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特許7234928膜・触媒接合体の製造方法、及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】膜・触媒接合体の製造方法、及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20230301BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230301BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019542231
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028006
(87)【国際公開番号】W WO2020026796
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2018144812
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂下 竜太
(72)【発明者】
【氏名】新宅 有太
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
(72)【発明者】
【氏名】阿部 五月
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-272672(JP,A)
【文献】特開2010-238641(JP,A)
【文献】特開2015-069739(JP,A)
【文献】特開2005-222894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜に触媒層が接合されてなる膜・触媒接合体の製造方法であって、
前記電解質膜は高分子電解質膜であって、
接合前の触媒層の電解質膜との接合面に液滴状に液体を付与する液体付与工程と、
液体が付与された触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程と、
を有し、
前記液体付与工程において付与する液体が水を含む液体である、膜・触媒接合体の製造方法。
【請求項2】
電解質膜に触媒層が接合されてなる膜・触媒接合体の製造方法であって、
前記電解質膜は高分子電解質膜であって、
接合前の触媒層の電解質膜との接合面に液体を付与する液体付与工程と、
液体が付与された触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程と、
を有する膜・触媒接合体の製造方法であって、
前記液体付与工程において、前記熱圧着工程における前記液体の量が触媒層の表面1cm辺り0.1μL以上5μL以下であり、
前記液体付与工程において付与する液体が水を含む液体である、膜・触媒接合体の製造方法。
【請求項3】
前記水を含む液体における水の含有割合が90質量%以上、100質量%以下である、請求項1または2に記載の膜・触媒接合体の製造方法。
【請求項4】
前記液体付与工程において付与する液体が純水である、請求項3に記載の膜・触媒接合体の製造方法。
【請求項5】
前記液体付与工程において、触媒層の表面に液滴状に前記液体を付与する、請求項2に記載の膜・触媒接合体の製造方法。
【請求項6】
前記液体付与工程において、前記液体をスプレーによって付与する、請求項1~5のいずれかに記載の膜・触媒接合体の製造方法。
【請求項7】
前記電解質膜として炭化水素系電解質膜を用いる、請求項1~6のいずれかに記載の膜・触媒接合体の製造方法。
【請求項8】
電解質膜の表面に触媒層が接合されてなる触媒層付電解質膜の製造方法であって、
前記電解質膜の表面に、請求項1~7のいずれかに記載の方法により触媒層を接合することを含む触媒層付電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記触媒層は電解質膜への接合前から基材により支持されており、該基材は通気性を有する、請求項8に記載の触媒層付電解質膜の製造方法。
【請求項10】
電解質膜の両面に触媒層が接合されてなる触媒層付電解質膜の製造方法であって、
前記電解質膜は高分子電解質膜であって、
電解質膜の一方の面に触媒溶液を塗布・乾燥して第1の触媒層を形成する工程と、
前記電解質膜の他方の面に触媒層を接合して第2の触媒層を形成する工程と、
を有し、
前記第2の触媒層を形成する工程が、接合前の第2の触媒層の電解質膜との接合面に液体を付与する液体付与工程と、
液体が付与された第2の触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程とを有する触媒層付電解質膜の製造方法。
【請求項11】
電解質膜の両面に触媒層が接合されてなる触媒層付電解質膜の製造方法であって、
電解質膜の一方の面に触媒溶液を塗布・乾燥して第1の触媒層を形成する工程と、
前記電解質膜の他方の面に、請求項1~9のいずれかに記載の方法により触媒を接合して第2の触媒層を形成する工程と、
を有する触媒層付電解質膜の製造方法。
【請求項12】
前記第1の触媒層をカバーフィルムで被覆する工程を更に有し、かつ前記第2の触媒層を形成する工程を、第1の触媒層がカバーフィルムで被覆された状態で行う、請求項10または11に記載の触媒層付電解質膜の製造方法。
【請求項13】
電解質膜に触媒層が接合されてなる膜・触媒接合体の製造装置であって、
前記電解質膜は高分子電解質膜であって、
接合前の触媒層の電解質膜との接合面に液滴状に水を含む液体を付与する液体付与手段と、
液体が付与された触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着手段と、
を有する膜・触媒接合体の製造装置。
【請求項14】
前記液体付与手段がスプレーである、請求項13に記載の膜・触媒接合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池等の電気化学装置に利用される、高分子電解質膜と触媒層が接合されてなる部材、すなわち膜・触媒接合体の製造方法、及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」ということがある)は、固体高分子形燃料電池のキーマテリアルであり、近年ではさらに、固体高分子電解質膜型水電解装置や電気化学式水素ポンプといった水素インフラ関連機器への適用についても検討が進んでいる。
【0003】
高分子電解質膜をこうした電気化学機器に適用するに際し、電解質膜と触媒層を接合した部材が利用される。このような部材の例としては、電解質膜の表面に触媒層を形成した触媒層付電解質膜が代表である。
【0004】
触媒層付電解質膜の製造方法としては例えば以下の方法が知られている。まず、離型性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のシートを仮基材として用いて、このシートの表面に触媒溶液を塗布する。そして、塗布された触媒溶液中の溶媒を蒸発させて乾燥した触媒層を形成する。さらに、この乾燥した触媒層と電解質膜とを面プレスやロールプレスを用いて熱圧着して触媒層を高分子電解質膜に転写する。最後に高分子電解質膜に転写した触媒層から仮基材を剥離する。このように一旦触媒層を乾燥状態とした上で電解質膜に転写する方法を採るのは、触媒溶液中の溶媒が電解質膜に付着すると電解質膜が膨潤してシワが発生し、形が崩れてしまうためである。
【0005】
しかし乾燥状態にある触媒層を電解質膜に熱圧着する場合には、長時間高温高圧のプレスにかけないと触媒層と電解質膜との密着性が不充分となるおそれがある。一方で触媒層と電解質膜との密着性を向上させるために過酷な熱圧着条件を与えると、触媒層が圧縮変形することでガス拡散性が低下してしまい良好な発電性能が得られないおそれや、電解質膜への熱応力によるダメージが生じて耐久性が低下するおそれがある。一方、触媒層や電解質膜へのダメージを低減するために単純にプレスの温度と圧力を低くするだけでは、その分プレス時間を伸ばす必要があるため生産性が大きく低下してしまう。
【0006】
そこで、熱圧着条件を緩和しつつ電解質膜と触媒層との良好な密着性を実現するために様々な技術が提案されている。例えば特許文献1のように、触媒溶液を半乾燥させて触媒層に溶媒成分をわずかに残留させた状態で電解質膜と接合させる方法や、特許文献2のように、乾燥した触媒層の表面に、プロトン伝導性を有するバインダー樹脂を含む溶液を塗布し、溶液が完全に乾燥する前に電解質膜と接合させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4240272号明細書
【文献】特開2013-69535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法によれば、触媒層に、電解質膜の触媒層との接合面のみを軟化することができる程度の溶媒成分を残存させておくことで電解質膜にシワを発生させることなく、緩和した熱圧着条件で電解質膜と触媒層との密着性を良好にすることができる。しかし、触媒溶液中の溶媒を加熱により部分的に除去しつつ、溶媒残存量を触媒層の全面で同一な状態とする乾燥制御は困難であり、触媒層面内の乾燥状態の違いによって、電解質膜と触媒層の界面抵抗が大きいものや、電解質膜の変形によるシワや触媒層表面にクラックが生じたものが混在して品質が安定しないという問題を有している。また、溶媒残存量のマージンが狭く、生産性低下によるコストアップにつながるという問題も有している。さらには触媒溶液の溶媒構成に制限を受けるため、触媒層の品種変更に柔軟に対応することが困難である。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法によれば、プロトン伝導性を有するバインダー樹脂の溶液を触媒層の電解質膜との接合面に塗布して、溶液が完全に乾燥する前に接合することで溶液が接着剤の役割を果たし、低温低圧でも電解質膜と触媒層の密着性を良好にすることができる。しかし、電解質膜と触媒層の接合に、プロトン伝導性を有するバインダー樹脂の溶液を使用するため製造コストアップにつながる。さらに、バインダー樹脂が電解質膜と同様の成分であり、実質上電解質膜の膜厚が増大することによって電気抵抗が増加すること、また溶液中の有機溶媒が電解質膜と触媒層との界面に残存することによって、発電性能の低下を引き起こす可能性があるといった問題も有している。
【0010】
本発明の課題は、高分子電解質膜と触媒層が接合されてなる部材(以下、「膜・触媒接合体」という)を製造するに際し、熱圧着条件(プレス圧力、プレス温度、プレス時間)の緩和と、触媒層と電解質膜との密着性向上の両立を、高い生産性で実現できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、電解質膜に触媒層が接合されてなる膜・触媒接合体の製造方法であって、接合前の触媒層の表面に液体を付与する液体付与工程と、液体が付与された触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着工程と、を有する膜・触媒接合体の製造方法である。
【0012】
また本発明は、電解質膜に触媒層が接合されてなる膜・触媒接合体の製造装置であって、
接合前の触媒層の表面に液体を付与する液体付与手段と、液体が付与された触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着手段と、を有する膜・触媒接合体の製造装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱圧着条件(プレス圧力、プレス温度、プレス時間)の緩和と、触媒層と電解質膜との密着性向上を、高い生産性で両立しながら膜・触媒層接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第一の実施形態の概略構成を示す側面図である。
図2】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第二の実施形態の概略構成を示す側面図である。
図3】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第三の実施形態において第一の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
図4】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第三の実施形態において第二の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
図5】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第四の実施形態において第一の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
図6】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第四の実施形態において第二の触媒層を形成するための概略構成を示す側面図である。
図7】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第一の実施形態において仮基材の異なる剥離方法を説明するための概略構成を示す側面図である。
図8】本発明の膜・触媒接合体製造装置の第一の実施形態において遮熱板を説明するための概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
何ら本発明を限定するものではないが、本発明の作用としては、以下のようなことが考えられる。熱圧着工程において、触媒層の電解質膜との接合面に液体が付与された状態で電解質膜と触媒層とが挟圧されることで、界面に存在する空気が追い出されて電解質膜と触媒層の間にほぼ液体のみが存在する状態となる。この状態でさらに熱が加えられることで液体が蒸発し界面が真空化するため触媒層と電解質との密着性が向上する。さらに電解質膜が液体と接触して軟化するため、両者の密着性はより一層向上する。なお電解質膜は液体と接触している間、熱圧着時の挟圧によって保持されているため、膨潤の発生を防止することができる。また界面で蒸発した液体は、多孔質構造を有した触媒層の空孔部を通過することで膜・触媒接合体の外に排出される。
【0016】
なお、本明細書における「膜・触媒接合体」とは、電解質膜の表面に触媒層が形成されたいわゆる触媒層付電解質膜のみならず、電解質膜と触媒層との接合面を有する積層体全般を含意する用語であるものとする。例えば、ガス透過性を有するカーボンペーパー等からなる基材の片面に触媒層が形成されてなるいわゆるガス拡散電極と電解質膜が接合された膜電極接合体も「膜・触媒接合体」の一態様である。また、すでに電解質膜の一方の面に触媒層が形成されている状態からさらに他方の面に触媒層(触媒層のみ、あるいはガス拡散電極等)を接合する操作も「膜・触媒接合体の製造」に含むものとする。
【0017】
〔電解質膜〕
本発明の膜・触媒接合体の製造方法及び製造装置に供される電解質膜は、プロトン伝導性を有し、固体高分子形燃料電池、固体高分子電解質膜型水電解装置、電気化学式水素ポンプなどに用いられる電解質膜として作動する限り特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用できる。このような電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸からなるフッ素系電解質膜や炭化水素系骨格にプロトン伝導性を付与した炭化水素系ポリマーからなる炭化水素系電解質膜も用いることができる。
【0018】
特に炭化水素系電解質膜は、フッ素系電解質膜に比べガラス転移温度が高い上に加熱時の収縮変形が大きいため、通常の熱圧着方法では優れた生産性を持つ転写条件を見出すことが困難な場合が多く、本発明の製造方法、製造装置を好適に適用できる。
【0019】
〔触媒層〕
本発明の膜・触媒接合体の製造方法及び製造装置に供される触媒層は、固体高分子形燃料電池、固体高分子電解質膜型水電解装置、電気化学式水素ポンプなどに用いられる触媒層として作動する限り特に限定されるものではない。一般的には、カーボン粒子などの導電性粒子と、導電性粒子に担持された白金粒子または白金合金粒子などの触媒粒子と、プロトン伝導性を有するイオノマーなどの電解質成分とからなる多孔質構造を有した触媒層を用いることができる。
【0020】
一例として、導電性粒子としては、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのカーボン、酸化錫などの金属酸化物、などが好適に用いられる。触媒粒子としては、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどの貴金属単体か、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などと白金との合金または白金、ルテニウムとの3元系合金などが好適に用いられる。また、電解質成分としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーのナフィオン(登録商標、ケマーズ社製)、アクイヴィオン(登録商標、Solvay社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成社製)、フミオンF(登録商標、FuMA-Tech社製)などや、炭化水素系ポリマーのポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸などが好適に用いられる。
【0021】
触媒溶液は、これらの触媒層材料が、乾燥によって蒸発する溶媒に分散されたもので、電解質膜上に触媒層を形成するに足るものであれば特に限定されるものでない。一般的には、溶媒として、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、エチレングリコール等のアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好適に用いられる。
【0022】
〔液体付与工程〕
液体付与工程は、接合前の触媒層の表面、すなわち電解質膜との接合面に液体を付与する工程である。液体の付与とは、触媒層の表面に液体が露出した状態で付着している状態を形成することを意味する。液体は実質的に触媒層内部へ浸透させないことが望ましい。液体が触媒層内部へ浸透すると触媒層中の電解質成分が溶解することで触媒層の強度が低下して、熱圧着工程においてクラックが発生しやすくなる。また、触媒層が予め基材に支持されている場合に、液体が浸透して、触媒層と基材の界面まで到達した場合には、基材からの触媒層の離型性が低下するおそれがある。
【0023】
液体付与工程において、液体は、後工程である熱圧着工程での加熱によって蒸発し、かつ電解質膜と触媒層に対して毒性を持たない材料であれば特に限定されない。例えば水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール等のアルコールや、それらの混合液を用いることができるが、少なくとも水を含む液体を用いることが望ましい。熱圧着時に液体が急激な温度変化を起こすと、電解質膜にシワが発生する場合があるが、水は上記アルコールに比べ沸点、比熱が高く、熱圧着時の温度上昇が緩やかであるため、水を含む液体であればそれらのダメージを抑制することができる。また水はアルコールに比べ触媒層への浸透性が低いため、触媒層に液体が浸透することによるクラックの発生を防ぐことができる。さらに水を含む液体を用いることで低コストに本発明を実施できる上、製造上の環境負荷も小さくできる。なお本発明の製造方法、及び製造装置によって接合した膜・触媒接合体に液体が残留した場合でも、水であればこれを用いた機器性能への影響がない。水を含む液体としては、水の含有割合が50質量%~100質量%であることがより好ましく、90質量%~100質量%であることがさらに好ましく、一層好ましくは100質量%である。すなわち液体として純水を用いることが最も好ましい。ここで純水とは、不純物を含まない高純度の水のことであり、逆浸透膜とイオン交換樹脂を通じて採水される市販の純水製造装置で得られるJIS K0557(1998)A4レベルの水か、それと同等の品質を有するものを指す。
【0024】
なお液体には、全体として流動性を有しており本発明の効果が得られる限り、固形分材料が溶解、もしくは分散した状態で含まれていてもよい。
【0025】
液体付与工程において、液体の付与方法は特に限定されず、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター等を用いて触媒層表面に一様な塗布膜を形成する方法、液体の入った液槽に触媒転写シートを浸漬する方法、触媒層表面に液体を液滴状に付与する方法が挙げられるが、触媒層表面に液体を液滴状に付与する方法が特に好ましい。ここで液滴状とは、液滴が触媒層表面に無数に付着して存在する様子を指す。なお液滴とは、表面張力によってまとまった液体のかたまりの内、その大きさが触媒層上で1cm以下であるものとする。液滴状の付与であれば電解質膜を軟化させるための必要最低限の少量の液体を、接合面に均一に付与することが可能である。なお付与された液滴が均一であるとは、接合面1cm辺りに付与された液体の総量がいずれの位置においても同等であることを意味する。また、水のように触媒層に対してはじきやすく一様な塗布膜の形成が難しい液体であっても、液滴状であれば容易に付与することが可能である。さらに液滴状であれば触媒層との接触面積が小さいため熱圧着されるまでの液体の触媒層内部へ浸透を最小限に抑えることが可能である。なお、液滴は熱圧着工程における挟圧によって液滴が界面で押し広げられて周囲の液滴と結合するため、界面の全ての面で電解質膜を軟化させることが可能である。
【0026】
液体付与工程においては、熱圧着工程において圧着が開始される時の液量が、触媒層表面1cm辺り0.1μL以上5μL以下となるように液体を付与しておくことが好ましい。熱圧着工程における液量が1cm辺り0.1μL未満の場合、電解質膜を十分に軟化することができず密着性が不足するおそれや、熱圧着工程における挟圧時に部分的に液滴が結合せずに電解質膜の軟化されない部分が生じるおそれがある。また液量が1cm辺り5μLを超える場合、搬送中に液だれが生じたり、熱圧着時の加熱で略全量の液体が蒸発しないために界面に残存する液体によって挟圧が除荷された瞬間に電解質膜が膨潤したりするおそれがある。液量について、より好ましくは触媒層表面1cm辺り0.1μL以上0.8μL以下である。なお液量は、触媒転写シートの触媒層の表面に、重量を測定したPETフィルム等のサンプル片を触媒層と積層するように貼り付けておき、液体付与工程で液体を付与した後、熱圧着工程においてサンプル片と電解質膜が接触する直前に液体付きサンプル基材を取り出してその重量を測定し、重量差から1cm辺りの液体の体積を計算することで測定することができる。このときのサンプル片の大きさは一辺1cmから10cmの正方形とすることができる。
【0027】
また、付与される液滴の平均直径は小さい程好ましく、具体的には基材に付着した状態で300μm以下であることが好ましい。平均直径が小さい程、液滴間距離を短くできるため熱圧着工程での挟圧時に、より少ない液量で液滴の結合ができる。
【0028】
液体付与工程において、液体を液滴状に付与する手段としては、特に限定されず、スプレーやインクジェットによって液滴を吹き付ける方法、加湿雰囲気下で接合面に液滴を結露させる方法、超音波振動子等によってミスト化した液体を吹き付ける方法等を用いることができるが、液量を制御しつつ効率的に液体を付与することができる点で、スプレーによって液滴を吹き付ける方法が好ましい。また、液滴を吹き付けるスプレーとしては特に限定されず、圧搾空気によって液体を微細化して噴霧する2流体スプレーノズル等を用いることができる。
【0029】
〔熱圧着工程〕
液体付与工程を経た触媒層は、次に電解質膜と熱圧着する熱圧着工程を行う。熱圧着工程とは、触媒層と電解質膜を、触媒層の液体が付与された面と電解質膜が接触する積層状態で、加熱、挟圧することで、それらを接合する工程である。
【0030】
熱圧着工程において、触媒層と電解質膜とが接触してから、それらに挟圧力が作用するまでの時間は0.1秒以下が望ましい。この時間が0.1秒よりも長いと電解質膜が液体の付着によって膨潤する可能性が高く、0.1秒以下であれば液体の付着と熱圧着による電解質膜の固定が略同時に行われるので膨潤を抑制することができる。
【0031】
熱圧着工程における加熱温度は、特に制限されるものではないが、触媒層に付与した液体の沸点(以下、「液体沸点」と言う)以上220℃以下が好ましい。加熱温度とは、熱圧着工程中の電解質膜と触媒層の接合面での最高到達温度であり、測定には熱電対を用いることができる。加熱温度が液体沸点以下の場合、液体の蒸発に時間を要し生産性が低下する。また220℃を超える場合、電解質膜が熱によるダメージを受ける場合がある。熱圧着工程における加熱温度は、より好ましくは液体沸点以上160℃以下である。なお、液体沸点とは、外圧が1気圧のときの沸点とし、蒸発する液体が単一組成である場合はその液体の沸点を意味し、混合物である場合は混合物の各成分のうち単体として最も沸点が高いものの値を意味することとする。
【0032】
熱圧着工程において電解質膜と触媒層に与えられる圧力は適宜設定され得るが、1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。1MPa未満の場合、電解質膜と触媒層を十分に密着できないおそれがある。20MPaよりも大きい場合、触媒層や電解質膜に過剰な圧力がかかり触媒層の構造が破壊されたり、電解質膜への機械的ダメージが大きくなって耐久性や発電性能が低下したりするおそれがある。熱圧着工程における圧力は、より好ましくは1MPaから10MPaである。
【0033】
熱圧着工程における挟圧形態は、特に限定されず、熱プレスロールのように電解質膜と触媒層とが単一の線状に接触する線接触の態様や、ダブルベルトプレス機構のように電解質膜と触媒層とが面状に搬送方向に幅をもって接触する面接触の態様であることができる。
【0034】
なお、上記は本発明の製造方法についての説明であるが、上記の説明及び下記の実施形態の記載から容易に理解されるように、本明細書は当該製造方法を実施するための下記のような製造装置も開示するものである。
(1)電解質膜に触媒層が接合されてなる膜・触媒接合体の製造装置であって、
接合前の触媒層の表面に液体を付与する液体付与手段と、
液体が付与された触媒層と電解質膜とを熱圧着により接合する熱圧着手段と、
を有する膜・触媒接合体の製造装置。
(2)前記液体付与手段は、触媒層の表面に液滴状に前記液体を付与する、(1)に記載の膜・触媒接合体の製造装置。
(3)前記液体付与手段がスプレーである、(2)に記載の膜・触媒接合体の製造装置。
以下、本発明の具体的な実施形態について、本発明の製造方法を実現する製造装置の模式図を参照しながら説明する。なお、以下の説明は本発明の理解を容易にするために記載したものであり、本発明を何ら限定するものではないが、当業者には容易に理解されるように、個々の実施形態における好ましい態様やバリエーションについての言及は、同時に上位概念としての本発明の製造方法または製造装置の説明と解釈し得るものである。なお、本明細書においては、便宜上各図面の上方を「上」、下方を「下」として説明するが、各図面の上下方向は必ずしも地面に対する垂直方向を意味するものではない。
【0035】
[第一の実施形態:触媒層付電解質膜の製造1]
図1は、本発明の膜・触媒接合体製造装置の一実施形態である、触媒層付電解質膜を製造する装置の概略構成を示す側面図である。
【0036】
本実施形態に係る膜・触媒接合体製造装置100においては、触媒層付電解質膜の製造は次の様に実施される。
【0037】
電解質膜10は、電解質膜供給ロール11より巻き出され、ガイドロール12を通して熱圧着部Pに供給される。巻き出された電解質膜10の上方及び下方には、それぞれ触媒転写シート供給ロール21A、21Bが設置されている。電解質膜10の上面に接合される触媒層は触媒転写シート20Aを用いて形成される。触媒転写シート20Aは、予め基材となるシートに、例えば触媒溶液の塗布等により作製され、基材が触媒層を支持する状態で触媒転写シート供給ロール21Aから巻き出され、バックアップロール31A、ガイドロール22Aの順に、それぞれ、触媒層形成面とは反対側の基材側を担持されながら搬送される。(なお、基材は触媒層と電解質膜との接合後に剥離されるため、仮基材とも称される。)電解質膜10の下面に形成される触媒層を形成するための触媒転写シート20Bは触媒転写シート供給ロール21Bから巻き出され、バックアップロール31B、ガイドロール22Bの順に、それぞれ基材側を担持されながら搬送される。このようにして触媒転写シート20A、20Bの触媒層の形成された面が電解質膜10と対向するように熱圧着部Pに供給される。
【0038】
なお触媒転写シート20A、20Bの基材の材質は特に限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィドなどに代表される炭化水素系プラスチックフィルム、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などに代表されるフッ素系フィルムなどを用いることができる。
【0039】
なお、基材は、通気性を有しているとより好ましい。通気性を有するとは、気体を透過し得る性質を持つことを意味し、例えば基材厚み方向に連通した空孔を有している場合等が挙げられる。通気性を持つ基材を用いることで基材が触媒層に接合されたままの状態であっても熱圧着時に生じる液体の蒸気を効果的に排出することができる。通気性を有する基材としては、例えば上記の材質から形成した多孔質体を用いることができる。
【0040】
ガイドロール12、及び22A、22Bには、熱圧着部Pに供給される電解質膜10、及び触媒転写シート20A、21Bのシワやたるみを除去するために、エキスパンダーロールを用いることが好ましい。
【0041】
なお、本実施形態に係る膜・触媒接合体の製造装置100においては、電解質膜10の両面に触媒層を転写するよう構成されているが、電解質膜10の片面のみに触媒層を転写するように構成してもよい。
【0042】
本実施形態においては、バックアップロール31Aに担持された触媒転写シート20Aに対向してスプレーノズル30Aが設けられている。スプレーノズル30Aは吐出口がバックアップロール31Aの中心軸に向けられており、バックアップロール31Aから所定の間隔を隔てた位置に設けられている。なお、スプレーノズル30Aは触媒転写シート20Aの基材幅に応じて、触媒転写シート20Aの幅方向に1つ以上備えられるものである。
【0043】
スプレーノズル30Aは図示しない水供給タンクから水が供給されて、供給された水を吐出口から吐出し、触媒層の電解質膜との接合面に液滴を付与する。
【0044】
さらにスプレーノズル30Aと、スプレーノズル30Aの吐出口から触媒層までの液滴が飛翔する空間Sは、ノズルチャンバー32Aによって囲われており、ノズルチャンバー32Aには、空間Sを減圧する減圧タンク34Aが減圧の切換を行うバルブ33Aを介して配管で接続されている。減圧タンク34Aによって、空間Sを製造装置の環境圧に対して負圧にすることで、ノズルチャンバー32Aと触媒転写シート20Aの間に設けられた隙間から外気をわずかに吸引してスプレーノズル30Aからの余分な液滴が周囲に飛散することを防止する。なおノズルチャンバー32A内に溜まった水は、ノズルチャンバー32Aに設けられた図示しないドレンから排出されて水供給タンクに戻り再利用される。
【0045】
なお上記は触媒転写シート20Aに対する液体付与手段の説明であるが、触媒転写シート20Bに対して設けられる液体付与手段(スプレーノズル30B、ノズルチャンバー32B、バルブ33B、減圧タンク34B)も同様の構成であるため説明を省略する。
【0046】
このように、電解質膜10、及び電解質膜10との接合面に液体が付与された触媒転写シート20A、20Bは熱圧着部Pに供給されて熱プレスロール40A、40Bの間を通過する。なお、図8に示すように触媒転写シート20Aと熱プレスロール40A、触媒転写シート20Bと熱プレスロール40Bの間に、それぞれ遮熱板41A、41Bを設けることが好ましい。遮熱板41A、41Bを設けることで、熱プレスロール40A、40Bから放射される輻射熱によって、触媒転写シート20A、20Bに付与された液体の熱プレス前の蒸発を防止できる。
【0047】
熱プレスロール40A、40Bは、図示しない駆動手段と連結されており、速度を制御しながら回転可能である。この熱プレスロール40A、40Bが電解質膜10、触媒転写シート20A、20Bに熱と圧力をかけながら一定速度で回転することで、電解質膜10と触媒転写シート20A、20Bの搬送速度を同期させて搬送しながら、電解質膜10の両面に触媒層を熱圧着させて膜・触媒層接合体13aを形成する。なお熱ロールプレス40A、40Bについて、加熱装置、加圧装置等の図示は省略した。
【0048】
熱プレスロール40A、40Bの材質は特に限定されるものではないが、一方のロールをステンレス等の金属とし、もう一方のロールは、ゴムに代表される樹脂もしくはエラストマー材質等の弾性体を表層に被覆した構造とすることが望ましい。金属ロール同士の組み合わせの場合、挟圧接触幅が小さくなりすぎて、接合に必要な挟圧時間が確保できず、また幅方向で均一に挟圧できないおそれがある。またゴムを表層に被覆したロール同士の組み合わせでは熱伝達が低く電解質膜と触媒層を十分に加熱できないおそれがある。熱プレスロール40A、40Bの一方のロールを金属とすることで、電解質膜と触媒層を十分に加熱することが可能であり、もう一方のプレスロールの表層を弾性体とすることで、プレスロールが触媒転写シート20A、20Bに対して柔軟に変形し、良好な線接触を維持することで基材幅方向の線圧を均一にすることが可能である。
【0049】
弾性体の材質としては、例えばゴムを用いる場合には、フッ素ゴムや、シリコンゴム、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、ネオプレン、CSM(クロロスルホン化ポリエチレンゴム)、ウレタンゴム、NBR(ニトリルゴム)、エボナイトなどを用いることができる。また、弾性体のゴム硬度はショアA規格で70~97°の範囲であることが好ましい。硬度が70°を下回ると弾性体の変形量が大きくなり、触媒転写シート20A、20Bとの挟圧接触幅が大きくなりすぎて、電解質膜10と触媒層の接合に必要な圧力を確保することができなくなる場合があり、また硬度が97°を超えると、逆に弾性体の変形量が小さくなり、挟圧接触幅が小さくなりすぎて、接合に必要な挟圧時間が確保できない場合があるためである。
【0050】
熱プレスロール40A、40Bの加熱手段としては、各種ヒーター、蒸気、オイル等の熱媒を使用することができるが、特に限定されるものではない。また加熱温度は上下のロールで同じ温度であっても良いし、異なる温度であっても良い。
【0051】
熱プレスロール40A、40Bにおける挟圧力の制御方法は、特に限定されず、油圧シリンダー等の加圧手段を用いて挟圧力を制御しても良いし、サーボモーター等を用いた位置制御によって熱プレスロール40A、40B間に一定間隔の隙間を設け、隙間の大きさによって挟圧力を制御しても良い。
【0052】
なお本実施形態においては、熱圧着部Pに線接触機構である熱プレスロール40A、40Bを用いたが、これに限定されるものではない。複数のロールにより複数の線接触で電解質膜10、触媒転写シート20A、20Bを挟圧する機構であってもよいし、面接触で挟圧を行うダブルベルトプレス機構を用いても良い。複数組のロールを用いる場合、ロール設置数は特に限定されないが、2~10組であることが好ましい。
【0053】
このように、熱圧着部Pを通過し、電解質膜10の両面に触媒層が転写されて、膜・触媒接合体(触媒層付電解質膜)13aとなる。
次に触媒層付電解質膜としての膜・触媒接合体13aから、仮基材24A、24Bの剥離を行う。
【0054】
仮基材24A、24Bが通気性を有する基材の場合、剥離方法は特に限定されない。例えばガイドロール23A、23Bの間を通過させ、このとき仮基材24A、24Bの剥離を行うことができる。また、仮基材が接合されている間は仮基材が電解質膜を触媒層を介して担持するため電解質膜の膨潤を防止する効果が得られる。従って熱圧着工程だけでほぼ全量の液体の蒸発が難しい場合等は、熱圧着部Pを通過してから仮基材の剥離を行うまでの間に液体を乾燥させるための追加の乾燥工程を設けることもできる。仮基材24A、24Bが通気性を有しない基材の場合、図7のように仮基材24Aを熱プレスロール40A、仮基材24Bを熱プレスロール40Bにそれぞれ抱かせるようにして膜・触媒接合体13aから剥離することが好ましい。熱圧着直後に仮基材を剥離し触媒層を露出させることにより熱圧着工程で生じる液体の蒸気を効果的に排出することができる。
【0055】
膜・触媒層接合体13aより剥離された仮基材は、それぞれガイドロール23A、23Bを通り仮基材巻取りロール25A、25Bによって巻き取られる。仮基材24A、24Bが剥離された膜・触媒接合体13aは送り出しロール14によって送り出されて、巻取りロール15によってロール状に巻き取られる。
【0056】
なお送り出しロール14は、図示しない駆動手段と連結可能であり、プレスロール40A、40Bが電解質膜10、触媒転写シート20A、20Bを挟圧していない状態では、速度制御を行って電解質膜10を搬送することができる。
【0057】
[第二の実施形態:膜電極接合体の製造1]
図2は、本発明の膜・触媒接合体製造装置の一実施形態である、膜電極接合体を製造する装置の概略構成を示す側面図である。
【0058】
図2に示す実施形態に係る膜・触媒接合体製造装置101において、膜電極接合体の製造は次の様に実施される。なお、第一の実施形態と同様である部分についての説明は省略する。
【0059】
第二の実施形態では、第一の実施形態で用いる触媒転写シートの代わりにガス拡散電極80A、80Bがガス拡散電極供給ロール81A、81Bより供給される。巻き出された電解質膜10の上方及び下方には、それぞれガス拡散電極供給ロール81A、81Bが設置されている。電解質膜10の上面に接合されるガス拡散電極80Aは、ガス拡散電極供給ロール81Aから巻き出され、バックアップロール31A、ガイドロール22Aの順に、それぞれ、触媒層形成面とは反対側のガス拡散電極基材側を担持されながら搬送される。電解質膜10の下面に接合されるガス拡散電極80Bは、ガス拡散電極供給ロール81Bから巻き出され、バックアップロール31B、ガイドロール22Bの順に、それぞれ触媒層形成面とは反対側のガス拡散電極基材側を担持されながら搬送される。このようにしてガス拡散電極80A、80Bの触媒層の形成された面が電解質膜10と対向するように熱圧着部Pに供給される。
【0060】
電解質膜10、及び電解質膜10との接合面に液体が付与されたガス拡散電極80A、80Bは熱圧着部Pに供給されて熱プレスロール40A、40Bの間を通過し、接合されて膜・触媒接合体(膜電極接合体)13bとなる。膜電極接合体としての膜・触媒接合体13bは送り出しロール14によって送り出されて、膜・触媒接合体巻取ロール15によってロール状に巻き取られる。
【0061】
[第三の実施形態:触媒層付電解質膜の製造2]
第三の実施形態においては、まず図3に示す触媒層形成装置102によって電解質膜の片面に第1の触媒層を形成する。第1の触媒層の形成は次の様に実施される。
【0062】
本実施形態においては、電解質膜10’は支持体上に支持された状態で触媒層形成装置102に供給される。電解質膜の支持体の材質は特に限定されるものではないが、例えばPETフィルムを用いることができる。
【0063】
支持体付きの電解質膜10’は、電解質膜供給ロール11より巻き出され、ガイドロール12を通して触媒溶液塗布手段72に供給される。触媒溶液塗布手段72は、バックアップロール73に担持される電解質膜10’に対向して備えられている。触媒溶液塗布手段72は、触媒溶液タンク70から触媒溶液送液ポンプ71を用いて触媒溶液が供給され、供給された触媒溶液を電解質膜上に塗布することで塗布膜を形成する。触媒溶液塗布手段72における触媒溶液の塗布方法は特に限定されるものではない。グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター、ロールコーター、スプレーコーター、スクリーン印刷法などの方法を用いることができる。
【0064】
次に電解質膜上に形成された触媒溶液の塗布膜を、乾燥手段74によって乾燥し、触媒溶液中の溶媒を蒸発させて乾燥した第1の触媒層を形成する。乾燥手段74における触媒溶液の乾燥方法は特に限定されるものではない。熱風などの熱媒体を送風する方法や熱ヒーターを用いる熱オーブン方式などを用いることができる。
【0065】
このように電解質膜上に第1の触媒層が形成された膜・第1の触媒層接合体16は送り出しロール14によって送り出されて、支持体付きの状態で巻取ロール17によってロール状に巻き取られる。
【0066】
次いで、図4に示す実施形態に係る膜・触媒接合体製造装置103によって電解質膜の第1の触媒層が形成された面の裏面に第2の触媒層を形成する。第2の触媒層の形成は次の様に実施される。
【0067】
膜・第1の触媒層接合体16は、供給ロール18より巻き出され、ガイドロール12を通り、さらにガイドロール26A、26Bを介して支持体51が電解質膜との界面から剥離される。このとき剥離された支持体51は支持体巻取ロール50に巻き取られる。
【0068】
支持体51が剥離された膜・第1の触媒層接合体16に、ガイドロール27A、27Bを介して、カバーフィルム供給ロール60から巻き出されたカバーフィルム61が第1の触媒層面にラミネートされ、その後、熱圧着部Pに供給される。なお、カバーフィルム61のラミネートは支持体51の剥離を行う前に行っても良い。
【0069】
カバーフィルム61は、第2の触媒層を形成する工程中第1の触媒層を保護するために用いられるものであり、着脱によって触媒層の機能に支障をきたさないものであれば材質は特に限定されるものでない。一般的には、紙などに代表される天然繊維のシートや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィドなどに代表される炭化水素系プラスチックフィルム、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などに代表されるフッ素系フィルム、または、これらの材料にアクリル系粘着剤、ウレタンアクリレート系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤などを付与し、被着体との密着性を高めた材料を用いることができる。密着性を高めた材料であれば電解質膜が液体と接触している間、電解質膜を担持することができるため電解質膜の膨潤を防止する効果をさらに得ることができる。
【0070】
熱圧着部Pに供給された膜・第1の触媒層接合体16は第一の実施形態と同様の液体付与工程、熱圧着工程によって、第1の触媒層がカバーフィルムで被覆された状態で第2の触媒層が熱圧着されて膜・触媒接合体(触媒層付電解質膜)13cとなる。
【0071】
熱圧着部Pを通過した触媒層付電解質膜としての膜・触媒接合体13cはガイドロール23A、23Bの間を通過し、このとき仮基材24Aが膜・触媒層接合体13cより剥離されて仮基材巻取りロール25Aによって巻き取られる。仮基材24Aが剥離された膜・触媒接合体13cは送り出しロール14によって送り出されて、触媒層付電解質膜巻取ロール15によってロール状に巻き取られる。なお、カバーフィルム61は膜・触媒接合体13cに接合された状態で巻き取っても良いし、プレス直後に熱プレスロール40Bにおいて膜・触媒接合体13cから剥離しても良い。カバーフィルム61が膜・触媒接合体13cに接合された状態で巻き取ることにより触媒層付電解質膜のシワや伸びを抑制し触媒層を外的要因による物理的ダメージから保護することができる。また、熱圧着直後にカバーフィルム61を剥離し触媒層を露出させることにより熱圧着工程で生じる液体の蒸気を効果的に排出することができる。この場合、巻き取る前に触媒層を新たなカバーフィルムで保護することもできる。
【0072】
[第四の実施形態:触媒層付電解質膜の製造3]
第四の実施形態においては、まず図5に示す実施形態に係る膜・触媒接合体製造装置104によって電解質膜の片面に第1の触媒層を形成する。第1の触媒層の形成は次の様に実施される。
【0073】
本実施形態においては、電解質膜10’は支持体上に支持された状態で触媒層形成装置104に供給される。支持体付きの電解質膜10’は、電解質膜供給ロール11より巻き出され、熱圧着部Pに供給される。熱圧着部Pに供給された電解質膜10’は第一の実施形態と同様の液体付与工程、熱圧着工程によって第1の触媒層が熱圧着されて、膜・第1の触媒層接合体16’となる。
【0074】
膜・第1の触媒層接合体16’は支持体と触媒転写シート20Aの仮基材が付いた状態で送り出しロール14によって送り出され、巻取ロール17によってロール状に巻き取られる。
【0075】
次いで図6に示す実施形態に係る触媒層形成装置105によって電解質膜の第1の触媒層が形成された面の裏面に第2の触媒層を形成する。第2の触媒層の形成は、次の様に実施される。
【0076】
膜・第1の触媒層接合体16’は、供給ロール18より巻き出され、ガイドロール26A、26Bを介して支持体51が電解質膜との界面から剥離される。このとき剥離された支持体51は支持体巻取ロール50に巻き取られる。
【0077】
支持体51が剥離された膜・第1の触媒層接合体16’は第三の実施形態と同様の触媒溶液塗布手段72、乾燥手段74によって第2の触媒層が形成され膜・触媒接合体(触媒層付電解質膜)13dとなる。
【0078】
触媒層付電解質膜としての膜・触媒接合体13dは送り出しロール14によって送り出されて、仮基材が付いた状態で触媒層付電解質膜巻取ロール15によってロール状に巻き取られる。
【実施例
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
実施例1~6において、触媒転写シートには、基材である連続帯状のPTFEシート上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10E50Eとナフィオン(登録商標)溶液からなる触媒塗液を塗工し、乾燥して作製した触媒転写シートをロール体とした触媒転写シートロール(基材幅100mm、厚み8μm)を使用した(白金担持量:0.3mg/cm)。
【0081】
また、実施例2~6における電解質膜の製造は、日本国特開2018-60789号公報に記載の製法を参照して行った。
【0082】
[実施例1]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、電解質膜として用いた市販の“ナフィオン(登録商標)”膜、品名NR211(膜厚25μm)の一方の面に、前述の触媒転写シートから触媒層を転写した。
【0083】
液体付与工程においては、いけうち社製の扇形スプレーノズルCBIMV 80005Sを用いて純度100%の水を触媒層に1cm辺り0.4μLの量にて、液滴状に付与させた。
【0084】
熱圧着工程においては、直径250mmの一対の熱プレスロールを用い、ロールの一方をステンレスロール、もう一方を硬度90°(ショアA)のフッ素ゴムロールとした。また熱プレスロールの圧力は3.0MPaとした。なお圧力は富士フイルム社製のプレスケールを用いた測定値である。ロール表面温度は160℃とし、接合界面に備えた熱電対によって加熱温度を測定した結果115℃であった。電解質膜と触媒転写シートの搬送速度は4.0m/minとした。
【0085】
得られた膜・触媒接合体を目視評価した結果、触媒層の転写不良や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0086】
[実施例2]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、下記式(G1)で表されるポリマーからなるポリエーテルケトン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の実施例1で用いたものと同じ触媒転写シートから触媒層を転写した。
【0087】
【化1】
【0088】
液体付与工程においては、いけうち社製の扇形スプレーノズルCBIMV 80005Sを用いて純度100%の水を触媒層に1cm辺り0.4μL付与させた。
【0089】
熱圧着工程においては、直径250mmの一対の熱プレスロールを用い、ロールの一方をステンレスロール、もう一方を硬度90°(ショアA)のフッ素ゴムロールとした。また熱プレスロールの圧力は4.2MPaとした。なお圧力は富士フイルム社製のプレスケールを用いた測定値である。ロール表面の温度は160℃とし、接合界面に備えた熱電対によって加熱温度を測定した結果115℃であった。電解質膜と触媒転写シートの搬送速度は4.0m/minとした。
【0090】
得られた膜・触媒接合体を目視評価した結果、触媒層の転写不良や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0091】
[実施例3]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、下記式(G2)で表されるポリマーからなるポリアリーレン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の触媒転写シートから触媒層を転写した。
【0092】
【化2】
【0093】
(式(G2)において、k、m及びnは整数であり、kは25、mは380、nは8である。)
液体付与工程および熱圧着工程は、実施例2と同様に行った。
【0094】
得られた膜・触媒接合体を目視評価した結果、触媒層の転写不良や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0095】
[実施例4]
図1に示す概略構成の装置を用いて、前述の第一の実施形態に記載の方法に従い、下記式(G3)で表されるセグメントと下記式(G4)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の触媒転写シートから触媒層を転写した。
【0096】
【化3】
【0097】
(式(G3)、(G4)において、p、q及びrは整数であり、pは170、qは380、rは4である。)
液体付与工程および熱圧着工程は、実施例2と同様に行った。
【0098】
得られた膜・触媒接合体を目視評価した結果、触媒層の転写不良や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0099】
[実施例5]
前述の第三の実施形態に記載の方法に従い、触媒層付電解質膜を製造した。
【0100】
図3に示す概略構成の装置を用いて、前記式(G1)で表されるポリマーからなるポリエーテルケトン系高分子電解質膜の一方の面に、触媒溶液を塗布、乾燥し、第1の触媒層を形成した。触媒溶液には、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10E50Eとナフィオン(登録商標)溶液からなる触媒塗液を用いた。120℃で5分間乾燥させ、層厚5μmの触媒層が得られた。
【0101】
次いで、図4に示す概略構成の装置を用いて、第2の触媒層を第1の触媒層が形成されたポリエーテルケトン系高分子電解質膜のもう一方の面に、前述の触媒転写シートから触媒層を転写し、第2の触媒層を形成した。第1の触媒層面にラミネートするカバーフィルムには、東レ製PETフィルムのルミラー(登録商標)膜厚75μmを用いた。液体付与工程および熱圧着工程は実施例2と同様の方法を用いた。
【0102】
得られた触媒層付電解質膜からカバーフィルムを剥離したところ、カバーフィルム上に付着物等は認められなかった。また得られた触媒層付電解質膜を目視評価した結果、触媒層の転写不良や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0103】
[実施例6]
前述の第四の実施形態に記載の方法に従い、触媒層付電解質膜を製造した。
【0104】
図5に示す概略構成の装置を用いて、前記式(G1)で表されるポリマーからなるポリエーテルケトン系高分子電解質膜の一方の面に、前述の触媒転写シートから第1の触媒層を転写した。液体付与工程および熱圧着工程は実施例2と同様の方法を用いた。
【0105】
次いで、図6に示す概略構成の装置を用いて、第1の触媒層が形成された電解質膜のもう一方の面に、実施例5と同様の触媒溶液を塗布、乾燥し、第2の触媒層を形成した。
【0106】
得られた触媒層付電解質膜から仮基材を剥離したところ、仮基材上に付着物等は認められなかった。また得られた触媒層付電解質膜を目視評価した結果、触媒層の転写不良や、電解質膜の膨潤やシワの発生はなく、高品位であった。
【0107】
[比較例1]
液体付与工程を実施しない以外は、実施例2と同様にして、電解質膜の一方の面に、前述の実施例1で用いたものと同じ触媒転写シートから触媒層を転写し、得られた膜・触媒接合体を目視評価した結果、触媒層の転写不良が見られた。
【符号の説明】
【0108】
100、101、103、104:膜・触媒接合体製造装置
102、105:触媒層形成装置
10、10’:電解質膜
11、18:電解質膜供給ロール
13a、13b、13c、13d:膜・触媒接合体
14:送り出しロール
15、17:膜・触媒接合体巻取ロール
16、16’:膜・第1の触媒層接合体
12、22A、22B、23A、23B、26A、26B、27A、27B:ガイドロール
20A、20B:触媒転写シート
21A、21B:触媒転写シート供給ロール
24A、24B:仮基材
25A、25B:仮基材巻取ロール
30A、30B:スプレーノズル
31A、31B、73:バックアップロール
32A、32B:ノズルチャンバー
33A、33B:バルブ
34A、34B:減圧タンク
40A、40B:熱プレスロール
41A、41B:遮熱板
50:支持体巻取ロール
51:支持体
60:カバーフィルム供給ロール
70:触媒溶液タンク
71:触媒溶液送液ポンプ
72:塗布手段
74:乾燥手段
80A、80B:ガス拡散電極
81A、81B:ガス拡散電極供給ロール
P:熱圧着部
S:空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8