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特許7235235血液、血球又は凝固関連因子へ定量的にずり応力を加える剪断発生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】血液、血球又は凝固関連因子へ定量的にずり応力を加える剪断発生装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
G01N33/86
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018192927
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020060488
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山家 智之
(72)【発明者】
【氏名】白石 泰之
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】山田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】堀内 久徳
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅則
(72)【発明者】
【氏名】早川 正樹
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-516156(JP,A)
【文献】特表2016-501382(JP,A)
【文献】特開平07-181178(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0120955(US,A1)
【文献】特表2011-518542(JP,A)
【文献】特表2002-528703(JP,A)
【文献】MONCADA, C. et al.,Simple method for the preparation of antiggen emulsions for immunization,Journal of Immunological Methods,1993年,Vol.162, No.1,pp.133-140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 3/00 - 3/62
G01N 1/00 - 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の血液収容部、
第二の血液収容部、
該第一および第二の血液収容部それぞれの流入口に接続されて第一および第二の血液収容部を連通する狭窄部
該第一および第二の血液収容部に収容された血液を狭窄部に対し、気密に流出入させるための第一及び第二の可動部、並びに、
前記第一及び第二の可動部を駆動する駆動部、および該駆動部を制御する制御部であって、第一及び第二の可動部の移動速度を同期するように駆動部を制御する制御部、
を含み、
該第一の可動部が狭窄部に近づく方向に移動するときは第二の可動部は狭窄部から離れる方向に移動し、該第一の可動部が狭窄部から離れる方向に移動するときは第二の可動部は狭窄部に近づく方向に移動し、該第一および第二の可動部が往復運動することで、該血液を該狭窄部に往復させて、血液又は血液成分にずり応力を負荷することを特徴とする、剪断応力発生装置。
【請求項2】
前記狭窄部はその内径が0.1~1.0mmである、請求項1に記載の剪断応力発生装置。
【請求項3】
前記狭窄部は内部の表面粗さRaが1~100μmとなるように表面処理されている、請求項1または2に記載の剪断応力発生装置。
【請求項4】
第一の血液収容部、
第二の血液収容部、
該第一および第二の血液収容部それぞれの流入口に接続されて第一および第二の血液収容部を連通する狭窄部、並びに、
該第一および第二の血液収容部に収容された血液を狭窄部に対し、気密に流出入させるための第一及び第二の可動部、を含み、
該第一の可動部が狭窄部に近づく方向に移動するときは第二の可動部は狭窄部から離れる方向に移動し、該第一の可動部が狭窄部から離れる方向に移動するときは第二の可動部は狭窄部に近づく方向に移動し、該第一および第二の可動部が往復運動することで、該血液を該狭窄部に往復させて、血液又は血液成分にずり応力を負荷することを特徴とする、剪断応力発生装置、および
VWF高分子量マルチマー解析装置を含む、
剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析するためのシステム。
【請求項5】
前記剪断応力発生装置の狭窄部はその内径が0.1~1.0mmである、請求項に記載の剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析するためのシステム
【請求項6】
前記剪断応力発生装置の狭窄部は内部の表面粗さRaが1~100μmとなるように表面処理されている、請求項またはに記載の剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析するためのシステム
【請求項7】
前記剪断応力発生装置は、さらに、前記第一及び第二の可動部を駆動する駆動部、および該駆動部を制御する制御部を含む、請求項のいずれか一項に記載の剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析するためのシステム
【請求項8】
前記剪断応力発生装置の制御部は、第一及び第二の可動部の移動速度を同期するように駆動部を制御する、請求項に記載の剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析するためのシステム
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の剪断応力発生装置または請求項4~8のいずれか一項に記載のシステムを用いてインビトロで血液に剪断応力を負荷する工程、および
剪断応力が負荷された血液を用いてVWF高分子量マルチマーの分解を解析する工程、を含む、剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析する方法。
【請求項10】
前記血液は薬剤が添加された血液であり、該血液に剪断応力を負荷し、VWF高分子量マルチマーの分解を解析することにより、剪断応力によるVWF高分子量マルチマーの分解に対する薬剤の効果を評価する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療及び診断分野に関し、より詳しくは、血液、血球又は凝固関連因子へ定量的にずり応力を加える剪断応力発生装置およびそれを用いた血液、血球又は凝固関連因子の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
後天性フォン・ヴィレブランド症候群(以下、単に「AVWS」ともいう。)は種々の病因によりフォン・ヴィレブランド因子(以下、単に「VWF」ともいう。)の量的/質的異常が引き起こされる稀な疾患であり、先天性フォン・ヴィレブランド病(以下、単に「VWD」ともいう。)に類似した出血症状を呈する。その病因は多様で、主なものとして(1)VWFに対する自己抗体の産生、(2)VWF高分子量マルチマーの減少、(3)ずり応力亢進によるADAMTS13のVWF分解促進、(4)VWFの産生並びに分泌障害などが挙げられる。
これらの病因を引き起こす基礎疾患としては、(1)リンパ増殖性疾患や自己免疫疾患、(2)骨髄増殖性疾患(主に真性多血症並びに本態性血小板血症)やウイルムス腫瘍、(3)骨髄増殖性疾患、心臓弁膜症、補助人工心臓使用に伴う副作用、(4)甲状腺機能低下症などが挙げられる。
【0003】
ところで、最近の技術的進歩により、補助人工心臓の臨床応用が本邦でも数百例を超え、世界で最も良好な成績を誇っている。しかしながら、補助人工心臓症例の長期生存例が増加するに伴い、予測もしなかった新たな病態が発生するに至っている。例えば、非生理的な非常に高いずり応力が発生することにより、ADAMTS13によるVWFの切断が亢進し、AVWSが発症する。人工心臓患者では、血液、血球、または凝固関連因子に、大動脈弁狭窄症と同様の高ずり応力が加わり、ADAMTS13によるVWFの過剰切断によりVWF高分子量マルチマーが減少して、出血傾向を起こすに至った、と推測されている。
【0004】
ADAMTS13によるVWF高分子量マルチマーの過剰切断の評価方法に関して、様々な提案がなされている。しかしながら、そもそも、血液中に、一定のずり応力を負荷する手段がなく、定量的な研究を不可能にしていた。
【0005】
生体における血管壁にはある種の応力がかかっている。静止流体では血管壁に対しての圧力だけであるが、血液が流れている時は、粘性により、垂直応力とずり応力が生じる。垂直応力は圧力に比べて無視できるくらい小さく、粘性の応力としてはずり応力のみを考慮すればよい。
ずり応力は、粘度と血流速度に比例し、血管径に逆比例する応力である。高ずり応力下では、従来の静止系や閉鎖撹拌実験系で構築された古典的概念とは全く異なるメカニズムで血小板粘着・凝集反応が進行するので、血栓形成メカニズムの解析には血流・ずり応力の計測や制御は必須であると考えられる。(非特許文献1,2)
しかしながら、血液や血球に一定のずり応力をかけて、血液、血球、または凝固関連因子に該ずり応力のみが与える作用を独立して計測できるシステムは存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「長鎖分子と血栓止血」循環器疾患随伴後天性フォンウィルブランド症候群の臨床的インパクト(解説/特集)Author:堀内 久徳(東北大学加齢医学研究所 基礎加齢研究分野), 松本 雅則, 小亀 浩市Source: 日本血栓止血学会誌 (0915-7441)27巻3号Page316-321(2016.06)
【文献】「循環器疾患が引き起こすフォンウィルブランド症候群」フォンウィルブランド因子とその切断酵素ADAMTS13(解説/特集)Author:松本 雅則(奈良県立医科大学 輸血部)Source: BIO Clinica (0919-8237)31巻6号 Page564-568(2016.06)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の技術では、血液や血球や凝固関連因子に一定のずり応力をかけて、血液、血球、凝固関連因子に該ずり応力のみが与える作用を独立して計測できるシステムは存在しなかった。
本発明は、血液、血球、凝固関連因子へのずり応力の作用を定量診断的に、解析・研究する剪断応力発生装置を提供することを課題とする。
本発明はまた、圧力と独立に、血液、血球、凝固関連因子へのずり応力の作用だけを解析することができる剪断応力発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の剪断応力発生装置は、
第一の血液収容部、
第二の血液収容部、
該第一および第二の血液収容部それぞれの流入口に接続されて第一および第二の血液収容部を連通する狭窄部、並びに、
該第一および第二の血液収容部に収容された血液を狭窄部に対し、気密に流出入させるための第一及び第二の可動部、を含み、
該第一の可動部が狭窄部に近づく方向に移動するときは第二の可動部は狭窄部から離れる方向に移動し、該第一の可動部が狭窄部から離れる方向に移動するときは第二の可動部は狭窄部に近づく方向に移動し、該第一および第二の可動部が往復運動することで、該血液を該狭窄部に往復させて、血液又は血液成分にずり応力を負荷することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の、剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析するためのシステムは、
本発明の剪断応力発生装置、および
VWF高分子量マルチマー解析装置を含むことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の、剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析する方法は、
本発明の剪断応力発生装置を用いてインビトロで血液に剪断応力を負荷する工程、および
剪断応力が負荷された血液を用いてVWF高分子量マルチマーの分解を解析する工程、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る装置によれば、可動部を駆動させて血液を狭窄部に往復させることで、血液にインビトロで定量的に圧力及び/又はずり応力を負荷することができ、さらに、可動部を同期することにより、圧力と独立に、血液、血球、凝固関連因子へのずり応力の作用だけを解析することができる。
本発明に係る装置は、新しい治療法評価試験装置であり、血液試料に対して流体力学的剪断負荷を与え、剪断ストレスによって活性化する血液成分の変化プロセスを阻害する薬理学的有効性評価を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の装置の一実施態様を示す模式図である。
図2】本発明の装置の簡易的な一実施態様とその使用態様を示す模式図である。
図3】本発明の装置の他の実施態様を示す模式図である。
図4】VWF高分子量マルチマーの電気泳動による解析結果を示す図である(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の剪断応力発生装置を、図1を用いてより具体的に説明するが、本発明は以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の剪断応力発生装置の一実施態様を示す模式図である。
図1の剪断応力発生装置は、第一の血液収容部1と、第二の血液収容部2と、第一および第二の血液収容部1,2それぞれの流入口に接続されて第一および第二の血液収容部1,2を連通する狭窄部3と、第一および第二の血液収容部1,2に収容された血液をそれぞれ狭窄部3に気密に流出入させるための第一及び第二の可動部4,5を備える。
第一の血液収容部1および第二の血液収容部2の少なくとも一方には血液が収容される。第一の可動部4が狭窄部3に近づく方向に移動するときは第二の可動部5は狭窄部3から離れる方向に移動し、第一の可動部4が狭窄部3から離れる方向に移動するときは第二の可動部5は狭窄部3に近づく方向に移動し、該第一の可動部4および第二の可動部5が往復運動することで、血液収容部1,2内の血液が狭窄部3を往復し、血液又は血液成分にずり応力が負荷される。すなわち、図1の場合、第一および第二の可動部がそろって左方向へ、次いで右方向へと移動し、往復運動することで、血液が狭窄部内を往復移動し、血液又は血液成分にずり応力が負荷される。
【0015】
第一及び第二の可動部4,5の移動は上記のような移動方向であれば特に限定されず、別個独立に移動を制御することができる。これにより、圧力や、血液に負荷される種々の応力やずり応力を自在に制御することが可能となる。一方、上記のような移動方向で移動速度を同期することもでき、それにより、血液に圧力とは独立に一定のずり応力を負荷することができ、生体内での血流下のずり応力をより精度よく再現することができる。
狭窄部3は第一および第二の血液収容部1,2を気密に連通する細管であるが、その内径は、血液に負荷するずり応力の大きさに応じて、任意に設計することができる。これにより、様々な圧力やずり応力を血液に負荷することができる。狭窄部3の内径は、好ましくは0.1~1.0mmであり、より好ましくは0.2~0.8mmである。内径を変化させることで様々なずり応力を負荷することができる。なお、狭窄部の内径は一様でもよいし、途中で変化してもよい。狭窄部の長さは特に制限はないが、例えば、1mm~10cmである。
【0016】
また、狭窄部3の内面は、表面粗さRaが1~100μmとなるように処理されていてもよい。このように狭窄部3の内面が処理されていることで、狭窄部3の内面粗さを適宜調節し、血液に負荷される圧力やずり応力を調整することができる。このような狭窄部内面の処理は、例えば、プラズマ処理や紫外線処理、化学処理などによる官能基の導入などによって行うことができる。
【0017】
上記の、血液収容部と可動部とを備える機構としては、収容部と可動部とを備えるものであれば特に制限されない。収容部と可動部とを備える機構の具体例としては、例えば、注射器および注射器状のピストン機構を挙げることができる。
また、狭窄部としては、これを介して該機構を組み合わせることができるものであれば、特に制限されない。狭窄部の具体例としては、所定のゲージの注射針を挙げることができる。
図2に、本発明の剪断応力発生装置の簡易的な一実施形態とその使用態様の模式図を示す。図2は、2本の注射器を1本の注射針で組み合わせ、ピストンの移動により血液を注
射針内に往復させているものである。
【0018】
図3は、本発明の装置の他の実施態様を示す模式図である。
図3の剪断応力発生装置は、第一の血液収容部1と、第二の血液収容部2と、狭窄部3と、第一及び第二の可動部4,5を備え、さらに、該第一及び第二の可動部を駆動する駆動部6、および該駆動部を制御する制御部7を含む。
第一及び第二の可動部4,5は駆動部6に接続され、駆動部6は制御部7に接続されている。
また、狭窄部3は、その内部を血液が流通自在となるように設けられており、該血液収容部1から血液収容部2へ、または該血液収容部2から血液収容部1へと、該狭窄部3を経由して血液が流通する。血液が狭窄部3を流通する際に、該狭窄部3において血液にずり応力が加えられる。
血液収容部1,血液収容部2は、狭窄部3の一端および他端それぞれに接続されている。可動部4,可動部5はそれぞれ駆動部6に接続され、駆動部6は制御部7に接続されている。例えば、血液収容部1から狭窄部3に血液が流入するときには、可動部4は狭窄部3に近づく方向に移動し、可動部5は狭窄部3から離れる方向に移動し、血液は狭窄部3を通過して血液収容部2内に流入する。一方、血液収容部2から狭窄部3に血液が流入するときには、可動部5は狭窄部3に近づく方向に移動し、可動部4は狭窄部3から離れる方向に移動し、血液は狭窄部3を通過して血液収容部1内に流入する。このように、可動部4,可動部5は互いに反転位相となるように制御部で制御される。
【0019】
可動部4、可動部5の変位は完全逆位相となるように制御部7で制御され、狭窄部3に流入する血液に対して、血液収容部内筒の加速や減速などの速度変化に伴う内圧変動を抑制する、すなわちゼロプレッシャーとなることが好ましい。
すなわち、該制御部7は、前記第一及び第二の可動部4,5の移動速度を同期するように制御することが好ましい。第一及び第二の可動部4,5の移動速度が同期することで、狭窄部3を往復して通過する血液に圧力とは独立に一定のずり応力を負荷することができ、生体内での血流下のずり応力をより精度よく再現することができる。
【0020】
さらに、第一および第二の血液収容部1,2の少なくとも一方は、血液貯蔵部(図示せず)と直接的または間接的に接続された圧調節バルブ8を備えていてもよい。圧調節バルブ8により血液収容部1,2の内圧を適宜変更し、血液貯蔵部から血液収容部1,2内に試料となる血液を導入してもよい。
【0021】
また、本発明によれば、収容部と可動部とを備える機構を二つ以上組み合わせた、可変式剪断応力発生システムを提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、収容部と可動部とを備える機構を二つ以上組み合わせ、該機構を、同期し、または、独立にコントロールすることで、様々な圧力とずり応力を血液に付加することができる、剪断応力発生システムを提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、収容部と可動部とを備える機構を二つ以上、狭窄部を介して組み合わせ、該機構を、同期し、または、独立にコントロールし、かつ、狭窄部の内径を適宜設計することで、様々な圧力とずり応力を血液に付加することができる、剪断応力発生システムを提供することができる。
【0022】
本発明のシステムは、剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析するためのものであって、本発明の剪断応力発生装置、および、VWF高分子量マルチマー解析装置を含むものとすることができる。
【0023】
上記VWF高分子量マルチマー解析装置は、VWF高分子量マルチマーを解析できる装置であれば特に制限されず、一の装置でもよく、二以上の装置を組み合わせてVWF高分
子量マルチマーを解析できるようとしたものであってもよい。該装置の具体例としては、例えば、ゲルの電気泳動装置と、抗VWF抗体を用いたウェスタンブロッティング装置と、を組み合わせたものが挙げられる。
【0024】
本発明の、剪断応力による血液中のVWF高分子量マルチマーの分解を解析する方法は、本発明の剪断応力発生装置を用いてインビトロで血液に剪断応力を負荷する工程、および、剪断応力が負荷された血液を用いてVWF高分子量マルチマーの分解を解析する工程、を含む。
【0025】
本発明の方法によれば、微量(例えば、0.01μl~1ml程度)の血液を用いてインビトロでVWF高分子量マルチマーの解析を行うことができる。
以下、本発明の方法によるVMF高分子量マルチマーの解析方法の一例を説明するが、以下の方法に限定されるものではない。
【0026】
例えば、図1に示す装置を用いて、血液を狭窄部に往復させることにより血液にずり応力を加えることができる。往復の回数としては血液に目的のずり応力を負荷できる回数であれば特に制限されない。血液に加えるずり応力としては、検査等の目的にもよるが、100dyne/cm以上であることが好ましく、200dyne/cm以上であることがより好ましい。
ずり応力の値は、狭窄部の内径や血液の流速などにより調節することができる。
【0027】
血液としては被検対象から単離された血液であればよく、vWFマルチマーを含む限り全血でも血漿でもよいが、剪断応力を負荷した後に電気泳動を行うという解析のしやすさにおいては血漿を用いることが好ましい。
血液試料は希釈されてもよいし、抗凝固処理されたものでもよい。
血液試料はまた、薬剤が添加されたものとすることができる。薬剤が添加されたものとされていないものとを共に解析することで、剪断応力によるVWF高分子量マルチマーの分解に対する薬剤の効果を評価することができる。
【0028】
被検対象は特に制限されないが、vWF高分子量マルチマーの保持率に基づく病態を予測・解析するという観点からは、心臓病患者または心臓病が疑われる被検者が好ましく、補助人工心臓の適用が必要とされる心臓病患者がより好ましい。
単離される血液試料は特にどの血管から単離されたものでもよいが、試料の入手しやすさから、末梢血を用いることが好ましい。
血液試料は単離後すぐに剪断応力負荷試験に供してもよいし、血漿として凍結保存したのち、解凍して剪断応力負荷試験に供してもよい。
【0029】
ずり応力を負荷したサンプルに対し、評価を行う。評価方法としては、例えば以下の方法が挙げられるが、この方法に限定されるものではない。
【0030】
vWFは、分子量約25万の分子であるが、そのN末端およびC末端が結合し、2~80量体のマルチマーとして存在する。vWFのマルチマーパターンは、例えば、後述の実施例で示すようなアガロースゲル電気泳動およびELISA法で解析することができる。
このうち、VWF高分子量マルチマーとしては、ウェスタンブロッティングで得られるvWFのマルチマーのバンドパターンにおいて、最も低分子量側から数えて11番目以上のバンドとして検出されるマルチマーと定義することができる。ここで、当該11番目のバンドはvWFの22量体である。
【0031】
vWFの高分子量マルチマーの存在比は、例えば、上記のような11番目以上のバンドとして検出されるVWF高分子量マルチマーの全vWFマルチマーに対する割合に基づい
て算出することができるが、この方法に限定されるものではない。
高分子量マルチマーの全vWFマルチマーに対する割合(高分子量マルチマーの存在比)は、例えば、血液試料をアガロースゲル電気泳動で分離した後に、タンパク質をPVDF膜やニトロセルロース膜に転写し、抗vWF抗体を用いたウエスタンブロットによりvWFを染色して得られるvWFマルチマーのバンドパターンを画像解析することによって算出することができる。
具体的には、ImageJ(NIHから入手可能)などの画像処理ソフトを使用して、11番目以上のバンドの濃さの合計と、全てのバンドの濃さの合計と、をそれぞれ算出し、前者を後者で除することによって、VWF高分子量マルチマーの全vWFマルチマーに対する割合を得ることができる。
【0032】
健常人血液を用いたvWFの高分子量マルチマーの存在比の解析結果と比べて、vWFの高分子量マルチマーの存在比が低下している場合、その被検者はvWFの高分子量マルチマーが高ずり応力によって分解しやすく、AVWSの危険性が高いと判定することができる。したがって、補助人工心臓を採用するかの判断の参考とすることができる。
また、薬剤を添加した血液を用いて本発明の装置を用いてずり応力を負荷し、vWFの高分子量マルチマー解析を行い、薬剤を添加しない場合の結果と比較することにより、当該薬剤がVWFマルチマーの分解を抑え、AVWSの治療薬となりうるかの指標とすることができる。
【実施例
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0034】
以下に示す方法により、血液に煎断応力を負荷し、血液中のVWFマルチマーの解析を行った。
【0035】
図2に示すように、テルモ社製1mlシリンジ2つを、18ゲージ(内径0.47mm)の注射針(テルモ社製)で連結した。一方のシリンジに血液試料を導入し、該試料を、注射針内を往復して通過させる操作を行った(二秒間に一往復で6分間、合計180往復)。
【0036】
ここで、ずり応力は、以下の式で計算した。
ずり応力(τ)=4μV/r
μ:粘度、V:平均流速、r:内径
【0037】
なお、サンプルはクエン酸処理血液、またはクエン酸処理血液+ADAMTS13抗体A10(A10抗体最終濃度:50μg/mL)を用い、それぞれ実験を行った。
なお、クエン酸処理血液、および、クエン酸処理血液+ADAMTS13抗体A10の粘度は、いずれも2.0mPa・sであった。
流速、粘度、および内径から計算したずり応力は216dyne/cmであった。
【0038】
上記のようにしてずり応力を負荷した後、それぞれのサンプルおよびずり応力を負荷しないサンプルを用いてアガロースゲル電気泳動を行った。電気泳動後、タンパク質をアガロースゲルからPVDF膜に転写し、抗VWF抗体(ウサギ抗VWFポリクローナル抗体、DakoCytomation製)を用いたウエスタンブロットによりVWFを染色した。ImageJを使用して、低分子量側から数えて11番目以上のバンドの濃さの合計と、全てのバンドの濃さの合計と、をそれぞれ算出し、前者を後者で除して、VWF高分子量マルチマーの全VWFマルチマーに対する割合を調べた。
【0039】
その結果、図4に示すように、ずり応力を負荷したときにVWF高分子量マルチマーの割合が減少し、負荷したずり応力に応じてVWF高分子量マルチマー分解が亢進しており、生体内で起こる高剪断応力によるVWF高分子量マルチマーの減少がインビトロで再現できることが分かった。
なお、ADAMTS13の活性を阻害するADAMTS13抗体を加えた場合には、VWF高分子量マルチマーの分解が起こらなかったため、剪断応力でVWFの分解部位が露出し、ADAMTS13によって分解を受けるという生体内メカニズムが確認できた。このことは、ADAMTS13の活性を阻害する薬剤など、VWF高分子量マルチマーの分解を阻害する薬剤の評価やスクリーニングに本発明の装置及び方法が使用できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る、血液、血球、凝固関連因子へのずり応力を定量的に負荷することができる剪断応力発生装置は、他の血液疾患や、人工心臓、人工弁の開発における、血栓、溶血、その治療手段の開発など様々な展開が考えられる。
【符号の説明】
【0041】
1:第一の血液収容部
2:第二の血液収容部
3:狭窄部
4:第一の可動部
5:第二の可動部
6:駆動部
7:制御部
8:圧調節バルブ
図1
図2
図3
図4