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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】視線誘導装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20230301BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60K35/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018128586
(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公開番号】P2020009077
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187311
【弁理士】
【氏名又は名称】小飛山 悟史
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】濱田 洋人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 照昌
(72)【発明者】
【氏名】熊田 孝恒
(72)【発明者】
【氏名】樋口 洋子
【審査官】▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-203103(JP,A)
【文献】特開2007-276527(JP,A)
【文献】特開2010-195063(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
B60K 35/00
G02B 27/01 - 27/64
B60J 1/00 - 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントガラスに重畳表示を行うHUDを用いて前記車両の運転者の視線を誘導する視線誘導装置であって、
前記車両の外部センサの検出結果に基づいて、前記車両の前方の誘目対象を認識する誘目対象認識部と、
前記HUDにより、前記運転者から見て前記誘目対象を中心として放射状に移動する複数の光点であるオプティカルフロー表示を前記車両のフロントガラスに重畳表示させる表示制御部と、
を備え
前記表示制御部は、前記光点の密度を前記誘目対象と前記車両との距離に応じて変化させる、視線誘導装置。
【請求項2】
前記表示制御部は、前記車両外の風景が昼である場合と比べて、前記車両外の風景が夜である場合には輝度の小さい前記オプティカルフロー表示を前記車両のフロントガラスに重畳表示させる、請求項1に記載の視線誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の視線を誘導する視線誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の運転者の視線を誘導する視線誘導装置に関する技術文献として、特開2014-099105号公報が知られている。この公報には、車両の運転者の視界における誘目対象に重畳して画像を表示し、運転者の視線が誘目対象に誘導されたことを検出した場合に画像の表示を取り止めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-099105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術のように誘目対象に重ねた画像表示によって運転者の注意を引き付けた場合、画像表示への注意集中が発生し、それ以前の運転者の意志による注意方向(車両の進行方向など)から注意が逸れ、視野全体への注意が少なくなることが知られている。
【0005】
そこで、本技術分野では、運転者の視野全体への注意を妨げることを抑制しつつ、運転者の視線を誘目対象に誘導することができる視線誘導装置を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、車両のフロントガラスに重畳表示を行うHUDを用いて車両の運転者の視線を誘導する視線誘導装置であって、車両の外部センサの検出結果に基づいて、車両の前方の誘目対象を認識する誘目対象認識部と、HUDにより、運転者から見て誘目対象を中心として放射状に移動する複数の光点であるオプティカルフロー表示を車両のフロントガラスに重畳表示させる表示制御部と、を備え、表示制御部は、光点の密度を誘目対象と車両との距離に応じて変化させる
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、運転者の視野全体への注意を妨げることを抑制しつつ、運転者の視線を誘目対象に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る視線誘導装置を示すブロック図である。
図2】オプティカルフロー表示の一例を示す図である。
図3】(a)従来の視線誘導による運転者の注意状況を説明するための図である。(b)オプティカルフロー表示による運転者の注意状況を説明するための図である。
図4】オプティカルフロー表示の処理の一例を示すフローチャートである。
図5】第2実施形態に係る視線誘導装置を示すブロック図である。
図6】第2実施形態におけるオプティカルフロー表示の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1に示す第1実施形態に係る視線誘導装置100は、乗用車などの車両に搭載され、車両の運転者の視線の誘導を行う。視線誘導装置100は、車両の前方に存在する誘目対象に対して運転者の視線を誘導する。誘目対象とは、運転者の視線誘導の対象である。誘目対象には、例えば他車両、歩行者、標識、路面標示(例えば一時停止線)、信号機などが含まれる。誘目対象には、地点を含めてもよい。誘目対象には、例えば歩行者の飛び出しが予測される建物の影となる地点(車両の運転者から見て建物によって視界が遮られる地点)などを含めてもよい。このような地点は例えば地図情報に予め記憶される。
【0011】
〈第1の実施形態の視線誘導装置の構成〉
以下、第1の実施形態の視線誘導装置100の構成について図面を参照して説明する。図1に示されるように、視線誘導装置100は、装置を統括的に制御するECU10を備えている。ECU10は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECU10では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU10は、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0012】
ECU10は、GPS受信部1、外部センサ2、内部センサ3、地図データベース4、及びHUD[Head Up Display]5と接続されている。
【0013】
GPS受信部1は、3個以上のGPS衛星から信号を受信することにより、車両の位置(例えば車両の緯度及び経度)を測定する。GPS受信部1は、測定した車両の位置情報をECU10へ送信する。
【0014】
外部センサ2は、車両の周辺の状況を検出する検出機器である。外部センサ2は、少なくともカメラを含んでいる。カメラは、車両の外部状況を撮像する撮像機器である。カメラは、車両のフロントガラスの裏側に設けられ、車両前方を撮像する。カメラは、車両の外部状況に関する撮像画像をECU10へ送信する。カメラは、単眼カメラであってもよく、ステレオカメラであってもよい。
【0015】
外部センサ2は、レーダセンサを含んでもよい。レーダセンサは、電波(例えばミリ波)又は光を利用して車両の周辺の物体を検出する検出機器である。レーダセンサには、例えば、ミリ波レーダ又はライダー[LIDAR:Light Detection and Ranging]が含まれる。レーダセンサは、電波又は光を車両の周辺に送信し、物体で反射された電波又は光を受信することで物体を検出する。レーダセンサは、検出した物体情報をECU10へ送信する。物体には、ガードレール、建物等の固定物体の他、歩行者、自転車、他車両等の移動物体が含まれる。
【0016】
内部センサ3は、車両の走行状態を検出する検出機器である。内部センサ3は、車速センサ、加速度センサ、及びヨーレートセンサを含む。車速センサは、車両の速度を検出する検出器である。車速センサとしては、例えば、車両の車輪又は車輪と一体に回転するドライブシャフト等に対して設けられ、車輪の回転速度を検出する車輪速センサが用いられる。車速センサは、検出した車速情報をECU10に送信する。
【0017】
加速度センサは、車両の加速度を検出する検出器である。加速度センサは、例えば、車両の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサと、車両の横加速度を検出する横加速度センサとを含んでいる。加速度センサは、例えば、車両の加速度情報をECU10に送信する。ヨーレートセンサは、車両の重心の鉛直軸周りのヨーレート(回転角速度)を検出する検出器である。ヨーレートセンサとしては、例えばジャイロセンサを用いることができる。ヨーレートセンサは、検出した車両のヨーレート情報をECU10へ送信する。
【0018】
地図データベース4は、地図情報を記憶するデータベースである。地図データベース4は、例えば、車両に搭載されたHDD[Hard Disk Drive]内に形成されている。地図情報には、道路の位置情報、道路形状の情報(例えばカーブ、直線部の種別、カーブの曲率等)、交差点及び分岐点の位置情報、及び構造物の位置情報などが含まれる。
【0019】
地図データベース4には、誘目対象となる地点のデータが記憶されていてもよい。誘目対象となる地点とは、車両の運転者の視線を誘導させることが望ましい地点である。誘目対象となる地点には、歩行者の飛び出しが予測される建物の影の地点、建物の間の細い路地の出口地点などが挙げられる。なお、地図データベース4は、車両と通信可能なサーバーに形成されていてもよい。
【0020】
HUD5は、車両のフロントガラスに画像を投影して、車両の前方の風景に重畳表示を行う表示器である。HUD5は、例えば車両のインストルメントパネル内に設置された映写部を有する。映写部は、インストルメントパネルに設けた開口部を介してフロントガラスの内側面に画像を投影する。運転者は、フロントガラスからの反射によって画像を視認することができる。なお、HUD5の構造は上記内容に限定されない。
【0021】
次に、ECU10の機能的構成について説明する。ECU10は、車両位置認識部11、誘目対象認識部12、環境認識部13、及び表示制御部14を有している。
【0022】
車両位置認識部11は、GPS受信部1の位置情報及び地図データベース4の地図情報に基づいて、車両の地図上の位置を認識する。また、車両位置認識部11は、地図データベース4の地図情報に含まれた電柱等の固定障害物の位置情報及び外部センサ2の検出結果を利用して、SLAM[Simultaneous Localization and Mapping]技術により車両の位置を認識する。車両位置認識部11は、その他、周知の手法により車両の地図上の位置を認識してもよい。
【0023】
誘目対象認識部12は、車両の前方の誘目対象を認識する。誘目対象認識部12は、外部センサ2の検出結果(カメラの撮像画像)に基づいて、パターンマッチングなどの画像処理によって誘目対象(他車両、歩行者など)を認識する。誘目対象認識部12は、距離推定ロジックなどの画像処理により、車両に対する誘目対象の相対位置を認識する。なお、誘目対象認識部12は、レーダセンサの物体情報を利用することで、一時停止線などの白線認識又は物体形状のパターンマッチングにより車両に対する誘目対象の相対位置を認識してもよい。また、誘目対象認識部12は、車両に対する誘目対象の相対位置を必ずしも認識する必要はなく、カメラの撮像画像中における誘目対象の位置(画像中の位置)を認識してもよい。
【0024】
また、誘目対象認識部12は、車両位置認識部11の認識した車両の地図上の位置と地図データベース4の地図情報とに基づいて、走行環境解析を行うことで誘目対象を認識してもよい。走行環境解析では、車両の走行環境における前方風景からは運転者が視認しにくいが注意が必要な対象を誘目対象として抽出する。この場合の誘目対象には、例えば交差点や合流地点などの地点、交通規制の標識などが含まれる。これらは地図情報に位置が記憶されている誘目対象である。
【0025】
具体的に、誘目対象認識部12は、車両の地図上の位置と地図情報とに基づいて、車両の前方の視認範囲に含まれる誘目対象を認識することができる。視認範囲とは、運転者が視認可能な範囲として予め設定された範囲である。視認範囲は車両を基準とした任意の範囲として設定することができる。誘目対象認識部12は、車両の前方の視認範囲に含まれる誘目対象を特定して認識すると共に、誘目対象の地図上の位置情報を認識することができる。なお、誘目対象認識部12は、車両の地図上の位置と誘目対象の地図上の位置情報から車両に対する誘目対象の相対位置を認識してもよい。
【0026】
環境認識部13は、外部センサ2の検出結果(カメラの撮像画像)に基づいて、車両の前方の環境を認識する。車両の前方の環境は運転者が視認する風景に相当する。環境認識部13は、例えばカメラの撮像画像から車両の前方の環境における光学的、色学的刺激値を算出する。
【0027】
表示制御部14は、誘目対象認識部12により誘目対象が認識された場合、HUD5により、運転者から見て誘目対象を中心として放射状に移動する複数の光表示を含むオプティカルフロー表示を車両のフロントガラスに重畳表示させる。オプティカルフロー表示の中心を拡張中心と呼ぶ。オプティカルフロー表示は、誘目対象に重複させる必要はない。オプティカルフロー表示は、フロントガラス上で誘目対象から所定の距離離れるように(誘目対象の周りに空白ができるように)表示されてもよい。
【0028】
表示制御部14は、誘目対象認識部12により認識された誘目対象が複数存在する場合、オプティカルフロー表示の対象となる誘目の対象の決定を行う。表示制御部14は、例えば誘目対象の種類及び/又は車両と誘目対象との距離に応じて、予め設定された優先順位から、誘目の対象を一つ決定する。
【0029】
表示制御部14は、運転者の視点の位置について予め設定された位置(例えば車両の出荷時の設定位置)としてもよく、運転席のシート位置から運転者の視点を求めてもよい。表示制御部14は、運転席のシート位置を検出するシートセンサの検出結果に基づいて、運転席のシートの前後方向の位置及び座面の高さを検出することができる。
【0030】
具体的に、表示制御部14は、例えばシートの前後方向の位置及び座面の高さと運転者の視点位置とを予め関連付けたテーブルデータを利用して、運転者の視点位置を求めてもよい。表示制御部14は、予め決められた演算式から運転者の視点位置を求めてもよい。或いは、表示制御部14は、車両に設けられたドライバモニタカメラによる運転者の撮像画像から、運転者の視点位置を求めてもよい。
【0031】
表示制御部14は、運転者の視点位置と誘目対象認識部12の認識した車両に対する誘目対象の相対位置(又は撮像画像中の誘目対象の位置)と環境認識部13の認識した車両の前方の環境とに基づいて、オプティカルフロー表示の演算を行う。表示制御部14は、運転者から見て誘目対象を中心として放射状に移動する複数の光表示となるようにオプティカルフロー表示を演算する。
【0032】
また、表示制御部14は、環境認識部13の認識した車両の前方の環境に基づいて、運転者に強すぎる刺激を与えないように、オプティカルフロー表示の演算を行う。表示制御部14は、車両の前方の風景の画像の顕著性などから過度の視線誘導を発生させない程度の刺激強度となるように、オプティカルフロー表示の輝度及び色を決定する。表示制御部14は、運転者に強すぎる刺激を与えないように車両外の風景が昼である場合と比べて、夜である場合には輝度の小さいオプティカルフロー表示となるように演算する。
【0033】
表示制御部14は、オプティカルフロー表示の演算終了後、HUD5に制御信号を送信することで、オプティカルフロー表示を車両のフロントガラスに重畳表示させる。ここで、図2は、オプティカルフロー表示の一例を示す図である。図2に、誘目対象である先行車Nと複数の光表示Fを示す。光表示Fから伸びる矢印は、光表示Fの時間経過による移動方向を示している。
【0034】
図2に示すように、オプティカルフロー表示では、誘目対象である先行車Nを中心として複数の光表示Fが放射状に移動するように重畳表示される。このようなオプティカルフロー表示は、運転者の視線をフロー上流側に誘導させ、放射状に移動する複数の光表示の中心にある誘目対象に運転者の注意を向けさせる効果がある。運転者がフロントガラスを通して車両の前方を見ている場合、オプティカルフロー表示の発生時の運転者の視線位置にかかわらず、上記効果を得ることができる。
【0035】
複数の光表示Fは、一例として、先行車Nを囲むように多重に配置される。複数の光表示Fは、必ずしも先行車Nを多重に囲む必要はなく、一重に囲む態様であってもよい。複数の光表示Fは、先行車Nを中心として放射状に移動していることが運転者に伝われば、より少ない個数であってもよい。光表示Fの形状は円形状である必要はなく、矩形状であってもよく、多角形状であってもよい。光表示Fの形状は、移動方向に延在する長尺形状であってもよい。
【0036】
また、発明者らは、光表示Fの密度(フロントガラス上における光表示Fの集合状況)が高いほど運転者の視線誘導の効果が得られることを新たに見出した。光表示Fの密度は、誘目対象の種類や誘目対象と車両との距離に応じて変化してもよい。表示制御部14は、例えば先行車Nと車両との距離が所定距離未満である場合、先行車Nと車両との距離が所定距離以上である場合と比べて、複数の光表示Fの密度を増加させてもよい。
【0037】
表示制御部14は、一定時間の間、オプティカルフロー表示を重畳表示させる。一定時間は例えば1秒である。表示制御部14は、オプティカルフロー表示を終了した後も、同じ誘目対象が存在する場合には、所定時間(例えば5秒~10秒の任意の時間)の経過後に、再びオプティカルフロー表示を重畳表示させてもよい。
【0038】
図3(a)は、従来の視線誘導による運転者の注意状況を説明するための図である。従来の視線誘導では、誘目対象の上に重なるように強い刺激の画像表示が一つだけ重畳表示される。図3(a)に、フロントガラスFg、視線誘導前の運転者の視線位置E、運転者の視線位置Eに対応する運転者の注意領域C、フロントガラスFg上の誘目対象T、及び運転者の視線位置が誘目対象Tに惹き付けられた場合の運転者の注意領域Cを示す。この場合、運転者は誘目対象に視線が惹き付けられるが、その注意領域Cが狭いものとなる。その結果、運転者がそれまで注目していた注意領域C(例えば車両の走行するカーブの進行方向)への注意を必要以上に低下させてしまうおそれがある。
【0039】
図3(b)は、オプティカルフロー表示による運転者の注意状況を説明するための図である。図3(b)に、オプティカルフロー表示によって運転者の視線が誘目対象Tに誘導された場合における注意領域C1~C3を示す。注意領域C1~C3は、注意領域C1、注意領域C2、注意領域C3の順に運転者の気づきやすさが低くなる。注意領域C1~C3は、フロントガラスFg上の誘目対象Tから視線誘導前の運転者の視線位置Eに伸びる楕円形状の領域となっている。注意領域C1及びC2には、誘目対象Tと視線誘導前の運転者の視線位置Eとの両方が含まれる。
【0040】
図3(b)に示すように、視線誘導装置100によるオプティカルフロー表示によれば、運転者の視線を過剰に引き付けることなく、表示前の運転者の視点位置に対する気づきやすさも残しながら、運転者の視線を誘目対象に誘導することができる。
【0041】
〈第1実施形態の視線誘導装置の処理〉
次に、第1実施形態に係る視線誘導装置100の処理について図4を参照して説明する。図4は、オプティカルフロー表示の処理の一例を示すフローチャートである。図4のフローチャートの処理は、例えば車両の走行中に実行される。
【0042】
図4に示すように、視線誘導装置100のECU10は、S10として、車両位置認識部11により車両の地図上の位置を認識する。車両位置認識部11は、GPS受信部1の位置情報及び地図データベース4の地図情報に基づいて、車両の地図上の位置を認識する。その後、ECU10はS12に移行する。
【0043】
S12において、ECU10は、誘目対象認識部12により車両の前方の誘目対象を認識する。誘目対象認識部12は、例えば外部センサ2の検出結果(カメラの撮像画像)に基づいて、パターンマッチングなどの画像処理によって誘目対象を認識する。その後、ECU10は、S14に移行する。
【0044】
S14において、ECU10は、誘目対象認識部12により車両の前方に誘目対象が存在するか否かを判定する。ECU10は、車両の前方に誘目対象が存在しないと判定された場合(S14:NO)、今回の処理を終了する。その後、ECU10は、一定時間の経過後に再びS10から処理を繰り返す。ECU10は、車両の前方に誘目対象が存在すると判定された場合(S14:YES)、S16に移行する。
【0045】
S16において、ECU10は、表示制御部14により誘目の対象の決定を行うと共に、環境認識部13による車両の前方の環境認識を行う。表示制御部14は、例えば誘目対象の種類及び/又は車両と誘目対象との距離に応じて、予め設定された優先順位から、誘目の対象を一つ決定する。環境認識部13は、外部センサ2の検出結果(カメラの撮像画像)に基づいて、車両の前方の環境を認識する。その後、ECU10は、S18に移行する。
【0046】
S18において、ECU10は、表示制御部14によりオプティカルフロー表示の演算を行う。表示制御部14は、運転者の視点位置と誘目対象認識部12の認識した車両に対する誘目対象の相対位置(又は撮像画像中の誘目対象の位置)と環境認識部13の認識した車両の前方の環境とに基づいて、オプティカルフロー表示の演算を行う。その後、ECU10は、S20に移行する。
【0047】
S20において、ECU10は、表示制御部14によりオプティカルフロー表示の重畳表示を行う。表示制御部14は、オプティカルフロー表示の演算終了後、HUD5に制御信号を送信することで、オプティカルフロー表示を車両のフロントガラスに重畳表示させる。表示制御部14は、運転者から見て誘目対象を中心として放射状に移動する複数の光表示を含むオプティカルフロー表示を車両のフロントガラスに重畳表示させる(図2参照)。
【0048】
〈第1実施形態の視線誘導装置の作用効果〉
以上説明した第1実施形態の視線誘導装置100によれば、運転者の視野全体への注意を妨げることを抑制しつつ、運転者の視線を誘目対象に誘導することができる。すなわち、従来のように誘目対象に重ねて強い刺激の画像表示を重畳表示させる場合には、運転者はそれ以前に注意が向いていた箇所に注意が向きにくくなると言うことが知られていた。また、従来技術において、風景画像そのものの視覚刺激を高めて視線誘導すると、風景全体の中で視覚刺激の箇所の付近への注意集中が過剰に発生する。更に、誘目対象に奥行差がある場合には、いま注目しているものよりも奥行方向に位置する外界風景へは注意を向けることが難しいと言うことが知られている。
【0049】
これに対して、視線誘導装置100では、運転者から見て誘目対象を中心として放射状に移動する複数の光表示を含むオプティカルフロー表示を車両のフロントガラスに重畳表示させることにより、従来の技術と比べて、運転者がそれ以前に注意が向いていた箇所にも気づきやすさを残しつつ、運転者の視線を誘目対象に誘導することができる(図3(b)参照)。視線誘導装置100では、誘目対象以外の箇所についても運転者の気づきやすさを確保することができる。
【0050】
また、視線誘導装置100では、オプティカルフロー表示が終了した後も、運転者意思による注意と同等の注意を誘導する効果が残留することが新たに見出された。従って、視線誘導装置100では、運転者の視線移動を検出せずに、オプティカルフロー表示を終了したとしても誘目対象への注意は維持され、復帰の抑制作用は少ない。オプティカルフロー表示後も注意拡大は維持されている。このように、視線誘導装置100では、運転者の視野全体への注意を妨げることを抑制しつつ、運転者の視線を誘目対象に誘導することができる。
【0051】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る視線誘導装置について図面を参照して説明する。図5は、第2実施形態に係る視線誘導装置を示すブロック図である。図5に示す第2実施形態に係る視線誘導装置200は、第1実施形態と比べて、運転者の運転行動履歴の解析結果を利用して誘目対象を認識する点が異なっている。第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0052】
〈第2実施形態の視線誘導装置の構成〉
図5に示されるように、視線誘導装置200のECU20は、運転履歴データベース6と接続されている。運転履歴データベース6は、運転者の運転行動履歴が記憶されたデータベースである。運転履歴データベース6には、例えば車両の地図上の位置と関連付けられた運転者の運転行動履歴が記憶されている。運転履歴データベース6には、一時停止線の地点で運転者がブレーキ操作を行わなかったことなどが記憶される。
【0053】
ECU20は、運転行動解析部21を有している。運転行動解析部21は、運転履歴データベース6の記憶内容に基づいて、運転者の運転行動履歴を解析する。運転行動解析部21は、運転者の認知不足が原因で適切な運転行動が行えていない対象又は地点を特定する。運転行動解析部21は、例えば、ある一時停止線の地点で運転者がブレーキ操作無しで通過したことが複数回ある場合、当該一時停止線の地点を運転者が認知不足の対象として特定する。
【0054】
誘目対象認識部22は、第1実施形態の内容に加えて、運転行動解析部21の解析結果に基づいて、誘目対象を認識する。誘目対象認識部22は、運転者がブレーキ操作無しで複数回通過した一時停止線の地点を誘目対象として認識する。
【0055】
その他、表示制御部14は、上記の場合において、一時停止線の地点の優先順位を挙げて、オプティカルフロー表示の誘目の対象になりやすくしてもよい。
【0056】
〈第2実施形態の視線誘導装置の処理〉
続いて、第2実施形態に係る視線誘導装置200の処理について図6を参照して説明する。図6は、第2実施形態におけるオプティカルフロー表示の処理の一例を示すフローチャートである。図6のフローチャートの処理は、例えば車両の走行中に実行される。
【0057】
図6に示すように、視線誘導装置200のECU20は、S30として、車両位置認識部11により車両の地図上の位置を認識する。S30の処理は図4のS10の処理と同じである。その後、ECU20は、S32に移行する。
【0058】
S32において、ECU20は、運転行動解析部21による運転行動履歴の解析を行う。運転行動解析部21は、運転履歴データベース6の記憶内容に基づいて、運転者の運転行動履歴を解析する。運転行動解析部21は、例えば、ある一時停止線の地点で運転者がブレーキ操作無しで通過したことが複数回ある場合、当該一時停止線の地点を運転者が認知不足の対象として特定する。その後、ECU20は、S34に移行する。
【0059】
S34において、ECU20は、誘目対象認識部22により車両の前方の誘目対象を認識する。誘目対象認識部22は、第1実施形態の内容に加えて、運転行動解析部21の解析結果に基づいて、誘目対象を認識する。誘目対象認識部22は、例えば運転者がブレーキ操作無しで複数回通過した一時停止線の地点を誘目対象として認識する。その後、ECU20は、S36に移行する。
【0060】
図6のS36、S38、S40、及びS42は、それぞれ図4におけるS14、S16、S18、S20に対応する処理であるため説明を省略する。
【0061】
なお、運転行動履歴の解析は、上記のフローとは別に行う態様であってもよい。視線誘導装置200は、例えば車両の停止時又は車両の停止している夜間に運転行動履歴の解析を行う態様であってもよい。
【0062】
〈第2実施形態の視線誘導装置の作用効果〉
第2実施形態に係る視線誘導装置200によれば、運転者の運転行動履歴の解析結果に基づいて誘目対象を認識するので、運転者の認知不足が推定される対象への運転者の認知を改善することができる。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0064】
視線誘導装置100,200は、必ずしもGPS受信部1及び地図データベース4を備える必要はない。また、地図データベース4には誘目対象となる地点が記憶されている必要はない。この場合には、視線誘導装置100,200は、外部センサ2の検出結果から誘目対象を認識する。
【符号の説明】
【0065】
1…GPS受信部、2…外部センサ、3…内部センサ、4…地図データベース、5…HUD、10…ECU、11…車両位置認識部、12…誘目対象認識部、13…環境認識部、14…表示制御部、100…視線誘導装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6