(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】路面の摩擦係数ポテンシャルを決定するための方法およびコントロールユニット
(51)【国際特許分類】
B60W 40/068 20120101AFI20230301BHJP
B60W 30/188 20120101ALI20230301BHJP
【FI】
B60W40/068
B60W30/188
(21)【出願番号】P 2021525832
(86)(22)【出願日】2019-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2019075436
(87)【国際公開番号】W WO2020108820
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】102018220576.0
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】エルバン,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲンロッヒャー,ニルス
(72)【発明者】
【氏名】オーバーハルト,トビアス
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-207953(JP,A)
【文献】特開2005-306082(JP,A)
【文献】特開2003-237558(JP,A)
【文献】特表2015-521553(JP,A)
【文献】特開2018-69906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B60K 6/20- 6/547
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面の摩擦係数ポテンシャル(116)を決定するための方法において、
車両(100)を運転するための全トルク(112)を、
電動機を制御することによって前記車両(100)の複数のホイール(104)における少なくとも2つのホイールトルク(110)に不均等に配分し、この際に、前記摩擦係数ポテンシャル(116)を、コントロールユニット(102)によって、路面と少なくとも1つのホイール(104)との間で検出されたスリップ、および前記ホイール(104)に印加されたホイールトルク(110)を用いて算出
し、
前記摩擦係数ポテンシャル(116)を、前記コントロールユニット(102)によって前記複数のホイール(104)のスリップ間のスリップ差、および前記複数のホイール(104)の前記ホイールトルク(110)間のトルク差を用いて算出することを特徴とする、路面の摩擦係数ポテンシャル(116)を決定するための方法。
【請求項2】
前記車両(100)のカーブ走行を支援するために、前記ホイールトルク(110)を
前記電動機を制御することによって前記車両(100)の前後方向軸線に対して非対称的に配分し、それによってカーブ走行を支援するヨーイングモーメント(202)を生ぜしめ、前記車両(100)の直進走行を支援するために、
前記電動機を制御することによって前記ホイールトルク(110)を前記前後方向軸線に対して対称的に配分する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ホイールトルク(110)を、
前記電動機を制御することによって前記車両(100)の異なる車軸(106,108)に配置された複数のホイール(104)に印加する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記摩擦係数ポテンシャル(116)を算出するために用いられるスリップが発生する少なくとも前記1つのホイール(104)に、
前記電動機を制御することによって最小値を有する前記ホイールトルク(110)を印加する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記全トルク(112)が前記最小値よりも小さいときに、
前記電動機を制御することによって前記複数のホイール(104)に、逆向きに作用するホイールトルク(110)を印加する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記車両(100)の少なくとも1つのホイール(104)を自由に回転可能に調節し、この場合、前記自由に回転可能なホイール(104)において
センサが前記車両(100)の速度を検出する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのホイール(100)に、前記ホイール(104)をホイール個別に駆動する前記電動機の正または負の最大トルクまで、
前記電動機を制御することによって前記ホイールトルク(110)を印加する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法を、実施、実行および/または制御するために構成されている、コントロールユニット(102)。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法を実施、実行および/または制御するために設計されている、コンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項9記載のコンピュータプログラムが記憶されている、機械読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面の摩擦係数ポテンシャルを決定するための方法およびコントロールユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールが地面上を自由に転動するときに、ホイールと地面との間のスリップがホイールに発生することはない。しかしながらホイールが駆動されるかまたは制動されるときにスリップが発生する。スリップは、特にホイールの接地力および地面の摩擦係数ポテンシャルに依存する。摩擦係数ポテンシャルは、接地力のどのくらいの割合を、駆動、制動およびコーナリングフォースつまり操舵のための摩擦力として、ホイールが地面に伝達し得るかを表す。
【0003】
安定したスリップ範囲から不安定なスリップ範囲へのホイールの移行時に危険なスリップが存在する。危険なスリップでは、摩擦係数ポテンシャルは完全に利用し尽くされ、従って精確に決定できる。
【発明の概要】
【0004】
このような背景から、ここに紹介された提案により、独立請求項に記載した、路面の摩擦係数ポテンシャルを決定するための方法、相応のコントロールユニット、並びに相応のコンピュータプログラム製品および機械読み取り可能な記憶媒体が紹介される。ここに紹介された提案の好適な実施態様および改善は、明細書から得られ、また従属請求項に記載されている。
【発明の効果】
【0005】
本発明の実施例は、好適な形式で、車両のホイールの位置における路面の摩擦係数ポテンシャルを、そのために車両を限界範囲で運転する必要なしに、いつでも決定することができる。これらの情報から、車両の重心箇所の摩擦係数ポテンシャルを推定することができる。これらの摩擦係数ポテンシャルは場所および/または位置に割り当てられ、摩擦係数カードに記録することができる。この摩擦係数カードは、高い安全性を有する運転マヌーバを計画し実行するために、多くの車両によって使用されてよい。
【0006】
路面の摩擦係数ポテンシャルを決定するための方法が紹介され、この方法は、車両を運転するための全トルクが車両の複数のホイールにおける少なくとも2つのホイールトルクに不均等に配分され、この際に、摩擦係数ポテンシャルが、路面と少なくとも1つのホイールとの間で検出されたスリップ、およびホイールに印加されたホイールトルクを用いて算出されることを特徴とする。
【0007】
本発明の実施例のアイデアは、特に、以下に記載した考え方および知識に基づくものとみなされてよい。
【0008】
ここに紹介された提案において、スリップが、車両の計画された走行課題を著しく変更することなしに、走行する車両の少なくとも2つのホイールにおいて生ぜしめられる。少なくとも1つのホイールにおける僅かなスリップも検出される。スリップおよびスリップの限界条件、例えばホイール力が分かっていれば、摩擦係数ポテンシャルを算出することができる。
【0009】
この場合、様々な摩擦係数が細かく分けられる。第1の摩擦係数は、実際に利用された、それぞれのスリップに対応する摩擦係数である。従ってこの第1の摩擦係数は、実際に作用する前後方向力および横方向力に依存する。第2の摩擦係数は、可能な最大値、つまり最大前後方向力が伝達され得るスリップと関係する摩擦係数を表す。第2の摩擦係数は摩擦係数ポテンシャルと呼ばれてよい。ゴム摩擦は、純粋な付着および滑りを認識しない。
【0010】
摩擦係数ポテンシャルは摩擦係数と呼ばれてよい。摩擦係数ポテンシャルは、車両のホイールの接地力とホイールで最大得ることができる摩擦力との比を表す。ホイールは概ね変わらないままなので、摩擦係数ポテンシャルは、実質的に路面または路面の状態に依存する。路面の摩擦係数ポテンシャルが小さければ小さいほど、同じホイールトルクにおいて路面上でのホイールのスリップはより大きくなる。
【0011】
それ以外では、例えば不安定なスリップ範囲が存在する。利用可能な高い摩擦係数を得るために多くのスリップを要する、高い摩擦係数ポテンシャルおよび危険性が非常に高いスリップを有する地面が存在する。それとは逆に、危険性が極端に低いスリップで低い摩擦係数ポテンシャルを有する地面も存在する。
【0012】
全トルクは、正または負であってよく、つまり駆動トルクまたはブレーキトルクであってよい。摩擦係数ポテンシャルが決定されない場合、全トルクは、できるだけ均一なまたは締め付けられていないトルク配分が得られるように、車両のホイールに配分される。しかしながら均一な配分は前提条件ではない。原則的に締め付けの前に任意の車両制御器がトルク配分を構成することができる。この場合、すべてのホイールが概ね同じだけ多くのスリップを有していてよい。ここに紹介された提案では、トルク配分に影響を及ぼし、トルク配分は、車両の少なくとも2つのホイールが相互に締め付けられるように変えられる。この場合、一方のホイールは他方のホイールに逆らって作業する。例えば一方のホイールに、他方のホイールにおけるよりも大きいホイールトルクが印加される。従って一方のホイールは、他方のホイールよりも大きい力を地面に伝達する。同様に、一方のホイールは駆動され、これに対して他方のホイールは制動されてよい。選択的に、一方のホイールが駆動されるかまたは制動され、これに対して他方のホイールは自由に回転してよい。
【0013】
少なくとも一方のホイールにおけるスリップが測定され、つまり検出され、スリップ値が表示され得る。このために、例えばまずホイールの摩擦速度が検出され、その結果からスリップ値が形成される。スリップは、車両の他方のホイールが自由に回転するときに測定され得る。自由に回転するホイールがなければ、スリップは推定され得る。何故ならば車両基準速度は推定されているだけだからである。スリップは同様にすべてのホイールにおいて推定され得る。しかしながら、ここに紹介された提案のためには、1つのホイールにおけるスリップを測定するかまたは推定するだけでよい。
【0014】
ホイールの接地力は明らかであって、推定されるかまたはシャーシ内のセンサを介して決定され得る。スリップまたはスリップ値、ホイールトルクおよび接地力を用いて、摩擦係数ポテンシャルが算出される。
【0015】
車両のカーブ走行を支援するために、ホイールトルクを車両の前後方向軸線に対して非対称的に配分し、それによってカーブ走行を支援するヨーイングモーメントが生ぜしめられる。例えば、カーブ走行中に摩擦係数ポテンシャルを決定するために、車両のいわゆるトルクベクタリング“Torque Vectoring”が支援されてよい。車両の直進走行を支援するかまたは妨げないようにするために、ホイールトルクは前後方向軸線に対して対称的に配分されてよい。対称的な配分によって、いつでも、直進走行時でも摩擦係数ポテンシャルが決定され得る。
【0016】
ホイールトルクは、車両の異なる車軸に配置されたホイールに印加されてよい。一方のホイールトルクは例えば後車軸の1つのホイールに印加され、他方のホイールトルクは前車軸の1つのホイールに印加される。2つより多くの車軸を有する車両では、別の配分が用いられてもよい。異なる車軸を使用することによって、車両のヨーイングモーメントは、制限されるか若しくは避けられるかまたは意図的に発生させることができる。
【0017】
摩擦係数ポテンシャルを算出するために用いられるスリップが発生する少なくとも1つのホイールに、最小値を有するホイールトルクが印加される。ホイールトルクの最小値は、特定可能なスリップを得るために必要である。ホイールのホイールトルクは相応に高められてよい。別のホイールにおけるホイールトルクは、高められたホイールトルクを補正するために相応に低下され得る。
【0018】
全トルクが最小値よりも小さいときに、ホイールに、逆向きに作用するホイールトルクが印加される。全トルクが小さすぎる場合、例えば車両が加速されずに走行している間に、一方のホイールに最小値を有するホイールトルクが印加され、他方のホイールに逆の作用方向を有するホイールトルクが印加されてよい。他方のホイールで、ホイールトルクは負の最小値までになる。従って、摩擦係数ポテンシャルは、最初に要求された全トルクが摩擦係数ポテンシャルを決定するために必要とされるスリップを生ぜしめるためには小さすぎるときにも決定され得る。
【0019】
車両の少なくとも1つのホイールは自由に回転するように調節されてよい。自由に回転するホイールで、車両の速度が検出される。自由に回転するホイールはスリップを有していない。従って、自由に回転するホイールは車両の実際の速度のための基準値として用いられる。速度を用いて、他方のホイールにおけるスリップがより高い精度で決定され得る。
【0020】
一方のホイールで、ホイールトルクは、ホイールをホイール個別に駆動する電動機の正のまたは負の最大トルクまで印加される。電動機を使用して、ホイールトルクは特に良好に調節され得る。ブレーキトルクは、摩擦ブレーキを使用することなしに調節され得る。ホイールトルクが最大トルクに制限されていれば、コントロールしにくい追加的なトルクをホイールに印加する必要がないことが保証されている。
【0021】
摩擦係数ポテンシャルは、複数のホイールのスリップ間のスリップ差および複数のホイールのホイールトルク間のトルク差を用いて算出され得る。スリップはさらに、少なくとも1つの別のホイールで決定され得る。ホイールトルクは、トルク差が得られるように調節されてよい。トルクおよびスリップは、摩擦係数ポテンシャルを算出するために評価され得る。
【0022】
この方法は、例えばソフトウエア若しくはハードウエアで、またはソフトウエアとハードウエアとから成る混合形で例えばコントロールユニットにおいて実行され得る。
【0023】
ここに紹介された提案はさらに、ここに提案された方法の変化例のステップを相応の装置で実施、制御または実行するために構成されたコントロールユニットを提供する。
【0024】
このコントロールユニットは、信号またはデータを処理するための少なくとも1つの演算装置と、信号またはデータを記憶するための少なくとも1つの記憶装置と、通信プロトコル内に埋め込まれたデータを読み取るかまたはアウトプットするための少なくとも1つのインターフェースおよび/または通信インターフェースとを備えた電気機器であってよい。演算装置は、例えば信号処理装置、いわゆるシステムASIC、またはセンサ信号を処理するためのおよびこれらのセンサ信号に依存してデータ信号をアウトプットするためのマイクロコントローラであってよい。記憶装置は、例えばフラッシュメモリー、EPROMまたは磁気記憶装置であってよい。インターフェースは、センサのセンサ信号を読み取るためのセンサインターフェースとして、並びに/またはデータ信号および/若しくは制御信号をアクチュエータにアウトプットするためのアクチュエータインターフェースとして構成されていてよい。通信インターフェースは、データを無線誘導および/または有線誘導で読み取るかまたはアウトプットするために構成されていてよい。インターフェースは、例えばマイクロコントローラ上にその他のソフトウエアモジュールと並んで設けられたソフトウエアモジュールであってもよい。
【0025】
機械読み取り可能な媒体、または半導体記憶装置、ハードディスク若しくは光学式記憶装置等の記憶媒体に記憶されていてよく、特にプログラム製品またはプログラムがコンピュータまたは装置で実行されるときに、前記実施例のいずれか1つに記載された方法のステップを実行、実施および/または制御するために用いられるプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品またはコンピュータプログラムも有利である。
【0026】
本発明の可能な特徴および利点のいくつかが、ここでは、様々な実施例に関連して記載されているということを指摘しておく。当業者は、本発明のその他の実施例を得るために、コントロールユニットおよび方法の複数の特徴が適切な形式で組み合わされ、適合されまたは交換され得ることを認識している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】1実施例によるコントロールユニットを備えた車両を示す図である。
【
図2a】1実施例によるトルク配分を有する車両を示す図である。
【
図2b】1実施例によるトルク配分を有する車両を示す図である。
【
図2c】1実施例によるトルク配分を有する車両を示す図である。
【
図2d】1実施例によるトルク配分を有する車両を示す図である。
【
図2e】1実施例によるトルク配分を有する車両を示す図である。
【
図3a】1実施例によるトルク配分を示す図である。
【
図3b】1実施例によるトルク配分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の複数の実施例を、添付の図面を用いて詳しく説明する。この場合、図面も明細書も本発明として限定的に解釈されるべきではない。
【0029】
図面は、概略的に示されているだけであり、縮尺通りではない。図面中、同じ符号は、同じまたは作用的に同じ特徴を示す。
【0030】
図1は、1実施例によるコントロールユニット102を備えた車両100の図を示す。車両は4つのホイール104を有しており、これらのホイール104は、車両100の前車軸106および車両100の後車軸108に配分されている。ここではすべてのホイール104が駆動されるか、または個別に駆動されてよい。図示の実施例では、すべてのホイール104は固有の電動機に接続されている。これらの電動機は、駆動トルクまたはブレーキトルクをホイール104に供給する。ホイール個別の電動機においては、古典的な意味で車軸は存在せず、また車軸のホイール104間の堅固な結合は存在しない。
【0031】
コントロールユニット102は、制御信号を介して各ホイール104のために個別のホイールトルク110がプリセットされ得るように、車両100のインフラストラクチャー内に組み込まれている。個別のホイールトルク110は全トルク112に加えられる。
【0032】
図1には、車両100の初期状態が示されており、この初期状態において、コントロールユニット102はホイール104および/または車軸106,108間のトルク配分に介入しない。車両100を運転するために好適な全トルク112または全出力または全加速度a
xは、ここでは一様に4つの同じ初期トルク114またはホイール力に配分されている。車両100を前進方向に加速するためにまたはコンスタントに前進走行できるようにするために、すべてのホイール104は同じ初期トルク114で駆動される。
【0033】
少なくとも1つのホイール104におけるスリップを高めるために、コントロールユニット102は、ホイール104に締め付けられたトルク配分が得られるように、電動機を制御する。ホイール104におけるスリップはホイール個別にスリップ検出装置によって検出される。少なくとも1つのホイール104のスリップおよびホイールトルク110を用いて、コントロールユニット102はホイール104下の路面の摩擦係数ポテンシャル116を算出する。
【0034】
図2a乃至
図2eは、複数の実施例によるトルク配分を有する車両100の図を示す。この場合、車両100は概ね
図1の車両に相当する。
【0035】
図2aでは、トルク配分は車軸単位で締め付けられている。後車軸108は前車軸106に向かってプリロードをかけられている。この場合、後車軸108におけるホイール104は、前車軸106におけるホイール104よりも大きいホイールトルク110で駆動される。このような締め付けを得るために、トルク量200が、前車軸106のホイール104の初期トルク114から後車軸108のホイール104へ移動される。この場合、全トルク112は、
図1に示された値に一定に維持される。移動されたトルク量200によって、結果として生じるホイールトルク110は負になり、前車軸106のホイール104が制動されるか、または前車軸106のホイール104に回収され、これに対して後車軸108のホイール104はさらに強く駆動される。
【0036】
図2bでは全トルク112は負である。トルク配分は回生制動時には、
図2aに示されているように車軸単位で締め付けられている。車両100は全体的に制動される。ここでは、トルク量200は、後車軸108のホイール104の初期トルク114から前車軸106のホイール104へ移動されている。後車軸108のホイール104の、結果として生じるホイールトルク110は、移動されたトルク量200によって正にされる。つまり、後車軸108のホイール104は駆動され、これに対して前車軸106のホイール104はより強く制動される。
【0037】
図2cでは、トルク配分は片側が締め付けられている。このために、前車軸106のホイール104と後車軸108のホイール104とは、
図2aに示されているように、互いに締め付けられている。これとは異なり、前車軸106および後車軸108のそれぞれ他方のホイール104はさらに、初期トルク114で駆動される。片側のプリロードによってヨーイングモーメント202,204が発生する。この場合、前方のホイール104によるヨーイングモーメント202は、後方のホイール104による対抗するヨーイングモーメント204によって補正される。
【0038】
図2dでは、トルク配分がダイアゴナル式に締め付けられている。トルク量200は車両右側で後方から前方に移動され、これに対してトルク量200は車両左側で前方から後方に移動されている。この場合、それぞれ発生したヨーイングモーメントは相互に補正される。
【0039】
図2eではトルク配分は非対称的であり、これに対して1つのホイール104は自由に回転する。結果として発生するホイールトルクなしに自由に回転するホイール104では、スリップは発生しない。これによって、自由に回転するホイール104において、車両100の速度は特に良好に検出され得る。
【0040】
自由に回転するホイールの間違った駆動トルクを補正するために、他の3つのホイール104のトルク配分は、ヨーイングモーメントを生ぜしめないように、調節されている。この場合、左側の前方のホイール104は自由に回転する。右側の前方のホイール104および左側の後方のホイール104は、このためにより強く駆動される。右側の後方のホイール104は制動される。
【0041】
図3aおよび
図3bは、複数の実施例によるトルク配分の図を示す。トルク配分は、平均的なトルク要求300、高められたホイールのトルク302、低下されたホイールのトルク304およびその結果として生じるトルク306を示す。この場合、結果として生じるトルクは、
図2a乃至
図2eに示された全トルクの1/4に相当する。この場合、すべてのケースにおいて、高められたホイールのトルク302は低下されたホイールのトルク304を補正するので、結果として生じるトルク306は常にトルク要求300と同じである。
【0042】
この場合、様々な状況下におけるトルク配分が示されている。第1の状況308において、強い減速が要求される。第2の状況310において弱い減速が要求される。第3の状況312で定速走行が要求される。第4の状況314で弱い加速が要求される。第5の状況316で強い加速が要求される。
【0043】
図3aでは、それぞれの状況において、高められたホイールのトルク302と低下されたホイールのトルク304との間で一定の差が調節される。この場合、強い減速の第1の状況308および強い加速の第5の状況316において、電動機の最大トルクが各ホイールに要求される。
【0044】
図3bでは、それぞれの状況において、高められたホイールのトルク302と低下されたホイールのトルク304との間の最大可能な差が調節される。ここでは、それぞれの状況において電動機の最大トルクが要求される。定速走行の状況312では、逆方向の最大トルクさえも要求される。
【0045】
言い換えれば、僅かな摩擦係数消費を伴う走行状況で独立して駆動される車軸またはホイールを有する車両において摩擦係数推定を可能にする方法が紹介される。
【0046】
将来的に高度に自動化された機能において、車両は、場合によっては運転者の手助けなしに危険な状況を自動的に克服することができる。従って理想的には、車両は危険な状況を予防的に避けるべきである。このために、タイヤ-道路相互の摩擦係数ポテンシャルに関する情報が必要となる。何故ならば、これが、停止距離および最大コーナリング速度を決定するからである。この場合、危険な摩擦係数を記述し、予防的にこの危険な摩擦係数に反応することができるようにするために、やはり複数の車両のネットワーク化のテーマが重要な役割を成す。これによって、ネットワーク化された複数の車両は、走行快適性および走行安全性の著しい改善をもたらすことができる。
【0047】
既存のセンサ装置によって、並びにESPシステムおよびステアリングシステムから成る既存のモデルによって、実際に消費された摩擦係数の推定が可能である。車両の加速または減速時に、摩擦係数推定器は消費された摩擦係数を算出する。所定の安全システム(ABS,TCSおよび部分的にESP)の制御介入が作動されると、存在する摩擦係数ポテンシャルは利用し尽くされ、正確に算出され得る。
【0048】
自由回転時、つまり加速または減速なしの自由回転時に、従来では道路摩擦係数を推定することはできない。例えば摩擦係数カードを作製するためには、摩擦係数を可能な限り頻繁に算出することが重要である。毎日の走行運転中の制御介入はめったにないので、例えばスリップに基づく推定法が採用され、この推定法は、部分減速および部分加速中のスリップおよび力から最大摩擦係数を算出する。
【0049】
例えばスリップに基づく方法による推定のために必要であるような、部分制動および部分加速を伴う走行状況は、最大駆動トルクを伴う加速および全減速よりも著しく頻繁に発生するが、それにも拘わらず全体をカバーする摩擦係数情報を生成するには、高速道路および幹線道路上の流れる交通においてはあまりにもまれである。このような方法によるカバーを高めるために、ここで紹介された提案は、スリップ状態およびひいてはホイールの摩擦係数消費を巧みに操作し、それによって日常の走行状況の大部分において摩擦係数情報を発生させることができるようにする可能性を提供する。摩耗およびエネルギ効率は、ここに紹介された提案によって僅かな影響しか受けない。
【0050】
所定の駆動トポロジーを有する電化された車両は、個別の車軸または個別のホイールを意図的に様々なスリップ状態にもたらす可能性を提供する。前提条件は、前車軸および後車軸が独立して駆動され、少なくとも1つの車軸が純粋に電気的に駆動される四輪駆動である。一方または両方の車軸におけるホイール個別の電気駆動はさらに別の可能性を提供するが、これは必要不可欠ではない。
【0051】
スリップ状態は、2つの車軸または個別のホイール間のホイールトルク差(同じホイール直径で、混合タイヤの差は補正され得ることを前提とする)の発生によって生ぜしめられる。これによって、(例えば定速走行の)非常に僅かな摩擦係数消費を伴う走行状況においても、一方の車軸または1つのホイールに部分制動のスリップ状態、および他方の車軸または他の1つのホイールに部分加速のスリップ状態が生ぜしめられ、次いでこれらのスリップ状態が摩擦係数推定のための公知の方法と共に用いられる。
【0052】
トルク差の発生時に、運転者の要求または作動された自律走行機能の要求に応じて全トルクが維持される。このために、規定されたトルク差が生ぜしめられるか、または車軸若しくはホイールが駆動のトルク限界までもたらされる。この場合、駆動または回生に関するホイール面に使用可能なトルクポテンシャルが算出されかつ考慮される。さらに、結果として生ぜしめられる追加的なヨーイングモーメントは発生しない。つまり、より強い駆動スリップを生ぜしめるために一方の車軸または1つのホイールに追加的に加えられる駆動トルクは、他方の車軸または他のホイールにおけるトルクを低減させることによって補正され、この場合、駆動トポロジーおよび走行状況に応じて様々な配分が可能である。このような低減は、多くの走行状況においてブレーキトルクの範囲まで行われる。
【0053】
特に好適には、純粋に電気的に駆動される車軸による低減が可能である。何故ならば、この車軸は、ブレーキトルクを回生によって、つまり発電機としての電気機械の駆動によってもたらすことができるからである。これによって、駆動された車軸に過剰にもたらされたエネルギは摩擦ブレーキによって熱に変換されるのではなく、再び車両用電池に供給され、従って車両のエネルギ効率は、推定法による摩擦ブレーキの利用に対して、僅かな否定的影響しか受けない。さらに、摩擦ブレーキにおいて追加的な摩耗および微粒子は発生しない。
【0054】
しかも、回生は、減速が回生によって得られる限り、定速走行および加速を伴う状況の他に減速を伴う走行状況においても、摩擦係数を推定するために利用され得る。この場合、一方の車軸に電気的に生成されるブレーキ力は、高められ、第2の車軸に引張力を加えることによって若しくは回生を低減させることによって補正される。この方法は、より強い減速時および加速時においても用いられ、この場合、より小さいトルク差がもたらされ、それによってエネルギバランスはさらに改善される。
【0055】
電気的に駆動される車軸の別の利点は、駆動トルクおよびブレーキトルクが、内燃機関または摩擦ブレーキにおけるよりもより精確に知られている、という点にある。従って、より高い精度を有する電気的に駆動される車軸において、スリップ状態と前後方向力との間の、摩擦係数推定のための基礎を形成する関係の測定が可能である。追加的に、電気的に駆動される2つの車軸によって、駆動および制動特性を同時に測定することが可能であり、このことは同様に精度を高める。ホイール個別の駆動は、精度を改善するための第3の可能性を提供する。何故ならば、スリップのない車両基準速度を直接測定するために、1つのホイールを自由に回転可能に調節できるからである。
【0056】
摩擦係数カードのリアルタイム分析に基づいて、ちょうどどの地域/どの道路に最新の摩擦係数情報が存在しないかを確認することができる。それに基づいて完全に的確に、摩擦係数測定任務のための相応の地域内にある車両が選択され得る。対象となる車両に関する摩擦係数測定マヌーバの公正な配分が、材料摩耗の理由により相応に考慮されてよい。この提案は、完全に的確に摩擦係数情報を収集するために送り出された測定車両のために非常に良好に適してもいる。
【0057】
最後に、「有する」、「含有する」等の概念は、その他の要素またはステップを除外するものではなく、「単数」または「1つ」等の概念は複数を除外するものではない、ということを指摘しておく。請求項の符号は、制限とみなされるべきではない。
【符号の説明】
【0058】
100 車両
102 コントロールユニット
104 ホイール
106 前車軸
108 後車軸
110 ホイールトルク
112 全トルク
114 初期トルク、ホイール力
116 摩擦係数ポテンシャル
200 トルク量
202,204 ヨーイングモーメント
300 トルク要求
302 高められたホイールのトルク
304 低下されたホイールのトルク
306 結果として生じるトルク
308 第1の状況
310 第2の状況
312 第3の状況
314 第4の状況
316 第5の状況
ax 全加速度