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特許7235344目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20230301BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20230301BHJP
   G16Z 99/00 20190101ALI20230301BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20230301BHJP
   G06N 10/00 20220101ALI20230301BHJP
【FI】
G08G1/00 C
G01C21/34
G16Z99/00
G08G1/01 A
G06N10/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020573426
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-08
(86)【国際出願番号】 CN2020095769
(87)【国際公開番号】W WO2021114594
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】201911249339.4
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520510830
【氏名又は名称】南京師範大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】兪 肇元
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲シン▼▲シン▼
(72)【発明者】
【氏名】高 鴻
(72)【発明者】
【氏名】周 春▲イエ▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 旭
【審査官】武内 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-200809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00
G01C 21/34
G16Z 99/00
G08G 1/01
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが行う、
シミュレーションの対象となる高速道路ネットワークデータから道路ネットワークとサイトとの接続関係を抽出し、Gの頂点集合をV、Gの辺集合をEとした場合のウェイト・向き・回路なしのネットワークマップG=(V,E())を作成し、該ネットワークマップの隣接行列Auv
【数1】
とその特徴量、特徴ベクトル、特徴投影を計算して、高速道路出入口ネットワーク構造を構築するステップ(1)と、
量子モデルを用いて、各車両が各出口から同時に出る重畳状態を動的確率で表現して解釈し、ウォーキング時間とネットワークマップの特徴量から、前記シミュレーションの対象となる高速道路の観測データとの間のマッピングパラメータを計算した上で、特徴投影を結合して各頂点の確率幅行列としての波動関数を得るステップ(2)と、
初期時刻におけるウォーカーの状態|v>と仮定し、量子力学において、任意の時刻tにおけるウォーカーのG上での連続的な量子ウォーキング状態が、次の2式で表されるすべての基底状態の線形重畳状態であり
【数2】
ここで、vは、頂点であり、Vは、Gの頂点の集合であり、α(t)は、対応する基底状態|V>の時刻tにおける確率幅であり、かつ|α(t)|∈[0,1]、ランダムウォーカーの時刻tで基底状態にある確率p(|v>,t)=α(t)α (t)であり、α (t)は、α(t)の複素共役であり、任意の時刻tにおいて、
【数3】
を満たし、
時間tを経過してのウォーカーの状態は、次式により求められ、
【数4】
ここで、e-iAtは、隣接行列Auvの演算子であり、
時間tの経過後に、ウォーカーが頂点vから頂点uまで遊走する確率pvu(t)は、
【数5】
である、モデルの構築及びパラメータの設定を行うステップ(3)と、
量子ランダムウォーキングモデルに基づいてシミュレーションを行い、実際の高速道路通行人の流れの方向及び流量データと対比して、ウォーカー初期状態とウォーキング時間を最適化し続ける、量子ランダムウォーキングシミュレーションを行うステップ(4)と、
網羅的探索機構を用いて、パラメータtを一定間隔Δtで変化させて、データが最大の類似度または最小の相違度を有し且つ異なる時間スケールでも明らかなエネルギー共振があること観測されるシミュレーションのパラメータ、前記シミュレーションの対象となる高速道路の最適なパラメータとする、モデルチェック及び時空間マッチングを行うステップ(5)と、
前記量子ランダムウォーキングシミュレーションと前記シミュレーションの対象である高速道路の観測データとをフィッティングして比較するステップ(6)と、
を含むことを特徴とする目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータグラフィックスの技術分野に関し、特に目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市間の高速道路は、異なる都市を効率的に接続し、経済的な交流を促進することができる。交通流量は、速度分布が不均一であるという特徴を有し、交通密度は、高く、コヒーレンスのような非線形複雑性を有する。高速道路の交通流では、個人の運転挙動のわずかな変化が車両を通じて迅速に伝達され、交通流に大きな影響を与える。多数の個人的な運転挙動の総合的な影響によって、全体的な交通流に、時空間にわたって著しい不均一性及び非線形性を示す。確率的シミュレーションモデルは、マクロな交通流状態を、個々の運転者の意思決定の不確定性と結び付ける可能性を提供する。しかしながら、観測データ、モデリング機構および計算の複雑さに制約されて、マクロおよびミクロ条件を模擬する高速道路交通流には、依然としていくつかの困難がある。
【0003】
高速道路交通流の確率的シミュレーション方法は、古典的統計モデルに基づくシミュレーション、統計的物理モデルに基づくシミュレーション、状態空間モデルに基づくシミュレーションおよびインテリジェントなエージェントモデルに基づくシミュレーションの4つに分類される。古典的統計モデルに基づくシミュレーション方法は、高速道路交通流をランダムなプロセスとみなし、その分布と変化プロセスをモデル化することによってプロセスの推移をシミュレーションする。これは、通常、交通流が安定または平衡状態にあると仮定するが、そのような仮定は、そのようなシミュレーション方法の適応性を制限する。統計的物理モデルに基づくシミュレーションは、粒子相互作用によって、異なる規模の高速道路交通流をシミュレーションする。そのような方法は、明確な物理的機構を有し、数値的に効率的に解決できるが、個人によって引き起こされる挙動の異質性は、通常、無視される。状態空間モデルに基づくシミュレーション方法は、交通流が異なる特徴を有する複数の状態を有すると仮定し、流交通の異なる状態を推定しようとし、実測データとの統合性を良好にすることができる。しかし、状態空間に基づくモデルシミュレーションの多くは、複雑な組成及びパラメータを有し、高品質なデータ及び微細なモデル調整を必要とする。インテリジェントなエージェントモデルに基づくシミュレーション方法は、ランダムシミュレーションを実現するために、エージェントのインタラクションを通じてトラフィックフローをシミュレーションする。そのような方法は、一般に、高い計算複雑性およびパラメータ感度を有する。したがって、複数の都市間の長距離高速道路交通流をシミュレートすることを不可能にする。
【0004】
上記の高速道路交通シミュレーション方法は、運転者の主観的な意思決定が全体的な交通流量に与える不確定な影響をほとんど考慮しない。高速道路交通の高速性および高密度特性のために、交通動態のランダム性が車両の異質性をもたらす研究によると、全体的な交通流量状態、特に高速道路交通にさらに影響を与えるので、運転者の知覚の不確定性に注意すべきであることを示唆する。しかしながら、このような不特定性を交通シミュレーションモデルに統合する関連技術は、まだ提案されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする技術課題は、目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法を提供することにあり、高速道路交通流量の準周期的な振動や不規則特性をシミュレーションし、挙動観測ビッグデータを密に統合し、新たな視点から交通挙動の深い特徴を明らかにし、高速道路の流量シミュレーションの精度と効率を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術課題を解決するために、本発明は、目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法を提供し、(1)高速道路出入口ネットワーク構造の構築、(2)車両の流れの方向と流量との重畳状態の複素数表示、(3)モデルの構築及びパラメータの設定、(4)量子ランダムウォーキングシミュレーション、(5)モデルチェック及び時空間マッチング、及び(6)量子ランダムウォーキングと実の流量データとのフィッティング及び比較を含む。
【0007】
ステップ(1)の高速道路出入口ネットワーク構造の構築として、具体的には、シミュレーションの対象となる高速道路ネットワークデータから道路ネットワークとサイトとの接続関係を抽出し、Gの頂点集合をV、Gの辺集合をEとした場合のウェイト・向き・回路なしのネットワークマップG=(V,E())を作成し、ネットワークマップの隣接行列とその特徴量、特徴ベクトル、特徴投影を計算することが好ましい。
【0008】
ステップ(2)の車両の流れの方向と流量との重畳状態の複素数表示として、具体的には、量子モデルを用いて、各車両が各出口から同時に出る重畳状態とし、この重畳状態を動的確率で表現して解釈し、ウォーキング時間とネットワークマップの特徴量から、現実との間のマッピングパラメータを計算した上で、特徴投影を結合して各頂点の確率幅行列、すなわち波動関数を得ることが好ましい。
【0009】
ステップ(3)のモデルの構築及びパラメータの設定として、具体的には、初期時刻におけるウォーカーの状態|v>と仮定し、量子力学において、任意の時刻tにおけるウォーカーのG上での連続的な量子ウォーキング状態が、すべての基底状態の線形重畳状態であり、すなわち、
【数1】
ここで、vは、頂点であり、Vは、Gの頂点の集合であり、α(t)は、対応する基底状態|V>の時刻tにおける確率幅であり、かつ|α(t)|∈[0,1]、ランダムウォーカーの時刻tで基底状態にある確率p(|v>,t)=α(t)α (t)であり、ここでα (t)は、α(t)の複素共役であり、任意の時刻tにおいて、
【数2】
を満たし、
時間tを経過してのウォーカーの状態は、次式により求められ、
【数3】
ここで、e-iAtは、隣接行列Aの演算子であり、
時間tの経過後に、ウォーカーが頂点vから頂点uまで遊走する確率pvu(t)は、
【数4】
であることが好ましい。
【0010】
ステップ(4)の量子ランダムウォーキングシミュレーションとして、具体的には、量子ランダムウォーキングモデルに基づいてシミュレーションを行い、実際の高速道路通行人の流れの方向及び流量データと対比して、ウォーカー初期状態とウォーキング時間を最適化し続けることが好ましい。
【0011】
ステップ(5)のモデルチェック及び時空間マッチングとして、具体的には、網羅的探索機構を用いて、パラメータtを一定間隔Δtで変化させて最適なモデルパラメータを見つけ出し、あるパラメータtに達したときに、データが最大の類似度/最小の相違度を有し且つ異なる時間スケールでも明らかなエネルギー共振があることを観測してシミュレーションし、このパラメータを当該種類の交通システムの最適なパラメータとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高速道路交通流量の準周期的な振動や不規則特性をシミュレーションし、交通観測データを密に統合し、新たな視点から交通挙動の深い特徴を明らかにし、高速道路の流量シミュレーションの精度と効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の方法のフローを示す図である。
図2】本発明のモデル設計の模式図である。
図3】本発明の実験領域を示す図である。
図4】本発明の観測データとシミュレーションデータとの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法は、以下のステップを含む。
【0015】
ステップ1において、高速道路出入口ネットワーク構造を構築する。シミュレーションの対象となる高速道路ネットワークデータから道路ネットワークとサイトとの接続関係を抽出し、Gの頂点集合をV、Gの辺集合をEとした場合のウェイト・向き・回路なしの複雑なネットワークマップG=(V,E)を作成する。該ネットワークマップの隣接行列は、Auvである。
【数5】
ネットワークマップの隣接行列とその特徴量、特徴ベクトル、特徴投影を計算する。
【0016】
ステップ2において、複素数でこのような重畳状態を示す。量子モデルを用いて、各車両が各出口から同時に出る重畳状態とし、この重畳状態を動的確率で表現して解釈する。
【0017】
異なる車両による動的な出口選択は、1つのランダムなプロセスと考えることができるため、それぞれ「出口|a>」および「非出口|b>」である2つの状態を有する複雑な変数を用いてモデル化することができる。ある車両は、|a>と|b>の2つの状態を同時に有することができないので、2つの状態ベクトルは、直交している。しかし、車両毎に1時間帯に変化するため、|a>と|b>の状態変化には必ず一定の確率分布が存在する。従って、本発明は、任意の車両の状態を表すために複素数を制定することができる。
【数6】
【0018】
本発明の波動関数の計算:ウォーキング時間とネットワークマップの特徴量から、本発明と現実との間のマッピングパラメータを計算した上で、特徴投影を結合して各頂点の確率幅行列、すなわち本発明の波動関数を得る。
【0019】
量子メカニズムにおいて、ハミルトン量Hによって制御される量子ランダムウォーカ動力学は、時間発展演算子U(t)によって表される。
【数7】
ここで、Hは、高速道路ネットワークの隣接行列である。すなわち、
【数8】
【0020】
ステップ3において、モデルを構築してパラメータを設定する。量子力学において、任意の時刻tにおけるウォーカーのG上での連続的な量子ウォーキング状態が、すべての基底状態の線形重畳状態であり、すなわち、
【数9】
ここで、α(t)は、対応する基底状態|V>の時刻tにおける確率幅であり、かつ|α(t)|∈[0,1]。ランダムウォーカーの時刻tで基底状態にある確率p(|v>,t)=α(t)α (t)であり、ここでα (t)は、α(t)の複素共役であり、任意の時刻tにおいて、
【数10】
を満たす。
【0021】
古典的ランダムウォーキングとは異なり、連続的な量子ウォーキング過程は、マルコフ鎖ではない。その状態ベクトル|φ(t)>の時間tにわたる展開プロセスは、以下のユニタリー変換によって実現される。
【数11】
【0022】
初期時刻におけるウォーカーの状態|v>とすると、時間tを経過してのウォーカーの状態は、数4により求められる。
【数12】
【0023】
時間tの経過後に、ウォーカーが頂点vから頂点uまで遊走する確率pvu(t)は、以下である。
【数13】
【0024】
数12と数13から分かるように、ウォーカーの初期状態が既知である条件下において、ウォーカーが頂点vから頂点uまで遊走する確率の影響因子は、ネットワークマップの隣接行列(トポロジ)とウォーキング時間である。従って、ウォーカーの初期状態、ネットワークマップの隣接行列(トポロジー)及びウォーキング時間は、本発明を決定する重要なパラメータであり、図2に示すように、研究結果に直接影響する。
【0025】
ステップ4において、量子ランダムウォーキングをシミュレーションする。量子ランダムウォーキングモデルに基づいてシミュレーションを行い、実際の高速道路通行人の流れの方向及び流量データと対比して、ウォーカー初期状態とウォーキング時間を最適化し続ける。
【0026】
ハミルトン量Hは、行列であり、該モデルの数値解は、非常に複雑であるため、本発明は、数14から、多項式展開を用いてQRWを作成することができる。
【数14】
ここで、Nは、Hとcの異なる特徴量の数であり、これは、決定すべき未知の係数である。これらの係数は、数15を用いて求めることができ、Hをその各特徴量に置き換える際に継続的に有効である。U(t)のTylor展開を以下のように仮定する。
【数15】
ここで、Hの単位行列がIであり、cが求めるべき重み係数であるとする。本発明の時間発展型演算子の評価は、Cayley-Hamiltonの定理に基づき、各正方行列が独自の特徴式を満たすことを示す。
【数16】
ここで、Aは、オリジナル行列、Iは、単位行列、λは、特徴量である。特性式は、λにおける多項式であり、λをAに置き換えることで有効な特性式となる。Cayley-Hamiltonの定理を用いて、本発明は、以下の連立方程式を得るために、Hamiltonianを上記の式の各特徴量と置き換えることができる。
【数17】
単純な線形代数的に係数を解くことで、時間演算子の式:n×n行列を得ることができる。
【0027】
ステップ5において、モデルチェック及び時空間マッチングをする。数17において、e^(-iλt)の右辺にはtが影響することが知られており、tは、スケールファクタである。tが大きいほど、又は小さいほど、周波数変動が大きくなる。従って、本発明は、網羅的探索機構を用いて、パラメータtを一定間隔Δtで変化させ、検証方法を提供して最適なモデルパラメータを見つけ出す。実際の流量は、様々な要因によって影響を受けるため、様々な寸法変化を有するので、異なる平滑化レベルの全体的な相似性および時間-周波数電力共振を同時に考慮することが望ましい。あるパラメータtに達したときに、データが最大の類似度/最小の相違度を有し且つ異なる時間スケールでも明らかなエネルギー共振があることを観測してシミュレーションし、本発明では、このパラメータを当該種類の交通システムの最適なパラメータとする。ここでは、時間相関とオリジナル値の挙動(CORT)とを組み合わせた異指数と交差微小スペクトルとが類似性メトリックとして選択される。
【0028】
生データとシミュレーションデータとの間の相違は、時間相関と、オリジナル高速道路ネットワーク上の車流の出口選択の実際の挙動の相違指数(CORT)とを組み合わせて測定される。CORTは、x及びyの動的挙動間の近接性を、以下の項によって定義される1次の時間相関係数によって測定する。
【数18】
【0029】
時系列xとyとの間の差は、次式によって与えられる。
【数19】
【0030】
ただし、Φ[u]=2/(1+eku)は、k≧0の適応調整関数である。δ(x,y)は、系列xとyのオリジナル値の間のユークリッド距離を表す。Φ及びkは、CORT(x,y)と共に、d(x,y)に影響を与える。本発明は、動的挙動間の差異重みの異なるkを制御することによって、異なる時間スケールでのシミュレーション性能を明らかにする。
【0031】
ステップ6において、量子ランダムウォーキングと実の流量データとをフィッティングして比較する。比較のために、本発明は、同じグラフ上でリスタート確率r=0.5とした古典的なランダムウォーキング(RM)も計算して参照する。図4は、観測された交通データを示し、RMと量子ランダムウォーキングシミュレーションデータとの比較を示す。
【0032】
ここで、各変数の意味は、以下である。Gは、シミュレーション対象となる高速道路ネットワークデータから道路ネットワークとサイトとの接続関係を抽出して確立した重み・方向・回路なしの複雑なネットワークマップであり、VはGの頂点の集合であり、Eは、Gの辺の集合であり、Auvは、ネットワークマップGの隣接行列であり、tは、任意の時刻であり、量子系の状態空間は、Hilbert空間で表され、Dirac符号|>を導入して量子状態を表し、|>は、列ベクトルを表し、これを右ベクトルと呼び、|φ(t)>は、ウォーカーのG上での連続的な量子ウォーキング状態をすべての基底状態の線形重畳状態とし、|v>は、ウォーカーの初期状態である基底状態であり、時刻tでは、α(t)は、基底状態|v>に対応する確率幅であり、pvu(t)は、頂点vから頂点uに遊走する確率であり、vとuは、それぞれ異なる2つの頂点であり、異なる車両による動的な出口選択は、ランダムなプロセスとみなすことができ、|a>は、a出口を選択している状態であり、|b>は、b出口を選択している状態であり、Hは、ハミルトン量であり、Nは、Hとcの異なる特徴量の数であり、Aは、原始行列であり、Iは、単位行列であり、λは、特徴値であり、CORTは、時間相関とオリジナル高速道路ネットワーク上の車流の出口選択の実際の挙動との相違指数であり、e-iAtは、隣接行列Aの演算子である。
【0033】
本発明では、南京から常州までの上海-南京高速道路を研究エリアとして、南京を出発して料金所を通過する2015年12月1日から2015年12月30日までの車両の分布を抽出した。都市間高速道路交通を形成するために、本発明では、各料金所で南京から直接出発する車両のみを選択する。料金所を車両が通過する際の生データ記録情報は、膨大な数であり、データの分布が不均衡である。そこで、本発明では、データを正規化し、1時間毎に積算した車両台数を用いる。全体のサンプリング点は、図3に示すように、7(サイト)に744(各サイトの時点)を乗じたものである。
【0034】
南京から上海への上海-南京高速道路から江蘇省内の南京-常州区間を試験エリアとして、そのうちの7箇所の高速道路料金所を抽出し、図3に示すように、高速道路ネットワークマップを構築した。
【数20】
【0035】
本発明の実験は、様々な時間レングスに基づいて多くの実験により構築された。本発明では、シミュレーションデータと実際の観測データとを比較することにより、最適なシミュレーションパラメータ:t=130を求める。比較のために、本発明は、同じグラフ上でリスタート確率r=0.5とした古典的なランダムウォーキング(RM)も計算して参照する。図4は、観測された交通データを示し、RMと量子ランダムウォーキングシミュレーションデータとの比較を示す。
【0036】
図4から、本発明は、量子ランダムウォーキングシミュレーションについて純粋なランダムでも規則的でもない周期を観察することができる。これは、準周期的な波動に更に似たものである。観測データは日々の周期が大きいため、2つの量子ランダムウォーキングは、いくつかの低流量をうまく捉えることができない。しかしながら、不規則なピーク分布の全体的な構造は、量子ランダムウォーキングのピーク分布に類似している。観測データと量子ランダムウォーキングとの時間的な対応関係は、RWによるランダムなピーク分布に比べてはるかに優れている。量子ランダムウォーキングにおいて提示される個々の相互作用および重ね合わせのため、2つの確率プロセスの組み合わせ確率は、それらの確率の単純な加算に等しくない。これに対して、確率振幅のベクトル加算である。量子ランダムウォーキング分布の仮定下では、波の干渉によって、組み合わせ確率のピーク値は、加算確率のピーク値よりも高くなる。これは、運転手のインタラクションが波状に車に追従することを想定していることによく合致する。
【0037】
表1は、RWと量子ランダムウォーキングシミュレーションとの間の相違性メトリックを提供する。ほとんどのサイトでは、サイトN4とN6以外は、RWシミュレーションよりも量子ランダムウォーキングの性能が良い。本発明において異なる距離を見ている場合、異なる時間スケール上の類似性を表し、ほとんどのサイトは、異なる平滑化因子の下で、観測データと量子ランダムウォーキングシミュレーションデータとの間の非類似性が著しく低減され、これらの低減は、ランダムウォーキングにおいてシミュレーションがはっきりと検出されない。これは、量子ランダムウォーキングシミュレーションが、高速道路交通の長期的な時間変化を捕捉できることを意味する。
【0038】
表1:異なる時間スケールにおける観測データとシミュレーションデータとの差異比較表
【表1】
【0039】
(付記)
(付記1)
(1)高速道路出入口ネットワーク構造の構築、
(2)車両の流れの方向と流量との重畳状態の複素数表示、
(3)モデルの構築及びパラメータの設定、
(4)量子ランダムウォーキングシミュレーション、
(5)モデルチェック及び時空間マッチング、及び
(6)量子ランダムウォーキングと実の流量データとのフィッティング及び比較を含むことを特徴とする目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法。
【0040】
(付記2)
ステップ(1)の高速道路出入口ネットワーク構造の構築として、具体的には、シミュレーションの対象となる高速道路ネットワークデータから道路ネットワークとサイトとの接続関係を抽出し、Gの頂点集合をV、Gの辺集合をEとした場合のウェイト・向き・回路なしのネットワークマップG=(V,E())を作成し、ネットワークマップの隣接行列とその特徴量、特徴ベクトル、特徴投影を計算することを特徴とする付記1に記載の目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法。
【0041】
(付記3)
ステップ(2)の車両の流れの方向と流量との重畳状態の複素数表示として、具体的には、量子モデルを用いて、各車両が各出口から同時に出る重畳状態とし、この重畳状態を動的確率で表現して解釈し、ウォーキング時間とネットワークマップの特徴量から、現実との間のマッピングパラメータを計算した上で、特徴投影を結合して各頂点の確率幅行列、すなわち波動関数を得ることを特徴とする付記1に記載の目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法。
【0042】
(付記4)
ステップ(3)のモデルの構築及びパラメータの設定として、具体的には、初期時刻におけるウォーカーの状態|v>と仮定し、量子力学において、任意の時刻tにおけるウォーカーのG上での連続的な量子ウォーキング状態が、すべての基底状態の線形重畳状態であり、すなわち、
【数21】
ここで、vは、頂点であり、Vは、Gの頂点の集合であり、α(t)は、対応する基底状態|V>の時刻tにおける確率幅であり、かつ|α(t)|∈[0,1]、ランダムウォーカーの時刻tで基底状態にある確率p(|v>,t)=α(t)α (t)であり、ここでα (t)は、α(t)の複素共役であり、任意の時刻tにおいて、
【数22】
を満たし、
時間tを経過してのウォーカーの状態は、次式により求められ、
【数23】
ここで、e-iAtは、隣接行列Aの演算子であり、
時間tの経過後に、ウォーカーが頂点vから頂点uまで遊走する確率pvu(t)は、
【数24】
であることを特徴とする付記1に記載の目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法。
【0043】
(付記5)
ステップ(4)の量子ランダムウォーキングシミュレーションとして、具体的には、量子ランダムウォーキングモデルに基づいてシミュレーションを行い、実際の高速道路通行人の流れの方向及び流量データと対比して、ウォーカー初期状態とウォーキング時間を最適化し続けることを特徴とする付記1に記載の目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法。
【0044】
(付記6)
ステップ(5)のモデルチェック及び時空間マッチングとして、具体的には、網羅的探索機構を用いて、パラメータtを一定間隔Δtで変化させて最適なモデルパラメータを見つけ出し、あるパラメータtに達したときに、データが最大の類似度/最小の相違度を有し且つ異なる時間スケールでも明らかなエネルギー共振があることを観測してシミュレーションし、このパラメータを当該種類の交通システムの最適なパラメータとすることを特徴とする付記1に記載の目的地選択に配慮した高速道路通行流量分布模擬の量子計算方法。
図1
図2
図3
図4