(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】燃料電池用膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20230301BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230301BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230301BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/96 B
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019226784
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 高分子学会予稿集 68巻2号〔2019〕 発行所:公益社団法人 高分子学会 発行日:令和1年9月11日 [刊行物等] 第68回高分子討論会 開催日:令和1年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 稔幸
(72)【発明者】
【氏名】陸川 政弘
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-530139(JP,A)
【文献】特開2016-131098(JP,A)
【文献】特開2012-216313(JP,A)
【文献】特開2018-187618(JP,A)
【文献】特開2003-068310(JP,A)
【文献】特開2008-177135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス拡散触媒電極層及び電解質膜を有しており、
前記ガス拡散触媒電極層は、触媒金属、前記触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有している繊維状炭素ガス拡散層を有しており、
前記カーボン担体に対する前記イオン液体の質量比は、0.40~0.60であり、かつ
前記イオン液体は、ジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジエチルメチルアンモニウムノナフルオロ
ブタンスルホネート、又はジエチルメチルアンモニウムヘプタデカフルオロオクタンスルホネートである、
燃料電池用膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
アノードガス、例えば水素と、カソードガス、例えば酸素とを化学反応させることによって発電を行う、燃料電池が知られている。
【0003】
従来、燃料電池の内部、例えば触媒電極層においてプロトンを伝導するために、アイオノマーが用いられてきた。しかしながら、アイオノマーは、水を介してプロトンを伝導するため、低湿度条件下、例えば100℃以上の高温環境下において、触媒電極層におけるプロトン伝導性が低下し、燃料電池の発電特性が低下する場合がある。
【0004】
そのため、従来の燃料電池には、電池内部を加湿し、かつ冷却するシステムが必要とされており、このようなシステムによって燃料電池が高コスト化していた。
【0005】
このような問題に対して、水を介さずにプロトンを伝導することができるイオン液体を、例えば触媒電極層に適用することが検討されている。
【0006】
イオン液体の燃料電池への適用に関する技術としては、例えば特許文献1~3に記載の技術を挙げることができる。
【0007】
特許文献1は、触媒とイオン液体を有している触媒電極層を燃料極電極として有する燃料電池を開示している。
【0008】
また、特許文献2は、イオン液体と水酸基等の活性水素を有する置換基を有するポリマーとの相溶体からなるプロトン伝導体、及び当該プロトン伝導体を電解質として用いた固体高分子型燃料電池を開示している。
【0009】
また、特許文献3は、触媒、触媒担体、イオン液体、及び固定化剤を有する燃料電池用触媒電極層にガス流路を設けた構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-218098号公報
【文献】特開2012-041474号公報
【文献】特開2008-177134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
燃料電池にイオン液体を適用するにあたって、高い発電特性を実現するためには、プロトン伝導パス、電子伝導パス、及びガス拡散性の向上、並びに生成水によるイオン液体の流出の抑制等、実使用環境下に対応した構成が求められる。
【0012】
本開示は、低湿度環境下においても高い発電特性を有し、かつ加湿水や生成水によるイオン液体の流出を抑制することができる、燃料電池用膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
ガス拡散触媒電極層及び電解質膜を有しており、
前記ガス拡散触媒電極層は、触媒金属、前記触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有している繊維状炭素ガス拡散層を有しており、
前記カーボン担体に対する前記イオン液体の質量比は、0.40~0.60であり、かつ
前記イオン液体は、ジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジエチルメチルアンモニウムノナフルオロブタンスルホネート、又はジエチルメチルアンモニウムヘプタデカフルオロオクタンスルホネートである、
燃料電池用膜電極接合体。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、低湿度環境下においても高い発電特性を有し、かつ加湿水や生成水によるイオン液体の流出を抑制することができる、燃料電池用膜電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは、カソードの相対湿度が80%RHであるときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図1B】
図1Bは、カソードの相対湿度が30%RHであるときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図1C】
図1Cは、カソードの相対湿度が無加湿(0%RH)であるときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図2A】
図2Aは、カソードの相対湿度が80%RHであるときの、実施例1~3の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、カソードの相対湿度が30%RHであるときの、実施例1~3の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、カソードの相対湿度が無加湿(0%RH)であるときの、実施例1~3の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図3A】
図3Aは、カソードの相対湿度が80%RHであるときの、実施例3及び6の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、カソードの相対湿度が30%RHであるときの、実施例3及び6の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図3C】
図3Cは、カソードの相対湿度が無加湿(0%RH)であるときの、実施例3及び6の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、カソードの相対湿度が80%RHであるときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、カソードの相対湿度が30%RHであるときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【
図4C】
図4Cは、カソードの相対湿度が無加湿(0%RH)であるときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、カソードの相対湿度が80%RHであるときの、実施例1~3の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【
図5B】
図5Bは、カソードの相対湿度が30%RHであるときの、実施例1~3の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【
図5C】
図5Cは、カソードの相対湿度が無加湿(0%RH)であるときの、実施例1~3の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例1、2、4及び5、並びに比較例1及び2の燃料電池セルの相対湿度とOCVとの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例1、2、4及び5、並びに比較例1及び2の燃料電池セルのECAの測定結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、カソードの相対湿度が80%RHであるときの、実施例7及び参考例1~4の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【
図9】
図9は、カソードの相対湿度が80%RHであるときの、実施例7及び参考例1~4の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【
図10A】
図10Aは、実施例8の燃料電池セルの各サイクル後におけるCV測定結果を示すグラフである。
【
図10B】
図10Bは、比較例3の燃料電池セルの各サイクル後におけるCV測定結果を示すグラフである。
【
図11A】
図11Aは、実施例8の燃料電池セルについて、CV測定に基づいて算出されたECA値の変化を、NEDOによる「セル評価解析プロトコル」に従い、横軸を対数軸としたグラフである。
【
図11B】
図11Bは、比較例3の燃料電池セルについて、CV測定に基づいて算出されたECA値の変化を、NEDOによる「セル評価解析プロトコル」に従い、横軸を対数軸としたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0017】
本開示の燃料電池用膜電極接合体は、ガス拡散触媒電極層及び電解質膜を有しており、ガス拡散触媒電極層は、触媒金属、触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有している繊維状炭素ガス拡散層を有しており、カーボン担体に対するイオン液体の質量比は、0.40~0.60であり、かつイオン液体は、ジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート(dema[TFO])、ジエチルメチルアンモニウムノナフルオロブタンスルホネート(dema[NFO])、又はジエチルメチルアンモニウムヘプタデカフルオロオクタンスルホネート(dema[HFO])である。
【0018】
アイオノマーを用いた従来の膜電極接合体では、低加湿条件下、例えば相対湿度が30%RH~0%RHにおいてプロトン伝導性が低下するため、低加湿条件下において燃料電池の性能を低下させる場合があった。これは、アイオノマーのプロトン伝導が水を介して行われることによる。
【0019】
本開示の膜電極接合体では、プロトン伝導体として、水を介さずにプロトン伝導を行うことができるイオン液体であるdema[TFO]、dema[NFO]、又はdema[HFO]を、触媒金属を担持する触媒担体であるカーボン担体に対して0.40~0.60の質量比で含浸させて用いることにより、従来のNafion(商標登録)アイオノマーを用いた場合よりも高い発電特性を、特に低湿度環境下において高い発電特性を有し、かつ加湿水や生成水によるイオン液体の流出を抑制することができる。
【0020】
更に、本開示の膜電極接合体では、イオン液体がカーボン担体に対して0.4~0.6の質量比で含浸させて用いられていることにより、特に固定化剤等を用いることなく、イオン液体を繊維状炭素ガス拡散層に固定化することができる。
【0021】
また、本開示の膜電極接合体は、アイオノマーを用いた膜電極接合体よりも高い耐久性を有している。
【0022】
《ガス拡散触媒電極層》
本開示において、ガス拡散触媒電極層は、触媒金属、触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有している繊維状炭素ガス拡散層を有している。ガス拡散触媒電極層は、燃料極側及び空気極側のいずれのガス拡散触媒電極層であってもよいが、カソード反応を有利に進める観点から、空気極側のガス拡散触媒電極層に用いるのが好ましい。
【0023】
なお、繊維状炭素ガス拡散層は、触媒金属、触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有する触媒インクが含浸していることによって、触媒金属、触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有していることができる。
【0024】
ガス拡散触媒電極層は、触媒金属、触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有している繊維状炭素ガス拡散層を有しており、カーボン担体に対するイオン液体の質量比は、0.40~0.60である。
【0025】
カーボン担体に対するイオン液体の質量比は、0.40以上、0.45以上、0.50以上、又は0.52以上であってよく、0.60以下、0.58以下、0.55以下、又は0.53以下であってよい。
【0026】
触媒金属、触媒金属を担持しているカーボン担体、及びイオン液体を含有しているガス拡散触媒電極層を作製する方法は特に限定されないが、例えば、触媒金属、触媒金属含有する触媒インクをガス拡散触媒電極層に含浸させること、より具体的には、触媒インクを塗布すること、より具体的には手塗法等によって行うことができる。
【0027】
〈触媒金属〉
触媒金属としては、例えばPt、Ptの合金、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。触媒金属は、カーボン担体に担持されている。
【0028】
〈カーボン担体〉
カーボン担体としては、燃料電池用触媒に用いることができる任意の炭素系の担体であってよく、例えばカーボンブラック等を挙げることができる。
【0029】
〈イオン液体〉
イオン液体は、ジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート(dema[TFO])、ジエチルメチルアンモニウムノナフルオロブタンスルホネート(dema[NFO])、又はジエチルメチルアンモニウムヘプタデカフルオロオクタンスルホネート(dema[HFO])である。イオン液体は、これらの混合であってもよい。
【0030】
これらのイオン液体は、高いプロトン伝導度に加えて、これらのイオン液体のアニオンであるトリフルオロメタンスルホネート、ノナフルオロブタンスルホネート、及びヘプタデカフルオロオクタンスルホネートのフルオロ鎖長(TfO:CF3
-、NfO:C4F9
-)が適度な長さを有しているため、疎水性による生成水の排水効果(フラッディング抑制)によるガス拡散性が維持されやすく、かつ触媒粒子と混合した際に、分散性の良い触媒インクが調製でき、均一なプロトン伝導性の薄膜層を適度な被覆率で形成できる。
【0031】
〈繊維状炭素ガス拡散層〉
繊維状炭素ガス拡散層は、アノードガス拡散層又はカソードガス拡散層いずれであってもよい。
【0032】
繊維状炭素ガス拡散層の材料は、燃料電池用触媒のアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層に用いることができる任意の繊維状炭素材料であってよい。このような材料としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、及びガラス状カーボンのようなカーボン多孔体を挙げることができる。
【0033】
《電解質膜》
電解質膜の材料としては、燃料電池単位セルの電解質膜に用いることができる任意の材料を用いることができる。このような材料としては、例えばフッ素系のイオン伝導性を有する高分子膜、より具体的には、パーフルオロスルホン酸を備えるプロトン導電性を有するイオン交換膜等を挙げることができる。電解質膜は、Nafion(商標登録)の膜であってよい。
【実施例1】
【0034】
《実施例1~6、並びに比較例1及び2》
以下のようにして、実施例1~6、並びに比較例1及び2の燃料電池セルを作製した。
【0035】
〈実施例1〉
9mLサンプル瓶に、イオン液体としてのジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート(dema[TfO])とエタノールとの混合液を調製した。この混合液全体に対して、dema[TfO]の量は2質量%であった。混合液を、少量の精製水を加えたPt担持カーボンに加え、40℃で3時間撹拌し、触媒インクとした。手塗法によって触媒インクをガス拡散層としての炭素繊維不織布に均一に塗布し、60℃で30分間減圧乾燥することにより、空気極側のガス拡散電極触媒層を作製した。
【0036】
なお、空気極側のガス拡散電極触媒層において、カーボン担体に対するdema[TfO]の質量比は0.52であった。また、Ptの塗布量は、1.05mg/cm2であった。
【0037】
次いで、アイオノマーとしてのNafion(商標登録)とエタノールとの混合液を調製した。この混合液全体に対して、Nafion(商標登録)の量は2質量%であった。混合液を、少量の精製水を加えたPt担持カーボンに加え、40℃で3時間撹拌し、触媒インクとした。手塗法によって触媒インクをガス拡散層としての炭素繊維不織布に均一に塗布し、60℃で30分間減圧乾燥することにより、燃料極側のガス拡散電極触媒層を作製した。
【0038】
なお、燃料極側のガス拡散電極触媒層において、カーボン担体に対するNafion(商標登録)の質量比は0.89であった。また、Ptの塗布量は、1.07mg/cm2であった。
【0039】
作製した空気極側及び燃料極側のガス拡散電極触媒層でNafion(商標登録)112膜を挟み込み、ホットプレスなしで膜電極接合体とし、1.8N/mの拘束圧で燃料電池セルを作製した。
【0040】
なお、燃料電池の活性領域の表面積は、5.06cm2であった。
【0041】
作製した燃料電池セルについて、定常的なI-V曲線が得られるまで、セル温度80℃、両極80%RH、アノード流速0.5L/min、カソード流速1.0L/min、両極1ataの条件下で慣らし運転を行った。なお、アノードガスには水素を、カソードガスには空気を、それぞれ用いた。
【0042】
〈実施例2〉
空気極側のガス拡散電極触媒層の作製において、dema[TfO]に代えてジエチルメチルアンモニウムノナフルオロブタンスルホネート(dema[NfO])をイオン液体として用いたことを除いて、実施例1と同様にして燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。
【0043】
〈実施例3〉
空気極側のガス拡散電極触媒層の作製において、dema[TfO]に代えてジエチルメチルアンモニウムヘプタデカフルオロオクタンスルホネート(dema[HFO])を用いたことを除いて、実施例1と同様にして実施例3の燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。
【0044】
〈比較例1〉
空気極側のガス拡散電極触媒層の作製において、イオン液体に代えてアイオノマーとしてのNafion(商標登録)を用いたことを除いて、実施例1と同様にして燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。
【0045】
〈実施例4~6、及び比較例2〉
実施例1におけるNafion(商標登録)112膜を、Nafion(商標登録)115膜に代えたことを除いて、実施例1と同様にして実施例4の燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。
【0046】
同様に、実施例2及び3、並びに比較例1におけるNafion(商標登録)112膜を、Nafion(商標登録)115膜に代えたことを除いて、それぞれ実施例2及び3、並びに比較例1と同様にして実施例5及び6、並びに比較例2の燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。
【0047】
【表1】
〈I-V特性の評価〉
実施例1~3、及び比較例1の燃料電池セルそれぞれについて、セル温度80℃、アノード80%RH、アノード流速0.5L/min、カソード流速1.0L/min、2ataの条件下にてカソードの相対湿度を80%RH、30%RH、及び無加湿(0%RH)に変化させ、それぞれの相対湿度におけるI-V曲線を測定した。なお、アノードガスには水素を、カソードガスには空気を、それぞれ用いた。
【0048】
〈電気化学インピーダンス測定〉
実施例1~3、及び比較例1の燃料電池セルそれぞれについて、外部の交流電源に接続すると共に、この交流電源によって入力される交流信号の周波数を変えてインピーダンスの計測を行い、その結果に基づいてインピーダンスの実数部(Z’)及びインピーダンスの虚数部(Z’’)を算出した。
【0049】
なお、測定にあたっては、セル温度80℃、アノード80%RH、アノード流速0.5L/min、カソード流速1.0L/min、2ataの条件下にてカソードの相対湿度を80%RH、30%RH、及び無加湿(0%RH)に変化させ、それぞれの相対湿度におけるインピーダンスの計測を行った。また、アノードガスには水素を、カソードガスには空気を、それぞれ用いた。
【0050】
〈電気化学的有効表面積の測定〉
実施例1、2、4、及び5、並びに比較例1及び2の燃料電池セルそれぞれについて、膜電極接合体の燃料極側に水素を、空気極側に窒素を送り、ポテンショスタットにより水素の吸脱着、及びPtの酸化還元を繰り返し行うサイクリックボルタンメトリーによって電気化学的有効表面積を測定した。具体的には、サイクリックボルタンメトリーを行った際の水素吸着電気量、空気極のPt塗布量、及び燃料電池の活性領域の表面積から電気化学的有効表面積(Electrochemical surface area: ECA)を算出した。
【0051】
なお、ECAの測定にあたっては、セル温度80℃、アノード80%RH、アノード流速0.5L/min、カソード流速1.0L/min、2ataの条件下にてカソードの相対湿度を80%RH、30%RH、及び無加湿(0%RH)に変化させ、それぞれの相対湿度におけるインピーダンスの計測を行った。また、アノードガスには水素を、カソードガスには空気を、それぞれ用いた。
【0052】
【0053】
図1A~Cは、それぞれカソードの相対湿度を80%RH、30%RH、及び無加湿(0%RH)に変化させたときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【0054】
図1A~Cに示すように、空気極側のガス拡散触媒電極層のプロトン伝導体としてdema[TfO]を用いた実施例1の燃料電池セル、dema[NfO]を用いた実施例2の燃料電池セル、及びNafion(商標登録)を用いた比較例1の燃料電池セルいずれにおいても発電特性が測定されたが、実施例1及び2の燃料電池セルは、比較例1の燃料電池セルよりも高い発電特性を示し、その傾向は湿度が低下しても変化がなかった。
【0055】
図2A~Cは、それぞれカソードの相対湿度を80%RH、30%RH、及び無加湿(0%RH)に変化させたときの、実施例1~3の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【0056】
図2A~Cに示すように、空気極側のガス拡散触媒電極層のプロトン伝導体としてdema[HfO]を用いた実施例3の燃料電池セルについても、実施例1及び2と同様に高い発電特性を示した。
【0057】
図3A~Cは、それぞれカソードの相対湿度を80%RH、30%RH、及び無加湿(0%RH)に変化させたときの、実施例3及び6の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
【0058】
図3A~Cに示すように、空気極側のガス拡散触媒電極層のプロトン伝導体としてdema[HfO]を用いた実施例3及び6では、いずれも高い発電特性を示したが、発電特性は、電解質層としてNafion(商標登録)112膜を用いた実施例3の方が、Nafion(商標登録)115膜を使用した実施例6よりも高かった。
【0059】
電気化学インピーダンス測定結果を
図4A~C及び
図5A~Cに示した。
図4A~Cは、それぞれカソードの相対湿度を80%RH、30%RH、及び無加湿(0%RH)に変化させたときの、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【0060】
図4A~Cに示すように、空気極側のガス拡散触媒電極層のプロトン伝導体としてdema[TfO]を用いた実施例1の燃料電池セル、及びdema[NfO]を用いた実施例2の燃料電池セルにおける電荷移動抵抗は、いずれも空気極側のガス拡散触媒電極層のプロトン伝導体としてNafion(商標登録)を用いた比較例1の燃料電池セルよりも低く、その傾向は湿度が低下すると共に大きくなった。これは、実施例1及び2の燃料電池セルに用いたイオン液体の方がNafion(商標登録)と比較してカソード反応に有利なプロトン伝導性とガス透過性を有していることを示している。
【0061】
また、
図5A~Cに示すように、空気極側のガス拡散触媒電極層のプロトン伝導体としてdema[HfO]を用いた実施例3の燃料電池セルについても、実施例1及び2と同等の結果がられた。
【0062】
I-V特性の測定による開回路電圧(Open Circuit Voltage: OCV)を
図6に、ECAの測定結果を
図7に、それぞれ示した。
【0063】
図6に示すように、OCVに関しては、実施例1及び2、並びに比較例1の燃料電池セルとの間に明確な差は観察されなかった。もっとも、イオン液体としてのdema[NfO]を用いた実施例2及び実施例5では、低湿度においてOCVが高くなる傾向にあった。比較範囲が、1.02V~0.94Vであることと、電解質膜にNafion(商標登録)112膜又はNafion(商標登録)115膜を用いているので、ある程度それがOCVの律速になっていることも考えられる。
【0064】
また、
図1A~Cに示すように、I-V曲線のKinetic領域(低電流域)を比較すると、実施例1及び2の燃料電池セルの方が比較例1の燃料電池セルよりも高い出力電圧を示しているので、膜電極接合体全体の出力向上に寄与していることが分かる。
【0065】
図7に示すように、ECAについては、OCV以上に明らかな差がみられた。空気極側のガス拡散触媒電極層のプロトン伝導体としてdema[TfO]を用いた実施例1及び4の燃料電池セル、及びdema[NfO]を用いた実施例2及び5の燃料電池セルの方が、Nafion(商標登録)112を用いた比較例1及び2の燃料電池セルよりも高いECAを示した。材料間に大きなイオン伝導性の違いはないので、触媒に対する吸着状態に違いがあることが考えられる。
【0066】
《実施例7及び参考例1~4》
以下のようにして、実施例7及び参考例1~4の燃料電池セルを作製した。
【0067】
〈実施例7〉
9mLサンプル瓶に、イオン液体としてのdema[TfO]とエタノールとの混合液を調製した。この混合液全体に対して、dema[TfO]の量は2質量%であった。混合液を、少量の精製水を加えたPt担持カーボンに加え、40℃で3時間撹拌し、触媒インクとした。手塗法によって触媒インクをガス拡散層としての炭素繊維不織布に均一に塗布し、50℃で30分間減圧乾燥することにより、空気極側のガス拡散電極触媒層を作製した。
【0068】
なお、空気極側のガス拡散電極触媒層において、カーボン担体に対するdema[TfO]の質量比は0.52であった。また、Ptの塗布量は、1.05mg/cm2であった。
【0069】
次いで、アイオノマーとしてのNafion(商標登録)とエタノールとの混合液を調製した。この混合液全体に対して、Nafion(商標登録)の量は2質量%であった。混合液を、少量の精製水を加えたPt担持カーボンに加え、40℃で3時間撹拌し、触媒インクとした。スプレー法によって触媒インクをガス拡散層としての炭素繊維不織布に均一に塗布し、50℃で30分間減圧乾燥することにより、燃料極側のガス拡散電極触媒層を作製した。
【0070】
なお、空気極側のガス拡散電極触媒層において、カーボン担体に対するNafion(商標登録)の質量比は1.00であった。また、Ptの塗布量は、0.153mg/cm2であった。
【0071】
次いで、Nafion(商標登録)211膜を2%の過酸化水素中で、80℃で一時間ゆっくりと攪拌した。膜を取り出し、沸騰させた精製水で1時間ゆっくりと攪拌した。金属不純物を除去するために、0.5Mの硫酸を用いて80℃で1時間攪拌した。硫酸を除去するため、精製水を用いて1時間80℃で3回洗浄をした。これにより、電解質膜としてのNafion(商標登録)211膜を活性化した。
【0072】
作製した空気極側及び燃料極側のガス拡散電極触媒層でNafion(商標登録)211膜を挟み込み、ホットプレスなしで膜電極接合体とし、2.8N/mの拘束圧で燃料電池セルを作製した。
【0073】
なお、燃料電池の活性領域の表面積は、5.06cm2であった。
【0074】
作製した燃料電池セルについて、定常的なI-V曲線が得られるまで、セル温度80℃、両極80%RH、アノード流速0.5L/min、カソード流速1.0L/min、両極1ataの条件下で慣らし運転を行った。なお、アノードガスには水素を、カソードガスには空気を、それぞれ用いた。
【0075】
〈参考例1〉
イオン液体としてのdema[TfO]とエタノールとの混合液におけるdema[TfO]の量を1質量%としたこと、及び空気極側のガス拡散電極触媒層におけるカーボン担体に対するdema[TfO]の質量比を0.16としたことを除いて、実施例7と同様にして参考例1の燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。なお、Ptの塗布量は、空気極側のガス拡散電極触媒層において1.08mg/cm2、及び燃料極側のガス拡散電極触媒層において0.164mg/cm2であった。
【0076】
〈参考例2〉
空気極側のガス拡散電極触媒層におけるカーボン担体に対するdema[TfO]の質量比を0.27としたことを除いて、実施例7と同様にして参考例2の燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。なお、Ptの塗布量は、空気極側のガス拡散電極触媒層において1.07mg/cm2、及び燃料極側のガス拡散電極触媒層において0.163mg/cm2であった。
【0077】
〈参考例3〉
空気極側のガス拡散電極触媒層におけるカーボン担体に対するdema[TfO]の質量比を0.77としたことを除いて、実施例7と同様にして参考例3の燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。なお、Ptの塗布量は、空気極側のガス拡散電極触媒層において0.98mg/cm2、及び燃料極側のガス拡散電極触媒層において0.159mg/cm2であった。
【0078】
〈参考例4〉
空気極側のガス拡散電極触媒層におけるカーボン担体に対するdema[TfO]の質量比を1.04としたことを除いて、実施例7と同様にして参考例4の燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。なお、Ptの塗布量は、空気極側のガス拡散電極触媒層において1.03mg/cm2、及び燃料極側のガス拡散電極触媒層において0.170mg/cm2であった。
【0079】
〈I-V特性の評価〉
相対湿度を80%RHのみとしたことを除いて、上記の《実施例1~6、並びに比較例1及び2》における〈I-V特性の評価〉と同様の方法によって実施例7及び参考例1~4のI-V特性の評価を行った。
【0080】
〈電気化学インピーダンス測定〉
相対湿度を80%RHのみとしたことを除いて、上記の《実施例1~6、並びに比較例1及び2》における〈電気化学インピーダンス測定〉と同様の方法によって実施例7及び参考例1~4のI-V特性の評価を行った。
【0081】
〈結果〉
実施例7及び参考例1~4の燃料電池セルの構成、I-V特性の評価結果、及び電気化学インピーダンス測定結果を、以下の表2にまとめた。
【0082】
【0083】
I-V特性の測定結果を
図8に示した。
図8は、実施例7及び参考例1~4の燃料電池セルのI-V曲線を示すグラフである。
図8に示すように、I-V特性は、カーボン担体に対するdema[TfO]の質量比が0.52であった実施例7において最も優れていた。
【0084】
また、表2に示した、カーボン担体に対するdema[TfO]の質量比、並びに各燃料電池セルにおけるOCV及び限界電流密度との間には、相関は見られなかった。
【0085】
電気化学インピーダンス測定結果を
図9に示した。
図9は、実施例7及び参考例1~4の燃料電池セルのナイキストプロットを示すグラフである。
【0086】
図9及び表2の膜抵抗及び電荷移動抵抗は、いずれもカーボン担体に対するdema[TfO]の質量比が0.52であった実施例7において最も優れていた。
【0087】
《実施例8及び比較例3》
〈実施例8〉
9mLサンプル瓶に、イオン液体としてのdema[TfO]とエタノールとの混合液を調製した。この混合液全体に対して、dema[TfO]の量は2質量%であった。混合液を、少量の精製水を加えたPt担持カーボンに加え、40℃で3時間撹拌し、触媒インクとした。手塗法によって触媒インクをガス拡散層としての炭素繊維不織布に均一に塗布し、50℃で30分間減圧乾燥することにより、空気極側のガス拡散電極触媒層を作製した。
【0088】
なお、空気極側のガス拡散電極触媒層において、カーボン担体に対するdema[TfO]の質量比は0.53であった。また、Ptの塗布量は、1.07mg/cm2であった。
【0089】
次いで、アイオノマーとしてのNafion(商標登録)とエタノールとの混合液を調製した。この混合液全体に対して、Nafion(商標登録)の量は2質量%であった。混合液を、少量の精製水を加えたPt担持カーボンに加え、40℃で3時間撹拌し、触媒インクとした。スプレー法によって触媒インクをガス拡散層としての炭素繊維不織布に均一に塗布し、50℃で30分間減圧乾燥することにより、燃料極側のガス拡散電極触媒層を作製した。
【0090】
なお、空気極側のガス拡散電極触媒層において、カーボン担体に対するNafion(商標登録)の質量比は0.89であった。また、Ptの塗布量は、1.09mg/cm2であった。
【0091】
作製した空気極側及び燃料極側のガス拡散電極触媒層でNafion(商標登録)112膜を挟み込み、ホットプレスなしで膜電極接合体とし、1.8N/mの拘束圧で燃料電池セルを作製した。
【0092】
なお、燃料電池の活性領域の表面積は、5.06cm2であった。
【0093】
作製した燃料電池セルについて、定常的なI-V曲線が得られるまで、セル温度80℃、両極80%RH、アノード流速0.5L/min、カソード流速1.0L/min、両極1ataの条件下で慣らし運転を行った。なお、アノードガスには水素を、カソードガスには空気を、それぞれ用いた。
【0094】
〈比較例3〉
空気極側のガス拡散電極触媒層の作製において、イオン液体に代えてアイオノマーとしてのNafion(商標登録)を用いたことを除いて、実施例8と同様にして燃料電池セルを作製し、慣らし運転を行った。
【0095】
なお、空気極側のガス拡散電極触媒層において、カーボン担体に対するNafion(商標登録)の質量比は1.00であり、Ptの塗布量は、0.345mg/cm2であった。また、燃料極側のガス拡散電極触媒層において、炭素繊維不織布に対するNafion(商標登録)の質量比は1.00であり、Ptの塗布量は、0.158mg/cm2であった。
【0096】
〈燃料電池セルの性能評価〉
実施例8及び比較例3の燃料電池セルの性能の評価として、サイクリックボルタンメトリー(Cyclic Voltammetry:CV)測定、I-V特性測定、及び電気化学インピーダンス測定をこの順に行った。その後、所定のサイクルの負荷応答試験を複数回行い、負荷応答試験の直後に、CV測定、I-V特性測定、及び電気化学インピーダンス測定をこの順に行った。そして、CVの0.05~0.47V程度にある下限電流から電気量を求め、これに基づいて算出されるECAが初期状態の半分となったときに負荷応答試験を終了させた。
【0097】
〈結果〉
実施例8の燃料電池セルの各サイクル後におけるCV測定結果を
図10Aに、比較例3の燃料電池セルの各サイクル後におけるCV測定結果を
図10Bに示した。
図10A及び
図10Bにおいて、サイクル数の増大に応じてPtによる酸化還元電流が小さくなっている。
【0098】
CV測定に基づいて算出されたECA値の変化を、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization: NEDO)による「セル評価解析プロトコル」に従い、横軸を対数軸としたグラフを、実施例8の燃料電池セルにつき
図11Aに、及び比較例3の燃料電池セルにつき
図11Bにそれぞれ示した。
【0099】
このグラフの2400サイクル後、3000サイクル後、3600サイクル後、4800サイクル後、及び6600サイクル後のECA残存率の近似式から計算される、ECAが初期状態の半分となるサイクル数は、実施例8の燃料電池セルでは約6850サイクルであり、比較例3の燃料電池セルでは約4600サイクルあった。