(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】GVHD又は腫瘍を治療するための骨髄系由来サプレッサー細胞のインフラマソーム活性化の調節
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20230301BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230301BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230301BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230301BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230301BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230301BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230301BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230301BHJP
【FI】
C12N5/078
A61K45/00
A61P35/00
A61P37/06
C12N15/13
C12N15/113 Z
C12N15/09 110
A61K35/15
(21)【出願番号】P 2021118749
(22)【出願日】2021-07-19
(62)【分割の表示】P 2018506141の分割
【原出願日】2016-08-05
【審査請求日】2021-08-18
(32)【優先日】2015-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(73)【特許権者】
【識別番号】514299550
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル
(73)【特許権者】
【識別番号】512315119
【氏名又は名称】アルベルト-ルドビクス-ウニベルジテート フライブルク
(73)【特許権者】
【識別番号】512264013
【氏名又は名称】セント ジュード チルドレンズ リサーチ ホスピタル,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ブルース アール.ブラザー
(72)【発明者】
【氏名】ブレント エイチ.コーエン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジェイ.マリー
(72)【発明者】
【氏名】ジェニー ピー.ワイ.ティング
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト ツァイザー
(72)【発明者】
【氏名】ジェフ エス.ミラー
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-536602(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0108579(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0377278(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0120894(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0150938(US,A1)
【文献】国際公開第2010/062990(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/016178(WO,A1)
【文献】Steven L. Highfill et al.,Blood,2010年12月16日,Vol. 116, No. 25,p. 5738-5747
【文献】Joanna J. Messemann et al.,Blood,2015年08月27日,Vol. 126, No. 9,p. 1138-1148
【文献】Dragana Jankovic et al.,J. Exp. Med.,2013年,Vol. 210, No. 10,p. 1899-1910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CARDを含むアポトーシス関連スペック様蛋白質(ASC)を欠損する骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)。
【請求項2】
インフラマソーム活性化に対する抵抗性をもたらす遺伝子改変を含む、請求項1に記載のMDSC。
【請求項3】
前記遺伝子改変は、ASC欠損をもたらすASC遺伝子における改変である、請求項2に記載のMDSC。
【請求項4】
shRNA、siRNA、及び/又はCRISPRの使用により前記MDSCは、ASCを欠損する、請求項2又は3に記載のMDSC。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のMDSCを少なくとも1個含む、複数の骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSCs)。
【請求項6】
前記MDSCsが、
(i)改変していないMDSCに比べ、インフラマソーム活性化に対し抵抗する、
アロ反応性T細胞プライミング
を妨げる、
アロ反応性T細胞の増殖を妨げる、及びアルギナーゼ1活性の低減を回避する、及び/又は(ii)前記MDSCsを投与された対象において、移植片対宿主病(GvHD)に罹患するリスクを低減する
及び/又はGvHD長期生存率を向上する、請求項5に記載の複数のMDSCs。
【請求項7】
1個又は複数個の請求項1に記載のMDSCと、薬理学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項8】
前記MDSCがインフラマソーム活性化を起こす程度を低減する薬剤を更に含む、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
前記薬剤は、MCC950又はβ-ヒドロキシ酪酸塩を含む、請求項
8に記載の組成物。
【請求項10】
対象における腫瘍を治療するための、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の組成物
。
【請求項11】
対象における移植片対宿主病(GvHD)を治療するための、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の組成物
。
【請求項12】
前記GvHDは、急性移植片対宿主病を含む、請求項
11に記載の
組成物。
【請求項13】
前記対象は、リンパ球造血系障害、前処置レジメン、又はMDSC療法のために同種異系間移植を必要とする、請求項1
1に記載の
組成物。
【請求項14】
前記組成物は、インフラマソームを阻害しMDSCがインフラマソーム活性化を起こす程度を低減する薬剤と組み合わせて使用される、請求項
10又は
11に記載の
組成物。
【請求項15】
前記薬剤は、MCC950又はβ-ヒドロキシ酪酸塩を含む、請求項
14に記載の
組成物。
【請求項16】
前記組成物の投与は、複数回の連続投与を含む、請求項
10又は
11に記載の
組成物。
【請求項17】
前記組成物の少なくとも1回の投与は、前記組成物の前回の投与の後少なくとも3日後である、請求項
16に記載の
組成物。
【請求項18】
前記投与は、前記組成物の少なくとも3回の投与を含む、請求項
16に記載の
組成物。
【請求項19】
骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)の治療可能性を増強するインビトロの方法であって、
当該細胞のCARDを含むアポトーシス関連スペック様蛋白質(ASC)の発現を損なうことにより、改善した治療可能性を有するMDSCを得ることを含む、インビトロ方法。
【請求項20】
前記損なうことは、shRNA、siRNA、及び/又はCRISPRを用いる遺伝子改変を含む、請求項
19に記載のインビトロ方法。
【請求項21】
前記遺伝子改変は、前記MDSCに、改変していないMDSCに比べ、インフラマソーム活性化に対する抵抗性を与え、アルギナーゼ-1活性の低減を回避する、請求項
20に記載のインビトロ方法。
【請求項22】
前記改善した治療可能性を有するMDSCは、ASCを欠損する、請求項
19に記載のインビトロ方法。
【請求項23】
前記改善した治療可能性は、インフラマソーム活性化に対する抵抗、全身性炎症病態の抑制又は除去、アロ反応性T細胞プライミングと増殖の妨げ、炎症性反応の阻害、インフラマソーム活性化の欠損、GvHDに罹患するリスクの低減、及び/又はGvHD長期生存率の向上を含む、請求項
19に記載のインビトロ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年8月6日に出願された米国仮特許出願第62/201990号に基づく優先権を主張し、該仮出願の開示は参照により本明細書に援用される。
【0002】
政府資金提供
本発明は、国立衛生研究所から受けたR01 HL56067、AI 34495、HL1181879、R01 CA156330、及びU19-AI067798のもと政府の支援によって行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、1つの態様において、移植片対宿主病(GvHD)を有する対象又はそのリスクがある対象を治療する方法を記載する。概してその方法は、対象に、移植片対宿主病の少なくとも1つの症状又は臨床徴候を、適切な対照対象より軽減するのに有効な複数の骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)を投与することを含む。
【0004】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、以前に投与されたMDSCがインフラマソーム活性化を起こす際に、MDSCを複数回で連続投与することを含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、複数のMDSCの少なくとも一部は、インフラマソーム活性化に対する抵抗性をMDSCにもたらす遺伝子改変を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象に、インフラマソーム活性化を阻害する薬剤を共投与することを含む。
【0007】
別の態様においては、本開示は、対象の腫瘍を治療する方法を記載する。概して本発明の方法は、対象に抗腫瘍剤を投与すること、及び、該対象に、インフラマソーム誘発物質を、MDSCのインフラマソーム活性化を増加させて前記MDSCのサプレッサー機能を下げるのに充分に有効な量で共投与することを含む。
【0008】
上記の本発明の概要は、本発明の各開示実施形態又はすべての実施を記載することを意図しない。以下に続く記載は説明に役立つ実施形態をより具体的に例示する。本出願の全体を通していくつかの箇所で、指針が例のリストを通して提供され、それらの例はさまざまな組み合わせで用いることができる。各例において、詳述されたリストは代表的なグループとしてのみ用いられて、独占的なリストとして見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】骨髄由来MDSC-IL13はGvHD生存を高めるが、抑制は生体内で5日後に損なわれる。(A)致死的に照射したBALB/cレシピエントに、図示されているように、1×10
7個のC57Bl/6骨髄(BMのみ)又は骨髄と2×10
6個のCD25除去T細胞(GvHD)又は骨髄と、T細胞、6×10
6個のMDSC-IL13(GvHD+MDSC-IL13))を与えた。カプランマイヤー生存曲線は、4回のプールし、独立した実験(n=40頭の動物/群)を表わす。GvHD対GvHD+MDSC(p<0.0001)。(B~C)コンジェニック(CD45.2
+)MDSC-IL13の表面発現は、骨髄のみ(GvHD無)又は骨髄プラスT細胞(GvHD)を受けた照射動物への移植の5日後に脾臓から回収した。データは、図示されるすべての標識についてp<0.001である1群当たり3連を表わす。(D)CFSE希釈で表わされる応答しているT細胞増殖を示す代表的なヒストグラム。移植の5日後にプールした脾臓の精製MDSC-IL13は5×10
5個/mLで、同数のCFSEで標識したレスポンダーT細胞、0.25μg/ml 抗CD3ε mAb、及び2.5×10
5個/ml、照射T細胞除去脾細胞とともに、特別に調合された150μM L-アルギニン RPMI培地中に播種した。陰影のついたヒストグラムは非刺激対照の増殖を示す。データは、1群当たり3つの試料及び合計3回の独立した実験を代表する。(E)生存率及び回収し、CD11b
+CD45.2
+をゲートした総細胞数を示す回収MDSCの要約データ。データは、1群当たり3つの試料を表し、3回の独立した実験を代表する。(F)上記のように移植するか、又は図示されるように0日目、3日目、及び6日目にMDSC-IL13の3回連続注入を施された致死的に照射したBalb/cレシピエント。MDSCを受けたマウスはすべて、GvHDに対して生存の増加を示した、p<0.001。MDSC対MDSC、0日目、3日目、及び6日目、p<0.0001。生存曲線は、2回の独立した実験の1群当たり20匹の動物を表し、0日目、7日目、及び14日目に複数回の注入を施行したさらなる実験を代表する。
【
図2】回収したMDSCにおいて明らかなインフラマソーム活性。(A)回収された野生型又はASC
-/
-MDSC-IL13の細胞溶解物のウェスタンブロットは、カスパーゼ-1の活性p10形及びβ-アクチンを精査した。ImageJソフトウェアを使用して、ゲルイメージをグレイスケールにし、真っすぐに整え(straighten)、切り取って、サイズに従って目的のレーンを強調した。(B)β-アクチンに相対的なカスパーゼ-1p10ブロット定量、GvHD対他のすべての群、p<0.05。定量化は、スキャンしたブロットでImageJソフトウェア(NIH)のデンシトメトリー分析によって行った。(C)5日目後に回収したMDSC-IL13の上清のIL-1β ELISAを完全RPMI培地中に播種した。GvHD対他のすべての群、p<0.05。点線はELISA検出の限界を示す。すべてのデータは2回の独立した実験を代表する。
【
図3】MDSCにおけるインビトロインフラマソーム誘導はサプレッサー機能の消失につながる。新規培養野生型及びASC
-/
-MDSC-IL13のインフラマソーム誘導は、0.2μg/ml LPSを3時間加え、続いて2mM ATPの添加又は0.8μg/ml ポリ(dT)トランスフェクションすることによって行った。(A)培養上清はさらに1時間後に集めて、ELISAでIL-1β産生についてアッセイした。データは3回の独立した実験を代表する。(B)インフラマソーム誘導MDSC-IL13を充分に洗って、1:1の比でCFSE抑制アッセイに播種した。データは、ゲートしたCFSEを標識したCD8
+レスポンダーT細胞、2回の独立した実験のn=6試料/群を代表する。NLRP3はLPS+ATP処理を示し、AIM2はLPS+ポリ(dT)処理を示し、灰色ヒストグラムはMDSC無増殖対照を表わす。
図10に示されるゲートしたCD4
+レスポンダーT細胞。(C)インフラマソーム誘発MDSC-IL13を用い、上記のように処理されたC57Bl/6→BALB/c GvHDモデルのカプランマイヤー生存曲線。MDSC対MDSC無 p<0.0001、MDSC対MDSC AIM2 p<0.0001、MDSC対MDSC NLRP3 p=0.0029。データは、1群当たり2回の独立した実験から合わせたn=18の動物を表わす。(D)野生型又は図示されるASC
-/
-マウスから生成したMDSC-IL13を用いたGvHDのカプランマイヤー生存曲線。データは、3回の独立した実験の1群当たりn=30動物を表わす。MDSC対MDSC無 p=0.0399、MDSC対ASC
-/
-MDSC p=0.0006。(E)ヒストグラムは、移植後5日目から回収された野生型又はASC
-/
-MDSC-IL13に対して1:1の比で播種し、3日目に採取した場合に、CFSEで標識した応答T細胞の分裂%割合を表わす。いずれの単独群と、GvHDマウスから回収した野生型MDSC-IL13と比較しても、有意なp値(<0.05)は見られなかった。
【
図4】Arg1発現の消失と関連したMDSCにおけるインフラマソーム誘導。MDSC-IL13を、示されるようにNLRP3インフラマソーム又はAIM2インフラマソームに向けて誘導し、充分に洗って、完全培地で一晩再培養した。(A)総細胞数について正規化した、野生型又は(B)ASC
-/
-MDSCの細胞結合Arg1の酵素活性。データは2回の独立した実験からプールする。YFP-Arg1トランスジェニックマウスから生成された後、インフラマソームのインビトロ誘導及び完全培地での再播種が続いたMDSC。(C)代表的なヒストグラムとして示された、さらに2日培養した後のCD11bでゲートしたMDSCに関するYFP蛍光(陰影のついたヒストグラムは非刺激YARG骨髄を表わす)及び(D)%YFP
+要約データ。(E)骨髄のみ(GvHD無)又は骨髄と全T細胞(GvHD)を動物に移植して5日目から回収したMDSC-IL13に関するYFP検出。YARG骨髄(YFP-Arg1骨髄)はベースラインYFP蛍光を示す。(F)バルクMDSC-IL13又はソートした顆粒球Ly6G+C+(Ly6G+)及び単球Ly6C+サブセットに関するNLRP3(ATP+LPS)インフラマソーム活性化の前後のIL-1β産生。(G)1:1の比で、MDSC-IL13のソートした顆粒球(Ly6G+)サブセット又は単球(Ly6C+)の存在下における抗CD3ε主導CD8+B6T細胞応答のCFSE増殖。(H)バルクMDSC-IL13及びソートした顆粒球(Ly6G+)サブセット又は単球(Ly6C+)サブセットに関する細胞結合アルギナーゼ生物活性。破線はArg1欠損脾細胞のバックグラウンド活性を示す。MDSCサブセットに関するデータは、3回の独立した実験を代表する。
【
図5】ヒトMDSCにおけるインフラマソーム誘導は、その抑制機能を妨げる。ヒトMDSCをドナーPBMCから生成した。(A)採取前に0.2のμg/ml LPSで3時間処理し、続いて2mM ATPで1時間前処理したMDSCの上清のIL-1β ELISA。データはn=2の実験を代表する。(B)実線によって示される非血縁ドナーからの培養ヒトMDSCの存在下においてCellTrace Violet(ライフテクノロジーズ社、カールズバッド、カリフォルニア州)で標識したレスポンダーPBMCの代表的なヒストグラム。点線はMDSC無の増殖対象を示し、灰色ヒストグラムはPBMC単独(CD3ε無又はMDSC無)を示す。No Stimは、抗CD3εなしでのMDSCに対するアロ応答を表わす。Stimは、T細胞活性化のMDSC抑制を示すための、抗CD3εマイクロビーズ(2:1)とIL-2(100U/ml)の添加を示す。Stim+Infl.Tx´dは、MDSCを抗CD3εマイクロビーズとIL-2とともに播種する前にインフラマソーム活性化のために処理したことを示す。(C)集積されたデータは、応答しているCD8及びCD4T細胞の分裂%割合を示す。データは、3名の非血縁PBMCドナーの応答を表わし、2回の独立した実験を代表する。
【
図6】回収MDSC-IL13の拡張表現型。コンジェニック(CD45.2+)MDSC-IL13の表面発現は、骨髄のみ(GvHD無)又は骨髄とT細胞(GvHD)を受けた照射動物への移植の5日後に脾臓から回復した。データは、図示されるすべての標識についてp=ns(>0.05)をもつ、1群当たり3連を表わす。データは2回の独立した実験を代表する。
【
図7】CD45.2+MDSC-IL13回復。(A)濃縮の前後のプールされた脾細胞のCD45.2
+頻度を示す代表的なフロープロット。下のグラフは、上のグラフに示される細胞(CD45.2+ CD45.1-ve)細胞をゲートしたものを表わす。(B)GvHD無群及びGvHD群のMDSC-IL13(CD45.2+)の濃縮効率。データは、3回の独立した実験を代表する。1群当たりn=3。
【
図8】高投与量MDSC-IL13。GvHDのモデルにおけるMDSC-IL13の0日目投与量の増加の効果を示すカプランマイヤー生存グラフ。2倍と3倍MDSC治療群を区別するために、すでに
図1Fに示したデータが点線及び少し小さいシンボルによって示されている。データは、2倍及び3倍投与量に関する1群当たりn=10の2回の独立した実験の組み合わせを表わす。MDSCを受けたマウスはすべて、GvHDに対する生存の増加を示した。p<0.001。MDSC-IL13の1倍、2倍、又は3倍の0日目投与量は、互いに著しく異ならない。
【
図9】MDSC-IL13 0日目注入表現型。注入前の採取日(+4日間培養)における野生型B6(陰影)及びASC ko(太字)MDSC-IL13に関する図示されたマーカーの表面発現。データは少なくとも3回の独立した実験を代表する。
【
図10】ASC依存性インフラマソームは、CD4レスポンダーT細胞に対する抑制の消失を誘導した。
図3Bにあるように、野生型(wt)又はASC ko MDSC-IL13を図示されるように処理し、充分に洗った後に、1:1の比でCFSE T細胞増殖アッセイに適用した。2回の独立した実験から、ゲートしたCD4+レスポンダーT細胞の代表的なプロットが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、1つの態様において、移植片対宿主病(GvHD)を抑制するための骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)の使用を改善する方法を記載する。概してその方法は、MDSCの使用と、生体内MDSCインフラマソーム活性化を制限する少なくとも1つの方法とを組み合わせることを伴う。
【0011】
骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)は、進行中の炎症性反応の阻害に関わる自然に発生する免疫調節集団である。骨髄由来のMDSCが生体内で生成されると、致死性の移植片対宿主病(GvHD)の急性モデルの生存率を高め得る。しかし、ドナーのMDSCを注入してもGvHD致死率を部分的に軽減するにとどまる。MDSCによる治療の治療上有益な可能性、そして最終的には、生存率を改善するために、本開示は、急性GvHD(aGvHD)における移植後のMDSCの最終的な効果についての研究を記載する。同種異系間ドナーからの造血移植において致死的に照射されたレシピエントに移植されるMDSCは、aGvHDによる非常に強い炎症性の環境に曝露され、MDSCの抑制能を直接的に弱らせしまう可能性がある。GvHD炎症状態の下で、MDSCは抑制機能、ひいてはMDSCのGvHDによる致死を阻害するする能力を失ってしまいかねない。培養マウス由来MDSC及び培養ヒト由来MDSCは、インフラマソーム活性化メディエーターに短時間インビトロで曝露しただけでも、抑制能を損なう可能性がある。インフラマソームの役割と整合して、インフラマソーム複合体を組み立てるアダプターASC(Apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD)を欠損するドナーMDSCは、野生型ドナーMDSCに対してGvHD発症マウスの生存を改善した。これらのデータは、GvHD及び他の全身性炎症状態を阻害する治療的な方法としてMDSCを使用することは、生体内MDSCインフラマソーム活性化を制限する方法と組み合わせるとより効果的であり、これによりMDSCに抑制能を維持する力を与えることができることを示唆する。
【0012】
例えば、同種異系間造血細胞移植(aHCT)は、白血病及びリンパ腫を含むさまざまな血液疾患の潜在的な根治療法である。移植片対宿主病(GvHD)の罹病及び死亡のリスクは、依然として、例えば、悪性及び非悪性リンパ球造血系障害を含む多くの病気に対して同種異系間移植が普及する妨げとなっている。aHCTの術後補助アジュバント療法としての標的細胞免疫療法は、標的を絞って、内部的に自己調節することによって前処置レジメンと関連する副作用を減らすと同時に、GvHDをコントロールすることができる。骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)は、抑制能もつ骨髄系細胞として広義に定義され、腫瘍、外傷、及び感染などの病的状態と一致し現れる。骨髄(BM)からのデノボMDSC産生は、炎症及び増殖因子放出(例えば、GM-CSF、G-CSF)に応答して起こる。
【0013】
MDSCは、局所アミノ酸枯渇、一酸化窒素、プロスタグランジンE2、抗炎症性サイトカイン、活性酸素種含む固有の機構及び制御性T細胞(Treg)の促進を介して全身性免疫病変を抑制することができる。インターロイキン-13(IL-13)とインキュベーションしたMDSCの骨髄由来培養物は、L-アルギニンのアルギナーゼ1依存枯渇を介してaGvHDを抑制し、そして次にアロジェニックなT細胞応答を阻害する。
【0014】
急性GvHD(aGVHD)は3つのフェーズ:移植前処置、ドナーT細胞プライミング、及びエフェクターフェーズ組織アポトーシスを有すると特徴付けされることが多い。移植前処置及びアロ特異的なドナーT細胞の高い頻度の急速プライミングは強度の全身性炎症につながる。aGvHDは、レシピエントを攻撃する能力をもつドナーT細胞を増殖させるので、致死性を阻害する有効な方法は、炎症が高まり、アロ反応性T細胞が臓器傷害の一因となって、炎症反応を増幅する移植後早期にT細胞応答を弱めることを伴う。よって、ドナーMDSCが有効な治療を提供するために、これらの細胞は、アロ反応性T細胞プライミングと増殖を妨げるのに充分に長い期間実行可能な状態で残存し、機能しなければならない。
【0015】
インフラマソームは、自然免疫感知経路の下流構成要素として作用する多分子複合体である。インフラマソーム活性化と関連する因子としては、例えば、死細胞及び死につつある細胞からの細菌産物及びdanger関連分子(DAMP)の消化管関連の漏出が挙げられる。インフラマソーム活性化が起こるためには、開始シグナルが収束し、アダプタータンパク質ASC(Apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD)によって媒介されるプロカスパーゼ-1自己触媒開裂、並びに究極的には活性IL-1β又はIL-18の開裂及び搬出に至る必要がある。異なるインフラマソームに関与する分子は、活性化シグナルの源及びASCと融合する上流の分子によって異なる。例えば、AIM2様受容体(ALR)ファミリーインフラマソームは、細胞質dsDNAをAIM2(absent in myeloma 2)に結合することによって開始でき、その一方で、NLRP3(NOD様受容体ファミリー、pyrin domain containing 3)インフラマソームは、微生物及びホストdangerシグナルによって活性化され、細胞外ATP含量が変化する。
【0016】
本開示は、移植後にMDSCを早期に単回注入しても、致死GvHDのマウスモデルのGvHDを一時的に抑制をするものの、排除には至らないことを示す。データにより、GvHDの炎症はMDSCをインフラマソームを活性化状態にさせ、GvHDマウスにおけるMDSC抑制機能に逆効果であることが確認された。しかし、ドナーMDSCを遺伝的に改変してインフラマソーム活性化を無効にすると、GvHD生存率を対照MDSC療法と比べて上昇させることができる。さらに、ヒトMDSCでも同じ経路が活性化される。あわせて考えると、この新たな情報はMDSC治療用途を改善することができる。
【0017】
GvHD状況下でMDSCはCD11c
+活性化表現型へ急速に分化する
MDSCは、サイトカイン増殖因子GM-CSF及びG-CSFとともに4日間培養した新鮮な骨髄(BM)のから生成した。採取の24時間前にIL-4又はIL-13を用いて培養MDSCを活性化することは、アルギナーゼ-1の発現を刺激し、インビトロ及びGvHDの状況においてT細胞の機能的な抑制を促進する。MDSC-IL13がマウスaGvHDモデルの生存を延ばすのに有効なことを示すために、致死照射BALB/cレシピエントは、0日目のMDSC-IL13細胞療法の存在又は非存在下において、CD25除去T細胞と同種異系C57Bl/6骨髄を与えてaGvHDを誘発した。T細胞はaGvHDを誘発し、結果として24.5日の平均生存期間となった。しかし、MDSC-IL13治療を受けた動物は生存が47.5日まで延びた(
図1A)。臨床結果の向上にもかかわらず、治療を受けた大多数の動物は100日目でまでにGvHDによって誘発された死のため死亡し、症状は軽減又は遅延されたが、取り除かれなかったことを示唆した。aGvHDと関連した状態がどのようにMDSC機能を直接変えうるかについて調べるために、骨髄又は骨髄とT細胞(GvHD状態)をコンジェニックCD45.2
+MDSC-IL13とともに CD45.1
+動物に与え、次いで移植後5日目に犠牲にして回収したMDSCの表現型及び機能を調べた。
【0018】
表現型的に、前処理と骨髄のみを受けた移植動物から回収されたMDSCは、未成熟CD11c
lo、MHCII
lo、F4/80
int発現(
図1B及び
図1C)を維持した。しかし、aGvHD状態(CD8
+CD4
+T細胞、CD25)を経た動物へ移植されたMDSC-IL13は、活性化骨髄細胞の顕著な特徴であるCD11c及びMHCクラスIIを上方制御した。F4/80発現も増加し、アロ反応性T細胞によって助長された進行炎症性環境に応答して活性化及び分化が急速に起こったことを示唆した(
図1B及び
図1C)。共刺激及び活性化の他のマーカーは不変のままであった(
図6)。回収されたMDSCの機能状態を測定するために、生体外で単離されたMDSCを抗CD3εmAbで活性化し、CFSEで標識したT細胞とともに共培養した。骨髄のみ移植した5日目の動物のMDSC-IL13は抑制性が高かった(
図1D、GvHD無)。対照的に、GvHD動物から回収されたMDSC-IL13の存在下におけるT細胞応答は、MDSC対照群と比べて、全体の増殖のわずかな減少のみを示し(
図1D)、GvHDレシピエントのMDSCのサプレッサー細胞機能の消失を示した。
【0019】
生体内でのMDSCによる抑制の消失についての1つの説明は、抑制細胞の生存が損なわれたことでありうる。MDSC生存は、外因性カスパーゼ-8及び内因性ミトコンドリア細胞死経路の連続的な抑制によって維持される。これらの経路のどちらかを操作することは、MDSC生存の急速な低下及び抑制の同時減少を引き起こすことがありうる。移植後のレシピエント脾臓の移植細胞の数及び生存率を調べた。5日目に総CD45.2
+CD11b
+細胞の数又は生存率を見ると、骨髄単独とGvHD状態との間に有意差は見られなかった(
図1E)。これらのデータは、MDSC-IL13が移植後の限られた期間にaGvHDを減らし、続いてMDSC-IL13がGvHD状態の下でサプレッサー機能を失い、結果として治療効果を持続できなくなることを示唆する。
【0020】
複数回のMDSC-IL13注入は、GvHD長期生存率を向上する
GvHD誘導の間にMDSC-IL13のT細胞に対する比を、3:1から移植時における6:1(2倍)又は9:1(3倍)に上げることは、全生存を有意に増加させなかった(
図8)。対照的に、新しく培養したMDSC-IL13の反復投与は、aGvHDの間、T細胞プライミングの移植周術期に、抑制環境を促進及び/又は維持した。培養MDSC-IL13の3回の注入は移植後0日目、3日目、及び6日目に施され、合計で9:1の総MDSC-T細胞比になった。単回の0日目MDSC-IL13注入が施された場合の<10%の長期生存者に対して、複数回のMDSC-IL13注入は長期の生存者のコホート(50%)を助長shた(
図1F)。新しく培養したMDSC-IL13の反復注入が生存率を上げるという観察結果は、GvHDの誘導の間に見られる非常に強い炎症性環境はMDSC持続性又は生存性に影響を及ぼさないが、その代わりに、ホスト環境を変え、結果として移植MDSC-IL13は時間とともに抑制性が事実上弱くなるという仮説を支持する。
【0021】
IL-1β生産、インフラマソーム活性化への関連転換
ホストNLRP3インフラマソーム活性は、マウスモデルにおいてGvHDを悪化させる可能性がある。そのうえ、GvHD患者は、インフラマソーム関連血清カスパーゼ-1及びIL-1βのレベルの増加を呈する可能性がある。くわえて、MDSCは、ある特定の化学療法剤に曝露された場合に、IL-1βを直ちに産生し、結果として抗がん反応の変化をもたらす。GvHD状態の5日後に回収されたMDSC-IL13からの細胞溶解物は、カスパーゼ-1(インフラマソーム活性の上流メディエーター)の切断されたp10形態のついて綿密に調べた。ウェスタンブロット解析は、骨髄単独移植対照レシピエントから回収されたMDSC-IL13と比べて、GvHD状態から回収されたMDSC-IL13のカスパーゼ-1p10の量の増加を示した(
図2A及び
図2B)。インフラマソーム活性化へのMDSC転換のさらなる証拠は、回収されたMDSC-IL13を一晩培養するために完全培地に入れたときに見出された。上澄みの分析はGvHD状態のIL-1βの増加を示した(
図2C)。これらのデータは、aGvHD状態に関連するMDSC-IL13とインフラマソーム活性との間の相関を確認する。
【0022】
IL-1βのMDSC-IL13インビトロ誘導はASCを必要とする
IL-1βは、Tエフェクター機能のTreg媒介抑制及び促進を直接妨げることができる。さらにインフラマソーム活性化及びIL-1β産生のための役割を調べるために、培養MDSC-IL13におけるインビトロインフラマソーム誘導を精査した。NLRP3及びAIM2は、さまざまなシグナルがインフラマソームカスケードを増強できるインフラマソームの2つの主要なファミリーを表わす。アダプタータンパク質ASCは、インフラマソームの完全な活性化のために必要な共通成分でありうる。それらがインフラマソーム活性のために誘導されることができるか否かをテストするために、野生型及びASC
-/
-(Pycard
-/
-)骨髄を用いてMDSC-IL13を生成した。移植時に、ASC
-/
-MDSC-IL13は、野生型MDSC-IL13と同様の表面表現型を有した(
図9)。NLRP3インフラマソームは、MDSC-IL13をLPSとともに3時間インキュベーションし、続いてATPとインキュベーションすることによって試験を行ない、その一方で、AIM2インフラマソームは、LPSを使用した後、ポリ(dT)トランスフェクションをすることによって使用された。二次的刺激後わずか1時間で、IL-1βが野生型MDSC-IL13の培養上清に検出された(
図3A)。しかし、ASC
-/
-MDSC-IL13は検出可能なIL-1βを産生せず、MDSC-IL13はその環境の変化にすばやく応答してASC依存的に炎症誘発性メディエーターIL-1βを産生するということが確認された。そのうえ、MDSC-IL13のインフラマソーム誘導はその抑制能を変えることができる。ちょうど4時間でインフラマソームを誘導する同一手順に続いて、MDSC-IL13を充分に洗い、抗CD3ε刺激に対するT細胞増殖のインビトロ抑制アッセイに播種した。インビトロインフラマソーム誘導は、応答しているCD8
+(
図3B)及びCD4
+(
図10)T細胞を機能的に抑制するMDSC-IL13の能力を減らす。さらに、この効果もASCに依存し、インフラマソーム活性化は、例えば、生存性及び/又は他の成熟因子を低下よりむしろ、抑制機能の消失と関連しているという仮説を支持した。
【0023】
インフラマソーム誘導は、GvHDのMDSC-IL13の有効性を減らす
インビトロ培養MDSC-IL13を、NLRP3インフラマソーム又はAIM2インフラマソームの活性化のために上記の通り処理し、続いて充分に洗った後にaGvHDモデルに移植した。インビトロ抑制について見られたように、MDSC-IL13のインフラマソーム活性化は、GvHD生存を著しく増加させた対照MDSC-IL13療法に対してGvHD生存効果を減少させた(p<0.0001、
図3C)。
【0024】
治療的移植の後の成熟した、インフラマソーム活性化状態へのMDSC-IL13転換がaGvHDの状況に関与するので、遺伝的にインフラマソーム活性化ができないMDSC-IL13を使用することは、より良好に機能を維持し、さらにGvHD生存を高めうる。実際、ASC
-/
-MDSC-IL13のレシピエントは野生型MDSC-IL13と比べて生存がさらに改善し(p=0.0006)、それらはともにMDSC無群と比べて有意に良好だった(
図3D)。さらに、移植の5日後のGvHD動物から回収したASC
-/
-MDSC-IL13は、野生型MDSC-IL13に対して、T細胞抑制能を増加させた(
図3E)。これらの結果はともに、GvHD状況の下でMDSC-IL13生来のインフラマソーム活性化をMDSC細胞療法の限定する役割を果たすとして直接的に関係づける。
【0025】
GvHDのMDSC-IL13媒介抑制の機序は、T細胞応答を直接弱め、GvHD生存を促進するアルギナーゼ-1(arg1)活性である。arg1活性がインフラマソーム誘導と一致して減少したか否かを決定するために、インフラマソーム誘導の後のMDSC-IL13のarg1酵素の生物活性を測定した。NLRP3インフラマソーム又はAIM2インフラマソームが誘導されたとき、mRNA(図示せず)又は生物酵素活性で測定されるarg1活性の著しい低下が見られた(
図4A及び
図4B)。傾向はあったものの、同様の低下はASC
-/
-MDSCでははっきりと表れず、経路が直接つながっていない可能性があることを示唆した。arg1活性をさらに調べるために、YFP-Arg1トランスジェニック動物(arg1発現が黄色蛍光タンパク質(YFP)に結び付いているYARG)が用いられて、発現の関連消失について短時間でアッセイできるようになる。IL-13はYFP蛍光を直ちに上方制御し、その一方で、IFNγ(iNOSを発現するMDSCを誘導する)はYFP蛍光を増加させなかった(
図4C及び
図4D)。上記のように、NLRP3経路又はAIM2経路を介するインフラマソーム誘導はYFP蛍光の同時の消失を結果としてもたらし、arg1発現がインフラマソームを誘導する状況に関連して止められたことを示した。そして、YARGトランスジェニック動物から生成されたMDSC-IL13は、移植モデルに適用され、GvHD状態に骨髄のみ又は骨髄と全T細胞を与えた。骨髄の動物から5日後に回収されたMDSCのYFP蛍光は、培養直後の発現と比べて減少したが、それでもまだバックグラウンドを超えて容易に検出された(
図4E)。しかし、GvHD動物から回収されたMDSC-IL13では、YFPはもはや検出可能できず、非刺激骨髄で見られるバックグラウンドレベルに減少した。これらの結果は、GvHDの間のarg1発現の消失とインフラマソーム活性との関連をさらに支持する。
【0026】
MDSCは、マウスの系において顆粒球(Ly6G
+)及び単球(Ly6C
+G
-)とされる2つの主要サブセットを含み、不均質であると定義されることが多い。各サブセットがインフラマソーム活性化に対する同類の能力を有するか否か及び抑制能がどのように差次的に影響を受けうるかを決定するために各々を評価した。培養骨髄からのMDSC-IL13は、>90%がLy6C+(
図9)であり、Ly6G発現に基づいてソートした。NLRP3インフラマソーム活性化条件は、Ly6C
+G
-単球サブセット及びLy6G
+顆粒球のサブセットの両方で同等レベルのIL1β産生を導く(
図4F)。しかし、インフラマソーム活性化から独立したインビトロ抑制アッセイに適用すると、抑制能は実質的にその全体がLy6C
+G
-サブセット内に含まれていた(
図4G)。さらに、arg1生物活性は単球のサブセットと関連していた(
図4H)。まとめると、これらのデータは、GvHDマウスのサプレッサー機能の消失がインフラマソーム活性と関連し、Ly6G
+へのシフト又はIL1β産生能の違いに起因するものではないことを示す。よって、GvHD無群に対してGvHDの比較的高い頻度のLy6C
+G
-サブセットは、生体内での抑制能の消失を説明しない。
【0027】
ヒト培養MDSCはそのインフラマソームが活性化されたときに機能を失う
MDSCは、以前に記載されたようにヒト末梢血単核細胞(PBMC)から生成した(Lechner et al., 2010, J Immunol 185(4):2273-2284)。これらのMDSCを用いて、ヒトMDSCが、マウスMDSCで見いだされたように、インフラマソームによって活性化される機能消失しやすい同様の傾向がありうるか否かを調べた。ヒトPBMCは骨髄マーカーCD33に対して濃縮され、GM-CSF及びIL-6とともに7日間培養した。これらの条件下では、ヒトMDSCは、非血縁PBMCレスポンダーの抗CD3εmAbによって進められる増殖を抑制した。ヒトMDSCは、LPSを加え、続いてATPを加えてNLRP3インフラマソームを会合することによってインフラマソーム活性化条件に応答できることが確認された。LPS及びATPはともに、IL-1βのMDSCによる産生を進めるのに必要である(
図4A)。次に、インフラマソーム活性化MDSCは、抗CD3εmAb主導PBMC増殖アッセイに加えられた。マウスの系のように、インフラマソーム活性化構成成分(Stim+Infl.Tx’d)に曝露されたMDSCはIL-1β産生に付随して抑制を失った。
【0028】
このように、アロ反応性T細胞は臨床GvHDの罹患及び死亡に対する寄与因子であり、制御性細胞療法の使用はそれらを制御する実行可能な戦略であることができる。MDSCは比較的短い時間で正常骨髄から生成することができ、GvHD、自己免疫、及び同種異系移植片拒絶反応を効果的に抑制することができる。本開示は、サイトカインIL-13によって活性化されたMDSCがarg1を産生し、すると今度はMDSCがGvHDを抑制できるようにすることを報告する。しかし、MHCが完全にミスマッチであるストリンジェントなGvHDモデルでは、MDSC治療は、生存の延長を促進するが、結局のところ大多数の動物を致死GvHDから保護できない。さらに、本開示は、養子移植MDSC生来のインフラマソーム活性化が生体内でその有効性を制限することを示す。培養MDSCは、ASC依存的に速やかに応答して相当量のIL-1βを産生でき、インビトロで抑制の関連消失をもたらす結果となる。さらに、生体内移植の直後に、aGvHDという状況の中でMDSCは成熟CD11c+表現型に転換し、インビトロ抑制能の消失を示す。GvHD無状態下の対照と違って、これらのMDSCは一晩培養したときにインフラマソーム活性化の指標であるカスパーゼ-1p10の量が増加し、IL-1βを分泌する。
【0029】
対照的に、インフラマソーム活性化がASC-/-MDSC-IL13を用いて遺伝的に不可能な場合には、GvHD生存は野生型MDSC-IL13移植レシピエントに比べて改善され、回収されたASC-/-MDSC-IL13はより良好な細胞外抑制能を維持する。インフラマソーム活性化/転換に対するMDSC感受性を変えるさらなる方法は、ASC又は他のインフラマソーム関連遺伝子(例えば、NLRP3、AIM2、カスパーゼ-1)の遺伝子ノックダウンを含むことができる。遺伝子ノックダウンは、例えば、sh/siRNA、TALEN、メガヌクレアーゼ、megaTALEN、及び/又はCRISPER技術、及び/又は部位特異的変異導入を用いて得ることができる。
【0030】
骨髄細胞は、炎症誘発性方向及び抗炎症性方向の両方において免疫応答を開始して形成することに関与し、優れた可塑性を示す。この適応性は、正常骨髄からインビトロで抑制性が高い細胞を迅速に生成することができるが、aGvHDなどの重症の炎症性環境への移植に際して見られる有効性が一過性になってしまうという点で良し悪しがありうる。MDSCは実際には不均質であると特徴付けられ、表現型マーカーは疾患モデル間又は種間で必ずしも置き換えられないが、インフラマソーム活性化経路は非常によく保存されているようである。本開示において報告されているデータにおいて、マウス骨髄又はヒトPBMCから生成されたMDSCはインフラマソームを容易に活性化し、サプレッサー機能の消失に相関するIL-1β産生を結果としてもたらす。aGvHD患者はカスパーゼ-1の切断及びIL-1βの増加を示すことができ、GvHDがインフラマソーム活性化に関連しているという結論をさらに支持する。MDSCは定着腫瘍とほぼどこでも関連し、免疫治療介入を活発に乱す可能性がある。MDSCの腫瘍誘発インフラマソーム活性化とGvHD誘発インフラマソーム活性化と違いの1つは、腫瘍関連MDSC発症は、GvHDの非常に強い全身性炎症反応とは対照的に、慢性局所炎症の状況において起こることである。
【0031】
GVHDによって活性化されるMDSCはIL-1βを分泌するので、そのようなMDSCがGVHD致死性プロセスに寄与した可能性がある。IL-1βは、それを産生する細胞、周囲の微環境の状態、及び時間的発現に依存する多面発現効果を有するが、一般的には、炎症誘発性且つ場合によっては対抗制御的であることが理解される。+5日目のGvHD移植レシピエントから回収されたMDSC-IL13細胞をインビトロ抑制アッセイに用いたとき、増殖しているT細胞は細胞分裂が少なかったものの、増殖しているT細胞の割合は、MDSCが無い対照と異ならず、若干の抑制能が残っていたことを示唆した。これらのデータは、GVHDによって活性化されたMDSC-IL13はGVHD致死性を直接推し進めなかったことを示唆し、MDSC-IL13で治療したレシピエントの生存曲線が2~3週間遅れてMDSC無対照の生存曲線に一致するという結果と整合性がある。養子移植の間にMDSC-IL13によって付与される生存効果を促進するアルギナーゼ-1発現は、インフラマソームで活性化されたMDSCにおいて阻害され、ドナーMDSCによる抑制の消失の原因である可能性があった。
【0032】
インフラマソームメディエーターのNLRファミリー、例えばNLRP3などは、ATP及び関連dangerシグナルがともに前処理後に見られるのでGvHD状態下でインフラマソーム転換を促進する候補であり、GvHDを増強するのに関与しうる。GvHDという状況の中でNLRP3インフラマソーム活性化は、放射線療法及び化学療法誘導プロトコールに対して示され、組織の損傷及びdanger関連分子パターン(DAMP)の放出をもたらした。また、養子移植されたMDSCもインフラマソーム誘導に影響されやすい可能性があり、同じメディエーターが生体内活性化に寄与しうる。NLRP3インフラマソームを選択的に標的とする試薬は、ホストのインフラマソームを活性化し、注入されたドナーMDSCを阻害する2つの目的を促進しうる。例えば、小分子阻害剤であるMCC950と、代謝ストレスの下で作られるケトンであるβ-ヒドロキシ酪酸塩(BHB))は、NLPR3活性化とNLRP3媒介疾患の抑制に対する特異性を示した。あるいは、dsDNAなどのウィルス及び細菌産物も、GvHDとインフラマソームのAIM2様受容体ファミリー双方の強力な推進因子でありうる。GvHD発症がホストMyD88/TRIF経路活性に依存しない一方で、放射線及びGvHDによって誘発された損傷からの死細胞/死につつある細胞によるdsDNAの放出は、いくつかの条件の下で致死性を増幅しうる。
【0033】
総合的に考えると、本開示において報告されるデータは、MDSCがインフラマソーム活性化を起こす程度がGvHDの炎症環境により阻害される度合い軽減することによってドナーMDSCの治療可能性が増加できることを示す。特に、遺伝子改変(例えば、遺伝子発現ノックダウン、sh/siRNA/メガヌクレアーゼ、megaTAL、CRISPER)を介して、又は、薬理学的な抑制(MCC950/BHB)を介してインフラマソーム活性化を阻害する治療的なMDSC細胞療法の前処置はMDSC機能を本質的に持する方法である。さらに、インフラマソーム形成若しくは機能を調節できる薬品及び薬剤又は(移植前、移植中、及び/若しくは移植後に)患者のインフラマソーム活性化を導く患者の誘発因子を調節する薬剤を送達するための薬理学的治療又は生体内MDSC特異的ターゲティングも、GvHDの重症度の増加に関連することが示されているホスト由来インフラマソーム活性を防ぐという付加的な効果を伴って、MDSC細胞療法のインフラマソーム転換を減らすことができる。
【0034】
逆に、一般に腫瘍増殖と関連して慢性的に炎症を起こしている状況において、デノボのMDSC生成とインフラマソーム活性は互いに関連しあう場合が多い。このようなMDSCを抑制すると、化学療法、放射線療法、手術、並びに/又は薬、抗体/タンパク質、ワクチン、及び/若しくは細胞療法を用いる免疫療法の有効性を減少又は消滅させうる。MDSC機能が急性GvHDによるインフラマソーム活性により直接的に損なわれることを示す本明細書が提示する発見は、炎症の程度がMDSCの機能的な支持に影響することを実証する。よって、上述の療法などの腫瘍の消失を目的とする抗腫瘍剤は、腫瘍関連MDSCを除去/機能不全にする目的で局所又は全身のインフラマソーム活性化を強化することによってさらに促進することができる。
【0035】
最先端の分野では、慢性的なインフラマソーム活性化がMDSCサプレッサー機能を増加させるであろうと当初提案されていた。しかし、GvHDにおける我々の発見は、高レベルのインフラマソーム活性化はMDSCサプレッサー能力を逆にすることを示す。よって、腫瘍においてMDSC抑制を逆にする新規の方法は、例えば、尿酸、ATP、Toll様受容体を刺激する物質、DNA、RNA、及び/又はインフラマソーム機能を上方制御できる他の薬剤などの誘発物質を提供することなどの方法を用いて腫瘍内でMDSCを活性化することを伴いうる。
【0036】
よって、1つの態様では、本開示は、移植片対宿主病(GvHD)を有する対象又はそのリスクがある対象を治療する方法を記載する。概して、その方法は、対象に、移植片対宿主病の少なくとも1つの症状又は臨床徴候を適切な対照対象より軽減するのに有効な複数のMDSCを投与することを含む。
【0037】
本明細書で使用される場合、「治療する」という用語又はその変形は、GvHDに関連する症状又は臨床徴候を、何れかの程度で、減少させる、進行を制限するか、軽減するか、又は自然治癒させることを指す。「治療(treatment)」は、治療的(therapeutic)でもよく、予防的でもよい。「治療的」及びその変形は、それについて、GvHDに関連する1つ以上の既存の症状又は臨床徴候を軽減する治療を指す。「予防的」及びその変形は、GvHDの症状又は臨床徴候の発症及び/又は出現を、何れかの程度で制限する治療を指す。一般には、「治療的な」治療はGvHDが対象に現れた後に開始され、一方で「予防的」治療はGvHDが対象に現れる前に開始される。本明細書で使用される場合、「症状」はGvHDのいずれの主観的な証拠(subjective evidence)を指し、一方で「徴候」又は「臨床徴候」は患者以外の者によって見出されることができるGvHDに関する客観的な身体所見を指す。
【0038】
また、「リスクがある」という用語は、明細書に記載のリスクを実際に有している対象又は有していない対象であってもよい。よって、例えば、GvHDを発症する「リスクがある」対象は、対象がGvHDを罹患又は発症している症状又は臨床徴候の何れかを呈するか否かにかかわらず、GvHDを罹患又は発症するリスクの増加を示す1又は複数の指標を欠く者に対し、当該1又は複数の指標を有する対象である。
【0039】
いくつかの実施形態では、前に投与されたMDSCがインフラマソーム活性化を起こしアロ反応性T細胞を抑制することができなくなるので、本発明の方法は、前の投与のMDSCを置き換えるためのMDSCの反復投与を含んでもよい。すなわち、連続的に再投与されるMDSCにより、炎症性環境においてサプレッション機能を失っているMDSCの集団を、インフラマソーム機能が活性化されていない新たなMDSCで補充することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、治療は、最低でも少なくとも2回のMDSCの投与、例えば、少なくとも3回の投与、少なくとも5回の投与、少なくとも10回の投与、少なくとも15回の投与、少なくとも20回の投与、少なくとも25回の投与、又は少なくとも50回の投与を含んでもよい。いくつかの実施形態では、治療は、最高で50回以下のMDSCの投与、例えば、40回以下の投与、30回以下の投与、20回以下の投与、10回以下の投与、又は5回以下の投与を含んでもよい。いくつかの実施形態では、治療は、上記何れかの最低投与回数と、その最低投与回数より上記何れかの最高投与回数によって規定される端点を有する投与の範囲を含んでもよい。よって、好ましい実施形態では、治療は3回から5回までのMDSCの投与を含んでもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、MDSCの連続投与は、少なくとも24時間、例えば、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも7日、少なくとも14日、少なくとも30日、又は少なくとも90日の最小間隔で離間してもよい。いくつかの実施形態では、MDSCの連続投与は、1年以下、6ヵ月以下、90日以下、60日以下、30日以下、又は14日以下の最大間隔で離間してもよい。いくつかの実施形態では、MDSCの連続投与は、上記何れかの投与間最小間隔と、その投与間最小間隔より大きい上記何れかの投与間最大間隔によって規定される端点を有する範囲として特徴付けられる間隔で離間してもよい。よって、好ましい実施形態では、治療は最低で1日1回から1日おきに1回をもつ間隔で投与されるMDSCを含んでもよい。
【0042】
場合によっては、MDSCの少なくとも一部は、MDSCにインフラマソーム活性化に対する抵抗性をもたらす遺伝子改変で処理される及び/又はそのような改変を含んでもよい。場合によっては、MDSCは、例えば、MDSCにインフラマソーム活性化に対する抵抗性をもたらす薬品、sh/siRNA、及び/又はCRISPRを用いて前処理してもよい。MDSCにインフラマソーム活性化に対する抵抗性をもたらす例示的な遺伝子改変としては、CARDを含むアポトーシス関連スペック様蛋白質(apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD:ASC)の欠損を挙げることができる。
【0043】
いくつかの実施例では、同様の効果を、MDSC注入の間及び/又はMDSC注入の後にインフラマソームを阻害する薬剤でさらに処理することによって達成してもよく、それによって注入したMDSCがインフラマソーム活性化を起こす程度を減らすことができる。インフラマソームを阻害するための例示的な方法は、インフラマソームを直接的に阻害する薬剤を含みうる。他の方法は、インフラマソーム誘発物質を標的とし、且つ/又は少なくとも部分的にインフラマソーム誘発物質を中和する薬剤を使用することを伴いうる。例示的なインフラマソーム誘発物質としては、例えば、尿酸、ATP、Toll様受容体を刺激する物質、DNA、RNA、及び/又はインフラマソーム機能を上方制御できる他の薬剤が挙げられる。
【0044】
治療は、予防的であるにせよ治療的であるにせよ、少なくとも1週間、例えば、少なくとも2週間、少なくとも1か月間、少なくとも3か月間、少なくとも6か月間、又は少なくとも1年間の最小期間施行することができる。治療は、20年間以下、例えば、10年間以下、5年間以下、2年間以下、1年間以下、9ヵ月間以下、6ヵ月間以下、3ヵ月間以下、2ヵ月間以下、1ヵ月間以下、又は2週間以下の最大期間施行することができる。治療は、上記何れかの最小期間と、その最小期間より長い上記何れかの最大期間によって規定される端点をもつ範囲として特徴付けられる期間施行することができる。よって、好ましい実施形態では、治療は1週間から2週間の期間であってもよい。
【0045】
MDSCは、薬理学的に許容される担体を含む医薬組成物に製剤化することができる。本明細書で使用される場合、「担体」は、いずれの溶媒、分散媒、媒体、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤及び/又は抗真菌薬、等張薬品、吸収遅延剤、バッファー、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。医薬活性物質用のそのような媒体及び/又は薬剤の使用は当該技術分野において周知である。いずれの従来の媒体又は薬剤も活性成分と配合禁忌である場合以外は、治療用組成物におけるその使用が企図される。補助活性成分も組成物に組み込むことができる。本明細書で使用される場合、「薬理学的に許容される」は、生物学的に又はその他の形で望ましくない材料ではない材料を指し、つまり、その材料は、いかなる望ましくない生物学的効果も引き起こさずに、又はそれが含まれる医薬組成物の他の成分のいずれとも有害に相互作用することなく、MDSCとともに個人に投与することができるものである。
【0046】
医薬組成物は、投与の好ましい経路に適合するさまざまな形態に製剤化してもよい。よって、組成物は、例えば、非経口(例えば、皮内、経皮、皮下、筋肉内、静脈内、腹膜内など)経路を含む既知の経路を介して投与しうる。
【0047】
よって、MDSCは、限定されないが、溶液、懸濁液、エマルション、又はいずれの形態の混合物を含むいずれの適切な形態でも提供しうる。組成物は、いずれの薬理学的に許容される賦形剤、担体、又は媒体を含む製剤で送達しうる。
【0048】
製剤は単位剤形で存在すると利便性が高いことがある。薬学の分野で周知の方法によって調製されうる。薬理学的に許容される担体を含む組成物を調製する方法は、MDSCを1つ以上の副成分を構成する担体と結合させるステップを含む。一般には、製剤は、均一に且つ/又は密接に活性化合物を、液体担体、微粉固体担体、又は両方と結合させ、次いで必要ならば、生成物を所望の製剤に成形することによって調製されうる。
【0049】
投与されるMDSCの量は、限定されないが、対象の体重、健康状態、及び/若しくは年齢、並びに/又は投与の経路を含むさまざまな因子に応じて変えることができる。よって、所与の単位剤形に含まれるMDSCの絶対量は大きく異なる可能性があり、対象の種、年齢、体重、及び健康状態、並びに/又は投与の方法などのさまざまな因子に依存する。したがって、すべての考えられる用途に有効なMDSCの量を構成する量をあまねく記載することは現実的ではない。しかし、当業者ならそのような因子を充分に考慮して適切な量を容易に決めることができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、MDSCの単回投与は、最低でも少なくとも105個のMDSC、例えば、少なくとも106個のMDSC、少なくとも107個のMDSC、少なくとも108個のMDSC、少なくとも109個のMDSC、少なくとも1010のMDSC、少なくとも1011個のMDSC、又は少なくとも1012個のMDSCを含むことができる。いくつかの実施形態では、MDSCの単回投与は、最高で1013個以下のMDSC、例えば、1012個以下のMDSC、1011個以下のMDSC、1010個以下のMDSC、109個以下のMDSC、108個以下のMDSC、107個以下のMDSC、又は106個以下のMDSCを含むことができる。いくつかの実施形態では、MDSCの単回投与は、上記何れかのMDSCの最小数と、そのMDSCの最小数より大きい、上記何れかのMDSCの最大数とによって規定される端点をもつ範囲として特徴付けられるMDSCの数を含むことができる。よって、1つの好ましい実施形態では、MDSCの単回投与は、107個のMDSC~1010個のMDSCの範囲を含むことができる。他の好ましい実施形態において、MDSCの単回投与は、4×107個のMDSC~5×108個のMDSCの範囲を含むことができる。
【0051】
別の態様では、本開示は腫瘍を治療する方法を記載する。概してその方法は、MDSCのインフラマソーム活性化を充分に増加させて腫瘍の近くでMDSCのサプレッサー機能を無効にすることを含む。場合によっては、インフラマソーム活性化を増加させることは、例えば、尿酸、ATP、Toll様受容体を刺激する物質、DNA、RNA、及び/又はインフラマソーム機能を上方制御できる他の薬剤などの少なくとも1つのインフラマソーム誘発物質を提供することを含みうる。
【0052】
インフラマソーム誘発物質は、例えば、化学療法、放射線療法、手術、ならび/又は薬、抗体/タンパク質、ワクチン、及び/若しくは細胞療法を用いる免疫療法などの、腫瘍を消滅させるように設計された従来の抗がん剤とともに共投与することができる。本明細書中で使用される場合、「共投与された」とは、その組み合わせの治療効果又は予防効果が、単独で投与される何れかの成分の治療効果又は予防効果よりも大きくなるように投与される組み合わせの2つ以上の成分を指す。2つの成分は、同時に共投与されてもよく、又は連続的に共投与されてもよい。同時に共投与された成分は、1つ以上の医薬組成物中に提供されうる。2つ以上の成分の連続共投与は、各成分が同時に治療部位に存在できるように成分が投与される場合を含む。あるいは、2つの成分の連続共投与は、少なくとも1つの成分が治療部位から消え、1つ以上の追加成分が治療部位に与えられるまで、成分を投与する細胞効果(例えば、サイトカイン生産、ある特定の細胞集団の活性化など)の少なくとも1つは治療部位で持続する場合を含みうる。よって、共投与される組み合わせは、ある特定の状況では、決して化学混合物中に互いに存在しない成分を含みうる。
【0053】
いくつかの場合では、抗腫瘍剤は、その療法が規制当局の承認を得ている同一投与量及び頻度で投与してもよい。他の場合では、抗腫瘍剤は、その療法が臨床研究又は臨床前研究において評価されている同一投与量及び頻度で投与してもよい。インフラマソーム誘発物質と共投与するときに所望のレベルの抗腫瘍効果を達成するように必要に応じて投与量及び/又は頻度を変えることができる。よって、標準的な/既知の投与レジメンを使用でき、且つ/又は必要に応じて投薬をカスタマイズすることができる。
【0054】
同様に、インフラマソーム誘発物質はいずれの適切な形態にも製剤化されうる。そのうえ、例えば、インフラマソーム誘発物質は、それが規制当局の承認を得うる同一投与量及び頻度で投与されうる。他の場合には、インフラマソーム誘発物質は、それが臨床研究又は臨床前研究において評価されうる同一投与量及び頻度で投与されうる。インフラマソーム誘発物質は、所望のレベルのインフラマソーム誘発物質を達成するように必要に応じて投与量及び/又は頻度を変えることができる。よって、標準的な/既知の投与レジメンを使用でき、且つ/又は必要に応じて投薬をカスタマイズすることができる。
【0055】
前述の明細書及び後述の請求項において、「及び/又は」という用語は、1つ若しくはすべての列挙された要素又は列挙された要素の何れか2つ以上の組み合せを意味する;用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、及びその変形は、非限定(open ended)と解釈されるべきであり、すなわち、さらなる要素又はステップが任意選択で存在しても在しなくてもよい;別段の指定がない限り、「a」、「an」、「the」、及び「少なくとも1」は、互換可能に使用され、1又は1を超えることを意味する;並びに、端点による数の範囲の記載は、その範囲内で包含されるすべての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0056】
前述の説明において、特定の実施形態が明確にするために分離して記載されている場合がある。ある特定の実施形態の特徴が別の実施形態の特徴と相いれないということが別段明確に示されない限り、ある特定の実施形態は、1つ以上の実施形態に関連して本明細書に記載の互換性をもつ特徴の組み合わせを含むことができる。
【0057】
個別のステップを含む、本明細書において開示されているいずれの方法についても、それらのステップはいずれの実行可能な順序でも行ってもよい。そして、必要に応じて、2つ以上のステップのいずれの組み合わせも同時に実行してもよい。
【0058】
本発明を以下の例によって説明する。特定の例、材料、量、及び手順は、本明細書に記載の本発明の範囲及び趣旨に従って広く解釈されるべきであることが理解されるべきである。
【実施例】
【0059】
マウス
6~8週齢雌BALB/c(H2d)、C57BL/6NCr(H2b)、及びB6-Ly5.2/Cr(B6-CD45.1+、H2b)マウスは、米国国立がん研究所から購入した。ASCノックアウトマウス(Mariathasan et al., 2004. Nature 430(6996):213-218)及びC57Bl/6遺伝的背景のYFP-Arg1(YARG)マウス(Reese et al., 2007. Nature 447(7140):92-96)は以前に報告されている。マウスはすべて、ミネソタ大学の研究機関内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコールにある特定病原体除去施設内のマイクロアイソレーターケージで繁殖させ、飼育した。
【0060】
MDSC生成
C57Bl/6骨髄を10%ウシ胎児血清、50μM 2-メルカプトエタノール、10mM HEPES、1mM ピルビン酸ナトリウム、100U/mL ペニシリン、100mg/mL ストレプトマイシン、並びに補助アミノ酸(L-グルタミン、L-アルギニン、及びL-アスパラギンの各々1.5mM)を加えたダルベッコ変法イーグル培地の1mL当たり3×105個の細胞で培養することによってマウスMDSCを生成した。100ng/mL 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF/ニューポジェン、アムジェン社、サウザンドオークス、カリフォルニア州)及び2.5ng/mL マウス顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、R&Dシステム社、ミネアポリス、ミネソタ州)を加え、培養物を37℃にて10%CO2で4日間インキュベーションした。3日目に、アルギナーゼ-1誘導のために40ng/mL 組換えマウスIL-13(R&Dシステム社、ミネアポリス、ミネソタ州)を加えた。代替的に、IFNγを同じ濃度で加えた。MDSCを4日目に培養上清の70%を静かに除去することによって集めた。次いで、残留培地及び緩く付着した細胞を集めた後、トリプシン/EDTAを加えた。37℃で10分後、プレートを軽くこすり取って洗浄し、残りの細胞を集め、軽度に付着した細胞と合わせて、>92%のCD11b+回収となった。インフラマソーム誘導のために、4日目にLPS(0.2μg/ml)を培養物に加えた。3時間後、NLRP3インフラマソームを刺激するために、2mM ATPを1時間加えた。代替的に、AIM2インフラマソームを活性化するために、ポリ(dT)を、Lipofectamine 2000試薬を製造業者の取扱説明書(インビトロジェン社、カールズバッド、カリフォルニア州)に従って用いて1時間加えた後に洗浄し、上清又は養子移植を分析した。
【0061】
ヒトMDSCをメモリアル血液センター(Memorial Blood Center)(ミネアポリス、ミネソタ州)より入手した成人血液から単離した正常ドナーPBMCから、ヒストパック勾配(シグマ‐アルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州)を用いて遠心分離することによって生成した。インビトロ生成は、事前にCD33+骨髄細胞濃縮をする改変をして、以前に報告(Lechner et al., 2010. J Immunol 185(4):2273-2284)の通りに実施し、その濃縮はミルテニーMACシステムを取扱説明書に従って使用して実施した。培養物を7日目にインフラマソーム誘導のために集めた後に洗浄し、以前に記載されている通りに(Hippen et al., 2008. Blood 112(7):2847-2857)抑制機能アッセイに播種した。ヒト血液バンク試料は、ミネソタ大学の研究におけるヒト対象の使用に関する委員会(Committee on the Use of Human Subjects in Research)によって承認されたガイドラインを介して入手した。
【0062】
GvHD
700cGy全身照射法を用いてBALB/cレシピエントを致死的に照射した1日後、1×107個のC57Bl/6ドナー骨髄、2×106個のリンパ節精製C57Bl/6 CD25除去T細胞、及び6×106個の培養C57Bl/6 MDSC-IL13を0日目又は示されるように注入した。T細胞濃縮を、ネガティブ細胞分離システム(EASYSEP、Stemcell Technologies社、バンクーバー、カナダ)並びにCD19、B220、CD11b、CD11c、NK1.1、γδTCR、及びCD25に対するビオチン化抗体を製造業者の取扱説明書に従って使用して実施した。生存しているかどうかマウスを毎日モニターした。
【0063】
MDSC生体外回収
CD45.2
+(B6又はASC ko)コンジェニックドナーから生成したMDSC-IL13をCD45.1
+レシピエントに記載されているように移植した。回収を増やし、機能アッセイを容易にするために、移植の5日後に3~4頭のレシピエントの脾臓を試料ごとにプールした(1群あたりn=3の試料)。RAPIDSPHERE EASYSEP法(Stemcell Technologies社、バンクーバー、カナダ)及び抗CD45.1-ビオチン化抗体を製造業者の取扱説明書に従って使用してホスト及びドナーT細胞を除去することによってCD45.2
+(MDSC-IL13)脾細胞を単離し、>80%のCD45.2+MDSC-IL13回収をもたらした(
図7)。
【0064】
顆粒球性の(Ly6G+)サブセット及び単球性の(Ly6C+ G-ve)サブセットのMDSC-IL13ソーティング
Ly6G+発現に基づいて分離するために、製造業者の取扱説明書に従って、MDSC-IL13培養物をAPC結合抗Ly6G(クローン1A8)抗体で一括標識した後、抗APCマイクロビーズで標識し、ミルテニーMAC LSカラムに加えた。これは、さらなる分析のためにのちに使用する顆粒球性のサブセットと単球性のサブセットの効果的なソーティングをもたらした。
【0065】
フローサイトメトリー及び抑制機能アッセイ
フローサイトメトリーデータの収集はBD LSRFortessaで実施し、解析はFlowJoソフトウェア(FlowJo,LLC社、アシュランド、オレゴン州)を用いて行った。マウス抑制機能アッセイに関して、応答しているT細胞を3.5μM カルボキシフルオレセインサクシニミジルエステル(CFSE)で染色し、0.25μg/ml 抗CD3εとともにインキュベーションした後、3日目に分析した。ヒトMDSC抑制機能アッセイでは、レスポンダーPBMCをCELLTRACE Violet(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州)で標識し、抗CD3εmAbでコーティングしたビーズ(DYNAL、サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ウォルサム、マサチューセッツ州;2:1の比)と100U/mlヒトIL-2で刺激した。試料は4日目に採取した。
【0066】
ELISA、ウェスタンブロッティング、及びアルギナーゼアッセイ
培養上清中のマウスIL-1β及びヒトIL-1βを、それぞれのBD OptEIA ELISAセットを製造業者の取扱説明書(BDバイオサイエンス社(BD Biosciences)、サンノゼ、カリフォルニア州)に従って使用して評価した。ウェスタンブロッティングに関して、精製したMDSCを洗い、RIPA、プロテアーゼ(サンタクルーズバイオテクノロジー社、ダラス、テキサス州)阻害剤及びホスファターゼ(シグマ‐アルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州)阻害剤カクテルを含有する溶解バッファーに再懸濁した後、瞬間凍結させた。細胞溶解物の4μgのタンパク質を4~12%SDS-PAGEゲル(インビトロジェン社、カールズバッド、カリフォルニア州)で分け、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(GEヘルスケア社、リトル・チャルフォント、英国)に転写し、抗切断型カスパーゼ‐1p10ウサギmAb(sc-514、サンタクルーズバイオテクノロジー社、ダラス、テキサス州;1:500)を用いて切断型カスパーゼ‐1の検出のためにプローブを付けた。使用した二次抗体は、抗切断型カスパーゼ‐1抗体の検出のためにはHRP結合抗ウサギ抗体(Cell Signaling Technology社、ダンバース、マサチューセッツ州)(1:10,000)及び抗β-アクチン抗体の検出のためにはHRP結合抗マウス抗体(1:2750)であった。ImageJソフトウェア(アメリカ国立衛生研究所、ベセスダ、メリーランド州)を使用してウェスタンブロットバンドの相対的定量を推定した。アルギナーゼ-1活性をQuantiChromアルギナーゼアッセイキット(Bioassay Systems LLC社、ヘイワード、カリフォルニア州)を用いて決定した。1つの試料あたり4×105個の細胞に試料を正規化し、洗浄し、沈殿させ、100μlのプロテアーゼ阻害剤含有溶解バッファーに再懸濁した後、製造業者の取扱説明書に従ってアッセイをした。
【0067】
統計解析
生存研究はカプランマイヤー生存曲線で表わし、統計比較はログランク統計を用いて決定した。スチューデントのt検定をインビトロ収集データの統計解析に用いた(プリズムソフトウェア、GraphPad Software社、ラホヤ、カリフォルニア州)。p<0.05を統計的に有意と定義した。
【0068】
本明細書において引用されるすべての特許、特許出願、及び刊行物、並びに電子的に利用可能な資料(例えば、ジェンバンク及びRefSeqの登録ヌクレオチド配列 並びに例えば、SwissProt、PIR、PRF、PDBの登録アミノ酸配列、並びにジェンバンク及びRefSeqの注釈付きコード領域の解釈を含む)の完全な開示は、参照によりその全体が援用される。本出願の開示と、参照により本願明細書に援用される何れかの文献の開示との間に不一致が存在する場合には、本出願の開示が優先されるものとする。上記の詳細な説明及び例は理解を深める目的で提供されたにすぎない。そこから不必要な限定がなされることはない。本発明は図示され、且つ記載されたまさにその詳細に限定されず、当業者に明らかな変形は、請求項によって定められる本発明の範囲内に含まれることになる。
【0069】
別段の指示がない限り、本明細書及び請求項で使用される構成成分の量、分子量などを表現する数値はすべて、いずれの場合にも用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。従って、別段そうでない旨の指示がない限り、本明細書及び請求項に示される数値パラメーターは近似値であり、本発明により得ようとする所望の特性に応じて異なりうる。最低限でも、また均等論を請求項に限定しようとするものではないが、各数値パラメーターは、少なくとも、報告される有効桁の数を踏まえて、且つ通常の四捨五入丸技法を適用することにより解釈されなければならない。
【0070】
本発明の広い範囲を示す数値的範囲及びパラメーターは近似値であるが、具体例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかし、すべての数値は、それらの試験測定値各々に見られる標準偏差から必然的にもたらされる範囲を本来包含する。
【0071】
見出しはすべて、読者の便宜のためであり、そのような指定がない限り、その見出しに続く本文が意味するところを限定するのに使用されるべきではない。