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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ハイブリッド車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/19 20160101AFI20230301BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20230301BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20230301BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20230301BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20230301BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20230301BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B60W20/19
B60K6/442 ZHV
B60W10/26 900
B60W20/13
B60L50/61
B60L3/00 J
H01M10/48 301
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022538882
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044802
(87)【国際公開番号】W WO2022163136
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021010299
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】生駒 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮
(72)【発明者】
【氏名】円山 祐輝
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-150974(JP,A)
【文献】特開2012-57553(JP,A)
【文献】特開2016-46919(JP,A)
【文献】特開2019-94013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/19
B60K 6/442
B60W 10/26
B60W 20/13
B60L 50/61
B60L 3/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載電池、エンジン、前記エンジンによって駆動されて発電する発電機、前記車載電池又は前記発電機から供給された電力により駆動して車両の走行輪を駆動するモータと、を有し、前記エンジンを駆動して前記発電機によって発電しつつ、前記モータで走行駆動するシリーズモードが可能なハイブリッド車の制御装置であって、
前記シリーズモードにおいて、前記車載電池からの出力電力の上限値である電池上限出力値を所定の基準値に設定する電池上限出力値設定部と、
前記車両の車速を検出する車速検出部と、
車両走行用の要求出力を演算する要求出力演算部と、を備え、
前記電池上限出力値設定部は、前記シリーズモードにおいて、前記要求出力が所定値以上の高出力要求時には前記電池上限出力値を前記基準値よりも所定時間高く設定する出力抑制緩和制御を行い、
前記電池上限出力値及び前記所定時間は、前記車速に基づいて変更され、
前記電池上限出力値設定部は、前記出力抑制緩和制御において、前記車速が所定速度以上の高車速時には、前記所定速度未満の低車速時よりも前記電池上限出力値を低く、かつ前記基準値よりも高く設定するとともに前記所定時間を長く設定することを特徴とするハイブリッド車の制御装置。
【請求項4】
前記車載電池の温度を検出する電池温度検出部を備え、
前記電池上限出力値設定部は、前記出力抑制緩和制御において、前記車載電池の温度に基づいて、前記温度が低温であるほど前記電池上限出力値を前記基準値に低下させる段階数を増加させることを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項5】
車両の加速性能の異なる運転モードを選択する運転モード選択部を備え、
前記電池上限出力値設定部は、前記出力抑制緩和制御において、選択された前記運転モードに基づいて前記電池上限出力値を変更することを特徴とする請求項1、3、および4のいずれか1項に記載のハイブリッド車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車における車載電池の出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発されているハイブリッド車の多くは、エンジンによって駆動した発電機から出力する電力を、駆動用モータに供給して走行駆動するとともに、車載電池に供給して充電が可能になっている。また、このようにエンジン、発電機及び車載電池を備えたハイブリッド車において、駆動用モータにて高出力を要する場合に、エンジンによって駆動した発電機から出力する電力と車載電池から出力する電力の両方を用いて、駆動用モータを駆動可能な車両が開発されている。
【0003】
更に、特許文献1には、車載電池の温度上昇を抑制するために、車載電池の温度に基づいて車載電池からの出力を抑制するハイブリッド車の制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2004-104937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように車載電池からの出力を抑制すると、例え発電機からの出力を駆動用モータにおいて最大限利用したとしても、例えば加速走行要求時に電力不足となり、加速性能が低下する可能性がある。
特に、高速走行時において例えばドライバがアクセルを踏み込んで更なる加速を要求した場合に、車載電池からの出力が比較的高い状態から更に出力を増加させると、電池温度がすぐに許容値に達する可能性があり、車載電池の出力が抑制され、十分な加速感が得られない虞がある。そして、エンジンを駆動して発電しつつ駆動用モータのみで走行駆動する所謂シリーズモードにおいては、このような車載電池の出力抑制による加速性能の低下が顕著に表れてしまうといった問題点がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シリーズモードにおいて、電池温度の上昇を抑制しつつ、加速性能を向上させるハイブリッド車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のハイブリッド車の制御装置は、車載電池、エンジン、前記エンジンによって駆動されて発電する発電機、前記車載電池又は前記発電機から供給された電力により駆動して車両の走行輪を駆動するモータと、を有し、前記エンジンを駆動して前記発電機によって発電しつつ、前記モータで走行駆動するシリーズモードが可能なハイブリッド車の制御装置であって、前記シリーズモードにおいて、前記車載電池からの出力電力の上限値である電池上限出力値を基準値に設定する電池上限出力値設定部と、前記車両の車速を検出する車速検出部と、車両走行用の要求出力を演算する要求出力演算部と、を備え、前記電池上限出力値設定部は、前記シリーズモードにおいて、前記要求出力が所定値以上の高出力要求時には前記電池上限出力値を前記基準値よりも所定時間高く設定する出力抑制緩和制御を行い、前記電池上限出力値及び前記所定時間は、前記車速に基づいて変更されることを特徴とする。
【0008】
これにより、出力抑制緩和制御によって、シリーズモードにおける高出力要求時に電池上限出力値が所定時間高く設定されることで、車載電池から供給される電力を増加させてモータに供給し、走行駆動力を増加させて、車両の加速性能を向上させる。
そして、この電池上限出力値及び所定時間が車速に基づいて変更されることで、低速走行時と高速走行時の夫々の加速要求時に適した車載電池からの電力出力を可能にすることができる。
【0009】
好ましくは、前記電池上限出力値設定部は、前記出力抑制緩和制御において、前記車速が所定速度以上の高車速時には、前記所定速度未満の低車速時よりも前記電池上限出力値を低く、且つ前記基準値よりも高く設定するとともに前記所定時間を長く設定するとよい。
これにより、高車速時に加速走行をする際に、低車速時における加速走行時よりも電池上限出力値を低く抑えて車載電池の温度上昇を抑えるとともに、電池上限出力値を長時間基準値よりも増加させて長時間の加速を可能とすることができ、加速走行時におけるドライバビリティを向上させることができる。
【0010】
好ましくは、前記電池上限出力値設定部は、前記出力抑制緩和制御において、前記所定時間経過後に前記電池上限出力値を前記基準値より高い値から段階的に前記基準値に低下させるとよい。
これにより、出力抑制緩和制御により電池上限出力値を高く設定した状態から基準値に低下させる際に、電池上限出力値を細かく変化させて、車載電池の温度上昇を抑制しつつ加速性能をより向上させることができる。
【0011】
好ましくは、前記車載電池の温度を検出する電池温度検出部を備え、前記電池上限出力値設定部は、前記出力抑制緩和制御において、前記車載電池の温度に基づいて、前記温度が低温であるほど前記電池上限出力値を前記基準値に低下させる段階数を増加させるとよい。
これにより、車載電池の温度が低温の時ほど電池上限出力値を細かく変化させて、車載電池の温度上昇を抑制しつつ加速性能の向上をより適切に可能にすることができる。
【0012】
好ましくは、前記車両の加速性能の異なる運転モードを選択する運転モード選択部を備え、前記電池上限出力値設定部は、前記出力抑制緩和制御において、選択された前記運転モードに基づいて前記電池上限出力値を変更するとよい。
これにより、車両の運転モードに応じて出力抑制緩和制御における電池上限出力値を適切に設定して加速性能を適切に得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッド車の制御装置によれば、シリーズモードにおける高出力要求時に電池上限出力値を基準値よりも所定時間増加させる出力抑制緩和制御において、車速に応じて電池上限出力値及び所定時間が変更されるので、車速に応じて車載電池からの出力を適切に抑制することができる。
例えば、高車速時には低車速時よりも電池上限出力値を低下させるとともに、所定時間、即ち電池上限出力値を基準値よりも増加させる継続時間を長くすることで、比較的抑えた出力で長時間の出力上昇を可能にすることができる。一方、低車速時には、短時間高出力を可能にし、加速性能を向上させることができる。
【0014】
したがって、電池温度の上昇を抑えつつ車速に応じて必要かつ適切な加速が可能になり、高速走行時及び低速走行時のいずれにおいてドライバビリティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の走行駆動系の概略構成図である。
図2】本実施形態の電池出力制御システムの構成図である。
図3】車載電池が低温状態における電池上限出力値の設定例を示すグラフである。
図4】車載電池が高温状態における電池上限出力値の設定例を示すグラフである。
図5】車速及びドライバ選択モードに基づく電池上限出力値の設定例を示すグラフである。
図6】加速走行時でのアクセル開度、車速、電池出力、発電機出力、電池高温シリーズ判定、走行モード判定の推移例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るプラグインハイブリッド車(以下、車両1という)の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態の電池出力制御システム(制御装置)を備えた車両1は、エンジン2の出力によって前輪3(走行輪)を駆動して走行可能であるとともに、前輪3を駆動する電動のフロントモータ4及び後輪5(走行輪)を駆動する電動のリヤモータ6を備えた四輪駆動車である。
【0017】
エンジン2は、減速機7を介して前輪3の駆動軸8を駆動可能であるとともに、減速機7を介してモータジェネレータ9(発電機)を駆動して発電させることが可能になっている。
フロントモータ4は、フロントインバータ10を介して、車両1に搭載された車載電池11及びモータジェネレータ9から高電圧の電力を供給されて駆動し、減速機7を介して前輪3の駆動軸8を駆動する。減速機7には、エンジン2の出力軸と前輪3の駆動軸8との間の動力の伝達を断接切換え可能なクラッチ7aが内蔵されている。
【0018】
リヤモータ6は、リヤインバータ12を介して車載電池11及びモータジェネレータ9から高電圧の電力を供給されて駆動し、減速機13を介して後輪5の駆動軸14を駆動する。
モータジェネレータ9によって発電された電力は、フロントインバータ10を介して車載電池11を充電可能であるとともに、フロントモータ4及びリヤモータ6に電力を供給可能である。
【0019】
車載電池11は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成され、複数の電池セルをまとめて構成された図示しない電池モジュールを有している。また、車載電池11は、電池モジュールの電圧や温度等の電池モジュールの状態を監視するモニタリングユニット11a(電池温度検出部)を備えている。
フロントインバータ10は、ハイブリッドECU20からの制御信号に基づきフロントモータ4の出力を制御するとともに、ハイブリッドECU20からの制御信号に基づきモータジェネレータ9の出力を制御する機能を有する。
【0020】
リヤインバータ12は、ハイブリッドECU20からの制御信号に基づきリヤモータ6の出力を制御する機能を有する。
車両1には、エンジン2を駆動制御するエンジンECU22と、車載電池11を外部電源によって充電する図示しない充電機が備えられている。
ハイブリッドECU20は、車両1の走行制御を行うための総合的な制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマ等を含んで構成されている。また、エンジンECU22も、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマ等を含んで構成されている。
【0021】
ハイブリッドコントロールユニット20の入力側には、車載電池11のモニタリングユニット11a、フロントインバータ10、リヤインバータ12、エンジンコントロールユニット22、アクセル操作量を検出するアクセル開度センサ40、車両1の走行速度(車速V)を検出する車速センサ41(車速検出部)、車両1の運転モード(NOMALモード、POWERモード等)を選択するモード選択スイッチ42(運転モード選択部)が接続されており、これらの機器からの検出、作動及び操作情報が入力される。
【0022】
一方、ハイブリッドコントロールユニット20の出力側には、フロントインバータ10、リヤインバータ12、減速機7(クラッチ7a)、エンジンコントロールユニット22が接続されている。
そして、ハイブリッドコントロールユニット20は、アクセル開度センサ40、車速センサ41、モード選択スイッチ42等の上記各種検出量及び各種操作情報に基づいて、車両1の走行駆動に必要とする車両要求出力、駆動トルクを演算し、エンジンコントロールユニット22、フロントインバータ10、リヤインバータ12、減速機7に制御信号を送信して、走行モード((EVモード:電気自動車モード)、シリーズモード、パラレルモード)の切換え、エンジン2とフロントモータ4とリヤモータ6の出力、モータジェネレータ9の出力を制御する。
【0023】
EVモードでは、エンジン2を停止し、車載電池11から供給される電力によりフロントモータ4やリヤモータ6を駆動して車両1を走行させる。
シリーズモードでは、減速機7のクラッチ7aを切断し、エンジン2によりモータジェネレータ9を作動させる。そして、モータジェネレータ9により発電された電力及び車載電池11から供給される電力によりフロントモータ4やリヤモータ6を駆動して走行させる。また、シリーズモードでは、エンジン2の回転速度を所定の回転速度に設定し、余剰電力を車載電池11に供給して車載電池11を充電する。
【0024】
パラレルモードでは、減速機7のクラッチ7aを接続し、エンジン2から減速機7を介して機械的に動力を伝達して前輪3を駆動させる。また、エンジン2によりモータジェネレータ9を作動させて発電した電力及び車載電池11から供給される電力によってフロントモータ4やリヤモータ6を駆動して走行させる。
ハイブリッドコントロールユニット20は、高速領域のように、エンジン2の効率のよい領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、パラレルモードを除く領域、即ち中低速領域では、車両1の駆動トルク及び車載電池11の充電率SOCに基づいてEVモードとシリーズモードとの間で切換える。
【0025】
また、車両1には、車載電池11の入出力を制御する充放電コントロールユニット50が備えられている。充放電コントロールユニット50は、ハイブリッドECU20の制御信号に基づき、車載電池11からの電力の入出力を制御する機能を有している。詳しくは、充放電コントロールユニット50は、ハイブリッドECU20から入力した、車載電池11からの出力の上限値(以下、電池上限出力値という)を超えないように、車載電池11からの出力を規制する。
【0026】
図2は、本実施形態の電池出力制御システム51の構成を示すブロック図である。
本実施形態の電池出力制御システム51は、充放電コントロールユニット50と、ハイブリッドECU20に備えられた車両要求出力演算部52及び走行モード判定部53と、電池上限出力値設定部54と、を有している。
車両要求出力演算部52は、前述のようにアクセル開度や車速V等に基づいて車両要求出力を演算する。
【0027】
走行モード判定部53は、前述のようにアクセル開度や車速V等に基づいて車両の走行モードを判定する。
電池上限出力値設定部54は、ハイブリッドECU20の走行モード判定部53において、上記のようにアクセル操作量、車速V等に基づいて判定された走行モード(EVモード、シリーズモード、パラレルモード)を入力するとともに、車速センサ41から車速V、モニタリングユニット11aから車載電池11の温度(電池温度T)、及びモード選択スイッチ42からドライバ選択モード(運転モード)を入力する。
【0028】
なお、ドライバ選択モードは、車両1の運転席付近に設置されたモード選択スイッチ42によってドライバが操作することで選択される。ドライバ選択モードは、車両1の加速性能が異なる運転モードであり、例えばNORMALモード、POWERモードが選択可能である。POWERモードは燃費性能より加速性能重視の際に選択される。
電池上限出力値設定部54は、シリーズモードにおいて、車両要求出力演算部52によって演算された車両要求出力が抑制緩和閾値Pr(所定値)未満の低出力要求時(通常時)には電池上限出力値Pmaxを基準値P1に設定する。そして、車両1の要求出力が抑制緩和閾値Pr以上の高出力要求がされたときに、電池上限出力値Pmaxを基準値P1より高い値に設定し、所定時間(ta、またはta+tb)経過後に基準値P1に戻す出力抑制緩和制御を行う。
【0029】
この出力抑制緩和制御により、高出力要求時には車載電池11からの出力値が基準値P1より高い値に一時的に増加することが許可されるので、車両1の各モータ4、6への電力供給の増加が可能となり、車両1の加速性能を向上させることができる。そして、所定時間(ta、またはta+tb)経過後には電池上限出力値Pmaxが基準値P1に戻されることで、車載電池11からの出力増加が継続されることが回避され、車載電池11の温度上昇が抑制される。
【0030】
なお、シリーズモードにおいて出力抑制緩和制御が可能になるので、電池上限出力値Pmaxが変化して車載電池11からの出力値が制限されたとしても、モータジェネレータ9からも各モータ4、6へ電力が供給されて、走行に必要な電力が賄われる。したがって、電池上限出力値Pmaxを変化させても車両1の走行出力の変動は抑制される。
更に、本実施形態において電池上限出力値設定部54は、シリーズモードにおける出力抑制緩和制御開始時の車速V、電池温度T、ドライバ選択モードに基づいて、電池上限出力値Pmaxを変更する。
【0031】
以下に、図3図5を用いて、電池上限出力値設定部54における電池上限出力値Pmaxの設定例について説明する。
図3図4は、電池上限出力値Pmaxの設定例を示すグラフであり、出力抑制緩和制御における電池上限出力値Pmaxの設定値の推移を示すグラフである。図3は、電池温度Tが所定温度Ta未満の低温状態での電池上限出力値Pmaxを示し、実線が所定車速V2以上の高車速時、破線が所定車速V2未満の低車速時を示す。図4は、電池温度Tが所定温度Ta以上の高温状態での電池上限出力値Pmaxを示す。
【0032】
図3中の破線に示すように、車載電池11の出力が0等の低い状態から、例えばアクセルを踏んで抑制緩和閾値Pr以上の高出力要求がされ出力抑制緩和制御を開始すると、電池上限出力値Pmaxが増加するが、このときの電池温度Tが所定温度Ta未満の低温状態であり(T<Ta)、かつ車速Vが所定車速V2未満の低車速時(V<V2)には、電池上限出力値Pmaxを上記の基準値P1より高い値(例えばP5)に設定する。そして、電池上限出力値Pmaxがこの高い値に所定時間ta(例えば数sec)維持され、その後基準値P1に戻される。なお、この電池上限出力値Pmaxの設定値については、基準値P1より高い範囲で車速Vに応じて変更してもよい。
【0033】
また、出力抑制緩和制御の開始時に、電池温度Tが所定温度Ta未満の低温状態であり(T<Ta)、かつ車速Vが所定車速V2以上の高車速時(V≧V2)には、電池上限出力値Pmaxを基準値P1より高い値でかつ低車速時における設定値P5よりも低い値(例えば電池上限出力値P4)に設定して所定時間ta維持する。そして、所定時間ta経過後には基準値P1より高い設定値P2に低下させて所定時間tb維持し、その後基準値P1に低下させる。
【0034】
なお、所定時間ta、tbは、いずれも数sec程度であるが、所定時間tbは所定時間ta以上であり(tb≧ta)、高速状態で追い越し等のために加速する際に必要な時間に適宜設定すればよい。所定時間tbについては、後述の図5に示すように車速Vに応じて変更されるとよい。
一方、図4に示すように、電池温度Tが所定温度Ta以上の高温状態である場合(T≧Ta)には、車速Vに拘わらず、高出力要求開始直後に設定される電池上限出力値Pmaxを、低温状態における電池上限出力値P4、P5よりも低い設定値P3に設定し、所定時間ta維持する。所定時間ta経過後については、上記の低温低速状態と同様に、電池上限出力値Pmaxは基準値P1に設定される。
【0035】
即ち、シリーズモードにおいて電池温度Tが所定温度Ta未満の低温状態である場合(T<Ta)に、高出力要求開始(図3、4中のAos)直後に所定時間ta設定される電池上限出力値Pmaxは車速Vに応じて変更され、高車速時の電池上限出力値P4は、低車速時の電池上限出力値P5未満に低く抑えられる(P4<P5)。更に、所定時間ta経過後では、低車速時の電池上限出力値Pmaxは基準値P1に戻される1段切り換えであるが、高車速時では電池上限出力値Pmaxは基準値P1より高いP2に設定され(P1<P2)、所定時間tb維持された後に基準値P1に戻される2段切り換えがされる。したがって、高車速時においては、低車速時よりも電池上限出力値Pmaxが基準値P1より高い値に長時間設定される。
【0036】
また、シリーズモードにおいて電池温度Tが所定温度Ta以上の高温状態である場合(T≧Ta)には、低温低車速時と同様に1段切り換えがされ、高出力要求開始直後の電池上限出力値Pmaxについては低温状態での設定値P1、P4より低い設定値P3に設定される(P3<P1、P3<P4)。
図5は、車速V及びドライバ選択モードに応じた電池上限出力値Pmaxの設定例を示すグラフである。
【0037】
図5に示すように、車速Vを低速(V<V1)、中低速(V1≦V≦V2)、中高速(V2≦V≦V3)、高速(V3≦V)の4段階に区分けし、ドライバ選択モードがNORMALモード、POWERモードのいずれにおいても、高出力要求開始(Aos)直後に所定時間ta設定される電池上限出力値Pmaxが、車速域に応じて4段階に異なる値に設定される。高出力要求開始直後の電池上限出力値Pmaxは、車速Vが低い領域では車速Vの高い領域よりも高い値に設定される。また、ドライバ選択モードがPOWERモードである場合には、NORMALモードよりも高出力要求開始直後に設定される電池上限出力値Pmaxが高く設定される。
【0038】
更に、所定時間ta経過後に車速Vが所定車速V2以上で設定される電池上限出力値Pmaxの設定時間については、車速Vが中高車速時(V<V3)よりも高車速時(V≧V3)で長く設定される(中高車速時の所定時間tb1<高車速時の所定時間tb2)。
なお、いずれのドライバ選択モードにおいても、高出力要求開始から所定時間ta経過後に設定される電池上限出力値Pmaxは、車速Vが中高速と高速で同一の設定値P2に設定される。
【0039】
図6は、本実施形態の車両1における加速走行時でのアクセル開度、車速V、電池出力(電池上限出力値Pmax、実出力P)、発電機出力、電池高温シリーズ判定、走行モード判定の推移例を示すタイムチャートである。図6の左側の図は、電池温度Tが所定温度Ta~Tbの間の範囲である低温状態(Tb≦T<Ta)での推移例を示し、図6の右側の図は、電池温度Tが所定温度Ta以上である高温状態(T≧Ta)での推移例を示す。なお、所定温度Tbは所定温度Taより低い値であり(Tb<Ta)、電池温度Tが所定温度Tb未満の低温状態(T<Tb)では、車載電池11の性能が確保されない虞があるので、出力抑制緩和制御は実行されない。
【0040】
電池高温シリーズ判定は、電池温度Tが所定温度Tb以上においてシリーズ判定条件が成立した場合に1と判定される。シリーズ判定条件は、例えば車速Vがエンジン始動閾値Vs以上である(V≧Vs)。
図6の左側の図に示すように、電池温度Tが所定温度Ta~Tbの範囲である場合では、EVモードからアクセルを開操作することで電池出力が増加して車速Vが増加し、車速Vがエンジン始動閾値Vs以上になると、エンジン2が始動して、シリーズモードに遷移ずる(図6中<1>)。ここで、車両要求出力が抑制緩和閾値Pr以上である場合には、出力抑制緩和制御が行われ、電池上限出力値Pmaxを増加状態(=P5)として所定時間ta維持する。なお、出力抑制緩和制御開始時の車速VはV2未満の低速状態であるので、所定時間ta経過後には、電池上限出力値Pmaxが基準値P1に低下する。
【0041】
その後、アクセルを踏み増して、アクセル開度が抑制緩和判定閾値Orを超えた場合、即ち高出力要求時には、再び電池上限出力値Pmaxを増加させる出力抑制緩和制御が行わる(図6中<2>)。このとき、車速VはV3以上であるので、初期の電池上限出力値PmaxをP4に抑え、所定時間ta経過後には電池上限出力値Pmaxを基準値P1よりも高いP2に所定時間tb2設定する2段階の出力抑制緩和制御が行われる。
【0042】
その後、車速Vがパラレル遷移車速Vpを超えると、走行モードシリーズモードからパラレルモードに遷移する(図6中<3>)。
このように電池上限出力値Pmaxが変化し、これに伴い実電池出力も制限されるが、シリーズモードにおいては発電機からの出力が加えられて車両要求出力が満たされる。
一方、図6の右側の図に示すように、シリーズモードにおいて、電池温度Tが所定温度Ta以上の高温状態(T≧Ta)であって、車両要求出力が抑制緩和閾値Pr以上となり出力抑制緩和制御が行われた際には、車速Vに拘わらず、電池上限出力値Pmaxは低温状態である場合より低く設定されるとともに、低速状態と同様に所定時間ta経過後に基準値P1に1段で低下させる。
【0043】
以上のように、本実施形態の電池出力制御システム51を備えた車両1では、シリーズモードにおいて実行される出力抑制緩和制御によって、電池上限出力値Pmaxが基準値P1に設定されることで車載電池11の出力を抑えて車載電池11の温度上昇を抑制するとともに、高出力要求時には車載電池11からの出力値が基準値P1より高い値に一時的に増加することが許可されるので、車両1の加速性能を向上させることができる。
【0044】
そして、この出力抑制緩和制御において、高出力要求直後の電池上限出力値Pmaxが車速Vに基づいて変更されることで、低速走行時と高速走行時の夫々の加速要求時に適した車載電池11からの電力出力を可能にすることができる。
本実施形態では、出力緩和制御開始時の車速Vが4段階に区分けされ、車速Vが低くなるに伴って出力抑制緩和制御開始直後の電池上限出力値Pmaxが増加するので、低速状態から迅速に加速させることが可能になる。一方、高車速時においては低車速時よりも出力抑制緩和制御開始直後の電池上限出力値Pmaxが抑えられるので、電池上限出力値Pmaxを基準値P1よりも高く設定する時間を長く確保することができる。したがって、高車速時における加速を長時間可能にすることができる。
【0045】
一般的に低速状態からの加速は比較的短時間で終了する場合が多いので、電池温度の上昇や電池容量の低下を回避しつつ電池上限出力値Pmaxを比較的高く設定して加速性能を向上させることができる。一方、例えば高速道路の追い越し時のように、高車速状態からの加速は長時間必要とする場合が多いので、電池上限出力値Pmaxを基準値P1よりも高く、かつ低車速時よりも低い値に長時間設定することで電池温度Tの過度な上昇や電池容量の低下を回避しつつ長時間の加速を可能にする。車速Vを4段階に区分して、夫々異なる電池上限出力値Pmaxに設定するので、電池上限出力値を細かく段階的に変化させて、車載電池11の温度上昇を抑制しつつ車速Vに適した加速が可能になり、ドライバビリティを向上させることができる。
【0046】
また、例えば図3に示すように、高速状態(V≧V2)において電池温度Tが低温状態(T<Ta)である場合には、出力抑制緩和制御において、電池上限出力値Pmaxを基準値P1より高い値(P4)に設定してから所定時間ta経過後に、2段階で基準値P1に低下させる。このように、電池上限出力値Pmaxを段階的に基準値P1に低下させることで、車載電池11の温度上昇を抑制しつつ加速性能をより向上させることができる。また、電池温度Tが低温状態である時ほど電池上限出力値Pmaxを段階的に基準値P1に低下させる段階数を増加させるので、車載電池11の温度上昇を抑制した上で、加速性能を更に向上させることができる。
【0047】
更に、本実施形態では、出力抑制緩和制御において、モード選択スイッチ42において選択されたドライバ選択モード(例えばNORMALモードとPOWERモード)に基づいて電池上限出力値Pmaxを異なる値に設定している。これにより、車両1のドライバ選択モードに応じて出力抑制緩和制御における電池上限出力値Pmaxを適切に設定して適切な加速性能を得ることができる。詳しくは、NORMALモードに対して高い加速性能を要求されるPOWERモードにおいては、NORMALモードよりも電池上限出力値Pmaxを高く設定して、ドライバ選択モードに適した走行出力を得ることができる。
【0048】
以上で本発明の説明を終了するが、本発明は上記の実施形態に限定するものではない。
例えば、上記実施形態では、出力抑制緩和制御において初期に電池上限出力値Pmaxを上昇させる所定時間taを電池温度Tや車速Vに拘わらず一定の値に設定しているが、電池温度Tや車速Vに応じて変更してもよい。例えば、電池温度Tが低くなるに伴って所定時間taを増加させたり、車速Vが低くなるに伴って所定時間taを増加させたりすればよい。
【0049】
また、中高速又は高車速時において所定時間ta経過後に設定される電池上限出力値Pの設定値P2についても電池温度Tや車速Vに応じて変更してもよい。例えば、電池温度Tが低くなるに伴って設定値P2を増加させたり、車速Vが低くなるに伴って設定値P2を増加させたりすればよい。
また、上記実施形態の車両1は、四輪駆動のプラグインハイブリッド車であるが、二輪駆動車であってもよいし、プラグインタイプでないハイブリッド車でも本発明を適用可能である。本発明は、シリーズモードが可能なハイブリッド車に広く適用することができる。
【0050】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0051】
なお、本出願は、2021年1月26日出願の日本特許出願(特願2021-010299)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2 エンジン
4 フロントモータ(モータ)
6 リヤモータ(モータ)
9 モータジェネレータ(発電機)
11 車載電池
11a モニタリングユニット(電池温度検出部)
20 ハイブリッドコントロールユニット
41 車速センサ(車速検出部)
42 モード選択スイッチ(運転モード選択部)
50 充放電コントロールユニット
51 電池出力制御システム(制御装置)
52 車両要求出力演算部
53 走行モード判定部
54 電池上限出力値設定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6