(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】緊急制動システム及び緊急制動方法
(51)【国際特許分類】
B60T 7/14 20060101AFI20230301BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B60T7/14
B60T7/12 A
(21)【出願番号】P 2018143158
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】303002158
【氏名又は名称】三菱ふそうトラック・バス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 崇
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024289(JP,A)
【文献】特開平08-119082(JP,A)
【文献】特開平05-124493(JP,A)
【文献】特開2011-057134(JP,A)
【文献】特開2017-077823(JP,A)
【文献】特開2018-065477(JP,A)
【文献】特開2015-174474(JP,A)
【文献】特開2018-079707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/14
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドライバに異常が発生したことを自動又は/及び手動で検知する異常検知部と、
前記異常が検知された場合に前記車両に緊急制動を作動させる緊急制動部と、
前記緊急制動を解除するための解除操作部と、
前記異常検知部及び前記解除操作部からの信号に基づいて前記緊急制動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記解除操作部が操作された場合に、前記緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることを条件として、前記緊急制動の解除を許可する制御を行
い、
前記制動機構が作動していない場合には、前記制動機構の作動が必要であることを通知し、
前記通知から所定時間が経過するまでに前記制動機構が作動している場合に前記緊急制動を解除する、緊急制動システム。
【請求項2】
前記制動機構は、前記車両の駐車ブレーキである、請求項1に記載の緊急制動システム。
【請求項3】
前記制動機構は、前記車両のフットブレーキである、請求項1に記載の緊急制動システム。
【請求項4】
前記緊急制動は、バスの緊急ブレーキである、請求項1乃至
3のいずれかに記載の緊急制動システム。
【請求項5】
車両のドライバに異常が発生したことを自動又は/及び手動で検知する異常検知工程と、
前記異常が検知された場合に前記車両に緊急制動を作動させる緊急制動工程と、
前記緊急制動の解除操作が行われた場合に、前記緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることを条件として、前記緊急制動の解除を許可する緊急制動解除工程と、
前記緊急制動の解除操作が行われたときに、前記緊急制動とは異なる系統の前記制動機構が作動していない場合には、前記制動機構の作動が必要であることを通知する制動要求工程と、を含
み、
前記通知から所定時間が経過するまでに前記制動機構が作動している場合に前記緊急制動を解除する、緊急制動方法。
【請求項6】
前記制動機構は、前記車両の駐車ブレーキである、請求項
5に記載の緊急制動方法。
【請求項7】
前記制動機構は、前記車両のフットブレーキである、請求項
5に記載の緊急制動方法。
【請求項8】
前記緊急制動は、バスの緊急ブレーキである、請求項
5乃至7のいずれかに記載の緊急制動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の緊急制動システム及び緊急制動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
路線バスや観光バスなどの車両において、ドライバの急病などにより運転操作を継続できなくなった場合には、重大事故を防止するために車両を自動的に停車させることが求められる。このような場合には、例えば、客席の周辺に緊急停止ボタンを設置することにより緊急時に乗客が操作して緊急制動を作動させる方法や、センサによりドライバの異常状態を自動で検知することにより緊急制動を作動させるなどの対応が考えられる。また、緊急停止ボタンとドライバの異常検知センサとを組み合わせた車両緊急停止装置も提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような緊急制動が作動して車両が停止し、緊急事態が解消した後において、車両を移動させるために当該緊急制動が解除されることになる。しかしながら、このような車両は、緊急制動で停車した場所に傾斜があった場合には、緊急制動を解除する操作者の意図に反して、緊急制動の解除と共に自重で動き出してしまう虞が生じる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、緊急制動で停車した場所に傾斜がある場合であっても、緊急制動の解除時に意図しない車両の動き出しを防止する緊急制動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様に係る緊急制動システムは、車両のドライバに異常が発生したことを自動又は/及び手動で検知する異常検知部と、前記異常が検知された場合に前記車両に緊急制動を作動させる緊急制動部と、前記緊急制動を解除するための解除操作部と、前記異常検知部及び前記解除操作部からの信号に基づいて前記緊急制動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記解除操作部が操作された場合に、前記緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることを条件として、前記緊急制動の解除を許可する。
【0007】
緊急制動システムは、車両のドライバが運転操作を継続できなくなった場合などに、異常検知部から制御部に非常信号が入力されることによって、緊急制動部を自動で作動させて当該車両を緊急制動により停車させる。一方、当該緊急制動を解除する場合には、緊急制動システムは、解除操作部が操作されるだけでは緊急制動を解除させず、緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることが確認された場合に、当該緊急制動の解除を許可する。これにより、緊急制動システムを搭載した車両は、非常事態が解消した後において緊急制動が解除された場合においても、異なる系統の制動機構により車両の停車状態が維持されることになる。従って、本発明の第1の態様に係る緊急制動システムによれば、緊急制動で停車した場所に傾斜がある場合であっても、緊急制動の解除時に意図しない車両の動き出しを防止することができる。
【0008】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様に係る緊急制動システムは、上記した本発明の第1の態様において、前記制動機構は、前記車両の駐車ブレーキである。
【0009】
本発明の第2の態様に係る緊急制動システムによれば、解除操作部が操作され、且つ車両の駐車ブレーキが作動している状態において、上記した緊急制動の解除が許可される。このため、緊急制動の解除者は、緊急制動の解除時において、人為的に車両を制動し続ける操作が不要となる。
【0010】
また、緊急制動の作動中は、周囲の歩行者や他車両に対して異常を知らせるためのハザードランプの点滅やホーンの鳴動を行なってもよく、このような構成においては、車両を移動させることなくこれらの警告装置を停止させるために緊急制動の作動を解除したい場合もある。このような場合にも、緊急制動システムは、緊急制動の解除時に意図しない車両の動き出しを防止しつつ、緊急制動を解除することができる。
【0011】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様に係る緊急制動システムは、上記した本発明の第1の態様において、前記制動機構は、前記車両のフットブレーキである。
【0012】
本発明の第3の態様に係る緊急制動システムによれば、解除操作部が操作され、且つ車両のブレーキペダルの操作によりフットブレーキが作動している状態において、上記した緊急制動の解除が許可される。このため、緊急制動の解除者は、緊急制動の解除時において、速やかに車両を移動させることができる。
【0013】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様に係る緊急制動システムは、上記した本発明の第1乃至3のいずれかの態様において、前記制御部は、前記緊急制動の解除操作が行われたときに、前記緊急制動とは異なる系統の前記制動機構が作動していない場合には、前記制動機構の作動が必要であることを通知する制御を行う。
【0014】
本発明の第4の態様に係る緊急制動システムによれば、緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していない状態で解除操作部が操作された場合には、緊急制動の解除が許可されないため、解除操作者に対して当該制動機構の作動が必要である旨を通知することにより、当該解除操作者に対する解除操作をサポートすることができる。
【0015】
<本発明の第5の態様>
本発明の第5の態様に係る緊急制動システムは、上記した本発明の第1乃至4のいずれかの態様において、前記緊急制動は、バスの緊急ブレーキである。
【0016】
本発明の第5の態様に係る緊急制動システムによれば、例えば大型観光バスや路線バスなどのドライバ異常時対応システム(EDSS:Emergency Driving Stop System)として実装されることにより、比較的多くの乗客を乗せるバスに対する安全性を高めることができる。
【0017】
<本発明の第6の態様>
本発明の第6の態様に係る緊急制動方法は、車両のドライバに異常が発生したことを自動又は/及び手動で検知する異常検知工程と、前記異常が検知された場合に前記車両に緊急制動を作動させる緊急制動工程と、前記緊急制動の解除操作が行われた場合に、前記緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることを条件として、前記緊急制動の解除を許可する緊急制動解除工程と、を含む。
【0018】
緊急制動方法によれば、車両のドライバが運転操作を継続できなくなった場合などに、制御部に非常信号が入力されることによって、緊急制動を自動で作動させて当該車両を緊急制動により停車させる。一方、当該緊急制動を解除する場合には、緊急制動方法は、解除操作部が操作されるだけでは緊急制動を解除させず、緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることが確認された場合に、当該緊急制動の解除を許可する。これにより、車両は、非常事態が解消した後において緊急制動が解除された場合においても、異なる系統の制動機構により停車状態が維持されることになる。従って、本発明の第6の態様に係る緊急制動方法によれば、緊急制動で停車した場所に傾斜がある場合であっても、緊急制動の解除時に意図しない車両の動き出しを防止することができる。
【0019】
<本発明の第7の態様>
本発明の第7の態様に係る緊急制動方法は、上記した本発明の第6の態様において、前記制動機構は、前記車両の駐車ブレーキである。
【0020】
本発明の第7の態様に係る緊急制動方法によれば、緊急制動を解除する操作が行われ、且つ車両の駐車ブレーキが作動している状態において、上記した緊急制動の解除が許可される。このため、緊急制動の解除者は、緊急制動の解除時において、人為的に車両を制動し続ける操作が不要となる。
【0021】
<本発明の第8の態様>
本発明の第8の態様に係る緊急制動方法は、上記した本発明の第6の態様において、前記制動機構は、前記車両のフットブレーキである。
【0022】
本発明の第8の態様に係る緊急制動方法によれば、緊急制動を解除する操作が行われ、且つ車両のブレーキペダルの操作によりフットブレーキが作動している状態において、上記した緊急制動の解除が許可される。このため、緊急制動の解除者は、緊急制動の解除時において、速やかに車両を移動させることができる。
【0023】
<本発明の第9の態様>
本発明の第9の態様に係る緊急制動方法は、上記した本発明の第6乃至第8のいずれかの態様において、前記緊急制動の解除操作が行われたときに、前記緊急制動とは異なる系統の前記制動機構が作動していない場合には、前記制動機構の作動が必要であることを通知する制動要求工程をさらに含む。
【0024】
本発明の第9の態様に係る緊急制動方法によれば、緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していない状態で解除操作が行われた場合には、緊急制動の解除が許可されないため、解除操作者に対して当該制動機構の作動が必要である旨を通知することにより、当該解除操作者に対する解除操作をサポートすることができる。
【0025】
<本発明の第10の態様>
本発明の第10の態様に係る緊急制動方法は、本発明の第6乃至第9のいずれかの態様において、前記緊急制動は、バスの緊急ブレーキである。
【0026】
本発明の第10の態様に係る緊急制動方法によれば、例えば大型観光バスや路線バスなどのドライバ異常時対応システム(EDSS:Emergency Driving Stop System)として実装されることにより、比較的多くの乗客を乗せるバスに対する安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係る緊急制動システムを備えた車両の構成を示す概略構成図である。
【
図2】本発明に係る緊急制動システムによる緊急制動の解除手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明に係る緊急制動システムによる緊急制動の変形例による解除手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、または省略などを行っており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0029】
図1は、本発明に係る緊急制動システムを備えた車両1の構成を示す概略構成図である。車両1は、本実施形態では、エンジン駆動タイプのバスとして例示されているが、所謂ハイブリッド車両や電動車両であってもよく、また、バスに限られずトラックや乗用車であってもよい。車両1には、走行用動力源としてエンジン2が搭載されている。エンジン2の出力軸にはクラッチ3が連結され、クラッチ3には変速機4の入力側が連結されている。変速機4の出力側にはプロペラシャフト5を介して差動装置6が連結され、差動装置6には駆動軸7を介して一対の駆動輪8L、8Rが連結されている。そして、エンジン2が発生させた駆動力は、変速機4で変速された後に駆動輪8L、8Rに伝達されて車両1を走行させる。
【0030】
制御部10は、車両1の全体を統合制御するための所謂ECU(Electronic Control Unit)である。制御部10は、アクセルペダル11の操作量を検出するアクセルセンサ12、ブレーキペダル13の踏込操作を検出するブレーキスイッチ14、パーキングブレーキを制御するためのパーキングブレーキレバー15、車両1の速度(車速)を検出する車速センサ16、エンジン2の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ17等の各種センサ・スイッチ類が接続されている。また、ECU10には、エンジン制御用のエンジンECU18が接続されている。
【0031】
上記の構成の他、車両1は、「緊急制動部」としての緊急ブレーキ20、駐車ブレーキ30、異常検知部40、「解除操作部」としてのキャンセルボタン50、及び警告装置60を備え、いずれも制御部10に接続されている。
【0032】
緊急ブレーキ20は、後述するように、車両1のドライバに運転操作の継続が困難となるような異常が発生した場合に、制御部10から入力される制御信号に基づいて車両1を自動的に減速及び停車させるための制動機構の1つである。また、車両1は、他の制動機構として、図示しないフットブレーキを備える。当該フットブレーキは、平時において車両1のドライバがブレーキペダル13を操作することにより、車両1に制動力を与えて減速又は停車させる。
【0033】
駐車ブレーキ30は、車両1の駐車中において車両1を制動することにより、駐車する場所に傾斜がある場合や外的要因によって車両1が移動しないようにする制動機構である。駐車ブレーキ30は、通常、車両1の駐車時にドライバがパーキングブレーキレバー15を操作することにより作動する。尚、駐車ブレーキ30の作動方法は、レバー式に限られるものではなく、足踏み式であってもよく、スイッチにより作動する電動式であってもよい。
【0034】
異常検知部40は、車両1の走行中において、万が一ドライバに異常が発生した場合に、自動又は/及び手動で動作することで制御部10に対して非常信号を出力する。このとき、非常信号が入力される制御部10は、詳細を後述するように、緊急制動を作動させて車両1を停車させる。ここで、本実施形態においては、異常検知部40は、緊急ブレーキボタン41、及びドライバ状態検知部42を含む。
【0035】
緊急ブレーキボタン41は、例えばバスの客席周辺や運転席近傍に設置される非常ボタンであり、ドライバが意識を失うなどの非常事態において車両1の乗客が、又は意識を失う前のドライバが手動で操作することにより、制御部10に非常信号を出力する。尚、緊急ブレーキボタン41は、例えばスイッチやレバー等、手動又は足踏み式で操作できる限りにおいて適宜その形態を変更してもよい。
【0036】
ドライバ状態検知部42は、例えばカメラやセンサなどによりドライバの状態を把握し、ドライバによる運転操作が困難になった状態を検知した場合に、制御部10に自動で非常信号を出力する。
【0037】
異常検知部40は、緊急ブレーキボタン41及びドライバ状態検知部42の少なくとも一方を備えていればよい。また、異常検知部40は、複数の緊急ブレーキボタン41を備えてもよく、車両1が観光バスである場合には、客席周辺に設置される非常ボタンに加え、添乗員席に設置されてもよい。
【0038】
キャンセルボタン50は、車両1の運転席に設置され、異常検知部40により作動する緊急制動を解除するための操作部である。キャンセルボタン50は、ドライバが正常に車両1を走行させている間は常に有効に動作し、例えば車両1の走行中に乗客が誤って緊急ブレーキボタン41を操作した場合や、ドライバ状態検知部42の誤作動により緊急制動が作動しそうになる場合に、ドライバが緊急制動の作動を解除することができる。尚、車両1が緊急制動により停車した後に当該緊急制動を解除する手順については後述する。
【0039】
警告装置60は、緊急制動が作動した場合に音や光を発することで、車両1の周辺の歩行者及び他車両に対して非常事態を知らせるための装置である。警告装置60は、より具体的には例えば、従来の自動車に搭載されるホーン、ハザードランプ、及びブレーキランプ等である。
【0040】
ここで、本発明に係る緊急制動システムは、本実施形態においては、制御部10、緊急ブレーキ20、異常検知部40、及びキャンセルボタン50からなる。そして、緊急制動システムを備えた車両1は、上記のような構成により、走行中においてドライバに異常が発生した場合には、警告装置60を介して周囲に非常事態を通知すると共に、緊急制動を作動させることで減速・停車することにより、重大事故に繋がる虞を低減する。
【0041】
より具体的には、緊急制動システムは、操作された緊急ブレーキボタン41、又は異常を検知したドライバ状態検知部42が制御部10に非常信号を出力することにより、制御部10が緊急ブレーキ20を作動させる制御を行うことで、ドライバによる制動操作が行われることなく車両1を停車させる。ただし、緊急制動システムは、制御部10に非常信号が入力されてから一定の期間においては、緊急制動を開始する旨を音声又は表示装置により運転席に提示して緊急制動の作動を保留する。このため、ドライバは、緊急ブレーキボタン41が誤って操作された場合や、ドライバ状態検知部42が誤作動を起こした場合には、当該期間においてキャンセルボタン50を操作することによって、緊急制動をキャンセルすることができる。
【0042】
ところで、上記のような緊急制動は、非常事態が解消した後において、例えば車両1を移動させるために解除されることになるが、傾斜のある場所に車両1を停車させている可能性もある。この場合には、車両1は、緊急制動の解除と共に自重で動き出してしまう虞が生じる。そこで、本発明に係る緊急制動システムは、以下に説明する緊急制動方法に係る手順により緊急制動を解除することにより、緊急制動の解除時に車両1が傾斜を下ることを防止する。
【0043】
図2は、本発明に係る緊急制動システムによる緊急制動の解除手順を示すフローチャートである。より詳しくは、
図2は、車両1のドライバに異常が発生したことを異常検知部40が検知し(異常検知工程)、異常検知部40からの信号に基づいて緊急制動が作動した場合に(緊急制動工程)、その後の制御として緊急制動を解除するために制御部10が実行する制御手順を示している。
【0044】
緊急制動が作動すると、制御部10は、キャンセルボタン50の操作による解除操作を受け付ける状態となる。すなわち、制御部10は、キャンセルボタン50が操作されたか否かを判定する(ステップS1)。
【0045】
ここで、制御部10は、キャンセルボタン50が操作されるまでの期間では(ステップS1でNo)、キャンセルボタン50の操作を受け付ける状態で待機する。
【0046】
キャンセルボタン50が操作されると(ステップS1でYes)、制御部10は、車両1が走行中であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0047】
制御部10は、車両1の走行中においてキャンセルボタン50が操作された場合には(ステップS2でYes)、緊急ブレーキボタン41が誤って操作されたことにより、又はドライバ状態検知部42の誤作動により作動した緊急制動を、ドライバが解除しようとしているものとして、当該緊急制動を解除する(ステップS3、緊急制動解除工程)。これにより車両1は、通常の走行状態に復帰する。
【0048】
一方、キャンセルボタン50が操作されたときに車両1が停車している場合には(ステップS2でNo)、制御部10は、ドライバの異常に伴って作動した緊急制動により車両1が停車した後に、車両1を移動させるために当該緊急制動の解除操作が行われているものとして判断する。このとき、制御部10は、緊急制動の解除に先行して、駐車ブレーキ30が作動しているか否かを判定する(ステップS4)。
【0049】
そして、制御部10は、駐車ブレーキ30が作動している場合には(ステップS4でYes)、上記の緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることにより、停車位置が傾斜しているか否かに拘らず、緊急制動を解除しても車両1が自重で動き出すことを回避できるため、当該緊急制動の解除を許可する(ステップS3)。
【0050】
これに対し、駐車ブレーキ30が作動していない状態でキャンセルボタン50が操作された場合には(ステップS4でNo)、制御部10は、緊急制動とは異なる系統の制動機構の作動という条件を満たしていないとして緊急制動の解除を保留し、例えば運転席における音声ガイダンスにより、緊急制動の解除には例えば駐車ブレーキ30をかける必要があることを通知する(ステップS5、制動要求工程)。ここで、当該通知の手段については、種々の変更が可能であり、例えば運転席に設けられた既存の表示装置を使用して表示してもよい。
【0051】
制御部10は、駐車ブレーキ30をかけることを要求した後、再びキャンセルボタン50の操作を受け付けるステップS1の状態に戻る。そして、緊急制動の解除操作者が駐車ブレーキ30を操作した後、再びキャンセルボタン50を操作した場合に、制御部10は、上記したステップS1、ステップS2、及びステップS4を経由して緊急制動を解除する(ステップS3)。
【0052】
これにより、本発明に係る緊急制動システムを備えた車両1は、緊急制動で停車した場所に傾斜がある場合であっても、緊急制動とは異なる系統の制動機構が作動していることにより、緊急制動の解除時に意図しない車両1の動き出しを防止することができる。
【0053】
<変形例>
次に、本発明の変形例について説明する。変形例に係る緊急制動システムは、緊急制動の解除手順の一部が、上記した実施形態と異なる。以下、実施形態と異なる部分について説明することとし、実施形態と共通する構成要素については詳細な説明を省略する。
図3は、本発明に係る緊急制動システムによる緊急制動の変形例による解除手順を示すフローチャートである。ここで、変形例におけるステップS10~ステップS14は、上記した実施形態におけるステップS1~ステップS5と共通である。そして、変形例におけるステップS15とその後の戻り先が、上記した実施形態と異なる。
【0054】
変形例に係る緊急制動システムは、
図3のステップS14において、緊急制動の解除には駐車ブレーキ30をかける必要があることを通知した後、例えば5秒間程度の所定時間待機することにより、緊急制動の解除操作者による駐車ブレーキ30の操作を受け付ける(ステップS15)。尚、所定時間経過しても駐車ブレーキ30が操作されなかった場合は、
図3のスタートに戻ってもよい。
【0055】
そして、制御部10は、ステップS13に戻り、駐車ブレーキ30が作動しているか否かを再び判定する。ここで、制御部10は、駐車ブレーキ30が作動していることが確認された場合には(ステップS13でYes)、既にステップS10においてキャンセルボタン50が操作されていることから、緊急ブレーキの解除を許可する(ステップS12)。これにより、変形例に係る緊急制動システムは、緊急制動の解除におけるキャンセルボタン50の操作後に、緊急制動とは異なる系統の制動機構を作動させた場合であっても、再びキャンセルボタン50を操作する必要がない。従って、変形例に係る緊急制動システムによれば、緊急ブレーキの解除時に意図しない車両1の動き出しを防止しつつ、その解除操作を簡略化することができる。
【0056】
以上で実施形態及び変形例の説明を終えるが、本発明は上記した実施形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態及び変形例では、緊急制動とは異なる系統の制動機構として駐車ブレーキ30を例示したが、緊急制動の解除者がブレーキペダル13を操作することにより作動するフットブレーキであってもよい。この場合であっても、緊急制動の解除時においては、ブレーキペダル13の操作に基づいてフットブレーキを作動させる系統の制動機構により、緊急制動の解除時に意図しない車両1の動き出しを防止することができる。また、上記の実施形態及び変形例では、ドライバの異常時に作動する緊急制動を解除する手順を例示したが、例えば車両1に搭載されたカメラやレーダ等のセンサにより衝突の危険が予測された場合に作動する緊急自動ブレーキに対しても、その解除手段として上記の緊急制動システムを適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
10 制御部
13 ブレーキペダル
15 パーキングブレーキレバー
20 緊急ブレーキ
30 駐車ブレーキ
40 異常検知部
41 緊急ブレーキボタン
42 ドライバ状態検知部
50 キャンセルボタン