(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】撥水性織編物、その製造方法および衣料
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20230301BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20230301BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20230301BHJP
D01F 8/04 20060101ALI20230301BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20230301BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20230301BHJP
D03D 15/44 20210101ALI20230301BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20230301BHJP
D04B 21/16 20060101ALI20230301BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20230301BHJP
D06M 13/02 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
D06M15/643
A41D31/00 502A
A41D31/00 502Q
A41D31/04 C
D01F8/04 Z
D01F8/14 C
D03D15/20 100
D03D15/44
D04B1/16
D04B21/16
D06M11/00 110
D06M13/02
(21)【出願番号】P 2020541824
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2020002063
(87)【国際公開番号】W WO2020158530
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2019013975
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷部 慧悟
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和哉
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197403(JP,A)
【文献】特開2010-138510(JP,A)
【文献】特開2000-178834(JP,A)
【文献】特開2005-350828(JP,A)
【文献】特開平6-235167(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129467(WO,A1)
【文献】特開2020-105682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/643
A41D 31/00
A41D 31/04
D01F 8/04
D01F 8/14
D03D 15/20
D03D 15/44
D04B 1/16
D04B 21/16
D06M 11/00
D06M 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロオクタン酸の濃度が5ng/g以下である撥水剤を用いて撥水処理された織編物であって、外周に広幅部を有した溝部が複数個存在する横断面形状を有する繊維を構成繊維として含み、かつ前記繊維の溝部のサイズが下記式(式1)および(式2)を満たし、
w2/w1≧1.3 ・・・(式1)
0.15≦h/d≦0.25 ・・・(式2)
(ただし、w1は溝部入口幅、w2は溝部の広幅部幅、hは溝深さ、dは特殊断面繊維径である)
JIS L 0217 103法に従う洗濯20回後における該織編物と水との液滴接触角が135°以上であり、かつJIS L 1092スプレー法の撥水度が4級以上である撥水性織編物。
【請求項2】
撥水剤が付着してなる織編物であって、前記撥水剤が炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素化合物からなるフッ素系撥水剤もしくは非フッ素系撥水剤のみからなり、外周に広幅部を有した溝部が複数個存在する横断面形状を有する繊維を構成繊維として含み、かつ前記繊維の溝部のサイズが下記式(式1)および(式2)を満たし、
w2/w1≧1.3 ・・・(式1)
0.15≦h/d≦0.25 ・・・(式2)
(ただし、w1は溝部入口幅、w2は溝部の広幅部幅、hは溝深さ、dは特殊断面繊維径である)
JIS L 0217 103法に従う洗濯20回後における該織編物と水との液滴接触角が135°以上であり、かつJIS L 1092スプレー法の撥水度が4級以上である撥水性織編物。
【請求項3】
湿潤条件におけるフロスティング試験後の変退色の程度が4級以上である請求項1または2に記載の撥水性織編物。
【請求項4】
撥水剤がシリコーン系もしくはパラフィン系化合物を主体とした撥水剤である請求項1~3のいずれかに記載の撥水性織編物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の撥水性織編物を少なくとも一部に用いてなる衣料。
【請求項6】
外周に広幅部を有した溝部が複数個存在する横断面形状を有する繊維を構成繊維として含み、かつ前記繊維の溝部のサイズが下記式(式1)および(式2)を満たす織編物を、パーフルオロオクタン酸の濃度が5ng/g以下である撥水剤を用いて撥水処理する、請求項1~4のいずれかに記載の撥水性織編物の製造方法。
w2/w1≧1.3 ・・・(式1)
0.15≦h/d≦0.25 ・・・(式2)
(ただし、w1は溝部入口幅、w2は溝部の広幅部幅、hは溝深さ、dは特殊断面繊維径である)
【請求項7】
撥水剤として非フッ素系撥水剤を用いる請求項6に記載の撥水性織編物の製造方法。
【請求項8】
撥水剤としてシリコーン系もしくはパラフィン系化合物を主体とした撥水剤を用いる請求項6または7に記載の撥水性織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は織編物に関し、洗濯後においても優れた撥水性を維持できる高耐久撥水性織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水性織編物は、織編物に撥水処理を施すことによって得られる。このような撥水性織編物は、登山用のアウタージャケット、スキーウェア、ウィンドブレーカーや水着など種々の用途に使用され、いずれも高い撥水性が要求されている。
【0003】
これらの織編物に撥水性を付与するには、例えばフッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤やパラフィン系撥水剤などが用いられる。特に、フッ素系撥水剤は優れた初期撥水性を有し、かつ洗濯に対する撥水性能の耐久性も有しており、現在様々な繊維製品に使用されている。
【0004】
フッ素系撥水剤を用いた撥水処理には、従来、炭素数が8個以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物である、いわゆるC8撥水剤がその撥水性能の高さから用いられてきた。しかし、C8撥水剤は、パーフルオロオクタン酸(PFOA)が不純物として含まれており、その化学構造の安定性から分解されにくく、人体への蓄積および外部環境への残留による悪影響が指摘されている。このことから、PFOAフリーな炭素数が6個以下のフッ素系撥水剤(C6撥水剤)への代替が加速している。
【0005】
また、近年、さらなる環境負荷低減に向けての関心が高まる中で、繊維業界においてもパーフルオロアルキル基を主体としたフッ素化合物を含まない非フッ素系撥水剤への置き換えが進んでいる。一方で、C6撥水剤や非フッ素系撥水剤は、撥水皮膜における分子の規則配列が乱れやすく、種々の撥水処理条件やプロセスを適正化しないと、撥水性能やその耐久性が十分なものとならない。したがって、PFOAフリーの撥水剤を用いて処理された撥水素材において、初期撥水性やその耐久性を向上させるための技術開発が行われている。
【0006】
これまでに、撥水剤の薬剤組成や耐久性を高めるための加工条件など、高次加工技術の検討が行われている(例えば、特許文献1)。また、これに加えて織編物の表面形態を制御することで初期撥水性やその耐久性を向上させる、いわゆるハスの葉効果を狙った繊維の異型断面化に関する検討が進められている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-221952号公報
【文献】特開2005-350828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、洗濯20回後において撥水性能が大きく低下しており、PFOAフリーの撥水剤を用いた場合に撥水性能の耐久性に優れる織編物は得られていない。特許文献2記載の技術では、乾燥条件における耐摩耗性および撥水性能の耐久性に優れるが、より過酷な条件である湿潤状態での耐摩耗性について考慮されていない。そしてこの技術は、例えばスポーツ衣料など着用時の動作が激しく、かつ衣服が湿潤するような環境下においては、強い摩擦が繰り返し加えられることで撥水性能を発現するための異型断面繊維が押しつぶされ、撥水性能が大幅に低下する可能性がある。
【0009】
このように従来提案されている特殊な断面の繊維においては、実使用での摩擦に対する耐久性が考慮されていないものが多く、実使用には課題の残るものであった。このため、これらの技術課題を解消した、撥水性能における高い耐久性を維持することができる織編物の開発が求められている。
【0010】
本発明は、従来技術の課題を克服し、耐摩耗性および耐久性に優れた撥水性能を発現する撥水性織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために次の構成を有する。
【0012】
(1)パーフルオロオクタン酸の濃度が5ng/g以下である撥水剤を用いて撥水処理された織編物であって、外周に広幅部を有した溝部が複数個存在する横断面形状を有する繊維を構成繊維として含み、かつ前記繊維の溝部のサイズが下記式(式1)および(式2)を満たし、
w2/w1≧1.3 ・・・(式1)
0.15≦h/d≦0.25 ・・・(式2)
(ただし、w1は溝部入口幅、w2は溝部の広幅部幅、hは溝深さ、dは特殊断面繊維径である)
JIS L 0217 103法に従う洗濯20回後における該織編物と水との液滴接触角が135°以上であり、かつJIS L 1092スプレー法の撥水度が4級以上である撥水性織編物。
(2) 撥水剤が付着してなる織編物であって、前記撥水剤が炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するフッ素化合物からなるフッ素系撥水剤もしくは非フッ素系撥水剤のみからなり、外周に広幅部を有した溝部が複数個存在する横断面形状を有する繊維を構成繊維として含み、かつ前記繊維の溝部のサイズが下記式(式1)および(式2)を満たし、
w2/w1≧1.3 ・・・(式1)
0.15≦h/d≦0.25 ・・・(式2)
(ただし、w1は溝部入口幅、w2は溝部の広幅部幅、hは溝深さ、dは特殊断面繊維径である)
JIS L 0217 103法に従う洗濯20回後における該織編物と水との液滴接触角が135°以上であり、かつJIS L 1092スプレー法の撥水度が4級以上である撥水性織編物。
(3)湿潤条件におけるフロスティング試験後の変退色の程度が4級以上である(1)または(2)に記載の撥水性織編物。
(4)撥水剤がシリコーン系もしくはパラフィン系化合物を主体とした撥水剤である(1)~(3)のいずれかに記載の撥水性織編物。
【0013】
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の撥水性織編物を少なくとも一部に用いてなる衣料。
(6)外周に広幅部を有した溝部が複数個存在する横断面形状を有する繊維を構成繊維として含み、かつ前記繊維の溝部のサイズが下記式(式1)および(式2)を満たす織編物を、パーフルオロオクタン酸の濃度が5ng/g以下である撥水剤を用いて撥水処理する、(1)~(4)のいずれかに記載の撥水性織編物の製造方法。
w2/w1≧1.3 ・・・(式1)
0.15≦h/d≦0.25 ・・・(式2)
(ただし、w1は溝部入口幅、w2は溝部の広幅部幅、hは溝深さ、dは特殊断面繊維径である)
(7)撥水剤として非フッ素系撥水剤を用いる(6)に記載の撥水性織編物の製造方法。
(8)撥水剤としてシリコーン系もしくはパラフィン系化合物を主体とした撥水剤を用いる(6)または(7)に記載の撥水性織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定の溝部を有する繊維を構成繊維として含むため、耐久性に優れた撥水性能を発現するとともに、耐摩耗性にも優れる織編物を提供することができる。そしてこれを衣料用途に用いることにより、耐久性に優れた撥水性能を発現するとともに耐摩耗性にも優れる衣料とすることができる。特に比較的過酷な雰囲気下、例えば登山、スキー、スケート、等、雪山や氷上等の環境下で使用されるようなスポーツ用、土木工事等の作業用のアウターや擦過が多い衣料用途に、極めて実用的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明で用いられる繊維の横断面形状を説明するための概要図である。
【
図2】本発明で用いられる繊維の横断面における溝部を説明するための拡大概略図である。
【
図3】本発明で用いられる繊維の横断面における溝深さを説明するための拡大概略図である。
【
図4】本発明で用いられる繊維の横断面における突起部を説明するための概略図である。
【
図5】本発明で用いられる繊維の横断面における突起部を説明するための拡大概略図である。
【
図6】分配プレートにおける分配孔配置の一実施形態の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の撥水性織編物は、パーフルオロオクタン酸(PFOA)の濃度が5ng/g以下である撥水剤を用いて撥水処理された織編物である。
【0018】
本発明の撥水性織編物は、外周に広幅部を有した溝部が複数個存在する横断面形状を有する繊維(以下「特殊断面繊維」と称する場合もある。)を構成繊維として含む。前記特殊断面繊維は、
図1に例示されるように、外周に広幅部を有した溝部1(
図1の1)を複数個形成している特殊断面繊維2(
図1の2)のような異型断面形状の繊維である。また、該溝部入口幅(w1)3と溝の広幅部幅(w2)4および特殊断面繊維径(d)に対する溝深さ(h)5が下記式を満たすことが必要であり、これらは以下の式1、式2を満たすものである。
w2/w1≧1.3 ・・・(式1)
0.15≦h/d≦0.25 ・・・(式2)
【0019】
本発明に用いる特殊断面繊維を構成するポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイドなどの溶融成形可能なポリマーおよびそれらの共重合体が挙げられる。特にポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。また、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤をポリマー中に含んでいてもよい。
【0020】
本発明に用いる特殊断面繊維においては、入口が狭く、奥に広くなっている部分(溝の広幅部)を有する特殊な溝を有している。自然界においては、蓮の葉に代表されるようにフッ素などの化学物質に頼らず、表面の微細な突起により、水滴と表面の間に空気層を取り込むことで撥水性能を得ている構造撥水が存在する。この現象を利用し、極細繊維などを利用した様々な提案がこれまでなされているが、洗濯など外部からの力により構造が乱れ、性能低下を招く恐れがある。一方で、本発明の特殊断面繊維は、繊維一本一本に空気層を取り込むことができる構造を安定的に形成しているので、洗濯等の外部からの力でも構造を維持することができる。さらに、溝形状を維持することで溝内部が外部からの擦過等を受けないことから、溝内部に浸透した撥水加工剤などが脱落しにくく、性能維持を実現することができる。その形状について、以下で詳しく説明する。
【0021】
本発明の特殊断面繊維においては、溝部入口幅(w1)と溝の広幅部幅(w2)および特殊断面繊維径(d)に対する溝深さ(h)が重要であり、第1の要件となる。ここで、溝の広幅部幅(w2)と溝部入口幅(w1)の比が1.3以上であることで、水滴が繊維に接触した際、溝の入口が狭いことで溝に水滴が入り込みにくく、さらには取り込まれている空気が、水滴を押し上げようと作用するため空気層を維持でき、撥水効果を得ることができるのである。好ましくは、1.5以上で、より好ましくは、1.8以上である。また、突起部の割れを抑制し、溝部入口の形状の輪郭(エッジ)を維持するためには、3.0以下であることが好ましい。この輪郭を維持することで撥水性能を維持することができる。
【0022】
また、特殊断面繊維径(d)と溝深さ(h)の比(h/d)が0.15以上必要である。これにより、水滴の自重や水圧がかかったとしても、溝の奥まで水滴が到達しなく、性能を維持するのである。なお、水滴侵入の観点からは、この値が大きければ大きいほど良いのであるが、溝を形成する突起部が外力を受けたときの変形や破壊で性能低下を招きかねないことから、本発明においては上限として0.25以下とする。好ましくは、0.17以上0.22未満である。
【0023】
さらに、溝深さ(h)も撥水性能に寄与するものであり、絶対値として、2μm以上が好ましく、さらに好ましくは3μm以上である。一般的に、雨粒の大きさは、例えば約50~150dtexの単繊維の場合、単繊維一本の直径が10~23μm程度であるのに対して、過大なものであり100~1000μm程度である。そこで、繊維に付着した水滴は自重で溝に入り込み、溝の底面(底部)に達すると水滴が付着し、濡れる。しかしながら、溝が深い場合は、水滴の表面張力により押し上げられ濡れずに撥水性能を発揮する。ここで、水滴の表面張力を利用して撥水性能を発揮させるためには、上述の如く、溝深さは2μm以上が好ましいのである。
【0024】
次に、ここで言う溝部入口幅(w1)、溝の広幅部幅(w2)、特殊断面繊維径(d)、溝深さ(h)は以下のように求めるものである。すなわち、溝部入口幅(w1)とは、繊維軸に対して垂直方向の繊維断面の、溝部の中心線に直交する長さを中心線に沿って外周部に向けて測定した際の最小箇所とする(
図2の3)。また、溝の広幅部幅(w2)(
図2の4)とは、溝部の中心線に直交する長さを中心線に沿って外周部より繊維中心に向けて測定した際の最大箇所とする。突起部10の外接円の直径を特殊断面繊維径(d)とする。また、溝深さ(h)は、溝部中心線において、突起部外接円および溝部内接円との交点間距離を意味する(
図3の5)。ここで言う外接円とは、特殊断面繊維の断面において突起部の先端に2点以上で最も多く外接する真円、すなわち突起部外接円(
図4の6)であり、内接円とは溝部の先端(底部)に2点以上で最も多く内接する真円、すなわち溝部内接円(
図4の7)を意味する。
【0025】
また、本発明の特殊断面繊維においては、溝部1(
図1の1)の数は4~9個であることが好ましく、6個から8個であることがより好ましい。溝部数を4個以上とすることで、水滴と繊維表面の接触面積を効果的に低減させることができ、優れた撥水性を発現することとなる。また、溝部数を9個以下とすることで、突起部の割れが生じにくくなり、より過酷な湿潤条件下においても耐摩耗性に優れた撥水性織編物とすることができる。その結果、衣料として用いた場合の品質低下を抑制し得るとともに、過酷な条件下においても特殊断面形状を維持することで、撥水性能の耐久性に優れるものとなる。
【0026】
本発明においては、後述するように特殊断面繊維を得るには芯鞘複合繊維を用いることが望ましい。本発明で言う芯鞘複合繊維とは、2種類のポリマーから構成されており、芯成分の断面において、広幅部を有した溝が複数存在している特殊な断面形態を有する繊維を言う。該芯鞘複合繊維を織編物に用いる場合、基本的には繊維に対して、溶出操作をすることとなる。このため、芯鞘複合繊維においては、該繊維の断面において芯成分の面積比率を50%から90%とすることが好ましい。係る範囲であれば、例えば、織物とした場合でも、繊維間の空隙が適度となり、他の繊維と混繊するなどする必要なく使用することが可能となる。また、溶出処理時間を短縮するという観点では、鞘成分の面積比率を低くすることが好適であり、この観点では、芯成分の面積比率が70%から90%であることがより好ましく、80%から90%が特に好ましい。
【0027】
芯鞘複合繊維においては、芯成分の面積比率が90%を超えたものとすることも可能であるが、実質的に鞘成分が溝部を安定的に形成できる範囲として、比率の上限値を90%とした。
【0028】
芯鞘複合繊維における鞘成分の溶出では、一般に液流染色機等を活用して行われる場合が多く、その処理工程において、繊維は複雑な変形を繰り返し加えられることとなる。この場合、繊維最外層に形成された突起部は複雑な変形を繰り返し加えられることとなり、これに対する力学的な耐久性が低い場合には、突起部が簡単に剥離してしまうことになる。このような場合、繊維の毛羽立ちによる風合いの低下はもとより、溝部形状による機能発現は非常に低下したものとなり、期待した効果が得られない場合があった。この耐久性を突き詰めると、突起部の可動範囲が大きいことに起因しており、突起部先端の幅と溝部の幅との関係に依存するものである。隣り合う突起部先端の幅をPout、溝部の入口幅をw1としたとき、Pout/w1は2.0以上10.0以下が好ましい。係る範囲であれば、前述した溶出処理中の耐久性はもとより、溶出後の突起部は自立して存在するため、溝部形状に依存した機能発現には非常に有効に働き、その繊維表層に形成された突起部(溝部)によって、様々な特性を発現させることが可能となる。このような観点を推し進めると、Pout/w1の値は大きいほど耐久性に優れるものとなり、耐久性に優れた芯鞘複合繊維を製造することを考えると、Pout/w1は3.0以上10.0以下であることが好ましい。また、芯鞘複合繊維を比較的過酷な雰囲気下で使用されるスポーツのアウターや擦過が多いインナーに使用する場合には、Pout/w1は4.0以上10.0以下であることが特に好ましく、係る範囲であれば溝部に起因した性能が耐久性高く維持されることとなる。
【0029】
また、この自立した突起部は擦過などの応力を付与した場合にも、突起部がほとんど可動することなく存在する。このため、突起部の力学的な劣化が起こりにくく、実使用時の耐久性にも大きく影響するのである。撥水性能に着目した場合は溝部に空気層を取り込む必要があることから、突起部先端の幅(Pout)と突起部底面の幅(Pmin)の比(Pout/Pmin)は1.3以上が好ましい。より好ましくは、2.3以上である。ここで言う突起部先端の幅(Pout)とは突起部10を挟んで隣り合う溝部の外接円との接点に相当する部分の点の距離(
図5の8)、突起部底面の幅(Pmin)とは突起部10を挟んで隣り合う溝部の内接円との接点に相当する部分の点の距離(
図5の9)をそれぞれ意味する。Pout/Pminは、撥水性能の観点から大きい方が好ましいが、耐久性の観点で不利となることから、本発明においては、実施可能な上限値5.0未満が好ましい。より好ましくは、4.5未満である。
【0030】
本発明の撥水性織編物に用いる特殊断面繊維は、上述のとおり特殊な溝形状により撥水性能を発揮するのであり、該溝形状を維持することが耐久性の維持に望ましい。そのためにも、原糸を芯鞘複合繊維とすることで、撚糸工程や仮撚工程等の糸加工工程で糸断面に対しての強い変形を受けても、その後の溶出により所望の溝形状が得られるので好ましい。また、溝部入口の形状の輪郭(エッジ)が維持できることから好ましい。この輪郭を維持することは撥水性の維持にも大きく寄与し、溝の入口を形成する突起部分が鋭角であることが好ましい。ここで言う鋭角とは、突起部における突起部の繊維表面の辺の接線と突起部における溝部の辺の接線の成す角(
図5のα)が90deg未満のことをいう。好ましくは80deg以下である。このように突起部分が鋭角となっていることで、溝部への水滴の侵入を抑制できると考えられる。更には、織編物形態においても織編物形成後に溶出するため、糸-糸間の隙間が適度に維持でき、空気層の確保により撥水性能の維持に寄与できるのである。
【0031】
芯鞘複合繊維の横断面形状は、真円断面に加えて、短軸と長軸の比(扁平率)が1.0より大きい扁平断面はもとより、三角形、四角形、六角形、八角形などの多角形断面、一部に凹凸部を持ったダルマ断面、Y型断面、星型断面等の様々な断面形状をとることができる。
【0032】
本発明において、撥水性織編物が織物である場合、特殊断面繊維が織物の経糸もしくは緯糸の少なくとも一方に使用されていることが好ましい。
【0033】
また、(式3)で示されるカバーファクターが下記範囲を満たすことが好ましい。
糸密度(本/2.54cm)×繊度(デシテックス)0.5≦1400 ・・・(式3)
(ただし、糸密度は特殊断面繊維を用いた経糸もしくは緯糸の糸密度であり、繊度は特殊断面繊維の総繊度である。)
より好ましくは、
200≦糸密度(本/2.54cm)×繊度(デシテックス)0.5≦1400 ・・・(式4)
であり、さらに好ましくは、
300≦糸密度(本/2.54cm)×繊度(デシテックス)0.5≦1400 ・・・(式5)
である。
【0034】
撥水剤としては、高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)を用いた測定において、パーフルオロオクタン酸(PFOA)の濃度が5ng/g以下である撥水剤を用いる。好ましくは、1ng/g未満である。該濃度が5ng/gよりも大きい場合、環境上好ましくない。該撥水剤とは、例えばC6撥水剤(C6系撥水剤とも称されるが、本発明ではC6撥水剤と称する)や非フッ素系撥水剤などが挙げられる。C6撥水剤とは、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物からなるフッ素系撥水剤であり、かつパーフルオロアルキル基の炭素数が6個以下であるものをいう。パーフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基を言う。また、非フッ素系撥水剤とは、パーフルオロアルキル基を主体としたフッ素化合物を含まない撥水剤である。非フッ素系撥水剤としてはシリコーン系撥水剤、パラフィン系撥水剤などが挙げられ、これらの撥水剤は、シリコーン系化合物が主体であってもよいし、パラフィン系化合物が主体であってもよい。
【0035】
上記パーフルオロオクタン酸(PFOA)濃度の条件を満たすC6撥水剤としては、市販品を好適に用いることができ、例えば“アサヒガード”AG-E082(明成化学工業社製)などが挙げられる。C6撥水剤の付着濃度は1重量%~10重量%が好ましい。上限としては、8重量%以下がより好ましく、6重量%以下がさらに好ましく、5重量%以下が最も好ましい。下限としては、2重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましい。
【0036】
上記パーフルオロオクタン酸(PFOA)濃度の条件を満たす非フッ素系撥水剤としては、市販品を好適に用いることができ、例えば“ネオシード”NR-158(日華化学社製、シリコーン系化合物を主体とした撥水剤)などが挙げられる。非フッ素系撥水剤の付着濃度は1重量%~10重量%が好ましい。上限としては、8重量%以下がより好ましく、6重量%以下がさらに好ましく、5重量%以下が最も好ましい。下限としては、2重量%以上がより好ましく、3重量%以上がさらに好ましい。
【0037】
撥水性能の耐久性を向上させるために、撥水剤に架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、メラミン系樹脂、ブロックイソシアネート系化合物(重合)、グリオキザール系樹脂およびイミン系樹脂などの少なくとも1種使用することができ、その架橋剤は特に限定されるものではない。
【0038】
以下に本発明の撥水性織編物の製造方法の一例を詳述する。
【0039】
本発明で用いる特殊断面繊維は、2種類のポリマーを用い、特殊断面繊維成分(芯成分)と溶出成分(鞘成分)で溝部形成できるように配置した芯鞘複合繊維を紡糸し、編成、製織後、溶出処理により鞘成分を溶解して芯成分を残すことによって得ることができる。ここで、上記芯鞘複合繊維を製糸する方法としては、溶融紡糸による複合紡糸が生産性を高めるという観点から好適である。当然、溶液紡糸などして、芯鞘複合繊維を得ることも可能である。
【0040】
溶融紡糸を選択する場合、芯成分および鞘成分として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイドなどの溶融成形可能なポリマーおよびそれらの共重合体が挙げられる。特にポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。また、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤をポリマー中に含んでいてもよい。
【0041】
芯鞘複合繊維から溝部を形成するために鞘成分である易溶出成分を溶出するが、具体的には易溶出成分が溶解可能な溶剤などに繊維を浸漬して鞘成分を除去すればよい。易溶出成分が、5-ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどが共重合された共重合ポリエチレンテレフタレートやポリ乳酸等の場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いることができる。この芯鞘複合繊維をアルカリ水溶液にて処理する方法としては、例えば、複合繊維あるいはそれからなる繊維構造体とした後で、アルカリ水溶液に浸漬させればよい。この時、アルカリ水溶液は50℃以上に加熱すると、加水分解の進行を早めることができるため、好ましい。また、流体染色機などを利用すれば、一度に大量に処理をすることができるため、生産性もよく、工業的な観点から好ましいことである。
【0042】
鞘成分の溶出に用いる溶剤に対して、芯成分が難溶出、鞘成分が易溶出となることが好ましく、用途に応じて芯成分を選定しておき、そこから用いることができる溶剤を鑑みて前述のポリマーの中から鞘成分を選定すると好適である。
【0043】
芯鞘複合繊維の難溶出成分(芯成分)と易溶出成分(鞘成分)の溶剤に対する溶出速度比が大きいほど好適な組み合わせと言え、溶出速度比は10倍以上が好ましく、3000倍までの範囲を目安にポリマーを選択すると良い。より好ましくは100倍以上で、さらに好ましくは1000倍以上である。鞘成分としては、例えば、ポリエステルおよびその共重合体、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリスチレンおよびその共重合体、ポリエチレン、ポリビニールアルコールなどの溶融成形可能で、他の成分よりも易溶出性を示すポリマーから選択することが好適である。特に鞘成分の溶出工程を簡易化するという観点では、鞘成分は、水系溶剤あるいは熱水などに易溶出性を示す共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニールアルコールなどが好ましく、特に、ポリエチレングリコール、ナトリウムスルホイソフタル酸が単独あるいは組み合わされて共重合したポリエステルやポリ乳酸を用いることが取扱性および低濃度の水系溶剤に簡単に溶解するという観点から好ましい。
【0044】
また、水系溶剤に対する溶出性および溶出の際に発生する廃液の処理の簡易化という観点では、ポリ乳酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が3mol%から20mol%が共重合されたポリエステルおよび前述した5-ナトリウムスルホイソフタル酸に加えて重量平均分子量500から3000のポリエチレングリコールが5wt%から15wt%の範囲で共重合されたポリエステルが特に好ましい。特に、前述した5-ナトリウムスルホイソフタル酸単独および5-ナトリウムスルホイソフタル酸に加えてポリエチレングリコールが共重合されたポリエステルにおいては、結晶性を維持しながらもアルカリ水溶液などの水系溶剤に対して易溶出性を示すため、加熱下で擦過が付与される仮撚り加工等においても、複合繊維間の融着等が起こらず高次加工通過性という観点から好適である。
【0045】
本発明における紡糸温度は、前述した観点から決定した使用ポリマーのうち、主に高融点や高粘度のポリマーが流動性を示す温度とすることが好適である。この流動性を示す温度とは、ポリマー特性やその分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。これ以下の温度であれば、紡糸時にポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制され、良好に芯鞘複合繊維を製造することができる。
【0046】
本発明に用いる芯鞘複合繊維は、フィラメント糸から構成される。フィラメント糸は、延伸糸および各種撚糸を含む。撚糸の種類は特に限定されず、例えば仮撚加工糸、仮撚融着糸、中強撚糸などが挙げられる。
【0047】
本発明に用いる特殊断面繊維は、通常の方法で製織、編成することができ、また通常の方法で染色することができる。
【0048】
また、織編物が織物である場合、織組織としては特に限定されず、例えば平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織などが挙げられる。また、織編物が編物である場合、編組織としては特に限定されず、例えば丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などが挙げられる。織物、編物いずれもどのような組織でもよいが、平織よりも綾織りのような凹凸が出やすい組織とする方が液滴接触角や撥水度が大きくなる傾向にあり、他の断面繊維と混用する場合は特殊断面繊維が表面に多く現れる組織が望ましい。
【0049】
芯鞘複合繊維を溶出操作し本発明の特殊断面繊維とした後、織編物として使用する場合、撥水加工を施すが、必要に応じて、制電、難燃、吸湿、制電、抗菌、柔軟仕上げ、その他公知の後加工(樹脂コーティング、フィルムラミネート、その他機能を付与する各加工等を含む)を併用することができ、これら制電、難燃、吸湿、制電、抗菌、柔軟仕上げ剤などの機能加工剤の洗濯耐久性を向上させることもできる。撥水加工工程は、パディング法、スプレー法、コーティング法など特に限定されるものではない。
【0050】
本発明の撥水性織編物において、水滴との液滴接触角は135°以上であり、140°以上であることが好ましく、145°以上であることがより好ましい。液滴接触角とは、水平に張った織編物の表面と、この織編物の表面上に滴下した水滴とのなす角度のことであり、接触角が大きいほど撥水性に優れることの指標となる。本発明において液滴接触角は、全自動接触角計(DM-SA、協和界面科学株式会社製)を使用し、織編物表面上に3μLの水滴を滴下し、接線法により測定される。液滴接触角が135°未満では十分な撥水性が達成されず、織編物上に水滴が残存し易いものとなる。
【0051】
また、本発明の撥水性織物は、洗濯耐久性に優れることから、JIS L 0217 103法に従う洗濯20回後における水滴との液滴接触角として135°以上を達成するものであり、好ましい態様においては140°以上、さらには145°以上を達成することも可能である。
【0052】
また、本発明の撥水性織編物において、撥水度(級)はJIS L 0217 103法に従う洗濯20回後におけるJIS L 1092スプレー法で4級以上である。一般に撥水素材は洗濯に伴いその撥水性能は低下していき、特に、撥水剤として非フッ素系撥水剤を用いた場合は、フッ素系撥水剤を用いた場合と比較して撥水性の洗濯耐久性に劣るものであるが、本発明では特殊断面繊維を用いることで撥水性の低下を補うことができ、洗濯後も優れた撥水性を維持することができる。
【0053】
上記のような水滴との液滴接触角や撥水度を本発明の範囲のように優れた範囲とするには、上記特殊断面繊維を用いるとともに、微細な凹凸を生じやすい織編組織とし、織密度、編密度を適宜調整すればよい。織密度、編密度については上記特殊断面繊維の密度を大きくすることにより、液滴接触角や撥水度が大きくなる傾向にある。
【0054】
かくして得られる撥水性織編物は、耐摩耗性に優れるので、後述する方法で測定した湿潤条件におけるフロスティング試験による耐摩耗性として、4級以上、より好ましい態様においては4-5級以上を達成することができる。耐摩耗性が4級未満であると、縫製工程、着用時および洗濯時の擦過などにより白化現象が生じ品位を損なう可能性がある。
【0055】
本発明の撥水性織編物を用いることにより、耐久性に優れた撥水性能を発現するとともに耐摩耗性にも優れる衣料とすることができる。特に比較的過酷な雰囲気下、例えば登山、スキー、スケート、等、雪山や氷上等の環境下で使用されるようなスポーツ用、土木工事等の作業用のアウターや擦過が多い衣料用途に、極めて実用的に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下実施例を挙げて、本発明の撥水性織編物について具体的に説明する。
実施例および比較例については、下記の評価を行った。
【0057】
A.繊度
本発明の撥水性織編物に用いる芯鞘複合繊維は、温度20℃湿度65%RHの雰囲気下で単位長さ当たりの重量を測定し、その値から10000mに相当する重量を算出する。これを10回繰り返して測定し、その単純平均値の小数点以下を四捨五入した値を繊度とした。
【0058】
B.液滴接触角
全自動接触角計(DM-SA、協和界面科学株式会社製)を使用し、織編物表面上に3μLの水滴を滴下し、接線法により測定した。液滴接触角の値が大きいほど撥水性能に優れると判断した。
【0059】
C.撥水性能(スプレー法)
撥水加工を施した布帛サンプルを20cm×20cmのサンプルサイズになるように切り出し、評価サンプルを準備した。中央に直径11.2cmの円を描き、該円の面積が80%拡大されるように伸張し、撥水度試験(JIS L 1092)(2009)に使用する試験片保持枠に取り付け、スプレー試験(JIS L 1092(2009)「繊維製品の防水性試験方法」)に従い級判定を実施し、撥水性能を5段階評価した
【0060】
D.撥水性能の洗濯耐久性
織編物の洗濯方法については、JIS L 0217(1995)「繊維製品の取扱い表示記号及びその表示方法」に記載の103法を用いた。洗濯回数は0回、20回とし、撥水性能の洗濯耐久性は上記BおよびCで評価した。
【0061】
E.特殊断面繊維の耐摩耗性(湿潤条件におけるフロスティング試験)評価
摩耗方法についてはJIS L 1076(2012)「織物及び編物のピリング試験方法」に記載のアピアランス・リテンション形試験機を用い、上部ホルダー底面積を約13平方cm、摩擦回数を90rpm、押圧荷重を7.36Nに設定し、上部ホルダー及び下部摩擦板の上に撥水処理を行った織編物を固定し、上部ホルダーに取り付けた織編物を蒸留水で濡らした後に、10分間摩耗した。摩耗後、上部ホルダーに取り付けた織編物の変退色の程度を、変退色用グレースケールを用いて5段階に分けて等級判定した。
【0062】
F.特殊断面繊維の断面パラメータ
芯鞘複合繊維を用いた織編物を、濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で、100℃×60分間、浴比1:30にて減量処理を行い、鞘部のみを溶出した特殊断面繊維を含む織編物とした。該織編物の一部を、特殊断面繊維の横断面形状を観察できるように繊維軸方向に垂直に切断し、(株)日立ハイテクノロジーズ製 走査電子顕微鏡(SEM)にて特殊断面繊維を抽出し、画像処理ソフト(ImageJ)を用いて溝部入口幅(w1)、溝の広幅部幅(w2)、溝深さ(h)、および特殊断面繊維径(d)を測定した。さらに、特殊断面繊維の突起部に関して、突起部先端の幅(Pout)および突起部底面の幅(Pmin)についても同様に測定した。同じ操作を5本の特殊断面繊維について行い、平均値をそれぞれの値とした。なお、これらの値はμm単位で小数点第2位まで求め、小数点2位以下を四捨五入するものである。
【0063】
G.織密度
撥水処理を行った織物について、袖山(株)製 ルノメーター織物密度測定器を用いて、経方向および緯方向の密度を測定した。同測定を異なる5箇所において行い、その単純平均値の小数点以下を四捨五入した値を織密度とした。
【0064】
実施例1
ナイロン6(N6)を芯部に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸8.0モル%および分子量1000のポリエチレングリコール10wt%が共重合したポリエチレンテレフタレート(共重合PET1)を鞘部に配置されるように設計された紡糸口金を用いて、芯部と鞘部を270℃で別々に溶融後、口金に流入させ、吐出孔から複合ポリマー流を吐出することで芯鞘複合繊維(110dtex/36フィラメント)を得た。なお、吐出プレート直上の分配プレートは、芯成分と鞘成分の界面に位置する部分を
図6に示す配列パターンとし、1本の芯鞘複合繊維に8箇所の溝部が形成するようにした。芯成分用分配孔(
図6の11)の間に鞘成分分配孔(
図6の12)を配置することにより、芯成分分配孔から吐出された芯成分の間に挟まれるように鞘成分が設置され、本発明の特殊な溝形状が制御された芯鞘型に複合化されたポリマー流が形成される。また、吐出プレートは、吐出導入孔長5mm、縮小孔の角度60°、吐出孔径0.3mm、吐出孔長/吐出孔径1.5のものを用いた。芯鞘複合比は重量比で80:20となるように調整した。
【0065】
経糸にナイロン6(N6)からなる丸断面形状のマルチフィラメント(56dtex/40フィラメント)を、緯糸に上記の芯鞘複合繊維を配した1/3の綾組織の織物を製織した。経糸密度は136本/2.54cm、緯糸密度は120本/2.54cmである。得られた織物について、炭酸ナトリウムおよび界面活性剤で精練した後、180℃でピンテンターによりセットした。次いで、濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で、100℃×60分間、浴比1:30にて減量処理を行い、鞘部のみを溶出して特殊断面繊維とした。引き続き、次の方法で染色した。染料(アークロマジャパン社製、商品名「Lanasyn Black M-DL p170」、酸性染料)を5%оwfとし、100℃×30分間、浴比1:30で処理した。次いで、濃度1g/Lの界面活性剤水溶液を使用し、60℃×10分の条件でソーピング処理した。次いで、ナイロンフィックス501(センカ社製)を3%owfで使用し、反応条件は80℃×20分、浴比1:30でフィックス処理を行った。さらに、“ネオシード”NR-158(日華化学社製、非フッ素系撥水剤)を4重量%、“ベッカミン”M-3(DIC社製)を0.2重量%、“キャタリスト”ACX(DIC社製)を0.15重量%、イソプロプルアルコール1重量%、水94.65重量%で混合した処理液に浸漬し、マングルにて絞り率60%で絞液後、ピンテンターにより130℃×1分で乾燥、170℃×1分でキュアリングして、実施例1の撥水性織編物を得た。
【0066】
実施例2
実施例1に記載の芯鞘複合繊維(110dtex/36フィラメント)を、フリクション仮撚機を用いてヒーター温度170℃、倍率1.15倍の条件で延伸仮撚し、96dtex/36フィラメントの仮撚糸を得た。緯糸を該仮撚糸とし、緯糸密度を128本/2.54cmに変更したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0067】
実施例3
芯鞘複合繊維の繊度を56dtex/36フィラメントとし、緯糸密度を168本/2.54cmに変更したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
【0068】
比較例1
芯成分および鞘成分として、実施例1で用いたN6と共重合PET1を用いるが、高次加工工程において減量処理のみ行わず、経糸、緯糸ともに丸断面形状のマルチフィラメントとした。その他の条件は実施例1と同様に実施した。
【0069】
比較例2
芯成分および鞘成分として、実施例2で用いた仮撚糸を用いるが、比較例1と同様に減量処理のみ行わず、その他の条件は実施例2と同様に実施した。
【0070】
比較例3
芯成分および鞘成分として、実施例3で用いたN6と共重合PET1を用いるが、減量処理を行わず、かつ撥水剤として非フッ素系撥水剤と比較して撥水性能に優れるC6撥水剤を用いた。そのC6撥水剤として、“アサヒガード”AG-E082(明成化学工業社製)を3.5重量%用いることとし、その他の条件は実施例3と同様に実施した。
【0071】
実施例1~3においては、緯糸に用いた特殊断面繊維が溝部を有するために、非フッ素系撥水剤を用いた場合においても、撥水性能の耐久性が向上することが分かった。また、強制的な摩耗を加えた場合でも変退色の程度は良好であり、耐摩耗性に優れるものであった。さらに、実施例3は、同繊度帯の比較例3と比較すると、洗濯後の撥水性能において経糸に丸断面形状繊維を配したC6撥水剤処理サンプルより優れるものであった。
【0072】
比較例1および2においては、緯糸に用いた繊維が丸断面形状であったために、撥水性能の耐久性に劣るものであった。
【0073】
実施例1~3で得られた本発明の撥水性織編物および比較例1~3で得られた撥水性織編物についての評価を、表1にまとめて示す。
【0074】
【符号の説明】
【0075】
1:溝部
2:特殊断面繊維
3:溝部入口幅(w1)
4:溝の広幅部幅(w2)
5:溝深さ(h)
6:突起部外接円
7:溝部内接円
8:突起部先端の幅(Pout)
9:突起部底面の幅(Pmin)
10:突起部
11:芯成分用分配孔
12:鞘成分用分配孔
α:突起部における突起部の繊維表面の辺の接線と突起部における溝部の辺の接線の成す角