(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】吊荷動揺抑制装置
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20230301BHJP
B63B 27/10 20060101ALI20230301BHJP
B66C 23/52 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B66C13/22 M
B63B27/10 A
B66C23/52
(21)【出願番号】P 2019222960
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000144049
【氏名又は名称】株式会社三井造船昭島研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390032229
【氏名又は名称】株式会社エス・ケー・ケー
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 克昌
(72)【発明者】
【氏名】延田 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 弘志
(72)【発明者】
【氏名】田代 文夫
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-295488(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104817019(CN,A)
【文献】特開2000-198680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B63B 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業船上のクレーンから吊り下げられた吊荷の動揺を抑制するための吊荷動揺抑制装置であって、
前記吊荷を前記クレーンを介して昇降させるウインチと、
前記作業船の、現時点から先の動揺を予測する動揺予測システムと、
前記ウインチに連結され、前記動揺予測システムからの信号に基づいて、前記ウインチの回転速度を制御するウインチ制御システムと、を備え、
前記動揺予測システムは、
前記作業船に設けた動揺計測センサからの検出内容に基づいて、過去の動揺波形を計測データとして蓄積して、当該蓄積された過去の動揺波形に基づき自己回帰モデルを用いて、前記作業船の、現時点から先の動揺を予測可能に構成され、
前記ウインチ制御システムは、回転軸を有する駆動装置と、該駆動装置の回転軸から前記ウインチに伝達される回転速度を減速して増力する減速機構と、前記動揺予測システムからの信号に基づいて、前記ウインチの回転速度を演算する演算装置と、前記駆動装置と前記減速機構との間に配置され、前記演算装置からの信号に基づき、前記駆動装置の回転軸から前記減速機構を経由して前記ウインチに伝達される回転速度を制御するトルクコンバータと、を備え
、
前記トルクコンバータは、前記演算装置からの信号がトルクコンバータ制御装置を介して制御バルブに送信されることで、クラッチピストンへの油圧が制御されると共に各クラッチプレートの結合度合いが制御され、出力側の回転方向及び回転速度が制御されることを特徴とする吊荷動揺抑制装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、内燃機関であることを特徴とする請求項1に記載の吊荷動揺抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業船に備えたクレーンから吊り下げられた吊荷を設置または揚重する際、その吊荷の動揺を抑制するための吊荷動揺抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、今後推進が期待される洋上風力発電所等の建設においては、外洋における揚重作業として、様々な資材及び設備を海上から所定位置に設置、または所定位置から海上に揚重する必要がある。これら重量物である、例えば重量100トン~500トン相当の資材や設備を所定位置に設置または揚重するには、大型クレーンを備えた作業船が用いられることになる。しかしながら、海象条件が悪い中での外洋作業では、
図6(a)~(d)を参照して、波浪Wの影響によって、作業船3の動揺に伴い吊荷5も動揺する(
図6における吊荷5の波形状に延びる動揺軌跡線L4参照)ことで作業が停滞する虞があり、作業効率が低下して傭船費等が高くなる。すなわち、外洋における設置(揚重)作業においては、波浪Wの影響による作業船3の動揺に伴って吊荷5が動揺することで、作業効率が低下してその工期が延び、その結果、傭船費等を含めたトータルの施工費が高騰する懸念があった。なお、
図6に示す符号2はクレーンであり、符号16はワイヤである。
【0003】
これを対策するために提案された特許文献1には、作業船に設置されたクレーンと、所定の張力が導入された索を用いて前記クレーンに連結され、水底に設置された係留用の反力材と、を具備し、前記作業船の吊荷位置において、回転による変位量および上下動による変位量を小さくし、回転と上下動の位相をずらすことにより、前記吊荷位置での縦方向の揺れを低減する作業船の鉛直動揺低減構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1の発明では、反力材を水底に設置すると共に、当該反力材(コンクリート製のシンカ等)とクレーンとを索(線材等)により連結する作業が必要であり、工期を短縮することができず、上述した問題の根本的な解決には至らない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、作業船が波浪により動揺しても、クレーンから吊り下げられた吊荷の動揺を抑制して作業効率を向上させる吊荷動揺抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、作業船上のクレーンから吊り下げられた吊荷の動揺を抑制するための吊荷動揺抑制装置であって、前記吊荷を前記クレーンを介して昇降させるウインチと、前記作業船の、現時点から先の動揺を予測する動揺予測システムと、前記ウインチに連結され、前記動揺予測システムからの信号に基づいて、前記ウインチの回転速度を制御するウインチ制御システムと、を備え、前記動揺予測システムは、前記作業船に設けた動揺計測センサからの検出内容に基づいて、過去の動揺波形を計測データとして蓄積して、当該蓄積された過去の動揺波形に基づき自己回帰モデルを用いて、前記作業船の、現時点から先の動揺を予測可能に構成され、前記ウインチ制御システムは、回転軸を有する駆動装置と、該駆動装置の回転軸から前記ウインチに伝達される回転速度を減速して増力する減速機構と、前記動揺予測システムからの信号に基づいて、前記ウインチの回転速度を演算する演算装置と、前記駆動装置と前記減速機構との間に配置され、前記演算装置からの信号に基づき、前記駆動装置の回転軸から前記減速機構を経由して前記ウインチに伝達される回転速度を制御するトルクコンバータと、を備え、前記トルクコンバータは、前記演算装置からの信号がトルクコンバータ制御装置を介して制御バルブに送信されることで、クラッチピストンへの油圧が制御されると共に各クラッチプレートの結合度合いが制御され、出力側の回転方向及び回転速度が制御されることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1の発明において、前記駆動装置は、内燃機関であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る吊荷動揺抑制装置によれば、作業船が波浪により動揺しても、クレーンから吊り下げられた吊荷の動揺を抑制して作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置の作用を説明するためのフロー図である。
【
図3】
図3は、予測された作業船の動揺量に対するウインチの回転速度の関係図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置を採用した場合と、採用していない場合とで、吊荷の動揺量を比較した図である。
【
図5】
図5は、波浪によって、本吊荷動揺抑制装置を備えた作業船が動揺しても、そのクレーンから吊り下げられた吊荷の動揺が抑制されている様子を段階的に示した図である。
【
図6】
図6は、従来、作業船のクレーンから吊り下げられた吊荷が、波浪による作業船の動揺に伴って動揺している様子を段階的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図5に基づいて詳細に説明する。
図1に示す本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1は、
図5を参照して、クレーン2の先端付近から垂下される吊荷5を所定位置に設置、または所定位置から揚重する際に、波浪Wによる作業船3(クレーン2)の動揺に伴う吊荷5の動揺を抑制するためのものである。本吊荷動揺抑制装置1は、特に、吊荷5の上下方向に沿う動揺(ヒーブ)を抑制するためのものである。当該吊荷5は、例えば、洋上風力発電所等の建設にて必要となる様々な資材や風力発電設備等である。本吊荷動揺抑制装置1は、本実施形態では、吊荷5の重量が10トン以上、具体的には、最大500トンまでの範囲で対応可能な構成を有している。本吊荷動揺抑制装置1は、クレーン2を備えた作業船3上に配置される。そして、
図1及び
図5に示すように、本吊荷動揺抑制装置1は、吊荷5を作業船3のクレーン2を介して昇降させるウインチ10と、作業船3(クレーン2)の、現時点から先の動揺を予測する動揺予測システム11と、ウインチ10に連結され、動揺予測システム11からの信号に基づいて、ウインチ10の回転速度を制御するウインチ制御システム12と、を備えている。
【0012】
図1及び
図5に示すように、ウインチ10は、ドラム15にワイヤ16が巻回されて構成される。ドラム15は作業船3のクレーン2内に設置される。ドラム15は、後述するウインチ制御システム12のトルクコンバータ27と減速機構32、平歯車34及び中間歯車33を介して連結されている。
図5を参照して、ワイヤ16は、クレーン2の先端付近に巻回されて垂下されている。ワイヤ16の先端には吊荷5が吊り下げられている。
図1に示すように、動揺予測システム11は、作業船3の、過去の動揺波形の計測データから自己回帰モデルを使用して、現時点から先の動揺波形(ヒーブ)を予測するものである。詳しくは、動揺予測システム11は、作業船3の、過去の動揺波形を計測データとして蓄積するデータ蓄積部18と、該データ蓄積部18に蓄積された過去の動揺波形の計測データから自己回帰モデルを使用して現時点から先の動揺波形を予測する動揺予測部19と、を備えている。なお、作業船3の動揺を計測することで、クレーン2の動揺を検出することができる。
【0013】
図1に示すように、作業船3の動揺は、作業船3に設けた複数の動揺計測センサ22を用いて検出することができる。各動揺計測センサ22は、動揺予測システム11のデータ蓄積部18に電気的に接続されている。これら動揺計測センサ22からの検出内容が動揺予測システム11のデータ蓄積部18に送信される。そして、データ蓄積部18にて、各動揺計測センサ22からの検出内容に基づいて、現時点までの動揺波形が演算されて蓄積される。動揺予測システム11の動揺予測部19は、後述するウインチ制御システム12の演算装置26と電気的に接続されている。
【0014】
自己回帰モデル(Auto Regressive Model)は、ある時刻tの値を、時刻tよりも古いデータを用いて回帰するモデルのことであり、言い換えれば、過去のN点の計測データに重みづけをして、線型結合を作成することで近未来の値を予測する処理のことである。この自己回帰モデルは、経済指標予測、気象予測、河川流量予測等に用いられている。そして、動揺予測システム11のデータ蓄積部18において、各動揺計測センサ22からの検知内容が送信されることで過去の動揺波形が計測データとして蓄積される。続いて、動揺予測システム11の動揺予測部19において、データ蓄積部18にて蓄積された過去の動揺波形に基づき自己回帰モデルを用いて、現時点から先の動揺波形を予測することができる。
【0015】
ウインチ制御システム12は、ワイヤ16の先端に吊り下げられている吊荷5が、作業船3の動揺の影響を受けて上下方向に沿って動揺する動作をキャンセルするようにして、ドラム15からの単位時間当たりのワイヤ繰り出し量及びワイヤ巻き上げ量を制御するものである。すなわち、ウインチ制御システム12は、作業船3(クレーン2)が波浪Wの影響を受けて上下方向に動揺した場合でも、吊荷5の上下方向の動揺を極力抑制するために設けてある。そして、ウインチ制御システム12は、吊荷5の重量が10トン以上、詳しくは、最大500トンまでの範囲で対応可能な構成であり、回転軸25Aを有する駆動装置であるエンジン25と、動揺予測システム11の動揺予測部19からの信号に基づいて、該動揺予測部19で予測した現時点から先の動揺波形に対応した、ウインチ10のドラム15の回転速度を演算する演算装置26と、該演算装置26からの信号に基づき、エンジン25の回転軸25Aから減速機構32を経由してウインチ10に伝達される回転速度を制御するトルクコンバータ27と、を備えている。当該ウインチ制御システム12は、トルクコンバータ27とウインチ10のドラム15との間に減速機構32を配置して構成される。当該ウインチ制御システム12の構成は、本ウインチ制御システム12に要求される大荷重に対応することが可能な仕様となっており、エンジン25は、大出力が得られるディーゼルエンジン等の内燃機関が採用されている。
【0016】
演算装置26とトルクコンバータ27(制御バルブ38)とは、演算装置26からの信号に基づいて、トルクコンバータ27の作動を制御するトルクコンバータ制御装置30を介して電気的に接続されている。エンジン25の回転軸25Aからの回転は、トルクコンバータ27に伝達される。トルクコンバータ27からの回転は、減速機構32に伝達される。減速機構32からの回転は、中間歯車33及び平歯車34を介してウインチ10のドラム15に伝達される。そして、トルクコンバータ27からの回転は、減速機構32により減速、増力されてウインチ10のドラム15に伝達される。なお、本実施形態では、トルクコンバータ27からの回転は、減速機構32、中間歯車33及び平歯車34を介してウインチ10のドラム15に伝達されているが、トルクコンバータ27からの回転を減速、増力してドラム15に伝達することができれば、この実施形態に限ることはない。
【0017】
演算装置26には、シーケンサー(PLC)が採用される。該演算装置26は、動揺予測システム11の動揺予測部19からの信号、すなわち作業船3の、予測された現時点から先の動揺波形に基づいて、ドラム15の回転速度を演算するものである。詳しくは、動揺予測システム11の動揺予測部19から受信される、作業船3の現時点から先の動揺波形に対して、吊荷5の動揺を振幅方向(縦軸)及び位相方向(横軸)にて打ち消すように、ドラム15の回転速度(ドラム15からの単位時間当たりのワイヤ繰り出し量または巻き上げ量(
図3の直線L1及びL2参照))を演算するものである。トルクコンバータ制御装置30は、演算装置26にて演算されたドラム15の回転速度、すなわち演算されたトルクコンバータ27の出力側の回転速度に基づいて、トルクコンバータ27の作動を制御すべく、その信号をトルクコンバータ27の、クラッチピストン39への油圧を制御する制御バルブ38に送信するものである。
【0018】
トルクコンバータ27は、互いのクラッチプレート40、40の結合度合いを制御することにより、入力された回転速度(回転トルク)に対して、出力側の回転速度(回転トルク)を広範囲に変化させることが可能な流体式無段変速装置である。そして、本実施形態では、トルクコンバータ27は、トルクコンバータ制御装置30からの信号が制御バルブ38に送信され、クラッチピストン39への油圧が制御されると共に各クラッチプレート40、40の結合度合いが制御されることで、出力側の回転方向及び回転速度が制御される。
【0019】
なお、ウインチ10には、回転速度センサ43が配置されている。該回転速度センサ43により、ドラム15の回転速度が常時検出されている。当該回転速度センサ43からの検出内容が、ウインチ制御システム12の演算装置26に送信される。そして、演算装置26では、動揺予測システム11の動揺予測部19からの信号に基づいて演算された回転速度と、回転速度センサ43からの実際の回転速度とを比較して、実際の回転速度が演算された回転速度に対して許容範囲を超えて異なる場合には、実際の回転速度が演算された回転速度に補正されるように、トルクコンバータ制御装置30に対してその信号が送信される。
【0020】
次に、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1の作用について、
図2を参照しながら、適宜
図1、
図3~
図5も参照しながら説明する。
ステップS1では、常時、作業船3に設けた各動揺計測センサ22からの検出内容が動揺予測システム11のデータ蓄積部18に送信される。そして、当該データ蓄積部18において、各動揺計測センサ22からの検出内容に基づき、作業船3の、現時点までの動揺波形が演算されて計測データとして蓄積される。続いて、ステップS2では、動揺予測システム11において、そのデータ蓄積部18にて蓄積された、作業船3の過去の動揺波形(計測データ)が動揺予測部19に送信される。そして、動揺予測部19において、データ蓄積部18にて蓄積された過去の動揺波形に基づき自己回帰モデルを用いて、現時点から先の動揺波形を予測する。
【0021】
次に、ステップS3では、動揺予測システム11の動揺予測部19にて予測された、作業船3の現時点から先の動揺波形が、演算装置26に送信される。そして、演算装置26では、作業船3の、予測された現時点から先の動揺波形に基づいて、ドラム15の回転速度が演算される。詳細には、上述したように、演算装置26では、
図3に示すように、動揺予測システム11から受信した、作業船3の現時点から先の動揺波形に対して、吊荷5の動揺を振幅方向(縦軸)及び位相方向(横軸)にて打ち消すように、ドラム15の回転速度(ドラム15からの単位時間当たりのワイヤ繰り出し量またはワイヤ巻き上げ量(
図3の直線L1及びL2参照))を演算する。続いて、ステップS4では、演算装置26にて演算されたドラム15の回転速度に相当する制御信号がトルクコンバータ制御装置30に送信される。そして、トルクコンバータ制御装置30では、演算装置26にて演算されたドラム15の回転速度、すなわち演算されたトルクコンバータ27の出力側の回転速度に到達するように、トルクコンバータ27の作動を制御すべく、その制御信号をトルクコンバータ27の、クラッチピストン39への油圧を制御する制御バルブ38に送信する。
【0022】
次に、ステップS5では、演算装置26にて演算された回転速度にて、トルクコンバータ27からの回転が減速機構32、中間歯車33及び平歯車34を介してウインチ10に伝達されて、ウインチ10のドラム15が回転される。このとき、トルクコンバータ27からの回転は、減速機構32により減速、増力されてウインチ10のドラム15に伝達される。そして、ウインチ10のドラム15であって、その単位時間当たりのワイヤ巻き上げ量(ドラム15のワイヤ巻き上げ方向の回転速度であって、
図3の右上がりの直線L1に相当)、及びワイヤ繰り出し量(ドラム15のワイヤ繰り出し方向の回転速度であって、
図3の右下がりの直線L2に相当)が、作業船3の動揺に伴って制御されることで、
図5(a)~(d)から解るように、ワイヤ16の先端に吊り下げられている吊荷5を、その動揺を抑制しながら(
図5における吊荷5の高さがほぼ一定の直線状に延びる動揺軌跡線L3参照)、所定位置に向かって設置、または所定位置から揚重することができる。なお、
図4からも解るように、本吊荷動揺抑制装置1を採用した場合には、採用していない場合に比べて、吊荷5の上下方向の動揺が抑制されていることが解る。
【0023】
ここで、
図3に示すように、動揺予測システム11の動揺予測部19により予測された、作業船3の数秒後の動揺予測に対して、その動揺を打ち消すタイミングにて、ウインチ10のドラム15の回転速度及び回転方向が制御されるように、動揺予測システム11からの信号によるトルクコンバータ27の応答性を考慮する必要がある。なお、上述したステップS1~S5では、作業船3の動揺に伴う吊荷5の動揺を抑制すべく回転速度にてウインチ10のドラム15を回転させているが、実際には、吊荷5を所定位置に向かって降下させるためのドラム15の回転速度、吊荷5を所定位置から吊り上げるためのドラム15の回転速度、または吊荷5を停止状態とするドラム15の回転速度に、吊荷5の動揺を抑制するためのドラム15の回転速度を加味したうえでドラム15が回転されることになる。
【0024】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1は、特に、作業船3の現時点から先の動揺を予測する、データ蓄積部18及び動揺予測部19を有する動揺予測システム11と、ウインチ10のドラム15に連結され、動揺予測システム11の動揺予測部19からの信号に基づいて、ウインチ10のドラム15の回転速度を制御するウインチ制御システム12と、を備え、該ウインチ制御システム12は、エンジン25と、動揺予測システム11の動揺予測部19からの信号に基づいて、ウインチ10のドラム15の回転速度を演算する演算装置26と、該演算装置26からの信号に基づき、エンジン25の回転軸25Aから減速機構32を経由してウインチ10のドラム15に伝達される回転速度を制御するトルクコンバータ27と、を備えている。
【0025】
そして、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1では、波浪Wの影響により作業船3(クレーン2)が動揺(ヒーブ)しても、クレーン2の先端付近からワイヤ16により吊り下げられている吊荷5を、その動揺を抑制しながら、所定位置に設置する、または所定位置から揚重することが可能になる。これにより、波浪Wの影響による作業の停滞を抑制してその作業効率を向上させることで、工期を短縮することができ、その結果、傭船費等を含めたトータルの施工費用を抑えることができる。
【0026】
また、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1では、ウインチ制御システム12として、特に、エンジン25及びトルクコンバータ27を採用しているので、重量10トン以上、詳しくは最大重量500トン程度までの吊荷5に対応することができ、しかも、重量500トン相当の吊荷5に対応できるにも関わらず、吊荷動揺抑制装置1全体をコンパクト化することが可能となる。その結果、本吊荷動揺抑制装置1を、作業船3上の限られたスペースに容易に配置することが可能となる。
【0027】
そこで、本実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1に採用したエンジン25の代わりに電動モータを採用して、その回転軸の回転に伴う作動油の流れを制御(流量及び流れの方向等を制御)する油圧回路を設け、該油圧回路からの作動油の吐出量により油圧モータの回転軸の回転速度や回転方向を変化させることで、ウインチ10のドラム15の回転速度や回転方向を制御することは可能である。しかしながら、この形態では、対応可能な吊荷5の重量がせいぜい10トン程度までであり、重量10トン以上、詳しくは最大重量500トン相当の吊荷5に対応することができない。しかも、この形態にて、最大重量500トン相当の吊荷5に対応させるためには、各構成部材(電動モータ、油圧回路、油圧モータ等)が大型化して装置全体の専有スペースが相当大きくなる。その結果、この装置全体を作業船3上の限られたスペースに配置することは不可能であり現実的ではない。
【0028】
さらに、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1は、既存の作業船3に容易に設置することができ、非常に取り扱いが良好であり、汎用性に富む。すなわち、大型のクレーン2を有する作業船3には、エンジン25、トルクコンバータ27等が既に配備されていることが多く、本吊荷動揺抑制装置1を既存の作業船3に配置するには、動揺計測センサ22を含む動揺予測システム11、及び演算装置26を付加すればよく、その汎用性の点で大いに有効である。
【0029】
なお、本発明の実施形態に係る吊荷動揺抑制装置1では、ウインチ制御システム12の駆動装置としてエンジン25を採用したが、吊荷5の重量によっては電動モータ等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 吊荷動揺抑制装置,2 クレーン,3 作業船,5 吊荷,10 ウインチ,11 動揺予測システム,12 ウインチ制御システム,15 ドラム,25 エンジン(駆動装置、内燃機関),25A 回転軸,26 演算装置,27 トルクコンバータ,32 減速機構