(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】トンネルセントルの型枠支持構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20230301BHJP
E04G 11/34 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
E21D11/10 B
E04G11/34 B
(21)【出願番号】P 2020036764
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000158725
【氏名又は名称】岐阜工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 富弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 信二
(72)【発明者】
【氏名】平野 定雄
(72)【発明者】
【氏名】寺本 哲
(72)【発明者】
【氏名】須川 智久
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-145388(JP,A)
【文献】特開平7-91050(JP,A)
【文献】特開昭51-53730(JP,A)
【文献】特開平11-294100(JP,A)
【文献】特開2014-190147(JP,A)
【文献】特開2011-208412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
E04G 11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル延長長手方向へ移動可能な台車上に、トンネル内壁に沿う円弧状に湾曲する型枠を支持する平面視で略四角形の台枠を備え、当該台枠をその四隅で昇降ジャッキによって支持するようにしたトンネルセントルにおいて、前記台枠のトンネル延長方向前後位置の少なくとも左右を一対とした一方のトンネル幅方向両端を支持する前記昇降ジャッキの基端と台車との間に、前記基端をトンネル幅方向へ直線移動させる横移動機構と、当該横移動機構に重ねて位置させられて前記横移動機構の移動方向と交差する方向で前記基端を移動可能とする縦移動機構とを介在させたトンネルセントルの型枠支持構造。
【請求項2】
前記縦移動機構は、前記基端に自由な直線移動を許容する縦スライド機構である請求項1に記載のトンネルセントルの型枠支持構造。
【請求項3】
前記台枠の中心部に、当該台枠を、これを中心に旋回移動させる軸体を設けた請求項2に記載のトンネルセントルの型枠支持構造。
【請求項4】
前記縦移動機構は、前記基端に、前記台枠のトンネル幅方向中央に設けた軸体を中心とした円弧状の移動を許容する案内機構である請求項1に記載のトンネルセントルの型枠支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネルセントルの型枠支持構造に関し、特に型枠をトンネル幅方向へ移動させる横移動機構を備える型枠支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル内周壁に沿う形状の型枠を備えてトンネルの長手方向へ移動し、型枠の外周とトンネル内周との間に二次覆工コンクリートの打設空間を形成するトンネルセントルには特許文献1に示されるような横移動機構を備えたものがあり、当該横移動機構は、移動レールの誤差等よって型枠装置とトンネル設計線形にズレが発生した場合に、型枠をトンネル幅方向へ移動させることによって補正調整するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、横移動機構をトンネルセントルの移動台車上の、トンネル延長方向の前後両端部に設けることがあり、各横移動機構上に昇降用のジャッキを設けて、当該ジャッキによって型枠の天フレームを支持している。通常は天フレームと一体でこれを支持する平面視で略四角形の台枠を設けて、当該台枠の四隅を、それぞれ上記横移動機構上に設けた昇降ジャッキで支持している。
【0005】
この場合、移動台車の位置に関わらずトンネルの線形に合わせて型枠の向きを調整する必要があり、トンネル延長方向の前後位置に設けた各横移動機構を逆方向へ移動させて台枠すなわち天フレームを旋回させるが、この旋回に伴って台枠を支持する昇降ジャッキの先端が、昇降ジャッキの基端の横移動機構による直線移動方向に対して交差する方向へ移動する力が作用するため、昇降ジャッキに大きなねじれ力が作用して、往々にして昇降ジャッキや横移動機構が破損するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、横移動機構の作動時に昇降ジャッキに大きなねじれ力が作用せずその破損を未然に防止できるトンネルセントルの型枠支持構造を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、トンネル延長方向へ移動可能な台車(5)上に、トンネル内壁に沿う円弧状に湾曲する型枠(TF)を支持する平面視で略四角形の台枠(1)を備え、当該台枠(1)をその四隅で昇降ジャッキ(2)によって支持するようにしたトンネルセントルにおいて、前記台枠(1)のトンネル延長方向前後位置の少なくとも一方のトンネル幅方向両端を支持する前記昇降ジャッキ(2)の基端と台車(5)との間に、前記基端をトンネル幅方向へ直線移動させる横移動機構(3)と、当該横移動機構(3)に重ねて位置させられて前記横移動機構(3)の移動方向と交差する方向で前記基端を移動可能とする縦移動機構(4,6)とを介在させる。
【0008】
本第1発明において、トンネル延長方向前後位置の少なくとも一方に設けた横移動機構を作動させ、あるいはトンネル延長方向の前後位置の両方に設けた横移動機構を互いに逆方向へ作動させると、台枠はやや変形しつつ旋回し、この旋回に伴って台枠を支持する昇降ジャッキの先端が、昇降ジャッキの基端の横移動機構による直線移動方向に対して交差する方向へ移動する。ここにおいて、縦移動機構を設けたことによって昇降ジャッキの基端はその先端に追従して上記交差する方向で移動できるから、昇降ジャッキの先端と基端が平面視で常にほぼ一致させられ、昇降ジャッキに生じるねじれ力が小さく抑えられる。
【0009】
本第2発明では、前記縦移動機構は、前記基端に自由な直線移動を許容する縦スライド機構(4)である。
【0010】
本第2発明においては、縦移動機構を簡易な構成で実現することができる。
【0011】
本第3発明では、前記台枠(1)の中心部に、当該台枠(1)を、これを中心に旋回移動させる軸体(14)を設ける。
【0012】
本第3発明においては、昇降ジャッキによって支持された台枠の、無規制な縦断方向移動変位を規制することができる。
【0013】
本第4発明では、前記縦移動機構は、前記基端に、前記台枠(1)のトンネル幅方向中央に設けた軸体(61)を中心とした円弧状の移動を許容する案内機構(6)である。
【0014】
本第4発明においては、台枠の旋回移動に伴う昇降ジャッキの先端の移動に基端を良好に追従させることができる。
【0015】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のトンネルセントルの型枠支持構造によれば、横移動機構の作動時に昇降ジャッキに大きなねじれ力が作用しないから、その破損を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態における、台枠の平面図である。
【
図3】横移動ジャッキと縦スライド機構の側面図である。
【
図4】案内機構作動時の横移動ジャッキと縦スライド機構の側面図である。
【
図5】台車上の台枠の、横移動時の概略平面図である。
【
図6】台車上の台枠の、横移動時の概略平面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態における、案内機構と台枠の位置関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0019】
(第1実施形態)
図1にはトンネルセントルの型枠を構成する天フレームTF(
図2)を支持する台枠1の平面図を示し、
図2には
図1のA矢視側面図を示す。台枠1は平面視で略横長四角形をなし、
図1の上下方向がトンネルの延長方向となっている。台枠1は、トンネル延長方向へ間隔をおいてトンネル幅方向へ延びる複数の台梁11と、これら台梁11と直交して中央左右位置に設けられた台梁サポートビーム12を備えており、台梁11はトンネル幅方向の左右端位置でそれぞれトンネル延長方向へ延びる一対の主ビーム13の下面に固定されている。
【0020】
主ビーム13はトンネル延長方向の前後端部下面が上方へ山形状に凹陥しており(
図2)、この凹陥部131が、昇降機構としての昇降ジャッキ2と、詳細を後述する横移動機構たる横移動ジャッキ3および縦移動機構としての縦スライド機構4を介して、下方の移動台車(ガントリー)5の桁材51上に支持されている。
【0021】
図3には横移動ジャッキ3と縦スライド機構4の詳細を示す。横移動機構3は公知の構造で、その入力回転軸31が図略の駆動モータに連結されており、入力回転軸31が一方向へ回転駆動されると、内設されたネジ機構によってスライダ32が紙面手前側(
図1では紙面右方のトンネル幅方向)へ直線移動させられ、入力回転軸31が他方向へ回転駆動されると、スライダ32が紙面背後側(
図1では紙面左方のトンネル幅方向)へ直線移動させられる。縦スライド機構4は上記スライダ32上に搭載されており、当該縦スライド機構4によって、スライダ32の移動方向と直交する
図3の左右方向(
図1では紙面上下方向のトンネル延長方向)へ昇降ジャッキ2の基端が一定範囲で自由にスライド移動できるようになっている。移動した状態の一例を
図4に示す。
【0022】
また本実施形態では
図1、
図2に示すように、台枠1の中心であるトンネル延長方向中央の台梁11の中央下面に軸体14が突設されており、軸体14は、下方のガントリー5上面に設けた案内部材52の案内溝521内に進入位置している。案内溝521は軸体14の径とほぼ同じ幅で、トンネル幅方向(
図1の左右方向)へ一定寸法で延びている。これにより、台枠1はその中心周りに旋回可能であるとともに、一定範囲でトンネル幅方向へ移動可能である。
【0023】
このような構造で、トンネルの曲率に沿わせて例えば台枠1のトンネル延長方向一端(
図5の上端)左右両側に設けられた横移動機構3によって当該一端側の昇降ジャッキ2の基端をトンネル幅方向の一方へ距離Xだけ直線移動させる((
図5の白矢印))とともに、台枠1のトンネル延長方向他端(
図5の下端)両側に設けられた横移動機構によって当該他端側の昇降ジャッキ2の基端を上記一端側と逆方向のトンネル幅方向へ同量直線移動させる(
図5の白矢印)と、これに伴って台枠1(すなわちこれに支持された天フォームTFを含む枠体)は四角形をやや変形させつつ軸体14を中心に
図5の実線位置から破線位置へと旋回させられる。
【0024】
この時、台枠1の旋回に伴って各昇降ジャッキ2の先端はそれぞれの基端に対して
図5に示す距離Yだけトンネル延長方向へ移動するから、縦スライド機構が無い場合には、昇降ジャッキに大きなねじれ力が作用する。ここにおいて、本実施形態では各昇降ジャッキ2の基端が縦スライド機構4によってトンネル延長方向へ自由に移動できるようになっているから、台枠1の変形旋回に伴って各昇降ジャッキ2の基端もその先端の移動に追従して距離Yだけ移動し、各昇降ジャッキ2の先端と基端が平面視でほぼ一致させられ、昇降ジャッキ2の直立姿勢がほぼ維持される。これにより、各昇降ジャッキ2に発生するねじれ力が小さく抑えられる。
【0025】
台枠1の、トンネル延長方向の一端(
図6の上端)両側の横移動機構3の移動量(
図6の白矢印)が他端(
図6の下端)両側の横移動機構3の移動量(
図6の白矢印)よりも大きい場合には、
図6に示すように台枠1はその軸体14が案内溝521に沿って移動できる範囲でトンネル幅方向へ移動しつつ軸体14周りに変位旋回する。そしてこの場合も、各昇降ジャッキ2の基端は、横移動機構による距離X´の移動と同時に、その先端の移動に追従して縦スライド機構4によってトンネル延長方向へ距離Y´だけ移動させられ、この結果、各昇降ジャッキ2の先端と基端が平面視でほぼ一致させられて、各昇降ジャッキ2のねじれ力は小さく抑えられる。
【0026】
なお、本実施形態において、台枠の、トンネル延長方向のいずれか一方の端部両側の横移動機構3のみを作動させ、他方の横移動機構3を停止した場合にも、台枠1はその四角形を変形させつつ旋回するから、上記構造によって各昇降ジャッキ2に生じるねじれ力を小さく抑えることができる。
【0027】
(第2実施形態)
図7、
図8には型枠支持構造の他の例を示す。なお、
図7は型枠支持構造の概略平面図、
図8は
図7のB矢視正面図である。各図において、台枠1(
図1参照)のトンネル延長方向の一端両側及び他端両側をそれぞれ支持する昇降ジャッキ2(
図8)は、ガントリー5(
図2参照)のトンネル延長方向の両端部上にそれぞれ設けた案内機構6上に位置している。
【0028】
すなわち、本実施形態では縦移動機構としての案内機構6は、中央を軸体61によってガントリー5(
図2参照)に旋回可能に結合されてトンネル幅方向へ延びる枠体62を備えており、枠体62の両端下面には荷重を受けつつ枠体62の円滑な旋回を可能にする受け部材63が配設されている。受け部材63としては転動体を使用した軸受部材等が使用できる。枠体62の両端部上にはそれぞれ第1実施形態で説明した公知の横移動機構3が設けてあり、各横移動機構3上にそれぞれ昇降ジャッキ2が立設されている。
【0029】
型枠をトンネルの曲率に沿わせるために、台枠1のトンネル延長方向の両端両側に設けられた横移動機構3を、トンネル幅方向で互いに逆方向へ移動させると、これに伴って台枠1は四角形をやや変形させつつ例えば
図7の実線位置から破線位置へ旋回させられる。これに伴って各昇降ジャッキ2の先端が旋回移動するが、各昇降ジャッキ2の基端は、それぞれ案内機構6を構成する枠体62が各軸体61を中心に旋回可能であることによって、各昇降ジャッキ2の先端の移動に追従して自由に移動し、各昇降ジャッキ2の先端と基端が平面視で常にほぼ一致させられる。これにより、各昇降ジャッキ2に生じるねじれ力が小さく抑えられる。
【0030】
(その他の実施形態)
上記各実施形態において、横移動機構をトンネル延長方向のいずれか一端部にのみ設ける構造であっても良い。
また、上記実施形態では縦移動機構を受動的な機構としたが、手動あるいはモータ等の駆動手段で能動的に移動させる機構としても良い。能動的移動機構とした場合には、昇降ジャッキのねじれ(傾き)姿勢を算出もしくは検出してこれを修正するように駆動手段を作動制御するようにすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1…台枠、14…軸体、2…昇降ジャッキ、3…横移動機構、4…縦スライド機構(縦移動機構)、5…ガントリー(台車)、6…案内機構(縦移動機構)、61…軸体、TF…天フォーム(型枠)。