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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】プリプレグおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019515394
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010295
(87)【国際公開番号】W WO2019193940
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018070555
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水澤 知希
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆行
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-264137(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133033(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0012086(US,A1)
【文献】特開2017-148960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/04-5/10;5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維とエポキシ樹脂組成物を有するプリプレグであって、繊維含有率が90質量%以下であり、以下の条件(i)および(ii)を満たし、以下の条件(a)および(b)を満たすプリプレグ。
(i)初期プリプレグタックが1.4kgf以上である。
(ii)72時間後のプリプレグタックが0.7kgf以上である。
(a)プリプレグの平均厚みをD(ただし、Dは3μm以上)とするとき、プリプレグの表面からの深さがD/4~3D/4に位置する部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下である。
(b)プリプレグの両面それぞれの表面から深さ0.5μmまでに位置する部位(II)のうち、少なくとも片側の部位(II)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下である。
【請求項2】
強化繊維とエポキシ樹脂組成物を有するプリプレグであって、繊維含有率が90質量%以下であり、以下の条件(a)および(b)を満たすプリプレグ。
(a)プリプレグの平均厚みをD(ただし、Dは3μm以上)とするとき、プリプレグの表面からの深さがD/4~3D/4に位置する部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下である。
(b)プリプレグの両面それぞれの表面から深さ0.5μmまでに位置する部位(II)のうち、少なくとも片側の部位(II)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下である。
【請求項3】
25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下である部位(II)のエポキシ樹脂組成物について、25℃における貯蔵弾性率が30,000Pa以上80,000Pa以下である請求項またはに記載のプリプレグ。
【請求項4】
130℃で2時間硬化させたときの硬化度が95%以上である請求項1~のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
繊維含有率が60質量%以上90質量%以下である請求項1~のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
プリプレグの部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の80℃における粘度が1Pa・s以上80Pa・s以下である請求項のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項7】
強化繊維が炭素繊維である請求項1~のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
シート状強化繊維と、25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物Aを有するプリプレグ前駆体の少なくとも片面に、以下の条件(c)、(d)、(e)を満たすように、25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物Bを配置するプリプレグの製造方法。
(c)プリプレグの繊維含有率が90質量%以下である。
(d)エポキシ樹脂組成物Bの目付が1g/m以上である。
(e)エポキシ樹脂組成物Bの目付(ただし、エポキシ樹脂組成物Bをプリプレグ前駆体の両面に配置する場合は、目付が大きい方のエポキシ樹脂組成物Bの目付)に対するエポキシ樹脂組成物Aの目付の比が2以上である。
【請求項9】
エポキシ樹脂組成物Bの25℃における貯蔵弾性率が30,000Pa以上80,000Pa以下である請求項の記載のプリプレグの製造方法。
【請求項10】
繊維含有率が60質量%以上90質量%以下である請求項またはの記載のプリプレグの製造方法。
【請求項11】
エポキシ樹脂組成物Aの80℃における粘度が1Pa・s以上80Pa・s以下である請求項10のいずれかに記載のプリプレグの製造方法。
【請求項12】
強化繊維が炭素繊維である請求項11のいずれかに記載のプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用途、航空宇宙用途、一般産業用途等に適した繊維強化複合材料を製造するための中間基材であるプリプレグにおいて、貼り付け・積層作業における取り扱い性、特に表面の高接着性に優れたプリプレグおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、スポーツ用途をはじめ、航空宇宙用途や一般産業用途等に広く用いられている。スポーツ用では、ゴルフクラブ用シャフトや釣り竿、自転車フレームなど、強化繊維複合材料を管状体に成形して使用することが多く、マンドレルなどの芯材にプリプレグを必要量巻き付けて積層体とした後、加熱によりプリプレグを硬化させ、芯材を取り出し管状体を得る方法が広く知られている。
【0003】
このような成形方法では、プリプレグの取り扱い性のうち、特にプリプレグの接着性(タック性)が重要であり、これが不十分な場合、芯材とプリプレグや、プリプレグ同士の貼り付け性が悪くなり、積層体に剥がれや浮きが生じる。特に、釣り竿や自転車フレーム等の成形においては、手作業で芯材にプリプレグを貼り付けることが多く、手作業でも短時間かつ低圧力で容易に貼り付けられることが、作業性や作業効率の点で求められている。特許文献1~3では、プリプレグの接着性を改善する方法として、室温での粘度が高めの樹脂層をプリプレグ表面に配置する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-229211号公報
【文献】特開2006-264137号公報
【文献】特開2011-190430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3の方法は、時間と圧力を十分にかけて貼り付け作業を行う場合には適しているが、短時間かつ低圧力での貼り付けには不向きである。一般に、短時間かつ低圧力でのプリプレグの接着性を向上させるために、樹脂粘度を低下させる方法がとられることがあるが、低粘度樹脂をプリプレグ表面に配置した場合、表層樹脂のプリプレグ内部への沈み込みが早く、プリプレグの接着性が時間経過によって大きく低下してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、貼り付け・積層作業において短時間かつ低圧力での取り扱い性に優れたプリプレグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のプリプレグは以下の構成からなる。
【0008】
強化繊維とエポキシ樹脂組成物を有するプリプレグであって、繊維含有率が90質量%以下であり、以下の条件(i)および(ii)を満たすプリプレグである。
(i)初期プリプレグタックが1.4kgf以上である。
(ii)72時間後のプリプレグタックが0.7kgf以上である。
【0009】
あるいは、本発明のプリプレグは以下の構成からなる。 強化繊維とエポキシ樹脂組成物を有するプリプレグであって、繊維含有率が90質量%以下であり、以下の条件(a)および(b)を満たすプリプレグである。
(a)プリプレグの平均厚みをD(ただし、Dは3μm以上)とするとき、プリプレグの表面からの深さがD/4~3D/4に位置する部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下である。
(b)プリプレグの両面それぞれの表面から深さ0.5μmまでに位置する部位(II)のうち、少なくとも片側の部位(II)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下である。 また、本発明のプリプレグの製造方法は以下の構成からなる。
【0010】
シート状強化繊維と、25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物Aを有するプリプレグ前駆体の少なくとも片面に、以下の条件(c)、(d)、(e)を満たすように、25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物Bを配置するプリプレグの製造方法。
(c)プリプレグの繊維含有率が90質量%以下である。
(d)エポキシ樹脂組成物Bの目付が1g/m以上である。
(e)エポキシ樹脂組成物Bの目付(ただし、エポキシ樹脂組成物Bをプリプレグ前駆体の両面に配置する場合は、目付が大きい方のエポキシ樹脂組成物Bの目付)に対するエポキシ樹脂組成物Aの目付の比が2以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間かつ低圧力における高接着性を長く保持するプリプレグが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における強化繊維は、一般的に補強繊維として用いられるものであれば、その必要な強度に応じて適宜選択でき、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、“ケブラー(登録商標)”、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維あるいはナイロンなどの化学繊維や天然繊維、アルミナ繊維などの金属繊維等を用いることができ、さらにこれらを組み合わせても良いし、他の有機繊維と組み合わせても良い。
【0013】
中でも、炭素繊維は、強化繊維の中でも引張弾性率が高く特に好ましく用いられる。炭素繊維としては、特に限定されるものではなく、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系などの炭素繊維を用いることができ、これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。この中で、引張強度が高いプリプレグが得られやすいポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0014】
本発明のプリプレグに用いられるマトリックス樹脂としては、耐熱性、力学特性および炭素繊維との接着性のバランスに優れていることから、エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂組成物が用いられる。
【0015】
エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジグリシジルアニリン誘導体などの中から1種以上を選択して用いることができる。
【0016】
ここで、ビスフェノール型エポキシ樹脂とは、ビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものであり、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等が挙げられる。また、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も使用することができる。中でも、弾性率、靭性と耐熱性のバランスが良いことから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0017】
かかるビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、“jER(登録商標)”505、5050、5051、5054、5057(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。
【0018】
かかるビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、YDF2004(以上、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。
【0019】
かかるビスフェノールS型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”EXA-154(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0020】
アミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキノール置換体、水添品などが挙げられる。
【0021】
かかるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとしては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールとしては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(以上、住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品として、TETRAD-X、TETRAD-C(以上、三菱ガス化学(株)製)などが挙げられる。
【0022】
かかるフェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱ケミカル(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N-740、N-770、N-775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0023】
かかるクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N-660、N-665、N-670、N-673、N-695(以上、DIC(株)製)、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0024】
かかるレゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0025】
かかるフェノールアラルキル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC-2000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0026】
かかるナフトールアラルキル型エポキシ樹脂の市販品としては、“エポトート(登録商標)”ESN-155、“エポトート(登録商標)”ESN-355、“エポトート(登録商標)”ESN-375、“エポトート(登録商標)”ESN-475V、“エポトート(登録商標)”ESN-485、“エポトート(登録商標)”ESN-175(以上、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。
【0027】
かかるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては“エピクロン(登録商標)”HP-7200、HP-7200L、HP-7200H、HP-7200HH、HP-7200HHH(以上、DIC(株)製)、“Tactix(登録商標)”558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル(株)製)、XD-1000-1L、XD-1000-2L(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0028】
かかるビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱ケミカル(株)製)、NC-3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0029】
かかるイソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、オキサゾリドン環を有するXAC4151、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348((株)ADEKA製)などが挙げられる。
【0030】
かかるテトラフェニルエタン型エポキシ樹脂の市販品としては、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂である“jER(登録商標)”1031(三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0031】
かかるトリフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、“タクチックス(登録商標)”742(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
【0032】
かかるジグリシジルアニリン誘導体の市販品としては、GAN(ジグリシジルアニリン)、GOT(ジグリシジルトルイジン、いずれも日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0033】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物には、プリプレグの硬化性を上げるために、硬化剤が好ましく用いられる。
【0034】
硬化剤としては、特に限定されるものではないが、芳香族アミンや脂環式アミンなどのアミン、フェノール樹脂、ジシアンジアミドまたはその誘導体、酸無水物、ポリアミノアミド、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを用いてもよい。
【0035】
かかる芳香族アミンとしては、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0036】
かかる脂環式アミンとしては、イソホロンジアミン、メンセンジアミンなどが挙げられる。
【0037】
かかるフェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、t-ブチルフェノール、ノニルフェノール、カシュー油、リグニン、レゾルシン及びカテコール等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びフルフラール等のアルデヒド類との縮合により得られる樹脂が挙げられ、ノボラック樹脂やレゾール樹脂等が挙げられる。ノボラック樹脂は、シュウ酸等の酸触媒存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はフェノール過剰の条件で反応させることで得られる。レゾール樹脂は、水酸化ナトリウム、アンモニア又は有機アミン等の塩基触媒の存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はホルムアルデヒド過剰の条件で反応させることにより得られる。フェノール樹脂の市販品としては、“スミライトレジン(登録商標)”(住友ベークライト(株)製)、レヂトップ(群栄化学工業(株)製)、“AVライト(登録商標)”(旭有機材工業(株)製)などが挙げられる。
【0038】
かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY7、DICY15(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0039】
また、ゴルフシャフトや釣り竿、自転車などのスポーツ用途では、低温・短時間での硬化が求められることから、プリプレグを130℃で2時間硬化させたときの硬化度が95%以上であることが好ましい。なおここでいうプリプレグの硬化度C[%]は、示差走査熱量計(例えば、DSC 8500:PerkinElmer社製など)にて、未硬化のプリプレグを50℃より昇温速度40℃/minで単純昇温した際に検出される硬化発熱をΔH、130℃で2時間加熱したプリプレグを50℃より昇温速度40℃/minで単純昇温した際に検出される硬化発熱をΔH’とするとき、以下の式で算出される。
【0040】
C=(ΔH-ΔH’)/ΔH×100 [%]。
【0041】
プリプレグを130℃で2時間硬化させたときの硬化度が95%以上であることを実現するために、エポキシ樹脂組成物には硬化促進剤が好ましく用いられる。
【0042】
かかる硬化促進剤としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩や、ルイス酸類やブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。中でも、保存安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物が好ましく用いられる。
【0043】
かかるウレア化合物としては、例えば、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3-フェニル-1,1-ジメチルウレアなどを使用することができる。ウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上、Emerald Performance Materials, LLC製)などが挙げられる。
【0044】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物には、熱可塑性樹脂および無機粒子、無機フィラー等が含まれていてもよい。
【0045】
熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子等を配合することができる。エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂としては、樹脂と強化繊維との接着性改善効果が期待できる水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。エポキシ樹脂に可溶で、水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂としては、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂およびスルホニル基を有する熱可塑性樹脂などを挙げることができる。
【0046】
アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができる。アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドンを挙げることができる。スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンを挙げることができる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは、主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。
【0047】
エポキシ樹脂に可溶で、水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、ポリビニルアセタール樹脂として、デンカブチラールおよび“デンカホルマール(登録商標)”(電気化学工業(株)製)、“ビニレック(登録商標)”(チッソ(株)製)、フェノキシ樹脂として、“UCAR(登録商標)”PKHP(ユニオンカーバイド(株)製)、ポリアミド樹脂として“マクロメルト(登録商標)”(ヘンケル白水(株)製)、“アミラン(登録商標)”CM4000(東レ(株)製)、ポリイミドとして“ウルテム(登録商標)”(ジェネラル・エレクトリック(株)製)、“Matrimid(登録商標)”5218(チバ(株)製)、ポリスルホンとして“スミカエクセル(登録商標)”(住友化学(株)製)、“UDEL(登録商標)”(ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)、ポリビニルピロリドンとして、“ルビスコール(登録商標)”(ビーエーエスエフジャパン(株)製)を挙げることができる。
【0048】
また、アクリル系樹脂は、エポキシ樹脂との相溶性が高く、粘弾性制御のために好ましく用いられる。アクリル樹脂の市販品を例示すると、“ダイヤナール(登録商標)”BRシリーズ(三菱ケミカル(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M,M100,M500(松本油脂製薬(株)製)、“Nanostrength(登録商標)”E40F、M22N、M52N(アルケマ(株)製)などを挙げることができる。
【0049】
本発明のプリプレグの第一の形態としては、強化繊維とエポキシ樹脂組成物を有するプリプレグであって、繊維含有率が90質量%以下であり、以下の条件(i)および(ii)を満たすプリプレグであることが必要である。
(i)初期プリプレグタックが1.4kgf以上である。
(ii)72時間後のプリプレグタックが0.7kgf以上である。
ここで、初期プリプレグタックとは、プリプレグ製造直後、もしくはその製造に際しプリプレグの表面を外気から遮断するためフィルム状のもので覆う場合、そのカバーフィルムを剥離した直後のプリプレグタックであり、72時間後のプリプレグタック値とは、カバーフィルムを剥離したプリプレグの表面を温度24±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、72時間放置した後のプリプレグタックである。なおここでいうプリプレグタックは、タックテスター(例えば、EMX-1000N:株式会社イマダ製)を用い、18×18mmのプリプレグを0.5kgf(5N)の荷重で0.1秒間プリプレグに圧着し、500mm/minの速度にて引っ張り、剥がれる際の抵抗力を測定することで求めることができる。初期プリプレグタックが1.4kgf以上かつ72時間後のプリプレグタックが0.7kgf以上であることにより、低圧力・短接触時間での高粘着性を長く維持され、ゴルフシャフトや釣り竿、自転車などのスポーツ用途で多い手作業での貼り付け性に優れたプリプレグを得ることができる。本発明において、接着性が良好とは、初期プリプレグタック(初期タックともいう。)と72時間後のプリプレグタック(72時間後タックともいう。)が優れることを意味する。
【0050】
さらに、本発明のプリプレグの第一の形態では、以下の条件(iii)を満たすことが好ましい。
(iii)エポキシ樹脂組成物の25℃における平均粘度が45,000Pa・s以上である。
【0051】
さらに、本発明のプリプレグの第一の形態では、強化繊維とエポキシ樹脂組成物を有するプリプレグであって、繊維含有率が90質量%以下であり、以下の条件(a)および(b)を満たすことが好ましい。
(a)プリプレグの平均厚みをD(ただし、Dは3μm以上)とするとき、プリプレグの表面からの深さがD/4~3D/4に位置する部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下である。
(b)プリプレグの両面それぞれの表面から深さ0.5μmまでに位置する部位(II)のうち、少なくとも片側の部位(II)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下である。
なお、ここでいうプリプレグの平均厚みDは、プリプレグの断面を落射照明型光学顕微鏡で200倍以上に拡大して撮影し、横方向の5ヵ所での表面間の距離の平均値を算出することで求めることができる。また、エポキシ樹脂組成物の粘度および貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(例えば、ARES G2:TA Instrument社製など)にて、上下部測定冶具に直径8mmの平板のパラレルプレートを用い、測定温度に保持し、周波数1.00Hz、プレート間隔1mmで測定することで得られる複素粘性率ηおよび貯蔵弾性率G’をいう。テープ等を用いてプリプレグ表層部分を剥離し、落射照明型光学顕微鏡で厚みを確認しながら、表面からの深さがD/4~3D/4の部位(I)を露出させ、スパチュラ等を用いて50mgの樹脂組成物を採取し、部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の粘度および貯蔵弾性率を測定することができる。また、落射照明型光学顕微鏡で厚みを確認しながら、プリプレグの表面から深さ0.5μmまでの部位(II)からスパチュラ等を用いて50mgの樹脂組成物を採取し、部位(II)に存在するエポキシ樹脂組成物の粘度を測定することができる。また、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンなどの溶媒に抽出した後、溶媒を蒸発させることにより樹脂組成物を採取し、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の平均粘度を測定することができる。
【0052】
部位(I)に25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物を局在化させ、少なくとも片側の部位(II)に25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物を局在化させるためには、プリプレグの平均厚みDを3μm以上とすることが好ましい。
【0053】
部位(II)の少なくとも片側に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度を10,000Pa・s以上とすることで、プリプレグを取り扱う際の過剰なベタつきを抑えることができる。また、部位(II)の少なくとも片側に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度を40,000Pa・s以下、より好ましくは38,000Pa・s以下、さらに好ましくは31,000Pa・s以下とすることで、プリプレグ同士の接着時に互いの表面樹脂が相溶しやすくなり、短時間・低圧力での高接着性を実現できる。
【0054】
部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度を50,000Pa・s以上、より好ましくは100,000Pa・s以上、さらに好ましくは140,000Pa・s以上とすることで、部位(II)に存在する樹脂のプリプレグ内部の繊維層への沈み込みを抑制することができ、高接着性を長時間保持することが可能となる。また、部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度を300,000Pa・s以下とすることにより、プリプレグのドレープ性が向上し、貼り付け性がよくなる。
【0055】
さらに、本発明のプリプレグの第一の形態では、プリプレグの部位(II)のうち、少なくとも片側の部位(II)に存在するエポキシ樹脂組成物について、25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下であることに加えて、25℃における貯蔵弾性率が30,000Pa以上80,000Pa以下であることが好ましい。25℃における貯蔵弾性率がこの範囲にあることにより、表層樹脂の保持力が向上し、一度接着したプリプレグが剥がれづらくなる。
【0056】
さらに、本発明のプリプレグの第一の形態では、130℃で2時間硬化させたときの硬化度が95%以上であることが好ましい。130℃で2時間硬化させたときの硬化度がこの範囲にあることにより、低温・短時間での成形が可能となり、生産性が向上する。
【0057】
さらに、本発明のプリプレグの第一の形態では、繊維含有率が60質量%以上90質量%以下であることが好ましい。繊維含有率を90質量%以下とすることにより、形状の安定したプリプレグを得ることができる。また、繊維含有率を60質量%以上とすることにより、軽量かつ強度や剛性などの力学物性に優れた強化繊維複合材料を得ることができる。
【0058】
さらに、本発明のプリプレグの第一の形態では、部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の80℃における粘度が1Pa・s以上80Pa・s以下であることが好ましい。80℃における粘度が1Pa・s未満であると、強化繊維への含浸時に樹脂が両端に流れてしまい、樹脂が基材からはみ出して目付が低下したり作業効率が低下したりすることがある。また、80℃における粘度が80Pa・sを超えると、強化繊維への含浸性が悪化するため、成形時にボイドが多発し、成形品の物性が低下する。
【0059】
さらに、本発明のプリプレグの第一の形態では、強化繊維が炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維は、強化繊維の中でも引張弾性率が高く、力学物性に優れた強化繊維複合材料を得ることができる。
【0060】
本発明のプリプレグの第二の形態としては、繊維含有率が90質量%以下であり、以下の条件(a)および(b)を満たす必要がある。
(a)プリプレグの平均厚みをD(ただし、Dは3μm以上)とするとき、プリプレグの表面からの深さがD/4~3D/4に位置する部位(I)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下である。
(b)プリプレグの両面それぞれの表面から深さ0.5μmまでに位置する部位(II)のうち、少なくとも片側の部位(II)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下である。
【0061】
本発明のプリプレグの第二の形態において、上記本発明のプリプレグの第一の形態で説明した内容は好ましく適用できる。
【0062】
本発明のプリプレグの製造方法は、シート状強化繊維と、25℃における粘度が50,000Pa・s以上300,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物Aを有するプリプレグ前駆体の少なくとも片面に、以下の条件(c)、(d)、(e)を満たすように、25℃における粘度が10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物Bを配置する方法であることが必要である。
(c)プリプレグの繊維含有率が90質量%以下である。
(d)エポキシ樹脂組成物Bの目付が1g/m以上である。
(e)エポキシ樹脂組成物Bの目付(ただし、エポキシ樹脂組成物Bをプリプレグ前駆体の両面に配置する場合は、目付が大きい方のエポキシ樹脂組成物Bの目付)に対するエポキシ樹脂組成物Aの目付の比が2以上である。
【0063】
シート状強化繊維とエポキシ樹脂組成物Aを有するプリプレグ前駆体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いて製造することができる。例えば、エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトン、メタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法と、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等を挙げることができる。ウェット法は、強化繊維をエポキシ樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法である。ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接、強化繊維からなる繊維基材に含浸させる方法、または一旦エポキシ樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで前記強化繊維からなる繊維基材の両側または片側に前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより前記強化繊維からなる繊維基材に樹脂を含浸させる方法である。ホットメルト法によれば、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため好ましい。
【0064】
プリプレグ前駆体の少なくとも片面にエポキシ樹脂組成物Bを配置する方法は、プリプレグ前駆体の表面に樹脂Bを直接塗布する方法であっても、あるいは予め樹脂Bを離型シート等に塗布したフィルムをプリプレグ前駆体の表面に転写、塗布する方法であっても良い。プリプレグ前駆体に樹脂Bを塗布する方法としては、例えば、ナイフコーターやダイコーター、リップコーターやグラビアコーターなど一定量の樹脂を吐出しながら塗布目付量を制御して塗布する方法が挙げられる。予め樹脂フィルムに作製する方法としては、離型シートに樹脂Bを、上記したナイフコーターやダイコーター、リップコーターやグラビアコーターなどの方法で塗布する、もしくは、ロール回転速度とロール間クリアランスで目付量を制御するリバースロールコータやトップフィードリバースロールコータなどの方法を用いることもできる。予め作製した樹脂フィルムをプリプレグ前駆体に転写、塗布する方法としては、特に限定されないが、プリプレグの片面に、この樹脂フィルムの樹脂面を貼り付け、例えば室温、あるいは樹脂が変質しない程度に加温して加圧する方法などを挙げることができる。この際、樹脂Bのフィルムをプリプレグ前駆体に転写、塗布する条件は、樹脂Aとの混合をなるべく避けるため、低圧に設定し、樹脂Bをプリプレグの表面側に局在化させることが好ましい。
【0065】
本発明のプリプレグの製造方法において、エポキシ樹脂組成物Aの25℃における粘度を50,000Pa・s以上、より好ましくは100,000Pa・s以上、さらに好ましくは140,000Pa・s以上とすることで、プリプレグ表層樹脂の繊維層への沈み込みを抑制することができ、高接着性を長時間保持することが可能となる。また、エポキシ樹脂組成物Aの25℃における粘度を300,000Pa・s以下とすることにより、得られるプリプレグのドレープ性が向上し、貼り付け性がよくなる。
【0066】
また、本発明のプリプレグの製造方法において、エポキシ樹脂組成物Bの25℃における粘度を10,000Pa・s以上とすることで、プリプレグを取り扱う際の過剰なベタつきを抑えることができる。また、エポキシ樹脂組成物Bの25℃における粘度を40,000Pa・s以下、より好ましくは38,000Pa・s以下、さらに好ましくは31,000Pa・s以下とすることで、得られるプリプレグ同士の接着時に互いの表面樹脂が相溶しやすくなり、短時間・低圧力での高接着性を実現できる。
【0067】
また、本発明のプリプレグの製造方法においては、エポキシ樹脂組成物Bの目付が1g/m以上であり、かつエポキシ樹脂組成物Bの目付(ただし、エポキシ樹脂組成物Bをプリプレグ前駆体の両面に配置する場合は、目付が大きい方のエポキシ樹脂組成物Bの目付)に対するエポキシ樹脂組成物Aの目付の比が2以上であることが必要である。エポキシ樹脂組成物AおよびBの目付がこの範囲にあることにより、プリプレグの接着性を効果的に向上できるとともに、強化繊維複合材料の力学物性を安定して発現させることができる。また、同様の理由からエポキシ樹脂組成物Bは、接着性を向上させたい面にのみ配置するのがよく、プリプレグ前駆体の両面よりも片面に配置することが好ましい。
【0068】
なお、本発明のプリプレグにおける部位(I)および部位(II)以外の部位(III)に存在するエポキシ樹脂組成物については特に限定しないが、前記製造方法によりプリプレグを得る場合、部位(III)に存在するエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は10,000Pa・s以上300,000Pa・s以下となることが一般的である。
【0069】
さらに、本発明のプリプレグの製造方法においては、エポキシ樹脂組成物Bの25℃における貯蔵弾性率が30,000Pa以上80,000Pa以下であることが好ましい。エポキシ樹脂組成物Bの25℃における貯蔵弾性率がこの範囲にあることにより、表層樹脂の保持力が向上し、一度接着したら剥がれにくいプリプレグを得ることができる。
【0070】
本発明のプリプレグの製造方法においては、繊維含有率が60質量%以上90質量%以下であることが好ましい。繊維含有率を90質量%以下とすることにより、形状の安定したプリプレグを得ることができる。また、繊維含有率を60質量%以上とすることにより、軽量かつ強度や剛性などの力学物性に優れた強化繊維複合材料を得ることができる。
【0071】
さらに、本発明のプリプレグの製造方法においては、エポキシ樹脂組成物Aの80℃における粘度が1Pa・s以上80Pa・s以下であることが好ましい。エポキシ樹脂組成物Aの80℃における粘度が1Pa・s未満であると、強化繊維への含浸時に樹脂が両端に流れてしまい、樹脂が基材からはみ出して目付が低下したり作業効率が低下したりすることがある。また、80℃における粘度が80Pa・sを超えると、強化繊維への含浸性が悪化するため、成形時にボイドが多発し、成形品の物性が低下する。
【0072】
さらに、本発明のプリプレグの製造方法においては、強化繊維が炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維は、強化繊維の中でも引張弾性率が高く、力学物性に優れた強化繊維複合材料を得ることができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明を詳細に記述する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0074】
本実施例および比較例に用いたマトリックス樹脂および炭素繊維は、以下の通りである。
【0075】
<エポキシ樹脂>
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”828、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:189)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”1001、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:475)
・フェノールノボラック型エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”154、三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量:178)
・m-アミノフェノール型エポキシ樹脂(“アラルダイト(登録商標)”MY0600、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製、エポキシ当量:116)。
【0076】
<硬化剤>
・4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(“セイカキュア(登録商標)”S、和歌山精化工業(株)製、活性水素当量:62)
・ジシアンジアミド(DICY7、三菱ケミカル(株)製、活性水素当量:12)。
【0077】
<硬化促進剤>
・3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(DCMU99、保土ヶ谷化学工業(株)製)。
【0078】
<熱可塑性樹脂>
・ポリビニルホルマール(“ビニレック(登録商標)”K、jNC(株)製)
・S-B-M共重合体(“Nanostrength(登録商標)”M22N、アルケマ(株)製、Sがスチレン、Bが1,4-ブタジエン、Mがメタクリル酸メチル)
・ポリエーテルスルホン(“スミカエクセル(登録商標)”PES 5003P、住友化学(株)社製)。
【0079】
<強化繊維>
・炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T700SC-12K、東レ(株)製、引張弾性率:230GPa、引張強度:4900MPa)。
・炭素繊維(“トレカ(登録商標)”M40JB-6K、東レ(株)製、引張弾性率:377GPa、引張強度:4400MPa)。
・炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T1100GC-12K、東レ(株)製、引張弾性率:324GPa、引張強度:7000MPa)。
【0080】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
表1に記載の各質量部のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、熱可塑性樹脂を用いて、エポキシ樹脂および熱可塑性樹脂を溶融混練したのち冷却し、硬化剤および硬化促進剤を加えることにより、エポキシ樹脂組成物(a)~(l)を得た。
【0081】
本実施例および比較例における各種特性(物性)の測定方法は以下の通りである。
【0082】
<平均厚みの測定方法>
得られたプリプレグの断面を落射照明型光学顕微鏡で200倍以上に拡大し、プリプレグの上下面が視野内に納まるようにして写真撮影した。断面写真の横方向の5ヵ所で表面間の距離を測定し、その平均値をプリプレグ平均厚みDとした。
【0083】
<粘度および貯蔵弾性率の測定方法>
テープを用いて、得られたプリプレグの表層部分を剥離し、落射照明型光学顕微鏡で厚みを確認しながら、表面からの深さがD/4~3D/4の部位(I)を露出させ、スパチュラを用いて50mgの樹脂組成物を採取した。また、落射照明型光学顕微鏡で厚みを確認しながら、プリプレグの表面から深さ0.5μmまでの部位(II)からスパチュラを用いて50mgの樹脂組成物を採取した。また、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンに抽出した後、メチルエチルケトンを蒸発させることにより、平均粘度測定用の樹脂組成物を得た。
【0084】
動的粘弾性測定装置(ARES G2:TA Instrument社製)にて、上下部測定冶具に直径8mmの平板のパラレルプレートを用い、上部と下部の冶具間距離が1mmとなるように、得られたエポキシ樹脂組成物をセット後、測定温度に保持し、周波数1.00Hzで、粘度および貯蔵弾性率を測定した。測定温度が25℃の場合は歪み0.1%、測定温度が80℃の場合は歪み100%とした。
【0085】
<硬化度の測定方法>
示差走査熱量計(DSC 8500:PerkinElmer社製)にて、得られたプリプレグを50℃より昇温速度40℃/minで単純昇温した際に検出される硬化発熱をΔH、130℃で2時間加熱したプリプレグを一旦50℃に冷却した後50℃より昇温速度40℃/minで単純昇温した際に検出される硬化発熱をΔH’とし、以下の式にて硬化度Cを算出した。
C=(ΔH-ΔH’)/ΔH×100 [%]。
【0086】
<プリプレグタックの測定方法>
タックテスター(EMX-1000N:株式会社イマダ製)を用い、18×18mmのプリプレグを0.5kgf(5N)の荷重で別途準備した同じプリプレグに0.1秒間圧着し、500mm/minの速度にて引っ張り、剥がれる際の抵抗力を5回測定し、その平均値をプリプレグタックとした。初期プリプレグタックとは、プリプレグ製造直後、もしくはその製造に際しプリプレグの表面を外気から遮断するためフィルム状のもので覆う場合、そのカバーフィルムを剥離した直後のプリプレグタック、72時間後のプリプレグタックとは、カバーフィルムを剥離したプリプレグの表面を温度24±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、72時間放置した後のプリプレグタックとした。
【0087】
<プリプレグの巻き付け試験の実施方法>
温度24±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、直径20mmのSUS製円柱に、200×200mmのプリプレグを、強化繊維引き揃え方向が円柱長手方向に対して90°の角度になるように、0.5kgfの荷重で10秒間かけて巻き付け、プリプレグの巻き付き状態を経時観察した。プリプレグの巻き終わり部分の最大剥離高さが2mm以上となった場合に、「巻き剥がれ有」と判定した。
【0088】
<実施例1>
表2の実施例1の欄に記載のとおり、樹脂Aとしてエポキシ樹脂組成物(a)を用い、コーターを使用して離型紙上に塗布し、樹脂目付44g/mの樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルム2枚を、シート状に一方向に整列させた強化繊維“トレカ(登録商標)”T700SC-12Kの両面から重ね、加熱しながら加圧してエポキシ樹脂組成物(a)を含浸させ、プリプレグ前駆体を作製した。次に、樹脂Bとしてエポキシ樹脂組成物(b)を用い、コーターを使用して離型紙上に塗布し、樹脂目付12g/mの樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルム1枚を前記プリプレグ前駆体の片面に重ね、加熱しながら加圧することにより、繊維目付100g/m、繊維質量含有率50%のプリプレグを得た。プリプレグ目付は200g/m、プリプレグ平均厚みは151μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ148,900Pa・sおよび15Pa・sであった。また、樹脂Bを配置した側の部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ23,800Pa・sおよび101,500Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は124,600Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが2.3kgf(23N)、72時間後タックが1.6kgf(16N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は70%であった。
【0089】
<実施例2>
表2の実施例2の欄に記載のとおり、樹脂Aの樹脂フィルムの目付を13g/mとした以外は実施例1と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/mであり、実施例1に比べて軽量であった。また、プリプレグ平均厚みは96μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ148,900Pa・sおよび15Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ23,800Pa・sおよび101,500Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は118,700Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.5kgf(15N)、72時間後タックが0.9kgf(9N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は80%であり、実施例1に比べて硬化性は良好であった。
【0090】
<実施例3>
表2の実施例3の欄に記載のとおり、樹脂を樹脂組成物(c)とした以外は実施例2と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは95μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ61,400Pa・sおよび9Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ23,800Pa・sおよび101,500Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は52,100Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.5kgf(15N)、72時間後タックが0.8kgf(8N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であり、実施例2に比べて硬化性は良好であった。
【0091】
<実施例4>
表2の実施例4の欄に記載のとおり、樹脂Bを樹脂組成物(d)とした以外は実施例3と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは95μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ61,400Pa・sおよび9Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ14,700Pa・sおよび28,200Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は50,800Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.4kgf(14N)、72時間後タックが0.7kgf(7N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0092】
<実施例5>
表2の実施例5の欄に記載のとおり、樹脂Bを樹脂組成物(e)とした以外は実施例4と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは96μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ61,400Pa・sおよび9Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ10,300Pa・sおよび76,600Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は45,800Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが2.3kgf(23N)、72時間後タックが1.1kgf(11N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0093】
<実施例6>
表2の実施例6の欄に記載のとおり、樹脂Bを樹脂組成物(f)とした以外は実施例5と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは95μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ61,400Pa・sおよび9Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は54,600Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.7kgf(17N)、72時間後タックが0.8kgf(8N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0094】
<実施例7>
表2の実施例7の欄に記載のとおり、樹脂Aを樹脂組成物(g)とした以外は実施例6と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは98μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は192,400Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.8kgf(18N)、72時間後タックが1.2kgf(12N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0095】
<実施例8>
表2の実施例8の欄に記載のとおり、樹脂Aの樹脂フィルムの目付を23g/mとした以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率63%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は158g/m、プリプレグ平均厚みは114μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は220,000Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.9kgf(19N)、72時間後タックが1.4kgf(14N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0096】
<実施例9>
表3の実施例9の欄に記載のとおり、樹脂Aの樹脂フィルムの目付を9g/m、樹脂Bの樹脂フィルムの目付を1g/m、とした以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率84%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は119g/m、プリプレグ平均厚みは80μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は246,700Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.6kgf(16N)、72時間後タックが0.8kgf(8N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0097】
<実施例10>
表3の実施例10の欄に記載のとおり、強化繊維を“トレカ(登録商標)”M40JB-6Kとした以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは100μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は193,400Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.8kgf(18N)、72時間後タックが1.0kgf(10N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0098】
<実施例11>
表3の実施例11の欄に記載のとおり、強化繊維を“トレカ(登録商標)”T1100GC-12Kとした以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは99μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は194,200Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.8kgf(18N)、72時間後タックが1.3kgf(13N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0099】
<実施例12>
表3の実施例12の欄に記載のとおり、繊維目付を55g/m、とした以外は実施例9と同様の方法で、繊維質量含有率74%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は74g/m、プリプレグ平均厚みは51μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は250,300Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.6kgf(16N)、72時間後タックが1.1kgf(11N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0100】
<実施例13>
表3の実施例13の欄に記載のとおり、樹脂Aの樹脂フィルムの目付を6g/mとした以外は実施例12と同様の方法で、繊維質量含有率81%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は68g/m、プリプレグ平均厚みは47μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は241,800Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.6kgf(16N)、72時間後タックが0.9kgf(9N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0101】
<実施例14>
表3の実施例14の欄に記載のとおり、樹脂目付12g/mのエポキシ樹脂組成物(f)のフィルム2枚をプリプレグ前駆体の両面に重ね、加熱しながら加圧した以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率67%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は150g/m、プリプレグ平均厚みは110μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,600Pa・sおよび37,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は151,500Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.9kgf(19N)、72時間後タックが1.3kgf(13N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0102】
<実施例15>
表3の実施例15の欄に記載のとおり、樹脂Bを樹脂組成物(j)とした以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは98μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ30,000Pa・sおよび67,200Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は190,000Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが2.0kgf(20N)、72時間後タックが1.2kgf(12N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0103】
<実施例16>
表3の実施例16の欄に記載のとおり、樹脂Bを樹脂組成物(k)とした以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは97μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ33,800Pa・sおよび33,400Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は182,300Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.6kgf(16N)、72時間後タックが0.8kgf(8N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0104】
<実施例17>
表4の実施例17の欄に記載のとおり、樹脂Bを樹脂組成物(l)とした以外は実施例12と同様の方法で、繊維目付55g/m、繊維質量含有率74%のプリプレグを作製した。プリプレグ目付は74g/m、プリプレグ平均厚みは52μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ37,200Pa・sおよび36,600Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は249,600Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.6kgf(16N)、72時間後タックが1.1kgf(11N)であり、初期および72時間後ともに接着性は良好であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後72時間以上経っても巻き剥がれは発生せず、巻き付け性は良好であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0105】
<比較例1>
表4の比較例1の欄に記載のとおり、樹脂Aとしてエポキシ樹脂組成物(c)を用い、コーターを使用して離型紙上に塗布し、樹脂目付19g/mの樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルム2枚を、シート状に一方向に整列させた強化繊維“トレカ(登録商標)”T700SC-12Kの両面から重ね、加熱しながら加圧してエポキシ樹脂組成物(c)を含浸させることにより、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを得た。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは94μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ61,400Pa・sおよび9Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ61,400Pa・sおよび161,500Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は61,400Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.1kgf(11N)、72時間後タックが0.7kgf(7N)であり、初期の接着性が不十分であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後数秒で巻き剥がれが発生し、巻き付け性は不良であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0106】
<比較例2>
表4の比較例2の欄に記載のとおり、樹脂Aをエポキシ樹脂(e)とした以外は比較例2と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを得た。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは94μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ10,300Pa・sおよび48Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ10,300Pa・sおよび76,600Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は10,300Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが2.1kgf(21N)、72時間後タックが0.3kgf(3N)であり、初期の接着性は良好であったものの、72時間後の接着性は不十分であった。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後24時間で巻き剥がれが発生し、巻き付け性はやや不良であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0107】
<比較例3>
表4の比較例3の欄に記載のとおり、樹脂Aをエポキシ樹脂(f)とした以外は実施例5と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを得た。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは96μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ37,600Pa・sおよび2Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ10,300Pa・sおよび76,600Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は29,600Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが2.1kgf(21N)、72時間後タック0.6kgf(6N)であり、実施例5に比べて72時間後の接着性が大きく悪化した。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後48時間で巻き剥がれが発生し、巻き付け性はやや不良であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0108】
<比較例4>
表4の比較例4の欄に記載のとおり、樹脂Bをエポキシ樹脂(c)とした以外は実施例7と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを得た。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは98μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ37,600Pa・sおよび2Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ61,400Pa・sおよび161,500Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は201,500Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.2kgf(12N)、72時間後タックが0.7kgf(7N)であり、実施例7に比べて初期の接着性が大きく悪化した。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後数秒で巻き剥がれが発生し、巻き付け性は不良であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0109】
<比較例5>
表4の比較例5の欄に記載のとおり、樹脂Aをエポキシ樹脂(h)とした以外は比較例4と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを得た。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは97μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ7,800Pa・sおよび7Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ61,400Pa・sおよび161,500Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は27,300Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが0.9kgf(9N)、72時間後タックが0.5kgf(5N)であり、比較例4に比べてさらに接着性が悪化した。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後数秒で巻き剥がれが発生し、巻き付け性は不良であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0110】
<比較例6>
表4の比較例6の欄に記載のとおり、樹脂Aをエポキシ樹脂(i)とした以外は比較例4と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率72%のプリプレグを得た。プリプレグ目付は138g/m、プリプレグ平均厚みは98μmであった。このプリプレグの部位(I)の25℃および80℃における粘度は、それぞれ255,600Pa・sおよび1Pa・sであった。また、部位(II)の25℃における粘度および貯蔵弾性率は、それぞれ147,200Pa・sおよび92,500Paであった。さらに、プリプレグに含有されるエポキシ樹脂組成物の25℃における粘度は228,500Pa・sであった。得られたプリプレグのプリプレグタックを測定したところ、初期タックが1.1kgf(11N)、72時間後タックが0.7kgf(7N)であり、比較例4に比べて初期の接着性が悪化した。このプリプレグの巻き付け試験を実施したところ、巻き付け後数秒で巻き剥がれが発生し、巻き付け性は不良であった。また、130℃で2時間硬化させたときの硬化度は100%であった。
【0111】
<比較例7>
表4の比較例7の欄に記載のとおり、樹脂Aの樹脂フィルムの目付を4g/mとした以外は実施例10と同様の方法で、繊維目付100g/m、繊維質量含有率92%のプリプレグを得たようとしたが、プリプレグとしての形状をなさず作製できなかった。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のプリプレグは、短時間かつ低圧力における高接着性を長く保持することから、特に、成形時に手作業での貼り付けが多い、釣り竿や自転車フレーム等のスポーツ・レジャー用途において、取り扱い性に優れているため、好ましく用いられる。