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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】有害生物防除組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/08 20060101AFI20230301BHJP
   A01N 43/10 20060101ALI20230301BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20230301BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20230301BHJP
   A01M 1/20 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
A01N43/08 B
A01N43/10 B
A01P7/04
A01P7/02
A01M1/20 A
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021119914
(22)【出願日】2021-07-20
(65)【公開番号】P2022043993
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】109130409
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】506187511
【氏名又は名称】國立中興大學
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】孟孟孝
(72)【発明者】
【氏名】戴淑美
(72)【発明者】
【氏名】呂維茗
(72)【発明者】
【氏名】李成正
(72)【発明者】
【氏名】林映▲トォン▼
(72)【発明者】
【氏名】黄勝
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】ブラジル国特許出願公開102019007434(BR,A2)
【文献】Nadhem Aissani, et al.,Nematicidal Activity of the Volatilome of Eruca sativa on Meloidogyne incognita,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2015年,Vol.63, No.27 ,6120-6125
【文献】S. L. Gusinskaya,Sulfur compounds in the South Uzbekhistan crude oils,Doklady Akademii Nauk UzSSR ,1958年,No.7,27-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物を含む有害生物防除組成物であって、
【化1】
前記組成物の活性成分は、式(I)で表される化合物のみであり、
前記式(I)で表される化合物は、2,5-ジメチルフラン(2,5-Dimethylfuran)、2,5-ジメチルチオフェン(2,5-Dimethylthiophene)、2-メチルフラン(2-Methylfuran)、又は2-エチルチオフェン(2-Ethylthiophene)である有害生物防除組成物。
【請求項2】
薬的に許容される試薬をさらに含有する請求項に記載の有害生物防除組成物
【請求項3】
蒸剤である請求項1又は2に記載の有害生物防除組成物
【請求項4】
剤である請求項1又は2に記載の有害生物防除組成物
【請求項5】
虫、ダニ及び線虫から成る群から選択される害虫を毒殺するために用いられる請求項1又は2に記載の有害生物防除組成物
【請求項6】
前記有害生物防除組成物の施用量は、千立方センチメートルの空間当たり18mg以上の式(I)で表される化合物を投与する請求項1又は2に記載の有害生物防除組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害生物の防除のための化合物の使用に関し、特に、有害生物防除組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫駆除燻蒸剤は、薬剤を燃焼又は蒸発させて気化した薬剤が害虫の気門から体内に侵入して死に至らしめるものである。一般的に言えば、密閉空間における防除効果が最も高く、現在一般的に使用されている害虫駆除燻蒸剤には、ホスフィン、臭化メチル、フッ化スルフリルなどが含まれる。害虫駆除燻蒸剤は、密閉空間で害虫に行き渡らせることができるが、使用過程で他の生物又は環境に害を及ぼすおそれがある。
【0003】
例えば臭化メチルは、卓越した殺虫効果、安定した化学的特性、および安価という利点を有するが、農産物に薬害が起き、施用者に健康被害を引き起こし、オゾン層を破壊するおそれがある。オゾン層を破壊する原因によりモントリオール議定書では、2015年以降臭化メチルの使用を制限している(税関検疫を除く)。ホスフィンは、穀物貯蔵庫の防除作業で一般的に使用されている燻蒸剤であるが、可燃性、長い殺虫時間、薬剤耐性、化学的特性の不安定さなどという欠点があり、人畜に対し非常に強い毒性を有し、使用場所を完全に閉鎖しない場合、近くの人畜に健康被害を与える。フッ化スルフリルは、温室効果ガスであり、大規模使用により地球温暖化を悪化させる。
【0004】
上述の説明から分かるように、従来の害虫駆除燻蒸剤は、人体又は環境に悪影響を及ぼしているため、人畜に対する低毒性及び環境に無害な害虫防除組成物を開発することは、急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、環境中の様々な害虫を広く毒殺することができ、ヒト及び他の哺乳動物に対して高い安全性を有し、環境に危害を及ぼさないか、又は汚染しない有害生物防除組成物を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、使用ニーズ、使用場面又は使用方法に応じて適切な剤形に自由に調製することができ、害虫を効果的に毒殺する効果を奏することができる有害生物防除組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それ故に、上記の効果を奏するため、本発明は、式(I)で表される化合物の第二用途を開示している。具体的に本発明は、有害生物防除組成物の調製のための式(I)で表される化合物の使用を開示する。
【0008】
前記式(I)で表される化合物は、以下の通りである。
【0009】
【化1】
〔式中:
Xは、酸素又は硫黄であり;
Yは、水素基又はメチル基であり;
Zは、メチル基又はエチル基である。〕
【0010】
有効量の式(I)で表される化合物を含有する有害生物防除組成物を空間に投与することにより、空間内の害虫を効果的に毒殺することができ、ここで前記害虫は、鞘翅目(Coleoptera)、鱗翅目(Lepidoptera)、双翅目(Diptera)、ゴキブリ目(Blattodea)、半翅目(Hemiptera)などの昆虫、ダニ又は線虫が挙げられる。例えば前記害虫は、ココクゾウムシ、チャバネゴキブリ、モモアカアブラムシ、トビイロウンカ、コナガ、アリモドキゾウムシ、グラナリアコクゾウムシなどであり得る。
【0011】
具体的に有害生物防除組成物の施用量は、千立方センチメートルの空間当たり18mg以上の式(I)で表される化合物を投与する。
【0012】
本発明の実施形態において、式(I)で表される化合物は、2,5-ジメチルフラン、2,5-ジメチルチオフェン、2-メチルフラン、2-メチルチオフェン、2-エチルフラン又は2-エチルチオフェンであり得る。
【0013】
本発明の実施形態において、前記有害生物防除組成物は、水、界面活性剤、ジメチルスルホキシド、グリセリン等の農薬的に許容される試薬をさらに含有する。
【0014】
本発明の実施形態において、前記有害生物防除組成物は、燻蒸剤又は乳剤である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】チャバネゴキブリ、モモアカアブラムシ、トビイロウンカ、コナガ、ココクゾウムシ、グラナリアコクゾウムシ、アリモドキゾウムシ等の昆虫に対する異なる濃度の2,5-ジメチルフランの致死率を試験した結果である。
図2A】ココクゾウムシに対する2,5-ジメチルフランの殺傷能力をテストした結果である。
図2B】ココクゾウムシに対する2-メチルフランの殺傷能力をテストした結果である。
図2C】ココクゾウムシに対する2-エチルフランの殺傷能力をテストした結果である。
図2D】ココクゾウムシに対する2,5-ジメチルチオフェンの殺傷能力をテストした結果である。
図2E】ココクゾウムシに対する2-メチルチオフェンの殺傷能力をテストした結果である。
図2F】ココクゾウムシに対する2-エチルチオフェンの殺傷能力をテストした結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、有効成分として次の式(I)で表される少なくとも1つの化合物を含有する有害生物防除組成物を開示する。
【0017】
【化2】
〔式中:
Xは、酸素又は硫黄であり;
Yは、水素基又はメチル基であり;
Zは、メチル基又はエチル基である。〕
【0018】
式(I)で表される化合物は、高揮発性液体であり、台湾労働省の労働安全衛生局の化学物質安全データシートおよびPubChemなどの海外化学物質に関する情報サイトの検索によれば、ホスフィンと比較して、本発明に開示される活性成分は低毒性物質であり、すなわちヒト又は他の哺乳動物に対して高度な安全性を有し、環境に対する既知の危険有害性がないことが分かる。
【0019】
具体的に式(I)で表される化合物は、下記表1に示すように、2,5-ジメチルフラン、2,5-ジメチルチオフェン、2-メチルフラン、2-メチルチオフェン、2-エチルフラン又は2-エチルチオフェンである。
【0020】
【表1】
【0021】
さらに、使用方法を増やし、異なる使用環境に適応するため、本発明に開示される有害生物防除組成物は、有機化学物質、溶媒などの農薬的に許容される試薬をさらに含有する。例えば前記農薬的に許容される試薬は、ジメチルスルホキシド、グリセリン、界面活性剤、水などであり、所定の比率で、本発明に開示される式(I)で表される化合物と調合して乳剤を調製することができる。
【0022】
本発明に開示される式(I)で表される化合物は、害虫に対して異なる燻蒸半数致死濃度(LC50)を有するため、本発明に開示される有害生物防除組成物の施用量も使用場所、使用方法、使用対象等の要因に伴って変化し、例えばココクゾウムシを例にすると、2,5-ジメチルフランの半数致死濃度は29~43mg/dm/2 時間、2,5-ジメチルチオフェンの半数致死濃度は40~90 mg/dm/2時間、2-エチルフランの半数致死濃度は66~78mg/dm/2時間、2-エチルチオフェンの半数致死濃度は10~13 mg/dm/2時間、2-メチルフランの半数致死濃度は127-155mg/dm/2時間、2-メチルチオフェンの半数致死濃度は21~30mg/dm/2時間である。本発明に開示される有害生物防除組成物中の式(I)化合物の有効濃度、有効用量又は半数致死濃度は、剤形、組み合わせて使用される試薬又は対応する害虫に伴って変化する。ただし、当該活性成分の有効濃度、有効用量又は半数致死濃度の変化は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が本発明に開示される内容に基づいて到達できるものであるため本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【0023】
さらに言えば、有効量の有害生物防除組成物を空間に投与することにより、例えばココクゾウムシ(Sitophilus oryzae)、アリモドキゾウムシ(Cylas formicarius)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、コナガ(Plutella xylostella)などの鞘翅目(Coleoptera)、鱗翅目(Lepidoptera)、双翅目(Diptera)、ゴキブリ目(Blattodea)、半翅目(Hemiptera)由来の昆虫、 ダニ及び線虫を含む有害生物を短時間で殺すことができる。
【0024】
具体的に18mg以上の式(I)の化合物を含有する本発明に開示される有害生物防除組成物を千立方センチメートルの空間(体積1リットル)当たりに使用すると、2時間以内に様々な有害生物を殺すことができる。
【0025】
以下、本発明の技術的特徴及び効果をさらに踏み込んで説明するため、いくつかの実施例を挙げて図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。
【0026】
以下の実施例で使用される殺傷能力の指標は、国際的によく使用されている半数致死濃度(Lethal Concentration 50%、LC50)であり、これは、昆虫の半数を死亡させる薬剤濃度を意味する。主要試験方法は、いくつかの1リットルの透明な密閉容器に濃度の異なる被験薬を表示し、供試虫(成虫又は幼虫)を1リットルの透明な密閉容器に入れ、表示された濃度の薬剤を加え、所定の時間経過後透明な密閉容器を開けて換気し、容器内の死んだ昆虫の数を計算し、生物統計ソフトウェア(Priprobit v1.63)を使用して各濃度のProbit値を計算し、Probit値を介して半致死濃度を導き出す。
【0027】
<実施例1:薬物の殺傷能力試験(一)>
2,5-ジメチルフランの濃度がそれぞれ表示されている1リットルの透明な密閉容器をいくつか取り、次に各透明容器に30匹の昆虫を入れ、表示されている濃度(0、18、45、90、180mg/dm)の2,5-ジメチルフランを各透明容器に加え、室温約24℃で2時間静置後、各透明容器内の死んだ昆虫の数を計算し、結果を図1に示す。ここで、使用される昆虫には、ドチャバネゴキブリ (Blattella germinica)、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、コナガ(Plutella xylostella)、ココクゾウムシ(Sitophilus oryzae)、グラナリアコクゾウムシ(Rhyzopertha dominica)、アリモドキゾウムシ(Cylas formicarium)が含まれる。
【0028】
図1の結果から分かるように、2,5-ジメチルフランは、どの投与量でも異なる科別(半翅目、鱗翅目、ゴキブリ目及び鞘翅目等を含む)の昆虫に対し殺傷能力を有する。さらに言えば、2,5-ジメチルフランの投与量が18mg/dmの場合、グラナリアコクゾウムシ、モモアカアブラムシ等の昆虫に対して優れた致死効果を有し、チャバネゴキブリ、トビイロウンカ、コナガ、ココクゾウムシ、アリモドキゾウムシなどのその他の昆虫の場合、2,5-ジメチルフランの投与量が90mg/dmの時に優れた致死効果を有する。
【0029】
図1に示される結果は、本発明に開示される2,5-ジメチルフランが有害生物を毒殺するために使用することができる広域スペクトル薬剤であり、施用量が各科別の昆虫の殺傷効果に対してさほど変わらないことを示している。
【0030】
<実施例2:薬物の殺傷能力試験(二)>
ココクゾウムシを試験昆虫とし、30匹を1グループにして透明容器内(体積1リットル)に入れ、各透明容器に被験薬及びその濃度を表示し、ここで使用される被験薬には、2,5-ジメチルフラン、2,5-ジメチルチオフェン、2-メチルフラン、2-メチルチオフェン、2-エチルフラン又は2-エチルチオフェンがある。各透明容器内に昆虫及び被験薬を入れた後、室温約24℃で2時間静置し、曝気を経た後ココクゾウムシ死亡数を数え、生物統計学の確率解析から回帰曲線を導き出すと共にその半数致死濃度及び95%致死濃度(LC95)を計算し、結果は図2及び下表1に示される。
【0031】
図2及び表1の結果から分かるように、例えば2,5-ジメチルチオフェン、2-メチルフラン、2-メチルチオフェン、2-エチルフラン又は2-エチルチオフェン等の2,5-ジメチルフラン構造に似ている誘導体は、ココクゾウムシに対して良好な殺傷効果を有する。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例1~実施例2の結果をまとめると、2,5-ジメチルフラン、2,5-ジメチルチオフェン、2-メチルフラン、2-メチルチオフェン、2-エチルフラン又は2-エチルチオフェン等の類似構造を有する誘導体は、異なる科別の昆虫を殺す能力を有することが分かり、本発明に開示される式(I)の化合物は、昆虫の広域スペクトル殺傷能力を有することを証明でき、そのため有害生物防除組成物の活性成分とすることができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F