(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】絞りしごき缶の製造方法及び絞りしごき缶
(51)【国際特許分類】
B21D 22/28 20060101AFI20230301BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230301BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20230301BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230301BHJP
B05D 7/22 20060101ALI20230301BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230301BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20230301BHJP
B21D 51/18 20060101ALI20230301BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20230301BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230301BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230301BHJP
B32B 38/12 20060101ALI20230301BHJP
B65D 25/14 20060101ALI20230301BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B21D22/28 L
B05D3/00 D
B05D3/12 C
B05D7/14 F
B05D7/22 R
B05D7/24 302V
B21D22/20 E
B21D22/28 B
B21D51/18 A
B21D51/18 G
B21D51/26 X
B32B15/08 G
B32B27/36
B32B38/12
B65D25/14 A
C09D167/00
(21)【出願番号】P 2022548037
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2022002425
(87)【国際公開番号】W WO2022158593
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021009723
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021126955
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏美
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 新
(72)【発明者】
【氏名】張 楠
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-012904(JP,A)
【文献】特開2019-131275(JP,A)
【文献】特開2003-034322(JP,A)
【文献】特開2015-089643(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 51/18
B21D 51/26
B21D 22/20
B21D 22/28
B32B 15/08
B32B 38/12
B32B 27/36
B05D 7/22 ー 7/24
B05D 7/14
B05D 3/12
C09D 167/00
B65D 1/00
B65D 1/16
B65D 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも缶内面となる面に内面塗膜を有する塗装金属板を絞りしごき加工して成る絞りしごき缶の製造方法において、
前記内面塗膜がポリエステル樹脂を含有し、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、
前記絞りしごき加工におけるしごき率が40%以上であり、
前記絞りしごき加工におけるしごき加工時の加工速度が2000mm/sec以上であることを特徴とする絞りしごき缶の製造方法。
【請求項2】
前記内面塗膜のガラス転移温度が55℃以上である請求項1記載の絞りしごき缶の製造方法。
【請求項3】
前記内面塗膜がさらに硬化剤を含有し、前記硬化剤が、レゾール型フェノール樹脂及び/又はアミノ樹脂である請求項1又は2に記載の絞りしごき缶の製造方法。
【請求項4】
前記塗装金属板が、缶外面となる面にさらに外面塗膜を有し、前記外面塗膜がポリエステル樹脂を含有する請求項1~3の何れかに記載の絞りしごき缶の製造方法。
【請求項5】
前記絞りしごき缶の前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の絞りしごき缶の製造方法。
【請求項6】
前記絞りしごき加工後に、55℃以上の温度で熱処理を施すことを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の絞りしごき缶の製造方法。
【請求項7】
少なくとも缶内面側に内面塗膜を有する絞りしごき缶において、前記内面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂を含有し、前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、且つ前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であり、
缶胴中央部の前記内面塗膜の下記式で表される熱収縮率が30%以下であることを特徴とする絞りしごき缶。
熱収縮率(%)=(ΔL1/L0)×100
L
0:缶胴中央部から単離した塗膜の高さ方向の初期長さ
ΔL
1:単位面積当たり5.20×10
5N/m
2の荷重をかけながら昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL
0該当部分の塗膜の高さ方向における最大収縮長さ
【請求項8】
少なくとも缶内面側に内面塗膜を有する絞りしごき缶において、前記内面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂を含有し、前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、且つ前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であり、
缶底部における前記内面塗膜の60℃の試験条件における伸び率が200%未満であることを特徴とする絞りしごき缶。
【請求項9】
少なくとも缶内面側に内面塗膜を有する絞りしごき缶において、前記内面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂を含有し、前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、且つ前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であり、
缶胴中央部の前記内面塗膜の下記式で表される熱収縮率が50%以下であることを特徴とする絞りしごき缶。
熱収縮率(%)=(ΔL
2/L
0)×100
L
0:缶胴中央部から単離した塗膜の高さ方向の初期長さ
ΔL
2:無荷重状態で昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL
0該当部分の塗膜の高さ方向における最大収縮長さ
【請求項10】
前記内面塗膜がさらに硬化剤を含有し、前記硬化剤が、レゾール型フェノール樹脂及び/又はアミノ樹脂である請求項
7~
9の何れかに記載の絞りしごき缶。
【請求項11】
缶外面側にさらに外面塗膜を有し、前記外面塗膜がポリエステル樹脂を含有する請求項7~
10の何れかに記載の絞りしごき缶。
【請求項12】
缶胴中央部の厚みが、缶底中央部の厚みの60%以下の厚みである請求項7~
11の何れかに記載の絞りしごき缶。
【請求項13】
缶胴中央部における前記内面塗膜の厚みが、缶底中央部の前記内面塗膜の厚みの60%以下の厚みである請求項7~
12の何れかに記載の絞りしごき缶。
【請求項14】
前記内面塗膜と金属基体の厚み比(前記内面塗膜の厚み/金属基体の厚み)が、缶底部及び缶胴部でほぼ同じである請求項7~
13の何れかに記載の絞りしごき缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属板を用いた絞りしごき缶の製造方法及びこの製造方法により得られる絞りしごき缶に関し、より詳細には、金属露出や塗膜剥離を生じることなく、耐フレーバー収着性に優れた絞りしごき缶を生産性良く成形可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の金属板を熱可塑性樹脂から構成されたプラスチックフィルム(熱可塑性樹脂フィルム)で被覆した有機樹脂被覆金属板(熱可塑性樹脂被覆金属板)は、缶用材料として古くから知られており、この有機樹脂被覆金属板を絞り加工或いは絞りしごき加工等に付して、飲料等を充填するためのシームレス缶とし、或いはこれをプレス成形してイージーオープンエンド等の缶蓋とすることもよく知られている。例えば、エチレンテレフタレート単位を主体とした結晶性の熱可塑性ポリエステル樹脂から成る熱可塑性樹脂フィルムを有機樹脂被覆層として有する有機樹脂被覆金属板は、絞りしごき加工により成形されるシームレス缶(絞りしごき缶)用の製缶材料として使用されている(特許文献1等)。このような有機樹脂被覆金属板は、クーラント(冷却・潤滑剤)を使用しないドライ条件下で絞りしごき成形を行うことができるため、従来の金属板からクーラントを使用して絞りしごき成形する場合に比して、環境面で利点がある。
【0003】
このような有機樹脂被覆金属板は、熱可塑性ポリエステル樹脂等から成る、予め形成されたプラスチックフィルムを金属板に熱接着により貼り合せる方法、押出された熱可塑性ポリエステル樹脂等の溶融薄膜を金属板に貼り合せる押出しラミネート法等のフィルムラミネート方式により製造されている。
しかしながら、フィルムラミネート方式は、成膜の都合上、フィルム膜厚を薄膜に制御することが困難であるため、フィルムの厚みが厚くなりやすく、経済性の面で問題となる場合がある。
【0004】
このようなフィルムラミネート方式による有機樹脂被覆金属板に代えて、薄膜での成膜が可能な塗装方式により、金属板の両面に塗料組成物から成るポリエステル系塗膜を形成した塗装金属板から、ドライ条件下で絞りしごき缶を製造することも提案されている。
例えば下記特許文献2には、両面塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる皮膜の乾燥塗布量が90~400mg/100cm2、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上、伸び率200~600%及び動摩擦係数0.03~0.25の範囲内にあるものであり、加工後に缶外面側となる皮膜の乾燥塗布量が15~150mg/100cm2、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上である絞りしごき缶用塗装金属板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-246695号公報
【文献】特許第3872998号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の両面にポリエステル系塗膜が形成された塗装金属板から成る絞りしごき缶において、内容物に接する内面側に形成されるポリエステル系内面塗膜には、製缶加工性等以外にも内容物の風味やフレーバーを損なうことがないこと、すなわち、塗料成分等の溶出が抑制されていると共に、内容物が有するフレーバー(香気)成分を収着しないこと(耐フレーバー収着性)が要求される場合がある。耐フレーバー収着性に優れた塗膜を形成するためには、主成分としてガラス転移温度の高いポリエステル樹脂を用いることが好ましいが、ガラス転移温度の高いポリエステル樹脂から成る塗膜は製缶加工性に劣る傾向にあり、成形条件によっては加工時に塗膜欠陥が生じることで金属が露出し、その結果、缶内面の塗膜被覆性が低くなるおそれがある。
また塗装金属板からドライ条件下で成形された絞りしごき缶においては、缶体成形後に、加工により生じた塗膜の残留応力の除去を目的とした熱処理を施す際に、過酷な加工により生じた塗膜の残留応力が緩和されるに伴い、塗膜と金属基体界面に収縮力が作用し、特に缶胴部の加工が厳しく薄肉化されている部位において、塗膜剥離が発生する場合がある。上述したようなガラス転移温度の高いポリエステル樹脂から成る塗膜は、加工後の残留応力が大きくなる傾向があり、その場合上述した収縮力も大きくなるため、熱処理時に塗膜剥離が起こりやすく、缶内面の塗膜被覆性がさらに低下するおそれがある。
【0007】
上述した特許文献2においては、塗装金属板の缶内面側となる面に、連続での絞りしごき加工による60℃近い発熱が発生した際にも、硬度や伸び率等を維持できるポリエステル系塗膜を形成させることにより、絞りしごき加工にも耐え得る塗装金属板及びこの塗装金属板から成形される絞りしごき缶を提案しているが、良好な耐フレーバー収着性を維持しつつ、成形時の塗膜欠陥の発生や成形加工後の熱処理に起因する塗膜剥離を防止するための知見は一切なく、これらの問題を解決するものではなかった。
【0008】
従って本発明の目的は、良好な耐フレーバー収着性を維持するため、ガラス転移温度の高いポリエステル樹脂から成る塗膜を有する塗装金属板を用いた場合にも、成形時の塗膜欠陥の発生や成形後の熱処理による塗膜剥離の発生を抑制することができ、耐フレーバー収着性に優れると共に、金属露出部が少ない塗膜被覆性及び耐食性に優れた絞りしごき缶を生産性良く製造する方法を提供することである。
また本発明の他の目的は、耐フレーバー収着性を維持しつつ、金属露出部が少ない塗膜被覆性及び耐食性に優れた絞りしごき缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、少なくとも缶内面となる面に内面塗膜を有する塗装金属板を絞りしごき加工して成る絞りしごき缶の製造方法において、前記内面塗膜がポリエステル樹脂を含有し、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、前記絞りしごき加工におけるしごき率が40%以上であり、前記絞りしごき加工におけるしごき加工時の加工速度が2000mm/sec以上であることを特徴とする絞りしごき缶の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の絞りしごき缶の製造方法においては、
1.前記内面塗膜のガラス転移温度が55℃以上であること、
2.前記内面塗膜がさらに硬化剤を含有し、前記硬化剤が、レゾール型フェノール樹脂及び/又はアミノ樹脂であること、
3.前記塗装金属板が、缶外面となる面にさらに外面塗膜を有し、前記外面塗膜がポリエステル樹脂を含有すること、
4.前記絞りしごき缶の前記内面被覆の被覆度が、ERV換算で200mA以下であること、
5.前記絞りしごき加工後に、55℃以上の温度で熱処理を施すこと、
が好適である。
【0011】
本発明によればまた、少なくとも缶内面側に内面塗膜を有する絞りしごき缶において、前記内面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂を含有し、前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、且つ前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であり、缶胴中央部の前記内面塗膜の下記式(1)で表される熱収縮率が30%以下であることを特徴とする絞りしごき缶が提供される。
熱収縮率(%)=(ΔL1/L0)×100 ・・・(1)
L0:缶胴中央部から単離した塗膜の高さ方向の初期長さ
ΔL1:単位面積当たり5.20×105N/m2の荷重をかけながら昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL0該当部分の塗膜の高さ方向における最大収縮長さ
本発明によれば更にまた、少なくとも缶内面側に内面塗膜を有する絞りしごき缶において、前記内面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂を含有し、前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、且つ前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であり、缶底部における前記内面塗膜の60℃の試験条件における伸び率が200%未満であることを特徴とする絞りしごき缶が提供される。
本発明によれば更に、少なくとも缶内面側に内面塗膜を有する絞りしごき缶において、前記内面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂を含有し、前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、且つ前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であり、
缶胴中央部の前記内面塗膜の下記式で表される熱収縮率が50%以下であることを特徴とする絞りしごき缶が提供される。
熱収縮率(%)=(ΔL2/L0)×100
L0:缶胴中央部から単離した塗膜の高さ方向の初期長さ
ΔL2:無荷重状態で昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL0該当部分の塗膜の高さ方向における最大収縮長さ
【0012】
本発明の絞りしごき缶においては、
1.前記内面塗膜がさらに硬化剤を含有し、前記硬化剤が、レゾール型フェノール樹脂及び/又はアミノ樹脂であること、
2.缶外面側にさらに外面塗膜を有し、前記外面塗膜がポリエステル樹脂を含有すること、
3.缶胴中央部の厚みが、缶底中央部の厚みの60%以下の厚みであること、
4.缶胴中央部における前記内面塗膜の厚みが、缶底中央部の前記内面塗膜の厚みの60%以下の厚みであること、
5.前記内面塗膜と金属基体の厚み比(前記内面塗膜の厚み/金属基体の厚み)が、缶底部及び缶胴部でほぼ同じであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
上述の塗装金属板から成る絞りしごき缶において、十分な耐フレーバー収着性を確保するためには、内面塗膜に主成分として含有されるポリエステル樹脂として、ガラス転移温度が高いものを用いることが望ましいが、ガラス転移温度が高いポリエステル樹脂を用いた場合、塗膜の伸び性、製缶加工性が低下する傾向にあるため、ドライ条件下で絞りしごき缶を成形する場合、加工時に塗膜欠陥が生じやすく、金属露出部が発生し、内面の塗膜被覆性が低下するおそれがある。
本発明者等は、内面塗膜に主成分として含有されるポリエステル樹脂のガラス転移温度が高い場合でも、絞りしごき加工における成形速度(加工速度)を2000mm/sec以上とすることにより、内面の塗膜被覆性を低下させることなく、絞りしごき缶を効率よく製造することができることを見出した。
すなわち、本発明の製造方法により得られる絞りしごき缶においては、絞りしごき加工を施す塗装金属板の内面塗膜に含有されるポリエステル樹脂のガラス転移温度が55℃以上と高いことから、耐フレーバー収着性に優れている。また、高速で加工を行うことにより加工発熱が大きくなり、塗膜が軟化することで塗膜の伸び性、製缶加工性が顕著に向上するため、ガラス転移温度が高いポリエステル樹脂を用いた場合でも、成形時の塗膜欠陥、金属露出が防止されて缶内面の塗膜被覆性を向上させることができる。更に、加工発熱が大きくなることで、加工後の塗膜の残留応力を小さくすることができるため、前述したような熱処理時の塗膜剥離の発生も有効に抑制される。その結果、得られる絞りしごき缶は、金属露出が有効に防止され、熱処理後においてもERV換算で表す内面塗膜の被覆度を200mA以下とすることができ、優れた耐食性を発現することが可能となる。
【0014】
本発明の絞りしごき缶の製造方法により得られた絞りしごき缶が、優れた耐フレーバー収着性を有すると共に、内面の塗膜被覆性に優れていることは後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわち、ガラス転移温度が55℃以上のポリエステル樹脂から成る内面塗膜を有する塗装金属板を用い、2000mm/sec以上の成形速度で絞りしごき加工を行った絞りしごき缶においては、内面塗膜の被覆度はERV換算で200mA以下と満足する被覆性を有すると共に、リモネン2ppm含有モデル液と共に、30℃14日間の条件下でデュラン壜に密閉保管した後の塗膜(2.5×5cm2)のリモネン収着率が5%未満である(実施例1~9)。これに対して、1000mm/secの成形速度で成形した以外は、実施例と同様に絞りしごき加工することにより成形された絞りしごき缶においては、リモネン収着率は5%未満であるとしても、内面塗膜の被覆度はERV換算で200mAより高く、満足する内面の塗膜被覆性が得られていないことからも明らかである(比較例1~3)。
【0015】
また本発明の絞りしごき缶の製造方法においては、ドライ条件下での絞り加工やしごき加工のような過酷な加工に付された場合にも、缶胴部での破断(本発明で破胴ということがある)が生じてしまうことはもちろん、金属露出が有効に防止されるため、優れた製缶加工性を有していると共に、熱処理時の塗膜剥離を有効に抑制することが可能となり、熱処理後においても金属露出を有効に防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(塗装金属板)
本発明の絞りしごき缶の製造方法に用いる塗装金属板は、金属板に塗料組成物が塗装されたものであり、少なくとも絞りしごき加工後に缶内面となる面に内面塗膜を有する塗装金属板であり、前記内面塗膜が、主成分としてガラス転移温度が55℃以上のポリエステル樹脂を含有することが特徴であり、更に硬化剤を含有することが望ましい。
前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)としては、55℃以上、好ましくは55~120℃、より好ましくは60~110℃、更に好ましくは65~100℃、特に好ましくは65℃より高く95℃以下、最も好ましくは67~90℃の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもTgが低い場合には、成形後の缶体に内容物を充填した際に、内容物のフレーバー成分を収着しやすくなり、耐フレーバー収着性が劣るおそれがあると共に、塗膜のバリア性が低下し、耐食性が劣るようになるおそれがある。一方Tgが120℃を超える場合は、塗膜の伸び性が低下し、成形により金属露出が発生するおそれがあり、製缶加工性に劣るようになると共に、塗膜の残留応力が大きくなることで、熱処理時に塗膜剥離するおそれがあり、内面の塗膜被覆性が劣るようになる。
【0017】
また、本発明の絞りしごき缶の製造方法に用いる塗装金属板は、さらに絞りしごき加工後に缶外面側となる面にも外面塗膜を有する両面塗装金属板であることが望ましく、この外面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂、好ましくは更に硬化剤を含有することがより望ましい。
上記外面塗膜のTgについては30℃以上、好ましくは40℃より高い、より好ましくは50℃より高く120℃以下、更に好ましくは55~110℃、特に好ましくは65~100℃以下、最も好ましくは67~90℃の範囲にあることが好適である。上記範囲よりもTgが低い場合には、塗膜の硬度が低くなることで、塗膜削れなどの外面不良が発生するおそれがある。一方Tgが120℃を超える場合は、塗膜の加工性及び伸び性が低下し、成形により金属露出が発生するおそれがあり、製缶加工性に劣るようになる。
【0018】
上述のような少なくとも缶内面となる面に内面塗膜を有する塗装金属板を用いて絞りしごき缶を成形することで、缶内面側の底部から胴部にかけて連続した前記内面塗膜で全体を被覆することが可能となる。
さらに、絞りしごき加工後に缶外面となる面にも外面塗膜を有する両面塗装金属板を用いた場合には、缶外面側の底部から胴部にかけても連続した前記外面塗膜で全体を被覆することが可能となる。
【0019】
また内面塗膜の60℃試験条件下における伸び率は200%未満であることが好適である。すなわち、前述した通り、本発明の絞りしごき缶の製造方法においては、加工速度が2000mm/sec以上と高速でしごき加工を行うことから、加工発熱が大きくなり、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を超える高温状態になることで塗膜の製缶加工性(伸び性)が向上する。そのため、内面塗膜の60℃試験条件下での伸び率が200%未満であっても、満足する製缶加工性が得られると共に、良好な耐フレーバー収着性が得られる。その一方、60℃試験条件下での伸び率が200%以上の場合には、耐フレーバー収着性が劣るようになる。
【0020】
また上記内面塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で0.2~20μm、好ましくは1~12μm、より好ましくは2μmより大きく12μm以下の範囲にあることが好適である。また乾燥塗膜質量としては、3~300mg/dm2、好ましくは15~150mg/dm2、より好ましくは25mg/dm2より大きく150mg/dm2以下の範囲にあることが好適である。上記範囲よりも薄膜の場合は、成形時に金属露出が発生しやすくなり、内面塗膜の被覆性に劣るようになる。一方上記範囲よりも厚膜の場合は、加工時に生じる残留応力が大きくなるため、絞りしごき成形後の熱処理時に塗膜剥離が生じやすくなると共に、必要以上に厚膜となるため経済性に劣る。
さらに絞りしごき缶に充填される内容物が、腐食性が強い酸性飲料の場合は、耐食性を確保するために膜厚を比較的厚くする必要があり、6μmより大きく12μm以下、好ましくは6.5~10μmの範囲にあることが好適である。また乾燥塗膜質量としては、85mg/dm2より大きく150mg/dm2以下、好ましくは90~140mg/dm2の範囲であることが好適である。上記範囲よりも薄膜の場合は耐食性に劣り、上記範囲を超えた場合には絞りしごき成形後の熱処理時に塗膜剥離が生じやすくなる。
一方絞りしごき缶に充填される内容物が、腐食性が比較的弱い低酸性飲料等の場合は、比較的薄膜でも耐食性を確保できるため、1μm以上6.5μm未満、好ましくは2μmより大きく6.5μm未満、より好ましくは2.5~6μmの範囲であることが好ましい。また乾燥塗膜質量としては、15mg/dm2以上90mg/dm2未満、好ましくは25mg/dm2より大きく90mg/dm2未満、より好ましくは30~85mg/dm2の範囲であることが好適である。上記範囲よりも薄膜の場合は耐食性に劣り、上記範囲を超えた場合には必要以上に厚膜となり、経済性に劣る。
【0021】
また上記外面塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で0.2~20μm、好ましくは1~12μm、より好ましくは2μmより大きく10μm以下、更に好ましくは2μmより大きく6.5μm以下の範囲にあることが好適である。また乾燥塗膜質量としては、3~300mg/dm2、好ましくは15~150mg/dm2、より好ましくは25mg/dm2より大きく140mg/dm2以下、更に好ましくは25mg/dm2より大きく90mg/dm2未満の範囲であることが好適である。上記範囲よりも薄膜の場合は、成形時に金属露出が発生しやすくなり、外面の塗膜被覆性に劣るようになる。一方上記範囲よりも厚膜の場合は、加工時に生じる残留応力が大きくなるため、絞りしごき成形後の熱処理時に塗膜剥離が生じやすくなる。
なお、塗装金属板の内面塗膜と外面塗膜の膜厚に関して、より高い被覆性が求められる内面塗膜の方が、外面塗膜よりも膜厚が厚くなることが好ましい。
【0022】
塗装金属板における前記内面塗膜中において、ポリエステル樹脂、好ましくは後述の非結晶性ポリエステル樹脂の含有量が50質量%より高いことが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
前記外面塗膜中においても同様に、ポリエステル樹脂、好ましくは非結晶性ポリエステル樹脂の含有量が50質量%より高いことが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0023】
[ポリエステル樹脂]
本発明の絞りしごき缶の製造方法に用いる塗装金属板においては、内面塗膜及び外面塗膜を構成する主成分としてポリエステル樹脂を用いるが、ここで主成分とは、塗膜を構成する成分の中で最も含有量(質量比率)が多いものとする。なお、本発明においては、上記内面塗膜及び外面塗膜を構成する樹脂成分のうち、ポリエステル樹脂の占める質量割合が50質量%より高いことが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
内面塗膜に主成分として含有されるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は55℃以上、好ましくは55~120℃、より好ましくは60~110℃、更に好ましくは65~100℃、特に好ましくは65℃より高く95℃以下、最も好ましくは67~90℃の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもTgが低くなると、上記したような絞りしごき缶に内容物を充填した際、内容物中の水分が一種の可塑剤として働くことも相俟って、ポリエステル樹脂の分子鎖の運動性が高くなり、その結果、内容物に含まれるフレーバー成分が塗膜内部に拡散しやすくなることで収着量が増加し、耐フレーバー収着性が劣るようになる。さらに塗膜の耐水性が低下することで耐食性や耐レトルト性も劣るようになるおそれがある。一方、Tgが120℃を超える場合は、塗膜の伸び性が低下し、成形により金属露出が発生するおそれがあり、製缶加工性に劣るようになると共に、成形後の塗膜の残留応力が大きくなるため、熱処理時に塗膜剥離するおそれがあり、内面の塗膜被覆性が劣るようになる。
外面塗膜に主成分として含有されるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は30℃以上、好ましくは40℃より高い、より好ましくは50℃より高く120℃以下、更に好ましくは55~110℃、特に好ましくは65~100℃、最も好ましくは67~90℃の範囲にあることが好適である。上記範囲よりもTgが低い場合には、塗膜の硬度が低くなることで、塗膜削れなどの外面不良が発生するおそれがある。一方Tgが120℃を超える場合は、塗膜の伸び性が低下することで製缶加工性が劣るようになり、成形により金属露出が発生するおそれがある。
【0024】
本発明においては、Tgの異なる2種以上のポリエステル樹脂をブレンドして用いることもでき、Tgの異なるポリエステル樹脂をブレンドすることで、ポリエステル樹脂1種のみを使用した場合に比べ、耐衝撃性に優れ、外部から衝撃を受けても塗膜欠陥のできにくい塗膜を形成できる場合がある。
その場合においても、下記式(2)により算出されるポリエステル樹脂ブレンドのTgmixが上記のTg範囲にあれば良い。
1/Tgmix=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wm/Tgm)・・・(2)
W1+W2+…+Wm=1
式中、Tgmixはポリエステル樹脂ブレンドのガラス転移温度(K)を表わし、Tg1,Tg2,…,Tgmは使用する各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)単体のガラス転移温度(K)を表わす。また、W1,W2,…,Wmは各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)の質量分率を表わす。
【0025】
ガラス転移温度の測定方法としては公知の方法を適用することが可能であり、たとえば示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で行うことが可能である。
【0026】
ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン-マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸等の3価以上の多価カルボン酸等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選択し使用できる。上記多価カルボン酸の中でも、イソフタル酸、オルトフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、ダイマー酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸からなる群より選ばれた1種以上を用いることが好適である。
【0027】
本発明においては、得られる塗膜の硬度や耐熱性、耐フレーバー収着性、耐レトルト性等の観点からポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分の合計量を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸やオルトフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸の中から選ばれる少なくとも1種、又は2種以上を併せて70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上の量で含有することが好ましい。さらに、上記芳香族ジカルボン酸の中でも特にテレフタル酸及びイソフタル酸が好ましく、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分の合計量を100モル%としたとき、テレフタル酸及びイソフタル酸の合計の含有量が70モル%以上であることが好ましく、好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であることが好ましい。ポリエステル樹脂として、2種以上のポリエステル樹脂のブレンド体を用いる場合においては、ポリエステル樹脂のブレンド体を構成する全ての多価カルボン酸成分の合計量を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸やオルトフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸の中から選ばれる少なくとも1種、又は2種以上を併せて70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上の量で含有することが好ましい。また、ポリエステル樹脂のブレンド体を構成する全ての多価カルボン酸成分の合計量を100モル%としたとき、テレフタル酸及びイソフタル酸の合計の含有量が70モル%以上であることが好ましく、好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であることがより好ましい。
【0028】
なお、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸以外の成分、例えばアジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等を、上記芳香族ジカルボン酸の残余の割合、すなわち30モル%未満の量で含有しても良いが、脂肪族ジカルボン酸成分等の芳香族ジカルボン酸以外の成分の割合が多くなると、塗膜の耐フレーバー収着性が劣るようになると推察される。従って、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分に占める、脂肪族ジカルボン酸成分等の芳香族ジカルボン酸以外の成分の割合は30モル%未満、好ましくは20モル%未満、より好ましくは10モル%未満、特に好ましくは5モル%未満であることが望ましい。ポリエステル樹脂として、2種以上のポリエステル樹脂のブレンド体を用いる場合においては、ポリエステル樹脂のブレンド体を構成する全ての多価カルボン酸成分の合計量を100モル%としたとき、脂肪族ジカルボン酸成分等の芳香族ジカルボン酸以外の成分の割合は30モル%未満、好ましくは20モル%未満、より好ましくは10モル%未満、特に好ましくは5モル%未満であることが望ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、特に限定はなく、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、などの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、などの脂環族ポリアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、などの3価以上のポリアルコール等から1種、または2種以上の組合せで使用することができる。本発明においては、上記の多価アルコール成分の中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールを、ポリエステル樹脂を構成する成分として好適に用いることができる。
【0030】
特に、ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分の合計量を100モル%としたとき、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオールの中から選ばれる少なくとも1種、又は2種以上を併せて20モル%以上、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましく50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上、最も好ましくは70モル%以上の量で含有することが耐フレーバー収着性の観点から好適である。ポリエステル樹脂として、2種以上のポリエステル樹脂のブレンド体を用いる場合においても、ポリエステル樹脂のブレンド体を構成する全ての多価アルコール成分のトータルに占める、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオールの中から選ばれる少なくとも1種、又は2種以上を併せて20モル%以上、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましく50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上、最も好ましくは70モル%以上の量で含有することが耐フレーバー収着性の観点から好適である。
【0031】
ポリエステル樹脂は、上記の多価カルボン酸成分の1種類以上と多価アルコール成分の1種類以上とを重縮合させることや、重縮合後に多価カルボン酸成分、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等で解重合する方法、また、重縮合後に酸無水物、例えば 無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等を開環付加させること等、公知の方法によって製造することができる。
ポリエステル樹脂は、硬化性及び耐レトルト白化性、金属基体との密着性等の観点から、酸価が0.1~40mgKOH/g、好ましくは酸価が0.5~25mgKOH/g、より好ましくは1~10mgKOH/g、更に好ましくは2mgKOH/gより高く10mgKOH/g以下、特に好ましくは2.5~8mgKOH/g、最も好ましくは3~7mgKOH/gの範囲にあることが望ましい。上記範囲よりも酸価が低い場合には、金属基体と塗膜の密着性が低下するおそれがある。一方、上記範囲よりも酸価が高い場合には、上記範囲にある場合に比して塗膜が吸水しやすくなり、耐レトルト白化性が低化するおそれがあると共に、塗膜の架橋密度が高くなり、製缶加工性や熱処理時の塗膜剥離耐性が低下し、塗膜被覆性が劣るようになるおそれがある。
なお、ポリエステル樹脂が2種類以上のポリエステル樹脂をブレンドしたブレンド体である場合においては、各々のポリエステル樹脂の酸価と質量分率を乗じて得られた値の総和を、ブレンド体の平均酸価(AVmix)とし、その平均酸価が上述した酸価範囲内にあれば良い。
【0032】
ポリエステル樹脂の水酸基価については、これに限定されるものではないが、製缶加工性、熱処理時の塗膜剥離、耐レトルト白化性等の観点から20mgKOH/g以下、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは1~10mgKOH/g、更に好ましくは2~10mgKOH/gの範囲にあることが望ましい。
ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、これに限定されるものではないが、製缶加工性の観点から1,000~100,000、好ましくは3,000~50,000、より好ましくは5,000~30,000、更に好ましくは10,000~20,000の範囲であることが好適である。上記範囲よりも小さいと塗膜が脆くなり、製缶加工性に劣る場合があり、上記範囲よりも大きいと塗料安定性が低下するおそれがある。
【0033】
またポリエステル樹脂としては、製缶加工性や耐デント性、塗料化の観点から非結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。ここで非結晶性とは、示査走査型熱量計(DSC)による測定において、明確な結晶成分の融点を示さないことを意味する。非結晶性ポリエステル樹脂の場合、結晶性のポリエステル樹脂に比して、溶剤への溶解性に優れ、塗料化が容易であると共に、製缶加工性や耐デント性に優れた塗膜を形成できる。なお、本発明においては、上記内面塗膜及び/又は外面塗膜に含有される全てのポリエステル樹脂成分のうち、非結晶性ポリエステル樹脂が占める質量割合が40質量%より高いことが好ましく、50質量%より高いことがより好ましく、60質量%以上が更に好ましく、70質量%以上が特に好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。
【0034】
[硬化剤]
本発明の絞りしごき缶の製造方法に用いる塗装金属板の内面塗膜及び外面塗膜は、上述のポリエステル樹脂の他、更に硬化剤を含有することが望ましい。硬化剤が、主成分であるポリエステル樹脂の官能基、例えばカルボキシル基や水酸基と反応し架橋構造を形成することで、塗膜の耐熱性や耐レトルト白化性等を顕著に向上させることができる。特に、絞りしごき缶に充填される内容物が、充填後にレトルト処理が必要な内容物の場合は、内面塗膜及び外面塗膜には、硬化剤を含有することが望ましい。
このような硬化剤としては、イソシアネート化合物、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物などを挙げることができる。特に硬化性や衛生性等の観点から、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂が好適である。
【0035】
本発明の塗装金属板及び絞りしごき缶においては、内面塗膜を形成する塗料組成物(以下、「内面用塗料組成物」ということがある)には、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂が好適であり、特に製缶加工性の観点からレゾール型フェノール樹脂を好適に使用することができる。外面塗膜を形成する塗料組成物(以下、「外面用塗料組成物」ということがある)には、硬化剤由来の着色がなく透明な塗膜を形成可能なアミノ樹脂を好適に使用することができる。一方、前述のレゾール型フェノール樹脂は、形成される塗膜が黄色くなることから、外面塗膜を形成する塗料組成物に使用する場合は注意が必要である。
【0036】
(レゾール型フェノール樹脂)
レゾール型フェノール樹脂としては、例えばo-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、フェノール、m-クレゾール、m-エチルフェノール、3,5-キシレノール、m-メトキシフェノール等のフェノール化合物の1種または2種以上を混合して使用し、これらフェノール化合物とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させて成るレゾール型フェノール樹脂を使用することができる。
【0037】
硬化性の観点から、上記フェノール化合物の中でも、ホルムアルデヒドとの反応で3官能となるフェノール化合物を出発原料として20質量%超、好ましくは30質量%超、より好ましくは50質量%超、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上含有するレゾール型フェノール樹脂が好ましい。ホルマリン類との反応で3官能となるフェノール化合物としてはフェノール、m-クレゾール、m-エチルフェノール、3,5-キシレノール、m-メトキシフェノールが挙げられ、これらの中から1種、または2種以上を選択し使用できる。これら3官能のフェノール化合物が20質量%以下だと硬化性が十分に得られず、塗膜の硬化度が低下するおそれがある。これら3官能となるフェノール化合物の中でも、硬化性の面からm-クレゾールがより好ましく、m-クレゾールを出発原料の主成分として含有するレゾール型フェノール樹脂(以下、「m-クレゾール系レゾール型フェノール樹脂」ということがある)が特に好ましい。それにより、十分な塗膜の硬化度を得ることができ、塗膜の耐熱性、耐食性、耐レトルト白化性等の観点から望ましい。尚、ここで主成分とは、出発原料となるフェノール化合物の中で最も含有量(質量比率)が多いものとする。m-クレゾール系レゾール型フェノール樹脂としては、m-クレゾールを出発原料として50質量%超、好ましくは60質量%超、より好ましくは70質量%超、更に好ましくは80質量%以上含有するものが望ましい。
【0038】
上述の3官能となるフェノール化合物の他、ホルムアルデヒドとの反応で2官能となるフェノール化合物を出発原料として使用する場合の含有量は50質量%未満、好ましくは30質量%未満、より好ましくは20質量%未満とすることが好ましい。50質量%以上だと、硬化性が低下するおそれがある。2官能となるフェノール化合物としては、o-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール等がある。
【0039】
更に本発明に用いるレゾール型フェノール樹脂としては、ポリエステル樹脂との相溶性、硬化性の点から、含有するメチロール基の一部ないしは全部を炭素数1~12のアルコール類でアルキルエーテル化(アルコキシメチル化)したものを好適に使用することができる。アルキルエーテル化するメチロール基の割合としては50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。アルキルエーテル化の割合が50%未満だとポリエステル樹脂との相溶性が低くなり、塗膜に濁りが生じたり、十分な硬化性が得られなかったりする。アルキルエーテル化する際に使用されるアルコールとしては炭素原子数1~8個、好ましくは1~4個の1価アルコールであり、好適な1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなどを挙げることができ、より好ましくはn-ブタノールである。
【0040】
また、アルキルエーテル化されたメチロール基(アルコキシメチル基)の数は、フェノール核1核当たりのアルコキシメチル基を平均して0.3個以上、好ましくは0.5~3個有することが好適である。0.3個未満だとポリエステル樹脂との硬化性が劣るようになる。また上記レゾール型フェノール樹脂の数平均分子量(Mn)としては、500~3,000、好ましくは800~2,500の範囲であることが好適である。上記範囲よりも小さいと形成される塗膜の架橋密度が高くなる傾向にあるため、製缶加工後の塗膜の残留応力が大きくなることで、熱処理時に塗膜剥離するおそれがある。一方上記範囲よりも大きいと硬化性が劣るようになり、その結果、塗膜の耐熱性や耐食性、耐レトルト白化性等が劣るおそれがある。
【0041】
(アミノ樹脂)
アミノ樹脂としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド、などのアミノ成分と、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒドなどのアルデヒド成分との反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。このメチロール化アミノ樹脂のメチロール基の一部又は全部を炭素原子数1~12のアルコール類によってアルキルエーテル化したものも上記アミノ樹脂に含まれる。これらを単独或いは2種以上を併用して使用できる。アミノ樹脂としては、衛生性、製缶加工性、硬化性等の観点から、ベンゾグアナミンを使用したメチロール化アミノ樹脂(ベンゾグアナミン樹脂)、メラミンを使用したメチロール化アミノ樹脂(メラミン樹脂)、尿素を使用したメチロール化アミノ樹脂(尿素樹脂)が好ましく、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂がより好ましく、ベンゾグアナミン樹脂が更に好ましい。
【0042】
ベンゾグアナミン樹脂としては、ベンゾグアナミン樹脂のメチロール基の一部又は全部を、メタノール、エタノール、n-ブタノール、i-ブタノール等のアルコールでアルキルエーテル化したベンゾグアナミン樹脂、例えばメチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、エチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、或いはメチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂、メチルエーテルとエチルエーテルと混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂、エチルエーテルとブチルエーテルの混合エーテル化ベンゾグアナミン樹脂が好ましい。中でもメチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂がより好ましい。
【0043】
メラミン樹脂としては、メラミン樹脂のメチロール基の一部又は全部を、メタノール、エタノール、n-ブタノール、i-ブタノール等のアルコールでアルキルエーテル化したメラミン樹脂、例えばメチルエーテル化メラミン樹脂、エチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、或いはメチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂、メチルエーテルとエチルエーテルと混合エーテル化メラミン樹脂、エチルエーテルとブチルエーテルの混合エーテル化メラミン樹脂が好ましい。中でもメチルエーテル化メラミン樹脂がより好ましく、フルエーテル化タイプのメチルエーテル化メラミン樹脂が特に好ましい。
【0044】
尿素樹脂としては、尿素樹脂のメチロール基の一部又は全部を、メタノール、エタノール、n-ブタノール、i-ブタノール等のアルコールでアルキルエーテル化した尿素樹脂、例えばメチルエーテル化尿素樹脂、エチルエーテル化尿素樹脂、ブチルエーテル化尿素樹脂、或いはメチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化尿素樹脂、メチルエーテルとエチルエーテルと混合エーテル化尿素樹脂、エチルエーテルとブチルエーテルの混合エーテル化尿素樹脂が好ましい。
【0045】
上述のメラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂が有する官能基としては、イミノ基(>NH)、N-メチロール基(>NCH2OH)、N-アルコキシメチル基(>NCH2OR;Rはアルキル基)が挙げられ、これらの官能基は、主剤であるポリエステル樹脂に含まれるカルボキシル基(-COOH)や水酸基(-OH)との架橋反応、或いはアミノ樹脂同士での自己縮合反応における反応点として作用する(なお、イミノ基については自己縮合反応のみに寄与する)。なお、上述の反応点(官能基)の数に関して、メラミン樹脂とベンゾグアナミン樹脂の単量体で比較すると、分子構造上、メラミン樹脂の方が多くなると考えられる。それにより、メラミン樹脂は硬化性に優れる反面、形成される塗膜の架橋密度が高くなりやすく、配合量によっては熱処理時に塗膜剥離が発生するおそれがある。一方ベンゾグアナミン樹脂は、メラミン樹脂に比べて硬化性に劣るものの、形成される塗膜の架橋密度は高くなりにくく、塗膜剥離耐性の観点からはメラミン樹脂よりも好適と言える。そのため、硬化性と熱処理時の塗膜剥離耐性のバランスを取るために、メラミン樹脂とベンゾグアナミン樹脂を併用し、それらを所定の比率で混合した混合アミノ樹脂を用いても良い。その場合、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂の配合量比(質量比)は、ベンゾグアナミン樹脂の配合量比が高くなることが望ましく、具体的には49:51~5:95、好ましくは40:60~5:95、より好ましくは35:65~10:90、更に好ましくは30:70~10:90とすることが望ましい。
【0046】
硬化剤は、ポリエステル樹脂100質量部に対して1~40質量部、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~20質量部の範囲で配合することが望ましい。
硬化剤としてレゾール型フェノール樹脂を用いる場合には、主剤となるポリエステル樹脂(固形分)100質量部に対して1~40質量部、好ましくは2~30質量部、より好ましくは2~25質量部、更に好ましくは2.5~20質量部、特に好ましくは3~15質量部の範囲で配合することが好ましい。また硬化剤としてメラミン樹脂を用いる場合には、ポリエステル樹脂100質量部に対して、1~15質量部、好ましくは1質量部以上10質量部未満、より好ましくは1~5.5質量部、特に好ましくは2~5質量部の量で配合することが好ましい。硬化剤としてベンゾグアナミン樹脂を用いる場合にはポリエステル樹脂100質量部に対して4~40質量部、好ましくは5~30質量部、より好ましくは6~28質量部、更に好ましくは8~25質量部、特に好ましくは8~24質量部で配合することが好ましい。硬化剤として、前述のメラミン樹脂とベンゾグアナミン樹脂の混合アミノ樹脂を用いた場合には、ポリエステル樹脂100質量部に対して、2~25質量部、好ましくは2~20質量部、より好ましくは2.5~15質量部、更に好ましくは3質量部以上10質量部未満で配合することが好ましい。
【0047】
上記範囲よりも硬化剤量が少ない場合には、十分な硬化性を得ることができず、塗膜の硬化度が低くなり、耐熱性が低下する傾向にある。そのため、絞りしごき缶を高速で成形する場合においては、温度上昇がより顕著になるため、成形した際に塗膜が金型に張り付きやすくなるおそれがある。特に缶内面側においては、絞りしごき成形後、パンチから缶体を抜き取る時点で、缶体がパンチに張り付き、パンチと缶体が分離しにくくなる現象(ストリッピング性不良)が生じ、それにより缶体が座屈、または破胴するなど、生産性が低下するおそれがある。一方、缶外面側においては、塗膜削れなどの外面不良が発生するおそれがある。また、内容物充填後の缶体にレトルト処理のような殺菌処理を施した場合に塗膜が白化する場合があり、耐レトルト白化性が低下するおそれがある。
一方上記範囲よりも硬化剤量が多い場合には、用いる硬化剤の種類にもよるが、塗膜の製缶加工性が低下し、絞りしごき加工時に金属露出が発生するおそれがあると共に、塗膜の硬化度が高くなることで、加工後の残留応力が大きくなる場合があり、それにより熱処理時に塗膜剥離が起こり、結果として塗膜の被覆性が低下するおそれがある。
【0048】
本発明に用いる内面用塗料組成物及び外面用塗料組成物には、ポリエステル樹脂と硬化剤の架橋反応を促進する目的で硬化触媒を配合することが好ましい。
硬化触媒としては、従来公知の硬化触媒を用いることができ、例えばp-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、リン酸、アルキルリン酸、またはこれらのアミン中和物等の有機スルホン酸系及びリン酸系の酸触媒を使用することができる。上記硬化触媒の中でも、有機スルホン酸系の酸触媒を用いることが好ましく、特にドデシルベンゼンスルホンやそのアミン中和物が好適である。
【0049】
硬化触媒は、ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して、固形分として0.01~3質量部、好ましくは0.02~1.0質量部、より好ましくは0.02質量部以上0.5質量部未満、更に好ましくは0.03質量部以上0.3質量部未満、特に好ましくは0.04質量部以上0.2質量部未満の範囲であることが望ましい。また、硬化触媒として上記酸触媒のアミン中和物(例えばドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和物)を用いる場合には、アミンを除いた酸触媒の含有量が上記範囲内であれば良い。上記範囲よりも硬化触媒の含有量が少ない場合には、硬化反応を促進する効果が十分得られないおそれがある一方、上記範囲よりも硬化触媒の含有量が多い場合には、それ以上の効果は望めず、また塗膜の耐水性が低下し、結果として耐食性や耐レトルト白化性等が劣化するおそれがある。また、酸触媒が酸-塩基相互作用により金属基体表面に局在化することで、塗膜と金属基体間の密着性が低下するおそれがあり、缶成形時に塗膜が剥がれる等の問題が生じるおそれがある。
【0050】
[塗料組成物]
本発明で用いる塗装金属板の塗膜を形成する塗料組成物は、少なくとも主成分として上述したポリエステル樹脂、好ましくは更に上述の硬化剤、より好ましくは更に上述の硬化触媒を含有する。なお、本発明においては、塗料組成物中の塗膜を形成する固形成分(水や溶剤などの揮発する物質を除いた不揮発成分)の中で、最も含有量(質量割合い)が多い成分のことを、主成分として定義する。また、本発明に用いる塗料組成物において、塗料組成物中に含まれる全ての樹脂成分のうち、主剤となる前述のポリエステル樹脂、好ましくは非結晶性ポリエステル樹脂の含有量が50質量%より高いことが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
本発明において、塗膜の形成に使用可能な塗料組成物の形態(種類)としては溶剤型塗料組成物又は水性塗料組成物が好ましく、塗装性等の観点から溶剤型塗料組成物がより好ましい。
【0051】
塗料組成物が溶剤型塗料組成物である場合、上述したポリエステル樹脂、好ましくは硬化剤、並びに溶媒として有機溶媒を含有する。なお、本発明における溶剤型塗料組成物とは主剤樹脂、硬化剤等を公知の有機溶媒に溶解、或いは分散された状態で塗料化されたものであって、塗料組成物中における有機溶媒の占める質量割合が40質量%以上である塗料組成物と定義する。
前記有機溶媒としては、トルエン、キシレン、芳香族系炭化水素化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノアセテート、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ソルベントナフサ等から溶解性、蒸発速度等を考慮して1種、または2種以上を選択し使用される。
【0052】
塗料組成物が水性塗料組成物の場合は、従来公知の水分散性又は水溶性のポリエステル樹脂、好ましくは硬化剤と共に、溶媒として水性媒体を含有する。なお、本発明における水性塗料組成物とは主剤樹脂、硬化剤等を公知の水性媒体に溶解、或いは分散させた状態で塗料化されたものであって、塗料組成物中における水性媒体の占める質量割合が40質量%以上である塗料組成物と定義する。
水性媒体としては、公知の水性塗料組成物と同様に、水、或いは水とアルコールや多価アルコール、その誘導体等の有機溶剤を混合したものを水性媒体として用いることができる。有機溶剤を用いる場合には、水性塗料組成物中の水性媒体全体に対して、1質量%以上40質量%未満の量で含有することが好ましく、特に5~30質量%の量で含有することが好ましい。上記範囲で有機溶剤を含有することにより、製膜性能が向上する。
このような有機溶剤としては、両親媒性を有するものが好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n―ブタノール、エチレングリコール、メチルエチルケトン、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノールなどが挙げられる。
【0053】
<潤滑剤>
塗料組成物には、必要に応じ潤滑剤を含有することができる。その場合の配合量としては、ポリエステル樹脂100質量部に対し、潤滑剤0.1質量部~20質量部、好ましくは0.2~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部の範囲であることが好ましい。
潤滑剤を加えることにより、成形加工時の塗膜の傷付きを抑制でき、また成形加工時の塗膜の滑り性を向上させることができる。
【0054】
塗料組成物に加えることのできる潤滑剤としては、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、ラノリン、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、およびシリコン系化合物、白色ワセリンなどを挙げることができる。これらの潤滑剤は一種、または二種以上を混合し使用できる。
【0055】
<その他>
塗料組成物には、上記成分の他、従来より塗料組成物に配合されている、レベリング剤、顔料、消泡剤、着色剤等を従来公知の処方に従って添加することもできる。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂と併せてその他の樹脂成分が含まれていても良く、例えばポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、アクリルアミド系化合物、ポリエチレンイミン、澱粉、アラビアガム、メチルセルロース等の樹脂が含まれていても良い。
【0056】
塗料組成物においては、塗膜を形成する固形成分が3~55質量%、好ましくは5~45質量%の量で含有されていることが好適であり、ポリエステル樹脂が固形分として3~50質量%、好ましくは5~40質量%の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも固形成分が少ない場合には、適正な塗膜量を確保することができず、被覆性が劣るようになる。一方、上記範囲よりも樹脂固形分が多い場合には、作業性及び塗工性に劣る場合がある。
【0057】
(塗装金属板の製造方法)
本発明に用いる塗装金属板は、前述した通り、主成分としてポリエステル樹脂、好ましくは硬化剤としてレゾール型フェノール樹脂及び/又はアミノ樹脂、より好ましくはレゾール型フェノール樹脂を含有する内面用塗料組成物を金属板の少なくとも内面となる面に塗工することにより製造する。好適には、更に金属板の外面となる面に、前述した主成分のポリエステル樹脂、好ましくは硬化剤としてアミノ樹脂を含有する外面用塗料組成物を塗工する。
塗料組成物の焼き付け条件は、ポリエステル樹脂、硬化剤、金属基体の種類、塗工量等によって適宜調節されるが、上述した塗料組成物は、充分な硬化度を得るために、焼付け温度が150℃~350℃、好ましくは200℃より高く320℃以下の温度で、5秒以上、好ましくは5秒~30分間、特に好ましくは5秒~180秒間の条件で加熱硬化させることが好ましい。上記範囲よりも焼き付け温度が低い場合には、充分な硬化度を得られないおそれがある。一方で、上記範囲よりも焼き付け温度が高い場合には、過度な加熱によりポリエステル樹脂が熱分解するおそれがある。上記範囲よりも焼付け時間が短い場合には、充分な硬化度を得られないおそれがあり、上記範囲よりも焼付け時間が長い場合には、経済性や生産性に劣る。
【0058】
また焼付け後の塗装金属板上の内面塗膜及び/又は外面塗膜において、硬化度の指標であるMEK抽出率(MEK沸点、1時間)が50%以下、好ましくは1~40%、より好ましくは2~30%、更に好ましくは3~25%、特に好ましくは3~20%の範囲にあることが好適であり、MEK抽出率が上記範囲にあることにより、塗膜の硬化度が制御され、塗膜の耐熱性、耐食性、耐レトルト白化性、塗膜剥離耐性の観点から好ましい。
上記範囲よりもMEK抽出率が高い場合には、塗膜の硬化度が低くなり、耐熱性が低下する傾向にあるため、絞りしごき缶を高速で成形する場合においては、温度上昇がより顕著になるため、成形した際に塗膜が金型に張り付きやすくなることがある。特に缶内面側においては、絞りしごき成形後、パンチから缶体を抜き取る時点で、缶体がパンチに張り付き、パンチと缶体が分離しにくくなる現象(ストリッピング性不良)が生じ、それにより缶体が座屈、または破胴するなど、生産性が低下するおそれがあると共に、耐レトルト白化性が劣るおそれがある。缶外面側においては、塗膜削れなどの外面不良が発生するおそれがあると共に、耐レトルト白化性が劣るおそれがある。
一方MEK抽出率が1%よりも低い場合には、塗膜の硬化度が高く、成形時の残留応力が大きくなるため、熱処理時に塗膜剥離が発生するおそれがある。
【0059】
塗装方法としては、ロールコーター塗装、スプレー塗装、ディップ塗装などの公知の塗装方法によって、金属板の少なくとも缶内面側となる面に、好適には両面に塗装した後、コイルオーブン等の加熱手段によって焼き付けることにより製造することができる。
【0060】
塗装金属板の金属基体として用いる金属板としては、これに限定されないが、例えば、熱延伸鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、ティンフリースチール、ニッケルメッキ鋼板、極薄スズメッキ鋼板、クロム処理鋼板などが挙げられ、必要に応じてこれらに各種表面処理、例えばリン酸クロメート処理やジルコニウム系の化成処理、ポリアクリル酸などの水溶性樹脂と炭酸ジルコニウムアンモン等のジルコニウム塩を組み合わせた塗布型処理等を行ったものが使用できる。
本発明においては、上記金属板の中でもアルミニウム板、具体的には「JIS H 4000」における3000番台、5000番台、6000番台のアルミニウム合金板を好適に使用することができる。アルミニウム合金板としては、前述の各種表面処理を施した表面処理アルミニウム合金板に加え、表面処理を施していない無処理のアルミニウム合金板も好適に用いることが出来る。
金属板の厚みは、缶体強度、成形性の観点から0.1~1.00mm、好ましくは0.15~0.40mm、より好ましくは0.15~0.30mm、更に好ましくは0.20~0.28mmの範囲内にあるのが良い。
【0061】
本発明の塗装金属板においては、絞りしごき加工後に缶内面側となる面に形成された上記内面塗膜及び/又は絞りしごき加工後に缶外面側となる面に形成された上記外面塗膜上に、必要に応じて別の塗料組成物(溶剤型塗料組成物又は水性塗料組成物)から成る塗膜が形成されていても良いが、経済性の観点からは形成されていない方が好ましい。
本発明に用いる塗装金属板の缶内面側となる面の最表層は、塗料組成物から形成されて成る塗膜、好適には前述の内面用塗料組成物から成る前記内面塗膜、或いは前記内面塗膜上に形成された後述のワックス系潤滑剤から成る層であることが望ましい。同様に、本発明に用いる塗装金属板の缶外面側となる面の最表層は、塗料組成物から形成されて成る塗膜、好適には前述の外面用塗料組成物から成る前記外面塗膜、或いは前記外面塗膜上に形成された後述のワックス系潤滑剤から成る層であることが望ましい。
また、本発明の塗装金属板においては、前述の塗料組成物から成る内面塗膜及び外面塗膜は、金属基体との密着性に優れるため、内面塗膜及び/又は外面塗膜が金属基体である上記金属板に直接接するように形成されていることが好適である。
【0062】
(絞りしごき缶の製造方法)
本発明の絞りしごき缶の製造方法は、少なくとも缶内面となる面に、ガラス転移温度(Tg)が55℃以上のポリエステル樹脂を主成分として含有する内面塗膜を有する塗装金属板を用い、しごき加工におけるしごき率が40%以上であり、2000mm/sec以上の加工速度で絞りしごき加工を行うことが重要な特徴である。
前述した通り、本発明者等は、耐フレーバー収着性を向上させるためにガラス転移温度の高いポリエステルを含有する内面塗膜を有する塗装金属板を用い、しごき率が40%以上の過酷な加工を行う場合であっても、絞りしごき加工を2000mm/sec以上の成形速度(加工速度)で行うことにより、製缶加工性が改良されると共に、熱処理時の塗膜剥離の発生を有効に抑制できることを見出した。
すなわち2000mm/sec以上の高速でのしごき加工では、加工発熱が大きく、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を超えた温度で成形される結果、塗膜の伸び性が向上して製缶加工性が向上すると考えられる。更に、成形後の塗膜の残留応力が低減されるため、熱処理時の塗膜剥離を抑制することが可能となり、結果として内面の金属露出が防止され、内面の塗膜被覆性の高い絞りしごき缶を提供することができる。また、前述の絞りしごき加工後に缶外面となる面にも外面塗膜を有する両面塗装金属板を用いた場合には、外面の塗膜被覆性にも優れた絞りしごき缶を提供することができる。
【0063】
本発明の製造方法においては、前述した通り、上記のような高速の加工速度で絞りしごき加工を行うことにより、塗装金属板の塗膜の伸び性、製缶加工性を向上できることから、過酷な絞りしごき加工の際にも、加工時の塗膜欠陥や破胴、缶口端での塗膜剥離を生じることなく、絞りしごき缶を成形することができる。なお、本発明に好適に用いられる塗装金属板は、成形性や潤滑性に優れるものであるから、クーラントを用いる場合はもちろん、クーラントを用いず、ドライ条件下で成形を行った場合でも、絞りしごき缶を成形することができる。
【0064】
絞りしごき成形に先立って塗装金属板の表面には、ワックス系潤滑剤を塗布することが好ましく、これによりドライ条件下で効率よく絞りしごき加工を行うことができる。ワックス系潤滑剤としては、例えば、これに限定されないが、脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、白色ワセリン、ライスワックス、蜜蝋、木蝋、モンタンワックス等の鉱物由来ワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンワックス、パラフィン系ワックス、流動パラフィン、ラノリンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、などを挙げることができ、パラフィン系ワックス、白色ワセリンがより好適に使用できる。上記ワックス系潤滑剤の中でも、特に食品衛生上問題がないと共に、150~250℃、好ましくは200℃程度の温度での加熱で容易に揮発除去可能なワックス系潤滑剤が望ましく、それにより絞りしごき缶成形後の後工程でワックス系潤滑剤を熱処理により揮発除去できるようになるため、缶胴に外面印刷を施す場合において、ワックス系潤滑剤によってインキが弾かれるおそれがなくなり都合が良い。これらのワックス系潤滑剤は一種、または二種以上を混合し使用できる。ワックス系潤滑剤の塗布量としては、成形性、生産性の観点から塗装金属板の片面当たり5~200mg/m2、好ましくは10~100mg/m2、より好ましくは20~80mg/m2の範囲であることが望ましい。ワックス系潤滑剤が塗布された塗装金属板を、カッピング・プレスで、ブランクを打抜き、絞り加工法により、絞りカップを成形する。本発明においては、下記式(3)で定義される絞り比RDが、トータル(絞りしごき缶まで)で1.1~2.6の範囲、特に1.4~2.6の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりも絞り比が大きいと、絞りしわが大きくなり、塗膜に亀裂が発生して金属露出を発生するおそれがある。
RD=D/d・・・(3)
式中、Dはブランク径、dは缶胴径を表す。
【0065】
次いで、前記絞りカップを、再絞り-一段又は数段階のしごき加工(絞りしごき加工)を行って缶胴部の薄肉化を行う。この際本発明においては、成形に用いるパンチとして、10~80℃、好ましくは15~70℃、より好ましくは20~60℃、更に好ましくは20~50℃に温度調節されたパンチを用いることが望ましい。なお、温度調節の方法としては、例えばパンチ内部に温調水を循環させる等の方法が挙げられる。上記範囲よりもパンチ温度が低いと、塗装金属板に塗布したワックス系潤滑剤が十分に滑性を示すことができず、パンチから缶体を抜き取る時点で、ストリッピング性(抜け性)不良が生じるおそれがあると共に、成形後の塗膜被覆性が低下するおそれがある。一方上記範囲よりもパンチ温度が高い場合は、パンチから缶体を抜き取る時点で、塗膜が張り付きやすくなり、ストリッピング性不良が生じるおそれがある。また、ダイスとしては、10~80℃、好ましくは15~70℃となるように温度調節されたダイスを用いることが、安定して連続的に成形する観点から望ましい。
また本発明においては、下記式(4)で表されるしごき率Rが、40%以上、好ましくは40~80%、より好ましくは50~80%、更に好ましくは55%より高く75%以下、特に好ましくは60%より高く70%以下の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもしごき率が低いと、十分に薄肉化できず、経済性の点で十分満足するものではなく、一方上記範囲よりもしごき率が高い場合には、金属露出のおそれがある。
R(%)=(tp-tw)/tp×100・・・(4)
式中、tpは元の塗装金属板の金属基体の厚み、twは絞りしごき缶の缶胴中央部(最も薄肉化されている部分)の金属基体の厚みを表す。
【0066】
また本発明の絞りしごき缶の製造方法により得られる絞りしごき缶においては、缶胴中央部(高さ方向の中央部、最も薄肉化されている部分)の厚みが、缶底中央部の厚みの60%以下、好ましくは20~60%、より好ましくは20~50%、更に好ましくは25~45%、特に好ましくは30~45%、最も好ましくは30~40%の厚みであることが好適である。絞りしごき缶の金属基体の厚みも同様に、缶胴中央部の金属基体の厚みが、缶底中央部の金属基体の厚みの60%以下、好ましくは20~60%、より好ましくは20~50%、更に好ましくは25~45%、特に好ましくは30~45%、最も好ましくは30~40%の厚みであることが好適である。また、塗装金属板から絞りしごき加工により絞りしごき缶を成形した場合には、缶胴部に位置する内面塗膜の厚みは、加工により金属基体と同じように薄くなる。従って、缶胴中央部の内面塗膜及び外面塗膜の厚みは、製缶時にほとんど薄肉化されない缶底中央部の内面塗膜の厚みの60%以下、好ましくは20~60%、より好ましくは20~50%、更に好ましくは25~45%、特に好ましくは30~45%、最も好ましくは30~40%の厚みであることが好適である。外面塗膜についても同様である。
【0067】
缶底中央部の金属基体の厚みとしては、0.10~0.50mm、好ましくは0.15~0.40mm、より好ましくは0.15~0.30mm、更に好ましくは0.20~0.28mmの厚みが好適である。
また缶底中央部の上記内面塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で0.2~20μm、好ましくは1~12μm、より好ましくは2μmより大きく12μm以下の範囲にあることが好適である。また乾燥塗膜質量としては、3~300mg/dm2、好ましくは15~150mg/dm2、より好ましくは25mg/dm2より大きく150mg/dm2以下の範囲にあることが好適である。さらに絞りしごき缶に充填される内容物が、腐食性が強い酸性飲料の場合は、6μmより大きく12μm以下、好ましくは6.5~10μmの範囲にあることが好適である。また乾燥塗膜質量としては、85mg/dm2より大きく150mg/dm2以下、好ましくは90~140mg/dm2の範囲であることが好適である。一方絞りしごき缶に充填される内容物が、腐食性が比較的弱い低酸性飲料等の場合は1μm以上6.5μm未満、好ましくは2μmより大きく6.5μm未満、より好ましく2.5~6μmの範囲であることが好ましい。また乾燥塗膜質量としては、15mg/dm2以上90mg/dm2未満、好ましくは25mg/dm2より大きく90mg/dm2未満、より好ましくは30~85mg/dm2の範囲であることが好適である。
【0068】
また缶底中央部の上記外面塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で0.2~20μm、好ましくは1~12μm、より好ましくは2μmより大きく10μm以下、更に好ましくは2μmより大きく6.5μm以下の範囲にあることが好適である。また乾燥塗膜質量としては、3~300mg/dm2、好ましくは15~150mg/dm2、より好ましくは25より大きく140mg/dm2以下、更に好ましくは25mg/dm2より大きく90mg/dm2未満の範囲であることが好適である。
【0069】
また上述したように内面塗膜を有する塗装金属板から絞りしごき加工により絞りしごき缶を成形した場合には、缶胴部に位置する内面塗膜の厚みは、加工により、缶胴部に位置する金属基体と同じように薄くなる。従って、本発明の絞りしごき缶においては、缶胴部における前記内面塗膜と金属基体の厚み比と、缶底部における前記内面塗膜と金属基体の厚み比は、ほぼ同じとなる。すなわち、本発明の絞りしごき缶においては、前記内面塗膜と金属基体の厚み比(=前記内面塗膜の厚み/金属基体の厚み)が、缶底部及び缶胴部で実質的にほぼ同じとなるのが特徴である。なおここでの「ほぼ同じ」とは、製造誤差がその範囲内に含まれるものを意味するものとし、例えば缶胴部の(前記内面塗膜の厚み/金属基体の厚み)が、缶底部の(前記内面塗膜の厚み/金属基体の厚み)の0.9~1.1倍の範囲内であることを意味する。なお、外面塗膜についても同様である。
また、本発明の絞りしごき缶においては、缶胴部における前記内面塗膜と金属基体の厚み比(=前記内面塗膜の厚み/金属基体の厚み)が、缶胴部の位置によらず缶胴部全体で実質的にほぼ同じとなるのが特徴である。なお、外面塗膜についても同様である。
【0070】
本発明における加工速度は、一段又は数段階のしごき加工における加工速度(パンチ金型の移動速度)であり、上述した通り、2000mm/sec以上、好ましくは3000mm/sec以上、より好ましくは4000mm/sec以上、更に好ましくは5000mm/sec以上、特に好ましくは5500mm/sec以上とすることが望ましい。上述したように、しごき加工時の加工速度を上記速度以上とすることにより、加工発熱が大きくなり、55℃を超える高温状態になることで塗膜の加工性(伸び性)が向上する。その結果、ガラス転移温度の高いポリエステルを使用した場合においても、成形時の金属露出が抑制され、成形後の内面塗膜及び/又は外面塗膜の被覆性を更に向上させることができる。更に、ポリエステル樹脂のガラス転移温度より高い温度で成形されることで、成形加工中に応力緩和しやすくなるため、成形後の塗膜の残留応力を低減することができ、熱処理時の塗膜剥離を抑制することが可能となる。尚、加工速度の上限については特に制限はないが、例えば20000mm/sec以下、好ましくは15000mm/sec以下とすることが望ましい。20000mm/secを超えると、加工時に破胴しやすくなることが推察される。
絞りしごき加工後、所望により常法に従って底部のドーミング成形及び開口端縁のトリミング加工を行う。
【0071】
本発明の絞りしごき缶の製造方法によれば、上述の塗装金属板を、絞りしごき加工した後、得られた絞りしごき缶を熱処理工程に付することが望ましい。成形後の絞りしごき缶に、少なくとも一段の熱処理を施すことにより、加工により生じた塗膜の残留応力を除去することができる。塗膜の当該残留応力が除去されることにより、加工後の塗膜と金属基体間の密着性(塗膜密着性)を向上させることが可能となる。その結果、塗膜の耐食性が顕著に向上され、例えば絞りしごき缶に腐食性の強い内容物を充填した際、塗膜下腐食の発生を抑制することができる。熱処理の温度は、塗膜のガラス転移温度以上の温度である必要があり、55℃以上、好ましくは100~300℃、より好ましくは150~250℃の温度範囲にあることが望ましい。熱処理の時間はこれに限定されないが、0.1~600秒間、好ましくは1~300秒間、より好ましくは、20~180秒間で加熱することが好ましい。なお、上記熱処理工程において、加工の際用いた前述のワックス系潤滑剤を表面から揮発除去することもでき、その場合は、熱処理の温度が150~250℃の温度範囲であることが望ましく、熱処理の時間はこれに限定されないが、0.1~600秒間、好ましくは1~300秒間、より好ましくは、10~180秒間で加熱することが好ましい。
【0072】
絞りしごき缶の塗膜の残留応力が熱処理によって除去されていない場合、加工度の大きい缶胴中央部(高さ方向における中央部)の塗膜を金属基体から単離し加熱すると残留応力を解放する方向(主に缶の高さ方向)に寸法が大きく変化することから、加熱による単離塗膜の寸法変化量(熱収縮率)を測定することにより、熱処理によって残留応力が除去されているかの目安とすることができる。絞りしごき缶から単離した缶胴中央部の上記内面塗膜における下記式(5)で表される熱収縮率(荷重あり)が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下であることが望ましい。また、下記式(6)で表される熱収縮率(荷重なし)が50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下であることが望ましい。熱収縮率が上記範囲内にある場合、塗膜密着性が改善され、優れた耐食性を発現することができる。上記範囲よりも熱収縮率が大きい場合、残留応力が十分に除去されておらず、塗膜密着性の不足により、耐食性が低下するおそれがあると共に、缶が衝撃を受け凹むなどした際に塗膜が剥離するおそれがある。また、缶外面側に上記外面塗膜を有する場合には、缶胴中央部の外面塗膜においても、熱収縮率は上記範囲内にあることが望ましい。
なお、単離した塗膜の加熱による寸法変化量(収縮量)は、熱機械分折装置(TMA)等により測定することができる。
【0073】
熱収縮率(荷重あり)=(ΔL1/L0)×100(%)・・・(5)
式中、L0は缶胴中央部から単離した塗膜の高さ方向の初期長さ(測定部)、ΔL1は単位面積当たり5.20×105N/m2の荷重をかけながら昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL0該当部分の塗膜の高さ方向における最大収縮量(収縮長さの最大値)である。
【0074】
熱収縮率(荷重なし)=(ΔL2/L0)×100(%)・・・(6)
式中、L0は缶胴中央部から単離した塗膜の高さ方向の初期長さ、ΔL2は無荷重状態で昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL0該当部分の塗膜の高さ方向における最大収縮量(収縮長さの最大値)である。
【0075】
熱処理後は急冷或いは放冷した後、更に必要に応じて従来公知の方法により、印刷工程により缶胴部の外面に印刷層が形成され、印刷層の上に印刷層を保護するための仕上げニス層が形成される。所望により、一段或いは多段のネックイン加工に付し、フランジ加工を行って、巻締用の缶とする。また、絞りしごき缶を成形した後、その上部を変形させてボトル形状にすることもできるし、底部を切り取って、他の缶端を取り付けてボトル形状とすることもできる。
本発明の絞りしごき缶の容量としては、150mL以上、好ましくは150~2200mL、より好ましくは180~1200mL、更に好ましくは300~700mLが好適である。
【0076】
また本発明の絞りしごき缶の製造方法によれば、前述した通り、成形加工時の金属露出はもちろん、熱処理時の塗膜剥離も生じないことから、内面塗膜がERV(エナメルレーター値;Enamel Rater Value)換算で200mA以下の被覆度を有する、塗膜被覆性に優れた絞りしごき缶を得ることができる。ここで、ERV換算により得られる内面塗膜の被覆度は、得られた絞りしごき缶に、電解液となる濃度1質量%の食塩水を缶口部付近まで満たし、エナメルレーターでERVを測定した値をいうものとし、缶底の外面側に金属露出部を形成して陽極に接続する一方、陰極を缶内に満たされた食塩水に浸して、室温(約20℃)下で、6.3Vの直流電圧を4秒間印加した後の電流値とする。このような測定において、電流が多く流れるほど絶縁体である内面塗膜に欠陥が存在し、缶内面の金属露出の面積が大きいことを示している。
【0077】
ERV換算での内面塗膜の被覆度は200mA以下、好ましくは100mA未満、より好ましくは50mA未満であることが望ましい。また、単位面積(cm2)当りのERVで表した場合は0.70mA/cm2以下、好ましくは0.35mA/cm2未満、より好ましくは0.18mA/cm2未満であることが望ましい。ここで単位面積当りのERVとは、上述の方法で測定した絞りしごき缶のERVを、評価面積(上述の食塩水が接触している、缶胴部及び缶底部の内面部分の総面積)で割った(除した)値である。
【0078】
なお、絞りしごき缶の内面側について、成形後に、必要に応じて内面に更に補正塗料などスプレー塗装し、内面塗膜上に別の塗料組成物から成る塗膜を形成しても良いが、前述の通り、内面塗膜が成形後も高い被覆度を有するため、スプレー塗装する必要はなく、経済性の面から、スプレー塗装されていないことが好ましい。即ち、絞りしごき缶の内面側の最表層は、塗料組成物から成る塗膜、好適には前述の内面用塗料組成物から成る前記内面塗膜、或いは前記内面塗膜上に形成された前述のワックス系潤滑剤から成る層であることが好ましい。
また、缶外面側については、少なくとも基本的に印刷層が形成されない底部の最表層は、前記外面塗膜、或いは前記外面塗膜上に形成された前述のワックス系潤滑剤から成る層であることが好ましいが、缶体の搬送性の向上等を目的として、底部外面側に形成されている前記外面塗膜上に、更に別の塗料組成物から成る塗膜が形成されていても良い。
【0079】
(絞りしごき缶)
本発明の絞りしごき缶は、上述した塗装金属板から、上述した絞りしごき缶の製造方法により成形されて成り、少なくとも缶内面側に内面塗膜を有する絞りしごき缶であって、前記内面塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂、好ましくは更に硬化剤を含有し、前記内面塗膜のガラス転移温度(Tg)が55℃以上であり、且つ前記内面塗膜の被覆度が、ERV換算で200mA以下であることが重要な特徴である。
すなわち、本発明の絞りしごき缶においては、絞りしごき缶の内面塗膜に含有されるポリエステル樹脂のガラス転移温度が55℃以上と高いことから、耐フレーバー収着性に優れている。また、高速でしごき加工を行うことにより加工発熱が大きくなり、製缶加工性が顕著に向上するため、ガラス転移温度が55℃以上と高いポリエステル樹脂を用いた場合でも、成形時の金属露出が抑制されて内面の塗膜被覆性を向上させることができる。更に、加工発熱が大きくなることで、加工後の塗膜の残留応力を小さくすることができるため、前述したような熱処理時の塗膜剥離の発生も有効に抑制される。その結果、得られる絞りしごき缶は、金属露出が有効に防止され、ERV換算で表す内面塗膜の被覆度を200mA以下とすることができ、優れた耐食性を発現することが可能となる。
また、前記絞りしごき缶が、さらに缶外面側に外面塗膜を有し、前記外面塗膜がポリエステル樹脂、好ましくは更に硬化剤を含有することが好適である。
また、前記絞りしごき缶が、少なくとも缶内面側の缶底部及び缶胴部が、前記内面塗膜で連続的に被覆されていることが好ましく、更に缶外面側の缶底部及び缶胴部が、前記外面塗膜で連続的に被覆されていることが好ましい。
【0080】
また本発明の絞りしごき缶は、缶底部における60℃の試験条件下における内面塗膜の伸び率が200%未満であることが望ましい。前述した通り、本発明の絞りしごき缶の製造方法においては、耐フレーバー収着性の観点から、60℃の試験条件下における伸び率が200%未満の内面塗膜を有する塗装金属板を使用することが望ましい。60℃の試験条件下における伸び率が200%未満の内面塗膜を有する塗装金属板を使用した場合、絞りしごき缶の缶底部は製缶時にほとんど薄肉化されず、塗装金属板の内面塗膜と同様の伸び率を示していることから、缶底部の内面塗膜の伸び率は200%未満となる。
【実施例】
【0081】
以下実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、単に部とあるものは質量部を示す。
【0082】
ポリエステル樹脂A~Fの各種測定項目は以下の方法に従った。なお、ポリエステル樹脂A、C、D、E、Fはいずれも非結晶性のポリエステル樹脂である。
(数平均分子量の測定)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。
(ガラス転移温度の測定)
示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で測定した。
(酸価の測定)
ポリエステル樹脂の固形物1gを10mlのクロロホルムに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定し、樹脂酸価(mgKOH/g)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。
(モノマー組成の測定)
ポリエステル樹脂の固形物30mgを重クロロホルム0.6mLに溶解させ、1H-NMR測定し、ピーク強度からモノマー組成比を求めた。なおごく微量な成分(全モノマー成分に対して1モル%未満)は除き、組成比を決定した。
【0083】
[内面用塗料組成物の調製]
(製造例1)
ポリエステル樹脂としてポリエステル樹脂A(酸価:2mgKOH/g、水酸基価:5mgKOH/g、Tg:75℃、Mn=18,000、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/エチレングリコール成分/プロピレングリコール成分=38/12/17/33mol%)、硬化剤としてレゾール型フェノール樹脂、硬化触媒(酸触媒)としてドデシルベンゼンスルホン酸(アミン中和物)を用いた。
ポリエステル樹脂Aをメチルエチルケトン/ソルベントナフサ=50/50(質量比)の混合溶剤に溶解させ、固形分30質量%のポリエステル樹脂A溶液を得た。レゾール型フェノール樹脂のn―ブタノール溶液(固形分50質量%)をメチルエチルケトンで希釈し、固形分30質量%のレゾール型フェノール樹脂溶液を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸を2-ジメチルアミノエタノールでアミン中和した後、イソプロパノールに溶解させ、固形分30質量%のドデシルベンゼンスルホン酸溶液(酸触媒の固形分30質量%)を得た。
次に、ポリエステル樹脂A溶液333部(固形分100部)、レゾール型フェノール樹脂溶液33.3部(固形分10部)、酸触媒溶液0.33部(ドデシルベンゼンスルホン酸の固形分0.10部)をガラス容器内に入れて10分間攪拌し、固形分濃度が約30質量%、固形分配合比がポリエステル樹脂/硬化剤/酸触媒=100/10/0.1(質量比)の溶剤型塗料組成物を調製した。なお上記レゾール型フェノール樹脂としてはメチロール基をn-ブタノールでアルキルエーテル化したm-クレゾール系レゾール型フェノール樹脂(アルキルエーテル化されたメチロール基の割合:90モル%、Mn=1,200)、酸触媒としては、東京化成工業社製「ドデシルベンゼンスルホン酸(ソフト型)(混合物)」を用いた。
【0084】
(製造例2)
ポリエステル樹脂として、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂B(Tg:-25℃、Mn=17,000、酸価:11mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/1,4-ブタンジオール成分=14/17/19/50mol%)を、固形分質量比で94:6となるように混合したもの(Tgmix:67℃)を用いた以外は、製造例1と同様に行い、内面用塗料組成物を調製した。
【0085】
(製造例3)
表1に示すポリエステル樹脂の固形分配合比(質量比)となるようにした以外は、製造例2と同様に内面用塗料組成物を調製した。
【0086】
(製造例4,5)
表1に示すようにポリエステル樹脂の種類を変えた以外は、製造例1と同様に内面用塗料組成物を調製した。ポリエステル樹脂として、前述のポリエステル樹脂以外は、ポリエステル樹脂C(酸価:2mgKOH/g、Tg:85℃、Mn=18,000、モノマー組成:テレフタル酸成分/エチレングリコール成分/プロピレングリコール成分=50/14/36mol%)、ポリエステル樹脂D(酸価:2mgKOH/g、Tg:65℃、Mn=20,000、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=25/25/23/27mol%)を用いた。
【0087】
(製造例6)
ポリエステル樹脂としてポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂E(酸価:22mgKOH/g、Tg:82℃、Mn=6,000)を、質量比で90:10となるように混合したもの(Tgmix:76℃)を用いた以外は、製造例1と同様に内面用塗料組成物を調製した。
【0088】
(製造例7)
ポリエステル樹脂としてポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Eを、質量比で90:10となるように混合したもの(Tgmix:76℃)、硬化剤としてベンゾグアナミン樹脂(メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、イミノ基・メチロール基含有部分エーテル化タイプ、重量平均重合度1.5)を用い、表1に示す固形分配合比(質量比)となるようにした以外は、製造例1と同様に内面用塗料組成物を調製した。
【0089】
(製造例8)
硬化剤、及び硬化触媒を配合しない以外は、製造例1と同様に内面用塗料組成物を調製した。
【0090】
(製造例9,10)
表1に示すポリエステル樹脂の固形分配合比(質量比)となるようにした以外は、製造例2と同様に内面用塗料組成物を調製した。
【0091】
(製造例11)
ポリエステル樹脂として、ポリエステル樹脂F(酸価:3mgKOH/g、Tg:40℃、Mn=15,000)を用いた以外は、製造例1と同様に内面用塗料組成物を調製した。
【0092】
(外面用塗料組成物の調製)
ポリエステル樹脂としてポリエステル樹脂A、硬化剤として、メラミン樹脂(メチルエーテル化メラミン樹脂)、及び上述のベンゾグアナミン樹脂(メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂)、硬化触媒(酸触媒)としてドデシルベンゼンスルホン酸を用いた。
ポリエステル樹脂Aをメチルエチルケトン/ソルベントナフサ=50/50(質量比)の混合溶剤に溶解させ、固形分30質量%のポリエステル樹脂A溶液を得た。メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂をメチルエチルケトンに溶解させ、固形分30質量%のメラミン樹脂溶液及びベンゾグアナミン樹脂溶液を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸を2―ジメチルアミノエタノールでアミン中和した後、イソプロパノールに溶解させ、酸触媒固形分30質量%のドデシルベンゼンスルホン酸溶液を得た。
次に、ポリエステル樹脂A溶液333部(固形分100部)、メラミン樹脂溶液10部(固形分3部)、ベンゾグアナミン樹脂溶液10部(固形分3部)、酸触媒溶液0.33部(ドデシルベンゼンスルホン酸の固形分0.10部)を用いて塗料組成物[固形分濃度:約30質量%、固形分配合比:ポリエステル樹脂/メラミン樹脂/ベンゾグアナミン樹脂/酸触媒=100/3/3/0.1(固形分質量比)]を調製した。
【0093】
(実施例1)
[塗装金属板の作成]
金属板としてリン酸クロメート系表面処理アルミニウム板(3104合金、板厚:0.27mm)を用い、まず、成形後に外面側となる面に、焼付け後の乾燥塗膜質量が40mg/dm2(約3μm)になるように、外面用塗料組成物をバーコーターにて塗装し120℃で60秒間乾燥を行った。その後、反対側の内面側となる面に、焼付け後の乾燥塗膜質量が88mg/dm2(約6.4μm)となるよう製造例1の内面用塗料組成物をバーコーターにて塗装し120℃で60秒乾燥を行った後、250℃(オーブンの炉内温度)で30秒間焼付けを行なうことにより作成した。
【0094】
[絞りしごき缶の作製]
上記の方法で作成した塗装金属板の両面に、パラフィンワックス(200℃程度の加熱で揮発除去可能なもの)を塗油(塗布量:片面当たり約50mg/m2)した後、直径142mmの円形に打ち抜き、浅絞りカップを作成した。次いで、この浅絞りカップに対し、外径Φ66mmのパンチ(パンチ温度:約50~55℃)を用いて、ドライ条件下で再絞り加工、しごき加工(3段)、ドーミング加工を行った。しごき加工時の平均加工速度(しごき加工時のパンチの平均移動速度)は、約5500mm/secとした。なお、上記パンチ温度は、パンチ内部への温調水の温度で表した。その後、オーブンを用いて201℃で75秒間の熱処理を施し、絞りしごき缶[缶径:66mm、高さ:約130mm、容量:約370ml、トータル絞り比:2.15、しごき率:約61%、缶胴中央部厚み/缶底中央部厚み×100=約40%、缶胴中央部の金属基体の厚み/缶底中央部の金属基体の厚み×100=約40%、缶胴中央部の内面塗膜厚み/缶底中央部の内面塗膜厚み×100=約39%、缶底中央部の内面塗膜質量(膜厚):86mg/dm2(約6.3μm)、缶底中央部の内面塗膜厚み/缶底中央部の金属基体の厚み=約0.024、缶胴中央部の内面塗膜厚み/缶胴中央部の金属基体の厚み=約0.023]を得た。
【0095】
(実施例2~8)
表2に示すとおりに、内面用塗料組成物の種類を変えた以外は、実施例1と同様に塗装金属板を作製し、絞りしごき缶を作製した。
【0096】
(実施例9)
絞りしごき缶の作製の際のしごき加工時の平均加工速度(パンチの平均移動速度)を約6800mm/secとした以外は、実施例1と同様に塗装金属板を作製し、絞りしごき缶を作製した。
【0097】
(比較例1)
絞りしごき缶の作製の際、しごき加工時の平均加工速度(パンチの平均移動速度)を約1000mm/secとした以外は、実施例1と同様に塗装金属板を作製し、絞りしごき缶を作製した。
【0098】
(比較例2~5)
表2に示すとおりに、内面用塗料組成物の種類を変え、さらにしごき加工時の平均加工速度(パンチの平均移動速度)を約1000mm/secとした以外は、実施例1と同様に塗装金属板を作製し、絞りしごき缶を作製した。
【0099】
(比較例6~7)
表2に示すとおりに、内面用塗料組成物の種類を変えた以外は、実施例1と同様に塗装金属板を作製し、絞りしごき缶を作製した。
【0100】
各製造例の内面用塗料組成物で得られる塗膜の性能、および上記方法で得られた絞りしごき缶において、下記の試験方法に従って試験を行った。
【0101】
[塗膜のガラス転移温度(塗膜Tg)]
各製造例の内面用塗料組成物を用いて下記の通り、測定用の塗膜サンプルを作製した。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート(膜厚:0.3mm)上に、焼付け後の乾燥塗膜質量が88mg/dm2(約6.4μm)となるよう各製造例の内面用塗料組成物をバーコーターにて塗装し120℃で60秒乾燥を行った後、250℃(オーブンの炉内温度)で30秒間焼付けを行い、PTFEシート上に塗膜を形成した。室温まで冷ました後、PTFEシートから塗膜を引き剥がすことで、測定用サンプルを得た。得られた塗膜について、示差走査熱量計(DSC)を用いて、下記の条件で塗膜のガラス転移温度を測定した。なお、2nd-run(昇温)において、補外ガラス転移開始温度、すなわち低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度を塗膜のガラス転移温度(塗膜Tg)とした。結果を表1に示す。
装置:セイコーインスツルメント株式会社製 DSC6220
試料量:5mg
昇温速度:10℃/分
温度範囲:-80~200℃(昇温、冷却、昇温)
環境条件:窒素気流下
【0102】
(塗膜の伸び率)
各製造例の内面用塗料組成物を用いて下記の通り、測定用の塗膜サンプルを作製した。PTFEシート(膜厚:0.3mm)上に、焼付け後の乾燥塗膜質量が88mg/dm2(約6.4μm)となるよう各製造例の内面用塗料組成物をバーコーターにて塗装し120℃で60秒乾燥を行った後、250℃(オーブンの炉内温度)で30秒間焼付けを行い、PTFEシート上に塗膜を形成した。室温まで冷ました後、塗膜を形成したPTFEシートを5mm幅で30mm長さに切り、PTFEシートから塗膜を引き剥がすことで、5mm幅で30mm長さの測定用サンプルを得た。上下5mmをつかみ代として、引張り試験機にチャッキングし、チャック間距離(サンプルの元長さ)が20mmとなるようにした。下記条件で引張試験を行い、塗膜の破断までの伸び率(破断伸度)を測定した。結果を表1に示す。
装置:株式会社島津製作所製 オートグラフAG-IS
測定雰囲気温度:60℃
引っ張り速度:500mm/min
【0103】
伸び率は下記式(7)で求められる。なお、ここで破断時のサンプルの伸び量(伸びた長さ)は、破断時の試験機のクロスヘッド移動量で代用した。
伸び率(%)=(ΔL/L0)×100・・・(7)
L0:サンプルの元長さ(mm)
ΔL:破断時のサンプルの伸び量(mm)
なお、両面に塗膜を形成してある塗装金属板や絞りしごき缶の缶底から測定用サンプルを得る場合は、測定しない片側の塗膜をサンドペーバーで削るなどして除去した後、5mm幅で30mm長さに塗装金属板、又は缶底を切りだし、希釈した塩酸水溶液中に浸漬させるなど常法により金属基体(金属板)を溶解させ、フィルム状の単離塗膜を取り出し、十分に蒸留水で洗浄して乾燥させることで、測定用サンプルを得ることができる。
【0104】
(塗膜の耐レトルト白化性)
各製造例の内面用塗料組成物を用いて、下記の通り塗装金属板を作製した。金属板としてリン酸クロメート系表面処理アルミニウム板(3104合金、板厚:0.27mm)を用い、焼付け後の乾燥塗膜質量が88mg/dm2(約6.4μm)となるよう各製造例の内面用塗料組成物をバーコーターで塗装し120℃で60秒乾燥を行った後、250℃(オーブンの炉内温度)で30秒間焼付けを行なうことにより塗装金属板を作製した。得られた塗装金属板から2.5cm×10cmサイズに切り出した後、オートクレーブで125℃30分のレトルト処理を施した。処理後、塗装金属板を取り出して風乾させた後、塗膜部分の白化状態(白化の有無)を目視で評価した。結果を表1に示す。
【0105】
[内面塗膜被覆性評価(ERV評価)]
内面塗膜被覆性評価は、上記「絞りしごき缶の作製」の項に記載した通りに、絞りしごき加工、及びドーミング加工まで行った絞りしごき缶(表中「熱処理なし」と表記)と、その後オーブンによる201℃で75秒間の熱処理を行った後の絞りしごき缶(表中「熱処理あり」と表記)について、下記の通り行った。
絞りしごき缶の缶底の外面側に金属露出部を形成し、缶体をエナメルレーターの陽極に接続する一方、1%食塩水360mLを缶内へ注ぎ、エナメルレーターの陰極を缶内に満たされた食塩水に浸して、室温(約20℃)下で6.3Vの電圧を4秒間印加した後の電流値(ERV)を測定した。結果を表2に示す。
評価基準は以下の通りである。
◎:電流値 50mA未満(単位面積当たり0.18mA/cm2未満)
○:電流値 50mA以上200mA以下(0.18mA/cm2以上0.70mA/cm2以下)
△:電流値 200mAより高く700mA未満(0.70mA/cm2より高く2.50mA/cm2未満)
×:電流値 700mA以上(2.50mA/cm2以上)
【0106】
[耐フレーバー収着性評価(フレーバー収着試験)]
耐フレーバー収着性評価は、上記「絞りしごき缶の作製」の項に記載した通りに成形し、オーブンによる201℃75秒間の熱処理を施した後の絞りしごき缶を用いて下記の通り行った。
絞りしごき缶の缶底から高さ8.0cmの位置を中心に2.5cm×5cmの大きさの試験片を切り出し、外面側の塗膜をサンドペーパー(紙やすり)で削り、洗浄・乾燥した。モデルフレーバー試験溶液として、リモネン2ppmを含む5%エタノール水溶液を調製した。パッキン付きガラス瓶(デュラン瓶)にモデルフレーバー試験溶液を入れ、試験片を浸漬、密閉し、30℃で2週間保存した。試験片をガラス瓶より取り出し、水洗後、水滴を取り除き、ジエチルエーテル50mLに浸漬、密封、一昼夜室温保存した。抽出液を濃縮装置で濃縮し、GC-MS分析(ガスクロマトグラフィー質量分析)を行った。GC-MS分析から得られたリモネン由来の成分ピークから、検量線により収着量を求め、下記式(8)よりリモネンの仕込み量に対する比率を、リモネン収着率(%)として求めた。結果を表2に示す。
リモネン収着率(%)=(リモネンの収着量/リモネンの仕込み量)×100・・・(8)
評価基準は以下の通りである。
◎:リモネン収着率が2%未満
○:リモネン収着率が2%以上3%未満
△:リモネン収着率が3%以上5%未満
×:リモネン収着率が5%以上
【0107】
(熱収縮率評価)
熱収縮率の評価は、上記「絞りしごき缶の作製」の項に記載した通りに、絞りしごき加工、及びドーミング加工まで行った実施例6の絞りしごき缶(熱処理なし)と、その後オーブンによる201℃で75秒間の熱処理を行った後の実施例6の絞りしごき缶(熱処理あり)の缶胴中央部の内面塗膜を用いて、下記の通り行った。
上記の絞りしごき缶を用いて、金属基体圧延目に対して0°方向の缶胴中央部(最も薄肉化されている部位)を中心として缶胴円周方向10mm缶高さ方向20mmのサンプルを切り出した。缶外面側の塗膜をサンドペーパーで削ることで除去し、金属面を露出させた後、希釈した塩酸水溶液中に浸漬して金属基体を溶解させた。次いで、フィルム状の缶内面側の塗膜を取り出し、十分に蒸留水で洗浄して乾燥させ、得られたフィルム状塗膜を4mm幅(缶胴円周方向)で20mm長さ(缶高さ方向)に切り出すことで測定用サンプルを得た。
【0108】
測定用サンプルを熱機械分析装置にチャッキングし、チャック間距離(塗膜の高さ方向における測定部初期長さに該当)が5mmとなるようにした。下記条件で測定サンプルの変位量を測定し、荷重あり及び無荷重状態での缶高さ方向における熱収縮率を評価した。
装置:セイコーインスツルメンツ株式会社製 TMA/SS6100
昇温速度:5℃/分
温度範囲:30~200℃
測定モード:引っ張りモード
測定時荷重:5mN(5.20×105N/m2)又は無荷重
チャック間距離:5mm
【0109】
測定前のチャック間距離(塗膜の測定部初期長さに該当)をL0、単位面積当たり5.20×105N/m2の荷重をかけながら昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL0該当部分の高さ方向における収縮量の最大値(最大収縮長さ)をΔL1をとし、下記式(9)に示す数式で計算される値を熱収縮率(荷重あり)とした。なお、変位量は収縮を正、膨張若しくは伸長を負の値とした。結果を以下に示す。
熱収縮率(荷重あり)(%)=(ΔL1/L0)×100・・・(9)
実施例6の絞りしごき缶(熱処理なし)の内面塗膜の熱収縮率(荷重あり):68%
実施例6の絞りしごき缶(熱処理あり)の内面塗膜の熱収縮率(荷重あり):9%
【0110】
また、測定前のチャック間距離(塗膜の測定部初期長さに該当)をL0、無荷重状態で昇温速度5℃/minで30℃から200℃まで昇温した時のL0該当部分の高さ方向における収縮量の最大値(最大収縮長さ)をΔL2とし、下記式(10)に示す数式で計算される値を熱収縮率(荷重なし)とした。なお、変位量は収縮を正、膨張若しくは伸長を負の値とした。結果を下記に示す。
熱収縮率(荷重なし)(%)=(ΔL2/L0)×100・・・(10)
実施例6の絞りしごき缶(熱処理なし)の内面塗膜の熱収縮率(荷重なし):69%
実施例6の絞りしごき缶(熱処理あり)の内面塗膜の熱収縮率(荷重なし):30%
【0111】
(耐食性評価)
耐食性の評価は、上記「絞りしごき缶の作製」の項に記載した通りに、絞りしごき加工、及びドーミング加工まで行った実施例6の絞りしごき缶(熱処理なし)と、その後オーブンによる201℃で75秒間の熱処理を行った後の実施例6の絞りしごき缶(熱処理あり)の缶胴中央部の内面塗膜について、下記の通り行った。
上記の絞りしごき缶を用いて、缶胴中央部(最も薄肉化されている部位)を中心として缶胴円周方向40mm缶高さ方向40mmの試験片を切り出した。上記試験片の内面にカッターで長さ4cmの素地に達するクロスカット傷を入れ、食塩を含有する酸性のモデル液に浸漬させて37℃で2週間経時して、腐食状態を評価した。なお、試験に用いたモデル液は、食塩を0.2%とし、これにクエン酸を加えてpHが2.5となるよう調整したものを用いた。評価基準は、クロスカット部周辺において、塗膜下腐食の最大幅が片側あたり1.5mm以上であったものを×、0.5mm以上1.5mm未満ものを○、0.5mm未満のものを◎とした。結果を下記に示す。
実施例6の絞りしごき缶(熱処理なし)の腐食状態:×
実施例6の絞りしごき缶(熱処理あり)の腐食状態:◎
【0112】
表1に各製造例における塗料組成物の組成(ポリエステル樹脂の種類、固形分配合比)、各製造例の塗料組成物で得られる塗膜の特性(塗膜Tg、伸び率、耐レトルト白化性)、表2に各実施例および比較例の塗装金属板において用いた内面用塗料組成物の種類(製造例番号、組成)、絞りしごき缶作製時のしごき加工速度、及び絞りしごき缶の評価結果(内面塗膜被覆性、耐フレーバー収着性)を示す。
【0113】
【0114】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の絞りしごき缶の製造方法においては、耐フレーバー収着性に優れるガラス転移温度の高いポリエステル樹脂を主成分とする塗膜を有する塗装金属板を用いた場合にも、成形時の塗膜欠陥の発生や成形後の熱処理による塗膜剥離の発生を抑制することができ、缶内面の金属露出部が少なく塗膜被覆性に優れると共に、耐フレーバー収着性に優れた絞りしごき缶を生産性良く製造することができる。また得られる絞りしごき缶は、耐フレーバー収着性、耐食性等に優れていることから、飲料容器等に好適に使用できる。