(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
F02D 29/00 20060101AFI20230301BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
F02D29/00 B
F16H61/02
(21)【出願番号】P 2019121592
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】青井 航一
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156690(JP,A)
【文献】特開2016-211513(JP,A)
【文献】特開2009-232773(JP,A)
【文献】特開2013-210196(JP,A)
【文献】特開2018-073399(JP,A)
【文献】特開平10-164907(JP,A)
【文献】特開平11-151007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00-29/06,43/00-45/00,
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50,
B60W 10/00,10/02,10/04-10/06,
10/08,10/10,10/101-10/18,
10/184-10/26,10/28,10/30,
30/00-60/00
G01C 21/00-21/36,23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力を発生するエンジン(5)と、
前記エンジン(5)の回転数を所定の低速回転数から高速回転数までの範囲内で固定するよう操作するスロットル操作手段(15)と、
前記エンジン(5)の回転数を任意に変更するよう操作するアクセル操作手段(16)と、
路上走行モードと作業走行モードを切り替えるモード切替え手段(20)と、
前記スロットル操作手段(15)の選択された回転数を検出するスロットルセンサ(72)と、
前記アクセル操作手段(16)の操作量を検出するアクセルセンサ(73)と、
前記モード切替え手段(20)の切り替えを検出するモード切替えセンサ(74)と、
車体(2)の位置を計測する測位装置(100)と、
少なくとも前記エンジン(5)の動作を制御する制御手段(70)と、
を備え、
前記制御手段(70)は、
前記測位装置(100)で得られる測位情報を少なくとも予め作業走行する圃場の範囲
および前記圃場の出入口に関する位置情報と照合して車体(2)の位置を検出する位置検出部(88)を有し、
前記位置検出部(88)において車体(2)の位置が前記圃場の外側の位置であると検出された場合、前記エンジン(5)の回転数を前記アクセルセンサ(73)の検出値に応じて制御
し、
前記位置検出部(88)において車体(2)の位置が前記圃場の出入口に対して所定の距離未満になる接近した位置であると検出された場合、前記エンジン(5)の回転数を前記所定の低速回転数にするよう制御することを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタ等の作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタ等の作業車両におけるエンジンの回転を調節する技術としては、下記特許文献1に記載された作業車両が知られている。
【0003】
特許文献1には、エンジンからの回転駆動力が変速装置を介して出力される走行変速系を備え、その変速装置における副変速を行う副変速レバーが高速側に切り替えられた状態で路上走行する作業車両において、その副変速レバーの高速側への操作に連動して高速側にセットされているスロットルレバーを低速側に切り替えるとともに、副変速レバーの高速への切替え状態ではスロットルレバーの高速側への操作を規制する連動手段を備えるエンジン回転調整装置を採用した作業車両が記載されている。
また特許文献1には、副変速レバーが高速側に切り替えられた場合はスロットルレバーが連動手段によって低速側に切り替えられるとともに高速側への操作が規制された状態になるので、その状態で路上走行するときは、エンジンの回転調節をスロットルレバーとは別系統であるフートペダルのみで行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された作業車両は、副変速レバーとスロットルレバーが連動手段で連結されているため、副変速レバーを高速側に切り替えた場合には、常にスロットルレバーが低速側に切り替えられて高速側への操作が規制されることになってしまい、エンジンの回転数をスロットルレバーの操作により調節することが不可能であった。
このため、この作業車両では、圃場、牧場等の作業場において例えばトレーラーを牽引して荷物の運搬移動をする場合、副変速レバーを高速側に切り替えたときには、スロットルレバーを操作して高速で走行したいときがあっても、それができず不便を強いられることになる。
【0006】
ちなみに近年、本出願人にあっては、路上を走行する路上走行モードと圃場等で作業しながら走行する作業走行モードとして、その路上走行や作業走行にそれぞれ適した制御機能や動作が有効になるよう予め選定された構成からなるモードを用意し、その路上走行モードと作業走行モードをモード切替えスイッチで簡単に切り替えて対応することができる作業車両の開発を続けている。その構成の一例としては、作業走行モードが選択されたときには、副変速レバーの選択内容に関係なくスロットルレバーによる制御操作を可能とする一方で、路上走行モードが選択されたときには、スロットルレバーによる制御操作を禁止するという設定である。
このようなモード切り替えが可能な作業車両であれば、作業走行モードを選択したときにスロットルレバーによる制御操作ができるので、作業場においてスロットルレバーを操作して低速以外の高速等の選択内容にしたうえで走行することも可能になる。
【0007】
しかしながら、このモード切り替えが可能な作業車両であっても、路上走行するときと作業走行するときにはモード切替えスイッチにより所望のモードに切り替える操作をする必要があり、その切り替えの操作を運転者がし忘れると、路上走行や作業走行にそれぞれ適したエンジンの回転数に関する制御操作が行われず安全性に欠けるおそれがあった。
【0008】
そこで、この発明の課題は、路上走行モードに切り替える操作を忘れたとしても、路上走行に適したエンジンの回転数に関する制御操作が行われて安全性を確保することができる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、以下の手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、
回転動力を発生するエンジン(5)と、
前記エンジン(5)の回転数を所定の低速回転数から高速回転数までの範囲内で固定するよう操作するスロットル操作手段(15)と、
前記エンジン(5)の回転数を任意に変更するよう操作するアクセル操作手段(16)と、
路上走行モードと作業走行モードを切り替えるモード切替え手段(20)と、
前記スロットル操作手段(15)の選択された回転数を検出するスロットルセンサ(72)と、
前記アクセル操作手段(16)の操作量を検出するアクセルセンサ(73)と、
前記モード切替え手段(20)の切り替えを検出するモード切替えセンサ(74)と、
車体(2)の位置を計測する測位装置(100)と、
少なくとも前記エンジン(5)の動作を制御する制御手段(70)と、
を備え、
前記制御手段(70)は、
前記測位装置(100)で得られる測位情報を少なくとも予め作業走行する圃場の範囲および前記圃場の出入口に関する位置情報と照合して車体(2)の位置を検出する位置検出部(88)を有し、
前記位置検出部(88)において車体(2)の位置が前記圃場の外側の位置であると検出された場合、前記エンジン(5)の回転数を前記アクセルセンサ(73)の検出値に応じて制御し、
前記位置検出部(88)において車体(2)の位置が前記圃場の出入口に対して所定の距離未満になる接近した位置であると検出された場合、前記エンジン(5)の回転数を前記所定の低速回転数にするよう制御することを特徴とする作業車両である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、路上走行モードに切り替える操作を忘れたとしても、路上走行に適したエンジンの回転数に関する制御操作が可能になって安全性を確保することができる。
この発明では、位置検出部で作業車両の車体が圃場の外側にいることが検出されると、制御手段によりエンジンの回転数がアクセルセンサの検出値に応じて制御されるよう自動で設定される。これにより、圃場の外側において路上走行するときには、エンジンの回転数をスロットル操作手段の操作で変更することはできないがアクセル操作手段の操作により任意に変更することができる。このため、路上走行モードの切り替えの有無にかかわらず路上走行時に適したエンジンの回転数に関する制御操作が行われるようになり、安全性が確保される。
また、請求項1に記載の発明によれば、作業車両が圃場の出入口に接近すると、制御手段によりエンジンの回転数が低速回転数になるよう自動で制御されることで走行速度も低下するので、圃場の出入口における安全性を確保することができる。
この発明では、作業車両が路上又は圃場内から圃場の出入口に接近する場合に、位置検出部で作業車両の車体が圃場の出入口に接近した位置にいることが検出されると、制御装置により自動でエンジンの回転数が所定の低速回転数に変更されて車体の走行速度が低下させられる。これにより、操縦者は圃場の出入口に接近したことを知ることができ、また走行が続行されていても圃場の出入口を少なくとも低下した速度で通過することができ、圃場の出入口の安全な移動が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施形態に係るトラクタを示す左側面図である。
【
図2】トラクタの駆動伝達系や制御系の構成を示す平面模式図である。
【
図3】操縦席の前方側の構成を示す概略斜視図である。
【
図4】(A)は
図3の前方側の一部を示す右側概略斜視図、(B)は(A)の前方側の一部における一部を示す概略拡大図である。
【
図5】(A)は操縦席の後方側の構成を示す概略斜視図、(B)は(A)の後方側の一部における一部を拡大して示す概略斜視図である。
【
図6】トラクタの制御系の構成を示す機能ブロック図である。
【
図7】作業走行する圃場等の位置情報を地図形式に模して示す概要図である。
【
図8】第1の実施形態における走行モードに関する制御処理を示すフローチャート図である。
【
図9】第2の実施形態における走行モードに関する制御処理を示すフローチャート図である。
【
図10】圃場の出入口の位置情報等を地図形式に模して示す概要図である。
【
図11】第3の実施形態における走行モードに関する制御処理を示すフローチャート図である。
【
図12】第4の実施形態における走行モードに関する制御処理を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
[第1の実施形態]
図1には、この発明の第1の実施形態に係る作業車両の一例であるトラクタ1が示されている。
図2には、
図1のトラクタ1の一部(駆動伝達系や制御系の構成)が示されている。
以下の説明では、前後とはトラクタ1の前進する方向と後進する方向とする。また同様に、左右(L,R)とはトラクタ1の前進する方向で見たときの左側および右側とし、上下とはトラクタ1の上側および下側とする。
【0020】
トラクタ1は、
図1や
図2に示されるように、車体2の前部および後部に左右一対の前輪3(3L,3R)および後輪4(4L,4R)が設けられている。またトラクタ1は、車体2の前部に内に搭載されたエンジン5で発生させる回転動力が、車体2の中間部に配置された主変速部6Aと副変速部6Bからなる変速機構部6(
図2参照)において適宜減速された後に後輪4等に伝えられる。
これにより、トラクタ1は、所要の速度で前進および後進することが可能な車両として構成されている。エンジン5については、その前部および上部を含む一部が、開閉するボンネット7で覆われている。
【0021】
このトラクタ1においては、
図2に示されるように、変速機構部6において減速された後の回転動力を前輪3に伝達することを接続又は切断するための前輪駆動クラッチ65が設けられている。
この前輪駆動クラッチ65を接続する状態(入り状態)にしたときは、その回転動力が差動装置の前輪デフ装置31から左右の前輪軸部32L,32Rを通して前輪3に伝わるとともに後輪デフ装置41から左右の後輪軸部42L,42Rを通して後輪4に伝わって、四輪が駆動される。また、前輪駆動クラッチ65を切断する状態(切り状態)にしたときは、回転動力が後輪4のみに伝わって二輪が駆動される。
これにより、トラクタ1は、前輪駆動クラッチ65を切り替えることにより、二輪駆動(2WD)と四輪駆動(4WD)のいずれかの形態で走行することが可能になっている。
【0022】
また、トラクタ1は、
図1等に示されるように、車体2の後部に、ロータリ耕うん機等の作業機90を連結させて昇降動させる連結昇降装置8や、作業機90で利用される回転動力を出力するPTO軸9が設けられている。
【0023】
連結昇降装置8は、リンク機構、ロッド、油圧シリンダ等を組み合わせて構成されている。PTO軸9は、エンジン5で発生する回転動力の一部が分配されてPTOクラッチ95およびPTO変速部96(
図2参照)を介して伝達されることにより所定の速度および方向に回転するようになっている。
図1では、作業機90としてロータリ耕うん機を例示している。このロータリ耕うん機によれば、
図1に示されるように圃場に下降させられた状態において、PTO軸9から伝達される回転動力で耕うん爪91を回転させることにより圃場の地面(土壌)を耕すことができる。
【0024】
さらに、トラクタ1では、
図1から
図3等に示されるように、車体2の中間部から後部にかけて、トラクタ1の操縦者が座って運転等の操作を行う操縦席10が設けられている。操縦席10は、例えば、操縦者が座るシート部10aと操縦者の足を置く床面部10bとで構成されている。
【0025】
操縦席10の前方には、
図1、
図3等に示されるように、床面部10bの左右中央部から立ち上がるハンドルポスト11が設けられている。ハンドルポスト11の上部には、ステアリングホイール(ハンドル)12やメーターパネル13が設けられている。
ステアリングホイール12は、前輪3の操舵装置33を作動させて走行するときの向きを調節するよう操作される。メーターパネル13は、トラクタ1における走行速度、設定や状態の状況、警告内容等の情報を表示する表示手段等で構成されている。
【0026】
また、ハンドルポスト11の上部でステアリングホイール12の下方側の周辺部分には、
図3等に示されるように、前後進切替えレバー14、スロットルレバー15等が設けられている。
前後進切替えレバー14は、前進走行と後進走行との切り替えを行うように操作される。スロットルレバー15は、エンジン5の回転数を所定の範囲内で選択して固定するよう操作するスロットル操作手段の一例である。スロットルレバー15は、例えば、所定の低速回転数と所定の高速回転数の2種類の回転数を選択できるようになっている。このときの所定の低速回転数は、アイドリング状態のときの回転数に設定される。
【0027】
さらに、ハンドルポスト11の上部には、
図4に示されるように、トラクタ1の路上走行モードと作業走行モードを切り替えるモード切替え手段の一例としてのモード切替えスイッチ20が設けられている。
【0028】
第1の実施形態におけるモード切替えスイッチ20は、
図4(B)に拡大して示されるように、ダイヤル式のものであり、路上走行モードとしての「走行」と、作業走行モードとしての「耕うん」とに切り替えることができるように構成されている。
路上走行モードとしての「走行」は、道路走行、圃場の出入り、傾斜地等の場所を走行する際に適した機能や動作が予め選定されており、例えば4WD,2WDの駆動切り替え機能や水平切替え等が実行されるよう設定されている。作業走行モードとしての「耕うん」は、圃場等の作業場において行われる作業に適した機能や動作が予め選定されている。その機能や動作としては、例えば、4WDに固定されること、後進に切り替えたときやステアリングホイール12を切ったときに作業機90を自動で上昇させること、旋回時に内側の後輪4に自動的にブレーキをかけること等の機能や動作であり、これらが実行されるよう設定されている。
また、このモード切替えスイッチ20には、カスタマイズ設定モードとしての「こだわり」も用意されている。このカスタマイズ設定モードとしての「こだわり」は、主に作業時の機能について操縦者が任意に選択変更することが可能なモードであり、主に作業走行モードとしての「耕うん」における機能や動作の採用の有無を選択することができる。
【0029】
操縦席10の床面部10bでハンドルポスト11の下部の周辺部分には、
図3等に示されるように、アクセルペダル16、左右のブレーキペダル17L,17R、クラッチペダル18、PTO変速レバー19等が設けられている。
アクセルペダル16は、エンジン5の回転数を任意に変更するよう操作するアクセル操作手段の一例であり、ペダル式になっている。左右のブレーキペダル17L,17Rは、左右の後輪4L,4Rにおける図示しないブレーキ装置を作動させるときに踏み込んで操作される。クラッチペダル18は、エンジン5と主変速部6Aの間に配置されてエンジン5の回転動力の伝達を接続又は切断するとともに回転動力を前進および後進用に切り替えて伝達させる前後進クラッチ55を作動させるときに踏み込んで操作される。PTO変速レバー19は、PTO軸9の回転の速度や方向の切り替えが行われるPTO変速部96を作動させるときに操作される。
【0030】
操縦席10のシート部10aの左脇には、左側操作部が設けられている。この左側操作部には、
図5(A)に示されるように副変速部6Bの切り替えを行う副変速レバー21が設けられている。
副変速レバー21は、例えば、副変速ギヤ機構におけるギヤの組み合わせとして低速段、中速段および高速段の3種類の副変速段を選択して切り替えることができるよう構成されている。
【0031】
操縦席10のシート部10aの右脇には、右側操作部が設けられている。この右側操作部には、
図5に示されるように主変速部6Aの切り替えを行う主変速レバー22や、PTOクラッチ95における回転動力の伝達を接続又は切断する状態(入り状態と切り状態)を切り替えるPTO入切スイッチ23等が設けられている。
主変速レバー22は、例えば、主変速ギヤ機構におけるギヤの組み合わせとして1段(低速側)から15段(高速側)までの複数の主変速段のいずれかに自由に切り替えることができるよう構成されている。
【0032】
また、トラクタ1は、
図1や
図6に示されるように、車体2の位置を計測する測位装置100を備えている。
測位装置100は、測位衛星から送信される測位信号を受信して車体2の現在位置を測定する装置である。この測位装置100は、GPS(Global Positioning System)等の衛星測位システムを使用した装置であり、例えば、測位衛星から送信される測位信号を受信するアンテナ等の受信部101と、受信部101で受信した測位信号から座標位置を算出する計測部102を有している。
【0033】
そして、このトラクタ1は、
図2や
図6に示されるように、エンジン5の動作やトラクタ1の走行動作等の各種の動作について制御するための制御手段70を備えている。
制御手段70は、例えばマイクロコンピュータ等で構成されるものであり、メモリ部70mに格納されている制御用のプログラムやデータに基づいて必要な制御を行うようになっている。
【0034】
この制御手段70には、エンジン5の動作を制御する際に参考にする指示情報や制御情報を得るためにエンジン回転センサ71、スロットルセンサ72、アクセルセンサ73等が接続されており、その各センサ71,72,73等で検出される検出値(検出結果の情報)が入力される。
エンジン回転センサ71は、エンジン5の回転数(例えばクランクの回転数)を検出する手段である。スロットルセンサ72は、スロットルレバー15の選択したときの回転数の移動位置を検出する手段である。アクセルセンサ73は、アクセルペダル16の操作量(ペダルの踏み込み量)を検出する手段である。
【0035】
また、制御手段70は、エンジン5の回転数を実際に調節するときの制御対象になる回転数調節装置51と接続されており、回転数調節装置51にエンジン5の回転数を制御するための制御信号を送信するようになっている。
回転数調節装置51は、エンジン5がガソリンエンジンである場合には、そのエンジン5におけるスロットルの開度をスロットルセンサ72又はアクセルセンサ73の検出値に応じて調節するようスロットルをワイヤーにより動かす装置として構成される。また、回転数調節装置51は、エンジン5がディーゼルエンジンである場合には、そのエンジン5における燃焼噴射のタイミングをスロットルセンサ72又はアクセルセンサ73の検出値に応じて調節するようセンサアームをリンクにより動かす装置として構成される。
【0036】
一方、制御手段70には、トラクタ1の走行動作を制御する際に参考にする制御情報を得るためにモード切替えセンサ74、副変速操作センサ75、主変速操作センサ76、走行速度センサ77等が接続されており、その各センサ74,75,76,77等で検出される検出値が入力される。
モード切替えセンサ74は、モード切替えスイッチ20の切り替えたときのモードの選択位置を検出する手段である。副変速操作センサ75は、副変速レバー21の選択したときの副変速段の移動位置を検出する手段である。主変速操作センサ76は、主変速レバー22の選択したときの主変速段の移動位置を検出する手段である。走行速度センサ77は、トラクタ1(車体2)の走行速度を検出する手段である。
【0037】
また、制御手段70は、トラクタ1の走行条件を実際に変更するときの制御対象になる副変速駆動装置61、主変速駆動装置62等と接続されており、その副変速駆動装置61、主変速駆動装置62等に対して変速段の変更等の動作を制御するための制御信号を送信するようになっている。
副変速駆動装置61は、副変速操作センサ75の検出値に応じて副変速部6Bにおける副変速段等の変更を行うためのメカリンクや副変速の操作位置を検出する副変速操作センサ75等で構成された装置である。主変速駆動装置62は、主変速操作センサ76の検出値に応じて主変速部6Aにおける主変速段等の変更を行うためのソレノイド、油圧クラッチ等で構成された装置である。
【0038】
さらに、制御手段70には、トラクタ1のPTO軸9に関する動作を制御するときの制御処理の参考にする制御情報を得るためにPTO入切センサ78、PTO変速センサ79等が接続されており、その各センサ78,79等で検出される検出値が入力される。
PTO入切センサ78は、PTO入切スイッチ23における入り状態および切り状態を検出する手段である。PTO変速センサ79は、PTO変速レバー19の選択したときの移動位置を検出する手段である。
【0039】
また、制御手段70は、PTO軸9の動作を実際に変更するときの制御対象になるクラッチ駆動装置85、PTO変速駆動装置86等と接続されており、そのクラッチ駆動装置85、PTO変速駆動装置86等に対してその各動作を制御するための制御信号を送信するようになっている。
クラッチ駆動装置85は、PTO入切センサ78の検出値に応じてPTOクラッチ95における接続又は切断の状態の切り替えを行うためのソレノイド、油圧クラッチ等で構成された装置である。PTO変速駆動装置86は、PTO変速センサ79の検出値に応じてPTO変速部96における変速段等の変更を行うためのメカリンクやPTO変速の操作位置を検出するPTO変速センサ79等で構成された装置である。
【0040】
この他、制御手段70には、
図6に示されるように、測位装置100で得られる測位情報を少なくとも予め作業走行する圃場の範囲に関する位置情報と照合して車体2の位置を検出する位置検出部88を有している。
【0041】
位置検出部88は、ソフトウェアからなる機能部分として構成されるものである。少なくとも予め作業走行する圃場の範囲に関する位置情報は、測位装置100で得られる測位情報との照合が可能な情報であり、制御手段70におけるメモリ部70mに予め格納される。この位置情報は、
図7に地図形式に模して例示されるように、作業走行する予定の圃場200(A,B,D,F)の位置情報のみに限られず、例えば、その圃場の周辺になる領域(例えば作業走行する予定のない周辺にある圃場200C,圃場200Eや、路上など)の位置情報を含むものであっても勿論よい。
また、位置検出部88は、測位装置100で得られる測位情報と上記圃場等の位置情報との照合から検出される車体2の現在位置が、作業走行する予定の外側の位置(実際には圃場でない路上)であるか否かを判定する機能を備えている。
なお、位置検出部88としては、上記照合および検出を行う機能を有する装置等のハードウェアとして構成されるものを適用しても構わない。装置形式の位置検出部88を適用する場合には、その位置検出部88が有するメモリ部に上記位置情報を予め格納すればよい。
【0042】
そして、このトラクタ1は、エンジン5を始動して走行等の動作を行うときには、制御手段70により以下に説明する制御が行われるようになっている。
【0043】
このトラクタ1では、路上走行することになる場合、制御手段70により次のように制御される。
ここでは、トラクタ1が作業走行する予定の圃場から路上に移動した場合を想定して説明する。また、圃場から路上に移動した後に路上走行をするに先立って操縦者がモード切替えスイッチ20を操作して路上走行モードに切り替えたことのモード切替えセンサ74からの検出値が制御手段70で得られたことを前提にした場合に加えて、操縦者がモード切替えスイッチ20を操作して路上走行モードに切り替えることを忘れていることを前提にした場合を含むものとして説明する。
【0044】
すなわち、制御手段70は、
図8に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が作業走行する予定の圃場の外側の位置(路上の位置)であると検出されるか否かを常に判断している(ステップS10)。
このステップS10において位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場の外側の位置であるとの検出値が得られると、制御手段70は、エンジン5の回転数をアクセルセンサ73の検出値に応じて制御するよう処理する(S11)。
【0045】
これにより、トラクタ1においては、回転数調整装置51が、先ずはスロットルセンサ72の検出値とは関係なく、エンジン5の回転数をアクセルセンサ73の検出値に応じて調整する。この際、制御手段70では、スロットルセンサ72から入力される検出値の信号を遮断する。
また、このときの制御手段70による制御は、
図8に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場の外側の位置であるとの検出値が得られなくなるまで継続され(S12)、その検出値が無くなって検出終了になった段階で終了する。
【0046】
したがって、このトラクタ1は、測位装置100の測位情報と圃場等の位置情報との照合に基づいて位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場の外側の位置であるとの検出値が得られると、路上走行モードに切り替えたことのモード切替えセンサ74からの検出値が制御手段70で得られるか否かにかかわず、エンジン5の回転数がアクセルセンサ73の検出値に応じて制御されるよう自動で設定される。
このときのトラクタ1は、エンジン5の回転数をアクセルペダル16の操作により変更させながら路上走行することが可能になる。一方、このときのトラクタ1は、エンジン5の回転数をスロットルレバー15の操作により変更させて路上走行することはできないことになる。
【0047】
この結果、トラクタ1は、路上走行する場合において操縦者が路上走行モードに切り替える操作を忘れたとしても、エンジン5の回転数をアクセルペダル16の操作により変更させて路上走行することが可能になって路上走行に適したエンジンの回転数に関する制御操作が行われるので、安全性を確保することができる。
【0048】
ちなみに、操縦者が路上走行モードに切り替える操作を忘れていて作業走行モードの設定になったままの状態で路上走行を開始した場合は、作業走行に適したエンジンの回転数に関する制御操作(例えばスロットルレバー15の選択位置に応じた回転数に固定された制御)が行われる。このため、この場合は、例えば、急ブレーキによる緊急停止が必要なときに、アクセルペダル16から足を離しても、スロットルレバー15が最も低速の位置になければ、エンジン回転数がアイドリング回転まで減速しないため、車速の減速が遅れる等の点で安全性に欠けるおそれがある。
【0049】
また、このトラクタ1における制御手段70は、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場の外側の位置であるとの検出値が得られたとき、上記したステップS11におけるエンジン5の回転数の制御を行うことに加えて、次の制御を行うように構成してもよい。
つまり、モード切替えスイッチ20が路上走行モードを選択していない場合には、モード切替えスイッチ20そのものを路上走行モードに自動で切り替える制御操作をするか又はそのモード切替えセンサ74の検出値を路上走行モードに選択された検出値に自動で変更して扱うようにする制御である。
このうち前者の路上走行モードに自動で切り替える制御操作をする制御を採用する場合、この制御は、路上走行モードに自動で切り替える制御をしたときでかつステップS11の制御を行う前に、数秒間だけエンジン5の回転数を低速回転数であるアイドリング状態の回転数に制御するよう構成してもよい。また、後者の路上走行モードに選択された検出値に変更して扱うようにする制御を採用する場合、その制御は、モード切替えスイッチ20が実際に路上走行モードを選択するように操作された段階で終了させるように構成すればよい。
【0050】
[第2の実施形態]
図9には、この発明の第2の実施形態に係るトラクタの一部(制御の構成例)が示されている。
第2の実施形態に係るトラクタは、制御手段70の制御処理を追加した以外は第1の実施形態に係るトラクタ1と同じ構成のものである。
【0051】
すなわち、第2の実施形態に係るトラクタにおける制御手段70(
図6参照)は、
図9に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が作業走行する予定の圃場200の出入口203(
図10参照)に接近した位置であると検出されるか否かを判断している(ステップS20)。
そして、このステップS20において位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場200の出入口203に接近した位置であるとの検出値が得られると、制御手段70は、トラクタの走行速度を低下させるように制御する(S21)。
【0052】
ここで、圃場200の出入口203に接近した位置とは、
図10に例示されるように、作業走行する予定の圃場200(A)における出入口203に対して所定の距離L未満になる程度に接近した位置である。
図10における二点鎖線の円周APは、出入口203のほぼ中心の位置を中心点とする半径Lの円からなる境界線を示している。この例では、円周APの内側の領域が出入口203に接近した位置になる。
また、作業走行する圃場200の出入口203に関する位置情報は、測位装置100で得られる測位情報との照合が可能な情報であり、制御手段70におけるメモリ部70mに予め格納される。この位置情報は、
図10に地図形式で模して例示するような状態である。なおこの位置情報は、上記した装置形式の位置検出部88を適用する場合には、その位置検出部88が有するメモリ部に予め格納すればよい。
【0053】
このときの制御手段70は、例えば後輪4の図示しないブレーキ装置を一時的に必要な量だけ作動させ、これによりトラクタ(車体2)の走行速度を低下させる。
この際、制御手段70は、走行速度センサ77から得られる現時点での速度情報に基づいて、予め定める減速割合だけ減速させるようブレーキ装置を必要な量だけ作動させるか、あるいは、予め定める低速度になるようブレーキ装置を必要な量だけ作動させる。
また、このときの制御手段70による制御は、
図9に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場の出入口に接近した位置であるとの検出値が得られなくなるまで継続され(S22)、その検出値が無くなって検出終了になった段階で終了する。
【0054】
したがって、このトラクタにおいては、路上又は圃場200内から圃場200の出入口203に接近する場合に、位置検出部88で車体2が圃場200の出入口203に接近した位置にいることが検出されると、車体2の走行速度が自動で低下させられる。これにより、トラクタの操縦者は圃場200の出入口203に接近したことを知ることができ、また走行が続行されていても圃場200の出入口203を少なくとも低下した速度で通過することができ、圃場200の出入口203での安全な移動が可能になる。
この結果、このトラクタによれば、圃場200の出入口203における安全性を確保することができる。
【0055】
[第3の実施形態]
図11には、この発明の第3の実施形態に係るトラクタの一部(制御の構成例)が示されている。
第3の実施形態に係るトラクタは、制御手段70の追加した制御処理を以下に示すように変更した以外は第2の実施形態に係るトラクタと同じ構成のものである。
【0056】
すなわち、第3の実施形態に係るトラクタにおける制御手段70は、
図11に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が作業走行する予定の圃場200の出入口203に接近した位置であると検出されるか否かを判断し(ステップS30)、そのステップS30において圃場200の出入口203に接近した位置であるとの検出値が得られると、制御手段70は、トラクタの走行速度を低下させるように制御する(S31)。
【0057】
これにより、副変速駆動装置61が、トラクタにおける副変速部6B(
図2、
図6参照)における変速段を、現時点での変速段よりも低速の変速段又は最も低速の変速段に切り替えるよう作動する。
また、このときの制御手段70による制御は、
図11に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場の出入口に接近した位置であるとの検出値が得られなくなるまで継続され(S32)、その検出値が無くなって検出終了になった段階で終了する。
【0058】
したがって、このトラクタにおいては、圃場200の出入口203に接近すると、副変速部6Bが低速の変速段になるよう自動で設定されるので、後輪4等に伝達される回転動力の回転速度も遅くなって車体2の走行速度も低下する。これにより、トラクタの操縦者は圃場200の出入口203に接近したことを知ることができ、また走行が続行されていても圃場200の出入口203を少なくとも低下した速度で通過することができ、圃場200の出入口203での安全な移動が可能になる。
この結果、このトラクタによっても、圃場200の出入口203における安全性を確保することができる。
【0059】
特にこのトラクタでは、圃場200の出入口203に接近したときにエンジン5の回転数を低速回転数にするよう制御する場合に比べて、例えば圃場200の出入口203が圃場側から路上にむけて昇り斜面である場合にその昇り斜面を上るときに駆動力不足になるおそれがなく確実に走行して安全に通過することができる。
【0060】
[第4の実施形態]
図12には、この発明の第4の実施形態に係るトラクタの一部(制御の構成例)が示さている。
第4の実施形態に係るトラクタは、制御手段70の追加した制御処理を以下に示すように変更した以外は第2の実施形態に係るトラクタと同じ構成のものである。
【0061】
すなわち、第4の実施形態に係るトラクタにおける制御手段70は、
図12に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が作業走行する予定の圃場200の出入口203に接近した位置であると検出されるか否かを判断し(ステップS40)、そのステップS40において圃場200の出入口203に接近した位置であるとの検出値が得られると、制御手段70は、エンジン5の回転数をトラクタの上記所定の低速回転数にするよう制御する(S41)。
【0062】
これにより、回転数調節装置51が、エンジン5の回転数を低速回転数、本例ではアイドリング状態時の回転数になるよう作動する。
また、このときの制御手段70による制御は、
図12に示されるように、位置検出部88で検出される車体2の現在位置が圃場の出入口に接近した位置であるとの検出値が得られなくなるまで継続され(S42)、その検出値が無くなって検出終了になった段階で終了する。
【0063】
したがって、このトラクタにおいては、圃場200の出入口203に接近すると、エンジン5の回転数が低速回転数になるよう自動で制御されるので、後輪4等に伝達される回転動力の回転速度も遅くなって車体2の走行速度も低下する。これにより、第3の実施形態に係るトラクタの場合とほぼ同様に、トラクタの操縦者は圃場200の出入口203に接近したことを知ることができ、また圃場200の出入口203を少なくとも低下した速度で通過することができる。
この結果、このトラクタによっても、圃場200の出入口203における安全性を確保することができる。
【0064】
[変形例等の他の実施形態]
第1~第4の実施形態では、スロットル操作手段として、その一例であるスロットルレバー15に代えて、例えば段階式又は無段階式のダイヤル形態のスロットルダイヤル、押下方式や接触(タッチ)方式のスロットルボタン等に代表される他の形態からなるものを適用してもよい。
また第1~第4の実施形態では、アクセル操作手段として、その一例であるアクセルペダル16に代えて、例えばレバー式のアクセルレバー等に代表される他の形態からなるものを適用してもよい。
【0065】
また、第3の実施形態では、ステップS31において制御手段70が副変速部6Bにおける変速段を低速の変速段にする制御に代えて又は併せて、主変速部6Aにおける変速段を低速の変速段にする制御を行う構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
この発明は、トラクタなどの農作業用の車両に限られず、それ以外の各種作業用の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 トラクタ
3 前輪
4 後輪
5 エンジン
6A 主変速部
6B 副変速部
15 スロットルレバー
16 アクセルペダル
20 モード切替えスイッチ
70 制御手段
72 スロットルセンサ
73 アクセルセンサ
74 モード切替えセンサ
88 位置検出部
100 測位装置
200 圃場
203 出入口
L 所定の距離