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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ロール用ゴム加硫物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20230301BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20230301BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230301BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230301BHJP
   F16C 13/00 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L23/26
C08L1/02
C08L21/00
F16C13/00 B
F16C13/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021111454
(22)【出願日】2021-07-05
(65)【公開番号】P2023008141
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000142436
【氏名又は名称】株式会社金陽社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 佳晃
(72)【発明者】
【氏名】石倉 定行
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-125420(JP,A)
【文献】特開2019-147877(JP,A)
【文献】特開2019-131774(JP,A)
【文献】特開2021-123639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
F16C 13/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性原料ゴムと、変性ポリオレフィン樹脂と、セルロースナノファイバーとを含むロール用ゴム加硫物であって、
前記変性ポリオレフィン樹脂は、前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総重量100質量部に対して1質量部以上40質量部以下で配合され、
前記セルロースナノファイバーは、前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下の割合で配合され、
前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂とが相互に架橋されたロール用ゴム加硫物。
【請求項2】
前記非極性原料ゴムは、エチレンプロピレンゴムである請求項1に記載のロール用ゴム加硫物。
【請求項3】
前記ロール用ゴム加硫物は、25℃の室温下で7日間放置した後の含水状態における純水との接触角が100度以下である請求項1又は2に記載のロール用ゴム加硫物。
【請求項4】
前記ロール用ゴム加硫物は、JIS K6258に準拠し温度40℃の純水に28日間浸漬して行う純水への浸漬試験における質量変化率が20%以下であり、前記セルロースナノファイバーを除いた前記ロール用ゴム加硫物は純水への浸漬試験における質量変化率が3%以下である請求項1から3のいずれか1項に記載のロール用ゴム加硫物。
【請求項5】
(a)変性ポリオレフィン樹脂の水性分散液と、セルロースナノファイバーの水性分散液を混合する工程と、
(b)前記(a)工程で得た混合液から水分を除去して、前記変性ポリオレフィン樹脂と前記セルロースナノファイバーとのマスターバッチを得る工程と、
(c)前記(b)工程で得た前記マスターバッチと、非極性原料ゴムと、有機過酸化物とを、
前記変性ポリオレフィン樹脂が前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総重量100質量部に対して1質量部以上40質量部以下の割合、および
前記セルロースナノファイバーが前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下の割合、になるように混練してゴム組成物を得る工程と、
(d)前記(c)工程で得たゴム組成物を加熱することによってロール用ゴム加硫物を得る工程と、
を含むロール用ゴム加硫物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール用ゴム加硫物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面にゴム層を有するロールにおいて、そのゴム層に用いられるゴム材料は一般に多くの場合、疎水性である。しかしながら、ロールの用途によっては、その表面が親水性であることが望まれる。親水性を有するゴム材料として、ウレタンゴム、ニトリルゴム(NBR)などの極性の高い、すなわち表面エネルギーの大きなゴムが用いられている。また、これらのゴムを酸変性したゴムや、親水性の配合剤を混合したゴム加硫物が使用されている。
【0003】
疎水性のゴムに親水性を付与する技術も用いられている。そのような技術は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、カルボキシ変性ニトリルゴムにポリエチレングリコールを含む親水化用可塑剤を混合して、親水性を付与したゴム組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-53160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明のゴム組成物に含まれているカルボキシ変性ニトリルゴムは、極性の高い原料ゴムであるため、水に触れると膨潤する。さらに、水と接触して使用していると、親水化用可塑剤が徐々に溶出して親水性が低下する。
【0006】
本発明の目的は、親水性を有し、かつ水との接触による膨潤を抑制したロール用ゴム加硫物及びその製造方法を提供することである。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のロール用ゴム加硫物は、非極性原料ゴムと、変性ポリオレフィン樹脂と、セルロースナノファイバーとを含む。セルロースナノファイバーは、非極性原料ゴムと変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の割合で配合される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1に係るセルロースナノファイバーの分散状態を偏光顕微鏡で50倍の倍率にて観察した写真である。
図2図2は、比較例3に係るセルロースナノファイバーの分散状態を偏光顕微鏡で50倍の倍率にて観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るゴム加硫物、及びその製造方法について説明する。
【0010】
実施形態のゴム加硫物は、非極性原料ゴムと、変性ポリオレフィン樹脂と、セルロースナノファイバーとを含む。セルロースナノファイバーは、非極性原料ゴムと変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の割合で配合される。
【0011】
非極性原料ゴムは、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)から選択される1つ又は2つ以上の混合物のゴムを用いることができる。それらの中でも、エチレンプロピレンゴムは、ゴム加硫物の耐久性をより高めることができるため好ましい。
【0012】
変性ポリオレフィン樹脂は、その分子骨格に極性基が導入されている。極性基は、後述するようにセルロースナノファイバーとの親和性を向上させ、セルロースナノファイバー同士の凝集を抑制してセルロースナノファイバーの分散性を高める効果がある。前記極性基は、例えばカルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、又はエポキシ基などが挙げられる。それらの中でもカルボキシル基、酸無水物基が導入されたポリオレフィン樹脂は、入手し易い点で好ましい。極性基は、複数種類導入されていてもよい。
【0013】
ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体などが挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂は、これらのポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸で変性されたものである。それらの中で、変性されたポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、及びエチレン-ブテン共重合体は、融点が比較的低く、非極性原料ゴムとの混練工程における加工性が向上するため、好ましい。
【0014】
変性ポリオレフィン樹脂は、2種以上の変性ポリオレフィン樹脂を混合してもよい。
【0015】
非極性原料ゴムと変性高分子重合体は、一般に相溶性が低い。しかし、発明者らは変性ポリオレフィンが、非極性の原料ゴムと相溶する特徴を有することを見出した。このような混合物を含むゴム加硫物は、当該非極性の原料ゴムの優れた耐水性により親水性に加えて高い耐久性を発現することが可能になる。
【0016】
変性ポリオレフィン樹脂の配合割合は、非極性原料ゴムと変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下であることが好ましい。より好ましくは5量部以上30質量部以下であり、さらに好ましく5質量部以上20質量部以下である。変性ポリオレフィン樹脂が1質量部未満にすると、後述するセルロースナノファイバーが凝集しやすくなる虞がある。変性ポリオレフィン樹脂が40質量部を超えると、ゴム加硫物の弾性力が損なわれる虞がある。また、変性ポリオレフィン樹脂は、マスターバッチ化の製造コストが高いため、極力減らすことが経済的にも好ましく、変性ポリオレフィン樹脂が40質量部以下(非極性原料ゴムを60質量部以上)とすることが好ましい。
【0017】
セルロースナノファイバーは、その軽量性、弾性率の高さ、及び低環境負荷から、近年ゴムの補強材として注目されている。しかし、発明者らはセルロースナノファイバーが親水性を有することに着目し、ゴム加硫物に配合することによって、当該ゴム加硫物に親水性を付与できることを見出した。セルロースナノファイバーは、直径1nm以上1,000nm以下、長さが直径の10倍以上1000倍以下、更に好ましくは直径が同じで、長さが直径の50倍以上1,000倍以下である。
【0018】
セルロースナノファイバーは、ゴム加硫物中の非極性原料ゴム及び変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の範囲で配合される。セルロースナノファイバーは、好ましくは1質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下の範囲で配合される。セルロースナノファイバーの配合量を0.5質量部未満にすると、ゴム加硫物に親水性を十分に付与できず、目的とする特性のゴム加硫物を得ることが困難になる。セルロースナノファイバーの配合量が20質量部を超えると、セルロースナノファイバー同士が凝集し易くなって凝集体がゴム加硫物中に生じる虞がある。セルロースナノファイバーの凝集体がゴム加硫物中に生じると、その部分だけ局所的に膨潤し、ゴム加硫物の寸法安定性、平滑性を損なう。また、セルロースナノファイバーの材料価格は一般的なゴムの配合剤と比べて高価であるため、添加量の過度な増加は、経済的な面で好ましくない。
【0019】
なお、ゴム加硫物は、必要に応じて老化防止剤、加工促進助剤、充填剤、または可塑剤などの一般的なゴムの配合剤を含んでもよい。
【0020】
(接触角)
実施形態に係るゴム加硫物は、含水状態における純水との接触角が100度以下であることが好ましい。すなわち、ロールに適用された実施形態に係るゴム加硫物は、水と常時接しながら使用される。このため、ゴム加硫物は使用時に水が含侵した状態になる。従って、実施形態においても接触角の測定は、あらかじめ測定試料を純水中に浸漬し、含水状態としてから純水との接触角を測定している。
【0021】
含水状態における純水との接触角を100度以下とすることによって、実施形態に係るゴム加硫物をゴムロールに適用した場合、水又は水性塗料がゴムロールの表面に均一に濡れ広がり、均一な薄膜を形成することができる。一方、接触角が100度を超えると、水又は水性塗料がゴムロールの表面に不均一に広がる虞がある。
【0022】
(ゴム加硫物の質量変化率)
実施形態に係るゴム加硫物は、純水への浸漬試験(JIS K6258に準拠)による質量変化率が20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。質量変化率が20%を超えると、吸水による膨潤が大きくなり、実施形態に係るゴム加硫物をゴムロールに適用すると、外径精度を損なう虞がある。
【0023】
セルロースナノファイバーを除いたゴム加硫物の純水への浸漬試験による質量変化率は、3%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。質量変化率が3%を超えると、ゴム加硫物の耐水性が悪化し、ゴム加硫物をゴムロールとして長期間使用した際、劣化が早くなる虞がある。
【0024】
(ゴム加硫物の硬さ変化)
実施形態に係るゴム加硫物は、純水への浸漬試験(JIS K6258に準拠)の前後における硬さ変化が-3以上+3以下であることが好ましい。硬さ変化が-3未満又は+3を超えると、ゴム加硫物をゴムロールに適用して長期間使用した際、接触する部材との間のニップ圧が変化する虞がある。
【0025】
実施形態に係るゴム加硫物によれば、当該ゴム加硫物の材質自体が親水性であるため、ゴムロールに適用した際、水性塗料を均一にかつ厚みむら無く塗布をすることができる。さらに、薄膜に塗布することも可能である。
【0026】
また、従来技術のような表面処理による親水化ではないため、長期の使用により表面に摩耗が生じた場合でも、材質自体は変化せず、親水性を維持することができる。
【0027】
さらに、セルロースナノファイバーは繊維状であるため、球状又は不定形の充填剤と比べて、ゴム加硫物からの脱落を抑制することができる。
【0028】
そのうえ、ゴム加硫物に含まれるセルロースナノファイバーの繊維径は、1nm以上1,000nm以下と極細であるため、セルロースナノファイバーが吸水しても、ゴム加硫物の表面の平滑性は損なわれない。
【0029】
加えて、実施形態に係るゴム加硫物は、製造のために特別な設備を導入する必要はない。従来の技術よりも経済的なコストを抑えながら、親水性を付与することができる。
【0030】
また、実施形態に係るゴム加硫物は非極性原料ゴムに、セルロースナノファイバーの親水性を付与しているため、水と接触したときの硬さの変化を抑制することができる。
【0031】
(ゴム加硫物の製造方法)
実施形態に係るゴム加硫物の製造方法について説明する。
【0032】
実施形態に係るゴム加硫物の製造方法は、(a)変性ポリオレフィン樹脂の水性分散液と、セルロースナノファイバーの水性分散液を混合する工程と、(b)(a)工程で得た混合液から水分を除去して、変性ポリオレフィン樹脂とセルロースナノファイバーとの樹脂マスターバッチを得る工程と、(c)(b)工程で得た樹脂マスターバッチと非極性原料ゴムを前記セルロースナノファイバーが、前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の割合になるように混練してゴム加硫物の未加硫物(ゴム組成物)を得る工程とを含む。
【0033】
前記(a)~(c)工程を詳述する。
【0034】
まず、セルロースナノファイバーの水性分散液と、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散液とを混合して均一に分散させる。セルロースナノファイバーの水性分散液は、例えばセルロースナノファイバーが0.2重量%以上10重量%以下の濃度で水中に分散されている水性分散液を用いればよく、そのような分散液は市販されている。変性ポリオレフィン樹脂の水性分散液は、例えば市販されているものを用いればよい。
【0035】
次いで、混合した分散液を乾燥して水分を除去し、セルロースナノファイバーと変性ポリオレフィン樹脂のマスターバッチを得る。
【0036】
その後、得られたマスターバッチを非極性原料ゴムと混練してゴム組成物を得る。この混合は、前記セルロースナノファイバーが前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の割合にする。混練する際に、マスターバッチと非極性原料ゴムの他に、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、加工助剤、充填剤、又は可塑剤などの一般的なゴムの配合剤を、適宜配合してもよい。
【0037】
加硫剤は、過酸化物架橋剤であることが好ましい。過酸化物架橋剤を用いることで、非極性ゴム材料だけでなく変性ポリオレフィン樹脂の架橋も得られるため、ゴム加硫物をより高物性にすることができる。
【0038】
混練の方法は特に限定されるものではないが、例えばニーダー混練機、バンバリーミキサー、オープンロールなどの公知の技術を用いればよい。混練時の温度は、変性ポリオレフィン樹脂の融点以上の温度にすることが好ましい。
【0039】
混練して得られたゴム組成物は、ゴムロールに成形され得る。ゴムロールには、例えば、鉄、アルミニウム、或いはステンレス等の金属、又は炭素繊維強化プラスチックなど、剛性を有する公知の支持体を用いる。支持体は、円柱状であってもよく、円筒状であってもよい。さらに、円筒状の支持体の両端に軸をそれぞれ圧接した形態であってもよい。支持体の表面は、ブラスト処理、洗浄を行い、接着剤を塗布する。次いで、混練して得られたゴム組成物を支持体表面に被覆する。被覆する方法は、例えば、シート状に分出ししたゴム組成物を支持体表面に巻き付ける方法や、押し出し機を用いて支持体表面に円筒状にゴム組成物を被覆させる方法など、公知の方法を用いることができる。次いで、加熱して加硫させた後、回転砥石などを用いて表面を研磨することにより、所定の外径寸法に調整されたゴム加硫物を被覆したロールを作製することができる。
【0040】
セルロースナノファイバーは、非極性原料ゴムに対して分散性が劣る。しかし、実施形態に係るゴム加硫物の製造方法のように、セルロースナノファイバーと変性ポリオレフィン樹脂のマスターバッチを予め調製し、その後マスターバッチに非極性原料ゴムを混練することによって、セルロースナノファイバーが良好に分散したゴム加硫物を得ることができる。
【0041】
[実施例]
以下、実施例を詳細に説明する。
【0042】
(実施例1)
(セルロースナノファイバーと変性ポリオレフィン樹脂のマスターバッチの調製)
セルロースナノファイバーの水性分散液(アウロ・ヴィスコ、王子ホールディングス(株)製、固形分濃度2.0%)1,250gに対して、変性ポリエチレンの水性分散液(商品名:アローベースSB-1200、ユニチカ(株)製、全固形分濃度25%)400gの比率で材料を準備し、ホモジナイザーを用いて混合し、均一に分散させた。得られたセルロースナノファイバーの水性分散液と、変性ポリエチレンの水性分散液との混合液を、60℃の恒温槽内で72時間乾燥し、セルロースナノファイバーが25質量部含まれるマスターバッチを得た。
【0043】
(ゴム組成物の作製)
非極性原料ゴムとしてエチレンプロピレンゴム(JSR EP342(JSR(株)製))80質量部と、前記のマスターバッチ25質量部と、耐熱向上剤として酸化亜鉛(酸化亜鉛2種、正同化学工業(株)製)5質量部と、加工助剤としてステアリン酸(ルナックS-70V、花王(株)製)1質量部と、加硫剤として有機過酸化物(ジクミルパーオキサイト)(パークミルD-40(日油(株)製))5.4質量部と、共架橋剤(トリアリルイソシアヌレート)(TAIC(三菱ケミカル(株)製))2質量部とをオープンロールで混練して、ゴム組成物を作製した。このゴム組成物には、エチレンプロピレンゴムと変性ポリエチレンの総量100質量部に対して、変性ポリエチレンが20質量部、セルロースナノファイバー(CNF)が5質量部含まれていた。
【0044】
(比較例1)
非極性原料ゴムとしてエチレンプロピレンゴム(JSR EP342(JSR(株)製))98.8質量部と、実施例1と同様に調製したマスターバッチ1.5質量部に、実施例1と同様に酸化亜鉛、ステアリン酸、有機過酸化物、共架橋剤をオープンロールで混練して、ゴム組成物を作製した。このゴム組成物には、エチレンプロピレンゴムと変性ポリエチレンの総量100質量部に対して、変性ポリエチレンが1.2質量部、セルロースナノファイバー(CNF)が0.3質量部含まれていた。
【0045】
(比較例2)
極性原料ゴムとしてカルボキシル基含有ニトリルゴム(Nipol DN1072(日本ゼオン(株)製))80質量部と、実施例1のマスターバッチ25質量部とに、実施例1と同様に酸化亜鉛、ステアリン酸、有機過酸化物、共架橋剤をオープンロールで混練して、ゴム組成物を作製した。このゴム組成物には、カルボキシル基含有ニトリルゴムと変性ポリエチレンの総量100質量部に対して、変性ポリエチレンが20質量部、セルロースナノファイバー(CNF)が5質量部含まれていた。
【0046】
(比較例3)
セルロースナノファイバーの水性分散液(アウロ・ヴィスコ、王子ホールディングス(株)製、固形分濃度2.0%)1,250gに対して、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(商品名:Nipol LX511A、日本ゼオン(株)製、固形分濃度46%)217gの比率で材料を準備し、ホモジナイザーを用いて混合し、均一に分散させた。得られたセルロースナノファイバーの水性分散液と、カルボキシル基含有ニトリルゴム(X-NBR)のラテックスとの混合液を80℃の恒温槽内で72時間かけて乾燥して、セルロースナノファイバーを25質量部含むマスターバッチを得た。
【0047】
非極性原料ゴムとしてエチレンプロピレンゴム(JSR EP342(JSR(株)製))80質量部と、前記のマスターバッチ25質量部とに、実施例1と同様に酸化亜鉛、ステアリン酸、有機過酸化物、共架橋剤をオープンロールで混練して、ゴム組成物を作製した。このゴム組成物には、エチレンプロピレンゴムとカルボキシル基含有ニトリルゴムの総量100質量部に対して、カルボキシル基含有ニトリルゴムが20質量部、セルロースナノファイバー(CNF)が5質量部含まれていた。
【0048】
作製したゴム組成物を以下の方法によりゴム加硫物にして、評価した。
【0049】
(接触角の評価)
作製したゴム組成物をプレス成型で、加熱、加硫して厚さ2mmのゴム加硫物を作製し、10mm×50mmに打ち抜いた。その後、打抜きシートの表面を平面研削盤で研磨して接触角測定用の試料を作製した。
【0050】
作製した試料を純水中に浸漬し、25℃の室温下で7日間放置した。純水から試料を取り出し、表面の余分な水滴を除去した後、純水を用いて接触角を測定した。接触角の測定は接触角計CA-X(協和界面化学(株))を用いて、液滴量1.8μLで、滴下してから10秒後の接触角を測定した。
【0051】
(浸漬試験)
実施例1及び比較例1~3で得られたゴム組成物を用いて上記接触角の測定で使用したのと同様の厚さ2mmのゴム加硫物を作製した。
【0052】
また、実施例1及び比較例1~3で得られたゴム組成物からセルロースナノファイバーを除いたゴム組成物を準備し、同様に厚さ2mmのゴム加硫物を作製した。得られた各ゴム加硫物を20mm×50mmに打ち抜き、試料とした。
【0053】
それぞれの試料について、JIS K6258に準拠して試験を行った。試験は、各試料を温度40℃の純水に28日間浸漬して行った。
【0054】
評価は、質量変化率と硬さ変化で行い、外観についても観察した。
【0055】
質量変化率は、試料を純水に浸漬する前の質量と、上記耐水試験後の質量とを測定し、下記の式(1)により計算した。
Δm100=(m-m)/m×100 ・・・(1)
ここで、Δm100:質量変化率(%)、m:浸漬前の質量(mg)、m:浸漬後の質量(mg)である。
【0056】
硬さ変化は、試料を純水に浸漬する前の硬さ(タイプA)(JIS K6253に準拠)と、上記耐水試験後の硬さ(タイプA)とを測定し、下記の式(2)により計算した。
=H-H ・・・(2)
ここで、S:硬さ変化、H:浸漬前の硬さ(タイプA)、H:浸漬後の硬さ(タイプA)である。
【0057】
硬さ変化において、初期と28日後の硬さ変化が-3以上+3以下である場合、十分に耐水性が優れていると判定した。一方、-3未満又は+3を超える場合は耐水性が劣ると判定した。
【0058】
以上の評価の結果を以下に示す。
【表1】
【0059】
実施例1のゴム加硫物は含水状態の接触角が90度であり、ゴム加硫物の表面には薄く均一に水膜が広がり良好な親水性を有していた。質量変化率及び硬さ変化は、ともに良好だった。
【0060】
比較例1のゴム加硫物は、その浸漬試験の質量変化率及び硬さ変化が実施例1と同様に良好だった。しかし、ゴム加硫物の表面の水膜は不均一だった。これは、ゴム加硫物に含まれるセルロースナノファイバーの含有量が、エチレンプロピレンゴムと変性ポリエチレンの総量100質量部に対して、本発明の範囲(0.5質量部以上20質量部以下)の下限未満の0.3質量部であるために、親水性が不足した結果と考えられる。
【0061】
比較例2のゴム加硫物は、実施例1のゴム加硫物と同様にセルロースナノファイバーを5質量部含む。しかし、ゴム加硫物の浸漬試験の評価では、CNF未含有ゴムの質量変化率が実施例1のゴム加硫物より大きく、かつ硬さ変化が実施例1のゴム加硫物より大きかった。これは、原料ゴムとして、非極性ゴムではなく極性ゴムのカルボキシル基含有ニトリルゴムを用いているため、ゴム加硫物の耐水性が劣った結果と考えられる。
【0062】
比較例3のゴム加硫物は、エチレンプロピレンゴムとマスターバッチの混練において、マスターバッチの相溶性が低く、混練が困難であった。また、実施例1及び比較例3の非極性原料ゴムとマスターバッチの混合物を厚さ50μmのフィルム状にプレスし、偏光顕微鏡(ECLIPSE LV100N POL (株)ニコン製)を用いて50倍の倍率で分散状態を写真で記録し、観察した。図1に示すように、実施例1の混合物ではセルロースナノファイバーの凝集体は観察されなかった。一方、図2に示すように、比較例3の混合物ではセルロースナノファイバーの凝集体が観察された。これらの結果から、比較例3の混合物は実施例1の混合物と比較して、セルロースナノファイバーの分散性が劣っていることが分かった。これは、マスターバッチの調製に変性ポリオレフィンではなく、カルボキシル基含有ニトリルゴムを使用したためと考えられる。
【0063】
実施例1のゴム加硫物を用いたゴムロールを製造した。得られたゴムロールを、水性塗料をフィルム表面に塗布する塗布ロールとして使用したところ、むらなく均一な厚さに水性塗料を塗布することができた。さらに、6か月以上安定して使用することができた。
【0064】
比較例1のゴム加硫物を用いたゴムロールを製造した。前記と同様に塗布ロールとして使用したところ、水性塗料の塗布厚さのむらが発生し、塗布ロールとして使用することができなかった。
【0065】
比較例2のゴム加硫物を用いたゴムロールを製造した。前記と同様に塗布ロールとして使用したところ、初期は均一な塗布厚さで塗布することができたが、徐々に塗布厚さむらが発生して、6か月持たずに使用できなくなった。使用後のロールを調査すると、ゴムロールの硬さが5ポイント低下していた。
【0066】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
非極性原料ゴムと、変性ポリオレフィン樹脂と、セルロースナノファイバーとを含み、
前記セルロースナノファイバーは、前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の割合で配合されるロール用ゴム加硫物。
[2]
前記非極性原料ゴムは、エチレンプロピレンゴムである[1]に記載のロール用ゴム加硫物。
[3]
前記ロール用ゴム加硫物は、含水状態における純水との接触角が100度以下である[1]又は[2]に記載のロール用ゴム加硫物。
[4]
前記ロール用ゴム加硫物は、純水への浸漬試験における質量変化率が20%以下であり、前記セルロースナノファイバーを除いた前記ゴム加硫物は純水への浸漬試験における質量変化率が3%以下である[1]から[3]のいずれか1つに記載のロール用ゴム加硫物。
[5]
(a)変性ポリオレフィン樹脂の水性分散液と、セルロースナノファイバーの水性分散液を混合する工程と、
(b)前記(a)工程で得た混合液から水分を除去して、前記変性ポリオレフィン樹脂と前記セルロースナノファイバーとのマスターバッチを得る工程と、
(c)前記(b)工程で得た前記マスターバッチと、非極性原料ゴムとを前記セルロースナノファイバーが前記非極性原料ゴムと前記変性ポリオレフィン樹脂の総量100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の割合になるように混練してゴム組成物を得る工程と、を含むロール用ゴム加硫物の製造方法。
図1
図2