(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】樹脂構造体および樹脂構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20230301BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B32B5/02 D
(21)【出願番号】P 2019508269
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2019004271
(87)【国際公開番号】W WO2019159792
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018025650
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森岡 聡子
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
(72)【発明者】
【氏名】和田 惠太
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-062372(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159825(WO,A1)
【文献】特開昭60-052331(JP,A)
【文献】特開平09-155972(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00-59/18
B29C 53/00-53/84
B29C 57/00-57/12
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、多数の繊維で構成された繊維層と、を含む樹脂構造体であって、
前記繊維層が、前記基層に近い側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して
60°~120°の角度で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して
0°~30°、および150°~180°の角度で延在している略平行部と、で構成されており、
前記繊維層を構成する前記繊維の全てが、前記基層の表面に結合されて基層の表面から延在して
おり、前記基層の表面における前記繊維が結合している部分の面積が、前記基層の前記繊維層が形成されている面の表面積の5~40%であって、前記樹脂構造体を前記繊維側の表面から見たときに前記繊維が占める面積の割合が、前記基層の表面積の80%以上である、樹脂構造体。
【請求項2】
前記基層の表面に空気層を有する、請求項
1の樹脂構造体。
【請求項3】
前記樹脂構造体が撥液性を有する、請求項1
または2に記載の樹脂構造体。
【請求項4】
フィルムまたはシート状の樹脂構造体を製造する方法であって、
表面に
孔径に対する孔の深さが2.5倍以上の微小な孔が複数形成された金型の、その微小な孔が形成された面に、
フィルムまたはシート状の樹脂組成物を配置する工程、
前記金型と前記樹脂組成物とを加熱しながら押圧して、前記樹脂組成物の一部を前記孔の中に圧入する工程、
前記樹脂組成物の一部が前記孔の中にある状態で、前記樹脂組成物を冷却する工程、
前記金型の温度を前記樹脂組成物のガラス転移温度以上にして、前記孔の中にある前記樹脂組成物を引き伸ばしながら、前記樹脂組成物を前記金型から引き剥がし、前記樹脂組成物が引き伸ばされた多数の繊維を形成することで、前記繊維で構成された繊維層と前記繊維を含まない基層とで構成された樹脂構造体を形成する工程、
を含み、前記各工程をこの順に行うことで、前記繊維層が、前記基層に近い側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して
60°~120°の角度の略垂直の状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して
0°~30°および150°~180°の角度の略平行の状態で延在している略平行部と、で構成された樹脂構造体を形成する、樹脂構造体の製造方法。
【請求項5】
フィルムまたはシート状の樹脂構造体を製造する方法であって、
表面に
孔径に対する孔の深さが2.5倍以上の微小な孔が複数形成された金型の、その微小な孔が形成された面に、
フィルムまたはシート状の樹脂組成物を配置する工程、
前記金型と前記樹脂組成物とを加熱しながら押圧して、前記樹脂組成物の一部を前記孔の中に圧入する工程、
前記樹脂組成物の一部が前記孔の中にある状態で、前記樹脂組成物を冷却する工程、
前記金型の温度を前記樹脂組成物のガラス転移温度以上にして、前記孔の中にある前記樹脂組成物を引き伸ばしながら、前記樹脂組成物を前記金型から引き剥がし、前記樹脂組成物が引き伸ばされた多数の繊維を形成することで、前記繊維で構成された繊維層と前記繊維を含まない基層とで構成された樹脂構造体を形成する工程、
前記繊維層に対して略垂直な方向から前記樹脂構造体に圧力を加えて、前記繊維層を、前記基層に近い側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して
60°~120°の角度の略垂直の状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して
0°~30°および150°~180°の略平行の状態で延在している略平行部と、で構成されるようにする工程、
を含み、前記各工程をこの順に行う、樹脂構造体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂構造体の前記略垂直部に空気層を形成する、請求項
4または5に記載の樹脂構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に多数の繊維で構成された繊維層を有することで撥液効果を発現する樹脂構造体と、その樹脂構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造体の表面で撥液効果を発現させる手段として、フッ素系ポリマーなどの表面エネルギーの低い樹脂を構造体にコーティングする手法を適用することが多かった。しかし、コーティングだけでは撥液性能に限界があり、期待どおりの撥液性を得られないことがあった。そこで構造体の表面に微細構造を付加することによってコーティング以上の撥液性を得る方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、撥液効果を発現させる微細構造として、構造体の表面に垂直な方向以外に指向され、異方性を有している突起や凹凸形状の凸部に繊維形状を有する複合形状が提案されている(特許文献2、3)。
【0004】
さらに、滑水、滑油性を向上させる手段として、三次元方向に相互に絡み合った網目構造内に潤滑液を含浸させる方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-170935号公報
【文献】国際公開第2015/159825号
【文献】特開2016-155258号公報
【文献】特開2016-11375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1~4に記載された技術では、撥液性が不十分で、液滴が構造体であるフィルム上に付着したまま残ることがあり、期待した撥液性効果が得られないという問題や、外力などによって微細構造の形状が崩れて撥液性が低下するなど、耐久性に問題がある。
【0007】
また、特許文献4に記載の技術では、液の種類によって潤滑液を変更する必要があるため、液の種類が限定されたり、撥液性能が低かったりするという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決する本発明の樹脂構造体は、基層と、多数の繊維で構成された繊維層と、を含む樹脂構造体であって、
前記繊維層が、前記基層に近い側にあり前記繊維が前記基層の表面に対して略垂直の状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり前記繊維が前記基層の表面に対して略平行の状態で延在している略平行部と、で構成されており、
前記繊維層を構成する前記繊維の全てが、前記基層の表面に結合されて基層の表面から延在している。
【0009】
(2)また、上記課題を解決する本発明の樹脂構造体は、基層と、多数の繊維で構成された繊維層と、を含む樹脂構造体であって、
前記繊維層を構成する繊維が、前記基層の表面と結合して基層の表面から延在しており、前記基層の表面における前記繊維が結合している部分の面積が、前記基層の前記繊維層が形成されている面の表面積の5~40%であって、
前記樹脂構造体を前記繊維側の表面から見たときに前記繊維が占める面積の割合が、前記基層の表面積の80%以上である。
【0010】
(3)また、上記課題を解決する樹脂構造体を製造する本発明の製造方法は、樹脂構造体を製造する方法であって、
表面に微小な孔が複数形成された金型の、その微小な孔が形成された面に、樹脂組成物を配置する工程、
前記金型と前記樹脂組成物とを加熱しながら押圧して、前記樹脂組成物の一部を前記孔の中に圧入する工程、
前記樹脂組成物の一部が前記孔の中にある状態で、前記樹脂組成物を冷却する工程、
前記孔の中にある前記樹脂組成物を引き伸ばしながら、前記樹脂組成物を前記金型から引き剥がし、前記樹脂組成物が引き伸ばされた多数の繊維を形成することで、前記繊維で構成された繊維層と前記繊維を含まない基層とで構成された樹脂構造体を形成する工程、
を含み、前記各工程をこの順に行うことで、前記繊維層が、前記基層に近い側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略垂直の状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略平行の状態で延在している略平行部と、で構成された樹脂構造体を形成する。
【0011】
(4)また、上記課題を解決する樹脂構造体を製造する本発明の製造方法は、樹脂構造体を製造する方法であって、
表面に微小な孔が複数形成された金型の、その微小な孔が形成された面に、樹脂組成物を配置する工程、
前記金型と前記樹脂組成物とを加熱しながら押圧して、前記樹脂組成物の一部を前記孔の中に圧入する工程、
前記樹脂組成物の一部が前記孔の中にある状態で、前記樹脂組成物を冷却する工程、
前記孔の中にある前記樹脂組成物を引き伸ばしながら、前記樹脂組成物を前記金型から引き剥がし、前記樹脂組成物が引き伸ばされた多数の繊維を形成することで、前記繊維で構成された繊維層と前記繊維を含まない基層とで構成された樹脂構造体を形成する工程、
前記繊維層に対して略垂直な方向から前記樹脂構造体に圧力を加えて、前記繊維層を、前記基層に近い側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略垂直の状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略平行の状態で延在している略平行部と、で構成されるようにする工程、
を含み、前記各工程をこの順に行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂構造体は、多数の繊維で構成された繊維層によって、液滴付着時に液滴と基層との間に空気の層を形成させるため、液滴と空気との接触面積が増え、液滴の表面張力により撥液機能を著しく向上させることができる。また、繊維の先端が基層の表面に対して略平行に延在しているため、外力によって形状が変形した場合でも撥液性を維持することができる。
さらに、液が繊維間に侵入しようとした場合でも、基層に近い側の繊維が略垂直に延在することによって出来た空気層により液の侵入を抑制し、撥液性を維持できる。また、基層から離れた側の繊維の先端で液を撥液するため、液だれによる液と基層との接触がおき難くなり、撥液性の低下を抑制でき、より安定的で効果の高い撥液性能や防汚効果を発現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の樹脂構造体であるフィルムの概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の樹脂構造体であるフィルムの概略斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の樹脂構造体であるフィルムの概略表面図である。
【
図4】
図4は、本発明の樹脂構造体であるフィルムの基層表面の構造を表す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の樹脂構造体であるフィルムを製造する装置の一例を示す断面概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の樹脂構造体であるフィルムを製造する装置における剥離手段をフィルム幅方向から見た概略平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の樹脂構造体であるフィルムを製造する装置の別の例を示す断面概略図である。
【
図8】
図8は、繊維層の略垂直部、略平行部の判断に用いた、本発明の樹脂構造体の走査型電子顕微鏡による断面写真、およびフーリエ変換で得たパワースペクトル図、繊維の角度分布図の一例である。
【
図9】
図9は、実施例1の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による表面写真である。
【
図10】
図10は、実施例1の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による断面写真である。
【
図11】
図11は、実施例2の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による表面写真である。
【
図12】
図12は、実施例2の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による断面写真である。
【
図13】
図13は、実施例3の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による表面写真である。
【
図14】
図14は、実施例3の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による断面写真である。
【
図15】
図15は、比較例1の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による表面写真である。
【
図16】
図16は、比較例1の樹脂構造体(フィルム)の走査型電子顕微鏡による断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[樹脂構造体]
本発明の樹脂構造体は、基層と、多数の繊維で構成された繊維層と、を含む構造体であって、前記繊維層が、前記基層に近い側にあり前記繊維が前記基層の表面に対して略垂直の状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり前記繊維が前記基層の表面に対して略平行の状態で延在している略平行部と、で構成されており、前記繊維層を構成する前記繊維の全てが、前記基層の表面に結合されて基層の表面から延在している。
【0015】
また、本発明の樹脂構造体は、基層と、多数の繊維で構成された繊維層と、を含む樹脂構造体であって、前記繊維層を構成する繊維が、前記基層の表面と結合して前記基層の表面から延在しており、前記基層の表面における前記繊維が結合している部分の面積が、前記基層の前記繊維層が形成されている面の表面積の5~40%であって、前記樹脂構造体を前記繊維側の表面から見たときに前記繊維が占める面積の割合が、前記基層の表面積の80%以上である。
【0016】
本発明の表面に繊維を有する樹脂構造体の実施形態を図面を用いて説明する。
図1は本発明の樹脂構造体であるフィルムの概略断面図、
図2は概略斜視図である。
【0017】
樹脂構造体10は、基層11と、多数の繊維13で構成された繊維層14とで構成されている。基層11の表面12に存在する繊維13は、基層11の表面12に結合されて表面12から延在している。ここで繊維13とは、概略断面図である
図1に図示されているように、基層11の表面12に対し凸の形状をとる部分のことであり、繊維13は独立して離散的に存在することが好ましい。繊維13の形状はどのような形状であってもよいが、錘状の形状であることが好ましく、繊維13の先端で膨らみがあってもよい。また、多数の繊維13で構成された繊維層14は、基層11の表面12に近い側にあり、繊維13が基層11の表面12に対して略垂直の状態で延在している略垂直部15と、基層11の表面12から離れた側にあり、繊維13が基層11の表面12に対して略平行の状態で延在している略平行部16とで構成されている。なお、「繊維13が基層11の表面12に対して略垂直」とは、略垂直部15が基層11の表面12に対し、60°~120°の角度で延在していることを意味し、「繊維13が基層11の表面12に対して略平行」とは、略平行部16が基層11の表面12に対し、0°~30°、および150°~180°の角度で延在していることを意味する。
【0018】
繊維13が基層11の表面12に対して略垂直の状態で延在しているのか、略平行の状態で延在しているのかは、繊維層14の断面写真を2次元フーリエ変換による画像解析して取得したパワースペクトルを用いて判定する。詳細な判断方法は後述する[測定方法]に記載する。
【0019】
2次元フーリエ変換による画像解析の原理については、例えば、以下の参考文献1~3、参考URL1に詳細に記載されている。
参考文献1: 江前敏晴、”画像処理を用いた紙の物性解析法”、紙パルプ技術タイムス、48(11)、1-5(2005)
参考文献2: Enomae, T., Han, Y.-H. and Isogai, A., "Fiber orientation distribution of paper surface calculated by image analysis," Proceedings of International Papermaking and Environment Conference, Tianjin, P.R.China(May 12-14), Book2, 355-368(2004)
参考文献3: Enomae, T., Han, Y.-H. and Isogai, A., "Nondestructive determination of fiber orientation distribution of fiber surface by image analysis," Nordic Pulp Research Journal 21(2): 253-259(2006)
参考URL1: http://www.enomae.com/FiberOri/index.htm(2018年1月現在)。
【0020】
略平行部16において繊維13が略平行であるので、繊維13の間隔が適度に狭くなり、液滴が繊維13の間に入りにくくなるため、撥液性が発現する。略垂直部15において繊維13が略垂直であるので、繊維13の間に空気層がうまく形成され、撥液性が向上する。ここで略垂直部15において繊維13が略垂直の状態を超えて傾斜すると、根元で繊維13が傾斜してしまい、基層11から離れた側の繊維13を自立して支えることが難しくなる。その結果、空気層が形成され難くなり、撥液性が低下することがある。
【0021】
略垂直部15と略平行部16とを対比すると、略垂直部15では繊維13が相対的に疎に、略平行部16では繊維13が相対的に密になっていることが多い。略垂直部15で繊維13が相対的に疎となっていると、繊維層14に空気層がうまく形成され、撥液性が向上する。略平行部16で繊維13が相対的に密となることで、繊維層14への液の侵入が妨げられ撥液性が向上する。
【0022】
次に、本発明の樹脂構造体の実施形態を別の観点から説明する。
図3は本発明の樹脂構造体10であるフィルムを繊維側の表面から見た概略表面図、
図4は本発明の樹脂構造体10であるフィルムの基層表面の構造を示す概略図である。
図3は、
図1の樹脂構造体10をAの方向から見た図であり、
図4は
図1の樹脂構造体10をB-B断面から見た図である。
【0023】
図3に示すように、樹脂構造体10は、多数の繊維13で構成された繊維層14により、その一方の表面がほぼ覆い尽くされている。樹脂構造体10を繊維層14側の表面から見た時に、繊維13が占める面積の割合は基層11の表面積の80%以上である。
また、
図4に示すように、基層11の表面12において、繊維13と結合している部分の面積の割合は、基層11の繊維層14が形成されている面の表面積の5~40%である。
すなわち、樹脂構造体10の表面においては繊維13がほぼ全体を覆った密の状態となっており、液滴が繊維13の間に入りにくくなるため、撥液性が発現する。基層11の表面12においては、繊維13と結合している部分の面積よりも、空気の占める割合の方が多いため、繊維13の間に空気層がうまく形成され、撥液性が向上する。
【0024】
樹脂構造体10の繊維層14の側の表面から見た時に、繊維13が占める面積の割合は、走査型電子顕微鏡を用いて樹脂構造体10の表面の観察写真を取得し、その二値化画像を用いて求めることが出来る。
【0025】
基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積の割合は、以下の(i)または(ii)の方法で求めることができる。
(i) 樹脂構造体10の基層11の直上で基層11に平行に繊維層14を切断し、走査型電子顕微鏡を用いてその切断面の観察写真を取得し、その断面観察写真の二値化画像を用いて求める。
(ii) 樹脂構造体10の表面に垂直で、直交する二方向の断面で樹脂構造体10を切断した各断面について、それぞれ走査型電子顕微鏡を用いて観察写真を取得する。各断面の観察写真から、断面に存在する繊維13の本数と繊維13の平均断面幅を求め、それらの積から各断面における基層11の単位長さあたりに繊維13が結合している割合を求める。さらに各断面での繊維13が結合している割合の積を求め、その値を基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積の割合とする。この方法は、上記(i)の方法より簡便に求めることができる。
【0026】
本願発明では、上記(i)の方法で測定した値を、基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積の割合とする。ただし、繊維径が1μm以下といったように繊維が非常に細く、上記(i)の方法で繊維層14を切断しようとしても、切断刃の刃先により繊維13が倒れてしまい、繊維層14の切断が困難となる場合、上記(ii)の方法で測定した値を、基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積の割合とする。
【0027】
樹脂構造体10の表面において、繊維径が0.05μm以上、3μm以下であると、繊維間の隙間に空気層を形成しやすくなり、液滴と空気の接触面積が大きくなることにより、撥液性が高まるため好ましい。繊維径は0.1μm以上、0.5μm以下であることがより好ましい。繊維径が0.05μm以上であると繊維が切れたり、変形しにくくなり、耐久性が向上する。さらに、繊維13を形成する樹脂を引伸ばす時に繊維13が切れにくいので、十分な繊維層14を形成できる。特に、繊維径が0.1μm以上であると、繊維13を形成する樹脂を引き伸ばす時に、繊維13が基層表面において倒れ難くなり、十分な略垂直部を形成しやすい。繊維径が3μm以下であると、繊維間に十分に空気層を形成できるようになり、撥液効果が発現する。特に、繊維径が0.5μm以下であると、繊維13を形成するのに樹脂を引き伸ばす時に、繊維13同士が絡まりやすくなることで、基層から離れた側に十分な略平行部を形成しやすい。ここで繊維径とは、走査型電子顕微鏡を用いた表面の観察写真を取得し、任意の30本の繊維13を選んでその各々の最大幅を計測し、最大幅の大きなものから5本と幅の小さなものから5本を除いた、中間の20本の繊維13の最大幅の平均をとったものである。
【0028】
繊維13の本数は、基層11の表面12の10000μm2中に2000本以上、3×106本以下であると、樹脂構造体10の表面にある液滴が繊維13で支持されやすくなり、液滴と空気との接触面積が大きくなることにより、撥液性が高まるため好ましい。10000μm2中の繊維13の本数が3×106本以下であると、液滴付着時に繊維13の間に十分な空気層が存在できるので、空気との接触面積が十分であり、撥液効果が発現する。基層11の表面12の10000μm2中の繊維13の本数が2000本以上であると、繊維13の間隔が適度に狭くなり、液滴が繊維13の間に入りにくくなり、基層11の表面と液滴との接触が起こらず、撥液性が発現する。特に、繊維径が0.5μm以下の場合には、基層11の表面12の10000μm2中の繊維13の本数が10000本以上であると、樹脂構造体10の表面にある液滴が繊維13で支持されやすくなり、より好ましい。ここで繊維13の本数は、樹脂構造体10の基層11の直上で基層11に平行に樹脂構造体10を切断した切断面について、走査型電子顕微鏡を用いて観察写真を取得し、その写真から読み取ることができる。また、液状シリコーンゴムなどで樹脂構造体10の表面の型を取り、その型の表面画像から読み取ってもよい。硬化した液状シリコーンゴムから樹脂構造体10を剥ぎ取った時、液状シリコーンゴムの表面は、繊維13の底面(基層11の表面12に結合する面)に対応する孔が多数開いた表面となる。この表面の走査型電子顕微鏡写真を取得し、繊維13の個数を求める。また、簡便には、樹脂構造体10の表面に垂直で、直交する二方向の断面で樹脂構造体10を切断した各断面について、それぞれ走査型電子顕微鏡を用いた観察写真を取得し、各断面に存在する100μmあたりの繊維13の本数を求め、その積をとることにより、10000μm2あたりの繊維13の本数を求めることもできる。
【0029】
繊維層14の厚みは5μm以上、50μm以下であることが好ましい。ここで繊維層14の厚みとは、樹脂構造体10の表面に垂直な断面で構造体を切断した断面について、走査型電子顕微鏡を用いた断面の観察写真を取得し、基層11の表面12から最表面までの距離が大きい箇所を10点測定し、それら10点の距離を平均した値のことをいう。繊維層14が5μm以上であると、液滴付着時に繊維13との間に空気の層を形成できるので、撥液効果が得られる。繊維層が50μm以下であると、繊維13を得ることに時間を要さない。また、繊維13が倒れたり、変形しにくくなるなど、耐久性が十分となる。
【0030】
本発明の樹脂構造体10は、フィルムとして好適に使用することができるが、フィルムに限定されることはなく、表面の熱成形が可能なものであればいかなる形状でもよいが、生産性やコストの観点から、フィルムが好ましい。
【0031】
さらに、樹脂構造体10の材料は、繊維13を形成できる材料であればいかなるものでもよく、フッ素樹脂やシリコーン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、またはポリ塩化ビニル系樹脂などが好ましく用いられる。特に、表面エネルギーの低いフッ素系樹脂やシリコーン系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂などが好ましく用いられる。樹脂構造体10の材料としてはこれらの樹脂を主たる成分として含むことが好ましい。なお、主たる成分とは樹脂構造体を構成する樹脂全体を100質量%としたときに50質量%以上を占める成分をいう。なお、主たる成分は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0032】
さらに、本発明の樹脂構造体10の材料には、重合時または重合後に各種の添加剤を加えることができる。添加配合することができる添加剤の例としては、例えば、有機微粒子、無機微粒子、分散剤、染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、離型剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤および塩などが挙げられる。特に、離型剤として、長鎖カルボン酸、もしくは長鎖カルボン酸塩、などの低表面張力のカルボン酸やその誘導体、および、長鎖アルコールやその誘導体、変性シリコーンオイルなどの低表面張力のアルコール化合物等を重合時に少量添加することが好ましく行われる。
【0033】
また、樹脂構造体10は、基層11の繊維層14が積層されている側とは反対側に別の層が積層されていてもよい。この場合、基層11と繊維層14のみに上記の材料を使用してもよい。この別の層を、基層11を構成する樹脂よりも強度や耐熱性の高い樹脂で構成することにより、成形時における平面性を高めて、樹脂構造体10の変形やしわを抑制することができる。
【0034】
さらに、樹脂構造体10は連続体であっても枚葉体であってもよい。樹脂構造体10の厚みは特に制限されるものではない。
【0035】
[樹脂構造体の製造方法]
本発明の樹脂構造体を製造する方法は、表面に微小な孔が複数形成された金型の、その微小な孔が形成された面に、樹脂組成物を配置する工程、前記金型と前記樹脂組成物とを加熱しながら押圧して、前記樹脂組成物の一部を前記孔の中に圧入する工程(以下、「圧入工程」とする)、前記樹脂組成物の一部が前記孔の中にある状態で、前記樹脂組成物を冷却する工程(以下、「冷却工程」とする)、前記孔の中にある前記樹脂組成物を引き伸ばしながら、前記樹脂組成物を前記金型から引き剥がし、前記樹脂組成物が引き伸ばされた多数の繊維を形成することで、前記繊維で構成された繊維層と前記繊維を含まない基層とで構成された樹脂構造体を形成する工程(以下、「引き剥がし工程」とする)、を含み、前記各工程をこの順に行うことで、前記繊維層が、前記基層に近い側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略垂直の状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略平行の状態で延在している略平行部と、で構成された樹脂構造体を形成する。
【0036】
また、前記各工程を経ただけでは、所望の形状の樹脂構造体が形成できていない場合には、前記引き剥がし工程の後に、前記繊維層に対して略垂直な方向から前記樹脂構造体に圧力を加えて、前記繊維層を前記基層に近い側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略垂直となる状態で延在している略垂直部と、前記基層から離れた側にあり、前記繊維が前記基層の表面に対して略平行で、繊維同士が絡まった状態で延在している略平行部と、で構成されるようにする工程(以下、「加圧工程」とする)、を行ってもよい。
【0037】
本発明の樹脂構造体10の一形態であるフィルムは、例えば
図5、
図6、
図7に示すような装置を介したプロセスによって製造することができる。
図5、
図7は、基層11の表面12に繊維層14を有する樹脂構造体10(フィルム)を製造するための製造装置50、70の断面概略図を示している。また、
図6は製造装置50において、樹脂構造体10(フィルム)を金型から剥離する動作を示した断面概略図である。
【0038】
図5に示す例では、巻出ユニット52において、あらかじめ材料のフィルム10’を巻出ロール51から引き出し、次に、プレスユニット54において、表面に微細な孔が形成され加熱された金型53を、間欠的に送られてくるフィルム10’に押し付けて加圧し、その後、接触状態を保持したまま冷却することにより、フィルム10’の表面に金型53の微細な孔に応じた微細な突起構造を形成する。
【0039】
成形部は所定の微細な突起構造を形成するプレスユニット54と、加圧により金型53に貼り付けられて表面に微細な突起構造が形成されたフィルム10’’を金型53から剥離する剥離手段55から構成される。剥離手段55は、剥離されたフィルム10をS字状に抱き付かせるように把持する一対の平行に配置された剥離ロール55Aと剥離補助ロール55Bからなる。間欠的に送られてきたフィルム10’の一面がプレスユニット54内で金型53によって熱成形され、表面に微細な突起構造が形成されたフィルム10’’が得られる。熱成形後に、
図6に示すように上記剥離手段55が上流側に向けて移動されることにより、金型53に貼り付いていたフィルム10’’が金型53から順次剥離され、基層11の表面12に繊維層14を有するフィルム10が得られるようになっている。その後、フィルム10は巻取ロール56に巻き取られる。
なお、
図5において、57、58は加圧プレート、59、60はフィルム10’の金型53部分における間欠搬送を円滑に行わせるために設けられたバッファ手段を示している。
【0040】
図6において、剥離ロール55Aと金型53との離間距離55Hや、剥離時の金型53の温度を調整することにより、成形された微細な突起構造を引き伸ばして形成される繊維13の径や繊維層14の厚みを変更することができる。例えば、成形時の金型53の温度をフィルム10の材料である樹脂組成物の融点以上にし、剥離時の金型53の温度をフィルム10の材料である樹脂組成物のガラス転移温度以上にするなどの方法があげられる。
【0041】
引き伸ばされた繊維13そのものに剛性がない場合、引き伸ばされた繊維13同士は、繊維13の先端が金型53から離れることにより不均一な方向に倒れ、繊維13同士が絡まり合う。このとき、繊維13が最後に金型53から離れる部分、すなわち、繊維13の先端部分から絡まることになるため、フィルム10の基層11の表面12から離れた部分において、絡まり合った繊維13が密になり、基層11に対して略平行の状態で延在する略平行部16を形成する。他方、剥離時にはじめに金型53から剥離する繊維13の基層11の直上部分はほとんど絡まり合うことがないため、略平行部16よりも基層11に近い側に、繊維13が基層11の表面12に対して略垂直の状態で延在する略垂直部15を形成する。
【0042】
また、引き伸ばされた繊維13の剛性が比較的大きく、繊維13の絡まりが小さい場合には、
図5のニップロール62によって圧力を加えることによって、繊維層14の疎密や繊維13の傾斜角度、繊維層14の厚みを調整することができる。例えば、圧力を大きくすれば、繊維層14は薄くなり、先端側の繊維13が傾斜して略平行となり、略平行部16での繊維13の密度が上昇する。
【0043】
図7に示す例では、フィルム10’が巻出ロール73から引き出され、加熱ロール75により、加熱された表面に微細な孔構造が形成されたエンドレスベルト状の金型76上に供給される。
【0044】
金型76の外表面には独立して離散的に配置された微細孔が形成されて、フィルム10’と接触する直前に加熱ロール75によって加熱される。連続的に供給されるフィルム10’はニップロール77により金型76の微細孔構造が加工された表面に押し付けられ、フィルム10’の表面に金型76の微細な孔に応じた微細な突起構造が形成される。フィルム10’の表面が金型76の微細孔に十分入りこむために、フィルム10’が金型76の微細孔構造が加工された表面に押しつけられる際の温度は、フィルム10’のガラス転移温度以上が好ましく、フィルム10’の溶融温度以上であることがより好ましい。
【0045】
その後、表面に微細な突起構造が形成されたフィルム10’’は、金型76の表面と密着された状態で冷却ロール78の外表面位置まで搬送される。フィルム10’’は、冷却ロール78によって金型76を介して熱伝導により冷却された後、剥離ロール79によって成形された微細な突起構造を引き伸ばされながら金型76から剥離され、基層11の表面12に繊維層14を有するフィルム10が得られる。フィルム10は、巻取ロール82に巻き取られる。このようなプロセスにより、繊維13が形成されたフィルム10を連続的に高い生産性をもって熱成形していくことができる。
【0046】
剥離ロール79と金型76との離間距離79Hや、冷却ロール78の温度を調整することにより、成形された微細な突起構造を引き伸ばして形成される繊維13の径や繊維層14の厚みを変更することができる。
【0047】
また、ニップロール81によって圧力を加えることによって、繊維層14の疎密や繊維13の傾斜角度、繊維層14の厚みを調整することができる。例えば、圧力を大きくすれば、繊維層14は薄くなり、先端側の繊維13が傾斜して略平行となり、略平行部16での繊維13の密度が上昇する。
【0048】
金型53、76の表面に形成された微小な孔の占める面積割合は、この面積割合が、ほぼフィルム10の基層11の表面において、繊維13と結合している部分の面積の割合となるため、金型53、76の表面に形成された微小な孔の占める面積割合は、5%~40%であることが好ましい。金型53、76の表面に形成された微小な孔の径は、好ましくは、0.05μm~3μm、より好ましくは、0.1μm~0.5μmである。金型53、76の表面に形成された微小な孔の径が0.05μm以上であると、圧入工程においてフィルム10’の一部を圧入しやすい。また、0.1μm以上であると、引き剥がし工程において引き伸ばされた繊維13が基層表面において倒れ難くなり、略垂直部を形成しやすい。また、0.5μm以下であると、引き剥がし工程において引き伸ばされた繊維13の先端部が倒れやすく、略平行部16において繊維13同士が絡まりやすい。また、3μm以下であると、引き剥がし工程において引き伸ばされた繊維13を加圧工程で変形させやすい。
【0049】
金型53、76の表面に形成された微小な孔の深さは、孔径の2.5倍以上であることが好ましい。孔の深さが孔径の2.5倍以上であると、圧入工程によって、圧入された樹脂が金型53、76の孔の側面と接する面積が孔部分の表面積の10倍以上となって、引き剥がし工程において樹脂が引き伸ばされやすく好ましい。孔径に対する孔の深さは10倍以上がより好ましい。孔径に対する孔の深さの値に特に上限はないが、孔形成の容易さから100倍程度とするのが好ましい。
【0050】
このような、表面に微細な孔が複数形成された金型53、76の作製方法は、金属表面に直接切削やレーザー加工や電子線加工を施工する方法、金属表面に形成した鍍金皮膜に直接切削やレーザー加工や電子線加工を施工する方法、これらの金属表面や、金属表面に形成した鍍金皮膜にレーザー加工や電子線加工などにより、微細孔と反転した凸形状を作製した後、電気鋳造により微細孔形状を作製する方法が挙げられる。また、レジストを基板の上に塗布した後、フォトリソグラフィー手法によって所定のパターンニングでレジストを形成した後、基板をエッチング処理して形状を形成し、レジスト除去後に電気鋳造でその反転パターンにより微細孔構造を得る方法などが挙げられる。
【0051】
また、金型表面にエッチングを施すことにより、微細孔構造を表面に有した金型53、76を作製することもできる。金型53、76の材料としてはシリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、セラミック、プラスチック、炭素材料等、強度と要求される精度の加工性を有するものであればよく、具体的には、Si、SiC、SiN、多結晶Si、ガラス、Ni、Cr、Cu、Al、Fe、Ti、Cさらにはこれらを1種以上含むものでよい。また、これらを主成分としたアモルファス構造を表面に有する金型の表面を強酸性の液体によりエッチングすることにより作製してもよい。
【0052】
繊維13の形状は、金型53、76の表面の微細な孔の形状以外に、圧入工程、冷却工程、引き剥がし工程の各工程の条件を調整することでも制御できる。たとえば、金型53、76の表面の微細な孔の形状の孔径を小さくすれば繊維径は小さくなり、冷却工程での冷却温度や引き剥がし工程での引き伸ばし速度を変更することで繊維径や繊維層14の厚みを変更することができる。
【0053】
また、加圧工程において、加える圧力は繊維13の形態によって適宜変更でき、圧力によって繊維層14の傾斜角度、疎密の程度、厚みを変更することができる。
【0054】
本発明においては、水との接触角をさらに大きくして撥液性をより向上させようとする場合には、上記のようにして得られた繊維13の表面に、表面エネルギーの低い官能基、特にフッ素基を被覆することが望ましい。
【0055】
このような被覆処理方法としては、繊維13の構造を被覆材料によって埋めてしまうことのない方法であれば特に限定されないが、例えば、ラングミュアーブロジェット法(LB法)、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、自己組織化法、スパッタ法、単分子を溶剤で希釈したものを塗布する方法などが挙げられる。
なお、繊維13を形成するフィルム10’上に、上記のような材料による任意の厚さの撥液処理を施したのち、上記した方法によって繊維13を形成するようにすることもできる。
【0056】
本発明の樹脂構造体はその表面特性を活かして、例えば細胞培養シートやバイオチップ等のバイオデバイス、光学フィルムや異方性フィルム等の光学デバイス、撥液シート、防汚シート等の建築資材に好適に用いることができる。
また、本発明の樹脂構造体は、撥液性のみならず、樹脂構造体の基層近傍に空気層を含んでいることから、断熱シート等他の用途でも使用することができる。
【実施例】
【0057】
[測定方法]
[略垂直部、略平行部の判定]
実施例等で成形したフィルム10において、繊維13が基層11の表面12に対して略垂直の状態で延在している略垂直部15、および略平行の状態で延在している略平行部16の有無は、以下の手順で判定する。
(1)樹脂構造体10の任意の場所から、10mm×10mmのサンプルを切り出す。サンプルの4つの切断面のうちから任意に1つの切断面を選ぶ。選択した切断面について、繊維層14を上側、基層11を下側にして見た右端部分を観察対象とする。
(2)走査型電子顕微鏡を用いて、(1)項の観察対象の断面観察写真を取得する。観察倍率は5000倍とし、観察対象範囲は24.3um×18.2um、画素数は1280画素×960画素であり、1画素の大きさは19.0nm×19.0nmとなる。取得した写真をトリミングして、繊維層14のみの写真とし、基層11の表面12と平行な方向に3分割する。分割された部分のうち、基層11から最も離れた部分と基層11に最も近い部分の断面写真に対して、それぞれ2次元フーリエ変換による画像解析を施してパワースペクトル画像を取得する。
【0058】
(3)得られたパワースペクトル画像から全方位における平均明度を算出しプロットした後、最小二乗法を用いて楕円に近似する。
(4)基層11の表面12と平行な方向を0度として、楕円近似されたパワースペクトル画像から、基層11の表面12とのなす角度が0~180度の各角度について振幅の平均値をプロットし、繊維13の楕円近似傾斜角度分布を算出する。
(5)繊維13の楕円近似傾斜角度分布が、0度以上30度以下および150度以上180度以下のそれぞれの平均振幅の平均値が、30度より大きく150度未満の平均振幅の平均値と比較して大きい場合、この断面写真中の繊維13は略平行の状態と判定する。繊維13の楕円近似傾斜角度分布が、60度以上120度以下の平均振幅の平均値が、0度以上60度未満および120度より大きく180度以下のそれぞれの平均振幅の平均値と比較して大きい場合、この断面写真中の繊維13は略垂直の状態であると判定する。
【0059】
(6)(1)項で選択した切断面に対向する切断面についても、繊維層14を上側、基層11を下側にして見た右端部分を観察対象とし、(2)~(5)項と同じ作業を行う。さらに、10mm×10mmのサンプルの中心を通り、(1)項で選択した切断面と平行にサンプルを切断し、この切断面の左右の中心部分を観察対象とし、(2)~(5)項と同じ作業を行う。
(7)3つの観察対象のいずれの基層11から最も離れた3分の1の部分が、繊維13が略平行の状態であれば、繊維層14の基層11から最も離れた3分の1の部分は略平行部であると判定する。3つの観察対象のいずれの基層11に最も近い3分の1の部分が、繊維13が略垂直の状態であれば、繊維層14の基層11に最も近い3分の1の部分は略垂直部であると判定する。
【0060】
2次元フーリエ変換による画像解析に用いた断面写真を
図8(a)、画像解析で取得したパワースペクトルを
図8(b)、繊維13の角度分布図を
図8(c)に示す。
図8は、繊維13が基層11の表面12に対して略平行の状態で延在している例である。
本実施例では、基底面転位像をフーリエ変換するために、前述の参考文献1~3の著者らが開発したFiber Orientation Analysis Ver.8.03を用いた。このフーリエ変換ソフトは、画像データから各点の輝度の情報を取り出し、フーリエ変換処理を行い、パワースペクトルと平均振幅Aave.(θ)を求める処理を行う。詳細な手順は、前述の参考文献1~3および参考URL1に記載されている。このソフトで画像をフーリエ変換処理するためには、輝度の数値情報を取り出すために画像を予めビットマップ化する。さらに高速フーリエ変換を行うために、画像の一辺のピクセル数が4の整数倍となるように予め調整する。画像のピクセル数が縦横比3以上の画像をフーリエ変換処理する場合は、フーリエ変換処理する画像の縦横比が小さくなる方向に元の画像を5枚貼り合わせ、1枚の画像としてフーリエ変換処理を行う。
【0061】
フーリエ変換処理は一義的に決まった処理であるため、同様の処理を行うことができるものであれば、他のソフトでもよい。ただし、配向性評価のために開発された本ソフトでは、Aave.(θ)を求めることができるのが特徴である。他のソフトで、Aave.(θ)を自動的にすることができない場合には、輝度を(x、y)座標にマッピングしたものであるパワースペクトルを用いて、同様の計算をする必要がある。
【0062】
[繊維層側の表面から見た繊維が占める面積の割合]
実施例等で成形したフィルム10を10mm×10mmに切り出し、走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)にて、倍率10000倍にて表面を二次電子像で観察した。このときの画像サイズは12.1um×9.1umであった。なお、画素数は1280画素×960画素であり、1画素の大きさは9.4nm×9.5nmであった。観察写真を白黒の二値化して、全体に占める画像の明るい部分(以下、「白部分」という)の面積を繊維層14の側の表面から見た繊維13が占める面積の割合とした。二値化のしきい値は、白部分と暗い部分(以下、「黒部分」という)を示す2つ光量のピークの中間の光量値であって、その光量値の前後での二値化において、白部分と黒部分の割合の変化が最も小さい光量値とした。
【0063】
[基層の表面における繊維が結合している部分の面積]
[方法(i)] 実施例等で成形したフィルム10を10mm×10mmに切出し、フィルム10の基層11から1μm以内の位置でフィルム10の基層11に平行に繊維層14を切断し、切断した断面から切り落とされた繊維13を風で除去した。走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)にて、倍率10000倍にて表面12を二次電子像で観察した。このときの画像サイズは12.1μm×9.1μmであった。なお、画素数は1280画素×960画素であり、1画素の大きさは9.4nm×9.5nmであった。観察写真白黒の二値化して、全体に占める画像の明るい部分(以下、「白部分」という)の面積を、基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積とした。二値化のしきい値は、白部分と暗い部分(以下、「黒部分」という)を示す2つの光量のピークの中間の光量値であって、その光量値の前後での二値化において、白部分と黒部分の割合の変化が最も小さい光量値とした。
ただし、上記方法(i)で繊維層14を切断する際に、繊維13が非常に細くて切断刃の刃先により繊維13が倒れてしまい、基層11からの繊維層14の切断が困難な場合には、以下の方法(ii)により求めた。
【0064】
[方法(ii)] フィルム10の表面に対して垂直で、直交する二方向でフィルム10を切断し、各断面を走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)を用いて倍率5000倍にて観察した。このときの画像サイズは24.3μm×18.2μmであった。なお、画素数は1280画素×960画素であり、1画素の大きさは19.0nm×19.0nmであった。断面に存在する繊維13の本数と繊維13の平均断面幅を求め、その積から各断面においる基層11の単位長さあたりに繊維13が結合している割合を求めた。さらに各断面での繊維13が結合している割合の積を求め、その値を基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積の割合とした。
【0065】
[繊維径の測定]
実施例等で成形したフィルム10を10mm×10mmに切り出し、走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)にて、倍率10000倍にて表面を二次電子像で観察した。このときの画像サイズは12.1μm×9.1μmであった。なお、画素数は1280画素×960画素であり、1画素の大きさは9.4nm×9.5nmであった。観察写真から、任意の30本の繊維13を選び、幅の大きなものから5本と幅の小さなものから5本を除いた、中間の20本の繊維13の幅の平均を取ったものを繊維径とした。
【0066】
[繊維の本数の測定]
実施例等で成形したフィルム10を10mm×10mmに切り出し、走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)にて、倍率10000倍にて表面を二次電子像で観察した。このときの画像サイズは12.1μm×9.1μmであった。なお、画素数は1280画素×960画素であり、1画素の大きさは9.4nm×9.5nmであった。この画像から繊維13の本数を読み取る。繊維13の本数測定時にはSnipping Toolを用いて繊維13に目印を付けながら測定を行った。この方法で得られた繊維本数を10000μm2中の繊維本数に換算した。
また、繊維13が絡まり、繊維13の本数を表面の観察写真から読み取ることが難しい場合は、液状シリコーンゴムなどでフィルム10の表面の型を取り、その型の表面画像から読み取ってもよい。硬化した液状シリコーンゴムからフィルム10を剥ぎ取った時、液状シリコーンゴムの表面は、繊維13の底面に対応する孔が多数開いた表面となる。この表面の走査型電子顕微鏡写真を取得し、繊維13の本数を求める。
【0067】
[繊維層厚みの測定]
実施例等で成形したフィルム10をフィルム10の表面に対して垂直な方向で切断し、その断面を走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)を用いて倍率5000倍にて観察した。このときの画像サイズは24.3μm×18.2μmであった。なお、画素数は1280画素×960画素であり、1画素の大きさは19.0nm×19.0nmであった。断面の観察写真について、基層11の表面から最表面までの距離が大きい箇所を10点測定し、それら10点の距離を平均した値を繊維層14の厚みとした。
なお、フィルム10を表面に垂直な断面で切断する際や、フィルム10の基層11の直上で基層11に平行にフィルム10を切断する際には、フィルム10を単独で切断するほかに、硬化樹脂や氷などにより繊維層14の構造を崩さないように繊維層14ごとフィルム10を固めた上で、切削や研磨などを行う事ができる。フィルム10の撥液性が高く樹脂や氷などを保持することが困難な場合、フィルム10の表面構造を崩さない範囲の親液処理(コロナ放電処理やプラズマ処理)などにより親水化した後に硬化樹脂や氷で固め、切断することが可能である。
【0068】
[撥液性の測定]
実施例等で成形したフィルム10を10mm×30mmに切り出し、接触角計(協和界面科学(株)製、CA-D型)を用いて、水滴の接触角を測定した。測定液は純水を用い、1.41μLの純水をフィルム表面に滴下した。測定はフィルム内の10点を測定し、10点の平均した値を接触角とした。
【0069】
[非付着性試験]
実施例等で成形したフィルム10を10mm×30mmに切り出し、固定用冶具に測定面が上になるように固定した。その後固定用冶具を45°に傾斜させた状態で、ヨーグルト(森永ビヒダスプレーンヨーグルト加糖タイプ)を0.3ml滴下し、液滴が滴下後から20mm移動するまでの時間を測定した。また、ヨーグルトの付着残りを目視にて観察した。付着残りがないものを○、それ以外を×とした。
【0070】
[耐久性試験]
実施例等で成形したフィルム10を10mm×30mmに切り出してサンプルとし、100mm×100mmのトレーにサンプルを固定して、200mlの純水をトレー内に注ぎ、24時間浸漬した。24時間後にサンプルを取り出して、常温で24時間乾燥し、乾燥後に接触角計(協和界面科学(株)製、CA-D型)を用いて、水滴の接触角を測定した。測定液は純水を用い、1.41μLの純水をサンプル表面に滴下した。測定はサンプル内の10点を測定し、10点の平均した値を耐久試験後の接触角として、耐久試験前後の接触角の変化を算出した。また、液滴がサンプル表面に付着せず接触角が測定できない場合は、耐久試験前後の接触角の変化のあり、なしを評価した。
【0071】
(実施例1)
(1)フィルム
ポリプロピレンを主体としたポリマー(融点が144℃、ガラス転移温度が-20℃)を含む厚み100μmのフィルムを用いた。
(2)金型
ステンレス板の表面に、Niを主体とした材料を厚さ100μm程度被覆した。その後、金型表面に対し、レーザー加工で直径が0.3μmから0.6μm程度、深さ7μmから10μm程度の微細孔構造が全面に形成された金型を作製した。微細孔が形成された領域は微細孔が形成された表面に対して、20%であった。
【0072】
(3)成形装置および条件
装置は
図5に示すような成形装置50を適用した。プレスユニット54は油圧ポンプで加圧される機構で、内部に加圧プレート57、58が上下に2枚取り付けられ、それぞれ、加熱装置、冷却装置に連結されている。金型53は下側の加圧プレート57の上面に設置される。また、金型53に貼りついたフィルム10’’を剥離するための剥離手段55がプレスユニット54内に設置されている。
成形時の金型温度は160℃とし、加圧力としては全面で10MPaの圧力がかかるようにした。加圧時間としては60秒であった。また、剥離時の金型温度は50℃であった。剥離ロールとフィルムとの離間距離は0.3mmであった。剥離したフィルムをニップロール62で0.6MPaで加圧後、下流側の巻き取りユニット61側に送り出し、巻き取った。
【0073】
(4)成形結果
図9は、実施例1で成形されたフィルム10の繊維形成面の走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による表面写真であり、
図10は、実施例1で成形されたフィルム10の走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による断面写真である。成形されたフィルム10は、基層11と、多数の繊維13が形成された繊維層14とで構成されていた。繊維層14は、基層11に近い側で基層11の表面12に対して略垂直となった繊維13からなる略垂直部15と、基層11から離れた側で基層11の表面12に対して略平行となった繊維13からなり、繊維同士が絡まった状態で延在している略平行部16とで構成されていた。略垂直部15では、繊維13が相対的に疎となり、略平行部16では繊維13が相対的に密となっていた。繊維径は0.3μm、繊維層14の厚みは10.0μmであった。10000μm
2に形成されている繊維13の本数は16700本であった。基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積は、方法(ii)により測定した。得られた繊維13の計測値を表1に示す。
【0074】
(5)撥液性・液滴移動性効果
成形したフィルム10の繊維層14の表面に1.41μLの水を滴下し、接触角計(協和界面科学(株)製、CA-D型)を用いて、水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると、水滴はフィルム10の表面を転がり、一箇所に留めることができないため、接触角の測定は不可能であった。また、45°に傾斜させたフィルム10の表面にヨーグルトを0.3ml滴下し、液滴が滴下後から20mm移動するまでの時間は0.2sであり、付着残りはなかった。
【0075】
(6)耐久性試験
成形したフィルム10を24時間純水で浸漬し、乾燥後に繊維層14の表面に1.41μLの水を滴下し、接触角計(協和界面科学社製、CA-D型)を用いて、水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると耐久試験後も水滴はフィルム10の表面を転がり、一箇所に留めることができないため、接触角の測定は不可能であった。
【0076】
(実施例2)
(1)フィルム
実施例1と同じフィルムを用いた。
(2)金型
実施例1と同じ金型を用いた。
(3)成形装置および条件
実施例1と同じ成形装置50を使用し、成形時の金型温度を150℃とした以外は、実施例1と同じ条件でフィルムを成形した。
【0077】
(4)成形結果
図11は、実施例2で成形されたフィルム10の繊維形成面の走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による表面写真であり、
図12は、実施例2で成形されたフィルム10の走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による断面写真である。成形されたフィルム10は、基層11と、多数の繊維13が形成された繊維層14とで構成されていた。繊維層14は、基層11に近い側で基層11の表面12に対して略垂直となった繊維13からなる略垂直部15と、基層11から離れた側で基層11の表面12に対して略平行となった繊維13からなり、繊維同士が絡まった状態で延在している略水平部16とで構成されていた。略垂直部15では、繊維13が相対的に疎となり、略平行部16では繊維13が相対的に密となっていた。繊維径は0.6μm、繊維層厚みは5.0μmであった。10000μm
2に形成されている繊維13の本数は10300本であった。基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積は、方法(i)により測定した。得られた繊維13の計測値を表1に示す。
【0078】
(5)撥液性・液滴移動性効果
実施例1と同じ条件で水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると、水滴はフィルム10の表面を転がり、一箇所に留めることができないため、接触角の測定は不可能であった。また、45°に傾斜したフィルム10の表面にヨーグルトを0.3ml滴下し、液滴が滴下後から20mm移動するまでの時間は0.4sであり、付着残りはなかった。
(6)耐久性試験
実施例1と同じ条件で水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると耐久試験後も水滴はフィルム10の表面を転がり、一箇所に留めることができないため、接触角の測定は不可能であった。
【0079】
(実施例3)
(1)フィルム
実施例1と同じフィルムを用いた。
(2)金型
実施例1と同じ金型を用いた。
(3)成形装置および条件
実施例1と同じ成形装置50を使用し、剥離時の金型温度を80℃とした以外は、実施例1と同じ条件でフィルムを成形した。
【0080】
(4)成形結果
図13は、実施例3で成形されたフィルム10の繊維形成面の走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による表面写真であり、
図14は、実施例3で成形されたフィルム10の走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による断面写真である。成形されたフィルム10は、基層11と、多数の繊維13が形成された繊維層14とで構成されていた。繊維層14は、基層11に近い側で基層表面に対して略垂直となった繊維13からなる略垂直部15と、基層11から離れた側で基層表面に対して略平行となった繊維13からなり、繊維同士が絡まった状態で延在している略平行部16とで構成されていた。略垂直部15では、繊維13が相対的に疎となり、略平行部16では繊維13が相対的に密となっていた。繊維径は0.45μm、繊維層14の厚みは6.0μmであった。10000μm
2に形成されている繊維13の本数は12700本であった。基層11の表面12における繊維13が結合している部分の面積は、方法(ii)により測定した。得られた繊維13の計測値を表1に示す。
【0081】
(5)撥液性・液滴移動性効果
実施例1と同じ条件で水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると、水滴はフィルム10の表面を転がり、一箇所に留めることができないため、接触角の測定は不可能であった。また、45°に傾斜したフィルム10の表面にヨーグルトを0.3ml滴下し、液滴が滴下後から20mm移動するまでの時間は0.3sであり、付着残りはなかった。
(6)耐久性試験
実施例1と同じ条件で水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると耐久試験後も水滴はフィルム10の表面を転がり、一箇所に留めることができないため、接触角の測定は不可能であった。
【0082】
(比較例1)
(1)フィルム
シクロオレフィンを主体としたポリマー(ガラス転移温度が138℃)を含む厚み100μmのフィルムを用いた。
(2)金型
ステンレス板の表面に、Niを主体とした材料を厚さ100μm程度被覆した。その後、金型表面に対し、レーザー加工で直径が0.5μmから1.0μm、深さ3μmから5μm程度の微細孔構造が全面に形成された金型を作製した。微細孔が形成された領域は表面に対して、21%であった。
【0083】
(3)成形装置および条件
装置は
図5に示すような成形装置50を適用した。プレスユニット54は油圧ポンプで加圧される機構で、内部に加圧プレート57、58が上下に2枚取り付けられ、それぞれ、加熱装置、冷却装置に連結されている。金型53は下側の加圧プレート57の上面に設置される。また、金型53に貼り付いたフィルム10’’を剥離するための剥離手段55がプレスユニット54内に設置されている。成形時の金型温度は165℃とし、加圧力としては全面で5MPaの圧力がかかるようにした。加圧時間としては30秒であった。また、剥離時の金型温度は80℃であった。剥離ロール55Aと金型53との離間距離は0.3mmであった。剥離したフィルム10を下流側の巻き取りユニット61側に送り出し、巻き取った。
【0084】
(4)成形結果
図15は、比較例1で成形されたフィルムの成形面の走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による表面写真であり、
図16は、比較例1で成形されたフィルムの走査型電子顕微鏡((株)キーエンス VE-7800)による断面写真である。成形されたフィルムは、基層と、基層の表面の全面に形成された多数の繊維とで構成されていた。繊維の平均直径は0.35μm、平均高さは1.2μmであり、繊維は引き伸ばされてはいなかった。10000μm
2に形成されている繊維の個数は14300個であった。また、基層の表面に対して垂直な方向でフィルムを切断した断面における繊維の傾斜角度の範囲は、断面における突起の70%以上が基層の表面に対して垂直な方向に対して、20°~45°の範囲であった。繊維の延伸方向は、一定であり、粗密部分がなく、繊維は略平行部と略垂直部で構成されていなかった。基層の表面における繊維が結合している部分の面積は、方法(ii)により測定した。得られた繊維の計測値を表1に示す。
【0085】
(5)撥液性・液滴移動性効果
実施例1と同じ条件で水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると、水滴はフィルム10の表面を転がり、一箇所に留めることができないため、接触角の測定は不可能であった。また、45°に傾斜したフィルム10の表面にヨーグルトを0.3ml滴下したところ、液滴は移動せず停止し、表面に付着していた。
(6)耐久性試験
実施例1と同じ条件で水滴の接触角を測定した。水滴を滴下すると耐久試験後の接触角は125°であり、耐久試験前と比較して接触角が低下していた。
【0086】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の樹脂構造体は、マイクロ流路、細胞培養シート、包装材、防汚または防水シート、記録材料、スクリーン、セパレータ、イオン交換膜、電池隔膜材料、ディスプレイ、光学材料等の表面で撥液性を要する製品や部材に好適に使用される。
【符号の説明】
【0088】
10:樹脂構造体
11:基層
12:基層の表面
13:繊維
14:繊維層
15:略垂直部
16:略平行部
50:製造装置
51:巻出ロール
52:巻出ユニット
53:金型
54:プレスユニット
55:剥離手段
55A:剥離ロール
55B:剥離補助ロール
55H:剥離ロール55Aと金型53との離間距離
56:巻取ロール
57、58:加圧プレート
59、60:バッファ手段
61:巻取ユニット
62:ニップロール
70:製造装置
71:繊維形成面
72:フィルム
73:巻出ロール
74:ラミネート装置
75:加熱ロール
76:金型
77:ニップロール
78:冷却ロール
79:剥離ロール
79H:剥離ロール79と金型76との離間距離
80:搬送ロール
81:ニップロール
82:巻取ロール