IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 江崎グリコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-増粘用液状組成物 図1
  • 特許-増粘用液状組成物 図2
  • 特許-増粘用液状組成物 図3
  • 特許-増粘用液状組成物 図4
  • 特許-増粘用液状組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】増粘用液状組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20230301BHJP
   A23L 29/20 20160101ALI20230301BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20230301BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20230301BHJP
   A23L 29/25 20160101ALI20230301BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230301BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C09K3/00 103G
A23L29/20
A23L29/238
A23L29/244
A23L29/25
A61K9/06
A61K47/36
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017526320
(86)(22)【出願日】2016-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2016068807
(87)【国際公開番号】W WO2017002722
(87)【国際公開日】2017-01-05
【審査請求日】2019-06-14
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2015131947
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】寺田 喜信
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩史
【合議体】
【審判長】蔵野 雅昭
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】関根 裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-2901(JP,A)
【文献】特開2006-61070(JP,A)
【文献】特開2006-6252(JP,A)
【文献】特開2000-178530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)増粘剤、並びに(B)高度分岐環状デキストリン、及びDE2~5のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の粘性低下成分を含み、
前記(A)増粘剤が、グアガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、又はタマリンドガムであり、
前記(A)増粘剤がグアガムである場合、増粘用液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が2質量%以上であり、且つ前記(B)粘性低下成分が1質量%未満となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がローカストビーンガムである場合、増粘用液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が2質量%以上であり、且つ前記(B)粘性低下成分が1質量%未満となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がグルコマンナンである場合、増粘用液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が1質量%以上であり、且つ前記(B)粘性低下成分が0.5質量%未満となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がタマリンドガムである場合、増粘用液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が4質量%以上であり、且つ前記(B)粘性低下成分が2質量%未満となるように希釈して使用される、
ことを特徴とする、増粘用液体組成物。
【請求項2】
前記(B)粘性低下成分が高度分岐環状デキストリンである、請求項1に記載の増粘用液体組成物。
【請求項3】
前記(A)増粘剤が1~80質量%含まれる、請求項1又は2に記載の増粘用液体組成物。
【請求項4】
食品の製造に使用される、請求項1~3のいずれかに記載の増粘用液体組成物。
【請求項5】
液体組成物の、添加対象となる製品を増粘させるための使用であって、
前記液体組成物が、(A)増粘剤、並びに(B)高度分岐環状デキストリン、及びDE2~5のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の粘性低下成分を含み、
前記(A)増粘剤が、グアガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、又はタマリンドガムであり、
前記(A)増粘剤がグアガムである場合、前記液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が2質量%以上であり、
前記(A)増粘剤がローカストビーンガムである場合、前記液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が2質量%以上であり、
前記(A)増粘剤がグルコマンナンである場合、前記液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が1質量%以上であり、
前記(A)増粘剤がタマリンドガムである場合、前記液体組成物における前記(B)粘性低下成分の含有量が4質量%以上であり、
前記(A)増粘剤がグアガムである場合、添加対象となる製品に対して前記(B)粘性低下成分が1質量%未満となるように前記液体組成物を添加して使用され、
前記(A)増粘剤がローカストビーンガムである場合、添加対象となる製品に対して前記(B)粘性低下成分が1質量%未満となるように前記液体組成物を添加して使用され、
前記(A)増粘剤がグルコマンナンである場合、添加対象となる製品に対して前記(B)粘性低下成分が0.5質量%未満となるように前記液体組成物を添加して使用され、
前記(A)増粘剤がタマリンドガムである場合、添加対象となる製品に対して前記(B)粘性低下成分が2質量%未満となるように前記液体組成物を添加して使用される、前記使用。
【請求項6】
水を含む希釈原料用いて、請求項1~4のいずれかに記載の増粘用液体組成物を希釈する工程を含み、
前記工程において、
前記(A)増粘剤がグアガムである場合、前記(B)粘性低下成分が1質量%未満となるように希釈され、
前記(A)増粘剤がローカストビーンガムである場合、前記(B)粘性低下成分が1質量%未満となるように希釈され、
前記(A)増粘剤がグルコマンナンである場合、前記(B)粘性低下成分が0.5質量%未満となるように希釈され、
前記(A)増粘剤がタマリンドガムである場合、前記(B)粘性低下成分が2質量%未満となるように希釈される、粘性組成物の製造方法。
【請求項7】
粘性組成物が食品である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の増粘用液体組成物を乾燥させてなり、水を含む希釈原料で希釈して使用される、増粘用粉末組成物であって、
前記(B)粘性低下成分が高度分岐環状デキストリンであり、
前記(A)増粘剤がグアガムである場合、前記高度分岐環状デキストリンが1質量%未満となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がローカストビーンガムである場合、前記高度分岐環状デキストリンが1質量%未満となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がグルコマンナンである場合、前記高度分岐環状デキストリンが0.5質量%未満となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がタマリンドガムである場合、前記高度分岐環状デキストリンが2質量%未満となるように希釈して使用される、増粘用粉末組成物。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の増粘用液体組成物を乾燥させてなり、水を含む希釈原料で希釈して使用される、増粘用粉末組成物であって、
前記(A)増粘剤が、グアガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、又はタマリンドガムであり、
前記(B)粘性低下成分がDE2~5のデンプン分解物であり、
前記(A)増粘剤がグアガムである場合、DE2~5のデンプン分解物の濃度が1質量%未満となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がローカストビーンガムである場合、前記(B)DE2~5のデンプン分解物の濃度が0.05~0.5質量%となるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がグルコマンナンである場合、前記(B)DE2~5のデンプン分解物の濃度が0.5質量%未満でとなるように希釈して使用され、
前記(A)増粘剤がタマリンドガムである場合、前記(B)DE2~5のデンプン分解物の濃度が2質量%未満となるように希釈して使用される、増粘用粉末組成物。
【請求項10】
増粘多糖類の製造方法であって、
抽出又は合成した増粘多糖類と、(B)高度分岐環状デキストリンとを含む原料溶液を調製する工程、及び
前記工程で得られた原料溶液を乾燥する工程、を含み、
前記増粘多糖類が、グアガム、ローカストビーンガム、又はタマリンドガムであり、
前記増粘多糖類がグアガムである場合、前記原料溶液における前記(B)高度分岐環状デキストリンの濃度が2質量%以上であり、
前記増粘多糖類がローカストビーンガムである場合、前記原料溶液における前記(B)高度分岐環状デキストリンの濃度が2質量%以上であり、
前記増粘多糖類がタマリンドガムである場合、前記原料溶液における前記(B)高度分岐環状デキストリンの濃度が4質量%以上である、
ことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘目的で添加される増粘用液状組成物に関する。より具体的には、本発明は、増粘剤の粘性を低下させた状態で含み、水を含む希釈原料で希釈すると、増粘剤が本来有する粘性を回復できる増粘用液状組成物に関する。また、本発明は、当該増粘用液状組成物を含む粘性組成物、及び当該増粘用液状組成物を利用した粘性組成物の製造方法に関する。更に、本発明は、増粘剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、増粘多糖類等の増粘剤は、食品分野において、とろみの付与、ゲル状態の形成等の所望の粘性を備えさせるために広く使用されている。また、増粘多糖類等の増粘剤は、香粧品や医薬品の分野でも粘性付与等の目的で使用されており、更には化学製品の分野では粘着剤における粘着成分等としても使用されている。
【0003】
一方、食品、香粧品、医薬品、化学製品等の分野において、水を含む製品を製造する場合には、通常、原料の高濃度溶液を一旦調製した後に、これを希釈することにより最終製品の形態に調製する方法が広く採用されている。但し、増粘多糖類等の増粘剤については、高濃度溶液として調製すると、粘度が高くなり過ぎたり、ゲル化したりするため、ポンプ等を用いた定量的な添加ができないという欠点がある。そのため、増粘剤を添加して製品を製造する際には、固体の状態で、原料中に添加して溶解させる方法が採用されている。しかしながら、増粘剤を固体の状態で添加すると、溶解する際にダマが発生する等して溶解が不十分になり、所望の粘性を付与できなくなるという問題が生じることがある。また、増粘剤を完全に溶解させるためには加熱や比較的激しい撹拌が必要な場合も多く、熱に不安定な成分や物理的強度が弱い成分を製品に配合することが制限されたりするという欠点もある。従来、増粘剤の溶解性を改善する技術の開発も試みられているが、未だ十分な解決策が見出されていないのが現状である。
【0004】
そこで、増粘多糖類等の増粘剤を高濃度で含みながらも、ポンプ等を用いた定量的な添加が可能な程度に低粘性を呈し、且つ希釈によって増粘剤が有する本来の粘性を回復できる増粘用液状組成物を開発できれば、前記従来技術の問題点の解決につながると期待される。
【0005】
従来、増粘剤が呈する粘度を低下させる方法については、種々検討されている。例えば、特許文献1には、シクロデキストリン含有化合物を使用することによって、疎水性増粘剤の粘度を低下できることが報告されている。しかしながら、特許文献1の技術は、疎水性増粘剤に対して適用できる技術であり、親水性の増粘剤に適用できるものではない。更に、特許文献1では、低下させた疎水性増粘剤の粘度を回復させるためには、単に希釈するのではなく、界面活性剤等の添加剤の添加が必要とされている。このような界面活性剤の添加は、製品中の他の成分との相互作用が生じることが懸念されるため、特許文献1の技術では適用できる製品が制限されるという欠点もある。
【0006】
また、特許文献2には、所定量の増粘多糖類を含む溶液に、特定の澱粉分解物を添加することにより、増粘多糖類によって呈される粘度を低下させ得ることが開示されている。しかしながら、特許文献2では、あくまで、増粘多糖類による粘性を低下させる技術を開示しているに止まっている。通常、粘性が低下した溶液を希釈すると更なる粘性の低下が起きると考えられるため、特許文献2は、希釈によって増粘多糖類の粘性を回復させる技術を開示することにはならない。
【0007】
更に、特許文献3には、グルコマンナンを含む溶液にマルトデキストリンを添加することによって、グルコマンナンによって呈される粘性を低下させ得ることが開示されている。また、特許文献3では、低下した粘性を回復させるために、酵素処理又は酸処理によりマルトデキストリンを分解する方法を開示している。しかしながら、特許文献3が開示する粘性の回復方法では、溶液のpHや温度等を変化させてマルトデキストリンを分解する工程が必要であり、工程が煩雑になるだけでなく、製品中の他の成分に対しpHや温度変化の影響がある場合は本工程による粘性の回復が適用できないという制限もある。
【0008】
このように、従来技術では、増粘多糖類等の増粘剤の粘性を低下させた状態で存在させ、且つ水を含む希釈原料で単に希釈するだけで当該増粘剤が本来有する粘性を回復できる技術については見出されていないのが現状である。
【0009】
また、増粘多糖類の製造では、通常、水溶液中で抽出又は合成した増粘多糖類に対してアルコール沈殿等の濃縮工程を行った後に、乾燥、粉砕工程を経て製品化される。水溶液中の増粘多糖類が高濃度であっても低粘度になるようにコントロールできれば、増粘多糖類の製造における濃縮工程を簡略化又は省略でき、製造工程の大幅な簡略化を実現できる。そのため、製造時には増粘多糖類を高濃度で含みながらも低粘性を呈し、実際の製品での使用濃度では増粘多糖類が本来有する粘性を回復できる技術を開発できれば、増粘多糖類の効率的な製造に資することにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-178530号公報
【文献】特開平9-272702号公報
【文献】特表2002-543808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、増粘多糖類等の増粘剤の粘性を低下させた状態で存在させ、且つ希釈すると当該増粘剤が本来有する粘性を回復できる増粘用液体組成物を提供することである。また、本発明の他の目的は、増粘多糖類等の増粘剤の製造において、抽出又は合成した増粘剤を高濃度且つ低粘度の原料溶液を調製して、これを乾燥工程に供することにより、従来行われている濃縮工程を簡略化又は省略し、増粘剤を効率的に製造する技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、増粘多糖類等の増粘剤の粘性を低下することが知られている高度分岐環状デキストリン及び/又DE1~15のデンプン分解物には、その粘性の低下効果に濃度閾値が存在することを見出した。つまり、高度分岐環状デキストリン及び/又DE1~15のデンプン分解物には、特定の閾値濃度以上であれば、増粘剤の濃度に関わらず粘性低下効果を奏するが、特定の閾値濃度未満では当該粘性低下効果を奏しないことを見出した。
【0013】
かかる知見を基に、増粘剤を含む増粘用液体組成物において、高度分岐環状デキストリン及び/又DE1~15のデンプン分解物の添加量を増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上に設定し、且つ高度分岐環状デキストリン及び/又DE1~15のデンプン分解物の濃度が、水を含む希釈原料による希釈後には当該閾値濃度未満になるように設定することにより、増粘剤を粘性が低下した状態で存在させつつ、希釈後には増粘剤が本来有する粘性を回復できることを見出した。
【0014】
また、前記知見に基づいて、増粘多糖類の製造において、抽出又は合成した増粘多糖類と、高度分岐環状デキストリン及び/又DE1~15のデンプン分解物とを含み、且つ当該高度分岐環状デキストリン及び/又DE1~15のデンプン分解物の濃度が前記増粘多糖類の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上である原料溶液を調製し、当該原料溶液を乾燥工程に供することにより、濃縮工程を簡略化又は省略して増粘多糖類を効率的に製造できることを見出した。
【0015】
本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)増粘剤、並びに(B)高度分岐環状デキストリン、及びDE1~15のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の粘性低下成分を含み、
前記(B)粘性低下成分が前記(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上で含まれ、且つ
前記(B)粘性低下成分が前記(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度未満になるように希釈して使用される、
ことを特徴とする、増粘用液体組成物。
項2. 前記(A)増粘剤が増粘多糖類である、項1に記載の増粘用液体組成物。
項3. 前記(A)増粘剤が、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、グルコマンナン、タマリンドガム、及びアラビアガムよりなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の増粘用液体組成物。
項4. 前記(B)粘性低下成分が高度分岐環状デキストリンである、項1~3のいずれかに記載の増粘用液体組成物。
項5. 前記(A)増粘剤が1~80質量%含まれる、項1~4のいずれかに記載の増粘用液体組成物。
項6. 食品の製造に使用される、項1~5のいずれかに記載の増粘用液体組成物。
項7. (A)増粘剤、並びに(B)高度分岐環状デキストリン、及びDE1~15のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の粘性低下成分を含み、
前記(B)粘性低下成分が前記(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上で含まれる液体組成物の、
添加対象となる製品を増粘させるための使用。
項8. 項1~6のいずれかに記載の増粘用液体組成物と、水を含む希釈原料とを含有する、粘性組成物。
項9. 食品である、項8に記載の粘性組成物。
項10. 水を含む希釈原料を用いて、項1~6のいずれかに記載の増粘用液体組成物を前記(B)粘性低下成分が前記(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度未満となる濃度に希釈する工程を含む、粘性組成物の製造方法。
項11. 粘性組成物が食品である、項10に記載の製造方法。
項12. 項1~6のいずれかに記載の増粘用液体組成物を乾燥させてなる、増粘用粉末組成物。
項13. 増粘多糖類の製造方法であって、
抽出又は合成した増粘多糖類と、(B)高度分岐環状デキストリン、及びDE1~15のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の粘性低下成分とを含み、且つ当該(B)粘性低下成分の濃度が前記増粘多糖類の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上である原料溶液を調製する工程、及び
前記工程で得られた原料溶液を乾燥する工程
を含むことを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の増粘用液体組成物によれば、増粘多糖類等の増粘剤を高濃度で含みながらも、増粘剤の粘性が低下した状態で存在させることができ、しかも水を含む希釈原料で希釈すると、増粘剤が本来有する粘性を回復させ、所望の粘性を呈させることができる。このように本発明の増粘用液体組成物は、希釈前の状態で低粘性、希釈後には高粘性を呈するように、粘性をコントロールできるので、増粘剤の粘性を呈させた各種製品(粘性組成物)を簡便に製造することが可能になる。
【0017】
また、本発明の増粘剤の製造方法によれば、抽出又は合成した増粘剤を高濃度で含みながらも、低粘性の原料溶液を調製し、これを乾燥工程に供することができるので、従来法で採用されている濃縮工程を簡略化又は省略して、増粘剤を効率的に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試験例1において、グアガムを1.25~10質量%及び高度分岐環状デキストリンを0~20質量%含む増粘溶液について、25℃での粘度を測定した結果を示す図である。
図2】試験例3において、実施例2の増粘用液体組成物を添加した各種飲料について、25℃での粘度を測定した結果を示す図である。
図3】試験例5において、グルコマンナンを1.25~5質量%及び高度分岐環状デキストリンを0~5質量%含む増粘溶液について、25℃での粘度を測定した結果を示す図である。
図4】試験例6において、ローカストビーンガムを1.25~5質量%及び高度分岐環状デキストリンを0~5質量%含む増粘溶液について、25℃での粘度を測定した結果を示す図である。
図5】試験例7において、タマリンドガムを1.25~5質量%及び高度分岐環状デキストリンを0~10質量%含む増粘溶液について、25℃での粘度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.増粘用液状組成物
本発明の増粘用液体組成物は、(A)増粘剤、並びに(B)高度分岐環状デキストリン、及びDE1~15のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の粘性低下成分を含み、前記(B)粘性低下成分が前記(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上で含まれ、且つ前記(B)粘性低下成分が前記(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度未満になるように希釈して使用されることを特徴とする。以下、本発明の増粘用液体組成物について詳述する。
【0020】
((A)増粘剤)
本発明の増粘用液体組成物は、(A)増粘剤を含有する。本発明で使用される増粘剤の種類については、水に溶解して粘性を呈する性質を有することを限度として特に制限されないが、例えば、グアガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、ペクチン、カラギーナン、サイリュームシードガム、寒天、アラビアゴム、カラヤガム、ガティガム、タマリンドガム、ジェランガム、アゾトバクタービネランジーガム、アラビノガラクタン、ペクチン、トラガント、カードラン、マンナン、グルコマンナン、プルラン、デンプン、加工デンプン、アルギン酸、カルメロース、クロスカルメロース、ファーセレラン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸、及びこれらの塩等の増粘多糖類;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその塩等の合成樹脂;ゼラチン等が挙げられる。これらの増粘剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
これらの増粘剤の中でも、低粘性及び希釈による粘度回復効果をより一層効果的に奏させるという観点から、好ましくは増粘多糖類;更に好ましくはグアガム、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンドガム、アラビアゴム、グルコマンナンが挙げられる。また、好適な増粘剤の組み合わせとして、キサンタンガムとグアガムの組み合わせ、キサンタンガムとローカストビーンガムの組み合わせ、キサンタンガムとタラガムの組み合わせが挙げられる。
【0022】
本発明の増粘用液体組成物において、(A)増粘剤の含有量については、増粘剤の種類や最終的に添加される製品(粘性組成物)における増粘剤の含有量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.1~80質量%、好ましくは0.5~70質量%、更に好ましくは1~60質量%が挙げられる。
【0023】
((B)粘性低下成分)
本発明の増粘用液体組成物は、(A)増粘剤と共に、(B)粘性低下成分として、高度分岐環状デキストリン、及びDE1~15のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。本発明の増粘用液体組成物は、このように(B)粘性低下成分を含有することにより、(A)増粘剤の粘性が低下した状態になり、操作性に優れた流動性を備えることが可能になる。
【0024】
本発明で使用される高度分岐環状デキストリンは、α-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合とで形成される内分岐環状構造部分と当該内分岐環状構造部分に結合した外分岐構造部分からなるグルカンである。外分岐構造部分は、少なくとも1つのα-1,6-グルコシド結合を介して内分岐環状構造部分に結合している。
【0025】
高度分岐環状デキストリンにおける内分岐環状構造部分の平均重合度としては、特に制限されないが、例えば、10以上、好ましくは10~500、更に好ましくは10~100が挙げられる。また、高度分岐環状デキストリンにおける外分岐構造部分における平均重合度としては、特に制限されないが、例えば、40以上、好ましくは40~8,000、更に好ましくは40~5,000、更に好ましくは40~3,000、特に好ましくは40~1,000が挙げられる。また、高度分岐環状デキストリンの平均重合度としては、特に制限されないが、例えば、50以上、好ましくは50~10,000、更に好ましくは50~7,000、特に好ましくは50~5,000が挙げられる。なお、本発明において、高度分岐環状デキストリンの平均重合度は、MALLS法(Takata,H. et al., J. Appl. Glycosci., 2003. 50: p.15-20)によって決定された重量平均分子量を、デキストリンを構成するグルコース単位の分子量162で除すことにより求められる値を指す。
【0026】
また、高度分岐環状デキストリンにおける分岐数(即ち、外分岐構造部分の数)についても、特に制限されないが、例えば20以上、好ましくは20~1,000個、更に好ましくは50~500が挙げられる。
【0027】
高度分岐環状デキストリンは、分岐状デキストリンにブランチングエンザイムやサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ等の酵素を用いて、デンプンを低分子化及び環状化することにより製造することができる。本発明では、高度分岐環状デキストリンとして、特許第3107358号公報、Takata, H. et al., (1996) Carbohydr. Res. 295, 91-101、Takata, H. et al., (2003) J. Appl. Glycosci. 50, 15-20等に開示されている公知の製造方法で得たものを使用してもよく、また例えば、商品名「クラスターデキストリン」(江崎グリコ株式会社)等の市販品を使用してもよい。
【0028】
DE1~15のデンプン分解物は、酵素分解、酸分解等の加水分解によって低分子化したものである。デンプン分解物のDE値として、好ましくは1~10、更に好ましくは2~5が挙げられる。なお、本発明において、デンプン分解物のDEとは、ウィルシュテッター・シューデル法により測定されたデキストロース当量である。
【0029】
DE1~15のデンプン分解物の製造原料として使用されるデンプンの由来については、特に制限されず、例えば、小麦、トウモロコシ、米、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、緑豆、エンドウ豆、小豆、ソラマメ等が挙げられる。
【0030】
DE1~15のデンプン分解物は、通常、分子量が2万~250万の画分を50質量%以上含むデンプン分解物に相当している。本発明において、DE1~15のデンプン分解物の分子量は、ゲル濾過法によって測定される値である。
【0031】
本発明の増粘用液体組成物において、(B)粘性低下成分として、高度分岐環状デキストリン又はDE1~15のデンプン分解物のいずれか一方を単独で使用してもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。(B)粘性低下成分の中でも、低粘性及び希釈による粘度回復効果をより一層効果的に奏させるという観点から、好ましくは高度分岐環状デキストリン、DE2~5のデンプン分解物が挙げられる。
【0032】
本発明の増粘用液体組成物において、(B)粘性低下成分の含有量は、(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上に設定される。本発明において、「(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度」とは、(A)増粘剤を溶解させた液体組成物において、(B)粘性低下成分を添加しない場合に比べて、25℃での粘度を少なくとも50%低下させるのに要する(B)粘性低下成分の最少濃度を指す。当該閾値濃度は、(A)増粘剤の種類や(B)粘性低下成分の種類によって変動するので、使用する(A)増粘剤の種類及び(B)粘性低下成分の種類に応じて適宜設定される。また、使用する(A)増粘剤の種類によっては、その濃度によって前記閾値濃度が僅かに変動することがあるので、該閾値濃度は、増粘用液体組成物における(A)増粘剤の濃度を考慮した上で適宜設定される。例えば、(A)増粘剤としてグアガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として、高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、グアガム濃度に応じて、(B)粘性低下成分の前記閾値濃度は1~2質量%の間で変動する。また、(A)増粘剤としてローカストビーンガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として、高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、ローカストビーンガムの濃度に応じて、(B)粘性低下成分の前記閾値濃度は1~2質量%の間で変動する。また、(A)増粘剤としてグルコマンナンを使用し、且つ(B)粘性低下成分として、高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、グルコマンナンの濃度に応じて、(B)粘性低下成分の前記閾値濃度は0.5~1質量%の間で変動する。更に、(A)増粘剤としてタマリンドガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として、高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、タマリンドガムの濃度に応じて、(B)粘性低下成分の前記閾値濃度は2~4質量%の間で変動する。
【0033】
より具体的には、(A)増粘剤としてグアガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、前記閾値濃度は1~2質量%になるので、本発明の増粘用液体組成物における(B)粘性低下成分の含有量は、2質量%以上、好ましくは2~20質量%、更に好ましくは2~10質量%に設定すればよい。
【0034】
(A)増粘剤としてローカストビーンガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、前記閾値濃度は1~2質量%になるので、本発明の増粘用液体組成物における(B)粘性低下成分の含有量は、2質量%以上、好ましくは2~20質量%、更に好ましくは2~10質量%に設定すればよい。
【0035】
(A)増粘剤としてグルコマンナンを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、前記閾値濃度は0.5~1質量%になるので、本発明の増粘用液体組成物における(B)粘性低下成分の含有量は、1質量%以上、好ましくは1~20質量%、更に好ましくは1~10質量%に設定すればよい。
【0036】
(A)増粘剤としてタマリンドガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、前記閾値濃度は2~4質量%になるので、本発明の増粘用液体組成物における(B)粘性低下成分の含有量は、4質量%以上、好ましくは4~20質量%、更に好ましくは4~10質量%に設定すればよい。
【0037】
なお、(A)増粘剤として、グアガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、及びタマリンドガム以外を使用する場合であっても、各増粘剤の種類及び使用濃度に応じて、後述する試験例に準じて(B)粘性低下成分の前記閾値濃度を求め、当該閾値濃度に応じて、本発明の増粘用液体組成物における(B)粘性低下成分を適宜設定することができる。
【0038】
(他の成分)
本発明の増粘用液体組成物は、(A)増粘剤及び(B)粘性低下成分を溶解させて存在させるために、基材として水が含まれる。
【0039】
また、本発明の増粘用液体組成物には、前述する成分の他に、本発明の効果を妨げない範囲で、希釈して調製される最終製品(粘性組成物)の種類に応じて、酸化防止剤、色素、香料、保存剤、乳化剤、pH調整剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0040】
(粘度)
本発明の増粘用液体組成物は、(B)粘性低下成分を、前記(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上含むことによって、(A)増粘剤の粘性が低下した状態になっている。本発明の増粘用液体組成物の粘度については、(A)増粘剤が本来有する粘性が低下した状態である限り、特に制限されないが、例えば25℃における粘度として、50,000mPa・s以下、好ましくは30,000mPa・s以下、更に好ましくは20,000mPa・s以下が挙げられる。また、本発明の増粘用液体組成物の25℃における粘度の下限値については、特に制限されないが、例えば、0.2mPa・s以上、好ましくは0.5mPa・s以上が挙げられる。より具体的には、本発明の増粘用液体組成物の25℃における粘度として、例えば、0.2~50,000mPa・s、好ましくは0.5~30,000mPa・s、更に好ましくは0.5~20,000mPa・sが挙げられる。ここで、25℃における粘度とは、コーンプレート型粘度計を用いて、コーン角度1°、コーン直径35mm、及びせん断速度10/秒にて測定される25℃での粘度を指す。
【0041】
(使用態様)
本発明の増粘用液体組成物は、使用時に水を含む希釈原料で希釈することにより、粘性組成物を調製するために使用される。本発明の増粘用液体組成物は、水を含む希釈原料で希釈すると、粘性組成物中で(A)増粘剤が本来有する粘性を回復させることができる。
【0042】
本発明の増粘用液体組成物を前記希釈原料で希釈する際の希釈倍率については、希釈後の(B)粘性低下成分の濃度が前記閾値濃度未満となる濃度に設定すればよい。(B)粘性低下成分の濃度が前記閾値濃度未満になると、(A)増粘剤の粘性を低下させる効果を奏することができなくなり、(A)増粘剤が本来有する粘性を回復することができる。希釈による粘度回復効果をより一層効果的に奏させるという観点から、前記希釈原料での希釈後の(B)粘性低下成分の濃度(粘性組成物での(B)粘性低下成分の含有量)が、好ましくは前記閾値濃度の1/2以下、更に好ましくは前記閾値濃度の1/4以下となるように設定すればよい。
【0043】
より具体的には、(A)増粘剤としてグアガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、本発明の増粘用液体組成物の希釈倍率は、希釈後の(B)粘性低下成分の濃度が1質量%未満、0.05~0.5質量%、更に好ましくは0.05~0.25質量%となるように設定すればよい。
【0044】
(A)増粘剤としてローカストビーンガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、本発明の増粘用液体組成物の希釈倍率は、希釈後の(B)粘性低下成分の濃度が1質量%未満、0.05~0.5質量%、更に好ましくは0.05~0.25質量%となるように設定すればよい。
【0045】
(A)増粘剤としてグルコマンナンを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、本発明の増粘用液体組成物の希釈倍率は、希釈後の(B)粘性低下成分の濃度が0.5質量%未満、0.03~0.25質量%、更に好ましくは0.03~0.125質量%となるように設定すればよい。
【0046】
(A)増粘剤としてタマリンドガムを使用し、且つ(B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、本発明の増粘用液体組成物の希釈倍率は、希釈後の(B)粘性低下成分の濃度が2質量%未満、0.1~1質量%、更に好ましくは0.1~0.5質量%となるように設定すればよい。
【0047】
本発明の増粘用液体組成物の希釈に使用される希釈原料については、水が含まれている限り、その組成については特に制限されず、水のみであってもよく、また希釈して調製される最終製品(粘性組成物)の種類に応じて、各種素材や添加剤が含まれている水であってもよい。
【0048】
(適用対象となる製品)
本発明の増粘用液体組成物は、食品、香粧品、医薬品、化学製品等の製品において、(A)増粘剤による粘性が付与された液状又はゲル状の粘性組成物を製造するために使用される。
【0049】
例えば、食品分野では、(A)増粘剤を含む食品を製造する際の製造工程において、本発明の増粘用液体組成物を用いて、これを希釈原料で希釈することによって、各種形態の食品(粘性組成物)を製造することができる。更に、本発明の増粘用液体組成物を希釈原料で希釈した粘性組成物を製造中間体として使用して、非液状又は非ゲル状の食品を製造することもできる。食品の製造の際に使用される希釈原料は、製造目的となる食品の種類に応じて、水以外に各種食品素材や食品添加物が含まれていてもよく、例えば飲料であってもよい。このような食品素材及び食品添加物としては、例えば、小麦粉、米粉、大豆粉等の穀粉類;糖類;油脂;粉乳、牛乳、練乳、生クリームやホイップクリーム等の乳製品;卵黄、卵白、メレンゲ等の卵加工品;牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉等の畜肉由来タンパク質;魚、貝類等の魚介類由来タンパク質;甘味料、フルーツ、果汁、酸味料、調味料、色素、香料、ピューレ、日持ち向上剤、保存料、膨張剤、酸化防止剤、エキス、乳化剤、pH調整剤、洋酒、その他ミネラル類等が挙げられる。
【0050】
本発明の増粘用液体組成物を用いて製造される食品(粘性組成物)としては、具体的には、ゼリー、デザート、和菓子、洋生菓子、ジャム、調味料、ソース、レトルト食品、嚥下困難者用食品、ゼリー飲料等のゲル状又は液状食品が挙げられる。また、本発明の増粘用液体組成物を使用して得られた製造中間体(粘性組成物)から製造される食品としては、具体的には、アイスクリーム、フリーズドライスープ、キャラメル、ガム、チョコレート、クッキー、クラッカー等の製造工程での乾燥前の製造中間体が挙げられる。
【0051】
更に、本発明の増粘用液体組成物を食品分野で使用する場合には、希釈原料で希釈して所望の粘度を付与した後に喫食される食品ベースとして提供することもできる。このような食品ベースとしては、例えば、とろみ剤、即席デザートベース(ゲル状食品を調製するためのデザートベース)、スープの素、ダシの素、シチューの素、飲料ベース(希釈して飲料を調製するための原液)、カレーの素等が挙げられる。
【0052】
また、例えば、香粧品又は医薬品分野では、(A)増粘剤を含む香粧品又は医薬品を製造する際の製造工程において、本発明の増粘用液体組成物を用いて、これを希釈原料で希釈することによって、各種形態の香粧品又は医薬品(粘性組成物)を製造することができる。香粧品又は医薬品の製造の際に使用される希釈原料には、製造目的となる香粧品又は医薬品の種類に応じて、水以外に、各種生理活性成分や添加剤が含まれていてもよい。
【0053】
本発明の増粘用液体組成物を用いて製造される香粧品としては、具体的には、保湿ゲル、ハンドゲル、美容液、クリーム(ウォッシングクリーム・洗顔クリーム、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム)、乳液、化粧水、パック、洗浄用化粧品(メイク落とし)、ひげ剃り用化粧品等の基礎化粧料;シャンプー、リンス、リンスインシャンプー、コンディショナー、トリートメント、整髪剤、育毛剤、染毛剤、パーマネントウエーブ剤等の毛髪化粧料;ファンデーション、口紅、アイ製品等のメイクアップ化粧料;制汗デオドラント製品、日焼け止めおよびサンタン製品等の身体用化粧料等が挙げられる。また、本発明の増粘用液体組成物を用いて製造される医薬品としては、具体的には、ゲル剤、チック剤、液剤等が挙げられる。
【0054】
更に、本発明の増粘用液体組成物を香粧品又は医薬品分野で使用する場合には、使用時に希釈原料で希釈して粘度を付与した後に経皮適用される態様の香粧品ベース又は医薬品ベースとして提供することもできる。
【0055】
また、例えば、化学製品分野では、(A)増粘剤を含む化学製品を製造する際の製造工程において、本発明の増粘用液体組成物を用いて、これを希釈原料で希釈することによって、各種形態の化学製品(粘性組成物)を製造することができる。化学製品の製造の際に使用される希釈原料には、製造目的となる化学製品の種類に応じて、水以外に、各種溶剤や添加剤が含まれて入れてもよい。
【0056】
本発明の増粘用液体組成物を用いて製造される化学製品(粘性組成物)としては、具体的には、粘着剤、接着剤、液体洗剤、入浴剤、セメント、シェールガス・オイルの掘削用添加剤等の化学製品;粉末洗剤等の乾燥前の製造中間体等が挙げられる。
【0057】
(粉末状態での提供)
本発明の増粘用液体組成物は、更に乾燥処理に供して、増粘用粉末組成物として提供することもできる。このような増粘用粉末組成物は、前述する食品ベース、香粧品ベース、又は医薬品ベース等として利用することができる。増粘用粉末組成物は、希釈原料を用いて(B)粘性低下成分が前述する濃度になるように希釈して使用される。
【0058】
前記増粘用粉末組成物は、本発明の増粘用液体組成物を、スプレー乾燥、流動層乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の乾燥処理に供することによって製造することができる。
【0059】
2.増粘多糖類の製造方法
本発明の増粘多糖類の製造方法は、抽出又は合成した増粘多糖類と、(B)高度分岐環状デキストリン、及びDE1~15のデンプン分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の粘性低下成分とを含み、且つ当該(B)粘性低下成分の濃度が前記増粘多糖類の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上である原料溶液を調製する工程、及び前記工程で得られた原料溶液を乾燥する工程を含むことを特徴とする。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0060】
本発明の製造方法は、増粘多糖類を製造する方法であり、高濃度の増粘多糖類を含む原料溶液をそのまま乾燥工程に供することができるので、従来法のように、抽出又は合成した増粘多糖類をアルコール沈殿等で濃縮する工程を省略又は簡略化でき、効率的な増粘多糖類又の製造が可能になる。
【0061】
本発明の製造方法において、原料溶液に含有される増粘多糖類の種類、増粘多糖類の中で好ましいもの等については、前記「1.増粘用液体組成物」の欄に示した(A)増粘剤として例示した増粘多糖類と同様である。また、原料溶液に含まれる増粘多糖類の抽出又は合成方法については、増粘多糖類の製造で採用されている従来法と同様である。
【0062】
原料溶液に含まれる増粘多糖類の含有量については、特に制限されないが、通常0.1~80量、好ましくは0.5~70質量%、より好ましくは1~60質量%、更に好ましくは1~50質量%、特に好ましくは1~40質量%、より一層好ましくは1~30質量%、1~20質量%、又は1~10質量%が挙げられる。本発明の製造方法では、このように高含有量の増粘多糖類を含む原料溶液であっても、(B)粘性低下成分によって粘性が低下した状態になるので、そのまま乾燥工程に供することが可能になる。
【0063】
また、原料溶液に添加される(B)粘性低下成分の具体例、好適なもの等については、前記「1.増粘用液体組成物」の欄に示した(B)粘性低下成分と同様である。原料溶液における(B)粘性低下成分の含有量については、前記増粘多糖類の粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度以上であればよいが、 (B)粘性低下成分として高度分岐環状デキストリン及び/又はDE2~5のデンプン分解物を使用する場合であれば、より好適に原料溶液の低粘性を実現するという観点から、具体的には以下の範囲が例示される。
グアガムの製造の場合:2質量%以上、好ましくは2~20質量%、更に好ましくは2~10質量%。
ローカストビーンガムの製造の場合:2質量%以上、好ましくは2~20質量%、更に好ましくは2~10質量%。
グルコマンナンの製造の場合:1質量%以上、好ましくは1~20質量%、更に好ましくは1~10質量%。
タマリンドガムの製造の場合:4質量%以上、好ましくは4~20質量%、更に好ましくは4~10質量%。
【0064】
また、本発明の製造方法において、原料溶液において、増粘多糖類に対する(B)粘性低下成分の比率をコントロールすることによって、製造された増粘多糖類を実際の製品(粘性組成物)での使用濃度において、(B)粘性低下成分による粘性低下効果を喪失させて増粘多糖類が本来有する粘性を呈させることが可能になる。具体的には、製造された増粘多糖類を実際の製品(粘性組成物)での使用濃度をX質量%、(B)粘性低下成分の前記閾値濃度をY質量%とすると、原料溶液において、増粘多糖類100質量部当たり、(B)粘性低下成分が(Y/X)×100質量部未満、好ましくは(Y/X)×50重量部以下、更に好ましくは(Y/X)×5~(Y/X)×25重量部を満たすように添加することによって、製造された増粘多糖類を添加した実際の製品(粘性組成物)において、(B)粘性低下成分が前記閾値濃度未満になり実際の製品(粘性組成物)において増粘多糖類が本来有する粘性を呈させることが可能になる。
【0065】
本発明の製造方法において、原料溶液を乾燥する方法については、特に制限されず、スプレー乾燥、流動層乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等のいずれであってもよいが、好ましくはスプレー乾燥が挙げられる。
【0066】
本発明の製造方法において、前記原料溶液の調製工程の前に、必要に応じて、抽出又は合成した増粘多糖類をアルコール沈殿等によって濃縮する工程に供してもよい。また、前記乾燥工程の前に、必要に応じて、原料溶液を、イオン交換処理、活性炭処理等の精製工程に供してもよい。
【0067】
本発明の製造方法で得られた増粘多糖類は、増粘剤や粘着剤等として、食品、香粧品、医薬品、化学製品等の分野において使用される。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0069】
試験例1:グアガムに対する高度分岐環状デキストリンの粘度低下効果の濃度閾値の確認
増粘多糖類としてグアガムを用いて、高度分岐環状デキストリンの濃度と粘度低下効果の関係について評価した。具体的には、グアガム(和光純薬製 カタログ番号:073-04615、ロット番号:EWP7811)を1.25~10質量%、高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ株式会社製「クラスターデキストリン」 ロット番号:121018、平均重合度:1,800)を0~20質量%となるように水に含有させて、増粘溶液を製造した。各増粘溶液の粘度を、レオメータ(HAAKE社製 RheoStress 6000、コーンタイププレート(Type C35/1; 直径35mm、コーン角度1°))を用い、測定温度25℃、せん断速度10/秒に設定して測定した。
【0070】
得られた結果を図1に示す。図1から明らかなように、高度分岐環状デキストリンが2質量%以上の場合にはグアガムの濃度に拘わらず粘性が低下しているが、高度分岐環状デキストリンが1質量%未満の場合にはグアガムの粘性を低下させる効果が損なわれていた。即ち、本結果から、高度分岐環状デキストリンには、グアガムの粘性を低下させる濃度閾値(1~2質量%)が存在しており、当該濃度閾値未満であればグアガムが本来有する粘性を効果的に呈させ得ることが明らかとなった。
【0071】
試験例2:高度分岐環状デキストリンが濃度閾値(2質量%)未満になるように希釈するとグアガムの粘性が回復することの確認
水90gに、グアガム(和光純薬製 カタログ番号:073-04615、ロット番号:EWP7811)5g及び高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ株式会社製「クラスターデキストリン」 ロット番号:121018、平均重合度:1,800)5gの混合粉末を加え混合し、更に沸騰湯浴で加熱しながら混合して完全に溶解することにより、増粘用液体組成物を得た(終濃度はそれぞれ、グアガム5質量%、高度分岐環状デキストリン5質量%;実施例1-1)。実施例1-1の増粘用液体組成物を水で4倍稀釈し、増粘組成物(終濃度はそれぞれ、グアガム1.25質量%、高度分岐環状デキストリン1.25質量%;実施例2-1)を得た。
【0072】
また、水95gに、グアガム5gを加え、沸騰湯浴で加熱しながら混合して溶解し、増粘用液体組成物を得た(終濃度はグアガム5質量%;比較例1-1)。更に、比較例1-1の増粘用液体組成物を水で4倍稀釈し、増粘組成物(終濃度はグアガム1.25質量%;比較例1-2)を得た。
【0073】
得られた各増粘用液体組成物及び増粘組成物の粘度を、レオメータ(HAAKE社製 RheoStress 6000、コーンタイププレート(Type C35/1; 直径35mm、コーン角度1°))を用い、測定温度25℃、せん断速度10/秒に設定して測定した。
【0074】
得られた結果を表1に示す。実施例1-1の増粘用液体組成物は、高度分岐環状デキストリンが閾値濃度(2質量%)以上含まれているため、高度分岐環状デキストリンを含まない比較例1-1よりも粘度が大きく低下していた。
【0075】
また、実施例1-1の増粘用液体組成物を水で4倍に希釈しても、粘度の低下は見られず(実施例1-2)、グアガムのみ同じ濃度で含む比較例1-2とほぼ同じ粘度を示していた。即ち、本結果から、実施例2-2の増粘組成物は、高度分岐環状デキストリンの濃度が1.25質量%であり、閾値濃度(2質量%)以下であるため、高度分岐環状デキストリンによる粘度低下効果がなくなり、比較例1-2と同じ粘度を示すようになることが分かった。
【0076】
【表1】
【0077】
試験例3:食品(飲料)への粘性付与
水85gに、グアガム(和光純薬製、カタログ番号:073-04615、ロット番号:EWP7811)4g、キサンタンガム(SIGMA-ALDRICH製、カタログ番号:G1253、ロット番号:071K2204)1g、及び高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ株式会社製「クラスターデキストリン」 ロット番号:121018、平均重合度:1,800)10gの混合粉末を加え混合し、さらに沸騰湯浴で加熱しながら混合して完全に溶解することにより、増粘用液体組成物(実施例2)を得た(終濃度はそれぞれ、グアガム4質量%、キサンタンガム1質量%、高度分岐環状デキストリン10質量%)。得られた増粘用液体組成物1質量部に対し、種々飲料(水、日本茶、コーヒー、紅茶)4質量部を加えて、増粘用液体組成物を調製した。得られた増粘用液体組成物の粘度をレオメータ(HAAKE社製 RheoStress 6000、コーンタイププレート(Type C35/1; 直径35mm、コーン角度1°))を用い、測定温度25℃、せん断速度1~400/秒に設定して測定した。
【0078】
得られた結果を図2に示す。実施例2の増粘用液体組成物を、各種飲料で希釈することで、所望の粘度(水で希釈した場合と同等の粘度)を付与することができた。即ち、本結果から、本発明の増粘用液体組成物は、様々な液状食品に希釈して添加することで、所望の粘性を付与できることが確認された。
【0079】
試験例4:DE2~5のデンプン分解物が濃度閾値(2質量%)未満になるように希釈するとグアガムの粘性が回復することの確認
水90gに、グアガム(和光純薬製 カタログ番号:073-04615、ロット番号:EWP7811)5g及びDE2~5のデンプン分解物(三和澱粉工業株式会社製 サンデック#30)5gの混合粉末を加え混合し、更に沸騰湯浴で加熱しながら混合して完全に溶解することで、増粘用液体組成物を得た(終濃度はそれぞれ、グアガム5質量%、デンプン分解物5質量%;実施例2-1)。実施例2-1の増粘用液体組成物を水で4倍稀釈し、増粘組成物(終濃度はそれぞれ、グアガム1.25質量%、デンプン分解物1.25質量%;実施例2-2)を得た。
【0080】
また、DE2~5のデンプン分解物として、松谷化学工業株式会社製 パインデックス#100を使用して、同様に増粘用液体組成物(実施例3-1)を得た。また、実施例3-1の増粘用液体組成物を水で4倍稀釈し、増粘組成物(終濃度はそれぞれ、グアガム1.25質量%、デンプン分解物1.25質量%;実施例3-2)を得た。
【0081】
更に、水95gに、グアガム5gを加え、沸騰湯浴で加熱しながら混合して溶解し、増粘用液体組成物を得た(終濃度はグアガム5質量%;比較例1-1)。更に、比較例1-1の増粘用液体組成物を水で4倍稀釈し、増粘組成物(終濃度はグアガム1.25質量%;比較例1-2)を得た。
【0082】
得られた各増粘用液体組成物及び増粘組成物の粘度を試験例1と同様に測定した。得られた結果を表2に示す。実施例2-1及び3-1の増粘用液体組成物は、デンプン分解物が閾値濃度(2質量%)以上含まれているため、デンプン分解物を含まない比較例1-1よりも粘度が大きく低下していた。
【0083】
また、実施例2-1及び3-1の増粘用液体組成物を水で4倍に希釈しても、粘度の低下は見られず(実施例2-2、3-2)、グアガムのみを同じ濃度で含む比較例1-2とほぼ同じ粘度を示していた。即ち、本結果から、実施例2-2及び3-2の増粘組成物は、デンプン分解物の濃度が1.25質量%であり、閾値濃度(2質量%)以下であるため、デンプン分解物による粘度低下効果がなくなり、比較例1-2と同じ粘度を示すことが分かった。
【0084】
【表2】
【0085】
試験例5:グルコマンナンに対する高度分岐環状デキストリンの粘度低下効果の濃度閾値の確認
増粘多糖類としてグルコマンナンを用いて、高度分岐環状デキストリンの濃度と粘度低下効果の関係について評価した。具体的には、グルコマンナン(和光純薬製 カタログ番号:071-03751、ロット番号:TCP3968、コンニャクイモ製)を1.25~5質量%、高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ製「クラスターデキストリン」 ロット番号:121018、平均重合度:1,800)を0~5質量%となるように水に含有させて、増粘溶液を製造した。各増粘溶液の粘度を、レオメータ(HAAKE社製 RheoStress 6000、コーンタイププレート(Type C35/1; 直径35mm、コーン角度1°))を用い、測定温度25℃、せん断速度10/秒に設定して測定した。
【0086】
得られた結果を図3に示す。グルコマンナンの場合、粘度を低下させる高度分岐環状デキストリン濃度は、グルコマンナンの濃度によって多少変動した。しかしながら、調べたグルコマンナンの濃度範囲において、高度分岐環状デキストリンが1質量%以上の場合にはグルコマンナンの濃度に関わらず粘性が低下し、高度分岐環状デキストリンが0.5質量%未満の場合にはグルコマンナンの粘性を低下させる効果が損なわれていた。即ち、本結果から、高度分岐環状デキストリンには、多少幅のあるものの、グルコマンナンの粘性を低下させる濃度閾値(0.5~1質量%)が存在しており、グルコマンナンと高度分岐環状デキストリンを共存させても、高度分岐環状デキストリンの濃度が当該濃度閾値未満になるように希釈すればグルコマンナンが本来有する粘性を効果的に呈させ得ることが明らかとなった。
【0087】
試験例6:ローカストビーンガムに対する高度分岐環状デキストリンの粘度低下効果の濃度閾値の確認
増粘多糖類としてローカストビーンガムを用いて、高度分岐環状デキストリンの濃度と粘度低下効果の関係について評価した。具体的には、ローカストビーンガム(和光純薬製 カタログ番号:124-04735、ロット番号:CTP1819)を1.25~5質量%、高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ製「クラスターデキストリン」 ロット番号:121018、平均重合度:1,800)を0~5質量%となるように水に含有させて、増粘溶液を製造した。各増粘溶液の粘度を、レオメータ(HAAKE社製 RheoStress 6000、コーンタイププレート(Type C35/1; 直径35mm、コーン角度1°))を用い、測定温度25℃、せん断速度10/秒に設定して測定した。
【0088】
得られた結果を図4に示す。ローカストビーンガムの場合、粘度を低下させる高度分岐環状デキストリン濃度は、ローカストビーンガムの濃度によって多少変動した。しかしながら、試験したグルコマンナンの濃度範囲において、高度分岐環状デキストリンが2質量%以上の場合にはローカストビーンガムの濃度に拘わらず粘性が低下し、高度分岐環状デキストリンが1質量%未満の場合にはローカストビーンガムの粘性を低下させる効果が損なわれていた。即ち、本結果から、高度分岐環状デキストリンには、多少幅のあるものの、ローカストビーンガムの粘性を低下させる濃度閾値(1~2質量%)が存在しており、ローカストビーンガムと高度分岐環状デキストリンを共存させても、高度分岐環状デキストリンの濃度が当該濃度閾値未満になるように希釈すればローカストビーンガムが本来有する粘性を効果的に呈させ得ることが明らかとなった。
【0089】
試験例7:タマリンドガムに対する高度分岐環状デキストリンの粘度低下効果の濃度閾値の確認
増粘多糖類としてタマリンドガムを用いて、高度分岐環状デキストリンの濃度と粘度低下効果の関係について評価した。具体的には、タマリンドガム(東京化成工業株式会社製 カタログ番号:T0909)を1.25~5質量%、高度分岐環状デキストリン(江崎グリコ製「クラスターデキストリン」 ロット番号:121018、平均重合度:1,800)を0~10質量%となるように水に含有させて、増粘溶液を製造した。各増粘溶液の粘度を、レオメータ(HAAKE社製 RheoStress 6000、コーンタイププレート(Type C35/1; 直径35mm、コーン角度1°))を用い、測定温度25℃、せん断速度10/秒に設定して測定した。
【0090】
得られた結果を図5に示す。タマリンドガムの場合、粘度を低下させる高度分岐環状デキストリン濃度は、タマリンドガムの濃度によって多少変動した。しかしながら、試験したタマリンドガムの濃度範囲において、高度分岐環状デキストリンが4質量%以上の場合にはタマリンドガムの濃度に関わらず粘性が低下し、高度分岐環状デキストリンが2質量%未満の場合にはタマリンドガムの粘性を低下させる効果が損なわれていた。即ち、本結果から、高度分岐環状デキストリンには、多少幅のあるものの、タマリンドガムの粘性を低下させる濃度閾値(2~4質量%)が存在しており、タマリンドガムと高度分岐環状デキストリンを共存させても、高度分岐環状デキストリンの濃度が当該濃度閾値未満になるように希釈すればタマリンドガムが本来有する粘性を効果的に呈させ得ることが明らかとなった。
【0091】
<付加的考察>
試験例1及び5~7に示されているように、グアガム、グルコマンナン、ローカストビーンガム及びタマリンドガムの粘性を低下させる効果を奏する閾値濃度が、これらの増粘多糖類の濃度が高まるに伴って、低下する傾向があるという結果は、希釈して粘性を発現する増粘用液体組成物を設計する上で大変利用し易い性質である。つまり、グアガム、グルコマンナン、ローカストビーンガム及び/又はタマリンドガムを含む増粘用液体組成物を希釈したとき、高度分岐環状デキストリン濃度閾値の上昇と、高度分岐環状デキストリン濃度の低下が同時に起こることになり、より確実に高度分岐環状デキストリンによる粘性低下効果を失わせることができるからである。更に、粘性調整に使用する高度分岐環状デキストリンの使用量が少なくなる効果もある。
図1
図2
図3
図4
図5