(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】パルス電源装置、誘電体バリア放電装置、および誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/5387 20070101AFI20230301BHJP
【FI】
H02M7/5387
(21)【出願番号】P 2022206896
(22)【出願日】2022-12-23
【審査請求日】2022-12-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593030923
【氏名又は名称】株式会社ニッシン
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】周 子強
(72)【発明者】
【氏名】井上 奨
(72)【発明者】
【氏名】大塚 健夫
(72)【発明者】
【氏名】南光 正平
(72)【発明者】
【氏名】中村 治
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/017151(WO,A1)
【文献】特開2006-340417(JP,A)
【文献】特開2015-170425(JP,A)
【文献】特開2013-187948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/5387
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻き線と二次巻き線とを備えるトランスと、
前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、
前記パルス波発生回路と並列接続されており、前記二次巻き線において発生して前記一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、
前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、
前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、
を備える
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備え、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサと、
前記コンデンサに蓄積された前記電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部と、
をさらに備え、
前記コンデンサと前記エネルギー回生部とが並列接続された構成を有する回生回路および前記消費用抵抗が並列接続されているとともに、前記消費用抵抗と前記回生回路との各々が前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項4】
請求項1に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および前記抵抗用スイッチング素子SW5の各々について、次の表1に示す状態1ないし状態4の4つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表1】
【請求項5】
請求項2に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記電気振動消費回路は、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有しており、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および2つの前記抵抗用スイッチング素子SW5、SW6の各々について、次の表2に示す状態1ないし状態6の6つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表2】
【請求項6】
互いに絶縁されている一次巻き線と二次巻き線と三次巻き線とを備えるトランスと、
前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、
前記三次巻き線に接続されており、前記二次巻き線において発生して前記三次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、
前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、
前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、
を備える
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項7】
請求項6に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備え、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項8】
請求項6に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサと、
前記コンデンサに蓄積された前記電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部と、
をさらに備え、
前記コンデンサと前記エネルギー回生部とが並列接続された構成を有する回生回路および前記消費用抵抗が並列接続されているとともに、前記消費用抵抗と前記回生回路との各々が前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項9】
請求項6に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および前記抵抗用スイッチング素子SW5の各々について、次の表1に示す状態1ないし状態4の4つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表1】
【請求項10】
請求項7に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記電気振動消費回路は、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有しており、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および2つの前記抵抗用スイッチング素子SW5、SW6の各々について、次の表2に示す状態1ないし状態6の6つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表2】
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のパルス電源装置と、
前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘電体バリア放電部と、
を備えたことを特徴とする誘電体バリア放電装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のパルス電源装置と、
前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘導加熱部と、
を備えたことを特徴とする誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電源装置、当該パルス電源装置を用いた誘電体バリア放電装置、および当該パルス電源装置を用いた誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正負のステップ状波形またはパルス波形を例とする、矩形波を出力するパルス電源装置として、4つのスイッチング素子を用いた4石式インバータ回路または4石式パルス回路などが知られている(例えば、特許文献1)。このような4石式回路100では
図31に示すように、直流電源Dの正端子と負端子との間に、第1スイッチング素子Q1および第2スイッチング素子Q2の直列回路と、第3スイッチング素子Q3および第4スイッチング素子Q4との直列回路とが互いに並列に挿入される。そして第1スイッチング素子Q1および第2スイッチング素子Q2の接続点T1と、第3スイッチング素子Q3および第4スイッチング素子Q4の接続点T2との間に負荷Laが挿入される。
【0003】
このような従来の4石式回路100では、4つのスイッチング素子Q1~Q4のうち第1スイッチング素子Q1および第4スイッチング素子Q4をオンの状態とすることで正のパルス波が発生する。また4つのスイッチング素子Q1~Q4のうち第2スイッチング素子Q2および第3スイッチング素子Q3をオンの状態とすることで負のパルス波が発生する。従来の4石式回路100では4つのスイッチング素子Q1~Q4のオン/オフを適宜切り換えることにより、正のパルス波と負のパルス波とを交互に発生させる。
【0004】
ここで4石式回路100において負荷Laとしてモータを例とする誘導性負荷を用いた場合、正のパルス波または負のパルス波を発生させることによって、負荷Laにおいて(1/2)・LI2に相当するエネルギーが蓄積する。なお、(1/2)・LI2の数式において、Lは自己インダクタンス(単位:H)を表し、Iは電流(単位:A)を表している。当該エネルギーが蓄積した状態でパルスを発生させると、直流電源Dからの電流と誘導性負荷からの電流とが重なってパルスの波形が崩れ、所望のパルスを発生させることが困難となる。
【0005】
そのため特許文献1では、正のパルスまたは負のパルスが発生した後、第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにすることで、負荷Laに蓄積したエネルギーを放電させる操作を行う。すなわち
図31(b)および(c)に示すように、まずは第1スイッチング素子Q1および第4スイッチング素子Q4をオンにして正のパルス波を発生させる(状態1)。正のパルス波を発生させた後、第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにする(状態2)。第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにすることで、各々のスイッチング素子のオン抵抗および閉ループ回路に元来存在する抵抗成分によって、負荷Laに蓄積したエネルギーは放電される。
【0006】
正のパルス波の発生によって負荷Laに蓄積したエネルギーが放電された後、第2スイッチング素子Q2および第3スイッチング素子Q3をオンにして負のパルス波を発生させる(状態3)。そして負のパルス波を発生させた後、第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにする(状態4)。第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにすることで、各々のスイッチング素子のオン抵抗および閉ループ回路に存在する抵抗分によって、負荷Laに蓄積したエネルギーは再度放電される。負のパルス波の発生によって負荷Laに蓄積したエネルギーが放電された後、再び状態1となるようにスイッチング素子Q1~Q4を制御する。以下、スイッチング素子Q1~Q4の各々について、状態1、状態2、状態3、状態4の組み合わせ態様で、スイッチング制御を順次繰り返す。
【0007】
このような4石式回路は、誘電体バリア放電装置または誘導加熱装置などに利用される(例えば、特許文献2)。すなわち
図32に示すように、4石式回路100を用いた誘電体バリア放電装置101では、電源として4石式回路100を高圧トランス103の一次側に配置するとともに、平行平板電極105を備える放電用回路106を高圧トランス103の二次側に配置する。平行平板電極105を構成する電極105aおよび電極105bのうち少なくとも一方には誘電板107が配設されている。
【0008】
4石式回路100のスイッチング素子Q1~Q4を
図31(b)に示すようにオン/オフを切り換えることによって正負のパルス波が交互に生成され、高圧トランス103を経由して平行平板電極105にパルス電圧が印加されることによって平行平板電極105においてプラズマ放電が発生する。誘電体バリア放電装置101では平行平板電極で発生するプラズマ放電を用いて、基板の表面処理や排ガス処置を例とする各種処理を行う。なお、容量性負荷である平行平板電極105の代わりに誘導性負荷を配設することにより、4石式回路100を誘導加熱装置にも利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭63-316673号公報
【文献】特開平11-146659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0011】
すなわち従来の構成では、パルス電源である4石式回路100の高周波化を達成することが困難である。誘電体バリア放電装置では基板表面処理などを行う場合、処理速度を上げるためにパルス電源の出力の向上が要求される。パルス電源の出力を向上させるための主な方法として、4石式回路100で発生させるパルスの周波数を上げて単位時間あたりのエネルギーを増大させる方法が挙げられる。しかしながら従来の構成では数十kHz程度の周波数については所望のパルスを発生できる一方、一例として100kHz程度を超える高周波の条件ではパルス波形が崩れてしまい、所望のプラズマ放電を発生させることができないという問題が懸念されている。その結果、従来の4石式回路100ではパルス電源としての出力の上限値が低く、高出力のパルス電源を実現することが困難である。
【0012】
発明者による鋭意検討の結果、パルスの高周波化を妨げる原因としてリンギングが挙げられる。すなわち
図33に示すように、n番目のパルス波P
nが発生した後にリンギングが所定時間発生する。なお、n番目に係るパルス波P
nの発生後にリンギングが発生する所定の時間を以下、リンギング期間R
nとする。リンギングは容量性負荷または各部品に内在する寄生容量とトランスとの間の電気振動などによって発生し、リンギングの波は時間経過によって徐々に減衰する。
【0013】
パルス電源の周波数が数十kHz程度の比較的低い周波数である場合、n番目のパルス波が生成された後に生じるリンギング期間Rnと(n+1)番目のパルス波Pn+1とは重複しないので、パルス波Pn+1は所望の波形が維持される。一方でパルス電源の周波数が一例として100kHzを超える比較的高い周波数である場合、パルス波Pnとパルス波Pn+1との間隔Fが短くなるので、n番目のパルス波Pnが生成された後に発生するリンギング期間Rnと(n+1)番目のパルス波Pn+1の発生時間とが重複することとなる。当該重複の結果、リンギング期間Rnに発生するリンギングの波形とパルス波Pn+1の波形とが合成されてパルス波Pn+1の波形が当初の形状から崩れるので、所望のプラズマ放電を発生させることが困難となる。
【0014】
また、従来の4石式回路100ではスイッチング素子Q2およびQ4をオンの状態にして誘導性負荷Laに蓄積したエネルギーを放電している状態でスイッチング素子Q1またはQ3をオンの状態にすると、貫通電流が流れて素子が破損する。すなわち誘導性負荷Laに蓄積したエネルギーを放電している間はパルス波を発振させることができないので、従来の4石式回路100ではパルスの高周波化がさらに困難となる。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、パルスの高周波化および出力の向上を可能とするパルス電源装置、当該パルス電源装置を用いた誘電体バリア放電装置、および当該パルス電源装置を用いた誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち本発明に係るパルス電源装置は、一次巻き線と二次巻き線とを備えるトランスと、前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、前記パルス波発生回路と並列接続されており、前記二次巻き線において発生して前記一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、を備えるものである。
【0017】
(作用・効果)この構成によれば、トランスの一次巻き線にはパルス波発生回路と電気振動消費回路とが並列接続されている。電気振動消費回路には、消費用抵抗と抵抗用スイッチング素子とが直列接続されている。トランスの二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーは、電気振動消費回路に配設されている消費用抵抗によって消費される。そのため、電気振動に起因して発生するリンギングは電気振動消費回路によって速やかに減衰されるので、パルス波が発生した後のリンギング期間を短縮できる。リンギング期間が短縮されることにより、パルス波の周波数を向上させた場合において、パルス波の後に発生するリンギングの波形が、次回に形成されたパルス波と合成されることを回避できる。従って、パルス波の周波数を向上させつつ当該パルス波の波形が崩れることを防止できるので、より周波数が高いパルス電源装置を実現できる。
【0018】
また本発明に係るパルス電源装置は、スイッチ制御部と消費時間制御部とを備えている。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子および抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換える。消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子をオンに切り換えることによってパルス波を発生させる。また抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えることによって、二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費用抵抗で消費させる。そのため、パルス波を発生させる状態と、電気振動によるリンギングを速やかに減衰させる状態とを適宜切り換えることができる。
【0019】
消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御することによって、消費用抵抗によって電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を制御する。消費時間制御部を備えることにより、電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を任意に変更できるので、リンギング期間の長さを適宜調節できる。すなわち、パルス電源装置における出力の持続などに必要な分のリンギング波を維持させつつ、不要なリンギング波を速やかに消費できる。従って、パルス電源装置における出力を安定化させつつ、パルス電源装置における周波数を向上させることも可能となる。
【0020】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明に係るパルス電源装置は、互いに絶縁されている一次巻き線と二次巻き線と三次巻き線とを備えるトランスと、前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、前記三次巻き線に接続されており、前記二次巻き線において発生して前記三次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、を備えるものである。
【0021】
(作用・効果)この構成によれば、トランスは互いに絶縁されている一次巻き線と二次巻き線と三次巻き線とを備えている。トランスの一次巻き線にはパルス波発生回路が接続されており、トランスの三次巻き線には電気振動消費回路が接続されている。電気振動消費回路には、消費用抵抗と抵抗用スイッチング素子とが直列接続されている。トランスの二次巻き線において発生する電気振動は三次巻き線へ伝達され、電気振動消費回路に配設されている消費用抵抗によって消費される。そのため、電気振動に起因して発生するリンギングは電気振動消費回路によって速やかに減衰されるので、パルス波が発生した後のリンギング期間を短縮できる。リンギング期間が短縮されることにより、パルス波の周波数を向上させた場合において、パルス波の後に発生するリンギングの波形が、次回に形成されたパルス波と合成されることを回避できる。従って、パルス波の周波数を向上させつつ当該パルス波の波形が崩れることを防止できるので、より周波数が高いパルス電源装置を実現できる。
【0022】
また本発明に係るパルス電源装置は、スイッチ制御部と消費時間制御部とを備えている。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子および抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換える。消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子をオンに切り換えることによってパルス波を発生させる。また抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えることによって、二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費用抵抗で消費させる。そのため、パルス波を発生させる状態と、電気振動によるリンギングを速やかに減衰させる状態とを適宜切り換えることができる。
【0023】
消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御することによって、消費用抵抗によって電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を制御する。消費時間制御部を備えることにより、電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を任意に変更できるので、リンギング期間の長さを適宜調節できる。すなわち、パルス電源装置における出力の持続などに必要な分のリンギング波を維持させつつ、不要なリンギング波を速やかに消費できる。従って、パルス電源装置における出力を安定化させつつ、パルス電源装置における周波数を向上させることも可能となる。
【0024】
また当該構成では、パルス波を発生させる一次巻き線とは別の三次巻き線において、電気振動のエネルギーが消費される。すなわち電気振動消費回路が配設されている三次巻き線は、パルス波発生回路が配設されている一次巻き線と電気的に絶縁されているので、電気振動消費回路における任意の点にグランドを取ることができる。その結果、電位の不安定化を回避できるので、パルス電源装置における誤動作の発生をより確実に防止できる。
【0025】
また、上述した発明において、前記電気振動消費回路は、前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備え、互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有していることが好ましい。
【0026】
(作用・効果)この構成によれば、電気振動消費回路は電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備えている。電気振動消費回路において、コンデンサと消費用抵抗は並列接続されている。そして当該コンデンサおよび消費用抵抗の各々は、抵抗用スイッチング素子に直列接続されている。このような構成を備えることにより、抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えると、消費用抵抗による電気振動のエネルギーの消費と並行して、コンデンサによる電気振動のエネルギーの蓄積が行われる。その結果、電気振動のエネルギーの処理効率を大きく向上できるので、リンギング期間をより短縮させることができる。すなわちリンギング期間をより短縮させることにより、さらに周波数を向上させることが可能となる。
【0027】
また、上述した発明において、前記電気振動消費回路は、前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサと、前記コンデンサに蓄積された前記電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部と、をさらに備え、前記コンデンサと前記エネルギー回生部とが並列接続された構成を有する回生回路および前記消費用抵抗が並列接続されているとともに、前記消費用抵抗と前記回生回路との各々が前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有していることが好ましい。
【0028】
(作用・効果)この構成によれば、電気振動消費回路は電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備えている。電気振動消費回路において、コンデンサと消費用抵抗は並列接続されている。そして当該コンデンサおよび消費用抵抗の各々は、抵抗用スイッチング素子に直列接続されている。このような構成を備えることにより、抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えると、消費用抵抗による電気振動のエネルギーの消費と並行して、コンデンサによる電気振動のエネルギーの蓄積が行われる。その結果、電気振動のエネルギーの処理効率を大きく向上できるので、リンギング期間をより短縮させることができる。すなわちリンギング期間をより短縮させることにより、さらに周波数を向上させることが可能となる。
【0029】
また当該構成は、コンデンサに蓄積された電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部をさらに備えている。エネルギー回生部はコンデンサと並列接続されて回生回路を構成する。回生回路は、消費抵抗と並列接続されている。そして消費用抵抗と回生回路との各々は、抵抗用スイッチング素子に直列接続されている。このような構成を有することにより、コンデンサに蓄積された電気振動のエネルギーは回生回路によって回生エネルギーとして再利用できる。そのため、パルス電源装置の周波数を向上させるとともに、パルス電源装置におけるエネルギー効率を向上させることができる。
【0030】
また、上述した発明において、前記パルス波発生回路は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および前記抵抗用スイッチング素子SW5の各々について、次の表1に示す状態1ないし状態4の4つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行うことが好ましい。
【表1】
【0031】
(作用・効果)この構成によれば、パルス波発生回路はHブリッジ回路であり、スイッチング素子の制御について状態1ないし状態4の態様を順次繰り返す。この場合、スイッチング素子の制御について状態1と状態3とを交互に繰りかえすことにより、互いに極性が逆向きである正負のパルス波を交互に発生させることができる。また状態1と状態3との間において、抵抗用スイッチング素子をオンにする状態2となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態1において発生した電気振動は速やかに消費されてリンギングが減衰する。よって周波数が比較的高い条件下であっても、状態1の後に発生するリンギングに起因して状態3に係るパルス波の波形が崩れるという事態を回避できる。さらに状態3と状態1との間において、抵抗用スイッチング素子をオンにする状態4となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態3において発生した電気振動は速やかに消費されてリンギングが減衰する。よって周波数が比較的高い条件下であっても、状態3の後に発生するリンギングに起因して状態1に係るパルス波の波形が崩れるという事態を回避できる。
【0032】
また、上述した発明において、前記パルス波発生回路は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、前記電気振動消費回路は、互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有しており、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および2つの前記抵抗用スイッチング素子SW5、SW6の各々について、次の表2に示す状態1ないし状態6の6つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行うことが好ましい。
【表2】
【0033】
(作用・効果)この構成によれば、パルス波発生回路はHブリッジ回路であり、互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有している。そしてスイッチング素子の制御について状態1ないし状態6の態様を順次繰り返す。
【0034】
この場合、スイッチング素子の制御について状態1と状態4とを交互に繰りかえすことにより、互いに極性が逆向きである正負のパルス波を交互に発生させることができる。また状態1の後、一方の抵抗用スイッチング素子SW5をオンにする状態2となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態1において発生した電気振動は消費用抵抗に消費される。このとき消費用抵抗で消費しきれない電気振動はコンデンサへ迅速に蓄積されるので、リンギングをさらに迅速に減衰させることができる。よって周波数をさらに向上させつつ、状態1の後に発生するリンギングに起因して状態4に係るパルス波の波形が崩れる事態を回避できる。
【0035】
そして状態2の後において、全てのスイッチング素子をオフにする状態3を実行する。コンデンサと消費用抵抗とを並列接続することにより、抵抗用スイッチング素子がオフになっている状態であっても、コンデンサに蓄積している電気振動エネルギーを消費抵抗で消費させ続けることができる。そのため、抵抗用スイッチング素子をオンにする時間を短縮させつつ、効率的に電気振動エネルギーを消費させることができる。
【0036】
また状態4の後、他方の抵抗用スイッチング素子SW6をオンにする状態5となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態4において発生した電気振動は消費用抵抗に消費される。このとき消費用抵抗で消費しきれない電気振動はコンデンサへ迅速に蓄積されるので、リンギングをさらに迅速に減衰させることができる。よって周波数をさらに向上させつつ、状態4の後に発生するリンギングに起因して状態1に係るパルス波の波形が崩れる事態を回避できる。さらに、状態1において発生するリンギングを減衰させるために用いる電気振動消費回路と、状態4において発生するリンギングを減衰させるために用いる電気振動消費回路とを別々に設けることにより、より大きな電気振動エネルギーを迅速に消費できる。
【0037】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明に係る誘電体バリア放電装置は、上述した特徴を有するパルス電源装置と、前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘電体バリア放電部と、を備えるものである。
【0038】
(作用・効果)この構成によれば、誘電体バリア放電装置の電源装置として上述のパルス電源装置を用いており、当該パルス電源装置の負荷回路としてトランスの二次巻き線に接続された誘電体バリア放電部を備えている。よって、パルス波の波形を維持しつつパルス波の周波数を向上できる。その結果、より高い周波数の条件下でプラズマを発生させて各種プラズマ処理を好適に行うことができる。
【0039】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明に係る誘導加熱装置は、上述した特徴を有するパルス電源装置と、前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘導加熱部と、を備えるものである。
【0040】
(作用・効果)この構成によれば、誘導加熱装置の電源装置として上述のパルス電源装置を用いており、当該パルス電源装置の負荷回路としてトランスの二次巻き線に接続された誘導加熱部を備えている。よって、パルス波の波形を維持しつつパルス波の周波数を向上できる。その結果、より高い周波数の条件下で誘導加熱を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係るパルス電源装置、誘電体バリア放電装置、および誘導加熱装置によれば、トランスの一次巻き線にはパルス波発生回路と電気振動消費回路とが並列接続されている。電気振動消費回路には、消費用抵抗と抵抗用スイッチング素子とが直列接続されている。トランスの二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動は、電気振動消費回路に配設されている消費用抵抗によって消費される。そのため、電気振動に起因して発生するリンギングは電気振動消費回路によって速やかに減衰されるので、パルス波が発生した後のリンギング期間を短縮できる。リンギング期間が短縮されることにより、パルス波の周波数を向上させた場合において、パルス波の後に発生するリンギングの波形が、次回に形成されたパルス波と合成されることを回避できる。従って、パルス波の周波数を向上させつつ当該パルス波の波形が崩れることを防止できるので、より周波数が高いパルス電源装置を実現できる。
【0042】
また本発明に係るパルス電源装置は、スイッチ制御部と消費時間制御部とを備えている。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子および抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換える。消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子をオンに切り換えることによってパルス波を発生させる。また抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えることによって、二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動を消費用抵抗で消費させる。そのため、パルス波を発生させる状態と、電気振動によるリンギングを速やかに減衰させる状態とを適宜切り換えることができる。
【0043】
消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御することによって、消費用抵抗によって電気振動が消費されるタイミングおよび期間を制御する。消費時間制御部を備えることにより、電気振動が消費されるタイミングおよび期間を任意に変更できるので、リンギング期間の長さを適宜調節できる。すなわち、パルス電源装置における出力の持続などに必要な分のリンギング波を維持させつつ、不要なリンギング波を速やかに消費できる。従って、パルス電源装置における出力を安定化させつつ、パルス電源装置における周波数を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】実施例1に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図2】実施例1に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図3】実施例1に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図4】実施例1に係るパルス電源装置の状態1を示す図である。
【
図5】実施例1に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図6】実施例1に係るパルス電源装置の効果を説明する図である。(a)は従来例に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図であり、(b)は実施例1に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図であり、(c)は実施例1に係るパルス電源装置について、パルス波を高周波化させた場合の出力電圧波形を示す図である。
【
図7】実施例1に係るパルス電源装置について、デッドタイムDT2を長くさせた比較例の構成を説明する図である。(a)は実施例1の比較例に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートであり、(b)は実施例1の比較例に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図である。
【
図8】実施例2に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図9】実施例2に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図10】実施例2に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図11】実施例2に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図12】実施例2に係るパルス電源装置の状態3を示す図である。
【
図13】実施例2に係るパルス電源装置の状態4を示す図である。
【
図14】実施例3に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図15】実施例4に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図16】実施例4に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図17】実施例4に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図18】実施例4に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図19】実施例4に係るパルス電源装置の状態5を示す図である。
【
図20】実施例5に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図21】実施例5に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図22】第1の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図23】第2の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図24】第3の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図25】第4の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置を説明する図である。(a)は第4の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図であり、(b)は第4の変形例に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートであり、(c)は第4の変形例に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図26】第4の変形例に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図である。
【
図27】第5の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図28】第5の変形例に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図29】第5の変形例に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図30】実施例1に係るパルス電源装置を備えた誘導加熱装置の全体構成を示す図である。
【
図31】従来例の構成を示す図である。(a)は従来例に係る4石式回路を示す図であり、(b)は従来例に係る4石式回路のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートであり、(c)は従来例に係る4石式回路の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図32】従来例に係る4石式回路を備えた誘電体バリア放電装置を説明する図である。
【
図33】従来例に係る4石式回路を備えた誘電体バリア放電装置の出力電圧波形を示す図である。
【
図34】第6の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0045】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は実施例1に係るパルス電源装置3を備えた誘電体バリア放電装置1の概略図である。
【0046】
<全体構成の説明>
実施例1に係る誘電体バリア放電装置1は
図1に示すように、パルス電源装置3と放電器5とを備えている。パルス電源装置3は、トランス7と、パルス発生回路9と、電源11と、消費回路13と、主制御部15とを備えている。
【0047】
トランス7は、一次巻き線Laと二次巻き線Lbとを備えており、パルス電源装置3の出力を適宜昇圧して放電器5へ伝送する。パルス発生回路9は一次巻き線Laに接続されており、パルス波を生成する。電源11はパルス発生回路9に接続されており、パルス発生回路9へ電力を供給する。実施例1では電源11として直流電源を用いるものとする。
【0048】
放電器5は二次巻き線Lbに接続されており、容量性負荷に相当する平行平板電極17を備えている。平行平板電極17は、第1電極17aと第2電極17bとを備えている。第1電極17aおよび第2電極17bは、所定の空間を空けて互いに対向するよう、平行に配置されている。第1電極17aと第2電極17bのうち少なくとも一方には誘電体19が配設されている。
図1では第1電極17aに誘電体19が設けられている構成を例として示している。 パルス電源装置3から出力されたパルス電圧が平行平板電極17へ印加されることにより、第1電極17aおよび第2電極17bで挟まれる空間において誘電体バリア放電によるプラズマが発生する。放電器5は、本発明における誘電体バリア放電部に相当する。
【0049】
実施例1において、パルス発生回路9は4石式回路であるHブリッジ型回路が用いられるものとする。すなわち実施例1に係るパルス発生回路9は
図1に示すように、電源11の正端子と負端子との間に、第1のスイッチング素子SW1および第2のスイッチング素子SW2が直列接続された第1回路と、第3のスイッチング素子SW3および第4のスイッチング素子SW4が直列接続された第2回路とが互いに並列に挿入されている。そしてスイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW2の接続点T1と、スイッチング素子SW3およびスイッチング素子SW4の接続点T2との間に、誘導性負荷に相当する一次巻き線Laが挿入される。
【0050】
パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4のオン/オフの状態によって、パルス発生回路9におけるパルス波の発生のオン/オフおよび発生するパルス波の極性が制御される。実施例1において、スイッチング素子SW1~SW4は本発明におけるパルス波発生用スイッチング素子に相当する。
【0051】
消費回路13は、パルス発生回路9と並列接続されている。消費回路13は、抵抗R1とスイッチング素子SW5とが直列接続された構成を有している。抵抗R1は、トランス7と容量性負荷である平行平板電極17との間で主に発生する電気振動のエネルギーを消費することでリンギングを抑制する。消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5がオンの状態になることで、電気振動のエネルギーが抵抗R1へと伝送され、当該電気振動のエネルギーを抵抗R1で消費できるようになる。また、スイッチング素子SW5をオフの状態にすることで、消費回路13はパルス発生回路9から電気的に切り離されるように構成されている。実施例1において、抵抗R1は本発明における消費用抵抗に相当する。実施例1において、スイッチング素子SW5は本発明における抵抗用スイッチング素子に相当する。
【0052】
主制御部15は、パルス電源装置3の各構成を統括制御する制御回路であり、スイッチ制御部21と消費時間制御部23とを備えている。スイッチ制御部21は、パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4、および消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5の各々について、オン/オフの状態を切り換える制御を独立に行う制御回路である。スイッチ制御部21が各スイッチング素子を切り換える態様については後述する。
【0053】
消費時間制御部23は、スイッチング素子SW5をオンの状態にするタイミングおよび期間について、予め定められたタイミングおよび期間となるようにスイッチ制御部21を制御する制御回路である。スイッチング素子SW5をオンの状態にするタイミングおよび期間については、操作者の指示を入力する入力部(図示しない)を用いて入力された内容などに基づいて予め定められる。入力部の構成の例として、キーボード式、マウス式、タッチパネル式の入力装置が挙げられる。主制御部15は、当該入力部を用いて入力された指示内容に従って、パルス電源装置3の各構成を統括制御する。消費時間制御部23が、スイッチング素子SW5をオンの状態にするタイミングおよび期間を制御することにより、パルス波(インパルス信号)が生成された後にリンギングが発生する期間(リンギング期間)を所望の長さとなるように調節できる。
【0054】
<パルス電源装置の動作>
ここで実施例1において、パルス電源装置3を備える誘電体バリア放電装置1の動作について説明する。実施例1に係る誘電体バリア放電装置1では
図2および
図3に示すように、スイッチング素子SW1ないしスイッチング素子SW5のオン/オフの状態の組み合わせについて、状態1ないし状態4を1周期として当該4つの状態が繰り返される。以下、各々の状態におけるスイッチ制御部21の制御動作および誘電体バリア放電装置1の動作について詳細に説明する。
【0055】
第1に、状態1における動作について説明する。状態1では、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW4がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW2、スイッチング素子SW3、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0056】
状態1の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9とが電気的に接続される。そして電源11からパルス発生回路9に電力が供給され、
図4に示すようにスイッチング素子SW1を経由してF1の方向に電流が流れる。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへと正のパルス波Pxによる正のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生する。すなわち、第1電極17aと第2電極17bとの間に誘電体バリア放電によるプラズマPrが発生する。なお
図4などにおいて、主制御部15の記載を適宜省略している。
【0057】
二次巻き線Lbを経由して平行平板電極17にパルス電圧が印加されると、容量性負荷である平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生する。すなわち平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生すると、放電の停止後においても平行平板電極17において(1/2)・CV2に相当するエネルギーが蓄積しており、平行平板電極17とトランス7との間で当該エネルギーが共振されて電気振動が発生する。なお、(1/2)・CV2の数式において、Cは静電容量(単位:F)を表し、Vは電圧(単位:V)を表している。
【0058】
トランス7において一次側巻き線Laと二次側巻き線Lbは電磁結合されているので、発生した当該電気振動はトランス7を経由して二次側(放電部5の側)から一次側(パルス電源装置3の側)へと伝達される。当該電気振動は、パルス波の生成後にリンギング波が発生する原因となる。すなわち
図6(a)に示すように、電気振動に起因して正のパルス波Pxの発振後にリンギング波Kxが発生する。そこで実施例1に係るパルス電源装置3では、状態2の動作によってリンギング波Kxを減衰させる。
【0059】
第2に、状態2における動作について説明する。状態2では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0060】
状態2の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9との電気的接続が断たれるとともに、一次巻き線Laと消費回路13とが電気的に接続される。その結果、
図5に示すように電気振動のエネルギー(電気振動エネルギーEr)が消費回路13へと流れ、消費回路13に設けられている抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。抵抗R1においてエネルギーが消費されることにより、一次側において電気振動エネルギーErは速やかに消失していく。この場合、一次側巻き線Laと二次側巻き線Lbは電磁結合されているため、一次側から二次側に対して電気振動エネルギーErが伝達されることも防止される。その結果、一次側に抵抗R1を配設することで二次側においても電気振動エネルギーErが速やかに消失する。よって、状態1において正のパルス波Pxが生成された後に発生するリンギング波Kxは、状態2の動作によって迅速に減衰されて消滅する。従って、状態1においてパルス信号(パルス波)が発振された後のリンギング期間を大幅に短縮できる。
【0061】
第3に、状態3における動作について説明する。状態3では、スイッチング素子SW2およびスイッチング素子SW3がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW1、スイッチング素子SW4、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0062】
状態3の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9とが電気的に接続され、電源11からパルス発生回路9に電力が供給される。そしてスイッチング素子SW3を経由して、
図4に示される符号F1とは逆方向に電流が流れる。すなわち状態3では状態1とは逆極性の電圧が印加される。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへと負のパルス波Pyによる負のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生する。すなわち、第1電極17aと第2電極17bとの間に誘電体バリア放電によるプラズマPrが発生する。
【0063】
平行平板電極17に負のパルス電圧が印加されると、状態1と同様に、容量性負荷である平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生する。すなわち
図6(a)に示すように、放電後の電気振動に起因して負のパルス波Pyの生成後にリンギング波Kyが発生する。そこで実施例1に係るパルス電源装置3では、状態4の動作によってリンギング波Kyを減衰させる。
【0064】
第4に、状態4における動作について説明する。状態4では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。すなわち、状態4におけるスイッチング素子SW1~SW5のオン/オフの組み合わせ態様は状態2における組み合わせ態様と同じである。
【0065】
状態4の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laと消費回路13とが電気的に接続される。その結果、
図5に示すように電気振動エネルギーErが消費回路13へと流れ、抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。一次側巻き線Laと二次側巻き線Lbは電磁結合されているため、抵抗R1において電気振動エネルギーErが消費されることにより、トランス7の一次側において電気振動は速やかに消失していく。その結果、トランス7の二次側においても電気振動は速やかに消失する。よって、状態3において負のパルス信号(負のパルス波Py)が発振された後に発生するリンギングの波(リンギング波Ky)は、状態4の動作によって迅速に減衰される。従って、状態3において負のパルス波Pyが発振された後のリンギング期間Ryについても大幅に短縮できる。
【0066】
状態4の動作が完了することによって、状態1ないし状態4を1周期とする一連の動作が完了する。その後、状態4から状態1に戻り、状態1ないし状態4からなる一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。
【0067】
なお
図2に示すように、パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4のいずれかと、消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5とが同時にオンの状態にならないよう、デッドタイムDT1およびDT2が設けられている。すなわちスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられてからデッドタイムDT1が経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW1およびSW4がオンの状態に切り換えられて状態1が開始される。そしてスイッチング素子SW1およびSW4がオフの状態に切り換えられて状態1が終了したタイミングからデッドタイムDT2を経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW5はオフの状態からオンの状態に切り換えられて状態2が開始される。
【0068】
なお状態3の前後においても、同様にデッドタイムDT3およびDT4が設けられている。すなわちスイッチング素子SWがオフの状態に切り換えられてからデッドタイムDT3が経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW2およびSW3がオンの状態に切り換えられて状態3が開始される。そしてスイッチング素子SW2およびSW3がオフの状態に切り換えられて状態3が終了したタイミングからデッドタイムDT4を経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW5はオフの状態からオンの状態に切り換えられて状態4が開始される。
【0069】
デッドタイムDT1~DT4の長さは、図示しない入力部を用いて所望の数値を入力することによって設定できる。消費時間制御部23は設定されたデッドタイムDT1~DT4の数値に応じてスイッチ制御部21の動作を制御することにより、状態1ないし状態4の開始タイミングおよび実行期間を制御する。すなわち消費時間制御部23によって、状態2および状態4の開始タイミングおよび実行期間、言い換えると電気振動エネルギーErを消費する動作の開始タイミングおよび実行期間が制御される。
【0070】
<実施例1の構成による効果>
実施例1に係るパルス電源装置3では、パルス発生回路9と並列に消費回路13を配設することで、パルス信号の周波数を向上できる。
図6は、実施例1に係るパルス電源装置3による周波数向上の効果を示す図である。
図6(a)は従来の電源装置における出力側の電圧波形を示す図であり、
図6(b)は実施例1のパルス電源装置3における出力側の電圧波形を示す図である。
【0071】
一般的に、パルス電源装置においてパルス信号を生成させると、トランスの二次巻き線側において電気振動が発生して一次巻き線側へと伝達される。その結果、
図6(a)に示すように、状態1のようにスイッチング素子を切り換えて正のパルス波Pxを発振させた後にリンギング波Kxが発生する。また、状態3のようにスイッチング素子を切り換えて負のパルス波Pyを発振させた後においてもリンギング波Kyが発生する。
【0072】
従来の電源装置では、電気振動を積極的に消費させることを目的とする回路が設けられていないため、パルス波を発生させる回路に設けられているスイッチング素子や線路などに元来存在する抵抗成分によって、電気振動は徐々に減衰していく、そのため、従来の構成では電気振動が減衰するために比較的長時間を要する。そのため
図6(a)に示すようにリンギング波Kxが発生するリンギング期間Rx、およびリンギング波Kyが発生するリンギング期間Ryの各々が長期化する。リンギング期間Rxが長い場合、パルス波Pxとパルス波Pyとの間隔Fを短くするとパルス波Pyがリンギング波Kxと重複し、パルス波Pyの波形が崩れるという事態が容易に発生する。パルス波Pyの波形が崩れると所望の誘電体バリア放電を実行することが困難になる。よって、リンギング期間RxおよびRyが比較的長い従来の構成では、パルス波の形状を維持しつつ、パルス波の周波数を向上させることが困難である。
【0073】
一方、実施例1に係るパルス電源装置3では、パルス波PxおよびPyを生成させるパルス発生回路9とは別に、消費回路13を備えている。そして、トランス7の一次巻き線Laの側においてパルス発生回路9と消費回路13とは並列接続されている。消費回路13はスイッチング素子SW5と抵抗R1とを備えており、スイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられると一次巻き線Laと消費回路13が電気的に接続され、抵抗R1による電気振動の消費が開始されるように構成されている。
【0074】
すなわち実施例1に係る装置では、パルス波を発生させるパルス発生回路9とは別の回路として、電気振動のエネルギーを消費することを目的とする消費回路13を備えている。この場合、パルス波の生成によってプラズマ放電を発生させた後にスイッチング素子SW5をオンにすることで、パルス波の生成後に発生する電気振動のエネルギーは、消費回路13によって速やかに消費されて消失する。その結果、
図6(b)に示すように、電気振動に起因してパルス波の生成後に発生するリンギング波Kxおよびリンギング波Kyは、速やかに減衰して消滅していく。よって、リンギング波Kxが発生するリンギング期間Rx、およびリンギング波Kyが発生するリンギング期間Ryの各々は従来のパルス電源装置と比べて大幅に短縮化される。
【0075】
リンギング期間RxおよびRyが短縮化すると、
図6(c)に示すように、パルス波Pxとパルス波Pyとの間隔Fを短くしても、パルス波Pyの発振時間がリンギング期間Rxと重複することを回避できる。すなわち、間隔Fを短くしてパルス波を高周波数化した場合であっても、パルス波Pyとリンギング波Kxが合成されてパルス波Pyが所望の形状から崩れることを防止できるので、パルス波PxおよびPyの周波数を向上させつつパルス波PxおよびPyの波形を所望の形状に維持させることが可能となる。よって、好適なパルス波の発振とパルス波の高周波化とを兼ね備えたパルス電源装置の実現が可能となる。
【0076】
また実施例1に係るパルス電源装置3では、消費回路13にスイッチング素子SW5を備えており、スイッチ制御部21および消費時間制御部23によってスイッチング素子SW5のオン/オフを切り換えるタイミングと期間とを任意に変更できる構成となっている。すなわち、状態1において正のパルス波Pxを発振させた後、状態2を開始するタイミングと状態2を継続させる期間とを任意に設定できる。同様に、状態3において負のパルス波Pyを発振させた後、状態4を開始するタイミングと状態4を継続させる期間とを任意に設定できる。言い換えると、スイッチング素子SW5、スイッチ制御部21、および消費時間制御部23を備えることにより、
図2に示されるデッドタイムDT2およびDT4の長さを適宜変更できる。
【0077】
パルス電源装置では、パルス波の出力条件またはトランスの出力側における構成などによっては、リンギング波を一定量残存させることが望ましい場合がある。一例として、プラズマを発生させる誘電体バリア放電装置1にパルス電源装置3を用いる構成において、プラズマ放電の持続性を向上させるためにパルス波に加えて一定期間はリンギング波を維持させることが好ましい場合がある。実施例1ではデッドタイムDT2などの長さを適宜変更することにより、リンギング期間Rxなどの長さを任意に調整できる。
【0078】
図7(a)および
図7(b)は、
図2に示すタイミングチャートと比べてデッドタイムDT2の長さを長くしている構成を実施例1の比較例として挙げている。
図7(a)で示す比較例では、状態1と状態2との間のデッドタイムについて符号DT2Aを付し、実施例1におけるデッドタイムDT2と区別することとする。すなわち実施例1に係るデッドタイムDT2と比べて、比較例に係るデッドタイムDT2Aは長い時間である。
【0079】
当該比較例の構成では、正のパルス波Pxが発振される状態1が終了した後、デッドタイムDT2Aが経過した後に状態2の動作が開始される。すなわちスイッチング素子SW1~SW4がオフになった後、デッドタイムDT2Aが経過するまでの間はスイッチング素子SW5もオフの状態となっており消費回路13に電気振動エネルギーErが流れない。よってデッドタイムDT2Aの間は電気振動エネルギーErが消費回路13に消費されることがないので、パルス波Pxの後に発生するリンギング波Kxは減衰されることなく残存する。
【0080】
そして比較例ではデッドタイムDT2Aが経過すると状態2に係る動作が開始する。すなわちスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられ、抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費が開始されてリンギング波Kxは速やかに減衰する。その結果、比較例では
図7(b)に示すように、パルス波Pxの後に発生するリンギング期間Rxの長さは
図2に示される実施例1と比べて、デッドタイムDT2Aの長さに応じて長くなる。なお
図7(a)および
図7(b)では、1往復分のリンギング波Rxが減衰されることなく維持される程度にデッドタイムDT2Aの長さが調整されている。このようにリンギング期間Rxを必要に応じて長くすることにより、プラズマ放電の維持などに必要な分のリンギング波Kxのみを発生させる一方で、パルス波の高周波化の妨げとなる分のリンギング波は速やかに減衰させることができる。よって、パルス電源装置3において、パルス波出力の好適化とパルス波の高周波化とを両立させることができる。
【0081】
また実施例1に係るパルス電源装置3では、電気振動エネルギーErを消費させて電気振動を減衰させる消費回路13をトランス7の一次側に配設させている。平行平板電極17を例とする、トランス7の二次側(トランス7の出力側)の回路の電圧は一例として数kV程度であり、一例として200V程度であるトランス7の一次側の回路と比べて高い電圧となっている。そのためトランス7の二次側に電気振動を減衰させる回路を配設させた場合、二次側の高電圧に耐えることができる部品などが必要となるのでパルス電源装置のコストが高くなるとともに構成が大型化、複雑化するという問題が懸念される。
【0082】
一方、実施例1では比較的低電圧である一次側に消費回路13を配設させているので、比較的安価な材料を用いて電気振動を減衰させる構成を実現できる。また、一次側において電気振動を減衰させることで、トランス7の一次側から二次側に伝達する電気振動を低減できるので、結果として一次側と二次側との間における電気振動は速やかに減衰して消失させることができる。従って、トランス7の一次側の回路に消費回路13を配設することにより、パルス電源装置3の低コスト化とパルス波の高周波化とを両立させることができる。
【0083】
また実施例1では、パルス波を発生させるパルス発生回路9と、電気振動エネルギーErを消費させる消費回路13とを並列接続させている。すなわち抵抗R1は電気振動の消費に専ら用いられる回路である消費回路13に配置されており、パルス波を発生させるパルス発生回路9には、抵抗R1を例とする、電気振動エネルギーErを積極的に消費させることを目的とした構成が配設されていない。そのため、パルス波PxまたはPyを発振させる場合(状態1または状態3)において、抵抗R1などがパルス波の生成を妨げてしまいパルス波の出力が低減するという事態を回避できる。一方、リンギング波を減衰させる必要がある事態になった場合には状態2または状態4に移行してスイッチング素子SW5をオンの状態に切り換え、消費回路13を活性化させて電気振動を抵抗R1によって消費させる。従ってパルス電源装置3において、パルス波Pxなどの出力効率を向上させつつ、電気振動エネルギーErの減衰効率も向上させることができる。
【実施例2】
【0084】
次に、本発明の実施例2を説明する。なお、実施例1で説明した誘電体バリア放電装置1およびパルス電源装置3と同一構成については同一符号を付すに留め、異なる構成部分である構成について詳述する。実施例2に係るパルス電源装置3Aは、消費回路13の代わりに消費回路13Aを備えているという点において、実施例1に係るパルス電源装置3と相違する。すなわち実施例2に係る消費回路13Aについて、実施例1に係る消費回路13と比較しつつ重点的に説明する。
【0085】
実施例2に係る消費回路13Aは
図8に示すように、スイッチング素子SW5および抵抗R1に加えてコンデンサC1を備えている。コンデンサC1は、抵抗R1と並列接続されている。そしてコンデンサC1および抵抗R1の各々は、スイッチング素子SW5と直列接続されている。コンデンサC1は、パルス波の発振後に発生する電気振動エネルギーErを蓄積する。
【0086】
<実施例2の動作>
ここで、実施例2に係るパルス電源装置3Aを備えた誘電体バリア放電装置1Aの動作について説明する。実施例2に係る誘電体バリア放電装置1Aでは
図9および
図10に示すように、スイッチング素子SW1ないしスイッチング素子SW5のオン/オフの状態の組み合わせについて、状態1ないし状態6を1周期として当該6つの状態が繰り返される。以下、各々の状態におけるスイッチ制御部21の制御動作および誘電体バリア放電装置1Aの動作について説明する。
【0087】
第1に、状態1における動作について説明する。状態1では実施例1と同様に、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW4がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW2、スイッチング素子SW3、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0088】
状態1の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、消費回路13Aは一次巻き線Laから電気的に切り離される一方、パルス発生回路9が一次巻き線Laと電気的に接続される。そして電源11からパルス発生回路9に電力が供給され、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへとパルス波による正のパルス電圧が印加される。その結果、平行平板電極17において誘電体バリア放電によるプラズマPrが発生する(
図4を参照)。平行平板電極17に正のパルス電圧が印加されると、容量性負荷である平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生する。
【0089】
第2に、状態2における動作について説明する。実施例2に係る状態2のスイッチング操作は実施例1に係る状態2と同様である。すなわち、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13Aに配設されているスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。そして状態2の動作によってリンギングを減衰させる。
【0090】
図11は、実施例2の状態2における電気振動エネルギーErの流れを示している。状態2の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、パルス発生回路9が一次巻き線Laから電気的に切り離される一方、一次巻き線Laと消費回路13Aとが電気的に接続される。その結果、電気振動エネルギーErが消費回路13Aへと流れる。
【0091】
消費回路13Aに設けられている抵抗R1は電気振動エネルギーErを消費するが、単位時間あたりに消費できる電気振動エネルギーErは上限がある。従って、大量の電気振動エネルギーErが発生して消費回路13Aに流れると、短い時間では電気振動エネルギーErの全てを抵抗R1では消費しきれない場合がある。
【0092】
一方、消費回路13Aにおいて抵抗R1と並列接続されているコンデンサC1は、単位時間あたりに蓄積できる電気振動エネルギーErが非常に高い。言い換えると、コンデンサC1のエネルギー蓄積効率の上限は、抵抗R1のエネルギー消費効率の上限と比べて非常に高い。そのため、実施例2では消費回路13Aに流れる電気振動エネルギーErのうち、抵抗R1では消費しきれない分はコンデンサC1に流れて迅速に蓄積される。言い換えると、電気振動エネルギーErのうち一部(電気振動エネルギーEr1)は抵抗R1において消費され、残りの大部分の電気振動エネルギーEr(電気振動エネルギーEr2)はコンデンサC1に蓄積される。
【0093】
このように、実施例2に係る消費回路13Aでは抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費とコンデンサC1による電気振動エネルギーErの蓄積とが並行して行われるので、抵抗R1による消費のみを行う実施例1の消費回路13と比べて、電気振動エネルギーErをより迅速に消費回路13Aによって消費または蓄積できる。言い換えると、実施例2に係る消費回路13Aは電気振動エネルギーErをより迅速に処理できる。その結果、実施例2では電気振動に起因して発生するリンギング波Kxの減衰効率をさらに向上できる。
【0094】
なお実施例2では実施例1と同様に、状態1において正のパルス波Pxの生成が完了してからデッドタイムDT2が経過した後、状態2の動作が開始される。またデッドタイムDT2の長さは任意に変更可能である。そのため実施例1と同様に、実施例2においてもリンギング波Kxの減衰が開始されるタイミングを任意に調節できる。
【0095】
実施例2では、抵抗R1による消費およびコンデンサC1による蓄積の結果、電気振動エネルギーErが全て消費回路13Aに消費または蓄積されることで、状態2の動作は完了する。すなわち消費回路13を備える実施例1では、電気振動エネルギーErを全て抵抗R1で消費しなければ状態2が完了されない。その一方で消費回路13Aを備える実施例2では、電気振動エネルギーErを全て抵抗R1で消費しきれなくとも一時的にコンデンサC1へ残りの電気振動エネルギーErを全て蓄積させることで状態2を完了できる。状態2を維持する期間の長さは、電気振動エネルギーErの量などの諸条件に応じて、入力部などを用いて任意に設定可能である。消費時間制御部23は設定された時間に応じて、状態2を維持するようにスイッチ制御部21を制御する。電気振動エネルギーErが消費回路13Aによって消費または蓄積されると、状態2から状態3へと移行する。すなわち状態1に係るパルス波の生成によって発生した電気振動エネルギーErが全て消費回路13Aにまたは蓄積されると、状態2から状態3へと移行する。
【0096】
第3に、実施例2の状態3における動作について説明する。実施例2の状態3は実施例1に存在しない過程である。実施例2において状態3では、スイッチング素子SW1~SW5の全てがオフの状態に切り換えられる。パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4はオフの状態であるので、パルス波は発振されない。また、消費回路13Aに設けられているスイッチング素子SW5がオフの状態であるので、消費回路13Aへ新たに電気振動エネルギーErが流れることもない。
【0097】
しかし、消費回路13Aでは並列接続されている抵抗R1とコンデンサC1とによって閉ループ回路が形成されており、スイッチング素子SW5がオフの状態であっても当該閉ループ回路は接続されている。また、スイッチング素子SW5がオフの状態である場合、消費回路13Aはパルス発生回路9から電気的に切り離されている。そのため、状態3が開始されると、
図12に示すように、状態2においてコンデンサC1に蓄積された電気振動エネルギーEr2が抵抗R1へと流れ、抵抗R1において当該エネルギーEr2が消費される。
【0098】
このように実施例2に係る消費回路13Aではスイッチング素子SW5をオフに切り換えた状態であっても、コンデンサC1に蓄積されている電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費し続けることができる。消費回路13Aにおいて消費され続ける電気振動エネルギーは、時定数τ=CRに相当する時間をかけて減少する。なお時定数τ=CRの式において、Cは静電容量(単位:F)を表し、Rは電気抵抗(単位:Ω)を表す。状態3が開始された後、適宜のタイミングにおいて状態4へと移行する。
【0099】
第4に、実施例2の状態4における動作について説明する。実施例2の状態4は、実施例1の状態3と同様の過程である。すなわち実施例2の状態4では、スイッチング素子SW2およびスイッチング素子SW3がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW1、スイッチング素子SW4、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0100】
状態4の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、電源11からパルス発生回路9に電力が供給される。そしてスイッチング素子SW3を経由して、
図4に示される符号F1とは逆方向に電流が流れる。すなわち実施例2の状態4では、実施例2の状態1とは逆極性の電圧が印加される。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへとパルス波Pyによる負のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生する。
【0101】
なお実施例2の状態4ではスイッチング素子SW5がオフに切り換えられているので、消費回路13Aはパルス発生回路9および一次巻き線Laの各々から電気的に切り離されている。そのため、状態4においても状態3と同様に、コンデンサC1に蓄積している電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費させ続けることができる。
【0102】
状態4において誘電体バリア放電が発生した結果、状態1と同様に平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生するので、負のパルス波Pyが生成された後にリンギング波Kyが発生する。そのため状態4の動作を行ったあと、状態5の動作によってリンギング波Kyを減衰させる。
図9に示すように、状態4において負のパルス波Pxの発振が完了してからデッドタイムDT4が経過した後、状態5の動作が開始される。実施例1と同様に、実施例2においてもデッドタイムDT4の長さは任意に変更可能であり、リンギング波Kyの減衰が開始されるタイミングを任意に調節できる。
【0103】
第5に、実施例2の状態5における動作について説明する。実施例2の状態5における動作は実施例2の状態2と同様である。すなわち実施例2の状態5では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0104】
状態5の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laと消費回路13とが電気的に接続されて電気振動エネルギーErが消費回路13Aへと流れる(
図5を参照)。そして状態2と同様に、消費回路13Aにおいて、一部の電気振動エネルギーEr1は抵抗R1で消費され、残りの電気振動エネルギーEr2はコンデンサC1に蓄積される。その結果、状態4によって発生した電気振動エネルギーErは全て速やかに消費回路13Aによって消費または蓄積され、一次側において電気振動は速やかに消失していく。よって、電気振動はトランス7の二次側へ伝達されなくなるので、状態4において負のパルス波Pyが生成された後に発生するリンギング波Kyは、状態5の動作によって迅速に減衰される。従って、状態4において負のパルス波Pyが生成された後のリンギング期間Ryについても大幅に短縮できる。状態4によって発生した電気振動エネルギーErが消費回路13Aによって消費または蓄積されると、状態5から状態6へと移行する。
【0105】
第6に、実施例2の状態6における動作について説明する。実施例2の状態6に係る動作は実施例2の状態3と同様である。すなわち実施例2の状態6では、スイッチング素子SW1~SW5の全てがオフの状態に切り換えられる。状態6においてスイッチング素子SW5がオフの状態になることで、消費回路13Aはパルス発生回路9から電気的に切り離される。その結果、状態5においてコンデンサC1に蓄積された電気振動エネルギーEr2が抵抗R1へと流れ、抵抗R1において当該電気振動エネルギーEr2が消費される(
図12を参照)。
【0106】
状態6の動作が完了することによって、状態1ないし状態6を1周期とする一連の動作が完了する。その後、状態6から状態1に戻り、状態1ないし状態6からなる一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。
【0107】
<実施例2の構成による効果>
実施例2に係るパルス電源装置3Aでは、パルス発生回路9と並列に消費回路13Aを配設することで、パルス信号の周波数をさらに向上できる。消費回路13Aは抵抗R1に加えてコンデンサC1を備えており、抵抗R1とコンデンサC1は並列接続されている。そのため、消費回路13Aにおいて電気振動エネルギーErの一部を抵抗R1で消費しつつ残りの電気振動エネルギーErを一時的にコンデンサC1へ蓄積させることで、パルス波PxまたはPyの発振によって発生した電気振動をより迅速に消失できる。よって、消費回路13Aを備える実施例2の構成ではリンギング期間RxおよびRyを実施例1よりも短縮できるので、パルス信号の周波数をさらに向上できる。
【0108】
また消費回路13Aはスイッチング素子SW5をオフに切り換えることによってパルス発生回路9から電気的に切り離される。そのためスイッチング素子SW5をオフにした状態とすることで、一時的にコンデンサC1へ蓄積されていた電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費させることができる。つまり、全てのスイッチング素子SW1~SW5がオフの状態(状態3または状態6)のみならず、スイッチング素子SW5がオフであってパルス発生回路9が一次巻き線Laと接続されてパルス波を発振する状態(状態1または状態4)であっても、コンデンサC1へ蓄積されていた電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費させることができる。言い換えると、パルス発生回路9でパルス波を新たに生成させる動作と並行して、前回のパルス波を生成させた時に発生した電気振動エネルギーErを消費回路13Aで消費させることが可能となる。このような動作は、スイッチ制御部21はコンデンサC1に電気振動エネルギーErが蓄積されている状態で、消費回路13Aのスイッチング素子SW5をオフの状態に切り換えるとともにスイッチング素子SW1~SW4の少なくとも1つをオンに切り換えることで実行される。
【0109】
具体的な例として、実施例2の状態3において、コンデンサC1に蓄積している電気振動エネルギーEr2を抵抗R1で消費している状態でスイッチング素子SW2およびSW3をオンに切り換えて状態4に移行する場合を挙げて説明する。この場合、
図13に示すように、消費回路13AではコンデンサC1に蓄積している電気振動エネルギーEr2を抵抗R1で消費する動作が状態2から継続して行われる。その一方、パルス発生回路9ではスイッチング素子SW3を経由して符号F2で示す方向に電流が流れ、負のパルス波Pyが発振されて放電器5においてプラズマPrが発生する。
【0110】
すなわち実施例2では、状態4において負のパルス波Pyを生成させつつ、以前に正のパルス波Pxの生成時に発生してコンデンサC1に蓄積した電気振動エネルギーEr2を抵抗R1で消費させることができる。言い換えると実施例2の構成では、電気振動エネルギーEr2をコンデンサC1に蓄積させた場合、スイッチング素子SW5をオフにした状態であってもコンデンサC1に蓄積されたエネルギーを抵抗R1で消費できる。そしてスイッチング素子SW5をオフにすると消費回路13Aはパルス発生回路9と電気的に分離されるので、次にスイッチング素子をオンの状態にするまではパルス発生回路9を作動させ、パルス波を生成させつつ電気振動エネルギーEr2を抵抗R1で消費できる。
【0111】
よって
図9において符号M1で示される、状態2が開始してから状態5が開始されるまでの期間において、状態1の後に発生した電気振動エネルギーErを消費回路13Aの抵抗R1で消費すれば、パルス電源装置3Aの動作に支障は生じない。同様に、状態4の後に発生する電気振動エネルギーErは、状態5の開始時から次の状態2の終了時までの期間において、消費回路13Aで消費することができる。すなわちコンデンサC1による電力の蓄積が可能であり、コンデンサC1と抵抗R1とが接続されている消費回路13Aを備えることにより、コンデンサC1に電気振動エネルギーErが蓄積された状態でスイッチング素子SW5をオフの状態に切り換えつつパルス発生回路9のスイッチング素子をオンの状態に切り換えることで、パルス発生回路9からパルス波を発生させつつ、消費回路13AにおいてコンデンサC1に蓄積されている電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費させることができる。その結果、電気振動エネルギーErの消費可能時間をより長く確保できるので、パルス波をさらに高周波化することも可能となる。
【0112】
なお、消費回路13を備える実施例1ではコンデンサC1を備えていないので、スイッチング素子SW5がオンの状態である期間のみ(状態2または状態4の期間のみ)、抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費が可能である。よって実施例1では抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費が完了するまで状態2を維持する(スイッチング素子SW5をオンにする)必要がある。スイッチング素子SW5がオンの状態にして電気振動エネルギーErを消費している際に、スイッチング素子SW1~SW4のいずれかをオンの状態にしてパルス発生回路9を作動させると、抵抗R1があるために、電圧降下が起こってトランス7に十分な電圧がかからなくなり、トランス7の二次側に所望の電圧を得ることができなくなる。
【0113】
一方で消費回路13Aを備える実施例2では、全てのスイッチング素子SWをオフにする状態3において、任意のタイミングで状態4へと移行して次のパルス波を発振させることができる。同様に、状態6における任意のタイミングで次の状態1へと移行できる。その結果、状態1で発振されるパルス波Pxと状態4で発振されるパルス波Pyとの間隔Fをより短くできるので、パルス電源装置3Aにおいてパルス波をより高周波化できる。また、実施例2では実施例1と比べてスイッチング素子SW5をオンの状態に維持する期間を短くできるので、スイッチング素子SW5に負担がかかることを回避できる。さらには、処理対象物によっては、パルス波にリンギング波の成分を付加した方が最適なプラズマとなる場合がある。この場合、消費回路13Aはスイッチング素子SW5がオフの時にエネルギーを消費している為、実施例1に係る消費回路13と比べて、デッドタイムのタイミングコントロールが取りやすくなる。
【実施例3】
【0114】
次に、本発明の実施例3を説明する。
図14は、実施例3に係るパルス電源装置3Bを備える誘電体バリア放電装置1Bの構成を示す図である。実施例3に係るパルス電源装置3Bは、消費回路13の代わりに消費回路13Bを備えているという点において、実施例1に係るパルス電源装置3と相違する。
【0115】
実施例3に係る消費回路13Bは
図14に示すように、スイッチング素子SW5、抵抗R1、およびコンデンサC1に加えて、コンバータ25を備えている。コンバータ25は、コンデンサC1に蓄積した電気振動エネルギーErを回生させる回生回路として機能する。すなわち実施例3に係る消費回路13Bは、実施例2に係る消費回路13Aに加えて、コンバータ25を有する回生回路を備えている。
【0116】
実施例3に係る消費回路13Bにおいて、コンデンサC1は抵抗R1と並列接続されている。そしてコンデンサC1と抵抗R1との各々は、スイッチング素子SW5と直列接続されている。コンバータ25は、コンデンサC1の両端に取り付けられている。コンバータ25の出力の+側は電源11の+側に接続されており、コンバータ25のグランド側は電源11のグランド側に接続されている。
【0117】
実施例3に係る誘電体バリア放電装置1Bの動作は、基本的に
図9および
図10に示す実施例2の動作と共通する。但し、状態3における電気振動エネルギーErの処理に関する点について、実施例3は実施例2と相違する。
【0118】
実施例3では実施例2と同様、状態1においてパルス発生回路9で正のパルス波Pxを生成させる。正のパルス波Pxが生成された後に状態2へ移行してスイッチング素子SW5をオンに切り換えると、正のパルス波Pxの生成によって発生した電気振動エネルギーErが消費回路13Bへと流れる。そして一部の電気振動エネルギーEr1は抵抗R1によって消費され、残りの電気振動エネルギーEr2はコンデンサC1に蓄積される。その結果、正のパルス波Pxの生成後に発生したリンギング波Kxは速やかに減衰する。電気振動エネルギーErの全てが消費回路13Bに消費または蓄積されると、状態3へと移行する。
【0119】
状態3へと移行すると、スイッチ制御部21はスイッチング素子SW1~SW5を全てオフの状態に切り換える。スイッチング素子SW5がオフの状態になると、コンデンサC1に蓄積されていた電気振動エネルギーEr2はコンバータ25によって電源11へと回生される。回生された電気振動エネルギーEr2は、以降の状態4または状態1においてプラズマPrを発生させるための電力として再利用される。
【0120】
電気振動エネルギーEr2を回生させる動作は、実施例3の状態6においても同様に行われる。実施例3では電気振動エネルギーErを回生させる構成として、コンバータ25を用いたがこれに限ることはなく、電気振動エネルギーErを回生させる回路構成であれば適宜の材料を用いてよい。
【0121】
実施例2では状態2においてコンデンサC1に蓄積された電気振動エネルギーEr2は状態3において抵抗R1によって消費される。一方、実施例3では状態2においてコンデンサC1に蓄積された電気振動エネルギーEr2を状態3において回生させて再利用する。そのため、実施例3に係るパルス電源装置3Bのエネルギー効率を向上させることができる。
【実施例4】
【0122】
次に、本発明の実施例4を説明する。
図15は、実施例4に係るパルス電源装置3Cを備える誘電体バリア放電装置1Cの構成を示す図である。実施例4に係るパルス電源装置3Cは、消費回路13の代わりに消費回路13Cを備えているという点において、実施例1に係るパルス電源装置3と相違する。
【0123】
実施例4に係る消費回路13Cは、スイッチング素子と抵抗とコンデンサとを有する消費回路、すなわち消費回路13Aに相当する回路を複数備えている。
図15では、消費回路13Aを2組備えている消費回路13Cを例示している。2組の消費回路13Aのうち、一方を消費回路13Ap、他方を消費回路13Asとして両者を区別する。消費回路13Cにおいて、消費回路13Apおよび消費回路13Asは並列接続されている。なお、消費回路13Cが備える消費回路13Aの数は2つに限ることはなく、3以上であってもよい。
【0124】
消費回路13Cが備える2つの消費回路13Aのうち、消費回路13Apは、スイッチング素子SW5と抵抗R1とコンデンサC1とを備える。消費回路13Asは、スイッチング素子SW6と抵抗R2とコンデンサC2とを備える。消費回路13Apは実施例2と同様に、並列接続した抵抗R1とコンデンサC1に、スイッチング素子SW5が直列接続された回路である。消費回路13Apは、並列接続した抵抗R2とコンデンサC2に、スイッチング素子SW6が直列接続された回路である。後述するように、実施例4では一方の消費回路13Apは正のパルス波Pxの発振後に発生するリンギング波Kxを減衰させる際に用いられ、他方の消費回路13Asは負のパルス波Pyの発振後に発生するリンギング波Kyを減衰させる際に用いられる。実施例4ではスイッチング素子SW5およびスイッチング素子SW6が、本発明に係る抵抗用スイッチング素子に相当する。
【0125】
<実施例4の動作>
ここで、実施例4に係るパルス電源装置3Cを備えた誘電体バリア放電装置1Cの動作について説明する。実施例4に係る誘電体バリア放電装置1Cでは
図16および
図17に示すように、スイッチング素子SW1ないしスイッチング素子SW6のオン/オフの状態の組み合わせについて、状態1ないし状態6を1周期として当該6つの状態が繰り返される。以下、各々の状態におけるスイッチ制御部21の制御動作および誘電体バリア放電装置1Aの動作について説明する。
【0126】
第1に、状態1における動作について説明する。状態1では、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW4がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW2、スイッチング素子SW3、スイッチング素子SW5、およびスイッチング素子SW6がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW6を制御する。スイッチング素子SW5およびSW6の各々がオフの状態であるので、消費回路13Cは一次巻き線Laから電気的に切り離される。
【0127】
状態1の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW6が切り換えられることにより、電源11からパルス発生回路9に電力が供給され、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへと正のパルス波Pxによる正のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電によるプラズマPrが発生する(
図4を参照)。平行平板電極17に正のパルス電圧が印加されると、容量性負荷である平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生する。当該電気振動に起因して正のパルス波Pxの発振後にリンギング波Kxが発生するため、状態2によってリンギング波Kxを減衰させる動作を行う。
【0128】
第2に、状態2における動作について説明する。実施例4の状態2では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる。また消費回路13Cのうち、消費回路13Apに配設されているスイッチング素子SW5はオンの状態に切り換えられる一方、消費回路13Asに配設されているスイッチング素子SW6はオフの状態に切り換えられる。スイッチ制御部21は、スイッチング素子SW1およびSW4をオフの状態に切り換えて状態1を終了させた後、予め定められたデッドタイムDT2が経過した後にスイッチング素子SW5をオンに切り換えて状態2を開始させる。そして状態2の動作によって、正のパルス波Pxの生成後に発生するリンギング波Kxを減衰させる。
【0129】
状態2の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW6が切り換えられることにより、消費回路13Cのうち消費回路13Apの部分が一次巻き線Laと電気的に接続される。その結果、
図18に示すように電気振動エネルギーErが消費回路13Cへと流れ、オンの状態になっているスイッチング素子SW5を有する消費回路13Apへ流れる。
【0130】
消費回路13Apへ流れた電気振動エネルギーErは実施例2と同様に、抵抗R1およびコンデンサC1によって消費または蓄積される。すなわち一部の電気振動エネルギーEr1は抵抗R1で消費され、並行して残りの電気振動エネルギーEr2はコンデンサC1に蓄積される。電気振動エネルギーErが消費回路13Apによって速やかに消費または蓄積される結果、正のパルス波Pxの生成後に発生するリンギング波Kxは、状態2の動作によって迅速に減衰して消失する。状態1の後に発生した電気振動エネルギーErの全てが消費回路13Apによって消費または蓄積されると、状態2から状態3へと移行する。
【0131】
第3に、状態3における動作について説明する。実施例4の状態3における動作は実施例2の状態3と基本的に共通する。実施例4の状態3では、スイッチング素子SW1~SW6の全てがオフの状態に切り換えられる。パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4は全てオフの状態であるので、パルス波は生成されない。そして消費回路13Cにおいてスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられることで、抵抗R1とコンデンサC1による閉ループ回路がパルス発生回路9および一次巻き線Laの各々から電気的に切り離される。そのため、状態3が開始されると、状態2においてコンデンサC1に蓄積されていた電気振動エネルギーEr2が抵抗R1へと流れ、抵抗R1において当該エネルギーEr2が消費される(
図12を参照)。
【0132】
このように実施例4の状態3では実施例2の状態3と同様に、スイッチング素子SW5をオフに切り換えた状態で、コンデンサC1に蓄積されている分の電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費し続ける。すなわち状態2においてコンデンサC1を用いて電気振動エネルギーErの大部分を蓄積させて電気振動エネルギーErを迅速にパルス発生回路9から消失させた後、電気振動エネルギーErが蓄積されている消費回路13Apを状態3においてパルス発生回路9から電気的に切り離し、消費回路13Apにおいて電気振動エネルギーErの消費を続行させる。消費回路13Apにおいて消費され続ける電気振動エネルギーは、時定数τ=CRに相当する時間をかけて減少する。パルス波を生成するパルス発生回路9から消費回路13Apを電気的に切り離すことにより、適宜のタイミングにおいて状態4へと移行して負のパルス波Pyの生成を開始できる。
【0133】
第4に、状態4における動作について説明する。状態4では、スイッチング素子SW2およびスイッチング素子SW3がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW1、スイッチング素子SW4、スイッチング素子SW5、およびスイッチング素子SW6がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW6を制御する。
【0134】
状態4の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW6が切り換えられることにより、電源11からパルス発生回路9に電力が供給される。そしてスイッチング素子SW3を経由して、
図4に示される符号F1とは逆方向に電流が流れる。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへと負のパルス波Pyによる負のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生する。
【0135】
なお実施例4の状態4では実施例2の状態4と同様に、スイッチング素子SW5がオフに切り換えられているので、消費回路13Apはパルス発生回路9から電気的に切り離されている。そのため、状態4においても状態3と同様に、コンデンサC1に蓄積している電気振動エネルギーEr2を抵抗R1で消費させ続けることができる。
【0136】
状態4において平行平板電極17に負のパルス電圧が印加されると、容量性負荷である平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生する。当該電気振動に起因して負のパルス波Pyの発振後にリンギング波Kyが発生するため、状態5に移行してリンギング波Kyを減衰させる動作を行う。
【0137】
第5に、実施例4の状態5における動作について説明する。実施例4の状態5では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる。また消費回路13Cのうち、消費回路13Apに配設されているスイッチング素子SW5はオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13Asに配設されているスイッチング素子SW6はオンの状態に切り換えられる。スイッチ制御部21は、スイッチング素子SW2およびSW3をオフの状態に切り換えて状態4を終了させた後、予め定められたデッドタイムDT4が経過した後にスイッチング素子SW6をオンに切り換えて状態5を開始させる。そして状態5の動作によって、負のパルス波Pyの生成後に発生するリンギング波Kyを減衰させる。
【0138】
状態5の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW6が切り換えられることにより、消費回路13Cのうち消費回路13Asの部分が一次巻き線Laと電気的に接続される。その結果、
図19に示すように電気振動エネルギーErが消費回路13Cへと流れ、オンの状態になっているスイッチング素子SW6を有する消費回路13Asへ流れる。
【0139】
消費回路13Asへ流れた電気振動エネルギーErは、消費回路13Asに設けられている抵抗R2およびコンデンサC2によって消失する。すなわち一部の電気振動エネルギーEr1は抵抗R2で消費され、並行して残りの電気振動エネルギーEr2はコンデンサC2に蓄積される。電気振動エネルギーErが消費回路13Asによって速やかに消失する結果、負のパルス波Pyの発振後に発生するリンギング波Kyは、状態5の動作によって迅速に減衰して消失する。状態4の後に発生した電気振動エネルギーErの全てが消費回路13Apによって消費または蓄積されると、状態5から状態6へと移行する。
【0140】
第6に、状態6における動作について説明する。実施例4の状態6では実施例4の状態3と同様に、スイッチング素子SW1~SW6の全てがオフの状態に切り換えられる。パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4はオフの状態であるので、パルス波は発振されない。そして消費回路13Cにおいてスイッチング素子SW6がオフの状態に切り換えられることで、抵抗R2とコンデンサC2による閉ループ回路がメインのパルス発生回路9から電気的に切り離される。そのため、状態6が開始されると、状態5においてコンデンサC2に蓄積されていた電気振動エネルギーEr2が抵抗R2へと流れ、抵抗R2において当該エネルギーEr2が消費される。
【0141】
このように実施例4の状態6では、スイッチング素子SW6をオフに切り換えた状態で、コンデンサC2に蓄積された分について、電気振動エネルギーErを抵抗R2で消費し続ける。すなわち状態5においてコンデンサC2を用いて電気振動エネルギーErの大部分を蓄積させて電気振動エネルギーErを迅速にパルス派生回路9から消失させた後、電気振動エネルギーErが蓄積されている消費回路13Asを状態6においてパルス発生回路9から電気的に切り離し、消費回路13Asにおいて電気振動エネルギーErの消費を続行させる。
【0142】
パルス波を生成するパルス発生回路9から消費回路13Asを電気的に切り離すことにより、適宜のタイミングにおいて状態6から状態1へと移行して再び正のパルス波Pxの発振を開始できる。以下、状態1ないし状態6を1周期とする一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。
【0143】
<実施例4の構成による効果>
実施例4に係るパルス電源装置3Cでは、複数の消費回路13Aを有する消費回路13Cを備えている。そしてパルス波の生成後に発生する電気振動エネルギーErを消費させる際に、パルス波の生成条件等に応じて複数の消費回路13Aを使い分けるように構成されている。実施例4では一例として
図16および
図17に示すように、正のパルス波Pxの生成によって発生する電気振動エネルギーErを消費させる場合は消費回路13Apを用いる(状態1~3)。一方で、負のパルス波Pyの生成によって発生する電気振動エネルギーErを消費させる場合は消費回路13Asを用いる(状態4~6)。言い換えると、リンギング波Kxを減衰させる場合は消費回路13Cのうち消費回路13Apを用い、リンギング波Kyを減衰させる場合は消費回路13Cのうち消費回路13Asを用いるように構成されている。
【0144】
このように複数の消費回路13Aを備え、電気振動エネルギーErの消費に用いる消費回路13Aをパルス波の生成毎に交替させることにより、より大きい電気振動エネルギーErの処理が可能となる。すなわち状態2においてオンの状態になったスイッチング素子SW5は、状態1の後に発生した電気振動エネルギーErをコンデンサC1で全て蓄積した後にオフの状態に切り換えられる(状態3)。その後、再度状態2が開始されるまではスイッチング素子SW5はオフの状態であり消費回路13Apはパルス発生回路9から電気的に切り離される。
【0145】
よって
図16において符号M2で示される、状態2が開始してから次の状態2が開始されるまでの期間において、状態1の後に発生した電気振動エネルギーErを消費回路13Apの抵抗R1で消費すれば、パルス電源装置3Cの動作に支障は生じない。すなわち複数の消費回路13Aを備えることにより、電気振動エネルギーErの消費可能時間をより長く確保できるので、より大きな電気振動エネルギーErを消費回路13Cで処理できるようになる。その結果、パルス波をさらに高周波化することも可能となる。
【0146】
また、消費回路13Cを備える実施例4では、全てのスイッチング素子がオフに切り換えられる状態3において、任意のタイミングで状態4へと移行して次のパルス波を発振させることができる。同様に、状態6における任意のタイミングで次の状態1へと移行できる。その結果、状態1で発振されるパルス波Pxと状態4で発振されるパルス波Pyとの間隔Fをより短くできるので、パルス電源装置3Cにおいてパルス波をより高周波化できる。また、実施例4では複数のスイッチング素子SW5とスイッチング素子SW6を有している為、1つのスイッチング素子SW5を備える実施例2の消費回路13Aと比べて、消費回路13Cが備えるスイッチング素子をオンの状態に維持する期間をさらに短くでき、さらにはオンの回数も少なくなるので、消費回路13Cが備えるスイッチング素子SW5、およびスイッチング素子SW6にかかる負担をさらに低減できる。さらには、処理対象物によっては、パルス波にリンギング波の成分を付加した方が最適なプラズマとなる場合がある。この場合、消費回路13Cはスイッチング素子SW5およびSW6がオフの時に電気振動エネルギーErを消費している為、実施例2に係る消費回路13Aと比べて、デッドタイムのタイミングコントロールがさらに取りやすくなる。
【0147】
なお、複数の消費回路13Aを備える実施例4の構成では、より多様なインピーダンスに対応してリンギングを好適に減衰させることができる。すなわち抵抗R1の抵抗値と抵抗R2の抵抗値とを異ならせる、またはコンデンサC1の容量値とコンデンサC2の容量値とを異ならせることにより、消費回路13Apと消費回路13Asの特性が異なることとなる。このように複数の消費回路13Aの特性を異ならせることにより、一例として電気振動の周波数が変化した場合、当該変化後のインピーダンスに対応した消費回路13Aを選択的に用いてリンギング波を減衰させることができる。
【0148】
一例として消費回路13Apの方がリンギング波の減衰に適した条件である場合、パルス波の生成が完了した後、状態2の組み合わせ態様でスイッチング素子SW1~SW6を切り換える。すなわちスイッチング素子SW5のみをオンの状態に切り換える。また消費回路13Asの方がリンギング波の減衰に適した条件である場合、パルス波の生成が完了した後、状態5の組み合わせ態様でスイッチング素子SW1~SW6を切り換える。すなわちスイッチング素子SW6のみをオンの状態に切り換える。このように特性が異なる複数の消費回路13Aの中から適したものを選択的に用いることで、パルス電源装置3Cの汎用性をより向上できる。
【実施例5】
【0149】
次に、本発明の実施例5を説明する。
図20は、実施例5に係るパルス電源装置3Dを備える誘電体バリア放電装置1Dの構成を示す図である。実施例5に係るパルス電源装置3Dは、トランス7Dが一次巻き線Laおよび二次巻き線Lbに加えて三次巻き線Lcを備えているという点で、実施例1に係るパルス電源装置3と相違する。
【0150】
トランス7Dが備える三次巻き線Lcは、一次巻き線Laおよび二次巻き線Lbの各々と電気的に絶縁されている。そして直列接続された抵抗R1とスイッチング素子SW5とを備える消費回路13は、三次巻き線Lcに並列接続されている。すなわち実施例5はトランス7Dの三次側に消費回路13が配設されているという点において、トランス7の一次側に消費回路13が配設されている実施例1と相違する。
【0151】
<実施例5の動作>
実施例5に係る誘電体バリア放電装置1Dの動作は、実施例1に係る誘電体バリア放電装置1の動作と共通する。すなわち実施例5におけるスイッチング素子SW1ないしスイッチング素子SW5のオン/オフの状態の組み合わせは
図2および
図3に示す通りであり、状態1ないし状態4を1周期として当該4つの状態が繰り返される。
【0152】
まず状態1ではスイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW4がオンの状態に切り換えられることにより、パルス発生回路9と一次巻き線Laとが電気的に接続される。またスイッチング素子SW5がオフの状態になることで消費回路13が三次巻き線Lcから電気的に切り離される。そしてトランス7の一次側に配設されるパルス発生回路9において正のパルス波Pxが生成され、平行平板電極17に正のパルス電圧が印加されて誘電体バリア放電が発生する。
【0153】
当該誘電体バリア放電の停止後においても、平行平板電極17において(1/2)・CV2に相当するエネルギーが蓄積しており、平行平板電極17とトランス7Dとの間で当該エネルギーが共振して電気振動が発生する。一次側巻き線Laと二次側巻き線Lbと三次巻き線Lcは電磁結合されているので、当該電気振動は、トランス7Dを経由して二次側から一次側および三次側(消費回路13の側)の各々へと伝達される。当該電気振動は、パルス波Pxの生成後にリンギング波Kxが発生する原因となる。そこで実施例5に係るパルス電源装置3Dでは、状態2の動作によってリンギング波Kxを減衰させる。
【0154】
第2に、状態2における動作について説明する。状態2では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0155】
状態2の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9とが電気的に切り離される一方、三次巻き線Lcと消費回路13とが電気的に接続される。その結果、
図21に示すように電気振動エネルギーErが三次側に配設されている消費回路13へと流れ、消費回路13に設けられている抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。抵抗R1においてエネルギーが消費されることにより、三次側において電気振動エネルギーErは速やかに消失していく。この場合、一次巻き線Laと二次巻き線Lbと三次巻き線Lcは電磁結合されているため、三次側から二次側に対して電気振動エネルギーErが伝達されなくなる。その結果、三次側に抵抗R1を配設することで二次側においても電気振動エネルギーErが速やかに消失する。よって、状態1において正のパルス波Pxが生成された後に発生するリンギング波Kxは、状態2の動作によって迅速に減衰されて消失する。リンギング波Kxが消失することで、状態2から状態3へと移行する。
【0156】
第3に、状態3における動作について説明する。状態3では、スイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられることで消費回路13が三次巻き線Lcから電気的に切り離される。そしてスイッチング素子SW2およびスイッチング素子SW3がオンの状態に切り換えられることにより、トランス7Dの一次側に配設されるパルス発生回路9において負のパルス波Pyが生成され、平行平板電極17に負のパルス電圧が印加されて誘電体バリア放電が発生する。一次巻き線Laと二次巻き線Lbと三次巻き線Lcは電磁結合されているため、負のパルス波Pyの生成後、状態1と同様に電気振動が発生し、トランス7Dを経由して二次側から一次側および三次側の各々へと伝達される。当該電気振動は、負のパルス波Pyの生成後にリンギング波Kyが発生する原因となる。そのため状態3において負のパルス波Pyを生成すると、状態4へと移行してリンギング波Kyを減衰させる。
【0157】
第4に、状態4における動作について説明する。状態4では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。すなわち、状態4におけるスイッチ制御の態様は状態2におけるスイッチ制御の態様と同じである。
【0158】
状態4の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、三次巻き線Lcと消費回路13とが再度電気的に接続される。その結果、
図21に示すように電気振動エネルギーErが消費回路13へと流れ、抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。よって、状態3において負のパルス波Pyが生成された後に発生するリンギング波Kyは、状態4の動作によって迅速に減衰されて消失する。従って、状態3において負のパルス波Pyが生成された後のリンギング期間Ryについても大幅に短縮できる。
【0159】
状態4の動作が完了することによって、状態1ないし状態4を1周期とする一連の動作が完了する。その後、状態4から状態1に戻り、状態1ないし状態4からなる一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。
【0160】
<実施例5の構成による効果>
実施例5に係るパルス電源装置3Dでは、トランス7Dにおいて一次巻き線Laおよび二次巻き線Lbに加えて三次巻き線Lcをさらに配設し、消費回路13を三次巻き線Lcに接続させる。トランス7Dの一次巻き線Laに接続されているパルス発生回路9がパルス波を生成すると、トランス7Dの二次巻き線Lbに接続されている平行平板電極17においてプラズマ放電が発生する。当該放電によって電気振動が発生してトランス7Dの二次側から三次側へ伝達されるが、当該電気振動のエネルギーErは消費回路13によって消費される。
【0161】
一次巻き線Laと二次巻き線Lbと三次巻き線Lcは電磁結合されているため、三次側において電気振動エネルギーErが消費されると、トランス7Dの一次側と二次側との電気振動も減衰する。その結果、一次側および二次側においてもリンギングは速やかに減衰する。すなわちトランス7Dの三次側において電気振動エネルギーErを消費することにより、実施例1と同様にリンギング波KxまたはKyを速やかに減衰させることができる。またスイッチ制御部21および消費時間制御部23を備えることによって、デッドタイムDT2およびDT4の長さを任意に制御できるので、リンギング期間RxおよびRyの長さを任意に調節できる。
【0162】
そして三次巻き線Lcは一次巻き線Laおよび二次巻き線Lbの各々と電気的に絶縁されている。すなわち消費回路13は、パルス波を生成するパルス発生回路9と電気的に絶縁されている。よって、消費回路13を備える三次巻き線Lcにおいて、任意の場所にグランドを設置することができるので、消費回路13の動作をより安定化できる。従って、パルス電源装置3Dにおける誤動作の発生をより確実に防止できる。
【0163】
<他の実施形態>
なお、今回開示された実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲、並びに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。例として、本発明は下記のように変形実施することができる。
【0164】
(1)実施例5に係る、トランス7Dの三次側に消費回路を配設させる構成は、実施例1のみならず実施例2ないし実施例4にも適用できる。
図22は実施例2に対して実施例5のトランス7Dを適用させた、第1の変形例の構成を示す図である。
図23は実施例3に対して実施例5のトランス7Dを適用させた、第2の変形例の構成を示す図である。
図24は実施例4に対して実施例5のトランス7Dを適用させた、第3の変形例の構成を示す図である。
【0165】
図22に示す第1の変形例に係るパルス電源装置3Eでは、トランス7Dの三次巻き線Lcに消費回路13Aが接続されている。消費回路13Aは実施例2と同様に、直列接続された抵抗R1およびコンデンサC1と、これら各々に並列接続されたスイッチング素子SW5とを備えている。第1の変形例に係るパルス電源装置3Eを備えた誘電体バリア放電装置1Eの動作は、実施例2と共通する。すなわち第1の変形例におけるスイッチング素子SW1~SW5のオン/オフの状態の組み合わせは
図9および
図10に示す通りであり、状態1ないし状態6を1周期として当該6つの状態が繰り返される。
【0166】
第1の変形例では、実施例2の構成に対して実施例5に係るトランス7Dなどの構成を適用することにより、実施例2の効果と実施例5の効果との両方を得ることができる。すなわち消費回路13Aに備えられたコンデンサC1によって、パルス波の生成後に二次側から三次側へと伝達される電気振動エネルギーErは速やかに蓄積される。よって、第1の変形例では実施例5と比べてリンギング波の減衰効率をさらに向上できる。また消費回路13Aは三次巻き線Lcに接続されており、パルス発生回路9から電気的に絶縁されている。よって、消費回路13Aを備える三次巻き線Lcにおける任意の場所にグランドを設置することができるので、消費回路13Aの動作をより安定化できる。従って、パルス電源装置3Eにおける誤動作の発生をより確実に防止できる。
【0167】
図23に示す第2の変形例に係るパルス電源装置3Fでは、トランス7Dの三次巻き線Lcに消費回路13Bが接続されている。消費回路13Bは実施例3と同様に、抵抗R1とコンデンサC1とスイッチング素子SW5とに加えて、コンバータ25をさらに備えている。第2の変形例に係るパルス電源装置3Fを備えた誘電体バリア放電装置1Fの動作は、実施例3と共通する。すなわち第2の変形例におけるスイッチング素子SW1~SW5のオン/オフの状態の組み合わせは
図9および
図10に示す通りであり、状態1ないし状態6を1周期として当該6つの状態が繰り返される。
【0168】
第2の変形例では、実施例3の構成に対して実施例5に係るトランス7Dなどの構成を適用することにより、実施例3の効果と実施例5の効果とを得ることができる。すなわち消費回路13Bに備えられたコンデンサC1によって、パルス波の生成後に二次側から三次側へと伝達される電気振動エネルギーErは速やかに蓄積される。よって、第1の変形例では実施例5と比べてリンギング波の減衰効率をさらに向上できる。またコンバータ25を備えることにより、コンデンサC1に蓄積された電気振動エネルギーErを回生して再利用できるので、パルス電源装置3Fのエネルギー効率を向上できる。そして消費回路13Bは三次巻き線Lcに接続されており、パルス発生回路9から電気的に絶縁されている。よって、消費回路13Bを備える三次巻き線Lcにおける任意の場所にグランドを設置することができるので、消費回路13Bの動作をより安定化できる。従って、パルス電源装置3Fにおける誤動作の発生をより確実に防止できる。
【0169】
図24に示す第3の変形例に係るパルス電源装置3Gでは、トランス7Dの三次巻き線Lcに消費回路13Cが接続されている。消費回路13Cは実施例4と同様に、2組の消費回路13Aすなわち消費回路13Apと消費回路13Asとを備えている。消費回路13Apは、直列接続された抵抗R1およびコンデンサC1と、これら各々に並列接続されたスイッチング素子SW5とを備えている。消費回路13Asは、直列接続された抵抗R2およびコンデンサC2と、これら各々に並列接続されたスイッチング素子SW6とを備えている。
【0170】
第3の変形例に係るパルス電源装置3Gを備えた誘電体バリア放電装置1Gの動作は、実施例4と共通する。すなわち第3の変形例におけるスイッチング素子SW1~SW6のオン/オフの状態の組み合わせは
図16および
図17に示す通りであり、状態1ないし状態6を1周期として当該6つの状態が繰り返される。
【0171】
第3の変形例では、実施例4の構成に対して実施例5に係るトランス7Dなどの構成を適用することにより、実施例4の効果と実施例5の効果とを得ることができる。すなわち消費回路13Cに備えられた複数の消費回路13Aを、パルス波の生成条件等に応じて使い分けるように構成されている。一例として、電気振動エネルギーErの消費に用いる消費回路13Aをパルス波の生成毎に交替させることにより、より大きい電気振動エネルギーErの処理が可能となる。そして消費回路13Cは三次巻き線Lcに接続されており、パルス発生回路9から電気的に絶縁されている。よって、消費回路13Cを備える三次巻き線Lcにおける任意の場所にグランドを設置することができるので、消費回路13Cの動作をより安定化できる。従って、パルス電源装置3Gにおける誤動作の発生をより確実に防止できる。
【0172】
(2)上述した各実施例および変形例において、パルス発生回路9は
図1に示すような4石式回路に限ることはなく、パルス波を生成する回路であれば1石式回路または2石式回路を例とする他の回路を適宜用いてよい。またパルス発生回路9は互いに逆極性である正のパルス波Pxと負のパルス波Pyとを生成する回路に限ることはなく、一例として同極性のパルス波を生成し続ける回路であってもよい。
【0173】
図25(a)は、実施例5に係るパルス電源装置3Dの変形例として、1石式回路であるパルス発生回路9Hを備えるパルス電源装置3Hを示している。当該第4の変形例では、パルス電源装置3Hと放電器5とによって誘電体バリア放電装置1Hを構成している。第4の変形例に係るパルス電源装置3Hは、トランス7Dと、パルス発生回路9Hとを備えている。トランス7Dは実施例5と同様に、一次巻き線Laと二次巻き線Lbと三次巻き線Lcとを備えている。一次巻き線Laにはパルス発生回路9Hが接続されており、三次巻き線Lcには消費回路13が接続されている。
【0174】
パルス発生回路9Hは、電源11と、1つのスイッチング素子SW1とを備えている。電源11とスイッチング素子SW1と一次巻き線Laとは直列接続されている。消費回路13は実施例1および実施例5と同様に、抵抗R1とスイッチング素子SW5とが直列接続された構成を有している。
【0175】
ここで、誘電体バリア放電装置1Hの動作について説明する。第4の変形例に係る誘電体バリア放電装置1Hでは
図25(b)および
図25(c)に示すように、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW5のオン/オフの状態の組み合わせについて、状態1と状態2とを1周期として当該2つの状態が繰り返される。
【0176】
なお実施例1などと同様に、スイッチング素子SW1とスイッチング素子SW5とが同時にオンの状態にならないよう、デッドタイムDT1およびDT2が設けられている。すなわちスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられてからデッドタイムDT1が経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW1がオンの状態に切り換えられて状態1が開始される。そしてスイッチング素子SW1がオフの状態に切り換えられて状態1が終了してからデッドタイムDT2を経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW5はオフの状態からオンの状態に切り換えられて状態2が開始される。
【0177】
まず、第4の変形例における状態1について説明する。状態1では、パルス発生回路9Hに設けられているスイッチング素子SW1がオンの状態に切り換えられる一方、消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21による制御が行われる。
【0178】
状態1の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1およびSW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9Hとが電気的に接続される。そして電源11からパルス発生回路9Hに電力が供給され、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへと正のパルス波Pxによる正のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生する。すなわち
図26に示すように、状態1において正のパルス波Pxが生成される。状態1において正のパルス波Pxが生成されると電気振動が発生するため、状態2に移行して電気振動に起因するリンギング波Kxを減衰させる。
【0179】
第4の変形例における状態2では、パルス発生回路9Hに設けられているスイッチング素子SW1がオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21による制御が行われる。
【0180】
状態2の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1およびSW5が切り換えられることにより、三次巻き線Lcと消費回路13とが電気的に接続される。そして電気振動エネルギーErはトランス7Dの二次巻き線Lbから三次巻き線Lcを経由して消費回路13へと流れ、消費回路13に設けられている抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。抵抗R1において電気振動エネルギーErが消費されることにより、
図26に示すように、状態1において正のパルス波Pxが発振された後に発生するリンギング波Kxは、状態2の動作によって迅速に減衰される。従って、状態1においてパルス波Pxが発振された後のリンギング期間Rxは大幅に短縮される。
【0181】
状態2の動作が完了することによって、状態1ないし状態2を1周期とする一連の動作が完了する。その後、状態2から状態1に戻り、状態1ないし状態2からなる一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。このように1石式回路であるパルス発生回路9Hを備える第4の変形例では、正のパルス波Pxのみを連続的に発振する。
【0182】
次に、2石式回路を備える変形例について説明する。
図27は、実施例5に係るパルス電源装置3Dの変形例として、2石式回路であるパルス発生回路9Jを備えるパルス電源装置3Jを示している。当該第5の変形例では、パルス電源装置3Jと放電器5とによって誘電体バリア放電装置1Jを構成している。第5の変形例に係るパルス電源装置3Jは、トランス7Dと、パルス発生回路9Jとを備えている。トランス7Dは実施例5と同様に、一次巻き線Laと二次巻き線Lbと三次巻き線Lcとを備えている。一次巻き線Laにはパルス発生回路9Jが接続されており、三次巻き線Lcには消費回路13が接続されている。
【0183】
パルス発生回路9Jは、電源11の正端子と負端子との間に、第1のスイッチング素子SW1および第2のスイッチング素子SW2が直列接続された第1回路と、コンデンサC3およびコンデンサC4が直列接続された第2回路とが互いに並列に挿入されている。そしてスイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW2の接続点T1と、コンデンサC3およびコンデンサC4の接続点T2との間に一次巻き線Laが挿入される。消費回路13は実施例1および実施例5と同様に、抵抗R1とスイッチング素子SW5とが直列接続された構成を有している。
【0184】
コンデンサC3およびコンデンサC4の各々は、電圧源と等価となるように構成されている。すなわち、電源11の電圧の半分がコンデンサC3およびコンデンサC4の各々にかかるように構成されている。スイッチング素子SW1がオンである場合、コンデンサC3が電圧源として用いられる。またスイッチング素子SW2がオンである場合、コンデンサC4が電圧源として用いられる。
【0185】
ここで、誘電体バリア放電装置1Jの動作について説明する。第5の変形例に係る誘電体バリア放電装置1Jでは
図28および
図29に示すように、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW5のオン/オフの状態の組み合わせについて、状態1ないし状態4を1周期として当該4つの状態が繰り返される。
【0186】
第5の変形例における状態1では、スイッチング素子SW2およびSW5をオフに切り換える一方でスイッチング素子SW1をオンに切り換える。具体的にはスイッチング素子SW2およびSW5がオフの状態に切り換えられてからデッドタイムDT1が経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW1がオンの状態に切り換えられて状態1が開始される。
【0187】
状態1が開始されると電源11から電力がパルス発生回路9Jに供給され、スイッチング素子SW1を経由して電流が流れる。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへとパルス波Pxによる正のパルス電圧が印加され、平行平板電極17においてプラズマPrが発生する。当該放電により、電気振動に起因するリンギング波Kxが発生する。そこで正のパルス波Pxを生成させる状態1が完了すると、状態2に移行してリンギング波Kxを減衰させる動作を行う。
【0188】
第5の変形例における状態2では、パルス発生回路9Jのスイッチング素子SW1およびSW2をオフに切り換える一方で、消費回路13のスイッチング素子SW5をオンに切り換える。具体的にはスイッチング素子SW1がオフの状態に切り換えられて状態1が終了してからデッドタイムDT2を経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW5はオフの状態からオンの状態に切り換えられて状態2が開始される。
【0189】
状態2の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1、SW2、SW5が切り換えられることにより、三次巻き線Lcと消費回路13とが電気的に接続される。そして電気振動エネルギーErはトランス7Dの二次巻き線Lbから三次巻き線Lcを経由して消費回路13へと流れ、消費回路13に設けられている抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。抵抗R1において電気振動エネルギーErが消費されることにより、状態1において正のパルス波Pxが発振された後に発生するリンギング波Kxは、状態2の動作によって迅速に減衰される。従って、状態1においてパルス波Pxが発振された後のリンギング期間Rxは大幅に短縮される。リンギング波Kxが減衰して消失すると、状態2から状態3に移行して負のパルス波Pyを生成させる。
【0190】
第5の変形例における状態3では、スイッチング素子SW1およびSW5をオフに切り換える一方でスイッチング素子SW2をオンに切り換える。具体的にはスイッチング素子SW1およびSW5がオフの状態に切り換えられてからデッドタイムDT3が経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW2がオンの状態に切り換えられて状態3が開始される。
【0191】
状態3が開始されると電源11から電力がパルス発生回路9Jに供給され、スイッチング素子SW2を経由して、状態1とは逆向きの電流が流れる。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへとパルス波Pyによる負のパルス電圧が印加され、平行平板電極17においてプラズマPrが発生する。当該放電により、電気振動に起因するリンギング波Kyが発生する。そこで負のパルス波Pyを生成させる状態1が完了すると、状態2に移行してリンギング波Kyを減衰させる動作を行う。
【0192】
第5の変形例における状態4では状態2と同様に、パルス発生回路9Jのスイッチング素子SW1およびSW2をオフに切り換える一方で、消費回路13のスイッチング素子SW5をオンに切り換える。具体的にはスイッチング素子SW2がオフの状態に切り換えられて状態3が終了してからデッドタイムDT4を経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW5はオフの状態からオンの状態に切り換えられて状態4が開始される。
【0193】
状態4が開始されると、三次巻き線Lcと消費回路13とが再び電気的に接続される。そして電気振動エネルギーErが消費回路13へと流れ、消費回路13に設けられている抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。抵抗R1において電気振動エネルギーErが消費されることにより、状態3において負のパルス波Pyが発振された後に発生するリンギング波Kyは、状態4の動作によって迅速に減衰される。
【0194】
状態4の動作が完了することによって、状態1ないし状態4を1周期とする一連の動作が完了する。その後、状態4から状態1に戻り、状態1ないし状態4からなる一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。
【0195】
このようにパルス発生回路9は4石式回路に限ることはなく、1石式回路または2石式回路などを用いる場合であっても、リンギングを速やかに消費してパルスの高周波化を可能とするパルス電源装置3を実現できる。すなわち各実施例に係るパルス電源装置3において、パルス発生回路9を作動させてパルス波を生成させた後、消費回路13を作動させて電気振動エネルギーErを消費させて電気振動を減衰させる制御を行うことにより、パルス波の生成後に発生するリンギングを速やかに消費できる。
【0196】
(3)上述した各実施例および変形例において、パルス電源装置3と放電器5とを組み合わせた誘電体バリア放電装置1を例として説明したが、各実施例等に係るパルス電源装置3は、誘導加熱装置を例とする他の装置にも適用できる。ここでは
図30に示すように、実施例1に係るパルス電源装置3を備える誘導加熱装置31を例として説明する。
【0197】
当該誘導加熱装置31は、実施例1に係るパルス電源装置3と誘導加熱器33とを備えている。誘導加熱器33はトランス7の二次巻き線Lbに接続されており、誘導性負荷に相当する加熱用コイル35を備えている。加熱用コイル35は、内部に導電性の被加熱物を収容できるように構成されている。パルス電源装置3から出力されたパルス電圧が加熱用コイル35へ印加されることによって加熱用コイル35の周囲に磁界が発生し、導電性の被加熱物は加熱用コイル35に非接触の状態で加熱される。加熱用コイル35は本発明における誘導加熱部に相当する。
【0198】
パルス電源装置3を備える誘導加熱装置31の動作は、パルス電源装置3を備える誘電体バリア装置1の動作と共通する。すなわち
図2および
図3に示すように、パルス電源装置3に設けられているスイッチング素子SW1ないしスイッチング素子SW5のオン/オフの状態の組み合わせについて、状態1ないし状態4を1周期として当該4つの状態が繰り返される。状態1において正のパルス波Pxが生成され、加熱用コイル35に正のパルス電圧が印加されて誘導加熱が行われる。正のパルス波Pxの生成によって発生するリンギング波Kxは、状態2において電気振動エネルギーErが消費回路13で消費されることによって速やかに減衰する。
【0199】
その後、状態3において負のパルス波Pyが生成され、加熱用コイル35に負のパルス電圧が印加されて誘導加熱が再び行われる。負のパルス波Pyの生成によって発生するリンギング波Kyは、状態4において電気振動エネルギーErが消費回路13で消費されることによって速やかに減衰する。そして状態4から状態1に戻り、状態1ないし状態4を1周期として当該4つの状態が繰り返される。このように、誘電体バリア放電装置1に限ることはなく、誘導加熱装置31を例とする他の装置においてもパルス電源装置3を適用することにより、パルス波の波形を所望の形状に維持させつつパルス波の高周波化が可能となる。よって、好適にパルス電圧を印加させるとともに、パルス電圧の出力をさらに向上できる。
【0200】
(4)上述した実施例4において、消費回路13Cは実施例2に係る消費回路13Aを複数備える構成を例示したがこれに限られない。すなわち消費回路13Cは、実施例1に係る消費回路13を複数備える構成であってもよいし、実施例3に係る消費回路13Bを複数備える構成であってもよい。
【0201】
またパルス電源装置3が複数の消費回路13を備える構成において、各々の消費回路13は、適した電気振動の周波数が異なることが好ましい。一例として、特性が異なる消費回路13を2つ備えるパルス電源装置3Kの構成を
図34に示している。
図34は、当該第6の変形例に係るパルス電源装置3Kを備える誘電バリア装置1Kの構成を示している。
【0202】
第6の変形例に係るパルス電源装置3Kでは、一方の消費回路13(消費回路13X)は比較的周波数が高い電気振動の消費に適しており、他方の消費回路13(消費回路13Y)は比較的周波数が低い電気振動の消費に適した構成を備える構成が挙げられる。消費回路13Xは、直列接続されている抵抗Rxとスイッチング素子SW5xとを備えている。消費回路13Yは、直列接続されている抵抗Ryとスイッチング素子SW5yとを備えている。パルス電源装置3Kでは、抵抗Rxは周波数が比較的高い電気振動の消費に適した抵抗値に設定されており、抵抗Ryは周波数が比較的低い電気振動の消費に適した抵抗値に設定されているものとする。
【0203】
このようなパルス電源装置3Kでは、電気振動の周波数を例とする条件の変化に応じて、複数の消費回路13の中から最も電気振動の消費に適したものを選択し、選択された消費回路13を用いて電気振動エネルギーErの消費を行う。すなわち当該パルス電源装置3において、電気振動の周波数を検知する検知部36が備えられており、さらに主制御部15は消費回路選択部37をさらに備える。
【0204】
消費回路選択部37は、複数の消費回路13の中から最も電気振動の消費に適したものを選択し、選択された消費回路13の情報をスイッチ制御部21へ送信する。スイッチ制御部21は、選択された消費回路13が備えているスイッチング素子SW5をオンの状態に切り換えることにより、消費回路選択部によって選択された消費回路13を作動させて電気振動エネルギーErを消費させる。
【0205】
具体例として、比較的高い周波数の電気振動が発生した場合、検知部36は電気振動の周波数を検知することにより、当該周波数の情報を消費回路選択部37に送信する。消費回路選択部37は、比較的高い周波数である電気振動が発生したことに基づいて、一方の消費回路13Xを選択する旨の情報をスイッチ制御部21に送信する。スイッチ制御部21は状態2などにおいて、消費回路13Xおよび消費回路13Yのうち消費回路13Xに設けられているスイッチング素子SW5xをオンに切り換える制御を行う。スイッチ制御部21の制御により、電気振動エネルギーErは消費回路13Xと消費回路13Yとのうち消費回路13Xへと流れ、比較的高周波の電気振動に適している抵抗Rxによって好適に消費される。
【0206】
このように複数の消費回路13を備えることにより、多様な周波数の電気振動に対して好適に対応可能なパルス電源装置3を実現できる。そのため、電気振動の周波数が変化した場合であっても、変化後の周波数に係るインピーダンスに対応した消費回路13を選択的に用いてリンギング波を減衰させることができる。
【符号の説明】
【0207】
1 …誘電体バリア放電装置
3 …パルス電源装置
5 …放電器(誘電体バリア放電部)
7 …トランス
9 …パルス発生回路
11 …電源
13 …消費回路(電気振動消費回路)
15 …主制御部
17 …平行平板電極
17a …第1電極
17b …第2電極
19 …誘電体
21 …スイッチ制御部
23 …消費時間制御部
25 …コンバータ
31 …誘導加熱装置
33 …誘導加熱器
35 …加熱用コイル
36 …検知部
37 …消費回路選択部
R1 …抵抗
C1 …コンデンサ
D1 …ダイオード
SW1~SW4 …スイッチング素子(パルス波発生用スイッチング素子)
SW5~SW6 …スイッチング素子(抵抗用スイッチング素子)
La …一次巻き線
Lb …二次巻き線
Lc …三次巻き線
Er …電気振動エネルギー
【要約】
【課題】パルスの高周波化および出力の向上を可能とするパルス電源装置、誘電体バリア放電装置、および誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】
一次巻き線Laと二次巻き線Lbとを備えるトランス7と、一次巻き線Laに接続されており、少なくとも1つのスイッチング素子SW1を有するパルス発生回路9と、パルス発生回路9と並列接続されており、二次巻き線Lbにおいて発生して一次巻き線Laへ伝達される電気振動エネルギーErを消費させる抵抗R1と抵抗R1に直列接続されているスイッチング素子SW5とを有する消費回路13と、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW5のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部21と、スイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部23と、を備える。
【選択図】
図1