(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/26 20060101AFI20230301BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230301BHJP
H01F 27/30 20060101ALI20230301BHJP
H01F 30/12 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H01F27/26 130S
H01F27/26 160
H01F27/28 179
H01F27/30 160
H01F30/12 A
H01F30/12 C
(21)【出願番号】P 2018111908
(22)【出願日】2018-06-12
【審査請求日】2021-04-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】大森 茂生
(72)【発明者】
【氏名】西坂 涼子
(72)【発明者】
【氏名】増田 剛
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-359124(JP,A)
【文献】実開平03-081621(JP,U)
【文献】特開平05-067533(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/24-27/30、30/10-30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス金属の帯材を巻回して構成され上部継鉄部と下部継鉄部との間に左右に並んで複数本の脚部を有する巻鉄心と、
前記巻鉄心の脚部に装着されたコイルと、
前記巻鉄心の下部継鉄部を保持する下部クランプとを備え、
前記コイルは、冷却流体の通路を形成するための軸方向に平行に延びる複数本のダクトピースを有して構成され、
前記ダクトピースは、前記コイルの両端面から上下に突出して設けられており、
前記下部クランプには、前記ダクトピースの下端を受け支持するための平板状の受け支持部が左右方向全体に渡って一体に設けられており、
前記巻鉄心の上部継鉄部の下方に配置される各ダクトピースの上端が、該上部継鉄部の下面に接触するように配置されて該上部継鉄部を下方から支持していると共に、複数本のダクトピースのうち、前記巻鉄心の前後に配置される各ダクトピースの下端が、前記受け支持部上に載置されて前記下部クランプに支持されている
ことにより、該巻鉄心は、該下部クランプの上方に吊上げられた状態で支持され、前記下部継鉄部に前記コイルの荷重が作用することなく、
前記各ダクトピースの全体の長さ寸法は、前記巻鉄心の全体荷重のうち、前記下部継鉄部を除いた荷重を受けるような長さに構成されている静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
静止誘導機器、例えば高電圧受配電設備用の変圧器においては、アモルファス金属の帯材を巻回した巻鉄心(アモルファス鉄心)を備えたものがあり、無負荷時の鉄損が少ない特性を有することが知られている(例えば特許文献1参照)。この場合、前記アモルファス鉄心は、剛性が小さいため、例えば起立状態とすることにより、自重によって上下方向に潰れるように容易に変形してしまう事情があった。そこで、特許文献1では、保護材やバンドにより、アモルファス鉄心のコーナー部に係る応力を小さくして変形を防止することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したようなアモルファス鉄心の変形が生ずると、変圧器における無負荷時の鉄損が大きくなり、また騒音も大きくなる問題があった。しかし、上記したような保護材によって鉄心のコーナー部の保護を図る変ものでは、構造の複雑化を招いてしまうと共に、アモルファス鉄心の全体としての変形防止に十分に効果が得られなかった。
【0005】
そこで、アモルファス金属の帯材を巻回した巻鉄心を備えるものにあって、簡単な構成で済ませながらも、巻鉄心の変形による特性の低下の抑制効果に優れた静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る静止誘導機器は、アモルファス金属の帯材を巻回して構成され上部継鉄部と下部継鉄部との間に左右に並んで複数本の脚部を有する巻鉄心と、前記巻鉄心の脚部に装着されたコイルと、前記巻鉄心の下部継鉄部を保持する下部クランプとを備え、前記コイルは、冷却流体の通路を形成するための軸方向に平行に延びる複数本のダクトピースを有して構成され、前記ダクトピースは、前記コイルの両端面から上下に突出して設けられており、前記下部クランプには、前記ダクトピースの下端を受け支持するための平板状の受け支持部が左右方向全体に渡って一体に設けられており、前記巻鉄心の上部継鉄部の下方に配置される各ダクトピースの上端が、該上部継鉄部の下面に接触するように配置されて該上部継鉄部を下方から支持していると共に、複数本のダクトピースのうち、前記巻鉄心の前後に配置される各ダクトピースの下端が、前記受け支持部上に載置されて前記下部クランプに支持されていることにより、該巻鉄心は、該下部クランプの上方に吊上げられた状態で支持され、前記下部継鉄部に前記コイルの荷重が作用することなく、前記各ダクトピースの全体の長さ寸法は、前記巻鉄心の全体荷重のうち、前記下部継鉄部を除いた荷重を受けるような長さに構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態を示すもので、変圧器の全体構成をコイルの一部を断面にて示す正面図
【
図4】支持荷重を異ならせた際の巻鉄心の特性を調べた試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、三相用の変圧器に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1、
図2は、本実施形態に係る静止誘導機器としての変圧器1の全体構成を概略的に示している。変圧器1は、巻鉄心2に、例えば3個のコイル3を装着して構成され、例えば図示しないタンクの床上に図示しない台座を介して設置される。前記タンク内には、変圧器1全体が浸されるように、絶縁及び冷却用の冷却流体としての絶縁油(例えば鉱油)が充填される。尚、以下の説明で方向を言う場合には、便宜上、
図1の状態を正面図として説明する。
【0009】
前記巻鉄心2は、
図1で左右方向に延びる上部継鉄部2aと下部継鉄部2bとの間に、上下方向に延びてそれらに連結される複数本この場合3本の脚部2cを備えて構成されている。この巻鉄心2は、アモルファス鉄心と称されるもので、アモルファス金属の帯材を巻回して構成される。この場合、巻鉄心2は、2個の内側巻鉄心4、4を左右に並べて配置すると共に、それら内側巻鉄心4、4を囲むように1個の外側巻鉄心5を配置して構成されている。内側巻鉄心4、4及び外側巻鉄心5は、コーナー部が丸みを帯びた矩形環状に構成されている。前記コイル3は、全体として円筒状をなし、前記巻鉄心2の3個の各脚部2cに夫々装着されている。コイル3の詳細については後述する。
【0010】
前記巻鉄心2の上部継鉄部2a部分には、上部クランプ6が設けられる。この上部クランプ6は、例えば鋼材からなり、側面から見て下向きのコ字状に構成され、上部継鉄部2aを締め付け固定している。一方、前記巻鉄心2の下部継鉄部2b部分には、下部クランプ7が設けられる。この下部クランプ7は、例えば鋼材からなり、側面から見て上向きのコ字状に構成され、下部継鉄部2bを締め付け固定する。そして、
図2に示すように、前記下部クランプ7には、その上端縁部から前後方向に水平に延びて、後述するダクトピースを受けるための平板状の受け支持部8が左右方向全体に渡って一体に設けられている。尚、図示は省略するが、上部クランプ6と下部クランプ7との間は、左右両端部において複数本のスタッドにより連結されている。
【0011】
さて、
図3にも示すように、前記コイル3は、詳しくは、内周側に低圧巻線9を有すると共に、外周側に高圧巻線10を有して構成されている。詳しい図示及び説明は省略するが、このコイル3は、例えば金属シートと絶縁物とを積層し巻回してなる周知構成を備えている。このとき、低圧巻線9と高圧巻線10との間には、円周方向に並んで複数本のダクトピース11が設けられ、絶縁油の通路となるダクト12が形成されるようになっている。また、低圧巻線9及び高圧巻線10の夫々の巻層間の適宜の位置にも、複数本のダクトピース11が設けられ、絶縁油の通路となるダクト12が形成されている。これらダクトピース11は、絶縁物例えば木材(角材)からなり、コイル3の軸方向に平行に延びて設けられている。
【0012】
本実施形態では、
図1、
図2に示すように、前記各ダクトピース11は、その上下両端部がコイル3の上下の端面から上下両方向に突出するように設けられている。そして、複数本のダクトピース11のうち、前記巻鉄心2の上部継鉄部2aの下方に配置される各ダクトピース11の上端が、該上部継鉄部2aの下面に接触するように配置され、該巻鉄心2を下方から支持している。これと共に、複数本のダクトピース11のうち、前記巻鉄心2の前後に配置される各ダクトピース11の下端が、受け支持部8上に載置されて下部クランプ7に支持されている。
【0013】
これにて、巻鉄心2の上部継鉄部2aが、ダクトピース11ひいてはコイル3に支持され、更に、コイル3自体もダクトピース11を介して下部クランプ7により支持されるようになる。つまり、巻鉄心2は、下部クランプ7の上方にいわば吊上げられた(持上げられた)状態で支持されることになる。このとき、本実施形態においては、各ダクトピース11の全体の長さ寸法は、巻鉄心2の全体荷重のうち、下部継鉄部2bを除いた荷重を受けるような長さに構成されている。具体的には、ダクトピース11のコイル3の端面からの突出長さ寸法が、上下共に例えば3~5mm程度とされている。尚、本実施形態では、受け支持部8上の要所には、例えば材木製のコイル受け部材13も配設され、コイル3が載置されるようになっている。
【0014】
次に、上記構成の変圧器1の作用・効果について、
図4も参照しながら述べる。上記構成においては、巻鉄2心の上部継鉄部2aが、コイル3に設けられているダクトピース11を介して下部クランプ7により支持される。つまり、巻鉄心2は、いわば吊上げられた状態で支持されることになる。しかも、コイル3自体も下部クランプ7に支持されるようになり、コイル3の荷重が巻鉄心2の下部継鉄部2bに作用することもない。
【0015】
ここで、本発明者らの研究によれば、アモルファス金属製の巻鉄心2を、設置面上に起立状態とすると、自重により、特に脚部2cの下方部に対して大きな荷重が作用し、下部継鉄部2bが歪むように変形し、無負荷時の鉄損が大きくなり、また騒音も大きくなる等の特性の低下を招いてしまう。ところが、本実施形態では、巻鉄心2は、ダクトピース11を介して吊上げられた形態で支持されるようになる。これにより、巻鉄心2の変形を抑えることができ、上記のような特性の低下を抑制することができる。
【0016】
この場合、コイル3に元々備えられているダクトピース11を利用して、ダクトピース11に、冷却流体(絶縁油)の通路としてのダクト12形成用という本来の機能に加えて、巻鉄心2の支持の機能を付加するものであり、その分、構成を簡単に済ませることができる。この結果、本実施形態によれば、アモルファス金属の帯材を巻回した巻鉄心2を備えるものにあって、簡単な構成で済ませながらも、巻鉄心2の変形による特性の低下の抑制効果に優れるという効果を得ることができる。
【0017】
また、本実施形態では、ダクトピース11を、コイル3の両端面から上下に突出して設ける構成とした。これにより、コイル3の端面と巻鉄心2との間に隙間を確保することができ、絶縁油の通路を確保することができると共に、コイル3の端面部等に配置された絶縁物の座屈などの変形を防止することができる。本実施形態では、下部クランプ7に平板状の受け支持部8を一体的に設けることにより、ダクトピース11の下端を受け支持するようにした。これにより、巻鉄心2(及びコイル3)の荷重を受け支持部8により広い面積で容易に受けることができ、構成も簡単に済ませることができる。
【0018】
そして、本実施形態では、ダクトピース11により、巻鉄心2の全体荷重のうち、下部継鉄部2bを除いた荷重を受けるように構成した。本発明者らの更なる研究によれば、上記した無負荷時の鉄損や騒音は、巻鉄心2をどの程度の荷重で吊上げるかによって変動し、鉄損や騒音に関して最適な荷重が存在することが明らかになった。即ち、巻鉄心2の全体荷重のうち、下部継鉄部2bを除いた荷重を受けるようにすれば、巻鉄心2の各脚部2cの上下方向のストレートな形状を維持することができると共に、下部継鉄部2bの横方向にフラットな形状を維持することができる。このことが、無負荷時の鉄損や、騒音を小さくするのに、極めて有効であることが確認された。
【0019】
ちなみに、
図4は、本発明者らの実施した、巻鉄心を吊上げ支持する際の支持荷重を異ならせた場合の、巻鉄心の特性(鉄損)を調べた試験結果を示すものである。試験に使用した巻鉄心の重量は、例えば320kgとされている。
図4中、「A」は、巻鉄心の吊上げ荷重を0とした場合、つまり吊上げ支持しなかった場合を示している。「D」は、巻鉄心の吊上げ荷重を320kgとした場合、つまり巻鉄心全体を宙に浮くように吊上げた場合を示している。
【0020】
また、「B」は、巻鉄心の吊上げ荷重を、例えば236.6kgとした場合を示している。この状態は、巻鉄心全体のうち、下部継鉄部及びそれにつながる脚部の下端部を除いた荷重を受けるように支持した場合を示している。そして、「C」は、巻鉄心の吊上げ荷重を、例えば294.5kgとした場合を示している。この状態は、巻鉄心全体のうち、下部継鉄部を除いた荷重を受けるように支持した場合を示している。この「C」の状態は、巻鉄心を起立状態とせずに横に寝かせた(軸方向を上下にして床上に載置した)状態に相当するものとなる。尚、
図4の下欄は、上記「B」、「C」、「D」に関し、試料の巻鉄心に対し、吊上げ支持した範囲を枠で囲って模式的に示したものである。
【0021】
この試験結果から明らかなように、巻鉄心2の全体荷重のうち、下部継鉄部2bを除いた荷重を受けるように構成することにより、鉄損が最も少なくなった。このとき、巻鉄心を吊上げ支持しなかった「A」の場合に比べて、約4%の損失の低減を図ることができた。巻鉄心全体を吊上げた「D」でも、鉄損は、「C」より大きくなっていた。これは、「D」の場合では、下部継鉄部2bに中央部が垂れ下がるように湾曲するような変形が生ずるため、「C」の場合と比べて鉄損が大きくなるものと考えられる。また、図示はしていないが、騒音を調べた結果についても、「C」の状態が最も騒音が小さくなる結果が得られた。
【0022】
尚、上記した実施形態では、ダクトピースを木材製としたが、プラスチック製等であっても良い。また、上記実施形態では、受け支持部を下部クランプに一体に設けるようにしたが、受け支持部を、アングル鋼等の鋼材から別部品として溶接等により設ける構成としても良い。更に、上記実施形態では、冷却流体として絶縁油を採用した油入変圧器を例としたが、ガスや空気を冷却流体としたものに適用しても良いことは勿論である。
【0023】
その他、静止誘導機器としては、三相の変圧器に限らず、三相以外の例えば単相の変圧器であっても良く、更にはリアクトルに適用することもできる。以上説明した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0024】
図面中、1は変圧器(静止誘導機器)、2は巻鉄心、2aは上部継鉄部、2bは下部継鉄部、2cは脚部、3はコイル、7は下部クランプ、8は受け支持部、11はダクトピース、12はダクト(通路)を示す。