(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ヒンジ用芯材および盗難防止具、並びに盗難防止具の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 11/04 20060101AFI20230301BHJP
E05B 71/00 20060101ALI20230301BHJP
F16B 4/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
F16C11/04 A
E05B71/00 G
F16B4/00 D
(21)【出願番号】P 2020067448
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2021-11-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年9月25日に販売
(73)【特許権者】
【識別番号】000144485
【氏名又は名称】株式会社サンノハシ
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 友範
(72)【発明者】
【氏名】畠山 祐樹
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第02035682(DE,A1)
【文献】特開2010-170278(JP,A)
【文献】特開昭61-165480(JP,A)
【文献】特開2009-257512(JP,A)
【文献】実開昭52-036251(JP,U)
【文献】特開2005-188189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/12
E05B 71/00
F16B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施錠によってループ状態を構成可能な盗難防止具であって、
複数のロッドを、ヒンジ用芯材を介して回動自在に連結してあり、
前記ロッドの端部には、
貫通孔と、
前記貫通孔の前記ロッドの外表面側に設け、前記貫通孔よりも大径の収容孔が形成されており、
前記ヒンジ用芯材は、
雌部と、前記雌部に圧入する雄部と、を有し、
前記雄部は、一端側に雄側干渉部、他端側に差込部を設けており、
前記雌部は、一端側に雌側干渉部、他端側に前記差込部を差し込んで結合可能な挿入孔を設けており、
前記差込部に、前記挿入孔に圧入可能なセレーション部を設けており、
一方のロッドの前記収容孔に、前記雄側干渉部の全てが収容され、
他方のロッドの前記収容孔に、前記雄側干渉部の全てが収容されていることを特徴とする、
盗難防止具。
【請求項2】
前記収容孔の径と、前記雄側干渉部および前記雄側干渉部の径をほぼ同径としてあることを特徴とする、
請求項1に記載の盗難防止具。
【請求項3】
前記雄部の硬度が、前記雌部の硬度よりも高いことを特徴とする、
請求項1または2に記載の盗難防止具。
【請求項4】
前記挿入孔が、
前記雌部の他端側から一端側に向けて、
前記セレーション部の径と略同径を呈する、第1の孔と、
前記セレーション部の径よりも小さな径を呈する、第2の孔と、を少なくとも具備し、
前記第1の孔と前記第2の孔との境界に段差部が形成されており、
前記セレーション部を、前記差込部の他端側先端から離隔した位置に設けてあることを特徴とする、
請求項
1乃至3のうち何れか1項に記載の盗難防止具。
【請求項5】
請求項4に記載の盗難防止具の製造方法であって、
前記雌部に前記雄部を差し込む際に、
前記段差部に前記セレーション部の先端を接触させ、かつ前記差込部の他端側先端を前記第2の孔内に位置させて、前記雄部の直立状態を維持してから、前記雌部に、前記雄部を圧入してあることを特徴とする、
盗難防止具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジを構成する芯材および当該芯材を用いた盗難防止具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一組の部材間を回動可能に連結する機構としてヒンジ機構がある。
ヒンジ機構は、主に、連結しあう部材にそれぞれ設けた貫通孔と、前記貫通孔に挿通する芯材とを有して構成する。
この芯材の一端または両端には、貫通孔に挿通できない大きさを呈する部位(以後「干渉部」ともいう。)を設けておくことで、貫通孔から芯材が抜け出ることを防止している。
この干渉部は、芯材を挿抜自在に構成する場合には芯材の一端側にのみ設け、芯材を挿抜不能に構成する場合には、芯材の一端側は事前形成しつつ、他端側は貫通孔への挿入後に事後形成する場合がある。
【0003】
この干渉部を設ける方法として、スピニングカシメ工法(非特許文献1)や、ネジ締付け工法などが知られている。
スピニングカシメ工法は、貫通孔に挿通した後の芯材の先端を、スピンリベッターで回転・加圧を繰り返すことにより貫通孔よりも大径のリベットを形成する工法である。
ネジ締付工法は、芯材を、連結対象の部材の一方から挿入する雌ネジ部と、連結対象の部材の他方から挿入する雄ネジ部とで構成し、両者を螺合することで、芯材を貫通孔内で回動可能とする工法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】http://kokiriveting.com/?lang=ja
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来の方法では、以下に記載する課題のうち、少なくとも何れか1つの課題有する。
(1)スピニングカシメ工法を採用する場合は、芯材に対し高負荷での塑性加工によってリベットを形成するため、高強度な材料を用いた芯材での適用が困難であった。
(2)ネジ締付工法の場合に、各部材に雄ネジと雌ネジを形成する必要があるため、ヒンジのサイズダウンに限界があった。また、螺合動作を行うためには、各部材の端部形状に制約があり、デザインの自由度が低い。
【0006】
よって、本発明は、より高強度で、かつネジ溝の形成を要しない態様でのヒンジ用芯材の提供を目的の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、施錠によってループ状態を構成可能な盗難防止具であって、複数のロッドを、ヒンジ用芯材を介して回動自在に連結してあり、前記ロッドの端部には、貫通孔と、前記貫通孔の前記ロッドの外表面側に設け、前記貫通孔よりも大径の収容孔が形成されており、前記ヒンジ用芯材は、雌部と、前記雌部に圧入する雄部と、を有し、前記雄部は、一端側に雄側干渉部、他端側に差込部を設けており、前記雌部は、一端側に雌側干渉部、他端側に前記差込部を差し込んで結合可能な挿入孔を設けており、前記差込部に、前記挿入孔に圧入可能なセレーション部を設けており、一方のロッドの前記収容孔に、前記雄側干渉部の全てが収容され、他方のロッドの前記収容孔に、前記雄側干渉部の全てが収容されていることを特徴とする。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記収容孔の径と、前記雄側干渉部および前記雄側干渉部の径をほぼ同径としてあることを特徴とする。
また、本願の第3発明は、前記第1発明または第2発明において、前記雄部の硬度が、前記雌部の硬度よりも高いことを特徴とする。
また、本願の第4発明は、前記第1発明乃至第3発明のうち何れか1つの発明において、前記挿入孔が、前記雌部の他端側から一端側に向けて、前記セレーション部の径と略同径を呈する、第1の孔と、前記セレーション部の径よりも小さな径を呈する、第2の孔と、を少なくとも具備し、前記第1の孔と前記第2の孔との境界に段差部が形成されており、前記セレーション部を、前記差込部の他端側先端から離隔した位置に設けてあることを特徴とする。
また、本願の第5発明は、前記第4発明に記載の盗難防止具の製造方法であって、前記雌部に前記雄部を差し込む際に、前記段差部に前記セレーション部の先端を接触させ、かつ前記差込部の他端側先端を前記第2の孔内に位置させて、前記雄部の直立状態を維持してから、前記雌部に、前記雄部を圧入してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)セレーション圧入によって雄部と雌部を一体化するため、従来のスピニングカシメ工法のように、使用する部材の強度に制約が無く、より高強度なヒンジ構造を提供することができる。
(2)セレーション圧入によって雄部と雌部を一体化するため、従来のネジ締付工法のように、各部材にネジ加工を施す必要が無く、芯材のサイズダウンに寄与する。
(3)従来のネジ締付工法のように、各部材を螺合動作が可能な形状にする必要が無いため、デザインの自由度が高い。
(4)挿入孔を構成する第1の孔と第2の孔との境界に形成される段差に雄部側に設けたセレーション部の先端と接触するため、セレーション圧入の前に、雌部に差し込んだ雄部の姿勢を直立姿勢に保持することができる。
(5)セレーション部を、前記差込部の他端側先端から離隔した位置に設けることで、セレーション圧入の前に、雌部に雄部を差し込んで姿勢保持した状態において、差込部の他端側先端が第2の孔内に位置し、かつセレーション部の一部が第1の孔内に位置するため、より雄部の直立姿勢をより安定した状態で保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るヒンジ用芯材の全体構成の概略図。
【
図5】噛み合い長による、抜け力の遷移を示すグラフ。
【
図6】セレーション部の長さによる抜け力の遷移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
<1>全体構成(
図1)
図1に、本発明に係るヒンジ用芯材Aの全体構成の概略図を示す。
本発明に係るヒンジ用芯材(以下、単に「芯材A」という。)は、連結対象である一組の部材にそれぞれ設けて連通させた貫通孔50に挿入することで、芯材Aの長手方向を回転軸として、一組の部材を回動自在に連結するために用いる部材である。
図1に示すように、本発明に係る芯材Aは、雌雄結合する雄部A1と雌部A2とを少なくとも有して構成する。
雄部A1は、略棒状の部材であり、当該部材の一端側には雄側干渉部10を設け、他端側に差込部20を設けている。雄部A1はピン部とも呼ばれる。
雌部A2も、雄部A1と同様、略棒状の部材で構成し、当該部材の一端側に雌側干渉部30を設け、他端側に挿入孔40を設けている。雌部A2は軸部とも呼ばれる。
以下、各構成要素の詳細について説明する。
【0012】
<2>雄側干渉部、雌側干渉部(
図1,
図2(a))
雄側干渉部10および雌側干渉部30は、連結対象となる一組の部材から芯材Aが抜け出ることを防止するための部位である。
雄側干渉部10および雌側干渉部30は、連結対象となる各部材に設けた貫通孔50への挿通ができない形状又は大きさを呈すれば良い。
本実施例では、雄側干渉部10および雌側干渉部30を、貫通孔50の径よりも大径とした、いわゆるトラスネジの頭部形状に類似した形状で構成ししている。
雄部A1および雌部A2の結合後には、各干渉部が、芯材Aの両端に位置することで、各連結対象からの芯材Aの抜け出しを防止する。
また、本実施例では、
図2(b)に示すように、少なくとも雄側干渉部10の頂面を平面上に均して、セレーション圧入を行う際の押圧面11としている。
【0013】
<3>差込部(
図1,
図2(b))
差込部20は、雌部A2の挿入孔40に差し込んで雌雄結合するための部位である。
差込部20の一部または全部には、挿入孔40に対し圧入可能な大きさを有するセレーション部22を設けている。
本発明において、セレーション部22の形状、構造等は特段限定しない。
図2(b)に示す本実施例では、差込部20の多端側先端21から所定長さ離隔した位置において、差込部20を構成する円柱形状の基部の周面に対し、断面山型形状の縦歯221を、間隔を設けて複数配置することによって、セレーション部22を形成している。
【0014】
<4>挿入孔(
図1)
挿入孔40は、雄部A1に設けた差込部20を収容して固定するための部位である。
挿入孔40は、前記したセレーション部22を有する差込部20を圧入することが可能な程度の空間でもって形成する。
本実施例では、挿入孔40を、前記雌部A2の他端側から一端側に向けて、順に第1の孔41と第2の孔42とを少なくとも設けるように形成している。
【0015】
<4.1>第1の孔(
図1)
第1の孔41は、雄部A1と雌部A2とを圧入結合する際に、雌部A2に対する雄部A1の直立姿勢を保持するための部位である。
第1の孔41の径(D21)は、前記セレーション部22の径(D11)と略同径を呈することで、圧入されることなく、セレーション部22が孔内に収容されることとなる。
【0016】
<4.2>第2の孔(
図1)
第2の孔42は、雄部A1と雌部A2とを連結する際に、セレーション部22の圧入を受けて雌部A2に雄部A1を強固に固定するための部位である。
第2の孔42の径(D22)は、前記セレーション部22の径(D11)よりも小さな径を呈しておくことで、差込部20を挿入孔40内に差し込んでいく途上で、セレーション部22による圧入を受けて潰れ変形するよう構成する。
【0017】
<4.3>段差部(
図1、
図3)
第1の孔41と第2の孔42による径の相違によって、両者の境界位置には段差部43が形成される。
図3に、雌部A2に雄部A1を差し込んだ状態の概略断面図を示す。
雄部A1の圧入作業の開始前に、セレーション部22の先
端がこの段差部43に接触して載った状態と
し、かつ差込部20の他端側先端(先端21)を第2の孔内42内に位置させることにより、雄部A1が雌部A2に対し直立した状態を保持しやすくなる。
その結果、雄部A1の圧入作業を精度良く行うことができる。
【0018】
<5>結合状態(
図4)
図4に、雄部A1と雌部A2とが結合した状態の概略断面図を示す。
セレーション部22の圧入によって、第2の孔42の内壁は、縦歯221の形状に沿って面接触するように押しつぶされて、つぶれ面421を形成している。
この圧入作業によって、雌部A2に対し雄部A1が強固に結合した状態となる。
【0019】
<6>実験例1(
図5)[噛み合い代による抜け力の遷移]
図5に、セレーション部22の径との第2の孔42部との直径の差(噛み合い代)による、抜け力の遷移グラフを示す。
噛み合い長を徐々に大きくしていくにつれ、抜け力は増加していくものの、その抜け力の増加勾配は徐々に小さくなり、やがて抜け力が現象していく現象が確認できた。
したがって、抜け力が最大となった点を基準として前後をセレーション部22の噛み合い長の管理幅としておくことで、所定以上の抜け力を確保したヒンジ構造を提供することができる。
【0020】
<7>実験例2(
図6)[セレーション部の長さによる抜け力の遷移]
図6に、セレーション部22の長さによる、抜け力の遷移グラフを示す。
本実験では、実験例1で示した噛み合い代を0.1mmに固定している。
セレーション部22の長さを徐々に長くしていくにつれ、抜け力は増加していくものの、その抜け力の増加勾配は徐々に小さくなっていくことが確認できた。
したがって、抜け力が最大となった点を基準として前後数mmをセレーション部22の長さの管理幅としておくことで、所定以上の抜け力を確保したヒンジ構造を提供することができる。
【0021】
<8>試験例3(
図7)[硬度差による抜け力の遷移]
図7に、雄部A1と雌部A2の硬度差による、抜け力の遷移グラフを示す。
セレーション部22を有する雄部A1の硬度を、挿入孔40を有する雌部A2の硬度よりも高くした場合と、低くした場合とで、抜け力の値に顕著な差が現れる結果となった。
したがって、雄部A1の硬度を、雌部A2の硬度よりも同等以上に設定することで、所定以上の抜け力を確保したヒンジ構造を提供することができる。
【実施例2】
【0022】
[盗難防止具への適用例(
図8)]
図8に、本発明に係る芯材を、自転車やバイクなどの盗難防止具に適用した場合の概略図を示す。
図8は、複数のロッドBの端部をヒンジ機構で回動自在に連結してなる多関節部材と、多関節部材の両端を差し込んで施解錠可能なキーシリンダでもって、自転車やバイクなどの車輪等に係留可能なループを構成可能な盗難防止具Cにおいて、ヒンジ機構周辺の断面を示している。
【0023】
各ロッドBの両端には貫通孔50が形成されており、ロッドBの外表面側には、前記貫通孔50よりも大径で、雄側干渉部10および雌側干渉部30と略同径の収容孔60を設けてある。そして、本発明に係る芯材Aは、連通させた二つのロッドBにおいて、互いに連通させた貫通孔50の一方から雌部A2を差し入れ、かつ貫通孔50の他方から雄部A1を差し込んでセレーション圧入を行うことで、雄部A1および雌部A2を結合してロッドB同士を回動可能に連結したヒンジ機構を構築している。
本発明に係る芯材Aは、雌部A2に対し雄部A1を圧入する動作で完成することができるため、雄部A1を螺合するための把持具と接触するための部位の形成や、螺合の進展に伴い、把持具の侵入を確保するスペースをロッドBに設ける必要が無い。
【0024】
また、
図8に示す盗難防止具Cにおいて、雄側干渉部10および雌側干渉部30は、ロッドBに設けた収容孔60の中に位置しており、ロッドBの外表面から露出しない構造を呈している。
よって、本発明に係る盗難防止具によれば、セレーション圧入によって雌部A2と雄部A1とが強固に結合されているだけでなく、ヒンジの構築後には犯罪者がそもそも芯材Aに簡単に触れることができない状態とすることで、盗難防止効果を確実に発揮することができる。
【0025】
また、収容孔60の径と、雄側干渉部10および雌側干渉部30の径をほぼ同径としておくと、ヒンジ機構の構築後には、何人も指先や治具などを介して芯材Aに容易にアクセスできない構造とすることができ、前記した盗難防止効果をより確実に発揮することができる。
【符号の説明】
【0026】
A 芯材
A1 雄部
A2 雌部
10 雄側干渉部
11 押圧面
20 差込部
21 先端
22 セレーション部
30 雌側干渉部
40 挿入孔
41 第1の孔
42 第2の孔
43 段差部
B ロッド
50 貫通孔
60 収容孔
C 盗難防止具