(3)における、r及びsは、それぞれ、r≧0、s≧0とすることができる。また、例えば、r及びsは、同時にr≧0、s≧0とすることができる。すなわち、C成分におけるD単位は、任意成分とすることができ、T単位のみであっても、膜強度特性を発揮させることが可能である。
【0091】
また、式(3)において、p+2r+s>q+sとすることができる。すなわち、C成分中のT単位及びD単位におけるメチル基の総数が、T単位及びD単位におけるフェニル基の総数よりも大きいとすることができる。C成分をかかる構成とすることで、良好な膜硬度と靱性とを兼ね備えることができる。
【0092】
C成分の重量平均分子量は、例えば、2,000以上とすることができる。重量平均分子量が小さすぎると、架橋密度が高くなりすぎて、割れや剥離の原因となるからである。また。また例えば、3,000以上である。一方、本組成物において、C成分の重量分子量の上限は、適宜、得られる膜特性を必要に応じて検討して適用可能性を決定すれば足りる。特に限定するものではないが、例えば、200万以下であり、また例えば100万以下であり、また例えば、50万以下であり、また例えば、20,000以下であり、また例えば、10,000以下であり、また例えば、8,000以下である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーグラフィーを用いたポリスチレン換算重量平均分子量として求めることができる。
【0093】
本組成物がB成分とC成分とを含むとき、C成分は、A成分とB成分との総質量に対して任意の量含むことができる。例えば、5質量%以上95質量%以下である。5質量%未満であると、耐摩耗性が低下しやすくなるからであり、95質量%を超えると耐熱防汚性が低下しやすくなるからである。また例えば、10質量%以上90質量%以下であり、10質量%以上80質量%以下であり、また例えば10質量%以上70質量%以下である。
【0094】
C成分は、説明した構造となるように選択したアルコキシあるいはハロゲニルシラン化合物を用いることにより公知の方法、例えば、既に説明したA成分の製造方法に準じて合成することができる。
【0095】
C成分としては、例えば、メチル基及びフェニルを有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。かかるC成分としては、例えば、KR112、KR211、KR212、KR255、KR271、KR272、KR282、KR300、KR311(以上、信越化学工業株式会社製)、RSN0249、220FLAKE、233FLAKE、249FLAKE、804RESIN、805RESIN、806RESIN、840RESIN(以上、東レダウ株式会社製)等が挙げられる。
【0096】
(溶剤)
本組成物は、必要に応じて溶剤で希釈して成膜のために供することもできる。溶剤は、A成分を溶解する溶剤が好ましく、B成分及び/又はC成分を含むときには、これらの追加成分を溶解する溶剤が好ましくその例としては、脂肪族系炭化水素溶剤、芳香族系炭化水素溶剤、塩素化炭化水素溶剤、アルコール溶剤、エーテル溶剤、アミド溶剤、ケトン溶剤、エステル溶剤、セロソルブ溶剤等の各種有機溶剤を挙げることができる。なお、Ptなどのヒドロシリル化触媒存在下では、Si-H基の分解を避けるため、アルコール以外の溶剤が好ましい。
【0097】
(ヒドロシリル化触媒)
本組成物は、ヒドロシリル化触媒を含むこともできる。ヒドロシリル化触媒は、A成分のヒドロシリル化反応を促進することができる。ヒドロシリル化触媒としては、例えば、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等の第8属から第10属金属の単体、有機金属錯体、金属塩、金属酸化物等が挙げられる。通常、白金系触媒が使用される。白金系触媒としては、cis-PtCl2(PhCN)2、白金カーボン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、塩化白金酸、ビス(エチレン)テトラクロロ二白金、シクロオクタジエンジクロロ白金、ビス(シクロオクタジエン)白金、ビス(ジメチルフェニルホスフィン)ジクロロ白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金等が例示される。これらのうち、特に好ましくは1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体である。なお、Phはフェニル基を表す。触媒の使用量は、A成分の量に対して、0.1質量ppm以上1000質量ppm以下であることが好ましく、0.5~100質量ppmであることがより好ましく、1~50質量ppmであることが更に好ましい。
【0098】
本組成物がヒドロシリル化反応用の触媒を含有する場合、A成分中の構成単位(1-5)中の残存アルコキシ基又は水酸基の脱水重縮合よりも、ヒドロシリル化反応が優先する場合があり、ヒドロシリル化構造部分を有しつつ、上記アルコキシ基又は水酸基をさらなる架橋反応可能に備える場合がある。
【0099】
本組成物がヒドロシリル化触媒を含有する場合、A成分のゲル化抑制および保存安定性向上のため、ヒドロシリル化反応抑制剤が添加されてもよい。ヒドロシリル化反応抑制剤の例としては、メチルビニルシクロテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール類、ハイドロパーオキサイド、窒素原子、イオウ原子またはリン原子を含有するヒドロシリル化反応抑制剤などが挙げられる。
【0100】
本組成物は、成膜に供するための組成物であってもヒドロシリル化触媒を実質的に含有しないものであってもよい。後述するように、A成分は、ヒドロシリル化触媒の不存在下でも加熱処理によりヒドロシリル化反応を促進して硬化させることができる。また、ヒドロシリル化触媒を含まないで成膜した場合、当該膜の撥水撥油性が向上する場合があるからである。本組成物において、ヒドロシリル化触媒を実質的に含有しないとは、意図的にヒドロシリル化触媒を添加しない場合のほか、A成分の量に対して、ヒドロシリル化触媒の含有量が、例えば、0.1質量ppm未満、また例えば、0.05質量ppm以下である。
【0101】
なお、本組成物は、A成分ないしC成分の合成時に用いた重合触媒を含有する場合があるが、重合触媒を実質的に含有しないことが好ましい。重合触媒が含有されていると、その液性(酸性又はアルカリ性)によって、コーティングのためなどの各種設備や機器の腐食のおそれが生じるほか、作業環境の安全性の低下が懸念されるからである。重合触媒は、A成分を得るための加水分解・重縮合後に、水及び揮発性溶媒の留去によって実質的に含有しないといえる程度に低減されうる。例えば、本組成物中に、重合触媒の量として、例えば、0.1質量%以下、また例えば、0.05質量%以下、また例えば、0.01質量%以下、また例えば、0.005質量%以下である。なお、重合触媒の定量は、例えば、Cl-のイオンクロマトグラフィーによって実施することができる。
【0102】
(その他の成分)
本組成物は、硬化に供されるにあたり、さらに各種添加剤が添加されてもよい。添加剤としては、例えば、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン類(トリアルコキシシラン、トリアルコキシビニルシランなど)などの反応性希釈剤などが挙げられる。これら添加剤は、得られるA成分の硬化物が耐熱性を損なわない範囲で使用される。
【0103】
<本組成物を用いた膜の製造方法>
本組成物を任意の形状を有する被加工体の表面に供給して硬化させることにより成膜して、撥水撥油性に優れた膜を形成することができる。例えば、本組成物を、撥水撥油性が要請される部位の表面に供給し、その後、この組成物を硬化させることができる。本組成物は、A成分が25℃における粘度が、30000mPa・s以下の液状物質であるので、本組成物も同程度の液状を維持することたでき、硬化にあたって被加工体の表面に対してそのまま塗布することができる。
【0104】
本組成物の被加工体表面への供給は、特に限定するものではないが、例えば、スプレーコート法、キャスト法、スピンコート法、バーコート法等の通常の塗工方法を用いることができる。
【0105】
本組成物は、概して、A成分,B成分及びC成分中の残存アルコキシ基及び/又は水酸基の重縮合反応による架橋構造の形成(一次硬化)及びA成分中のヒドロシリル基と不飽和有機基とのヒドロシリル化反応による架橋構造の形成(二次硬化)のいずれか又は双方によって、本組成物の硬化物を得ることができる。本組成物の硬化物は、概して、一次硬化のみからなる硬化物や一次硬化と二次硬化の双方を含む硬化物となるが、典型的な硬化物は、二次硬化による架橋構造の有無によって特徴付けられる。
【0106】
<本組成物の硬化方法、一次硬化を主とする硬化方法>
本組成物において、A成分、B成分及びC成分(以下、A成分等ともいう。)の未反応アルコキシ基やシラノール基の重縮合を促進して一次硬化物を得るには、例えば、A成分をヒドロシリル化触媒の非存在下において50℃以上200℃以下の温度で加熱することができる。また例えば、ヒドロシリル化触媒非存在下で100℃以上150℃以下の温度で加熱してもよい。50℃以上200℃以下の温度範囲においては、硬化温度を一定としてもよいし、昇温及び/又は降温を組み合わせてもよい。50℃以上200℃以下の温度においては、主にアルコキシシリル基の反応(加水分解・重縮合反応)による架橋構造を形成することができる。この加熱条件では、ヒドロシリル化反応触媒の不存在下でも、ヒドロシリル化反応による架橋構造が一部形成される場合もある。
【0107】
50℃以上200℃以下の温度で一次硬化させる場合の前段の硬化時間は、通常、0.1~10時間であり、0.5~5時間が好ましい。
【0108】
<本組成物の硬化方法、二次硬化を主とする硬化方法>
本組成物の二次硬化物は、例えば、本組成物を、ヒドロシリル化触媒の存在下、比較的低い温度(例えば、室温~200℃以下、好ましくは50℃以上150℃以下)で反応させることにより得ることができる。この場合、A成分等の重縮合反応よりもヒドロシリル化反応が促進されるため、一次硬化も進行するが、アルコキシ基等が残存しやすくなる傾向がある。ヒドロシリル化触媒を使用する場合の硬化時間は、通常、0.05~24時間であり、0.1~5時間が好ましい。
【0109】
本組成物の二次硬化物は、また例えば、本組成物を、ヒドロシリル化触媒の非存在下で、200℃以下での一次硬化後あるいは当該一次硬化を経ることなく、例えば、200℃超400℃以下の温度で加熱することにより得ることができる。かかる条件での二次硬化によると、例えば、硬化後の膜厚が0.1μm以上1μm以下でも、高温で優れた撥水撥油性を得ることができる。また、400℃以下であると、未反応のヒドロシリル基が残存しやすくなる傾向があるが、高温での撥水撥液性が優れる場合がある。加熱温度は、また例えば、350℃以下であり、また例えば、300℃以下である。なお、二次硬化を400℃超の温度で実施することを排除するものではなく、例えば、600℃以下、また例えば、500℃以下で二次硬化させることもできる。
【0110】
ヒドロシリル化触媒非存在下に熱によって二次硬化を促進する場合、加熱温度を複数段階で徐々に高くしてしてもよい。また、各温度での加熱時間は、例えば、0.1~2時間であり、また例えば、0.1~1時間であり、また例えば、0.2~0.5時間である。典型的には、200℃で10分後、昇温して350℃で10分などとすることができる。なお、加熱温度を昇温するには、例えば、5~10℃/分程度で昇温することができる。
【0111】
なお、A成分等の一次硬化及び二次硬化を含む本組成物の硬化は、触媒の有無に関わらず、空気中で行われてもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行ってもよく、また、減圧下で行ってもよい。但し、A成分等中に存在するアルコキシシリル基の反応を促進するためには、アルコキシシリル基が加水分解反応できる程度に水分を含む雰囲気であることが好ましい。空気中であれば、空気に含まれる水分により、アルコキシシリル基の加水分解反応が進行し、また、ヒドロシリル基が酸素により酸化されてヒドロキシシリル基を生成するため、十分な硬化を進めることができる。一方、不活性ガス雰囲気下や減圧下では、酸化による体積変化などの影響を受けにくくなるため、クラックの少ない硬化物を得ることができる。本組成物の硬化物の他の製造方法として、一次硬化は空気中で行い、二次硬化を空気中または窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中または減圧下で行う方法が好ましい。
【0112】
なお、本組成物は、上記したように溶剤を含みうる。溶剤を含む場合には、硬化に先立って溶剤を除去することが好ましい。溶剤の除去は空気中でなされてもよく、不活性ガス雰囲気中でなされてもよく、また、減圧下でなされてもよい。溶剤の除去のため加熱してもよいが、その場合の加熱温度は、200℃未満が好ましく、50℃以上150℃以下がより好ましい。溶剤の留去に必要な時間も特に限定するものではないが、例えば、0.1~0.5時間程度とすることができる。なお、こうした溶剤の留去は、一次硬化や二次硬化を伴いうる。
【0113】
本組成物は、以上説明した膜の製造方法によって、被加工体の表面に成膜された膜状体となる。本組成物の硬化物としては、例えば、A成分や、A成分、B成分及びC成分相互の硬化物を含有する。こうした硬化物としては、A成分等における未反応のアルコキシ基、すなわち、構成単位(1-5)におけるR4のアルコキシ基や水酸基を脱水・重縮合によりシロキサン結合を十分に形成させてより架橋を促進することで硬化(かかる残存アルコキシ基等の重縮合による硬化を一次硬化ともいう。)させた硬化物が挙げられる。
【0114】
また、他の硬化物は、構成単位(1-2)~(1-3)に備える水素原子と不飽和有機基との間でのヒドロシリル化反応を生じさせてより架橋を促進することで硬化(かかる硬化を二次硬化ともいう。)させた硬化物が挙げられる。かかる硬化物(以下、二次硬化物ともいう。)は、A成分におけるこれらの構成単位におけるヒドロシリル化反応する官能基(ヒドロシリル基及び不飽和有機基)の少なくとも一部がヒドロシリル化反応して形成された不飽和有機基に由来する炭素-炭素結合(一重結合又は二重結合)を含む構造部分(-Si-C-C-R-Si-、-Si-C=C-R-Si-)(ヒドロシリル化構造部分ともいう。Rは炭素原子数1~8の有機基であり、mは0又は1の整数である。)を有するA成分の誘導体を含むことができる。例えば、-Si-C-C-Si-、-Si-C=C-Si-部分が挙げられる。
【0115】
例えば、本組成物が、A成分のほか、B成分を含む場合には、A成分の上記の硬化物のほか、B成分の重縮合による硬化物や、A成分とB成分との重縮合による硬化物を含む場合がある。
【0116】
また例えば、本組成物が、A成分のほか、C成分を含む場合には、A成分の上記の硬化物のほか、分岐状オルガノポリシロキサンの水酸基又はアルコキシ基の重縮合による硬化物やA成分と分岐状オルガノポリシロキサンとの間の重縮合による硬化物を含む場合がある。また例えば、A成分、B成分及びC成分を含む場合には、A成分のほか、各硬化物ほか、各成分相互の硬化物が含まれる。
【0117】
本組成物が成膜された態様を採る場合、本組成物は、概して、二次硬化物である。ヒドロシリル化構造部分が、実用的な膜強度や膜性能に貢献することができる。
【0118】
本組成物から硬化される膜状体の場合、その膜厚は特に限定するものではないが、例えば、0.05μm~10μmとすることができる。また例えば、0.1μm以上3μm以下であり、また例えば、0.2μm以上2μm以下であり、また例えば、0.2μm以上1.5μm以下である。
【0119】
A成分の一次硬化は二次硬化を伴うことがあり、また、二次硬化は一次硬化を伴うことがあり、二次硬化は、多くの場合、一次硬化を伴う。したがって、本組成物の硬化物は、概して、二次硬化物であり、多くの場合一次硬化を伴うことになる。典型的な硬化物は、二次硬化による架橋構造の有無によって特徴付けられる。硬化物は、例えば、H NMR、29Si NMRを用いた、Q単位、T単位、D単位及びM単位、アルコキシ基などの構成単位や構造の規則性(不規則性)による検出、及びIRスペクトルによる特性基の検出により、その組成や構造を特定することができる。
【0120】
例えば、A成分の二次硬化物を含む本組成物の耐熱性は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)などにより評価することができる。本組成物をヒドロシリル化反応用の触媒を使用しないで硬化させて得られる本組成物の硬化物は、1000℃での重量減少率を5%程度とすることができ、高耐熱性を示す。また、ヒドロシリル化反応用の触媒を使用しても、触媒量等の調節によって、硬化物の1000℃での重量減少率が10%程度とすることができ、高耐熱性を示す。
【0121】
また例えば、A成分の二次硬化物を含む本組成物の撥水撥油性は、接触角計を用いて評価することができる。例えば、動画撮影機能を備える接触角計を用いて、4μmの水又はオレイン酸を本組成物の塗膜表面に滴下し、滴下10秒後の接触角に基づいて、撥水性又は撥油性を評価できる。なお、塗膜は、5cm×5cm~15cm×15cmの面積(典型的には、1cm×5cm)の平面を有する琺瑯、ステンレス及びガラス製のいずれかの試験片とし、前記平面に対して膜厚1μmで形成する。当該塗膜上において概ね均等に分散配置した異なる5個所で接触角を測定し、最大値及び最小値を除いた3点の平均値を評価対象とする。本組成物は、例えば、400℃で24時間経過後におけるオレイン酸滴下時の接触角が40°以上であり、また例えば、45°以上であり、また例えば50°以上である。
【0122】
(耐熱防汚方法)
本明細書に開示される耐熱防汚方法は、本組成物を基材表面に塗布し、前記組成物を加熱して硬化物を形成する工程、を備えることができる。本方法によれば、基材表面に耐熱性を付与するとともに、高温での撥水撥油性に優れた被膜を形成することができる。本方法は、後述する加熱室を有する装置の製造方法としてのほか、こうした装置等における耐防汚性を維持又は向上させるための補修方法としても実施できる。
【0123】
基材の材質は、特に限定するものではないが、例えば、ステンレスなどの金属系材料、セラミックス材料、琺瑯などのガラス材料等が挙げられる。被加工体である基材は特に限定するものではないが、例えば、後述する調理装置などの加熱室を有する装置の要素及び工場設備において熱に曝露される構造体が挙げられる。本組成物の基材表面への適用方法は、既に説明したスプレーコート等が挙げられる。また、本組成物中のA成分の硬化は、用途に合わせて既に説明した種々の条件を用いることができるが、好ましくは二次硬化を意図した方法を採用することができる。
【0124】
<加熱室を備える装置及びその製造方法>
本明細書に開示される装置(以下、単に、本装置ともいう。)は、加熱室と、前記加熱室の少なくとも一部であって熱に曝露される要素表面に備えられる膜状の本組成物と、を備えることができる。本装置によれば、加熱室の上記要素に膜状体として本組成物を備えることができるため、当該要素に撥水撥油性を付与して防汚性を付与することができる。本組成物は、高温での撥水撥油性に優れるため、加熱室内が300℃程度の高温に加熱された場合であっても、内壁などの要素の防汚性が確保され、被加熱物に由来する、例えば、油分などの汚れなどが付きにくくまた例えば汚れを除去しやすくなっている。
【0125】
本装置としては、電気又はガスによる加熱室を備える、例えば、厨房等において用いられるオーブン装置、ガス調理器になどに付属するグリル装置などの各種調理装置が挙げられる。また、工場設備などの主として産業用用途の加熱装置が挙げられる。なお、特に、産業用用途においては、加熱室は、トンネル式オーブンなどであってもよい。こうした装置において、本組成物は、例えば、内壁などの熱に曝露される要素に膜状体として備えられる。内壁は、加熱に伴い、被加熱物から発生するガス、液体及び固体が付着する可能性が高い。熱に曝露される要素としては、加熱室の内壁のほか、例えば、加熱に伴い被加熱物からの発生物が付着しうる他の要素であってもよい。例えば、加熱室の底部、加熱室の開閉部の内壁、加熱室に載置される天板、網などの被加熱物の載置又は保持部材等が挙げられる。こうした要素は、特に限定するものではないが、例えば、ステンレスなどの金属系材料、セラミックス材料、琺瑯などのガラス材料等で構成されている。
【0126】
こうした加熱室の要素表面において、本組成物は、例えば、既に記載したような膜厚で膜状体として備えられている。本組成物は、好ましくは、ヒドロシリル化構造部分を有する二次硬化を伴う硬化物を含んでいる。また、好ましくは、ヒドロシリル化触媒の非存在下で二次硬化による硬化物である。さらに、好ましくは、直鎖状のオルガノポリシロキサンを含有している。
【0127】
本装置は、例えば、本装置の製造工程において、あるいは本装置の製造とは分離した製造工程において、内壁等の要素の表面に本組成物を供給し、硬化させて、前記要素表面に本組成物の撥水撥油膜を形成することを含む方法で製造されうる。本組成物は、特に限定するものではないが、例えば、スプレーコート法、キャスト法、スピンコート法、バーコート法等の通常の塗工方法で要素に供給することができる。また、本組成物中のA成分の硬化は、既に説明した種々の条件を用いることができるが、好ましくは二次硬化を意図した方法を採用することができる。
【0128】
<構造体及びその製造方法>
本明細書は、また、熱に曝露される要素の表面に本組成物を備える構造体も提供する。こうした構造体は、工場などにおける種々の設備又はその一部や工場を構成する建築要素でありうる。かかる構造体によれば、加熱室と同様、撥水撥油性を付与して優れた防汚性を付与することができる。かかる構造体としては、例えば、産業機械、工作機械、排気等のためのダクト、スクラバー等が挙げられ、その材料も加熱室の要素と同様種々挙げられる。
【0129】
かかる構造体表面における本組成物の膜厚、硬化形態及び本組成物の膜形成方法を始めとする種々の実施態様としては、既述の加熱室における熱に曝露される要素表面への本組成物の種々の実施態様を採用することができる。
【実施例
【0130】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。なお、「Mn」及び「Mw」は、それぞれ、数平均分子量及び重量平均分子量を意味し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(以下、「GPC」と略す)により、トルエン溶媒中、40℃において、連結したGPCカラム「TSK gel G4000HX」及び「TSK gel G2000HX」(型式名、東ソー社製)を用いて分離し、リテンションタイムから標準ポリスチレンを用いて分子量を算出したものである。また、得られたA成分の1H-NMR分析では、試料を、重クロロホルムに溶解し、測定及び解析を行った。さらに、得られたA成分の粘度を、E型粘度計を用いて25℃で測定した。
【実施例1】
【0131】
(A成分(ポリシロキサンP1)の合成)
四つ口フラスコに、磁気攪拌機、滴下ロート、還流冷却器及び温度計を装着し、フラスコ内を窒素ガス雰囲気にした。次いで、このフラスコに、磁気撹拌子、メチルトリエトキシシラン142.64g(0.8mol)、ジメトキシジメチルシラン96.18g(0.8mol)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン13.43g(0.1mol)、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン18.64g(0.1mol)、2-ブタノール138.11g及びキシレン414.33gを収容し、そして、25℃として内容物を撹拌しながら、3.74質量%濃度の塩酸水溶液74.86g、2-ブタノール69.06gの混合液を、滴下ロートから1時間かけて滴下し、加水分解・重縮合反応を行った。滴下終了後、反応液を25℃で18時間放置した。次いで、反応液から、水を含む揮発性成分を減圧留去(温度:11℃~60℃、圧力:52~1mmHg)し、無色の液体(以下、「ポリシロキサン(P1)」という。)142.2gを得た。このポリシロキサン(P1)について、GPCにより、数平均分子量(Mn)を測定したところ、580であり、重量平均分子量(Mw)は、830であった。また、E型粘度計により、25℃における粘度を測定したところ、11mPa・sであった。1H-NMR分析の結果、ほとんどの原料は定量的に反応したが、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(以下、TMDSOと略記する)に由来するM単位の構成比については、その仕込み量に対応する理論値に対して84%であり、アルコキシ基(R81/2)の含有率は8.0wt%であり、アルコキシ基の全Siに対するモル比は0.064あった。
【0132】
表1には、ポリシロキサンP1の合成に用いた原料のモル比と、用いた原料が備えるSi、ヒドロシリル性のH及び不飽和有機基のビニル基のモル比と、を併せて示す。また、表2には、合成したポリシロキサンP1における、原料に由来するSi、Si-H基、トリエトキシシラン由来のSi-H基、Si-H基/Si(ただし、モル比)、トリエトキシシラン由来のSi-H基/Si(ただし、モル比)、ビニル基、D構造/Si、すなわち、x/(v+w+x+y)(ただし、モル比)、D構造/T構造、すなわち、x/w(ただし、モル比)、Si-C-C-Si/Si(ただし、モル比)、(X1+X2)/(v+w+x+y)、(y1+y2)/(v+w+x+y)、w/(v+w+x+y)及びy/(v+w+x+y)等について、仕込み量に基づく各モル量と1H-NMR分析の結果に基づく各モル量とを示す。
【0133】
(A成分(ポリシロキサンP2)の合成)
以下の表1に示す組成に準じて、表1に示す原料について示したモル比の10分の1のモル量の原料を用い、溶媒としてイソプロピルアルコールを用いる以外は、ポリシロキサンP1と同様にしてポリシロキサンP2を得た。これらのポリシロキサンについての各モル量等を表2に示す。また、GPCにより、数平均分子量(Mn)を測定したところ1250であり、重量平均分子量(Mw)は、2960であった。また、E型粘度計により、25℃における粘度を測定したところ、それぞれ、37mPa・sであった。
【0134】
また、表1に示す原料について示したモル比の10分の1のモル量の原料を用い、溶媒としてイソプロピルアルコールを用いる以外は、ポリシロキサンP1と同様にしてポリシロキサンP3~P4を得た。これらのポリシロキサンについての各モル量等を表2に示す。また、数平均分子量(Mn)を測定したところ、それぞれ、1110及び1440であり、重量平均分子量(Mw)は、1290及び1990であった。また、E型粘度計により、25℃における粘度を測定したところ、それぞれ、14及び43mPa・sであった。
【0135】
1H-NMR分析の結果、ほとんどの原料は定量的に反応したが、TMDSOに由来するM単位の構成比については、その仕込み量に対応する理論値に対して、それぞれ82、87及び84%であり、アルコキシ基の含有率は、それぞれ、0.03、0.9及び0.9wt%であり、アルコキシ基の全Siに対するモル比は、それぞれ、0.018、0.010及び0.010であった。表2に、P1と同様に、P2~P4の各Si-H基等の各構成比を示す。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【実施例2】
【0138】
実施例1で合成したポリシロキサンP1及びP2をA成分(シロキサン化合物)として用いるほか、表3に示す組成で、B成分(直鎖状オルガノポリシロキサン)及びC成分(分岐状オルガノポリシロキサン)を用いて実施例の成膜用組成物を調製した。すなわち、A成分に溶剤を添加してA成分を溶解後、次いでB成分を添加し溶解し、さらにC成分を添加し十分に撹拌後、実施例1A~18Aの成膜用組成物とした。また、合わせて、比較例1A~19Aの成膜用組成物も調製した。
【0139】
【表3】
(1)シリコーンオイルA:
両末端シラノール変性シリコーンオイル、Mn8600、Mw22000
(2)シリコーンオイルB:
両末端シラノール変性シリコーンオイル、Mn1800、Mw4000
(3)シリコーンレジンA:
T単位からなる、脱水縮合型メチルフェニルシリコーンレジン(Mw7、500)
(4)シリコーンレジンB:
T単位及びD単位からなる、脱水縮合型メチルフェニルシリコーンレジン(Mw3、000)
(5)シリコーンレジンC:
T単位及びD単位からなる、脱水縮合型メチルシリコーンレジン(Mw1、790、000)
(6)シリコーンレジンD:
T単位、D単位及びM単位からなる、付加重合型メチルフェニルシリコーンレジン(Mw2、820)
(7)シリコーンレジンE:
T単位、D単位及びM単位からなる、付加重合型メチルフェニルシリコーンレジン(Mw1、640)
(8)シリコーンレジンF:
T単位、D単位及びM単位からなる、脱水縮合型メチルフェニルシリコーンレジン(Mw1、400)
(9)シリコーンレジンG:
T単位からなる、付加重合型プロピルフェニルシリコーンレジン(Mw2、000)
(10)MEK:
メチルエチルケトン
【0140】
こうして調製した各種の成膜用組成物を、基材として10cm×10cmの琺瑯及びステンレス(SUS304)の試験片の表面にスピンコート(600rpmで5秒間)にて塗布し、50℃で5分間乾燥して溶剤を留去後、200℃で10分加熱した後、15分間昇温して350℃で10分加熱して、各組成物を硬化させて、表4及び表5に示す膜厚の膜を得た。
【0141】
これらの試験片上の膜につき、硬化後室温に戻った後(初期)及び400℃で24時間加熱後に接触角(°)を測定した。接触角は、動画撮影機能を備える接触角計(英弘精機株式会社製)を用いて、4μlの水及び/又は同量のオレイン酸を滴下し、その10秒後の液滴について測定した。試験片毎に、均等に配置された5個所の測定点につき、接触角の測定を行い、最大値及び最小値を除いた3点の平均値を測定値とした。
【0142】
さらに、BEMCOT M-3II(旭化成株式会社製)に500g荷重をかけ、所定の回数(1000回)往復させることにより、硬化後の膜に対して摩耗処理を行い、その後の接触角を上記と同様にして測定した。さらに、摩耗処理後の膜の状態(キズや剥離の有無、剥離割合:%)をキーエンス製レーザー顕微鏡VK-9700を用いて観察した。
【0143】
結果を表4及び表5に示す。なお、表5において膜厚がスラッシュで分けて2種記載されている実施例では、スラッシュ左側の膜厚の膜を摩耗処理に供して耐摩耗性を評価した。
【0144】
【表4】
【0145】
【表5】
【0146】
表4及び表5に示すように、A成分、B成分及びC成分を含有することで、琺瑯及びステンレスの表面において、400℃で24時間加熱後も優れた撥水撥油性を呈することができた。また、摩耗処理後においても、剥離することなく十分な膜状態を維持しており、この結果、この膜は、摩耗処理後も十分な撥水撥油性を発揮できることがわかった。
【0147】
これに対して、比較例では、B成分が存在しないと組成物を調製できないが、B成分が多すぎても、耐熱防汚性が低下する傾向があることがわかった。また、C成分を含まない場合には、十分な耐摩耗性が得られないことがわかった。以上のことから、A成分、B成分及びC成分を含有することで、琺瑯及びステンレス表面において耐熱防汚性及び耐摩耗性を同時に充足できることがわかった。さらに、C成分が、メチル基とフェニル基を有する脱水縮合タイプであって構成単位としてT単位のみ並びにT単位とD単位とのみからなるシリコーンレジンであると、琺瑯及びステンレス表面において耐熱防汚性及び耐摩耗性に優れた膜を得ることができることがわかった。
【実施例3】
【0148】
さらに、A成分として実施例で合成したP3~P4のポリシロキサンを、P1~P2と同様に本明細書の開示を適用できることについて示す。
【0149】
合成したポリシロキサンP1~P4をA成分として用いるほか、表6に示す組成で、B成分を用いて実施例の成膜用組成物を調製した。すなわち、ポリシロキサンP1~P4をそれぞれ0.5gとり、溶剤として最終的に表6に規定する樹脂(ポリシロキサン及びシリコーンオイル)分率(NV:樹脂と溶剤との全質量に対する樹脂の質量比率(%))となるような量を加えた上、以下の表5に示す質量比(P:Si(ポリシロキサン:シリコーンオイル)=5:1などと示す。)で種々のシリコーンオイルを添加して混合して各種の成膜用組成物とした。これらの組成物を、基材としておよそ10cm×10cmの琺瑯、ステンレス(SUS304)及びガラスの試験片の表面にスピンコート(600rpmで5秒間、さらに1500rpmで8秒間)にて塗布し、50℃で5分間乾燥して溶剤を留去後、200℃で10分加熱した後、15分間昇温して350℃で10分加熱して、各組成物を硬化させて、表5に示す膜厚の膜を得た。これらの膜につき、硬化製膜後(初期)及び熱処理(400℃、24時間)後について、水及びオレイン酸の接触角を実施例に準じて評価した。結果を、表6に示す。
【0150】
【表6】
【0151】
表6に示すように、C成分であるシリコーンレジンを含まない組成物においても、ポリシロキサンP1~P4は、いずれも、各種基材表面において同様に良好な耐熱防汚性を備えていることがわかった。したがって、こうしたポリシロキサンP1~P4であるA成分とし、B成分及びC成分をさらに備える本組成物は、優れた耐熱防汚性と耐摩耗性を発揮できることがわかった。