(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ボールねじ装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/20 20060101AFI20230301BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
F16H25/20 H
F16H25/24 A
(21)【出願番号】P 2022555693
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2022017477
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2021069331
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 諒
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0011191(US,A1)
【文献】特開2016-070281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ部と、前記ねじ部の軸方向一方側に隣接配置された、前記ねじ部よりも外径の小さい嵌合軸部とを有する、ねじ軸と、
内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有し、かつ、軸方向一方側の端部に第1係合部を有する、ナットと、
前記軸側ボールねじ溝と前記ナット側ボールねじ溝との間に配置された、複数のボールと、
前記嵌合軸部に相対回転不能に外嵌されたボス部と、前記ボス部の外周面から径方向に突出し、前記第1係合部と円周方向に係合可能な第2係合部とを有する、ストッパと、
前記ストッパの軸方向一方側に隣接配置され、前記ねじ部との間で前記ストッパを軸方向に挟持する、挟持部材と、を備え、
前記ストッパにモーメントを作用させることなく、前記ねじ部と前記挟持部材との間で前記ストッパを介してアキシアル荷重の伝達を行い、
前記ストッパは、軸方向一方側の側面に、前記ストッパの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成され、かつ、前記ストッパの中心軸に関して回転対称な形状を有する、前記挟持部材に接触する第1接触面を有し、軸方向他方側の側面に、前記ストッパの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成され、かつ、前記ストッパの中心軸に関して回転対称な形状を有し、前記ねじ部に接触する第2接触面を有しており、
前記第1接触面は、前記ボス部の軸方向一方側の側面から構成されており、
前記第2接触面は、前記ボス部の軸方向他方側の側面から構成されており、
前記第2係合部の軸方向一方側の側面は、前記ボス部の軸方向一方側の側面に対して軸方向他方側に軸方向位置をずらして配置されており、かつ、前記第2係合部の軸方向他方側の側面は、前記ボス部の軸方向他方側の側面に対して軸方向一方側に軸方向位置をずらして配置されている、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記第2係合部の軸方向一方側の側面は、前記ボス部の軸方向一方側の側面に対して、円弧形の断面形状を有する段差部を介して接続されており、かつ、前記第2係合部の軸方向他方側の側面は、前記ボス部の軸方向他方側の側面に対して、円弧形の断面形状を有する段差部を介して接続されている、
請求項1に記載したボールねじ装置。
【請求項3】
前記ボス部の軸方向一方側の側面に対する前記第2係合部の軸方向一方側の側面の軸方向他方側への位置ずれ量と、前記ボス部の軸方向他方側の側面に対する前記第2係合部の軸方向他方側の側面の軸方向一方側への位置ずれ量とが、互いに同じである、請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項4】
前記第2係合部の軸方向の厚さは、径方向にわたり一定である、請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項5】
前記第2係合部の軸方向の厚さは、径方向外側に向かうほど小さくなる、請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項6】
前記第2係合部の円周方向両側面のうち、前記第1係合部と円周方向に係合する側の側面は、円弧形の断面形状を有する凹曲面を介して、前記ボス部の外周面に滑らかにつながっており、かつ、前記第2係合部の円周方向両側面のうち、前記第1係合部と円周方向に係合しない側の側面は、前記ボス部の外周面に対して前記ボス部の接線方向につながっている、請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項7】
前記嵌合軸部は、外周面に互いに平行な1対の平坦外面を有する二面幅形状を有し、
前記ボス部は、内周面に互いに平行な1対の平坦内面を有する二面幅形状の係合孔を有する、
請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項8】
前記嵌合軸部は、外周面に雄スプライン歯を有しており、
前記ボス部は、内周面に雌スプライン歯が形成された係合孔をさらに有する、
請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項9】
前記ストッパは、前記嵌合軸部に対して軸方向に関する相対変位を可能に緩く外嵌されており、
前記挟持部材は、前記ねじ軸に対して圧入により外嵌されている、
請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項10】
前記ストッパは、前記嵌合軸部に対して圧入により外嵌されており、
前記挟持部材は、前記ねじ軸に対して圧入により外嵌されている、
請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項11】
前記ねじ軸は、使用時に回転運動する回転運動要素であり、
前記ナットは、使用時に直線運動する直線運動要素であり、
前記挟持部材は、前記ねじ軸を回転駆動する駆動部材または前記ねじ軸を回転自在に支持する転がり軸受である、
請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項12】
前記駆動部材は、歯車、プーリ、スプロケットまたはモータシャフトのいずれかである、請求項11に記載したボールねじ装置。
【請求項13】
前記ねじ軸は、使用時に直線運動する直線運動要素であり、
前記ナットは、使用時に回転運動する回転運動要素であり、
前記挟持部材は、前記ねじ軸とともに直線運動するピストンである、
請求項
1に記載したボールねじ装置。
【請求項14】
請求項1~13のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置の製造方法であって、
素材に鍛造加工を施して、前記ストッパの概略形状を有する中間素材を形成した後、前記中間素材の軸方向両側の側面のそれぞれに機械加工を施し、前記ストッパを製造する工程を備える、
ボールねじ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットとの間でボールを転がり運動させるため、ねじ軸とナットとを直接接触させる滑りねじ装置に比べて、高い効率が得られる。このため、ボールねじ装置は、たとえば電動モータなどの駆動源の回転運動を直線運動に変換するために、自動車の電動ブレーキ装置やオートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、工作機械の位置決め装置などの各種機械装置に組み込まれている。
【0003】
ボールねじ装置は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、軸側ボールねじ溝とナット側ボールねじ溝との間に配置された複数のボールとを備える。ボールねじ装置は、用途に応じて、ねじ軸とナットとのうちの一方を回転運動要素とし、ねじ軸とナットとのうちの他方を直線運動要素として用いられる。
【0004】
ボールねじ装置においては、直線運動要素が所定範囲を超えて直線運動することを防止するため、直線運動要素のストロークエンドを規制することが行われている。
図22は、特開2016-70281号公報に記載された、直線運動要素のストロークエンドを規制するための構造を備えた従来構造のボールねじ装置100を示している。
【0005】
ボールねじ装置100は、ねじ軸101と、ナット102と、図示しない複数のボールと、ストッパ103とを備える。
【0006】
ねじ軸101は、ねじ部104と、ねじ部104の軸方向一方側に隣接配置された嵌合軸部105とを有する。ねじ部104は、外周面に、螺旋状の軸側ボールねじ溝106を有する。嵌合軸部105は、ねじ部104よりも小さい外径を有し、かつ、外周面の円周方向等間隔複数個所に雄スプライン歯を有する。ねじ軸101は、ねじ部104をナット102の内側に挿通した状態で、ナット102と同軸に配置されている。
【0007】
ナット102は、円筒形状を有し、かつ、内周面に、図示しない螺旋状のナット側ボールねじ溝と略S字形の循環溝とを有する。ナット102は、軸方向一方側の端部に、第1係合部107を有する。
【0008】
軸側ボールねじ溝106とナット側ボールねじ溝とは、径方向に互いに対向するように配置され、螺旋状の負荷路を構成する。負荷路の始点と終点とは、ナット102の内周面に形成された循環溝により接続されている。このため、負荷路の終点にまで達したボールは、循環溝を通じて、負荷路の始点にまで戻される。なお、負荷路の始点と終点とは、ねじ軸101とナット102との軸方向に関する相対変位の方向に応じて入れ替わる。
【0009】
ストッパ103は、円環形状を有するボス部108と、突起形状を有する第2係合部109とを有する。ボス部108は、ねじ軸101の嵌合軸部105に対して相対回転不能に外嵌されている。具体的には、ボス部108は、内周面に形成された雌スプライン歯を、嵌合軸部105の外周面に形成された雄スプライン歯に対してスプライン係合させることで、嵌合軸部105に対して相対回転不能に外嵌されている。第2係合部109は、ボス部108の外周面の円周方向一部から径方向に突出している。
【0010】
従来構造のボールねじ装置100においては、ねじ軸101とナット102とのいずれかの直線運動要素が直線運動してストロークエンドに達すると、ナット102に備えられた第1係合部107と、ストッパ103に備えられた第2係合部109とが、円周方向に係合する。これにより、ねじ軸101とナット102とのいずれかの回転運動要素の回転が阻止されるため、直線運動要素のストロークエンドを規制することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特開2016-70281号公報に記載された従来構造のボールねじ装置100においては、ストッパ103を、直線運動要素のストロークエンドを規制することにのみ利用している。
【0013】
近年、ボールねじ装置の用途が多様化しており、ストッパを、ねじ部と駆動部材などの挟持部材との間で軸方向に挟持するように配置して、ねじ部と挟持部材との間でアキシアル荷重を伝達する使用態様が検討されている。
【0014】
ところが、従来構造のボールねじ装置100においては、ストッパ103の軸方向両側の側面のそれぞれを、平坦面状に構成している。別な言い方をすれば、ボス部108の軸方向側面と第2係合部109の軸方向側面とを、同一の平面上に位置させている。
【0015】
このため、たとえば、ストッパ103の軸方向一方側の側面から前記挟持部材に対してアキシアル荷重を伝達する場合、第2係合部109の軸方向一方側の側面を含む、ストッパ103の軸方向一方側の側面全体が、前記挟持部材に接触する。第2係合部109は、ボス部108の外周面の円周方向一部にのみ備えられているため、前記挟持部材に対するストッパ103の接触面は、ストッパ103の中心軸に関して回転非対称な形状になる。このため、ストッパ103に、偏荷重やモーメント荷重が付与される可能性がある。
【0016】
具体的には、
図23に示すように、ストッパ103の軸方向一方側の側面から図示しない挟持部材にアキシアル荷重を伝達する場合、ストッパ103の中心軸Oから、第2係合部109が含まれるストッパ103の径方向一方側半部(
図23の上側半部)の荷重作用点Aまでの距離(モーメント長さ)L1は、ストッパ103の中心軸Oから、ストッパ103の径方向他方側半部(
図23の下側半部)における荷重作用点Bまでの距離L2よりも長くなる(L1>L2)。このため、アキシアル荷重分布を集中荷重に変換した場合に、集中荷重の作用線が、ストッパ103の中心軸Oから径方向にずれる。この結果、ストッパ103には、
図23に矢印Xで示した方向のモーメントが作用する。
【0017】
ストッパ103にモーメントが作用すると、ストッパ103を外嵌したねじ軸101に傾きが生じやすくなり、負荷路を転動するボールに荷重が均等に負荷されにくくなる。この結果、ボールねじ装置100の寿命低下を招く可能性がある。
【0018】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、ボールねじ装置の寿命低下を招くことなく、ねじ部と挟持部材との間でアキシアル荷重の伝達を行える、ボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、ストッパと、挟持部材とを備える。
【0020】
前記ねじ軸は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ部と、前記ねじ部の軸方向一方側に隣接配置された、前記ねじ部よりも外径の小さい嵌合軸部とを有する。
【0021】
前記ナットは、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有し、かつ、軸方向一方側の端部に第1係合部を有する。
【0022】
前記複数のボールは、前記軸側ボールねじ溝と前記ナット側ボールねじ溝との間に配置される。
【0023】
前記ストッパは、前記嵌合軸部に対して相対回転不能に外嵌されたボス部と、前記ボス部の外周面から径方向に突出し、前記第1係合部と円周方向に係合可能な第2係合部とを有する。
【0024】
前記挟持部材は、前記ストッパの軸方向一方側に隣接配置され、前記ストッパを前記ねじ部との間で軸方向に挟持する。
【0025】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置は、前記ストッパにモーメントを作用させることなく、前記ねじ部と前記挟持部材との間で前記ストッパを介してアキシアル荷重の伝達を行う。
【0026】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記ストッパは、軸方向一方側の側面に、前記ストッパの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成され、かつ、前記ストッパの中心軸に関して回転対称な形状を有する、前記挟持部材に接触する第1接触面を有することができ、および、軸方向他方側の側面に、前記ストッパの中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成され、かつ、前記ストッパの中心軸に関して回転対称な形状を有し、前記ねじ部に接触する第2接触面を有することができる。
【0027】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記第1接触面を、前記ボス部の軸方向一方側の側面から構成し、かつ、前記第2接触面を、前記ボス部の軸方向他方側の側面から構成することができる。
【0028】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記第2係合部の軸方向一方側の側面を、前記ボス部の軸方向一方側の側面に対して軸方向他方側に軸方向位置をずらして配置することができ、かつ、前記第2係合部の軸方向他方側の側面を、前記ボス部の軸方向他方側の側面に対して軸方向一方側に軸方向位置をずらして配置することができる。
【0029】
この場合、前記第2係合部の軸方向一方側の側面を、前記ボス部の軸方向一方側の側面に対して、円弧形の断面形状を有する段差部を介して接続することができ、かつ、前記第2係合部の軸方向他方側の側面を、前記ボス部の軸方向他方側の側面に対して、円弧形の断面形状を有する段差部を介して接続することができる。
【0030】
代替的または付加的に、前記ボス部の軸方向一方側の側面に対する前記第2係合部の軸方向一方側の側面の軸方向他方側への位置ずれ量と、前記ボス部の軸方向他方側の側面に対する前記第2係合部の軸方向他方側の側面の軸方向一方側への位置ずれ量とを、互いに同じにすることができる。別の言い方をすれば、前記ストッパの軸方向一方側の側面と軸方向他方側の側面とを、鏡面対称に構成することができる。
【0031】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記第2係合部の軸方向の厚さを、径方向にわたり一定とすることができる。
【0032】
あるいは、前記第2係合部の軸方向の厚さを、径方向外側に向かうほど小さくすることができる。
【0033】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記第2係合部の円周方向両側面のうち、前記第1係合部と円周方向に係合する側の側面を、軸方向から見て円弧形の輪郭形状を有する凹曲面を介して、前記ボス部の外周面に滑らかにつなぐことができ、かつ、前記第2係合部の円周方向両側面のうち、前記第1係合部と円周方向に係合しない側の側面を、軸方向から見て前記ボス部の外周面に対して該ボス部の外周面の接線方向につなげることができる。
【0034】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記嵌合軸部は、外周面に互いに平行な1対の平坦外面を有する二面幅形状を有することができ、前記ボス部は、内周面に互いに平行な1対の平坦内面を有する二面幅形状の係合孔を有することができる。
【0035】
あるいは、前記嵌合軸部は、外周面に雄スプライン歯を有することができ、前記ボス部は、内周面に雌スプライン歯を有する係合孔を有することができる。
【0036】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記ストッパを、前記嵌合軸部に対して軸方向に関する相対変位を可能に緩く外嵌することができ、かつ、前記挟持部材を、前記ねじ軸、たとえば嵌合軸部に対して圧入により外嵌することができる。
【0037】
あるいは、前記ストッパを、前記嵌合軸部に対して圧入により外嵌することができ、かつ、前記挟持部材を、前記ねじ軸、たとえば嵌合軸部に対して圧入により外嵌することができる。
【0038】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記ねじ軸を、使用時に回転運動する回転運動要素とすることができ、前記ナットを、使用時に直線運動する直線運動要素とすることができ、かつ、前記挟持部材を、前記ねじ軸を回転駆動する駆動部材または前記ねじ軸を回転自在に支持する転がり軸受とすることができる。この場合、前記駆動部材を、歯車、プーリ、スプロケット、またはモータシャフトにより構成することができる。
【0039】
あるいは、本発明の一態様にかかるボールねじ装置では、前記ねじ軸を、使用時に直線運動する直線運動要素とすることができ、前記ナットを、使用時に回転運動する回転運動要素とすることができ、かつ、前記挟持部材を、前記ねじ軸とともに直線運動するピストンとすることができる。
【0040】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置の製造方法は、本発明の一態様にかかるボールねじ装置の製造方法であって、素材に鍛造加工を施して、前記ストッパの概略形状を有する中間素材を形成した後、前記中間素材の軸方向両側の側面のそれぞれに機械加工を施し、前記ストッパを製造する工程を備える。
【0041】
前記ストッパを製造する工程では、前記素材に鍛造加工を施して、前記ストッパの概略形状を有し、かつ、回転対称な形状を有する軸方向両側の側面を備えた前記中間素材を形成した後、前記中間素材の前記軸方向両側の側面のそれぞれに機械加工を施し、前記第1接触面と前記第2接触面とを形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明のボールねじ装置は、ストッパにモーメントを作用させることなく、ねじ部と挟持部材との間で、前記ストッパを介してアキシアル荷重の伝達を行うことができるため、ボールねじ装置の寿命低下を招くことなく、前記ねじ部と前記挟持部材との間でアキシアル荷重の伝達を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を軸方向から見た正面図である。
【
図4】
図4は、第1例にかかるボールねじ装置を、駆動部材を省略して示す、斜視図である。
【
図5】
図5は、第1例のボールねじ装置を構成するストッパを軸方向一方側から見た正面図である。
【
図8】
図8は、第2例のストッパについての
図5に相当する図である。
【
図9】
図9は、第2例のストッパについての
図6に相当する図である。
【
図14】
図14(A)は、第4例のボールねじ装置についての
図4に相当する図であり、
図14(B)は、第4例の変形例のボールねじ装置についての
図4に相当する図である。
【
図15】
図15は、第4例のボールねじ装置を構成するストッパについての
図7に相当する図である。
【
図16】
図16(A)は、第5例のボールねじ装置についての
図4に相当する図であり、
図16(B)は、第5例の変形例のボールねじ装置についての
図4に相当する図である。
【
図17】
図17は、第5例のボールねじ装置を構成するストッパについての
図7に相当する図である。
【
図18】
図18は、第6例のボールねじ装置を構成するストッパについての
図2に相当する図である。
【
図20】
図20は、第7例のボールねじ装置を構成するストッパについての
図2に相当する図である。
【
図22】
図22は、従来構造のボールねじ装置を示す斜視図である。
【
図23】
図23は、従来構造のボールねじ装置の課題を説明するために示す、該ボールねじ装置を構成するストッパの断面図である。
【0044】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図7を用いて説明する。
【0045】
〔ボールねじ装置の全体構成〕
本例のボールねじ装置1は、たとえば、電動ブレーキブースター装置に組み込まれ、駆動源である電動モータの回転運動を直線運動に変換し、油圧シリンダのピストンを動作させるなどの用途で使用される。
【0046】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、ナット3と、複数のボール4と、ストッパ5と、挟持部材に相当する駆動部材6とを備える。本例のボールねじ装置1では、ねじ軸2が、使用時に回転する回転運動要素を構成し、かつ、ナット3が、使用時に直線運動する直線運動要素を構成する。つまり、本例のボールねじ装置1は、ねじ軸2を回転駆動し、ナット3を直線運動させる態様で使用される。
【0047】
ねじ軸2は、ナット3の内側に挿通され、ナット3と同軸に配置されている。ねじ軸2の外周面とナット3の内周面との間には、螺旋状の負荷路7が備えられている。負荷路7には、複数のボール4が転動可能に配置されている。ねじ軸2とナット3とを相対回転させると、負荷路7の終点に達したボール4は、ナット3の内周面に形成された循環溝8を通じて、負荷路7の始点へと戻される。以下、ボールねじ装置1の各構成部品の構造について説明する。
【0048】
以下の説明において、軸方向、径方向および円周方向とは、特に断らない限り、ねじ軸に関する軸方向、径方向および円周方向をいう。また、軸方向一方側とは、
図2、
図3および
図6の右側、
図4の左側を指し、軸方向他方側とは、
図2、
図3および
図6の左側、
図4の右側を指す。
【0049】
〈ねじ軸〉
ねじ軸2は、金属製で、ねじ部9と、ねじ部9の軸方向一方側に隣接配置された嵌合軸部10とを有する。ねじ部9と嵌合軸部10とは、同軸に配置されており、互いに一体に構成されている。嵌合軸部10は、ねじ部9よりも小さい外径を有する。このため、ねじ軸2は、ねじ部9と嵌合軸部10との間に、軸方向一方側を向いた段差面11を有する。図示の例では、段差面11は、ねじ部9の軸方向一方側の側面、すなわち、ねじ軸2の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成されている。
【0050】
ねじ部9は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝12を有する。軸側ボールねじ溝12は、ねじ部9の外周面に、研削加工、切削加工、または転造加工を施すことにより形成される。本例では、軸側ボールねじ溝12の条数を1条としている。軸側ボールねじ溝12は、ゴシックアーチ形またはサーキュラアーク形の溝形状を有する。
【0051】
嵌合軸部10は、外周面に、複数の雄スプライン歯13を有する。雄スプライン歯13は、嵌合軸部10の外周面の円周方向等間隔複数箇所に配置されている。すなわち、嵌合軸部10は、スプライン軸部により構成される。図示の例では、それぞれの雄スプライン歯13を、インボリュートスプライン歯により構成しているが、角スプライン歯またはセレーションにより構成することもできる。
【0052】
ねじ軸2は、ねじ部9をナット3の内側に挿通した状態で、ナット3と同軸に配置されている。なお、本例では、ねじ軸2を、ねじ部9と嵌合軸部10とから構成しているが、本発明を実施する場合には、ねじ軸は、ハウジングなどに対して回転自在に支持するための転がり軸受などを固定するための第2嵌合軸部などを備えることもできる。
【0053】
〈ナット〉
ナット3は、金属製で、全体が円筒状に構成されている。ナット3は、内周面に、螺旋状のナット側ボールねじ溝14と、循環溝8とを有する。
【0054】
ナット側ボールねじ溝14は、螺旋形状を有する。ナット側ボールねじ溝14は、ナット3の内周面に、たとえば研削加工、切削加工、転造タップ加工、または切削タップ加工を施すことにより形成される。ナット側ボールねじ溝14は、軸側ボールねじ溝12と同じリードを有する。このため、ねじ軸2のねじ部9をナット3の内側に挿通配置した状態で、軸側ボールねじ溝12とナット側ボールねじ溝14とは、径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路7を構成する。ナット側ボールねじ溝14の条数は、軸側ボールねじ溝12と同様に1条である。ナット側ボールねじ溝14は、軸側ボールねじ溝12と同様に、ゴシックアーチ形またはサーキュラアーク形の溝形状を有する。
【0055】
循環溝8は、略S字形状を有する。循環溝8は、ナット3の内周面に、たとえば冷間鍛造加工によって形成される。循環溝8は、ナット側ボールねじ溝14のうち、軸方向に隣り合う部分同士をなめらかに接続し、負荷路7の始点と終点とをつないでいる。このため、負荷路7の終点にまで達したボール4は、循環溝8を通じて、負荷路7の始点にまで戻される。なお、負荷路7の始点と終点とは、ねじ軸2とナット3との軸方向に関する相対変位の方向、別の言い方をすればねじ軸2とナット3との相対回転方向に応じて入れ替わる。
【0056】
循環溝8は、略半円形の断面形状を有する。循環溝8は、ボール4の直径よりもわずかに大きな溝幅を有し、かつ、循環溝8を移動するボール4が、軸側ボールねじ溝12のねじ山を乗り越えることができる溝深さを有する。
【0057】
ナット3は、軸方向一方側の端部に、第1係合部15を有する。第1係合部15は、ナット3の軸方向一方側の端部の円周方向一部に備えられており、円筒状の本体部分から軸方向一方側に向けて突出している。第1係合部15は、扇柱形状を有し、かつ、ストッパ5の軸方向の厚さ寸法とほぼ同じ大きさの軸方向突出量を有する。第1係合部15は、円周方向一方側の側面(
図4の左側面)に、平坦面状の第1ストッパ面16を有する。第1ストッパ面16は、ナット3の中心軸と略平行に配置されている。図示の例では、ナット3は、第1係合部15を含めて全体を一体に構成されている。ただし、本発明を実施する場合には、内周面にナット側ボールねじ溝を有する円筒状の本体部分と、該本体部分とは別体に構成した第1係合部を、前記本体部分に対して固定することもできる。
【0058】
本例のボールねじ装置1は、ナット3を直線運動要素として用いる。このため、本例では、図示しない回り止め機構により、ナット3の回り止めを図っている。回り止め機構としては、従来から知られた各種構造を採用することができるが、たとえば、ハウジングなどの固定部材の内周面に備えた突条部(キー)を、ナット3の外周面に軸方向に形成した凹溝50に係合させる構造などを採用することができる。
【0059】
〈ボール〉
ボール4は、所定の直径を有する鋼球であり、負荷路7および循環溝8に転動可能に配置されている。負荷路7に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けながら転動するのに対し、循環溝8に配置されたボール4は、圧縮荷重を受けることなく、後続のボール4に押されて転動する。
【0060】
〈ストッパ〉
ストッパ5は、金属製で、全体が略6字状に構成されている。本例のストッパ5は、直線運動要素であるナット3のストロークエンドを規制する機能だけでなく、軸方向両側に配置されたねじ部9と駆動部材6との間でアキシアル荷重を伝達する機能を有する。
【0061】
ストッパ5は、円環形状を有するボス部17と、突起形状を有する第2係合部18とを有する。
【0062】
ボス部17は、ねじ軸2の嵌合軸部10に対して相対回転不能に外嵌されている。ボス部17は、径方向中央部に、嵌合軸部10を軸方向に挿通可能な係合孔19を有する。本例では、係合孔19は、内周面に、複数の雌スプライン歯20を有する。雌スプライン歯20は、係合孔19の内周面の円周方向等間隔複数箇所に配置されている。すなわち、係合孔19は、スプライン孔により構成される。ボス部17は、係合孔19に、嵌合軸部10をスプライン係合させることで、嵌合軸部10に対して相対回転不能に外嵌されている。本例では、ボス部17を、嵌合軸部10に対して、軸方向の相対変位を可能に緩くスプライン係合させているが、ボス部17を、嵌合軸部10に対して圧入状態でスプライン嵌合させても良い。ボス部17の軸方向の厚さは、嵌合軸部10の軸方向寸法よりも十分に小さい。
【0063】
ボス部17は、円筒面状の外周面を有し、かつ、ねじ軸2に備えられた段差面11の外径とほぼ同じ大きさの外径を有する。
【0064】
第2係合部18は、ボス部17の外周面の円周方向一部に備えられており、径方向外側に向けて突出している。第2係合部18の外周面は、部分円筒面状に構成されており、ナット3の外径とほぼ同じ大きさの外接円直径を有する。
【0065】
第2係合部18は、円周方向他方側の側面(
図5の右側面)に、平坦面状の第2ストッパ面21を有する。第2ストッパ面21は、ナット3がねじ軸2に対して軸方向一方側に相対移動してストロークエンドに達した状態で、第1ストッパ面16と面接触する。このため、本例では、第2ストッパ面21は、ストッパ5の中心軸と略平行に配置されている。本例では、第2係合部18の円周方向他方側の側面、すなわち第2ストッパ面21が、第1係合部15と円周方向に係合する側の側面に相当し、かつ、第2係合部18の円周方向一方側の側面が、第1係合部15と円周方向に係合しない側の側面に相当する。
【0066】
第2ストッパ面21とボス部17の外周面とは、軸方向から見て円弧形の輪郭形状を有する凹曲面53を介して滑らかにつながっている。凹曲面53の曲率半径Rの大きさは、以下の第1の条件および第2の条件を満たす範囲で、可能な限り大きい値に設定されている。第1の条件は、第2ストッパ面21の径方向寸法L21が、第1ストッパ面16の径方向寸法L16よりも大きいという条件(L21>L16)である。第2の条件は、第2ストッパ面21の径方向寸法L21と第1ストッパ面16の径方向寸法L16との差(L21-L16)が、第1ストッパ面16の径方向寸法L16の1/10倍以上であるという条件(L21-L16≧1/10×L16)である。本例では、このような第1の条件および第2の条件を満たすように、凹曲面53の曲率半径Rの大きさを設定している。具体的には、凹曲面53の曲率半径Rは、ボス部17の直径Dの1/5倍以上1/2倍以下であることが好ましく、図示の例では、凹曲面53の曲率半径Rは、ボス部17の直径Dの1/3倍程度の大きさである。
【0067】
第2係合部18の円周方向一方側の側面(
図5の左側面)は、平坦面状に構成されており、ボス部17の外周面の接線方向に伸長している。このため、第2係合部18の円周方向一方側の側面は、軸方向から見てボス部17の外周面に対し該ボス部17の外周面の接線方向につながっている。このため、第2係合部18は、径方向内側から径方向外側に向かうほど円周方向幅が小さくなる先細形状、別の言い方をすれば軸方向から見て略台形の端面形状を有する。
【0068】
なお、本発明を実施する場合、第2係合部の円周方向一方側の側面は、ボス部の外周面に滑らかにつながっていれば、すなわち、軸方向から見て、ボス部の外周面との接続部における第2係合部の円周方向一方側の側面の接線と、第2係合部の円周方向一方側の側面との接続部におけるボス部外周面の接線とが同一直線上に存在していれば、必ずしも平坦面状に構成されている必要はない。たとえば、第2係合部の円周方向一方側の側面は、ボス部の外周面の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する凸曲面により構成することもできる。
【0069】
第2係合部18の軸方向の厚さは、径方向にわたり一定であり、かつ、ボス部17の軸方向の厚さよりも小さくなっている。このため、第2係合部18の軸方向一方側の側面18xは、ボス部17の軸方向一方側の側面17xに対して軸方向他方側に軸方向位置をずらして配置され、かつ、第2係合部18の軸方向他方側の側面18yは、ボス部17の軸方向他方側の側面17yに対して軸方向一方側に軸方向位置をずらして配置されている。別な言い方すれば、ボス部17の軸方向一方側の側面17xは、第2係合部18の軸方向一方側の側面18xよりも軸方向に張り出しており、ボス部17の軸方向他方側の側面17yは、第2係合部18の軸方向他方側の側面18yよりも軸方向に張り出している。
【0070】
このため、ストッパ5の軸方向両側の側面のそれぞれは、平坦面ではなく、段付形状になっている。ボス部17の軸方向一方側の側面17xと第2係合部18の軸方向一方側の側面18xとは、円弧形の断面形状を有する段差部54xを介して接続されている。ボス部17の軸方向他方側の側面17yと第2係合部18の軸方向他方側の側面18yとは、円弧形の断面形状を有する段差部54yを介して接続されている。本例では、段差部54xおよび段差部54yのそれぞれの曲率半径を、ストッパ5の軸方向寸法Tの1/25倍~1/2倍程度の値、好ましくは1/10倍~1/3倍程度の値に設定している。
【0071】
本例では、ボス部17の軸方向一方側の側面17xに対する第2係合部18の軸方向一方側の側面18xの軸方向他方側への位置ずれ量(オフセット量、段差部の高さ)t1と、ボス部17の軸方向他方側の側面17yに対する第2係合部18の軸方向他方側の側面18yの軸方向一方側への位置ずれ量t2とを、互いに同じとしている(t1=t2)。別の言い方をすれば、ストッパ5の軸方向一方側の側面と軸方向他方側の側面とを、鏡面対称に構成している。これにより、第2係合部18が第1係合部15と接触することで、第2係合部18に変形が生じた場合にも、第2係合部18が、ナット3および駆動部材6と干渉することを防止でき、ストッパ5の取り付け状態を安定させることができる。
【0072】
本例では、第2係合部18の軸方向側面18x、18yの位置ずれ量t1、t2を、ストッパ5の軸方向寸法Tの1/20倍~1/5倍程度、好ましくは1/15倍~1/8倍程度の小さな値に設定している。図示の例では、ストッパ5の軸方向寸法Tを5mmとし、第2係合部18の軸方向一方側の側面18xおよび軸方向他方側の側面18yのそれぞれの位置ずれ量t1、t2を0.5mmに設定している。
【0073】
本例では、ストッパ5の軸方向一方側の側面のうち、第2係合部18の軸方向一方側の側面18xよりも軸方向に張り出した、円環形状を有するボス部17の軸方向一方側の側面17xを、後述する駆動部材6の円環面28に接触させる、第1接触面22としている。ストッパ5の軸方向他方側の側面のうち、第2係合部18の軸方向他方側の側面18yよりも軸方向に張り出した、円環形状を有するボス部17の軸方向他方側の側面17yを、ねじ部9の段差面11に接触させる、第2接触面23としている。
【0074】
第1接触面22は、ストッパ5の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成され、かつ、ストッパ5の中心軸に関して回転対称な形状を有する。具体的には、第1接触面22は、n回対称(nは、係合孔19の内周面に形成された雌スプライン歯の個数)となっている。
【0075】
第2接触面23は、ストッパ5の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成され、かつ、ストッパ5の中心軸に関して回転対称な形状を有する。具体的には、第2接触面23は、n回対称(nは、係合孔19の内周面に形成された雌スプライン歯の個数)となっている。
【0076】
本例では、第1接触面22および第2接触面23は、円形状の外周縁および凹凸状の内周縁をそれぞれ有しており、互いに同形かつ同大である。以上のような本例のストッパ5は、軸方向に関して対称(
図6において左右対称)な形状を有する。
【0077】
以上のような本例のストッパ5は、たとえば、次のようにして製造することができる。先ず、たとえば円柱形状を有する金属製の素材に、複数段の鍛造加工、たとえば冷間鍛造加工を施して、素材の形状を、ストッパ5の概略形状に徐々に塑性変形させることで、ストッパ5の概略形状を有する中間素材を造る。すなわち、素材に鍛造加工を施すことで、内周面に複数の雌スプライン歯を有する円環状のボス部および突起状の第2係合部を備えた中間素材を得る。その後、中間素材の軸方向両側の側面のうち、第1接触面22および第2接触面23となるボス部の軸方向両側の側面のそれぞれに、切削加工や研削加工などの機械加工を施す。これにより、ボス部の軸方向両側の側面の平面度を向上させて、ボス部の軸方向両側の側面に第1接触面22および第2接触面23を形成する。そして、完成品であるストッパ5を得る。第2係合部の軸方向両側の側面については、鍛造加工後の状態のまま用いることができる。ただし、第2係合部の軸方向両側の側面にも、切削加工や研削加工などの機械加工を施すこともできる。
【0078】
ボス部17の軸方向一方側の側面17xに対する第2係合部18の軸方向一方側の側面18xの軸方向他方側への位置ずれ量t1と、ボス部17の軸方向他方側の側面17yに対する第2係合部18の軸方向他方側の側面18yの軸方向一方側への位置ずれ量t2とが異なると、鍛造加工を行う際に材料のフローに偏りが生じやすくなる。位置ずれ量t1と位置ずれ量t2との少なくともいずれかを大きな値に設定すると、鍛造加工時における材料の延び量(潰し量)が大きくなり、アキシアル方向の応力が集中して、第2係合部18とボス部17との境界部にクラックが発生しやすくなる。本例のように、ストッパ5の軸方向寸法Tに対する、第2係合部18の軸方向側面18x、18yの位置ずれ量t1、t2を小さく設定すれば、クラックの発生を防止できる。
【0079】
ただし、本発明を実施する場合、クラックの発生を防止することができる限り、ボス部の軸方向一方側の側面に対する第2係合部の軸方向一方側の側面の軸方向他方側への位置ずれ量と、ボス部の軸方向他方側の側面に対する第2係合部の軸方向他方側の側面の軸方向一方側への位置ずれ量とを異ならせることもできる。
【0080】
〈駆動部材〉
駆動部材6は、歯車やプーリなどの部材であり、電動モータなどの駆動源から入力されたトルクをねじ軸2に伝達することで、ねじ軸2を回転駆動する。駆動部材6は、ストッパ5の軸方向一方側に隣接配置されており、ねじ部9との間で、ストッパ5を軸方向に挟持する。
【0081】
駆動部材6は、円板部24と、円筒状の筒部25とを有する。
【0082】
円板部24は、径方向中央部に、軸方向に貫通した取付孔26を有する。取付孔26は、内周面に、複数の雌スプライン歯27を有する。雌スプライン歯27は、取付孔26の内周面の円周方向等間隔複数箇所に配置されている。すなわち、取付孔26は、スプライン孔により構成される。円板部24は、取付孔26に、嵌合軸部10のうち、ストッパ5を外嵌した部分から軸方向一方側に外れた部分をスプライン係合させることで、嵌合軸部10に対して相対回転不能に外嵌されている。本例では、円板部24の取付孔26に、嵌合軸部10を圧入によりスプライン係合させている。ただし、駆動部材の取付孔に、嵌合軸部を緩くスプライン係合させ、かつ、嵌合軸部のうちの駆動部材の円板部よりも軸方向一方側に突出した部分に止めナットを螺合したり止め輪を係止したりすることで、ねじ軸に対する駆動部材の軸方向変位を阻止することもできる。円板部24は、軸方向他方側の側面の径方向内側部分に、円環面28を有する。円環面28は、駆動部材6の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成されている。
【0083】
筒部25は、円板部24の軸方向他方側の側面の径方向外側部分から軸方向に伸長している。筒部25は、ナット3の外径よりもわずかに大きな内径を有する。筒部25は、ストッパ5およびねじ部9の軸方向一方側の端部の周囲を覆っている。
【0084】
円板部24または筒部25の外周面には、ギヤ部を形成することもできるし、ベルトを掛け渡すこともできる。
【0085】
駆動部材6を、嵌合軸部10のうちで、ストッパ5の軸方向一方側に隣接した位置に外嵌固定することで、駆動部材6とねじ部9との間でストッパ5を軸方向に挟持する。これにより、駆動部材6を構成する円板部24の円環面28を、ストッパ5の軸方向一方側の側面のうち、ボス部17の軸方向一方側の側面17xにより構成される第1接触面22に対して全周にわたり面接触させる。および、ねじ部9の段差面11を、ストッパ5の軸方向他方側の側面のうち、ボス部17の軸方向他方側の側面17yにより構成される第2接触面23に対して全周にわたり面接触させる。この状態で、円板部24の軸方向他方側の側面とストッパ5の第2係合部18の軸方向一方側の側面18xとの間には、隙間が形成される。および、第2係合部18の軸方向他方側の側面18yは、段差面11よりも軸方向一方側に配置される。
【0086】
〈ボールねじ装置の動作説明〉
本例のボールねじ装置1は、図示しない駆動源により駆動部材6を介してねじ軸2を回転駆動することで、ナット3を直線運動させる。
【0087】
ねじ軸2を所定方向に回転駆動することで、ナット3がねじ軸2に対して軸方向一方側に相対移動してストロークエンドに達すると、ナット3に備えられた第1係合部15の第1ストッパ面16と、ストッパ5に備えられた第2係合部18の第2ストッパ面21とが円周方向に係合する。本例では、第1ストッパ面16と第2ストッパ面21とが面接触する。これにより、ねじ軸2の前記所定方向への回転が阻止される。このように、本例のボールねじ装置1は、ストッパ5により、ナット3がねじ軸2に対して軸方向一方側に相対移動することに関するストロークエンドを規制することができる。なお、ナット3がねじ軸2に対して軸方向他方側に相対移動することに関するストロークエンドは、従来から知られた各種のストローク制限機構を利用して規制することができる。
【0088】
本例のボールねじ装置1は、ストッパ5を介して、ねじ部9と駆動部材6との間でアキシアル荷重を伝達する。たとえば、ねじ軸2を前記所定方向と反対方向に回転駆動することで、ナット3をねじ軸2に対して軸方向他方側に相対移動させる場合、ねじ軸2には、負荷路7に配置されたボール4を介して軸方向一方側を向いたアキシアル荷重(反力)が作用する。本例では、ねじ軸2に作用する軸方向一方側を向いたアキシアル荷重を、ねじ部9の段差面11からストッパ5の第2接触面23に伝達した後、ストッパ5の第1接触面22から駆動部材6を構成する円板部24の円環面28に伝達し、駆動部材6に支承させることができる。反対に、駆動部材6に作用する軸方向他方側を向いたアキシアル荷重についても、円板部24の円環面28からストッパ5の第1接触面22に伝達した後、ストッパ5の第2接触面23からねじ部9の段差面11に伝達することができる。
【0089】
以上のような本例のボールねじ装置1によれば、ボールねじ装置1の寿命低下を招くことなく、ねじ部9と駆動部材6との間でアキシアル荷重の伝達を行うことができる。
【0090】
本例では、第1接触面22および第2接触面23のそれぞれが、ストッパ5の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成され、かつ、ストッパ5の中心軸に関して回転対称な形状を有する。このため、ストッパ5の中心軸から第2接触面23に作用する荷重の大きさおよび荷重作用点(荷重入力点)までの距離Lは、ストッパ5の中心軸を挟んで反対側に位置する両側部分、すなわち位相が180度異なる部分で互いに等しくなる。さらに、ストッパ5の中心軸から第1接触面22に作用する荷重の大きさおよび荷重作用点(荷重入力点)までの距離Lも、
図6に示すように、ストッパ5の中心軸Оを挟んで反対側に位置する両側部分、すなわち位相が180度異なる部分で互いに等しくなる。このため、本例のボールねじ装置1によれば、アキシアル荷重分布を集中荷重に変換した場合に、集中荷重の作用線を、ストッパ5の中心軸O上に位置させることができる。
【0091】
したがって、本例のボールねじ装置1によれば、ストッパ5にモーメントを作用させずに、ねじ部9と駆動部材6との間でストッパ5を介してアキシアル荷重を伝達することができる。このため、ストッパ5を外嵌したねじ軸2に傾きが生じることを防止でき、負荷路7を転動するボール4に荷重が不均等に負荷されることを抑制できる。この結果、ボールねじ装置1の寿命低下を招くことなく、ねじ部9と駆動部材6との間でアキシアル荷重を伝達することができる。
【0092】
本例のボールねじ装置1では、ナット3に備えられた第1係合部15とストッパ5に備えられた第2係合部18とが円周方向に係合、すなわち衝突した際に、ストッパ5に応力集中が発生することを有効に防止できる。すなわち、本例のストッパ5は、第2係合部18の第2ストッパ面21とボス部17の外周面とを、軸方向から見て円弧形の輪郭形状を有する凹曲面53を介して滑らかに接続している。さらに、第2係合部18の円周方向両側面のうちで、第1係合部15と円周方向に係合しない円周方向一方側の側面を、軸方向から見てボス部17の外周面に対し該ボス部17の外周面の接線方向に接続している。このため、第2係合部18の円周方向両側の基端側部分とボス部17の外周面との接続部に、応力集中が発生することを防止できる。さらに、本例のストッパ5は、ボス部17の軸方向一方側の側面17xと第2係合部18の軸方向一方側の側面18xとを、円弧形の断面形状を有する段差部54xを介して接続し、かつ、ボス部17の軸方向他方側の側面17yと第2係合部18の軸方向他方側の側面18yとを、円弧形の断面形状を有する段差部54yを介して接続している。また、ストッパ5は、軸方向に関して対称な形状を有する。このため、第2係合部18の軸方向両側の基端側部分とボス部17との接続部に、応力集中が発生することを防止できる。
【0093】
本例では、上述のように、ナット3に備えられた第1係合部15とストッパ5に備えられた第2係合部18とが円周方向に係合した際に、ストッパ5に応力集中が発生することを有効に防止できるため、ストッパ5に局所的な変形が生じることを防止できる。したがって、ボール4による慣性力や駆動部材6を回転駆動する電動モータの慣性トルクなどに基づき、ねじ部9からストッパ5を介して駆動部材6にアキシアル荷重が伝達される際にも、ストッパ5の中心軸からアキシアル荷重の荷重作用点(荷重入力点)までの距離(モーメント長)を変化させずに済むため、ストッパ5にモーメントを作用させずに済む。このため、このような面からも、ボールねじ装置1の寿命低下を抑制できる。
【0094】
本例のストッパ5は、金属製の素材に、鍛造加工を施してストッパ5の概略形状を有する中間素材を造った後、第1接触面22および第2接触面23となる、ボス部の軸方向両側の側面のそれぞれに、切削加工や研削加工などの機械加工を施して製造することができる。このため、ストッパ5の製造コストを抑えることができ、ボールねじ装置1のコスト低減を図れる。
【0095】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図8~
図10を用いて説明する。
【0096】
本例では、ストッパ5aを構成する第2係合部18aの構造のみを、第1例の構造から変更している。
【0097】
具体的には、第2係合部18aの軸方向の厚さを、径方向外側に向かうほど小さくしている。このために、第2係合部18aの軸方向一方側の側面18xを、径方向外側に向かうほど軸方向他方側に向かう方向に傾斜させ、かつ、第2係合部18aの軸方向他方側の側面18yを、径方向外側に向かうほど軸方向一方側に向かう方向に傾斜させている。
【0098】
図9に示すように、本例では、ストッパ5aの中心軸Oに対する第2係合部18aの軸方向一方側の側面18xの傾斜角度αと、ストッパ5aの中心軸Oに対する第2係合部18aの軸方向他方側の側面18yの傾斜角度βとを、互いに同じとしている(α=β)。ただし、本発明を実施する場合には、ストッパの中心軸に対する第2係合部の軸方向一方側の側面の傾斜角度と、ストッパの中心軸に対する第2係合部の軸方向他方側の側面の傾斜角度とを、互いに異ならせることもできる。いずれにしても、これにより、ねじ軸2を所定方向に回転駆動することで、ナット3がねじ軸2に対して軸方向一方側に移動してストロークエンドに達した状態で、第2係合部18aの軸方向一方側の側面18xと、円板部24の軸方向他方側の側面との間に隙間が形成され、かつ、第2係合部18aの軸方向他方側の側面18yが、段差面11よりも軸方向一方側に配置される。
【0099】
本例では、ストッパ5aの軸方向両側面のそれぞれを、段付き形状ではなく、折れ曲がり形状としている。すなわち、第1接触面22を構成するボス部17の軸方向一方側の側面17xと、第2係合部18aの軸方向一方側の側面18xとを、段差部を介さずに、直接接続している。また、第2接触面23を構成するボス部17の軸方向他方側の側面17yと、第2係合部18aの軸方向他方側の側面18yとを、段差部を介さずに、直接接続している。つまり、本例では、第2係合部18aの軸方向一方側の側面18xを、ボス部17の軸方向一方側の側面17xに対して、軸方向位置をずらすことなく直接接続し、第2係合部18aの軸方向他方側の側面18yを、ボス部17の軸方向他方側の側面17yに対して、軸方向位置をずらすことなく直接接続している。そして、本例の場合にも、ストッパ5aは、軸方向に関して対称(
図9において左右対称)な形状を有する。
【0100】
本例では、ストッパ5aの軸方向両側の側面のそれぞれを、段付き形状ではなく、折れ曲がり形状としているため、ストッパ5aを鍛造加工により製造する際のプレス荷重を小さく抑えられ、かつ、鍛造型に加わる応力を小さく抑えることができる。このため、ストッパ5aの製造コストを抑えることができる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0101】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図11~
図13を用いて説明する。
【0102】
本例では、ストッパ5bを構成する第2係合部18bの構造のみを、第1例および第2例の構造とは異ならせている。
【0103】
具体的には、第2係合部18bの軸方向の厚さを、第2例の構造と同様に、径方向外側に向かうほど小さくし、かつ、第2係合部18bの軸方向両側の側面18x、18yのそれぞれを、ボス部17の軸方向両側の側面17x、17yに対して軸方向位置をずらして配置している。このため、第1接触面22を構成するボス部17の軸方向一方側の側面17xと、第2係合部18bの軸方向一方側の側面18xとを、直接接続せずに、円弧形の断面形状を有する段差部54xを介して接続している。また、第2接触面23を構成するボス部17の軸方向他方側の側面17yと、第2係合部18bの軸方向他方側の側面18yとを、直接接続せずに、円弧形の断面形状を有する段差部54yを介して接続している。本例の場合にも、ボス部17の軸方向一方側の側面17xに対する第2係合部18bの軸方向一方側の側面18xの軸方向他方側への位置ずれ量(オフセット量、段差部の高さ)t1と、ボス部17の軸方向他方側の側面17yに対する第2係合部18bの軸方向他方側の側面18yの軸方向一方側への位置ずれ量t2とを、互いに同じとしている(t1=t2)。そして、ストッパ5bは、軸方向に関して対称(
図12において左右対称)な形状を有する。
【0104】
本例では、ボス部17の軸方向両側の側面に備えられた第1接触面22および第2接触面23のそれぞれの輪郭を明確にすることができる。別な言い方をすれば、第1接触面22および第2接触面23との外周縁部と、第2係合部18bの軸方向両側の側面18x、18yとの境界を明確にすることができる。このため、実施の形態の第2例の構造に比べて、第2係合部18bの軸方向両側の側面18x、18yが、駆動部材6の円環面28(
図3参照)およびねじ部9の段差面11(
図3参照)に接触することを、有効に防止できる。その他の構成および作用効果については、第1例および第2例と同じである。
【0105】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図14(A)、
図14(B)、および
図15を用いて説明する。
【0106】
本例では、ねじ軸2の嵌合軸部10aに対するストッパ5cのボス部17aの固定構造を、第1例の構造から変更している。
【0107】
具体的には、嵌合軸部10aを、断面長円形(小判形)で、外周面に互いに平行な1対の平坦外面29を有する二面幅形状により構成している。また、ボス部17aの係合孔19aを、長円形孔(小判形孔)とし、内周面に互いに平行な1対の平坦内面30を有する二面幅形状により構成している。
【0108】
本例では、ねじ軸2の嵌合軸部10aをストッパ5cの係合孔19aの内側に緩く挿通した状態で、係合孔19aの内周面に備えられた1対の平坦内面30のそれぞれと、嵌合軸部10aの外周面に備えられた1対の平坦外面29のそれぞれとを係合、すなわち面接触させている。これにより、ストッパ5cを嵌合軸部10aに対して相対回転不能に非円形嵌合させている。なお、ストッパ5cを構成するボス部17aは、嵌合軸部10aに対して圧入状態で非円形嵌合させても良い。
【0109】
ねじ軸2は、嵌合軸部10aの軸方向一方側に、図示しない挟持部材、たとえば駆動部材6や転がり軸受などを相対回転不能に外嵌するための第2嵌合軸部31をさらに備える。たとえば、
図14(A)に示すように、第2嵌合軸部31を、軸方向一方側の端部に、断面長円形で、外周面に互いに平行な1対の平坦外面51を有する二面幅を備えるように構成することができる。第4例の変形例として、
図14(B)に示すように、第2嵌合軸部31を、軸方向一方側の端部に、外周面に雄スプライン歯52を有するスプライン軸部を備えるように構成することもできる。いずれの場合にも、第2嵌合軸部31に対して相対回転不能に外嵌した前記挟持部材により、ストッパ5cが嵌合軸部10aから軸方向一方側に抜け出ることを防止する。
【0110】
本例では、嵌合軸部10aの外面形状および係合孔19aの内面形状を、スプライン歯を形成する場合と比較して、簡略化することができる。このため、加工コストの低減を図ることができ、製造コストの低減を図れる。また、第1例の構造に比べて嵌合長さを確保しやすいため、ストッパ5cの軸方向の厚さを小さくすることができる。したがって、ボールねじ装置1(
図2参照)の軸方向寸法を小型化できる。
その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0111】
なお、上述した第4例では、嵌合軸部10aの軸方向一方側に、嵌合軸部10aとは断面形状の異なる第2嵌合軸部31を設け、挟持部材を第2嵌合軸部31に対して相対回転不能に外嵌する構成について説明した。ただし、第4例の別の変形例として、外周面に1対の平坦外面29を有する二面幅形状の嵌合軸部10aの軸方向長さを延長し、嵌合軸部10aのうちで、ストッパ5cから軸方向一方側に突出した部分に、内周面に1対の平坦内面を有する二面幅形状の取付孔を備えた挟持部材を、相対回転不能に外嵌する構成を採用することもできる。
【0112】
[第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、
図16(A)、
図16(B)、および
図17を用いて説明する。
【0113】
本例では、ねじ軸2の嵌合軸部10bに対するストッパ5dのボス部17bの固定構造を、第1例および第4例の構造とは異ならせている。
【0114】
具体的には、嵌合軸部10bを、円筒面状の外周面の円周方向複数個所(図示の例では3個所)に、それぞれが軸方向に伸長した係合凹溝32を形成することにより構成している。複数の係合凹溝32は、円周方向に関して等間隔に配置されている。
【0115】
また、ボス部17bの係合孔19bを、円筒面状の内周面の円周方向複数個所(図示の例では3個所)に、それぞれが径方向内側に突出した係合爪部33を形成することにより構成している。複数の係合爪部33は、円周方向に関して等間隔に配置されている。
【0116】
本例では、ねじ軸2の嵌合軸部10bをボス部17bの係合孔19bの内側に緩く挿通した状態で、複数の係合爪部33のそれぞれを、複数の係合凹溝32のそれぞれに対して係合(キー係合)させている。これにより、ストッパ5dを嵌合軸部10bに対して相対回転不能に非円形嵌合させている。なお、ストッパ5dを構成するボス部17bは、嵌合軸部10bに対して圧入状態で非円形嵌合させても良い。
【0117】
本例の場合にも、ねじ軸2は、嵌合軸部10bの軸方向一方側に、たとえば駆動部材6や転がり軸受などの図示しない挟持部材を相対回転不能に外嵌するための第2嵌合軸部31をさらに備える。第4例と同様に、第2嵌合軸部31として、たとえば、
図16(A)や
図16(B)に示す構成を採用できる。
【0118】
本例では、係合爪部33と係合凹溝32との複数の係合部を利用して、ストッパ5dと嵌合軸部10bとの間でトルク伝達を行えるため、第4例の構造に比べて、許容トルクを大きくすることができる。また、嵌合軸部10bの外面形状および係合孔19bの内面形状を、スプライン歯を形成する場合と比較して、簡略化することができるため、加工コストの低減を図ることができ、製造コストの低減を図れる。その他の構成および作用効果については、第1例および第4例と同じである。
【0119】
なお、第5例では、嵌合軸部10bの軸方向一方側に、嵌合軸部10bとは断面形状の異なる第2嵌合軸部31を設け、挟持部材を第2嵌合軸部31に対して相対回転不能に外嵌する構成について説明した。ただし、第5例の別の変形例として、外周面に複数の係合凹溝32を有する嵌合軸部10bの軸方向長さを延長し、嵌合軸部10bのうちで、ストッパ5dから軸方向一方側に突出した部分に、内周面に複数の係合爪部を有する取付孔を備えた挟持部材を、相対回転不能に外嵌する構成を採用することもできる。
【0120】
[第6例]
本発明の実施の形態の第6例について、
図18および
図19を用いて説明する。
【0121】
本例のボールねじ装置1aは、ストッパ5の軸方向一方側に配置し、ストッパ5をねじ部9との間で軸方向に挟持する挟持部材として、転がり軸受34を用いている。
【0122】
転がり軸受34は、内周面に外輪軌道35aを有する円環状の外輪35と、外周面に内輪軌道36aを有する円環状の内輪36と、外輪軌道35aと内輪軌道36aとの間に転動自在に配置された複数の転動体37とを有する。内輪36は、軸方向他方側の側面に、内輪36の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成される円環面28aを有している。
【0123】
本例では、転がり軸受34を構成する内輪36を、嵌合軸部10の軸方向一方側に備えられた円筒面状の外周面を有する第2嵌合軸部31に圧入により外嵌している。これにより、内輪36を、第2嵌合軸部31に対して相対回転不能に外嵌固定している。また、内輪36の円環面28aのうちの径方向内側部分を、ねじ軸2のうちで、嵌合軸部10と第2嵌合軸部31との間に配置された、軸方向一方側を向いた第2段差面38に対して突き当てている。
【0124】
本例では、転がり軸受34を構成する内輪36を、第2嵌合軸部31に外嵌固定することで、内輪36とねじ部9との間でストッパ5を軸方向に挟持する。これにより、内輪36の円環面28aのうちの径方向外側部分を、ストッパ5の軸方向一方側の側面のうち、ボス部17の軸方向一方側の側面17xにより構成される第1接触面22に対して全周にわたり面接触させる。また、ねじ部9の段差面11を、ストッパ5の軸方向他方側の側面のうち、ボス部17の軸方向他方側の側面17yにより構成される第2接触面23に対して全周にわたり面接触させる。この状態で、外輪35の軸方向他方側の側面とストッパ5の第2係合部18の軸方向一方側の側面18xとの間には、隙間が形成される。また、第2係合部18の軸方向他方側の側面18yは、段差面11から軸方向に退避して配置される。
【0125】
本例の場合にも、ボールねじ装置1aの寿命低下を招くことなく、ねじ部9と転がり軸受34との間でアキシアル荷重の伝達を行うことができる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0126】
[第7例]
本発明の実施の形態の第7例について、
図20および
図21を用いて説明する。
【0127】
本例のボールねじ装置1bは、ナット3aが、使用時に回転運動する回転運動要素を構成し、かつ、ねじ軸2aが、使用時に直線運動する直線運動要素を構成する。つまり、本例のボールねじ装置1bは、ナット3aを回転駆動し、ねじ軸2aを直線運動させる態様で使用される。
【0128】
このために本例では、ナット3aを、固定部材である有底円筒形状を有するシリンダ39に対して、転がり軸受40を利用して回転自在に支持している。転がり軸受40は、シリンダ39の軸方向他方側部分に内嵌固定され、かつ、内周面に外輪軌道41aを有する円環状の外輪41と、外周面に内輪軌道42aを有する円環状の内輪42と、外輪軌道41aと内輪軌道42aとの間に転動自在に配置された複数の転動体43とを有する。本例では、内輪42を、ナット3aと一体に構成している。つまり、ナット3aの外周面に、内輪軌道42aを直接形成している。
【0129】
ナット3aは、外周面の軸方向他方側部分に、ナット3aを回転駆動するためのギヤ部44を有する。また、ナット3aは、軸方向一方側の端部に、図示しない第1係合部15(
図4参照)を有する。
【0130】
ねじ軸2aは、ねじ部9と、ねじ部9の軸方向一方側に隣接配置された嵌合軸部10とを有する。本例の場合にも、嵌合軸部10の外周面には、雄スプライン歯13が形成されている。
【0131】
ストッパ5は、ボス部17と、第2係合部18とを有しており、ボス部17の径方向中央部には貫通孔である係合孔19を有する。本例の場合にも、係合孔19は、内周面に複数の雌スプライン歯20を有するスプライン孔により構成される。また、ボス部17の係合孔19に嵌合軸部10を、軸方向の相対変位を可能に緩くスプライン係合させている。なお、ストッパ5を構成するボス部17の係合孔19に嵌合軸部10を、圧入状態でスプライン嵌合させても良い。
【0132】
本例のボールねじ装置1bは、ストッパ5の軸方向一方側に配置し、ストッパ5をねじ部9との間で軸方向に挟持する挟持部材として、ピストン45を用いている。
【0133】
ピストン45は、略円筒形状を有しており、シリンダ39の内側に軸方向に移動可能に嵌装されている。ピストン45は、軸方向一方側の側面にのみ開口した取付孔46を有する。取付孔46は、段付き孔であり、軸方向一方側に小径孔部47を有し、軸方向他方側に大径孔部48を有する。小径孔部47の内周面には、雌スプライン歯49が形成されている。大径孔部48は、内側にストッパ5を挿入可能な内径を有する。小径孔部47と大径孔部48とは、軸方向他方側を向いた平坦面である円環面28bにより接続されている。円環面28bは、ピストン45の中心軸に直交する仮想平面上に存在している。
【0134】
ピストン45は、取付孔46の小径孔部47の内周面に形成された雌スプライン歯49を、ねじ軸2の嵌合軸部10のうち、ストッパ5を外嵌した部分から軸方向一方側に外れた部分に形成された雄スプライン歯13にスプライン係合させることで、嵌合軸部10に対して相対回転不能に外嵌されている。本例では、ピストン45を、嵌合軸部10に対して圧入によりスプライン係合させている。
【0135】
ピストン45を、嵌合軸部10のうちで、ストッパ5の軸方向一方側に隣接した位置に外嵌固定することで、ピストン45とねじ部9との間でストッパ5を軸方向に挟持する。これにより、ピストン45に備えられた円環面28bを、ストッパ5の軸方向一方側の側面のうち、ボス部17の軸方向一方側の側面17xにより構成される第1接触面22に対して全周にわたり面接触させる。また、ねじ部9の段差面11を、ストッパ5の軸方向他方側の側面のうち、ボス部17の軸方向他方側の側面17yにより構成される第2接触面23に対して全周にわたり面接触させる。この状態で、ピストン45の円環面28bとストッパ5の第2係合部18の軸方向一方側の側面18xとの間には、隙間が形成される。また、第2係合部18の軸方向他方側の側面18yは、段差面11から軸方向に退避して配置される。
【0136】
本例のボールねじ装置1bは、ストッパ5を介して、ねじ部9とピストン45との間でアキシアル荷重を伝達する。たとえば、ナット3aを所定方向に回転駆動し、ねじ軸2aをナット3aに対して軸方向一方側に相対移動させる場合、ピストン45には、シリンダ39の内側に配置された液体または気体から、軸方向他方側を向いたアキシアル荷重が作用する。本例では、ピストン45に作用する軸方向他方側を向いたアキシアル荷重を、ピストン45の円環面28bからストッパ5の第1接触面22に伝達した後、ストッパ5の第2接触面23からねじ部9の段差面11に伝達することができる。そして、ナット3aを介してシリンダ39によって支承することができる。反対に、ねじ部9に作用する軸方向一方側を向いたアキシアル荷重についても、ねじ部9の段差面11からストッパ5の第2接触面23に伝達した後、ストッパ5の第1接触面22からピストン45の円環面28bに伝達することができる。
【0137】
したがって、本例の場合にも、ボールねじ装置1bの寿命低下を招くことなく、ねじ部9とピストン45との間でアキシアル荷重の伝達を行うことができる。その他の構成および作用効果については、第1例と同じである。
【0138】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、本発明の実施の形態の第1例~第7例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0139】
本発明の実施の形態の第1例~第7例では、ストッパをねじ部との間で挟持する挟持部材として、駆動部材、転がり軸受およびピストンを示したが、本発明を実施する場合に、挟持部材は、これらの部材に限定されない。また、本発明の実施の形態の各例では、駆動部材として、歯車およびプーリを例示したが、駆動部材についても、これらの部材に限定されず、スプロケットや、ねじ軸に直接接続されるモータシャフト、カップリングなどを採用することもできる。
【0140】
本発明の実施の形態の第1例~第7例では、循環溝を、ナットの内周面に直接形成する構造について説明したが、本発明を実施する場合には、循環溝を、たとえばコマなどのナットとは別体の循環部品に形成し、該循環部品をナットに対して固定することもできる。また、第1係合部を、ナットと別体に構成しても良いし、第2係合部をボス部と別体に構成しても良い。
【0141】
本発明の実施の形態の第1例~第7例では、ナットが第1係合部を1つだけ備え、かつ、ストッパが第2係合部を1つだけ備える構造について説明したが、本発明を実施する場合には、第1係合部および第2係合部を、同数ずつ複数(たとえば2つずつ)備えることもできる。
【0142】
本発明の実施の形態の第1例~第7例では、第1接触面および第2接触面のそれぞれを、ストッパの軸方向両側の側面のうち、ボス部の軸方向両側の側面にのみ備える構造について説明したが、本発明を実施する場合には、第1接触面および第2接触面のそれぞれ一部を、第2係合部の軸方向側面に備えることもできる。特に、第2係合部を複数備える構成を採用した場合に好ましく採用できる。
【符号の説明】
【0143】
1、1a、1b ボールねじ装置
2、2a ねじ軸
3、3a ナット
4 ボール
5、5a~5d ストッパ
6 駆動部材
7 負荷路
8 循環溝
9 ねじ部
10、10a、10b 嵌合軸部
11 段差面
12 軸側ボールねじ溝
13 雄スプライン歯
14 ナット側ボールねじ溝
15 第1係合部
16 第1ストッパ面
17、17a、17b ボス部
17x 軸方向一方側の側面
17y 軸方向他方側の側面
18、18a、18b 第2係合部
18x 軸方向一方側の側面
18y 軸方向他方側の側面
19、19a、19b 係合孔
20 雌スプライン歯
21 第2ストッパ面
22 第1接触面
23 第2接触面
24 円板部
25 筒部
26 取付孔
27 雌スプライン歯
28、28a、28b 円環面
29 平坦外面
30 平坦内面
31 第2嵌合軸部
32 係合凹溝
33 係合爪部
34 転がり軸受
35 外輪
35a 外輪軌道
36 内輪
36a 内輪軌道
37 転動体
38 第2段差面
39 シリンダ
40 転がり軸受
41 外輪
41a 外輪軌道
42 内輪
42a 内輪軌道
43 転動体
44 ギヤ部
45 ピストン
46 取付孔
47 小径孔部
48 大径孔部
49 雌スプライン歯
50 凹溝
51 平坦外面
52 雄スプライン歯
53 凹曲面
54x、54y 段差部
100 ボールねじ装置
101 ねじ軸
102 ナット
103 ストッパ
104 ねじ部
105 嵌合軸部
106 軸側ボールねじ溝
107 第1係合部
108 ボス部
109 第2係合部
【要約】
【課題】ボールねじ装置の寿命低下を招くことなく、ねじ部と挟持部材との間でアキシアル荷重の伝達を行うことができる、ボールねじ装置を実現する。
【解決手段】ねじ軸2のうちで、外周面に軸側ボールねじ溝12が備えられたねじ部9の軸方向一方側に隣接して備えられた、ねじ部9よりも外径の小さい嵌合軸部10に、ストッパ5を相対回転不能に外嵌する。挟持部材である駆動部材6を、ストッパ5の軸方向一方側に隣接して配置し、ストッパ5をねじ部9との間で軸方向に挟持する。ストッパ5にモーメントを作用させることなく、駆動部材6とねじ部9との間でアキシアル荷重を伝達する。
【選択図】
図2